ゲスト
(ka0000)
【王戦】海に響く慟哭
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/07 09:00
- 完成日
- 2019/04/11 21:14
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――歴不明のある日
そこは海に面した村だった。
漁を行い、得られた海産物を加工し、遠くの街で売る。
得られる財貨とはそういう程度のものだ。
質素ながらも、村人達は海と共にあった……“文明”がやってくるまでの間は。
「大いなる海の精霊よ。我らに豊かなる恵を、お与えくださいますようお願い申し上げます」
美しい巫女が海に向かって突き出すように作られた神廊で祈る。
村には古くから、海を祀っていた。巫女は、神事を行う者であると同時に、海を守る者でもあった。
「…………」
巫女は祈りの姿勢のまま微動だにしなかった。
いつもは聞こえる海の精霊の声が、いつまで経っても聞こえてこない。
海の精霊に嫌われてしまったのだろうかと思う。
でも、海の精霊は“私達”を祝福してくれたのだ。
人は人として生きる事を推してくれたのは、他の誰でもない。心優しき海の精霊だった。
「ここに居たのか……精霊様の声は聞こえたかい?」
愛する人の声が巫女に届き、振り返った。
そこには青髪青瞳の好青年の姿があった。青く、長い髪が潮風に揺れている。
「ティオリオス……私にはなにも……精霊様は、私の事が……」
「何を言っているんだ。精霊様が“俺達”を繋いでくれたんだ。君の事を嫌う事はあり得ない」
「では、なぜ、精霊様の声が聞こえないのでしょうか?」
巫女は涙を浮かべる。
青年は険しい視線を海原に向けた。穏やかでありそうで――何か辛そうにも見える。
「きっと、何か原因があるに違いないよ」
「でも、私達ではどうしようも……調べたりできるの?」
「分からない。けど、異変があるとすれば、向こう山じゃないかと思うんだ」
村長の息子である青年の耳には“文明”の到来が入っていた。
向こう山に、異人達が住みだしたらしいのだ。村にも時折、異人達がやってくる――もっとも、良い印象はない。
彼奴らはゴミや異物を投げ捨て、奴隷を虐め、常に横柄な態度だからだ。
「漁師が言っていたんだ。最近、海の汚れが酷いって。どうやら、川から汚れが入ってきてると」
「村はずれの川から?」
その川は向こう山が上流になっていた。
となると、青年の予感というものは正しいのかもしれない。
「あぁ。だから、俺は調べてこようと思う。そして、川を汚す原因が分かれば、止めてくるよ」
「大丈夫?」
「任せて。だから、君はここで精霊様からのお告げを待ってて欲しい。きっと、精霊様もこの事態を良くないと思っているはずだから」
青年は愛する人に心配かけないようにと爽やかな笑顔を浮かべた。
神霊樹の記録によると、この後、村には悲劇が訪れる。
野盗か何かの集団により、村人らは虐殺され、その血で海が真っ赤に染まった。
「古い記録であり、パルムもずっと見ていたようではないので、断片的なんですよね」
そう言ったのは騎士ノセヤだった。
テーブルの上にずらりと並ぶ資料の山。莫大な神霊樹のライブラリの中から、この記録を引き出すのに多大な労力を費やしたのだろう。
依頼を受ける為に集まったハンター達をノセヤは順に見渡す。
「歪虚ティオリオスは倒さなければならない敵である事は確かです。ですが、その正体を知らなくて良いという事でもないはずです」
傲慢――アイテルカイト――ではなく、強欲――ドラッケン――に属しているという事は分かっている。
しかし、それ以外の情報は分からないままだ。人間体の姿に意味があるのか、海となにか関係があるのか。
薄っすらと見えたという大型龍種の輪郭というのも気になる。
「ライブラリの中に入っての行動はお任せします。悲劇を防ぐ為に行動しても、何があったのか知る為、傍観に徹していても構いません」」
当然の事ながら、他にも出来る事はあるかもしれない。
例えば、海が汚れた原因を調べに行く――という事も。
巫女に出会って、海の精霊について聞くという事も。
「それでは、皆さん、よろしくお願いします」
ライブラリにアクセスしたハンター達は海に面した村を見下ろす小高い丘に降り立った。
村を眺めながら周囲を見渡すと、少し大きめの川が流れていた。幾度も蛇行しながら、その川は山へと向かっている。
「あれま。珍しい旅人かい? それとも、向こう山の異人かい?」
話し掛けてきたのは村人のようだった。
どうやら、山菜を取っていたようだ。籠には見たこともない野草が沢山摘まれていた。
「泊まる場所を探しているなら、村に寄ったらいい。今は漁の時期じゃねぇから、空いている所もあるだ」
そう言って村人は、よいしょと掛け声と共に籠を背負う。
そのまま、フラフラと村に向かって歩き出したのだ。
さて、どうしたものだろうか。このまま村に行ってもいいだろうし、向こう山に行ってもいい。
ハンター達はお互いの顔を見合わせたのであった。
そこは海に面した村だった。
漁を行い、得られた海産物を加工し、遠くの街で売る。
得られる財貨とはそういう程度のものだ。
質素ながらも、村人達は海と共にあった……“文明”がやってくるまでの間は。
「大いなる海の精霊よ。我らに豊かなる恵を、お与えくださいますようお願い申し上げます」
美しい巫女が海に向かって突き出すように作られた神廊で祈る。
村には古くから、海を祀っていた。巫女は、神事を行う者であると同時に、海を守る者でもあった。
「…………」
巫女は祈りの姿勢のまま微動だにしなかった。
いつもは聞こえる海の精霊の声が、いつまで経っても聞こえてこない。
海の精霊に嫌われてしまったのだろうかと思う。
でも、海の精霊は“私達”を祝福してくれたのだ。
人は人として生きる事を推してくれたのは、他の誰でもない。心優しき海の精霊だった。
「ここに居たのか……精霊様の声は聞こえたかい?」
愛する人の声が巫女に届き、振り返った。
そこには青髪青瞳の好青年の姿があった。青く、長い髪が潮風に揺れている。
「ティオリオス……私にはなにも……精霊様は、私の事が……」
「何を言っているんだ。精霊様が“俺達”を繋いでくれたんだ。君の事を嫌う事はあり得ない」
「では、なぜ、精霊様の声が聞こえないのでしょうか?」
巫女は涙を浮かべる。
青年は険しい視線を海原に向けた。穏やかでありそうで――何か辛そうにも見える。
「きっと、何か原因があるに違いないよ」
「でも、私達ではどうしようも……調べたりできるの?」
「分からない。けど、異変があるとすれば、向こう山じゃないかと思うんだ」
村長の息子である青年の耳には“文明”の到来が入っていた。
向こう山に、異人達が住みだしたらしいのだ。村にも時折、異人達がやってくる――もっとも、良い印象はない。
彼奴らはゴミや異物を投げ捨て、奴隷を虐め、常に横柄な態度だからだ。
「漁師が言っていたんだ。最近、海の汚れが酷いって。どうやら、川から汚れが入ってきてると」
「村はずれの川から?」
その川は向こう山が上流になっていた。
となると、青年の予感というものは正しいのかもしれない。
「あぁ。だから、俺は調べてこようと思う。そして、川を汚す原因が分かれば、止めてくるよ」
「大丈夫?」
「任せて。だから、君はここで精霊様からのお告げを待ってて欲しい。きっと、精霊様もこの事態を良くないと思っているはずだから」
青年は愛する人に心配かけないようにと爽やかな笑顔を浮かべた。
神霊樹の記録によると、この後、村には悲劇が訪れる。
野盗か何かの集団により、村人らは虐殺され、その血で海が真っ赤に染まった。
「古い記録であり、パルムもずっと見ていたようではないので、断片的なんですよね」
そう言ったのは騎士ノセヤだった。
テーブルの上にずらりと並ぶ資料の山。莫大な神霊樹のライブラリの中から、この記録を引き出すのに多大な労力を費やしたのだろう。
依頼を受ける為に集まったハンター達をノセヤは順に見渡す。
「歪虚ティオリオスは倒さなければならない敵である事は確かです。ですが、その正体を知らなくて良いという事でもないはずです」
傲慢――アイテルカイト――ではなく、強欲――ドラッケン――に属しているという事は分かっている。
しかし、それ以外の情報は分からないままだ。人間体の姿に意味があるのか、海となにか関係があるのか。
薄っすらと見えたという大型龍種の輪郭というのも気になる。
「ライブラリの中に入っての行動はお任せします。悲劇を防ぐ為に行動しても、何があったのか知る為、傍観に徹していても構いません」」
当然の事ながら、他にも出来る事はあるかもしれない。
例えば、海が汚れた原因を調べに行く――という事も。
巫女に出会って、海の精霊について聞くという事も。
「それでは、皆さん、よろしくお願いします」
ライブラリにアクセスしたハンター達は海に面した村を見下ろす小高い丘に降り立った。
村を眺めながら周囲を見渡すと、少し大きめの川が流れていた。幾度も蛇行しながら、その川は山へと向かっている。
「あれま。珍しい旅人かい? それとも、向こう山の異人かい?」
話し掛けてきたのは村人のようだった。
どうやら、山菜を取っていたようだ。籠には見たこともない野草が沢山摘まれていた。
「泊まる場所を探しているなら、村に寄ったらいい。今は漁の時期じゃねぇから、空いている所もあるだ」
そう言って村人は、よいしょと掛け声と共に籠を背負う。
そのまま、フラフラと村に向かって歩き出したのだ。
さて、どうしたものだろうか。このまま村に行ってもいいだろうし、向こう山に行ってもいい。
ハンター達はお互いの顔を見合わせたのであった。
リプレイ本文
●出発
神霊樹のライブラリにダイブしたハンター達は、舞台となる漁村を見下ろす丘へと降り立った。
時音 ざくろ(ka1250)が右手を高々と挙げ、恒例となった宣言をする。
「神霊樹にダイブし、歪虚ティオリオスの過去を探る冒険だよ!」
騎士ノセヤからの依頼は、難敵である歪虚ティオリオスの情報を神霊樹の中から得てくる事だ。今後の戦闘に役立つものがあれば、良し。得られなくとも、その本質や性質が得られれば、それだけでも意味はあるはず。
「ティオリオスさんが歪虚になった理由……精霊や竜が関係しているのでしょうか……?」
Uisca Amhran(ka0754)が首を傾げる。
強欲――ドラッケン――はドラゴンの要素を身体的な特徴として持つ歪虚群だ。
海や水の力を扱うからには精霊的な存在かもしれないし、その姿から竜とも関係があるのかもしれない。
「歪虚化した理由も分かればいいですけど」
心優しき巫女の言葉にキヅカ・リク(ka0038)は頷きながら漁村に視線を向けた。
「これが、カノンちゃんたちが交戦したっていう、ヴォイドが生まれたかもしれないデータ……」
報告書を確認する限り、かなりの強敵であるのは確かな事だ。
戦闘区域を水中とされては、守護者とはいえ、生身で戦い続けるのは困難だろう。
そんな存在が、傲慢王との戦いの時に姿を現せば――恐ろしい結果になるのは明らかだ。
「個体の能力は生前の特技や知識、趣向に大きく依存する。そいつを形成しているのはなんだ……」
だからこそ、そのデータを探しに彼はダイブしたのだ。
漁村に向かって、さっそく歩き出そうとしたリュー・グランフェスト(ka2419)は後頭部を掻きながら言葉を口にした。
「歪虚ティリオス、か……ん? ティリオス?」
「ティオリオス、よ」
言いにくい名前だったのか、リューの疑問にレベッカ・アマデーオ(ka1963)が答える。
「そうだったな。さっそく、村で調査といくか」
「そうだね。それにしても、見た感じは普通の漁村なんだけど……なんだろこの違和感……」
海からは、鼻を突く、異臭のようなものを感じる。
なんにせよ、リューの言った通り、村で調査すればいい事だ。
歩き出した一行を後ろから、ざくろが声を掛けた。
「村の事はみんなに任せて、ざくろは向こう山の街に行ってみるね」
向こう山にも何か得られる事があるのかもしれない。
頷いた仲間達に手を振って、ざくろは一人、向こう山に向かって歩き出すのであった。
●収集
村に到着したキヅカは精霊の話や言い伝えなどを中心に聞きまわっていた。
共通するのは“海龍”の話だった。なんでも、この辺りの海は、昔から言い伝えがあるらしい。
「“海龍”の話は仲間に任せるとして……」
独り言を呟き、彼は伝承をより深く聞き込む。
巨大な大型龍種の輪郭――伝承の話を聞くにあたり、やはり、繋がりがあるのだろう。
キヅカは手掛かりを求めて行きついた先、ある老婆に辿り着いた。
なんでも、先々代の巫女というらしい。
「海が荒れた時、どのように、鎮めていたのですか?」
「それはの、嵐の間、ずっと舞いを捧げておった」
「ずっと……飲食もせずにですか?」
言葉の重みにゴクリとキヅカは生唾を飲み込む。
老婆は優し気に口元を緩め、頷いた。
「そうじゃ、ずっと一人で食べも寝もせずに、舞い続けるのじゃ」
それが如何に困難な事か。
嵐が止むまで、ひたすらに……それが“可能”なのか、キヅカには判断がつかなった。
海に突き出た神廊の先でUiscaは巫女と呼ばれる女性と一緒だった。
巫女同士という事もあって、美しい金髪と紅い瞳の巫女とは、すぐに打ち解けられた。
「それで、ナーシャさんは、海の精霊さんの声が聞こえなくなったのですか」
「Uiscaさんは……聞こえますか?」
ナーシャと名乗った巫女が海に向かって腕を伸ばした。
その海は――濁っていた。浮遊物がぶつかり合って聞こえる不協和音が悲鳴のようにも聞こえる。
浄化を試みようと思ったUiscaだったが、それは意味がないと判断した。
この汚れは負のマテリアル由来のものではない。人が犯した過ちそのものだ。
「この汚れはどこから?」
「多分、向こう山ではないかと……今晩あたり、恋人が確かめに……」
暗くなりそうな空気を読み取って、Uiscaは明るく手を叩いた。
「恋人さんがいるのですね。私と同じです。どんな方なんですか?」
「え、えと……村長の息子で……とても、凛々しくて、優しい人なのです」
恥ずかしそうに巫女が答える――が、やはり、反撃もある。
「Uiscaさんの恋人の方こそ、どのようなお人なんですか? どこで出会ったのですか?」
「そ、それは、その――」
頭の中に浮かんだ恋人とその出会いを思い出し、Uiscaも顔を赤く染めるのであった。
酒場ではリューがリュートの音色を響かせていた。
珍しかったのか、続けて曲を弾いて欲しいという人が多く、おかげで聞き取り自体はあまり出来なかった。
もっとも、そのおかげで、レベッカが情報を集めやすかったという訳ではあるのだが。
「古い友達探しててさ。見たことないかって思ったんだけど……」
「その風貌といや、ティオリオスしかいねぇな」
「そうなんだ。今、どこにいるのかな?」
わざと可愛げな表情を浮かべて訊ねるレベッカ。
本業(海賊)なら身体(物理)で聞き出すだろうが、流石に善良な村民にそんな事は出来ない。
「そういえば、向こう山に行くっていってたか」
村人は思い出すように、そう答える。
その時、曲が終わり、ようやく解放されたリューが席に戻ってきた。村人と入れ替わるように椅子に座ったリューにレベッカは飲み物を渡す。
「一曲のはずが、まさか、十数曲もお願いされるなんて、まいったぜ」
「おつかれさん。でも、おかげで大分と情報が集まったよ」
「それは、なによりだ……で、ティオリオスという歪虚と同じ名前の人間は、どんな奴なんだ?」
その質問にレベッカは頷いてから、声を潜めて答える。
村長の息子という事と、正義感溢れる評判の良い好青年だという事。そして、巫女との婚約が決まっているという。
容姿は話を聞いただけだと分からないが、想像するに、レベッカが対峙した歪虚と同じだろう。
「巫女との婚約を反対する者は?」
「調べた範囲では、居ないかな。むしろ、誰しも歓迎しているみたいだけど」
「という事は、少なくとも、現時点では、その村長の息子が歪虚化する動機はない訳だ」
「……神霊樹の記録では、村には悲劇が訪れる……らしいけど、それが切っ掛けという可能性もあるのかな?」
そう言ったレベッカ自身が首を傾げる。
村に本人がいないのでは、その線も怪しい。
「確か、野盗か何かに襲われて、村人達は虐殺されるんだったよな」
テーブルに立てかけてある剛刀の柄に触れるリュー。
そういった状況になったら、容赦なく刀を振るうつもりだからだ。
「それじゃ、襲撃までここで待たせて貰おうかしら」
レベッカは給仕に飲み物を注文するのであった。
●襲撃
「村が完全に包囲されている。逃げ場はない!」
キヅカが無線で仲間に呼び掛けながら、神殿から神廊に繋がる出入口で文字通り踏ん張っていた。
襲撃前に巫女の近くに移動していて正解だった。Uiscaに巫女の護衛を任せながら、脱出が図れるからだ。
「ナーシャさんは私から離れないで下さいね」
「はい……あの……Uiscaさん達は何者なのですか?」
巫女は驚きながら訊いてくる。
ハンターという概念はないようだが、キヅカとUiscaの二人が只者ではないとは感じたようだ。
Uiscaが繰り出すクルセイダーの魔法は、襲撃者に対し圧倒的だった。
「海は荒れていて出られませんから神殿を奪還して避難所にしましょう」
「分かった。イスカさんは巫女さんを」
二人のやり取りを見ていた巫女がポンと手を叩く。
「あ。もしかして、Uiscaさんの言っていた恋人ってこの人ですか?」
「「違います」」
キヅカとUiscaの声が重なった。
苦笑を浮かべながら神殿の中へと踏み込んだキヅカを見つけ、野盗みたいのが複数人襲い掛かってくる。
特別なメガネに手を触れるキヅカ。機導砲を強化する能力を持った眼鏡だ。
「いくぞ! キヅカビーム!」
やけくそとばかり言い放ったが――眼鏡からは何も発射されなかった。
暫く時が止まったように誰しも微動だにしなかったが、キヅカはゆっくりと聖機剣を掲げた。
「未来を照らす“流星”となるべく、今ここにその力を示せ! マグダレーネ・メテオール!」
なんか勇ましい台詞を叫び、キヅカは斬り込んでいく――単にスキルセットをミスした為、物理攻撃に切り替えただけだが。
「襲撃者はキヅカさんに任せて、私達は受け入れの準備をしましょう」
今日の事は見なかった事にしようと心の中で呟きながら、Uiscaは巫女に言うのであった。
見境なく襲ってきた野盗を攻性防壁で吹き飛ばすレベッカ。
「……山賊や盗賊にしちゃ装備が上等すぎる………となると……」
何かに勘付いたのか、踵からマテリアルを噴射すると、建物の屋根へと登る。
襲撃は全方位からだとすぐに理解できた。誰も逃がさないつもりらしい。
「どうだ?」
建物の下で剛刀を振るうリューが声を掛けてきた。
彼が刀を振ればそれだけで、野盗が吹き飛び――動かなくなる。
「一人確保して。確保出来たら、他はどーでもいいよ」
「分かった。じゃ、適当に手足を潰しておく」
聞きようによってはどっちが野盗か分からない会話だが、襲われているのはハンター達なのだ。
それに、村の虐殺を見逃すなど、ハンターとしてできる訳がない。
「村人には神殿に避難するように伝えて」
「キヅカ達が頑張ってるみたいだからな」
「これだけの規模……しかも、逃がさないようにって、絶対、何かあるわ」
襲撃にはリスクが伴うものだ。逃げ惑う人々を無駄に殺しにいく必要はないはずだ。
それなのに、わざわざ包囲戦を選んでくるという事は……。
(村を壊滅させた理由を知らされたくないから……?)
レベッカはそう推測しつつ、建物から降りると村人に襲い掛かる野盗に機導術を撃ち込んだ。
一方、リューは次から次に向かってくる野盗共を斬り伏せ続けていた。
「腕は大した事ないけど、装備だけはいいな」
野盗はよく鍛えられている鉄製の武器と鎧で武装していた。
まるで、貴族の私兵じゃないかと思う。この時代がいつなのか分からないが、遥か昔であれば、十分過ぎる戦力と成り得るだろう。
●結末
「別に舌噛んで死んでもいいよ」
捕らえた野盗に残虐な拷問を今から始めようとしたレベッカだったが、あっさりと野盗は降参した。
関節も外して耳も焼いてやろうと思っていただけに……根性の無い野盗にがっかりする。
「町長から言われたんだ。一人残らず殺せって」
「町長ってのは誰だ?」
リューが刀先を野盗の首元に突き付ける。
「こっからでも見えるだろ! 向こう山の町だよ!」
「なんで、この村を襲ったんだ?」
「嘘言ったら……分かってるわよね」
「詳しい事は分からねぇよ! 町長から命令されただけなんだ!」
レベッカが手にしている焼き金棒に涙を流しながら叫ぶ野盗。
どうやら、本当のようだ。詳細は町を調べにいった仲間に任せるしかないだろう。
「剣が鈍らないような結末にならなきゃいいけど……」
向こう山を見つめながらレベッカはそう呟いた。
神殿には沢山の村人が集まっていた。
犠牲者は居たが、襲撃の規模を考えれば、生き残った事自体が、奇跡ともいえよう。
「ナーシャ!」
「ティオリオス!」
神殿の扉が開き、一人の旅姿の青年が飛び込んできた。
応えるように巫女が迎える。二人の抱擁を眺めながら、キヅカは誰にも聞こえないようにUiscaに訊ねた。
「姿や声とか……どう?」
「間違いないですね。私達が戦った歪虚ティオリオスです」
「そっか。という事だと、このライブラリ上では歪虚化しなかったという事かな」
得られた情報は限られている。
だが、海の精霊が、“海龍”として奉られていたという情報から、推測はできなくはない。
「僕達が介入しなければ、巫女は襲撃で死んでいた。時間的にはあの青年が戻ってきた時、村は壊滅していたはずだ」
「恋人の死に嘆き……その後、精霊さんと接触があった?」
「全てを捧げて“復讐”を望んだ……それを精霊は受け入れたとしたら――」
真相は分からないが、きっと、青年と精霊の間に、何かがあったのだろう。
●要因
一行から離れたざくろは向こう山へと向かっていた。
途中、ティオリオスと名乗る青年を見つけたが、村の方から火の手が上がり、青年は慌てて戻って行った。
「向こう山に行く前に戻ってったけど……うーん……でも、見た所、川が随分と汚れてるみたいだから、やっぱり町に行こうかな」
そんな訳で悩みつつも川沿いを歩き続ける。
川の水質は劣悪の一言だった。
(襲撃と水質汚染の件は無関係じゃない気がしてきた)
もし、向こう山の町が汚染の原因だったとして、青年はそれを止めに行ったのではないだろうか。
どこで中二病的な性格になってしまったかは分からないが、それは推測が出来た。
(彼の身にも悲劇が起き……それによって何者かが、彼に似た姿の歪虚となったとか)
幾つもの岩や崖を越えて、ざくろは少しずつ町へと近づく。
やがて、町を遠くに見える峠に差し掛かって、ざくろは息を飲んだ。
それまで深い森が続いていたのに、この峠から見える景色はハゲ山ばかりだったのだ。町から、煙が吐き出され続けている。
「鉱山? そうか、これで川が汚染していたんだ!」
川は海まで流れている。
海が汚れてしまえば、漁村は生活に困る事になる。漁村からの苦情に対して、町が口封じする動機はあるはずだ。
ざくろは駆け出した。ライブラリに留まれる時間は限られているからだ。
(水を操るのは海の精霊の力とかも、取り込んでいるんじゃないだろうかと思ったけど、きっと、逆だ……)
唐突に足元の砂利が滑って、ざくろは盛大に転んだ。
苦痛に顔をしかめながらも魔導剣を杖代わりに立ち上がる。
(ティオリオスという青年を精霊が取り込んだんだ)
海を汚した人間に、失望と絶望を抱いた精霊がティオリオスという名の青年を取り込んだのだろうか。
それが事実であれば、自分達が戦ったのは“元”精霊という事になる。大型龍種の姿が見えたのは、元々が精霊としての龍だったとすれば辻褄が合うからだ。
「きっと、街で汚染を止めようとした事で起きたいざこざが、村の悲劇を招いて、精霊を歪虚へ変える引き金になったんだ」
町に到着したざくろは、村が無くなって利する人が町に居るのか探そうとした。
誰でもいいから声を掛ける――瞬間、ライブラリからざくろは帰還したのであった。
おしまい。
神霊樹のライブラリにダイブしたハンター達は、舞台となる漁村を見下ろす丘へと降り立った。
時音 ざくろ(ka1250)が右手を高々と挙げ、恒例となった宣言をする。
「神霊樹にダイブし、歪虚ティオリオスの過去を探る冒険だよ!」
騎士ノセヤからの依頼は、難敵である歪虚ティオリオスの情報を神霊樹の中から得てくる事だ。今後の戦闘に役立つものがあれば、良し。得られなくとも、その本質や性質が得られれば、それだけでも意味はあるはず。
「ティオリオスさんが歪虚になった理由……精霊や竜が関係しているのでしょうか……?」
Uisca Amhran(ka0754)が首を傾げる。
強欲――ドラッケン――はドラゴンの要素を身体的な特徴として持つ歪虚群だ。
海や水の力を扱うからには精霊的な存在かもしれないし、その姿から竜とも関係があるのかもしれない。
「歪虚化した理由も分かればいいですけど」
心優しき巫女の言葉にキヅカ・リク(ka0038)は頷きながら漁村に視線を向けた。
「これが、カノンちゃんたちが交戦したっていう、ヴォイドが生まれたかもしれないデータ……」
報告書を確認する限り、かなりの強敵であるのは確かな事だ。
戦闘区域を水中とされては、守護者とはいえ、生身で戦い続けるのは困難だろう。
そんな存在が、傲慢王との戦いの時に姿を現せば――恐ろしい結果になるのは明らかだ。
「個体の能力は生前の特技や知識、趣向に大きく依存する。そいつを形成しているのはなんだ……」
だからこそ、そのデータを探しに彼はダイブしたのだ。
漁村に向かって、さっそく歩き出そうとしたリュー・グランフェスト(ka2419)は後頭部を掻きながら言葉を口にした。
「歪虚ティリオス、か……ん? ティリオス?」
「ティオリオス、よ」
言いにくい名前だったのか、リューの疑問にレベッカ・アマデーオ(ka1963)が答える。
「そうだったな。さっそく、村で調査といくか」
「そうだね。それにしても、見た感じは普通の漁村なんだけど……なんだろこの違和感……」
海からは、鼻を突く、異臭のようなものを感じる。
なんにせよ、リューの言った通り、村で調査すればいい事だ。
歩き出した一行を後ろから、ざくろが声を掛けた。
「村の事はみんなに任せて、ざくろは向こう山の街に行ってみるね」
向こう山にも何か得られる事があるのかもしれない。
頷いた仲間達に手を振って、ざくろは一人、向こう山に向かって歩き出すのであった。
●収集
村に到着したキヅカは精霊の話や言い伝えなどを中心に聞きまわっていた。
共通するのは“海龍”の話だった。なんでも、この辺りの海は、昔から言い伝えがあるらしい。
「“海龍”の話は仲間に任せるとして……」
独り言を呟き、彼は伝承をより深く聞き込む。
巨大な大型龍種の輪郭――伝承の話を聞くにあたり、やはり、繋がりがあるのだろう。
キヅカは手掛かりを求めて行きついた先、ある老婆に辿り着いた。
なんでも、先々代の巫女というらしい。
「海が荒れた時、どのように、鎮めていたのですか?」
「それはの、嵐の間、ずっと舞いを捧げておった」
「ずっと……飲食もせずにですか?」
言葉の重みにゴクリとキヅカは生唾を飲み込む。
老婆は優し気に口元を緩め、頷いた。
「そうじゃ、ずっと一人で食べも寝もせずに、舞い続けるのじゃ」
それが如何に困難な事か。
嵐が止むまで、ひたすらに……それが“可能”なのか、キヅカには判断がつかなった。
海に突き出た神廊の先でUiscaは巫女と呼ばれる女性と一緒だった。
巫女同士という事もあって、美しい金髪と紅い瞳の巫女とは、すぐに打ち解けられた。
「それで、ナーシャさんは、海の精霊さんの声が聞こえなくなったのですか」
「Uiscaさんは……聞こえますか?」
ナーシャと名乗った巫女が海に向かって腕を伸ばした。
その海は――濁っていた。浮遊物がぶつかり合って聞こえる不協和音が悲鳴のようにも聞こえる。
浄化を試みようと思ったUiscaだったが、それは意味がないと判断した。
この汚れは負のマテリアル由来のものではない。人が犯した過ちそのものだ。
「この汚れはどこから?」
「多分、向こう山ではないかと……今晩あたり、恋人が確かめに……」
暗くなりそうな空気を読み取って、Uiscaは明るく手を叩いた。
「恋人さんがいるのですね。私と同じです。どんな方なんですか?」
「え、えと……村長の息子で……とても、凛々しくて、優しい人なのです」
恥ずかしそうに巫女が答える――が、やはり、反撃もある。
「Uiscaさんの恋人の方こそ、どのようなお人なんですか? どこで出会ったのですか?」
「そ、それは、その――」
頭の中に浮かんだ恋人とその出会いを思い出し、Uiscaも顔を赤く染めるのであった。
酒場ではリューがリュートの音色を響かせていた。
珍しかったのか、続けて曲を弾いて欲しいという人が多く、おかげで聞き取り自体はあまり出来なかった。
もっとも、そのおかげで、レベッカが情報を集めやすかったという訳ではあるのだが。
「古い友達探しててさ。見たことないかって思ったんだけど……」
「その風貌といや、ティオリオスしかいねぇな」
「そうなんだ。今、どこにいるのかな?」
わざと可愛げな表情を浮かべて訊ねるレベッカ。
本業(海賊)なら身体(物理)で聞き出すだろうが、流石に善良な村民にそんな事は出来ない。
「そういえば、向こう山に行くっていってたか」
村人は思い出すように、そう答える。
その時、曲が終わり、ようやく解放されたリューが席に戻ってきた。村人と入れ替わるように椅子に座ったリューにレベッカは飲み物を渡す。
「一曲のはずが、まさか、十数曲もお願いされるなんて、まいったぜ」
「おつかれさん。でも、おかげで大分と情報が集まったよ」
「それは、なによりだ……で、ティオリオスという歪虚と同じ名前の人間は、どんな奴なんだ?」
その質問にレベッカは頷いてから、声を潜めて答える。
村長の息子という事と、正義感溢れる評判の良い好青年だという事。そして、巫女との婚約が決まっているという。
容姿は話を聞いただけだと分からないが、想像するに、レベッカが対峙した歪虚と同じだろう。
「巫女との婚約を反対する者は?」
「調べた範囲では、居ないかな。むしろ、誰しも歓迎しているみたいだけど」
「という事は、少なくとも、現時点では、その村長の息子が歪虚化する動機はない訳だ」
「……神霊樹の記録では、村には悲劇が訪れる……らしいけど、それが切っ掛けという可能性もあるのかな?」
そう言ったレベッカ自身が首を傾げる。
村に本人がいないのでは、その線も怪しい。
「確か、野盗か何かに襲われて、村人達は虐殺されるんだったよな」
テーブルに立てかけてある剛刀の柄に触れるリュー。
そういった状況になったら、容赦なく刀を振るうつもりだからだ。
「それじゃ、襲撃までここで待たせて貰おうかしら」
レベッカは給仕に飲み物を注文するのであった。
●襲撃
「村が完全に包囲されている。逃げ場はない!」
キヅカが無線で仲間に呼び掛けながら、神殿から神廊に繋がる出入口で文字通り踏ん張っていた。
襲撃前に巫女の近くに移動していて正解だった。Uiscaに巫女の護衛を任せながら、脱出が図れるからだ。
「ナーシャさんは私から離れないで下さいね」
「はい……あの……Uiscaさん達は何者なのですか?」
巫女は驚きながら訊いてくる。
ハンターという概念はないようだが、キヅカとUiscaの二人が只者ではないとは感じたようだ。
Uiscaが繰り出すクルセイダーの魔法は、襲撃者に対し圧倒的だった。
「海は荒れていて出られませんから神殿を奪還して避難所にしましょう」
「分かった。イスカさんは巫女さんを」
二人のやり取りを見ていた巫女がポンと手を叩く。
「あ。もしかして、Uiscaさんの言っていた恋人ってこの人ですか?」
「「違います」」
キヅカとUiscaの声が重なった。
苦笑を浮かべながら神殿の中へと踏み込んだキヅカを見つけ、野盗みたいのが複数人襲い掛かってくる。
特別なメガネに手を触れるキヅカ。機導砲を強化する能力を持った眼鏡だ。
「いくぞ! キヅカビーム!」
やけくそとばかり言い放ったが――眼鏡からは何も発射されなかった。
暫く時が止まったように誰しも微動だにしなかったが、キヅカはゆっくりと聖機剣を掲げた。
「未来を照らす“流星”となるべく、今ここにその力を示せ! マグダレーネ・メテオール!」
なんか勇ましい台詞を叫び、キヅカは斬り込んでいく――単にスキルセットをミスした為、物理攻撃に切り替えただけだが。
「襲撃者はキヅカさんに任せて、私達は受け入れの準備をしましょう」
今日の事は見なかった事にしようと心の中で呟きながら、Uiscaは巫女に言うのであった。
見境なく襲ってきた野盗を攻性防壁で吹き飛ばすレベッカ。
「……山賊や盗賊にしちゃ装備が上等すぎる………となると……」
何かに勘付いたのか、踵からマテリアルを噴射すると、建物の屋根へと登る。
襲撃は全方位からだとすぐに理解できた。誰も逃がさないつもりらしい。
「どうだ?」
建物の下で剛刀を振るうリューが声を掛けてきた。
彼が刀を振ればそれだけで、野盗が吹き飛び――動かなくなる。
「一人確保して。確保出来たら、他はどーでもいいよ」
「分かった。じゃ、適当に手足を潰しておく」
聞きようによってはどっちが野盗か分からない会話だが、襲われているのはハンター達なのだ。
それに、村の虐殺を見逃すなど、ハンターとしてできる訳がない。
「村人には神殿に避難するように伝えて」
「キヅカ達が頑張ってるみたいだからな」
「これだけの規模……しかも、逃がさないようにって、絶対、何かあるわ」
襲撃にはリスクが伴うものだ。逃げ惑う人々を無駄に殺しにいく必要はないはずだ。
それなのに、わざわざ包囲戦を選んでくるという事は……。
(村を壊滅させた理由を知らされたくないから……?)
レベッカはそう推測しつつ、建物から降りると村人に襲い掛かる野盗に機導術を撃ち込んだ。
一方、リューは次から次に向かってくる野盗共を斬り伏せ続けていた。
「腕は大した事ないけど、装備だけはいいな」
野盗はよく鍛えられている鉄製の武器と鎧で武装していた。
まるで、貴族の私兵じゃないかと思う。この時代がいつなのか分からないが、遥か昔であれば、十分過ぎる戦力と成り得るだろう。
●結末
「別に舌噛んで死んでもいいよ」
捕らえた野盗に残虐な拷問を今から始めようとしたレベッカだったが、あっさりと野盗は降参した。
関節も外して耳も焼いてやろうと思っていただけに……根性の無い野盗にがっかりする。
「町長から言われたんだ。一人残らず殺せって」
「町長ってのは誰だ?」
リューが刀先を野盗の首元に突き付ける。
「こっからでも見えるだろ! 向こう山の町だよ!」
「なんで、この村を襲ったんだ?」
「嘘言ったら……分かってるわよね」
「詳しい事は分からねぇよ! 町長から命令されただけなんだ!」
レベッカが手にしている焼き金棒に涙を流しながら叫ぶ野盗。
どうやら、本当のようだ。詳細は町を調べにいった仲間に任せるしかないだろう。
「剣が鈍らないような結末にならなきゃいいけど……」
向こう山を見つめながらレベッカはそう呟いた。
神殿には沢山の村人が集まっていた。
犠牲者は居たが、襲撃の規模を考えれば、生き残った事自体が、奇跡ともいえよう。
「ナーシャ!」
「ティオリオス!」
神殿の扉が開き、一人の旅姿の青年が飛び込んできた。
応えるように巫女が迎える。二人の抱擁を眺めながら、キヅカは誰にも聞こえないようにUiscaに訊ねた。
「姿や声とか……どう?」
「間違いないですね。私達が戦った歪虚ティオリオスです」
「そっか。という事だと、このライブラリ上では歪虚化しなかったという事かな」
得られた情報は限られている。
だが、海の精霊が、“海龍”として奉られていたという情報から、推測はできなくはない。
「僕達が介入しなければ、巫女は襲撃で死んでいた。時間的にはあの青年が戻ってきた時、村は壊滅していたはずだ」
「恋人の死に嘆き……その後、精霊さんと接触があった?」
「全てを捧げて“復讐”を望んだ……それを精霊は受け入れたとしたら――」
真相は分からないが、きっと、青年と精霊の間に、何かがあったのだろう。
●要因
一行から離れたざくろは向こう山へと向かっていた。
途中、ティオリオスと名乗る青年を見つけたが、村の方から火の手が上がり、青年は慌てて戻って行った。
「向こう山に行く前に戻ってったけど……うーん……でも、見た所、川が随分と汚れてるみたいだから、やっぱり町に行こうかな」
そんな訳で悩みつつも川沿いを歩き続ける。
川の水質は劣悪の一言だった。
(襲撃と水質汚染の件は無関係じゃない気がしてきた)
もし、向こう山の町が汚染の原因だったとして、青年はそれを止めに行ったのではないだろうか。
どこで中二病的な性格になってしまったかは分からないが、それは推測が出来た。
(彼の身にも悲劇が起き……それによって何者かが、彼に似た姿の歪虚となったとか)
幾つもの岩や崖を越えて、ざくろは少しずつ町へと近づく。
やがて、町を遠くに見える峠に差し掛かって、ざくろは息を飲んだ。
それまで深い森が続いていたのに、この峠から見える景色はハゲ山ばかりだったのだ。町から、煙が吐き出され続けている。
「鉱山? そうか、これで川が汚染していたんだ!」
川は海まで流れている。
海が汚れてしまえば、漁村は生活に困る事になる。漁村からの苦情に対して、町が口封じする動機はあるはずだ。
ざくろは駆け出した。ライブラリに留まれる時間は限られているからだ。
(水を操るのは海の精霊の力とかも、取り込んでいるんじゃないだろうかと思ったけど、きっと、逆だ……)
唐突に足元の砂利が滑って、ざくろは盛大に転んだ。
苦痛に顔をしかめながらも魔導剣を杖代わりに立ち上がる。
(ティオリオスという青年を精霊が取り込んだんだ)
海を汚した人間に、失望と絶望を抱いた精霊がティオリオスという名の青年を取り込んだのだろうか。
それが事実であれば、自分達が戦ったのは“元”精霊という事になる。大型龍種の姿が見えたのは、元々が精霊としての龍だったとすれば辻褄が合うからだ。
「きっと、街で汚染を止めようとした事で起きたいざこざが、村の悲劇を招いて、精霊を歪虚へ変える引き金になったんだ」
町に到着したざくろは、村が無くなって利する人が町に居るのか探そうとした。
誰でもいいから声を掛ける――瞬間、ライブラリからざくろは帰還したのであった。
おしまい。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/03 22:48:17 |
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【相談卓】慟哭の由縁を探して Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/04/05 01:02:10 |