• 王戦

【王戦】明日へ繋ぐ敗走

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
8~12人
サポート
0~12人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/01 07:30
完成日
2019/04/09 16:32

みんなの思い出

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オープニング

 王国歴1019年、春──
 圧倒的な大軍を相手に二週間以上に亘って繰り広げられたハルトフォート砦の攻防戦は、その日、遂に転機を迎えた。
「砲弾の備蓄が残り1割を切りました…… 戦況によっては一両日中に消費し尽くす可能性もあります」
 幕僚たちからの報告に、砦司令ラーズスヴァンは短く「フム……」と呟いた。
 これまで、大地を埋め尽くさんばかりのイヴ軍を相手に砦を保持し得たのは、砲兵ゴーレムや要塞砲といった火力があればこそだった。だが、それも砲弾が無くなってしまえば置物以上の用を為さない。
「つまり、Volcanius隊は無用の長物になってしまうというわけだな」
 冗談めかしたラーズスヴァンの言葉に、幕僚たちは誰も笑わなかった。砲兵抜きの籠城戦──むしろ、砲以前の『古い戦争』も知るからこそ、幕僚たちは状況の深刻さを十全に理解していた。
 砦のVolcanius隊を実質的に指揮してきたリズ・マレシャルも、俯き、唇を噛み締めた。王立学校の騎士砲兵科で正規の訓練を受けた彼女には、誰よりもVolcanius隊を上手く扱えるという自負があった。だが、それも砲弾が無ければ、王立学校を卒業して半年の新任士官──ただの青二才に過ぎない。
「む。そのような顔をするな、嬢ちゃん。わしの言う事は大抵が冗談だからの、一々真に受けてはいかん」
 リズの表情に気付いたラーズスヴァンが、そう言って孫の様な歳の娘の頭に手を置いた。
「確かに!」
「もう少し真面目にしてもらわんと困ります」
 ラーズスヴァンの言葉に、ようやく幕僚たちにも笑みが浮かんだ。それを見たラーズスヴァンもフンと鼻を鳴らし、改めて彼の幕僚たちへと向き直った。
「お前たちもだ。砲弾が無くなるからと言って、もう敗けたつもりでおるのか? わしはまだ諦めてなどおらんぞ? まだ小銃の弾にはいくらか余裕がある。よしんばそれも尽きたとしても、わしらには槍と剣があるではないか」
 ──そうだ。それこそが、お前たちもよく知る『我らの時代の戦争』だ。砲弾が尽きたとて、ほんの数年前まで慣れ親しんだ戦の形態に戻るだけのこと──
「さあ、どうした、幕僚ども。ご自慢の頭を使って策を講じてみせろ。我々がこの地で稼ぐ1日1日が、王国と女王陛下の勝利へと結実するのだぞ」
 ラーズスヴァンの言葉に、幕僚たちが一斉に敬礼を返した。その光景に、リズは感極まってブルッ……とその身を震わせた。
 自分も女王陛下の勝利の為にこの身を捧げようと誓った。……白兵戦なんて訓練でしかしたことないし、怖くて怖くて仕方がないけれど。
「私も……砲兵隊一同も、王国と女王陛下の勝利の為に微力を尽くします。皆様と共に……!」
「いや、お前には砦を出てもらうぞ? お前、と言うか、砲兵隊は全員な」
「……はい?」
 ラーズスヴァンたちは、拍子抜けするリズに告げた。──砲弾が尽きたとは言え、Volcaniusが王国にとって貴重な戦力であることには変わりがない。確かにここでは無用の長物だが、王都に戻れば弾もある。
「お前たちVolcanius隊は、ここを出て王都の防衛に加われ。あと、白兵戦の経験のない若い銃兵たち、それと、可能ならば負傷兵たちも連れていけ。『ワシらの戦』には足手纏いでしかないからな」
「そ、そんな…… まだ、転移門経由で砲弾を補給すれば、まだ……」
「足の遅いVolcanius隊を逃がすにはこれがギリギリのタイミングとの判断だ」
 リズは絶句した。司令と幕僚たちの判断は正しいと理解しつつ、それでもなお反駁を続ける。
「……私たちだけ、逃げろというのですか?!」
「そうだ、逃げろ。逃げて王国の明日の為に戦え」
「し、しかし、多重包囲下の現状にあっては、その脱出こそ困難かと……」
「その点に関して心配は無用じゃ!」
 答えたのはラーズスヴァンではなく、ダニム、デール、ドゥーンという3人のドワーフたちだった。彼らは隣接する工廠でギリギリまで武器弾薬の製造を続けた後、工場を爆破し、工廠区画を放棄して砦へと避難していた。
「こんなこともあろうかと、工廠区画には多数の火炎弾や炸裂弾や煙幕弾をあちこちに仕掛けておいたのじゃ。意志があるかどうかも分からぬ異界の兵やら魔獣どもでは、到底見つけられるものではない!」
「脱出時に起爆させれば、大混乱は必至じゃぞい。その隙に工場区画を抜けて包囲を突破し、王都まで逃げるがよかろう」
 問題があるとすればその後だろう、とラーズスヴァンは言った。幕僚の一人が頷き、地図上に指示棒を差して説明した。
「当初の想定では、砦を脱出した部隊はここ、リベリントンの街を経由してエリダス川へ出て、川湊から待機している大型船に乗り込み、王都へ撤収する予定でした。しかし……」
「……ああ。元王国騎士の敵将……あの若造は、当然、この撤収計画の内容を承知している」
「はい。包囲を突破した後も、激しい追撃が予想されます。或いは、途中で先回りされたり、待ち伏せを受ける可能性も……」
 では、それを避ける為にはどうするか。船が使えないとなれば、陸路で王都まで歩いていくしかない。大街道を直進、あるいは側道を使って大回りしつつ、王都へ抜ける。ただし、その場合は大河エリダスへ出るよりずっと長い距離を移動しなければならず、時間も掛かる。その分、敵に察知されれば、振り切るのが難しくなる。
「追撃に当たる敵は、足の速い狼型や猪型の魔獣、それに騎乗した異界の騎兵たちが中心となると想定されます。古代兵器の機動戦力や飛行機械もそれに加わるかもしれません」
「加わるだろうな。敵将は砲兵の脅威を熟知している。古巣──王都に集結中の戦力との合流は、なんとしても避けたいはずだ」
 リズはゴクリと唾を呑んだ。王都への逃避行は艱難辛苦が予測された。
 敵勢は地上に星を撒いたが如く──その数は掴める程に多く、しかも、単体の戦闘能力もこちらを遥かに上回る。対するこちらは、足の遅い弾切れのVolcaniusとGnomeと歩兵──まともにぶつかってしまえば勝負にもならない。
「護衛にはハンターたちを付ける。砦の転移門を使えば呼び寄せることも出来るからな。砦の外にいる戦力にも協力させよう。確か……おい、幕僚?」
「はい。イスルダ島から戻って来たジョアン・R・パラディールのVolcanius隊とCAM隊が近郊に待機しています。彼らにも包囲の外からの擾乱を任せましょう」
 かくして、ハンターたちが砦のタワーハウスに集められた。作戦室は幕僚たちと関係者であっという間にいっぱいになった。
「負傷兵を連れていくかどうか。水路を行くか陸路を通るか。散るか、纏まるか。接敵後、逃げるか、守るか、戦うか、隠れるか── 砦脱出後の行動委細はリズとハンターたちに一任する。Volcanius隊と熟練の砲兵たちを是非、王都の主力へ合流させてくれ」

リプレイ本文

 作戦前日、砦外。ジョアンたち、イスルダ組の潜伏場所──
 転移門経由で砦のラーズスヴァンらと渡りをつけて戻って来た『三人娘』隊のリーナ・アンベールは、砦の幕僚たちから聞かされたVolcanius隊脱出計画について報告し、協力を要請されたことを皆に伝えた。
「いよいよか……!」
 ジョアンは緊張と興奮がない交ぜとなった複雑な表情で拳を握った。歪虚の大侵攻を報せられてイスルダ島から戻って約半月── 砦を幾重にも取り囲んだ大軍相手に何もできず、隠れ潜んで機会を窺ってきたが、その労苦が報われる時が遂に来た。
「作戦は明日早朝。日没と同時に攻撃発起点へ移動を開始する。皆、準備にかかってくれ」
 ジョアンは潜伏期間を共に過ごしたハンターたち──CAMパイロットの近衛 惣助(ka0510)とミグ・ロマイヤー(ka0665)、そして、友人の要請によりこちらへ合流していた『輸送し隊』のレベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617)と狐中・小鳥(ka5484)──らの目を見て、頷いた。
 ハンターたちはすぐに行動を開始した。機体を隠した窪地へ走り、擬装網の下へ潜り込み。長らく放置していた機体が不機嫌になっていないか、チェックを始める。
「しかし、まさか『ダンケルク』とはね…… 気の利いた作戦名だよ、まったく」
 機体の自己診断プログラムを走らせながら、惣助が苦笑を浮かべて言った。その単語を本で見て知っていたミグが、素直な疑問を彼にぶつけた。
「たしか、『ダイナモ作戦』……じゃったか? リアルブルーの戦史じゃな。そなたの故郷(くに)では、アレは縁起は良いのか、悪いのか?」
 問われた惣助は微妙な顔をした。確かに、あの作戦では30万以上の兵員が救出され、『ダンケルクスピリット』という言葉も残した。だが、火砲や車両等の装備はその殆どが放棄され、また、囮や殿軍として残された部隊も失われた。
「まあ、それに比べれば、今回はVolcanius隊を持ち出せるだけマシじゃろうな。余力がある内に重要な戦力を撤退させ、王都に集結中の主力部隊と合流させるのは悪くない戦略じゃ。……まあ、当然、敵もそれくらいは読んでくるじゃろうし、楽ではなかろうことは容易に予測できるがの」
「Volcanius隊や熟練兵たちを、ここで失う訳にはいかない。険しい道程だが、必ず王都まで送り届けないとな」
 惣助はチェックを終えると、機体の擬装網を外した。その下から現れた惣助のドミニオン『真改』は、重装甲化による生残性と継戦能力を重視してカスタムされた機体であり、イスルダ島での一連の戦いで惣助がずっと乗り続けて来たものだった。パイロットとして熟練した今でも、その操作性は身体に馴染んでいる。
 その傍らに、同様に姿を現すミグのダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』── 肩部に『背負った』二門の長大なプラネットキャノンに、精密砲撃姿勢を保持する脚部の巨大なアウトリガー。基になった機体の原形を留めぬ程に『要塞化』が施された重装機。その背部には、なぜかリヤカーの様なものが牽引されている。
「えっと、ミグ、それは……?」
「うむ。ミグ自身が開発したスーパーお荷物、『グランドスラム』自動生成装置じゃ。単体ではただのガラクタに過ぎぬが、ミグ回路を装着することでグランドスラムを増産できる優れものなのじゃ」
「ミグ回……え?」
「ミグ回路じゃ」

 同日、ハルトフォート砦。戦局の悪化に伴い、砦のタワーハウスから地下の対爆壕へと移された『作戦会議室』──
 長い長い会議を終え、幕僚たちを伴って部屋を出て来たラーズスヴァンが、将校たちに『砲弾の尽きる』事実と、『砲兵隊の脱出作戦』の決行が決まった旨を伝えた。
 脱出要員は、Volcanius隊と砲兵たち。それと、ハンターたちの好意により砦の負傷兵たちも連れていく運びとなった。運搬手段はゴーレムの自走と、砦に残されていた馬車と魔導トラック。それをハンターたちの幻獣戦力が護衛する。
「撤退ですか…… そうですか、遂に……」
 銀髪の魔術師・フェリア(ka2870)が、決定を知らされて呟いた。彼我の戦力差を鑑みれば、いつかこの様な日が来ることは分かってはいたが……
「そういうわけだ。他の者らはもう少し、わしにつきあってもらうぞ」
 ラーズスヴァンの言葉に、将兵らが王国式敬礼で応えた。戦い抜く覚悟を決めた者、故郷の家族へ出す手紙の文面を考え始める者。逃れられぬ死への恐怖を空元気で抑える者もいれば、むしろ晴れ晴れとした表情で不敵に笑う者もいる。
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も、本音は彼らと共に残りたくあった。白兵の戦場は、アルトが物心ついた時から彼女に取っての『庭』だった。長じているとの自負もあるし、王国騎士団黒の騎士の一員として最後まで兵らと苦楽を共にできない事に、忸怩にも似た想いもある。
 だが、Volcaniusの有用性は、アルト自身も使い手であるが故によく分かっていた。王国の為に少しでも多く持ち出したいという考えも理解できるし、何より、司令官たちの『想い』を無駄にしても仕方がない、とも思う。
「せめて被害を出さずにゆきたいものですね。明日の為に」
「しっかりと送り届けよう。そして、必ず戻って来る。それまで……武運長久を」
 フェリアとアルトは、Volcanius隊を護衛して砦を出ることを受け入れた。
 だが、受け入れられない者たちもいる。
「なぜ自分たちまで撤退しなければならないのですか?! 砲弾が無くたって、俺らも剣を持って戦えます!」
 逃げろと言われた砲兵たちが、ラーズスヴァンに翻意を促すべく詰め寄った。彼らはVolcanius隊ではなく、砦の野砲や固定砲を扱ってきた砲兵たちだった。ずっと前からこの砦で戦ってきた砲手たちで、当然、この砦や戦友たちに対する想いもずっと強い。
「あなたたちの悔しい気持ちはよく分かります」
 そっと胸に手を当てて、シレークス(ka0752)が哀しそうに目を伏せ、続けた。
「ですが、だからこそ退かねばなりません。この『敗走』の成功が、明日の王国の勝利につながる──そう信じて」
 聖母の如き慈愛の表情でそう諭すシレークス。だが、いい加減、長い時間を共に過ごした兵たちは、シレークスのそんな『営業スマイル』には騙されない。
 なので、最後は結局、取っ組み合いの喧嘩となった。ものの数十秒でシレークスに鎮圧されてしまったわけだが。
「ええ、ええ。どーせ説教よりも喧嘩の方が得意でやがりますよ、私は。……でも、おめーたちの気持ちが分かるってのは嘘じゃねーです。……押し寄せる大軍を前に、味方を残して自分たちだけ逃げなきゃならない。その不甲斐なさと口惜しさは私にもよーっく分かりやがります。それでも、その悔しさを胸に秘めてでも、果たすべき役割ってのが私たちにはあるんじゃねーですかね?」
 シレークスの言葉に砲兵たちは沈黙した。
 頃合いを見計らって、サクラ・エルフリード(ka2598)が続けた。
「剣と大砲、あなたたちはどちらの扱いが得意ですか?」
「……」
「剣と大砲、どちらを使った方が、より多くの歪虚を倒せますか?」
「…………」
「私も逃げるのは好きではないのですが……今回は仕方がないですね。この悔しさは、後で何倍にもして歪虚に返してあげましょう……」
 砲兵たちは悔し涙に咽んだ。「せめて、せめて野砲だけでも一緒に……」と縋る砲兵の肩を、シレークスがガッと掴んで止めた。
「そいつは置いていきやがるです。逃げる身には荷物になります。捕まっちまっては元も子もねぇですし、何より、砦に残る者たちに抗う為の武器は残してやらねーと」
 そこまで言って、シレークスは表情を緩めた。
「この砲は、お前たちの『心』──『魂』です。その一部を分けて砦に残していくのです。お前たちの魂の一部はここで戦友たちと共に戦い続けるのです」

 シレークスとサクラの説得に、砲兵たちは納得し、砲を置いていくことも了承した。
 シレークスは再び微笑を浮かべると砲兵たちの決断に礼を言い、金目(ka6190)の所に戻って真剣な表情で告げた。
「金目。砲兵と負傷兵たちは私たちで引き受けることになりました。おめーの魔導トラックもその車列に加わるです」
「……乗り掛かった船ですし、それは構いませんけど……シレークスさん、相変わらず燃えてますねえ」
 周囲の熱量に染まらず、変わらぬ眠たげな眼で答える金目。王国や誰かの為に、などという崇高な志があるわけでもなく、かといって声を掛けられれば断る理由もありはせず……今日も今日とて金目は流されるまま砦の戦に加わった。


 翌日、未明。砦外──
 夜の内に突撃発起点に到達していた惣助とミグが、作戦開始時刻を前に、機体を待機モードから立ち上げた。
「リーナたち『三人娘』隊は先発し、ゼクセンの街へと至るルートの露払いをしておいてくれ」
「ジョアンはイスルダ組のゴーレム隊の王都退避の指揮を頼むのじゃ。王都で会おう」
 大壁盾と重ガトリング砲を構えて立ち上がる惣助の真改。ミグのヤクト・バウも降着姿勢から身を起こし、その日最初に『生産』した『グランドスラム』を2門のプラネットキャノンへ装填する。
 作戦中止の場合の狼煙は……上がっていない。作戦は万事、予定通りに── 紫に染まりつつある空の下、各機が移動を開始する……

 同刻。ハルトフォート砦、東門裏──
 敵に悟られぬよう、昨夜の内から慎重に集結を果たしたVolcanius隊と輸送隊も、門扉の裏にひしめき合いながら、作戦開始の時を今か今かと待ち構えていた。
 隊列の先鋒にはハーマン率いる捜索騎兵中隊。その後ろ、隊列の前半部はリズ・マレシャル率いるVolcaniusの3個中隊が、スムーズに城門を抜けられるよう小隊ごとに1列に並んでいる。負傷兵や砲兵たちを乗せた魔導トラックや馬車の車列はその後だ。
 それらの先頭に立つのは、イェジド『レグルス』に騎乗した鞍馬 真(ka5819)。普段は昼寝好きな愛狼も大きな戦いが始まる予兆を感じ、まるで引き絞った弓の様な状態で静かに喉を鳴らしている。真はそんな相棒の肩を無言でポンポンと叩いた。その顔に浮かんだ隠せぬ疲労は、昨夜も遅くまで砦の防衛線に加わって奮戦した証だった。普段はマイペースなのに、人の為となると身を粉にして働いてしまう『ワーカーホリック』ぶりは彼の悪い癖だ。
 そして、そんな真の横にもう一人。グリフォン『ジュニア』と共に並び立つアルトの姿があった。綿毛の様に白い羽の先と愛くるしい瞳が特徴の鷲獅子の女の子は、落ち着かない……と言うよりも、物珍し気な感じできょろきょろと周りを見やっていた。そうして、事あるごとに主人であるアルトの顔を下から覗き込む。
「乗り心地は悪いだろうけど、皆もゴーレムに登っておいてね。その方が疲れないはずだから!」
 メイム(ka2290)はVolcaniusの使い手たちに、にかっと笑いながらそう言った。彼女は可愛らしい瞳の翠竜──ワイバーンの『響姫』の相棒であり、飛行幻獣の乗り手たちは皆、砦のタワーハウスで待機しているはずなのだが…… メイムは『教え子』であるリズたちが気になって、居ても立っても居られずに東門まで下りて来ていた。
 そのタワーハウスの最上階── 機銃弾を撃ち込まれて穴だらけになった最上階の一室で、周囲の監視に当たっていたエルバッハ・リオン(ka2434)は西の空よりこちらへ迫る黒ゴマの様な影に気付いて、双眼鏡をそちらへ向けた。
「……いつもの朝の『定期便』です。円盤型爆撃機3、護衛機多数」
 エルからの報告に、砦内にいつものように警報のサイレンが鳴らされた。メイムは「やばっ!」と慌てて響姫に跳び乗り、人込みをかき分けるようにしながら、滑走し、羽ばたきと共に空へと上がった。
 上空には、既に飛竜に乗ったサクラやグリフォン『エアリアル』のフェリア他、飛行幻獣の迎撃隊の面々が上がっていた。遅刻して来たメイムはちゃっかりその編隊の端に加わった。後衛の回復役、天馬に跨ったアティ(ka2729)が気付き、仕方ないですね、と言う風に苦笑する。
 迎撃隊は移動しながら高度を稼ぎ、進撃してくる敵編隊を眼下に見下ろした。そして、互いに頷き合うと、騎乗する相棒に降下突撃の指示を出した。
 逆落としに翼を翻して次々に降下していく幻獣隊。敵の制空隊──敵飛行機械の主力たる『天使』型──有翼の人型飛行機械がそれを迎え撃つべく機首を上げる。
 Volcanius隊脱出決行日──その日の戦闘はいつものように、定期爆撃に対する防空戦から始まった。
 だが、この日の空中戦とは常とは違ったパターンに推移した。それまでは長期戦を考慮し、なるべく被害を出さない事、砦を爆撃されない事を重視した戦いに徹していたのだが……この日は敵飛行機械の撃墜を目的とし、最初から全力で攻撃を仕掛けたのだ。
「稲妻よ、わが剣となりて敵を貫け!」
 鷲獅子の背に跨り、降下するフェリアが雷撃の鞭を振るって、直線状に並んだ『天使』2体を灼き落とした。同様にサクラも降下しながら飛竜に火炎の息を吐かせ、空中に爆炎を咲かせて敵の翼を吹き千切る。
「まずはここで敵の航空戦力を出来る限り削いでくよ!」
 その間にメイムと飛竜は迎撃網を突破して、敵爆撃機へ獣機銃を撃ち下ろしながらその傍らを突き抜けた。同様に降下攻撃を仕掛けた後続の幻獣たちも敵へ銃火を浴びせていき……やがて、エイの様な形の円盤型爆撃機が火を噴き、コントロールを失って墜落していく……
「始まったな……!」
 空を見上げて呟いたルベーノ・バルバライン(ka6752)はその巨体を魔導アーマー『プラヴァー』の中に押し込むと、ハッチを閉めて装輪走行で隊列の一番、先に出た。
「俺たちも始めるぞ。気張れよ、お前たち!」
 ルベーノの檄に呼応し、鬨の声を上げる兵隊たち。東門前の工廠区画に展開していた異界の兵たちが、東門の内側から聞こえて来た喊声に、驚いたようにそちらを見やった。
 その彼らの眼前で開け放たれる東門。瞬間、タワーハウス上のエルが手信号で合図を切り、ドワーフの技師長たちがスイッチを押し込んだ。
 直後、東門の門前に展開していた敵の隊列が突如、湧き起った複数の爆発に吹き飛ばされた。技師長たちが工廠区画のあちこちに仕掛けていた炸裂弾が、雌伏の時を超えて今、その役割を如何なく発揮したのだ。
「突入する。Voldanius隊および輸送体は交戦は避け、突破することだけを考えるんだ」
「脇目も振らずに駆け抜けよ。邪魔する敵は私たちが斬り捨てる」
 レグルスの背に乗った真が大鎌を振り構えながら飛び出し、レイアもまた法術刀の柄に手をかけ(まだ抜きはしない)、鷲獅子ジュリアと共に並んで先頭を往く。
 間髪入れずに門を飛び出し、後続するVolcanius隊。その前進に合わせるようにエルが合図を出し、技師長たちが次々とスイッチを入れて『点火』。炸裂弾だけでなく火炎弾や煙幕弾をも炸裂させて、工廠区画内の敵を混乱の坩堝へ叩き込んでいく……
「工廠区画内の敵は壊乱しています。そのまま進んでください。工廠区域の外の第二陣にも混乱が波及しています。正面から突破が可能かと」
 高所から敵勢を確認して報告するエルの言葉に従い、先頭の真とアルトが進路を取る。
 工廠区画を走り抜け、煙幕の帳の向こうへ抜ける。目の前には、敵包囲網の第二陣──未だ混乱し、隊列を整え直し切れていないその只中へ。ルベーノはプラヴァーのアクセルを全開にして装輪で大地を駆けると、応戦すらままならぬ敵の隊列に弾丸の如く飛び込んだ。スラスターを噴かして独楽の様に機体を旋回させながら、両手の波動掌とナックルを振り回してねずみ花火の如く暴れ回り、敵の混乱を助長する。
 続く真はそんなルベーノとは対照的に直線的な機動で敵陣深く切り込み、魔力を込めた大鎌で立ち塞がる敵を一刀の下に薙ぎ払っていった。アルトも引き抜いた法術剣に「喰らい尽くせ」とばかりにマテリアルを注ぎ込むと、鷲獅子と共に敵中へと飛び込んでいって、組織的反撃の萌芽を見せていた敵の前線指揮官を斬り捨てる。
 そうして隊列が乱れた後を、ハーマンの捜索騎兵中隊が突撃を敢行し、槍衾で敵陣を面ごと切り裂いていった。皮肉な話であったが、それは、彼らが夢見て憧れ、本望とした『騎士の戦い』そのものだった。
「それでは、私も行きます」
「うむ。嬢ちゃんも気を付けての」
 一方、タワーハウス── エルは技師長たちに別れを告げると、ラダーを滑る様にして一気に一階まで下りると、主を待っていた黒きイェジド『ガルム』に跳び乗り、東門へと移動した。
「魔導トラック隊、Volcanius隊に続くの! 頑張って王都に行くの。生きてさえいりゃ取り戻せるの。さあ、みんな、頑張ろうなの!」
 リーリーの背で星神器を振り上げながら、ディーナ・フェルミ(ka5843)が檄を飛ばした。……檄を飛ばした、というには何ともふわふわとした調子だったが、兵たちは「あんな娘っこも頑張っているのだから」と、恐怖に竦み上がろうとする己の心を鼓舞した。
 その兵らの期待をディーナは承知していた。既に星神器を持つ手から震えは取れていた。──双肩にかかる命の重みは常になく大きいけれど。常の様に全ての敵を叩き潰してしまえば守れる。即ち、神の恩寵たる戦鎚最強。うん、何も変わらない。
 シレークスもまたパンと拳を打ち鳴らすと、躾を終えたばかりの愛狼の頭にポンと手を置いた。
「おめーも気張りやがるですよ、イグニス」
「がうっ!(任せてくれ、姉貴っ!)」
 そこにエルとガルムも到着し、Volcanius隊に続いて輸送隊も砦を出た。ドライバーたちがアクセルを踏み込み、全速力で門を抜ける。
 その隊列の後側背を守る形で、シレークス、エル、ディーナの3騎も戦場を駆けた。工廠区域内の敵は混乱し切っており、棚引く煙幕の帳もあって襲撃は散発的だった。その外側の第二陣は、味方とVolcanius隊が(文字通り)蹴散らして出来た道へと飛び込み、駆け抜けた。
 ディーナはリーリーに乗って輸送体の周りをグルグル回る様に隊列の後から先まで何度も何度も行き交いながら、隊列に近づく敵を嘴で突きにいった。シレークスとエルは隊列のケツを持ち続け、落伍する車両が出ないように気を付け続けた。
 その頃、隊列先鋒のVolcanius隊とその護衛は、敵包囲網第二陣を突破し、第三陣へ到達しようとしていた。
 敵第三陣は包囲の最外縁にあり、内側の混乱は波及していなかった。ようやくまともな隊列を敷き、迎撃態勢を整えたその敵は…‥しかし、包囲の外側から近づく別の存在には気づけなかった。
 静音動作でそろりそろりと敵第三陣後衛へ向け浸透していく惣助機。配置につき、いつでも飛び出せるように機体を身構えた惣助が背後に合図を送り…… 薄明の空を背景に城塞の如きシルエットを大地に据えたミグ機がその長大な砲を持ち上げた。
「それでは、名乗りを上げるとするかの。一番鶏の東天紅じゃ」
 ミグが引き金を引いた瞬間、砲口から噴き出した砲炎が周囲を真昼の様な明るさで赤く照らし。衝撃波が地面の砂を掃き、砲声の轟音が戦場に響き渡った。
 地上に、それまで見たことがないような巨大な爆発の華が咲いた。Volcanius隊の突破を阻む為、隊列を組んで密集していた敵が衝撃波と破片と爆風に薙ぎ払われ、吹き飛ばされた。その爆発の直径は、通常の徹甲榴弾の実に10倍── サーモバリック弾もかくやという巨大なキノコ雲が天を衝いて昇り行く。
 第三陣の敵は何が起こったのか分からなかった。そこへミグは間髪入れず、もう一門の砲から次弾を放った。同時に、先に砲撃を終えた砲からは空薬莢が排出され、新たな徹甲榴弾が装填され、砲口にも新たな『グランドスラム』がセットされる。
 再び巨大な爆発が敵中で炸裂した。爆発は、まるで敵陣の只中に幅30sqの『道』を拓いていくように次々と放たれた。惣助はその爆発を追うように敵陣へと突入すると、まだ対応できていない敵に向かってガトリング砲を撃ちまくった。
(長丁場だ。先のことを考えると、スキルの使用は3回までだな……)
 惣助は『脱出路』の出口辺りに機を立たせると、その『道』を塞ぎに来る敵へ向かって砲撃を浴びせ続けた。途切れることの無い制圧射撃で敵の頭を抑えつつ、態勢を整えて向かって来ようとする部隊に対しては、砲口を上に向けての『フォールシュート』──弾丸の豪雨を振らせて薙ぎ払う。
 Volcanius隊が『モーゼの道』を渡って第三陣を突破に掛かった。海が閉じるが如く左右から圧し迫って来る敵は、ルベーノ、アルト、真の3人が間髪入れずに蹴散らしに掛かった。
 特に、真は付近の敵を皆殺しにする勢いで敵へと飛び込んでいった。気合の声と共に大鎌が振るわれる度、敵の体の一部が斬り飛ばされて宙を舞った。
「【輸送し隊】、再びの参上だよぉっ♪」
「撤退の邪魔はさせないんだよ? 季節外れのクリスマスツリーのプレゼントだよ♪」
 後方から飛来して来たレベッカと小鳥の魔導ヘリが、脱出路の左右にそれぞれ上空から敵へ大型ミサイルを見舞った。爆発と共に、戦場に湧き上がるカラフルなツリーの光──そのネオンの様な光に照らされながら侵入して来た2機のヘリがホバリングし、吊下した2台のVolcaniusを味方の隊列の傍へ下ろした。
「トムにナイジェル!? どうして……?」
 地上のリズが驚きの声を上げた。下りて来たのは、ジョアンの下に配属となっていた同期の砲兵士官だった。
「そんなの……手伝いに来たに決まっているじゃないか!」
「王立学園を出たばかりのペーペーが三個中隊も率いられるわけがないだろ…… 後で二中と三中の指揮権を寄越せ。俺たちが預かってやる」
 そこへ、敵の爆撃隊を墜として戻って来た味方の飛行幻獣隊も飛来し、脱出の援護に加わった。他の味方の飛行隊と共に、翼を翻して対地攻撃に入るサクラとフェリア。怪我人の治療をしに飛んで来たアティと共に、メイムも味方の上空へと高度を下げて来た。
「このままじゃ馬車が通り抜ける前に『道』が塞がれる……! リズさん! 時間稼ぎに付き合って! 高LVのVolcaniusを他に2台ばかし……って、おおっ!?」
 リズの傍に、ここにいないはずの見知った顔を見つけて、メイムは驚きの声を上げた。が、それも一瞬。すぐに戦場を駆ける戦乙女の貌へと戻る。
「ちょうどいい、トム、ナイジェルでいいや。左右の敵に炸裂弾1発ずつ、支援お願い」
 メイムの要請に、3機の砲戦機が足を止めた。後ろを振り返り、立射姿勢── 味方の馬車の左右へ迫る敵へ、装填した炸裂弾を撃ち放ち、奮戦するハンターたちと味方の退却を援護した。
「よーし、後は全力でずらかって!」
 再び全力で駆け出す機導砲兵科のゴーレムたち。
 殿軍に立った惣助機とミグ機が、傍らを通り抜けていく魔導トラックと馬車の隊列の脇で、弾幕と砲撃を浴びせて追い縋る敵を蹴散らして……
 最後に、中隊ごとに交互に後退しながらVolcanius隊が煙幕弾をばら撒いて…… 砲兵隊はどうにか敵の重包囲網を突破した。


 半日後── 砦の東に位置する四つ辻に、三人の傲慢の歪虚の将がいた。砦から脱出したVolcanius隊の追撃の命を受けた、アイラ、ウォルテッカ、マシューである。
 彼らも他の傲慢の将らの例に漏れず、新参者の指揮下に入ることをよしとはしていなかった。が、自身の能力に疑義を抱かれるのは傲慢の矜持が許さなかった。彼らは混乱の中、足の速い戦力のみを抽出して編成すると、この僅かな時間で敵逃走ルートの分岐点まで至った。
 分岐点──そう、人間たちの逃走経路には三つの選択肢があった。
 一つは東の大街道。城塞都市ゼクセンを経由し、石畳で舗装された道を通って陸路で王都へ向かう道。
 一つは北の支道を通ってリベリントンの街の川湊から船で逃げるケース。
 一つは南へ続く巡礼路。森の中を走る田舎道を通る、王都へ行くには大きく遠回りを余儀なくされるルートだ。
「あの新参者は、人間どもは船を使って逃げる計画だったと言っていたが……」
「足跡は北へは続いていない。これだから元人間は……」
 歪虚の将たちが新参者の指揮官を嘲笑する。ダンテは事前に『別の経路で逃げる可能性』にも言及していたのだが、その事実は都合よく忘れられていた。
「では、南か? 足跡はそちらへ続いているようだが」
「いや、南に石人形どもの足跡は無かった。つまり、東の舗装路を行ったのだ。であれば、南にはケダモノどもを向かわせておけばよい。我らの主力はこの大街道を行く」

 同刻。城塞都市ゼクセン上空──
 東へ向かうVolcanius隊に先立ち、ジュリアに乗って都市の空中偵察に来たアルトが、街に敵が先回りしていないことを確認し、魔導スマホで味方に連絡を入れた。
 同様に先発し、伏兵がいないか索敵しながら地上を進んでいたエルが、報告を後方の味方主力へ中継し、ジョアンや三人娘隊と共に警戒しながら街へと入る。
 30分後──到着したVolcanius隊主力がゼクセンへと入城した。惣助やミグと共に殿軍として最後に到着したメイムは、リズたちが用意していた井戸の水と戦闘糧食を食べてようやく人心地つくことができた。
 惣助はいつでも敵襲に対応できるようCAMから降りずに、手持ちの水とレーションで食事を済ませた。真もまた碌に休憩も取らず、城壁に上がって周囲の警戒に当たっており……その姿をカメラに捉えた惣助は、苦労性だな、と呟いた後、自分も人のことは言えないか、と苦笑した。
 そのカメラが、今度は機体を下りたミグを捉えた。なんかあり得ないくらい跳ね回りながら、がちゃぽこがちゃぽこチーン! と『グランドスラム』を吐き出すリアカーを見やって、「ああやって出来るんだ……」と惣助が言葉を失ってたり。
「アティ、と申します。回復魔法が得意です。怪我をしたらいつでもお声がけください。よろしくお願いしますね」
 アティは食事を終えるとリズや兵たちの間を積極的に回って会話を持った。Volcaniusの使い手たちに怪我人はいなかったが、ゴーレムの上で何時間も揺られ続けて気分を悪くした者が多くいた。胃に入れた栄養を吐き戻す者がいなかったのは(かつて臨時教官を務めた時のメイムの)訓練による賜物に違いない(
「このまま大街道は直進しない。進路を北に取り、アライースの村へ出る」
 休憩後、ハンターたちはリズたちとも話し合って、今後の針路をその様に決定した。アライースにもリベリントンほどの規模ではないが、川湊があった。すぐに飛行兵の中から伝令が飛び、リベリントンにいる大型船をアライースへ呼び寄せに掛かった。
 合計して3時間ほど休んだ後、部隊は進発することになった。
「長めの道程になるだろう。覚醒やスキルの回数には気を付けていこう」
「あ、先に出発してて。私たちはともかく、飛びっ放しの飛竜たちはもう少し休ませないと」
 メイムは他の飛行幻獣の乗り手たちと共に、もう少しゼクセンに残ると告げた。
 彼女たちを残し、Volcanius隊は北へと向けて出発した。エルとイェジド隊の一部は、囮としてこのまま東の大街道を進むことにした。
「『東へ逃げたVolcanius隊の殿軍』を装います。上手くいけば追って来る敵をあらぬ方へ誘引できるかもしれません」

 数時間後── 夕焼けに赤く染まり始めた空を頂くゼクセンに、敵追撃隊の先鋒が達した。
 見張りから報告を受けたメイムは全騎に呼集を掛けると、なけなしの翼を使ってゼクセンを飛び立った。勿論、北へまっすぐ飛ぶようなことはせず、まずは東へ向かって逃げた。
「追い付いたか!」
 先鋒のウォルテッカは追撃に異界の騎兵を先発させ、自らも古代兵器の無人バイク隊率い、追撃隊の1/3の戦力と共に東へ進んだ。
「粗忽者め」
 その事実を報せられたアイラが言った。よく調べれば、石巨人どもの足跡は北へ続いているのが分かるだろうに……
「では、呼び戻すか? ウォルテッカを」
 マシューの言葉にアイラは首を振った。足跡の数的にあり得ないとは思うが、それでも、一部の石巨人を東へ逃がした可能性が無いとは言えない。
「敵の追撃隊が来るよ! 結構な数!」
 追いついたメイムがエルに報せ、飛竜隊が低空を北へ針路を変える。
 エルは仲間へ増速の指示を出し、派手な動きで東の路上を加速した。
 やがて、敵の騎兵が背後に現れ……エルは敵の方が優速であり、このままでは『逃げ切れない』ことを悟った。
「迎撃します。『殿軍として、このままアレを味方主力の所まで連れていく』わけにはいきませんから」
 イェジドたちが足を止め、追っ手に対して向き直った。エル自身はガルムの上で重機関銃を直接抱え持って、構えた。
 迎え撃つ構えのエルらを見て、突撃に移る異界の騎兵たち。エルは銃を構えたまま右手を振り上げ、詠唱と共にマテリアルを練り上げた。そして、頭上に生じせしめた太陽の如き3つの火球を、敵中へと降り注がせた。
 先のミグのグランドスラムにも劣らぬ広い範囲に、天の鉄槌の如く3つの『流星』が降り落ちた。着弾と同時に爆炎が周囲へ荒れ狂い……マテリアルの炎が敵騎兵を薙ぎ倒した後、道路脇の木々へ延焼することなく掻き消えた。
 生き残った敵兵たちには、イェジド騎兵たちから容赦ない銃撃が浴びせられた。敵追撃隊の先鋒は瞬く間に撃ち減らされた。
 しかし、勝勢はここまでだった。主力兵器を引き連れて、敵将ウォルテッカがやって来たからだ。彼の率いる無人バイク兵器はちょっとした戦車並の大きさで、機関砲と誘導弾を装備した重武装。しかも、騎兵やイェジドよりも足が速い。
 爆音轟かせて迫る敵へ……だが、エルはフンと可愛く鼻を鳴らした。
 エルの合図と共に、イェジド乗りのハンターたちが周囲の森へ散った。倒木や茂みの生い茂った整備もされていない森の中なら、重装備のバイクより狼の方がずっと速い。
「逃がすな、追え! いや、半分は東へ進み続けろ!」
 やがてアイラから呼び戻されたウォルテッカが去るまで、エルたちは半日以上に亘って彼とその軍勢を引きずり回した。

 ゼクセンからアライースへ続く道── アイラとマシューが率いる敵の追っ手の、先鋒がVolcanius隊に追いついた。
「敵が来ます! 接敵予想は10分後!」
 後方警戒に当たっていた味方からの報告に、「休められる時には身体を休めるのも仕事です!」と自ら率先し、地上を歩くペガサスの鬣を枕に『身体を休めていた』アティがハッと寝ぼけ眼を擦って身を起こす。
「イェジド隊、集まれ! Volcanius隊を先導し、退路を確保する! 敵の迂回や伏兵に警戒。イェジドの嗅覚を最大限に活用の事!」
「リーアたちとハーマンが先鋒にいる。アティはリズと共にVolcanius隊を彼らに合流させてくれ」
 惣助の言葉に、一瞬、アティは言葉を失って……しかし、すぐに気を取り直すと頷いた。
「ペガサス、お願い……! 殿軍に残る戦士たちに加護を……!」
 アティは後衛戦闘に加わるハンターたちへ『エナジーレイン』の加護を与えた。そして、「御武運を!」と伝えて、イェジド隊の真に続いて道を先へと進んでいった。
「撤退戦は戦の花道とはよく言うたものじゃよな」
 機体のアウトリガーを下ろし、機体に砲撃体勢を取らせるミグ。惣助も大壁盾を地に置き、その陰に膝射姿勢でガトリングガンを構えた。
 ……夜の闇に沈む道の先に、追っ手の先鋒が現れた。出現したのは、多脚戦車型の古代兵器たちだった。
 ミグは最大射程で二つの砲から交互に『グランドスラム』を発射した。立て続けに煉獄が敵先頭集団を呑み込み、多脚戦車の上に乗せられていた熊型魔獣たちを吹き飛ばした。
 だが、戦車自体はその砲撃に耐え切った。そして、魔熊の生き残りと魔熊の死骸を地面へ振りまきながら、ガシャガシャと虫の様に歩きながら突っ込んで来た。
「今時、タンクデサントとか、流行りはしないぞ?」
 後続へ『大砲』を放ち続けるミグ機に代わって、惣助機が多重砲身の近接火力を撃ち放つ。敵の正面装甲に弾けて無数の火花を散らすガトリング砲弾。惣助が足止めに徹する間に、真らと入れ替わる形で戻って来た『三人娘隊』の増援が火力を集中し、装甲を貫徹された先頭の1台が爆発して砲塔を空高く吹き上げる。
 だが、その残骸を乗り越えるようにして現れた後続たちは、惣助たちの正面火力に対して味方を犠牲にしながらジリジリと迫って来た。そして、遂に、張り付いた魔熊を土嚢代わりに弾避けにしながら突っ込んで来た1台が、惣助の大壁盾に激突した。
 その瞬間、大壁盾の陰から躍り出たアルトが法術剣を抜き、惣助機と盾と敵の車体を跳び渡っての立体攻撃で以って多脚戦車へ斬りかかった。炎の様なオーラを纏っても目にも止まらぬ超加速── 舞い散る花弁が如き焔が風となって道上の敵を吹き抜け……アルトの姿が敵後背へと現れた瞬間、多脚間接の半分を切り飛ばされて擱座した。
「倒す必要はない。Volcanius隊に向かわせさえしなければいい」
「敵の残骸で道にバリゲードでも築くか」
 惣助は三人娘隊に射撃を任せると、二又のドリルランスを抜き放ち、近接戦闘で以って正面から敵を迎え撃つ。
 ミグ機が放つ砲撃が鐘の音の様に定期的に響いた。後続する敵は、未だ留まるところをしらなかった。


 その頃、南の大回りの道へ進んだ砲兵と負傷兵の輸送隊は、森の中の開けた川べりで最初のキャンプを敷いていた。
「はいはぁいっ、今回は負傷者の空中搬送だね! まっかせてよ!」
「私達のお仕事は戦闘じゃなくて輸送。だから、全力で逃げるんだよ!」
 『輸送し隊』のレベッカと小鳥はシレークスの頼みを受け、負傷兵たちの中でも特に傷の重い者たちを引き取り、魔導ヘリに乗せて一足先に王都へと運んで行った。
 ……Volcanius隊と別れて以降、輸送隊は度々、斥候と思しき魔狼の接敵を受けていた。それらは全てハンターたちが撃退したが、自ら戦うことの出来ない負傷兵たちの心を恐怖と不安でささくれ立たせるには十分だった。遠ざかっていくヘリを地上から見上げて、重傷者たちを羨まし気に見守る者たちもいた。
「砲兵たちはまだいいさ。武器が持てればそれだけで気が紛れる」
「俺たちは足手纏いだ。こんなことならいっそ、砦に残って戦っていた方が……」
 幌もないトラックの荷台に座り込みつつ、愚痴を零す負傷兵たちに、戦闘糧食を配りにやって来たフェリアが「おや」という顔をして言った。
「脱出して足手纏いなら、残っても足手纏いに変わりはないではないですか。非論理的なことを言わないでください」
「フェリアさん……」
 苦笑しつつフェリアにツッコミを入れながら、ディーナは救急セットを手に荷台へ上がった。そして、傷病兵たちの包帯を換え、抗生物質を飲ませてやった。
「我々は道程の1/3程を踏破しました。明日にはラースという村に着く予定です。これまでの接敵回数は4回。いずれも被害はありません」
 食事を配りながら、フェリアは自分たちが置かれた状況について負傷兵たちに話した。何の情報も与えられなければ不安になる。さっきはあんなことを言ったが、フェリアはフェリアで彼らを精一杯元気づけようとしていた。
「私たちには任務があります。それは、あなたたちにも」
 サクラの言葉に、負傷兵たちは顔を見合わせた。
「任務? 俺たちの?」
「ええ。砦に残った人たちの、想いを故郷(くに)へ届けることです」
 負傷兵たちは沈黙した。
 砦を出発する直前、輸送隊に荷物が託された。それは砦の兵士たちが書いた故郷への手紙だった。
「貴方たちのことも話してくれませんか?」
 とサクラが言った。「あ、私も聞きたいです」とディーナが換えた包帯を片付けながら頷いた。
「あなた自身のこと、家族や友人、恋人のこと……なんでもいいです。他愛ない話で構いませんから、私たちに話してみませんか?」

「ふぁーはっはぁー! 気持ちの良い朝であるな! さぁて、今日は一気にラース村まで向かうぞ、金目! お前たちの運搬能力にも期待しているぞ、ハッハッハ!」
「お、おぅ……」
「どうやら軽傷者たちの中には元気の有り余っている者たちもいるよーです。そう言った者たちは配膳や片付けを手伝いやがれです」
 翌朝。未明から早朝にかけての見張りから戻って来たルベーノとシレークスが、朝食を終えた場でそう告げた。
 二人はそのまま休む事無く護衛の任に就く。実は昨晩も2回ほど敵の斥候と遭遇したが、そのことは兵たちの前ではおくびにも出さない。
「組織的に歪虚が追撃して来るのなら、それは後方からだろう。だが、俺のプラヴァーは隊列の先頭に就く。遊撃の偵察部隊や雑魔はどこから出てくるか分からんし、『重機』として何かと便利だからな!」
 ルベーノはそう言ってプラヴァーを先頭に立たせて走らせた。ホロウレイドの戦いの後、ハルトフォートが最前線となって以降、この道はあまり使われなくなっていたらしい。整備のされなくなった道には倒木やら穴ぼこやら、魔導トラックや馬車の通行の妨げにありそうな障害も多々あり、それをこれまで片して来たのはルベーノだった。
 シレークスもまたイグニスに跨り、その嗅覚を活かして隊列後衛について後方の警戒に当たった。
 サクラは飛竜を飛ばさず、地上を共に行く。頻繁に飛ばせば竜も披露するし、敵に居場所を教えることにもなりかねないからだ。
「さて、このまま無事に行ければ良いのですけれど……」
 サクラとは反対側の隊列中央辺りに位置しつつ、フェリアがポツリと呟いた。
 予感は悪い方ばかりが当たる気がする。勿論、論理的に説明がつく話だが。
 追い縋って来る魔狼たちへ、フェリアは理力の指輪を翳し、数を増やした『マジックアロー』で敵を撃った。
 シレークスは積極的に敵の脚部を狙って打撃を与えた。追って来ることさえ出来なくなれば、とりあえず敵の数は減る。

 そうしてその日の昼過ぎに、一行はラース村へと辿り着いた。
「私はフェリア。フェリア=シュベールト=アウレオス。魔術師をしています。どうぞよしなに」
 突然現れた多数の軍人たちを警戒しながら出て来た村人らへフェリアが丁寧に挨拶し、シレークスが修道女の笑顔と物腰で状況を説明した。
「ハルトフォートが陥ちたのか……!?」
「いえ、砦は未だ健在です。……しかし、相手の数は膨大であり、本格的に侵攻してきた場合、こちらに来ないとは限りません」
「進撃予想路はあくまでも『予想』ですしね…… 万が一にもこちらに来たら、取り返しがつきません……」
 シレークスとサクラの言葉に村人たちがザワついた。
「戻って来れればまた畑も耕せるけど、襲われて死んだらそれもできなくなるの。お願いだから、私達と一緒に避難してほしいの」
 ディーナが真剣な表情で懇願した。身体が弱い人や老人の輸送は自分たちで引き受ける。荷物は必要最低限しか持ち出せないけど、それでも死んでしまうよりはずっといい。
 村人たちは困り切った。話の内容は分かるが、いきなりそのようなことを言われても困る。
 論争は、しかし、あっけなく決着した。正確には議論の余地もなくなったというのが正しかったが。
「敵だ。恐らくは中隊規模。狼だけじゃねぇ。豹型もいる」
 見張りに立っていたルベーノが、無線でそれを報せて来た。村人たちは着の身着のままで逃げ出さなくてはならなくなった。
「ルベーノは戻って。避難に重機がいりやがります。サクラとフェリアが既に飛びました。迎撃は連中に任せます」
 シレークスは避難をディーナに任せると、避難を手伝う為に村の中心部へと向かった。ディーナは「集まれ、集まれ~!」と星神器を振り、村の広場に停まった車両に人々を呼び集めた。
「荷物は最低限に! トラックと馬車に分乗しろ。急げ!」
「子供や老人を乗せた車両は隊列の中央に入れるんだ! 先頭には僕とルベーノが立つ!」
 ルベーノはプラヴァーを駆使し、老人や子供たちを急いでトラックの荷台へ運び上げた。荷台には『輸送し隊』が重傷者を搬送した分、余裕があった。
 金目は全てのトラックの乗車を最後まで待たず、乗せ終えたものから先発させた。退路の安全を確保しておく必要がある為だ。
 ディーナは怯えて泣き叫ぶ子供を『サルヴェイション』で落ち着かせると、母親に続いて最後のトラックの荷台に飛び乗った。「行って!」とトラックの屋根をバンバン叩いて運転手に出発を促す。
「運転手さん、何があっても絶対に足を止めないで!」
 最後に村を出ながら、ディーナは奥歯を噛み締めた。「村が……」と惜別する間もなく故郷を離れる羽目になった人らを前にして、ディーナは改めて心に誓った。
(傷病兵も、砲兵も、ラース村の人たちも……誰も死なせない! みんなまとめて王都なのみんな守るの……!)

「できればやり過ごしたかったところですが……あの人数では流石に見逃してくれそうにはないですね」
 避難完了の少し前── グリフォンのエアリアルに乗って空へと舞ったフェリアが、上空から戦場の様子を見比べながらそう言った。
 避難はまだ始まったばかり。まだ幾ばくかの時間がかかりそうだった。そして、ラースと言う名の小さな村は、守り手が立て籠もるには脆弱過ぎた。
「前に出ます。村には手出しをさせませんよ……ここから先は通行止めです……!」
 サクラは飛竜に前進を指示すると、周囲の空へ視線を振って敵の空中戦力がないことを確認した。
「地上部隊だけなら……ワイバーン! 『レイン・オブ・ライト』で爆撃しちゃってください! 先頭を叩いて敵の足を止めます」
 剣の切っ先で地上を指差し、愛竜に降下の指示を出す。サクラの飛竜とフェリアの鷲獅子が戦場を横切る様に敵の上空をフライパスしながら、敵先頭集団の豹らに向かって光槍の豪雨と爆裂火球を落として敵を吹き飛ばしていった。
「どうやら敵に対空火器はないようです」
「ならば、このまま敵の注意をこちらに惹き付け続けます……付き合ってもらいますよ、フェリア」

 その後も2騎の幻獣と主たちは地上の敵らへ空襲を加え続け、追撃を撹乱し続けた。
 一行はそれから数日を掛け、王都へと辿り着くことになる。


 ゼクセンで分かれたメイムが、アライース村で仲間たちと合流した。が、現地の状況は彼女が予想していたよりも遥かに悪くなっていた。
「船が……来ない?!」
「正確には4隻の大型船だけが来る。が、それでは当然、全てのVolcaniusを運べない」
 あんぐりと口を開けたメイムに真が説明した。
 リベリントンで待機していた船団が、敵の空襲を受けたのだ。砦から直接リベリントンへ飛んだ伝令は、敵将が手配した空中戦力の待ち伏せにあって辿り着けなかったという。故に船団は敵の接近を、実際に敵機を視認するまで知ることができなかった。
「それじゃあ……」
「ああ。川沿いの支道を陸路で王都まで向かうしかない。……それでも、1個中隊は水路で脱出できる」
 やがて、川湊に下流から船がやって来た。小さな施設故、接舷は1隻ずつ。メイムが交通整理を買って出て、順序良くゴーレムを船へと乗せていった。
「リズ、お前の第一中隊が乗れ」
「馬鹿言わないで! 責任者が真っ先に逃げるなんて……」
「誰でもいいから早く乗る!」
 メイムは無理矢理リズの隊を船へと誘導した。
 そして、最後の4隻目── 護衛としてイェジドと共に船に乗った真が、マストの上の見張り台に登って周囲を警戒し……接近する敵飛行機械の編隊を空に見つけて警報した。
「敵戦爆連合接近! 数は……こちらより優勢なことは確かだな」
 メイムは誘導をトムとナイジェルに任すと、自らは飛竜『響姫』の背に乗り、防空隊の皆と共に迎撃に赴いた。愛竜とマテリアルリンクを繋げ、自身の生命力を注いで『鎧』と化して、敵へ向かって突撃する。
 それを迎え撃つべく天使型の制空隊がメイムたちへと向かって来て……メイムは相棒に火炎の息を吐かせて複数の敵を吹き飛ばしつつ、すれ違いざまに敵へ組みつき、敵の装甲に魔竜牙を突き立てた。翼を引き裂き、蹴落としながら、飛竜の背から光の魔法陣を放ち、止めを刺す。……その光が術者が溜め込んだ不浄であると知らされるとなんか複雑な気持ちになるが、とりあえず今は何でもいい。
 そのメイムたちの戦場の傍らを抜け、急降下へと移る鳥型の爆撃機たち── 船上の真は逆落としに降って来るその敵に対して、マストの上から『風雷陣』の符を空へと投射し、雷撃の檻で絡め取ってその1機を爆発させた。残る2機は3発ずつ、計6発の小型爆弾を停泊した船へと投弾した。その内、命中コースに乗っていた一弾を、真は『ガウスジェイル』の結界で因果を歪ませ、自分へと引き付けた。
 爆弾がマストの上で爆発し、真が甲板へ放り出された。頭から落ちかけた真は、空中でクルリと身を翻し、受け身を取って着地した。
「小型爆弾の1発や2発……!」
「普通の人なら死んでますからね!?」
 ペガサスで水上に出て来たアティが、真に『フルリカバリー』の光を飛ばした。
 舷側に穴を開けようと水面ギリギリを飛んで来る3機の鳥型──その内の1機をレグルスが『ウォークライ』で動きを止めて水面へと叩きつけた。残る2機が投弾した計6発の爆弾は、真が星神器を翳して張った結界により、あらぬ方へと飛んで行って水柱を噴き上げた。
 爆弾を投弾し終えた鳥型たちが、再度爆撃コースへ降下して来て、上空を通過しながら機銃弾を撃ち放つ。それは木造船の板を簡単に貫き、船員たちが慌てて布と木材で浸水を塞ぎに掛かる。
 そのまま高度を上げて再旋回へと移ろうとした鳥型たちは、だが、『空渡』で地上から跳び駆けて来たアルトによって翼を断ち斬られ、きりもみ状態になって地面へ墜落していった。
「ジュリア。川湊の上空に張り付いて船を守れ」
「アルトさん!? 来てくれたの?!」
「アルトだけじゃねーぞ!」
 無線機越しの返事と同時に、敵編隊の中央部で巨大な爆発の華が立て続けに複数、広がった。巻き込まれた敵機が火を噴き、或いはバラバラになって川面へと落ちていった。
 同時に、街道を駆けて来た惣助の真改が川湊へと突入し、上空にガトリングガンを撃ち捲って、弾幕で船への接近を阻み始めた。特に、急降下途中の、或いは低空進入中の敵機は『制圧射撃』で面白いように落ちていった。
 戦況が変わる。
 メイムは再び飛竜隊と共に、ミグのグランドスラムによって編隊が崩れた敵へ突っ込み、各個に撃破していった。
 大きな損害を出した敵編隊は、大型船への攻撃を中止して撤収を開始した。
 最後の大型船が川湊から離岸する。
 帆に風受けて大河エリダスを遡行していく4隻の大型船── Volcaniusの一中隊はそのまま真とメイムらの護衛を受けて、無事、王都第五街区の港へ辿り着くことになる。


「残る二個中隊はこのまま陸路で王都へ……だな。なに、これまでと何が変わるわけじゃない」
 トムやナイジェルたちに向けて、惣助が自信たっぷりに笑った。
 三人娘隊は顔を見合わせた。これまで並み居る敵を薙ぎ払って来たミグの『グランドスラム』は、遂に弾が尽きていた。いや、まさか使い切ることになろうとはまるで思っていなかったけれど。
 体力の減っていた者らに広域回復を施し、一行は川沿いの支道を一路、王都へ向け東進を始めた。
 追撃は、終わらなかった。
 敵将アイラが呼び戻したウォルテッカの無人バイク隊。それが追い縋って来たからだ。……傲慢の将らと共に。
「歪虚か……!」
 敵将ウォルテッカを見つけ、バイクを蹴って宙を渡り、斬りかかるメイム。『懲罰』があるのを予想し、全力を控えた通常攻撃で敵へと斬りかかる。
 敵へと与えた斬撃が、歪んだ因果に捉われたアルト自身の身体にも刻まれた。
(やはり『あった』か。しかし、我ながら痛いぞ、自分の斬撃)
 派手に血を噴き出しながら、冷静に思考し、着地するアルト。慌てて駆けつけようとするアティを手で制し、回復薬を飲んで傷を(焼け石に水ではあるが)癒す。
「こやつ……!」
 久方ぶりに受けた大きな傷に、頭に血を上らせたウォルテッカが斬りかかって来た。メイムはそれを回避して2本目の回復役を飲む。
「誰が避けても良いと言うたか!」
 『強制』がアルトの身体を捉えた。が、抵抗した彼女は構わず避けて3本目を飲んだ。
「アルトさん!」
 制止したにも構わず突っ込んで来たアティがジュリアと共に、アルトを横から掻っ攫って離脱した。
 アルトは回避せずにそれを受け入れた。バイク兵器が自身の戦場を取り囲みつつあったからだ。
 アティがアルトに『フルリカバリー』を掛け、後方へと離脱する。
 惣助やミグが支援の為にプラズマライフルやガトリング砲の砲火をウォルテッカ(この時は非ユニット扱い)に浴びせかける。
 トムやナイジェルが後方から煙幕弾をばら撒き…… その間にハンターたちは離脱した。


 歪虚の追撃はその後も続き、王都より進軍してきた主力部隊の先鋒と合流するまで続いた。
 この過程で一~二個小隊分のVolcaniusを喪失(その全てが最後の陸路の移動と追撃で喪われた)したが、辛うじて隊長機にも人員にも被害を出すことはなかった。

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  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    イグニス
    イグニス(ka0752unit005
    ユニット|幻獣
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ヒビキ
    響姫(ka2290unit004
    ユニット|幻獣
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ガルム
    ガルム(ka2434unit001
    ユニット|幻獣
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka2598unit005
    ユニット|幻獣
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ペガサス
    ペガサス(ka2729unit004
    ユニット|幻獣
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    エアリアル
    エアリアル(ka2870unit002
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ジュリア
    ジュリア(ka3109unit003
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レグルス
    レグルス(ka5819unit001
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka5843unit001
    ユニット|幻獣
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    マドウアーマー「プラヴァー」
    魔導アーマー「プラヴァー」(ka6752unit002
    ユニット|魔導アーマー

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/31 01:41:08
アイコン 逃避行作戦相談
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/04/01 07:10:32