ゲスト
(ka0000)
【虚動】Intermission of…
マスター:鹿野やいと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/22 12:00
- 完成日
- 2015/01/30 20:33
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
その部屋は昼間だというのに暗かった。カーテンを締め切っている事もあるが、普段なら使われる灯りが半分以上消されたままなのも大きい。手元の文字を読むのに支障の無い程度の薄暗さ。王城の会議室とは思えない暗さだった。
「やー、参ったよ。実験場ってさ、結構雑魔の襲撃もあるんだよね。まるっきり安全だと思ってたんだけどさ。か弱い僕は逃げることしかできないよ。はは、アダム君、まだ生きてるかなぁ」
人払いをして席につくなり、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)はヘラヘラとそう切り出した。締まりのない表情と台詞の中身が全く一致していない。同席した王国騎士団赤の隊隊長ダンテ・バルカザールは無言のまま片方の眉を吊り上げる。予期せぬ言葉で怒りを充満させつつあった。一方、やはり同席したヴィオラ・フルブライト(kz0007)は目を伏せたのみで、ヘクスの次の言葉を待っていた。2人が呼ばれたのは辺境への臨時派兵に関する会議、となっている。にもかかわらず副長以下を1人もつけずに、しかも城内の奥まった部屋での会議の開催。ヴィオラは薄々、嫌な気配に気付いていた。もしかしたら考えすぎかもしれないが、と彼女は内心で自らを諌める。
ダンテは少しの沈黙にも耐え切れず、ペアウッド製の華奢なテーブルを強く叩いた。
「うちの人間がむざむざ殺されるかもしれねえってのに、会議とやらの出席者はこれだけか?」
今すぐにでも切ってやるといわんばかりの剣呑な声だ。気の弱い者ならそれだけで竦んでしまうだろう。
「色々あってさ、君らしか呼べなかったんだよねぇ。まぁ、戦力的には君らだけでも頼もしすぎる援軍になるんだけどさ」
ヘクスは肩を竦めると、資料として用意した紙束をダンテの前に押しやった。厚さにして40ページ程度だったが、無言になったダンテはスッと紙束をヴィオラのほうに押しやった。深刻な話題の最中だが、ヘクスはしてやったり顔でくすりと笑う。ヴィオラは呆れ顔で二人を見て溜息をついた。
「……話を続けてもらっても良いですか?」
「おっと、ごめんね。それで周辺の雑魔の件だけど――あぁそういえばCAMも何か強奪されたとか何とか、全く嫌なご時世だよね。今まで人間の技術なんか興味も無かった奴らがさ。単純に殴り合っていたいもんだ。いや僕はその時は後ろに引っ込むけどね? CAMか。操られた? CAMってどれくらい動くのか気になるよね、ぜひそのまま我らが王女殿下サマの為に働いてくれないかな」
ヘクスは突拍子もなく話題を飛ばしながら、今回の強奪事件が嫌だと口にする。普段から掴みどころのない性格をしているが、こんな支離滅裂な男だったろうか?
「それでさ、逃げてきた僕だけど、一応アダム君の周りを少しくらいは掃除してきたんだけどね。でもまぁすぐどこかから現れるかな? 何たって辺境は北狄に近いからね、いつ雑魔が現れても不思議じゃない」
ヘクスはちらりとダンテの横に置いた資料を見る。王国では台所事情の関係でヘクスに一任されていた案件であり、人数の少なさもあって情報の流通を把握するのは容易であった。
「聖堂教会が大規模な巡礼団でも派遣して浄化して回った方がいいんじゃないかな? いや冗談だけどさ。はは、そんなのが突然行ったら現地の信仰と全面衝突しそうだ。ま、でも今すぐアダム君が危ないなんてことはないよ。ただ、実験が続けば、分からない」
「今は、彼らの宿舎周りは安全、と」
「他国の宿舎も多分安全だと思うけどね。でもやっぱり強奪事件なんてものが起きた手前、用心しといた方がいいのはあるね」
「王女とセドリック大司教はこの事は?」
「報告済みだよ。エリー……エリオット団長とゲオルギウス隊長にも後で説明する」
歪虚が何を企んでいるのかはわからない。ただ十三魔の口ぶりから察するに、あの実験は歪虚の側に大きく興味を引いてしまった。これで終わりということは考え難い。十三魔と無関係にちょっかいを出してくる歪虚が出る可能性もある。
「何にせよ今回の件、最悪でもアダムと刻令術は失うわけにはいかない。『分かってるね』?」
「難しいことを言うのですね」
「いやー、君らには簡単すぎるんじゃないかな。ただの護衛だからね」
ヘクスは満面の笑みでヴィオラにそう言った。何に気をつければ良いのか。状況は不透明過ぎて、何に注視すれば良いのかすらわからない。わかっているのは、頼れるのは自分達だけという事のみであった。
■
その日、聖堂戦士団は広場で訓練に没入していた。周囲には未だに十三魔襲撃の傷跡が残り、瓦礫も片付かず、仮設のテントには怪我人が大勢納まっている。その最中、型稽古に組み手と徐々に実戦的な訓練に移行する様はどうにも違和感があった。
『何故今頃訓練を?』
疑問を口にした貴方に、ヴィオラは優しく微笑みを返した。
「戦士が有事に備えるのは当然のことですよ。私達は戦いに来たのですから」
それは答えになっていない気がした。この台詞の主が赤の隊のダンテなら理解できる。彼らは優秀な戦士だが、それしか能が無いと言っても過言ではないからだ。対して聖堂戦士団はその多くが聖導士。そして医術に心得のある人物も少なくない。優秀な前衛であると同時に、医者の代わりになれる人材でもある。その彼らが揃って剣と盾を振るい、型の稽古に精を出すのは、何か恐ろしいものを感じさせた。ハンター達の疑念にもヴィオラの笑顔は変わらない。ただ一言「必要なことですから」と答えるのみだった。ハンター達が返答に困っていると、ヴィオラは立ち上がり自らの盾を取った。
「折角です。貴方達もどうですか。手合わせしますよ?」
それは普段であれば願っても無いことではあったが、先程のやり取りの件もある。ハンター達はしばし考え、次の言葉を切り出した。
「やー、参ったよ。実験場ってさ、結構雑魔の襲撃もあるんだよね。まるっきり安全だと思ってたんだけどさ。か弱い僕は逃げることしかできないよ。はは、アダム君、まだ生きてるかなぁ」
人払いをして席につくなり、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)はヘラヘラとそう切り出した。締まりのない表情と台詞の中身が全く一致していない。同席した王国騎士団赤の隊隊長ダンテ・バルカザールは無言のまま片方の眉を吊り上げる。予期せぬ言葉で怒りを充満させつつあった。一方、やはり同席したヴィオラ・フルブライト(kz0007)は目を伏せたのみで、ヘクスの次の言葉を待っていた。2人が呼ばれたのは辺境への臨時派兵に関する会議、となっている。にもかかわらず副長以下を1人もつけずに、しかも城内の奥まった部屋での会議の開催。ヴィオラは薄々、嫌な気配に気付いていた。もしかしたら考えすぎかもしれないが、と彼女は内心で自らを諌める。
ダンテは少しの沈黙にも耐え切れず、ペアウッド製の華奢なテーブルを強く叩いた。
「うちの人間がむざむざ殺されるかもしれねえってのに、会議とやらの出席者はこれだけか?」
今すぐにでも切ってやるといわんばかりの剣呑な声だ。気の弱い者ならそれだけで竦んでしまうだろう。
「色々あってさ、君らしか呼べなかったんだよねぇ。まぁ、戦力的には君らだけでも頼もしすぎる援軍になるんだけどさ」
ヘクスは肩を竦めると、資料として用意した紙束をダンテの前に押しやった。厚さにして40ページ程度だったが、無言になったダンテはスッと紙束をヴィオラのほうに押しやった。深刻な話題の最中だが、ヘクスはしてやったり顔でくすりと笑う。ヴィオラは呆れ顔で二人を見て溜息をついた。
「……話を続けてもらっても良いですか?」
「おっと、ごめんね。それで周辺の雑魔の件だけど――あぁそういえばCAMも何か強奪されたとか何とか、全く嫌なご時世だよね。今まで人間の技術なんか興味も無かった奴らがさ。単純に殴り合っていたいもんだ。いや僕はその時は後ろに引っ込むけどね? CAMか。操られた? CAMってどれくらい動くのか気になるよね、ぜひそのまま我らが王女殿下サマの為に働いてくれないかな」
ヘクスは突拍子もなく話題を飛ばしながら、今回の強奪事件が嫌だと口にする。普段から掴みどころのない性格をしているが、こんな支離滅裂な男だったろうか?
「それでさ、逃げてきた僕だけど、一応アダム君の周りを少しくらいは掃除してきたんだけどね。でもまぁすぐどこかから現れるかな? 何たって辺境は北狄に近いからね、いつ雑魔が現れても不思議じゃない」
ヘクスはちらりとダンテの横に置いた資料を見る。王国では台所事情の関係でヘクスに一任されていた案件であり、人数の少なさもあって情報の流通を把握するのは容易であった。
「聖堂教会が大規模な巡礼団でも派遣して浄化して回った方がいいんじゃないかな? いや冗談だけどさ。はは、そんなのが突然行ったら現地の信仰と全面衝突しそうだ。ま、でも今すぐアダム君が危ないなんてことはないよ。ただ、実験が続けば、分からない」
「今は、彼らの宿舎周りは安全、と」
「他国の宿舎も多分安全だと思うけどね。でもやっぱり強奪事件なんてものが起きた手前、用心しといた方がいいのはあるね」
「王女とセドリック大司教はこの事は?」
「報告済みだよ。エリー……エリオット団長とゲオルギウス隊長にも後で説明する」
歪虚が何を企んでいるのかはわからない。ただ十三魔の口ぶりから察するに、あの実験は歪虚の側に大きく興味を引いてしまった。これで終わりということは考え難い。十三魔と無関係にちょっかいを出してくる歪虚が出る可能性もある。
「何にせよ今回の件、最悪でもアダムと刻令術は失うわけにはいかない。『分かってるね』?」
「難しいことを言うのですね」
「いやー、君らには簡単すぎるんじゃないかな。ただの護衛だからね」
ヘクスは満面の笑みでヴィオラにそう言った。何に気をつければ良いのか。状況は不透明過ぎて、何に注視すれば良いのかすらわからない。わかっているのは、頼れるのは自分達だけという事のみであった。
■
その日、聖堂戦士団は広場で訓練に没入していた。周囲には未だに十三魔襲撃の傷跡が残り、瓦礫も片付かず、仮設のテントには怪我人が大勢納まっている。その最中、型稽古に組み手と徐々に実戦的な訓練に移行する様はどうにも違和感があった。
『何故今頃訓練を?』
疑問を口にした貴方に、ヴィオラは優しく微笑みを返した。
「戦士が有事に備えるのは当然のことですよ。私達は戦いに来たのですから」
それは答えになっていない気がした。この台詞の主が赤の隊のダンテなら理解できる。彼らは優秀な戦士だが、それしか能が無いと言っても過言ではないからだ。対して聖堂戦士団はその多くが聖導士。そして医術に心得のある人物も少なくない。優秀な前衛であると同時に、医者の代わりになれる人材でもある。その彼らが揃って剣と盾を振るい、型の稽古に精を出すのは、何か恐ろしいものを感じさせた。ハンター達の疑念にもヴィオラの笑顔は変わらない。ただ一言「必要なことですから」と答えるのみだった。ハンター達が返答に困っていると、ヴィオラは立ち上がり自らの盾を取った。
「折角です。貴方達もどうですか。手合わせしますよ?」
それは普段であれば願っても無いことではあったが、先程のやり取りの件もある。ハンター達はしばし考え、次の言葉を切り出した。
リプレイ本文
ハンター達の反応はそれぞれであったが、概ねの反応として聖堂戦士団長との手合わせは人気だった。今の自分の力がどれ程のものか知りたい、そう考える上で知りうる限り最高の戦士の1人との戦いは願ってもない事だ。ウォーミングアップを済ませると、まずは米本 剛(ka0320)が前に進み出た。手には日本刀が二振り。クルセイダーらしからぬ速攻の構えだ。
「噂に名高い聖堂戦士団団長殿と相対出来るとは……緊張しますねぇ」
米本は知らず笑みがこぼれる。本人の言うような緊張からではない。強者と相対する歓喜が漏れ出している。対するヴィオラ・フルブライト(kz0007)は何も言わず笑みを作った。米本は頭を下げて礼をすると、2人の間にある間合いを測った。距離は10歩もない。一度動けば互いに必殺の距離となる。米本は大きく深呼吸すると、二振りの剣を抜き放った。
「いざ尋常に……勝負っ!」
米本は二刀を交差させたまま突進し、勢いのままに2本の刀を振り下ろす。対するヴィオラは戦槌を短く持ち替え、盾掲げて左半身を前に出した。
(これは……!?)
米本は盾に刀をぶつけると一歩下がり、刀をもった両手を下げる。米本はヴィオラの周囲をじりじりと回る。攻防は一転して動から静へと移り変わった。
(間合いが見えなくなった……)
ヴィオラは米本に対して常に盾を掲げ持つ構えをとった。これでは盾によって腕の曲げ具合も、戦槌の構え方も見えない。そして狙うべき急所のほとんどが隠されている。距離を取れば近づき、側面に逃れれば追いかけ、そして動きを止めても距離を詰める。
(時間をかけても無為か。ならば!)
米本は再び飛び出した。今度は刀を交互に切り返し、連撃でヴィオラに攻めかかる。その盾の小ささではじきに押し勝てるはずだ。
「!」
米本はヴィオラの唇が小さく詠唱を始めていることに気づいた。この距離で放たれたらただでは済まない。
「ならば切り札を切るまで!」
烏枢沙摩が盾に真っ向からぶつかった瞬間、米本はシャドウブリットを放つ。至近距離からの一撃は確かにヴィオラを捉えたが、彼女は欠片も怯まなかった。ヴィオラは1歩下がって間合いを開き、風車のように構えを切り替え、戦槌を前に掲げる。
「ホーリーライト」
詠うように優しい響きは、眩い光弾となって米本を襲った。間髪なく着弾。米本は両腕でガードしたがこらえきれず吹き飛ばされる。連撃のお返しとばかりに光弾は立て続けに放たれ、足に腕にと容赦なく打ち付けられる。連撃に耐え切れず、遂に米本は尻餅をついた。倒れた米本をヴィオラは追撃せず、両手を前につきだしたままの姿勢で止まる。米本は小さく笑みをこぼすと、刀を持った手の力を抜いた。
「……参りました」
米本は手元の刀をみた。鋭く重くと念じた彼の動きに、彼の刀は追随できなかった。何度もヴィオラの盾と鎧に切りつけたが為に、ひどい刃こぼれを起こしていた。2本の刀はより重く硬い盾と鎧に刃は競り負けた。ヴィオラは倒れた米本に右手を差し出した。
「貴方ほどの使い手は聖堂戦士団でもそう多くはありません。
その刀がもし斧や槌であれば、また違った結果になったでしょう」
その装備で今と同じ攻撃が放てるかは不明だが、ヴィオラ自身がその重さを脅威に感じていたのだろう。米本は立ち上がると礼をし、次の者に場を譲った。
続いたのは姫凪 紫苑(ka0797)。対するヴィオラは部下のヒールを受け、そのまま続投する。
「……今の自分がどれだけ戦えるか……知るチャンスだから……いかせてもらう、ね」
姫凪は愛用のデスサイズを構える。柄の中ほどを持ち、彼女も速攻を旨とした構えだ。ヴィオラの構えは変わらない。それを了承と受け取り、姫凪は駆けた。低い姿勢から一撃が放たれる。ヴィオラがそれを盾でかわすと、すかさず石突で殴りにかかる。ヴィオラはすんでのところでこれをかわした。姫凪は米本よりも更に速い。本来の疾影士なら重さは伴わないものだが、彼女の一撃は疾影士らしからぬ重さ・鋭さを秘めていた。一撃一撃はやや散漫でもあったがその威力が全てを相殺した。攻撃の密度こそ二刀流に及ばないが確実に衝撃がダメージとして蓄積している。ヴィオラもそれで押されたままではなかった。ヴィオラは鎌の一撃をかわしざま、密着距離の姫凪を盾で殴りつける。
「!?」
鎌の柄も余さず使うために密着していた姫凪はかわしきれず、思わず足が止まってしまう。それは疾影士として致命的だった。米本の時と同じく光弾が直撃する。速さのために鎧を身に着ける余裕のない姫凪は、その一撃に耐えることができなかった。
「……やっぱり、強い……いい経験になる」
続く2、3発目で姫凪は戦闘不能となったが、動けなくなった姫凪はどことなく満足げではあった。流石のヴィオラも全力で動いて疲れたらしく、荷物を収めた木箱の上で軽く休憩を取る。そのため、アルフィ(ka3254)が訓練を希望していたが、代わりの人物が代行した。
「どうも」
「よ……よろしくお願いします!」
現れた男の姿にアルフィは呆気にとられる。身長で2m近い巨漢だ。頭3つ分以上の差がある。
(このお兄さんもだ。鍛錬も実戦も積んでるし、ボクはヒヨコに見えちゃうんだろうな)
彼女の予想通り、始まってみればヴィオラの選んだ人物だけあり隙が無い。近接戦闘の心得の少ないアルフィは押される一方だ。振り下ろされたメイスが横を通り過ぎる。訓練用だが、もし本物ならと思うとぞっとする。
(真っ向からぶつかっても力負けしちゃう……どうすれば)
アルフィは逃げ回りながら隙を窺った。そして次の大振りを受けると見せかけ、横へ受け流す。
「おおっ?」
アルフィはすり抜けざまにストライクブロウで相手の太ももを打った。巨漢はそれでも効いているような素振りはなかったが、大きくうなづくとメイスをおろした。
「お見事です」
巨漢は小さなアルフィに大きな手を差し出す。
「CAMやゴーレムから見れば、私達も小人同然です。今の感じ、忘れずにいてください」
彼は手加減していた。けれども決してアルフィを小さく扱ったわけではなかった。アルフィは差し出された手を握り返し、「ありがとうございました!」と元気良く頭を下げた。
■
空いた場所を借りて1:1の模擬戦をしたいと申請したのは、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)と扼城(ka2836)の2人だった。普段余り見ないハンター同士の戦いと、周囲は興味津々であった。2人は奇しくも二刀流。ヒースは太刀と小太刀の長さの違う二振りを持ち、対する扼城は。
(妙だな)
ヒースは間合いを計りながら扼城の意図を探る。扼城はユナイテッド・ドライブ・ソードと鉄パイプの二刀流。間合いは両者それほどでもないが、正統派のヒースに対して扼城は妙な取り合わせだ。
(何か企んでるな。それでいい、愉しくなりそうだねぇ)
既に開始の合図が告げられており、二人の緊張は高まりつつある。だが同時に、2人は共に互いから感じる重圧を楽しんでいた。間合いを一歩、また一歩と詰める両者。そして緊張が最高に達した時、2人は一気に残る間合いを詰めた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
両者の得物がぶつかり合う。二刀を交互に繰り出し、受け・弾き・避け、翻ってまた斬りかえす。同じ二刀流だがヒースは速度で扼城へと迫った。手数が多く扼城は全てをかわすことができない。幾つかが肩や太ももを浅く捉えている。対して扼城は一撃の重さでヒースに迫った。受ければ押し負けてしまうがゆえに、ヒースはいくつかの攻撃を見送る。回避するたびに攻撃が止まり、状況が悪化する。一進一退の攻防が繰り広げられ、数十合の打ち合いがあっと言う間に過ぎ去る。
(やるな。だが、真剣勝負で負けるつもりには成れんな)
扼城は切り札を切った。鉄パイプの握りを組み替え、大振りでヒースを狙う。鉄パイプの動きは散漫で避けるのはたやすいと思われたが…
「!?」
鉄パイプの中からダーツが飛び出す。驚いたヒースはそれをぎりぎりのところでかわした。鉄パイプに仕掛けがあるなと意識があったために回避はできた。しかし体勢を大きく崩してしまった後だ。扼城は更に攻めかかる。
「ここだ!」
ユナイテッド・ドライブ・ソードを振り下ろす。ヒースは受けるが、扼城にはそれも計算の内。剣の金具を外し、剣から短剣のパーツを引き抜く。剣ごと相手の防御を引き倒し、短剣で更に追撃する。ヒースはもう一本の刀で切り替えし、逆に攻勢をかけた。扼城の攻撃は、ぎりぎりのところで有効打にはいたらなかった。
「ああ、そうこなくっちゃねぇ。そうじゃなきゃ、面白くない」
荒い息をつきながら距離をとる2人。
「まだやるか?」
「勿論。最後までやるさ」
扼城は残った短剣を正面に構え、対するヒースを迎え撃った。扼城の間合いは縮まった。間合いこそが戦場を制すると言って過言ではない。その段階で対戦する両者に決着は見えていたが、最後まで続けたのは意地と礼儀の為だった。
「今日は美味い酒が飲めそうだ。付き合うか?」
「本気で戦った仲だからねぇ。酒もとことん付き合うよぉ」
戦いが終わった後、2人は強く互いの手を握り返した。
■
クリスティーネ=L‐S(ka3679)の順番の頃にはヴィオラは復帰していた。一つ一つの型を見ながら、ヴィオラは小さく頷き返す。2人の練習風景を鹿島 雲雀(ka3706)は興味深く見ていた。
「先生、質問」
「なんでしょう?」
先生という呼称に苦笑いしながらヴィオラは振り返る。
「聖堂戦士団じゃレイピアは使わないのかい?」
「メイスが主流ですから。私もそこまで通暁しているわけではありません」
「じゃあグレートソードは?」
「赤の隊が持ってきているはずですが、聖堂戦士団ではあまり……」
彼らはハンターではない。どうしても装備は統一することが多い。聖導士の多い部隊となれば盾と槌・槍に偏るのは仕方なかった。雲雀の希望はその点で叶えられることはなかったが、その代わり雲雀はクリスティーネの型を食い入るように見ていた。彼女の型は基本に忠実で流麗で洗練されていた。
「しかし、どうしてグレートソードを?」
「たまにクソ硬いヤツとか出て来るだろ。だから、デカくて威力のある武器ってのも扱えるようになりたいのさ」
「なるほど」
それは最近ではCAMであり、ゴーレムであり、巨人もそうだ。歪虚のボスは大型の物も多い。相手をひるませる事のできる巨大な武器は必要不可欠だ。それに、彼女にはもっと大事な理由がある。
「それにほら……やっぱ燃えるだろ? デカい武器ってさ」
「……?」
顔を輝かせて言う雲雀だったが、クリスティーネもヴィオラも首をかしげている。どうやら女性にはあまり通じないようだ。
「フルブライト団長、そろそろよろしいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
クリスティーネは正面に立つ。ヴィオラは彼女にあわせ長剣を構えている。
「では、参ります!」
クリスティーネは必殺の気迫で以て打ちかかった。相手の左側へ抜け、剣の裏でヴィオラの胴を狙う。ヴィオラは慌てず剣を掬い上げるようにバインドする。剣は横へ逸らされ、代わりに滑るように刃がクリスティーネに迫っていた。寸止めで剣を引き、二人は互いの剣を離した。
「あなたの構えはよくできています。故に、構えからその次の行動を予測するのもたやすい」
踏み込む足を決めた時点で狙える位置は限られており、死角は死角足りえない。クリスティーネは「さすがです……」と呟きながら目を輝かせていた。
「グレートソードは無理ですが、バインドの妙でしたら少しぐらいはわかります。やってみますか?」
その動きは地味ではあったが日本の合気道にも通じる体捌きにも見えた。
「じゃあ今日はそれで頼むぜ」
雲雀は嬉しそうに前に出ると自前のレイピアを構えなおした。
■
順番が最後になったのはアクセル・ランパード(ka0448)だった。
「以前に肩を並べたことはありましたが、腕前を見る機会はありませんでしたね」
「はい! それでは、お願いします」
アクセルは剣と盾を構える。聖導士としては標準的な装備だ。ヴィオラも戦槌と盾を構える。構えは左右対称、鏡写しのようであった。間合いではアクセルに分があるが、魔法も組み合わせて使うヴィオラ相手には気休めにしかならない。
(なら、そのアドバンテージを生かすだけだ)
アクセルが飛び出した。攻めかかるアクセルの動きは堅実そのものだった。盾で防ぎ、剣で切り替えし、ホーリーライトで牽制し、ヒールで疲れを回復する。聖堂戦士の能力としては十分だったが、格上の相手にはずるずると状況が悪化するばかりであった。堅実なだけでは勝てないのは彼も承知の上で、流れを崩す技を準備はしていた。が、それは米本が使っていたものと同様の技であった。米本が使い、絶妙のタイミングで止められたのだ。もう奇襲には使えないだろう。そして基点となるシールドバッシュも読まれている。彼女は必要以上に踏み込んでこない為、必殺の一撃を放つことができない。数回の攻防の後、2人は自然と距離をとった。ヴィオラは構えを解く。不審に思ったアクセルの剣も自然と下がった。
「アクセルさん、戦士に必要なものは何か、わかりますか?」
「え?」
「力ですか? 知恵ですか? それとも、心の強さですか?」
何の問答だろうか。その問いは万人に問えば、万人の答えがある。ヴィオラの意図は読めないが、ひとまずアクセルは最良と思える答えを返した。
「全て……だと思います」
「そうですね。それで半分です」
「……半分?」
「あなたには残り半分が足りません」
「残り半分とは?」
言葉遊びをしているようには見えない。彼女はそういう人間ではない。ならば本当に致命的な欠落があるのだと、今の戦いから読み取ったのだろう。ヴィオラはアクセルの問いに答えず、戦槌を前に掲げるように持つ。魔力が膨れ上がる。アクセルがシールドを構える時間は十分にあったが、強力無比な光弾の前には無力だった。光弾がアクセルを襲う。先程の戦いとは打って変わり一方的な展開だ。避けることも受けることもできない。数発の直撃を受け、アクセルは力尽きて膝をついた。
「残り半分は貴方自身で見つけてください。戦いの中に必ず答えがあります」
アクセルは意地で立ち上がる。答えは見えないままだが、倒れたままでは居られない。
「先程の動き、ダンテ・バルカザールならば引っ掛っていたはずです」
悪戯っぽく笑う彼女に、アクセルは体の痛みをこらえつつ笑みを返した。
今日もヴィオラは硬い表情を崩さない。
確かに笑ったりはするけれども、アクセルにはそれが時に作り物めいても見える。
訓練は訓練でしかないものの魔力を放つ横顔に、密やかな孤独を垣間見た気がした。
「噂に名高い聖堂戦士団団長殿と相対出来るとは……緊張しますねぇ」
米本は知らず笑みがこぼれる。本人の言うような緊張からではない。強者と相対する歓喜が漏れ出している。対するヴィオラ・フルブライト(kz0007)は何も言わず笑みを作った。米本は頭を下げて礼をすると、2人の間にある間合いを測った。距離は10歩もない。一度動けば互いに必殺の距離となる。米本は大きく深呼吸すると、二振りの剣を抜き放った。
「いざ尋常に……勝負っ!」
米本は二刀を交差させたまま突進し、勢いのままに2本の刀を振り下ろす。対するヴィオラは戦槌を短く持ち替え、盾掲げて左半身を前に出した。
(これは……!?)
米本は盾に刀をぶつけると一歩下がり、刀をもった両手を下げる。米本はヴィオラの周囲をじりじりと回る。攻防は一転して動から静へと移り変わった。
(間合いが見えなくなった……)
ヴィオラは米本に対して常に盾を掲げ持つ構えをとった。これでは盾によって腕の曲げ具合も、戦槌の構え方も見えない。そして狙うべき急所のほとんどが隠されている。距離を取れば近づき、側面に逃れれば追いかけ、そして動きを止めても距離を詰める。
(時間をかけても無為か。ならば!)
米本は再び飛び出した。今度は刀を交互に切り返し、連撃でヴィオラに攻めかかる。その盾の小ささではじきに押し勝てるはずだ。
「!」
米本はヴィオラの唇が小さく詠唱を始めていることに気づいた。この距離で放たれたらただでは済まない。
「ならば切り札を切るまで!」
烏枢沙摩が盾に真っ向からぶつかった瞬間、米本はシャドウブリットを放つ。至近距離からの一撃は確かにヴィオラを捉えたが、彼女は欠片も怯まなかった。ヴィオラは1歩下がって間合いを開き、風車のように構えを切り替え、戦槌を前に掲げる。
「ホーリーライト」
詠うように優しい響きは、眩い光弾となって米本を襲った。間髪なく着弾。米本は両腕でガードしたがこらえきれず吹き飛ばされる。連撃のお返しとばかりに光弾は立て続けに放たれ、足に腕にと容赦なく打ち付けられる。連撃に耐え切れず、遂に米本は尻餅をついた。倒れた米本をヴィオラは追撃せず、両手を前につきだしたままの姿勢で止まる。米本は小さく笑みをこぼすと、刀を持った手の力を抜いた。
「……参りました」
米本は手元の刀をみた。鋭く重くと念じた彼の動きに、彼の刀は追随できなかった。何度もヴィオラの盾と鎧に切りつけたが為に、ひどい刃こぼれを起こしていた。2本の刀はより重く硬い盾と鎧に刃は競り負けた。ヴィオラは倒れた米本に右手を差し出した。
「貴方ほどの使い手は聖堂戦士団でもそう多くはありません。
その刀がもし斧や槌であれば、また違った結果になったでしょう」
その装備で今と同じ攻撃が放てるかは不明だが、ヴィオラ自身がその重さを脅威に感じていたのだろう。米本は立ち上がると礼をし、次の者に場を譲った。
続いたのは姫凪 紫苑(ka0797)。対するヴィオラは部下のヒールを受け、そのまま続投する。
「……今の自分がどれだけ戦えるか……知るチャンスだから……いかせてもらう、ね」
姫凪は愛用のデスサイズを構える。柄の中ほどを持ち、彼女も速攻を旨とした構えだ。ヴィオラの構えは変わらない。それを了承と受け取り、姫凪は駆けた。低い姿勢から一撃が放たれる。ヴィオラがそれを盾でかわすと、すかさず石突で殴りにかかる。ヴィオラはすんでのところでこれをかわした。姫凪は米本よりも更に速い。本来の疾影士なら重さは伴わないものだが、彼女の一撃は疾影士らしからぬ重さ・鋭さを秘めていた。一撃一撃はやや散漫でもあったがその威力が全てを相殺した。攻撃の密度こそ二刀流に及ばないが確実に衝撃がダメージとして蓄積している。ヴィオラもそれで押されたままではなかった。ヴィオラは鎌の一撃をかわしざま、密着距離の姫凪を盾で殴りつける。
「!?」
鎌の柄も余さず使うために密着していた姫凪はかわしきれず、思わず足が止まってしまう。それは疾影士として致命的だった。米本の時と同じく光弾が直撃する。速さのために鎧を身に着ける余裕のない姫凪は、その一撃に耐えることができなかった。
「……やっぱり、強い……いい経験になる」
続く2、3発目で姫凪は戦闘不能となったが、動けなくなった姫凪はどことなく満足げではあった。流石のヴィオラも全力で動いて疲れたらしく、荷物を収めた木箱の上で軽く休憩を取る。そのため、アルフィ(ka3254)が訓練を希望していたが、代わりの人物が代行した。
「どうも」
「よ……よろしくお願いします!」
現れた男の姿にアルフィは呆気にとられる。身長で2m近い巨漢だ。頭3つ分以上の差がある。
(このお兄さんもだ。鍛錬も実戦も積んでるし、ボクはヒヨコに見えちゃうんだろうな)
彼女の予想通り、始まってみればヴィオラの選んだ人物だけあり隙が無い。近接戦闘の心得の少ないアルフィは押される一方だ。振り下ろされたメイスが横を通り過ぎる。訓練用だが、もし本物ならと思うとぞっとする。
(真っ向からぶつかっても力負けしちゃう……どうすれば)
アルフィは逃げ回りながら隙を窺った。そして次の大振りを受けると見せかけ、横へ受け流す。
「おおっ?」
アルフィはすり抜けざまにストライクブロウで相手の太ももを打った。巨漢はそれでも効いているような素振りはなかったが、大きくうなづくとメイスをおろした。
「お見事です」
巨漢は小さなアルフィに大きな手を差し出す。
「CAMやゴーレムから見れば、私達も小人同然です。今の感じ、忘れずにいてください」
彼は手加減していた。けれども決してアルフィを小さく扱ったわけではなかった。アルフィは差し出された手を握り返し、「ありがとうございました!」と元気良く頭を下げた。
■
空いた場所を借りて1:1の模擬戦をしたいと申請したのは、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)と扼城(ka2836)の2人だった。普段余り見ないハンター同士の戦いと、周囲は興味津々であった。2人は奇しくも二刀流。ヒースは太刀と小太刀の長さの違う二振りを持ち、対する扼城は。
(妙だな)
ヒースは間合いを計りながら扼城の意図を探る。扼城はユナイテッド・ドライブ・ソードと鉄パイプの二刀流。間合いは両者それほどでもないが、正統派のヒースに対して扼城は妙な取り合わせだ。
(何か企んでるな。それでいい、愉しくなりそうだねぇ)
既に開始の合図が告げられており、二人の緊張は高まりつつある。だが同時に、2人は共に互いから感じる重圧を楽しんでいた。間合いを一歩、また一歩と詰める両者。そして緊張が最高に達した時、2人は一気に残る間合いを詰めた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
両者の得物がぶつかり合う。二刀を交互に繰り出し、受け・弾き・避け、翻ってまた斬りかえす。同じ二刀流だがヒースは速度で扼城へと迫った。手数が多く扼城は全てをかわすことができない。幾つかが肩や太ももを浅く捉えている。対して扼城は一撃の重さでヒースに迫った。受ければ押し負けてしまうがゆえに、ヒースはいくつかの攻撃を見送る。回避するたびに攻撃が止まり、状況が悪化する。一進一退の攻防が繰り広げられ、数十合の打ち合いがあっと言う間に過ぎ去る。
(やるな。だが、真剣勝負で負けるつもりには成れんな)
扼城は切り札を切った。鉄パイプの握りを組み替え、大振りでヒースを狙う。鉄パイプの動きは散漫で避けるのはたやすいと思われたが…
「!?」
鉄パイプの中からダーツが飛び出す。驚いたヒースはそれをぎりぎりのところでかわした。鉄パイプに仕掛けがあるなと意識があったために回避はできた。しかし体勢を大きく崩してしまった後だ。扼城は更に攻めかかる。
「ここだ!」
ユナイテッド・ドライブ・ソードを振り下ろす。ヒースは受けるが、扼城にはそれも計算の内。剣の金具を外し、剣から短剣のパーツを引き抜く。剣ごと相手の防御を引き倒し、短剣で更に追撃する。ヒースはもう一本の刀で切り替えし、逆に攻勢をかけた。扼城の攻撃は、ぎりぎりのところで有効打にはいたらなかった。
「ああ、そうこなくっちゃねぇ。そうじゃなきゃ、面白くない」
荒い息をつきながら距離をとる2人。
「まだやるか?」
「勿論。最後までやるさ」
扼城は残った短剣を正面に構え、対するヒースを迎え撃った。扼城の間合いは縮まった。間合いこそが戦場を制すると言って過言ではない。その段階で対戦する両者に決着は見えていたが、最後まで続けたのは意地と礼儀の為だった。
「今日は美味い酒が飲めそうだ。付き合うか?」
「本気で戦った仲だからねぇ。酒もとことん付き合うよぉ」
戦いが終わった後、2人は強く互いの手を握り返した。
■
クリスティーネ=L‐S(ka3679)の順番の頃にはヴィオラは復帰していた。一つ一つの型を見ながら、ヴィオラは小さく頷き返す。2人の練習風景を鹿島 雲雀(ka3706)は興味深く見ていた。
「先生、質問」
「なんでしょう?」
先生という呼称に苦笑いしながらヴィオラは振り返る。
「聖堂戦士団じゃレイピアは使わないのかい?」
「メイスが主流ですから。私もそこまで通暁しているわけではありません」
「じゃあグレートソードは?」
「赤の隊が持ってきているはずですが、聖堂戦士団ではあまり……」
彼らはハンターではない。どうしても装備は統一することが多い。聖導士の多い部隊となれば盾と槌・槍に偏るのは仕方なかった。雲雀の希望はその点で叶えられることはなかったが、その代わり雲雀はクリスティーネの型を食い入るように見ていた。彼女の型は基本に忠実で流麗で洗練されていた。
「しかし、どうしてグレートソードを?」
「たまにクソ硬いヤツとか出て来るだろ。だから、デカくて威力のある武器ってのも扱えるようになりたいのさ」
「なるほど」
それは最近ではCAMであり、ゴーレムであり、巨人もそうだ。歪虚のボスは大型の物も多い。相手をひるませる事のできる巨大な武器は必要不可欠だ。それに、彼女にはもっと大事な理由がある。
「それにほら……やっぱ燃えるだろ? デカい武器ってさ」
「……?」
顔を輝かせて言う雲雀だったが、クリスティーネもヴィオラも首をかしげている。どうやら女性にはあまり通じないようだ。
「フルブライト団長、そろそろよろしいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
クリスティーネは正面に立つ。ヴィオラは彼女にあわせ長剣を構えている。
「では、参ります!」
クリスティーネは必殺の気迫で以て打ちかかった。相手の左側へ抜け、剣の裏でヴィオラの胴を狙う。ヴィオラは慌てず剣を掬い上げるようにバインドする。剣は横へ逸らされ、代わりに滑るように刃がクリスティーネに迫っていた。寸止めで剣を引き、二人は互いの剣を離した。
「あなたの構えはよくできています。故に、構えからその次の行動を予測するのもたやすい」
踏み込む足を決めた時点で狙える位置は限られており、死角は死角足りえない。クリスティーネは「さすがです……」と呟きながら目を輝かせていた。
「グレートソードは無理ですが、バインドの妙でしたら少しぐらいはわかります。やってみますか?」
その動きは地味ではあったが日本の合気道にも通じる体捌きにも見えた。
「じゃあ今日はそれで頼むぜ」
雲雀は嬉しそうに前に出ると自前のレイピアを構えなおした。
■
順番が最後になったのはアクセル・ランパード(ka0448)だった。
「以前に肩を並べたことはありましたが、腕前を見る機会はありませんでしたね」
「はい! それでは、お願いします」
アクセルは剣と盾を構える。聖導士としては標準的な装備だ。ヴィオラも戦槌と盾を構える。構えは左右対称、鏡写しのようであった。間合いではアクセルに分があるが、魔法も組み合わせて使うヴィオラ相手には気休めにしかならない。
(なら、そのアドバンテージを生かすだけだ)
アクセルが飛び出した。攻めかかるアクセルの動きは堅実そのものだった。盾で防ぎ、剣で切り替えし、ホーリーライトで牽制し、ヒールで疲れを回復する。聖堂戦士の能力としては十分だったが、格上の相手にはずるずると状況が悪化するばかりであった。堅実なだけでは勝てないのは彼も承知の上で、流れを崩す技を準備はしていた。が、それは米本が使っていたものと同様の技であった。米本が使い、絶妙のタイミングで止められたのだ。もう奇襲には使えないだろう。そして基点となるシールドバッシュも読まれている。彼女は必要以上に踏み込んでこない為、必殺の一撃を放つことができない。数回の攻防の後、2人は自然と距離をとった。ヴィオラは構えを解く。不審に思ったアクセルの剣も自然と下がった。
「アクセルさん、戦士に必要なものは何か、わかりますか?」
「え?」
「力ですか? 知恵ですか? それとも、心の強さですか?」
何の問答だろうか。その問いは万人に問えば、万人の答えがある。ヴィオラの意図は読めないが、ひとまずアクセルは最良と思える答えを返した。
「全て……だと思います」
「そうですね。それで半分です」
「……半分?」
「あなたには残り半分が足りません」
「残り半分とは?」
言葉遊びをしているようには見えない。彼女はそういう人間ではない。ならば本当に致命的な欠落があるのだと、今の戦いから読み取ったのだろう。ヴィオラはアクセルの問いに答えず、戦槌を前に掲げるように持つ。魔力が膨れ上がる。アクセルがシールドを構える時間は十分にあったが、強力無比な光弾の前には無力だった。光弾がアクセルを襲う。先程の戦いとは打って変わり一方的な展開だ。避けることも受けることもできない。数発の直撃を受け、アクセルは力尽きて膝をついた。
「残り半分は貴方自身で見つけてください。戦いの中に必ず答えがあります」
アクセルは意地で立ち上がる。答えは見えないままだが、倒れたままでは居られない。
「先程の動き、ダンテ・バルカザールならば引っ掛っていたはずです」
悪戯っぽく笑う彼女に、アクセルは体の痛みをこらえつつ笑みを返した。
今日もヴィオラは硬い表情を崩さない。
確かに笑ったりはするけれども、アクセルにはそれが時に作り物めいても見える。
訓練は訓練でしかないものの魔力を放つ横顔に、密やかな孤独を垣間見た気がした。
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打ち合わせ致しましょう クリスティーネ=L‐S(ka3679) 人間(リアルブルー)|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/21 00:17:31 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/17 19:20:38 |