ゲスト
(ka0000)
とある小さな村の危機
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/14 07:30
- 完成日
- 2019/04/14 22:14
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
世界が破滅するかもしれない脅威。
王国に攻め寄せる傲慢王の軍勢。
各地で大きな争いが続き――それも、世界そのものを揺るがすような戦い。
そんな激戦の中、とあるハンターオフィスの支部に小さく依頼が張り出された。
王国アスランド地方の小さい村からの依頼だ。
依頼内容は『ゴブリンの襲来から村を守って欲しい』というものだ。
「報酬は……少ないです。これは村から拠出できる資金が無いという事で……」
ハンターオフィスの受付嬢が申し訳なさそうに言った。
仕方がないでは済まされないだろう。ゴブリンとはいえ、敵は容赦なく襲い掛かってくる。
命を懸けた戦いへの対価は……お世辞にも見合ったものではなかった。
「依頼主の村は、ある貴族が治めている領地内ではあるのですが……傲慢との戦いで、小さい村に気にかけている余裕はないとの事です」
王国は今、傲慢歪虚との戦いに集中しているのだ。
国が滅びてしまえば、村があってもなくても意味がない――領主である貴族は、救いを求める村長に、そう言い放ったそうだ。
「村から集団で避難するという方法もあったかもしれませんが、やはり、住み慣れた地を離れたくないという人もいるみたいです」
貧しい土地であっても、そこが故郷なら、離れたくないというのが心情だろう。
それに、集団避難した後の事も考えるなら、気持ちが進まないもの。
だとしてもだ……やはり、こういうご時世。
「素直に避難すればいいと思いますけど」
ボソっと受付嬢の心の声が呟きとなった。
上司に聞かれていれば叱責ものだったろうが、どうやら、誰にも聞こえなかったようだ。
「それでは、この依頼をお受けする場合は、この用紙にご記入下さい」
満面な営業スマイルを受付嬢が魅せてきたのであった。
●
大峡谷に押しやられていた亜人達の中に、ある“伝説”があった。
昔の話ではない。人間でいうならば、どこぞの不良が引き起こした事件を、後になって“伝説”と呼ぶのと同じような次元の話だ。
“伝説”の話は、まず、1匹のゴブリンが偶然にも強大な力を手にする所から始まる。
やがて、志を同じくする腹心を得、戦力となる多数の配下を持つようになった。そして、大峡谷から南下して、人間共に一矢報いた……。
あるゴブリン共は大峡谷に押し込められながらも、そんな英雄譚を語っていた。
自分達もいつかそんな“伝説”を作ってやろうと。
そして、それは、ひょんな所から現実味を帯びた。
「この力があれば、人間共から全てを奪う事が出来る!」
煌々と照らす焚火をバックに、1体のゴブリンだったものが宣言していた。
そのゴブリンは、堕落者であった。
傲慢歪虚に唆されて、契約した哀れなゴブリン――だが、そんな事を、このゴブリンが認識するはずがない。
「武勲をあげよ! そうすれば、この力、分け与えよう!」
作り出した炎球にゴブリン共は一斉に歓声をあげた。
特別な働きをした者には、堕落者であり、群れの長であるその者から“契約”を結べるのだ。
そうすれば、力を手に入れる事が出来る。
「この力は、病気や飢えすらも、超越できる。私は、私に相応しい仲間を欲しているのだ!」
再び湧き上がる歓声。
長の仲間になるまでは、使い捨てのようなものだ。それでも、ゴブリン共は強大な力を持つ長に付いていくしかない。
「“伝説”の再来だ!」
傲慢小鬼が指さした先には、人間が住む小さい村が一望できた。
まずは、そこを蹂躙し、勢力を整えた後、豊かな土地を求め、さらに南下する。
全てを自分達が手にする為に。
●
小さい村の住民達は、村の周囲に時折、姿を現すゴブリンの姿に怯えていた。
村は痩せた土地で細々と農業を営んでいる。北よりな為か、気候は寒い日が続く。
そんな訳で、この時期、村の働き手は出稼ぎに出ている。村に残っているのは年寄りや女子供ばかりだ。
「子供が乗り越えられる程度の柵じゃ、すぐに侵入してきちまう!」
「この前、貴重な家畜を盗られた! 今頃、奴らの餌だ!」
「今日明日にも襲ってくるかもしれない……もう、どうしようない」
村人らは、村長の家に集まっていた。
村長の家は、治めている貴族が訪問した時の為に、少し大きく作ってあるので、集会所兼避難所代わりになっているのだ。
「もうじき、ハンター達がきっと、来てくれるはずだ」
「でも、戦いで村が破壊されたら……それだけで、もう、大変な出費だ!」
戦闘になっても家は無事という保証はどこにもない。
第一、相手はゴブリンだ。すべてを奪っていく略奪者なのだ。形ある物が残っている方が珍しいかもしれない。
「……私、死にたくない。ゴブリンに殺されるなんて……考えただけで嫌!」
「で、では、ハンター達には、出来る限り、村への損害を少なくするようにお願いしよう」
次から次に訴える村人に、村長は冷や汗をタオルで拭きながら答える。
あんまり、要求ばかり多くなって、ハンターが帰ってしまわないか、不安なのだ。
「守ってくれるのはいいけどさ。根本的にはゴブリン共を殲滅して貰わなきゃいけねーじゃん。大丈夫かよ?」
「確かに、その通りですね……それも、ハンター達にお願いするしか……」
自分達に置かれた立場というものを理解していない村人達からの要望に、村長は思わず天井を見上げる。
もし……出来る事ならば、この村から引っ越したいものだと……。
世界が破滅するかもしれない脅威。
王国に攻め寄せる傲慢王の軍勢。
各地で大きな争いが続き――それも、世界そのものを揺るがすような戦い。
そんな激戦の中、とあるハンターオフィスの支部に小さく依頼が張り出された。
王国アスランド地方の小さい村からの依頼だ。
依頼内容は『ゴブリンの襲来から村を守って欲しい』というものだ。
「報酬は……少ないです。これは村から拠出できる資金が無いという事で……」
ハンターオフィスの受付嬢が申し訳なさそうに言った。
仕方がないでは済まされないだろう。ゴブリンとはいえ、敵は容赦なく襲い掛かってくる。
命を懸けた戦いへの対価は……お世辞にも見合ったものではなかった。
「依頼主の村は、ある貴族が治めている領地内ではあるのですが……傲慢との戦いで、小さい村に気にかけている余裕はないとの事です」
王国は今、傲慢歪虚との戦いに集中しているのだ。
国が滅びてしまえば、村があってもなくても意味がない――領主である貴族は、救いを求める村長に、そう言い放ったそうだ。
「村から集団で避難するという方法もあったかもしれませんが、やはり、住み慣れた地を離れたくないという人もいるみたいです」
貧しい土地であっても、そこが故郷なら、離れたくないというのが心情だろう。
それに、集団避難した後の事も考えるなら、気持ちが進まないもの。
だとしてもだ……やはり、こういうご時世。
「素直に避難すればいいと思いますけど」
ボソっと受付嬢の心の声が呟きとなった。
上司に聞かれていれば叱責ものだったろうが、どうやら、誰にも聞こえなかったようだ。
「それでは、この依頼をお受けする場合は、この用紙にご記入下さい」
満面な営業スマイルを受付嬢が魅せてきたのであった。
●
大峡谷に押しやられていた亜人達の中に、ある“伝説”があった。
昔の話ではない。人間でいうならば、どこぞの不良が引き起こした事件を、後になって“伝説”と呼ぶのと同じような次元の話だ。
“伝説”の話は、まず、1匹のゴブリンが偶然にも強大な力を手にする所から始まる。
やがて、志を同じくする腹心を得、戦力となる多数の配下を持つようになった。そして、大峡谷から南下して、人間共に一矢報いた……。
あるゴブリン共は大峡谷に押し込められながらも、そんな英雄譚を語っていた。
自分達もいつかそんな“伝説”を作ってやろうと。
そして、それは、ひょんな所から現実味を帯びた。
「この力があれば、人間共から全てを奪う事が出来る!」
煌々と照らす焚火をバックに、1体のゴブリンだったものが宣言していた。
そのゴブリンは、堕落者であった。
傲慢歪虚に唆されて、契約した哀れなゴブリン――だが、そんな事を、このゴブリンが認識するはずがない。
「武勲をあげよ! そうすれば、この力、分け与えよう!」
作り出した炎球にゴブリン共は一斉に歓声をあげた。
特別な働きをした者には、堕落者であり、群れの長であるその者から“契約”を結べるのだ。
そうすれば、力を手に入れる事が出来る。
「この力は、病気や飢えすらも、超越できる。私は、私に相応しい仲間を欲しているのだ!」
再び湧き上がる歓声。
長の仲間になるまでは、使い捨てのようなものだ。それでも、ゴブリン共は強大な力を持つ長に付いていくしかない。
「“伝説”の再来だ!」
傲慢小鬼が指さした先には、人間が住む小さい村が一望できた。
まずは、そこを蹂躙し、勢力を整えた後、豊かな土地を求め、さらに南下する。
全てを自分達が手にする為に。
●
小さい村の住民達は、村の周囲に時折、姿を現すゴブリンの姿に怯えていた。
村は痩せた土地で細々と農業を営んでいる。北よりな為か、気候は寒い日が続く。
そんな訳で、この時期、村の働き手は出稼ぎに出ている。村に残っているのは年寄りや女子供ばかりだ。
「子供が乗り越えられる程度の柵じゃ、すぐに侵入してきちまう!」
「この前、貴重な家畜を盗られた! 今頃、奴らの餌だ!」
「今日明日にも襲ってくるかもしれない……もう、どうしようない」
村人らは、村長の家に集まっていた。
村長の家は、治めている貴族が訪問した時の為に、少し大きく作ってあるので、集会所兼避難所代わりになっているのだ。
「もうじき、ハンター達がきっと、来てくれるはずだ」
「でも、戦いで村が破壊されたら……それだけで、もう、大変な出費だ!」
戦闘になっても家は無事という保証はどこにもない。
第一、相手はゴブリンだ。すべてを奪っていく略奪者なのだ。形ある物が残っている方が珍しいかもしれない。
「……私、死にたくない。ゴブリンに殺されるなんて……考えただけで嫌!」
「で、では、ハンター達には、出来る限り、村への損害を少なくするようにお願いしよう」
次から次に訴える村人に、村長は冷や汗をタオルで拭きながら答える。
あんまり、要求ばかり多くなって、ハンターが帰ってしまわないか、不安なのだ。
「守ってくれるのはいいけどさ。根本的にはゴブリン共を殲滅して貰わなきゃいけねーじゃん。大丈夫かよ?」
「確かに、その通りですね……それも、ハンター達にお願いするしか……」
自分達に置かれた立場というものを理解していない村人達からの要望に、村長は思わず天井を見上げる。
もし……出来る事ならば、この村から引っ越したいものだと……。
リプレイ本文
●
小鬼共の雄叫びが村に響いた。
かなりの数がいる……時音 ざくろ(ka1250)はそう判断すると、ロプラスを大空に飛ばす。
「ゴブリンの襲撃から、村を護る冒険だよ! Lo+セットアップ! 今、ざくろ達の絆は結ばれた!」
意識を集中するざくろ。空高く飛んだロプラスの視覚を共有し、空から偵察を試みているのだ。
すぐに目に付いたのは村の南側へと回り込もうとしている小鬼の一団だった。
だが、それよりも、近く、村の北側の林に不自然な雰囲気を感じる。
(二方向同時じゃない……)
集中を解くと、インカムで仲間に呼び掛けた。
「小鬼は、南北から攻めてくる。北側の方が近い」
「出来れば村より手前で押さえたかったところだけど……間が悪いわね」
クリス・クロフォード(ka3628)がぼやきながら、機械手甲の調子を確かめるように、握ったり広げたりしていた。
北側に向かってクリスは歩き出す。どの程度、やってくるか分からないが、足止めを試みようと思っての事だ。
続けて通信が入ったのはリリア・ノヴィドール(ka3056)からだった。
「中々……いえ、思ってたよりも割に合わない仕事なの」
小鬼自体は驚異的な存在ではない。だが、この規模の襲撃となると別だ。
指揮官格はいるだろうし、今回は村の被害を減らして欲しいという依頼主からの要望もある。
手頃な民家の屋根に登ると、村の北側を確認し――不自然な木々の揺れに小鬼の存在を推し量った。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が通信を聞きつつ、法術刀を手に村の南側へと向かう。
「……注文が多いな。まあ、理解はできるから善処はするが」
流石に南側に誰もいないという訳にもいかない。
南側は休耕地が広がっているので、こちらから攻めてくる敵の全容は把握しやすいだろう。
必要があれば、文字通り、空を駆けあがって確認する事も出来る。
アルトの背を見届けながら、龍崎・カズマ(ka0178)は建物の影に潜み隠れた。
「突然歪虚の襲撃に襲われる村、か……“彼女”の時と同じ事を繰り返すわけにはいかないよな」
誰にも聞こえないように呟いた心の内。思い出したように蒼機刀に触れる。
自分がなぜ、ここにいるのかを。敵を駆除し続けるために、呼ばれたのだから。
この世の終わりを告げるような小鬼の重なるような叫びに、幼い子供らが泣き出した。
子供達にとって、世界はこの村の中であり、小鬼の襲来は世界の破滅といってもおかしくはないだろう。
「怖けりゃぎゅっとしてな」
飴を配っていた天竜寺 舞(ka0377)が、ぬいぐるみを渡す。
村長宅の守りを引き受けたのは舞だ。つまり、最後の砦という事になる。
「絶対外に出るな。中途半端が一番駄目だからね」
震えながら農具を構える老人や婦人に告げて、天井から屋根へと上がった。
不気味な程、冷たい北風が頬を撫でる。いよいよ、襲来の時だ。
●
20体程の小鬼共が一斉に走ってくるのをクリスは拳を構えて迎え撃つ。
「っとに……数だけは多いわねぇ……」
体内のマテリアルを活性化。自身の周囲に張り巡らせると同時に、炎のようなオーラを出現させた。
ソウルトーチのスキルは“注目”させる能力がある。これで、小鬼共の注意を引こうとしたのだ。
同時に“守りの構え”により、クリス周囲にやって来た敵を強引に足止めできる。
「引き寄せて止めるから、そこ狙って!」
拳を突き出し、一直線にマテリアルを噴出させた。
それだけで2体か3体の小鬼が吹っ飛ぶ。出だしは好調だが……。
「ちょっと! 私に注目しながら、どこに行くのよ!」
地面に倒れた小鬼の胸倉を掴んでボコボコ殴りながら、クリスは叫ぶ。
“守りの構え”を受けた幾体かの足は止めたが、それ以外の小鬼共は足止めにはかからず、村へと走っていったからだ。
抜けていった小鬼らの中に、負のマテリアルを持つ個体をクリスは見つけた。
「抜けられた! それと、歪虚化しているのがいるわ!」
「こっちでも確認できたよ。ざくろも今から向かうから」
通信機を通して返事をしたのは、ざくろであった。
北側からの襲撃に続き、南側も動き出したようだ。時間差を設けて攻めてくるのだろう。
馬を走らせる――既に幾体かの小鬼の侵入を許しているようだ。
「これ以上は好き勝手にさせないよ!」
掲げた右腕の先に光り輝く三角形をマテリアルで錬成する。
直後、放たれる光の筋が三つ。それぞれが小鬼らに直撃した。
「えーと……倒れた仲間も立ち塞がるざくろも無視して、どこいくのー!?」
ざくろを無視して駆け抜けていく小鬼。
見れば、負のマテリアルを感じる小鬼が何か言葉を発して命令しているようだった。
「歪虚化した小鬼が、指揮しているよ!」
だからこそ、ハンター達の足止めに小鬼が引っ掛からなかったのだろう。
一番大きな建物――村長の屋敷――に向かって、ハンターを気にせずに向かっていくのだ。
その現象は南側で迎撃にでたアルトも同様だった。
「村の建物壊すより、人間をいたぶれる方に意識向かないかと思ったが……」
大分と加減しながら戦っていた分、思案する余裕があるアルトは駆け抜けていった小鬼共に視線を向ける。
一気に殺しすぎたら、小鬼の士気が崩壊し逃げ出すだろう。取り逃がしたら、村への脅威が残る事になる。
だが、1体ずつ倒していたら、その間に、他の小鬼共は村へと向かう。
「……なるほど、数に任せて、村を蹂躙するのが目的か」
アルトは如何にも傭兵らしい答えを口に出した。
守るべき対象を失っては意味が無い。奴らを追うか、それとも、“別の敵”を狙うか。
彼女の鋭い視線の先に、幾体かの傲慢小鬼の姿が見えた。
村長の屋敷に向かう小鬼共。
唐突に目の前の兄弟がいなくなっても、気にしなかった。
空いたスペースに別の兄弟が入ってくるだけだ。
故に、路地に消えた後の小鬼の存在は、他の小鬼の目に触れなければ、その後、どうなったのか気がつきもしない。
「一気に減らしすぎると逃げちゃうだろうし……3体か4体ぐらいなら大丈夫なの?」
独特の形を持つデリンジャーを、小鬼の首に突き立てるリリア。
仲間からの連絡を受けるに、同時期に倒した数はそれなりの数になっている。
「そっか、小鬼共は視覚を共有している訳でもなく、通信機器もないから、自己の認識外で幾ら倒されても、分からないのね」
という事は上手く分断できれば、もしくは気が付かないうちに少しずつ倒していけばいいのだ。
リリアが気が付くよりも早く、カズマはそれを淡々と実行していた。
必要なのは誘い込んだうえで、見えないように数を減らすこと。
そして、小鬼らが屋敷を狙うのは、村で一番大きな構造物であるという分かりやすい攻撃目標だからだ。
「かなりの数の小鬼が向かっているが、やれるか?」
自分の場所が分からないようにカズマは静かに通信機に向かって言った。
答えたのは屋敷の守りに就いている舞であった。
「正面玄関は抑えられる自信はあるけど。流石に、裏手に回ったのは難しい」
玄関から入れないとなると、屋敷の周囲に回るのは当然の事。
屋敷の窓は木材などで堅く閉じてあるので簡単には破られないはずだが、時間稼ぎにしかならない。
「それで構わない。裏に回ってくるのを、駆除し続ける」
「分かった。それじゃ、全力で正面は守る」
正門に群がってきた小鬼共の行く手を遮るように駆け抜けると同時に舞は剣を振るう。
自身のマテリアルを毒へと変質させたものを仕込んであるので、毒に対抗できる手段がなければ、そのうち倒れるだろう。
その時、屋敷の方から悲鳴が聞こえた。慌てて振り返ると、回り込んだ小鬼の幾体かが、正面玄関を武器で叩き壊そうとしていたからだ。
簡単には玄関を壊されないだろうが、外の状態が分からない村人らにとっては恐怖の瞬間だろう。
「行かせる訳ないだろ!」
鬼の形相で剣を振るい続ける舞。
その手強さに諦めた幾体もの小鬼らは、屋敷の裏へと回る。
だが、最後まで裏に回れた小鬼はいなかった。
「これだけの数だ、そんなに統率はできていないと思うからな。そして、率いる立場の奴もな」
見つからないように小鬼の死骸を建物の影に投げ捨てるとカズマは目を細めた。
序盤は敵の作戦に押されたが、それだけの事だ。統率している者を倒せば、後はただの小鬼なのだから。
●
寡兵であるハンター達は、それぞれが別の場所で戦う事を選んだ。
通信機があるから孤立はしなかったが、同時に小鬼共にとっては塞がる障害にもならなかった。
「背後ががら空きなのは、本当にバカね」
口元をニヤリと歪めながら、クリスは拳を突き出した。
放出されたマテリアルが小鬼を貫いていく。
「抜かれた時はどうしようと思ったけど」
幸運な事にハンター達の作戦は中盤以降、思わぬ形で役に立った。
屋敷を目指す小鬼共は自分に被害がない限りは正面しか向いていないからだ。
おまけに、立ち塞がったハンターを物理的に完全無視できないので、足並みが揃わなかったのも大きい。
クリスは1体掴むと、それを駆け抜けようとした一団に向かって投げつけた。
「どこいくのよ!」
小鬼の一団は足を止めた。
すると、傲慢小鬼が配下に“命令”する。ただの命令ではない【強制】だ。
それで小鬼共は獲物を手に一斉に向かってきた。小鬼は死も恐れぬ戦士となったのだ。
「ゴブリン程度が傲慢の能力使えてるって……ヤバいような気がするんだけど」
如何に覚醒者であっても死を恐れぬ相手に戦い続けるのは危険だろう。
そこへ、颯爽とざくろが割って入る。
デルタレイを放って傲慢小鬼と強制小鬼を攻撃した。その威力に、傲慢小鬼はざくろの存在を脅威と感じたようだ。
「傲慢小鬼は、ざくろが相手するから」
襲い掛かってきた強制小鬼を攻勢防壁で吹き飛ばしながら、魔導剣の剣先を傲慢小鬼へと向けた。
傲慢との戦いには成れているつもりだった。高位の傲慢でなければ負けるつもりもない。
「※▲凸〇●◇※※!」
何かを叫ぶ傲慢小鬼。
ざくろに負のマテリアルが強烈な圧となって降りかかる。【強制】の能力だ。
だが、何事も無かったようにざくろは魔導剣を高く掲げた。
「魔導術剣、悪鬼両断ッ!」
マテリアルを流し巨大化したした剣で傲慢小鬼を真っ二つにする。
残った小鬼共の士気が崩壊――しなかった。一度に多く倒されなければ、力量の違いというものを理解できないようだ。
村の南側から攻め寄せてきたのが、小鬼共の“本隊”なのだろう。
まずは北側からの助攻で村の注意を引いて、その後、主攻である本隊が南側から制圧する予定だったと推測できる。
「最初から、村人を一人も逃がさないつもりだったのね」
リリアは発煙手榴弾を煙幕代わりに出しつつ、苦無を投げる。
マテリアル操作により、幾体のも小鬼を巻き込む。次々に倒れる小鬼だが、煙が邪魔して他の小鬼らには倒された正確な数は分からなかったようだ。
「それにしても、本当にキリがないですわ、なの」
10体以上は確実に倒している。村に攻めてきている小鬼の数は軽く50を超えているだろう。
次の標的を見つけ、デリンジャーを構えた時だった。
「屋敷の小鬼が逃げ出していく!」
それは舞からの報告であった。
奮戦を続ける舞と回り込んだ小鬼をひたすら影ながらに倒し続けていたカズマの戦いに小鬼が今頃になって勝てないと感じたようだ。
「追撃を仕掛ける。一匹残らず駆除だ」
「こっちからも見えるのね。南側に向かって敗走してくるみたいだから、邪魔して川の方に誘導するわ、のね」
カズマからの連絡に、リリアは頷きながら、武器を構えて通りに躍り出る。
屋敷の方から我先に逃げ出してくる小鬼に向かって威嚇でデリンジャーを撃つと、驚いた小鬼が迂回するように進路を変える。
「そっちでもねぇよ」
路地に入り込んだ小鬼はカズマが容赦なく蒼機刀を突き立てていく。
疾影士としてのスキルは、移動も潜伏も駆除も十分に過ぎる程、活かされていた。
アルトは数体の傲慢小鬼と対峙していた。
小鬼共が戦意を喪失したと奴らが知って逃亡を図る前に殲滅すべきだと判断する。
「かつて、私が倒した大渓谷から出てきたゴブリンの王は、誇り高い戦士だった」
少なくとも配下に任せて後ろから出てくるタイプではなかった。
目の前の傲慢小鬼共は言葉も通じず、次に誰がアルトに挑むか、押し合いしている程度の存在だ。
「奴と同じ場所に住んでいるお前らは警戒してたんだが……奴と比べれば話にならんな、弱い」
失望という事はこういう事なのだろうなと心の中で呟いた。
炎の様なオーラをアルトは纏う。傲慢小鬼は残しておくと同じ力を持つ者をまた増やすだろう。
「消え失せろ。この世界から、いや、大峡谷から」
一瞬、彼女の姿が消えたとも思える速さで、傲慢小鬼共の間を駆け抜けた。
その後に残ったのは、負のマテリアルの血飛沫だけだった。
●
傲慢小鬼もそうでない小鬼も、村に攻め寄せてきた小鬼は全て倒しきった。
「大丈夫。無事に逃げ出した小鬼は居ないみたい」
ざくろがファミリアズアイを使い、空を飛ぶ相棒の視覚を通して村周囲を確認していた。
“伝説”は“伝説”のまま。この村の脅威は無くなっただろう。
「ゴブリンがいなくなったとしても、別の歪虚が来るかもしれない」
「傲慢の力を与えた歪虚もいるかもしれないわね」
村人達に話している舞の台詞を補足するようにクリスが言った。
当面の脅威は去った。だが、今回の事件に歪虚が潜んでいたとしたら、今後の脅威となり得るだろう。これはハンターオフィスには大きな報告案件になる。
「ハンターを雇う費用も馬鹿にならないだろ? 自分達でどうにも出来ないなら素直に避難した方がいいと思うけどね」
「……やはり、そうか」
「しかし、全員で移動するのもな」
舞の説得に村人達は頷く。村の破滅を感じたからこその意識の変化だろう。
リリアが人差し指を立てた。
「そうそう、予算と内容の整合性はちゃんと考えるべきなのよ」
今回はたまたま、ハンター達が集まり間に合ったが、次も同じとは限らない。
小鬼共の死体を荷車に乗せ、戦闘の後片付けをしているカズマは表情を変える事なく呟いた。
「“コレ”はアフターサービスだ」
村はずれに埋めてくるのも、それはそれで労力だ。
荷車を引っ張って歩き出したカズマを手伝うように、アルトが荷車を後ろから押す。
小鬼共の血生臭さが鼻を突いた。
「一先ずは依頼達成か。私達は村人を守れたんだな」
「そうだな……憂いなくな」
荷の重さにひしゃげそうな車輪が立てる音を聞きながら、ハンター達は村を後にしたのだった。
ハンター達の活躍により、村は大きな損害を受けなかった。
また、全ての小鬼を逃がさず討伐に成功し、今後の村の安全も確保されたのであった。
おしまい
小鬼共の雄叫びが村に響いた。
かなりの数がいる……時音 ざくろ(ka1250)はそう判断すると、ロプラスを大空に飛ばす。
「ゴブリンの襲撃から、村を護る冒険だよ! Lo+セットアップ! 今、ざくろ達の絆は結ばれた!」
意識を集中するざくろ。空高く飛んだロプラスの視覚を共有し、空から偵察を試みているのだ。
すぐに目に付いたのは村の南側へと回り込もうとしている小鬼の一団だった。
だが、それよりも、近く、村の北側の林に不自然な雰囲気を感じる。
(二方向同時じゃない……)
集中を解くと、インカムで仲間に呼び掛けた。
「小鬼は、南北から攻めてくる。北側の方が近い」
「出来れば村より手前で押さえたかったところだけど……間が悪いわね」
クリス・クロフォード(ka3628)がぼやきながら、機械手甲の調子を確かめるように、握ったり広げたりしていた。
北側に向かってクリスは歩き出す。どの程度、やってくるか分からないが、足止めを試みようと思っての事だ。
続けて通信が入ったのはリリア・ノヴィドール(ka3056)からだった。
「中々……いえ、思ってたよりも割に合わない仕事なの」
小鬼自体は驚異的な存在ではない。だが、この規模の襲撃となると別だ。
指揮官格はいるだろうし、今回は村の被害を減らして欲しいという依頼主からの要望もある。
手頃な民家の屋根に登ると、村の北側を確認し――不自然な木々の揺れに小鬼の存在を推し量った。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が通信を聞きつつ、法術刀を手に村の南側へと向かう。
「……注文が多いな。まあ、理解はできるから善処はするが」
流石に南側に誰もいないという訳にもいかない。
南側は休耕地が広がっているので、こちらから攻めてくる敵の全容は把握しやすいだろう。
必要があれば、文字通り、空を駆けあがって確認する事も出来る。
アルトの背を見届けながら、龍崎・カズマ(ka0178)は建物の影に潜み隠れた。
「突然歪虚の襲撃に襲われる村、か……“彼女”の時と同じ事を繰り返すわけにはいかないよな」
誰にも聞こえないように呟いた心の内。思い出したように蒼機刀に触れる。
自分がなぜ、ここにいるのかを。敵を駆除し続けるために、呼ばれたのだから。
この世の終わりを告げるような小鬼の重なるような叫びに、幼い子供らが泣き出した。
子供達にとって、世界はこの村の中であり、小鬼の襲来は世界の破滅といってもおかしくはないだろう。
「怖けりゃぎゅっとしてな」
飴を配っていた天竜寺 舞(ka0377)が、ぬいぐるみを渡す。
村長宅の守りを引き受けたのは舞だ。つまり、最後の砦という事になる。
「絶対外に出るな。中途半端が一番駄目だからね」
震えながら農具を構える老人や婦人に告げて、天井から屋根へと上がった。
不気味な程、冷たい北風が頬を撫でる。いよいよ、襲来の時だ。
●
20体程の小鬼共が一斉に走ってくるのをクリスは拳を構えて迎え撃つ。
「っとに……数だけは多いわねぇ……」
体内のマテリアルを活性化。自身の周囲に張り巡らせると同時に、炎のようなオーラを出現させた。
ソウルトーチのスキルは“注目”させる能力がある。これで、小鬼共の注意を引こうとしたのだ。
同時に“守りの構え”により、クリス周囲にやって来た敵を強引に足止めできる。
「引き寄せて止めるから、そこ狙って!」
拳を突き出し、一直線にマテリアルを噴出させた。
それだけで2体か3体の小鬼が吹っ飛ぶ。出だしは好調だが……。
「ちょっと! 私に注目しながら、どこに行くのよ!」
地面に倒れた小鬼の胸倉を掴んでボコボコ殴りながら、クリスは叫ぶ。
“守りの構え”を受けた幾体かの足は止めたが、それ以外の小鬼共は足止めにはかからず、村へと走っていったからだ。
抜けていった小鬼らの中に、負のマテリアルを持つ個体をクリスは見つけた。
「抜けられた! それと、歪虚化しているのがいるわ!」
「こっちでも確認できたよ。ざくろも今から向かうから」
通信機を通して返事をしたのは、ざくろであった。
北側からの襲撃に続き、南側も動き出したようだ。時間差を設けて攻めてくるのだろう。
馬を走らせる――既に幾体かの小鬼の侵入を許しているようだ。
「これ以上は好き勝手にさせないよ!」
掲げた右腕の先に光り輝く三角形をマテリアルで錬成する。
直後、放たれる光の筋が三つ。それぞれが小鬼らに直撃した。
「えーと……倒れた仲間も立ち塞がるざくろも無視して、どこいくのー!?」
ざくろを無視して駆け抜けていく小鬼。
見れば、負のマテリアルを感じる小鬼が何か言葉を発して命令しているようだった。
「歪虚化した小鬼が、指揮しているよ!」
だからこそ、ハンター達の足止めに小鬼が引っ掛からなかったのだろう。
一番大きな建物――村長の屋敷――に向かって、ハンターを気にせずに向かっていくのだ。
その現象は南側で迎撃にでたアルトも同様だった。
「村の建物壊すより、人間をいたぶれる方に意識向かないかと思ったが……」
大分と加減しながら戦っていた分、思案する余裕があるアルトは駆け抜けていった小鬼共に視線を向ける。
一気に殺しすぎたら、小鬼の士気が崩壊し逃げ出すだろう。取り逃がしたら、村への脅威が残る事になる。
だが、1体ずつ倒していたら、その間に、他の小鬼共は村へと向かう。
「……なるほど、数に任せて、村を蹂躙するのが目的か」
アルトは如何にも傭兵らしい答えを口に出した。
守るべき対象を失っては意味が無い。奴らを追うか、それとも、“別の敵”を狙うか。
彼女の鋭い視線の先に、幾体かの傲慢小鬼の姿が見えた。
村長の屋敷に向かう小鬼共。
唐突に目の前の兄弟がいなくなっても、気にしなかった。
空いたスペースに別の兄弟が入ってくるだけだ。
故に、路地に消えた後の小鬼の存在は、他の小鬼の目に触れなければ、その後、どうなったのか気がつきもしない。
「一気に減らしすぎると逃げちゃうだろうし……3体か4体ぐらいなら大丈夫なの?」
独特の形を持つデリンジャーを、小鬼の首に突き立てるリリア。
仲間からの連絡を受けるに、同時期に倒した数はそれなりの数になっている。
「そっか、小鬼共は視覚を共有している訳でもなく、通信機器もないから、自己の認識外で幾ら倒されても、分からないのね」
という事は上手く分断できれば、もしくは気が付かないうちに少しずつ倒していけばいいのだ。
リリアが気が付くよりも早く、カズマはそれを淡々と実行していた。
必要なのは誘い込んだうえで、見えないように数を減らすこと。
そして、小鬼らが屋敷を狙うのは、村で一番大きな構造物であるという分かりやすい攻撃目標だからだ。
「かなりの数の小鬼が向かっているが、やれるか?」
自分の場所が分からないようにカズマは静かに通信機に向かって言った。
答えたのは屋敷の守りに就いている舞であった。
「正面玄関は抑えられる自信はあるけど。流石に、裏手に回ったのは難しい」
玄関から入れないとなると、屋敷の周囲に回るのは当然の事。
屋敷の窓は木材などで堅く閉じてあるので簡単には破られないはずだが、時間稼ぎにしかならない。
「それで構わない。裏に回ってくるのを、駆除し続ける」
「分かった。それじゃ、全力で正面は守る」
正門に群がってきた小鬼共の行く手を遮るように駆け抜けると同時に舞は剣を振るう。
自身のマテリアルを毒へと変質させたものを仕込んであるので、毒に対抗できる手段がなければ、そのうち倒れるだろう。
その時、屋敷の方から悲鳴が聞こえた。慌てて振り返ると、回り込んだ小鬼の幾体かが、正面玄関を武器で叩き壊そうとしていたからだ。
簡単には玄関を壊されないだろうが、外の状態が分からない村人らにとっては恐怖の瞬間だろう。
「行かせる訳ないだろ!」
鬼の形相で剣を振るい続ける舞。
その手強さに諦めた幾体もの小鬼らは、屋敷の裏へと回る。
だが、最後まで裏に回れた小鬼はいなかった。
「これだけの数だ、そんなに統率はできていないと思うからな。そして、率いる立場の奴もな」
見つからないように小鬼の死骸を建物の影に投げ捨てるとカズマは目を細めた。
序盤は敵の作戦に押されたが、それだけの事だ。統率している者を倒せば、後はただの小鬼なのだから。
●
寡兵であるハンター達は、それぞれが別の場所で戦う事を選んだ。
通信機があるから孤立はしなかったが、同時に小鬼共にとっては塞がる障害にもならなかった。
「背後ががら空きなのは、本当にバカね」
口元をニヤリと歪めながら、クリスは拳を突き出した。
放出されたマテリアルが小鬼を貫いていく。
「抜かれた時はどうしようと思ったけど」
幸運な事にハンター達の作戦は中盤以降、思わぬ形で役に立った。
屋敷を目指す小鬼共は自分に被害がない限りは正面しか向いていないからだ。
おまけに、立ち塞がったハンターを物理的に完全無視できないので、足並みが揃わなかったのも大きい。
クリスは1体掴むと、それを駆け抜けようとした一団に向かって投げつけた。
「どこいくのよ!」
小鬼の一団は足を止めた。
すると、傲慢小鬼が配下に“命令”する。ただの命令ではない【強制】だ。
それで小鬼共は獲物を手に一斉に向かってきた。小鬼は死も恐れぬ戦士となったのだ。
「ゴブリン程度が傲慢の能力使えてるって……ヤバいような気がするんだけど」
如何に覚醒者であっても死を恐れぬ相手に戦い続けるのは危険だろう。
そこへ、颯爽とざくろが割って入る。
デルタレイを放って傲慢小鬼と強制小鬼を攻撃した。その威力に、傲慢小鬼はざくろの存在を脅威と感じたようだ。
「傲慢小鬼は、ざくろが相手するから」
襲い掛かってきた強制小鬼を攻勢防壁で吹き飛ばしながら、魔導剣の剣先を傲慢小鬼へと向けた。
傲慢との戦いには成れているつもりだった。高位の傲慢でなければ負けるつもりもない。
「※▲凸〇●◇※※!」
何かを叫ぶ傲慢小鬼。
ざくろに負のマテリアルが強烈な圧となって降りかかる。【強制】の能力だ。
だが、何事も無かったようにざくろは魔導剣を高く掲げた。
「魔導術剣、悪鬼両断ッ!」
マテリアルを流し巨大化したした剣で傲慢小鬼を真っ二つにする。
残った小鬼共の士気が崩壊――しなかった。一度に多く倒されなければ、力量の違いというものを理解できないようだ。
村の南側から攻め寄せてきたのが、小鬼共の“本隊”なのだろう。
まずは北側からの助攻で村の注意を引いて、その後、主攻である本隊が南側から制圧する予定だったと推測できる。
「最初から、村人を一人も逃がさないつもりだったのね」
リリアは発煙手榴弾を煙幕代わりに出しつつ、苦無を投げる。
マテリアル操作により、幾体のも小鬼を巻き込む。次々に倒れる小鬼だが、煙が邪魔して他の小鬼らには倒された正確な数は分からなかったようだ。
「それにしても、本当にキリがないですわ、なの」
10体以上は確実に倒している。村に攻めてきている小鬼の数は軽く50を超えているだろう。
次の標的を見つけ、デリンジャーを構えた時だった。
「屋敷の小鬼が逃げ出していく!」
それは舞からの報告であった。
奮戦を続ける舞と回り込んだ小鬼をひたすら影ながらに倒し続けていたカズマの戦いに小鬼が今頃になって勝てないと感じたようだ。
「追撃を仕掛ける。一匹残らず駆除だ」
「こっちからも見えるのね。南側に向かって敗走してくるみたいだから、邪魔して川の方に誘導するわ、のね」
カズマからの連絡に、リリアは頷きながら、武器を構えて通りに躍り出る。
屋敷の方から我先に逃げ出してくる小鬼に向かって威嚇でデリンジャーを撃つと、驚いた小鬼が迂回するように進路を変える。
「そっちでもねぇよ」
路地に入り込んだ小鬼はカズマが容赦なく蒼機刀を突き立てていく。
疾影士としてのスキルは、移動も潜伏も駆除も十分に過ぎる程、活かされていた。
アルトは数体の傲慢小鬼と対峙していた。
小鬼共が戦意を喪失したと奴らが知って逃亡を図る前に殲滅すべきだと判断する。
「かつて、私が倒した大渓谷から出てきたゴブリンの王は、誇り高い戦士だった」
少なくとも配下に任せて後ろから出てくるタイプではなかった。
目の前の傲慢小鬼共は言葉も通じず、次に誰がアルトに挑むか、押し合いしている程度の存在だ。
「奴と同じ場所に住んでいるお前らは警戒してたんだが……奴と比べれば話にならんな、弱い」
失望という事はこういう事なのだろうなと心の中で呟いた。
炎の様なオーラをアルトは纏う。傲慢小鬼は残しておくと同じ力を持つ者をまた増やすだろう。
「消え失せろ。この世界から、いや、大峡谷から」
一瞬、彼女の姿が消えたとも思える速さで、傲慢小鬼共の間を駆け抜けた。
その後に残ったのは、負のマテリアルの血飛沫だけだった。
●
傲慢小鬼もそうでない小鬼も、村に攻め寄せてきた小鬼は全て倒しきった。
「大丈夫。無事に逃げ出した小鬼は居ないみたい」
ざくろがファミリアズアイを使い、空を飛ぶ相棒の視覚を通して村周囲を確認していた。
“伝説”は“伝説”のまま。この村の脅威は無くなっただろう。
「ゴブリンがいなくなったとしても、別の歪虚が来るかもしれない」
「傲慢の力を与えた歪虚もいるかもしれないわね」
村人達に話している舞の台詞を補足するようにクリスが言った。
当面の脅威は去った。だが、今回の事件に歪虚が潜んでいたとしたら、今後の脅威となり得るだろう。これはハンターオフィスには大きな報告案件になる。
「ハンターを雇う費用も馬鹿にならないだろ? 自分達でどうにも出来ないなら素直に避難した方がいいと思うけどね」
「……やはり、そうか」
「しかし、全員で移動するのもな」
舞の説得に村人達は頷く。村の破滅を感じたからこその意識の変化だろう。
リリアが人差し指を立てた。
「そうそう、予算と内容の整合性はちゃんと考えるべきなのよ」
今回はたまたま、ハンター達が集まり間に合ったが、次も同じとは限らない。
小鬼共の死体を荷車に乗せ、戦闘の後片付けをしているカズマは表情を変える事なく呟いた。
「“コレ”はアフターサービスだ」
村はずれに埋めてくるのも、それはそれで労力だ。
荷車を引っ張って歩き出したカズマを手伝うように、アルトが荷車を後ろから押す。
小鬼共の血生臭さが鼻を突いた。
「一先ずは依頼達成か。私達は村人を守れたんだな」
「そうだな……憂いなくな」
荷の重さにひしゃげそうな車輪が立てる音を聞きながら、ハンター達は村を後にしたのだった。
ハンター達の活躍により、村は大きな損害を受けなかった。
また、全ての小鬼を逃がさず討伐に成功し、今後の村の安全も確保されたのであった。
おしまい
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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MVP一覧
- 虹の橋へ
龍崎・カズマ(ka0178)
重体一覧
参加者一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/09 07:29:18 |
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相談 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/04/13 22:51:00 |