• 血断

【血断】鉄の脈拍

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/11 12:00
完成日
2019/04/19 17:50

このシナリオは5日間納期が延長されています。

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オープニング

●マクスウェル
 マントを揺らす、風さえなかった。グラウンド・ゼロは負の大地。命とマテリアルが枯れたどん詰まりの地。
 黙示騎士マクスウェルがその中にあって、彼方を見遣る。黙示騎士イグノラビムスが戦っている戦域の方だ。
 マクスウェルはイグノラビムスを『仲間』と思い、違う戦場にいても、彼を気にかけていた。この戦いの後、無事にイグノラビムスと再会できれば良いと思う。
 マクスウェルは今、クリュティエの指示に従い、戦場の後方にある孤立した部隊や補給線を破壊して回っていた。
 だから、マクスウェルの周囲は、嵐の直撃を食らったような惨状だった。
 キャンプなどの立体物は構造を保てなくなり、地面に崩れ落ちてもはや平面と変わりない。魔導ヘリコプターはキャノピィに衝撃波による裂傷が走り墜落している。CAMがその下敷きになっていた。それ以外のCAMも足を破壊されるなどして、芋虫のように地面に転がっていた。
 連合軍の兵站だった場所には沈黙と敗北が降りかかる。
 全てが崩折れた中で、無傷のマクスウェルだけが立っていた。
『作戦とはいえ、これではあまりにつまらない』
 次の標的に向かって、マクスウェルは駆け出した。内心、ハンターと戦えるのではないかと期待して。

●ハンターへの指示
「もう知っていると思うが、孤立した部隊を黙示騎士が破壊して回っている」
「彼らは非常に強い。マクスウェルは派手な範囲攻撃こそないようだが、あの機動力で遊撃されては、後方部隊の壊滅は必至だ」
「だが、ゾンネンシュトラール帝国軍が残存戦力をまとめ上げてくれている」
「孤立部隊がより多く帝国軍と合流できれば、死者も減るし、戦力を維持できる」
「だから、あなたたちはマクスウェルの足止めをしてくれ」
「強襲された部隊からの通信で、マクスウェルの位置と進行方向はわかっている」
「あなたたちの地点からマクスウェルと会敵するまでの時間を差し引いて──」
「3分間。マクスウェルとの会敵後、3分間奴を足止めしてくれ」
「そうすればより多くの部隊が合流可能になる」
「あなたたちに頼るしかない自分たちが不甲斐ないけれど、どうか頼んだよ」
「健闘を祈る」

●マクスウェル
 マクスウェルはまたひとつの孤立部隊を潰したところだった。
 彼らは、必死にあがいていたが、それでもマクスウェルに決定打を与えるに至らない。
 マクスウェルは正直、こんな戦闘にもならないような行為に飽き始めていた。だが、クリュティエの指示もあるし……と、考えていたところ、彼方からこちらに向かってくる複数の人物を発見する。ハンターだった。
『来たか、ハンター共』
 マクスウェルは、ハンターたちが自分を足止めするつもりで来ていることぐらい想像できた。仮にマクスウェルがハンターを相手にしなくても、何かしらの手段で足止めしてくることも予想できた。
 ならば、自らハンターに立ち向かって戦うことの何が悪いのか?
 マクスウェルにとって、ハンターは最早ただの獲物ではなかった。この戦場においては、ようやくまともに戦える相手ですらある。
 先日、ハンターから聴いた仲間や成長の話を、マクスウェルが完全に理解できたとは言えない。でも、あの時間が無駄だったわけではない。マクスウェルが変わりはじめたのも、クリュティエの言葉だった。だから、ハンターの言葉にだって意味がある。
『オイ、テセウスッ!! 聴いているのならクリュティエに伝えておけ。オレはこれからハンター共の相手をしに行く。他の戦域の始末はその後でやってやるから──しばらくは邪魔するな』
 だが、気持ちだけでは状況は何も変わらない。
 だから、今一度マクスウェルは知りたかった。
『その心意気と強さの理由が、真実であると──刃を以って証明して見せよ』
 もう、ハンターはすぐそこまで来ている。
 マクスウェルもハンターに向かって突撃する。

リプレイ本文

(刃を以って証明して見せよ、か……)
 すでに超覚醒を済ませたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の速さは紅蓮の颶風だ。長く伸びた赤い髪が、羽衣のように靡く。
(いいだろう。証明になるかはわからないが──)
「──全力をもって貴様と相対しよう」
『また会ったな、アルト・ヴァレンティーニ!!』
 アルトは超覚醒と踏鳴で超人的な移動力を獲得、更に焔舞で2回のサブアクションを起動し、最も早くマクスウェルに迫る。その軌跡に炎の花弁を残して、試作法術刀「華焔」が素早く華を織り成すが如く閃いた。
 マクスウェルはアルトと後に続くハンターに目掛けて、大剣を振り抜き衝撃波を浴びせる。
 衝撃波はそれぞれハンターに着弾すると思いきや、何かに導かれるように1つに収束し、ボルディア・コンフラムス(ka0796)に命中した。ラストテリトリーで効果範囲を変更したのだ。
「ヘェ……しばらく見ねぇ内にいい面構えになって…………」
 言いかけたがボルディアは、「顔、よく分かんねぇな」と思った。
「まぁ、顔つきはともかくちったぁ雰囲気変わったじゃねぇか?」
 ボルディアの受けた負傷は夢路 まよい(ka1328)が仰ぎし福音ですぐに癒す。
「また会ったね、マクスウェル。……こうして戦いを通して語らう方が私たち、らしいのかもね」
『魔術師、オレの期待を裏切るなよ?』
 マクスウェルが次の動作に入ろうとする前に、七節棍となった蛇節槍「ネレイデス」の一撃が飛んできた。イツキ・ウィオラス(ka6512)の白虎神拳である。
「今のアナタを、悪夢とは言いません。この出逢いは、弱く、小さな私が挑まなければならない、ひとつの大きな試練……全身全霊で、臨ませて頂きます」
 イツキ自身は積極的な攻勢は取らず、基本迎撃の構えで、同行しているポロウのノエルと同一スクエアに入っている。
 マクスウェルは、ネレイデスを大剣ではたき落として回避した。
 そして、イツキを背後に隠すようにするのは、マスティマ、エストレリア・フーガだ。搭乗するのはキヅカ・リク(ka0038)。
「此処で止めなきゃ、他の皆が……ルミナちゃんが……! 持ってくれよ、フーガ……!」
「相手が黙示騎士であろうとここは絶対に通さん!」
 最後にレイア・アローネ(ka4082)がマクスウェルを自身の近接武器の射程に収めた。守りの構えから、連鎖的にケイオスチューンを発動し、近接威力を上乗せする。
「簡単に打ち破れると思うな!」
『フン、簡単に倒せてしまっては、オレとしても耐え難いッ!』
 マクスウェルがレイアに刺突を繰り出した。
 レイアはわざと攻撃を受けることでカウンターアタックを発動。マクスウェルの脇腹に剣を突き刺した。
『反撃とは、気骨はあるようだな』
 さらにマクスウェルは攻撃を続行しようとするが、ボルディアがそれを許さない。
 砕火の2撃目が振り下ろされる。しかし、炎の顎をマクスウェルは半身になって躱した。
 続いてマクスウェルは、ボルディアへ一撃を見舞おうとするが、大剣を振るうより先に、左側面から衝撃を受けた。
 ボルディアを相手にしているマクスウェルの死角に回り込むように移動した、アルトの連華だ。
 ボルディアは例え自分の攻撃が当たらなくても、味方の攻撃の起点になるように意識していた。ボルディアの攻撃威力は高く、当たれば痛打、当たらずともマクスウェルに回避あるいは防御をさせることで、味方の攻撃の命中率を上げている。
 また、アルトは味方の位置を頭に叩き込み、積極的にそれを利用して攻撃している。高い移動力を使って、マクスウェルに張り付きフェイントすら入れることを可能にしていた。彼女の鋭く重い斬撃がマクスウェルの左腕を斬り咲く。
 レイアもまよいの仰ぎし福音により生命力を回復して、二刀流で攻撃する。レイアはボルディアやアルトほど連携を意識していなかったが、連続攻撃であるために、それは回避しづらく、ソウルエッジによって魔法威力も加算されているので無視できぬ攻撃であった。
 イツキの白虎神拳、キヅカの斬艦刀「雲山」による射程の長い近接攻撃、まよいは回復の必要がないときにはマジックアローで味方の攻撃を支援していた。
『やるじゃないか……!』
 マクスウェルは、ボルディア、アルト、レイアを振り払うように大剣を大きく薙ぎ払う。
 しかし、それもボルディアのラストテリトリーによって効果範囲を変更された。
 大剣を振り抜いたマクスウェルを叩き斬ろうと、レイアが斬撃を繰り出したが、そこにはマクウスェルの姿がなかった。
「どこへ……!?」
「左の方!」
 キヅカがエストレリア・フーガの外部スピーカーから、3人に伝える。キヅカはやや後方にいたので、接近して戦っている者たちより視野が広かったためだ。
 マクスウェルはワープで、ハンターの包囲を抜けていた。
『作戦だか連携だか知らんが、今のがそういう類のものなのだろう。なら、それができなくなったらどうするッ!?』
「恐慌の光か……!」
 キヅカが勘付く。
「でも、この距離なら……!」
 エストレリア・フーガの片翼が展開し、ブレイズウィングが射出される。
 3片の羽に動きを乱された、マクスウェルの体勢が崩れた。
 その隙にアルトが追いつき、左脇腹を斬り付ける。
 斬られながら、ふとマクスウェルは戦場の異変に気がついた。
 戦場は平らではなくなっていたのだ。アルトの連れてきた刻令ゴーレム「Gnome」がCモード「wall」で恐慌の光対策に壁を無数につくっていたからだ。もちろんそれを利用しているハンターもいる。
 マクスウェルはこの時、地上で恐慌の光を放ってもほぼ意味のないことを理解した。
 そして再びマクスウェルの姿が消えた。
 瞬時に視界から消えた相手を即座に探し出すことは難しい。どうしても探す側がワンテンポ遅れてしまう。
 地上のどこにも姿がないなら空中だと気がついた時には、上から恐慌の光が降り注いでいた。空中には遮蔽物など何もない。壁も横からの光には対応できるが頭上からは難しいのだ。
 だが、恐慌の光に対して壁でばかり対処しているハンターではない。
 アルトは覇者の剛勇を戦闘がはじまる直前に、味方に施しているし、何より、まよい、レイア、イツキの同行しているポロウが惑わすホーを展開していた。
 今回は、まよいのポロウ、ソフォスの惑わすホーが、結界内のまよいが対象にされたことを感知し、恐慌の光の魔法を瓦解させた。
『この感じ……! 前の戦場でもあったが、その鳥の仕業かッ!!』
 マクスウェルは高度をやや下げて、ポロウたち目掛けて衝撃波を放つ。その1発がレイアのポロウ、ポルンに命中した。
「ポルン!」
 傷を受け、震えるポルンへ叫ぶレイア。
「すぐに回復するから!」
 まよいが仰ぎし福音を迷うことなく行使し、ポルンの生命力を全快させる。
『オイ、魔術師! 今日は随分控えめな攻勢だな? いつもの魔法はどうした?』
「剣を以って力を示すのもひとつだけど……敵を圧倒することだけが強さじゃないと思うの」
 上空のマクスウェルをまよいは見返す。
「何度傷ついても立ち上がるハンターとしての矜持、世界と仲間を護る守護者としての矜持……そういうのもきっとある。最近は私にも、傷つけるだけが力じゃない、ってわかってきたから」
『殊勝だ、ヌァ!?』
 マクスウェルは自分の頭上に圧を感じた。
 エストレリア・フーガがいつの間にかそこに出現していた。
 プライマルシフトによる瞬間移動、そしてオールマイティよって独自の世界法則に身を置いて空気すら足場とする。
「堕ちろ、マクスウェル!」
 斬艦刀の一振りが、マクスウェルに振り下ろされる。
 マクスウェルはエストレリア・フーガと違い、空中戦闘によるペナルティを受けている。大剣で防御をするが、鉄の擦れる不快な音を立てた。
『だがしかし、この程度ォォォォオオオ!?』
 そう、それでも墜落させるにはまだ足りない。それなのに、マクスウェルの言葉が驚きに間延びになったのは、炎鎖に体を絡め取られたからだ。
「ハッ、馬鹿の一つ覚えみたいにピカピカピカピカ……テメェは蛍かなんかか、アァ!?」
 炎鎖の端はボルディアの腕に繋がっていた。
 BS行動不能により、マクスウェルは墜落状態に移行する。しかしそれよりも速く、ボルディアが炎鎖を手繰り寄せた。
 ボルディアは星神器「ペルナクス」を構える。トールハンマーはすでに発動されている。引き寄せられるマクスウェルにタイミングを合わせ、
「ちったぁ、大人しくしやがれ!!」
 マクスウェルに斧をフルスイングした。BS行動阻害の効果が付与され、彼の体に微細な電流が弾ける。
 アルトは、フェイントを織り交ぜ連華を繰り出す。
 マクスウェルはBS移動不能だけは解除したが、アルトの速度には追いつけない。左足に刀傷ができた。しかし、マクスウェルは避けきれなかった体勢のまま、無理やり刺突をアルトへ繰り出した。
 トリッキィな体勢で繰り出されたそれは、アルトの脚に当たって鮮血を散らす。
 それもまよいが仰ぎし福音で回復する。
『ならば、貴様から潰してくれるッ!!』
 マクスウェルがワープで消え、まよいの背後に移動した。
 それにより、アルトのゴーレムが数設置していたCモード「bind」を踏み抜いたが、法術の拘束を払いのけて、まよいへとさらに一歩、マクスウェルは踏み込んだ。大剣にはマテリアルの強化が施されている。
『眠れッ!』
「させるかよ!」
 が、そこに飛び込んだのはキヅカの操るエストレリア・フーガだ。プライマルシフトで転移し、まよいを庇ったのだ。
「お前は止める。此処で! もう誰も……失うなんてまっぴらだ……!」
 マクスウェルの意識がまよいからキヅカに移った。大剣の切っ先を向けて、体の脇に引きつける。
『ならば、貴様から耐えてみせるかッ!!』
 目にも留まらぬスピードで刺突が繰り出される。
 大剣は寸分の狂いもなくエストレリア・フーガのコックピット目掛けて突き刺さるかに見えたが、闇夜を穿つような月光と、キヅカの無事を祈る心が剣先を逸らした。
「あっ……ぶな……」
 操縦席のキヅカには怪我はない。しかしコックピットには穴が空いていた。マクスウェルの大剣が貫通した証拠だった。そして、感じた右腕への衝撃。ちらりと鎧を見れば、右の肩当てに傷が付いていた。もし、キヅカの無事を祈る心がなかったら、深いダメージは確実だっただろう。
「キヅカくん、大丈夫?」
 まよいが仰ぎし福音で機体の損傷を補う。
「大丈夫。まよいちゃん、回復サンキュ」
 再びボルディアが炎檻でマクスウェルを束縛し引っ張り、まよいとは距離ができた。
 イツキはマクスウェルにBSが入っていることを見て、攻撃を雪華纏槍・結明紡に切り替える。ネレイデスから放たれる星の煌めきのような蒼い奔流がマクスウェルを呑み込んだ。
 イツキは知っている、自分が決して強い存在ではないことを。
『弱さを知りながら立ち向かうか!』
 移動を封じられているマクスウェルだが、その場でイツキに向かって刺突を放つ。
 ネレイデスでイツキは防御する。防具により流血はないが、胸に強い衝撃を受けて、イツキは咳き込んだ。見えないだけで、胸は内出血しているだろう。
「わかって、います……。アナタ、……の気持ちに、応えられるだけの、力を私が持っていないことくらい……」
 咳き込みながらもイツキはマクスウェルに対して言葉を紡ぐ。
「……けれど、そうであろうとも。この身を賭す理由は充分に有る」
 徐々に呼吸が安定してきた。
「最後まで闘い、最後まで立ち続けます」
 イツキは槍を、くるくる回しマテリアルの感覚を研ぎ澄ませる。
「私の心はまだ、挫けていないから──!」
 薙ぎ払う槍から、再び星蒼の輝きが迸った。煌めきは先ほどより強くマクスウェルの体を押し流そうとする。
『ヌゥ……!』
 マクスウェルは大剣で星の煌めきを断ち割って奔流を受け流そうとするが、勢いは強く太く、流れる方向を変えることは出来ない。足や腕が削られていくのがわかった。
 イツキは金剛不壊を発動し、被ダメージ分を自身の攻撃威力に上乗せしたのだ。
「まだまだ……!」
 イツキは槍を回転させながら、棍状態へと移行する。
『それはこちらのセリフだッ!』
 マクスウェルは大剣で雪華纏槍・結明紡を押し返し、ついに移動不能と行動阻害のBSの解除に成功した。
 マクスウェルは踏み出そうとするが、レイアの方が速かった。
「行かせるか!」
 二刀流が閃く。
「足止めもできなくて、何が星神器所持者か!」
 レイアとマクスウェルが鍔迫り合いになった。
 その拮抗した状態を破ったのはボルディアの言葉だった。
「レイア、後ろに飛べ!」
「──!」
 レイアは後ろに飛んで、鍔迫り合いを解除する。
 力の受け手を失い、マクスウェルは前傾する。
 傾く大剣へボルディアは振りかぶった斧を叩きつけた。
 大剣が地面へと激突する。
「もう一発喰らっとけ!!」
『なんとォ!?』
 さらに大剣へ渾身の一撃を叩きつけることで、大剣の切っ先が地面へとめり込んだ。これでは即座に防御を取ることは不可能だ。
「この好機、無駄にはしません!」
 イツキは棍状態のネレイデスを操る。
 突き出された白虎神拳の乗るネレイデスの先端がマクスウェルの右肩を打つ。
『その技は先ほども受けたわッ!』
「そうですね……。でも、この先は知らないでしょう?」
 敵の肩にヒットして跳ね上がり、関節部分がぐにゃりと曲がったネレイデスをイツキは体ごと回転させて渾身の力が乗るよう、棍の関節を伸ばしながら次の攻撃に移る。
「ボルディアさん、頭下げてください!」
「おうよ!」
 イツキは続けて白虎神拳「追咬」を発動する。しなるネレイデスはイツキに操られ、その先端でマクスウェルの顎を彼の左側から痛烈に撃ち抜いた。
 スキル効果によって、マクスウェルの意識は朦朧となる。
「仕掛けるなら、今か……!」
 好機とみたキヅカが無ノ領域・撃を発動する。
 キヅカはおおよその時間経過を計っていた。時計を用意しているわけではないので正確にはわからないが、すでに2分は経っているだろうと考えた。仲間たちの消耗は多くはない。畳み掛けるなら今だと判断した。
 3枚の羽が起動し、マクスウェルを強襲する。因果律を操り、攻撃は絶対命中を約束される。
 レイアもそれを悟ったのか、星神器の力を解放する。
「真の姿を見せるがいい、天羽々斬──!」
 様々なスキルの乗ったそれは大ダメージを与える。
 だがほどなく、マクスウェルの意識も覚醒する。寝起きの頭で次にどうするべきか、と考えた時に、左腕や左足のアルトから受けた傷がアラートのように疼いた。アルトは左側から攻撃してくる。覚醒直後のためか、マクスウェルは経験から反射的にそう判断し、大剣を左側に盾のように構えた。
「そうだろうね。そうなるだろうさ」
 それなのに、マクスウェルの右側からアルトの声がした。
 振り向く暇すらない。ただ、体を斬った2回の攻撃が、マクスウェルの予測が無駄だったことの証左だ。
 アルトはわざと攻撃の方法やタイミング、回り込む割合などを偏らせることで、マクスウェルの反応を狂わせたのだ。
「そのリズム、狂わせてもらう」
 アルトは今まで以上に、マクスウェルを翻弄する。封印していた手段を解放した分、そして一定のリズムに慣らされた分、マクスウェルはアルトについていけない。
 アルトは鮮烈かつ迅速にマクスウェルを追い込む。
 ところで、この頃、丁度マクスウェル会敵から3分経過していた。ハンターも攻撃の体感から、おおよその時間は把握しているだろう。
 今回の依頼の成功条件は3分間持ちこたえること。しかし、これはハンター側の事情であって、マクスウェルには関係ない。マクスウェルはテセウスに呼び戻されるまで、自身に重大な損傷がない限り戦い続けるつもりなのだ。
『フハ、フハハハ! ハンター共め、あの日の言葉は嘘ではないなッ! これが、貴様らの強さという訳か!』
「野郎、まだやる気かよ!?」
 キヅカが言う。
 先ほどのハンターたちの一斉攻撃は確かに大ダメージを与えたはずで、累積ダメージも相当にあるはずだが、マクスウェルはまだ戦う気だ。
 マクスウェルが接近しているハンターを、仕切り直しとばかりに薙ぎ払う。
 それも、ボルディアがラストテリトリーで、自分にだけ攻撃を集中させる。
 まよいが仰ぎし福音でボルディアを回復するが、これが最後の1回だった。
「今ので回復、最後だから……!」
 そして、マクスウェルの姿が消える。
「またかよ……!」
 ボルディアは振り向いてマクスウェルを視認する。炎檻を伸ばすが、マクスウェルが抵抗したため、鎖が弾かれた。
 マクスウェルはボルディアを狙うとラストテリトリーで効果範囲を変更されることを学んだので、あえて彼女を標的から外す。
 マクスウェルは各個撃破、遊撃の様相でハンターを翻弄する。繰り返されるワープで所在を視認することすら難しい。Cモード「bind」を踏み抜くこともあるが、ワープは移動不能状態でも使用可能だ。
 ハンター側も最初は仰ぎし福音のダメージ減少効果が残っていたのだが、それも尽きた。またスキル回数も限界だった。
「……!」
 レイアが反応する。マクスウェルの攻撃に対し、防御こそ間に合ったが、両腿を深く切り裂かれてレイアは倒れた。骨こそ折れていないが、致命傷なのは明らかだ。
『それで終わりか?』
 あと一撃でも食らったら、まずい。それは誰が見ても確かだ。脚の負傷で動くのもままならない。
「レイ、ア……!」
 ボルディアは肺の空気が一瞬にして凝固したかのような感覚に陥った。
 マクスウェルが大剣を掲げる。
 炎檻もこれが最後だ。外すわけにはいかない。
「させるかぁぁぁあ!!」
 炎の鎖が伸び、確かにマクスウェルを捉えた。すかさずボルディアが自分の元へ引き寄せる。
「……これで逃げらんねぇだろ? サシで打ち合いと行こうや」
『ならば、正面から受けてみるか!?』
 マクスウェルがボルディアに狙いを定め、大剣を幾度も破城槌でも叩きつけるように振るった。
 ボルディアは堅硬なる盾と鎧を装備しているが、紅火血で継続回復しているが、それでもダメージは蓄積する。
「ボルちゃん、それ以上は!」
 キヅカがパラドックスすら使ったブレイズウィングでマクスウェルを止めようとするが、敵は防御を完全に捨てることで攻撃を続ける。
「わかってるよ、キヅカ! でも……コイツに仲間やらせてたまるかよ……。俺はもう絶対に、俺の手の届く範囲で死なせたりしねぇって誓ったんだ!」
『フハハハハ、言うではないか! その盾、いつまで持つか、ヌァ!?』
 マクスウェルは手首が弾かれたので驚いた。
 キヅカの攻撃が無駄だった訳ではない。それによって僅かに揺らいだ体勢から、
「魔法、楽しみにしてたんでしょ? どう、感想は」
 まよいがマジックアローで正確に敵の手首を射抜いて見せたのだ。
 腕を跳ねあげられてがら空きになった脇へ、アルトが下から回り込む。突き上げられた華焔は、脇から肩へ貫通し、側頭部まで突き刺した。
「これで……簡単には動けないだろう」
 マクスウェルはアルトの刃に固定され、ビクともしない。それでも足掻いていたが、その動きが不意に止まった。
『……』
 傍目からはわからないが、この時マクスウェルには、テセウスから戻って来るようにという連絡があったのだ。
『耐え抜いたか。ああ──なるほど。わかったよ。貴様らの言うところが。今日はこれまでだ、ハンター共。……刃を抜け』
 マクスウェルから闘志が消えたことを見て取って、アルトが刃を引き抜く。
『……アルト・ヴァレンティーニ。次は上手くいくと思うなよ』
「次会う時には私だって成長している。負けるつもりはないよ」
『オイ、魔術師。まよいとか言ったか』
 マクスウェルは順番に戦ったハンターの名前を確認する。
「そうだよ。夢路 まよいが私の名前」
『で、機械のそれに乗るのが──』
「……キヅカ・リクだ」
『ふむ。そして黒髪の貴様がレイアで、そっちの貴様がボルチャンだろう』
「はぁ!? テメェにそう呼ばれる筋合いはねぇよ! キヅカか、キヅカがそう呼んだからか!? つーかその前にイツキがボルディアさんって呼んでんだろ!」
『ボルディアサン?』
「ボルディア・コンフラムスだよ……」
『よし、覚えた。……そしてイツキ。弱いと言いつつ、耐えたか』
「そう、ですね。アナタが満足したかはわかりませんが……」
『オレのことはオレが決める。貴様が試練を乗り越えられたがどうかは貴様が決めるがよい』
 マクスウェルはハンターから顔を逸らした。マントがゆるりと翻る。
『今日は……なんだ。楽しかったぞ。──テセウス、もう充分だ』
 そして、マクスウェルがテセウスの転移で消えた。
 ハンターたちはそれなりにダメージを食らったが、最後まで立ち続けた。
 残存戦力は帝国軍が纏めていることだろう。

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重体一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    エストレリア・フーガ
    エストレリア・フーガ(ka0038unit012
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ソフォス
    ソフォス(ka1328unit003
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ノーム」
    刻令ゴーレム「Gnome」(ka3109unit007
    ユニット|ゴーレム
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ポルン
    ポルン(ka4082unit003
    ユニット|幻獣
  • 闇を貫く
    イツキ・ウィオラス(ka6512
    エルフ|16才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    ノエル
    ノエル(ka6512unit003
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/07 11:35:54
アイコン 相談卓
イツキ・ウィオラス(ka6512
エルフ|16才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2019/04/10 22:17:28