ワルサー総帥、初詣に挑む

マスター:御影堂

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/24 15:00
完成日
2015/01/31 11:43

みんなの思い出

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オープニング


「そうだ、祠に行こう」
「どうしたのですか、唐突に」
 ここは王国北部、ルサスール領にある山小屋である。
 祠に行こうと提案したのは、ルサスール家の息女サチコである。
「ワルワル団としての抱負を祈願しに行くのですわ……だぜ」
 サチコは貴族の息女でありながら、ワルワル団という頭の悪そうな……もとい義賊をしているのだ。
 彼女の傍らで話を聞いているのは、従者タロだ。
 そっと視線を手元に移せば、彼女の愛読書「リアルブルー大全」が見えた。
「またリアルブルーの行事を体験したいのですか?」
「え!? いやいやいや、そんなわけありませんわ……のだぜ!?」
 明らかな動揺を見せるサチコに、タロは静かに溜息を吐く。
 しかし、今までの無茶を考えればまだ優しいように思えた。
「祠でよろしいので? 詣でるのなら教会も……」
「祠がよいのですわ。どうやら精霊的なものに願いを告げるみたいですし……」
「……みたい?」
「な、なんでもありませんのだぜ!?」
 サッと大全を背中に隠すが、時すでに遅し。
 タロは軽く流して、地図を取り出す。近くに祠があっただろうかと、思いを巡らす。
「わかりました。こちらで調べておきますので、暖かい準備をしておいてくださいね」


「というわけです」
 一転、ここはルサスール家の屋敷。
 主人であるカフェ・W・ルサスールに定期報告をするため、ジロが訪れていた。
 無論、主な報告内容はサチコに関することである。
「ふむ。精霊に参るのは悪いことではないな」
 願い事はワルワル団の抱負祈願らしいが、気にしてはいけない。
 というより、カフェは聞こえていない風を装っていた。
「リアルブルーの行事がきっかけですけどね」
「向こうの世界に興味を持つのも、そう悪いことではない。むしろ、好ましい」
 カフェは外向的かつ革新的なことに、寛容な立場である。
 一方で伝統を重んじる部分もある。
 両方が入り混じった今回の件は、カフェとしては忌憚なく好ましいことなのだろう。
「それで、どこの祠へ行くのだ? 屋敷にも精霊の廟はあるが……」
「ここです」
 ジロが示したのは、領の端に位置する山だった。
 ルサスール家が統治して間もなく作られた祠があるという。
「なるほど」
「領民からも大事にされているということで、詣でるのに支障はないかと」
 顔色をうかがいながら、ジロは告げる。
 カフェも「悪くない」と頷いていた。
「寒いので暖かい格好はさせていきます」
「もちろんだ」
 力強くカフェは拳を握っていたが、思い出したように、
「待て」と声を出した。
 引き出しを漁ると、渋面を作った。
「そうだ。その山には今、厄介な獣がいるのだった」
「獣……ですか?」
「うむ。野生のキツネが雑魔化したらしくてな。猟師が嘆願書を出してきている」
 おおよそ報告によれば、巨大化と凶暴化しているという。
 猟師では手に負えず、依頼が出されていた。
「ちょうどいい、ハンターに狐狩りをしてもらおう。ついでに、サチコの護衛もさせればよい」
「サチコ様には、なんと告げれば?」
「丁度、参拝客がいたので一緒にいくといえばよいだろう」
 ジロが了解し、部屋を出ていこうとした時だ。
「そうそう、リアルブルーといえば珍しい食べ物を分けてもらった」
「はい?」
「サチコにも食べさせてやりたまえ、モチだ」
 半ば押し付けられるように、ずっしりと三段重ねのモチを託されるのだった。
 ジロが小屋に辿り着いた時には、筋肉痛になっていたという……。

リプレイ本文


 ルサスール領内、小高い山の中を五人のハンターたちが歩いていた。
 先頭を行くのは、天竜寺 舞(ka0377)。クレイモアを片手に、周囲を見渡す。
「まずは狐さんを狩ることですね」
 舞からやや離れて、ミネット・ベアール(ka3282)が告げる。
「人に慣れていない狐さんは警戒心が強いのでまず近づいてくることはないのですが……。雑魔化してたら別なんでしょうかね」
「凶暴化しているのでしたよね」
 怪訝そうに答えたのは、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)である。
 依頼では、凶暴化していると書かれていた。
「縄張り意識が強まっているのかもしれぬ」
 久延毘 大二郎(ka1771)が思案するように呟く。
 山全体を縄張りと意識しているなら、侵入者には容赦しないだろう。
 ならばと、最上 風(ka0891)が手を上げた。
「おびき出してみましょう」
 杖に光の精霊を宿し、光を発生させる。
 拓けた山間では、光り輝く杖は目立って見えた。
 殊更に掲げることで、囮役を担う。
「後は……」
 ふと、ミネットは袋を取り出し、腹を減らす匂いが漂う物体を取り出した。
 同じものを風も取り出して、ミネットに渡す。
 放り投げられた茶色い布状の物体を弓矢で居抜き、周囲の木へ貼り付ける。
 クリムゾンウェスト出身者には見慣れない物体に、大二郎が答える。
「あれは、あぶらあげといって……」
「化けた狐さんはこの食べ物が好物だって、リアルブルー出身の友人に聞いたんです!」
 大二郎を遮って、ミネットが引き継いだ。
 茂みを用いて、隠れ待つ間に風が連絡を入れた。


「こんなに見晴らしがいいんだもの、相手から来てもらった方が早いよね」
 反対側から登る面々は、ミィリア(ka2689)の案を受け入れていた。
 適度なおしゃべりと足音をたてて、道無き道を行く。
「……狐さん、どこにいるの?」
「巨大化しているらしいから、すぐ見つかるとは思うが」
 きょろきょろとあたりを見渡すファリス(ka2853)に、イレーヌ(ka1372)が答える。
 枯れ木ばかりの山は、寂しい印象を受ける。
 開けているということは、向かって来るのを阻害するものもないということだ。
「どこから来るかはわからないな」
 警戒を怠らずイレーヌは、ファリスを庇うような位置を取っていた。
 同じく、メンター・ハート(ka1966)も盾を片手にファリスを挟みこむように歩く。
 三人のやや前を、鈴胆 奈月(ka2802)が歩いていた。
「こっちの世界では無縁だと思っていたからな……つい引き受けてしまったんだ」
 初詣について、ミィリアと軽く喋っていた。
「初詣! ブルーのおサムライさんの国の行事なんだよねっ? 一回してみたかったんだー!」
「……サムライ」
 いつの時代のことだろうと思いながら、奈月は後ろを見やる。
 警戒を怠らないよう心がけていた。
 
 中腹まで行った辺りで、ミィリアが足を止めた。
「これは、中々」
 凶悪な顔をしているとイレーヌは思う。
 件の狐が二匹、目の前に姿を現したのだ。
 釣り上がった眦と、唸る口の中でギラリと犬歯が光っていた。
「……狐さん、なの?」
 ファリスが疑問符をつけるのも無理はない。
 だが、戦闘になったのだと自覚すると風の守りをミィリアに与えた。
 イレーヌもマテリアルを活性化させ迎撃体制を整える。
「行くでござる!」
 気合を入れ、ミィリアが駆け出し奈月が続く。
 イレーヌとメンターに護られながら、ファリスは青白いガスを発生させた。
 片方は動きを止め、顔つきを和らげていた。
 もう一体はガスを振り払うように身体をよじらせ、唸り声を上げた。
「ハウス……は犬か」
 奈月がスピアガンを撃ち、けん制する。
 その隙に、ミィリアが強く踏み込み、粉骨砕身とばかりに身長以上の大太刀を振り上げた。
「フルなおサムライさんパワーをくらえー! でござる!」
 気合一閃。たじろいだ狐は、吠え掛かるとミィリアの肩口へと噛み付く。
 声を上げないよう抑え、振り払った。
 互いに体勢を立て直すところへ、メンターがヒールを飛ばす。
「後ろ、来てる」
 ふと振り返った奈月が、そんなメンターらに警句を発す。
 背後から迫っていた新たな狐に、イレーヌが飛び込みファリスを庇う。
 鉄扇を広げ、胸元で受け止める。返すように畳んだ鉄扇で、眉間を叩く。
「悪い狐さんは、めっ、なの」
 重ねてファリスも風刃を放っていた。


 ミィリアたちが狐と戦闘を繰り広げている頃、舞はクレイモアをぶん回していた。
「さて、狐狩りと行きますか!」
 おびき出された三匹の狐を真紅の瞳が捉える。
 風が合わせて、舞を光で覆っていく。大二郎も舞の周囲へ風を纏わす。
「こちら、始まりましたよ」
 風が連絡をとった時、奈月たちも戦いの最中であった。
 状況を察し、そっと魔導短電話を閉じる。
 
 予期せぬ闖入者に、狐の動きは遅れた。
「ふっ」と強く踏み込み、予備動作なしに大剣を振りかざす。
 マテリアルが潤滑し、狐に回避の隙を与えない。
 逆に狐の攻撃は、風と大二郎の防御壁によって阻まれていた。
「さて、行くとしましょう」
 枯れ木に注意し、射線を確保したラシュディアが動いた。
 石や水の弾丸で、狐を狙う。舞の一撃に動きが鈍ったところを、撃ちぬく。
「ハンターとして、負けていられません!」
 狩人的な意味で負けられないミネットも、弓を構える。
 引き絞られた矢は、鋭く狐の腰骨を砕いた。
「そして、こう!」
 逃げようとするなら、威嚇するように面前に矢を放つ。
 急なことに動きが止まるのなら、舞の大剣が振り下ろすだけだ。
 斬り伏せられてなお、足掻く狐へ大二郎とラシュディアが容赦なく炎の矢を撃ち込む。
「狐は古来より神の使いとして日本では信仰の対象でもあったが……さて」
 大二郎は観察するように、狐を見ていた。
 狐といえば、狐火に代表されるように火とも結び付けられやすい。
 だが、目の前の狐は大二郎らの火に翻弄されていた。
「今回は、ただの獣か」
「これで、終わり!」
 ミネットの放った矢は、狐の頭を撃ち砕く。
 三匹いた狐は瞬く間に骸になるのであった。


 山の反対側。コール音に奈月は気づいた。
「交戦中。またあとで」
 伝話を切り、LEDライトに持ち替えて機導砲を放つ。
 丁度、メンターが盾で受け止めた狐を押し返したところだった。
 狙い定めて放たれた光が、狐の身体を包み焼き切る。
「……残るは」と振り返れば、ミィリアが見事な踏み込みから狐を一刀両断していた。
 どっと地面に倒れたのを見届けると、目覚めた最後の一体へ向き直る。
 狐が状況を理解するより前に、ファリスが再びガスを放つ。
「もう一度、おやすみなさいなの」
 しかし、今度は力強く跳躍して効果範囲から逃れる。
 ミィリアが肉薄し、刀を振るうが空振る。
 着地点を狙って、奈月が引き金を引いた。
 銛型の弾が、前足を貫く。
「永遠におやすみなので、ござる!」
 突進するようにミィリアが迫り、刀を振りぬく。
 最後の一匹は、痛切な声を上げて事切れた。
「こっちは、終わったよ」
 見届けた奈月が、魔導短伝話で告げるのであった。



「わるわるさー! やっと出番なのですわ……だぜ!」
 メタいことを言いながら、銀髪をなびかせる少女こそワルサー総帥サチコであった。
 ルサスール領内の一角に位置する山小屋に、ワルワル団のアジトがあった。
「サチコ……じゃなくて、総帥、久し振りだね!」
「……サチコ姉様。じゃなかった総帥様、お久しぶりなの」
 舞やファリスが挨拶をする中、ずずいっとミネットが前に出る。
 握手を交わしながら、にこやかに告げる。
「はじめまして! ハンターのミネット・ベアールです!」
 サチコをしげしげと眺めながら、一言。
「名前からもっと怖そうな方だと思ってました。良い人そうで安心しました!」
「わ、わたく……俺様は悪なのですわ! ワルサー総帥です……じゃなかった」
 だぜ、と語尾を強調するサチコの肩をガシっと舞がつかむ。
 何事かと振り返ったサチコに、舞が着物を合わせる。
「初詣に行くなら、伝統的な日本の衣装着物を着ないと」
 舞の後ろでは、ジロが嬉しそうに着物を持っていた。
 舞から情報を聞き、カフェの支援を受けて作られた着物である。
「雰囲気は大事だしね。実家ではしょっちゅう着てたから、着付けは任せて」
 どんと胸を張り、サチコを別室へと連行していく。
 わけがわからないまま、連れて行かれるサチコをイレーヌが追いかける。
「リアルブルーでは常識らしいな。私にも着させてくれ」
「え」と慌てたのがミィリアだ。リアルブルーの常識とあっては、黙っていられない。
 いそいそとミィリアも後を追いかけるのであった。
 
 狐が退治された山の裾野に、ハンターたちは再び集まっていた。
 その中心には、着せ替え人形のようにじっとするサチコの姿があった。
「う、動きにくいのですわ」
「いい感じだね」
 満足そうな表情を浮かべる舞だったが、その手が何故かわきわきしていた。
「帯をくるくる巻き取りたい衝動が……」
 ぼそりと呟く。声は聞こえなかったが、サチコはぶるっと身体を震わせていた。
「コートも羽織って、防寒ばっちりでござる」
 ミィリアにならい、サチコもコートをジロから受け取る。
 いざ、山へと登り始め――、
 
「早速、歩くのが面倒になってきました。どなたか風をおんぶしませんか?」
 10分と経たないうちに風が音を上げていた。
 狐退治の緊張が切れて、いつもの調子を取り戻したようである。
 無言でジロが風をおぶる。
「キノコとか生えてませんかね? 松茸とか松茸とか、トリュフとか」
「いくらなんでも、季節がわるいだろう」
 奈月がそっとツッコミを入れる。
 そんな三人の前方をサチコと大二郎が歩く。
「ほう、つまり山神のようなものか」
「周囲を切り開く許可を得るため、と聞いていますわ……だぜ」
 サチコもさすがはルサスール家のご令嬢。
 大二郎の尋ねた祠の由縁や精霊について語ってくれた。
 質問を重ねつつ思案する大二郎の隣で、イレーヌが尋ねる。
「そういえば、初詣とは具体的に何をするものなのだ?」
「神様にお参りして、願い事を叶えてもらうんだよ」
 さっくりと答えたのは、舞だ。
 後を引き受け、大二郎が補足説明をする。
「天竜寺君は知っていると思うが、日本では『二礼二拍手一礼』という作法がある」
 まずは、会釈。その後に二礼。さらに二回手を打ち祈り、最後に一礼。
 一般的な神社の参拝方法だと述べる。
「勉強になるでござる」とミィリアも真剣に聞き入る。
「そういえば、祠に鈴や賽銭箱はないと考えていいか?」
 大二郎の発した聞きなれない単語に、サチコは首をひねる。
「なかったよ」と答えたのは、祠付近まで狐の不在を確認した奈月だった。
「お供えはしていると聞いたが、サチコ君。持ってきてくれているかね?」
「ワルサー総帥なのだぜ」と訂正しつつ、手に持っていた風呂敷を見せる。
「言われたとおり、持ってきましたわ……だぜ」

 石造りの小さな祠が見えてきた。
 神社と違って、お地蔵さんを祀っているような小さな建造物だった。
「さぁ、大二郎さんの教えてくれた通りにやりましょう!」
 気合十分といった感じで、ミネットが会釈をする。
 二礼を行い、二回手を鳴らす。微妙に揃ってないのが、味があった。
「現金とか金目のモノが苦労せず、楽に、たくさん、手に入りますように」
 と風が祈りを捧げたのを皮切りに願い事が始まった。
 静かに祈るものもいれば、声に出すものもいる。
「最強の武芸者、おサムライさんになれますように」
 ミィリアのように抱負めいたことを祈っていたり、
「いっぱい狩ってお肉いっぱい食べられますように」
「あまねく世に、焼いて食べる素晴らしさが伝わりますように」
 ミネットやメンターのような願い事もある。
 奈月は、
「適度にサボれて、適度に活躍できますように……っと」
 誤解されそうな願い事を述べる。力み過ぎないようにという意味だと弁解していた。
 祈り終えると、風呂敷を広げて冬の植物を供える。
「季節の植物を供えるのが、ルサスール領の伝統なので……だぜ」と説明する。
 興味深そうに大二郎が眺めていた。
 そんな大二郎の願い事は、おもしろき一年である。
「……ファリスはね。今年一年ファリスが好きな人達が怪我とかしないで元気に過ごせるようにお祈りしたの」
 おもむろにファリスがサチコに問いかける。
「総帥様は何をお祈りしたの?」
「えっ!?」と驚きを見せた後、ややあって、「わ、ワルワル団の栄光……なのだぜ」と答えた。
「嘘だろう?」と指摘したのはイレーヌだ。
「な、なんで」と狼狽するので、イレーヌの推察は当たったことが証明された。
「……本当の願いは何なの?」
 真っ直ぐに見つめられ、サチコは顔を赤らめて答える。
「りょ、領民の平和と生活……」
「サチコさんらしいですね」とラシュディアがいうと、より慌てふためく。
 ちなみにラシュディアの祈りは、願いが叶いますように、だ。
「初詣の願い事を絶対に叶えたい人は、境内に響く大声で唱える。決意を表すんだぞ」
 サチコもどうかとメンターが促すが、うろたえているサチコはそれどころでない。
「ま、舞さんはどんな願いを」と矛先を向けようとしたが、
「早く降りておモチを食べようよ」とかわされた。
「モチといえば」とメンターが唐突に、鏡餅を取り出した。
「このお餅を頭にのせる」
 サチコの頭に鏡餅をのせる。
「それを落とさないまま階段を降り切ると、福運びができたとして、一年の幸運が約束されるんだぞ」
 祠前の石造りの階段を指して、告げる。
 慣れない着物にバランス感覚を持って行かれ、わたわたする姿がそこにあった。
 なお、ミィリアも挑戦して、こちらは悠々と成功させていたという。
 

「カビ落とし、しておきましょうか」
 先んじて帰っていたラシュディアが、鏡餅をお湯で磨く。
 食欲が減退しないよう、細心の注意を払っていた。
「調味料、どんなのがありますか?」
 タロに聞き、館にあるものも含めて用意してもらう。
「寒い中ですから、暖かいもので喜んでくれると嬉しいですね~」
 そういいながら、モチを磨くラシュディアであった。

「サチコさん、知ってますか? リアルブルーでは、毎年多くの方が、餅を食べて命を落としているのですよ?」
「え!?」
「サチコさん、食べる前に遺言の準備はしましたか?」
 いざ、実食という段階に入って風がサチコにそんなことを言い出した。
 サチコだけでなく、モチ初体験のファリスまで怯えた。
「……ファリス、お餅を食べるの、初めてなの。……楽しみなの、だけど」
「無理に飲み込まなければ、大丈夫だ」
 淡々と餅を焼く奈月にいわれ、両者ともに胸を撫で下ろす。
 大二郎は海苔とたまたま手に入ったという醤油で、磯辺巻きを作っていた。
 舞は分けてもらった小豆をジロと一緒にぜんざいに仕立てる。
「塩をほんの少し入れると甘みが引き立つんだよ」
 楽しげにサチコに提供し、反応を見る。
「ふむ」
「どんな味がするのかな? 美味しいのかな?」
 恐怖を脱したファリスとサチコが椀を受け取って、小豆の絡んだ餅を口に運ぶ。
 ほのかな甘味を纏った餅が口の中で躍る。
「……パンとは全然違うの! お餅も美味しいの!」
「これは、美味しいですわね」
 嬉しそうな笑顔に、舞は小さくガッツポーズをするのだった。
 そこへ忍び寄る一つの影、メンターだ。
「初詣から三日間は三が日といって、毎朝身を清め、三食餅を食べることで、健康な体ができるんだぞ」
 さも常識化のように吹聴する。
 それを聞いていた奈月は、少し考えてぼやく。
「お餅って結構腹膨れるんだが……皆わかってるんだろうか?」
 ちなみにカロリーもすごいらしいとは、大二郎の言。
 一方で、カロリーならすぐに消化しそうな二人がいた。
「んー! 狩りの後のお食事は至高ですね! ラシュディさんのももらっていいですか!」
「どうぞ」という返事を待たず、口へ運ぶミネット。
 そして、
「おっきいお餅、食べ放題、きゃー! 皆で色々お料理して食べ比べるの、すごく楽しそうでござるっ」
 しょっぱい系を作りながらはしゃぐミィリアである。
 甘い餅としょっぱい系を交互に食べれば、食べきれるはずとやる気まんまんだ。
「そちらのも気になるな。ぜんざいといったか」
 アイスやチョコレートを合わせていたイレーヌもお椀をいただく。
 ほっとする味だと評しながら、冷えたビールを流し込んでいた。

 落ち着いてきた頃、ミネットが弓矢を取り出してきた。
 矢尻のない破魔矢を用意してもらっていたのだ。
「厄祓いに一発いきますよ」
 弓を引けば、勢い良く空に破魔矢が消えていく。
 その時、一瞬吹いた風に、全員顔をそむけてしまった。
「ふぎゃ」
 間が抜けた声がした方を向けば、サチコの着物の襟元へ破魔矢がすっぽりはまっていた。
「わわ、ごめんなさい。矢尻がついてないのでゆるしてください」
「サチコさん、それは当たり年になるということですよ。羨ましい限りです」
 謝るミネットを尻目に、しれっと言ってのける風なのであった。
 
 ちなみに餅はなんとか食べきれたという……数人の体重を犠牲にして。

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MVP一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞ka0377
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎ka1771
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアールka3282

重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • 山岳猟団即応員
    ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779
    人間(紅)|19才|男性|魔術師
  • 食に限界なし
    メンター・ハート(ka1966
    ドワーフ|28才|女性|聖導士
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 新航路開発寄与者
    ファリス(ka2853
    人間(紅)|13才|女性|魔術師
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアール(ka3282
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/20 21:17:40
アイコン 相談卓
最上 風(ka0891
人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/01/24 10:40:46