ゲスト
(ka0000)
【王戦】黒竜侵攻
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2019/04/16 07:30
- 完成日
- 2019/04/20 16:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
空飛ぶデュミナスに矢が突き立った。
大食らいのブースターが激しく咳き込む。
黒煙とマテリアル光を盛大に噴き出し推力が失われる。
両腕で抱えていた105mmスナイパーライフルを離し、腰の左右にぶら下げていた予備弾倉を切り離してももう遅い。
四肢を使っての着地を試みる。
野生の獣じみた動作は衝撃の大部分を受け流し、しかし残った衝撃だけでもデュミナスを砕くのに十分すぎた。
王国貴族が丹精込めて整備した街道が砕け、CAMのパーツと石材の破片が宙に舞った。
「見事」
頭を抱えたくなる衝動を貴族としての矜恃で耐えて、この地域を支配する領主が部下達に声をかけた。
無論距離は離れている。
魔導短伝話がぎりぎり届く距離だ。
「良く鍛えた」
たった数単語に膨大な感情が籠もっている。
魔導型CAMが鳴り物入りで登場したとき、金もコネもなく見上げることしかできなかった。
それからは臥薪嘗胆の日々だ。
貴族の体面を保ちながら削れる所は限界まで削り、民の生活を維持しながら対歪虚の戦力を整えた。
ストレスは筆舌に尽くし難く、ふさふさの家系なのに1年で1センチ後退したほどだ。
青い空を見上げると、すっかり寂しくなった前髪がそよ風に揺れた。
「閣下!」
ノイズ混じりの声が魔導短伝話に届く。
乳兄弟として育った腹心の部下なので、声だけで何を言いたいか分かる。
「すぐに戻る。息子にはくれぐれも大人しくしているよう……」
違和感。
青空の隅に1点の黒が。
それが不吉な負の気配を纏うのに気づき、危機感に背を蹴飛ばされるようにして叫ぶ。
「息子に全てを譲」
黒が光る。
灼熱のブレスが音を置き去りにして迫ってくる。
遺言を最後まで言い残すこともできず、王国貴族の1人が骨の芯まで焼き尽くされた。
●都市占領
街の北数キロで発生したキノコ雲を凝視しながら、老執事が静かに報告を行う。
「通信、途絶しました」
自分の声が震えていることに気付けない。
「ぢぢうぇ」
魂がひび割れるような言葉をこぼし、追いかける背中を喪った青年が執事を押し退ける。
歯を食いしばる。
ここで立ち止まるような教育は受けていない。
あの世の父に無様を見せるのだけは絶対に嫌だ。
「私だ」
聞き取りやすい声が出たことに安堵する。
「最大級の歪虚の襲撃である。予備役を総動員せよ。聖堂教会に協力を求めよ。複数の伝令を王都を向かわせよ」
了解の返事が届いた数秒後、街中の警鐘が鳴り始めた。
「閣下」
老執事が手の手当を行う。
伝話の取っ手が砕けて新たな領主の手に突き刺さっている。
「先程は乱暴にしてすまぬ。私の代でも頼……」
複数の着信音が同時に響いた。
「歪虚です」
「魔導CAMに似た歪虚が」
「南だけで無く東からも、4体と5体ですっ」
手分けして聞き取ると絶望的な状況が見えてくる。
最低でも6集団の歪虚が街に向かってきている。
前領主が率いる部隊が倒したのは、1隊ですらないはぐれた1機だ。
しかも敵はそれ以外にもいる。
空からブレスを放った、にっくき仇がどこかにいるはずなのだ。
「領民を館に避難させろ。一時滞在者も区別するな」
領民最優先にしたいのが本音だが、それを実行すると商業都市としての未来が死ぬ。
だから部下を危険に晒すのを甘受する。
それが甘すぎる考えであることに、すぐに気付かされることになる。
「歪虚がブースターを使いましたっ。目的地はっ」
スペクルムカスタムのルクシュヴァリエやハンターが乗る空戦機とは異なり、無理矢理200メートル飛ぶだけのブースターだ。
飛行中はただの的であり、地上ではブースターが大きすぎて鈍重なだけの機体になる。
しかも再使用まで1分以上かかるの。騎乗兵部隊を突撃させれば簡単に仕留めることができだろう。
6隊22機が着地する。
聖堂の正面。
兵営の左右。
武器庫の至近。
大通りが交差する街の中心。
そして、全てを統括する領主館の前に着地して105mmのカノン砲を構えた。
砲が火を噴けば大勢の人間が死ぬ。
戦う術を持たない住民だけでなく、建物に中にいる戦士達も天井を崩され最低でも重傷になる。
「聞コエルカ人間」
恐怖で凍り付いた街に声が降ってくる。
上腕が潰れ、全身が治りかけの傷で覆われた竜が地上100メートルから語りかけてくる。
歪虚らしい殺意に満ちた外見なのに、その声は異様なほどに穏やかだ。
「静カニシテイロ。次ノ次ノ夜明ケマデニハ去ル」
一部のデュミナス型歪虚が動き出す。
人間がいようがいまいが気にもせず、歴史のある建物の壁を無造作に砕いていく。中には領主館の壁を崩して調度品を運び出すものもいた。
「閣下」
執事が殺気を抑えきれない。
持ち出される品の中に、金銭的価値は皆無の、10代以上引き継いできた品がいくつも混じっている。
「抑えろ。打って出るのは増援到着に歪虚が気付いてからだ」
毛細血管が千切れて瞳が赤く染まり、血色の涙が一筋零れた。
●都市奪還依頼
「領主に勝ち目はありません」
慌ただしく集められたあなたの前で、化粧を直す暇もない職員がA4コピー用紙に現地の状況を描く。
襲撃前の光景しか映っていないホロディスプレイことは異なり、目印になる地形と歪虚の配置が分かり易く描写される。
「敵は歪虚は3種です」
1つはデュミナス型歪虚。これは単体なら怖くない。都市住民の避難が済んでいるので105mm砲の流れ弾を気にせず戦う事が可能だ。
もう1つは災厄の十三魔ガルドブルム。デュミナス型の軍勢を集め、じりじりと王都に迫る動きをしている。
最後の1つは全長16メートル前後の竜種歪虚達だ。基本的な能力は同サイズの個体より劣り、しかしガルドブルムから習得した技術により強力な戦闘力を獲得した。
「領主達は16メートル級を十三魔と勘違いしています。ガルドブルムは高空を飛んでいるので仕方が無いのかもしれませんが……」
達? と誰かが尋ねるより早く司書パルムがホロディスプレイを更新する。
高空からの情報収集と爆撃を担当するのが黒竜。
地上の対空戦力の排除担当がデュミナス型CAM。
デュミナス型が排除されそうになったとき駆けつけるのが16メート級竜種だ。
その3種により制圧された都市三つの地図が映し出されている
「上空にガルドブルムがいないタイミングで皆さんに転移してもらいます。デュミナス型は放置して構いません。16メートル級を確実に撃破してください」
いずれの都市の戦力も、16メートル級を撃破すれば残りの歪虚は現地戦力で撃破可能だ。
黒竜がいない間は、だが。
「ガルドブルム討伐に向け準備が進んでいますが、都市が占領されたままでは頓挫の可能性があります。最低2つ、都市を開放してください」
無茶苦茶な要求だ。
だが、その無茶を成功させなければ、1戦線の崩壊から王国の崩壊に繋がる可能性大であった。
大食らいのブースターが激しく咳き込む。
黒煙とマテリアル光を盛大に噴き出し推力が失われる。
両腕で抱えていた105mmスナイパーライフルを離し、腰の左右にぶら下げていた予備弾倉を切り離してももう遅い。
四肢を使っての着地を試みる。
野生の獣じみた動作は衝撃の大部分を受け流し、しかし残った衝撃だけでもデュミナスを砕くのに十分すぎた。
王国貴族が丹精込めて整備した街道が砕け、CAMのパーツと石材の破片が宙に舞った。
「見事」
頭を抱えたくなる衝動を貴族としての矜恃で耐えて、この地域を支配する領主が部下達に声をかけた。
無論距離は離れている。
魔導短伝話がぎりぎり届く距離だ。
「良く鍛えた」
たった数単語に膨大な感情が籠もっている。
魔導型CAMが鳴り物入りで登場したとき、金もコネもなく見上げることしかできなかった。
それからは臥薪嘗胆の日々だ。
貴族の体面を保ちながら削れる所は限界まで削り、民の生活を維持しながら対歪虚の戦力を整えた。
ストレスは筆舌に尽くし難く、ふさふさの家系なのに1年で1センチ後退したほどだ。
青い空を見上げると、すっかり寂しくなった前髪がそよ風に揺れた。
「閣下!」
ノイズ混じりの声が魔導短伝話に届く。
乳兄弟として育った腹心の部下なので、声だけで何を言いたいか分かる。
「すぐに戻る。息子にはくれぐれも大人しくしているよう……」
違和感。
青空の隅に1点の黒が。
それが不吉な負の気配を纏うのに気づき、危機感に背を蹴飛ばされるようにして叫ぶ。
「息子に全てを譲」
黒が光る。
灼熱のブレスが音を置き去りにして迫ってくる。
遺言を最後まで言い残すこともできず、王国貴族の1人が骨の芯まで焼き尽くされた。
●都市占領
街の北数キロで発生したキノコ雲を凝視しながら、老執事が静かに報告を行う。
「通信、途絶しました」
自分の声が震えていることに気付けない。
「ぢぢうぇ」
魂がひび割れるような言葉をこぼし、追いかける背中を喪った青年が執事を押し退ける。
歯を食いしばる。
ここで立ち止まるような教育は受けていない。
あの世の父に無様を見せるのだけは絶対に嫌だ。
「私だ」
聞き取りやすい声が出たことに安堵する。
「最大級の歪虚の襲撃である。予備役を総動員せよ。聖堂教会に協力を求めよ。複数の伝令を王都を向かわせよ」
了解の返事が届いた数秒後、街中の警鐘が鳴り始めた。
「閣下」
老執事が手の手当を行う。
伝話の取っ手が砕けて新たな領主の手に突き刺さっている。
「先程は乱暴にしてすまぬ。私の代でも頼……」
複数の着信音が同時に響いた。
「歪虚です」
「魔導CAMに似た歪虚が」
「南だけで無く東からも、4体と5体ですっ」
手分けして聞き取ると絶望的な状況が見えてくる。
最低でも6集団の歪虚が街に向かってきている。
前領主が率いる部隊が倒したのは、1隊ですらないはぐれた1機だ。
しかも敵はそれ以外にもいる。
空からブレスを放った、にっくき仇がどこかにいるはずなのだ。
「領民を館に避難させろ。一時滞在者も区別するな」
領民最優先にしたいのが本音だが、それを実行すると商業都市としての未来が死ぬ。
だから部下を危険に晒すのを甘受する。
それが甘すぎる考えであることに、すぐに気付かされることになる。
「歪虚がブースターを使いましたっ。目的地はっ」
スペクルムカスタムのルクシュヴァリエやハンターが乗る空戦機とは異なり、無理矢理200メートル飛ぶだけのブースターだ。
飛行中はただの的であり、地上ではブースターが大きすぎて鈍重なだけの機体になる。
しかも再使用まで1分以上かかるの。騎乗兵部隊を突撃させれば簡単に仕留めることができだろう。
6隊22機が着地する。
聖堂の正面。
兵営の左右。
武器庫の至近。
大通りが交差する街の中心。
そして、全てを統括する領主館の前に着地して105mmのカノン砲を構えた。
砲が火を噴けば大勢の人間が死ぬ。
戦う術を持たない住民だけでなく、建物に中にいる戦士達も天井を崩され最低でも重傷になる。
「聞コエルカ人間」
恐怖で凍り付いた街に声が降ってくる。
上腕が潰れ、全身が治りかけの傷で覆われた竜が地上100メートルから語りかけてくる。
歪虚らしい殺意に満ちた外見なのに、その声は異様なほどに穏やかだ。
「静カニシテイロ。次ノ次ノ夜明ケマデニハ去ル」
一部のデュミナス型歪虚が動き出す。
人間がいようがいまいが気にもせず、歴史のある建物の壁を無造作に砕いていく。中には領主館の壁を崩して調度品を運び出すものもいた。
「閣下」
執事が殺気を抑えきれない。
持ち出される品の中に、金銭的価値は皆無の、10代以上引き継いできた品がいくつも混じっている。
「抑えろ。打って出るのは増援到着に歪虚が気付いてからだ」
毛細血管が千切れて瞳が赤く染まり、血色の涙が一筋零れた。
●都市奪還依頼
「領主に勝ち目はありません」
慌ただしく集められたあなたの前で、化粧を直す暇もない職員がA4コピー用紙に現地の状況を描く。
襲撃前の光景しか映っていないホロディスプレイことは異なり、目印になる地形と歪虚の配置が分かり易く描写される。
「敵は歪虚は3種です」
1つはデュミナス型歪虚。これは単体なら怖くない。都市住民の避難が済んでいるので105mm砲の流れ弾を気にせず戦う事が可能だ。
もう1つは災厄の十三魔ガルドブルム。デュミナス型の軍勢を集め、じりじりと王都に迫る動きをしている。
最後の1つは全長16メートル前後の竜種歪虚達だ。基本的な能力は同サイズの個体より劣り、しかしガルドブルムから習得した技術により強力な戦闘力を獲得した。
「領主達は16メートル級を十三魔と勘違いしています。ガルドブルムは高空を飛んでいるので仕方が無いのかもしれませんが……」
達? と誰かが尋ねるより早く司書パルムがホロディスプレイを更新する。
高空からの情報収集と爆撃を担当するのが黒竜。
地上の対空戦力の排除担当がデュミナス型CAM。
デュミナス型が排除されそうになったとき駆けつけるのが16メート級竜種だ。
その3種により制圧された都市三つの地図が映し出されている
「上空にガルドブルムがいないタイミングで皆さんに転移してもらいます。デュミナス型は放置して構いません。16メートル級を確実に撃破してください」
いずれの都市の戦力も、16メートル級を撃破すれば残りの歪虚は現地戦力で撃破可能だ。
黒竜がいない間は、だが。
「ガルドブルム討伐に向け準備が進んでいますが、都市が占領されたままでは頓挫の可能性があります。最低2つ、都市を開放してください」
無茶苦茶な要求だ。
だが、その無茶を成功させなければ、1戦線の崩壊から王国の崩壊に繋がる可能性大であった。
リプレイ本文
●
6体の歪虚CAM。
6本の105mmカノン砲。
運用次第で大部隊を足止め可能な戦力だ。
その至近にグリーンゴールドの光が現れる。
霊的に重い存在の転移を助けるため、薄く散らばっていた中小精霊が集まり道を開く。
デュミナスの形をしたCAMが後ずさり、血が赤黒くこびりついた剣を踏みつぶした。
「視界内に生存者なし」
ルクシュヴァリエ・ウィガールの大剣に魔法紋が浮かぶ。
乗り手と機体内の精霊からマテリアルが注がれ、全長4メートルほどの刃から20メートル近い光の剣が真っ直ぐに伸びる。
兵士の遺体はあっても民間人のそれは見当たらない。
「いい仕事だ」
覚醒者ですらなくても成し遂げた仕事は一流だった。
機体と一体化したアーサー・ホーガン(ka0471)の闘志が一際強くなる。
剣というより固定化された攻撃術に等しい光を高速で振るい、新兵よりずっと速く反応した歪虚達を105mmスナイパーライフルごと切り捨てた。
砲身が踏み固められた地面に落ちて浅くめりこむ。
中身から消えていくCAM型歪虚が遅れて倒れ伏す。
ウィガールはマテリアルを惜しむように光の剣を消し、消える途中の装甲を踏み越え兵舎区画の外へ出る。
通信が飛び交っている。暗号化どころか符丁も使われていない素人臭い通信だ。
「領主様のお屋敷が」
「ほっとけ中身は避難済みだっ。それより竜を」
通信のいくつかがいきなり途切れた。
街で最も古くからある聖堂から、105mm砲7門による砲撃が始まったのだ。
そんな光景を空から見下ろし、欠けた角を持つ黒の騎士がにやりと笑った。
他の街もそうだが、領主もその兵も分け隔てのない民間人保護を徹底している。
長期的な利益を得るための行動なのは分かっているが、動機が私利私欲だとしても結果として名君なら問題ない。
「感服するぜ」
未来があるべき都市に未来を与えるため、セルゲン(ka6612)は相棒のグリフォンと共に自由落下以上の速度で石畳の間近まで急降下した。
こんなときでも姿勢の良い野分が、落下の衝撃を受け流すためくるりと回る。
セルゲンは吹き飛ばされるようにして鞍から離れ、一切平衡を崩さず石畳に着地し自身の速度を刃の速度に変換する。
速すぎて刃もセルゲンも視認困難で歪虚は反応もできない。
デュミナス型CAM3機の腰や腹に長く深い裂傷が刻まれ、奥から負マテリアルの炎と火花が噴き出した。
「残り5」
丁度削り切った感覚が2つにフレームで防がれた感触が1だ。
健在な4機と中破壊した1機のライフルが生身のセルゲンに向く。
だが発砲するより速く頭上から竜巻が迫る。
緋虎童子の切れ味と比べれば鈍く弱いとはいえ範囲攻撃だ。
CAMにしては薄い装甲が耐えきれずひび割れ中身を傷つける。
「ハンターが来てくれたぞっ」
「情けない声を出すんじゃぁない! せめて館の歪虚は足止めするんだ」
友軍の士気は旺盛のようだ。
「黒の騎士セルゲイだ。兵舎と聖堂は抑えた。竜もこちらに任せろ」
北東の兵舎から、CAMと同サイズの機体が高性能のヘリコプターじみた動きで竜の元へと飛んだ。
「馬鹿ナ、鉄人形ガコレ程動ケル訳ガッ」
竜はハンターの評価を間違った。
異様に強い戦士としては認識していても、異様に強い乗り手とは想像もしておらず対応が遅れる。
騎士の外見とは逆に現代的な銃器が構えられる。
大量の銃弾がばらまかれ、歪虚CAMになら10中8は当たる精度でドラゴンに迫る・
「コノ程度ッ」
宙で半回転するだけで避ける。
全長15メートルの巨体の動きとしては素晴らしく程に速く身軽だ。
そして、反撃から一繋がりの動きとして放たれたブレスもまた強烈。
CAMの警告表示の代わりに小精霊によるダメージ報告がアーサーの意識に押し寄せる。
個々の威力は弱くとも速度はある散弾ブレスは回避が難しく、滑らかな装甲にいくつも当たって正マテリアルの動きが乱れる。
「逃げても良いが」
だが所詮は小さなブレスだ。
装甲と生命力にも十分なリソースを割り振った機体には有効打にならない。
「逃がさねぇぞ」
そのまま攻めると思わせて宙を横に滑る。
代わりに現れたのはグリフォンを駆るセルゲイだ。
片手に太刀を掴んだままもう1方の指で印を切り、魔法よりも呪いに近い術を副作用なしで完成させる。
現実へ一方的に影響を与える腕が現れた。
散弾ブレスによる攻撃にも負マテリアルによる抵抗にも影響を受けず、技を覚えた竜種という脅威に呪いの腕が絡みつく。
「任せる」
グリフォンが奮起する。
滅びに怯えたドラゴンが放つ猛烈な炎を、風の結界を展開することでなんとか耐える。
ウィガールが空を駆ける。
刃が神々しく輝き、アーサーの剣術を劣化なしで再現する。
「光に飲まれて消えちまえ!」
防ごうとした竜の爪が砕かれ竜翼が裂かれる。
だがまだ致命傷ではない。
驚くべきしぶとさと堅実な回避技術で片翼の半分1の被害で済ませ、巨体に似合わぬ臆病あるいは慎重さで加速し空へ逃げようとする。
「まだ終わってないぞ」
一度地面を蹴って再跳躍。
竜の腹から胸までが切り裂かれて高度が落ち、幻の腕からの離脱が失敗に終わる。
竜は生を諦めない。
翼に回していたエネルギーもブレスに回し、避けづらいにもほどがある散弾ブレスで幻の腕の発生源を狙う。
飛行はできても飛空戦闘には向いていないはずのグリフォンが、鮮やかな加速と進路選びでブレスの豪雨をかいくぐる。
虎を思わせる縦長の瞳孔が底光りする。
体格がよいとはいえ常識の範囲でしかない体で、人類用としては非常識な大きさの刃を悠々と振り上げ、突き下ろす。
「なかなかの技だったぞ」
首を刈られた竜が最後に聞いたのは、静かな賞賛であった。
●
竜が、間抜けに、大口を開けた。
隙を伺っていた、隙をつけても浅い傷と引き替えに焼かれていただろう弓兵も呆然としている。
強烈な風が風格のある街並みを撫でている。
風の向かう先には空高く伸びるキノコ雲。
そこにあった兵舎も6機のデュミナス型CAMも、粉塵にまで砕き尽くされ雲の一部となっていた。
「時間との勝負じゃ。上は任せたぞ」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)の声が拡張されて響き渡る。
強い風に負けない強さと存在感があり、2体の竜が口を閉じ瞳に闘志を浮かべる。
「ああ! 行こう、歪虚の魔手から都市を取り戻す為に……ドラゴン退治だ!」
マテリアルの風が爆風の残滓を突破する。
風の中心は魔動冒険王『グランソード』だ。
色鮮やかなマントが揺れ、雄々しくも美しい装甲が太陽の光を反射する。
街の中央にある気配が強くなる。
負の気配であると同時に、強敵を待ち望む戦士の気配でもある。
時音 ざくろ(ka1250)は……グランソードはその気配に呑まれない。
上空という情報収集面での優位を活かして敵軍と友軍の位置を把握。
機体備え付けの通信機を使って必要最低限の声を送る。
「支援砲撃がすごく広範囲だから退避して」
決死隊である弓隊のプライドに配慮した発言ではあるのだが、最初の巨大な爆発に圧倒されているらしく素直に従ってくれた。
竜はうきうきしている。
強く美しく正マテリアルに満ちた巨人は最高級の獲物だ。
ここで逃げるようなら強欲竜などやっていいない。
「来る!」
マントを翻す。
回避行動まで計算にいれた一斉射撃が魔動冒険王を押し包む。
青のマントの端が千切れ、全長6メートルの盾の中央で火花が散る。
火花は1つのみだ。
20発の105mm弾の戦果は、たったそれだけであった。
「中身ハ小僧カッ」
「腹ガ鳴ッテ堪ラヌゥ!」
変態じみた言動でも実力は本物だ。
スナイパーライフル20門の支援砲撃に重なるような軌道で、スペクルム型のルクシュヴァリエ並の速度と滑らかさで迫ってくる。
「速いっ、でもっ」
鋭角で横へ飛ぶ。
竜2体が追うが同程度の速度なのでわずかに遅れる。
そこへハンター側の支援が炸裂する。
爆薬を適切な位置に適切な速度で送り込むという、言うは易く行うは難しな攻撃が無造作に実現された。
「オォッ」
「足リヌゥ!」
2対の翼が爆風を捉えた。
面というより立体での攻撃を器用に受け流し、歪虚CAM1隊を滅ぼした一撃を躱してしまう。
竜ははるか遠くの砲撃機ではなく近くにいつはずの巨人にブレスを向けようとして、どこにもその姿がないのに気付いた。
「マテリアルチャージアップッ」
機剣「イフテラーム」が厚みと精悍さを増す。
グランソードから正マテリアルが噴き出して重なり巨大な刃と化す。
狙われた歪虚CAMは反応もできない。
技量に劣る彼等Mが統制のとれた砲撃を行うためには、短い間隔で集まり隊列を組むしかなかった。
それは爆撃や砲撃に脆弱になるけでなく、長大な得物を振るうCAM級ユニットに対し脆弱過ぎた。、
「超重剣・横一文字斬り!」
横を通り抜けると同時に一閃する。
足を止めルクシュヴァリエが剣の力を解放すると、16機の歪虚CAMが上下に断たれて崩れ落ちた。
●
キノコ雲が発生する数秒前、エクラを奉る聖堂に鮮烈な光が顕れた。
素体はざくろ機と同じはずなのに、怖気に襲われるほど白くて強い。
「聖導士は頑張って町の人を隠して逃げるの!」
ある意味では聞き慣れた避難指示に触れ、隠れ潜んでいた聖導士が動き出す。
覚醒者らしい体力で老若男女を4、5人抱えて少しでも離れようとし、今更彼等に気付いたデュミナス型が追うか迎撃するか判断に迷う。
ルクシュヴァリエからの声が止まった。
代わりに底冷えのする殺気が溢れてデュミナス型を恐怖させる。
「邪魔なの」
本体と比べると玩具程度の大きさしかないハンマーから光の波動が溢れる。
洪水を思わせる光がうねりながら広がり、足も遅く受け用の防具も持たない歪虚を飲み込み焼き焦がす。
右端の一機が内側から爆ぜた。
微量の負マテリアルで作られた105mm弾が暴発したのだ。
「ちょっと威力が足りないの」
手に平に軽くハンマーを打ち付けながら出口まで歩く。
この距離ではスナイパーライフルは使えない。
破れかぶれでナイフを構えて突進してもディーナ・フェルミ(ka5843)の機体に触れることもできずつんのめる。
魔法紋が弾けハンマーが伸びた。
軽く振るうと風切り音が生じ、デュミナス型1機の胸が潰れて棒立ちのまま仰向けに倒れる。
「来ないからこっちから行くの」
恐慌状態に陥った歪虚が立ち上がり、差し違えるつもりで突撃する。
だがその程度では全く足りない。
淡々と避けられ、あるいは大きな盾で受け流され、無造作に一度ずつ頭か胸を潰された。
「転移装置って……」
1隊を潰し終えた後。
機体を竜種の元へ走らせながら、ディーナは隙は見せずに考え込む。
先程の勝利は戦闘力で勝った結果の勝利である。
敵の苦手な距離に転移したから短時間で終わった勝利でもあった。
「効カヌワッ!」
「若作リメッ」
発言はチンピラじみていても、建物と建物の間をぶつかりもせずに飛ぶ竜種の動きが素晴らしく良い。
「いっぺん竜の丸焼きとやらをやってみたかったのじゃ」
異様なほど加速された砲弾が通りに撃ち込まれて大規模破壊兵器じみた爆発が発生する。
歪虚はまたも回避を成功させるが、体格の割に小さな瞳には張り詰めたような緊張がある。
「若作りというたの」
傷の少ない竜種がびくりと震えた。
砕けた窓硝子の破片を浴びながら、ヤクトバウの視線から逃げるように石造りの建物を回り込む。
そこを頭上からざくろが仕掛ける。
「一刀両断スーパーリヒトカイザー!!」
「痛ッ」
火花と共に鱗が砕けて竜の血飛沫が舞う。
血飛沫を巻き込むようにブレスが伸び、強固ではあるが常識的な厚さしかない装甲に多数の穴を開ける。
久々の被弾だが威力が大きいためかなりの被害だ。
「生身の方がよかったかもなの」
ハンマーから破壊の力ではなく癒やしの波動が送り込まれ、特殊合金が被弾がなかったかのように工場出荷時の状態に戻る。
「コノ気配聖導士ッ……ハァッ!?」
頭上から気配を消して振ってきたドラゴンが、気配を読んでの目測を誤り宝石店へ突っ込んだ。
高価な一枚硝子と陳列棚が壊れ破片が竜種を彩る。
「黙るの」
聖導士の少女の気配を持つ巨人が、素早い踏み込みから巨大化メイスを振り下ろす。
「ソノ程度ッ」
傷つこうが消耗しようが気合い十分な竜種には、運の良い一撃しか届かない。
「しぶとい奴等め」
グランドスラムの材料を満載したコンテナを転がしながら砲撃機ヤクトバウが角から姿を現す。
「ッ」
もう1体の奇襲。
翼とマテリアルを限界以上に酷使し、ハンターでは庇えない角度とタイミングでコンテナを燃やし爆発させる。
「アレ程ノ攻撃、ソレガナケレバッ」
「え?」
「ふむ?」
「エッ」
爪と砲弾と光の波動が渦巻く戦場で、敵味方双方から間の抜けた声が漏れた。
「あっちは予備の予備じゃよ?」
背部に取り付けた弾倉を片手とマテリアルで加工しつつ砲口へ。
初撃と代わらぬ規模の爆撃が2体の竜を襲う。
「ダ、ダガ躱セバ効カヌゥッ」
「単純な算術もできんのか。動きも読めた。今までは少々お主等有利のサイコロだったようじゃが」
途切れ途切れの通信で領主が吼えている。
被害を気にせず絶対に殺せという殺意に満ちあふれた破壊許可だ。
「10中2は当たるぞ?」
爆発。
創業200年の文房具店が崩壊し石材と爆風が片方の竜を打ち据える。
「ソノ前ニ貴様ノ皺首ヲ食ラッテヤル!」
散弾ブレスが精妙さを増し、弱い部位にだけ着弾し始める。
圧倒的な装甲を誇る機体にも細かな不具合が生じ始め、それが重大な不具合に生じる前に癒やしの力に包み込まれる。
「馬鹿で助かるの」
力みも憎しみもなく殺意だけが向けられる。
竜達はごくりと唾を飲み込み、弾けるように明るく笑う。
「ナラバ」
「馬鹿ノママ食イ破ルッ!」
石畳を駆けブレスと牙として伸ばす。
躱しても盾で受けても防ぎきれない負マテリアルが装甲に傷を刻む。
光の波動が鱗を焼く。
嬉々として速度を上げ、躱されても防がれてもブレスを止めない。
それも力の差は明確だ。
被弾する率も被弾時の威力もハンターが勝る。
1体は1棟ごと砕かれ、最後の1体が装甲の隙間から見えるディーナを狙う。
「これで」
装甲が回復する。
反撃は行わず中破状態の砲撃機も回復させる。
「終わりなの」
頭頂にハンマーがめりこみ眼球と舌が血まみれで飛び出す。
無残な死に様であるのに、口元は楽しげな笑みの形に歪んでいた。
●
その隊は最高の練度を持っていた。
完全な奇襲であるのに彼我の能力差を正しく認識し、スナイパーライフルを棍棒として使い潰して痛打を浴びせようとした。、
そんな策で覆るほど甘くはない。
完全に制御された魔術が、真球の爆風を建物の内側に形作る。
装甲が爆圧で歪み無数の火花が散った。
王族を迎え入れたこともある広間が、無数の破片とパーツに襲われ残骸と化した。
「予想外に被害が少なくて済みました」
エルバッハ・リオン(ka2434)は平然とそう言って、無人の領主館から表に出た。
空気がぴりぴりしている。
何度も経験した大規模戦闘とは微妙に異なる、天秤が一方に振り切れた気配がする。
「あちらももう終わったのでしょうか」
聖堂があるはずの方向を一瞥してから、ちらりと見えた竜に向かってR7を加速させた。
「何ナンダコレハァッ!!」
竜が逃げている。
いわゆる退き撃ちではなく脇目も振らぬ逃亡だ。
追いかけているのは、全長で半分、体積で10分の1以下の小兵。
「何故コレホドッ」
全力でブレスを撃っても当たるイメージが沸かない。
恐怖が全身に満ち臓腑が痙攣する。
悲鳴じみた叫びをあげ急降下した直後、紅の閃光に右翼の端から10センチを消し飛ばされる。
「思い切りがいいな」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は口笛を吹いたつもりだった。
実際に出たのは高音ではなく赤に近い光だ。
「焦るなよ炎神。ハデに暴れるだけが戦場じゃない。追い詰めるのも役割のうちだ」
エルバッハと異なる場所に転移させられたのは驚いたが、何故そうなったかは分かる。
歪虚CAMが弱すぎたのだ。
機体側のスキルを使用する必要すらなく、巨大な鎌を一閃させるだけでデュミナスが全滅した。
領主館へ跳べばボルディアかエルバッハが遊兵になってしまっただろう。
「スキルが足りねぇか」
機体内の精霊に飛行中の操作を肩代わりさせ、自身の膨大なマテリアルの一部を炎神用に調整する。
それを切り取り霊的な意味で送り出すと、乏しくなっていた飛行用マテリアルが完全な状態まで回復した。
竜が急旋回。
炎神の飛行が乱れたのを隙と見て、無理矢理な方向転換後の安定しない耐性でブレスを連射する。
「全て躱すのは無理だがよ」
散弾ブレス全てをセンサを通して認識。
飛行機能に損害が出そうなブレスだけを変形させたポレモスSGSで受け止める。
スペクルムタイプではないので被弾はしたものの、アズライールタイプらしい重装甲と重防御でダメージらしいダメージにならない。
地上で特に隠れることもせず、黒と金のR7が砲門を空に向ける。
竜は逃げているつもりらしいが、焦りで視野が狭まり何度も蛇行しながら都市の上空まで戻って来ていた。
殺気を抑えて引き金を引く。
飛び出した砲弾は当然のように音速越えで、CAMと比べても巨大な体躯に斜め下から迫る。
「コノ程度ッ」
体を反らし、翼で無理矢理加速しボルディアとの距離を保つ。
逃げる様は無様にも見えるが、砲弾に遅れてやってきた衝撃波程度で落ちるほど弱くはない。
「当たらなくても気力を削るくらいはできますよ」
機体のマテリアルエンジンからキャノンにエネルギーをまわす。
粒子加速器が微かにうなり、専用のカートリッジが必要なはずのエネルギー弾が再生成される。
そして発砲。
重厚な機体が1メートル近く後ろに下がるほど反動は大きく、砲弾の運動エネルギーはそれ以上に強烈だ。
それ以上に脅威なのがキャノンの射程である。
空中戦に相応しく短時間で長大な距離を移動しているのに、実に400メートルに達する砲弾はどれだけ逃げて届く。
竜の焦りが濃くなる。
ボルディア機から逃げるだけでも苦しいのに、精密な射撃を延々躱し続けるとなると体力以前に気力と集中力が尽きる。
「ダガ、時間ヲカケレバ」
ハンターもCAMも無限にスキルを使えないという事を知っている。
諦めず逃げ続ければ、反撃の余力はなくなるかもしれないが逃亡は可能なはずだった。
「ということを考えているみたいですが」
竜が緩やかに弧を描く。
大きな建物を盾にしてエルバッハからの狙撃を無効化するつもりだ。
「この程度なら問題ありません」
極短時間機体を浮かべて3階建てのビルもどきを乗り越える。
機体のエネルギー充填機能はそろそろ限界だが、空になれば自分の生体エネルギーを再充填に当てれば良い。
だから攻撃回数を節約せず狙撃を続けられるのだ。
HMDにドラゴンの頭が拡大表示される。
不規則に口が開閉し目の動きもおかしい。
息は乱れきり、精神的にも限界だ。
「オレハ、オレハ竜ダッ!!」
鱗と鱗の隙間や口から毒々しい色の光が漏れる。
速度をそのままに180度反転。
散弾よりも濁流という表現が相応しいブレスが伸び、炎神に達し、装甲表面の焦がしただけで終わる。
「堪え性がねぇなぁ」
反撃は大鎌ではなく術だ。
装甲を覆う炎から実体に近い炎鎖の幻影が出現。
それが複数ドラゴンの巨体に絡みつく。
いくら暴れても解けない。
速度が急降下し重力に捕らわれ、無人の通り4メートルほどめりこんだ。
「確かこうか」
コクピットに収めた魔斧を意識しながら巨大鎌を振るう。
大気中のマテリアルを巻き込み、無数の歪虚を屠ってきた斧の力が上乗せされ、跳ね起き飛び去ろうとする歪虚を巨大な刃で切断する。
「マダダッ」
腰の右半分と右脚の消失と引き替えに翼は守った。
「詰みです」
しぶとく逃げる竜をファイアーボールが襲う。
複数部位を喪ったことで回避の精度が低下し、エンハンサー強化された爆風に鱗を押され骨に亀裂を入れられる。
それでもまだ逃げる。
ボルディアの間合を体で覚え、ただひたすらボスがいるはずの方向へ飛んでいく。
「逃げるなら背中を狙い撃つだけです」
改めてマテリアルキャノンをドラゴンに向ける。
背中から読み取れる速度と敏捷性は、おそらく数年前のガルドブルムより強く……今のエルバッハ達から見れば日常的に倒す歪虚でしかない。
発砲。
そして着弾。
既にずたずたの筋と脂肪では衝撃を受け流せず、背骨と神経を粉砕されて頭から地面に落ちていった。
●
膨大な都市住民の祈りを浴びてきた祭壇が、歪虚CAMの腹に消えて新たなパーツに変化する。
このまま成長していけば最新機種に近い性能を得たかもしれない。
可能性は可能性のままで終わる。
大規模聖堂に転移してきた1機のオファニムが、非常に重くそして制圧力に優れたガトリングガンで大量の弾をばらまいたのだ。
制圧射撃は猟撃士の初歩スキルであり、基本的に状態異常の強度が低い。
中堅になる頃には使われなくなるスキルであるはずなのに、カオスセラミック製の火器は凶悪な火力で以て歪虚CAMの動きを封じた。
「拍子抜け~」
ルクシュヴァリエ・タム・リンが、気楽な足取りで歪虚に近づいていく。
刻騎ゴーレムと比較すると手斧サイズのハルバードを軽く両腕を使い大きく振る。
少々頑丈なだけのCAM用装甲では耐えられない。
白に近い表面が割れ、1パーセントの負マテリアルと99パーセントの鉄や岩でできたパーツを壊され大きく揺れる。
「目処がつくまでは相手の足を止めないと」
この場所だけを切り取れば圧倒的優勢だ。
しかしこの都市のあちこちに歪虚がいて、戦う力を持たない人間が大勢隠れ潜んでいる。
人質に取られたならその時点で作戦失敗だ。
「惣助さん次撃って~」
メイム(ka2290)が要請し近衛 惣助(ka0510)が応える。
機体を介して銃弾にマテリアルを込め、一定の威力低下と引き替えに連続射撃による範囲攻撃を行う。
全高8メートルのCAM型が多くの銃弾に当たってダメージを受けるがぎりぎり中破に至らない。
その程度には防御が厚かった。
「ここはこれで終了~」
銃器は使わずハルバードで殴りつけ、銃撃で傷ついた個体から淡々と処理を行った。
移動力に勝るオファニム・無銘が素早く聖堂の外に出て、街並みの向こうから天まで伸びる炎を目撃する。
「今回の個体はあれ以上のようだな」
以前戦い取り逃がした竜種を思い出して渋い表情になる。
「こちらハンター。聖堂の確保に成功した。兵舎は任せて良いか」
「うむ。だが対竜戦の支援はできんぞ」
領主らしい偉そうな声だ。
「それで構わない」
本来なら戦闘に使うスラスターを吹かして移動力を底上げする。
正と負のマテリアルが大気を揺らすのを機体越しに感じながら、大きな通りを走り抜け鋭角に曲がる。
「巻き込まれたら区画ごと消える」
惣助は意識の全てを、目の前の戦いに振り向けた。
青黒い巨体が空高く飛んでいる。
生身のハンターからの攻撃が絶対に当たらない距離からブレスを放つ、無様なほど腰が退けた戦い方だ。
「人相手に空に飛ばなければ勝ち目もないか?」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が手招きしながら挑発する。
僅かでもプライドがあるなら憤激するはずなのに、空の竜は真摯な瞳を真上から真正面に向けてくる。
「ソノ通リダ」
直上から散弾ブレス。
1つ1つが並の竜の全力ブレスに匹敵し、個々のブレスが非常に避けにくい嫌らしい配置になっている。
アルトが地面ではなく宙に浮かべたマテリアルを蹴った。
人間の限界を数段階突破した加速で、散弾ブレスの隙間を走り抜け華焔を振り抜く。
竜の首が瞬間移動じみて横へずれる。
対空砲の一撃も置いてけぼりにする速度であったが、アルトの斬撃を回避しきれず目元から米神にかけて鱗と骨を破壊される。
「オ前ノ足場ガ尽キルマデ粘ラセテモラウ」
「それは他のハンターを甘く見過ぎだな」
圧倒的な加速でブレスを回避しながら、アルトがたしなめるように声をかけた。
「デカブツめ、こういうのはどうだ?」
無銘が対空の弾幕を張る。
撃墜ではなく飛行妨害を目的とした、空飛ぶ竜種にとっては最悪の対空攻撃だ。
なにしろ、高度が高いほど速度が出ているほど被害が大きくなる。
状態異常の強度も高く、これに被弾すれば一撃で勝負が決まりかねない。
「急ニ強ク……」
惣助機のわずかに意識を裂き危なげ無く銃弾を飛び越す。
アルトほどではないがこの青黒い竜の回避能力は異常な水準に達している。
凶悪な制圧射撃も躱してしまう。だが回避に脳の処理能力を裂く分他への対処が甘くなる。
「距離は取らせないよ」
街並みをショートカットして白銀の騎士が飛んでくる。
巧妙にアルトを巻き込んでの散弾ブレス。
相変わらずアルトが躱すが、回避に向いていない人型は直撃に近い打撃を受ける。
けれど落ちない。
範囲攻撃が効きやすいサイズなのに、ワイバーンやグリフォンとは次元の異なる頑丈さで耐え抜きスキルの間合まで近づく。
「伸びろドローミっ」
鈍色の鎖がドラゴンに絡みつく。
敏捷性はそのままに、タム・リンの剣の間合からも、当然アルトの間合からも逃れられなくなる。
「一ツ覚エヲッ」
竜は生死の狭間で決断する。
異様な速度と精度で迫るアルトの刃は爪を犠牲にして耐え、限界以上に絞り出した炎をメイム機に向け解き放つ。
負マテリアルがごっそり抜ける。
遠くなる意識を気合いでつなぎ止め、細かく分かれていくブレスを制御してルクシュヴァリエに7割ほど当てて見せる。
「まだまだー」
ひび割れた装甲の隙間から見えるフレームが、千切かけの状態から数分なら戦闘可能な状態まで回復した。
竜が容赦なく追撃するがタム・リンの回避性能も十分に高い。
いかさまのない丁半バクチがメイムの側に転がり、閃光を思わせる炎がメイム機の頭部すれすれを通過し青空に消えた。
竜の翼が大気を打った。
爆発的な加速で、圧倒的な射程を活かして一方的に攻撃していた惣助を狙う。
アルトを置き去りにするほど加速は消耗も激しく、しかしアルトから受けた被害よりずっと少ない。
「俺が狙いか」
惣助は淡々としている。
移動に使い残り少ないスラスターだけでなく、プラズマヴェールシステムによる幻影まで使って実体持つ散弾を防ぎ……しかしぎりぎりの所で回避に失敗して被弾する。
竜にとり会心の一撃だった。
なのに無銘はまだ立っている。
「当たれば落ちるような改造はしていない」
意識が加速している。
竜が戦場全てを認識し続け、アルトへの対応を優先するため身を翻しかけているのが分かる。
「甘く見過ぎだ」
引き金を引く。
自身と機体のリソースの大部分を使った計算結果に従い、竜の反応し辛い方向とタイミングで制圧射撃を展開する。
竜の動きに焦りが滲む。
予想を外され回避が間に合わない。
爪で防ごうにも既にアルト相手に使い切っている。
一度は耐えられたが二度目で体が硬直した。
「よっ、と」
タム・リンが跳躍。
魔法紋に包み込まれたハルバードが、超巨大な長物と化し振り上げられる。
「そういうのは油断だよー」
回避も防御も失せた巨体に刃を押し当て引き千切る。
負マテリアルを対アルトに消費するつもりだったらしいが、メイム機からの痛撃が予想外で完全な直撃を受ける。
ハンターの攻撃は終わらない。
全力で追いかけてきたグリフォンが幻獣砲の一撃を当てて竜の姿勢を崩す。
そして、わずかに遅れて到着したアルトが地面から宙を駆け上がり、自由落下する竜とすれ違う。
左翼が宙に舞う。
頭蓋に亀裂が入って中身の一部が零れる。
「お前レベルが大量に奴の下にいるとなると……かなり厄介だな」
「多クハナイ。貴様ハココデ仕留メル」
視線だけで互いの意が通じる。
着地した竜は己の窮地を理解している。
その上で、微かな勝ち目を手繰り寄せるための執念がある。
「剣士としては楽しみだが」
宙を上向きに蹴る。
竜が我が身とマテリアルを燃やして体の硬直を解除する。
「傭兵としては厄介だ。今のうちに部下の方は削らせてもらう」
返事は竜本体より大きなブレスであった。
あらゆる意味で加速したアルトには通じない。
けれどアルト自身の攻撃もあまり当たらない。
「ッ」
竜は傷だらけで弱々しく、けれど見切りも思い切りも一皮むけている。
鱗を、骨を、マテリアルを犠牲にして己の核だけは守り抜く。
「まるでガルドブルムだな」
「マダ遠イ」
予備動作無しで振るわれた尻尾の先が音速を超える。
死角から迫るそれを体を傾けて躱すが、わずかに消費視した時間で竜が20メートル高度を上げる。
「冷や冷やしたぞ」
アルトを支える足場が消える。
万事心得ているグリフォンが背中で受け止め主に足場を提供する。
「先にジュリアが狙われていたら、危なかったかもしれん」
銃弾とエネルギー弾が竜の腹を抉る。
竜の瞳はアルトを正面に捉えたまま動かない。
ブレスの光が喉の奥に。
限界まで収束され、アルトの進路上に撃ち出され……最後のフライングファイトを使ったジュリアに回避される。
「見事」
両断された歪虚が、陽光に融けるようにして滅んだ。
6体の歪虚CAM。
6本の105mmカノン砲。
運用次第で大部隊を足止め可能な戦力だ。
その至近にグリーンゴールドの光が現れる。
霊的に重い存在の転移を助けるため、薄く散らばっていた中小精霊が集まり道を開く。
デュミナスの形をしたCAMが後ずさり、血が赤黒くこびりついた剣を踏みつぶした。
「視界内に生存者なし」
ルクシュヴァリエ・ウィガールの大剣に魔法紋が浮かぶ。
乗り手と機体内の精霊からマテリアルが注がれ、全長4メートルほどの刃から20メートル近い光の剣が真っ直ぐに伸びる。
兵士の遺体はあっても民間人のそれは見当たらない。
「いい仕事だ」
覚醒者ですらなくても成し遂げた仕事は一流だった。
機体と一体化したアーサー・ホーガン(ka0471)の闘志が一際強くなる。
剣というより固定化された攻撃術に等しい光を高速で振るい、新兵よりずっと速く反応した歪虚達を105mmスナイパーライフルごと切り捨てた。
砲身が踏み固められた地面に落ちて浅くめりこむ。
中身から消えていくCAM型歪虚が遅れて倒れ伏す。
ウィガールはマテリアルを惜しむように光の剣を消し、消える途中の装甲を踏み越え兵舎区画の外へ出る。
通信が飛び交っている。暗号化どころか符丁も使われていない素人臭い通信だ。
「領主様のお屋敷が」
「ほっとけ中身は避難済みだっ。それより竜を」
通信のいくつかがいきなり途切れた。
街で最も古くからある聖堂から、105mm砲7門による砲撃が始まったのだ。
そんな光景を空から見下ろし、欠けた角を持つ黒の騎士がにやりと笑った。
他の街もそうだが、領主もその兵も分け隔てのない民間人保護を徹底している。
長期的な利益を得るための行動なのは分かっているが、動機が私利私欲だとしても結果として名君なら問題ない。
「感服するぜ」
未来があるべき都市に未来を与えるため、セルゲン(ka6612)は相棒のグリフォンと共に自由落下以上の速度で石畳の間近まで急降下した。
こんなときでも姿勢の良い野分が、落下の衝撃を受け流すためくるりと回る。
セルゲンは吹き飛ばされるようにして鞍から離れ、一切平衡を崩さず石畳に着地し自身の速度を刃の速度に変換する。
速すぎて刃もセルゲンも視認困難で歪虚は反応もできない。
デュミナス型CAM3機の腰や腹に長く深い裂傷が刻まれ、奥から負マテリアルの炎と火花が噴き出した。
「残り5」
丁度削り切った感覚が2つにフレームで防がれた感触が1だ。
健在な4機と中破壊した1機のライフルが生身のセルゲンに向く。
だが発砲するより速く頭上から竜巻が迫る。
緋虎童子の切れ味と比べれば鈍く弱いとはいえ範囲攻撃だ。
CAMにしては薄い装甲が耐えきれずひび割れ中身を傷つける。
「ハンターが来てくれたぞっ」
「情けない声を出すんじゃぁない! せめて館の歪虚は足止めするんだ」
友軍の士気は旺盛のようだ。
「黒の騎士セルゲイだ。兵舎と聖堂は抑えた。竜もこちらに任せろ」
北東の兵舎から、CAMと同サイズの機体が高性能のヘリコプターじみた動きで竜の元へと飛んだ。
「馬鹿ナ、鉄人形ガコレ程動ケル訳ガッ」
竜はハンターの評価を間違った。
異様に強い戦士としては認識していても、異様に強い乗り手とは想像もしておらず対応が遅れる。
騎士の外見とは逆に現代的な銃器が構えられる。
大量の銃弾がばらまかれ、歪虚CAMになら10中8は当たる精度でドラゴンに迫る・
「コノ程度ッ」
宙で半回転するだけで避ける。
全長15メートルの巨体の動きとしては素晴らしく程に速く身軽だ。
そして、反撃から一繋がりの動きとして放たれたブレスもまた強烈。
CAMの警告表示の代わりに小精霊によるダメージ報告がアーサーの意識に押し寄せる。
個々の威力は弱くとも速度はある散弾ブレスは回避が難しく、滑らかな装甲にいくつも当たって正マテリアルの動きが乱れる。
「逃げても良いが」
だが所詮は小さなブレスだ。
装甲と生命力にも十分なリソースを割り振った機体には有効打にならない。
「逃がさねぇぞ」
そのまま攻めると思わせて宙を横に滑る。
代わりに現れたのはグリフォンを駆るセルゲイだ。
片手に太刀を掴んだままもう1方の指で印を切り、魔法よりも呪いに近い術を副作用なしで完成させる。
現実へ一方的に影響を与える腕が現れた。
散弾ブレスによる攻撃にも負マテリアルによる抵抗にも影響を受けず、技を覚えた竜種という脅威に呪いの腕が絡みつく。
「任せる」
グリフォンが奮起する。
滅びに怯えたドラゴンが放つ猛烈な炎を、風の結界を展開することでなんとか耐える。
ウィガールが空を駆ける。
刃が神々しく輝き、アーサーの剣術を劣化なしで再現する。
「光に飲まれて消えちまえ!」
防ごうとした竜の爪が砕かれ竜翼が裂かれる。
だがまだ致命傷ではない。
驚くべきしぶとさと堅実な回避技術で片翼の半分1の被害で済ませ、巨体に似合わぬ臆病あるいは慎重さで加速し空へ逃げようとする。
「まだ終わってないぞ」
一度地面を蹴って再跳躍。
竜の腹から胸までが切り裂かれて高度が落ち、幻の腕からの離脱が失敗に終わる。
竜は生を諦めない。
翼に回していたエネルギーもブレスに回し、避けづらいにもほどがある散弾ブレスで幻の腕の発生源を狙う。
飛行はできても飛空戦闘には向いていないはずのグリフォンが、鮮やかな加速と進路選びでブレスの豪雨をかいくぐる。
虎を思わせる縦長の瞳孔が底光りする。
体格がよいとはいえ常識の範囲でしかない体で、人類用としては非常識な大きさの刃を悠々と振り上げ、突き下ろす。
「なかなかの技だったぞ」
首を刈られた竜が最後に聞いたのは、静かな賞賛であった。
●
竜が、間抜けに、大口を開けた。
隙を伺っていた、隙をつけても浅い傷と引き替えに焼かれていただろう弓兵も呆然としている。
強烈な風が風格のある街並みを撫でている。
風の向かう先には空高く伸びるキノコ雲。
そこにあった兵舎も6機のデュミナス型CAMも、粉塵にまで砕き尽くされ雲の一部となっていた。
「時間との勝負じゃ。上は任せたぞ」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)の声が拡張されて響き渡る。
強い風に負けない強さと存在感があり、2体の竜が口を閉じ瞳に闘志を浮かべる。
「ああ! 行こう、歪虚の魔手から都市を取り戻す為に……ドラゴン退治だ!」
マテリアルの風が爆風の残滓を突破する。
風の中心は魔動冒険王『グランソード』だ。
色鮮やかなマントが揺れ、雄々しくも美しい装甲が太陽の光を反射する。
街の中央にある気配が強くなる。
負の気配であると同時に、強敵を待ち望む戦士の気配でもある。
時音 ざくろ(ka1250)は……グランソードはその気配に呑まれない。
上空という情報収集面での優位を活かして敵軍と友軍の位置を把握。
機体備え付けの通信機を使って必要最低限の声を送る。
「支援砲撃がすごく広範囲だから退避して」
決死隊である弓隊のプライドに配慮した発言ではあるのだが、最初の巨大な爆発に圧倒されているらしく素直に従ってくれた。
竜はうきうきしている。
強く美しく正マテリアルに満ちた巨人は最高級の獲物だ。
ここで逃げるようなら強欲竜などやっていいない。
「来る!」
マントを翻す。
回避行動まで計算にいれた一斉射撃が魔動冒険王を押し包む。
青のマントの端が千切れ、全長6メートルの盾の中央で火花が散る。
火花は1つのみだ。
20発の105mm弾の戦果は、たったそれだけであった。
「中身ハ小僧カッ」
「腹ガ鳴ッテ堪ラヌゥ!」
変態じみた言動でも実力は本物だ。
スナイパーライフル20門の支援砲撃に重なるような軌道で、スペクルム型のルクシュヴァリエ並の速度と滑らかさで迫ってくる。
「速いっ、でもっ」
鋭角で横へ飛ぶ。
竜2体が追うが同程度の速度なのでわずかに遅れる。
そこへハンター側の支援が炸裂する。
爆薬を適切な位置に適切な速度で送り込むという、言うは易く行うは難しな攻撃が無造作に実現された。
「オォッ」
「足リヌゥ!」
2対の翼が爆風を捉えた。
面というより立体での攻撃を器用に受け流し、歪虚CAM1隊を滅ぼした一撃を躱してしまう。
竜ははるか遠くの砲撃機ではなく近くにいつはずの巨人にブレスを向けようとして、どこにもその姿がないのに気付いた。
「マテリアルチャージアップッ」
機剣「イフテラーム」が厚みと精悍さを増す。
グランソードから正マテリアルが噴き出して重なり巨大な刃と化す。
狙われた歪虚CAMは反応もできない。
技量に劣る彼等Mが統制のとれた砲撃を行うためには、短い間隔で集まり隊列を組むしかなかった。
それは爆撃や砲撃に脆弱になるけでなく、長大な得物を振るうCAM級ユニットに対し脆弱過ぎた。、
「超重剣・横一文字斬り!」
横を通り抜けると同時に一閃する。
足を止めルクシュヴァリエが剣の力を解放すると、16機の歪虚CAMが上下に断たれて崩れ落ちた。
●
キノコ雲が発生する数秒前、エクラを奉る聖堂に鮮烈な光が顕れた。
素体はざくろ機と同じはずなのに、怖気に襲われるほど白くて強い。
「聖導士は頑張って町の人を隠して逃げるの!」
ある意味では聞き慣れた避難指示に触れ、隠れ潜んでいた聖導士が動き出す。
覚醒者らしい体力で老若男女を4、5人抱えて少しでも離れようとし、今更彼等に気付いたデュミナス型が追うか迎撃するか判断に迷う。
ルクシュヴァリエからの声が止まった。
代わりに底冷えのする殺気が溢れてデュミナス型を恐怖させる。
「邪魔なの」
本体と比べると玩具程度の大きさしかないハンマーから光の波動が溢れる。
洪水を思わせる光がうねりながら広がり、足も遅く受け用の防具も持たない歪虚を飲み込み焼き焦がす。
右端の一機が内側から爆ぜた。
微量の負マテリアルで作られた105mm弾が暴発したのだ。
「ちょっと威力が足りないの」
手に平に軽くハンマーを打ち付けながら出口まで歩く。
この距離ではスナイパーライフルは使えない。
破れかぶれでナイフを構えて突進してもディーナ・フェルミ(ka5843)の機体に触れることもできずつんのめる。
魔法紋が弾けハンマーが伸びた。
軽く振るうと風切り音が生じ、デュミナス型1機の胸が潰れて棒立ちのまま仰向けに倒れる。
「来ないからこっちから行くの」
恐慌状態に陥った歪虚が立ち上がり、差し違えるつもりで突撃する。
だがその程度では全く足りない。
淡々と避けられ、あるいは大きな盾で受け流され、無造作に一度ずつ頭か胸を潰された。
「転移装置って……」
1隊を潰し終えた後。
機体を竜種の元へ走らせながら、ディーナは隙は見せずに考え込む。
先程の勝利は戦闘力で勝った結果の勝利である。
敵の苦手な距離に転移したから短時間で終わった勝利でもあった。
「効カヌワッ!」
「若作リメッ」
発言はチンピラじみていても、建物と建物の間をぶつかりもせずに飛ぶ竜種の動きが素晴らしく良い。
「いっぺん竜の丸焼きとやらをやってみたかったのじゃ」
異様なほど加速された砲弾が通りに撃ち込まれて大規模破壊兵器じみた爆発が発生する。
歪虚はまたも回避を成功させるが、体格の割に小さな瞳には張り詰めたような緊張がある。
「若作りというたの」
傷の少ない竜種がびくりと震えた。
砕けた窓硝子の破片を浴びながら、ヤクトバウの視線から逃げるように石造りの建物を回り込む。
そこを頭上からざくろが仕掛ける。
「一刀両断スーパーリヒトカイザー!!」
「痛ッ」
火花と共に鱗が砕けて竜の血飛沫が舞う。
血飛沫を巻き込むようにブレスが伸び、強固ではあるが常識的な厚さしかない装甲に多数の穴を開ける。
久々の被弾だが威力が大きいためかなりの被害だ。
「生身の方がよかったかもなの」
ハンマーから破壊の力ではなく癒やしの波動が送り込まれ、特殊合金が被弾がなかったかのように工場出荷時の状態に戻る。
「コノ気配聖導士ッ……ハァッ!?」
頭上から気配を消して振ってきたドラゴンが、気配を読んでの目測を誤り宝石店へ突っ込んだ。
高価な一枚硝子と陳列棚が壊れ破片が竜種を彩る。
「黙るの」
聖導士の少女の気配を持つ巨人が、素早い踏み込みから巨大化メイスを振り下ろす。
「ソノ程度ッ」
傷つこうが消耗しようが気合い十分な竜種には、運の良い一撃しか届かない。
「しぶとい奴等め」
グランドスラムの材料を満載したコンテナを転がしながら砲撃機ヤクトバウが角から姿を現す。
「ッ」
もう1体の奇襲。
翼とマテリアルを限界以上に酷使し、ハンターでは庇えない角度とタイミングでコンテナを燃やし爆発させる。
「アレ程ノ攻撃、ソレガナケレバッ」
「え?」
「ふむ?」
「エッ」
爪と砲弾と光の波動が渦巻く戦場で、敵味方双方から間の抜けた声が漏れた。
「あっちは予備の予備じゃよ?」
背部に取り付けた弾倉を片手とマテリアルで加工しつつ砲口へ。
初撃と代わらぬ規模の爆撃が2体の竜を襲う。
「ダ、ダガ躱セバ効カヌゥッ」
「単純な算術もできんのか。動きも読めた。今までは少々お主等有利のサイコロだったようじゃが」
途切れ途切れの通信で領主が吼えている。
被害を気にせず絶対に殺せという殺意に満ちあふれた破壊許可だ。
「10中2は当たるぞ?」
爆発。
創業200年の文房具店が崩壊し石材と爆風が片方の竜を打ち据える。
「ソノ前ニ貴様ノ皺首ヲ食ラッテヤル!」
散弾ブレスが精妙さを増し、弱い部位にだけ着弾し始める。
圧倒的な装甲を誇る機体にも細かな不具合が生じ始め、それが重大な不具合に生じる前に癒やしの力に包み込まれる。
「馬鹿で助かるの」
力みも憎しみもなく殺意だけが向けられる。
竜達はごくりと唾を飲み込み、弾けるように明るく笑う。
「ナラバ」
「馬鹿ノママ食イ破ルッ!」
石畳を駆けブレスと牙として伸ばす。
躱しても盾で受けても防ぎきれない負マテリアルが装甲に傷を刻む。
光の波動が鱗を焼く。
嬉々として速度を上げ、躱されても防がれてもブレスを止めない。
それも力の差は明確だ。
被弾する率も被弾時の威力もハンターが勝る。
1体は1棟ごと砕かれ、最後の1体が装甲の隙間から見えるディーナを狙う。
「これで」
装甲が回復する。
反撃は行わず中破状態の砲撃機も回復させる。
「終わりなの」
頭頂にハンマーがめりこみ眼球と舌が血まみれで飛び出す。
無残な死に様であるのに、口元は楽しげな笑みの形に歪んでいた。
●
その隊は最高の練度を持っていた。
完全な奇襲であるのに彼我の能力差を正しく認識し、スナイパーライフルを棍棒として使い潰して痛打を浴びせようとした。、
そんな策で覆るほど甘くはない。
完全に制御された魔術が、真球の爆風を建物の内側に形作る。
装甲が爆圧で歪み無数の火花が散った。
王族を迎え入れたこともある広間が、無数の破片とパーツに襲われ残骸と化した。
「予想外に被害が少なくて済みました」
エルバッハ・リオン(ka2434)は平然とそう言って、無人の領主館から表に出た。
空気がぴりぴりしている。
何度も経験した大規模戦闘とは微妙に異なる、天秤が一方に振り切れた気配がする。
「あちらももう終わったのでしょうか」
聖堂があるはずの方向を一瞥してから、ちらりと見えた竜に向かってR7を加速させた。
「何ナンダコレハァッ!!」
竜が逃げている。
いわゆる退き撃ちではなく脇目も振らぬ逃亡だ。
追いかけているのは、全長で半分、体積で10分の1以下の小兵。
「何故コレホドッ」
全力でブレスを撃っても当たるイメージが沸かない。
恐怖が全身に満ち臓腑が痙攣する。
悲鳴じみた叫びをあげ急降下した直後、紅の閃光に右翼の端から10センチを消し飛ばされる。
「思い切りがいいな」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は口笛を吹いたつもりだった。
実際に出たのは高音ではなく赤に近い光だ。
「焦るなよ炎神。ハデに暴れるだけが戦場じゃない。追い詰めるのも役割のうちだ」
エルバッハと異なる場所に転移させられたのは驚いたが、何故そうなったかは分かる。
歪虚CAMが弱すぎたのだ。
機体側のスキルを使用する必要すらなく、巨大な鎌を一閃させるだけでデュミナスが全滅した。
領主館へ跳べばボルディアかエルバッハが遊兵になってしまっただろう。
「スキルが足りねぇか」
機体内の精霊に飛行中の操作を肩代わりさせ、自身の膨大なマテリアルの一部を炎神用に調整する。
それを切り取り霊的な意味で送り出すと、乏しくなっていた飛行用マテリアルが完全な状態まで回復した。
竜が急旋回。
炎神の飛行が乱れたのを隙と見て、無理矢理な方向転換後の安定しない耐性でブレスを連射する。
「全て躱すのは無理だがよ」
散弾ブレス全てをセンサを通して認識。
飛行機能に損害が出そうなブレスだけを変形させたポレモスSGSで受け止める。
スペクルムタイプではないので被弾はしたものの、アズライールタイプらしい重装甲と重防御でダメージらしいダメージにならない。
地上で特に隠れることもせず、黒と金のR7が砲門を空に向ける。
竜は逃げているつもりらしいが、焦りで視野が狭まり何度も蛇行しながら都市の上空まで戻って来ていた。
殺気を抑えて引き金を引く。
飛び出した砲弾は当然のように音速越えで、CAMと比べても巨大な体躯に斜め下から迫る。
「コノ程度ッ」
体を反らし、翼で無理矢理加速しボルディアとの距離を保つ。
逃げる様は無様にも見えるが、砲弾に遅れてやってきた衝撃波程度で落ちるほど弱くはない。
「当たらなくても気力を削るくらいはできますよ」
機体のマテリアルエンジンからキャノンにエネルギーをまわす。
粒子加速器が微かにうなり、専用のカートリッジが必要なはずのエネルギー弾が再生成される。
そして発砲。
重厚な機体が1メートル近く後ろに下がるほど反動は大きく、砲弾の運動エネルギーはそれ以上に強烈だ。
それ以上に脅威なのがキャノンの射程である。
空中戦に相応しく短時間で長大な距離を移動しているのに、実に400メートルに達する砲弾はどれだけ逃げて届く。
竜の焦りが濃くなる。
ボルディア機から逃げるだけでも苦しいのに、精密な射撃を延々躱し続けるとなると体力以前に気力と集中力が尽きる。
「ダガ、時間ヲカケレバ」
ハンターもCAMも無限にスキルを使えないという事を知っている。
諦めず逃げ続ければ、反撃の余力はなくなるかもしれないが逃亡は可能なはずだった。
「ということを考えているみたいですが」
竜が緩やかに弧を描く。
大きな建物を盾にしてエルバッハからの狙撃を無効化するつもりだ。
「この程度なら問題ありません」
極短時間機体を浮かべて3階建てのビルもどきを乗り越える。
機体のエネルギー充填機能はそろそろ限界だが、空になれば自分の生体エネルギーを再充填に当てれば良い。
だから攻撃回数を節約せず狙撃を続けられるのだ。
HMDにドラゴンの頭が拡大表示される。
不規則に口が開閉し目の動きもおかしい。
息は乱れきり、精神的にも限界だ。
「オレハ、オレハ竜ダッ!!」
鱗と鱗の隙間や口から毒々しい色の光が漏れる。
速度をそのままに180度反転。
散弾よりも濁流という表現が相応しいブレスが伸び、炎神に達し、装甲表面の焦がしただけで終わる。
「堪え性がねぇなぁ」
反撃は大鎌ではなく術だ。
装甲を覆う炎から実体に近い炎鎖の幻影が出現。
それが複数ドラゴンの巨体に絡みつく。
いくら暴れても解けない。
速度が急降下し重力に捕らわれ、無人の通り4メートルほどめりこんだ。
「確かこうか」
コクピットに収めた魔斧を意識しながら巨大鎌を振るう。
大気中のマテリアルを巻き込み、無数の歪虚を屠ってきた斧の力が上乗せされ、跳ね起き飛び去ろうとする歪虚を巨大な刃で切断する。
「マダダッ」
腰の右半分と右脚の消失と引き替えに翼は守った。
「詰みです」
しぶとく逃げる竜をファイアーボールが襲う。
複数部位を喪ったことで回避の精度が低下し、エンハンサー強化された爆風に鱗を押され骨に亀裂を入れられる。
それでもまだ逃げる。
ボルディアの間合を体で覚え、ただひたすらボスがいるはずの方向へ飛んでいく。
「逃げるなら背中を狙い撃つだけです」
改めてマテリアルキャノンをドラゴンに向ける。
背中から読み取れる速度と敏捷性は、おそらく数年前のガルドブルムより強く……今のエルバッハ達から見れば日常的に倒す歪虚でしかない。
発砲。
そして着弾。
既にずたずたの筋と脂肪では衝撃を受け流せず、背骨と神経を粉砕されて頭から地面に落ちていった。
●
膨大な都市住民の祈りを浴びてきた祭壇が、歪虚CAMの腹に消えて新たなパーツに変化する。
このまま成長していけば最新機種に近い性能を得たかもしれない。
可能性は可能性のままで終わる。
大規模聖堂に転移してきた1機のオファニムが、非常に重くそして制圧力に優れたガトリングガンで大量の弾をばらまいたのだ。
制圧射撃は猟撃士の初歩スキルであり、基本的に状態異常の強度が低い。
中堅になる頃には使われなくなるスキルであるはずなのに、カオスセラミック製の火器は凶悪な火力で以て歪虚CAMの動きを封じた。
「拍子抜け~」
ルクシュヴァリエ・タム・リンが、気楽な足取りで歪虚に近づいていく。
刻騎ゴーレムと比較すると手斧サイズのハルバードを軽く両腕を使い大きく振る。
少々頑丈なだけのCAM用装甲では耐えられない。
白に近い表面が割れ、1パーセントの負マテリアルと99パーセントの鉄や岩でできたパーツを壊され大きく揺れる。
「目処がつくまでは相手の足を止めないと」
この場所だけを切り取れば圧倒的優勢だ。
しかしこの都市のあちこちに歪虚がいて、戦う力を持たない人間が大勢隠れ潜んでいる。
人質に取られたならその時点で作戦失敗だ。
「惣助さん次撃って~」
メイム(ka2290)が要請し近衛 惣助(ka0510)が応える。
機体を介して銃弾にマテリアルを込め、一定の威力低下と引き替えに連続射撃による範囲攻撃を行う。
全高8メートルのCAM型が多くの銃弾に当たってダメージを受けるがぎりぎり中破に至らない。
その程度には防御が厚かった。
「ここはこれで終了~」
銃器は使わずハルバードで殴りつけ、銃撃で傷ついた個体から淡々と処理を行った。
移動力に勝るオファニム・無銘が素早く聖堂の外に出て、街並みの向こうから天まで伸びる炎を目撃する。
「今回の個体はあれ以上のようだな」
以前戦い取り逃がした竜種を思い出して渋い表情になる。
「こちらハンター。聖堂の確保に成功した。兵舎は任せて良いか」
「うむ。だが対竜戦の支援はできんぞ」
領主らしい偉そうな声だ。
「それで構わない」
本来なら戦闘に使うスラスターを吹かして移動力を底上げする。
正と負のマテリアルが大気を揺らすのを機体越しに感じながら、大きな通りを走り抜け鋭角に曲がる。
「巻き込まれたら区画ごと消える」
惣助は意識の全てを、目の前の戦いに振り向けた。
青黒い巨体が空高く飛んでいる。
生身のハンターからの攻撃が絶対に当たらない距離からブレスを放つ、無様なほど腰が退けた戦い方だ。
「人相手に空に飛ばなければ勝ち目もないか?」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が手招きしながら挑発する。
僅かでもプライドがあるなら憤激するはずなのに、空の竜は真摯な瞳を真上から真正面に向けてくる。
「ソノ通リダ」
直上から散弾ブレス。
1つ1つが並の竜の全力ブレスに匹敵し、個々のブレスが非常に避けにくい嫌らしい配置になっている。
アルトが地面ではなく宙に浮かべたマテリアルを蹴った。
人間の限界を数段階突破した加速で、散弾ブレスの隙間を走り抜け華焔を振り抜く。
竜の首が瞬間移動じみて横へずれる。
対空砲の一撃も置いてけぼりにする速度であったが、アルトの斬撃を回避しきれず目元から米神にかけて鱗と骨を破壊される。
「オ前ノ足場ガ尽キルマデ粘ラセテモラウ」
「それは他のハンターを甘く見過ぎだな」
圧倒的な加速でブレスを回避しながら、アルトがたしなめるように声をかけた。
「デカブツめ、こういうのはどうだ?」
無銘が対空の弾幕を張る。
撃墜ではなく飛行妨害を目的とした、空飛ぶ竜種にとっては最悪の対空攻撃だ。
なにしろ、高度が高いほど速度が出ているほど被害が大きくなる。
状態異常の強度も高く、これに被弾すれば一撃で勝負が決まりかねない。
「急ニ強ク……」
惣助機のわずかに意識を裂き危なげ無く銃弾を飛び越す。
アルトほどではないがこの青黒い竜の回避能力は異常な水準に達している。
凶悪な制圧射撃も躱してしまう。だが回避に脳の処理能力を裂く分他への対処が甘くなる。
「距離は取らせないよ」
街並みをショートカットして白銀の騎士が飛んでくる。
巧妙にアルトを巻き込んでの散弾ブレス。
相変わらずアルトが躱すが、回避に向いていない人型は直撃に近い打撃を受ける。
けれど落ちない。
範囲攻撃が効きやすいサイズなのに、ワイバーンやグリフォンとは次元の異なる頑丈さで耐え抜きスキルの間合まで近づく。
「伸びろドローミっ」
鈍色の鎖がドラゴンに絡みつく。
敏捷性はそのままに、タム・リンの剣の間合からも、当然アルトの間合からも逃れられなくなる。
「一ツ覚エヲッ」
竜は生死の狭間で決断する。
異様な速度と精度で迫るアルトの刃は爪を犠牲にして耐え、限界以上に絞り出した炎をメイム機に向け解き放つ。
負マテリアルがごっそり抜ける。
遠くなる意識を気合いでつなぎ止め、細かく分かれていくブレスを制御してルクシュヴァリエに7割ほど当てて見せる。
「まだまだー」
ひび割れた装甲の隙間から見えるフレームが、千切かけの状態から数分なら戦闘可能な状態まで回復した。
竜が容赦なく追撃するがタム・リンの回避性能も十分に高い。
いかさまのない丁半バクチがメイムの側に転がり、閃光を思わせる炎がメイム機の頭部すれすれを通過し青空に消えた。
竜の翼が大気を打った。
爆発的な加速で、圧倒的な射程を活かして一方的に攻撃していた惣助を狙う。
アルトを置き去りにするほど加速は消耗も激しく、しかしアルトから受けた被害よりずっと少ない。
「俺が狙いか」
惣助は淡々としている。
移動に使い残り少ないスラスターだけでなく、プラズマヴェールシステムによる幻影まで使って実体持つ散弾を防ぎ……しかしぎりぎりの所で回避に失敗して被弾する。
竜にとり会心の一撃だった。
なのに無銘はまだ立っている。
「当たれば落ちるような改造はしていない」
意識が加速している。
竜が戦場全てを認識し続け、アルトへの対応を優先するため身を翻しかけているのが分かる。
「甘く見過ぎだ」
引き金を引く。
自身と機体のリソースの大部分を使った計算結果に従い、竜の反応し辛い方向とタイミングで制圧射撃を展開する。
竜の動きに焦りが滲む。
予想を外され回避が間に合わない。
爪で防ごうにも既にアルト相手に使い切っている。
一度は耐えられたが二度目で体が硬直した。
「よっ、と」
タム・リンが跳躍。
魔法紋に包み込まれたハルバードが、超巨大な長物と化し振り上げられる。
「そういうのは油断だよー」
回避も防御も失せた巨体に刃を押し当て引き千切る。
負マテリアルを対アルトに消費するつもりだったらしいが、メイム機からの痛撃が予想外で完全な直撃を受ける。
ハンターの攻撃は終わらない。
全力で追いかけてきたグリフォンが幻獣砲の一撃を当てて竜の姿勢を崩す。
そして、わずかに遅れて到着したアルトが地面から宙を駆け上がり、自由落下する竜とすれ違う。
左翼が宙に舞う。
頭蓋に亀裂が入って中身の一部が零れる。
「お前レベルが大量に奴の下にいるとなると……かなり厄介だな」
「多クハナイ。貴様ハココデ仕留メル」
視線だけで互いの意が通じる。
着地した竜は己の窮地を理解している。
その上で、微かな勝ち目を手繰り寄せるための執念がある。
「剣士としては楽しみだが」
宙を上向きに蹴る。
竜が我が身とマテリアルを燃やして体の硬直を解除する。
「傭兵としては厄介だ。今のうちに部下の方は削らせてもらう」
返事は竜本体より大きなブレスであった。
あらゆる意味で加速したアルトには通じない。
けれどアルト自身の攻撃もあまり当たらない。
「ッ」
竜は傷だらけで弱々しく、けれど見切りも思い切りも一皮むけている。
鱗を、骨を、マテリアルを犠牲にして己の核だけは守り抜く。
「まるでガルドブルムだな」
「マダ遠イ」
予備動作無しで振るわれた尻尾の先が音速を超える。
死角から迫るそれを体を傾けて躱すが、わずかに消費視した時間で竜が20メートル高度を上げる。
「冷や冷やしたぞ」
アルトを支える足場が消える。
万事心得ているグリフォンが背中で受け止め主に足場を提供する。
「先にジュリアが狙われていたら、危なかったかもしれん」
銃弾とエネルギー弾が竜の腹を抉る。
竜の瞳はアルトを正面に捉えたまま動かない。
ブレスの光が喉の奥に。
限界まで収束され、アルトの進路上に撃ち出され……最後のフライングファイトを使ったジュリアに回避される。
「見事」
両断された歪虚が、陽光に融けるようにして滅んだ。
依頼結果
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最終発言 2019/04/16 03:20:03 |
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【質問卓】 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2019/04/14 16:20:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/13 12:18:47 |