ゲスト
(ka0000)
さらわれた精霊
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/07 19:00
- 完成日
- 2019/04/22 00:29
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟を代表する港湾都市ポルトワールは、風光明媚で明るい観光都市だ。
だが影が寄り添うように、すぐ近くにはダウンタウンが広がっている。
薄汚れた建物を縫う狭い路地は迷路のように入り組み、毎日どこかで大小の犯罪が発生していた。
同盟軍も手を焼く裏町がどうにか秩序を保っているのは、ヴァネッサ(kz0030)の手腕によるものだ。
そのヴァネッサにしても、小物を全て追い切れるものではない。
ある日、ヴァネッサの隠れ家のひとつに、手下が騒々しく駆けこんできた。
「た、大変だぁ、姐さん!!」
「騒々しいな。そんなに大騒ぎされたんじゃ、隠れ家の意味がないだろう?」
裏町には裏町のルールがある。
そのルールで裏町を仕切るヴァネッサは、ポルトワール駐留軍にとって目障りな存在だ。
だが手下は、睨みつける女傑の機嫌を取る暇もないようだった。
「んなこと言ってる場合じゃねぇんですよ! バケモノが出たんでさぁ!!」
「バケモノ?」
手下は貧相な男の首根っこを捕まえていた。
「こいつが、どこかから盗んできたお宝を売りさばこうとしてたんですがね。そのお宝ってのが……」
話を聞いたヴァネッサは、眉を吊り上げる。
「……そいつはしっかり縛っておくんだ。後できっちり落とし前付けさせるからな」
「へいっ!」
手下の返事もそこそこに、ヴァネッサは外に飛び出した。
●
騒ぎが起きていたのは、ダウンタウンの中でも特に貧しい人が多く住む一角だった。
そこに、巨大な蛇のような歪虚が出た。
丸太のような体でずるずると路地を這いずり、鎌首をもたげては赤い舌を出して辺りを窺う。
それを見て人々は驚き、一斉に逃げ出した。
だが、固く扉を閉めた中では、10歳ぐらいの女の子と、それより少し幼い男の子が震えている。
「ねえちゃん、もう逃げようよ!」
「だめ! 絶対にヴァネッサさんが助けに来てくれるもん、頑張るの!!」
女の子は細い手に天秤棒を握っている。
「でもとうちゃんのせいなんだよ、ヴァネッサさん、許してくれないよぉ」
「絶対助けてくれる!!」
女の子の背後には、白っぽい卵型の30cmほどの石碑のようなものがある。
その石はつるりとしており、暗い部屋の中で淡い桃色の光を帯びていた。
よくみれば石の上には、ふわふわと頼りなげに、ほとんど消えそうな小さな人の姿が見える。
「もし精霊さんが消えちゃったら、ほんとに許してもらえなくなるから!!」
女の子は必死で自分を奮い立たせる。
●
急な依頼を受けて駆け付けたハンター達は、硬い表情のヴァネッサと対面した。
「来てくれたか。悪いね」
ヴァネッサは機嫌が悪かった。
ダウンタウンに住むひとりの男が、怪しい仕事を受けた。
それはジェオルジの某村に祀られている、精霊の憑代の石を盗んでくることだった。
大本の依頼人はある金持ちの商人で、昨今の同盟の歪虚の騒ぎが恐ろしくなり、自分の家に守り神を置きたい――という、なんとも身勝手な動機だ。
金に困っていた男はまんまと憑代を盗んだのだが、精霊の石は強いマテリアルを宿す。
これが雑魔を刺激したのだろう。大蛇が獲物の匂いを追うように、石を置いた男の家へとやってきたのだ。
最初は、出かけようと扉を開けた男の足元に小さなヘビが現れた。
何気なく摘まみ上げた男の腕にそのヘビは巻き付いて、恐ろしい力で締め上げ、いとも簡単に腕を折った。
悲鳴を上げる男に見向きもせず、ヘビは鎌首をもたげて奥へと入り込む。
すると盗んできた石が怯えるようにゆらゆらと光を発し始めたのだという。
そして壁の隙間から別のヘビが顔をのぞかせたのを見て、男はついに逃げ出した。
男には子供がふたりいたが、使いに出していたので家にはいなかった。
だが一斉に逃げ出した住民たちに聞いても、男の子供達を見た者は誰もいない。
――これが男の語ったことである。
「というわけで、ふたりは何らかの理由で家にいるんだと思う。悪いけど手を貸してもらえないか?」
ヴァネッサは建物の見取り図を広げた。
同盟を代表する港湾都市ポルトワールは、風光明媚で明るい観光都市だ。
だが影が寄り添うように、すぐ近くにはダウンタウンが広がっている。
薄汚れた建物を縫う狭い路地は迷路のように入り組み、毎日どこかで大小の犯罪が発生していた。
同盟軍も手を焼く裏町がどうにか秩序を保っているのは、ヴァネッサ(kz0030)の手腕によるものだ。
そのヴァネッサにしても、小物を全て追い切れるものではない。
ある日、ヴァネッサの隠れ家のひとつに、手下が騒々しく駆けこんできた。
「た、大変だぁ、姐さん!!」
「騒々しいな。そんなに大騒ぎされたんじゃ、隠れ家の意味がないだろう?」
裏町には裏町のルールがある。
そのルールで裏町を仕切るヴァネッサは、ポルトワール駐留軍にとって目障りな存在だ。
だが手下は、睨みつける女傑の機嫌を取る暇もないようだった。
「んなこと言ってる場合じゃねぇんですよ! バケモノが出たんでさぁ!!」
「バケモノ?」
手下は貧相な男の首根っこを捕まえていた。
「こいつが、どこかから盗んできたお宝を売りさばこうとしてたんですがね。そのお宝ってのが……」
話を聞いたヴァネッサは、眉を吊り上げる。
「……そいつはしっかり縛っておくんだ。後できっちり落とし前付けさせるからな」
「へいっ!」
手下の返事もそこそこに、ヴァネッサは外に飛び出した。
●
騒ぎが起きていたのは、ダウンタウンの中でも特に貧しい人が多く住む一角だった。
そこに、巨大な蛇のような歪虚が出た。
丸太のような体でずるずると路地を這いずり、鎌首をもたげては赤い舌を出して辺りを窺う。
それを見て人々は驚き、一斉に逃げ出した。
だが、固く扉を閉めた中では、10歳ぐらいの女の子と、それより少し幼い男の子が震えている。
「ねえちゃん、もう逃げようよ!」
「だめ! 絶対にヴァネッサさんが助けに来てくれるもん、頑張るの!!」
女の子は細い手に天秤棒を握っている。
「でもとうちゃんのせいなんだよ、ヴァネッサさん、許してくれないよぉ」
「絶対助けてくれる!!」
女の子の背後には、白っぽい卵型の30cmほどの石碑のようなものがある。
その石はつるりとしており、暗い部屋の中で淡い桃色の光を帯びていた。
よくみれば石の上には、ふわふわと頼りなげに、ほとんど消えそうな小さな人の姿が見える。
「もし精霊さんが消えちゃったら、ほんとに許してもらえなくなるから!!」
女の子は必死で自分を奮い立たせる。
●
急な依頼を受けて駆け付けたハンター達は、硬い表情のヴァネッサと対面した。
「来てくれたか。悪いね」
ヴァネッサは機嫌が悪かった。
ダウンタウンに住むひとりの男が、怪しい仕事を受けた。
それはジェオルジの某村に祀られている、精霊の憑代の石を盗んでくることだった。
大本の依頼人はある金持ちの商人で、昨今の同盟の歪虚の騒ぎが恐ろしくなり、自分の家に守り神を置きたい――という、なんとも身勝手な動機だ。
金に困っていた男はまんまと憑代を盗んだのだが、精霊の石は強いマテリアルを宿す。
これが雑魔を刺激したのだろう。大蛇が獲物の匂いを追うように、石を置いた男の家へとやってきたのだ。
最初は、出かけようと扉を開けた男の足元に小さなヘビが現れた。
何気なく摘まみ上げた男の腕にそのヘビは巻き付いて、恐ろしい力で締め上げ、いとも簡単に腕を折った。
悲鳴を上げる男に見向きもせず、ヘビは鎌首をもたげて奥へと入り込む。
すると盗んできた石が怯えるようにゆらゆらと光を発し始めたのだという。
そして壁の隙間から別のヘビが顔をのぞかせたのを見て、男はついに逃げ出した。
男には子供がふたりいたが、使いに出していたので家にはいなかった。
だが一斉に逃げ出した住民たちに聞いても、男の子供達を見た者は誰もいない。
――これが男の語ったことである。
「というわけで、ふたりは何らかの理由で家にいるんだと思う。悪いけど手を貸してもらえないか?」
ヴァネッサは建物の見取り図を広げた。
リプレイ本文
●
明らかに機嫌の悪いヴァネッサの様子に、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は密かな笑いを漏らす。
だが話を聞けば、不機嫌にも納得がいく。
「ヴァネッサ、ひとまずは手下を何人か貸してくれ。現地への案内と、周囲の見張り、できればトランシーバーを使える奴がいい」
「連絡は私を通すことにしよう。あちこちから連絡が来ると面倒だろう?」
ヴァネッサが手下に指示を出す。
「たぶんその辺りは大騒ぎよね。人混みを避ける道を使えたらいいんだけど……」
天王寺茜(ka4080)はパニックになった群衆の様子を想像して、眉をひそめた。
トランシーバーのチャンネルを合わせながら、ヴァネッサがどこか面白がるように促す。
「道案内は任せてくれ。で、どうする。いい案はあるかい?」
力をどう使うのか、ハンター達のお手並み拝見というところか。
玲瓏(ka7114)は確認するように仲間の顔を見渡して、口を開いた。
「その家に子供が本当にいるとして、いくつか父親という方に確認したいことがあります」
「ああ、そっちの部屋にいるよ」
ヴァネッサが背後の扉を親指で示した。
中には髭面の痩せた男がいた。着古した古い服は汚れ、顔色は青ざめている。
傷が痛むのか、あるいは落ち着かないのか、縛り付けられた椅子に掛けながらイライラと足踏みしていた。
玲瓏は男に、問題の憑代を家のどこに置いていたのか、子供達の名前は何というのか、などを尋ねた。
上の女の子はエヴァ、下の男の子はリーノというらしい。
男は玲瓏を拝むように訴える。
「なあ、頼むよ。俺もつれてってくれよ。バケモノの所に置いてきちまって、可哀そうでよ……」
「足手纏いだって言ってるだろ。ここで大人しくしてるんだ」
ヴァネッサがぴしゃりと男を叱りつけた。
(やったことは悪いことだけど……子供達のお父さんなんだよね)
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は男を悪人という訳でもないように感じた。
ふと視線を上げると、同じような気持ちなのだろう、茜も複雑な表情をしている。
(憑代を盗んだのは悪いことだと思うけど。遊ぶ金欲しさじゃなく、子供のために魔が差したんなら……なるべく穏便に収めたいわね)
鞍馬 真(ka5819)は男の前に立ち、真っすぐに顔を見つめた。
「ヴァネッサさんの言う通り、ここで待っていてくれないか。子供達は必ず連れ帰るから」
そして踵を返すと、男に聞こえないよう唇を動かして仲間を促した。
「のんびりしている暇は無さそうだね。急ごう」
●
路地を駆け、ときには建物の中を通り抜け、一行は現場へ急いだ。
事の成り行きが気になるらしく、多くの人が通りに出ている。
ヴァネッサの手下たちは野次馬が現場に近づかないよう踏ん張っていたが、リーダーの姿にほっとしたように声を上げた。
「姐さん!」
「よく頑張ったね。バケモノはどうしてる?」
案内されて通りの角から眺めると、確かに巨大な真っ黒いヘビが狭い路地にどっかりと横たわり、舌をちろちろと出し入れしていた。
「いたわ!」
茜は身構える。
「あんなのが本気で体当たりしたら、壁なんかすぐに壊れそうよね。……こっちに人が来ないよう、お願い!」
手下たちに改めて頼む。
戦闘が始まれば野次馬がもっと集まるだろうが、それではますます被害が大きくなりかねない。
ここはヴァネッサの威光を使って押さえてもらわねばならないのだ。
「じゃあ行きましょう」
頷く相手はルンルンだ。
「ヘビ退治はニンジャにお任せですよ!」
茜は『マテリアルアーマー』で身を守り、一気に接近。
「これで、ちょっと大人しくしなさい!」
機械拳に電撃を籠めて、ヘビの胴体を殴りつける。
なんといっても巨大な相手だ、外すことはない。ヘビの太い尻尾が痙攣したように跳ねあがる。
電撃のショックで一瞬動きを止めたヘビの進行方向に、壁面を駆けてルンルンが回り込んだ。
「ジュゲームリリカル、ルンルン忍法土蜘蛛の術!」
進行方向に『地縛符』を使い、ヘビの動きを封じる。
「カードを仕掛けてターンエンドです。ぜったいに逃がさないんだから!!」
狭い路地で前を塞がれたヘビは、鎌首をもたげた。金色の瞳は怒りに燃えている。
尻尾を振り上げると、視界に入った茜を目掛けて叩きつける。
茜はその攻撃を受け止めながら、呼びかけた。
「こっちは大丈夫です! 子供達をお願いします!!」
ヴァネッサは大ヘビと、建物を見比べる。
「悪いけど、子供のほうを頼むよ。あのヘビが大暴れしたら、周りの建物のほうが崩れちまう。なるべく急いで仕留めるよ」
言い置くや否や飛び出していった。
「何かあったら連絡する。デカブツの様子は随時教えてくれ」
ヴァージルは魔箒に跨ると、子供たちの住むという3階を目指して浮かび上がる。
●
「小ヘビを見かけたら、連絡を頼むよ」
真は大ヘビの脇を抜け、目指す建物に飛び込んだ。
一歩踏み込むと中はかなり暗く、湿った古い建物の匂いが体にまとわりつく。
「これは話に聞いていた以上に危なそうだね」
灯火の水晶球で光源を確保し、『瞬脚』を使い階段を駆け上がる。
その後に魔箒で飛行しながら玲瓏が続く。
「3階に窓はありますが、こういう建物ですから鎧戸が閉まっています」
「中が暗いわけだね」
玲瓏は3階に向けて声を張り上げた。
「エヴァ、リーノ、ここにいますか?」
その間に3階にたどり着いた真は、目的の部屋の扉を叩く。
「私たちはハンターだよ、きみたちを助けに来たんだ。いたら返事をしてくれないか?」
中から小さな男の子らしい、半泣きの声が聞こえてくる。が、その声は少し遠い。
「よく頑張ったね、すぐに助けるからね。その前に、そっちにヘビはいるかな?」
「ここにいない。でもいるんだよ!」
泣きじゃくる言葉は意味不明だ。緊張したような女の子の声が代わりに響いた。
「小さいヘビが家の中にいるの!」
それを聞いた瞬間、真は玄関の扉を『ピッキング』で開こうとする。
粗末な扉の簡易的な鍵は、難なく開いた。
内部に入って、姉弟の言葉の意味がようやく分かった。
姉弟は仕切られた奥の部屋にいるようで、扉には黒い小さなヘビが取りついていたのだ。
部屋の内部を仕切る扉は、蝶番の部分がガタついて今にも壊されそうだ。
「少しだけ我慢してるんだよ、いいというまで中から出てきちゃいけないよ」
真に続けて、玲瓏もなるべく子供達を怖がらせないよう気をつけながら、呼びかけた。
「ひとつ教えてほしいのだけど、そこにつるんとした丸い石があるのかな?」
一瞬の間があった。
だが暫くして、女の子の声が答える。
「ぴかぴかの石ならこっちに持ってるよ」
「ありがとう、ではもう少しだけ頑張ってね。でももしそちらに何か怖いものが来たら、すぐに教えて。助けに行くからね」
「うん、わかった!」
少しほっとしたような様子が伝わってくる。
●
状況はトランシーバーで随時伝えられる。
ヴァージルは3階の窓からの突入を計っていたが、現在子供たちが隠れている場所がその窓の部屋だ。
内部から閂状のもので戸締りしているらしく、侵入するには鎧戸を壊すしか無さそうだ。
だがここで窓を開けると、小ヘビの為に道を開けてやるようなものだ。
暫く飛びながら壁面を注意深く観察していたヴァージルは、明り取りの小さな窓から入り込もうとする黒い小ヘビを見つけた。
「おい、お前さんの敵はこっちだぜ」
すぐ傍に近づくと、小ヘビは鎌首をもたげて赤い口を開き、とびかかって来た。
「おっと……!!」
飛行しながらの攻撃は、回避が難しくなる。
それならとヴァージルは、敢えて敵の攻撃を受け、向こうから距離を縮めさせ、『カウンターアタック』での反撃に賭けていた。
腿に牙を立てたヘビの、首から下を逆手に握った剣で切り落とす。
不気味にのたうちながら、切れた胴体は地面へと落ちていった。
その落ちた胴体は、親ヘビの横で跳ね回る。
「観念しなさい!」
茜の魔導ガントレットが光に包まれる。と、そこから伸びた光の剣が、太いヘビの胴体に突き立った。
「嫌んなるほどタフだねえ」
ヴァネッサもぼやきながら、剣を突き立てる。
「頭をカチ割るハンマーでも持ってくりゃ良かったよ」
「狙って行きます! ちょっとだけ離れてください!!」
ルンルンが符を空中に投げ上げると、稲妻が走り、巨体を焼いた。
茜の電気ショックで動きは鈍くなっており、巨体はあちこち傷だらけだ。
だがとてつもなく体力があるらしく、ともすれば3人を乗せたまま動き出しそうだ。
ルンルンの『地縛符』で進行方向を押さえられていなければ、とっくに逃げだしていただろう。
だがその分だけ、死に物狂いの暴れぶりは厄介だった。
「もう許さないんだから! ルンルン忍法マジカルファイヤー!」
ルンルンは『火炎符』でヘビの頭部を焼く。暴れる大ヘビは、いよいよ身に迫る危険を感じたようだ。
「危ない!!」
ヴァネッサが叫ぶのと、ルンルンが後跳びにヘビから離れるのはほとんど同時だった。
建物から飛び出してきた小ヘビが、空振りし、宙を飛び跳ねてから地面に落ちる。
「なるほど、危険を感じると手下を呼び戻すのか。逆に好都合だな」
少しでも内部のヘビを減らすことができれば、子供達の危険も減るはずだ。
●
部屋の内では、真と玲瓏が小ヘビ相手に格闘していた。
僅かな物陰に潜み、思わぬところから飛び出してくる小さな敵。
真はその襲撃を『ガウスジェイル』で引き受ける。
玲瓏は『道別』が生み出す桃の実の泡玉を、同時にとびかかる小ヘビにぶつけた。
「今です!」
動きの鈍った小ヘビを、真が戦闘靴で蹴り飛ばした。
そこにヴァージルが駆け付け、玲瓏に声をかける。
「遅くなってすまんな。後は引き受ける、子供達が心配だ。中を見てもらえるだろうか」
聖導士がケアには適任だろう。それから扉の向こうに聞こえるように声を上げた。
「よく頑張ったな、もう安心して大丈夫だ。ヴァネッサおねーさんと愉快な仲間たち参上だ」
玲瓏は扉に近づいて呼びかけた。
「そちらに行ってもいい?」
すぐに中から扉が開いた。玲瓏は滑り込むと、再び扉を閉める。
「あなたがエヴァ、そしてリーノね。それから……」
見れば、子供達の傍に白く丸い石があり、その上で淡い桃色の光の人の形をしたものが震えていた。
「精霊さま。お嫌でなければ、こちらへ」
玲瓏は石を持ち上げ、持参した背負い袋にそっと入れると、赤子を抱くように体の前に抱いた。袋がほのかに暖かく感じられる。
「これでもう大丈夫。安全なところまで逃げようね」
声をかけるが、子供達は泣きそうな顔で尻込みしている。
玲瓏は屈みこみ、子供の目線に合わせてさらに続けた。
「ヴァネッサさんが私たちに、ふたりと精霊さまを助けてって頼んだの。だから大丈夫、安心してね」
玲瓏の言葉に、子供達もようやく頷いた。
こうして子供達と精霊を確保した玲瓏が建物の外に脱出。
その頃には、さしもの大ヘビも見事仕留められていた。
傍には数体の小ヘビも転がっている。
振り向いたヴァネッサが、玲瓏と子供達の姿に、笑みを浮かべた。
「怖かっただろう、でもよく頑張ったな」
ヴァネッサが頭を撫でると、ふたりの子供はそこで漸く安心したのか、大声を上げて泣き出した。
その光景にヴァージルは改めて、この女傑の存在感を知るのだった。
●
隠れ家に戻ると、父親は何度も何度も頭を下げ、ハンターには感謝を、ヴァネッサには謝罪を繰り返した。
玲瓏は改めて、精霊の様子を確かめる。
子供達がすぐに別の部屋へ隠したおかげで、歪虚による汚染もないようだ。
ただ本来いるべき場所から離されたため、力が弱っている可能性はある。
「さて、どうするかね」
ヴァネッサが低い声で呟く。
ハンター達は、基本的にはヴァネッサにこの場を任せるつもりだった。
この街にはここなりのルールがあり、外部者が口を出せるものではない。
――だが。
ルンルンは、ちらりとヴァネッサの顔を窺う。
(これぐらい脅しておけば、もう二度とやらないんじゃないかな?)
何より、どうなることかと怯えた目で父親とヴァネッサを見比べる子供達がかわいそうに思えた。
「最悪の事態にならずに済んだのは、勇敢な子供達のおかげだよね」
真は皆の想うところを説明するように口にする。
「そういうことだな。ジェオルジだったか? 精霊の憑代を返しに行って、きちんと謝ってくることだな」
ヴァージルとしては、この男の貧困に付け込んだ金持ちとやらにも相応の「謝罪」を要求したいところだ。
だがそれを聞いたヴァネッサは首を横に振った。
『こういう輩はどうやっても、まともな取引相手にはならないさ』
どのみちハンターが関わった以上、行いはばれている。今後は商人の世界でもあまり良い扱いは受けないだろう、ということらしい。
茜は父親の傍に膝をついた。
怯えたように身を固くする男の腫れあがった腕を、『ヒール』で癒してやる。
「このままの腕じゃ、生活するのも大変でしょうし」
充分痛くて怖い思いをしたのだから、穏便に済ませてやりたいと思う。
ただ、やっぱり付け加えずにはいられない。
「あの、あとでちゃんと子供達にも謝ってあげてくださいね」
男は深く頭を下げた。
玲瓏は子供達を呼び寄せる。
「お父さんのことをどう思う?」
子供達は困ったように顔を見合わせた後、ぼそぼそと呟く。
お父さんがいない間、寂しかったこと。お父さんが帰ってきてくれて、嬉しかったこと。でも精霊さまのことは、やっぱりダメだと思うこと。
「そう、ダメなことはダメ。でも恥ずかしいとか駄目な人とかは思わないでほしいな」
子供達はちょっと難しいというように首をかしげた。その姿に、玲瓏は思わず微笑む。
「ふたりがいればお父さんはまた頑張れると思うから。お父さんと仲良くね」
今度はふたりとも、大きくうなずいた。
結局、精霊の憑代は、ヴァネッサの手下たちが代理で返しに行くことになった。
「本人が返しに行くのが一番きついお仕置きになるんだけど。今回は盗られたほうの感情がね」
事が大きくなれば、ジェオルジとポルトワールの間の問題になりかねない。そうなれば父親は窃盗犯として処罰されるだろう。
「それは皆も望まないんだろ? ま、返却担当のいない間の使いっ走りぐらいはやってもらうよ。勇敢な子供達に免じてね」
ヴァネッサがようやく穏やかに笑った。
<了>
明らかに機嫌の悪いヴァネッサの様子に、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は密かな笑いを漏らす。
だが話を聞けば、不機嫌にも納得がいく。
「ヴァネッサ、ひとまずは手下を何人か貸してくれ。現地への案内と、周囲の見張り、できればトランシーバーを使える奴がいい」
「連絡は私を通すことにしよう。あちこちから連絡が来ると面倒だろう?」
ヴァネッサが手下に指示を出す。
「たぶんその辺りは大騒ぎよね。人混みを避ける道を使えたらいいんだけど……」
天王寺茜(ka4080)はパニックになった群衆の様子を想像して、眉をひそめた。
トランシーバーのチャンネルを合わせながら、ヴァネッサがどこか面白がるように促す。
「道案内は任せてくれ。で、どうする。いい案はあるかい?」
力をどう使うのか、ハンター達のお手並み拝見というところか。
玲瓏(ka7114)は確認するように仲間の顔を見渡して、口を開いた。
「その家に子供が本当にいるとして、いくつか父親という方に確認したいことがあります」
「ああ、そっちの部屋にいるよ」
ヴァネッサが背後の扉を親指で示した。
中には髭面の痩せた男がいた。着古した古い服は汚れ、顔色は青ざめている。
傷が痛むのか、あるいは落ち着かないのか、縛り付けられた椅子に掛けながらイライラと足踏みしていた。
玲瓏は男に、問題の憑代を家のどこに置いていたのか、子供達の名前は何というのか、などを尋ねた。
上の女の子はエヴァ、下の男の子はリーノというらしい。
男は玲瓏を拝むように訴える。
「なあ、頼むよ。俺もつれてってくれよ。バケモノの所に置いてきちまって、可哀そうでよ……」
「足手纏いだって言ってるだろ。ここで大人しくしてるんだ」
ヴァネッサがぴしゃりと男を叱りつけた。
(やったことは悪いことだけど……子供達のお父さんなんだよね)
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は男を悪人という訳でもないように感じた。
ふと視線を上げると、同じような気持ちなのだろう、茜も複雑な表情をしている。
(憑代を盗んだのは悪いことだと思うけど。遊ぶ金欲しさじゃなく、子供のために魔が差したんなら……なるべく穏便に収めたいわね)
鞍馬 真(ka5819)は男の前に立ち、真っすぐに顔を見つめた。
「ヴァネッサさんの言う通り、ここで待っていてくれないか。子供達は必ず連れ帰るから」
そして踵を返すと、男に聞こえないよう唇を動かして仲間を促した。
「のんびりしている暇は無さそうだね。急ごう」
●
路地を駆け、ときには建物の中を通り抜け、一行は現場へ急いだ。
事の成り行きが気になるらしく、多くの人が通りに出ている。
ヴァネッサの手下たちは野次馬が現場に近づかないよう踏ん張っていたが、リーダーの姿にほっとしたように声を上げた。
「姐さん!」
「よく頑張ったね。バケモノはどうしてる?」
案内されて通りの角から眺めると、確かに巨大な真っ黒いヘビが狭い路地にどっかりと横たわり、舌をちろちろと出し入れしていた。
「いたわ!」
茜は身構える。
「あんなのが本気で体当たりしたら、壁なんかすぐに壊れそうよね。……こっちに人が来ないよう、お願い!」
手下たちに改めて頼む。
戦闘が始まれば野次馬がもっと集まるだろうが、それではますます被害が大きくなりかねない。
ここはヴァネッサの威光を使って押さえてもらわねばならないのだ。
「じゃあ行きましょう」
頷く相手はルンルンだ。
「ヘビ退治はニンジャにお任せですよ!」
茜は『マテリアルアーマー』で身を守り、一気に接近。
「これで、ちょっと大人しくしなさい!」
機械拳に電撃を籠めて、ヘビの胴体を殴りつける。
なんといっても巨大な相手だ、外すことはない。ヘビの太い尻尾が痙攣したように跳ねあがる。
電撃のショックで一瞬動きを止めたヘビの進行方向に、壁面を駆けてルンルンが回り込んだ。
「ジュゲームリリカル、ルンルン忍法土蜘蛛の術!」
進行方向に『地縛符』を使い、ヘビの動きを封じる。
「カードを仕掛けてターンエンドです。ぜったいに逃がさないんだから!!」
狭い路地で前を塞がれたヘビは、鎌首をもたげた。金色の瞳は怒りに燃えている。
尻尾を振り上げると、視界に入った茜を目掛けて叩きつける。
茜はその攻撃を受け止めながら、呼びかけた。
「こっちは大丈夫です! 子供達をお願いします!!」
ヴァネッサは大ヘビと、建物を見比べる。
「悪いけど、子供のほうを頼むよ。あのヘビが大暴れしたら、周りの建物のほうが崩れちまう。なるべく急いで仕留めるよ」
言い置くや否や飛び出していった。
「何かあったら連絡する。デカブツの様子は随時教えてくれ」
ヴァージルは魔箒に跨ると、子供たちの住むという3階を目指して浮かび上がる。
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「小ヘビを見かけたら、連絡を頼むよ」
真は大ヘビの脇を抜け、目指す建物に飛び込んだ。
一歩踏み込むと中はかなり暗く、湿った古い建物の匂いが体にまとわりつく。
「これは話に聞いていた以上に危なそうだね」
灯火の水晶球で光源を確保し、『瞬脚』を使い階段を駆け上がる。
その後に魔箒で飛行しながら玲瓏が続く。
「3階に窓はありますが、こういう建物ですから鎧戸が閉まっています」
「中が暗いわけだね」
玲瓏は3階に向けて声を張り上げた。
「エヴァ、リーノ、ここにいますか?」
その間に3階にたどり着いた真は、目的の部屋の扉を叩く。
「私たちはハンターだよ、きみたちを助けに来たんだ。いたら返事をしてくれないか?」
中から小さな男の子らしい、半泣きの声が聞こえてくる。が、その声は少し遠い。
「よく頑張ったね、すぐに助けるからね。その前に、そっちにヘビはいるかな?」
「ここにいない。でもいるんだよ!」
泣きじゃくる言葉は意味不明だ。緊張したような女の子の声が代わりに響いた。
「小さいヘビが家の中にいるの!」
それを聞いた瞬間、真は玄関の扉を『ピッキング』で開こうとする。
粗末な扉の簡易的な鍵は、難なく開いた。
内部に入って、姉弟の言葉の意味がようやく分かった。
姉弟は仕切られた奥の部屋にいるようで、扉には黒い小さなヘビが取りついていたのだ。
部屋の内部を仕切る扉は、蝶番の部分がガタついて今にも壊されそうだ。
「少しだけ我慢してるんだよ、いいというまで中から出てきちゃいけないよ」
真に続けて、玲瓏もなるべく子供達を怖がらせないよう気をつけながら、呼びかけた。
「ひとつ教えてほしいのだけど、そこにつるんとした丸い石があるのかな?」
一瞬の間があった。
だが暫くして、女の子の声が答える。
「ぴかぴかの石ならこっちに持ってるよ」
「ありがとう、ではもう少しだけ頑張ってね。でももしそちらに何か怖いものが来たら、すぐに教えて。助けに行くからね」
「うん、わかった!」
少しほっとしたような様子が伝わってくる。
●
状況はトランシーバーで随時伝えられる。
ヴァージルは3階の窓からの突入を計っていたが、現在子供たちが隠れている場所がその窓の部屋だ。
内部から閂状のもので戸締りしているらしく、侵入するには鎧戸を壊すしか無さそうだ。
だがここで窓を開けると、小ヘビの為に道を開けてやるようなものだ。
暫く飛びながら壁面を注意深く観察していたヴァージルは、明り取りの小さな窓から入り込もうとする黒い小ヘビを見つけた。
「おい、お前さんの敵はこっちだぜ」
すぐ傍に近づくと、小ヘビは鎌首をもたげて赤い口を開き、とびかかって来た。
「おっと……!!」
飛行しながらの攻撃は、回避が難しくなる。
それならとヴァージルは、敢えて敵の攻撃を受け、向こうから距離を縮めさせ、『カウンターアタック』での反撃に賭けていた。
腿に牙を立てたヘビの、首から下を逆手に握った剣で切り落とす。
不気味にのたうちながら、切れた胴体は地面へと落ちていった。
その落ちた胴体は、親ヘビの横で跳ね回る。
「観念しなさい!」
茜の魔導ガントレットが光に包まれる。と、そこから伸びた光の剣が、太いヘビの胴体に突き立った。
「嫌んなるほどタフだねえ」
ヴァネッサもぼやきながら、剣を突き立てる。
「頭をカチ割るハンマーでも持ってくりゃ良かったよ」
「狙って行きます! ちょっとだけ離れてください!!」
ルンルンが符を空中に投げ上げると、稲妻が走り、巨体を焼いた。
茜の電気ショックで動きは鈍くなっており、巨体はあちこち傷だらけだ。
だがとてつもなく体力があるらしく、ともすれば3人を乗せたまま動き出しそうだ。
ルンルンの『地縛符』で進行方向を押さえられていなければ、とっくに逃げだしていただろう。
だがその分だけ、死に物狂いの暴れぶりは厄介だった。
「もう許さないんだから! ルンルン忍法マジカルファイヤー!」
ルンルンは『火炎符』でヘビの頭部を焼く。暴れる大ヘビは、いよいよ身に迫る危険を感じたようだ。
「危ない!!」
ヴァネッサが叫ぶのと、ルンルンが後跳びにヘビから離れるのはほとんど同時だった。
建物から飛び出してきた小ヘビが、空振りし、宙を飛び跳ねてから地面に落ちる。
「なるほど、危険を感じると手下を呼び戻すのか。逆に好都合だな」
少しでも内部のヘビを減らすことができれば、子供達の危険も減るはずだ。
●
部屋の内では、真と玲瓏が小ヘビ相手に格闘していた。
僅かな物陰に潜み、思わぬところから飛び出してくる小さな敵。
真はその襲撃を『ガウスジェイル』で引き受ける。
玲瓏は『道別』が生み出す桃の実の泡玉を、同時にとびかかる小ヘビにぶつけた。
「今です!」
動きの鈍った小ヘビを、真が戦闘靴で蹴り飛ばした。
そこにヴァージルが駆け付け、玲瓏に声をかける。
「遅くなってすまんな。後は引き受ける、子供達が心配だ。中を見てもらえるだろうか」
聖導士がケアには適任だろう。それから扉の向こうに聞こえるように声を上げた。
「よく頑張ったな、もう安心して大丈夫だ。ヴァネッサおねーさんと愉快な仲間たち参上だ」
玲瓏は扉に近づいて呼びかけた。
「そちらに行ってもいい?」
すぐに中から扉が開いた。玲瓏は滑り込むと、再び扉を閉める。
「あなたがエヴァ、そしてリーノね。それから……」
見れば、子供達の傍に白く丸い石があり、その上で淡い桃色の光の人の形をしたものが震えていた。
「精霊さま。お嫌でなければ、こちらへ」
玲瓏は石を持ち上げ、持参した背負い袋にそっと入れると、赤子を抱くように体の前に抱いた。袋がほのかに暖かく感じられる。
「これでもう大丈夫。安全なところまで逃げようね」
声をかけるが、子供達は泣きそうな顔で尻込みしている。
玲瓏は屈みこみ、子供の目線に合わせてさらに続けた。
「ヴァネッサさんが私たちに、ふたりと精霊さまを助けてって頼んだの。だから大丈夫、安心してね」
玲瓏の言葉に、子供達もようやく頷いた。
こうして子供達と精霊を確保した玲瓏が建物の外に脱出。
その頃には、さしもの大ヘビも見事仕留められていた。
傍には数体の小ヘビも転がっている。
振り向いたヴァネッサが、玲瓏と子供達の姿に、笑みを浮かべた。
「怖かっただろう、でもよく頑張ったな」
ヴァネッサが頭を撫でると、ふたりの子供はそこで漸く安心したのか、大声を上げて泣き出した。
その光景にヴァージルは改めて、この女傑の存在感を知るのだった。
●
隠れ家に戻ると、父親は何度も何度も頭を下げ、ハンターには感謝を、ヴァネッサには謝罪を繰り返した。
玲瓏は改めて、精霊の様子を確かめる。
子供達がすぐに別の部屋へ隠したおかげで、歪虚による汚染もないようだ。
ただ本来いるべき場所から離されたため、力が弱っている可能性はある。
「さて、どうするかね」
ヴァネッサが低い声で呟く。
ハンター達は、基本的にはヴァネッサにこの場を任せるつもりだった。
この街にはここなりのルールがあり、外部者が口を出せるものではない。
――だが。
ルンルンは、ちらりとヴァネッサの顔を窺う。
(これぐらい脅しておけば、もう二度とやらないんじゃないかな?)
何より、どうなることかと怯えた目で父親とヴァネッサを見比べる子供達がかわいそうに思えた。
「最悪の事態にならずに済んだのは、勇敢な子供達のおかげだよね」
真は皆の想うところを説明するように口にする。
「そういうことだな。ジェオルジだったか? 精霊の憑代を返しに行って、きちんと謝ってくることだな」
ヴァージルとしては、この男の貧困に付け込んだ金持ちとやらにも相応の「謝罪」を要求したいところだ。
だがそれを聞いたヴァネッサは首を横に振った。
『こういう輩はどうやっても、まともな取引相手にはならないさ』
どのみちハンターが関わった以上、行いはばれている。今後は商人の世界でもあまり良い扱いは受けないだろう、ということらしい。
茜は父親の傍に膝をついた。
怯えたように身を固くする男の腫れあがった腕を、『ヒール』で癒してやる。
「このままの腕じゃ、生活するのも大変でしょうし」
充分痛くて怖い思いをしたのだから、穏便に済ませてやりたいと思う。
ただ、やっぱり付け加えずにはいられない。
「あの、あとでちゃんと子供達にも謝ってあげてくださいね」
男は深く頭を下げた。
玲瓏は子供達を呼び寄せる。
「お父さんのことをどう思う?」
子供達は困ったように顔を見合わせた後、ぼそぼそと呟く。
お父さんがいない間、寂しかったこと。お父さんが帰ってきてくれて、嬉しかったこと。でも精霊さまのことは、やっぱりダメだと思うこと。
「そう、ダメなことはダメ。でも恥ずかしいとか駄目な人とかは思わないでほしいな」
子供達はちょっと難しいというように首をかしげた。その姿に、玲瓏は思わず微笑む。
「ふたりがいればお父さんはまた頑張れると思うから。お父さんと仲良くね」
今度はふたりとも、大きくうなずいた。
結局、精霊の憑代は、ヴァネッサの手下たちが代理で返しに行くことになった。
「本人が返しに行くのが一番きついお仕置きになるんだけど。今回は盗られたほうの感情がね」
事が大きくなれば、ジェオルジとポルトワールの間の問題になりかねない。そうなれば父親は窃盗犯として処罰されるだろう。
「それは皆も望まないんだろ? ま、返却担当のいない間の使いっ走りぐらいはやってもらうよ。勇敢な子供達に免じてね」
ヴァネッサがようやく穏やかに笑った。
<了>
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相談するとこです。 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/04/07 19:07:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/07 15:44:22 |