• 陶曲

【陶曲】TOYS STRIKE:後編

マスター:KINUTA

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2019/04/06 19:00
完成日
2019/04/16 00:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 これは、アメンスィとラルヴァの最終対決が大地の裂け目にて行われる、数日前の出来事。







 大地の裂け目に通じるルート。
 そこは本来「何もない荒地」「不毛の大地」と称される殺風景な場所であった。
 しかし今は違う。
 5メートルほどの高さの壁が延々行く手を塞いでいる。
 壁の表面は目が痛くなりそうなほど原色真っ盛りなリボンやレースでデコられていた。
 その一角に虹と雲を模した門がある。
 中からは楽隊の楽しげなマーチが聞こえてくる。大勢の歓声や笑い声も。
 嫉妬歪虚サイゴンがこの中にいることを、彼らは調査によって突き止めていた。総勢11人の人質がここに囚われていることも。
 一刻も早く彼らを取り戻さなければならない。そして、元凶であるサイゴンを倒さなければならない。完全に破壊しない限りあの歪虚は何度でも蘇ってくる。体と心を新たにして。

「私たちが来たこと、気づいてると思います?」

「そりゃあもう……このあたりまで来ると、完全に奴らのテリトリーだからな」

「とにかく、こんなところにこんなもんがあると、後から来る人の邪魔っけになるからな。さっさと片付けておこうぜ」

 入ってみれば敷地の中は巨大なぬいぐるみ、人形、木馬、ロボットといったオブジェが至るところ乱立しており、かなり見通しが悪かった。
 まるでおもちゃ箱をひっくり返したような有様だ。
 大勢の人がいる。
 友達同士、恋人同士、団体客、家族連れ。楽隊の一団やピエロ、風船を配る着ぐるみなどもいる。
 しかし皆動かない。張り付いた笑顔と快活な動作を張り付けたまま瞬きさえしない。まるで時が止まったかのように。
 それもそのはず、全てマネキンなのだ。 
 では歓声や笑い声、音楽はどこから聞こえてくるのか?
 要所要所に設置されているスピーカーからだ。
 命なき群集は沈黙を貫き、自らはこそりとも音を立てない。

「悪趣味ですね」

「油断するな。ここはもう敵中だぞ」

 ハンターたちは用心しながら進む。
 そこに半狂乱な悲鳴が聞こえてきた。
 生きた人間の声だ。
 それは巨大なミルク飲み人形と編みぐるみの向こうから聞こえてくる。
 一同駆け出し、障害物の後ろに回りこむ。
 テレビ型の大型スクリーンがそこに設置してあった。
 映っていたのは以下の映像である。
 


――――――――――――



 ゆっくりと、楽しげに回る観覧車。

「やめろ、やめてくれー!」

「助けて、助けてくれえ!」

「いやだ、死にたくない……」

 ピスクドール3体が地上を離れていく3つの籠の上に1人1人陣取って、周囲のマネキンたちを相手に口上を述べていた。

『サアオタチアイ』

『コレヨリ、空中遊覧ショーナノヨ』

『一巡リ出来タラゴ喝采』

 籠の中にはそれぞれ少年がいる。
 籠には底がない。その代わり天井から綱が垂れている。
 少年たちは必死になってそれにしがみ付いている。
 そうせざるを得ないのだ。綱の端が首に結わえつけてあるから。腕で自分を支えなければ、即首吊り状態に陥る。
 ――どの道、一周が終わる前に支えきれなくなるであろうが。








 高みの頂点でちょん切れたコースターの櫓。
 そこにロケット型の車両が5つ、横並びに並んでいた。それぞれ一号機、二号機、とナンバリングされている。
 座席には、少年が1人ずつ縛り付けられていた。
 一号機の座席に縛り付けられているのは、ルイ・ラデュロだ。ひっきりなしわめき立てている。

「やめろやめろやめろ! 僕はラデュロ商船の息子だぞ! 他の奴らはともかく僕に何かあったらお前らただじゃすまないんだからな! 聞いてんのか! 金なら家が幾らでも払うから!」

 他車両にいる少年たちも負けずと声を張り上げる。

「なんだとルイてめえ! 言うに事欠いて他の奴らってなんだふざけんな!」

「歪虚さん、落とすならああいう根性の腐ったのから先にしたほうが絶対いいとオレはいいと思います!」

「ラデュロ商船なんかよりうちのほうが格上だ! というかこの中でうちの家が一番資産持ってる! 助けてくれたら礼はするから!」

「ああああ待って待ってうちは警察関係の関係の知り合いが多いんだ! なんでも用意出来る、人間が欲しいなら適当な犯罪者見繕って譲渡――」

 車両の近くには5体のピスクドール。
 彼女たちはそれぞれ6面サイコロを手にしている。

『ヨク喋ルノガ揃ッテテ楽シイワー。ジャアマズ、一号機担当のアタシカライクワヨー』

 1人が腕まくりし、サイコロを振る。
 出てきた目は。

『2!』

 ルイの車両がギ、ギと音を立て、ちょっとだけ進んだ。
 車両の先端が少し宙に浮く。

「ぎゃあああ! やめろ、やめてください助けてえ!」

『ジャ次、二号機担当のアタシネ――4!』

 




 ドームの形をしたエア遊具。
 その中に別の少年2人と押し込められたマルコ・ニッティは、窓の外に3つ並んだピスクドールの顔を見る。

『オーキナミズフーセン』

『ツクルノヨ』

『人間泳ガセテアゲルノヨ』

 殴られた事による傷はズキズキ痛み熱を持っている。
 朦朧となりそうな彼の意識を覚まさせたのは冷たさだ。
 ドームの天井から、ざあざあ水が降り注いでくる。
 それはたちまち膝にまで達してきた。
 このままの調子で行けば密閉された空間内は全て水で満たされ、息が出来なくなる。
 そうと気づいた彼らはどこかに出口はないかとっさに探したが、そんな不備を相手が犯すわけもない。
 1人の少年がへたへたと座り込み、めそめそ泣き始めた。

「ママ、ママ……」

 もう1人がイライラと怒鳴る。

「うるさい! ちょっと静かにしてろよ!」

 マルコはその怒鳴った方に言った。

「……とりあえず上着を脱いだほうがいいんじゃないか?」

「は? なんでだよ」

「……授業で教わっただろ。服を浮き輪代わりにする方法。浮いてれば息は出来るよ。天井に水が届くまでの話だけど」

 





――――――――――――






 サイゴンは無数のマネキンとオブジェの目を通し、遊園地全体を把握していた。
 モニターの映像を見たハンターたちが血相を変え、人質たちのところへ向かっていく。少人数に分かれて。

『おお、ちっこいのうまいこと、ハンターばらけさせとるだなあ』

 ビクスドールの手並みに感心しながらサイゴンは、のそりと動いた。ハンターたちを個々撃破するために。
 普段は巨大に見える彼も、それと同じくらいの大きさの張りぼてがごろごろしている場所では、さほど目立つことはない。

『さあ、動くだおらっちの兵隊たち。ハンターを挟み撃ちにしてやるだ!』

 彼の言葉に応じ無数のマネキンたちが一斉にハンターたちを見た。目鼻が額にまでずり上がり、口が顔一杯に広がる――針のような牙を無数に生やした口が。
 巨大なオブジェたちがぐるりと目を回しハンターたちを見下ろす。うめき声のような唸りを上げる。
 両者はハンターたちへ一斉に襲いかかっていく……。
 
 

リプレイ本文

●道を切り開け



 ディーナ・フェルミ(ka5843)は魔導ママチャリ『銀嶺』のペダルに足をかけ、目の前のマネキン集団に突っ込んだ。

「雑魚に用はないの!」

 セイクリッドフラッシュによって吹き飛ばされるマネキンたち。
 それにより空いた空間を埋めようと、あみぐるみが急接近してくる。

「誘き出されたのは認めよう。だが、そこから先は易々とことが運ぶと思わない事だ」

 ロニ・カルディス(ka0551)は堕杖エグリゴリを振り抜き、プルガトリオを発動した。
 黒い刃に貫かれたあみぐるみは、足を踏み出した姿勢のまま動きを止める。背後から来ていた蛍光カラーのねぷた人形が、2体揃って転倒。
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の闘旋剣・サーベラスが、それらをまとめてなぎ払う。

「おっと、遊園地のキャストが客の道を遮っちゃダメだぜ」

 ついで彼はソウルトーチを発動する。
 しかしマネキンと張りぼては特に反応しなかった。ハンターを押し包むように近づき、視界を塞ぎにかかってくる。
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)はいぶかしんだ。
 こいつら雑魚にしては統率が取れすぎた動きをする、と。
 とすると、誰かが全体を操っているに違いない。

(あのドールどもか? いや、あいつらは見たところそんな大規模なことがやれるようには……)

 突然園内スピーカーのボリュームが上がった。
 耳を押さえたくなるような大音量。
 聞こえてくるのは軽快にしてバカっぽいポップミュージック。増幅されたドールたちのキイキイ声と笑い声。


『オモチャノミンナヨットイデ、楽シイショーガハジマルヨー』

『提供ハサイゴンノオデカサン、プロデュースハ、カシマシドールズ11ナノヨ』

 早々に素性をばらしていいのかとも思うが、ドールたちに守秘義務観念はない。

『チナミニセンターハ私』

『違ウ、アタシ』

『私ヨー』

 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は叫んだ。

「生徒さん達を誘拐してこんな事するなんて絶対許せないもの……卑劣な罠を破って、やっつけちゃうんだからっ!!」

 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は顔をしかめ、足を踏みだす。10メートル前後の距離を瞬時に駆け抜ける――その空間を占めていたマネキンたちはひとつ残らず粉砕された。試作法術刀『華焔』から焔の花びらが舞い散る。
 寄せてくる新手は不動 シオン(ka5395)が剛刀『大輪一文字』で撫で斬りにしする。
 ロニが再びプルガトリオを発動し、仲間に言う。

「こいつらは俺たちが抑えておく、人質救出を早く!」

 彼らが作った道を突破口にして救出班は、それぞれが目指すところに向かう。



●観覧車


 魔導ママチャリを駆るエステル・ソル(ka3983)と百鬼 一夏(ka7308)が、いち早く観覧車に到達した。

「人形の気を一瞬逸らします、その隙に人質の救出をお願いします!」

 エステルは、星神器『レメゲトン』をかざし略詠唱を唱える。

「『小鳥さん、お願いします』!」

 同時に小夏が青龍翔咬波を放つ。
 小夏のものは避けられた。
 エステルのものは1体に当たって足場から弾き飛ばす。
 だがそのドールは、観覧車の鉄骨をつかみ大車輪して元の位置に戻リ、ケラケラ笑う。

『アッブナーイ』

 ドールたちは籠が吊るされている鎖を持って、激しくゆすり始めた。
 籠が大きく揺れる。
 吊り下がっているだけでもやっとな少年たちの首にかかった縄も、それにあわせて大きく揺れる。
 必死に縄を掴んでいる手が、ずるずる滑っていく。
 魔箒『Shooting Star』で接近を図っていた天竜寺 舞(ka0377)は、攻撃に移った。隠の徒とナイトカーテンの効果が消え、ドールたちの前にその姿が露になる。
 不意の攻撃であったがドールたちは――ギリギリで避けた。

『チョット、ナニコイツ!』

『ドコニイタワケヨ!』

 すかさずメイム(ka2290)が天駆けるもので上昇し、仕掛ける。

「伸びろドローミ!」

 その声に併せマテリアルの鎖が伸びた。
 射程内にいた1体が引き落とされる。
 それはガシャンと音を立て、首を変な方向に曲げたまま動かなくなった。
 壊れた?――と思った瞬間腰に熱い痛みが走った。
 別のドールが攻撃してきたのだ。
 地面に落ちたドールはといえばさっと起き上がって曲がった首を戻し観覧車に戻って行こうとする。
 カチャは行く手に立ちふさがり、セイクリッドフラッシュを放つ。
 しかしドールはそれを回避した。跳躍してカチャの間合いに入り、顔目がけシザーハンズを振るう。
 左目に鉄の爪が命中した。血が吹き出す。

「……!!……」

 カチャは両手で左目を覆う。そして自己回復をかける。
 その間にドールは観覧車の上に駆け戻る。

『キャハハハハ!』

 ドールの動きは速い、とにかく速い。

「なかなか厄介そうな……。ですが、こちらに攻撃する時は動きが読めます……」

 サクラ・エルフリード(ka2598)はマッスルトーチを発動した。
 自己主張激しく光り輝く姿に、ピクスドールたちが思わず目を向ける。
 その隙をついて舞が、再びヒートソードを食らわせた。
 今度は当たった。
 ドール1体が籠の上から落ちる。
 が、鉄骨を掴んで落下を避ける。
 そこにメイムが妖精を突っ込ませた。ファミリアズアイで。

「行け、あんず!」

 ドールが弾き飛ばされ落ちる。
 メイムはそのドールが乗っていた籠に取り付き、即座に天井部分を壊した。何をさておいてもまず少年の体を掴む。
 舞は籠の下から入り足を支える。
 少年は片手が既に離れており、息が詰まりかけていたのだ。
 そこにドールが斬りかかる。

『イーゾ、ソコ、動クナ!』

『手離シタラソイツ死ヌノヨネ!』

 少年から手を放せない舞たちを彼女らは、容赦なく刺し切り裂く。
 しかし猛攻は長続きしない。十 音子(ka0537)が大弓『無窮』によるリトリビューションを、ドールに向け発動したのだ。
 降り注ぐ光の矢が降り注ぎドールらに行動阻害をかける。
 メイムが首吊り綱を切る。
 回復を終えたカチャも急いで支援に入った。
 舞は助けた生徒を箒に乗せ詩の元へと連れて行こうとした――が断念した。詩がいる遊具は観覧車と最も離れた位置にあり、入り口から最も遠い。そこへ移動するのはかえって危険かと思われたのだ。
 とにもかくにも一夏とフィロ(ka6966)がいる下に降ろす。
 その作業が行われている間エステルが観覧車の周囲を飛び、ドールを挑発する。

「鬼さんこちら、手のなる方へ、なのです」

 ドールは彼女に切りつけた。しかし硬い防御に歯が立たない。

『チィ!』

 舌打ちした表情は、えもいわれぬほど邪悪なもの。
 先に落下していた1体が、降ろされた少年の方に向かう。
 視界に入りづらい地面すれすれの位置で高速移動。標的を捉えたところで一気に跳ね上がる。
 シザーハンズが一夏の額を割る。
 返す刃で同じ攻撃をフィロにもしたが、効かなかった。全身甲冑の防御力が勝った。
 怪力無双な一撃がドールの脳天へ垂直に落ちる。
 愛くるしい頭部が砕けた。
 メイムが一夏に向けヒールを発動する。



●コースター


 マリィア・バルデス(ka5848)はコースターを視界に収めるや否や、新式魔導銃『応報せよアルコル』の引き金を引いた。

「なんつーか、賑やかな人質だな。いっそサイゴンを倒すまで、高いトコで頭を冷やしてやりたいぐらいだが」

 ぼやきながらジャック・エルギン(ka1522)も、蒼機弓『サクラ』を引き絞る。

 銃弾と矢がドールたちに当たり、ダメージを与えた。
 その成功には、ルカ(ka0962)による貢献も大きい。フライングスレッドで上昇しコースターに接近した彼女は、マリィアのリトリビューション着弾の瞬間に合わせ、プルガトリオを発動し、ドールの回避力を減じさせたのだ。
 ドールたちは持っていたサイコロを取り落とした。
 そのことに怯んだろうか、一斉に車両から離れ、コースターの骨組みに身を隠す。
 人質の少年たちがそれに歓声をあげる――ことはなかった。ドールは論外として至近距離を飛ぶ銃弾も矢も、彼らにとっては十分脅威に映る。

「やめろー! 歪虚や他の奴はともかく僕に当たったらどうするんだー!」

「ルイてめえ、また言いがったな! とっとと落ちてくたばれ!」

「なんだと! お前こそ流れ弾に当たってくたばれ!」

 箒に乗った龍宮 アキノ(ka6831)がそこに近づく。こんな酔狂な仕掛けを作る歪虚もなかなか遊び心があるが、こいつらもこいつらで相当面白いと思いながら。

「えーと、負傷しているものから避難させようと思うけど……一番怪我してるのは誰だい?」

「僕だ!」

「俺だ!」

「ウソつけお前ら! オレですオレ!」

 醜い争いが止まらない。ルカはどうしたものか分からずおろおろ見守る。
 飛燕草とチェイシングスローで駆けつけたカーミン・S・フィールズ(ka1559)も、ほっとするやら呆れるやら。
 懲りない子達ねと思いつつ、場に散ったサイコロを拾い上げる。
 想像していた通り、普通のサイコロではない。半透明な外角を通し、中に複雑な機構があるのが見える。

(車両のコントローラー、ってとこかしら)

 看破し周囲に散っている数を数える。全部で5つ。
 であるとすれば、ドールたちはもうこの車両を動かすことが出来ないはずだ。
 そう思った時である、ルイの車両が急速前進し始めた。

「え!?」

 他の車両も急速前進し始めた。サイコロ遊びとは比較にならない恐怖感に少年たちは声を詰まらせる。
 アキノは少年たちの綱を切ろうとする。
 ルカは車両を壊そうとする。
 そこをドールたちが襲った。
 ルカへの攻撃は腕に当たった。だが全身甲冑『へパイストス』の防御力は彼女を完全に守りきった。
 アキノへの攻撃は――急所である喉に命中した。噴水のように血が吹き出し体がくず折れる。ルカがフルリカバリーをかけ、その深手を塞ぐ。
 マリィアの支援射撃が、ドールによるそれ以上の攻撃を阻害した。
 カーミンは蒼機刀『ストレリチア』を鞭状態にし、クレマチスを発動。ドールたちを弾く退がらせた。
 直後彼女は目を見開く。
 弾いたドール2体の服の中から無数のサイコロが転がり落ちてきたのだ。
 攻撃を回避した残り3体が、あかんべえして笑う。
 
『キャハハハハ! ヒッカカッタア!』

『サイコロガ1ツダケナワケナイジャーン!』

『ダヨネー!』

 その口ぶりからするに恐らく、いや確実にその3体も複数のサイコロを持っている。
 ドールたちは最初から公平なゲームをする気がない――いや、そもそもゲームをしていない。いかに人間を嬲り殺すかという遊びをしているだけなのだ。
 そのことを知ったジャックは飛行翼アーマーで舞い上がる。
 本当ならドールを撃破してからそうするつもりだったのだが、いち早く人質を確保しなければ危ない。
 マリィアは銃撃対象を、コースター車両の駆動部に切り替えた。



●サイゴン


『ええと、まずはどこから行けばええだかな』

 サイゴンは、今一度ハンターたちの様子を確認する
 観覧車、コースター、エア遊具、そしてそれ以外の場所にハンターたちは分かれている。
 その中で彼は、真っ先に観覧車を選んだ。
 理由は、彼の中で真っ先に潰しておくべき存在がそこに揃っていたからだ。
 すなわち、クルセイダーとオートマトン。

『よーし、あそこからいくど!』

 巨体の足音は、スピーカーから流れるけたたましい騒音によって聞き取りにくくなっている。



●エア遊具



『キタキタ、キタノヨ!』

『ジャアバルブ全開ネ』

『人間何分モツカシラー♪』

 窓から3体のドールが離れる。
 直後ドーム内に流れ込む水量が大幅に増した。
 間に合わせの浮き袋にしがみ付いた少年たちは、どんどん天井近くに押し上げられていく。

「うわーん、ママー、ママー!」

「うるせえって言ってんだろガリレオ! おい、こっからどうすんだよマル――」

 その中でマルコは、真っ先に脱落しつつあった。浮き袋にしがみつく力もなくなってきたのだ。
 他2名が大急ぎで彼の袖を掴み、水没を阻止する。

「おいおいおいおい、あんだけ偉そうにしといて先に沈むんじゃねえよ!」

「マルコくん死なないでくれえ! 君に死なれたらパウロと2人きりになっちゃうじゃないかあ! こいつ全然当てになんないんだよ怒るばっかりでさあ!」

 エア遊具へ真っ先にたどり着いたのは、星野 ハナ(ka5852)。
 まず火焔符を遊具に仕掛ける。
 それからドール2体と遊具目がけ風雷陣。
 雷に打たれたドールはドームの上から転げ落ちる。
 ドーム自身もダメージを受けた――だがしかし壊れるまでには至らない。
 残りのドール1体が向かってきた。
 天竜寺 詩(ka0396)がプルガオトリオを発動する。

「貴方達の好き勝手にはさせないよ!」

 ドールは、そのプルガトリオを回避した。続けてハナが発動した五色光符陣も。
 高く跳躍しシザーハンズで空を切る――クラテルマントを身に着け接近していたマルカ・アニチキン(ka2542)の存在を感じ取ったのだ。

『何カイルノ!』

 マントが引き裂かれた。
 魔杖『ヴールレイン』に乗ったマルカの姿が露になる。
 転がり落ちていた2体が起き上がり参戦してきた。

『オヨーフクダイナシヨ!』

『ムカツクワ!』

 予定してないタイミングでマルカは、アブソリュート・ポーズを発動する。
 しかし残念ながら、ドールたちのうち1体も引っ掛かってくれなかった。2体のシザーハンズが彼女めがけ、高速で打ち込まれる。
 ハナは御霊符で式神2体を作成した。
 式神たちは装備品のナイフを手にし、エア遊具に突っ込んでいく。
 ドール1体が迎撃に出た。自分よりはるかに大きな式の手元に飛び込み、シザーハンズでナイフを砕く。そして式の1体を引き裂く。
 残りの1体の式はナイフを持たぬまま、ドームに組み付いた。表面に指をかけ、引き裂こうとする。そしてマルカを攻撃したドール2体からずたずたにされる。
 そこでレイア・アローネ(ka4082)が割り入った。

「人形風情にしては、なかなかやるじゃないか!」

 星神器「天羽羽斬」から衝撃波を繰り出し彼女らを退け、次いで魔導剣カオスウィースとの二刀流で猛攻を加える。
 詩が白竜の息吹を発動する。
 ドール3体のうち2体が動きを止めた――かと思った次の瞬間、転げ回って大爆笑し始めた。

『プヒャヒャヒャヒャヒャ!』

『キャハハハハハハハ!』

 影響から免れた残り1体は唖然としている。

『アンタタチナニシテンノ! コーゲキシナクチャダメデショ!』

『ヒャーハハハハハハハ!』

『プークスクス、ゲラゲラゲラゲラ』

 『変なツボにはまってしまい笑いが止まらなくなった人』状態になっているドールたちは、敵の代わりに素面な仲間の頭をどつく。

『アンタナンデ一人サメチャッテンノヨアハハハハ』

『ノリガ悪イゾウフフフフフ』

『ナニスンダテメーラ! イツマデモフザケテンジャネー!』

 素面な1人は残り2体の顔面を思い切り殴る。
 同士討ちみたいな感じになってきた所にハナが、五色光符陣を炸裂させる。連続して何度も。

「消え去るがいいのです!」



●見つけた!


 レイオスとシオンは目につく敵を、片端から斬りまくる。

「張りぼてと木偶人形で止められると思うなよ」

 腕が飛び首が飛び足が飛び四部五裂したマネキンの残骸が地面に次々積み重なって行く。
 そこにわいてくる極彩色の張りぼて――巨大ないちご柄のブタ、手足がバネになったピエロ、太鼓を叩く縞々服の看板人形。それらにロニがレクイエムをかける。アルトが唐竹割にする。ルベーノがぶん殴る。
 遊園地の中は徐々に見通しが利くようになってきた。
 回復と支援に走り回っているディーナは、張りぼて集団の中に見覚えあるものが見え隠れしているのを確認した。
 彼女はすぐさま、仲間にそのことを伝えた。

「いた! サイゴンがいたの! 観覧車に向かってるの!」

 シオンの口元が弓なりに曲がる。
 彼女は以前サイゴンの分身となる腕を撃破しているのだ。
 今度は本体が相手――そう思えば、一際血が疼く。

「あいつが此間の腕の主というわけか。面白い、篤と楽しませてもらおう!」



●人質3名確保


 メイムは痛手を押し殺し、残り2名の綱を切った。
 舞がそれを地上へ運ぶ。
 その作業が終わるまでの間エステルは、箒に飛び乗ってきたドールと戦っていた。
 ドールは超至近距離から彼女の顔を狙い、執拗に斬り付ける。
 これだけ距離を詰められていると星鳥は使えない。
 セイクリッドフラッシュを放つ。
 ドールは彼女の体を飛び越えるようにして箒の後方に回り、回避。
 地上にいるサクラがマッスルトーチを仕掛ける。
 その試みは成功した。
 ドールの注意が一瞬引き付けられた。
 続けて間髪いれず、プルガトリオを放つ。

「動きを止めれば避けられないでしょう……プルガトリオ……!」

 効いた。
 そこに一夏の青竜翔咬波。
 落ちた。
 しかしドールはすぐさま体勢を立て直し、向かってくる。先ほどと同じように。
 一夏が先手を取った。竜鱗甲による防御、そして白虎神拳によってドールを破壊する。
 それから、地上に降ろされた少年たちに声をかける。

「腕は限界でも足は動きますね?」

 少年たちは頷いた。が、その膝から下はがくがく震えっぱなしだ。
 この分では歩けはしても走れない。そう判断したフィロは3人のうち2人を馬に乗せ、もう1人を背負った。

「みんなで学園に帰りましょう。もう大丈夫です」

 そこへ残ったドール1体が迫ってくる。

『逃ガサネエ!』

 カチャが竹刀で突きをいれ、人質たちから距離を取らせる。
 エステルは星鳥を存分に浴びせかける。
 最後のドールも壊された。
 そのタイミングでディーナから無線連絡。

『いた! サイゴンがいたの! 観覧車に向かってるの!』



●人質3名確保



 ドールたちはハナの連続攻撃によって、3体ともども消滅した。
 遊具の各所に穴が空き小さな噴水が噴き出し始める。
 詩がロングソード『アストレア』を大きく振りかぶり、切りかかった。
 レイアも息を合わせ切り込んだ。
 遊具の表面に大きな裂け目が入る。
 次の瞬間津波のように水が噴き出した。
 場にいたハンターたちは全員それを被りずぶ濡れになったが、そんな事にかまってはいられない。しぼんだ風船のようになった遊具に潜り込み、少年たちを引きずり出す。

「絶対誰も死なせないよ!」

 ややもして少年3人が外に出された。
 2名にはしっかり意識がある。 

「救助おせーよ! 死ぬとこだったじゃねーか!」

「うわーん、もう僕お家に帰るう!」

 ハナは彼らをハグし、背中をぽんぽん叩いてやった。

「もう大丈夫ですぅ。全員を連れて帰るのでぇ、みんなは入り口で待っててもらえますぅ」

 しかし残り1名――マルコは意識がない。
 詩がリザレクションをかけた。
 傷口が塞がる。目が開く。マルカが声をかけた。

「マルコくん、来ましたよ」

 マルコは、にっと笑った。

「――早かったですね」

 そこに連絡が入る。観覧車の組から。

『こっちにサイゴンが出てきた!』



●人質5名確保


 車両は破壊。人質は確保。
 もう遠慮はいらないとばかりアキノは、ファイアースローワーを放つ。ドールたち目掛けて。
 3体避け切れず猛炎を食らう。
 動きが鈍ったそこにカーミンのクレマチス。マリィアの支援射撃。
 残り2体が場から逃げ出した。1体をジャックが仕留める。だが、もう1体は逃げおおせ、観覧車の方に走っていく。
 カーミンは場に落ちていたサイコロを全て下に叩き落とした。
 最初に自分が拾ったサイコロを手の中で弄びながら、腕や足がもぎ取れた3体のドールに尋ねる。

「次は誰が振る番かしら? よかったら、次に戦う順番を選ばせてあげようかなー……」

 ドールたちはお互いの体を押し始める。

『アンタ行キナサイヨ!』

『ナンデ、アンタ腕マダアンジャン!』

『アンタ足アルジャン!』

「……なーんてウッソでーす♪ 全員今すぐ消えて♪」

 カーミンは笑顔で連撃を繰り出し、ドールの頭蓋を砕く。サイコロを踏み壊す。
 それから、引きつり気味の表情で視線を送ってくる少年達に言う。

「誰かを差し出せば、自分だけ逃げられることもあるかもしれない。でも、後悔は追ってくるわよ。一生ね。そのことを忘れないで」

 ルカはいち早くサイゴン組の助太刀に向かった。生徒たちをカーミンに託して。


●命無き者よ塵に還れ



 ルンルンはサイゴンの前に回り、指を突きつけた。

「待つのですサイゴン! この攻撃を受けてみるのです!」

 風雷陣をサイゴンにぶつける。
 しかしサイゴンは平気な顔。全く足を止めない。

『ふん、こんなもの、さっぱりきかねえだど!』

 ルンルンは大げさに恐れおののく。

「なっ……なんという防御力! あああそっちは……それ以上観覧車に近寄っちゃ駄目ー!」

 そのことに気を良くしたサイゴンは、わははと笑った。
 大きな一歩を踏み出した。
 ルンルンが会心の笑みを浮かべる。

「ここでトラップカード発動です!」

『ぬあ、なんだど! こんなところに泥沼があるべ!』

 泥沼ではない。ルンルンが仕掛けた地縛符だ。
 サイゴンはうんとこせと、そこから足を抜きにかかる。
 そこにコースターから逃げてきたビスクドールが来た。サイゴンの巨体に取りつき頭に駆け上がり、きいきいわめく。

『オデカサン何ヤッテンノ! ハンターガ入ッタラ真ッ先ニ門ヲ閉メロッテ言ッタデショ!』

『お? そうだったど?』

『ソーヨ! 罠ノ入口開ケタママニシテドースンノ! 人質逃ガサレルデショ!』

 チャリで追いついたディーナが星神器『ウコンバサラ』を握り締め、サイゴンに突撃した。

「くらえ、なの!」

 トールハンマーを惜しみなく真っ先に使う。
 その一撃はサイゴンの拳の威力を相殺――し切るところまではいかなかった。全身の骨が砕け散りそうな衝撃が彼女を襲う。
 しかしサイゴンもまた影響を受けないではない。

『おう? なんかしらんがビリッときただぞ』

 そこにルベーノが駆けつける。サイゴンを煽る。

「ハッハッハ、ゴリラがとうとう小人形に頼るか。総身に知恵回りかねとはまさにこのことよな、ハッハッハ」

 その間にフィロは、子供たちを連れ門へと向かう。
 シューティングスターは使っていない。あれは乗り手が騎乗状態にいないと使えないのだ。
 遊園地の入り口が閉まり始めた。
 フィロたちはそれが閉まりきる前に、外へ出ることが出来た。
 しかし、もうそこから誰も出ることは出来ない。残り8名の人質は園の中だ。
 ドールがまた言う。

『人質ヲ取ンノヨ! マダソノヘンウロウロシテンノガイルンダカラ!』

 アルトは素早く頭を切り替える。この場合先に潰しておかなければならないのはサイゴン本体ではなく、入れ知恵担当のドールであると。
 踏鳴で爆発的な加速、蓮華での連続攻撃。
 鉤爪『飛蛇』から繰り出されるエンタングルをドールは、サイゴンの装甲の中に潜り込むことで回避する。
 そこでようやくサイゴンが、ルベーノに顔を向けた。

『……ん? おめえ、今おらっちを馬鹿にしなかったか?』

 この反応速度が色々物語っているな。
 そう思いつつロニは、レクイエムを歌う。
 ルベーノが再び高笑いした。

「馬鹿は死ぬまで治らんそうだ、ゆえに倒して治してやろうと言ったまでだ、それすら分からんか、ハッハッハ」

 次の瞬間ルベーノはサイゴンに打ちかかった。
 サイゴンもルベーノに打ちかかった。
 柱のごとき臑部分に瞬陣の構えと鎧通しを重ねた一撃を食らわせる。
 それはサイゴンの臑に当たった。

『いてえだぞこん畜生!』

 叩きつけられる豪腕。
 それをルベーノは、金剛不壊で持ちこたえる。
 その応酬の間を縫ってディーナが加勢する。
 マリィアはずっと正確に射撃を続け、サイゴンの力を削り続けている。
 アキノは最大射程ぎりぎりから、デルタレイをサイゴンに仕掛けた。
 サイゴンの3カ所に光線が当たる。
 
『あっち! なにするど!』

「なにって、攻撃さね。しかしあれだ、きみはいささか痛覚が鈍いようだね」

 うそぶいてアイシクルコフィンに切り替える。
 箒で飛んできたルカがプルガトリオを当てたのを見計らい、近接戦闘を行っている仲間に被らないよう狙いを定め――。

「行け!」

 当たった。
 サイゴンの体の各所に霜がつく。
 続けてジャックの矢が刺さった。
 ハナは残っていた符を打って打って打ちまくる。五色の光と火焔と雷が炸裂した。
 またルンルンの仕掛けた符を踏んでしまったサイゴンは、鼻から瘴気を吹き出し吠えた。

『おめえら、罠を仕掛けたり飛び道具使ったり卑怯だど!』

『ソーダワ、ナンテ汚イ奴ラ! 屑ヨ屑!』

 半眼になってカーミンが呟く。

「……あんたたち……どの口でそういうこと言うわけ……?」

 そこでドールが、非常に余計なことを提案した。

『オデカサン! 離レタ相手ニハ、ナンカソノヘンノモノ投ゲタライイノヨ!』

『おお、そういえばそうだど!』

 サイゴンは近くにあった観覧車を土台ごと軽くひっぺがし、投げる。
 ハナとジャックは避けた。
 マリィアは、直撃だけは免れた。
 ルンルンとアキノ、そしてジャックが直撃された。
 ディーナは大急ぎで彼らの救助に向かった。

「お・前・ら・な・今のは飛び道具じゃないのかよ!」

 箒に跨がった舞は、ルベーノと戦い続けるサイゴンの体に飛び降りる。その右目に持ち込んできた強酸性の液体をぶちまけてやろうと。
 だがその前に兜の下から飛び出てきたドールと一戦交えることになった。

『死ネクソ女!』

 両目を狙って突き出されたシザーハンズをヒートソードで弾き、返す刃で相手の顔面を叩き割る。
 それからサイゴンの鼻の上に飛び降り、右目に刃を食らわした。
 目を覆うカバーにひびが入る。

『ヌガア!』

 サイゴンは彼女を引っつかもうとする。
 アルトのエンタングルがその手を弾いた。
 シオンが刺突一閃でサイゴンの足をなぎ払う。
 巨体が崩れた。
 サイゴンの右目に刃が打ち込まれた。
 カバーのひびが大きくなり、一部が破れた。中で巻きネジがゆるゆる回転している。
 舞はそこに目がけて液体をたたき込んだ。

『ブゴオ!』

 サイゴンの手がサイゴンの顔面にぶち当たる。目を守ろうとしているのだ。
 だが次の瞬間動きが止まった。頭部が轟音とともに弾け飛ぶ。
 仲間を蘇らせていたディーナは、キラキラ光るネジが空高く舞い上がるのを鋭敏視角に捉える。
 あれを逃してはいけない。
 全力でチャリをこぎ、落下方向に向かう。

「ネジ、ネジが落ちて行ったのー! 逃がしたら駄目なのみんな探してー!」

 巻ネジは落ちて行く。壁を越えて外側へ。
 それが地面に到達する寸前で滑り込み手にしたのは、フィロだった。
 巻ネジは捕らえられたことに驚いているのか、キリキリ不快な音を立てた。

「あなたが核ですか。はじめまして。そして、さようなら」

 強力が巻きネジを手のひらの中で握りつぶす。
 時同じくして地面がとどろき始める。
 遊園地の壁が、設備が、倒壊して行く。それら全ては、サイゴンの存在によって成り立っていたのだ。どれもこれも急速に錆び付き風化し風に巻かれ、塵となって消えて行く――サイゴンそのものも。
 瞬く間に場は元の、何もない荒野に逆戻りした。
 レイオスは渦巻く土煙を手で払いながら、大地の裂け目がある方向を見やる。そこにいるだろう存在を、脳裏に思い浮かべながら。

「ま、これで悪は滅びたってことだな――まだ本命の大親玉は残ってるが」




●おかえりなさい、子供たち

 
  
 フィロはエクウスに乗り、一箇所に集まった少年たちの周囲を一巡りした。淡く輝きながら高速で駆け回る馬の姿は、光の幻影のようだった。
 傷を癒された少年たちは座り込んでしまう。
 さんざん言い争っていたコースター組も、ぐったりしている様子。さすがに色々考えるところがあったのかと思いきや、こんなことを言い出した。

「あのー、なんか飲むものとか持ってきてないですか、俺喉渇いたんですけど」

「僕もお腹がすいたんですけど。誘拐されてからこっち、ほとんど何も食べてなくて」

 マルコと一緒にいた少年、パウロが怒鳴る。

「うるせー我慢しろお前ら! そんなん俺らも一緒だ!」

 コースター組が反発した。

「なんでいきなりキレんだよパウロ!」

「ていうかお前らのとこだけ毛布あんのは何でなんだよ!」

 それまで黙っていた観覧車組が声を上げる。

「静かにしろー! こっちはお前らと違ってな、本気で死にかけたんだよ馬鹿やろう!」

「あやうくあの世に行くところだったんだからな!」

 これにまたコースター組が反発した。

「はぁ? そんなんオレらだって一緒だっての!」

 カーミンが場の仲裁に入る。

「……あんたたちねえ、少しは何か学んだらどうなの」

 そこでルベーノが大笑いした。

「ハッハッハ、いいではないか。これも生きる力の現れという奴だ――お前たち偉いぞ、よく頑張った」

 兎にも角にもハンターたちは、彼らに食料を与えた。ポーションも。
 音子はキャンディーとチョコ。
 マリィアは干し肉。
 ルカはオーナメントクッキーと干し芋、牛乳、炭酸、ミネラルウォーター。
 フィロはジュースと桜餅。
 



 遊園地が倒壊していくのを遠目にしたポルトワールの警察隊は、おお、と声を上げた。
 彼らは親たち並びにハンターの要請により、解放された人質保護のため待機していたのだ。
 場には生徒たちの親、そしてニケの姿もある。
 土煙が段々と晴れていく。
 次第次第に、こちらへ向かってくる人影が見え始めた。ハンターたち。そして、彼らに連れられた生徒たち。
 親たちは口々に歓声を上げた。
 ニケは張り詰めていた表情を緩め、小さく呟いた。

「おかえり」

 と。

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MVP一覧


  • 十 音子ka0537
  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズka1559
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752
  • ルル大学防諜部門長
    フィロka6966
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏ka7308

重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士

  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 好奇心の化物
    龍宮 アキノ(ka6831
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/06 02:26:08
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 舞(ka0377
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/04/06 15:45:57
アイコン 質問卓
天竜寺 舞(ka0377
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/04/05 18:25:15