青闇の騎士と深紅の影

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/02 12:00
完成日
2019/04/08 14:01

みんなの思い出

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オープニング

●腐肉の散る洞穴にて

「あぁ……もう殺して……お願い……」
 ここはとある山の遺跡。美しい少女の前に、腕をあらぬ方向に折られ鎖で拘束された女が転がっている。その瞳には光が宿っていない。ただ虚ろに揺れるだけだ。
「あーあ、もう壊れちゃったか。彼氏や家族と一緒に連れてきたからも少し保つと思ったんだけどねー。彼氏を先に殺っちゃったのが失敗だったねー。ま、いっか」
 そう言って、深紅のドレスの似合う少女――歪虚エリザベート(kz0123)が立ち上がると気に入りのハイヒールで女の脇腹を突き刺すように思い切り踏みつけた。
「ひぎぃいいッ!!?」
 女が絶叫し、血の噴き出した脇腹を庇うように蹲りその身を大きく震わせる。その様にエリザベートが哄笑した。
「きゃははッ! こいつ、頭壊れてんのに身体は一丁前に反応するんじゃん。おっかしー! ……でもやっぱ頭って大事よねぇ。生きたい、生きて幸せになりたい、何かを成し遂げたいって奴の心を圧し折ってやるのがあたしは好きなの。だからあんたは用なしってワケ。……ねぇ、あんた。小腹空いてるっしょ? こいつを餌にしたげる」
 その声に、洞穴の奥から青黒い甲冑を纏った青年が現れた。
 彼は黙したまま、蹲る女の顎を親指で押し上げる。女は荒い息を吐くと、目を固く閉じた。
 おそらくはこの男も歪虚なのだろう。
 いっそのこと、一思いに殺して。一刻も早く今は亡き恋人の元へ送ってほしい。
 だが男の発した声は意外なものだった。
「すまない、君の大切な者を全て奪って……。僕にできるのは君を苦しませない事だけ……本当にすまない」
 そう言って男は鋭い犬歯を女の喉に突き立てる。
 本来なら恐怖と死に値する痛みを感じるはずの行為。しかしそれはなぜか心地よくて――女は甘美な夢を見るように少しだけ微笑んで、息絶えた。そして男は女の身を恋人の遺体に寄り添うように横たえるや、黙って暗闇に姿を消す。エリザベートの視界に入らないよう、岩陰で足を投げ出すようにして座り込んだのだ。
 その様子を退屈そうに見つめると、エリザベートは人間の革で造ったカウチに身を預けため息を吐いた。
「はぁ、あんたはいつまで経っても半端ねェ。オルちゃんがいなくなってから2年以上経つってのにさぁ……もういい加減諦めて、楽しみなさいよぉ。もう人間には戻れないんだからさ!」
「……うるさい。オルクス様がいなくとも、僕には僕の自立した思考がある。オルクス様の部下に過ぎないお前に指図される覚えはない」
「……っ、オルちゃんとあたしはあんたと違ってただの上下関係で繋がれていたんじゃないッ! あんたにあたしの何がわかるっていうのよォ!! この2年間、あたしがどれほどの情けなさと無念を抱いてハンターどもの追撃から逃げて……そして復讐するためにどれほど苦痛を背負いながら力を蓄えてきたか! 傍にいたあんたが一番わかってンでしょお!!? オルちゃんの無念を晴らすためにあたし達はブチ殺さなきゃなんないのッ、ハンターどもをおおっ!!」
 エリザベートが声を荒げ、跳び出した途端カウチが強烈な脚力で一瞬にして砕けた。
 それと同時にオウレルの頭に深紅の爪が食い込む。ぐり、と腕を捻ると真っ赤な爪を伝って男のこめかみから黒い血がつつと垂れた。しかし彼は何も語ることなく、無表情でエリザベートを見つめる。
 ややもするとその頭蓋骨がくしゃりと音を立てて潰れるのではといった瞬間――影のように傍に控えていたメイド達が次々と口を開いた。
「お嬢様」
「その御方は」
「今やお嬢様の懐刀にございます」
「常に爺や婆やがお傍に控えども」
「純粋な力は」
「この御方に到底叶いませぬ」
「今」
「壊しては」
「勿体のうございます」
 その声に冷静さを取り戻し、息を整えたエリザベートは男から手を離すと……わざと黒く濡れた指先を彼の口に含ませた。死体特有の冷え切った舌を弄び――厭らしく嗤いながら指を引き抜く。
「ねえ、この黒い血はあんたのものよ。もうあんたは単なる死体、歪虚なの。帰る場所なんてない。暴食の欲求に身を任せるしかないの。欲望の奴隷になると毎日が楽しくなるわよ、あたしのようにねぇ? キャハハッ」
「……」
 口の中に広がる味は鉄の香りが混ざった鮮血ではなく、ヘドロのような……腐り果てた死体の味。
 男はエリザベートへの嫌悪感を含めてそれを吐き出すと、彼女との会話を拒絶するように死臭の漂う洞穴の奥に身を潜めた。


●ハンターオフィスにて

「……帝国東部の集落で失踪事件が連続しているだと?」
「ああ。最初は若い男女が姿を消したんで、街へ駆け落ちしたと思われていたそうだ。しかし最近は家族ごと消える事件も起きたらしい。それで近場のオフィスに話が来たんだと」
「ただの夜逃げじゃないのか? あのような小さな集落じゃ商売をやっても上手くいくまいて」
「いや、むしろ比較的裕福な農家でも発生している。前日に畑の種蒔きをしていた一家が突然消えたという報告もあるぐらいだ」
「それはおかしいな……」

 只埜 良人(kz0235)はオフィスに寄せられた依頼案件の情報を整理しながら上司たちの話に聞き耳を立てた。
 帝国は軍事力に力を注いできた反面、都市部以外には行政の手が入りにくい。
 つまりそういった集落で何らかの事件が発生した場合、ハンターの力を借りることが少なくないのだ。
(事件が起きた集落の辺りは元々軍の見回りがそれほど行われていなかったようだな。歪虚の発生がほとんど起きず、亜人もいない地域だからと。……ん? これはどういうことだ?)
 住民の報告によると、数日前から帝国軍第二師団の腕章をつけた青黒い甲冑姿の青年が夜間に見回りに来ていたという。
(確かあの地域は第二師団の管轄に入っていないはずだが……)
 手早くファイルを捲り、第二師団の近況を確認する良人。当然の如く第二師団は北の壁として今も最前線に身を置いている。
 東には大きな戦が起きない限り派遣されないはずなのだ。
 しかし彼は諦めず団員の情報を探しはじめた。
 もしかしたらこの地に縁があって一時的に帰郷した者がいるかもしれないと。
 だがそのような者はなく――代わりに一枚の黒塗りの頁が目に留まった。
「なんだ、これ……」
 墨で「敵性存在に認定、捜索活動を中止とする」と経歴を潰すように書かれた青年。かつて真面目な仕事ぶりを評価されていた彼は――ある吸血鬼を追撃する折に失踪し、後に姿を見せた時には第二師団の師団長へ刃を向けたという。
(オウレル・エルマン。もしかして!?)
 報告書の山から一片の紙片を引っ張り出す良人。そこには件の吸血鬼の記録も併せて綴られていた。
(吸血鬼エリザベート。剣妃オルクスの部下にして自称友人……まだ討伐されていない奴、か)
 良人は東部集落周辺の調査を依頼書に纏め、それにオウレルとエリザベートの資料の写しを参考として貼り付けた。

リプレイ本文

●逢魔が時のスレチガイ

 ここは山の麓に広がる集落。ある家の玄関で青黒い甲冑の男は一家の主人を呼ぶと緊迫した顔で告げた。
「私は帝国軍第二師団所属のオウレル。最近の連続失踪事件が歪虚によるものと判明しました。地域の皆様を軍営地で保護します。今すぐ避難を!」
「歪虚とは道理で……。でも第二師団のご支援があれば心強いです。さぁ、お前達!」
 主人が急いで妻子を呼び、荷物を纏める。
 元より疑いを知らぬ人ばかりの田舎だ。ましてや相手が軍人となれば頼りになると信じ込む。
 早速その一家は第二師団の腕章を嵌めた男について薄暗い道を歩き始めた。

 時同じくしてハンター達は山側に転移し、そこでフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)と合流した。
「フリーデリーケさん、初めまして。わたしはエニア、よろしくね」
 十色 エニア(ka0370)が柔らかく微笑むと、フリーデは「ああ、こちらこそ」と照れながら一礼した。
 そんな挨拶もそこそこに、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が情報を分析・整理する。
「まず、探すべきは青黒い甲冑の青年か。で、オウレル君の可能性あり、と」
「オウレルさんはお茶会の時に見た覚えがあるよ。友人が声をかけていたしね。思うところはあるけれど……」
 エニアが苦く呟く。それももう2年以上昔の話だ。おそらくは、と彼は顔を曇らせる。
 一方、気楽さを装うのはセレス・フュラー(ka6276)。
「まぁ、今回のお仕事は敵を倒すのが目的じゃないってことで。非力なあたしには都合がいいねぇ」
 しかし隠密行動で彼女の右に出る者はここにはいない。彼女は苦笑しながら続ける。
「いや、ほんとはこそこそ追跡とかあんまり性に合わないんだけど、派手に暴れられるほどあたし強くないし」
「何を言ってるんだか。セレス君の膝カックンの技術は敵に躱す暇も与えない非常に恐ろしい業だろう? 今回も頼りにしている」
 僅かに笑みを湛えつつ見つめるアルトにセレスは「ん、わかった」と姿勢を正した。
 続けてアルトが通信機器を示す。
「各自通信機器は持ったな? 捜索中は範囲を重ね過ぎないように。そして彼を見つけたら必ず連絡すること。いいな?」
「「了解」」
「それでは行こう。歪虚の塒を探しに」
 アルトの声に全員が深く頷くと、それぞれの持ち場へと向かっていった。


●探索路

 セレスはまず、ランタンを手に山道を中心に探索を開始した。
 時折現れる雑魔を剣で斬っては茂みに姿を隠し、甲冑の男を探す。
(オウレルには飛行能力がないはず。だから住民を攫うなら徒歩か乗り物を使うんじゃないかな。だから地上に注意して、と)
 そう考えつつ、後方で複数の乱れた足音がした瞬間彼女は疾走し雑魔の群れを旋風の如く斬り捨てた。
 交戦中にオウレルに見つかっては元も子もない。彼女の責任は重大だ。

 アルトは俊足を活かし、難所を主に探索した。
 彼女の脚は大岩や倒木をものともしない。
 全ての感情を抑えたアルトは死の風の如く、雑魔達を散華で一瞬にして粉砕する。
(オウレル君らしき奴を見つけたらセレス君が姿を隠して見張ってくれる。私は彼の気を惹き、撤退に追い込みアジトを見つける。それで間違いない筈だ)
 そんな迷いのない彼女を倒すべく、死体が群れを成して現れた。
 彼女は法術刀「華焔」を手に、むしろ大軍を潰す良い機会と考える。
「死体如きが私を止められると思うな!」

 その頃、アルマ・A・エインズワース(ka4901)は月眼点液βをさし、
 キャリコ・ビューイ(ka5044)およびフリーデとともに山道を探索していた。
 これは彼が「わぅーっ、フリーデさんも一緒に行くですー」と提案したからだ。
 フリーデは精霊だ。彼女がいるだけで暴食型の歪虚が集まりやすくなるが、件の男も何らかの反応を示すかもしれない。
 そして何より恋人であるフリーデを守るために。――彼は拳銃を強く握り問うた。
「フリーデさん、青黒い鎧の人の居場所、マテリアルでわかるです?」
「……山の東側と集落側に強いものがひとつずつ存在する。だが姿は見えぬゆえどちらとは断言はできない。すまない」
 実はフリーデのマテリアル感知能力は範囲内全ての負の力を感じてしまうものだ。それゆえに敵地での確実な感知は難しい。
「そうですか、山の東側と集落への道……キャリコさんはどう思います?」
 今まで黙って話を聞いていたキャリコに意見を求めるアルマ。するとキャリコが頭を抱えた。
「今回は対象を倒してはいけないのか……しまった、俺はこういうのは苦手だ。狙撃ならば自信があるのだが」
 そんな彼にアルマは敢えて微笑む。力を合わせれば大丈夫、と。
「皆で一緒に頑張るです! それでは皆さんに感知結果を伝えるですよ。山の東側と集落に繋がる道の両方に注意、です!」

 一方、オウレルは山に向かう道すがら突然喪失感に陥った。山に満ちていた負のマテリアルが消えていく。自分の手足同然の死体達が。
 彼は身を震わせた。
(まさか、ハンター達に悟られた!?)
 その瞬間、彼の頭にあの女の声が響く。あの冷たく艶めいた声が。
『オウレル、お前はエリザベートを愉しませる従者であり、彼女を守る盾。この言葉を魂に刻みなさい。剣妃オルクスの名のもとに』
 今は亡き剣妃に逆らえぬ猛烈な屈辱と強烈な罪悪感が彼の思考を消していく。
(僕はまたあの女に従わなくてはならないのか!? 畜生……)
 オウレルが突然幼い子供を抱きかかえる。その表情は感情が消えたようで声も冷たい。
「悪いが子供だけ預からせてもらう。お前達は家に戻れ、今すぐにだ」
「そ、そんな! 何故ですか!?」
「子供には悪いことはしない。ただ、ここから先には進むな。……殺すぞ」
 鋭い視線に怯える夫婦。あの目は本気だ。そう悟ると「お願いします、どうかうちの子を返して!」と何度も叫ぶ。しかしオウレルは振り向かず闇へ身を消した。
「死者どもよ、集え……我が力となるために」
 山中を進みながら彼が紡ぐ呪詛――次々と死者がその身を白い煙と変え、オウレルの口に吸いこまれていく。
 彼は子供を抱えながら腰に挿した剣を一振り抜き放った。

「ある程度の喧騒とこちらの優勢を示せれば出向く気にならないかな? そこから撤退せざるを得ない状況にして、尚且つ撒く必要がないと思わせられたら……」
 エニアは山に蠢く死体の群れをフォースリングを通したマジックアローで崩し、足早に探索する。
 そこに澪(ka6002)が合流し、エニアの魔法で撃ち逃した死体を刀で斬り崩した。
「エニア、死体達の動きにばらつきがある。それに数も少なくなってきた。つまりここには指揮者がいない?」
「それはどうかな。そう見せかけているだけかもしれない。今は青黒い鎧の人を見つけるまで戦うしかないと思うよ」
「わかった。……ねぇ、あなた。匂いでわかる? 歪虚の住処」
 連れてきた犬に尋ねる澪。だが犬は怯え、澪達の後ろで震えるだけだ。
「そっか。ここは負のマテリアルが濃いから。スマホも……反応なし」
 澪が魔導スマートフォンを確認する。それは歪虚接近時にノイズが入るという噂によるもの。現実にはその現象は発生しないが、今の澪はそれを頼りにするほど不安を覚えていた。
(人攫い……あまり良い感じはしない)
 警戒しながら次々と襲い来る死体達を倒していく澪とエニア。
「まずは見つける前から撤退されたら意味がない。敵を倒すにしても、派手な技は使わないでおこう」
「わかった、それなら周囲を確認してくる」
 澪はそう言って木に登り、麓から周辺までを見渡した。
 しかし夜闇の中では住民の減った集落からいくつかの光が見えるだけだ。
 澪はエニアに首を横に振ると、次の探索地に向けて走り出した。


●遭遇

 ハンター達が奮戦する最中、靄が地から湧き出すように宙を漂い始めた。セレスが小声で通信を開始する。
「皆、聞こえる? 突然あたしの周りに靄があふれ出した。それも負のマテリアルの匂いがするやつ」
「セレス君、それは件の男かもしれない。先ほどアルマから連絡があっただろう? 集落側にマテリアル反応があったと。確認を頼めるか?」
「いいよ。また連絡する」
 セレスはアルトに返信し、通信を切った。そしてランタンを消すと隠の徒とナイトカーテンを発動する。暗視機能付きマスク「スターゲイザー」ともとより鋭敏な視覚を持つ彼女に抜かりはない。
(青黒い甲冑に、帝国軍の腕章。情報通りだね。あとはこいつを追跡しながら皆を呼んで追い詰めるだけさ)
 息を潜めつつ口角を吊り上げるセレス。
 だが次の瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。
 男の脇に抱えられた小さな背中が見えたのだ。
 セレスは急いで通信機器に手を掛けた。
 同時に仲間達も靄の方向に向かい走り出す。
 アルトは高木に登った瞬間に最短ルートを導き出し、靄の中心へ駆けた。
(オウレル君、今度こそ……これ以上の過ちを重ねさせはしない!)

 アルトが踏鳴で駆け抜る中、セレスの報告を受けたアルマ達は運良くオウレルへの接近に成功し、足止めを開始した。
 アルマはまず敵意を感じさせない笑みを湛え、お辞儀をする。
「歪虚のお兄さん、こんばんはですー」
「……」
「わぅ? なんだかお兄さん、嫌な子の感じしないです。初めましてですー。僕、アルマですっ。こちらが僕の友達のキャリコさんでー、こっちが僕の恋人の……わふふ、フリーデさん! よろしくですっ」
「……ハンターと精霊がこの山で何をしている」
 感情のない渇いた声。アルマは「わふ……」と残念そうに俯くも、そのまま続けた。
「あの、そのお子さんだけは開放してください。お兄さんは強い歪虚だから。抱きっぱなしは危ないです」
「知るか。僕は主の命に沿って動いているだけだ。それに……」
 その瞬間、マジックフライトで飛行してきたエニアと澪が着陸した。
 澪の「先手必勝」の声が響くと同時に、瞬時に仲間達の体に瞬発的なマテリアルの高まりが発生する。
 そんな中でエニアはマスクを外し、素顔を見せた。
「オウレルだよね? 私はエニア。以前の茶会にいたから面識はあるはず」
「エニア? ああ、あの女が『なよいの』と言っていた奴か」
「エリザベートはまだ殺戮を繰り返しているの?」
「あの悪趣味を易々と辞めると思うか?」
「そう。でもオウレルもそれに加担してるのよね? 私はそれが許せない!」
「ふ、こちらには人質がいることを忘れるな。迂闊に動くならこの子供を盾にする」
 エニアが息を呑みオウレルと睨みあう中で、澪はオウレルの剣を持つ腕を狙い地を蹴った。
 しかしオウレルは澪の攻撃を柳のように躱し、流れるような動作で彼女の脇腹に蹴りを入れる。
「かはっ!?」
「この靄の中では僕は無数の目を持っている。お前達の思い通りにいくと思うなよ」
 そこに「それはどうかな」と言い放ち、今まで姿を消していたセレスがオウレルを突き飛ばした。彼の腕から子供を奪って。
「これで人質はなし。存分にやりなよアルトくん!」
 するとアルトが前方の茂みを一瞬で駆け破り、オウレルの胸元を大きく斬り裂いた。
「久しぶりだな、イケメン君?」
「お前は『赤いの』か。しかも以前より格段に力を上げている!?」
 オウレルが息も荒く死者達を召喚した。それらはオウレルを守る壁の如く周囲を囲む。
 その姿にアルトが「ああ、手遅れか」とだけ呟くと静かに息を吐き、再び武器を構えた。
 その間にキャリコはバリスタ「プルヴァランス」を構え、矢を全て天に向ける。
「アルマ、重ねて攻撃するぞ! フォローなら任せろ!」
「はい! 雑魔相手なら容赦しませんですっ!」
 キャリコのリトリピューションが死者達を撃ち砕き、辛うじて動きのある者の自由をも奪う。
 そこにアルマの魔導拳銃「ヘキサグラム」によるデルタレイ6発がとどめを刺し、フリーデの雷が死者の群れを容赦なく破砕する。
「さすがフリーデさん、愛してます!」
 無邪気なアルマにフリーデが『ば、馬鹿者! ここは戦場だぞ、斯様な言葉は慎め!』と赤面した瞬間。
 ――どごォッ!!。
 ハンター達の前に巨大な物体が突然地に叩きつけられた。それと同時に軽薄な声が響く。
「帰ってくるのが遅いと思ったら、こんなとこで油売ってたワケ? やけに外が騒々しいしさぁ」
 愛くるしい容姿に深紅のミニドレスとハイヒール。
 手配書に掲載されていた写真とは些か姿が異なっていたが、アルトとエニアには解った。
 それが吸血姫エリザベートだと。
「エリザベート!!」
 エニアが咄嗟にズボールフィーとメテオスウォームの術式を唱え始める。今度こそ仕留めてみせると。
 アルマも銃を構えた。彼の瞳に迷いはない。
「このお姉さん、悪い匂いしかしないです!」
 しかしエリザベートはオウレルの腕をとると笑いながら再び上昇した。
「あーあ、あんた達のせいでここの拠点を捨てるハメになったわ。こんだけの騒動になるとあの間抜けな集落の連中も気づくだろうし。ま、いいわ。あたし、幾つも拠点あるから」
「逃げるのか!?」
 アルトが高木を蹴り上げ、高く上昇するエリザベートの腹に華焔を突き刺す。しかしそこから垂れた液体が傷口を覆うと刺突の痕跡が消え去っていた。
「!?」
「赤いの、やるじゃない。でもねぇ、あたしは2年間、あんた達をぶっ殺すために力を高めてきた。次は全員ミンチより酷い死体にしてやるから楽しみにしててよね、キャハハ!」
 驚くアルトを蹴り落とし、高速で宙に姿を消すエリザベート達。
 幸いアルトは茂みに落ちたため軽傷で済んだが、深紅の瞳に宿る強烈な憎悪を確と感じていた。


●託されたもの

 戦いは終わった。突然の乱入者によって打ち切られたのだ。
 疲労感に打ちのめされたハンター達が座り込む中で、救助された子供がおずおずと何かの断片を差し出す。
「助けてくれてありがとう。それとこれ……あのお兄ちゃんから渡された」
「お兄ちゃん? オウレルのことか」
 キャリコがそれを受け取った。どこか馴染みのある板状のもの。
 そのほとんどが欠けていたが、板に打たれた番号だけなら判別できる。そうだ、これは。
「これはハンターのIDカードの欠片だな。幸い番号だけは読める。後でオフィスで照合してみよう。エリザベートによる犠牲者の遺品かもしれん」
 そう言ってキャリコが子供を背負う。まずは集落にこの子を届け、事の次第を報告しなければ。

 ――山を下りる一行の言葉は少ない。そんな中で澪が呟く。
「私達……どこで間違ったんだろ」
 それは僅かなすれ違いによる失敗。
 もとより青黒い甲冑の男は集落に現れるといわれていたのだから、
 山だけではなく集落側にも気をつけていれば結果は違ったかもしれない。
 そしてエリザベートに勘付かれないよう気をつけていれば。
 何はともあれ、子供を救えたことと、何らかの手掛かりが手に入ったことが彼らの救いだった。

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参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
アルマ・A・エインズワース(ka4901
エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/04/02 11:51:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/27 23:08:21
アイコン 相談卓
通りすがりのSさん(ka6276
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/04/01 22:05:43