• 王戦

【王戦】峡谷の戦い

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/19 09:00
完成日
2019/04/24 19:16

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング


 リゼリオから港町に戻った紡伎 希(kz0174)は、魔法陣偽装中のフライングシスティーナ号をドッグ外から見つめていた。
 王国内の魔法研究所と協力して、船を飛ばすという。
 作業は順調のようだ。近日中には試験を兼ねての飛行も予定していると、嬉しそうに騎士ノセヤが言っていた。
「……ノセヤ様は、空の研究所の話になると表情が明るいですよね」
「そ、そうですか?」
 少し慌て気味にノセヤがこめかみの辺りを掻く。
 所長が美人だとか、あの真面目なノセヤの事だから、女性より、きっと魔法の事だとか、影で色々と言われ放題なのを、きっと、ノセヤは知らない。
「兎に角です。王国東部に傲慢歪虚の軍勢が集結しています」
「もの凄い数だと聞いています」
 傲慢歪虚であり、傲慢王イヴに最も近い存在と自称するミュール(kz0259)の仕業だ。
 ミュールは無数の分体を作り、【変容】で簡易歪虚門を開く――そこから、傲慢歪虚を召喚している。
 達が悪いのが、召喚された傲慢歪虚には、更に別の歪虚を召喚できるという能力を持つ事だ。
 傲慢王族“シャー”が傲慢貴族“ファルズィーン”を召喚し、傲慢貴族は傲慢騎士“アスブ”や傲慢兵士“ピヤーダ”を召喚する。
 数えるのも馬鹿らしい程の戦力になっているはずだ。
 また、門からは傲慢巨象、傲慢戦車、傲慢幼女といった存在も出てきている。
 もはや、ミュール軍と言っても過言ではないだろう。それだけで、王国軍を凌駕しているかもしれない。
「敵の数が多いのは分かっている事です。まだ、仕掛けては来ないでしょう」
「そのうち、仕掛けてくるでしょうか?」
「当然ですよ。傲慢歪虚は王都に必ず攻めてきます。それも、圧倒的な物量でと読んでます。彼らが傲慢――アイテルカイト――である限り」
 歪虚としての性質が大きく変わる事はない。
 特に今回は傲慢王の軍勢が敵なのだ。絶対的な差を見せつけてくるだろうとノセヤは予測していた。
「ただ、こちらもジッと待っている訳にもいかないですけど……」
 ノセヤが苦笑を浮かべて希に一通の書類を手渡した。
 サッと中身を確認する希。
 書類には、敵戦力を推し量る威力偵察を実施する旨が書かれていた。
「血気盛んな者が多いのも事実。意味があって待機していても、魅せるというパフォーマンスが必要な人達がいるという事です」
「大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫ではないので、希さんをお呼びしました」
 下手をすれば敵の大軍に襲われて全滅しかねない。
 そうなれば、全体の士気にも関わる。
「分かりました。アルテミス小隊、威力偵察を行う王国軍を支援します」
「かなり、危険だと思いますが、よろしくお願いします」
 こうして、その日のうちに、アルテミス小隊は陸路で現地へと向かうのであった。


 王国東部のある森の中、威力偵察を強く訴えていた貴族の私兵隊が進んでいた。
 アルテミス小隊は小隊長である希が、新たに配属された隊員達を率いて、貴族私兵隊の後方に陣を構える。
「深く入らないうちに帰って来てほしいです」
「ノゾミ隊長~。シチューが出来ましたよ~」
 呟きながら森奥を見つめる希に、隊員が声を掛けた。
 そろそろ昼食という事なのだろう。春の爽やかな風がシチューの香りを運ぶ。
「ありがとうございます」
 希は“魔装の鞘”を大地に打ち込んで安定させると両手でシチューを大事そうに受け取る。
 貧しい生活を過ごしてきた希にとって、食事を戴けるというのは尊い事なのだ。
「っほんと、うちの隊長は丁寧だよな~」
「おまけに可愛いし。俺、この隊に配属された時はどうしようかと思ったのによ」
「お前、切り替え早すぎだって」
 隊員らが揶揄いあう風景も、今となったら慣れてきた所だ。
 一度壊滅したアルテミス小隊の再出発は容易なものでなかった。覚醒者は存在自体が貴重であり、今、隊を構成するほとんどが非覚醒者だ。
 逆に言うと、希が覚醒者だからこそ、隊員らの信頼もあるのかもしれない。
「隊長、そう言えば、そろそろ、ハンター達が到着するんじゃないですか?」
 一人の隊員がそう告げる。
 相手は傲慢歪虚なのだ。万が一の事を考えて、アルテミス小隊はハンターに同行依頼を出していた。
「そうですね」
「……隊長の笑顔、初めて見た気がする」
「え?」
 隊員の唐突な言葉に驚く希。
 知らず知らずのうちに顔に出ていたのか。
 気恥ずかしくなって少し俯いた時だった。穏やかな時間を裂くように、悲鳴が響いた。
「総員、戦闘準備!」
 シチューを丁寧に置きながら、希は命令を下すと“魔装の鞘”に手を触れる。
 悲鳴は森の奥から聞こえて、こちらに迫ってくる。威力偵察に出ている貴族の私兵になにかあったのだろうか。
「た、助けてくれぇぇぇぇ!」
 森の中から、ズタボロになった貴族が姿を現した。
 恐らく、功を焦ったのだろう。幾人もの負傷兵と共に雪崩れ込むように陣へと入ってくる。
「追撃は!?」
「隊長、森の中にいっぱいいるぜぇ! やべぇよ!」
 元猟師という隊員が目を細めながら叫ぶ。
 貴族私兵が撤退しながら敵を引き連れてしまったようだ。
「物資を並べて壁にして下さい! 負傷者から先に撤退を!」
 希は“魔装の鞘”を展開し、魔導剣弓状の武器を手に取った。

リプレイ本文


 峡谷に到着した一行の視界の先、傲慢歪虚とアルテミス小隊の戦闘が見える。
 長くは保てない……そう感じる事が出来た。一刻も早い救出が必要だろう。
「思う所がないではないが、今は急ぐ!」
 魔導エンジンを積み込んだママチャリのペダルを踏みこむ瀬崎・統夜(ka5046)。
 並みのバイクや戦馬よりも早いので驚きである。
「俺も小隊員の1人だしな。同じ隊員を助けるのは義務……だろう」
「そうだね……これは早速というか、急行しなきゃだね」
 瀬崎の後ろを走る十色 エニア(ka0370)が頷く。
 アルテミス小隊は紡伎 希(kz0174)以外、覚醒者はいないのだ。
「馬は場合によっては危ないから、橋の手前までかもしれないけど」
 傲慢歪虚が扱う【強制】の能力の中には、騎乗している馬などがハンターとは別に影響を受ける場合もあるからだ。
 橋の手前まで行って馬から降りるというのは賢明な判断だっただろう。
 それは、【強制】の能力を受けた事もあるソフィア =リリィホルム(ka2383)も分かっていたようだ。
「また、厄介な事に巻き込まれてますね!」
 状況的にアルテミス小隊に落ち度は無かっただろう。
 あるとすれば威力偵察を敢行した貴族だ。
「とはいえ、大事な依頼人様で戦友ですから。助けに行くまで持ちこたえてくださいよっ…!」
 ソフィアにとって希は魔装の鞘の作成を依頼してきたお客様であり、かつ、“あの歪虚”との戦いを続ける戦友でもある。
 手綱を握る手に思わず力が入る。
 一刻も早く到着したいという気持ちは、Uisca Amhran(ka0754)と央崎 遥華(ka5644)も同様だ。
「アルテミス小隊は傲慢勢力との決戦の要の1つ……ここで小隊の人達に被害を出させるわけにはいかないっ」
「そうですよね、アルテミス小隊は、今や貴重な戦力。……私にとっても、大切な場所だから」
 ようやく戦力として立て直した小隊だ。
 ここで、何かあれば、きっと、後々の戦いに響いてくるだろう。
「谷をどうやって越えるか……ですけど」
 守護者としての力を解放すると、Uiscaはブースター機構が組み込まれているアクセルアックスを掲げる。
 Uiscaが一見シュールな様子で加速していく姿を見ながら、遥華は魔導バイクのスロットを全開に回した。
「威力偵察って……こういうのはハンターに任せれば良かったのに」
 無駄な事を実行した貴族には少し呆れてしまう。
 傲慢――アイテルカイト――よりも、傲慢なのかもしれない。
 先に進む仲間達の背を追い掛けながら、アルマ・A・エインズワース(ka4901)が叫ぶ。
「わふーっ、希さーん! …って、どうしてこんな事になってるですー!?」
 状況が良くないのは一目で分かった。
 だからこそ、叫ばずにはいられない。
「自転車より遅いですー!」
 哀しきかな……彼が乗ってきたのは、秘められたマテリアルの力が解放された魔導ママチャリではなく、ただの魔導バイクだった。
 これでは移動力に大きな差があるのは一目瞭然だった。


 移動力に多少の差があったとしても、橋の手前まで全力だったのは悪い事ではなかった。
「くそ……思った以上に、敵の攻撃が苛烈だな」
 真っ先に到着した瀬崎は、吊り橋とその先に待ち構えている傲慢歪虚を観察する。
 敵はすぐにでも魔法や射撃が出来るようにも見えた。
 狭い吊り橋の上では攻撃を避けるのは不利だろうし、何より、退路である橋を攻撃される事で、吊り橋が破壊される恐れもある。
「一気に渡りきれば、行けるはずです」
 Uiscaが言うように、要は橋の途上で立ち止まる事なく、駆け抜けてしまえばいいのだ。
 もっとも、一人分程度の幅しかない吊り橋だ。馬やバイクは当然の事、ママチャリでの通過も難しいだろう。
「行きますッ!」
 それでも、守護者としての力を解放したUiscaは、一気に駆け抜けた。
 激しく揺れる吊り橋を眺めながら、エニアと遥華の二人は頷きあうと、仲間にマジックフライトの魔法を掛けていく。
 魔箒を忘れた者もいたからだ。ここに来て、準備不足が思わぬ手間となっていた。
 谷を越える手段の統一不足が響いた。これが吊り橋からではなく、もっと早く谷を渡っていれば別だっただろう。少なくとも、マジックフライトで空を飛ぶ分には、騎乗している有無は関係無かったのだから。
「まぁ、今更だけど……」
 エニアは小さく呟いた。
 もし、遥華が居なかったら、あるいは、二人がマジックフライトの魔法をセットしていなければ、もっと大変な事になっていたかもしれない。
「持続時間に気を付けて下さいね」
「空中から敵を確認している時間は……あまりなさそう、かな?」
 拡声器を握り締めたソフィアが空中へと上がる。
 こうなった以上、一刻も早くアルテミス小隊の陣地に向かうのが得策だろう。
 マジックフライトの魔法を受けたハンター達は空から谷を渡るが――。
「わふ! 危ないですよ!」
 敵の攻撃に対して、アルマが盾を構えた。
 空中では地上よりも行動が制限されてしまうので、ただの的になってしまう可能性もある。
「敵軍と目線が合わない高さで谷を渡りましょう」
 空飛ぶ能力を杖に付与しつつ、遥華が仲間に呼び掛ける。
 少なくとも、敵の視界に入らなければ、直接的に攻撃を受ける事は無いだろう。

 一方、真っ先に谷を渡り切ったUiscaは一足先にアルテミス小隊に合流していた。
「ノゾミちゃん、助けに来たよ!」
「イスカさん、ありがとうございます!」
 希の元気な様子に一安心しながら、Uiscaは守護者の力を行使する。
 大精霊が司る“勇気”の加護を与えるそれは、【強制】対策と同時に、隊員達の傷を回復させた。
「隊員全員を連れて、帰還するのが隊長の役目だよ」
「はいっ! 吊り橋を渡る為にも、一度、攻勢に出ないと……」
 少なくとも敵の射程圏内を後退させる必要があるだろう。
 “覇者の剛勇”で回復したとはいえ、深手を負った兵士も出てきている。
 もう少し、合流が早ければ……あるいは、敵の注意を引きつけていたら別だっただろう……。
 ハンター達に戦術的な動きが煮詰めきれなかったのかもしれない。
「それじゃ、逃げる時間を作りましょ。倒さなくていいのなら、回避型の見せ所……!」
 奏唱士の力を使い、仲間達を援護しつつ、エニアが前線に出る。
 敵の射撃を避けつつ、範囲魔法を唱えた。
「……大地よ、永久不滅の不屈の理りを奏でよ!」
 紫色の光を伴う重力波が敵の一団を覆った。
 直後に幾つかの【懲罰】による反撃。それは、回避可能なものと抵抗可能なものが入り混じっていた。
 ことごとく、避けるか抵抗するエニア。続いて、遥華のブリザードが続く。
「オーケー? 突っ切るよ! 援護する!」
 敵は基本的には【懲罰】を使った直後には、同じ能力を使えない。
 二人の術士による攻撃魔法で、移動と行動のバッドステータスを受けた傲慢歪虚の動きが緩慢となった。
 直後、アルマの機導術が“それらの敵”を粉砕していく。
「この歪虚さんたち、そんなに強くないですっ。わらわらいっぱいなので、じゅっとしちゃうですー!」
 傲慢兵士が思った以上に強くないようだが……。
 表情というものが見えないが、傲慢貴族が立ち位置を微妙に変える。どうやら、アルマがもっとも脅威な存在だと認識したようだった。
「敵も馬鹿じゃないって事か」
 瀬崎が魔導銃にマテリアルを流しつつ、呟いた。
 【懲罰】はハンター達の言う所のリアクションスキルに該当する。どの相手に使うのがもっとも有効なのか判断して行使する事が可能なのだ。
 アルマの殲滅力が強力過ぎるからこそ、最も警戒されるのは道理である。
「しかし……行動不能させても次から次へと……」
 視線を森の方へと向ける瀬崎。
 遥華は傲慢貴族の魔法に対し、カウンターマジックで対抗しつつ、森の奥から湧いて出てくる傲慢歪虚を見つめる。
「……きりが無いですね。できるだけ早く撤退しないと」
 敵の攻撃を少しでも避けられるようにと、自身に風の力を付与した。
 ここに来て、ハンター達の作戦上の統一がなされなかったのが、不利となってきた。
 つまり、阻害による敵の足止めか、あるいは殲滅による敵線の後退か、半端になってしまったのだ。
「ゴミのように燃え尽きろってんだよ!」
 撤退を開始した小隊の動きを読んで、いよいよ、吊り橋を封鎖しようと展開してきた傲慢歪虚に向けて、ソフィアが機導術を放ち、牽制する。
 傲慢貴族の魔法攻撃に対しては宝術で回避できているが……問題があるとすれば、効果時間が短い所だ。
 ソフィアは攻撃魔法と宝術を交互に使うようであった。だが、そのおかげで兵士達への範囲攻撃の影響が抑えられている。
「こうなったら……帰路を照らす蒼光となれ! 顕現せよ、蒼き太陽!」
 倒しても倒しても、次々に出現する敵の数に対して、ソフィアは星神器を掲げた。
 幾つもの極めて強力な爆発が発生し、多くの傲慢歪虚を攻撃する。だが、同時に、ソフィアも無事ではなかった。
 個別の指定を避ける事によって【懲罰】の識別から逃れようとしたが、少なくとも、ここに存在する傲慢歪虚には該当しなかったのだ。
 【懲罰】の使用タイミングは敵が決める事であり、同時多数の範囲攻撃に対し、一斉に【懲罰】を使う方が効率良いと判断できる敵なら、使ってこない訳がない。
 数多の反撃を全て捌ききる事ができず、ソフィアは崩れ落ちる――前に瀬崎が支える。
「小隊員と共に引く」
「僕が盾になるのです!」
 引きずるようになんとか吊り橋を渡ろうとする仲間を援護する為、盾を構えてアルマが敵の攻撃を受け止める。
 ハンター達の攻勢の間に小隊員らは橋を渡りきる所だ。今回の任務は敵を殲滅する事ではない以上、長居は無用だ。
 立ち塞がったアルマに対し、傲慢貴族が指を向けた。
 猛烈な負のマテリアルがアルマへと襲い掛かる。傲慢特有の能力の一つである【強制】。抵抗に失敗すると命じられたままに行動してしまうのだ。
「愚かなる者よ、崖に飛び降りろ」
 単体指定の【強制】は強度が高いが――アルマが身に着けていた携帯法術陣がマテリアルの光を発した。
「……? あ、それ僕に言ってたです? いやですー」
 【強制】のマテリアルを完全に跳ねのけながら、アルマがベーと舌を出した。

 ソフィアと瀬崎、アルマが敵の攻撃の中、橋を渡る。
 圧倒的な敵の勢いに対して、Uiscaは攻撃魔法と回復魔法、守護者の力を存分に使って時間を稼いでいたが、この状況に、傲慢歪虚が追撃を仕掛けようと橋に殺到してきた。
「先に魔法で飛んで下さい!」
 最前線を支えていたUiscaがエニアと遥華の二人に声を掛ける。
 二人共、魔術師であるので言うほど打たれ強い訳ではない。圧倒的な敵の数の前には危険だろう。完全に包囲される前に脱出しなければならない。
「向こうに着いたら、橋を落とすね」
「希さんは?」
 飛び立ったエニアに続き、遥華がUiscaと共に残っている希に訊ねる。
「私はイスカさんと一緒に行きます」
「無理しないでね」
 頷く少女に微笑を浮かべ、遥華も谷を渡る。
 崖際まで寄せてきた敵が空を飛んで渡ろうとする二人に攻撃してくる。
 どうやら、安全には渡らせてくれないようだ。殿は敵の攻撃を一身に受ける事になる。それは守護者であっても容易な事ではないだろう。
「ノゾミちゃん! 橋が落ちたタイミングで渡るから、捕まって!」
「分かりましたっ!」
 直後、谷を渡ったエニアが大鎌を振り下ろし、音を立てて吊り橋が崩壊する。
 乗りかけていた幾体かの傲慢兵士が無慈悲に落下していった。
「行くよ!」
 揃って駆け出した二人はジャンプするが――飛んだのは、Uiscaだけだった。
 魔箒に捕まったまま、手を伸ばそうとしたが、敵の攻撃が激しすぎて断念する。
「ノゾミちゃん!」
「渡谷の援護をします! 私は大丈夫です。私だって……皆様の力になれますから!」
 それはつまり……最後に残るのが希という事を意味していた。
 魔装を巨大な盾のように展開するとファイアスローワーで傲慢兵士を攻撃し、防御障壁でUiscaを援護する。
 Uiscaは緑髪の少女の言葉を信じ、急いで谷を渡った。
 最後に残った希を助ける為に、崖際から援護する為だ。
 谷を渡りきった所で、呼び掛けようとしたUiscaに視界に、崖から飛び降りる希の姿が見えた。
 止める間もない一瞬の事。最後まで逃がさないつもりなのか、猛烈な攻撃を希が襲うが――少女の無事を祈る力が働き、大きなダメージにはなっていないようだった。
「ノゾミちゃん……あれは機導術!?」
 希の踵からマテリアルが噴出しているのだ。
 ジェットブーツからのアルケミックフライトで飛行しながら、谷底に降りるつもりなのだろう。


「畜生めぇ」
 回復魔法を受けて、なんとか歩けるまで回復したソフィアが悔しそうに呟いた。
 大事に至らなかっただけでも良しとすべき事だが――彼女の攻勢も無ければ、今よりも酷い事になっていたのは確かなのだから。
「ううう……ネルさんと色々話をしたかったのに! これも全部、馬鹿な貴族のせいです!」
 アルマも悔しそうに地団駄を踏んでいた。
 文句を言いたい貴族は既に引き上げているので、文句も言えない。
 おまけに、久々に会えそうだった魔装は、希と共に谷底に降りてしまっている。
「こうなった以上は仕方ない事だ」
 魔導銃を背負い、傷ついた小隊員に肩を貸しながら瀬崎は告げた。
 何事も予定通りにはいかない場合もあるという事だろう。
「希さん、大丈夫でしょうか?」
「ちゃんと谷底に降りたみたいだし、敵も追いかけてこなかったみたいだから、きっと、必ず戻ると思うよ」
 心配する遥華にエニアが答えた。
 帰路が一緒でないと不安ではあるが……ハンター達も怪我した小隊員を見捨てていく訳にもいかないのだ。
「……」
 Uiscaは希に伸ばした自身の手を見つめていた。守護者として強くなっても、完全に守る事が出来なかった。
 しかし、希自身はあの窮地を脱する術を持っていた。希を信じたからこそ、彼女が無事だったともいえるかもしれない。
(……信じてあげられるという事も、きっと、大事な事だよね)
 そう思いながら、Uiscaは振り返って峡谷の方角を見つめた。
 本人の持っている力を引き出し、認める事は、希だけに限らず、アルテミスの小隊員にも、きっと、あの幼い堕落者にも当てはまる事なのかもしれない。
 ふと、Uiscaは対岸に視線を向ける。
 “立札”を今回は見かけなかったが――ミュール(kz0259)の声が聞こえた気がしたからだった。


 ハンター達の援護を受けて、アルテミス小隊員は多数の怪我人を出したが、峡谷からの脱出に成功した。
 また、谷底に降りた希はハンター達とは別経路で帰還するのであった。 


 おしまい。

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MVP一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニアka0370
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754

重体一覧

  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754

参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 救出作戦だよ!
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/04/17 22:52:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/15 10:40:36
アイコン ノゾミちゃんに質問!
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/04/17 06:42:16