ゲスト
(ka0000)
【AP】異世界転生者かもしれない獣達
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/06 12:00
- 完成日
- 2019/04/12 15:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ある日、起きたら俺は幻獣になっていた。
何を言っているのか分からない事だろう。
だが実際に自分の体が人間ではなく毛むくじゃらの獣になっているのだ、認めるしかない。
俺は今、幻獣になっている。
理由は……分からない。
人間だった時の記憶もなんだか朧気だ。
何か、最後に物凄く痛い思いをしたような……。
そしてだんだん寒くなっていって……。
え? あれ? 俺もしかして死んだ?
もしかしてこれ転生ってヤツ?
いやいやいや、まさかそんな。
これはきっと、うん、一時的なもんだよ。
魂が幻獣と入れ替わった的な。
だから明日になれば元に戻るよ。
明日起きた時には「あ~なんか変な夢見たなぁ~」って思ってるさ。
うん、きっとそうさ。
そうだよ、うん。
そうさ……。
……。
そんな事を考えて悶々としていると、誰かがやってきた。
「おはよう○■△」
俺を○■△と呼ぶソイツもやっぱり幻獣だった。
見覚えは……ない。
ない……はずなんだが、よく見知っている気がする。変な感覚だ。
「腹減ったよな。昨日の残りを食ったら狩りに行こうぜ」
ソイツは部屋……というか洞窟の隅にあった何かを食い始めた。
何を食っているんだろう?
よーく見てみると……何かの死骸だ。
ウゲェー!!
いや、まぁ確かに幻獣は料理とかしないから生で食うしかないんだけどさぁ……。
死骸を喰らうってのは生理的に受けつけない。
嫌悪感が先に立つ。
かと思ってたんだが、そんな嫌悪感は不思議と感じない。
普通に食えそうな気さえする。
……やべぇ! 俺精神まで幻獣化してる?
いや、身体が幻獣だから精神がそれに寄ってきているのかもしれない。
ともかくヤバイ事には変わりない。
「……どうした? 食わないのか?」
俺を仲間だと思っているらしい幻獣が不思議そうに聞いてくる。
「俺、今日は体調悪くてさ。食欲ないんだ」
「そうなのか? でもそういう時こそ食わなきゃ力でねぇぞ。ほら」
ソイツは死骸から肉を千切って俺の前に置いてくれた。
ヤバイ……普通にうまそうに見える。
だが食う訳にはいかない。
人間としての尊厳を守るためには食ってはいけない!
「いや、ホント食えねぇんだ」
「いいから食え!」
だがソイツは俺の口に無理矢理生肉を突っ込んできた。
反射的に食ってしまう。
吐き気をもよおすかと思ったが、そんな事はなかった。
むしろ美味かった。
なんでこんな物が美味いと感じるのだろう?
自分が人間でなくなったかのようで無茶苦茶悲しい。
いや、まぁ、実際に体は人間でなくなっているのだけれど……。
「どうだ?」
「泣けそうなほど美味いよ……」
「そうかそうか。じゃ今日の分の飯を取りに行くぞ」
俺はソイツに突つかれるようにして住処から連れ出された。
狩りに出ると、幻獣の身体能力が驚くほど高い事が分かった。
まるで身体に羽が生えたかのように自由自在に駆け回る事ができる。
5感も恐ろしく鋭く、獲物の出す音や匂いを敏感に感じ取る事ができた。
そのため狩り経験0で技術のない俺でも身体能力だけで獲物を狩れた。
俺、本当に人外になっちまったんだなぁ~としみじみ実感できてしまった。
あぁ……悲しい……。
そして狩った獲物はやっぱり美味そうに見える。
食ったら実際美味かった。
うぅぅ……。
狩りから戻った俺は住処の周りを見回ってみた。
俺と同じ姿をした幻獣がいっぱいいる。
「おや、○■△。弱ってるって聞いたけど、もう大丈夫なのかい?」
そのうちの1体が話しかけてきた。
「あぁ、飯食ったら元気になったよ」
「そうかい。そりゃよかった」
そんな風に皆が普通に俺に接してくる。
俺……というより俺の体の持ち主はここで生活をしていたのだろう。
周辺をできる限り見回ってみたが、人間には出会えず、いるのは幻獣だけだった。
幻獣に聞いてみると、誰も人間の存在すら知らなかった。
もしかしてここは人間のいない世界なのか?
謎は尽きないが、夜になったので俺は洞窟に戻って再び眠りについた。
どうか目覚めた時には全てが元に戻っていますように……。
翌朝。
俺は毛むくじゃらのままだった。
やっぱそうか。
儚い願いだったなぁ……。
俺は幻獣として暮らし続けた。
連れは俺の世話を色々と焼いてくれる。
群れの仲間もみんな優しい。
とてもいい奴らだ。
そんないい幻獣になれたのは、まぁラッキーだったと言える。
でもやっぱり人間がいいな。
願わくば、何時の日か人間に戻れますように。
そう願って毎夜眠りにつくのだが、その願いは今のところ叶っていない。
もしかしたら俺が知らなかっただけで、幻獣の中には俺と同じ境遇の奴もいるかもしれないな。
そんなある日、俺達は敵に襲われた。
そいつの名は『歪虚』。
全ての生きとし生けるものの敵だ。
まさか異世界にも歪虚がいるなんて……。
それともここはやっぱクリムゾンウェストなのか?
答えは分からないが、とにかく倒さなければならない。
俺達は全員一丸となって歪虚と戦い、なんとか退けた。
しかしその日を境にして歪虚は度々襲ってくるようになった。
しかも歪虚の数は増え続け、戦闘は日々厳しさを増していった。
そのため幻獣は周辺にいる別の幻獣とも協力しあって歪虚と戦う盟約を結んだ。
こうして幻獣と歪虚の全面戦争とも言える戦いが始まったのである。
俺も当然戦った。
幻獣の身での戦い方を知らない俺は最初は足手纏いだった。
しかし人間としての知恵を使い、幻獣としての技も磨き、めきめきと力をつけていった。
何度歪虚と戦っただろう。
何度死にかけて死線を彷徨っただろう?
数え切れない程の戦いを得て、何時しか俺は仲間内で最も強くなっていた。
今では仲間も増えた。
イェジド、リーリー、グリフォン、ユグディラ、その他たくさんの幻獣達。
それに刻令ゴーレムやオートソルジャー等の幻獣ではない者達までいる。
最初は歪虚に押されていた俺達も、そんな仲間達が手を取り合ったため、今では押し返せるほど強くなった。
だが、未だに人とは出会った事がない。
やはりこの世界に人はいないのだろうか……。
そして時が経ち。
今、目の前には経験した事のない程の数の歪虚がうごめいている。
形容し難い異形の狂気型。そして狂気型に寄生されたCAM。
地上からも空からも様々な形の敵が迫ってくる。
もちろんこちらにも多くの味方がいる。
今から歪虚との決戦が始まるのだ。
「腕がなるな相棒。今日で世界は平和に大きく前進するぜ」
連れが不敵な笑みを浮かべる。
俺ももちろん覚悟は既にできている。
もはやこの身が人か幻獣かなど関係ない。
俺はこの世界と愛する者のために戦う。
「行くぞーっ!!」
うおぉーーーー!!
皆の幸せのため、平和な明日を掴むため、幻獣達は歪虚の群れに挑みかかった。
何を言っているのか分からない事だろう。
だが実際に自分の体が人間ではなく毛むくじゃらの獣になっているのだ、認めるしかない。
俺は今、幻獣になっている。
理由は……分からない。
人間だった時の記憶もなんだか朧気だ。
何か、最後に物凄く痛い思いをしたような……。
そしてだんだん寒くなっていって……。
え? あれ? 俺もしかして死んだ?
もしかしてこれ転生ってヤツ?
いやいやいや、まさかそんな。
これはきっと、うん、一時的なもんだよ。
魂が幻獣と入れ替わった的な。
だから明日になれば元に戻るよ。
明日起きた時には「あ~なんか変な夢見たなぁ~」って思ってるさ。
うん、きっとそうさ。
そうだよ、うん。
そうさ……。
……。
そんな事を考えて悶々としていると、誰かがやってきた。
「おはよう○■△」
俺を○■△と呼ぶソイツもやっぱり幻獣だった。
見覚えは……ない。
ない……はずなんだが、よく見知っている気がする。変な感覚だ。
「腹減ったよな。昨日の残りを食ったら狩りに行こうぜ」
ソイツは部屋……というか洞窟の隅にあった何かを食い始めた。
何を食っているんだろう?
よーく見てみると……何かの死骸だ。
ウゲェー!!
いや、まぁ確かに幻獣は料理とかしないから生で食うしかないんだけどさぁ……。
死骸を喰らうってのは生理的に受けつけない。
嫌悪感が先に立つ。
かと思ってたんだが、そんな嫌悪感は不思議と感じない。
普通に食えそうな気さえする。
……やべぇ! 俺精神まで幻獣化してる?
いや、身体が幻獣だから精神がそれに寄ってきているのかもしれない。
ともかくヤバイ事には変わりない。
「……どうした? 食わないのか?」
俺を仲間だと思っているらしい幻獣が不思議そうに聞いてくる。
「俺、今日は体調悪くてさ。食欲ないんだ」
「そうなのか? でもそういう時こそ食わなきゃ力でねぇぞ。ほら」
ソイツは死骸から肉を千切って俺の前に置いてくれた。
ヤバイ……普通にうまそうに見える。
だが食う訳にはいかない。
人間としての尊厳を守るためには食ってはいけない!
「いや、ホント食えねぇんだ」
「いいから食え!」
だがソイツは俺の口に無理矢理生肉を突っ込んできた。
反射的に食ってしまう。
吐き気をもよおすかと思ったが、そんな事はなかった。
むしろ美味かった。
なんでこんな物が美味いと感じるのだろう?
自分が人間でなくなったかのようで無茶苦茶悲しい。
いや、まぁ、実際に体は人間でなくなっているのだけれど……。
「どうだ?」
「泣けそうなほど美味いよ……」
「そうかそうか。じゃ今日の分の飯を取りに行くぞ」
俺はソイツに突つかれるようにして住処から連れ出された。
狩りに出ると、幻獣の身体能力が驚くほど高い事が分かった。
まるで身体に羽が生えたかのように自由自在に駆け回る事ができる。
5感も恐ろしく鋭く、獲物の出す音や匂いを敏感に感じ取る事ができた。
そのため狩り経験0で技術のない俺でも身体能力だけで獲物を狩れた。
俺、本当に人外になっちまったんだなぁ~としみじみ実感できてしまった。
あぁ……悲しい……。
そして狩った獲物はやっぱり美味そうに見える。
食ったら実際美味かった。
うぅぅ……。
狩りから戻った俺は住処の周りを見回ってみた。
俺と同じ姿をした幻獣がいっぱいいる。
「おや、○■△。弱ってるって聞いたけど、もう大丈夫なのかい?」
そのうちの1体が話しかけてきた。
「あぁ、飯食ったら元気になったよ」
「そうかい。そりゃよかった」
そんな風に皆が普通に俺に接してくる。
俺……というより俺の体の持ち主はここで生活をしていたのだろう。
周辺をできる限り見回ってみたが、人間には出会えず、いるのは幻獣だけだった。
幻獣に聞いてみると、誰も人間の存在すら知らなかった。
もしかしてここは人間のいない世界なのか?
謎は尽きないが、夜になったので俺は洞窟に戻って再び眠りについた。
どうか目覚めた時には全てが元に戻っていますように……。
翌朝。
俺は毛むくじゃらのままだった。
やっぱそうか。
儚い願いだったなぁ……。
俺は幻獣として暮らし続けた。
連れは俺の世話を色々と焼いてくれる。
群れの仲間もみんな優しい。
とてもいい奴らだ。
そんないい幻獣になれたのは、まぁラッキーだったと言える。
でもやっぱり人間がいいな。
願わくば、何時の日か人間に戻れますように。
そう願って毎夜眠りにつくのだが、その願いは今のところ叶っていない。
もしかしたら俺が知らなかっただけで、幻獣の中には俺と同じ境遇の奴もいるかもしれないな。
そんなある日、俺達は敵に襲われた。
そいつの名は『歪虚』。
全ての生きとし生けるものの敵だ。
まさか異世界にも歪虚がいるなんて……。
それともここはやっぱクリムゾンウェストなのか?
答えは分からないが、とにかく倒さなければならない。
俺達は全員一丸となって歪虚と戦い、なんとか退けた。
しかしその日を境にして歪虚は度々襲ってくるようになった。
しかも歪虚の数は増え続け、戦闘は日々厳しさを増していった。
そのため幻獣は周辺にいる別の幻獣とも協力しあって歪虚と戦う盟約を結んだ。
こうして幻獣と歪虚の全面戦争とも言える戦いが始まったのである。
俺も当然戦った。
幻獣の身での戦い方を知らない俺は最初は足手纏いだった。
しかし人間としての知恵を使い、幻獣としての技も磨き、めきめきと力をつけていった。
何度歪虚と戦っただろう。
何度死にかけて死線を彷徨っただろう?
数え切れない程の戦いを得て、何時しか俺は仲間内で最も強くなっていた。
今では仲間も増えた。
イェジド、リーリー、グリフォン、ユグディラ、その他たくさんの幻獣達。
それに刻令ゴーレムやオートソルジャー等の幻獣ではない者達までいる。
最初は歪虚に押されていた俺達も、そんな仲間達が手を取り合ったため、今では押し返せるほど強くなった。
だが、未だに人とは出会った事がない。
やはりこの世界に人はいないのだろうか……。
そして時が経ち。
今、目の前には経験した事のない程の数の歪虚がうごめいている。
形容し難い異形の狂気型。そして狂気型に寄生されたCAM。
地上からも空からも様々な形の敵が迫ってくる。
もちろんこちらにも多くの味方がいる。
今から歪虚との決戦が始まるのだ。
「腕がなるな相棒。今日で世界は平和に大きく前進するぜ」
連れが不敵な笑みを浮かべる。
俺ももちろん覚悟は既にできている。
もはやこの身が人か幻獣かなど関係ない。
俺はこの世界と愛する者のために戦う。
「行くぞーっ!!」
うおぉーーーー!!
皆の幸せのため、平和な明日を掴むため、幻獣達は歪虚の群れに挑みかかった。
リプレイ本文
ペガサスのペス(ka5800unit003)は夢を見ていた。
夢の中の自分は頭から2本の角を生やした二足歩行の生き物の巣を間借りして暮らしていた。
2本足のソイツは自分の言うことは大抵何でもほいほい聞いてくれる便利なヤツだった。
なのでペスは悠々自適な自堕落生活をする事ができて幸せであった。
たまにソイツに請われて戦闘に連れ出される事もあった。
痛いのが嫌いなペスは本当は行きたくなかった。
ソイツの事もべつに好きでも嫌いでもなく、単なる家主としか思っていない。
とはいえ、住まわせてもらっている恩はあるので仕方なく行ってあげていた。
そんな夢を見ていたが……そこで目が覚めた。
「うぅ~ん……今日もいい天気ですね」
そして起きた瞬間、全て綺麗サッパリ忘れた。
『そんなぁ……』
どこか遠い異世界の誰かが嘆いた気がした。
「でも今日は歪虚との最終決戦なんですよねぇ……。イヤですわぁ~行きたくないですぅ~」
気にも止められなかった。
『……』
ペスはペガサスの群れの一員として今までも一応歪虚とは戦っていたのだが、とにかく逃げて逃げて逃げまくって生き延びてきたのである。
戦い自体は別に嫌ではない。
痛いのが嫌だなのだ。
「……あっ! ワタクシ閃きました! 痛くされる前に敵を倒してしまえば良いんです!」
自身の名案(?)に気を良くしたペスは意気揚々と仲間のペガサスと共に最終決戦の空へ『飛翔の翼』で舞い上がった。
【少し時は巻戻り】
レイア・アローネ(ka4082)は起きるとポロウのポルン(ka4082unit003)の姿になっていた。
嘴で羽毛を突っついてみる。
モフモフだ。
「うむ、この羽、この色、このもふもふ。私が間違える筈もない、うちのポルンだ」
しかしレイアは自分の身がポルンになろうとも全く慌てる事はなかった。
「愛するポルンの身体だ、何を困る必要があろう!」
レイアのポルンへの愛は海溝よりも深い。
それに以前にも似たような経験をした事がある……ような気がしていた。
「前はうちのアウローラが私と入れ替わってえらいことしでかしたが……」
直感的に今回は入れ替わりではない気がする。
ともかくポルンの身として生きてゆく事となったレイア。
生きてゆくにはまず食料の確保が最優先である。
だがポルンの身でであるため食べ物はもちろん普段ポロウが食べている物になる。
つまり、生肉である。
「野山育ちを舐めるなよ。鹿も猪も捌いた事あるし、生肉程度身体が耐えられるならなんでもない!」
レイアは全く動揺する事なく翼を広げて飛び立った。
自意識を薄くして本能に身を委ねると、ポルンの身体は自然と獲物を追い求め始めた。
やがて大きな木の枝にとまり、幹の表皮を剥がし始める。
(ん? 何をしているんだ?)
レイアは不思議に思ったが、そのまま本能に身を任せる。
すると嘴を幹の奥に突っ込み、ぐにゅっとしたものをついばむ感触がした。
そして幹から引っ張り出されたソレは、丸々と太った芋虫であった。
(ひぃっ!)
レイアの精神に怖気にも似た何かが走り、嘴から芋虫がポロリと落ちる。
「……虫?」
どう見ても虫である。
「生きたままの虫?」
生きているから足元で蠢いている。
「食べるの?」
もちろんである。
「……………………ごめんなさい、野鳥を舐めてました……」
レイアは思いっきり凹んだ。
この先生きてゆける自信すら失いそうだった。
しかしレイアの思いとは裏腹に、ポルンの身体は本能に従って再び芋虫をついばむ。
「待ってポルン! せめて火を通して……」
ポロウに火をおこす術はない。
それに基本、丸呑みである。
なので、生きたままの芋虫が口と食道を通過してゆく感触がレイアに伝わってきた。
(くぁwせdrftgyふじこっ!)
レイアは悶絶しそうになったが、それは精神だけで、ポルン自身は平然としている。
それどころかまた幹をほじりだした。
「待ってポルン……。せめて心の準備をさせて……」
ポルンは待つ事なくゴックンし続けた。
やがてポルンは満腹になったのか食事を止めた。
(……………今私のお腹の中には生きたままの芋虫が何匹も――)
想像すると暗澹たる気持ちになるのでレイアは考えるのを止めた。
そんなポルンとしての生活も数日続ければすぐに慣れた。
レイアは愛するポルンの身支度をかかさず、常に翼はツヤツヤ、羽毛はモフモフだ。
そんな見目麗しいポルンは当然群れのオスの目に止まったため、たちまち求愛された。
「私のポルンを嫁に欲しいだと? ならば一生ポルンを守り通せるだけの強さを私の見せてみろ! 話はそれからだ!」
レイアは母心全開で求愛者に勝負を挑み、一蹴した。
その後も求愛者は後を立たなかったが、その全てに勝利し続けた。
「弱い! もっと戦い方を工夫しろ。風を読め、攻撃に緩急をつけろ」
「なんだそのボサボサの羽は? もっと身繕いにも気を使え」
その度に指導も行ったため、オス達はメキメキと力を付けていった。
レイアの強さと高潔さに憧れるメスも増えてゆき、請われれば指導を行った。
そうしているうちにポルンは群れで最も強い存在となり、群れを率いるリーダーとなっていった。
それと同時に群れとしての強さも格段に上がり、全ポロウの群れの頂点に立つまでの存在になったのである。
やがて時が経ち、歪虚との戦闘が激化する中でもレイアはポロウのリーダーとして戦い続けた。
そして今、レイアは歪虚との最終決戦の地に立っている。
群れをなす小型歪虚を前にポルンはこれから始まる決戦に戦意を抱いて……はいなかった。
(ポルン?)
ポルンから感じられるのは【戦意】ではなく【食欲】。
(まさか……)
ポルンが見ているのは虫のような甲殻の小型歪虚の群れ。
(小型歪虚まで旨そうだとか思ってしまうとはっ!!)
嘘だと思いたかった。
しかしポルンからはハッキリとした食欲が感じられる。
(違うんだ! ポルンはあんなもの食べない! もっと可愛いわたあめみたいなもふもふを食べるんだっ!)
思わずメルヘンな幻想に現実逃避してしまうレイア。
その思考がポルンにも伝わり、身体が変に身悶えてしまう。
「どっ! どうしたんですかポルン様!?」
突然の奇行に心配した群れの仲間のポロウがポルンに駆け寄ってくる。
「あ……いや、何でもない。ちょっと武者震いしただけだ」
「そ、そうですか?」
武者震いと言うには派手な悶え方だったが、強引に誤魔化す。
(冷静になれ私……。ポルンは今やポロウの群れのリーダーだ。無様な姿を見せるわけにはいかない)
心を落ち着かせるとレイアは仲間たちへと振り返った。
「皆! ここまでよく私に着いてきてくれた。遂に決戦の時だ。ここまで戦い抜いてきた皆の力は私が一番良く知っっている。だから私は何も心配していない。我々は強い! この地に集う歪虚どもがどれ程の力を有していようとも、我々の結束は揺るがない。我々の勇気は揺るがない! 我々の勝利は揺るがない! 声を上げろ! 翼を広げろ! 我らは邪悪なる者を討ち滅ぼす剣だっ!!」
レイアの鼓舞で全てのポロウが奮い立ち、鬨の声が上がる。
「突撃―っ!!」
そしてレイアの声を合図に幻獣と歪虚の大戦が始まった。
空には無数とも思える小型歪虚が飛来しており、次々とペス達ペガサスにも殺到してきた。
「来ましたね邪悪な歪虚達」
普段のペスなら一目散に逃げている場面だ。
しかし今日のペスは今までのペスとは一味違う。
ヒラリヒラリと小型歪虚の攻撃を避けて前へ前へと進んでゆく。
雑魚など相手にはしない。
狙うは大物。R7エクスシアに寄生する侵食型のCAM歪虚だ。
「ペガサス最大の奥義をお見せしましょう!」
ペスは無駄に格好をつけながら宣言すると、体内のマテリアルを練り上げ、それを一気に解放した。
「必殺のホーリーシュート、アチョー!!」
変な掛け声と共に放たれた光弾がR7を直撃する。
「滅びなさい歪虚。穴場の餌場を台無しにした報いを受けるのです」
ペスの脳裏に全身を塵と化して霧散してゆくR7の姿が浮かぶ。
だが、ペスの妄想とは裏腹にR7は無傷でその場に滞空し続けている。
「……あれれ? なんで死んでませんの? 必ず殺すと書いて必殺なのに死んでないなんておかしいです」
ホーリーシュート。それは封印の術力を込めた光弾を撃ち込む事によりダメージの代わりに相手の動きを封じる技である。
それで死ぬわけがない。
ペスはホーリーシュートを『何か攻撃系の術らしい』という事しか知らずに習得していたのだ。
「詐欺です。これは詐欺ですよ!」
ペスは抗議したが敵は待ってはくれない。
普通なら待ってはくれない。
だが今は待ってくれている。
「あれ? でも動きが鈍ってます?」
なぜなら『ホーリーシュート』で封印されているからだ。
「よくやったぞ」
「いつもは逃げ回ってるだけなのにどうしたんだ?」
「お前もやる時はやるんだな」
仲間のペガサスがペスを褒め、止まったR7をタコ殴りにし始める。
「よく分からないけどラッキー!」
褒められて気を良くしたペスは仲間達と共に攻撃に加わる……事はしなかった。
なぜならホーリーシュートの呪縛をすぐに破ったR7が胸部装甲の内部に格納された砲身を露出させ、『マテリアルライフル』を撃ち放ったからだ。
負のマテリアルに彩れられた黒色の光が空を切り裂き、仲間のペガサスを撃ち抜いてゆく。
あんなの当たったら絶対に痛い。
近寄るなんて以ての外である。
そう思ったペスの脳裏で閃いた。
「ワタクシ閃きました! 痛いの嫌なら、支援に回れば良いんです。これは妙案ですよ」
ペスが再び体内のマテリアルを練り上げ始める。
「さぁ癒されるのです同胞よ。エナジーレイン、テヤァー!!」
ペスを中心にマテリアルの光が飛び散り、傷ついたペガサス達に雨のように降り注いでゆく。
その光が傷を癒やすと同時に身体の周囲を皮膜のように覆った。
傷の癒えたペガサス達がR7への攻撃を再開する。
R7は再度『マテリアルライフル』でペガサス達を薙ぎ払ったが、放たれた黒色のマテリアル光はエナジーレインの膜に相殺され、ペガサス達はほぼ無傷だ。
「あれ? どうして皆さん平気なんでしょう?」
その光景を見たペスが首を傾げる。
エナジーレイン。それは対象の傷を癒すと同時に敵意から身を守る守護の力を与える技である。
だがペスは『何か回復系の術らしい』という認識で習得していたので、ダメージを相殺できる事を知らないのだ。
「よく分かりませんけどとにかくラッキーです」
R7は反撃を続けたがペガサス達は傷つきながらも押し切り、遂に機体ごと寄生していた狂気型歪虚を討ち倒したのだった。
「やりましたね! ワタクシの支援の賜物です!」
自身は攻撃には参加しなかったのにペスは堂々と胸を張った。
しかしそんなペガサス達に向かって高速で接近してくる物体があった。
紫電を纏い、竜の如き体躯のソレは、歪居のボスであろうと推察されている雷竜型歪虚だ。
「大物が来ましたよ。さあ、みなさんワタクシの分まで頑張って下さい!」
支援に徹する気でいるペスは仲間に向かって『リベレーション』を発動。
予知能力による先読みができるようになったペガサス達が雷竜型に殺到してゆく。
だが雷竜型は間合いに捉えられる前に全身から紫電を迸らせた。
まるで一瞬だけ太陽が出現したかのような輝きと同時にバリバリ轟音が鳴り響き、全周囲に放たれた紫電が殺到していたペガサス達を呑み込んだ。
超高電圧を浴びせられたペガサス達は全身を黒く焦がされ、次々と墜落してゆく。
「うわわっ! みなさんが一瞬でコゲコゲにっ!! あんなの喰らったら一溜りもありません!」
ペスは大慌てて逃げ出したが、その挙動が雷竜型の目に止まり、猛スピードで追いかけてきた。
「キャーー!! どうしてワタクシを追いかけてくるんですか!? ワタクシなんて食べたって美味しくないですよっ!!」
ペスは必死に逃げたが雷竜型の方が速く、どんどん距離を詰められる。
「こうなったら必殺ホーリーシュート、アチャー!!」
追いつかれる前に振り返って『ホーリーシュート』を放ち、直撃させた。
「喰らいましたね。これであなたはもうワタクシを追いかけられませんよ! さあ今のうちに逃げ――」
しかし雷竜型はレジストしたのか全身の刺を銃弾のように撃ち放った。
刺がブスブスとペスに突き刺さる。
「痛い、痛い、痛いですってば! やめてぇー!」
ペスは刺から逃げれようとジグザグに飛ぶが、雷竜型を振り切れない。
「あなた何で動けるんですか? 必殺と書いて必ず殺すなんですよ! 反則ですっ! だからワタクシの事は見逃して下さい」
抗議して懇願したが聞き入れてくれるわけもなく、雷竜型はペスに喰らいつこうと大口を開けて迫ってくる。
「ああ、もうダメだグワーッ!」
ペスは観念して目を固く閉じた。
だが齧られる衝撃も痛みも訪れず、代わりに何かを斬り裂くような衝撃音が耳に届いた。
「え?」
目を開けると、1羽のポロウが足に装着した獣刃「アイレイール」で雷竜型を斬り裂いていた。
そのポロウはレイアの精神を宿したポルンである。
雷竜型がレイアに刺を放った。
レイアは身を翻して辛くも避ける。
「くっ、浅かったか。せめて私が元の身体なら……」
自身の身体で振るう程の斬撃が行えない事にレイアは焦れた。
しかし雷竜型の注意を引くには十分な一撃だった。
「あぁ、どなたは存じ上げませんがありがとうございます! さぁこれでワタクシの代わりに存分に戦って下さいませ!」
雷竜型の注意が自分から反れた隙にペスは『リベレーション』をレイアに施し、自分は安全な距離まで離脱した。
「支援魔法か、ありがたい」
本当は雷竜型の相手を押し付けられただけなのだが、ペスの本心を知らないレイアは素直に支援だと受け取り感謝した。
「ポルンの身体といえど私はハンターだ! 歪虚に屈する訳にはいかない!」
レイアは気合を入れ直すと雷竜型に向かって飛翔した。
だが雷竜型は真っ向勝負はしてこず、自身のスピードを活かしてレイアの後ろに回り込もうとする。
レイアは後ろを取らせまいと飛翔速度を上げたが、それでも雷竜型の方が圧倒的に速いため後ろに位置取られてしまう。
雷竜型はレイアの真後ろから刺を機銃掃射のように撃ち放ってきた。
レイアは翼を一瞬だけ畳んで体を旋回させつつ、自由落下で体を下方に流す。
刺が自身の上を通過した直後に再び翼を広げて体制を立て直す。
雷竜型は更に刺を放ってきたが、片方の翼だけを交互に羽ばたかせ、体を左右に振って避ける。
だが、後ろを取られたままでは一方的に攻撃を受け続ける事になってしまう。
それではいずれ命中してしまうだろう。
だがポルンの武器は獣刃「アイレイール」のみ。
接近しなければ攻撃できないのだが、相手の方が速度が速いため容易な事ではない。
「だが勝機はある」
レイアは刺を避けつつ慎重に雷竜型の動きを見る。
(刺がダメならいずれ雷を使ってくるはず……)
やがて雷竜型は刺攻撃を止め、全身に紫電を纏わせた。
「今だっ!」
その瞬間、翼を大きく左右に広げて急減速すると同時に『惑わすホー』を発動。
超高圧の雷が放たれ、ポルンの身体を焼き尽くそうと牙を剥く。
しかし雷はまるでポルンの周囲に展開された幻惑の結界を避けるかのように迸り、ポルンの毛先を焦がす事すらしなかった。
そして減速したポルンと雷竜型の距離が一気に縮まり、レイアの剣の間合いに入る。
雷竜型の迫る速度に合わせて獣刃を一閃。
刃が雷竜型の頭部を深く斬り裂いた。
だが雷竜型も翼の刺を振るい、ポルンの体を引き裂いていた。
互いの傷口から吹き出た血と瘴気が風に乗って散る。
「くっ! 相討ちか……」
レイアが痛みで顔を歪ませる。
だが不意に痛みが少しだけ和らぎ、ポルンの身体が薄い光に包まれる。
「これは……エナジーレイン」
そう、ペスが『エナジーレイン』を施してくれたのだ。
そしてレイアはペスと違って『エナジーレイン』の特性をよく理解している。
レイアは雷竜型が離れる前に獣刃を装着していない側の足で掴んだ。
すると雷竜型はほぼ0距離から刺を連射してくる。
だが『エナジーレイン』により相殺され、ポルンにダメージは及ばない。
レイアは獣刃を蹴り上げるようにして雷竜型を斜め一文字に斬り裂く。
雷竜型はグラリと体勢を崩したがまだ健在だ。
「くそっ、タフだな」
レイアは霊獣型を放して距離を取った。
もう至近からの刺の連射には耐えられないからだ。
雷竜型は刺を掃射してきたが、それを避けつつ地表に向かって降下。
そして地面スレスレを飛翔し始める。
雷獣型も後を追ってきて刺を掃射してきたが、先程の空中戦の時よりも命中精度が悪くなっていた。
なぜなら体格差があるため雷獣型は地面スレスレを飛ぶレイアを真後ろから攻撃する事はできず、少し上空から攻撃している。
斜め下にいる目標に当てる事は目の前の目標を当てる事より難しいのだ。
しかもレイアは木々の間や岩陰なども飛んだため、更に狙いにくくなっている。
(さあどうする?)
雷獣型は当たらない事に焦れたのかレイアとの徐々に詰めてきた。
(当然そうするよな)
それはレイアの狙い通りの行動だ。
レイアは飛翔しながら足の鉤爪を地面に下ろす。
すると鉤爪で地面を削れて地表に轍を残しながら飛翔速度が落ちてゆき、元々縮まっていた雷竜型との間合いが急激に縮まる。
レイアは地面を蹴って急上昇。
真上を通過寸前の雷竜型にぶつかるような勢いで飛翔し、獣剣を突き立てた。
剣先が外骨格を突き破り、刃が体内を深々と貫く。
「やったか?」
しかし雷獣型はまだ健在であった。
雷獣型は至近にいるポルンを抱えこんだ。
そして本当の0距離から刺を放ったのである。
ポルンの身体が前後左右あらゆる角度から幾つもの刺で貫かれた。
「――――っ!!」
激痛でポルンの口から声にならない絶叫が漏れる。
レイアは雷獣型から逃れようと藻掻いたが、刺が喰い込んでいて離れられない。
絶体絶命だ。
だがその時、半分切断されていた雷獣型の頭部が完全に斬り飛ばされた。
見上げると、獣魔爪「キャスパリーグ」を振り抜いたペスの姿があった。
「ふっふっふっ、油断しましたね。ワタクシが逃げ回ってばかりいると思ったら大間違いですよ」
ペスは痛い事が嫌いである。
しかし戦闘が嫌いな訳ではない。
だから怪我せず安全に敵を倒せそうな時なら戦闘に加わる事もあるのだ。
今の雷獣型は最早死に体なので、絶好の機会だったのである。
しかし雷獣型はそれでもまだ死んでおらず、ペスに向かって刺を発射した。
刺がブスブスとペスに刺さってゆく。
「痛い痛い痛いっ! なんですか全然元気じゃないですかーっ!」
ペスが刺を避けようと必死に逃げ惑う。
「うおぉぉぉーーー!」
レイアは吠えると翼を広げた。
ペスの一撃により拘束は緩んだため翼を伸ばす事ができたのだ。
そして雷竜型を引き連れ、大空に舞い上がる。
「これで」
高空で向きを変え、地面へ急降下。
「終わりだぁーーー!!」
激突音が鳴り響き、土煙がもうもうと舞い上がる。
地面との衝突の衝撃で刺さっていた獣剣は更に深く突き入れられ、雷竜型の体を貫通して地面に突き立っていた。
地面に横たわった雷竜型の身体が徐々に塵と化し、輪郭を失ってゆく。
狂気の歪虚のボスである雷竜型が滅びたのだ。
(やったぞポルン!)
レイアが晴れ晴れとした気持ちで空を見上げる。
空はどこまでも青かった。
(ポルンになって飛んだ空は気持ちよかったなぁ……)
何故か不意にそんな事を思ってしまった。
雷竜型が塵と化すとポルンに刺さっていた刺も消え、顕になった傷口からたちまち血が吹き出してきた。
流れ出す血がポルンの羽や羽毛を赤く染めてゆく。
(ポルンの羽が……綺麗にしてあげないと……)
だが血は止まってくれなかった。
「はわわっ! あなた酷い怪我ですよ!」
ペスがポルンの容態を診て驚く。
「やぁ、名アシスター。あんたの的確な支援がなかったら勝てなかったよ、ありがとう」
「当然です。名アシスターペスがワタクシの二つ名ですから」
ペスの支援はどれも本人は適当にやっていて、名アシストになったのは単なる偶然なのだが、ペスは勝手に自身を誇った。
「それよりもワタクシもうエナジーレインは使い切ってますの。誰か回復できる人を探してきますから死んじゃダメですよ! いいいですね!」
ペスが大騒ぎしながらポルンの元を離れてゆく。
するとここが戦場だとは思えないくらい静かになった。
聞こえるのはポルンの心音くらいだ。
(羽も汚れて身体もボロボロで、無理させて悪かったなポルン)
心の中でポルンに語りかける。
(でもポルンとだから最後まで戦い抜けた。感謝してる)
『ポゥ』
ポルンの鳴き声が聞こえた気がした。
それは「自分も一緒に戦えて嬉しかった」と言っているように思えた。
単なる幻聴かもしれない。
単なる願望かもしれない。
でもレイアは嬉しかった。
(ありがとう……)
そしてもう何も聞こえなくなった。
幻獣と歪虚との大戦は幻獣側の勝利で終わった。
多くの者が傷つき、倒れ、命を失ったが、それらの犠牲を乗り越えて幻獣達は勝利を掴み取ったのだ。
大戦の激闘を生き抜いた者の中には後に『英雄』と呼ばれ讃えられた者達がいた。
その中の1人がペスだった。
空の大歪虚、雷竜型を倒した功績によるものだ。
誰もがその偉業を讃えた。
ペスは英雄と呼ばれて有頂天になったものの、心の中では少し負い目を抱いていた。
それは本当の英雄が自分以外にもう1人いる事を知っていたからだ。
だが、大戦が終わった今でも歪虚はまだ存在する。
同胞達には英雄という心の支えが必要だった。
だからペスは英雄となる事に決めた。
『名アシスターペス』
それがペスの二つ名なのだから。
という所でペスの目が覚めた。
(……………いったいどれが夢でどれが現実なのでしょう?)
まだ半分寝ぼけている頭で考えるが、もちろん真実は分からない。
キィと音を立てて木製の馬小屋の戸が開いた。
「おはようございますペス」
礼儀正しく朝の挨拶をしてきたのは家主の保・はじめ(ka5800)だ。
「朝ごはんはいつものように外に用意してありますから食べてきて下さい。その間に小屋の掃除をしてしまいますから」
保がテキパキと掃除の準備を始める。
ペスは小屋から出た。
いつも通りの朝の風景がそこにある。
(………まぁ、英雄と褒め称えられるのも気分が良かったですけど、ワタクシには悠々自適な生活の方が性にあってますよね)
ペスはそれっきり考えるのを止め、保の用意してくれた飼い葉を噛み始めた。
レイアは目を覚ますと真っ先にポルンの元へ向かった。
「ポルン!」
ポルンはいつもどおりの場所にいた。
「よかったポルン。生きてたんだな……」
思わずポルンを抱きしめる。
いつも通りおひさまの匂いのするモフモフだった。
そんな唐突な包容するレイアを、ワイバーンのアウローラが不思議そうな顔つきで見てくる。
「いや、なんか変な夢を見たらしくて、急に不安になったんだよ」
急に気恥ずかしくなったレイアが弁解する。
ただ夢の内容はもう思い出せなくなっていた。
「急にごめんなポルン」
レイアはポルンを離そうとしたが、ポルンは何故か離れず甘えようとしてくる。
「どうしたんだポルン? 今日は随分と甘えん坊だな」
レイアは甘えてくるポルンの羽毛を撫でてあげた。
(まさか同じ夢を見たとか? いや、それこそまさかだな)
<おしまい>
夢の中の自分は頭から2本の角を生やした二足歩行の生き物の巣を間借りして暮らしていた。
2本足のソイツは自分の言うことは大抵何でもほいほい聞いてくれる便利なヤツだった。
なのでペスは悠々自適な自堕落生活をする事ができて幸せであった。
たまにソイツに請われて戦闘に連れ出される事もあった。
痛いのが嫌いなペスは本当は行きたくなかった。
ソイツの事もべつに好きでも嫌いでもなく、単なる家主としか思っていない。
とはいえ、住まわせてもらっている恩はあるので仕方なく行ってあげていた。
そんな夢を見ていたが……そこで目が覚めた。
「うぅ~ん……今日もいい天気ですね」
そして起きた瞬間、全て綺麗サッパリ忘れた。
『そんなぁ……』
どこか遠い異世界の誰かが嘆いた気がした。
「でも今日は歪虚との最終決戦なんですよねぇ……。イヤですわぁ~行きたくないですぅ~」
気にも止められなかった。
『……』
ペスはペガサスの群れの一員として今までも一応歪虚とは戦っていたのだが、とにかく逃げて逃げて逃げまくって生き延びてきたのである。
戦い自体は別に嫌ではない。
痛いのが嫌だなのだ。
「……あっ! ワタクシ閃きました! 痛くされる前に敵を倒してしまえば良いんです!」
自身の名案(?)に気を良くしたペスは意気揚々と仲間のペガサスと共に最終決戦の空へ『飛翔の翼』で舞い上がった。
【少し時は巻戻り】
レイア・アローネ(ka4082)は起きるとポロウのポルン(ka4082unit003)の姿になっていた。
嘴で羽毛を突っついてみる。
モフモフだ。
「うむ、この羽、この色、このもふもふ。私が間違える筈もない、うちのポルンだ」
しかしレイアは自分の身がポルンになろうとも全く慌てる事はなかった。
「愛するポルンの身体だ、何を困る必要があろう!」
レイアのポルンへの愛は海溝よりも深い。
それに以前にも似たような経験をした事がある……ような気がしていた。
「前はうちのアウローラが私と入れ替わってえらいことしでかしたが……」
直感的に今回は入れ替わりではない気がする。
ともかくポルンの身として生きてゆく事となったレイア。
生きてゆくにはまず食料の確保が最優先である。
だがポルンの身でであるため食べ物はもちろん普段ポロウが食べている物になる。
つまり、生肉である。
「野山育ちを舐めるなよ。鹿も猪も捌いた事あるし、生肉程度身体が耐えられるならなんでもない!」
レイアは全く動揺する事なく翼を広げて飛び立った。
自意識を薄くして本能に身を委ねると、ポルンの身体は自然と獲物を追い求め始めた。
やがて大きな木の枝にとまり、幹の表皮を剥がし始める。
(ん? 何をしているんだ?)
レイアは不思議に思ったが、そのまま本能に身を任せる。
すると嘴を幹の奥に突っ込み、ぐにゅっとしたものをついばむ感触がした。
そして幹から引っ張り出されたソレは、丸々と太った芋虫であった。
(ひぃっ!)
レイアの精神に怖気にも似た何かが走り、嘴から芋虫がポロリと落ちる。
「……虫?」
どう見ても虫である。
「生きたままの虫?」
生きているから足元で蠢いている。
「食べるの?」
もちろんである。
「……………………ごめんなさい、野鳥を舐めてました……」
レイアは思いっきり凹んだ。
この先生きてゆける自信すら失いそうだった。
しかしレイアの思いとは裏腹に、ポルンの身体は本能に従って再び芋虫をついばむ。
「待ってポルン! せめて火を通して……」
ポロウに火をおこす術はない。
それに基本、丸呑みである。
なので、生きたままの芋虫が口と食道を通過してゆく感触がレイアに伝わってきた。
(くぁwせdrftgyふじこっ!)
レイアは悶絶しそうになったが、それは精神だけで、ポルン自身は平然としている。
それどころかまた幹をほじりだした。
「待ってポルン……。せめて心の準備をさせて……」
ポルンは待つ事なくゴックンし続けた。
やがてポルンは満腹になったのか食事を止めた。
(……………今私のお腹の中には生きたままの芋虫が何匹も――)
想像すると暗澹たる気持ちになるのでレイアは考えるのを止めた。
そんなポルンとしての生活も数日続ければすぐに慣れた。
レイアは愛するポルンの身支度をかかさず、常に翼はツヤツヤ、羽毛はモフモフだ。
そんな見目麗しいポルンは当然群れのオスの目に止まったため、たちまち求愛された。
「私のポルンを嫁に欲しいだと? ならば一生ポルンを守り通せるだけの強さを私の見せてみろ! 話はそれからだ!」
レイアは母心全開で求愛者に勝負を挑み、一蹴した。
その後も求愛者は後を立たなかったが、その全てに勝利し続けた。
「弱い! もっと戦い方を工夫しろ。風を読め、攻撃に緩急をつけろ」
「なんだそのボサボサの羽は? もっと身繕いにも気を使え」
その度に指導も行ったため、オス達はメキメキと力を付けていった。
レイアの強さと高潔さに憧れるメスも増えてゆき、請われれば指導を行った。
そうしているうちにポルンは群れで最も強い存在となり、群れを率いるリーダーとなっていった。
それと同時に群れとしての強さも格段に上がり、全ポロウの群れの頂点に立つまでの存在になったのである。
やがて時が経ち、歪虚との戦闘が激化する中でもレイアはポロウのリーダーとして戦い続けた。
そして今、レイアは歪虚との最終決戦の地に立っている。
群れをなす小型歪虚を前にポルンはこれから始まる決戦に戦意を抱いて……はいなかった。
(ポルン?)
ポルンから感じられるのは【戦意】ではなく【食欲】。
(まさか……)
ポルンが見ているのは虫のような甲殻の小型歪虚の群れ。
(小型歪虚まで旨そうだとか思ってしまうとはっ!!)
嘘だと思いたかった。
しかしポルンからはハッキリとした食欲が感じられる。
(違うんだ! ポルンはあんなもの食べない! もっと可愛いわたあめみたいなもふもふを食べるんだっ!)
思わずメルヘンな幻想に現実逃避してしまうレイア。
その思考がポルンにも伝わり、身体が変に身悶えてしまう。
「どっ! どうしたんですかポルン様!?」
突然の奇行に心配した群れの仲間のポロウがポルンに駆け寄ってくる。
「あ……いや、何でもない。ちょっと武者震いしただけだ」
「そ、そうですか?」
武者震いと言うには派手な悶え方だったが、強引に誤魔化す。
(冷静になれ私……。ポルンは今やポロウの群れのリーダーだ。無様な姿を見せるわけにはいかない)
心を落ち着かせるとレイアは仲間たちへと振り返った。
「皆! ここまでよく私に着いてきてくれた。遂に決戦の時だ。ここまで戦い抜いてきた皆の力は私が一番良く知っっている。だから私は何も心配していない。我々は強い! この地に集う歪虚どもがどれ程の力を有していようとも、我々の結束は揺るがない。我々の勇気は揺るがない! 我々の勝利は揺るがない! 声を上げろ! 翼を広げろ! 我らは邪悪なる者を討ち滅ぼす剣だっ!!」
レイアの鼓舞で全てのポロウが奮い立ち、鬨の声が上がる。
「突撃―っ!!」
そしてレイアの声を合図に幻獣と歪虚の大戦が始まった。
空には無数とも思える小型歪虚が飛来しており、次々とペス達ペガサスにも殺到してきた。
「来ましたね邪悪な歪虚達」
普段のペスなら一目散に逃げている場面だ。
しかし今日のペスは今までのペスとは一味違う。
ヒラリヒラリと小型歪虚の攻撃を避けて前へ前へと進んでゆく。
雑魚など相手にはしない。
狙うは大物。R7エクスシアに寄生する侵食型のCAM歪虚だ。
「ペガサス最大の奥義をお見せしましょう!」
ペスは無駄に格好をつけながら宣言すると、体内のマテリアルを練り上げ、それを一気に解放した。
「必殺のホーリーシュート、アチョー!!」
変な掛け声と共に放たれた光弾がR7を直撃する。
「滅びなさい歪虚。穴場の餌場を台無しにした報いを受けるのです」
ペスの脳裏に全身を塵と化して霧散してゆくR7の姿が浮かぶ。
だが、ペスの妄想とは裏腹にR7は無傷でその場に滞空し続けている。
「……あれれ? なんで死んでませんの? 必ず殺すと書いて必殺なのに死んでないなんておかしいです」
ホーリーシュート。それは封印の術力を込めた光弾を撃ち込む事によりダメージの代わりに相手の動きを封じる技である。
それで死ぬわけがない。
ペスはホーリーシュートを『何か攻撃系の術らしい』という事しか知らずに習得していたのだ。
「詐欺です。これは詐欺ですよ!」
ペスは抗議したが敵は待ってはくれない。
普通なら待ってはくれない。
だが今は待ってくれている。
「あれ? でも動きが鈍ってます?」
なぜなら『ホーリーシュート』で封印されているからだ。
「よくやったぞ」
「いつもは逃げ回ってるだけなのにどうしたんだ?」
「お前もやる時はやるんだな」
仲間のペガサスがペスを褒め、止まったR7をタコ殴りにし始める。
「よく分からないけどラッキー!」
褒められて気を良くしたペスは仲間達と共に攻撃に加わる……事はしなかった。
なぜならホーリーシュートの呪縛をすぐに破ったR7が胸部装甲の内部に格納された砲身を露出させ、『マテリアルライフル』を撃ち放ったからだ。
負のマテリアルに彩れられた黒色の光が空を切り裂き、仲間のペガサスを撃ち抜いてゆく。
あんなの当たったら絶対に痛い。
近寄るなんて以ての外である。
そう思ったペスの脳裏で閃いた。
「ワタクシ閃きました! 痛いの嫌なら、支援に回れば良いんです。これは妙案ですよ」
ペスが再び体内のマテリアルを練り上げ始める。
「さぁ癒されるのです同胞よ。エナジーレイン、テヤァー!!」
ペスを中心にマテリアルの光が飛び散り、傷ついたペガサス達に雨のように降り注いでゆく。
その光が傷を癒やすと同時に身体の周囲を皮膜のように覆った。
傷の癒えたペガサス達がR7への攻撃を再開する。
R7は再度『マテリアルライフル』でペガサス達を薙ぎ払ったが、放たれた黒色のマテリアル光はエナジーレインの膜に相殺され、ペガサス達はほぼ無傷だ。
「あれ? どうして皆さん平気なんでしょう?」
その光景を見たペスが首を傾げる。
エナジーレイン。それは対象の傷を癒すと同時に敵意から身を守る守護の力を与える技である。
だがペスは『何か回復系の術らしい』という認識で習得していたので、ダメージを相殺できる事を知らないのだ。
「よく分かりませんけどとにかくラッキーです」
R7は反撃を続けたがペガサス達は傷つきながらも押し切り、遂に機体ごと寄生していた狂気型歪虚を討ち倒したのだった。
「やりましたね! ワタクシの支援の賜物です!」
自身は攻撃には参加しなかったのにペスは堂々と胸を張った。
しかしそんなペガサス達に向かって高速で接近してくる物体があった。
紫電を纏い、竜の如き体躯のソレは、歪居のボスであろうと推察されている雷竜型歪虚だ。
「大物が来ましたよ。さあ、みなさんワタクシの分まで頑張って下さい!」
支援に徹する気でいるペスは仲間に向かって『リベレーション』を発動。
予知能力による先読みができるようになったペガサス達が雷竜型に殺到してゆく。
だが雷竜型は間合いに捉えられる前に全身から紫電を迸らせた。
まるで一瞬だけ太陽が出現したかのような輝きと同時にバリバリ轟音が鳴り響き、全周囲に放たれた紫電が殺到していたペガサス達を呑み込んだ。
超高電圧を浴びせられたペガサス達は全身を黒く焦がされ、次々と墜落してゆく。
「うわわっ! みなさんが一瞬でコゲコゲにっ!! あんなの喰らったら一溜りもありません!」
ペスは大慌てて逃げ出したが、その挙動が雷竜型の目に止まり、猛スピードで追いかけてきた。
「キャーー!! どうしてワタクシを追いかけてくるんですか!? ワタクシなんて食べたって美味しくないですよっ!!」
ペスは必死に逃げたが雷竜型の方が速く、どんどん距離を詰められる。
「こうなったら必殺ホーリーシュート、アチャー!!」
追いつかれる前に振り返って『ホーリーシュート』を放ち、直撃させた。
「喰らいましたね。これであなたはもうワタクシを追いかけられませんよ! さあ今のうちに逃げ――」
しかし雷竜型はレジストしたのか全身の刺を銃弾のように撃ち放った。
刺がブスブスとペスに突き刺さる。
「痛い、痛い、痛いですってば! やめてぇー!」
ペスは刺から逃げれようとジグザグに飛ぶが、雷竜型を振り切れない。
「あなた何で動けるんですか? 必殺と書いて必ず殺すなんですよ! 反則ですっ! だからワタクシの事は見逃して下さい」
抗議して懇願したが聞き入れてくれるわけもなく、雷竜型はペスに喰らいつこうと大口を開けて迫ってくる。
「ああ、もうダメだグワーッ!」
ペスは観念して目を固く閉じた。
だが齧られる衝撃も痛みも訪れず、代わりに何かを斬り裂くような衝撃音が耳に届いた。
「え?」
目を開けると、1羽のポロウが足に装着した獣刃「アイレイール」で雷竜型を斬り裂いていた。
そのポロウはレイアの精神を宿したポルンである。
雷竜型がレイアに刺を放った。
レイアは身を翻して辛くも避ける。
「くっ、浅かったか。せめて私が元の身体なら……」
自身の身体で振るう程の斬撃が行えない事にレイアは焦れた。
しかし雷竜型の注意を引くには十分な一撃だった。
「あぁ、どなたは存じ上げませんがありがとうございます! さぁこれでワタクシの代わりに存分に戦って下さいませ!」
雷竜型の注意が自分から反れた隙にペスは『リベレーション』をレイアに施し、自分は安全な距離まで離脱した。
「支援魔法か、ありがたい」
本当は雷竜型の相手を押し付けられただけなのだが、ペスの本心を知らないレイアは素直に支援だと受け取り感謝した。
「ポルンの身体といえど私はハンターだ! 歪虚に屈する訳にはいかない!」
レイアは気合を入れ直すと雷竜型に向かって飛翔した。
だが雷竜型は真っ向勝負はしてこず、自身のスピードを活かしてレイアの後ろに回り込もうとする。
レイアは後ろを取らせまいと飛翔速度を上げたが、それでも雷竜型の方が圧倒的に速いため後ろに位置取られてしまう。
雷竜型はレイアの真後ろから刺を機銃掃射のように撃ち放ってきた。
レイアは翼を一瞬だけ畳んで体を旋回させつつ、自由落下で体を下方に流す。
刺が自身の上を通過した直後に再び翼を広げて体制を立て直す。
雷竜型は更に刺を放ってきたが、片方の翼だけを交互に羽ばたかせ、体を左右に振って避ける。
だが、後ろを取られたままでは一方的に攻撃を受け続ける事になってしまう。
それではいずれ命中してしまうだろう。
だがポルンの武器は獣刃「アイレイール」のみ。
接近しなければ攻撃できないのだが、相手の方が速度が速いため容易な事ではない。
「だが勝機はある」
レイアは刺を避けつつ慎重に雷竜型の動きを見る。
(刺がダメならいずれ雷を使ってくるはず……)
やがて雷竜型は刺攻撃を止め、全身に紫電を纏わせた。
「今だっ!」
その瞬間、翼を大きく左右に広げて急減速すると同時に『惑わすホー』を発動。
超高圧の雷が放たれ、ポルンの身体を焼き尽くそうと牙を剥く。
しかし雷はまるでポルンの周囲に展開された幻惑の結界を避けるかのように迸り、ポルンの毛先を焦がす事すらしなかった。
そして減速したポルンと雷竜型の距離が一気に縮まり、レイアの剣の間合いに入る。
雷竜型の迫る速度に合わせて獣刃を一閃。
刃が雷竜型の頭部を深く斬り裂いた。
だが雷竜型も翼の刺を振るい、ポルンの体を引き裂いていた。
互いの傷口から吹き出た血と瘴気が風に乗って散る。
「くっ! 相討ちか……」
レイアが痛みで顔を歪ませる。
だが不意に痛みが少しだけ和らぎ、ポルンの身体が薄い光に包まれる。
「これは……エナジーレイン」
そう、ペスが『エナジーレイン』を施してくれたのだ。
そしてレイアはペスと違って『エナジーレイン』の特性をよく理解している。
レイアは雷竜型が離れる前に獣刃を装着していない側の足で掴んだ。
すると雷竜型はほぼ0距離から刺を連射してくる。
だが『エナジーレイン』により相殺され、ポルンにダメージは及ばない。
レイアは獣刃を蹴り上げるようにして雷竜型を斜め一文字に斬り裂く。
雷竜型はグラリと体勢を崩したがまだ健在だ。
「くそっ、タフだな」
レイアは霊獣型を放して距離を取った。
もう至近からの刺の連射には耐えられないからだ。
雷竜型は刺を掃射してきたが、それを避けつつ地表に向かって降下。
そして地面スレスレを飛翔し始める。
雷獣型も後を追ってきて刺を掃射してきたが、先程の空中戦の時よりも命中精度が悪くなっていた。
なぜなら体格差があるため雷獣型は地面スレスレを飛ぶレイアを真後ろから攻撃する事はできず、少し上空から攻撃している。
斜め下にいる目標に当てる事は目の前の目標を当てる事より難しいのだ。
しかもレイアは木々の間や岩陰なども飛んだため、更に狙いにくくなっている。
(さあどうする?)
雷獣型は当たらない事に焦れたのかレイアとの徐々に詰めてきた。
(当然そうするよな)
それはレイアの狙い通りの行動だ。
レイアは飛翔しながら足の鉤爪を地面に下ろす。
すると鉤爪で地面を削れて地表に轍を残しながら飛翔速度が落ちてゆき、元々縮まっていた雷竜型との間合いが急激に縮まる。
レイアは地面を蹴って急上昇。
真上を通過寸前の雷竜型にぶつかるような勢いで飛翔し、獣剣を突き立てた。
剣先が外骨格を突き破り、刃が体内を深々と貫く。
「やったか?」
しかし雷獣型はまだ健在であった。
雷獣型は至近にいるポルンを抱えこんだ。
そして本当の0距離から刺を放ったのである。
ポルンの身体が前後左右あらゆる角度から幾つもの刺で貫かれた。
「――――っ!!」
激痛でポルンの口から声にならない絶叫が漏れる。
レイアは雷獣型から逃れようと藻掻いたが、刺が喰い込んでいて離れられない。
絶体絶命だ。
だがその時、半分切断されていた雷獣型の頭部が完全に斬り飛ばされた。
見上げると、獣魔爪「キャスパリーグ」を振り抜いたペスの姿があった。
「ふっふっふっ、油断しましたね。ワタクシが逃げ回ってばかりいると思ったら大間違いですよ」
ペスは痛い事が嫌いである。
しかし戦闘が嫌いな訳ではない。
だから怪我せず安全に敵を倒せそうな時なら戦闘に加わる事もあるのだ。
今の雷獣型は最早死に体なので、絶好の機会だったのである。
しかし雷獣型はそれでもまだ死んでおらず、ペスに向かって刺を発射した。
刺がブスブスとペスに刺さってゆく。
「痛い痛い痛いっ! なんですか全然元気じゃないですかーっ!」
ペスが刺を避けようと必死に逃げ惑う。
「うおぉぉぉーーー!」
レイアは吠えると翼を広げた。
ペスの一撃により拘束は緩んだため翼を伸ばす事ができたのだ。
そして雷竜型を引き連れ、大空に舞い上がる。
「これで」
高空で向きを変え、地面へ急降下。
「終わりだぁーーー!!」
激突音が鳴り響き、土煙がもうもうと舞い上がる。
地面との衝突の衝撃で刺さっていた獣剣は更に深く突き入れられ、雷竜型の体を貫通して地面に突き立っていた。
地面に横たわった雷竜型の身体が徐々に塵と化し、輪郭を失ってゆく。
狂気の歪虚のボスである雷竜型が滅びたのだ。
(やったぞポルン!)
レイアが晴れ晴れとした気持ちで空を見上げる。
空はどこまでも青かった。
(ポルンになって飛んだ空は気持ちよかったなぁ……)
何故か不意にそんな事を思ってしまった。
雷竜型が塵と化すとポルンに刺さっていた刺も消え、顕になった傷口からたちまち血が吹き出してきた。
流れ出す血がポルンの羽や羽毛を赤く染めてゆく。
(ポルンの羽が……綺麗にしてあげないと……)
だが血は止まってくれなかった。
「はわわっ! あなた酷い怪我ですよ!」
ペスがポルンの容態を診て驚く。
「やぁ、名アシスター。あんたの的確な支援がなかったら勝てなかったよ、ありがとう」
「当然です。名アシスターペスがワタクシの二つ名ですから」
ペスの支援はどれも本人は適当にやっていて、名アシストになったのは単なる偶然なのだが、ペスは勝手に自身を誇った。
「それよりもワタクシもうエナジーレインは使い切ってますの。誰か回復できる人を探してきますから死んじゃダメですよ! いいいですね!」
ペスが大騒ぎしながらポルンの元を離れてゆく。
するとここが戦場だとは思えないくらい静かになった。
聞こえるのはポルンの心音くらいだ。
(羽も汚れて身体もボロボロで、無理させて悪かったなポルン)
心の中でポルンに語りかける。
(でもポルンとだから最後まで戦い抜けた。感謝してる)
『ポゥ』
ポルンの鳴き声が聞こえた気がした。
それは「自分も一緒に戦えて嬉しかった」と言っているように思えた。
単なる幻聴かもしれない。
単なる願望かもしれない。
でもレイアは嬉しかった。
(ありがとう……)
そしてもう何も聞こえなくなった。
幻獣と歪虚との大戦は幻獣側の勝利で終わった。
多くの者が傷つき、倒れ、命を失ったが、それらの犠牲を乗り越えて幻獣達は勝利を掴み取ったのだ。
大戦の激闘を生き抜いた者の中には後に『英雄』と呼ばれ讃えられた者達がいた。
その中の1人がペスだった。
空の大歪虚、雷竜型を倒した功績によるものだ。
誰もがその偉業を讃えた。
ペスは英雄と呼ばれて有頂天になったものの、心の中では少し負い目を抱いていた。
それは本当の英雄が自分以外にもう1人いる事を知っていたからだ。
だが、大戦が終わった今でも歪虚はまだ存在する。
同胞達には英雄という心の支えが必要だった。
だからペスは英雄となる事に決めた。
『名アシスターペス』
それがペスの二つ名なのだから。
という所でペスの目が覚めた。
(……………いったいどれが夢でどれが現実なのでしょう?)
まだ半分寝ぼけている頭で考えるが、もちろん真実は分からない。
キィと音を立てて木製の馬小屋の戸が開いた。
「おはようございますペス」
礼儀正しく朝の挨拶をしてきたのは家主の保・はじめ(ka5800)だ。
「朝ごはんはいつものように外に用意してありますから食べてきて下さい。その間に小屋の掃除をしてしまいますから」
保がテキパキと掃除の準備を始める。
ペスは小屋から出た。
いつも通りの朝の風景がそこにある。
(………まぁ、英雄と褒め称えられるのも気分が良かったですけど、ワタクシには悠々自適な生活の方が性にあってますよね)
ペスはそれっきり考えるのを止め、保の用意してくれた飼い葉を噛み始めた。
レイアは目を覚ますと真っ先にポルンの元へ向かった。
「ポルン!」
ポルンはいつもどおりの場所にいた。
「よかったポルン。生きてたんだな……」
思わずポルンを抱きしめる。
いつも通りおひさまの匂いのするモフモフだった。
そんな唐突な包容するレイアを、ワイバーンのアウローラが不思議そうな顔つきで見てくる。
「いや、なんか変な夢を見たらしくて、急に不安になったんだよ」
急に気恥ずかしくなったレイアが弁解する。
ただ夢の内容はもう思い出せなくなっていた。
「急にごめんなポルン」
レイアはポルンを離そうとしたが、ポルンは何故か離れず甘えようとしてくる。
「どうしたんだポルン? 今日は随分と甘えん坊だな」
レイアは甘えてくるポルンの羽毛を撫でてあげた。
(まさか同じ夢を見たとか? いや、それこそまさかだな)
<おしまい>
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/03 00:26:13 |
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相談卓 保・はじめ(ka5800) 鬼|23才|男性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2019/04/03 00:26:49 |