ゲスト
(ka0000)
【AP】お花見日和
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/02 19:00
- 完成日
- 2019/04/11 16:46
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●現実で考えたこと
ソメイヨシノが咲くと、その国は浮き立つという。
春爛漫という雰囲気がするのだろうか?
イノア・クリシスは大江 紅葉に話を聞いた話をふと思い出した。窓の外を見つめる。丘の緑が増えているため、春は来ていると感じた。
「楽しそうですね」
お花見スポットがあり、動物園があり、博物館に美術館……商店街などいろいろあるという地域がリアルブルーにあるという。
きっと楽しいに違いないと考えた。
もし、兄がいたら……兄が生きているときだったら、と色々考えた。ないものねだりだし、いい加減、兄のことは思い出にしておきたかった。
●ここから夢、当時のままで
イノアはリアルブルーの情報誌を眺めていた。サクラがきれいだという。
「どうしたんだい、イノア」
優しいまなざしで兄ニコラス・クリシスが声をかけてきた。プエル(kz0127)として最期に見た姿に近いが、目の色は青い。澄んできれいな空の色。
「お兄様……お兄様は覚醒者でしょ? リアルブルーにもいけるんでしょ」
当時は無理だったけれど、これは夢。十四歳のニコラスが困ったように微笑んでいる。
ニコラスは手元の情報誌を覗き込む。
「桜? 美術館もあるんだね……へえ、舞台演出のすべて? 面白そうだね」
美術館での展示は「奇才、レチタティーヴォ 演出のすべて」とある。
「そうだ、イノア、行ってみるかい?」
「え?」
「美術館に行ってみたいし」
美術館のこの内容は正直どうでもいいどころか不要だった。
「サクラも綺麗だろうね」
「はい!」
イノアはぱあと顔を明るくする。ニコラスはただ微笑む。
美術館の展示内容は微妙だけど、兄と出かけることなどなかったため、非常に嬉しかった。
「ジョルジュ、護衛は来るんだよ」
部屋の入り口に控えていた銀髪の青年ジョルジュ・モースは眉をしかめてため息を漏らした。拒否権はないし、ニコラスよりもイノアの護衛は必須だと理解しているから。
●おともだち
ルゥルはキノコ型リュックを背負い、首から魔導カメラを下げ、動物園に行く日を楽しみにしていた。
「母上と動物園。母上と動物園。は・は・う・え・と・ど・う・ぶ・つ・えんんんんん」
動物園にはいろいろな動物がいるという。リアルブルーに行くだけでなく、母親と一緒ということや、リアルブルーの動物を見られることが楽しみだった。
母親アンジェが部屋にやってくる。
「ルゥル、リー君が来てね、明日、弟妹と共に一緒に行くことになったから」
「み、みぎゃ?」
これは、母親に甘えられない上、リアルブルーだとはしゃげないという流れが見える。リー君ことリシャール・ベリンガーは領主の息子で、その弟妹はルゥルと年齢が近い。
「リー君がしっかりしているし、気にしていないけど」
「みぎゃあ」
「……ルゥル?」
「何でもないのです。お姉さんとして頑張るのです」
「って、小さいのって弟だけよね? 妹の方は同じ年?」
「たぶん、そうなのです」
「なら、問題ないわね」
「みぎゃ」
ルゥルは色々考えた。
母親と二人きりではなくなったけれども、リシャールとその弟妹と何を見るのか楽しみになってきたのだった。
「パンダという珍獣がいるというのです。猿というのも見たことないですし」
ルゥルはわくわくと『リアルブルーの動物』という本を取り出した。
ラカ・ベルフ(kz0240)は動物園で園内を回る車、何車両かの客席を連結したものを運転する係をしていた。車の名前は青龍号。アナウンスや客の乗り降りで忙しい。
「花が咲くころになりましたわね」
その日の運行を考えつつ、空を見上げる。
青い空の下には薄いピンク色の花が見える。
「週末は忙しいですわ」
週末になれば人が来る。それに、サクラは満開の予報だ。
「ぜひ、パンダよりも、ワイバーンを見てもらわないと!」
ラカはうなずく。しかし、園内を回る車は同じルートを回るのだった。
●当日
大江 紅葉は慣れない服装をする。春めいたワンピースにレギンス、スプリングコートに歩きやすそうな靴。
「今日は博物館で『花見と陰陽師』という展示を見てきます」
松永 光頼と「デヱト」というものではないかと家臣たちは考えた。
「お花見をして、ご飯を食べきます。桜がきれいに咲いているそうです」
紅葉が団子と花と展示内容を真っ直ぐ考えているのは家臣たちに伝わる、良くも悪くも。
「時間があったら、動物園でキリンも見てみたいです」
普通に知識欲。
家臣たち、宗主が恋愛を意識しないというのもむなしく感じる、矛盾。
迎えに来た光頼は緊張していた。大江家の家臣たちが宗主である紅葉に甘いのを知っているから。大人というより、どこまで行っても小さい姫様扱いという部分もあるのを知っている。
だから、今回求められている役割は、紅葉が迷子にならないように見張ることと変な人に絡まれないか護衛をすることだと考えていた。
紅葉の見送りに「安心してください、迷子にならないようにしっかり見ています」と光頼は告げる。
家臣たちは何とも言えない顔になった。
「紅葉殿、私何か変なこと言いましたか?」
「ひどいです……光頼殿まで私を子ども扱いするのですか!」
「あ、いや……申し訳ない……」
紅葉がぷりぷり怒って転移門に向かうのを光頼は追いかけた。
●なぞの生き物?
土地神というか土地に住み着いた謎の生き物プエル人形たちは、春が来るのが楽しみだった。人形たちは高さ三十センチから四十センチくらいの三頭身の男の子らしい姿の人形だ。みんな同じ姿をしている。
博物館に複数の美術館、動物園に御寺や池やら学校に音楽堂……色々ある山の公園に住み着いているプエル人形たち。
一年中それらは楽しいのだけれども、サクラが咲くころは人間がたくさんどんちゃん騒ぎしたり、出店が出たりするため楽しいのだ。
宴会に混じったり(でも、飲食はできない仕様なので飲み食いするふりをする)、屋台の回りをうろついて隙があると割りばしや材料を持って逃げたり(でも、大した損害がない)、風のふりして桜の花びらを落としてみたり、巣を作ってみてカラスなど鳥に住居を提供したり……色々やることがあるのだった。
人形たちは待っていた、人々が来るのを。
人形たちは無言だ。それでも全身を持って喜びを伝える。
人形たちは道に落ちているゴミを拾って集め、拾って集め、捨てるということを繰り返して、人が集まるのを待った。
ただ、この人形たち、見えている人と見えない人がいると思われる……何せ、土地神というか妖精というか妖怪と言うか謎の生き物だから。
ソメイヨシノが咲くと、その国は浮き立つという。
春爛漫という雰囲気がするのだろうか?
イノア・クリシスは大江 紅葉に話を聞いた話をふと思い出した。窓の外を見つめる。丘の緑が増えているため、春は来ていると感じた。
「楽しそうですね」
お花見スポットがあり、動物園があり、博物館に美術館……商店街などいろいろあるという地域がリアルブルーにあるという。
きっと楽しいに違いないと考えた。
もし、兄がいたら……兄が生きているときだったら、と色々考えた。ないものねだりだし、いい加減、兄のことは思い出にしておきたかった。
●ここから夢、当時のままで
イノアはリアルブルーの情報誌を眺めていた。サクラがきれいだという。
「どうしたんだい、イノア」
優しいまなざしで兄ニコラス・クリシスが声をかけてきた。プエル(kz0127)として最期に見た姿に近いが、目の色は青い。澄んできれいな空の色。
「お兄様……お兄様は覚醒者でしょ? リアルブルーにもいけるんでしょ」
当時は無理だったけれど、これは夢。十四歳のニコラスが困ったように微笑んでいる。
ニコラスは手元の情報誌を覗き込む。
「桜? 美術館もあるんだね……へえ、舞台演出のすべて? 面白そうだね」
美術館での展示は「奇才、レチタティーヴォ 演出のすべて」とある。
「そうだ、イノア、行ってみるかい?」
「え?」
「美術館に行ってみたいし」
美術館のこの内容は正直どうでもいいどころか不要だった。
「サクラも綺麗だろうね」
「はい!」
イノアはぱあと顔を明るくする。ニコラスはただ微笑む。
美術館の展示内容は微妙だけど、兄と出かけることなどなかったため、非常に嬉しかった。
「ジョルジュ、護衛は来るんだよ」
部屋の入り口に控えていた銀髪の青年ジョルジュ・モースは眉をしかめてため息を漏らした。拒否権はないし、ニコラスよりもイノアの護衛は必須だと理解しているから。
●おともだち
ルゥルはキノコ型リュックを背負い、首から魔導カメラを下げ、動物園に行く日を楽しみにしていた。
「母上と動物園。母上と動物園。は・は・う・え・と・ど・う・ぶ・つ・えんんんんん」
動物園にはいろいろな動物がいるという。リアルブルーに行くだけでなく、母親と一緒ということや、リアルブルーの動物を見られることが楽しみだった。
母親アンジェが部屋にやってくる。
「ルゥル、リー君が来てね、明日、弟妹と共に一緒に行くことになったから」
「み、みぎゃ?」
これは、母親に甘えられない上、リアルブルーだとはしゃげないという流れが見える。リー君ことリシャール・ベリンガーは領主の息子で、その弟妹はルゥルと年齢が近い。
「リー君がしっかりしているし、気にしていないけど」
「みぎゃあ」
「……ルゥル?」
「何でもないのです。お姉さんとして頑張るのです」
「って、小さいのって弟だけよね? 妹の方は同じ年?」
「たぶん、そうなのです」
「なら、問題ないわね」
「みぎゃ」
ルゥルは色々考えた。
母親と二人きりではなくなったけれども、リシャールとその弟妹と何を見るのか楽しみになってきたのだった。
「パンダという珍獣がいるというのです。猿というのも見たことないですし」
ルゥルはわくわくと『リアルブルーの動物』という本を取り出した。
ラカ・ベルフ(kz0240)は動物園で園内を回る車、何車両かの客席を連結したものを運転する係をしていた。車の名前は青龍号。アナウンスや客の乗り降りで忙しい。
「花が咲くころになりましたわね」
その日の運行を考えつつ、空を見上げる。
青い空の下には薄いピンク色の花が見える。
「週末は忙しいですわ」
週末になれば人が来る。それに、サクラは満開の予報だ。
「ぜひ、パンダよりも、ワイバーンを見てもらわないと!」
ラカはうなずく。しかし、園内を回る車は同じルートを回るのだった。
●当日
大江 紅葉は慣れない服装をする。春めいたワンピースにレギンス、スプリングコートに歩きやすそうな靴。
「今日は博物館で『花見と陰陽師』という展示を見てきます」
松永 光頼と「デヱト」というものではないかと家臣たちは考えた。
「お花見をして、ご飯を食べきます。桜がきれいに咲いているそうです」
紅葉が団子と花と展示内容を真っ直ぐ考えているのは家臣たちに伝わる、良くも悪くも。
「時間があったら、動物園でキリンも見てみたいです」
普通に知識欲。
家臣たち、宗主が恋愛を意識しないというのもむなしく感じる、矛盾。
迎えに来た光頼は緊張していた。大江家の家臣たちが宗主である紅葉に甘いのを知っているから。大人というより、どこまで行っても小さい姫様扱いという部分もあるのを知っている。
だから、今回求められている役割は、紅葉が迷子にならないように見張ることと変な人に絡まれないか護衛をすることだと考えていた。
紅葉の見送りに「安心してください、迷子にならないようにしっかり見ています」と光頼は告げる。
家臣たちは何とも言えない顔になった。
「紅葉殿、私何か変なこと言いましたか?」
「ひどいです……光頼殿まで私を子ども扱いするのですか!」
「あ、いや……申し訳ない……」
紅葉がぷりぷり怒って転移門に向かうのを光頼は追いかけた。
●なぞの生き物?
土地神というか土地に住み着いた謎の生き物プエル人形たちは、春が来るのが楽しみだった。人形たちは高さ三十センチから四十センチくらいの三頭身の男の子らしい姿の人形だ。みんな同じ姿をしている。
博物館に複数の美術館、動物園に御寺や池やら学校に音楽堂……色々ある山の公園に住み着いているプエル人形たち。
一年中それらは楽しいのだけれども、サクラが咲くころは人間がたくさんどんちゃん騒ぎしたり、出店が出たりするため楽しいのだ。
宴会に混じったり(でも、飲食はできない仕様なので飲み食いするふりをする)、屋台の回りをうろついて隙があると割りばしや材料を持って逃げたり(でも、大した損害がない)、風のふりして桜の花びらを落としてみたり、巣を作ってみてカラスなど鳥に住居を提供したり……色々やることがあるのだった。
人形たちは待っていた、人々が来るのを。
人形たちは無言だ。それでも全身を持って喜びを伝える。
人形たちは道に落ちているゴミを拾って集め、拾って集め、捨てるということを繰り返して、人が集まるのを待った。
ただ、この人形たち、見えている人と見えない人がいると思われる……何せ、土地神というか妖精というか妖怪と言うか謎の生き物だから。
リプレイ本文
●はじまり
Gacrux(ka2726)は動物園の入場券を持っていた。
「……誰と見に行くかですね」
目の前には動物の絵本を眺めるパルムがいる。
「……暇そうですね」
「きゅ?」
「チケットを無駄にするのもあれですし、行きますか」
パルムは喜んだ。
灯(ka7179)はお花見の準備をする。暖かいという予報もあてにならない。
「ブランケットとシート……」
準備は万端だろうかと確認をする。
「用意したおかずはお肉中心です」
ミア(ka7035)が好きというから。野菜の肉巻き、唐揚げなど各種肉を使った料理。野菜も少々。温かい果実酒をポットに詰めた。
一方で、ミアは白飯を炊き、おむすびをたくさん作る。
「灯ちゃんが好きなの鮭、おかかニャス! ノリは巻かないニャス」
彼女が嫌いだというのだから。
そして、待ち合わせの場所に行く。
「おはようニャース」
「おはようございます」
花見と昼ご飯をゆっくりとるのだ。
「さて、行きましょう」
ミアはうなずく。二人は桜並木をのんびり進む。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)は公園で顔を見知りを見つけるが首をひねる。イノア・クリシスは知っているが全体的に小さい上に、連れの少年には見覚えはあるが知っている少年とどこか違った。護衛らしい青年はひとまず知らない。
「イノアと……兄君か、珍しい所で会うではないか」
「こんにちは」
イノアは頭を下げる。兄ニコラス・クリシスはキョトンとしていた。
「知っている者に似ている気がしたが……目の色は違うか、すまんな、気のせいだったようだ」
プエル(kz0127)なら目の色は紫だが、ニコラスは空と同じ蒼だった。
「どこにいくのか?」
「お兄様が美術展に行きたいというのです」
展示は「奇才、レチタティーヴォ 演出のすべて」とある。
「知らんな。では、ついて行くことにしよう」
星野 ハナ(ka5852)は花見会場の状況が想定した通りだったため、落ち込んだ。
「花見も屋台料理も好きですけど……なんかこういう場所で一人だと刺さるものがぁあ」
家族連れ、友達同士、カップルだったりする。独りでいる人など仕事中の人以外いなさそうだ。
「ああああ」
精神ダメージがハナを襲う。その結果、酒、ジュース、お菓子を大量に買い込む。
「この辺りにはあの人形がいるのですぅ」
プエル人形たちは土地についている謎の生き物、リアルブルー用語の妖怪ともいえる謎のもの。
ハナの視界内をそれらはうろうろしていた。
ミオレスカ(ka3496)は桜並木を見上げた。
「リアルブルーには本当に花だけの樹木を並べたところがあると……。桜並木の造成……すごいですね」
ソメイヨシノは花が咲き、葉は後から出る。樹木の花は葉ともにあるものが多い。
「その並木はお祭り会場となります……すなわち、お祭り会場を何十年にわたって作り続けているということですね」
花見会場と通路、飲食物販売所はきちんと分かれている。会場の整備も素晴らしいと感じた。
「あれは?」
ミオレスカの視界の端に、大江 紅葉(kz0163)と松永 光頼の姿があった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はサクラを見上げる。
「きれいなの」
うっとりとする。
桜の枝に人形がカラスの巣を設置しているのが見えた。それはとりあえず見なかったことにしたが、何か人知の及ばない何かが地域のために何か頑張っているのは伝わった。
ディーナの鼻先を香ばしい匂いに甘い匂いが漂う。
「……食べる、見る、そのために私はここにいるの」
ディーナは屋台を見て回るのだった。
天央 観智(ka0896)は桜が満開の季節に、どこか人々ものんびりしているように見えた。
「まずは展示内容的に……歴史系の博物館から見て回りましょうか」
歴史系の博物館は「花見と陰陽師」と組み合わせの不思議があった。
「平安の都とかでしょうか?」
入口に立ったけれどもよくわからない。満開の桜の写真と、陰陽師らしい古い絵が描かれた看板だ。
接点がよくわからないけど、季節物であるし見に行くことにした。
ルカ(ka0962)はふと目が覚めたように感じた、夢の中なのに。
外を見るとリアルブルーのとある場所の風景。桜並木と人混み。
今いる所は、その公園に知人が出している喫茶店だ。
(これは転移前の風景)
もし、この店にハンターの知り合いが入ってきても、知らない人なのだ。
知人がルカの着ているメード服について褒める。似合っている、と。
(喫茶店だと仰々しいかと思いましたけど……)
良かったらしい。
サクラ・エルフリード(ka2598)は自分と同じ名前の花が気になっていた。
丘の入り口に立つ。小高い丘にあるその公園の桜は道の両脇に植えられ、丘を華やかに染め上げていた。桜並木に足を踏み入れる。
「ああっ」
思わずため息が漏れた。花見客がウキウキしながら桜を見上げる理由もわかった。
「一面桜が満開ですごくきれいですね……ゆっくり見て回りましょうか……」
桜を見上げ、ふわりふわりと前に進んだ。
マリィア・バルデス(ka5848)はルゥル(kz0210)とリシャール・べリンガーを見つける。ルゥルの母親のアンジェは見覚えがあるが、ルゥル前後の子供は知らなかった。どこかリシャールに似ている。
「あら可愛い。ルゥルのお友達?」
リシャールが二人にあいさつするようにつつく。
「ルゥルはお出かけみたいね」
リュックに水筒といういでたちはリシャールの弟妹も同じ。アンジェもリシャールも荷物を持っている。
「動物園に来たのです。いろいろ見るのです! パンダにペンギンに鵺」
「動物園……久しぶりに見に行くのもよいかもしれないわね……鵺!?」
マリィアはルゥルが言った単語に首を傾げた。
エステル・ソル(ka3983)は動物園の入場券を買い中に入る。動物の匂いが漂い、動物の声もする。
「こ、ここが動物園です。わたくし、こんなにたくさんの動物さんが同じ場所にいるのは初めて見ました」
地図を片手のどこから見るか悩ましいところだが、全部見るつもりで歩き始めた。
レイア・アローネ(ka4082)は動物園に入っていくルゥルを見かけた。そこにマリィアもいるのを見た。
大所帯になっている上、ルゥルの様子から母親に甘えたいような頑張らないといけないような、動物園楽しみという複雑なオーラが見えた。
「これは……一緒に回りたいところだが、これ以上邪魔ものになるのもな……」
レイアは分析の結果、エステルに声をかけて一緒に回ることも考えた。
「ああ、でも、なんかエステルも楽しそうに地図を見ている……」
声をかけるのをためらうほど楽しそうな表情だった。
悩んでいる間に、双方を見失った。
●美術館・博物館
ミオレスカは紅葉と光頼に声をかけると、挨拶が返ってくる。
「こんにちは、ミオさん」
ミオレスカはおやと思った。少し前、紅葉が怒っていたようにも感じたのだった。
「このようなところで奇遇です」
「そうですね。ミオさんはお花見ですか?」
「はい、花見です。あと、しょうゆ文化についても興味があります。紅葉さんは?」
「博物館に行った後、お花見か動物園です」
欲張ると大変だけれどもうまくすれば一通り見られるだろう、まだ朝だ。
「それはいいですね」
「ミオさんがよろしければ一緒に行きますか?」
「は……あ、いえ、やめておきます」
邪魔してはいけない、とミオレスカは内心つぶやく。
「そうですか? 動物嫌い……」
「いえいえ……そこではありません」
紅葉と光頼を見送る。
「デートなのですよね?」
にしては二人の距離は微妙だった。
妙に若い女性の見学者が多い。それに混じる形で観智は見ていく。
「これがリアルブルーの陰陽師」
観智が顔を上げると、洋装の紅葉と連れがいた。
「こんにちは」
「……あ、こんにちは」
珍しいところで会う。
「やはり興味があるのですか?」
観智の質問に紅葉が目をキラキラさせる。横で光頼が「まずい」と言う顔をしている。
「もともとは桜より梅が花見だったんですよね。それは知っていますが、何故展示で陰陽師が関わるのか面白いと思いまして――」
解説モードがさく裂しかけるが「紅葉殿、この方の都合を邪魔してしまいます」と連れの光頼が止める。
「はっ! すみません」
紅葉がお詫びをしつつ、人の波にもまれて消えて行った。
「別に解説や持論の展開も面白いと思いますが……とはいえ、流れて行ってしまいましたね」
観智は立ち去った紅葉たちを見送り、見物を再開した。
「結局は関連づけているようでついていない内容だったですね……。しかし、花見や歴史の勉強にはなりましたね」
面白くなくなないが、こじつけに近い展示だったのが否めない。
観智は屋台で昼食をとることにした。そのあとは科学博物館である。
ルベーノは美術展を見て苦笑した。
「うむ、全然わからんかったぞ、ハッハッハッ」
実際のレチタティーヴォを知っていたとしても、内容には首を傾げるだろう。誰かの望みの演出家像にのようだから。
「で、イノアはこれからどこにいくのだ」
ルベーノは春の日差しを受ける。
「お花見です。この公園の桜は美しいと聞きました」
「そうか」
イノアがちらちらと兄を見ている。
「そうか。良かったな……夢がかなって。ゆっくり楽しんでくれ」
イノアの頭を優しくなでて去る。
ルベーノが桜並木にやってくると、枝にプエル人形がいるのが見えた。器用に枝から枝に飛び移っていた。
●花見
ハナは花見スペースで空いていた場所に座った。
「いましたっ!」
ハナは通りすがりのプエル人形を捕まえる。
プエル人形はおろおろと左右を見渡し「助けてー」と言っているようだった。声はないけれど人形同士には通じる音があるのか、遠巻きに数体がハナを見ている。
「お座んなさい! その子ちびっこ」
手にしているのをぐしゃと座らせ、周りの人形たちを見る。
人形たちはおろおろと仲間を救出にやってきて、座る。
「さっさと、神様の位階を上げて、私に彼氏を恵んでくださいよぉ! ぺろぺろはぁはぁくんかくんかできる筋肉が私には必要なんですっ!」
人形たち互いの腕を見る。筋肉とは無縁の布と綿。とりあえず、笑うようなしぐさをした。
「さあ、あんたたちもたまには強制的に宴会参加ですぅ! さっさとみんなを集めて飲み食いするのですぅ」
一体を掴むと、その口にグイとコップを押し付ける。プエル人形は受け取ると、空のコップにジュースが注がれた。
「私の注いだジュースが飲めないというのですぅ」
プエル人形、素直にうなずいた。
「飲ませてあげるですぅ」
人形がジュース色に染まる。
「……本当に飲めないのですぅ」
プエル人形はうなずいたが、「今日だけ?」と言うふうに首を傾げたり色々何か動作する。
「ううううう、人形たちも宴会の足しにならないのですぅうう」
酒をあおり泣き始めた。
人形たちはおろおろしながら、とりあえず、ハナの膝をポンポンとたたいて「泣くな」と示したり、ラインダンスを始めたり、頑張った。
「お花はきれいなのですぅ……でも、でも」
プエル人形に時々買い物に行かせる。しかし、購入できるのかよくわからない。
それでも何か持ってくるので、引き換えは成功しているのだろう。
独りで人形たちと宴会。楽しいのかむなしいのかわからない。ただ、人形たちは一生懸命だ。時々ハナは手を伸ばすと、人形の頭を撫でねぎらった。
ディーナは片っ端から食べ歩く。
パスタを揚げた物や綿菓子など菓子系に、サツマイモを揚げたものやふかしたジャガイモ、屋台定番メニューの焼きそばやタコ焼きだ。
「おいしいの……お花見しながら食べると、より一層おいしいの」
もぐもぐはふはふ食べ歩く。
時々、顔見知りのハンターがいるけれど互いにあいさつだけで気にしない。
「さすがに春なの」
気候が暖かいと食べ歩きもどこかペースが落ちる。温かい食べ物が急激に冷えることもないし、妙なエネルギーも使わない。
「それはそれで寂いの?」
彼女の食べ歩きのペースが普段通りか否かは本人しかわからない。
「魚の塩焼きなのー、海産物も焼いているの」
ディーナはそこに向かう。網で焼かれた貝や串に刺して焼かれているアユなど海や川の物がある。
焼きたての魚や貝はおいしい。
視線の先に人形がいた。のぞき見のようなスタイルで、口元に手が当たっている。
「いいなーと思われているような感じなの」
ディーナは自分が満腹になってきているのを感じて、何をするのがいいのか考えながら食べる。
「考えるとおなかがすくの」
そして、甘いものを食べつつ、屋台の人に人形について尋ねた。
ミアと灯はただ静かに歩く。一緒にいるのが楽しい。
不意に風が吹き、花びらが舞う。
「わあ、桜の花びらだぁ!」
「そうですね」
灯は微笑む。
きゅるるるる。
ミアの動きが止まり、灯はキョトンとなる。ミアは頭を掻く。
「えへへ、花よりお弁当ニャス」
「場所、取らないと大変です」
慌てて二人は場所を探した。桜の真下はすでにいっぱいだ。それならばとわざと外れた所、桜並木が見える所を選ぶ。そこも人はいるが、何とか場所は確保できる。
おむすびとおかずが並ぶ。二人はそれぞれ手に取り口に運ぶ。
おいしい。大好きな人が心を込めて作ってくれたものだから。それに、景色も美しい。
「ミア、夢を見たんニャス」
「どんな夢ですか?」
「ここじゃないどこかの世界の夢。ミアと灯ちゃんはお友達で、同じ学校の制服を着て、夏の帰り道を一緒に歩いて……」
「まあ、素敵な夢を見たのね。でも、不思議ね。私もそんな夢を見た気がする」
灯とミアは目を瞬く。
「それで、夜空に咲く花火、夜空を泳ぐ三匹の金魚を見たんだ!」
「そうね……空はどこまでも深くて……泳ぐ金魚が美しかった」
二人は空を見上げる。
青空と桜だ。不意に花が落ちてくる。
「鳥が花の蜜を吸っているのかしら?」
「せっかくのお花だけど、鳥には鳥の楽しみ方があるニャス」
鳥がいたのかと枝を見る。大きめの鳥がいたようだった。
ふわりと花びらが降る。それを灯は手に取った。
「ミアさん」
それを灯はミアに手渡す。
「地上に落ちるまでに花びらがつかめれば、願いごとがかなうというの」
ミアの目が輝く。
「一緒に願いごとをしましょうか」
二人は食後、花びらを追う。
(夢でも共にいる幸せが尽きないようにって……一緒にいる時間が幸せよ)
灯はミアを優しいまなざしで見つめる。
ルカは注文の品をテーブルに置く。
店内では緑茶・紅茶・コーヒーなどは無論のこと、定食やクッキーなどのお茶の供もある。外は自由に食べられるスペースとして開放しており、酒以外の持ち込みは可能としてあった。皆がゆっくりと休憩できるようにと言うことだった。
「まったく、あなた方は立ち食いできないならなぜ屋台で食べたいというのです!」
銀髪の青年が溜息交じりに言うのが聞こえる。
「仕方がないだろう」
「そうですわ」
身なりのいい兄妹が反論している。自由に座れるコーナーでテーブルに着いて屋台で買ってきたらしいものを食べ始めていた。
しばらくすると大人のカップルがやってきて屋台で買ったものを食べようとしている。
「いくら自由とはいえ、何も買わないと申し訳ないですね」
「そうですね……飲み物買ってきましょう」
席番で女性が待ち、男性が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「……緑茶を二つお願いします」
「温かいのと冷たいのがありますがどうしますか?」
「……温かいのでお願いします」
会計後、ナンバーの書いた札と盆を渡した。ルカは見覚えがある客だけれども気のせいだと思った。
桜が舞い、運ぶ茶に落ちる。
「替えてこないと」
店内に戻り「――さん、お茶、替えてください」と知人の名を呼び、ルカは頼んだ。
ミオレスカは満開の桜を眺めていたところ、鼻の先を香ばしい匂いがくすぐる。
「これはっ!」
ミオレスカは小走りに人を避けつつ近づいた。
そこには焼きトウモロコシがあった。網の上で焼かれるトウモロコシに刷毛で刺ししょうゆが塗られる。その瞬間、しょうゆが焦げ、香りが広まる。
「あああ、この匂いです」
ミオレスカは購入してワクワクしながら口に含んだ。
「トウモロコシに塩分を与えつつ、塩とは異なり、しょうゆ独特の香ばしさが加わる……焦げているけれども苦味があるわけではないのです」
絶妙な塩梅の焼トウモロコシをいそいそと食べる。
「もっと味わわないといけないですね。でも、あつあつで香ばしいこれはとまりません。トウモロコシにしょうゆをつけて焼くだけで、ここまでおいしくなるなんて」
桜の花びらが降り注ぎ、トウモロコシを掠る。
「花は散るのも美しいけれど、終わりが見えると寂しい気にもなります……トウモロコシも同じです」
最後の一口を食べきった。
そのとき、視界の隅で白いトレイが移動していく。焼きそばが乗っているのだが、それを持っているのは人形だ。前後にいる人形が、誘導しているようだった。
「あれは……見覚えがありますね」
ミオレスカはトウモロコシのゴミを捨てた後、リンゴ飴を買う。なんとなく、あの人形たちに似合いそうだった。
サクラは端まで歩き終えると夢から覚めた気分になる。
「また見て回りましょうか」
そのつもりもあるが、腹の虫が騒ぎ出す匂いが漂ってくる。刺激される腹の虫。
ぐう……。
サクラは周りに聞こえたかと思わずきょろきょろする。人が多くいるから聞こえるかもしれないが、人が多いために音がたくさんあり聞こえないようだ。
「む、腹が減ってはなんとやら……。おいしそうな食べ物がいっぱいありますし、食べ歩きといきましょう」
財布を握りしめ、サクラは屋台に向かう。
「焼きそば、焼きトウモロコシ、たこ焼き、クレープ……どれにしましょうか」
結論から言うと、全部食べる。小柄な少女であるが、どこに入るのかわからないが、すべてきれいに食べきった。
「おいしかった……」
休憩後、もう一度見に行くのだった。
●動物園
Gacruxは入園前にコンビニで昼ご飯は買っておいた。それから、動物園に入りパンフレットをもらう。
「リアルブルーには『客寄せパンダ』という言葉があるらしいですね。そのパンダを一目見ておきたいです」
パンフレットを見つつパルムが同意を示した。
パンダ舎の前は長蛇の列だった。
「きゅ、きゅ」
「そうですね、ここまで来たのだから見ていかないと」
Gacruxはパルムにうなずいた。
待つこと数十分、パンダの前にやってくる。スマホのカメラを構え、人波に乗っていく。
(なんか……でかい毛玉がこちらにケツ向けて寝ているだけなのですが)
全く動かない。
「こいつら、まったく動かないじゃないですか」
「きゅ、きゅっ」
パルムが「昼寝」という仕草をする。
パンダ舎の外にいき、撮った写真を見るが「ケツしか写っていません」とため息を漏らした。
目の前に来た園内巡回の乗り物に乗った。
Gacruxはパルムが楽しそうにしているのでまあ来てよかったのかと思った。
「にしても……なぜ、青龍号」
ワイバーンが見えた時点で、動物のカテゴリーがよくわからなくなった。
レイアはどうしようかと思っていると、青龍号がバス停で止まった。
「おや? ラカ?」
運転しているのは青い作業服のラカ・ベルフ(kz0240)だった。
「乗りますか?」
「あ、乗る」
せっかくなら乗ることにした。
「皆さま、巡回バス青龍号にご乗車いただきありがとうございます」
ラカは普通に案内をしている。
レイアはそれを聞きながら、動物園にどのような動物がいるか知る。ただ、幻獣と思われる名前や妖怪ではないのかという名前が上がるのが不安だった。
「続きましてはワイバーン舎です。ワイバーンという生き物は――」
レイアは説明を聞いていたが、その説明が止まらない。ワイバーンの生い立ち、ワイバーンのいいところ、ワイバーンと青龍につながり話が止まらない。
「語り終えませんので、スピードを落とします」
「おおいっ!」
思わずツッコミを入れた、レイアだけでなく乗車している人たち全員が。
長い長い説明の後、ワイバーン舎の前に到着したのだった。そこで、客を下した青龍号。休憩になるらしくラカも下りる。
「ラカ、一緒に昼ご飯食べよう」
「……かまいませんわよ?」
「それにしても、広いな動物園」
「そうですわね……ゾウやキリンに麒麟……ワイバーンだけでなくグリフォンとか大型動物もいますし」
「いや、動物? キリンって二度言った?」
ラカが書き文字を指さした。
「……麒麟ってなんだ? そもそも、キリンってどんな動物!?」
「ぜひ見て行ってください」
食後、ラカと別れたレイアは動物を見に行った。途中でエステルやルゥルを見かけた。
リシャールの弟妹、特に弟の方は元気だった。
「駄目ですよ」
「こら」
ルゥルとリシャールが止める。
「そうね。走ったら危ないわね。迷子になったらどうするの」
マリィアがたしなめる。ルゥルはきちんと普通について来ており、手をつなぐ必要はないのかと少し寂しいが、妙に母親の方を見ている。
(……私が手をつなぐというより……そっちがしたいのね)
マリィアはルゥルが甘えたがりな年頃だとは理解した。
「はいはい、お姉さんと手をつなごうか」
しゃがんでリシャールの弟に声をかけた。
「しょうがないの……お姉さんが迷子にならないように、僕が手をつないであげる」
「こらっ! すみません、マリィアさん」
リシャールが慌てて頭を下げる。マリィは苦笑した後、リシャールの兄行動に微笑む。
「言葉は一人前ね……でも、結果オーライでしょ?」
リシャールは頭を下げた。
マリィアはルゥルが母親の手を握ったのを見た。
ふれあい動物コーナーは意外と、一行は静かだった。戯れてはいるのだが、まじめに触っている。
「意外と好きじゃないのかしら」
「マリィアさん、うちの回り、動物結構いるのです」
ルゥルの指摘にマリィアはハッとする。ルゥルやリシャールは町に住んでいるが、町の外は自然にあふれている。
「なるほどね……場所が違うのね」
「リアルブルーだと動物はいないのです?」
「そうね……」
マリィアは知っている範囲の説明をしたのだった。
エステルはライオン舎の前で「かっこいいです」と声をあげた。
ゾウを見て目を丸くする。
「ぞ、ゾウさんは大きいのです……ふにゃ……リンゴさん食べますか?」
思わずおやつのリンゴを手にしていたが、「餌やり禁止」の看板を見て手を引っ込めた。
「あ、ワイバーンさんがいます。時々、見かけるのです、悪さはいけませんよー」
「ひどい言いがかりですわっ!」
ラカが現れた。そして、ワイバーンについて巡回バスでの説明に加えた物を話した。
「わ、わかりました」
エステルが理解を示すと、ラカは仕事に戻っていった。
エステルは移動していくと、ペンギンの姿が目に入った。ペンギンは氷を模した陸地をペタペタ歩いたり、水の中を泳いでいる。
「あの小さな二本足の動物さん、か、かわいいのですー」
「あれはペンギンなのです」
ルゥルが胸を張って答える。
「ペンギン? ……ルゥルさん、こんにちはです。鳥さんなのですか? 飛べないのですか?」
「飛べないけれど鳥なのです」
ルゥルが説明をしている。
「まあルゥルよく知っているのね」
「そうか、あれは飛べないのか」
リシャールの弟妹の手を握ったマリィアやエステルの視界で見切れているレイアがそれぞれ感想を漏らしている。
「氷の上に住んでいるのです? 泳ぐの速いです!」
「難しい話なのです。このペンギンの種類は、草地に暮らして、餌は水の中で取るのです」
ルゥルが説明に入った。
「ルゥルさんはキノコだけでなく動物さんも詳しいのです?」
「リアルブルーのことは良く知っているのです」
エステルが感心する。直前に動物園の本を読んでいたということは知らない。
「では、またなのですー」
「エスエルさん、またなのですー」
ルゥルたちと別れた。ルゥルはずっと母親の手を離さなかったのを見て、エステルは微笑んだ。
●桜吹雪
Gacruxは動物園の乗り物を下りたところで、パルムと昼食にする。桜も咲いているところで人は多かった。パルム小さいからGacruxが座れていたら問題ない。
「コンビニは二十四時間営業らしいですよ。ブルーの人々は働き者ですねぇ」
買ってきたサンドイッチと茶を広げる。パルムはサンドイッチを手にして食べ始めた。
「確実に、サンドイッチはどこに消えるのでしょうかね」
苦笑しながら眺めていた。
のんびりとした一日を過ごしたのだった。
ディーナは視界に見切れる人形の正体について屋台の人から裏をとった。見える人と見えない人がいる。完璧なカラスの巣ができていると、それはその人形たちの仕業だと言われているという。
中途半端な存在なら、格上げされると土地にとって良いのではないかと言う感想も生じる。
ディーナはおいしかった屋台の食べ物をいくつか買うと、人形たちのところに行く。
「早く神様に格上げされるといいの。お勤めごくろうさまなの」
プエル人形たちは焼きそばや焼きイカをもらい喜びながら立ち去った。
「桜が咲くのもあれが頑張っているからなの、きっと」
ディーナは人混みに流されながら、丘を下りた。
エステルは動物園の物販コーナーで悩む。
「ペンギンさんのぬいぐるみ……いろんな種類があります……違いますっ。これは、ペンギンさんの種類自体が異なっているのです」
動物園にいる種類であり、それぞれ見てどれもこれも可愛いと思ったのだ。
「……な、悩みどころです」
悩みに悩んで、一体選んだ。
「今度来た時はあちらを」
後ろ髪惹かれつつ、立ち去った。
ルゥルたちも帰っていったので、レイアも動物園を後にする。
「あれは?」
等身大ペンギンぬいぐるみを持ったエステルを見つけた。
「可愛いな……」
エステルの後を付けるように帰るのだった、ストーカーと言うより方向同じだから。
人は多い花見会場を人形たちは器用に人を縫って走っている。
ミオレスカは追いかけ、通行人の邪魔にならないところで声を掛けしゃがむ。
「これをどうぞ」
人形は突然のことで驚くが、すぐに飛び跳ねて喜んだ。
両手に小さいリンゴ飴を持ち、別の一体は大きなリンゴ飴を抱える。リンゴ飴を振って立ち去っていった。
「そろそろ帰りましょうか」
ミオレスカはもう一度焼トウモロコシのところを通り、桜を眺めた。
ハナの宴会しているところに、新たなプエル人形たちが来た。手にリンゴ飴を持っている。それをポンポンや旗にみたてそれらは踊る。
「赤いリンゴ……きれいなのですぅ」
人形はハナにリンゴ飴を差し出す。
ハナは袋を開けた。飴は甘いが、どこかしょっぱかった。
「月並みですけどぉ、うっうっ」
プエル人形はハナによじ登ると頭をいい子いい子してきたのだった。
ルベーノは屋台で大量に菓子を買った。
プエル人形を見つけると菓子を渡す。
「お前らが元気に働いているようで、嬉しいぞ」
ルベーノは頭を撫でる。人形はよくわからない様子だが喜んでいた。とりあえず、物をもらうと嬉しいらしい。
「お前たちも早く位階が上がるといいな、頑張れよ。ここにはお前がいないようだからな……」
プエル人形の主を思い、空を見上げた。
マリィアは動物クッキーの箱を子どもの数以上買う。
「じゃあ、私はこれで。これは今日一緒で楽しかった思い出」
それぞれに渡し、別れる。
マリィアは動物園の外で遊んでいるプエル人形を見つけた。都市伝説では「桜守」として存在しているらしい。
「こっちにいらっしゃい」
動物クッキーの箱を見せて呼び寄せる。人形はつられてやってきた。
「偉いわね、みんなの花見を手伝って」
照れるようなしぐさをする。そして、受け取ったクッキーの箱を頭上に掲げどこかに走り去った。
観智は科学博物館の「動物のホネ」も見た。新発見はなかったけれども、子供向けにわかりやすい展示であった。
「教える側の勉強にはなりますね」
外は日がかげり、ぼんぼりに明かりがともり始めていた。
闇夜に明かりに照らされるサクラというのはまた風情がある。
「陰陽師の時代ではないですが、闇と光のコントラストですね」
風が吹くとサクラの花びらふわりと舞った。
「散るときも美しい。そして、寂しい」
観智は桜並木を見上げた。
「ミアさん、今日はサーカス見に行っていいかしら? 大好きな人たちと素敵な夢をみたいの」
灯の言葉に今日の予定が埋まっていく。
「そうニャス! 今夜の公園が始まるニャスよ!」
ミアは灯の手を取り走り出す。
(今日という花びらに願おう…あなたが、みんなが、いつまでも幸せでいてくれますように)
手のぬくもりのほか、これから会いに行く予定の人たちの顔が脳裏に浮かぶ。
二人は駆け抜け、電車に飛び乗った。
サクラはおなかいっぱいだった。それに、桜もゆっくり眺める時間もあった。
「時間が経つのが早いです」
屋台の人と話したり、顔見知りのハンターと挨拶を交わしたり……独りだったけれども出会いはあった。
「はあ……見たし、食べたし……」
満足げに立ち去る準備。しかし、夜の桜も捨てがたい。足は重く、ゆっくりと。
客はひっきりなしに来るし、待つ客もいた。
待つ時間も連れによっては楽しいひと時。
「……夢、覚める?」
ルカはふと思った。
知人に呼ばれ、止まっている場合ではないと気づいた。まだ、客は来るのだから。
Gacrux(ka2726)は動物園の入場券を持っていた。
「……誰と見に行くかですね」
目の前には動物の絵本を眺めるパルムがいる。
「……暇そうですね」
「きゅ?」
「チケットを無駄にするのもあれですし、行きますか」
パルムは喜んだ。
灯(ka7179)はお花見の準備をする。暖かいという予報もあてにならない。
「ブランケットとシート……」
準備は万端だろうかと確認をする。
「用意したおかずはお肉中心です」
ミア(ka7035)が好きというから。野菜の肉巻き、唐揚げなど各種肉を使った料理。野菜も少々。温かい果実酒をポットに詰めた。
一方で、ミアは白飯を炊き、おむすびをたくさん作る。
「灯ちゃんが好きなの鮭、おかかニャス! ノリは巻かないニャス」
彼女が嫌いだというのだから。
そして、待ち合わせの場所に行く。
「おはようニャース」
「おはようございます」
花見と昼ご飯をゆっくりとるのだ。
「さて、行きましょう」
ミアはうなずく。二人は桜並木をのんびり進む。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)は公園で顔を見知りを見つけるが首をひねる。イノア・クリシスは知っているが全体的に小さい上に、連れの少年には見覚えはあるが知っている少年とどこか違った。護衛らしい青年はひとまず知らない。
「イノアと……兄君か、珍しい所で会うではないか」
「こんにちは」
イノアは頭を下げる。兄ニコラス・クリシスはキョトンとしていた。
「知っている者に似ている気がしたが……目の色は違うか、すまんな、気のせいだったようだ」
プエル(kz0127)なら目の色は紫だが、ニコラスは空と同じ蒼だった。
「どこにいくのか?」
「お兄様が美術展に行きたいというのです」
展示は「奇才、レチタティーヴォ 演出のすべて」とある。
「知らんな。では、ついて行くことにしよう」
星野 ハナ(ka5852)は花見会場の状況が想定した通りだったため、落ち込んだ。
「花見も屋台料理も好きですけど……なんかこういう場所で一人だと刺さるものがぁあ」
家族連れ、友達同士、カップルだったりする。独りでいる人など仕事中の人以外いなさそうだ。
「ああああ」
精神ダメージがハナを襲う。その結果、酒、ジュース、お菓子を大量に買い込む。
「この辺りにはあの人形がいるのですぅ」
プエル人形たちは土地についている謎の生き物、リアルブルー用語の妖怪ともいえる謎のもの。
ハナの視界内をそれらはうろうろしていた。
ミオレスカ(ka3496)は桜並木を見上げた。
「リアルブルーには本当に花だけの樹木を並べたところがあると……。桜並木の造成……すごいですね」
ソメイヨシノは花が咲き、葉は後から出る。樹木の花は葉ともにあるものが多い。
「その並木はお祭り会場となります……すなわち、お祭り会場を何十年にわたって作り続けているということですね」
花見会場と通路、飲食物販売所はきちんと分かれている。会場の整備も素晴らしいと感じた。
「あれは?」
ミオレスカの視界の端に、大江 紅葉(kz0163)と松永 光頼の姿があった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はサクラを見上げる。
「きれいなの」
うっとりとする。
桜の枝に人形がカラスの巣を設置しているのが見えた。それはとりあえず見なかったことにしたが、何か人知の及ばない何かが地域のために何か頑張っているのは伝わった。
ディーナの鼻先を香ばしい匂いに甘い匂いが漂う。
「……食べる、見る、そのために私はここにいるの」
ディーナは屋台を見て回るのだった。
天央 観智(ka0896)は桜が満開の季節に、どこか人々ものんびりしているように見えた。
「まずは展示内容的に……歴史系の博物館から見て回りましょうか」
歴史系の博物館は「花見と陰陽師」と組み合わせの不思議があった。
「平安の都とかでしょうか?」
入口に立ったけれどもよくわからない。満開の桜の写真と、陰陽師らしい古い絵が描かれた看板だ。
接点がよくわからないけど、季節物であるし見に行くことにした。
ルカ(ka0962)はふと目が覚めたように感じた、夢の中なのに。
外を見るとリアルブルーのとある場所の風景。桜並木と人混み。
今いる所は、その公園に知人が出している喫茶店だ。
(これは転移前の風景)
もし、この店にハンターの知り合いが入ってきても、知らない人なのだ。
知人がルカの着ているメード服について褒める。似合っている、と。
(喫茶店だと仰々しいかと思いましたけど……)
良かったらしい。
サクラ・エルフリード(ka2598)は自分と同じ名前の花が気になっていた。
丘の入り口に立つ。小高い丘にあるその公園の桜は道の両脇に植えられ、丘を華やかに染め上げていた。桜並木に足を踏み入れる。
「ああっ」
思わずため息が漏れた。花見客がウキウキしながら桜を見上げる理由もわかった。
「一面桜が満開ですごくきれいですね……ゆっくり見て回りましょうか……」
桜を見上げ、ふわりふわりと前に進んだ。
マリィア・バルデス(ka5848)はルゥル(kz0210)とリシャール・べリンガーを見つける。ルゥルの母親のアンジェは見覚えがあるが、ルゥル前後の子供は知らなかった。どこかリシャールに似ている。
「あら可愛い。ルゥルのお友達?」
リシャールが二人にあいさつするようにつつく。
「ルゥルはお出かけみたいね」
リュックに水筒といういでたちはリシャールの弟妹も同じ。アンジェもリシャールも荷物を持っている。
「動物園に来たのです。いろいろ見るのです! パンダにペンギンに鵺」
「動物園……久しぶりに見に行くのもよいかもしれないわね……鵺!?」
マリィアはルゥルが言った単語に首を傾げた。
エステル・ソル(ka3983)は動物園の入場券を買い中に入る。動物の匂いが漂い、動物の声もする。
「こ、ここが動物園です。わたくし、こんなにたくさんの動物さんが同じ場所にいるのは初めて見ました」
地図を片手のどこから見るか悩ましいところだが、全部見るつもりで歩き始めた。
レイア・アローネ(ka4082)は動物園に入っていくルゥルを見かけた。そこにマリィアもいるのを見た。
大所帯になっている上、ルゥルの様子から母親に甘えたいような頑張らないといけないような、動物園楽しみという複雑なオーラが見えた。
「これは……一緒に回りたいところだが、これ以上邪魔ものになるのもな……」
レイアは分析の結果、エステルに声をかけて一緒に回ることも考えた。
「ああ、でも、なんかエステルも楽しそうに地図を見ている……」
声をかけるのをためらうほど楽しそうな表情だった。
悩んでいる間に、双方を見失った。
●美術館・博物館
ミオレスカは紅葉と光頼に声をかけると、挨拶が返ってくる。
「こんにちは、ミオさん」
ミオレスカはおやと思った。少し前、紅葉が怒っていたようにも感じたのだった。
「このようなところで奇遇です」
「そうですね。ミオさんはお花見ですか?」
「はい、花見です。あと、しょうゆ文化についても興味があります。紅葉さんは?」
「博物館に行った後、お花見か動物園です」
欲張ると大変だけれどもうまくすれば一通り見られるだろう、まだ朝だ。
「それはいいですね」
「ミオさんがよろしければ一緒に行きますか?」
「は……あ、いえ、やめておきます」
邪魔してはいけない、とミオレスカは内心つぶやく。
「そうですか? 動物嫌い……」
「いえいえ……そこではありません」
紅葉と光頼を見送る。
「デートなのですよね?」
にしては二人の距離は微妙だった。
妙に若い女性の見学者が多い。それに混じる形で観智は見ていく。
「これがリアルブルーの陰陽師」
観智が顔を上げると、洋装の紅葉と連れがいた。
「こんにちは」
「……あ、こんにちは」
珍しいところで会う。
「やはり興味があるのですか?」
観智の質問に紅葉が目をキラキラさせる。横で光頼が「まずい」と言う顔をしている。
「もともとは桜より梅が花見だったんですよね。それは知っていますが、何故展示で陰陽師が関わるのか面白いと思いまして――」
解説モードがさく裂しかけるが「紅葉殿、この方の都合を邪魔してしまいます」と連れの光頼が止める。
「はっ! すみません」
紅葉がお詫びをしつつ、人の波にもまれて消えて行った。
「別に解説や持論の展開も面白いと思いますが……とはいえ、流れて行ってしまいましたね」
観智は立ち去った紅葉たちを見送り、見物を再開した。
「結局は関連づけているようでついていない内容だったですね……。しかし、花見や歴史の勉強にはなりましたね」
面白くなくなないが、こじつけに近い展示だったのが否めない。
観智は屋台で昼食をとることにした。そのあとは科学博物館である。
ルベーノは美術展を見て苦笑した。
「うむ、全然わからんかったぞ、ハッハッハッ」
実際のレチタティーヴォを知っていたとしても、内容には首を傾げるだろう。誰かの望みの演出家像にのようだから。
「で、イノアはこれからどこにいくのだ」
ルベーノは春の日差しを受ける。
「お花見です。この公園の桜は美しいと聞きました」
「そうか」
イノアがちらちらと兄を見ている。
「そうか。良かったな……夢がかなって。ゆっくり楽しんでくれ」
イノアの頭を優しくなでて去る。
ルベーノが桜並木にやってくると、枝にプエル人形がいるのが見えた。器用に枝から枝に飛び移っていた。
●花見
ハナは花見スペースで空いていた場所に座った。
「いましたっ!」
ハナは通りすがりのプエル人形を捕まえる。
プエル人形はおろおろと左右を見渡し「助けてー」と言っているようだった。声はないけれど人形同士には通じる音があるのか、遠巻きに数体がハナを見ている。
「お座んなさい! その子ちびっこ」
手にしているのをぐしゃと座らせ、周りの人形たちを見る。
人形たちはおろおろと仲間を救出にやってきて、座る。
「さっさと、神様の位階を上げて、私に彼氏を恵んでくださいよぉ! ぺろぺろはぁはぁくんかくんかできる筋肉が私には必要なんですっ!」
人形たち互いの腕を見る。筋肉とは無縁の布と綿。とりあえず、笑うようなしぐさをした。
「さあ、あんたたちもたまには強制的に宴会参加ですぅ! さっさとみんなを集めて飲み食いするのですぅ」
一体を掴むと、その口にグイとコップを押し付ける。プエル人形は受け取ると、空のコップにジュースが注がれた。
「私の注いだジュースが飲めないというのですぅ」
プエル人形、素直にうなずいた。
「飲ませてあげるですぅ」
人形がジュース色に染まる。
「……本当に飲めないのですぅ」
プエル人形はうなずいたが、「今日だけ?」と言うふうに首を傾げたり色々何か動作する。
「ううううう、人形たちも宴会の足しにならないのですぅうう」
酒をあおり泣き始めた。
人形たちはおろおろしながら、とりあえず、ハナの膝をポンポンとたたいて「泣くな」と示したり、ラインダンスを始めたり、頑張った。
「お花はきれいなのですぅ……でも、でも」
プエル人形に時々買い物に行かせる。しかし、購入できるのかよくわからない。
それでも何か持ってくるので、引き換えは成功しているのだろう。
独りで人形たちと宴会。楽しいのかむなしいのかわからない。ただ、人形たちは一生懸命だ。時々ハナは手を伸ばすと、人形の頭を撫でねぎらった。
ディーナは片っ端から食べ歩く。
パスタを揚げた物や綿菓子など菓子系に、サツマイモを揚げたものやふかしたジャガイモ、屋台定番メニューの焼きそばやタコ焼きだ。
「おいしいの……お花見しながら食べると、より一層おいしいの」
もぐもぐはふはふ食べ歩く。
時々、顔見知りのハンターがいるけれど互いにあいさつだけで気にしない。
「さすがに春なの」
気候が暖かいと食べ歩きもどこかペースが落ちる。温かい食べ物が急激に冷えることもないし、妙なエネルギーも使わない。
「それはそれで寂いの?」
彼女の食べ歩きのペースが普段通りか否かは本人しかわからない。
「魚の塩焼きなのー、海産物も焼いているの」
ディーナはそこに向かう。網で焼かれた貝や串に刺して焼かれているアユなど海や川の物がある。
焼きたての魚や貝はおいしい。
視線の先に人形がいた。のぞき見のようなスタイルで、口元に手が当たっている。
「いいなーと思われているような感じなの」
ディーナは自分が満腹になってきているのを感じて、何をするのがいいのか考えながら食べる。
「考えるとおなかがすくの」
そして、甘いものを食べつつ、屋台の人に人形について尋ねた。
ミアと灯はただ静かに歩く。一緒にいるのが楽しい。
不意に風が吹き、花びらが舞う。
「わあ、桜の花びらだぁ!」
「そうですね」
灯は微笑む。
きゅるるるる。
ミアの動きが止まり、灯はキョトンとなる。ミアは頭を掻く。
「えへへ、花よりお弁当ニャス」
「場所、取らないと大変です」
慌てて二人は場所を探した。桜の真下はすでにいっぱいだ。それならばとわざと外れた所、桜並木が見える所を選ぶ。そこも人はいるが、何とか場所は確保できる。
おむすびとおかずが並ぶ。二人はそれぞれ手に取り口に運ぶ。
おいしい。大好きな人が心を込めて作ってくれたものだから。それに、景色も美しい。
「ミア、夢を見たんニャス」
「どんな夢ですか?」
「ここじゃないどこかの世界の夢。ミアと灯ちゃんはお友達で、同じ学校の制服を着て、夏の帰り道を一緒に歩いて……」
「まあ、素敵な夢を見たのね。でも、不思議ね。私もそんな夢を見た気がする」
灯とミアは目を瞬く。
「それで、夜空に咲く花火、夜空を泳ぐ三匹の金魚を見たんだ!」
「そうね……空はどこまでも深くて……泳ぐ金魚が美しかった」
二人は空を見上げる。
青空と桜だ。不意に花が落ちてくる。
「鳥が花の蜜を吸っているのかしら?」
「せっかくのお花だけど、鳥には鳥の楽しみ方があるニャス」
鳥がいたのかと枝を見る。大きめの鳥がいたようだった。
ふわりと花びらが降る。それを灯は手に取った。
「ミアさん」
それを灯はミアに手渡す。
「地上に落ちるまでに花びらがつかめれば、願いごとがかなうというの」
ミアの目が輝く。
「一緒に願いごとをしましょうか」
二人は食後、花びらを追う。
(夢でも共にいる幸せが尽きないようにって……一緒にいる時間が幸せよ)
灯はミアを優しいまなざしで見つめる。
ルカは注文の品をテーブルに置く。
店内では緑茶・紅茶・コーヒーなどは無論のこと、定食やクッキーなどのお茶の供もある。外は自由に食べられるスペースとして開放しており、酒以外の持ち込みは可能としてあった。皆がゆっくりと休憩できるようにと言うことだった。
「まったく、あなた方は立ち食いできないならなぜ屋台で食べたいというのです!」
銀髪の青年が溜息交じりに言うのが聞こえる。
「仕方がないだろう」
「そうですわ」
身なりのいい兄妹が反論している。自由に座れるコーナーでテーブルに着いて屋台で買ってきたらしいものを食べ始めていた。
しばらくすると大人のカップルがやってきて屋台で買ったものを食べようとしている。
「いくら自由とはいえ、何も買わないと申し訳ないですね」
「そうですね……飲み物買ってきましょう」
席番で女性が待ち、男性が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「……緑茶を二つお願いします」
「温かいのと冷たいのがありますがどうしますか?」
「……温かいのでお願いします」
会計後、ナンバーの書いた札と盆を渡した。ルカは見覚えがある客だけれども気のせいだと思った。
桜が舞い、運ぶ茶に落ちる。
「替えてこないと」
店内に戻り「――さん、お茶、替えてください」と知人の名を呼び、ルカは頼んだ。
ミオレスカは満開の桜を眺めていたところ、鼻の先を香ばしい匂いがくすぐる。
「これはっ!」
ミオレスカは小走りに人を避けつつ近づいた。
そこには焼きトウモロコシがあった。網の上で焼かれるトウモロコシに刷毛で刺ししょうゆが塗られる。その瞬間、しょうゆが焦げ、香りが広まる。
「あああ、この匂いです」
ミオレスカは購入してワクワクしながら口に含んだ。
「トウモロコシに塩分を与えつつ、塩とは異なり、しょうゆ独特の香ばしさが加わる……焦げているけれども苦味があるわけではないのです」
絶妙な塩梅の焼トウモロコシをいそいそと食べる。
「もっと味わわないといけないですね。でも、あつあつで香ばしいこれはとまりません。トウモロコシにしょうゆをつけて焼くだけで、ここまでおいしくなるなんて」
桜の花びらが降り注ぎ、トウモロコシを掠る。
「花は散るのも美しいけれど、終わりが見えると寂しい気にもなります……トウモロコシも同じです」
最後の一口を食べきった。
そのとき、視界の隅で白いトレイが移動していく。焼きそばが乗っているのだが、それを持っているのは人形だ。前後にいる人形が、誘導しているようだった。
「あれは……見覚えがありますね」
ミオレスカはトウモロコシのゴミを捨てた後、リンゴ飴を買う。なんとなく、あの人形たちに似合いそうだった。
サクラは端まで歩き終えると夢から覚めた気分になる。
「また見て回りましょうか」
そのつもりもあるが、腹の虫が騒ぎ出す匂いが漂ってくる。刺激される腹の虫。
ぐう……。
サクラは周りに聞こえたかと思わずきょろきょろする。人が多くいるから聞こえるかもしれないが、人が多いために音がたくさんあり聞こえないようだ。
「む、腹が減ってはなんとやら……。おいしそうな食べ物がいっぱいありますし、食べ歩きといきましょう」
財布を握りしめ、サクラは屋台に向かう。
「焼きそば、焼きトウモロコシ、たこ焼き、クレープ……どれにしましょうか」
結論から言うと、全部食べる。小柄な少女であるが、どこに入るのかわからないが、すべてきれいに食べきった。
「おいしかった……」
休憩後、もう一度見に行くのだった。
●動物園
Gacruxは入園前にコンビニで昼ご飯は買っておいた。それから、動物園に入りパンフレットをもらう。
「リアルブルーには『客寄せパンダ』という言葉があるらしいですね。そのパンダを一目見ておきたいです」
パンフレットを見つつパルムが同意を示した。
パンダ舎の前は長蛇の列だった。
「きゅ、きゅ」
「そうですね、ここまで来たのだから見ていかないと」
Gacruxはパルムにうなずいた。
待つこと数十分、パンダの前にやってくる。スマホのカメラを構え、人波に乗っていく。
(なんか……でかい毛玉がこちらにケツ向けて寝ているだけなのですが)
全く動かない。
「こいつら、まったく動かないじゃないですか」
「きゅ、きゅっ」
パルムが「昼寝」という仕草をする。
パンダ舎の外にいき、撮った写真を見るが「ケツしか写っていません」とため息を漏らした。
目の前に来た園内巡回の乗り物に乗った。
Gacruxはパルムが楽しそうにしているのでまあ来てよかったのかと思った。
「にしても……なぜ、青龍号」
ワイバーンが見えた時点で、動物のカテゴリーがよくわからなくなった。
レイアはどうしようかと思っていると、青龍号がバス停で止まった。
「おや? ラカ?」
運転しているのは青い作業服のラカ・ベルフ(kz0240)だった。
「乗りますか?」
「あ、乗る」
せっかくなら乗ることにした。
「皆さま、巡回バス青龍号にご乗車いただきありがとうございます」
ラカは普通に案内をしている。
レイアはそれを聞きながら、動物園にどのような動物がいるか知る。ただ、幻獣と思われる名前や妖怪ではないのかという名前が上がるのが不安だった。
「続きましてはワイバーン舎です。ワイバーンという生き物は――」
レイアは説明を聞いていたが、その説明が止まらない。ワイバーンの生い立ち、ワイバーンのいいところ、ワイバーンと青龍につながり話が止まらない。
「語り終えませんので、スピードを落とします」
「おおいっ!」
思わずツッコミを入れた、レイアだけでなく乗車している人たち全員が。
長い長い説明の後、ワイバーン舎の前に到着したのだった。そこで、客を下した青龍号。休憩になるらしくラカも下りる。
「ラカ、一緒に昼ご飯食べよう」
「……かまいませんわよ?」
「それにしても、広いな動物園」
「そうですわね……ゾウやキリンに麒麟……ワイバーンだけでなくグリフォンとか大型動物もいますし」
「いや、動物? キリンって二度言った?」
ラカが書き文字を指さした。
「……麒麟ってなんだ? そもそも、キリンってどんな動物!?」
「ぜひ見て行ってください」
食後、ラカと別れたレイアは動物を見に行った。途中でエステルやルゥルを見かけた。
リシャールの弟妹、特に弟の方は元気だった。
「駄目ですよ」
「こら」
ルゥルとリシャールが止める。
「そうね。走ったら危ないわね。迷子になったらどうするの」
マリィアがたしなめる。ルゥルはきちんと普通について来ており、手をつなぐ必要はないのかと少し寂しいが、妙に母親の方を見ている。
(……私が手をつなぐというより……そっちがしたいのね)
マリィアはルゥルが甘えたがりな年頃だとは理解した。
「はいはい、お姉さんと手をつなごうか」
しゃがんでリシャールの弟に声をかけた。
「しょうがないの……お姉さんが迷子にならないように、僕が手をつないであげる」
「こらっ! すみません、マリィアさん」
リシャールが慌てて頭を下げる。マリィは苦笑した後、リシャールの兄行動に微笑む。
「言葉は一人前ね……でも、結果オーライでしょ?」
リシャールは頭を下げた。
マリィアはルゥルが母親の手を握ったのを見た。
ふれあい動物コーナーは意外と、一行は静かだった。戯れてはいるのだが、まじめに触っている。
「意外と好きじゃないのかしら」
「マリィアさん、うちの回り、動物結構いるのです」
ルゥルの指摘にマリィアはハッとする。ルゥルやリシャールは町に住んでいるが、町の外は自然にあふれている。
「なるほどね……場所が違うのね」
「リアルブルーだと動物はいないのです?」
「そうね……」
マリィアは知っている範囲の説明をしたのだった。
エステルはライオン舎の前で「かっこいいです」と声をあげた。
ゾウを見て目を丸くする。
「ぞ、ゾウさんは大きいのです……ふにゃ……リンゴさん食べますか?」
思わずおやつのリンゴを手にしていたが、「餌やり禁止」の看板を見て手を引っ込めた。
「あ、ワイバーンさんがいます。時々、見かけるのです、悪さはいけませんよー」
「ひどい言いがかりですわっ!」
ラカが現れた。そして、ワイバーンについて巡回バスでの説明に加えた物を話した。
「わ、わかりました」
エステルが理解を示すと、ラカは仕事に戻っていった。
エステルは移動していくと、ペンギンの姿が目に入った。ペンギンは氷を模した陸地をペタペタ歩いたり、水の中を泳いでいる。
「あの小さな二本足の動物さん、か、かわいいのですー」
「あれはペンギンなのです」
ルゥルが胸を張って答える。
「ペンギン? ……ルゥルさん、こんにちはです。鳥さんなのですか? 飛べないのですか?」
「飛べないけれど鳥なのです」
ルゥルが説明をしている。
「まあルゥルよく知っているのね」
「そうか、あれは飛べないのか」
リシャールの弟妹の手を握ったマリィアやエステルの視界で見切れているレイアがそれぞれ感想を漏らしている。
「氷の上に住んでいるのです? 泳ぐの速いです!」
「難しい話なのです。このペンギンの種類は、草地に暮らして、餌は水の中で取るのです」
ルゥルが説明に入った。
「ルゥルさんはキノコだけでなく動物さんも詳しいのです?」
「リアルブルーのことは良く知っているのです」
エステルが感心する。直前に動物園の本を読んでいたということは知らない。
「では、またなのですー」
「エスエルさん、またなのですー」
ルゥルたちと別れた。ルゥルはずっと母親の手を離さなかったのを見て、エステルは微笑んだ。
●桜吹雪
Gacruxは動物園の乗り物を下りたところで、パルムと昼食にする。桜も咲いているところで人は多かった。パルム小さいからGacruxが座れていたら問題ない。
「コンビニは二十四時間営業らしいですよ。ブルーの人々は働き者ですねぇ」
買ってきたサンドイッチと茶を広げる。パルムはサンドイッチを手にして食べ始めた。
「確実に、サンドイッチはどこに消えるのでしょうかね」
苦笑しながら眺めていた。
のんびりとした一日を過ごしたのだった。
ディーナは視界に見切れる人形の正体について屋台の人から裏をとった。見える人と見えない人がいる。完璧なカラスの巣ができていると、それはその人形たちの仕業だと言われているという。
中途半端な存在なら、格上げされると土地にとって良いのではないかと言う感想も生じる。
ディーナはおいしかった屋台の食べ物をいくつか買うと、人形たちのところに行く。
「早く神様に格上げされるといいの。お勤めごくろうさまなの」
プエル人形たちは焼きそばや焼きイカをもらい喜びながら立ち去った。
「桜が咲くのもあれが頑張っているからなの、きっと」
ディーナは人混みに流されながら、丘を下りた。
エステルは動物園の物販コーナーで悩む。
「ペンギンさんのぬいぐるみ……いろんな種類があります……違いますっ。これは、ペンギンさんの種類自体が異なっているのです」
動物園にいる種類であり、それぞれ見てどれもこれも可愛いと思ったのだ。
「……な、悩みどころです」
悩みに悩んで、一体選んだ。
「今度来た時はあちらを」
後ろ髪惹かれつつ、立ち去った。
ルゥルたちも帰っていったので、レイアも動物園を後にする。
「あれは?」
等身大ペンギンぬいぐるみを持ったエステルを見つけた。
「可愛いな……」
エステルの後を付けるように帰るのだった、ストーカーと言うより方向同じだから。
人は多い花見会場を人形たちは器用に人を縫って走っている。
ミオレスカは追いかけ、通行人の邪魔にならないところで声を掛けしゃがむ。
「これをどうぞ」
人形は突然のことで驚くが、すぐに飛び跳ねて喜んだ。
両手に小さいリンゴ飴を持ち、別の一体は大きなリンゴ飴を抱える。リンゴ飴を振って立ち去っていった。
「そろそろ帰りましょうか」
ミオレスカはもう一度焼トウモロコシのところを通り、桜を眺めた。
ハナの宴会しているところに、新たなプエル人形たちが来た。手にリンゴ飴を持っている。それをポンポンや旗にみたてそれらは踊る。
「赤いリンゴ……きれいなのですぅ」
人形はハナにリンゴ飴を差し出す。
ハナは袋を開けた。飴は甘いが、どこかしょっぱかった。
「月並みですけどぉ、うっうっ」
プエル人形はハナによじ登ると頭をいい子いい子してきたのだった。
ルベーノは屋台で大量に菓子を買った。
プエル人形を見つけると菓子を渡す。
「お前らが元気に働いているようで、嬉しいぞ」
ルベーノは頭を撫でる。人形はよくわからない様子だが喜んでいた。とりあえず、物をもらうと嬉しいらしい。
「お前たちも早く位階が上がるといいな、頑張れよ。ここにはお前がいないようだからな……」
プエル人形の主を思い、空を見上げた。
マリィアは動物クッキーの箱を子どもの数以上買う。
「じゃあ、私はこれで。これは今日一緒で楽しかった思い出」
それぞれに渡し、別れる。
マリィアは動物園の外で遊んでいるプエル人形を見つけた。都市伝説では「桜守」として存在しているらしい。
「こっちにいらっしゃい」
動物クッキーの箱を見せて呼び寄せる。人形はつられてやってきた。
「偉いわね、みんなの花見を手伝って」
照れるようなしぐさをする。そして、受け取ったクッキーの箱を頭上に掲げどこかに走り去った。
観智は科学博物館の「動物のホネ」も見た。新発見はなかったけれども、子供向けにわかりやすい展示であった。
「教える側の勉強にはなりますね」
外は日がかげり、ぼんぼりに明かりがともり始めていた。
闇夜に明かりに照らされるサクラというのはまた風情がある。
「陰陽師の時代ではないですが、闇と光のコントラストですね」
風が吹くとサクラの花びらふわりと舞った。
「散るときも美しい。そして、寂しい」
観智は桜並木を見上げた。
「ミアさん、今日はサーカス見に行っていいかしら? 大好きな人たちと素敵な夢をみたいの」
灯の言葉に今日の予定が埋まっていく。
「そうニャス! 今夜の公園が始まるニャスよ!」
ミアは灯の手を取り走り出す。
(今日という花びらに願おう…あなたが、みんなが、いつまでも幸せでいてくれますように)
手のぬくもりのほか、これから会いに行く予定の人たちの顔が脳裏に浮かぶ。
二人は駆け抜け、電車に飛び乗った。
サクラはおなかいっぱいだった。それに、桜もゆっくり眺める時間もあった。
「時間が経つのが早いです」
屋台の人と話したり、顔見知りのハンターと挨拶を交わしたり……独りだったけれども出会いはあった。
「はあ……見たし、食べたし……」
満足げに立ち去る準備。しかし、夜の桜も捨てがたい。足は重く、ゆっくりと。
客はひっきりなしに来るし、待つ客もいた。
待つ時間も連れによっては楽しいひと時。
「……夢、覚める?」
ルカはふと思った。
知人に呼ばれ、止まっている場合ではないと気づいた。まだ、客は来るのだから。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/02 01:21:26 |