• 王戦

【王戦】生きるも死ぬも戦士の定め

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/04/18 19:00
完成日
2019/05/06 02:36

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 多大な損害を出しながらもハルトフォートを抜いた歪虚軍は、勢いを緩めることなく王都へと進軍した。王都への道はしばらく障害物の無い平野が続くが、途上どうしても大軍を進ませることが出来ない地形がある。ティベリス河がその一つだ。歪虚軍であっても徒歩で移動する者が多い以上は渡河の危険を甘受する他無く、指揮官であるダンテの頭を悩ませていた。ちなみに渡河の手順で悩んでいたのではない。これらの基本的な経験則をあえて無視しようとする歪虚が多すぎることに頭を抱えていたのだ。歪虚軍はダンテの懸念の通りに何の準備も無く前進し、渡河の前後において王国軍の周到な防御に足を止める事となった。





 大軍に兵法無し。良く言ったものであるとダンテは思った。まさにこれがダンテ率いる歪虚軍を表す言葉、だったら良かったのにと苛立ち混じりの思いを飲み込んだ。歪虚の軍は事実上軍ではない。 数と個々の質によって誤魔化しているが、軍とは名ばかりの烏合の衆である。
 王都までの道の途上、ダンテはよく知るその地形を見て王国軍の待ち伏せを警戒した。ここは砦ではないがそれほど広く横幅を取れる場所が無く、渡河の前も後も隠れる場所もない。砲撃の良い的になるだろう。事前の偵察、あるいは一部だけを先行させて砲兵の陣地を潰す。そういう手順が必要と考えていた。残念なことに賛同者はごく僅かだった。
 ある者は言った。
「弱いやつは死ねばいい」「数で押しつぶせばいい」
 その弱いやつ・数に自分や自分の部下を含まない傲慢な物言いに、多くの者が首肯した。あまりに知性を感じられないその発言を、ダンテは諫めることすら出来なかった。彼らの言葉を否定すれば、同じ方向を目指すという最低限の秩序すら失われる。それでは戦略上の目標すら達成できない。この軍は王都に対する絶大な脅威でなければならないのに、このままでは烏合の衆としてあしらわれて終わるだろう。それだけは避けねばならない。
「面倒くせえ! なんで指揮官の俺がこんなことしてんだよ!!」
 文句たらたら。騎竜に乗る歪虚騎士を率いて戦場を迂回する最中、ダンテは何度目かになる愚痴を盛大に吐き出していた。
「とか何とか言いながら面倒見良いっすね!!」
「仕事に忠実なだけだろうが!」
 ダンテは眩暈がした。歪虚化した俺が? まだ人間だったの頃も不真面目一等賞だった俺が? それほど焦っているのだと自覚するほどだ。自分の得意の戦術で、この戦場の要点を破壊する。狙うは敵の砲兵陣地だ。終始一貫してこの砲兵の対処を怠った、あるいは不十分であったがゆえの大損害である。それさえ潰せば支援を失った王国軍は前線を維持できなくなる。
 ダンテは自らの作戦を信じ、信頼できる手勢のみで戦場を迂回した。ここは森の中の狭い1本道で、騎竜が通るのに問題ない広さだが大軍は通せない。本隊の進軍には向かないが自身が先頭なら倍数程度の王国軍が配置してあっても突破は容易だろう。歪虚の力を考慮しての強引な進軍だが、赤の隊以降ダンテはこの系統の作戦を得意としており、十分勝算があるつもりだった。
 もうすぐ森を抜けようかという頃、異変は起きた。前触れなく森の四方八方から大量の矢が射られた。ダンテはそれを難なく弾き落としたが、何名かの歪虚騎士がそれによって戦死した。
「隊長! 囲まれました!」
「見りゃわかる!」
 怒鳴り返しながら周囲を見る。敵は矢だけではない。矢だけなら全力で逃げればこの場を立て直せる。歪虚軍を足止めする軍隊が必要なはずだ。
「隊長!!」
「なんだ! 誰が呼んだ!?」
 ダンテが見渡しても誰もが怪訝な顔で互いを見渡している。声のした方向に歪虚はいない。いるとすれば、もう一方の襲撃者のみである。木立の合間を縫って悠然とその人物は姿を現した。特徴的な赤・青・白の鎧に身をまとった騎士達。その顔触れに見覚えがあった。武芸達者として顔を覚えていた者達だ。先頭に立つのはダンテ亡き後に面倒事をしょい込んだ男。赤の隊副長、騎士ジェフリー・ブラックバーン。
「お久しぶりです、ダンテ隊長」
「……なんだ。ジェフリーじゃねえか。待ち伏せしてやがったのか」
「ええ。後ろで暇を楽しむ性格ではないと思いまして」
「ちっ」
 読まれている。付き合いが長すぎて性格が把握され過ぎて作戦が読まれやすくなっている。忌々しい感情を舌打ちで流すと、ダンテは居並ぶ騎士に槍を突き付けた。
「で? 何しにきやがった。まさかとは思うが、俺の首でも取りに来たのか? 俺がこうなる前だって、一度も俺に勝てなかったお前らが?」
 事実、歪虚化したダンテは単騎では騎士エリオット・ヴァレンタインをも凌駕する。数が揃ったところでこの戦場では一方的な結果になるだろう。
「その通りです。一度も勝てませんでした。なので道具に頼ります」
「ああ?」
 ジェフリーは平然とした顔で手に持った奇怪な棒を何か操作した。棒の先に光が灯って刃となり、棒は槍となった。その他の赤の隊の騎士達は懐からダンテの見慣れない武器を次々に取り出す。
「ハンターズソサエティを通じてリアルブルー含む外国製の武器を取り寄せました」
 武器を変えたぐらいで、などとは言えなかった。その結果が先の砦での大損害である。思想の違う初見の武器となれば、ダンテであっても後手に回らざるをえない。それでもまだダンテには、必勝の武器が合った。
「見くびるなよ。それで俺が………おい」
 ダンテはその武器であるところの騎竜がやけに静かなことに気づいた。
「ご、ご主人、今日は……帰りません?」
「あ?」
 ドーピスは珍しく泣きそうな声だった。あれだけ調子に乗っていたドーピスが恐怖している。
「多分、種が割れてます」
「…………」
 今度こそダンテは押し黙った。何度も助けられたのだ。ジェフリーのそういう面倒な特性に。
「報告書は読ませてもらいましたよ。おかしいじゃないですか。たかだが騎乗動物程度の役割しかない歪虚が、主力級のハンターの攻撃をいともたやすくかわすなんて」
「………」
「別に種が割れてるわけじゃないですよ。ただまあ、種にも限界がありますよね?」
 余裕と侮蔑の混じったダンテの顔に、徐々に怒気とようなものが宿っていく。それで勝てると思われることは我慢ならないのだ。ダンテには自覚が無くなっていた。本来なら勝機を失えば逃げるだけの柔軟性や、良い意味でのプライドの無さが彼の持ち味だったはずだ。傲慢の歪虚の特性は確実に彼を蝕んでいた。この必要な時に、彼が蔑んだはずの歪虚達と同じになってしまっていた。
「ちっ。じゃあ仕方ねえ。本気だしてやるよ。てめえらのつまらねえ小細工がどれほどのもんか、みせてもらおうじゃねえか」
 ダンテは巨大な黒い槍を横に振る。部下達も一斉に武器を構えた。合図は同時であった。
「「突撃!!!」」
 因縁の清算。生き残りとして燻っていた赤の隊の決死の戦いが始まった。

リプレイ本文

 両陣営が突撃を命じると同時に歪虚側は騎士達がダンテから距離を取り、整然ときれいな円形の空白地帯を形作った。ダンテが槍を水平に構えた事で、その空白がダンテの間合いだとハンター達は即座に理解した。禍々しく深い黒の穂先を持つ槍は、振るえば周囲の有象無象を容赦なく薙ぎ倒すだろう。
(相対してみると解るこの圧力…。帝国の四霊剣並か…!)
 気圧されながらもキヅカ・リク(ka0038)はダンテの戦力をそのように評価した。歪虚の強さは格以外の部分は単純な比較にそぐわないものの、単純な馬鹿力で押すだけの猪武者でないのは確かだ。だが気圧されはしても引く者はいない。居並ぶ戦士達はこれを今ここで殺すのだという決意を溢れさせていた。騎士達は言うに及ばず、ハンター達もそれぞれに想いを抱いている。直接に顔を知っている央崎 枢(ka5153)等はより想いも強い。
(この生き意地の悪さはアンタらしいけどーー)
 しぶとい男だったがこの生き方は違う。死人が歩いているような今の在り方は間違っている。
「感傷はそこまでだぜ。手を動かしな」
 シガレット=ウナギパイ(ka2884)の声で表層に残っていた感傷が取り除かれ、誰もが武器に力を籠める。シガレットはクリスティア・オルトワール(ka0131)に視線をやり、初撃のタイミングをはかった。
「まずは私から行きます。断罪の光よ!」
 シガレットとクリスティアは同時にジャッジメントでドーピスを狙い打った。騎兵を仕留める定石は歪虚相手でも変わらない。「ちっ!」
 ダンテは速度を落とさず槍を薙いで飛来した魔法を撃ち落とした。幾つかの攻撃は届きはしても、ドーピスの足を止めるには至らない。ダンテはそのまま突進して最前列に襲い掛かる。飛び出したダンテの槍を前衛の鳳城 錬介(ka6053)が盾で受け止める。僅かなりとも勢いが削がれた分もあり、鳳城はダンテの一撃を辛うじて受け流すことが出来た。
「一筋縄ではいきませんね。なら、試してみましょうか。ヴァルナさん、行きますよ」
「存分にどうぞ」
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は答えて武器を槍に持ち変えた。鳳城は聖盾剣を構えて前に出て、央崎は銃を持つ。それぞれに間合いの違う武器でダンテに相対する。
「なんだぁ?」
 ダンテは訝しんで槍を引き戻す。一瞬の空白が出来た戦場を、後方より誠堂 匠(ka2876)が些細な変化も見逃すまいと注視していた。
(ドーピスの機能が読心なら…。いや、それ以外でもこれで種が割れるはずだ)
 誠堂は前衛としての役割を同様の意図で動く仲間に任せ、自身は後方に下がって見に徹することにしていた。ヴァルナ発案の武器を変えて挑むこの方法なら距離の検証も同時に可能だが、検証を優先するのならば周囲からの目が必要になる。
 ハンター達は事前に確認した報告書よりドーピスの機能に幾つかの仮説を立てていた。読心ではなく未来視であるとするもの、昨日の限界を距離・回数とするもの。ダンテの足であるこの歪虚の機能を明瞭に解明しない限り、土壇場での逃亡を許すことにもなりかねない。その為の作戦の一つ目を彼らは実行に移す。
 思考を読む事を前提とし、逆手に取って偽情報を与えて混乱を誘う。右を攻めると考えながら左を攻め、上から振り下ろすと考えながら下から掬い上げる。多方向からの攻撃がダンテに向かって一斉に振り下ろされる。
「しゃらくせえ!」
 ダンテはそれを避けて、受け流し、受け止める。槍の穂先から石突きまで、部位を巧みに使い分け、攻撃を直撃無しですり抜けた。余分な思考を伴った分だけ各自の攻撃は散漫になったところもあったが、それにしても尋常でない技と速さだ。仲間への追撃を防ぐためにシガレットはジャッジメントを放つ。
「本当に心を読んでるのか?」
 シガレットは後退しながらも態勢を崩さないダンテを追撃しながら小さく舌打ちした。彼自身も仲間の作戦とは別口で「援軍の到来が近い」という偽情報を時折思考の表層に浮かべている。しかし肝心の歪虚側に焦った様子が無い。読心は正解でなかったか、距離が足りずに読めていないのか、あるいは読んではいるが無視しているのか。
 攻撃を繰り返すハンターだが、作戦は思惑通りには進まずドーピスの能力は検証できなかった。訓練を積んだ人の動作は思考とは直結せずに無意識で行われる為、思考の表層を読むだけの他心通では一流の覚醒者の攻撃を防ぐ事は出来ないはずだ。表層よりも深い位置の無意識を読むとすれば、この結果にも納得はいくかもしれない。そして問題がひとつ。能力が無くともダンテが強い為に、実際に影響があるか判別がつかない。
 ドーピスの機能を読み切ることが出来ず、ハンターの作る戦列は徐々に押され始める。超覚醒したキヅカと鳳城の二人で辛うじてダンテの攻撃を長くは持たないだろう。
「単純に心を読んでるわけじゃないってことか」
「はぁっ!?? それはなんのことですかぁーーー!?」
 キヅカのつぶやきにドーピスが唾を飛ばしながら絡んでくる。勿論すぐに認めるとは思ってなかったが、それにしてもこのクソトカゲ、しらばっくれるにしても一々うざい。うるさい上に唾まで飛んでくる。ドーピス自身の爪や牙は恐ろしくないのでうるさいだけで済んでいるが、ダンテの槍は時間を追うごとに速くなっている気すらする。
「おらっ!」
 ダンテは槍を縦に横にと力任せに薙ぎ払う。腕力任せなだけに見えるその一撃は恐ろしいまでの速さと正確さで央崎の胴体を狙った。かわしきれない央崎を鳳城が庇う。
「させませんよ!」
 ガウスジェイルでダンテの攻撃を自身に逸らす。槍の横薙ぎを聖盾剣で受け止めーーー。
「!!?」
 衝撃が鳳城を後方に吹き飛ばした。刃物で切られた感覚ではない。いや、確かに槍の一撃だ。覚醒者と同じくなにがしかのスキルを使ったようだが、その衝撃が尋常でない。衝撃で足をもつれさせた鳳城を更にダンテは追撃に掛かろうとするが、その一撃をボルディア・コンフラムス(ka0796)の盾が受け切って見せた。周囲の精鋭に対応していたボルディアが戻ってきたということは、それ以外の敵は大方抑えられている証拠でもあった。
「そっちは失敗だったみてえだな」
「ちっ」
 機を逃したことでダンテはあっさりと槍を引いた。この押し引きの巧みさは歪虚となっても少しも損なわれていなかった。ボルディアはダンテが間合いの外に一歩のを確認し、肩で息をする央崎の背中を叩いた。
「央崎、もう1個の作戦で行こうぜ」
「……了解だ」
 央崎がにやりと笑って立ち上がる。彼女はこの方向性の違いを検証時に切り分けるために、一時ダンテとの最前線から退去していたのだ。作戦の目的や方向性は変わらないが、敵の反応を誘うやり方に関しては大きく異なっている。
「あぁ? また小細工か?」
 侮蔑しきった顔でダンテは槍を振り上げる。ダンテの意を組んだドーピスは勢いをつけて走り出し、斧を構えるボルディア目掛けてとびかかる。予定だった。
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 急停止したドーピスがボルディアの目の前で盛大に噴き出す。正面のボルディアはたまったものではなかった。
「きたねぇーーーー!!!」
 唾は目つぶし的な何かではなくただ単に汚いだけだ。だが効果は確認できた。驚きすぎてうずくまっているドーピスを見れば一目瞭然だ。ダンテだけが何が起こったのかを理解していない。ダンテは苛立ちながらドーピスを詰問した。
「…………おいこら、何がどうなった?」
「ダ……」
「だ?」
「ダンテにゃん」
 ビキッ、と音がしたかのような形相の変化だった。ドーピスの顔は恐怖でひきつっている。一方でそのやりとりを見ていたボルディアは朗らかに笑っていた。
「種が割れたな」
「だから何だってんだ?」
 怒りを発散する場を弁えてはいたが、ダンテの怒りは消えていない。その恐ろしい視線を受けてなお、ボルディアは平然としていた。
「もうお前は怖くねえってことだよ! おらぁっ!」
 ボルディア渾身の一撃がダンテに振り下ろされる。ダンテは槍の柄でその一撃を受け切った。
「てめえ誰に向かってーー」
「俺を見たってことは、他が見えてねえってことだろ!?」
 ボルディアの喝破が響くか響かないかの合間だった。どす、と。肉に何かが刺さるような音がした。それが終わりを告げる音だった。
「あ、あれー?」
 ドーピスはぐるりと首を回して後ろを見る。ドーピスの後ろ脚の太股には棒手手裏剣が刺さっていた。投げたのは誠堂だ。彼はボルディアが正面から打ち合うのに合わせ、密かに後方に回っていたのだ。
「機能は思考読み、限界とは距離。それだけわかれば不意を打つことも可能です」
 二人の作戦で思考を読んでいる事と思考を読める距離が確定した。彼が出した推論がこれで全て証明された。あとは切り札を切るタイミングを間違えさえしなければいい。誠堂が武器を放った距離を基点として後ろに立つ騎士達が一斉に隠し武器を抜いた。ある者は小型の拳銃であり、あるものは変形する射撃武器であり、ある者は新しく得たスキルであった。速さも威力もバラバラで、且つダンテにとっては見た事の無い武器だ。
「あ、あ、それはちょっと」
「終わりにしましょう」
 慌てるドーピスに向けて殺意が放たれる。誠堂の動きに合わせ、次々に騎士達が飛び道具を投げ込んだ。一つ一つはダンテに届かないが、個数が増えればドーピスはかわしきれない。本来ならその快速で射程を引き離し、ダンテが槍で弾き飛ばしているものだが、種別も不明瞭な武器からの攻撃では逃げる方向を決めることすらできない。
「ぐげぇ……」
 ドーピスは波状攻撃を体の至るところに受け、足をもつれさせて倒れ込んだ。ダンテは咄嗟に飛び降りて受け身を取るが、完全に態勢を崩してしまっていた。ドーピスは転がりながらも立ち上がろうと足をばたつかせるが、この竜の抵抗はそこまでだった。
「そこまでです。覚悟してください」
 ヴァルナの放ったテンプテーションでドーピスは視線を固定される。視界を封じられ、思考読みを解析された彼には、次の一撃を回避する手立ては残されていなかった。クリスティアとシガレットのジャッジメントで足を地面に縫い付けられ、動けなくなったところを央崎のバスターソードで首を切り落とされた。首から血を噴き出したドーピスはほどなくして黒い霧となって消滅する。
「くそったれが」
 ダンテは体を起こしながら毒づく。毒づきながらようやく、周囲の状況に頭が追いついて来た。既に取り巻きである歪虚騎士の過半数は討たれ、残りもほどなく壊滅するだろう。未だにダンテ本人が力を残した状態ではあるが、騎馬隊相手に逃げ切る事は出来ない。取れる選択肢はただ一つ。目の前の敵を皆殺しにして悠々歩いて自陣に帰る他にない。
「上等じゃねえか。一人残らず生かして返さねえからな!」
 威勢の良い啖呵とは裏腹に、そこから先はあまりにもあっけない戦いとなっていった。ダンテに対して前衛が時間を稼ぎ、その隙に背後や側面から飛び道具で狙い撃つだけ。それだけでダンテは流血を増やし、槍を振るう腕から力が失われていく。一方で王国軍側は術士による回復があり、必要に応じて前衛が交代した。何より致命的なのは、ハンター達の新たな力だった。
「大精霊の力よ!」
 キヅカの聖機剣から光が放たれる。かわしようのない閃光で周囲を焼き払うのと同時に、このスキルについた機能がダンテを追い詰めた。
「……な、なんだ!?」
 防御を一時的に解除する能力。そのタイミングに合わせて仲間たちの攻撃が降り注ぐ。普段なら鎧で弾く攻撃がそのまま素通りとなってはダンテもたまったものではない。慌てて逃げようとするダンテだが、その足をクリスティアのジャッジメントが縫い止める。
「さようならです。ダンテ様」
 その呟きは届かない。閃光の中で飛び道具に身を打たれながら、獣のようにダンテは叫んでいた。
 ダンテは常時であれば武技で遅れを取る事の無い男だが、見覚えの無い武器相手に一々対応は出来ない。それが傲慢のツケだ。生前のダンテは政治も科学も理解出来ない男だったが、真摯に戦場に向き合ってきた。生き延びるために力を尽くし、わからない事をわからない事と受け止め、プライドでなく損得で戦場を測った。これら全てを、彼が歪虚になった日に止めてしまっていた。
 何度かの魔術の直撃の後、遂にダンテは膝をついた。前線に立っていたキヅカとボルディアが、ダンテを左右から挟み込み退路を断つ。
「終わりだ。……遺言ぐらいは聞いておく」
 央崎は銃を向けながらそう呟いた。憎々しげに央崎を睨み返したダンテだが、槍を杖にしながらも立ち続けることができなかった。体の至るところに剣や槍や矢が刺さったままになっており、歪虚の体であってなお命の繋ぐので精いっぱいのあり様だ。
「……くそが。納得出来るかよ」
 それは自分の強さを信じて疑わない強烈な自負であり、生前の彼にはなかったものだ。居並ぶ者達は本当にダンテはもう死んでしまったのだと感情で理解することが出来た。悲しみではなく哀れみで、ヴァルナはその事実を受け止めた。彼がダンテではないのなら、遺言を伝える必要はない。
「それが最後の言葉で良いのですね?」
 これはダンテに対する質問であると同時に、居並ぶ者達にこれで終わらせていいかと確認する問いでもあった。赤の隊の騎士達が無言で見守る中、誠堂が刀を抜いて前に出た。
「もう終わりです。貴方に、王国を蹂躙させるわけにはいかない」
 誠堂は身動きの取れないダンテの首を月影で切り落とした。他の歪虚となんら変わりなく、黒い灰になって溶けるようにダンテは消滅した。ダンテが消えた後、槍の柄が溶けるように消えてなくなり刃だけが残った。穂先は姿を変え、見覚えのある形状へと変化する。
「……隊長の魔剣か」
 ジェフリーは地面に刺さったそれを片手で引き抜く。昔見たままの雷光を纏う無銘の魔剣だ。戦利品と見るべきか、あるいは遺品として扱うべきか。騎士達は誰もが複雑な表情だ。悲しみも喜びも、この剣の指し示す先にあったのだから。
 誠堂は騎士達の無言の黙祷を見届けると、騎士達の中心に立つジェフリーの肩を叩いた。
「引き上げましょう。弔いはそれからで」
「……そうだな。すまない。撤収だ! 馬を引け」
 騎士達は素早く馬に跨ると、伏兵であった者達も含めて生前と隊列を組む。戦場の跡に一瞥をくれたジェフリーは、未だ混沌の最中にある戦場の中へと馬を走らせた。



 方面軍の司令であるダンテが討伐されても歪虚の軍に表面上の動揺は無かった。しかし戦略・戦術に長ける司令が不在となったことでこの軍を統率する能力・意思のある者も皆無となった。軍が烏合の衆に成り下がるまで、後は遅いか早いかの違いしかなかった。

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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴスka2651
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠ka2876

重体一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/04/17 22:59:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/15 10:07:06