春×縁結び×狩り

マスター:KINUTA

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
8日
締切
2019/04/20 22:00
完成日
2019/04/29 02:16

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出? もっと見る

オープニング


●本日のユニゾン



 工業地区では、今日も元気にワーカーたちが働いている。
 今行われているのは保存食品の梱包作業。封をされた四角い箱が次々倉庫に運ばれて行く。人道支援物資のストックとして。
 その作業を見守るマゴイの傍らで、ウォッチャーが声を上げた。

【マゴイ、魔術師教会 の 書簡送信機から送信がありました。送り主は 英霊 ぴょこ θ・F・92438・ソルジャー です。】

 マゴイは時計を見た。
 午前の勤務時間が終わるまでにはまだ間がありそう。なので、ウォッチャーに頼む。

『……内容を音読してちょうだい……』

【『マゴイよ元気か。わしは元気じゃ。昨日わしのところにの、タホ郷から合同結婚式の招待状が来たのじゃ】

 「結婚」と言うワードが出た途端マゴイは、『ナゲカワシイ』『イカガワシイ』『イヤラシイ』と言わんばかりの表情になった。
 しかしウォッチャーは続ける。

【わし行ってくるのじゃが、おぬしはどうじゃ? 来んかの? まあ気が向いたら来るといいのじゃ。お主の席もあるらしいで――内容は以上です』】

 一拍置いてマゴイは、憤慨したように呟く。

『……行かない……』



●本日の辺境



「えぇ!? マゴイさんも招待したんですか!? なんでまたそんな……」

 と声を上げるカチャに英霊ぴょこは、綿が詰まった手をぱたぱた上下させた。

『うむ。祝いの席には1人でも多いほうが、盛り上がると思ってのう』

「マゴイさんは絶対来ないでしょう、思想信条の観点から」

『まあそうかも知れぬがの、もしかしてということもあるじゃろうし』

 豪壮な角笛が鳴り響いてきた。澄んだ春空の下、煙花火が天高く続けざまに上がる。
 カチャは話を断ち切って背筋を伸ばし、音がする方に駆けて行く。
 ――今日は彼女の結婚式である。



●観覧席の人々



 タホ郷に招待を受けやってきた近隣部族の列席者は、鳴り物入りの賑わいに早くも圧倒されている。

「これはまた随分な人手ですな」

「なんでもよその土地からも客を呼んでいるということですじゃ」

「しかし物々しいですなあ。式場というよりまるで戦場のようで」

「タホ族の結婚式はいつもこうですじゃ」

 郷の周囲には悪鬼や猛獣を象った上りが乱立し、槍がずらりと掲げてある。
 中に入ってみれば成人男女が手に手に武器を持ち、うずうずした様子で式の始まりを待ち受けている。





 殺気走った空気がみなぎる場を見回したジュアンは、アレックスに尋ねた。

「えーと……今から部族間闘争でも始まるの?」

 アレックスはちょいと肩をすくめ、答える。

「大丈夫、始まるのは結婚式だ」

「本当-? そんな雰囲気全然ないんだけど」

「タホ族のはよそで行われる結婚式と、一味も二味も違うからなー。まずバージンロードがない。誓いの言葉も指輪交換も誓いの口づけもない。三々九度もキャンドルサービスも仲人の長演説もブーケトスもない」

「ちょっと待って。それじゃあ一体何をするわけ?」

「花婿狩りだ」

「……狩るの?」

「そう」

 近くにいた八橋杏子が笑う。

「そりゃもう壮絶よー。一見の価値絶対ありね。とりあえず私、行って来るわ」

 そして観覧席を後にする。
 アレックスもジュアンにこう言った。苦笑しながら。

「じゃ、俺も行って来る」




「『――こうして花婿に花嫁を守り切る力があるかどうか試すのだ。恐らく略奪婚が行われていた名残であろう。昔々は死者が出ることも珍しくなかったそうだ。しかし時下り開化した現在は、さすがにそこまで苛烈にはやらないらしい。ドクターストップも認められている。万一の時のため、救護所も控えている。花婿は日が昇ってから日没までの間、花嫁を同伴してタホ郷の領内を逃げまくる。領内には危険が一杯だ。険しい山、断崖、激流、桁外れに強い野生動物、そしてたまに出る歪虚――。恐らくはこの厳しい自然環境が、彼らの部族的性格を形作ったのだろう。式は一日では終わらず数日続くこともあるそうだ。もし花婿に矢を当てることが出来たら次に結婚が出来るというジンクスもあるので、追っ手も結構本気である――』だってさ、マリーお姉さん」

「部族ぐるみでどうかしてるとしか思えないわね」

 「辺境の奇祭2」を手にしたナルシスとマリーがそんな会話を交わしていた時、ケチャ・タホの凛とした声が、集会所前の広場に響き渡った。

「本日式を挙げる花嫁花婿、出でませい!」

 5組の花嫁花婿が出てきた。
 花嫁さんは皆きらびやかにして動きにくそうな衣装を身につけている。花婿はその逆。簡素にして動きやすい衣装。そして、盾と斧を持っている。式の間彼らが身につけることが出来る武器はそれだけだ。
 後は根性で乗り切るしかない。



●当事者と参加者



 広場に出てきた花婿組の1人であるカチャは、うっと息を詰まらせた。
 リハーサルの時に比べて明らかに狩り手が多い。郷の者でない人間が交じっている。
 しかも何やらハンターのような、いいや確実にハンターである人間が少なくとも2名混じっている。

「前回は見るだけだったからね。今回は参加させてもらうわ」

 杏子と。

「ま、あれだ。後見人としてお前の新しい門出に、何もしないわけにはいかなくてな」

 そしてアレックスだ。
 彼女は進行係である母親に、声を潜めて聞いた。

「お母さん、プロの方が何名か交じっているみたいなんですがあれは一体」

「依頼を出してみたのよ。狩り手として参加してくれないかって」

「どうしてそういうことをするんですか……!……難易度がだだ上がりするじゃないですか……!」

「リハーサル以上のことをしなくちゃ、本番の意味がないでしょう? 無駄口叩くのは止めて集中しなさい」

 そう言うが早いかケチャは、手にした銅鑼を力いっぱい叩いた。

「始めえーい!」

 興奮気味にぴょんぴょん跳びはねていたぴょこが、景気づけのぴょこられぱんちを宙に放つ。

『むほ。戦じゃ戦じゃ! 戦いじゃ! 血沸き肉躍るのう、のう!』

 七色に輝く光弾が天に昇り、爆発した。
 アレックスと杏子がほぼ同時に剣を抜き、地を蹴る。狙うのはもちろんカチャだ。


リプレイ本文

●いざ、結婚式へ。



 部族外の人間を部族に迎え入れる際は、迎え入れる側の人間が有する刺青と同じものを、対になる場所に入れなければならない。それがタホ族の決まり。
 そんなわけでカチャは、リナリス・リーカノア(ka5126)に刺青を入れている。場所は彼女の左手の甲。形は自分のものと同じ、渦を巻いた蛇の文様。
 深夜、静寂の中。2人だけの儀式。
 カチャは、どうにも落ち着かない。針を刺すたびリナリスが、鼻にかかった声を上げるので。

「あっ、い……」

 つい手を止め相手の顔を見る。
 すると潤んだ瞳で見返され、こう言われるのだ。

「もっと」

 ……ますます落ち着かなくなったカチャは、「あー」とあいまいな声を発した。蒸留酒を染み込ませた布で、リナリスの手を拭いた。

「痛いでしょ?」

「うん、ちょっと。でもそれ以上に気持ちいいかな?」

「またそういう危ないことを言う」

「だって本当だもん♪ さあ、続けて」

「言っておきますけど、明日の方が痛くなりますからね。少なくとも私のときはそうでした」

「あ、そうなんだ。カチャ、そのとき泣いた?」

「そりゃあ泣きましたよ。これを入れたとき、私まだ小さかったですもん。母さんは遠慮無しにグサグサ刺してくるし――馴染むのに数日かかりますから、その間はちゃんと布でくるんで、清潔にしておかないと。膿むといけませんから」

「えー、じゃあ結婚式の初日はお披露目出来ないんだー。残念。あ、そういえばカチャ、今年の春結婚するの、あたしたち含めて5組だったね?」

「ええ、そうです」

「確か前には、もっと多いように言ってなかったっけ?」

「あー、他の方は夏にずれたんですよ。怠惰王との戦いに参加して、負傷されて……」







 ここはジェオルジ、コボちゃんハウス。
 屋根に上って歌の練習をしていたコボちゃんは、ふと空き缶三味線を奏でる手を止めた。顔見知りの人間――マリィア・バルデス(ka5848)が近づいてくるのが見えたのだ。
 屋根から跳び下り駆けていく。

「ううう、わし、わし!」

 普段はコボちゃんこんなに人間に愛想よくないのだが、本日はオフィス休業。ジュアンもマリーもどこかに行っているとあって、ちょっと人恋しくなっているのだ。

「おひわし、おひわし、まりい!」

 トイプードルの大きさとトイプードルの外見をしたコボルドを、マリィアは軽く抱き上げた。

「コボちゃん、カチャたちが部族で結婚式をして、1週間くらい食べ放題を開催するらしいわ。一緒に行ってみない?」

 その話、実はコボちゃんにとって寝耳に水。
 ジュアンとアレックスが『けこん』するというのは知っていたし、カチャとリナリスがそうするというのも知っていた。前者の席にごちそうが出ると言うのも知っていた。
 だが、後者についてもそうなのだとは、全く知らなかった。
 なんかコボちゃん面白くない気分である。
 マリィアが続けてこんなことを言い出したので、ますます面白くない。

「ジュアンとマリーも行ってるそうよ?」

 さてはあいつら自分たちだけで、こっそりごちそうを食べに行ったのか。
 そんなふうに解釈し、吠える。

「ゆく! コボもいっしょ、ゆく!」

 マリィアはにっこりほほ笑み、コボちゃんを下ろした。

「そう。じゃあ行きましょう」

 対しコボちゃんはこう言う。

「まて。じゅんび」

 コボちゃんハウスに入って鏡の前に立ち、犬用ブラシで毛をとかす。
 タライに水を汲んできて、犬用歯ブラシで歯磨きする。
 次いで小さなクローゼットを開け新しいジャケットを取り出し、ネクタイを締める。
 シルクハットを羽ぼうきでさっさと払い、最後に白いカバンを肩にかけ、おしまい。
 念の入った身だしなみぶりにマリィアは、感心するやらおかしいやら。

(あら、まあ、随分なおしゃれさんね)

「では、ゆく」

 家から出てきたコボちゃんと手を繋ぎ、歩調を揃えて歩きだす。

「おいしいものがたくさんあるといいわね、コボちゃん」

「ある! にく、ある! にく!」







 タホ郷から来た招待状を熟読したディーナ・フェルミ(ka5843)は、ガッツポーズを取った。

「……食べ放題なの? やったの私の胃袋が火を噴くの~!」

 直後口元からつうとよだれが流れ落ちるのを感じ、慌てて拭う。キリっと表情を引き締める。

「……じゃなくて。ん、ん、コホン。カチャさんとリナリスさんの結婚式なの、街で披露宴するためにもここはエクラの司祭として是非見ておかなきゃなの」

 膳は急げ。もとい善は急げのことわざ通り、早速タホ郷へ向かうディーナ。
 その途中で偶然、旅する吟遊詩人ユメリア(ka7010)に行き会った。
 聖導士同士。見知らぬ仲でないこともあったのでディーナは、彼女も結婚式に誘ってみる。

「――ということなの。よかったらユメリアさん、一緒にタホ郷へ行こうなの」

「それは……よいのですか? 私は招待を受けてはいないのですが……」

「いいのいいの。タホ郷ではそういうこと誰も気にしないの。飛び入り参加大歓迎なの」

「そうですか。それでは私も行きましょう。喜ばしい日となりますよう、心より祝福しましょう」



●結婚式



 ユニゾン島。外部者宿泊所。
 レイア・アローネ(ka4082)は、人間のワーカー職員と会話をしている。

「マゴイが今どこにいるか分かるか? ちょっと会って、話したいことがあるのだが」

「マゴイさんですか? えーと、確かこの時間は工業地区にて巡回視察をしているはずですが……」

 そこに後ろから声がかかった。

「おや、レイアさんではないですか。奇遇ですね」

 振り向いてみれば、ニケ・グリーク。

「ああ、ニケか。奇遇だな。お前もユニゾンに来ていたのか」

「ええ。マゴイさんに商売の件で話がありまして。あなたはどうしてここに?」

 その質問に対してレイアは、カチャとリナリスの結婚式にマゴイを誘いたいのだという旨を話した。
 ニケは首を傾げる。

「ペリニョン村のぴょこ様が同じことを言って、断られたと聞きましたが」

「ああ。知っている。だがまあ、ダメもとでもう一度と思ってな」

「何故そこまで彼女を結婚式に連れ出したいのですか? 是非にとカチャさんたちから頼まれているわけではないのでしょう?」


「この世界の一般常識について、受け入れはしないまでも、慣れることは必要だと思ってな。家族に関するものはどこにでも満ち溢れている。いちいち拒否感情を示していたらキリがなかろう? 現存する国すべてがユニオン化するなら話は別だが、そんなことはあり得んしな」

「まあ、そうでしょうね。エバーグリーンにおいてさえユニオンは、特殊な国だと見られていたようですから」

 彼女らがそんな会話を交わしているところへ、ばたばたと忙しい足音。第三の人物がロビーに入ってくる。

「あの、すいません、皆さんこの島の人? マゴイさんどこにいるか知ってるかなあ? 会いたいんだけど……」

 それは、宵待 サクラ(ka5561)だった。







 工業地区。
 マゴイは集まっているコボルド・ワーカーたちに噛んで含めるように話しかける。

『……もうお昼の時間になるので……それはおやつの時間に食べるように……ご飯とおやつの後は……?』

「「はみがーき!」」

『……そう……よく出来ました……とてもよい……』

 コボルドたちはびびびび尻尾を振った。まずマゴイに。それから、犬用カリカリ大袋をくれたルベーノ・バルバライン(ka6752)に。

「カリカリあいあとー」「うまうまー」「うべーの、あとで、みやげやる」「くだものやるー」

「そうか、ありがとうな」

 ルベーノの返答を受けコボルドたちは、さらに尻尾を振った。

「またあーとでー」「あとでー」

 マゴイは自分の手の中にある白い貝殻のブレスレット――ルベーノが土産に持ってきた物だ――を眺めた。
 それから意を決したように、ルベーノへ話しかける。

『……ルベーノ……あなたはいつも……ワーカーにとてもよくしてくれる……私はそのことにたいへん感謝している……ので……どうかしら……よければ正式な市民になってはくれないかしら……そうすればワーカーたちはとても喜ぶと思う……』

 少し間を置いてから、こう付け加える。

『……私もうれしく思う……』

 ルベーノは、じっと彼女を見返した。
 端正な細面、同様にほっそりした体つき。自分が彼女に好意をもっていると自覚したのは、いつからだったろう。
 そう思いながら、首を振る。

「すまんが、それは出来ん。俺はこの島一つに止まれん――戦いを求めずにはいられない性分だからな」

『…………そう…………』

 しょんぼりしたマゴイの姿を見るにルベーノは、前言を撤回したくなった。猛烈に。
 だけど、そうしなかった。彼女と自分の間に、どうしても相いれない部分があることを自覚していたから。
 
「お前達はウテルスの遺伝情報で人口を増やし、俺達は女を妻としお前が忌む方法で子孫を増やす。生殖方法が既に別種の如く違うのだ。俺がお前を愛しく思おうが、俺とお前はこの先に進めん。それに……お前が望まんことをする気もない」

 そこで近くにあったウォッチャーが、声を発した。

【マゴイ、面会希望者が、外部者宿泊場に来ています――】







●結婚式カウントダウン



 酒樽と塩漬け肉を山ほど積んだ大きな大八車。引くのはフィロ(ka6966)。押すのは星野 ハナ(ka5852)。
 険しい山道を踏破してタホ郷に辿り付いた彼女らが、まず真っ先に目にするのは、目をむき牙をむく悪鬼や猛獣が描かれた物々しき上り旗。
 
「うっわー、まごうことなく奇祭ですぅ。何でカチャさんが婿なのか分かりませんけどぉ。こういう場合、W花嫁じゃないですぅ?」

「恐らく迎え入れる側が婿、ということになっているのではないかと思います。式の構成から考えて、花嫁同士ということになると進行に差し障りが出てきそうですし」

 という会話を交わしつつ郷に入ったフィロたちは、リナリスの母イメルサ・ファルズール(ka6259)が、カチャとその母親に深々頭を下げている場面に出くわす。
 娘の晴れの日だからということなのだろう、彼女はあでやかなドレスで正装していた。傍にはリボンで飾られたエクスシアパーツC・Dが、でんと据え置かれている。

「初めましてカチャさん。娘をよろしくお願いします。正式なご挨拶が遅れてしまいましてすみません」

「あ、いいえ、そんな、こちらこそ、正式なご挨拶が遅れまして申し訳ありません。大事なお嬢さんをいただきますのに」

 カチャの傍にいるリナリスが、おどけた調子で言った。

「もー、カチャもママもそんな堅苦しくしなくてもいいじゃない。前から分かってたことなんだからさあ」

 イメルサはそんな娘の鼻先を弾く。

「未だにおねしょの治らない、至らない娘ですが、遠慮なくしつけてやって下さい。因みに膝の上でお尻を叩くのが一番効果的です」

 それからケチャに顔を向ける。

「ご挨拶が遅れまして誠に済みません。……カチャさんは立派なお嬢様ですね」

「さあ。どうかしらねえ。なにしろ調子に乗りやすいから。お宅のお嬢さんの方が、しっかりしてるほうだと思いますよ」

「いえいえ、ご謙遜なさらず。うちのリナリス、どうぞびしびしと鍛えてやって下さい。とても我慢強い娘ですから……そうそう、こちらの祝いの品をお持ちしましたのでお納め下さい。少々かさばりますのがなんですけれども」

 フィロは二組の親子に近づいた。そして、一礼した。

「カチャ様とリナリス様の結婚式……メイドとして精一杯勤めさせていただきます」

 場の空気に影響され万感胸に迫ったか、その目元が、ほんのり赤らんでいた。

「1週間も続く宴……私のメイドスキルが天元突破してしまうかもしれません。ありがとうございます、カチャ様」







 郷の広場。
 メイム(ka2290)は、エルバッハ・リオン(ka2434)と手に手を取り合い、キャッキャと盛り上がっている。

「いよいよだね」

「ええ、いよいよですね」

「楽しみだねー」

「ええ、とっても楽しみです」

 その姿を塀の陰から盗み見するマルカ・アニチキン(ka2542)は、遺影のごとく抱えているジルボのポートレイトに語りかけた。

「災厄を止めることはもはや不可能……ならば私はデスメタル・ハーモニーに色彩を添えることといたします……それがこの拙い身に出来る唯一のことだから……」

 ちなみに彼女、御祝儀としてエンジェル金貨をカチャたちに渡している。義理堅く有難い行いである。






 郷、集会所厨房。
 片腕に包帯を巻いた天竜寺 詩(ka0396)が卵を割ろうとしたところに、天竜寺 舞(ka0377)がずいと割り込んだ。

「怪我してんだしあんたは指示だけしな。作るだけならあたしも出来るから」

 詩は苦笑し、包帯を巻いた腕を押さえる。

「そうだね。料理に何かあったら困るし、お願いするよ。じゃあ、卵割ってくれる?」

「よしきた」

 舞は大量の卵を手際よく割っていく。卵白と卵黄に分けながら。
 場には彼女のほかに、エプロンをつけたマリーとジュアン、マルコがいる(寄港先での船乗りとしての後学のためという口実で、詩たちから呼ばれたのだ)。
 てきぱきと動く舞の姿に、ジュアンはとても意外そう。

「料理に慣れてるんだね」

「うち、厳しい家だったからね。一通りは仕込まれたんだよ。ま、詩程じゃないけどね。あ、そうそう。ジュアンさんの式ではコボと歌うから期待しててよ」

 詩は、舞の次に彼らへ指示を出した。

「ええと、それじゃマリーさんはフルーツを切ってくれる? ジュアンさんは卵白のホダテをお願い。マルコくんは卵黄と砂糖を混ぜて。量が多いから大変だけど頑張って」

 場があわただしくなった。
 詩は邪魔にならぬよう隅に座り、様々な色のマジパンを小さく千切り形を作っていく。
 マルコが泡立て器をボールの壁にぶつけながら、聞いた。

「何を作っているんです?」

「花嫁さんと花婿さんの人形だよ。ケーキのてっぺんに飾るの。――この間は大変だったね、マルコくん。あの後痛いところとか、ない?」

「いいえ、おかげさまで全然」

「みんなはどう?」

「相変わらずああいう調子ですよ」

 苦笑交じりの返事に、詩もやっぱり苦笑い。
 全くあの学院は一筋縄でいかない子ばかりが揃ってる。マルコもそのうちの一人だろうけど。

「でも、パウロとガリレオとはちょっと仲良くなったかも」

「あ、そうなんだ。そういえば、迎えにニケさん来てたね。何か言ってた?」

「特には――『無事でしたか』って、それだけ」

 と言ってマルコは泡立て器を持つ手をやりかえた。そしてまたかきまぜ始めた。

「……でも、あそこにあの人が来るとは思ってませんでした。俺は」

「……ふうん。きっとさ、心配してたんだよ」

 内心そわそわしながら話を続けようとする詩。
 しかし、それを邪魔する輩が。

「そりゃ心配もするよね。君が死んだら姉さん、これまで君に投資した金を回収出来なくなっちゃうんだから」

 ナルシスだ。
 詩たちの会話に水を差した後彼は、マリーのもとへ行く。

「何してんの」

「結婚式用のウェディングケーキ作るんだって。その手伝いよ」

「えー、ここのバーバリアンなやり方考えたらそんなのいらなくない?」

 舞は彼の襟首を掴み、即刻引きずり出した。

「邪魔だ、どっかで寝てろ」

 その作業を終え戻ってきたところ、詩に言われる。

「相変わらずナルシス君には厳しいなぁ」

「あいつにはあのくらいの扱いでも、もったいないくらいだよ」

 そこに聞き覚えのある声。

「フッ、私が光り輝く時が来ましたよぅ! 大人数料理どんとこいですぅ!」

「及ばずながら私もお手伝い致します!」

 ハナ、そしてフィロである。




●ユニゾン問答




 外部者宿泊所にやってきたマゴイにレイアは、自分が来た理由を説明した。そして言った。
 

「――というわけでだな、結婚式に行かないか? 私としては、出来ればそうして欲しいのだが」

 マゴイは首から耳たぶから額の生え際まで真っ赤にした。そこにあるのは羞恥であり、憤激である。

『行かない。そんないかがわしくかつ嘆かわしくかついやらしいものは見たくもない』

 珍しく早口だ。興奮のほどが伺えるというものである。

(……まあこういう感じに言って来る気はしていたが……というかイヤラシイって……割とムッツリっぽい表現じゃないか?)

 ひそかにそう思ったが、口にはしないでおくレイア。
 なんでマゴイがそういう反応を示したのか、門外漢のサクラにはさっぱり分からない。
 なのでとりあえずそこは流し、自分が聞きたいことを聞く。

「えーっとね、マゴイさんに市民になる条件について相談に来たんだ。ここが縁が深いのは同盟だよね?」

『……そうね……目下ユニゾンと交流しているのは……同盟に属する公的団体並びに……私的営利団体……なので……そう表現して間違いではない……』

「……ここで市民になったら、すぐにでもマゴイになれそうなくらい交渉や知識に優れた人が、冤罪で殺されるかもしれなくて。王国の、貴族階級なんだけど。冤罪なのは間違いなくて。もしその人が、亡命したい、真摯にここの市民になりたいって言ったら。市民に、してもらえるかな?」

『……それはもちろん……真摯に市民になりたいというのなら……適性検査と……共同体訓練を経てから……市民になることが可能……』

「市民になった後、王国が圧力をかけて来ても、守って貰えるかな。私がソルジャー向きなのと同じくらい、絶対――」

 そこでニケが、横から話をもぎ取った。

「ちょっと待ってください。サクラさんとおっしゃいましたね。ユニゾンは確かに同盟内にあり、同盟と縁が深いですが、正式に同盟には属していませんよ。まだ都市国家の一員として、公式に認められていないんです。そんな場所を亡命先とするのは、いかにも不適当だと思いますがね」

 大事な取引相手としてユニゾンを見ている彼女は、そこが他国との問題を抱えることを極力回避させたかった。
 王国、冤罪、貴族。そんな三拍子揃った危険物うかうか引き取らせるものか。

「あなたが言っている人がどこの誰だかは追求しませんが、その人は本当に、ここに亡命したがっているんですか? 単に、あなたの思い込みなのではありませんか?」

 マゴイが不服そうに眉をひそめた。

『……ニケ……人の話が終わっていないときは……割り込んではいけない……それはよくない……』

「ああ、申し訳ありませんマゴイさん。話を続けてください」

 ニケは素直にわびる。
 それを受けてマゴイは仕切り直した。

『……とりあえず……』

 もたもたロビーのカウンターまで歩いて行き、ユニゾン広報パンフレットを一部取ってきて、サクラに渡す。

『……どうぞこれをお持ち帰りなさい……市民登録申請の仕方も書いてあるので……とても便利よ……』

 あれを読んだらその亡命志願者とやら、絶対申請してこないとレイアは思った。
 何しろパンフレットにはユニオンの理念解説――私的所有の禁止、家族制度の否定、胎外生殖等々――が赤裸々につづられているのだから。






●結婚式、スタート。



 マリィアはコボちゃんを肩車して、郷の広場を歩いている。

「まだ始まってなかったのはよかったけど、予想以上にこんでるわねー」

「わし」

 ぽん、ぽんと煙花火が上がる。
 側を通り過ぎて行くのは武装した郷の男女。

「私も結婚したいからな、絶対婿に当てるんだ!」

「今年は婿の数が多いから、当たる確率も上がってるはずだな」

「そういえば今日の式に出るタンゲさんとコユキさん、去年合わせて27本も花婿に当てたのよね」

「その後すぐだったな、話がまとまったの」

「あー、うちらも早く矢を当てて、次の花嫁になりたーい」


 ……何の話?
 いぶかしんだマリィアは、彼らを捕まえ聞いてみた。
 そして婿狩りのジンクスを知った。

「……え、結婚? え……」

 キアーラ石のミサンガを眺めること数秒。決断が下される。

「………参加することにするわ」

 本気でやると死者が出かねないので、そのへんにいた子供から小さなおもちゃの弓を借りる。あめ玉と引き換えに。

「ごめんねコボちゃん、ちょっと参加してくるから」

 ちなみにおもちゃといっても、小鳥を撃ち落とせるくらいには実用的な弓である。





 頭に『必勝!』のハチマキを締めたルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、郷の人々とともに所定の位置につく。

「ルンルン忍法と愛の矢を駆使して、狩り手になって結婚式を盛り上げ、お祝いしちゃうんだからっ!」

 その手に握られているのは、弓。
 矢筒がぱんぱんになるほど詰められた大量の矢には、もれなく紅白の水引が結び付けられている。今日この日のめでたさを示す心憎い演出だ。

「リハーサルでは逃したけど、今度こそ矢を当てて、ジンクスの素敵な効果を手に入れちゃうのです!! 目指せ、一人に対して矢を1回ヒットなんだからっ……そうすれば、結婚の確率も5倍なのです」

 その前に相手を見つけなければということに気づかぬまま、目をキラキラさせるルンルン。
 そこへメイムが寄ってきた。

「やっほ。ルンルンさんも狩りに参加するの?」

「はい。もちろん! メイムさんもジンクス狙いですか?」

「ううん、違う。あたしのは単なる賑やかし♪」

 と言いつつ彼女が手にしているのは、魔導機械『スピリットシューター』。
 ルンルンとは別の意味で、えもいわれぬ本気を感じる。





 舞は、煮込んだ鯛の形が崩れないよう注意しながら、盛った素麺へそうっと乗せる。
 周囲を飾るのは錦糸卵に細切り椎茸の付け合わせ、葱や生姜の薬味。
 マリーは不思議そうにそれを眺め、詩に尋ねた。

「これは……何?」

「日本のお祝い料理だよ。よければマリーさんも覚えて帰ってね。煮汁は捨てちゃだめ。布巾で漉して、素麺の漬け汁にするんだよ」

 屋外ではフィロとハナが大奮闘中。
 開きになった猪をぶっとい金串へ豪快に突き刺し、石積み竈でじりじり炙る。
 脂っぽい匂いが、たまらないほど食欲をそそる。

「部族の嫁龍園の嫁を目指してますからぁ、こういうのは興味あるんですぅ。惚れてくれても良いですよぅ」

 さりげなく女子力アピールするハナだが、周囲に集まってくるのは、じいちゃんばあちゃんおっちゃんおばちゃん子供たちばっかり――若者は総じて花婿狩りに参加しているのだ。
 ディーナは持参してきた串物を竈の隅で勝手に炙り、ガッツガッツとかっ食らう。

「あちちち……ほいしいの。やっぱり雛鳥は炙りたてに限るの。ユメリアさんもどうぞなの」

「はい、それではいただきます」

 そこに、銅鑼の音。

「ハッ! 始まるの! 急がないと見逃すの!」

 ディーナは串を口に咥えたまま、大急ぎで広場に向かう。
 ユメリアもそちらに向かう。
 フィロは積まれた肉の量を勘定し、思案顔。

「どうも足りなくなりそうですね……今のうちに狩りに行ってきましょうか」








「始めえーい!」

 の声と同時に襲い来るアレックスと杏子。

「カチャさん、お二人の幸せのために頑張ってくださーい!」

 リオンの応援を背にしリナリスを抱き上げたカチャは、早速駆け出した。
 その背にメイムが一声。

「カチャさーん、郷に来る前リゼリオの古道具屋で純銀の錫杖が6万Gで並んでたよ。もう売れちゃったかもー♪」

「え」

 一瞬カチャの足が止まった。
 そこにメイムが、立て続けに矢を飛ばす。進路妨害だ。

「なにすんですかメイムさん!」

「約束通りスキルは使ってないよー? これは5連射できるボウガンでね♪」

 たちまち追いつく杏子とアレックス。
 カチャは盾でアレックスの剣を弾いた。体を反転させ杏子の剣を避けた。
 そこにまた矢。
 今度はメイムではない。マリィアである。
 トリビュテーションを使った攻撃が、花婿たちにまんべんなく襲いかかった。
 カチャ含む花婿3名は行動阻害ですんだが、残り2名は完全命中する。

「あいたあっ!」

「てっ」

 そこでピーッと笛が鳴った。
 黄色い札をひらめかしたケチャが、射線に割って入る。

「そこの人、スキルは使用禁止!」

「え、そうなの?」

「そりゃそうよ、そうじゃなきゃ、ハンターだけに有利になっちゃうでしょう? 身ひとつで逃げて身ひとつで追いかける、が決まりなの。ということで今の命中はカウントに含まれないから。ここからはスキル抜きで当ててね」

 そのやり取りの間に、今度はルンルンが撃った。

「ご結婚、おめでとうございます!!」

 乱れ飛んでくる紅白のおめでたき矢が、カチャの背中に当たる。
 間髪入れずメイムがいった。
 今度胴に命中だ。
 ちなみに追う側も追われる側もスキル使用禁止のルールは、回復魔法にも適用される。
 というわけで、今日の狩りが終わるまでカチャは自己回復が出来ない。ドクターストップが出ない限り、痛みに耐えて頑張るだけだ。
 矢が刺さったままアレックスの刃を避け足をなぎ払う。
 アレックスは後方に跳んで避ける。
 その隙をついて杏子がカチャの背中から切りかかる。
 刃の軌道がそれた。リナリスがウィンドガストを使ったのだ。
 それに気づいたカチャは注意する。

「リナリスさん、駄目ですよスキル使っちゃあ! ズルになっちゃいますから!」

「えー、だってぇ、守ってもらうだけなんて性に合わないだもん♪」

 口を尖らせリナリスは、カチャの胴に手を回した。花嫁衣装の下に隠していたアンカーを遠方の木に打ち込み、カチャもろとも太枝に移動する。
 そして彼女の額に自分の額をこつんと合わせる。

「これならスキルじゃないからいいよね? ごめん、真剣勝負邪魔するつもりじゃなかったんだ」

「……いえ、まあ、別に怒っちゃいないですけど」

 背景に淡い桃色のハート型がわいて出た。
 愛の力か。
 いや違う。マルカがスパシーバを使い雰囲気を盛り上げているのだ。
 そこにまたケチャの笛。黄色札。

「スキル使用禁止!」

「ええっ、これも駄目なんですか!?」

 そこにメイムとルンルン、マリィア、杏子とアレックス、それに郷の衆が襲ってくる。

「邪神戦争が終わったら、私だってプロポーズするんだからっ! さっさと当たりなさい、カチャっ!」

 落とすべき目標が一番はっきりしているのは、マリィアであるようだ。
 カチャとリナリスは他の花嫁花婿と共に再び逃走を始める。

「ねえカチャ、ところで、なんで錫売っちゃったの?」

「いやその……指輪買おうと思いまして……あなたに」

 魔導カメラと串焼きを手にそれを追うディーナ。

「みんな早いのー!」

 そしてイメルサ。

「いいわリナリス、いいわその表情!」

 さらにはマルカ。

「ああっ、手ブレ防止機能がほしい!」





 双眼鏡を手にしたナルシスは、オペラグラスを持ったコボちゃんに言う。

「おー、こわ。みんな野蛮だよねえ」

「わし」

「こんなことして何が楽しいんだか、僕全然わかんないや」

「わしし」

 そこに舞の怒鳴り声。

「おいナルシス! 手伝え!」

「何でだよ、さっき寝てろって言ったじゃん!」

「出来た料理を宴席に並べるくらいならやれるだろ! だったらやれ!」




●プリズム



 ユニゾン島が夜になった。
 レイアはマゴイを結婚式に呼ぶことを、まだ諦めていない。
 せっかくここまで来たのだ。収穫なしで帰るのはいかにも馬鹿馬鹿しいではないか。

「関係者に事前に聞いたところ、タホ郷の結婚式は、世間一般にある結婚式とは全然違うものであるそうだ。だから、見て不愉快になることも少ないはず――という感じにもって行けばいいんじゃないだろうかと思うのだが、どうだろう」

 とソルジャーたちに相談する。
 ジグはううんと唸って、こう提案してきた。

「同性婚って所も強調してみたらどうだ? 女同士なんだから子供は生まれない、従って母親になることもないってことなら、そんなに抵抗ないんじゃないかな? なあ?」

 話を振られたアスカは、顎に手を当て考える。

「そもそも誰かの1人のものになるっていう時点でアウトなんでしょ、ユニオンの道徳的には。だったら、組み合わせが異性だろうが同性だろうが、抵抗感一緒じゃない?」

 今一つこれはという案がまとまらなかったが、とりあえずレイアは、再度マゴイを説得してみることにした。

「どこにいるんだ?」

「さあー。この時間だと仕事も終わってるはずだから……」

「就寝までにはまだ間があるからね。どこかをうろうろしてるとは思うんだけど」




 ルベーノは水路の柵に寄りかかり、黙然と川面を眺めていた。
 しらじらした街灯の明かりに照らされた四角い町並みは、しいんと静まり返っている。
 ……歌声が聞こえてきた。

 ユニオン、ユニオン、いいところ……

 マゴイが歩いてくる。
 初めてこの島に来たときも、ちょうどこんな感じだったなとルベーノは思った。
 ただ今とその時とでは大きな違いがある。
 服装だ。彼女は制服ではなく私服を着ている。市民のためのインフラ整備がひと段落して、休みがとれるようになったから。
 夏向きの白いドレス。
 胸元に白梅の花を模したブローチ。白いレースのリボンが付いたつばの広い帽子、白いスカーフ。
 
『……あら……ルベーノ……宿泊所に戻ったのではなかったの……』

 ルベーノは、改めて自分が相手を愛しく思っているのだと自覚した。

「ああ……お前に少し話があってな。探していたのだ」

『……何かしら?……』

「μ、俺の遺伝子情報を、ウテルスに登録してみんか」

 マゴイはうっすら口を開いた。
 ルベーノは彼女の瞳を、食い入るようにのぞき込んだ。
 この提案が受け入れられるかどうか危惧するあまり、早口になる。

「俺はこの邪神戦争で死ぬかもしれん、そうでなくてもあと十数年すれば死ぬ。お前は英霊でこれから長く生きる。今の俺では相容れんが、最初からそういうものだと育った俺なら、素直にこの地を、お前を守るソルジャーになるかもしれん」

 マゴイの顔が徐々に赤みを増してきた。双眸もまた潤み、輝く。
 彼女は喜んでいた。とても喜んでいた。
 その感情を表す語彙は、もちろんただ一つしかない。

『……市民! ああ、市民……!』

 抱き着いてくる体の重みをルベーノは、しかと感じ取った。

『……それは、とてもよい……とてもうれしいわ、市民……!』

 そして抱き返す。新しい関係が始まるのを予感しながら。








 マゴイを探していたレイアたちの足が止まる。

「な、なんだ!?」

 町全体の照明が突如色づいたのだ。赤、青、緑、まるでプリズム。
 1分ほど続いたその現象は波のように繰り返しながら徐々に弱まり、白に収束し、収まった。

「なんだったんだ……?」

 とジグ。
 アスカがレイアの背を突いた。

「いた。あそこ」

 と親指で指し示された方に顔を向ければ、水路の側にマゴイとルベーノがいるのが見えた。
 何があったか知らないがマゴイは、喜びで気もそぞろなように見えた。マテリアル炉が完成した時のように――いや、もっともっと、それ以上に。
 この分ならうまく持ちかければ、あるいは話を聞いてくれるかも。
 期待しながら近づく。

「マゴイ、話があるのだが」




●狩り、前半終了。




「皆、お疲れさまー。さあどうぞ」

 と言って詩は、試合終了して戻ってきた花嫁と花嫁たちに、自信作であるウェディングケーキを勧めた。
 しっとり焼いた大中小三段重ねのスポンジを彩るのは純白の生クリーム。薔薇の形に絞り出したデコレーションには苺など季節のフルーツが山盛り。
 天辺には5組の花嫁花婿人形。そしてトイプードルのぬいぐる……

「あっこらコボちゃん! つまみ食いしちゃだめ!」

「わふし」

 何ともすてきな贈り物だが、花婿たちはそれを楽しむ暇がない。満身創痍過ぎてそのまま救護所に直行だ。
 狩り手側にはアレックスと杏子のみならずマリィア、ルンルン、メイムといった名うてのハンターが参加しているのである。それに対して婿側のハンターは、カチャ1人。スキル使用を制限されていたところで、勝ち目のあろうはずがない。
 ディーナが彼らの回復に鋭意努めている間ユメリアは、花嫁たちの様子を見に行ってみた。
 彼女たちはケーキを肴に酒を飲み、愚痴をこぼしている。

「もー、スシヲったら一番多く矢を食らっちゃってさ、不甲斐ないったらありゃしないよ!」

「今年は勢子も猛者揃いだからねえ」

「確かに。これだけ部族外から人が集まってきたことは、これまでにないんじゃないかね」

「私が前の旦那と式をしたときとは、比べものにならないよ。これで最後まで持つだろうかねぇ……私もそうだけどあの人も、もうそんなに若くはないし」

 そこでリナリスがこんなことを言い出した。

「ねえ、この際あたしたちも、花婿と共闘してみたらどうかな?」
 ほかの花嫁たちはその提案に驚く。

「いや、それはまずいんじゃない?」

「まずい? どうして?」

「なんでって、花婿が花嫁の力を借りたら、なんだか格好つかないじゃない」

「だって、今回の勢子の多さ自体これまで例がないことなんでしょ? それなのに花婿側だけこれまで通りにやれっていうのおかしくない? そもそも花嫁が守られてるだけってのも時代にあってなくない?」

 ユメリアは一つ息を吸い、即興の詩を諳んじる。花婿の奮闘振りを伝えようと。


 花嫁を迎えし花婿は
 彼女らを花のように思う
 風に千切られず
 雨に打たれぬよう
 壁となり盾となりて守らん
 刃を受けようと矢を浴びようと
 心は変わらじ
 その誠は巌のよう
 硬くありても鋼のように
 錆び付くことの絶えてなし



 その美しい歌声は、花嫁たちの心を和ませた。
 歌を終えたユメリアは、彼女らに歩み寄る。

「ご安心ください、花婿さんたちはすっかり回復しました。どうぞ一緒に来てください。あなたがたの励ましが、何よりの力ですから」

 誰からということもなく、花嫁たちが立ち上がる。
 







 バオオオオオ!

 3メートルはあろうかと言う巨大な熊が突進してくる。
 フィロの正拳突きが眉間の間へ正確にヒット。
 地響きを上げ倒れる巨体。

「漲るメイド力……これが、伝説の」

 フィロは、白い息をコーホーと吐いた。別に寒くもなかったのだが。
 片目を赤く光らせ周囲を見回す。
 そこには今倒したものと遜色ない大きさの熊が、累々と倒れていた。

「……少し狩り過ぎましたかしら……いえ、このくらいでちょうどいいくらいですわね。お客様もたくさんおられますから」









 カチャは花婿仲間に提案した。差し入れの鯛麺をすすりながら。

「共闘しませんか? 敵が多すぎます。1人1人バラバラで動いてたら、今日みたいに各個撃破されるだけです」

「いいね、それ! 皆一緒に戦おうよ」

「そうだな、そうしてもいいかもしれん」

「今年のハンター率の高さは異常だからな。腕に覚えがない者はここにおらんが、それでも正直しんどい」

「待て、それは式の趣旨に反するんじゃないか? 1人で切り抜ける力こそが試されてこその結婚式。いざ事が起きて嫁を守らなければならなくなったとき、協力者がいる保証はあるのか?」

 そこにがやがやと嫁たちがやってくる。ユメリアを伴って。
 リナリスがカチャの傍に腰掛けた。

「ねーカチャ、明日あたしたちも、カチャたちと共闘したいんだけどいいかな?」

「ええっ? いや、それは……駄目なんじゃないでしょうか」

「どうして?」

「だって、花婿が戦うのがルールですもん」

「だってルール通りにしてたら、最後までやられっぱなしじゃん。勝ちたいんだよあたしたちも」

 そこで一番年かさの花婿が、激しい難色を示した。

「いかんいかん、花嫁の力を借りて戦うなど……情けない限りではないか」

 その花嫁が彼の隣に座って、言う。

「私はあんたのこと情けないなんて一度も思った事ないよ。あんたが存分に戦えるようにしたいと思ってるだけなんだ、そのための話なんだよ、これは。それでも聞いてくれないかい?」

「ム……」

 花婿はむっすり黙ってしまった。
 そこでユメリアが口を開く。

「共闘といっても、花嫁が武器を取ると言うのではありません……多勢を相手にするのなら、巧みな作戦こそが肝要です。知恵も言葉も心も『力』となり得るのです」

 彼女は花嫁花婿たちの味方である。
 リナリスが花嫁仲間にひそひそ囁いた。

「ねえ、とりあえず明日のためにさ、狩手の人にお酒がんがん飲ましちゃお。あたし、悪酔いする配合知ってるから」












 救護所から戻ってきたディーナは、鹿の丸焼きと花嫁たちが残していったウェディングケーキの三段目と二段目全部と素麺の山盛りとをぺろりと平らげ、ほぅと息をついた。

「お腹いっぱいなのもう兎一羽しか入らないの」

 人間の限界を超えたグルマンぶりを前に舞は、感嘆するやら呆れるやら。

「あんたの腹って、ブラックホールに繋がってんの?」

 マリィアとルンルンは、ご機嫌で杯を酌み交わしている。両者今日のうちに、5名の花婿全員を見事仕留めたのだ。

「あなた、なかなかいい腕してるわね」

「いえいえ、本職の猟激士さんにはかないませんよぉ。明日もまた頑張りましょうね。当てれば当てるほど結婚確率上がるらしいですから。ところでおつまみないですかね。がっつり系のがいいんですけど」

 空になった皿を見回すルンルン。
 その顔の横に、音もなくすっと差し出される生レバーの刺身。

「ルンルン様、どうぞ」

 顔を向ければフィロ。
 その唐突な登場ぶりに、ちょっとだけびくっとするルンルン。

「あ、ありがとうございますフィロさん。何の肉か分かりませんけど」

「卸したての熊の肉にございます」

「そ、そうですか」

 マリィアは先にレバ刺しをつまみ、冷えたビールをもう一杯。

「うん、おいしい。明日も参加してスコア稼いじゃおうかな。あ、ハナは当てに行かないの?」

 マリィアから話を振られたハナは、鉄板の上の肉をトングでひっくり返しつつ言った。

「んー、私は止めておきますぅ。こうもっと普遍的に殿方の好意を得る方法でないと使いづらそうですぅ……あ、その肉焼き上がるのはもうちょっと後ですぅ、待って下さいぃ」 

 そこへ花嫁たちがやってきた。リナリスを先頭にして。

「みなさーん、お疲れ様ー。あたしがスペシャルカクテルをご馳走するよ♪ まずアレックスさん、どーぞ」
 
「お、悪いな」

「どうぞ」





●狩り、後半戦。そして。




 前日とそっくり同じ手順を踏んで、狩りが始まる。

「始めーい!」

 勢子が花婿たちへ一斉に襲いかかり、一斉に落ちた。前もって掘られていた落とし穴に。
 アレックスがその中に含まれる。

「うおおおお!?」

 落とし穴自体の深さはさほどではない。せいぜい大人が腰まで入るくらいのものだ。
 だがその底に網が張ってあった。落ちた人は網の目に足を突っ込み、すぐにはい上がることが出来ない。そもそも大半が軽い二日酔いで、動きも鈍っている。

「おい、反則じゃないのかこれは!?」

 意見を聴かれたケチャはしばし考えた後、決を下した。

「スキルは使ってないから反則とまでは言い切れないわね」

 山に逃げていく花嫁花婿たち。
 罠に引っ掛からなかったのは杏子とメイム、ルンルン、それにマリィア。
 彼女らもまた山に入った。
 途端にマリィアとルンルンはつんのめりそうになった。木と木の間に低く綱が張ってあったのだ。
 一旦下がったところで足をすくわれ、吊り上げられる。
 くくり罠だ。
 続いて来た杏子がその罠を切った。
 直後頭上から落ちてくる網。
 その横をメイムが擦り抜ける。

「お先!」

 彼女は木を伝って移動することにした。地面は危ないと踏んだからだ。
 リナリスを連れて山道を駆けて行くカチャを、樹上から狙い撃ちしながら。

「略奪される? 漢をみせる?」

 と言った次の瞬間メイムは木から飛び降りた。
 直近に隠れていた花婿が切りかかってきたのだ。
 地に降りたそこに、今度は別の花婿が後ろから。

「ちょ、え、あたし集中攻撃!?」

「そりゃそうですよ! 一番強い武器持ってますし!」

 カチャは迷わずメイムの首目掛け斧を打ち込む。
 メイムは咄嗟に避けたが避け切れず。左の肩口にぐさりと刃が食い込む。

「っ!」

 ボウガンの柄で相手を突くようにして、飛びのこうとする。
 カチャは踏み出し、メイムの腰を両腕でホールドした。ちなみに彼女の背中にはボウガンの矢が複数刺さったままだ。
 
「終了まで、回復も無しですからね?」

 と言いおき近くを流れている激流に、彼女を投げ込もうとする。
 しかしメイムも負けていない。落ちる寸前足を引っかけカチャも巻き添えにした。
 あっという間に流れて行くメイムとカチャ。
 激流の先は滝である。

「カチャ!」

 リナリスはマジックフライトをかけそれを追う。
 滝の寸前でカチャの手を捕まえ、上昇。

「あー! それはんそ――」

 メイムの声は瀑布に飲まれて消えた。

「……スキル使ったら駄目だって言ったでしょ」

 軽く睨んでくるカチャにリナリスは「ごめん」と謝りそのまま上昇を続ける。喧騒にわくタホ郷が、はるかに小さくなるまで。

「助けようとかじゃなくて、急に、空中散歩したくなったんだ。そしたら偶然カチャを引っ掛けちゃったの。ほんとだよ?」









 夕暮れの中銅鑼の音が、ひときわ大きく響き渡る。

「これにて式は終了! 花嫁は花婿のものなり! 郷の者たちと共に宴に赴かんことを! 飲め、食え、騒げ!」

 わあっと歓声が起きる。
 ディーナは山と詰まれた熊肉を背後にし、がんがん火を焚きまくる。

「皆様、お疲れ様なの! どうぞ心行くまでジビエをお楽しみくださいなの!」

 カチャのもとへ、リオンがすすと近づいてきた。

「この度はご結婚おめでとうございます、カチャさん」

 そして、魔導スマホを差し出した。

「あ、記念に見せたいものがありますので、画面を開いていただけます?」

「画面開くって……どうやるんですか?」

「指で触ればいいんですよ、こういう風にですね……」
 
 といっているところにフィロがすっと小冊子『初心者でも出来るかんたん魔導スマホ術』を差し出す。

「カチャ様、これをどうぞ参照ください」

「あ、ありがとうございます」

 郷と近隣の部族民が寄ってきた。

「おお、これはなんだ。初めて見るが、『かめら』か?」

「知らんのか、これは『すまほ』というものじゃ。都会に出とる孫から聞いたことがあるぞい」

 それを見てぴょこも寄ってきた。

『なんじゃ、なんじゃ、なんぞおもしろいもんでもあるのかの』

 カチャは説明書に従い、スマホをタップする。
 そのとたん最大音量で、妖しいあえぎ声が爆発した。そして画面には、濡れ場的なカチャとリオンの画像が。
 カチャは吹いた。
 既に飲んだくれている人々は、物見高くもはばかり無く騒ぎ始める。

「ややや! これは一大事!」

「浮気じゃ浮気じゃ二股じゃ!」

「修羅場じゃ修羅場じゃ!」

 余計なことにメイムとともに、親を呼びに行く奴が出る始末。

「おーい、ケチャさんやーい! あんたんとこの娘がやらかしおったぞー!」

 マルカは、パルムともどもこんな顔をした。

 /(^o^)\

 しかしすぐ我に返り、ぴょこのボタン目に人差し指と中指を突っ込む。

『ぬお!? なんじゃ、なぜいきなり目潰しなのじゃ!?』

「みみみ見てはいけません、あれは大人向けのものなんですぅ!」

 その間にナルシスがさらっと見る。

「わーお。マリーお姉さん、すごいねこれ」

「見ちゃダメだったらナルシスくん!」

 マルコは赤くなり、大急ぎで目をそらす。
 ハナもまた目をそらす。たいして赤くなりはせずに。

「なんかこれだとあんまり功徳が積めなさそうって言いますかぁ、見るだけでお腹いっぱいって言いますかぁ」

 アレックスがカチャに耳打ちする。

「経験から言わせて貰うがな、とりあえず謝っとけ。そしたら収まるから」

 その彼にジュアンが釘を刺す。真顔で。

「え? 何言ってんのアレックス、僕だったら収めないよ? 撃つよ?」

 マリィアはその意見に同意。

「そうよね。撃つくらいするわよね」
 
 当事者のカチャはリナリスに必死で弁明する。真実身に覚えがないことなので。

「ちちち違います、これは違います! 絶対違います私こんなことしてませんから!」

 リオンがいかにも取り繕ったように言う。

「あっ、すみません。悪ふざけで作ったドッキリ画像が混じっていました」

 もう疑惑しか深まらない。

(こ、ここはなんとか私がフォローしなければっ……!)

 狼狽のあまりマルカが、景気よくワンダーフラッシュを打ち上げる。
 そのおかげでより人が集まり、場がいっそう混沌としてきた。
 そして母と義母が来た。 

「ちょっとカチャ、どういう騒ぎなのこれは」

 と詰問するケチャ。
 イメルサは画像を覗き込み、変に感心している。

「なるほど、これも『矢』なのですね」

 そこでリナリスが、急に笑いだした。リオンの鼻先を突いて。

「これ、作り物だね」

 愛する人が信じてくれたことにカチャは安堵した。
 だがその後が悪かった。

「だってカチャ、こんな声出さないもん♪ なんていうかなー、もっとこう……やらしーんだ。実演するからお母様、ママ、確認してー」

「へっ」

 リナリスはカチャの首根っこを押さえ、ケチャ、イメルサと共にカチャの実家宅内へ消えて行った。
 止める人間は誰もいない。
 リオンの魔導スマホが激しく鳴った。
 音量を最大にしているので、通話内容が周囲にだだ漏れだ。

『もしもしエルバッハさん? こちらフェイク工房のものです。画像特殊加工の代金がまだお支払いされてないんですが……』

 その時いきなり、場に扉が出現した。
 恐る恐るといった様子でマゴイが出てくる。

『……これが結婚式……』

 続けてレイアが出てきた。

「あー、と……結婚式はまだやっているか?」




●後日




 リンゴンリンゴン鐘が鳴る。エクラ教会風にしつらえられた冠婚葬祭場の鐘が鳴る。
 お堂を飾るは薔薇と百合。
 ステンドグラスから差し込む光がモザイク模様の床に映えてそれはもう、もう……ロマンチック。
 ウェディングドレス姿のカチャはウェディングドレス姿のリナリスを前に、感涙しきり。

「そうですよ、これがしたかったんですよ私はっ! 部族の血祭りじゃなくてっ!」

 リナリスもリナリスで感涙している。

「うわああああん、あたし幸せだよおおお」

 雰囲気に飲まれたろうか、双方感激が止まらないようだ。

「おいおい2人とも、もう式が始まるぜ」

「司祭さんスタンバイしてるよ」

 と声をかけるのは、タキシード姿のアレックスとジュアン。
 そう、今日は彼らの結婚式。それでもって、カチャたちの二次式。どうしてもどうしてもタホ郷のアレだけでは納得いかないとカチャが言い張って実現したものである。
 控室から出てきた花嫁さんカップルと花婿さんカップルを拍手で迎えるのは関係者の皆様方。
 ぴょこも、もちろん来ている。

『うむ、めでたいのう、めでたいのう』

 加えてレイアも。

「おめでとう!」

 マゴイはいない。
 一度チラッとは見に来たのだが、すぐさま帰ってしまったのだ。『……こんないかがわしいもの見ていられない……!』と言い残して。

「リナリス……、立派になってえ」

 バージンロードに現れた娘を見て目頭を押さえ、カメラを向け続けるイメルサ。

「派手なものねえ」

 と落ち着いているケチャ。
 司祭服を着たディーナは分厚い聖典を手にし、祭壇に来た二組の夫婦(としておく一応)に重々しく告げる。ユメリアのパイプオルガン演奏が響き渡る中。

「よき時も悪しき時も、病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで汝はこの者を伴侶とすることを誓いますか?」

 並んだカップルは、片手を挙げて宣誓する。

「「誓います」」「「誓います」」

「今エクラの名のもとに汝らは結び付けられました。末長く光の御加護がありますように。誓いの口づけをどうぞ」

 ちょっと照れ臭そうにしながらアレックスがジュアンに、リナリスがカチャに口づけをした。

「愛するよカチャ……永遠にね♪」

 マルカはここぞとばかり惜しみ無くスパシーバを発動した。聖堂(風な建物)の中にハートの雪が降りしきる。
 ルンルンは頬に手を当て、夢見心地にお式を見守る。

「はぁぁ、やっぱり結婚式はこうでないといけませんよねぇ……私もいつか丘の上の白い教会でうふふふふふ」

 重ねて言うが彼女はまだ相手を見つけていない。なので妄想の中の花婿の顔は、ちょうどいいところで見切れている。
 一方捕まえるべき目標のはっきりしているハナとマリィアは、問題なく意中の彼と自分が並ぶ様を想像出来ている。

「あー、やっぱりベタだけど、結婚式にはドレス着たいですぅ。マリィアさんもそうですよねぇ?」

「まあ、ね。ベタだけど……憧れってあるわよね」

 舞が前に進み出て、扇を広げる。

「新婚さんおめでとう! それじゃあ約束どおり、あたしとコボちゃんが歌を贈らせてもらうからね!」

 三味線を手にした彼女と空き缶三味線を手にしたコボちゃん場が、声をそろえて歌い出す。

「たかわごや~♪」

「この白浦に~♪」

「ほをわげて~♪」

 一部の英霊を除き盛り上がる一方の場であるが、そこに姿が見えない人物がいた。
 リオンである。
 そのことに気づいた詩は、隣の席にいたメイムに聞いた。

「ねえ、エルさんどこに行ったか知らない?」

「あ、エルさんならエルフハイムの里に急遽帰っちゃったよ。今度の悪戯が実家のじじ様の耳に届いちゃったらしくて……今度ばかりは両親もかばってくれそうにないって愚痴ってたよ。謝罪行脚させられそうだって」

 と言いながら彼女はため息をつく。

「実はね、この後あたしも怒られに行かなきゃなんないんだ。何しろ悪戯については、無関係じゃなかったし」

「そうなんだ」

 まあ、ある程度無理ないことかもしれない。そんな風にも思いつつ詩は、やや声を低める。

「そういえばルベーノさん、ユニゾンに遺伝子情報提供したんだって?」

「らしいね。思い切ったことするよねえ、本当」

 建物の外ではフィロが、ガーデンパーティーの準備を万端整えている。
 会場から花嫁花婿が出てきた。
 彼女は急いでそちらへと向かう。ライスシャワーに参加するために。

 




●後日の後日



『――スペットさんとブルーチャーさんにもこの喜びをおすそ分けしたいと思いましたので、この写真をお送り致します。いつかスペットさんとぴょこ様、ついでにブルーチャさんの結婚式にもこの魔法で祝いたいと思います。かしこ マルカ・アニチキン』

 エクラ風結婚式の写真を眺めたスペットは一言。

「なんやハートマークがいっぱい散らばってて、誰がどこおるかようわからへん」

 タホ郷出の写真を眺めたブルーチャーは一言。

「部族抗争の写真じゃねえんですかね、これは。頭に矢が刺さってますぜ」

「どれ。あ、ほんまや。一体何がどうなってこうなったんやろな」

「辺境は謎だらけですな。ところで旦那、出所したら結婚するんですかい? あのウサギの英霊と」

「さあなあ。お前こそどうやねん」

「いやあ……なんか当てがなさそうですなあ。別れた嫁も戻ってきそうにないし」




 ちなみにカチャの錫杖は、御祝儀の一部を当ててリナリスが買い戻した。
 そして出た余りは、全部新婚旅行につぎ込むことにしたそうである。

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MVP一覧

  • また、あなたと
    リナリス・リーカノアka5126
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜ka5784
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752
  • ルル大学防諜部門長
    フィロka6966

重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • また、あなたと
    リナリス・リーカノア(ka5126
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 未来への種を宿す
    イメルサ・ファルズール(ka6259
    人間(紅)|28才|女性|聖導士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • 重なる道に輝きを
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