【金糸篇】からくり屋敷で遭いましょう

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/26 09:00
完成日
2019/05/02 01:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 嫉妬歪虚・アウグスタは困っていた。
 新しい根城を探して、同盟の森にあるおうちに入ったは良いものの、玄関扉を閉めた途端、妙な音がした。違和感を覚えてドアノブを回したところ……。
「あ、開かない……」
 今日のお供は小型犬サイズの蜘蛛一匹だ。その蜘蛛も、主が困っているのはわかっているようで所在なさげにしている。
「やだぁ。どうしよう……うーん、ちょっとお行儀悪いけど、窓から出ちゃおう」
 彼女は即決すると、蜘蛛を連れて、居間らしき部屋のドアノブに手を掛けようとした。しかし、彼女が触るより先にドアノブが回る。
「あら?」
「良かった! 人が来て! ねえ、あたしたちも閉じ込められちゃって………」
 相手はアウグスタの顔を見るや、希望に満ちた笑顔を強ばらせた。血の気が引いていく。
「アウグスタ……」
 はて。アウグスタは首を傾げた。見た目十歳くらいの少女だ。確かにどこかで見たような気はするが、どこで会っただろう。
「アウグスタ……」
 もう一つ、小さな男の子の声がした。この声は知っている。アウグスタは、少し意地悪な顔をして見せた。
「あら、オネスト。久しぶりね。元気そうで何よりだわ」
 かつて、自分と同じように「迎えが来ないのだ」と言っておきながら、めでたく里親という迎えを得た少年だ。彼の帰り道を大蜘蛛で襲ったが、ハンターたちに邪魔された。小柄な少年は、居間のソファにちょこんと座っている。
「ところで、あなた誰?」
 もう一度少女に目を戻す。
「……あんたがハロウィンで泣いてるから学校まで連れて行ってあげたでしょ! それなのに裏切って! 恩知らず!」
「あ、思い出した! リンダね。ごめんなさい。あの時仮装してたじゃない? 今日の方が可愛いわ」
「え、あ、ありがとう……じゃなくて……もしかして、ここ、あんたのアジト……」
「に、しようと思ってたんだけど、玄関が開かないから不便すぎる。やめるわ」
「あ、そう」
「ところで、私を怖いとか思わないの?」
 アウグスタはにんまり笑いながら、両腕を後ろで組む。
「私、あなたたちに正体が知られているから、もうあなたたちをこの場で殺したって良いのよ」
 蜘蛛が威嚇するようにガチンガチンと脚を鳴らした。
「や、やだ……やめて……」
 オネストが怯えた様子で縮こまる。リンダは腕を組むと、顎を引いてアウグスタを睨み、同じようににんまりと笑った。
「ふん。あたしたちを殺したら、あんたってとってもお馬鹿さんよ。あの暖炉、見てご覧なさいよ」
「暖炉?」
 あまりにもリンダが自信満々に言うので、アウグスタは怪訝そうな顔をしながら暖炉に近寄った。そこのプレートにはこう記されている。

「三人寄れば文殊の知恵」

「なにこれ」
「あんたって、もしかしなくてもお馬鹿さんでしょ! 三人いれば謎が解けるって事!」
 正確な意味は少々異なるが、アウグスタはそれで、突然開かなくなった玄関の扉を開けるのに、この二人の協力がいることに気付いた。不本意そうに、リンダとオネストを見る。
「どうする? アウグスタ。あんたがお利口さんなら……少なくともあたしを騙すくらいのお利口さんなら、どうするべきかわかるわよね?」
「……良いわ。今だけよ。手伝ってあげる」
 こうして、奇妙な協力関係が成立したのであった。
(でも、この子思ったよりお馬鹿さんだなぁ……大丈夫かなぁ……)
 リンダには一抹の不安があるのだった……。


「オネストが戻って来ないんです!」
「リンダさんが学校の賭け遊びの罰ゲームで森に入ったらしくって!」
 オネストの両親と、教師ジェレミアが、それぞれC.J.と平坂みことのいるカウンターで口々に喚いている。
「落ち着いて下さい、お父さん、お母さん。まずは経過を。気付いたのはいつですか?」
「罰ゲームぅ!? どこに行ったかはわかりますかぁ?」
「き、気付いたのは家を出発する二十分前です」
「からくり屋敷のある森です! もうすぐ取り壊されるからって……」
「えっ」
 オネストの両親がジェレミアを見た。
「な、なんですか?」
「うちの近くの森です」
「えっ」
「た、大変だー!」
 そこに第三勢力が現れた。大工の集団だ。
「どうしたかね?」
 三つ目のカウンターに、R.J.が顔を出す。
「解体工事をしようとしていた森のからくり屋敷に、子どもが三人閉じ込められたんだ!」
「その中にオネストは!?」
「リンダさんは!?」
「あ、その二人はいたよ」
「もう一人は名乗ったかね?」
「ああ、名乗った」
 大工たちは頷く。
「アウグスタだって」
 オネストの両親とジェレミア、そして平坂が悲鳴を上げた。


 初動で現場に駆けつけたナンシー・スギハラは、窓の隙間からリンダと話をしていた。
「ハイ、あたしナンシー。あんたがリンダ?」
「そうよ」
「リンダ、どいて」
 そのリンダを、アウグスタがどかした。
「私がアウグスタよ」
「やあ、アウグスタ」
「ねえ、突入するつもり?」
「外から開けてやれるよ」
「それは駄目よ」
「どうして?」
「そうしたら、あなたたちは私を囲むつもりでしょう? ねえ、ナンシー。ハンターは、私たちに人を殺されるのが嫌いよね?」
「そうだね。それは認める」
「三人いれば謎が解けるみたいなの。でも、私たちだけじゃ解けるかわからない」
 アウグスタは金色の目を細めた。
「手伝って。私たちが中から仕掛けについて教えるわ。一緒に考えて。ハンターなら、通信機、持ってるわよね? 貸して。少しでも下手な真似をしたら、どちらかを殺すわ」
「……」
 ナンシーも目を細めた。
「玄関が開いたら、先にオネストとリンダを出してあげる。どうかしら?」
「あたし一人じゃ決められないな」
「時間稼ぎは駄目」
 金属音と、オネストの細い悲鳴がした。近くで子どもを勇気づけようとしたオネストの両親が、卒倒しそうになる。
「あんたはどうするの? 三人いないと解けないんだろ? 報告書で読んだよ。三箇所同時に押さないといけないところがあるって」
「私一人が閉じ込められたら、それこそあなたたちには好都合の筈よ。どうして"Si"と言わないのかしら? 小細工?」
 再び金属音。今度はリンダが息を呑むのが聞こえた。
「……わかった。乗ったよ。その代わり、妙な真似をしたら、その時は突入する」
「交渉成立ね」
 アウグスタは満足そうだ。
「通信機を貸して」
「リンダじゃないと貸せないな」
「リンダ」
 呼ばれて、再びリンダが窓の前に来る。ジェレミアと目が合った。
「先生、ごめんなさい」
「リンダさん、頑張って。僕のお守りも貸してあげる」
 ナンシーから通信機とお守りを受け取ると、窓が閉められた。

リプレイ本文

●ハヤテの誘導
「ヤッホーテステス聴こえるかい? なるべく分かりやすいように誘導するからね。出るまでは遠足気分で行こうじゃないか」
 フワ ハヤテ(ka0004)は、通信機で朗らかに話しかけた。
「う、うん。よろしくね。あたしリンダよ」
「ボクはフワ ハヤテさ。よろしく頼むよリンダ」
「ハヤテくんて言うのね、あなた。覚えたわ」
 アウグスタの声もした。
「嬉しいね。じゃ、行こうか。今どこだい?」
「居間にいる」
「居間か」
 ハヤテは細い指先でぺらりと資料をめくった。
「暖炉があるかな?」
「ある」
「三つのボタンがあるのわかるかい? 三人で同時に押せばいいんだ。結構強く押さないとだめだから一人で二つ押すのは難しいよ。じゃあ、アウグスタ真ん中、オネストは右、リンダには左を押してもらおうかな」
「何か意味があるのかしら?」
 アウグスタの声がする。ハヤテのことはあまり警戒していないらしく、声はややいつもの無邪気さを取り戻していた。

 鞍馬 真(ka5819)とイリアス(ka0789)は玄関前で待機している。二人とも、自前の通信機で会話は傍受していた。
「アウグスタ、フワさんのことは警戒してないみたいだね……」
「そうね……ハヤテさん、いつもにこにこしているから、それでかしら?」
 真はアウグスタに警戒されている自覚がある。もしおかしな方向に進みそうになったら、反発されることを利用して誘導を試みるつもりだった。
「そういえば人質をとってるのは初めてだったのねえ……すぐに危害を加えないあたりはやっぱりいい子……? なのかしら……?」
「いい子の概念が迷子になりそうだね……」
 どちらかと言うと、暖炉に書いてある「三人寄れば文殊の知恵」で三人組を維持する目的なのだろう。用済みになったら何をするかわからない。
「じゃあ、せーので押すね。オネスト大丈夫? せーの!」
「どうかな? これで隣の部屋が開いた筈さ。行ってごらん。ああ、次の部屋は鏡張りだからね。入り口に一人……そうだな、リンダが良いかな。残ってくれ。出口がわからなくなってしまうからね」
「わ、ほんとだ。全部鏡じゃない。目が回りそう。アウグスタ、オネストに変なことしないでよ?」
「しないわ。だって三人いないと駄目なんでしょう?」

●のけもの
 隣室に入って、リンダは入り口に背中を預けて残った。床にボタンがあると言う。それを、アウグスタとオネストの二人で探している。
「……リンダ、聞こえるかい?」
 ハヤテの小声がトランシーバーから聞こえた。
「うん」
「アウグスタは聞いてそう?」
「聞こえてるわよ」
 アウグスタが振り返った。彼女はそのままリンダに近寄ると、トランシーバーをもぎ取って送話ボタンを押す。スピーカーで話しているようなものなので、聞かれる可能性は考えていたが。
「リンダと内緒話? 何かしら。私には聞かせられない話? 真くんならともかく、ハヤテくんが私をのけ者にするなんて。なんっだっけ、食えない人、とか言うのよね? 何かズルでもするつもり?」
「私ならともかくってひどいじゃないか。君をのけ者にしたことなんてないよ。それより、オネスト一人にボタンを探させて良いのかい?」
 真が苦笑して口を挟む。のけ者にするなんてとんでもない。速やかに排除しないといけないのだから。
「……」
 アウグスタは通信機をリンダの胸に押しつけた。やがて、オネストがボタンを見付ける。
 紙の束が降ってきた。

●落とし穴へ
「参ったね。これでボクも少し警戒されてしまうかな?」
 ハヤテは一度通信を切って肩を竦めた。
「あんまり参ってるように見えないんだけど」
 ライフルを担いだナンシーが苦笑している。その傍らには、まだ傷の跡が生々しいレイア・アローネ(ka4082)が待機していた。
「アウグスタを前にして負傷をしてしまうとは……」
「そう言うこともあるよ。人質保護が一人じゃ心細いから、あんたがいてくれた方が良いね。無茶はさせらんないけど」
「ねえ! なんか紙の束落ちてきたよ! これどうするの?」
「まず千切って、入り口の目印として置いておくんだ。それから、紙束の中に三本あるね? 入り口に近いのをオネスト、そこから右回りにアウグスタ、リンダで引いてくれ」

 ハヤテが二度とも場所を指定したのには、理由がある。
 階段四段目に仕掛けられた落とし穴。そこにアウグスタを落とすためだ。

「じゃあ次は二階だね。階段にも仕掛けがある」
 それを聞いて、真とイリアスは目を見交わした。これで落とすつもりだ。真は改めて剣を握り直す。イリアスも、拳銃を持っていつでも突入の構えだ。
「なんか危ないなぁ、この家。なんでこんな家作っちゃったんだろう」
「はは、もうこの家を作った人は亡くなっているらしいからね。闇の中、と言うやつさ」
「それで、どうしたら良いの?」
「それぞれの段の壁を押すと軽く凹んで次の部屋の鍵が開くって手筈さ。オネストは二段目右、リンダは三段目左、アウグスタは四段目右の壁をそれぞれ押してみてくれ」
 ハヤテはそこで、送話を解除する。
「これで落ちるといいね!」
「へんなの」
 アウグスタが呟くのが聞こえた。二人は固唾を呑んで中の様子に耳を澄ましている。
 とん、とん、とん。三段目まで上がる音。

 次の瞬間、ガコッと板が外れる音がして、すぐに悲鳴が上がった。

●リンダの殺意
 リンダは、目の前で四段目の階段が開き、アウグスタの細い身体がその中に吸い込まれるのを見た。しかし、嫉妬の少女はすんでの所で階段の縁を掴む。
「きゃあ!?」
(上がって来ちゃう)
 リンダは頭の中が真っ白になった。戻って来たら、この子、何をしでかすだろう。殺される。蜘蛛が走り回っていた。
(落とさないと)
 彼女は持っていたトランシーバーを、縁に捕まるアウグスタの手に叩きつけた。
「落ちちゃえ! あんたなんか! 落ちて死んじゃえ!!!!!!」
 絶叫しながら何度も、自分より小さな手を潰すように叩く。斧があれば簡単に切り落とせるのに。アウグスタも喚いていたが、やがて耐えきれずに落下した。
 リンダの声を聞いて、真とイリアスが突入しようとしたまさにその時だった。

 この世のものとは思えない叫び声が、地下から轟いた。

●死の悲鳴
 死を感じさせる悲鳴だった。それがアウグスタだと知っていてもなお、誰もが一瞬、任務の失敗を感じてしまうような……断末魔と呼んで差し支えのない悲鳴。
「え? 死んだ?」
 ナンシーが思わず呟く。それからすぐに玄関待機の二人に向かって、
「突入!」
 真はすぐにドアを開けた。アウグスタがどうなっていても、「死」の気配がするなら急がなくてはならない。本能に急かされている。同じ人間の危機に。
 イリアスも続いた。階段に駆けつけると、肩で息をしている、血走った目のリンダがこちらを見る。トランシーバーは壊れていた。オネストは泣きわめいている。
「リンダ、無事かい?」
「大変! 怪我は、ないかしら?」
「な、ないわ……」
「二人ともよく頑張った。もう大丈夫だよ」
 いつの間にか悲鳴は止んでいた。右往左往していた蜘蛛は、真に斬られて消えた。

●楽しかったかい?
 レオン(ka5108)は、地下から外に続く通路の出口に張っていた。ハヤテなら上手くやるだろうと信じて、ずっと待ち構えている。
(からくり屋敷とは随分妙なところに。なんでこんな所に来たんだろうね、アウグスタは)
 人質の二人には何か話しているかもしれない。案外、見た目通りのところもある。無事に済んだら聞いてみることにしよう。
 下から凄まじい悲鳴がした。一瞬ひやりとする。しかし、あのアウグスタが落下くらいで悲鳴を上げるだろうか?
 どれくらいでこの出口に気付くだろう。レオンはただ待ち続けた。
 やがて、扉の向こうで音がした。アウグスタだろう。アルマス・ノヴァにソウルエッジを掛ける。
「……最悪……」
 扉を開けて、ぼやきながら顔を出したアウグスタは、目の前に優しく微笑むレオンを見て目をぱちぱちと瞬かせた。
「落とし穴は楽しかったかい? アウグスタ」
 何を言われているのか、一瞬わからなかったらしい。しかし、わざと落とされたのだと言うことに思い至って、彼女は目を吊り上げた。怒りのあまり、震える声で言葉を押し出す。
「こ……」
「怖かった?」
「殺してやる!!!!」
 絶叫。金切り声と言うべき甲高い声。
「穏やかじゃないね」
 ハヤテが後ろから軽やかに歩いてくる。その手にあるのは、資料ではなく、星神器キタブ・アル・アジフ。
「騙したわね! いつも親切な人みたいな顔して!」
「おや、そんな顔をしたかな? とんと覚えがないな」
 肩を竦めて魔導書を開く。アウグスタは目の前にいるレオンに頭突きを食らわせようとした。レオンはコギトでそれを防ぐ。アウグスタは鞭を取り出すと、腕だけ出して振るった。ぱしん、と軽い音を立てて地面を打つ。するとどうだろう。その本体に、負のマテリアルが伝達されたのを、二人は見た。歪虚のソウルエッジと言うべき技だろう。
「これで絞め殺して木に吊るしてあげる!!!! 鳥に目玉から食べられちゃえば良いんだ!!!!!」
 度を越した怒り。喉がすり切れんばかりの絶叫。真とイリアスが合流した。
「やあ、リンダたちはどうした?」
「ナンシーさんとレイアさんに預けたわ」
 アウグスタが飛び出した。狙うのは、自分を落とすように仕向けたハヤテ。ガウスジェイルは間に合わない。
「フワさん!」
「危ない!」
 真がその間に割って入った。イリアスも、片膝を突いてエア・スティーラーを撃つ。妨害射撃だ。良いタイミングで飛んだ弾丸は、真に振り下ろされた鞭を弾き飛ばした。
 アウグスタはじりじりと後ずさる。形勢不利と悟ったのか、指笛を鋭く吹いた。蜘蛛の増援でも呼んでいるのだろうか。ハンターたちは身構えたが、少し待っても蜘蛛が来る気配はない。
「怖い怖い。ボクはあまり戦闘向きではないからね。そこで大人しくしてもらおう」
 ハヤテが収束魔で対象を絞ったグラビディフォールを発動した。アウグスタに重力波が襲いかかる。
「──効かないわ!」
 その重力の強制を、アウグスタははね除けた。ハヤテは肩を竦める。
「そうか。それは残念」
「フワさん下がって……! レオンさん、行こう」
「うん。そうだね。アウグスタ、おてんばが過ぎるよ」
「あなたたちの! 基準に! 合わせる! ギリも! スジアイも! 私にはないの!!!」
 咆吼。真は二刀流で斬りかかった。アウグスタはそれに気付いて跳び退ろうとするが、ストレリチアが長く伸びて脚に巻き付く。
「えっ?」
 まさか刀が伸びると思っていなかった彼女は、そのまま足を滑らせた。剣を叩きつける。ヒトとは違う、固い手応えだった。柔らかい筋肉組織や脂肪はないだろう。
 やはり、ヒトならざるもの。嫉妬の眷属。真は改めて、敵性存在としての認識を持つ。
「これだから男の子って嫌いよ! 乱暴なんだから! ヘンリーと言い……」
「私女の子だけど……」
 イリアスが発砲した。
「きゃっ」
 蜘蛛の増援を警戒していたレオンは、ひとまずすぐに駆けつけてこないのを見ると、アウグスタに薙ぎ払いを仕掛けた。今度は、イリアスから鞭が飛ぶ。
 アウグスタは目を吊り上げると、ガウスジェイルで準備を整えたレオンに向かった。鞭を軽く手に巻いてピンと張る。目を細めて顎を引いた。
「……あなた、いつもそうやって他人をかばうわね? 私から殴られる覚悟があるのよね? そのつもりで来ているのよね?」
 イリアスが妨害のために銃を構えた。レオンはまた笑顔を見せる。
「君こそ、これだけ悪さをして、ハンターから攻撃されないなんて思っていないよね」
「お互い様ってことね!」
 妨害射撃をすり抜けて、アウグスタはレオンに向かって勢いよく鞭を振るった。

●撃退
 アウグスタは一人ながらもよく戦った。やはり、見た目より戦闘力は高いようだった。とは言え、数の差。アウグスタは押され気味でもあった。
 ハヤテは幾度か、収束魔からのグラビディフォールや、アイスボルトを試みたが、アウグスタはどれもはね除けた。ダメージは入っているが、簡単に行動阻害や移動阻害にはかかってくれないらしい。
「なんだ、遠慮しないで受け取ってくれて良いんだよ」
「なに言ってるのよ!」
 腹が立って、ハヤテに向かって鞭を振りかざすが、真が邪魔だ。その真を排除しようとすると、ガウスジェイルでレオンの盾を殴り飛ばすことになる。
(レオンさん、大丈夫?)
(まだ大丈夫)
 目配せをする。レオンはロザリオの力を借りたヒールで傷を癒した。だが、追いついていない。回復量よりダメージの方が大きい。このままではジリ貧だ。イリアスの妨害射撃のおかげで致命的なところを免れている。
(追い返すしかないか)
 真は剣を握り直した。これで蜘蛛にも来られたらたまったものではない。二刀流で迫る。イリアスがエンタングルを放った。
「いい加減にしてよ!」
「それはこっちの台詞だ」
 馴染み始めた固い手応え。アウグスタは斬られたあたりを押さえながら、イリアスのワイヤーウィップをほどいて立ち上がった。ハンターたちは身構える。
「……もう、気が済んだわ」
 ロザリオを手にしている傷だらけのレオンを見て、鼻を鳴らした。アウグスタは鞭を振るいながら牽制して後ずさる。ある程度の距離を取ると、そのまま踵を返し、鞭を引きずりながら走り去った。
「追うかい?」
 まるでその気のなさそうなハヤテが言った。真とレオンは顔を見合わせる。二人は首を横に振った。
「いや、今日は人質救出が最優先だから、深追いはやめておこう。レオンさんの傷も結構酷そうだし」
「戻りましょう。レイアさんたちも、心配してるわ」

●庇護の迎え
「ああ、あんたたちお疲れ。こっちは無事だよ……激戦だったみたいだね」
 レイアたちの元に戻ると、ナンシーが笑顔で手を振った。
「うん。意外とパワータイプだって言うことがわかったよ」
 レオンが頷いた。オネストとリンダがほっとした顔で出迎える。
「アウグスタは……? 随分と怒り狂っていたようだが」
 レイアが恐る恐ると言ったていで尋ねる。ハヤテが肩を竦めた。
「とりあえず、今日はお帰り頂いたよ」
「しかし、あの悲鳴なんだったのかね」
 ナンシーが腕を組んだ。
「あたし、てっきり地下に怪物でもいたのかと思ったよ。でも、前の報告書にもそんなの書いてなかったからね」
「以前に、落っこちて怖い思いでもしたのかしらね……?」
 イリアスが首を傾げた。
「怖い思い、か……」
 真はアウグスタが逃げた方を振り返る。
「とりあえず、帰ろう」
 事態の収拾を悟ったのか、ジェレミアと、オネストの両親がこちらに駆け寄ってくる。子どもたちは、自分を庇護する大人の腕に飛び込んだ。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 金糸篇読了
    イリアス(ka0789
    エルフ|19才|女性|猟撃士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 死者へ捧ぐ楽しき祈り
    レオン(ka5108
    人間(紅)|16才|男性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/04/26 06:57:31
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/23 21:58:04