ゲスト
(ka0000)
演奏できない吟遊詩人
マスター:桜井空

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/22 09:00
- 完成日
- 2015/01/31 09:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ふぅ、ようやくここまでこぎ着けたか」
茶色い髪を後ろで束ねた男は小さな劇場を見渡してそう呟いた。
こじんまりとしながらも、それなりにしっかりした造りの劇場は今は役者も観客もいない。男一人だ。
彼が劇場の経営を始めたのはもうずいぶん前だ。
無名の劇団や、演奏家に安く貸し与えながらも、いつか立ち見席すら埋まる程の客がくる大物を呼ぶ時を待ち望んで来た。
そしてその時がついに来た。今夜はこの劇場で有名な吟遊詩人が演奏するのだ。
ゴブリンすら聞き惚れるという噂のリュートを聞く為に、立ち見席まで予約はいっぱいだ。
あと数時間後、今夜の劇場の様子を想像しながら、彼は吟遊詩人を迎えに行った。そろそろ待ち合わせの時間だ。
「嫌だ、僕はこのままじゃ演奏できない」
長身に甘いマスク、輝く金髪にオシャレなピアス。夕日をバックに立てば絵になるだろう吟遊詩人は、今は子供のようにすねた声を上げていた。
吟遊詩人その言葉に劇場関係者の誰もが言葉を失ったのは言うまでもない。もちろん経営者である彼もだ。
「そ、そんな! 何故急にそんな事を言い出すのですか! もう後数時間後には開演です! 今更キャンセルなんてお客様は納得しません! 」
「文句ならあのゴブリンどもに言ってよ、僕の音楽の命とも言えるリュートを奪ったのはあいつらだ」
それっきり吟遊詩人は黙ってしまった。
困った関係者達は、完全にヘソを曲げている吟遊詩人から話を聞き出すのにお茶とお菓子をひたすら勧め続けるハメになった。
どうにか聞き出した情報によると、彼が街の外で気持ちよく練習していた時に、ゴブリンに襲われリュートを奪われてしまったらしい。
命とも言えるリュートを簡単に投げ出して逃げ帰って来た彼は、リュートが無いから演奏しないとだだをこねているのだった。もっともゴブリンから容易く逃げ切ったその逃げ足だけは感服ものである。
「代わりのリュートならすぐに準備させますから!」
「嫌だ、僕の相棒はあいつだけだ」
今になって見捨てた相棒が恋しくなったらしい吟遊詩人に困った茶髪を束ねた経営者があわてて向かったのは、夕暮れ時のハンターオフィフィスである。
とある劇場経営者様からの依頼です。
とある有名な吟遊詩人がゴブリンに奪われたリュートを取り戻して欲しいとの事です。街道から少し外れた場所にある湖の近くが現場だそうです。優雅に演奏していたら木陰から現れたゴブリン達に奪われたらしいです。ゴブリン達はおそらくその湖周辺を根城にしているものと考えられます。見通しは悪くないと思いますが、うっかり見落とさないように注意して下さい。
数は四匹、頭目と思われる大きな一匹のみ革鎧のような物を装備しているとの事です。リュートを持っていったのもその大きなゴブリンとの事です。
ゴブリンと戦闘を行う必要はありませんが、戦闘になった場合リュートを傷つけないように気を付けてください。リュートが壊れて演奏できなくなってしまっては意味がありません。それに、リュートが傷つけば僕も死ぬ、と謎の伝言もありましたので。
四時間後の今夜の公演に間に合わせて欲しいとの事です。時間がありません。可及的速やかに奪還し、帰還して下さい。
地形も悪くないので馬を使えば一時間で行ける距離ですが、捜索、奪還に手間取れば間に合わなくなる可能性は高いと言えます。暗くなれば暗くなる程、捜索は難しくなるでしょう。
依頼主様は公演が出来るなら移動のために必要な馬は準備するとおっしゃっていました。はい、公演に間に合わなかった場合、馬代は皆様の負担となります。後払いです。
そうそう、私も実は友人に公演のチケットを頂いたので楽しみにしていたのですが、これを逃せばもうこんな機会はもう訪れないかもしれません。私を含めた公演を楽しみにしているお客様のために、しっかり成功させて下さいね。
でも、ゴブリンも聞き惚れる、という噂はさすがにただの噂だったみたいですね。もっとも、心に響いたからこそ彼らはリュートを奪ったのかもしれませんが。
え? チケットをくれた友人ですか? はい。男性です。チケットをくれた理由ですか? さぁ、チケットが余ったからだと言ってましたけど。いえ、気を使って一緒に行こうと言ってくださいましたが、さすがに悪いと思って辞退しました。
そんなことより時間がありません。早く出発して下さい。ではご武運を。
以上、まだ若いハンターオフィスの受付嬢による事情説明。
茶色い髪を後ろで束ねた男は小さな劇場を見渡してそう呟いた。
こじんまりとしながらも、それなりにしっかりした造りの劇場は今は役者も観客もいない。男一人だ。
彼が劇場の経営を始めたのはもうずいぶん前だ。
無名の劇団や、演奏家に安く貸し与えながらも、いつか立ち見席すら埋まる程の客がくる大物を呼ぶ時を待ち望んで来た。
そしてその時がついに来た。今夜はこの劇場で有名な吟遊詩人が演奏するのだ。
ゴブリンすら聞き惚れるという噂のリュートを聞く為に、立ち見席まで予約はいっぱいだ。
あと数時間後、今夜の劇場の様子を想像しながら、彼は吟遊詩人を迎えに行った。そろそろ待ち合わせの時間だ。
「嫌だ、僕はこのままじゃ演奏できない」
長身に甘いマスク、輝く金髪にオシャレなピアス。夕日をバックに立てば絵になるだろう吟遊詩人は、今は子供のようにすねた声を上げていた。
吟遊詩人その言葉に劇場関係者の誰もが言葉を失ったのは言うまでもない。もちろん経営者である彼もだ。
「そ、そんな! 何故急にそんな事を言い出すのですか! もう後数時間後には開演です! 今更キャンセルなんてお客様は納得しません! 」
「文句ならあのゴブリンどもに言ってよ、僕の音楽の命とも言えるリュートを奪ったのはあいつらだ」
それっきり吟遊詩人は黙ってしまった。
困った関係者達は、完全にヘソを曲げている吟遊詩人から話を聞き出すのにお茶とお菓子をひたすら勧め続けるハメになった。
どうにか聞き出した情報によると、彼が街の外で気持ちよく練習していた時に、ゴブリンに襲われリュートを奪われてしまったらしい。
命とも言えるリュートを簡単に投げ出して逃げ帰って来た彼は、リュートが無いから演奏しないとだだをこねているのだった。もっともゴブリンから容易く逃げ切ったその逃げ足だけは感服ものである。
「代わりのリュートならすぐに準備させますから!」
「嫌だ、僕の相棒はあいつだけだ」
今になって見捨てた相棒が恋しくなったらしい吟遊詩人に困った茶髪を束ねた経営者があわてて向かったのは、夕暮れ時のハンターオフィフィスである。
とある劇場経営者様からの依頼です。
とある有名な吟遊詩人がゴブリンに奪われたリュートを取り戻して欲しいとの事です。街道から少し外れた場所にある湖の近くが現場だそうです。優雅に演奏していたら木陰から現れたゴブリン達に奪われたらしいです。ゴブリン達はおそらくその湖周辺を根城にしているものと考えられます。見通しは悪くないと思いますが、うっかり見落とさないように注意して下さい。
数は四匹、頭目と思われる大きな一匹のみ革鎧のような物を装備しているとの事です。リュートを持っていったのもその大きなゴブリンとの事です。
ゴブリンと戦闘を行う必要はありませんが、戦闘になった場合リュートを傷つけないように気を付けてください。リュートが壊れて演奏できなくなってしまっては意味がありません。それに、リュートが傷つけば僕も死ぬ、と謎の伝言もありましたので。
四時間後の今夜の公演に間に合わせて欲しいとの事です。時間がありません。可及的速やかに奪還し、帰還して下さい。
地形も悪くないので馬を使えば一時間で行ける距離ですが、捜索、奪還に手間取れば間に合わなくなる可能性は高いと言えます。暗くなれば暗くなる程、捜索は難しくなるでしょう。
依頼主様は公演が出来るなら移動のために必要な馬は準備するとおっしゃっていました。はい、公演に間に合わなかった場合、馬代は皆様の負担となります。後払いです。
そうそう、私も実は友人に公演のチケットを頂いたので楽しみにしていたのですが、これを逃せばもうこんな機会はもう訪れないかもしれません。私を含めた公演を楽しみにしているお客様のために、しっかり成功させて下さいね。
でも、ゴブリンも聞き惚れる、という噂はさすがにただの噂だったみたいですね。もっとも、心に響いたからこそ彼らはリュートを奪ったのかもしれませんが。
え? チケットをくれた友人ですか? はい。男性です。チケットをくれた理由ですか? さぁ、チケットが余ったからだと言ってましたけど。いえ、気を使って一緒に行こうと言ってくださいましたが、さすがに悪いと思って辞退しました。
そんなことより時間がありません。早く出発して下さい。ではご武運を。
以上、まだ若いハンターオフィスの受付嬢による事情説明。
リプレイ本文
●
出かけたときはまだ夕日が輝いていたが、湖に到着した頃にはすでに辺りは薄暗くなりつつあった。
それから少しではあるが時間が経っている現在ではなおさらだ。
「さて、ここらで馬は繋いでおこうかの」
馬を止めたレーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、ほとんど沈みつつある太陽に目を向けてから、颯爽と馬から飛び降りた。体格の割に大きな胸がその反動で大きく揺れる。
リュート奪取の任務についた六人は、湖に着いた時点で右回りと、左回りの二班に分かれていた。レーヴェはその右回り組の一人である。
「そうだな。大分暗くなってきたし、辺りの植生も濃くなってきている。万が一にも見落とすわけにはいかない」
レーヴェと共に馬を走らせて来たクローディア(ka3392)も、そう言いながら馬を降りる。
「よし、急ごうぜ」
同じく右回り組の鳴神 真吾(ka2626)も同様だ。
馬を借りて来ている他の五人と違い、自前の馬に乗って来た鳴神は、慣れた手つきで馬を軽く撫でると、すぐにライトのスイッチを入れた。加えて通信用の魔導短伝話のチェックを軽く行う。そして問題がなさそうなのを確認すると手近な樹に馬をつないだ。
「丁度対岸にいない事を祈るぜ」
ポツリと呟いた鳴神の言葉は、反射する光を失いつつある湖の湖面へと吸い込まれていく。
「しかし、この湖周辺にいる事は間違いないみたいだ」
地面にはっきりとした足跡を見つけてクローディアは不適に笑った。
「亜人の足跡だ、これ以上暗くなる前に捜索を急ごう」
「そうじゃな。見つからなかったらゴブリンをおびき寄せる為に、誰かが歌うか演奏するしかないからのう」
ハープを持つクローディアをチラリと見ながらそう言うと、レーヴェはいち早く歩き出した。
同じ頃、左回り組の三人も、辺りの暗さと足場の悪さに馬から降りる事になっていた。
借り物の乗用場だ。怪我でもされたら帰りの足を失ってしまう。時間が勝負の今、そんな事態だけは避けなければならない。
「うわっ、さすがに暗くなってきたな。もう少し早く依頼してくれれば良かったのに…」
馬から降りたケイジ・フィーリ(ka1199)はぼやきながらも準備してきたライトをつけた。
足下を照らしながら周囲を確認する。右回り組からの通信はまだ無い。つまり向こうでもまだゴブリン達は見つかっていないという事だろう。
「まったくね。まぁ馬を貸してくれただけいいとしましょうか」
そう淡々と言いながらランタンに明かりをともしているのはナル(ka3448)だ。
「パパッと見つけて早く持って帰ってあげよう」
蒼真・ロワ・アジュール(ka3613)も同じようにランタンに灯をともす。もっとも、ナルのそれよりも、オドロオドロしい形をしてはいたが。
それぞれライト、ランタン、眼が光る頭蓋骨のようなランタンを掲げた三人はゆっくりと歩き出す。
黒い湖を横目に見ながら。
「ふむぅ……見当たらんのう」
影になっていた草むらを覗き込みながらレーヴェは軽くため息をついた。
太陽はすっかり沈み、濃くなった闇のせいで黙視確認できる範囲は更に少なくなっている。加えて開演時間というタイムリミットは刻一刻と迫って来ている。
「たいして隠れられそうな場所は無かった。さすがに見落としてはいないはずだ。鳴神殿、向こうはどうだ?」
「向こうもまだ発見していないらしい」
丁度もう一つのチームとの通信を終えたばかりの鳴神は、クローディアの言葉に簡潔にそう応えた。
「ここはひとつ、おびき出してみてはどうじゃろうか」
レーヴェはそう言いながらクローディアを見る。同時に鳴神もライトをふりながらクローディアを振り返っていた。
「そうだな、試してみる価値は十分にあると思うぜ」
二人が言っているのはクローディアの持つゴールデンハープの事だ。
どこぞの吟遊詩人ほどには届かないかもしれないが、美しい音色を響かせれば件のゴブリン達がよってくる可能性があるかもしれない。
「しかし、逆に我々の存在を感知して逃げ出してしまう可能性もあると思うが」
「そうじゃのう、だが今のままではらちがあかんじゃろう」
「それもそうだな。では試してみるか」
そう言ってクローディアは取り出したハープを構える。
「待て、通信だ」
しかし、いざ演奏を始めようとした時に鳴神の魔導短伝話に通信が入った。
短いやり取りを行って鳴神はすぐに通信を切る。
「ゴブリンを見つけたらしい。すぐ近くだ」
鳴神がそう言い終わると同時に三人は一斉に走り始めた。
●
「でもあれだね、別に音楽ならなんでもよかったんだね」
蒼真はそんな事を言いながら、ゴブリンの攻撃をひらりと避けた。
「そうね、あんな演奏でもくるんだから」
同じくゴブリンの攻撃をナルは避けた。同時に放った弾丸は、ゴブリンの足下につきささり、その動きを牽制する。
ナル、蒼真、ケイジの三人は、ゴブリン達からの襲撃を受けていた。
相手はたったの四匹。倒そうと思えば簡単に倒せる相手だ。
「とりあえずあれを取り返せばいいんだよね!」
しかし、今回は勝手が違う。襲って来た四匹のゴブリンのうち一際大きな一匹は、依頼品であろうリュートをしっかりと握っているのだ。下手に攻撃して壊してしまっては元も子もない。
リュートを握っている頭目ゴブリンが変に攻撃して来ても壊れてしまう危険が大きい。
つまり、後の三人が来るまで敵が逃げ出さない程度に、かつ頭目が攻撃に参加しない程度に牽制し続けなければならないのだ。
「そうよ。もちろん演奏できる状態でね」
連続で襲いかかってくる攻撃を、蒼真とナルはひたすらに避け続ける。
「でもまさか、本当にあんな演奏で出てくるとは思わなかったなぁ」
「う、上手くなくても効果はあったんだからいいんだよ!」
蒼真の言葉に反応したのは、通信を終えたばかりのケイジだ。
実はこのゴブリン達、ケイジが試しにハーモニカを吹き始めてすぐに飛び出して来たのだ。
もっとも、楽器の音色に反応したのか、ただ明かりを灯した三人を見つけた時に偶々ケイジが演奏していたのかは分からないが。
「そんな事より、向こうの三人は?」
「ああ、結構近くにいたらしいから……」
ナルの問いかけにケイジはついさっきの通信の内容を口に出そうとした。
しかし、それより早くに既に状況は動いていた。
「がっ!」
リュートを握った頭目ゴブリンの鳴き声とも叫び声ともつかぬ声が大きくあたりに響き渡った。
今まで少し離れて戦闘を眺めるだけだった頭目の身体がぐらりと揺れる。
「簡単なもんじゃのう」
それはレーヴェの銃撃によるものだった。
きれいに足を打ち抜かれた頭目は、しかし激高して暴れ始める事は無かった。
「それはお前の手の中にあっても、正しく音色を奏でられないだろ」
鳴神のエレクトリックショットが炸裂する。痺れで頭目の動きは鈍る。
その瞬間前に出たのは蒼真だ。
一瞬の出来事に唖然としている取り巻きのゴブリンの脇をすり抜け、頭目からリュートを軽々と奪い取る。
リュートを手にした蒼真の背後には、すでに取り巻きゴブリンの攻撃が迫る。しかし、クローディアの振動刀が振り下ろされる方が、それよりもずっと早かった。
「これで手加減する必要が無くなったな」
言った方が早いのか、斬った方が早いのかは分からなかったが、クローディアの振動刀は、そう言い終わる前にすでにゴブリンを一匹仕留め終わっていた。
「ケイジ! パス!」
蒼真はそんな攻防に見向きもせずに取り返したリュートをすぐにケイジに向かって放り投げる。
「こっちは任せろ!」
「ナイスキャッチ!」
飛んで来たリュートをケイジは両手で優しく受け止める。
パッと見た感じでは、大きな破損は見つからない。
「離脱するわよ!」
リュートを追って迫ってくるゴブリンにナルはしこたま弾丸を打ち込みながら、リュートを抱いたケイジに向かってそう叫んだ。
そしてそのまま両手がふさがってしまったケイジの後ろについて走り出す。
「後は任せたわ!」
「ふむ、任せておけ」
「ああ! 任せろ!」
その背に帰って来たのはレーヴェと鳴神の声だ。
次の瞬間、リュートを奪われた頭目ゴブリンは暴れ回る暇もなく、レーヴェの弾丸と鳴神の機導剣のもとに崩れ落ちていた
革の鎧など何の役にも立たなかった。
頭目と仲間の一匹がやられ、残った二匹のゴブリンはすぐに戦闘を放棄した。
単純に言えば回れ右、背中を向けて思い思いの方向に逃げ出したのだ。
レーヴェの射撃と鳴神の機導砲の雨の中を二匹はそれぞれ真逆の方向に向かって走り抜ける。辺りは暗い。草むらの中に逃げ込んでしまえば逃げ切られる可能性もある。
しかし、それを許す者はその場に残った四人のハンターの中には一人もいなかった。
後ろから襲ってくる弾丸から身を隠そうと、木の陰に飛び込んだゴブリンの前に立っていたのはニコリと笑っている美少女、いや美少年だった。
「僕らの演奏会へようこそ! なんてね」
蒼真の持っている錫杖「月影」による攻撃は敗走しているゴブリン葬るには過ぎたものだったかもしれない。
もっともそれは、反対方向に逃げたゴブリンを一撃の下に刀の錆にしてしまったクローディアも同じ事である。
「さて、ゆっくり帰るとするかのう」
レーヴェは余裕たっぷりにそう言うと、月が輝き始めた空を見上げた。
その頃、ケイジとナルは街道を馬で突っ走っていた。
時間に余裕は無い。
「まったく、そんなに大事なら簡単に手放さないで欲しいものね」
だからこそ、そんな言葉が口をついて出るというものだ。
もっとも、二人とも急いではいたが決して焦ってはいなかった。
リュートを抱えて走るケイジを気遣うようにナルは周囲に気を配り続ける。最後まで気を抜くわけにはいかないのだ。
先導するケイジは度々街道から外れるように向きを変える。優れた方向感覚から街道通りではなく、最短距離を走ろうとしているのだ。
「こっちだ!」
明かりが乏しい道無き道を、ケイジとナルはひたすら走り続ける。
●
「後、十五分だ……」
髪を後ろで束ねた経営者は、青ざめた顔で壁にかけられた時計を見上げた。
会場は既に満員御礼だ。しかし、素直に喜べる状況ではない。
吟遊詩人はすねていながらも控え室でふんぞりかえっている。
関係者は皆黙りこくっている。悲痛な沈黙が部屋の空気を重くしている。
その沈黙を破り去ったのは、裏口から飛び込んで来た一人の少年、ハンターのケイジだった。
「ま、間に合ったか……!?」
肩で息をしているケイジ。彼が持っていたのは一つの楽器だ。
「ああ、ああ! 僕のリュートじゃないか!」
黙って素知らぬ顔をしていた吟遊詩人は、ケイジの腕からリュートひょいと奪い取った。
「これだよ! ああ、音も生きている」
「はは、もう置いてっちゃダメですよ」
「お帰り相棒、さて準備をしなければ」
吟遊詩人は礼一つ言ないどころか、ケイジの存在にまるで気づかずにいそいそと公演の準備を始める。
後から入って来たナルが見たのは、慌ただしく動き回っている劇場関係者の中で、ぽかんとした顔で棒立ちになっているケイジだった。
ゴブリン達を完膚なきまでに殲滅した後でゆっくりと帰って来た四人のハンターは、劇場の手前で、かすかに美しい音色が響いてくる事に気がついた。
「成功、という事でいいのだろうか?」
「まぁ、どうやらそのようじゃな」
クローディアの言葉にレーヴェが答える。
「ふむぅ、私もこの公演には少し興味があったのじゃが、聞けなくて残念じゃ」
「僕も演奏聞きたかったなー今から入れてくれないかな」
「むりなんじゃねぇの?」
鳴神は興味無さげにそう言いながら、馬から飛び降りる。
「まぁいいだろ、任務は成功だ。演奏ならまた聞く機会ぐらいあるだろ」
「そうだといいわね」
「演奏はほんとにすごいみたいだよ」
その言葉を発したのは、劇場の前で四人の帰りを待っていたナルとケイジだ。
「依頼主は大喜びだったよ。劇場経営って大変なんだね」
ケイジが苦笑いを浮かべながらそう言った意味を、今劇場に着いたばかりの四人はまだ知らないのだ。
吟遊詩人のおかげで今回は中々振り回された彼らである。
しかし、劇場から聞こえてくる小さな音色は、月の下にたたずむ彼らの心も魅了していくのだった。
出かけたときはまだ夕日が輝いていたが、湖に到着した頃にはすでに辺りは薄暗くなりつつあった。
それから少しではあるが時間が経っている現在ではなおさらだ。
「さて、ここらで馬は繋いでおこうかの」
馬を止めたレーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、ほとんど沈みつつある太陽に目を向けてから、颯爽と馬から飛び降りた。体格の割に大きな胸がその反動で大きく揺れる。
リュート奪取の任務についた六人は、湖に着いた時点で右回りと、左回りの二班に分かれていた。レーヴェはその右回り組の一人である。
「そうだな。大分暗くなってきたし、辺りの植生も濃くなってきている。万が一にも見落とすわけにはいかない」
レーヴェと共に馬を走らせて来たクローディア(ka3392)も、そう言いながら馬を降りる。
「よし、急ごうぜ」
同じく右回り組の鳴神 真吾(ka2626)も同様だ。
馬を借りて来ている他の五人と違い、自前の馬に乗って来た鳴神は、慣れた手つきで馬を軽く撫でると、すぐにライトのスイッチを入れた。加えて通信用の魔導短伝話のチェックを軽く行う。そして問題がなさそうなのを確認すると手近な樹に馬をつないだ。
「丁度対岸にいない事を祈るぜ」
ポツリと呟いた鳴神の言葉は、反射する光を失いつつある湖の湖面へと吸い込まれていく。
「しかし、この湖周辺にいる事は間違いないみたいだ」
地面にはっきりとした足跡を見つけてクローディアは不適に笑った。
「亜人の足跡だ、これ以上暗くなる前に捜索を急ごう」
「そうじゃな。見つからなかったらゴブリンをおびき寄せる為に、誰かが歌うか演奏するしかないからのう」
ハープを持つクローディアをチラリと見ながらそう言うと、レーヴェはいち早く歩き出した。
同じ頃、左回り組の三人も、辺りの暗さと足場の悪さに馬から降りる事になっていた。
借り物の乗用場だ。怪我でもされたら帰りの足を失ってしまう。時間が勝負の今、そんな事態だけは避けなければならない。
「うわっ、さすがに暗くなってきたな。もう少し早く依頼してくれれば良かったのに…」
馬から降りたケイジ・フィーリ(ka1199)はぼやきながらも準備してきたライトをつけた。
足下を照らしながら周囲を確認する。右回り組からの通信はまだ無い。つまり向こうでもまだゴブリン達は見つかっていないという事だろう。
「まったくね。まぁ馬を貸してくれただけいいとしましょうか」
そう淡々と言いながらランタンに明かりをともしているのはナル(ka3448)だ。
「パパッと見つけて早く持って帰ってあげよう」
蒼真・ロワ・アジュール(ka3613)も同じようにランタンに灯をともす。もっとも、ナルのそれよりも、オドロオドロしい形をしてはいたが。
それぞれライト、ランタン、眼が光る頭蓋骨のようなランタンを掲げた三人はゆっくりと歩き出す。
黒い湖を横目に見ながら。
「ふむぅ……見当たらんのう」
影になっていた草むらを覗き込みながらレーヴェは軽くため息をついた。
太陽はすっかり沈み、濃くなった闇のせいで黙視確認できる範囲は更に少なくなっている。加えて開演時間というタイムリミットは刻一刻と迫って来ている。
「たいして隠れられそうな場所は無かった。さすがに見落としてはいないはずだ。鳴神殿、向こうはどうだ?」
「向こうもまだ発見していないらしい」
丁度もう一つのチームとの通信を終えたばかりの鳴神は、クローディアの言葉に簡潔にそう応えた。
「ここはひとつ、おびき出してみてはどうじゃろうか」
レーヴェはそう言いながらクローディアを見る。同時に鳴神もライトをふりながらクローディアを振り返っていた。
「そうだな、試してみる価値は十分にあると思うぜ」
二人が言っているのはクローディアの持つゴールデンハープの事だ。
どこぞの吟遊詩人ほどには届かないかもしれないが、美しい音色を響かせれば件のゴブリン達がよってくる可能性があるかもしれない。
「しかし、逆に我々の存在を感知して逃げ出してしまう可能性もあると思うが」
「そうじゃのう、だが今のままではらちがあかんじゃろう」
「それもそうだな。では試してみるか」
そう言ってクローディアは取り出したハープを構える。
「待て、通信だ」
しかし、いざ演奏を始めようとした時に鳴神の魔導短伝話に通信が入った。
短いやり取りを行って鳴神はすぐに通信を切る。
「ゴブリンを見つけたらしい。すぐ近くだ」
鳴神がそう言い終わると同時に三人は一斉に走り始めた。
●
「でもあれだね、別に音楽ならなんでもよかったんだね」
蒼真はそんな事を言いながら、ゴブリンの攻撃をひらりと避けた。
「そうね、あんな演奏でもくるんだから」
同じくゴブリンの攻撃をナルは避けた。同時に放った弾丸は、ゴブリンの足下につきささり、その動きを牽制する。
ナル、蒼真、ケイジの三人は、ゴブリン達からの襲撃を受けていた。
相手はたったの四匹。倒そうと思えば簡単に倒せる相手だ。
「とりあえずあれを取り返せばいいんだよね!」
しかし、今回は勝手が違う。襲って来た四匹のゴブリンのうち一際大きな一匹は、依頼品であろうリュートをしっかりと握っているのだ。下手に攻撃して壊してしまっては元も子もない。
リュートを握っている頭目ゴブリンが変に攻撃して来ても壊れてしまう危険が大きい。
つまり、後の三人が来るまで敵が逃げ出さない程度に、かつ頭目が攻撃に参加しない程度に牽制し続けなければならないのだ。
「そうよ。もちろん演奏できる状態でね」
連続で襲いかかってくる攻撃を、蒼真とナルはひたすらに避け続ける。
「でもまさか、本当にあんな演奏で出てくるとは思わなかったなぁ」
「う、上手くなくても効果はあったんだからいいんだよ!」
蒼真の言葉に反応したのは、通信を終えたばかりのケイジだ。
実はこのゴブリン達、ケイジが試しにハーモニカを吹き始めてすぐに飛び出して来たのだ。
もっとも、楽器の音色に反応したのか、ただ明かりを灯した三人を見つけた時に偶々ケイジが演奏していたのかは分からないが。
「そんな事より、向こうの三人は?」
「ああ、結構近くにいたらしいから……」
ナルの問いかけにケイジはついさっきの通信の内容を口に出そうとした。
しかし、それより早くに既に状況は動いていた。
「がっ!」
リュートを握った頭目ゴブリンの鳴き声とも叫び声ともつかぬ声が大きくあたりに響き渡った。
今まで少し離れて戦闘を眺めるだけだった頭目の身体がぐらりと揺れる。
「簡単なもんじゃのう」
それはレーヴェの銃撃によるものだった。
きれいに足を打ち抜かれた頭目は、しかし激高して暴れ始める事は無かった。
「それはお前の手の中にあっても、正しく音色を奏でられないだろ」
鳴神のエレクトリックショットが炸裂する。痺れで頭目の動きは鈍る。
その瞬間前に出たのは蒼真だ。
一瞬の出来事に唖然としている取り巻きのゴブリンの脇をすり抜け、頭目からリュートを軽々と奪い取る。
リュートを手にした蒼真の背後には、すでに取り巻きゴブリンの攻撃が迫る。しかし、クローディアの振動刀が振り下ろされる方が、それよりもずっと早かった。
「これで手加減する必要が無くなったな」
言った方が早いのか、斬った方が早いのかは分からなかったが、クローディアの振動刀は、そう言い終わる前にすでにゴブリンを一匹仕留め終わっていた。
「ケイジ! パス!」
蒼真はそんな攻防に見向きもせずに取り返したリュートをすぐにケイジに向かって放り投げる。
「こっちは任せろ!」
「ナイスキャッチ!」
飛んで来たリュートをケイジは両手で優しく受け止める。
パッと見た感じでは、大きな破損は見つからない。
「離脱するわよ!」
リュートを追って迫ってくるゴブリンにナルはしこたま弾丸を打ち込みながら、リュートを抱いたケイジに向かってそう叫んだ。
そしてそのまま両手がふさがってしまったケイジの後ろについて走り出す。
「後は任せたわ!」
「ふむ、任せておけ」
「ああ! 任せろ!」
その背に帰って来たのはレーヴェと鳴神の声だ。
次の瞬間、リュートを奪われた頭目ゴブリンは暴れ回る暇もなく、レーヴェの弾丸と鳴神の機導剣のもとに崩れ落ちていた
革の鎧など何の役にも立たなかった。
頭目と仲間の一匹がやられ、残った二匹のゴブリンはすぐに戦闘を放棄した。
単純に言えば回れ右、背中を向けて思い思いの方向に逃げ出したのだ。
レーヴェの射撃と鳴神の機導砲の雨の中を二匹はそれぞれ真逆の方向に向かって走り抜ける。辺りは暗い。草むらの中に逃げ込んでしまえば逃げ切られる可能性もある。
しかし、それを許す者はその場に残った四人のハンターの中には一人もいなかった。
後ろから襲ってくる弾丸から身を隠そうと、木の陰に飛び込んだゴブリンの前に立っていたのはニコリと笑っている美少女、いや美少年だった。
「僕らの演奏会へようこそ! なんてね」
蒼真の持っている錫杖「月影」による攻撃は敗走しているゴブリン葬るには過ぎたものだったかもしれない。
もっともそれは、反対方向に逃げたゴブリンを一撃の下に刀の錆にしてしまったクローディアも同じ事である。
「さて、ゆっくり帰るとするかのう」
レーヴェは余裕たっぷりにそう言うと、月が輝き始めた空を見上げた。
その頃、ケイジとナルは街道を馬で突っ走っていた。
時間に余裕は無い。
「まったく、そんなに大事なら簡単に手放さないで欲しいものね」
だからこそ、そんな言葉が口をついて出るというものだ。
もっとも、二人とも急いではいたが決して焦ってはいなかった。
リュートを抱えて走るケイジを気遣うようにナルは周囲に気を配り続ける。最後まで気を抜くわけにはいかないのだ。
先導するケイジは度々街道から外れるように向きを変える。優れた方向感覚から街道通りではなく、最短距離を走ろうとしているのだ。
「こっちだ!」
明かりが乏しい道無き道を、ケイジとナルはひたすら走り続ける。
●
「後、十五分だ……」
髪を後ろで束ねた経営者は、青ざめた顔で壁にかけられた時計を見上げた。
会場は既に満員御礼だ。しかし、素直に喜べる状況ではない。
吟遊詩人はすねていながらも控え室でふんぞりかえっている。
関係者は皆黙りこくっている。悲痛な沈黙が部屋の空気を重くしている。
その沈黙を破り去ったのは、裏口から飛び込んで来た一人の少年、ハンターのケイジだった。
「ま、間に合ったか……!?」
肩で息をしているケイジ。彼が持っていたのは一つの楽器だ。
「ああ、ああ! 僕のリュートじゃないか!」
黙って素知らぬ顔をしていた吟遊詩人は、ケイジの腕からリュートひょいと奪い取った。
「これだよ! ああ、音も生きている」
「はは、もう置いてっちゃダメですよ」
「お帰り相棒、さて準備をしなければ」
吟遊詩人は礼一つ言ないどころか、ケイジの存在にまるで気づかずにいそいそと公演の準備を始める。
後から入って来たナルが見たのは、慌ただしく動き回っている劇場関係者の中で、ぽかんとした顔で棒立ちになっているケイジだった。
ゴブリン達を完膚なきまでに殲滅した後でゆっくりと帰って来た四人のハンターは、劇場の手前で、かすかに美しい音色が響いてくる事に気がついた。
「成功、という事でいいのだろうか?」
「まぁ、どうやらそのようじゃな」
クローディアの言葉にレーヴェが答える。
「ふむぅ、私もこの公演には少し興味があったのじゃが、聞けなくて残念じゃ」
「僕も演奏聞きたかったなー今から入れてくれないかな」
「むりなんじゃねぇの?」
鳴神は興味無さげにそう言いながら、馬から飛び降りる。
「まぁいいだろ、任務は成功だ。演奏ならまた聞く機会ぐらいあるだろ」
「そうだといいわね」
「演奏はほんとにすごいみたいだよ」
その言葉を発したのは、劇場の前で四人の帰りを待っていたナルとケイジだ。
「依頼主は大喜びだったよ。劇場経営って大変なんだね」
ケイジが苦笑いを浮かべながらそう言った意味を、今劇場に着いたばかりの四人はまだ知らないのだ。
吟遊詩人のおかげで今回は中々振り回された彼らである。
しかし、劇場から聞こえてくる小さな音色は、月の下にたたずむ彼らの心も魅了していくのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鳴神 真吾(ka2626) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/21 20:49:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/18 12:34:07 |