ゲスト
(ka0000)
タラクサクムのつぼみ
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/19 09:00
- 完成日
- 2019/05/03 02:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ひとつ、落ち葉を踏みしめるたびに、ひとつ、乾いた呼吸がはずむ。
まだ冬の名残が色濃い裸の雑木林を歩む女性は、まるで着の身着のまま家出してきたかのような姿であった。
身につけた空色のベビードールは朝露に濡れて肌に張り付き、その煽情的な身体のラインを浮かび上がらせる。
フリルの先からのぞく、陽の光など知らずに育ったのであろう御足は、裸足であることもあいまってあちこち泥に濡れ、生傷が絶えない様子であった。
彼女――ジャンヌ・ポワソン(kz0154)は見えない怪物に怯えるように、時折後ろを振り返って肩を震わせながら、先へ先へと歩みを進める。
行く当てが決まっているわけではない。
ただひたすらに、本能的に、恐ろしい「目」からできるだけ遠い場所を目指して逃げ続ける。
外の世界に触れるまで、彼女は自分がどれほど「有名人」であるかを理解していなかった。
災厄の十三魔と彼女らをひとくくりに纏めて呼ぶのは人間たちの所業。
とうの本人たちにとってははなはだ興味の外であり、彼女にいたってはそのような状況にあることすらも知らなかった。
ここまで、どこへ向かっても、どこへ逃げても、人間は自分のことを知っている。
ただの一度も足を踏み入れたことがない異国の地なのに。
見知らぬ者に「知られている」恐怖。
どこへ向かっても、見つかればあっという間に覚醒者の捜索隊に追い回される日々。
肉体の方はどれだけ元気でも、精神は徐々に追い詰められつつある。
「私が、“あい”を取り零してしまったから――」
ひとりぼっちになって、はじめて後悔というものを知る。
それはこれまで足りぬことを知らない生活を送って来たツケでもあった。
「ルチア、フランカ……アルバート……誰でもいい、私を見つけて」
それが叶わぬことを知っている。
しかし願うことを止める権利は誰にもない。
後戻りのできない道であろうとも、歩んできてしまった。
とっくに引き返すことなどできないところまで。
やがて雑木林を抜けると、小高い丘の上で視界が開けた。
連なる美しい山岳地帯。
そこには、まるで叶わぬ願いが燃え尽きる寸前の星の瞬きとなったかのように、朽ち果てた故郷の光景が広がっていた。
●
オフィスに寄せられた通報資料の束とにらめっこしながら、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は控えめに唸った。
デスクの上に広げているのは簡素なクリムゾンウェスト全図。
そこにいくつかの赤い丸がぐりぐりと書き込まれ、それらをひと繋ぎにするようにうねうねと蛇のように長い矢印が描かれていた。
「計画性ないにもほどがあることこの上ないったらありゃしないよねぇ」
記されているのは通報と、それを元にしたいくつかの捜索依頼の結果に基づいた十三魔ジャンヌ・ポワソンの足取りだ。
矢印を追うだけでもあっちへこっちへ。
とてもじゃないが、どこか目的があって逃避行を続けているようには思えない。
これまでの事を鑑みれば、足取りだけは掴んでおきたいというのがソサエティ側の本音ではあるが――こうも一貫性がないと、掴む尻尾がそもそも存在しないというものだ。
「パトロンも失ったし、ナイト様も失ったし、身よりはないでしょ。一体、どこへ向かうってのよ――」
ぐるりぐるりと矢印を追って、やがて先端、直近最後の目撃ポイントへ。
この地点以降、彼女を見失ってしまってから1週間。
どこかへ潜伏していると考えるのが妥当ではあるが――
地図を睨んでいた時、ふと、ルミの頭に過る光景があった。
それから弾かれたように棚を引っ張り出して、過去の資料をひっくり返す。
やがて目的のものを見つけて、彼女はその紙を、穴が開くほどに見つめた。
「計画性がないのなら偶然……? それともホームシック的な帰巣本能とか言わないわよね……」
山肌から突き出た、巨大な廃城――夢幻城。
ルミはすぐに上司宛ての報告書をまとめると、同時に提出する依頼の提案書を書き上げた。
ひとつ、落ち葉を踏みしめるたびに、ひとつ、乾いた呼吸がはずむ。
まだ冬の名残が色濃い裸の雑木林を歩む女性は、まるで着の身着のまま家出してきたかのような姿であった。
身につけた空色のベビードールは朝露に濡れて肌に張り付き、その煽情的な身体のラインを浮かび上がらせる。
フリルの先からのぞく、陽の光など知らずに育ったのであろう御足は、裸足であることもあいまってあちこち泥に濡れ、生傷が絶えない様子であった。
彼女――ジャンヌ・ポワソン(kz0154)は見えない怪物に怯えるように、時折後ろを振り返って肩を震わせながら、先へ先へと歩みを進める。
行く当てが決まっているわけではない。
ただひたすらに、本能的に、恐ろしい「目」からできるだけ遠い場所を目指して逃げ続ける。
外の世界に触れるまで、彼女は自分がどれほど「有名人」であるかを理解していなかった。
災厄の十三魔と彼女らをひとくくりに纏めて呼ぶのは人間たちの所業。
とうの本人たちにとってははなはだ興味の外であり、彼女にいたってはそのような状況にあることすらも知らなかった。
ここまで、どこへ向かっても、どこへ逃げても、人間は自分のことを知っている。
ただの一度も足を踏み入れたことがない異国の地なのに。
見知らぬ者に「知られている」恐怖。
どこへ向かっても、見つかればあっという間に覚醒者の捜索隊に追い回される日々。
肉体の方はどれだけ元気でも、精神は徐々に追い詰められつつある。
「私が、“あい”を取り零してしまったから――」
ひとりぼっちになって、はじめて後悔というものを知る。
それはこれまで足りぬことを知らない生活を送って来たツケでもあった。
「ルチア、フランカ……アルバート……誰でもいい、私を見つけて」
それが叶わぬことを知っている。
しかし願うことを止める権利は誰にもない。
後戻りのできない道であろうとも、歩んできてしまった。
とっくに引き返すことなどできないところまで。
やがて雑木林を抜けると、小高い丘の上で視界が開けた。
連なる美しい山岳地帯。
そこには、まるで叶わぬ願いが燃え尽きる寸前の星の瞬きとなったかのように、朽ち果てた故郷の光景が広がっていた。
●
オフィスに寄せられた通報資料の束とにらめっこしながら、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は控えめに唸った。
デスクの上に広げているのは簡素なクリムゾンウェスト全図。
そこにいくつかの赤い丸がぐりぐりと書き込まれ、それらをひと繋ぎにするようにうねうねと蛇のように長い矢印が描かれていた。
「計画性ないにもほどがあることこの上ないったらありゃしないよねぇ」
記されているのは通報と、それを元にしたいくつかの捜索依頼の結果に基づいた十三魔ジャンヌ・ポワソンの足取りだ。
矢印を追うだけでもあっちへこっちへ。
とてもじゃないが、どこか目的があって逃避行を続けているようには思えない。
これまでの事を鑑みれば、足取りだけは掴んでおきたいというのがソサエティ側の本音ではあるが――こうも一貫性がないと、掴む尻尾がそもそも存在しないというものだ。
「パトロンも失ったし、ナイト様も失ったし、身よりはないでしょ。一体、どこへ向かうってのよ――」
ぐるりぐるりと矢印を追って、やがて先端、直近最後の目撃ポイントへ。
この地点以降、彼女を見失ってしまってから1週間。
どこかへ潜伏していると考えるのが妥当ではあるが――
地図を睨んでいた時、ふと、ルミの頭に過る光景があった。
それから弾かれたように棚を引っ張り出して、過去の資料をひっくり返す。
やがて目的のものを見つけて、彼女はその紙を、穴が開くほどに見つめた。
「計画性がないのなら偶然……? それともホームシック的な帰巣本能とか言わないわよね……」
山肌から突き出た、巨大な廃城――夢幻城。
ルミはすぐに上司宛ての報告書をまとめると、同時に提出する依頼の提案書を書き上げた。
リプレイ本文
●
石畳に一歩足を踏み出せば、微粒な砂利が靴底をこする。
「……大丈夫。罠はないみたい」
「分かった。こちら、下層2班。潜入成功」
先行して踏み込んだリアリュール(ka2003)が手招きをすると、キヅカ・リク(ka0038)がインカムに声を通した。
『こっちはまだ登山中だ。みんな、気をつけてな』
「了解。こっちもチーム別行動に移るから、お互い気をつけて」
ジャック・エルギン(ka1522)の返答にエールを送ると、リクは持ち込んだツールを確認する。
「懐かしいね。流石に空気は埃っぽいけれど――すべてあの時のまんまだ」
イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が、辺りを見渡す。
落下の衝撃による崩壊と数年分の劣化。
壁や天井に見られる崩落や亀裂には、もとの絢爛な姿の面影はお世辞にも感じられない。
それでも、しみついた戦いの記憶は変わりはしない。
「それじゃ、私たちはここで」
「アテはあるの?」
「あなたたちほど明確じゃないけれど、この様子ならある程度は絞られるんじゃないかしら」
尋ねるリアリュールに、マリィア・バルデス(ka5848)は、傍らの崩れた部屋を見やる。
天井に空いた大穴からは朝の陽ざしが差し込み、光のベールとなって薄暗がりに降り注ぐ。
宙に舞う埃がちらちらと雪のように輝く下で、石畳の隙間から伸びた青葉がその温もりを浴びていた。
「何かあったらすぐに連絡を。連結通話もあんまり長くは持たないからね」
「もちろん。じゃ、また後で」
さわやかに手を振りながら離れていくイルムとそれに続くマリィアとを見送って、リクは方位時針をちらりと見やる。
「僕らも行こうか」
「ええ」
リアリュールと頷き合って、2人もまた城の奥へと足を踏み入れる。
一方、別行動のジャック、そしてカーミン・S・フィールズ(ka1559)の2人は草木に覆われた緩やかな斜面を登っていた。
カーミンが上空――と言っても俯瞰できるほどには登れなかったけど――から確認した時、入れそうな場所は2点。
下層の崩壊部と、上層部の斜面接地部。
2人はそのうち、上からの侵入を試みることになった。
斜面を登る手間はあるが、瓦礫を登る手間はない。
ジャンヌがここへ訪れたとしたら、どちらの手間を取るだろうか。
「ジャンヌの部屋があったのってどれ?」
「あの塔だな。崩れちゃいないようだが」
双眼鏡で見上げると、まだ健在になっている塔の何本かが視界に入る。
そのうち、最も大きな塔がかつてジャンヌが私室として使っていたものだ。
「中がどうなってるかわかりゃしねぇからな。俺がジャンヌなら瓦礫を登るようなことはしたかねぇな」
「うーん、確かに。話に聞く彼女がえっちらおっちら瓦礫をかき分ける姿は想像しにくいわね」
「ところで、来るときルミになんか聞いてただろ。あれ、なんだったんだ?」
「ああ、この城の監視体制とか聞いてたのよ」
夢幻城は攻略後しばらくの間は残党狩りのために重度の監視対象にあった。
次第に警戒レベルは低下し、数年が経った今ではほぼゼロと言っていい。
雑草や蔦に覆われ始めている姿に過去の栄華は感じられないが、一方でマテリアル汚染が弱まっている証拠とも言えるだろう。
「これはこれで味はあると言えるんだろうがな……」
どこかアンニュイな表情で眺めるジャックに、カーミンは不思議そうに首をかしげた。
●
リクが崩れた螺旋階段の壁を軽快に駆けあがると、上層からワイヤーを垂らす。
リアリュールがしっかりとそれを掴んだのを確認して、ゆっくりと彼女の身体を引き上げた。
「ありがとう」
「いやいや、お安い御用」
伸びきったワイヤーを巻き取るリクの隣で、リアリュールは誰も居なくなった下階を見下ろす。
「ジャンヌがここを登ったとは、ちょっと考えられないかしら……」
「でも、ここさえ越えれば目と鼻の先だ。確認だけはしておこうか」
「そうね」
見上げた階段の先には、大きな扉だ。
あの先にジャンヌの私室はある。
「……それにしても、怠惰を感じないな」
ふと、リクがいぶかし気に辺りを見渡した。
リアリュールも釣られるように上層を見上げて息を吐く。
「確かに。だけど――」
思い返すのは前回の雪原でのこと。
ジャンヌの様子が豹変した瞬間、彼女の怠惰――<虚霧姫の憂鬱>の力が確かに消え去った。
代わりに謎の霧が現れたが……その状態がまだ続いているのだろうか。
2人は一気に階段を上ると、手早く扉の前を陣取り、そっと隙間を作るように開く。
「……ハズレ、みたいね」
突然できた空気の流れに埃が舞う。
そこにジャンヌの姿はなかった。
中に踏み込んでみると、部屋の中は床に転がった調度品でひどい有様だ。
「候補を潰せたことで良しとしようか。問題は次、か……」
大きな衣装タンスを開きながら、リクはインカムを抑えて空振りだったことを伝える。
リアリュールは壊れた木製のベッドに近づくと、かび臭い布団に手を触れた。
埃がぶわっと舞って、差し込む日光の中で踊る。
「ここへは来てないのかしら。地道に痕跡を探すしかなさそうね」
彼女に頷き返して、リクはどこか名残惜しむように部屋を見渡す。
かつては、ジャンヌにここで完膚なきまでに叩きのめされた。
だがそれも数年前のこと。
今なら――
「……下層に戻ろうか」
記憶を振り払うように、彼は告げる。
「部屋はシロか。だとしたらどこにいるかね?」
リクからの通信を受けて、ジャックはぼんやりと腕を組む。
他2班より少し遅れて城内へと侵入した彼らは、城壁から見張り塔に沿って城内へと足を踏み入れていく。
塔の小窓から見下ろす手つかずの庭園は、草木がやたらめったら伸び放題の有様だ。
野草の花々がいたるところで小さな花弁を開き、廃墟の中で命を主張する。
「これだけの好条件物件だもの、今や動植物の楽園って感じね。流石に夜盗も住みつかなかったみたいだし」
傍らを野兎が2匹連れだって駆けていく。
ここがかつては敵の拠点であったなんて、まるで感じさせないかのよう。
「他にジャンヌが立ち入りそうな場所はないの?」
「俺も隅々まで知ってるわけじゃねぇからな……」
小休止がてら、倒れた柱に腰を下ろして今後の方針を練る。
カーミンはペットボトルの水を小さく喉を鳴らして飲みこんだ。
「飲む?」
「……おう、サンキュ」
差し出したペットボトルを、ジャックはためらうことなく受け取る。
首を傾け、上目遣いで顔を覗き込むようにしていたカーミンは、つまらなさそうに唇を尖らせた。
「キヅカならいい反応してくれそうなんだけど」
「何の話だ?」
「なんか、心ここに在らずって感じ」
彼女の言葉に、ジャックの胸がチクリと痛む。
「このお城ってさ、いかにもお城ですって感じよね」
「なんだそりゃ?」
ジャックが首をかしげると、カーミンは足を投げ出して辺りを見渡す。
「お城ってこういうのよねーっていうイメージを詰め込んでるっていうか。住んでる人の個性が見えないっていうか」
「そりゃ、あの姫さんが逐一城の装飾に口出したりするようには見えないしな」
「うーん。だとしたら、彼女にとってこのお城に対する思い入れってどの程度なのかしら」
「そりゃ……」
上手い返事が思いつかなかった。
そのどうしようもなさを絞り出すように、ジャックは口を開く。
「もう、終わっちまったことだろ」
通路の片隅で、イルムは膝を折って足元を見つめていた。
マリィアが拳銃を構えて周囲を警戒する。
「何かあったの?」
「ある、というべきかどうか微妙なところだけれどね」
イルムは彼女を見上げながら、足元を指さす。
「これって……枯草?」
そこにあったのは、石畳の隙間から生えた雑草。
ただし、しなしなに干からびたように枯れている。
「他は新芽が青々としていたのにね。それにここだけじゃないみたいだ」
「軽微の汚染?」
「おそらくは」
マリィアが警戒を強める。
「この壁の向こうは?」
「確か……謁見室だったかな。でも正面の扉は崩れた天井で埋もれていたよ」
「他に入口は?」
「探してみようか」
イルムはすくりと立ち上がって、壁沿いに周辺を散策する。
しばらくすると廊下の片隅にある小さな扉を発見し、中へと入る。
不意に空気がじっとりと湿り気を帯び、ツンと鼻につくカビの匂いが広がった。 人2人が通れる程度の狭い通路だった。
「使用人通路かな。もしくはエスケープルート。不必要に他者に出会わないための影の道ってところだろうね」
それぞれに灯りを取って先へと進む。
やがて薄暗くも開けた空間に突き当たる。
まるで劇場の舞台袖にも似たそこで、垂れ下がった古い幕の先――彼女の姿があった。
「……いた」
マリィアが静かに息を飲む。
シルクのように細やかな金の髪が窓から差し込む光の中できらめく。
ジャンヌは虚ろな表情で壊れた王座に身を預け、ぐったりと、虚空を眺めていた。
「何をしているのかしら……いえ、何もしていないのでしょうね」
マリィアはその様子を盗み見ながら、いや、どこか見入るように彼女の横顔に意識を吸い込まれる。
崩壊した栄光に囲まれて、身一つとなった彼女の姿は、それでもなお美しいとさえ感じられた。
「みんなに連絡を――」
トランシーバーを持ったイルムの手を、ふと、誰かの手が制した。
ひどく冷たい、枯れ木のように細い手。
ゾクリと嫌な感覚が背筋を伝い、咄嗟に彼女はその場から飛びのいた。
マリィアも血相を変えて振り向く。
銃口を向けた先。
薄暗がりの中に、血のように赤い燕尾服姿がぼんやりと浮かび上がる。
「――コレクター」
呟いたイルムの言葉は、今の彼の名を告げるものだった。
●
「こんな場所でお目に掛かれるなんて……目的は一緒ということかな?」
どこか芝居風に声を掛けながら、イルムは後ろ手を回す。
すぐにコレクターの相貌が牽制するように向くと、彼女はそのままの姿勢で動かなくなった。
「王座に控えるなんて……大した忠誠心じゃない」
マリィアは銃口を向けたまま、薄く笑みを浮かべた。
「忠誠心ではありません。使用人が持ち得るのは奉仕の心のみでございますよ」
コレクターはクツクツと笑みを浮かべながら、優雅に一歩踏み出す。
緊張が一気に2人の身体を固くした。
「そう言うには、君達はお姫様を利用していたように見えたけどね。今だってこうして傍に仕えるわけでなく、一緒に王座を眺めるだけだ」
「これは手厳しい。確かに、我が元主人は彼女のことを駒のひとつ程度にしか考えていなかったでしょう」
その口ぶりから、元主人というのはおそらくラルヴァのことだろう。
「その元主人というのも、同盟の地で討たれたようだけれど」
「おや、そうですか。おいたわしや」
彼はそれほど驚いた様子もなく、代わりに笑みを浮かべながらその言葉を口にする。
「職探しをしなければなりませんね」
「彼女はあなたの主人ではないのかしら?」
「派遣されていたにすぎません。お目付け役でありますがゆえ」
「――だとしたら、今度こそ雇ってもらうのか?」
暗がりから声が響いて、コレクターははたと振り向く。
弓を構えたジャックを筆頭に、カーミン、リク、リアリュールが臨戦状態で彼の周りを取り囲んでいた。
イルムがひらひらと後ろ手にしていたものを掲げる。
その手にあったのは武器ではなく、通信状態になったトランシーバーだった。
「ゴメン。正確な場所を割り出すのにちょっと時間がかかった」
謝るリクに、イルムは笑顔で手を振る。
「正直な気持ち、彼女にはちょっと同情してるの。だからって見逃す理由になるわけじゃないけれど……これ以上利用されるってのはちょっと、ね」
カーミンがコレクターを睨みつける。
張りつめた空気をほぐすように、コレクターは小さく息を吐く。
そして深く頭を下げた。
無抵抗を装うように両手を天に掲げ、深く、深く。
「……何をしているの?」
意図を測りかねて、リアリュールがたじろいだ。
「お引き取りいただけませんか? ここで騒ぎを起こすことは、あなた方にとっても益ではないのでは?」
それはハンター達の痛いところを突いた言葉。
今回、彼らはジャンヌを見つけても接触をする意図はなかった。
下手な接触で逃がしてしまっては、これまでの事が繰り返されるだけだと判断したためだ。
自分たちのことを気づかれたくはない。
そのためには、ここで戦うことは得策ではない。
「そうしたら、また利用するんだろ」
冷たく放ったジャックの言葉に、コレクターは愉快そうに笑う。
「おや。まるであの方を心配なさっているような言い方ですが」
「同情の気持ちがないわけじゃねぇ……俺の悪い癖だ。だけど、それはあいつにとっても終わった話だ。俺たちの未来と天秤に掛けるのは筋が違う」
「だとしたら、どうなさるのですか?」
大きく息を飲んで、ジャックは答える。
「あいつの……あいつらの物語を終わらせる」
彼の言葉に、リアリュールの手に力がこもる。
「求めても得られない……それは彼女がそうしてきたことだから、仕方ないわ。だけど変わらない思いは確かに存在する。ね?」
マリィアに視線を流すと、彼女は銃を構えたまま肩をすくめる。
「2度も臭いセリフを言うつもりはないわ」
その言葉に、コレクターは笑いながら顔をあげる。
それからハンター達を見渡して、人差し指を天井に向けた。
「ではこうしましょう。これは契約です。私は今後一切、私の意思であなた方に手を加えることをしません。代わりに、今回はお引き取りいただきたい」
「……なんだって?」
リクが訝しんで彼の笑顔を見る。
少しの間があった後、イルムが口を開いた。
「あなた方――の定義を確認させてもらえるかな?」
「なるほど。それでは『人類』と置き換えていただいて構いません」
「これは、大きく出たわね」
カーミンが目を丸くする。
「自分の意思――自分以外の意思で牙をむくことはあるのね? 例えばそう……彼女を焚きつけるとか」
リアリュールが口にすると、コレクターははぐらかすように首をひねる。
「それはあの方次第でしょう。お雇いいただければよいのですが」
「雇われなきゃ動かねぇってのは使用人としての意地か」
「私は生まれながらの使用人なのです」
どこまで信用できるのか分からない。
決断をすることができず、ジャックは奥歯をかみしめた。
「……分かった。退こう」
代わりにそれを言ったのはリクだ。
「ジャンヌがここにいる。そしてコレクターがここにいる。それが分かっているのなら、そのつもりでまたここに来るだけだ。みんなも、それでいいかな」
ハンターらも、仕方なしに首を縦に振る。
コレクターはただひたすら、粘っこい笑みを浮かべているだけだった。
それから契約の通り、追撃らしい追撃もなく6人は穏便に城を後にする。
新たな選択をソサエティへ持ち込む情報を胸に秘めて。
石畳に一歩足を踏み出せば、微粒な砂利が靴底をこする。
「……大丈夫。罠はないみたい」
「分かった。こちら、下層2班。潜入成功」
先行して踏み込んだリアリュール(ka2003)が手招きをすると、キヅカ・リク(ka0038)がインカムに声を通した。
『こっちはまだ登山中だ。みんな、気をつけてな』
「了解。こっちもチーム別行動に移るから、お互い気をつけて」
ジャック・エルギン(ka1522)の返答にエールを送ると、リクは持ち込んだツールを確認する。
「懐かしいね。流石に空気は埃っぽいけれど――すべてあの時のまんまだ」
イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が、辺りを見渡す。
落下の衝撃による崩壊と数年分の劣化。
壁や天井に見られる崩落や亀裂には、もとの絢爛な姿の面影はお世辞にも感じられない。
それでも、しみついた戦いの記憶は変わりはしない。
「それじゃ、私たちはここで」
「アテはあるの?」
「あなたたちほど明確じゃないけれど、この様子ならある程度は絞られるんじゃないかしら」
尋ねるリアリュールに、マリィア・バルデス(ka5848)は、傍らの崩れた部屋を見やる。
天井に空いた大穴からは朝の陽ざしが差し込み、光のベールとなって薄暗がりに降り注ぐ。
宙に舞う埃がちらちらと雪のように輝く下で、石畳の隙間から伸びた青葉がその温もりを浴びていた。
「何かあったらすぐに連絡を。連結通話もあんまり長くは持たないからね」
「もちろん。じゃ、また後で」
さわやかに手を振りながら離れていくイルムとそれに続くマリィアとを見送って、リクは方位時針をちらりと見やる。
「僕らも行こうか」
「ええ」
リアリュールと頷き合って、2人もまた城の奥へと足を踏み入れる。
一方、別行動のジャック、そしてカーミン・S・フィールズ(ka1559)の2人は草木に覆われた緩やかな斜面を登っていた。
カーミンが上空――と言っても俯瞰できるほどには登れなかったけど――から確認した時、入れそうな場所は2点。
下層の崩壊部と、上層部の斜面接地部。
2人はそのうち、上からの侵入を試みることになった。
斜面を登る手間はあるが、瓦礫を登る手間はない。
ジャンヌがここへ訪れたとしたら、どちらの手間を取るだろうか。
「ジャンヌの部屋があったのってどれ?」
「あの塔だな。崩れちゃいないようだが」
双眼鏡で見上げると、まだ健在になっている塔の何本かが視界に入る。
そのうち、最も大きな塔がかつてジャンヌが私室として使っていたものだ。
「中がどうなってるかわかりゃしねぇからな。俺がジャンヌなら瓦礫を登るようなことはしたかねぇな」
「うーん、確かに。話に聞く彼女がえっちらおっちら瓦礫をかき分ける姿は想像しにくいわね」
「ところで、来るときルミになんか聞いてただろ。あれ、なんだったんだ?」
「ああ、この城の監視体制とか聞いてたのよ」
夢幻城は攻略後しばらくの間は残党狩りのために重度の監視対象にあった。
次第に警戒レベルは低下し、数年が経った今ではほぼゼロと言っていい。
雑草や蔦に覆われ始めている姿に過去の栄華は感じられないが、一方でマテリアル汚染が弱まっている証拠とも言えるだろう。
「これはこれで味はあると言えるんだろうがな……」
どこかアンニュイな表情で眺めるジャックに、カーミンは不思議そうに首をかしげた。
●
リクが崩れた螺旋階段の壁を軽快に駆けあがると、上層からワイヤーを垂らす。
リアリュールがしっかりとそれを掴んだのを確認して、ゆっくりと彼女の身体を引き上げた。
「ありがとう」
「いやいや、お安い御用」
伸びきったワイヤーを巻き取るリクの隣で、リアリュールは誰も居なくなった下階を見下ろす。
「ジャンヌがここを登ったとは、ちょっと考えられないかしら……」
「でも、ここさえ越えれば目と鼻の先だ。確認だけはしておこうか」
「そうね」
見上げた階段の先には、大きな扉だ。
あの先にジャンヌの私室はある。
「……それにしても、怠惰を感じないな」
ふと、リクがいぶかし気に辺りを見渡した。
リアリュールも釣られるように上層を見上げて息を吐く。
「確かに。だけど――」
思い返すのは前回の雪原でのこと。
ジャンヌの様子が豹変した瞬間、彼女の怠惰――<虚霧姫の憂鬱>の力が確かに消え去った。
代わりに謎の霧が現れたが……その状態がまだ続いているのだろうか。
2人は一気に階段を上ると、手早く扉の前を陣取り、そっと隙間を作るように開く。
「……ハズレ、みたいね」
突然できた空気の流れに埃が舞う。
そこにジャンヌの姿はなかった。
中に踏み込んでみると、部屋の中は床に転がった調度品でひどい有様だ。
「候補を潰せたことで良しとしようか。問題は次、か……」
大きな衣装タンスを開きながら、リクはインカムを抑えて空振りだったことを伝える。
リアリュールは壊れた木製のベッドに近づくと、かび臭い布団に手を触れた。
埃がぶわっと舞って、差し込む日光の中で踊る。
「ここへは来てないのかしら。地道に痕跡を探すしかなさそうね」
彼女に頷き返して、リクはどこか名残惜しむように部屋を見渡す。
かつては、ジャンヌにここで完膚なきまでに叩きのめされた。
だがそれも数年前のこと。
今なら――
「……下層に戻ろうか」
記憶を振り払うように、彼は告げる。
「部屋はシロか。だとしたらどこにいるかね?」
リクからの通信を受けて、ジャックはぼんやりと腕を組む。
他2班より少し遅れて城内へと侵入した彼らは、城壁から見張り塔に沿って城内へと足を踏み入れていく。
塔の小窓から見下ろす手つかずの庭園は、草木がやたらめったら伸び放題の有様だ。
野草の花々がいたるところで小さな花弁を開き、廃墟の中で命を主張する。
「これだけの好条件物件だもの、今や動植物の楽園って感じね。流石に夜盗も住みつかなかったみたいだし」
傍らを野兎が2匹連れだって駆けていく。
ここがかつては敵の拠点であったなんて、まるで感じさせないかのよう。
「他にジャンヌが立ち入りそうな場所はないの?」
「俺も隅々まで知ってるわけじゃねぇからな……」
小休止がてら、倒れた柱に腰を下ろして今後の方針を練る。
カーミンはペットボトルの水を小さく喉を鳴らして飲みこんだ。
「飲む?」
「……おう、サンキュ」
差し出したペットボトルを、ジャックはためらうことなく受け取る。
首を傾け、上目遣いで顔を覗き込むようにしていたカーミンは、つまらなさそうに唇を尖らせた。
「キヅカならいい反応してくれそうなんだけど」
「何の話だ?」
「なんか、心ここに在らずって感じ」
彼女の言葉に、ジャックの胸がチクリと痛む。
「このお城ってさ、いかにもお城ですって感じよね」
「なんだそりゃ?」
ジャックが首をかしげると、カーミンは足を投げ出して辺りを見渡す。
「お城ってこういうのよねーっていうイメージを詰め込んでるっていうか。住んでる人の個性が見えないっていうか」
「そりゃ、あの姫さんが逐一城の装飾に口出したりするようには見えないしな」
「うーん。だとしたら、彼女にとってこのお城に対する思い入れってどの程度なのかしら」
「そりゃ……」
上手い返事が思いつかなかった。
そのどうしようもなさを絞り出すように、ジャックは口を開く。
「もう、終わっちまったことだろ」
通路の片隅で、イルムは膝を折って足元を見つめていた。
マリィアが拳銃を構えて周囲を警戒する。
「何かあったの?」
「ある、というべきかどうか微妙なところだけれどね」
イルムは彼女を見上げながら、足元を指さす。
「これって……枯草?」
そこにあったのは、石畳の隙間から生えた雑草。
ただし、しなしなに干からびたように枯れている。
「他は新芽が青々としていたのにね。それにここだけじゃないみたいだ」
「軽微の汚染?」
「おそらくは」
マリィアが警戒を強める。
「この壁の向こうは?」
「確か……謁見室だったかな。でも正面の扉は崩れた天井で埋もれていたよ」
「他に入口は?」
「探してみようか」
イルムはすくりと立ち上がって、壁沿いに周辺を散策する。
しばらくすると廊下の片隅にある小さな扉を発見し、中へと入る。
不意に空気がじっとりと湿り気を帯び、ツンと鼻につくカビの匂いが広がった。 人2人が通れる程度の狭い通路だった。
「使用人通路かな。もしくはエスケープルート。不必要に他者に出会わないための影の道ってところだろうね」
それぞれに灯りを取って先へと進む。
やがて薄暗くも開けた空間に突き当たる。
まるで劇場の舞台袖にも似たそこで、垂れ下がった古い幕の先――彼女の姿があった。
「……いた」
マリィアが静かに息を飲む。
シルクのように細やかな金の髪が窓から差し込む光の中できらめく。
ジャンヌは虚ろな表情で壊れた王座に身を預け、ぐったりと、虚空を眺めていた。
「何をしているのかしら……いえ、何もしていないのでしょうね」
マリィアはその様子を盗み見ながら、いや、どこか見入るように彼女の横顔に意識を吸い込まれる。
崩壊した栄光に囲まれて、身一つとなった彼女の姿は、それでもなお美しいとさえ感じられた。
「みんなに連絡を――」
トランシーバーを持ったイルムの手を、ふと、誰かの手が制した。
ひどく冷たい、枯れ木のように細い手。
ゾクリと嫌な感覚が背筋を伝い、咄嗟に彼女はその場から飛びのいた。
マリィアも血相を変えて振り向く。
銃口を向けた先。
薄暗がりの中に、血のように赤い燕尾服姿がぼんやりと浮かび上がる。
「――コレクター」
呟いたイルムの言葉は、今の彼の名を告げるものだった。
●
「こんな場所でお目に掛かれるなんて……目的は一緒ということかな?」
どこか芝居風に声を掛けながら、イルムは後ろ手を回す。
すぐにコレクターの相貌が牽制するように向くと、彼女はそのままの姿勢で動かなくなった。
「王座に控えるなんて……大した忠誠心じゃない」
マリィアは銃口を向けたまま、薄く笑みを浮かべた。
「忠誠心ではありません。使用人が持ち得るのは奉仕の心のみでございますよ」
コレクターはクツクツと笑みを浮かべながら、優雅に一歩踏み出す。
緊張が一気に2人の身体を固くした。
「そう言うには、君達はお姫様を利用していたように見えたけどね。今だってこうして傍に仕えるわけでなく、一緒に王座を眺めるだけだ」
「これは手厳しい。確かに、我が元主人は彼女のことを駒のひとつ程度にしか考えていなかったでしょう」
その口ぶりから、元主人というのはおそらくラルヴァのことだろう。
「その元主人というのも、同盟の地で討たれたようだけれど」
「おや、そうですか。おいたわしや」
彼はそれほど驚いた様子もなく、代わりに笑みを浮かべながらその言葉を口にする。
「職探しをしなければなりませんね」
「彼女はあなたの主人ではないのかしら?」
「派遣されていたにすぎません。お目付け役でありますがゆえ」
「――だとしたら、今度こそ雇ってもらうのか?」
暗がりから声が響いて、コレクターははたと振り向く。
弓を構えたジャックを筆頭に、カーミン、リク、リアリュールが臨戦状態で彼の周りを取り囲んでいた。
イルムがひらひらと後ろ手にしていたものを掲げる。
その手にあったのは武器ではなく、通信状態になったトランシーバーだった。
「ゴメン。正確な場所を割り出すのにちょっと時間がかかった」
謝るリクに、イルムは笑顔で手を振る。
「正直な気持ち、彼女にはちょっと同情してるの。だからって見逃す理由になるわけじゃないけれど……これ以上利用されるってのはちょっと、ね」
カーミンがコレクターを睨みつける。
張りつめた空気をほぐすように、コレクターは小さく息を吐く。
そして深く頭を下げた。
無抵抗を装うように両手を天に掲げ、深く、深く。
「……何をしているの?」
意図を測りかねて、リアリュールがたじろいだ。
「お引き取りいただけませんか? ここで騒ぎを起こすことは、あなた方にとっても益ではないのでは?」
それはハンター達の痛いところを突いた言葉。
今回、彼らはジャンヌを見つけても接触をする意図はなかった。
下手な接触で逃がしてしまっては、これまでの事が繰り返されるだけだと判断したためだ。
自分たちのことを気づかれたくはない。
そのためには、ここで戦うことは得策ではない。
「そうしたら、また利用するんだろ」
冷たく放ったジャックの言葉に、コレクターは愉快そうに笑う。
「おや。まるであの方を心配なさっているような言い方ですが」
「同情の気持ちがないわけじゃねぇ……俺の悪い癖だ。だけど、それはあいつにとっても終わった話だ。俺たちの未来と天秤に掛けるのは筋が違う」
「だとしたら、どうなさるのですか?」
大きく息を飲んで、ジャックは答える。
「あいつの……あいつらの物語を終わらせる」
彼の言葉に、リアリュールの手に力がこもる。
「求めても得られない……それは彼女がそうしてきたことだから、仕方ないわ。だけど変わらない思いは確かに存在する。ね?」
マリィアに視線を流すと、彼女は銃を構えたまま肩をすくめる。
「2度も臭いセリフを言うつもりはないわ」
その言葉に、コレクターは笑いながら顔をあげる。
それからハンター達を見渡して、人差し指を天井に向けた。
「ではこうしましょう。これは契約です。私は今後一切、私の意思であなた方に手を加えることをしません。代わりに、今回はお引き取りいただきたい」
「……なんだって?」
リクが訝しんで彼の笑顔を見る。
少しの間があった後、イルムが口を開いた。
「あなた方――の定義を確認させてもらえるかな?」
「なるほど。それでは『人類』と置き換えていただいて構いません」
「これは、大きく出たわね」
カーミンが目を丸くする。
「自分の意思――自分以外の意思で牙をむくことはあるのね? 例えばそう……彼女を焚きつけるとか」
リアリュールが口にすると、コレクターははぐらかすように首をひねる。
「それはあの方次第でしょう。お雇いいただければよいのですが」
「雇われなきゃ動かねぇってのは使用人としての意地か」
「私は生まれながらの使用人なのです」
どこまで信用できるのか分からない。
決断をすることができず、ジャックは奥歯をかみしめた。
「……分かった。退こう」
代わりにそれを言ったのはリクだ。
「ジャンヌがここにいる。そしてコレクターがここにいる。それが分かっているのなら、そのつもりでまたここに来るだけだ。みんなも、それでいいかな」
ハンターらも、仕方なしに首を縦に振る。
コレクターはただひたすら、粘っこい笑みを浮かべているだけだった。
それから契約の通り、追撃らしい追撃もなく6人は穏便に城を後にする。
新たな選択をソサエティへ持ち込む情報を胸に秘めて。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/04/19 06:34:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/15 12:29:44 |