ゲスト
(ka0000)
知追う者、気持ちの整理と都の景色
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/04/23 15:00
- 完成日
- 2019/04/26 18:05
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●都に到着
天ノ都の状況の確認などのために大江 紅葉と松永 光頼および、それぞれの家臣と紅葉の師匠・吉備 灯世の家の者が向かった。
無事到着し、都の荒れ方に驚くが、復興の槌音は聞こえているのでほっとする。
都の入り口で一旦止めて行動を決める。都の細かい状況がわからないため、家臣たちだけが中に入る。三家の屋敷がどのような情況か、紅葉運転のトラックが入っていいのかということを調べるためだった。
「師匠が書いた手紙をスメラギ様に届けるのはいいんですが、執務室とかある方向にはもう、十年以上行っていません」
「え? なぜ、また?」
光頼は驚いた。十代前半から半ば以降からなぜ、そこに行っていないのかということに。
「女官が怖いのです」
「え?」
「あのとき……どなたかに書類を持って行ったのです」
十代前半のころの紅葉はお遣いを頼まれた。書類を持ってふらふら歩いていたら、勉強から逃げるスメラギ(kz0158)に出合い頭にぶつかった。紅葉は書類をぶちまけ転がり、スメラギを追いかけてきた立花院 紫草(kz0126)が起こしてくれた上、書類も集めてくれた。
ここまでならスメラギが元気いっぱいだったとか、紫草カッコいいという思い出話になっていただろう。
しかし、一同が去った後、紅葉は女官たちに取り込まれ、かいがいしく怪我無いかとか気を付けてとか言われた。このとき、「抜け駆けしたらだめ」とか「助けてもらうという手があった」とか下心が見えたという。
「その後、事故でも立花院様には近づかないように、頑張ってスメラギ様回避能力をあげたのです」
光頼は状況を想像して苦笑する。ファン女官のとばっちりを受けるのは連鎖を避けるのが一番なのは確かだ。
「結局、下っ端役人のままなので、お話することもありませんでしたし、妖怪事件の時の温情についてのお礼も結局言えませんでした。どの面下げて、どうやっていうのかなど考えていたら億劫でした……後悔するくらいなら、感謝は無様でも示しておけばよかったです」
紫草の死亡情報は師岬にも届いている。死者には何も言えない。
妖怪と孤立奮闘していた自分たちならばわかっているはずなのに、と紅葉は呟いた。
「それと、光頼殿にもその上司の方にも助けてもらったんですよね」
光頼の仕事は紅葉が妖怪に寝返るならば斬ることだった。
(そうしないと出会わなかったんだ……この人に。あれから、色々あった。そのまま穏やかになって行くと思ったが……妖怪は多く……)
「生き延びているのが不思議です……」
紅葉が寂しそうな顔をする。国の根幹にかかわっていた多くの者が死んでいる。
「でも……だから、師岬があるのですよ?」
光頼は励ましたいと考えた。
(また、はかない様子を見るのは嫌だ……光月が紅葉殿を思っているなら、身を引くしかないが……身を引く?)
光頼は弟の光月が紅葉に恋をしていると考えていた。今、浮かんだ言葉に驚き、飛びあがるように立ち上がり、トラックの荷台から落ちた。
「み、光頼殿?」
紅葉が飛び降りてしゃがんで様子を見る。
「だ、大丈夫です」
「本当ですか? 体調が悪いのですか?」
「あ、いや……」
紅葉が光頼の頭に触れようと手を伸ばす。顔が近くなってきた時、誰かの足音が近づいてくる。
光頼は慌てて立ち上がろうとしたが、紅葉が衣の一部を踏んでいたため、互いにバランスを崩す。
紅葉が倒れ込み、光頼は腕に抱きとめた。紅葉が焚き染める香がふわりと鼻孔をくすぐる。
光頼の心臓が早鐘を打ち、口の中が乾く。
「宗主、若君?」
足音の主らしい声がしたため、慌てて二人は立ち上がり離れた。
●草餅
吉備及び松永の屋敷は大きいが、損壊部分が大きく、すぐに使えない。都の外れにある大江の屋敷は残っていた。むしろ、中心から離れていたのが良かったらしいが、城から遠い上、仮住まいとはいえども三家合同に使うには手狭ではあるがどうにかなる。
翌日、紅葉は「師匠が持っていけばいいのに」とブツブツ言いながら、スメラギ宛ての書簡と土産の草餅を手に執務室に向かう。
静かな城内を歩き、真っ直ぐ執務室に到着する。
「……静かすぎて何か、こう、叫びたくなるのです……図書かーん!」
叫んだ後、扉をノックしようとした。
「叫ぶなっ!」
声と同時に扉が開き、紅葉は側頭部を強打し、うずくまった。
その後、草餅と書状を渡し、流れで師岬の今後の計画を語った。書簡が「直轄地になるならば、紅葉を代官にしてほしい」という師匠・吉備 灯世と光頼および民の嘆願書に近かったのだのだ。
そのあと四方山話し、帰宅した。
「光頼どのー、帰ってますー?」
声をあげながら進む。
「どうかしたのですか?」
「私があげた草餅が、お土産から賄賂になりました。内容、知っていたのですか?」
紅葉は怒りと困惑な理由は光頼に理解できた。
「知っていましたよ。草餅は無理にもっていかなくても」
「駄目ですよ! お土産は話のきっかけになりますし、子どもにはおやつは重要です」
光頼は気付いた、紅葉はスメラギを上司と弟妹という二か所の分類しているのだと。
「……どうでした?」
「スメラギ様が読むの遅いから……色々あって、売り言葉に買い言葉で……。あとは師岬の在り方などについて演説したり……」
「なぜ、けんかに!?」
「で、最終的に、立場はともかくあのあたりは預けるといわれました。で、後日、正式に連絡来るそうです」
「待ってくださいで、拝領とか代官とか……売り言葉の買い言葉でどうつながるのかわからないのですが!」
どういう会話が繰り広げられたのかは、現場にいないと分からない。
ただ、灯世が根回しをしていたことは事実だ。陰陽寮でも日和見や紅葉と比較的仲がいい人たちには師岬の計画のことを話し、スメラギに届くようにしていたはずだ。
光頼の疑問には答えず、空腹を満たすために紅葉は草餅を台所にもらいに行った。しかし、夕食前と言うことで追い出されていた。
●依頼内容
「で、ですね……」
ハンターオフィスの職員は、紅葉に流れを聞いて「流れが見えません!」と突っ込み返す。
「つまり、うちの掃除と修繕、私の護衛を頼みたいのです」
「どっちも?」
「どっちもでも、どっちかずつでも良いです」
いくら大江家が小さいとはいえ、人手は不足している。修繕以外にもやることがあるためだ。
護衛というのは、状況の一区切りということで出向きたいところがあるからだという。
「都からは近いのです。だから、私も掃除は手伝えますが……」
そのため、来てくれたハンターにまとめて全員で行動するか、分担するか一任するということだった。
「で、よろしくお願いします」
「分かりました」
大江家で一日手伝うという仕事が登録されたのだった。
天ノ都の状況の確認などのために大江 紅葉と松永 光頼および、それぞれの家臣と紅葉の師匠・吉備 灯世の家の者が向かった。
無事到着し、都の荒れ方に驚くが、復興の槌音は聞こえているのでほっとする。
都の入り口で一旦止めて行動を決める。都の細かい状況がわからないため、家臣たちだけが中に入る。三家の屋敷がどのような情況か、紅葉運転のトラックが入っていいのかということを調べるためだった。
「師匠が書いた手紙をスメラギ様に届けるのはいいんですが、執務室とかある方向にはもう、十年以上行っていません」
「え? なぜ、また?」
光頼は驚いた。十代前半から半ば以降からなぜ、そこに行っていないのかということに。
「女官が怖いのです」
「え?」
「あのとき……どなたかに書類を持って行ったのです」
十代前半のころの紅葉はお遣いを頼まれた。書類を持ってふらふら歩いていたら、勉強から逃げるスメラギ(kz0158)に出合い頭にぶつかった。紅葉は書類をぶちまけ転がり、スメラギを追いかけてきた立花院 紫草(kz0126)が起こしてくれた上、書類も集めてくれた。
ここまでならスメラギが元気いっぱいだったとか、紫草カッコいいという思い出話になっていただろう。
しかし、一同が去った後、紅葉は女官たちに取り込まれ、かいがいしく怪我無いかとか気を付けてとか言われた。このとき、「抜け駆けしたらだめ」とか「助けてもらうという手があった」とか下心が見えたという。
「その後、事故でも立花院様には近づかないように、頑張ってスメラギ様回避能力をあげたのです」
光頼は状況を想像して苦笑する。ファン女官のとばっちりを受けるのは連鎖を避けるのが一番なのは確かだ。
「結局、下っ端役人のままなので、お話することもありませんでしたし、妖怪事件の時の温情についてのお礼も結局言えませんでした。どの面下げて、どうやっていうのかなど考えていたら億劫でした……後悔するくらいなら、感謝は無様でも示しておけばよかったです」
紫草の死亡情報は師岬にも届いている。死者には何も言えない。
妖怪と孤立奮闘していた自分たちならばわかっているはずなのに、と紅葉は呟いた。
「それと、光頼殿にもその上司の方にも助けてもらったんですよね」
光頼の仕事は紅葉が妖怪に寝返るならば斬ることだった。
(そうしないと出会わなかったんだ……この人に。あれから、色々あった。そのまま穏やかになって行くと思ったが……妖怪は多く……)
「生き延びているのが不思議です……」
紅葉が寂しそうな顔をする。国の根幹にかかわっていた多くの者が死んでいる。
「でも……だから、師岬があるのですよ?」
光頼は励ましたいと考えた。
(また、はかない様子を見るのは嫌だ……光月が紅葉殿を思っているなら、身を引くしかないが……身を引く?)
光頼は弟の光月が紅葉に恋をしていると考えていた。今、浮かんだ言葉に驚き、飛びあがるように立ち上がり、トラックの荷台から落ちた。
「み、光頼殿?」
紅葉が飛び降りてしゃがんで様子を見る。
「だ、大丈夫です」
「本当ですか? 体調が悪いのですか?」
「あ、いや……」
紅葉が光頼の頭に触れようと手を伸ばす。顔が近くなってきた時、誰かの足音が近づいてくる。
光頼は慌てて立ち上がろうとしたが、紅葉が衣の一部を踏んでいたため、互いにバランスを崩す。
紅葉が倒れ込み、光頼は腕に抱きとめた。紅葉が焚き染める香がふわりと鼻孔をくすぐる。
光頼の心臓が早鐘を打ち、口の中が乾く。
「宗主、若君?」
足音の主らしい声がしたため、慌てて二人は立ち上がり離れた。
●草餅
吉備及び松永の屋敷は大きいが、損壊部分が大きく、すぐに使えない。都の外れにある大江の屋敷は残っていた。むしろ、中心から離れていたのが良かったらしいが、城から遠い上、仮住まいとはいえども三家合同に使うには手狭ではあるがどうにかなる。
翌日、紅葉は「師匠が持っていけばいいのに」とブツブツ言いながら、スメラギ宛ての書簡と土産の草餅を手に執務室に向かう。
静かな城内を歩き、真っ直ぐ執務室に到着する。
「……静かすぎて何か、こう、叫びたくなるのです……図書かーん!」
叫んだ後、扉をノックしようとした。
「叫ぶなっ!」
声と同時に扉が開き、紅葉は側頭部を強打し、うずくまった。
その後、草餅と書状を渡し、流れで師岬の今後の計画を語った。書簡が「直轄地になるならば、紅葉を代官にしてほしい」という師匠・吉備 灯世と光頼および民の嘆願書に近かったのだのだ。
そのあと四方山話し、帰宅した。
「光頼どのー、帰ってますー?」
声をあげながら進む。
「どうかしたのですか?」
「私があげた草餅が、お土産から賄賂になりました。内容、知っていたのですか?」
紅葉は怒りと困惑な理由は光頼に理解できた。
「知っていましたよ。草餅は無理にもっていかなくても」
「駄目ですよ! お土産は話のきっかけになりますし、子どもにはおやつは重要です」
光頼は気付いた、紅葉はスメラギを上司と弟妹という二か所の分類しているのだと。
「……どうでした?」
「スメラギ様が読むの遅いから……色々あって、売り言葉に買い言葉で……。あとは師岬の在り方などについて演説したり……」
「なぜ、けんかに!?」
「で、最終的に、立場はともかくあのあたりは預けるといわれました。で、後日、正式に連絡来るそうです」
「待ってくださいで、拝領とか代官とか……売り言葉の買い言葉でどうつながるのかわからないのですが!」
どういう会話が繰り広げられたのかは、現場にいないと分からない。
ただ、灯世が根回しをしていたことは事実だ。陰陽寮でも日和見や紅葉と比較的仲がいい人たちには師岬の計画のことを話し、スメラギに届くようにしていたはずだ。
光頼の疑問には答えず、空腹を満たすために紅葉は草餅を台所にもらいに行った。しかし、夕食前と言うことで追い出されていた。
●依頼内容
「で、ですね……」
ハンターオフィスの職員は、紅葉に流れを聞いて「流れが見えません!」と突っ込み返す。
「つまり、うちの掃除と修繕、私の護衛を頼みたいのです」
「どっちも?」
「どっちもでも、どっちかずつでも良いです」
いくら大江家が小さいとはいえ、人手は不足している。修繕以外にもやることがあるためだ。
護衛というのは、状況の一区切りということで出向きたいところがあるからだという。
「都からは近いのです。だから、私も掃除は手伝えますが……」
そのため、来てくれたハンターにまとめて全員で行動するか、分担するか一任するということだった。
「で、よろしくお願いします」
「分かりました」
大江家で一日手伝うという仕事が登録されたのだった。
リプレイ本文
●まずは嵐
レイア・アローネ(ka4082)を見た瞬間、大江 紅葉(kz0163)が表情を引き締め、家臣に声をかける。
「この方は掃除も無理です。寝所の用意を」
「あ、いや……すまない……。前の戦いでけがを負ってしまった。一応、動くことはできる」
「駄目です」
紅葉がきぱりといってどんどん引っ張っていく。廊下はなめらかでレイアは運ばれて行った。
星野 ハナ(ka5852)は依頼の内容を聞き、普通に紅葉を連れまわすことを考えていた。
「せーっかく、都が落ち着いたんですよぅ、紅葉さんと一緒に都の散策したいですぅ」
戻ってきた紅葉は小首をかしげた。
「いえ、外出から戻ってきたら掃除の手伝いをします。屋根の上に登って……」
紅葉にはやる気みなぎるが、家臣たちには「やめて、それだけは」という空気が漂う。
「目的地行く前にぃ、都も見に行きましょ」
紅葉をぐいぐい引っ張り出かける。彼女の移動は魔導ママチャリであり、必要ならば二人乗りも考えていた。紅葉は差し出された馬の手綱をとっさに握った。
ユメリア(ka7010)は護衛も屋敷の手伝いも両方するつもりはあった。その目の前で護衛予定だったレイアが紅葉によって寝床に押し込められ、護衛対象がハナに引っ張られて消えていく。
「……護衛はレイア様があの状況ということは……ハナ様おひとり?」
外出した紅葉がすぐに戻ってくる様子には思えない。
大江家の家臣らしいものは、安堵と不安が同居する表情をしている。
「私はどちらかを選ばないといけないということですね」
ユメリアは家臣たちの不安を放置できないし、人手のバランスを考え追いかけることにした。
「宗主をよろしくお願いします」
ユメリアは頭を下げる家臣に見送られて、紅葉たちが消えた方に向かった。
●ほんわか
天央 観智(ka0896) 、ミオレスカ(ka3496)と穂積 智里(ka6819)は到着後、松永 光頼に荷物置き場に案内される。
「三家合同でしばらく暮らす、ですか」
「しばらく……なのかまだ分からないがな……」
今後が見通せていないのがよくわかるコメントだ。
「まずは屋敷の破損具合の確認からですね。柱と梁を中心に、壁や屋根等が崩れないように。すぐに使わないものをしまっておく、物置も決めてもらわないと……」
「ふむ……進め方等何かあれば言ってほしい」
案内中に見える所は特に問題は感じない。
「松永さんもお元気になってきたようですね」
「面目ない……」
ミオレスカの言葉に、光頼は顔を伏せる。
「いえ、怪我されたり、落ち込まれたりしていましたし」
「ああ……ハンターには本当に助けられている……東方が解放された直後から」
光頼はミオレスカを見て微笑んだ。
「そう考えるとずいぶんお付き合いが長いですよね。師岬が賑やかになってきていますし、それに中心となるお二人が、良い方なので安心ですね」
「そうだな。紅葉殿も、灯世殿もよい人で」
ミオレスカは生温かい視線を光頼に向けた。そこでなぜ紅葉とその師匠・吉備 灯世の名が出るのかということで。下手なことを言うと、何か拗らせそうなのでとりあえず黙り、本日の仕事に専念する。
「師岬の今後のためにも、天ノ都の復興、第一歩ですね。お掃除や修繕の手伝いをさせてもらいます。水源を、きちんと確認しておきましょう。井戸端会議できるような井戸が無事ならいいのですが」
水は出ているが、とりあえず使えるか否かの確認しかしていないのも事実だった。
智里はミオレスカと光頼の会話を聞いて首をかしげる。何かかみ合っていない気はした。
「ところで掃除はどうしますか? 床下も見たほうがいいですよね?」
「一応、潜るつもりだ」
光頼が告げると、智里はどこからか「やめて」というような視線を感じた。
「まさか、陰陽師の家らしい変な物が出てくることがあるのでしょうか」
「……え? それはないと思うが……紅葉殿は犬や猫を飼っていたからそちらの何かは出てくるかもしれない」
智里に光頼は答える。
「それは……それで危険な物がありそうですね」
「うむ」
光頼はうなずいた。
動物が何を隠すのか、隠したものがどうなったかは見てみないと分からないのだから。もしもを考え、智里は【攻勢防壁】や【機導浄化術・白虹】を持ってきていた。
●走り回る
「復興途中の活気ってすごいですよねぇ。何かもうそれだけでわーって嬉しくなるというかぁ」
ハナはきょろきょろしながら歩く。
「早く行って戻って手伝……」
「紅葉さん、あれ、おいしそうじゃないですかぁ、おごりますから一緒に食べましょうよぅ」
ハナはぐいぐい行く。
「皆さま、追いつきました……。紅葉様、挨拶が遅れましたが、本日お手伝いをさせていただく、ユメリアと申します」
「ご丁寧にありがとうございます」
引きずられるように移動する紅葉はユメリアに頭を下げ自己紹介をする。
「そして、どこに向かわれるのでしょうか?」
ユメリアが話に聞いている紅葉の外出先とは方向が違うようだ。
「ここの菓子屋ですぅ」
ハナは足を止めた。商店が立ち並ぶところにやってきたのだった。
「何があるのでしょうかぁ」
ハナは店前の脇に魔導ママチャリを止めて入っていく。
紅葉は馬の手綱をママチャリに結び「ここで待っていてくださいね」と馬を諭していた。
ユメリアはこの状況に困惑するが、甘い香りや焦げているのとは異なるが何か甘辛いような匂いには心が惹かれる。紅葉に続いて店に入った。
ハナはこの後のことを考え、幾つか菓子を買い包んでもらう。それとは別に、ここで飲食する物を選んでいた。
「遅いですよぉ。そもそも、馬、ママチャリにつないでも逃げるときは逃げるですぅ」
ハナの言うことはもっともであり、ユメリアもうなずく。
「動物も話せばわかります」
「虎猫達は紅葉さんの言うこと聞いてくれますぅ」
「……話せばわかってくれますが、その通り行動してくれるかは別です」
紅葉は素直に認めてしまった。
幸い三人が店内にいる間、馬はおとなしくしていた。そのあと、何軒か店を見て回る。食べたり飲んだりもしつつ。そして出発前にハナが見て回ったもう一つの理由を明かす。
「だって、景色が良い所に行くんですよねぇ? そういう場所ならおやつ必須ですぅ」
都をようやく出発した。
●掃除の行方
屋敷の掃除等についてはハンターたちと家臣たちですり合わせをして段取りをした。
「わ、私も運ぶくらいなら……ぐふっ」
レイアが物を動かそうとして痛みで倒れる。
「だ、大丈夫だ。血がこぼれないようにきちんと包帯を巻いているからな」
家臣たちは優しい笑顔になると、強制送還を行った。
「ああ、心配ない心配ない……大丈夫大丈夫だから……ああああ」
「では、宗主のペットが逃げないように見張っていてくださいね」
部屋に入るとぴしゃりとふすまが閉められた。
紅葉のペットは檻にきちんと入っている、ウサギだった。
「……こ、これは」
ウサギはふすふす鼻を動かし、自分のしたいことをしていたのだった。
観智は部屋の数や屋敷全体の柱の様子を見て回った。傷み方は放置によるものと言うのがほとんどだ。部屋数はぎりぎりであり、来客に対応できないだろう。
「本来は必要な物があれば、すぐに取り出せるようにしまう、のが基本なんでしょうけど。今は、少しでも場所を確保するため、すぐに使わないものは全部、極力隙間なく詰めて、暮らす場所を確保するの優先ですね……」
これは確かに広い屋敷を使いたいだろう。かと言って、ばらばらに住むには費用面や人手の問題があるに違いない。
荷物置き場を選定後、観智は壁や床、天井の状況を見て回ることにした。
「では、ここの部屋の壁や床の様子などを先に見てしまいますね」
水平か垂直か、物差しなど道具を用い細かいところを見ていく。
「歩いていて傾斜を感じませんし、住んでいたことも考えれば自然の範囲ですね」
確認が終わったところで、荷物を運ばせ、倉庫化する。その後は荷物等が適度になった各部屋を見て回ることになった。
ミオレスカは井戸の状況を確認する。井戸の水は人の手で引き上げるが、すぐ横にある樋に注ぐことで、土間に引き込まれ大きな壺にたまる仕組みになっていた。
「念のため、井戸の中を確認して、樋も見ておいた方がいいですね」
この屋敷を再度使い始めたとき、壺を洗ったり水を流すことだけはしていたという。念のためのチェックは後回しだ。
井戸の中を覗き込む。澄んだ水がそれなりにたまっているし、特に変なにおいがするわけでもなかった。樋の傷みを確認して、台所に入っていく。
竈の状態や煙突の状況を見る。すでに使っていることを考えれば通常使用は問題ないのだろう。
「大量に煮炊きしてみましょう」
負荷をかけ、問題は早く見つけようと考えたのだった。
多めの昼食やおやつを作り始める。必要なら炊き出しでもできれば損害を受けた人たちへの役にも立つと考えた。
智里がロボットクリーナーと共に床に潜るため中庭に下りた。すると、光頼は身軽な格好で明かりを手に、床下に潜ろうとしていた。
「若様が入らずとも!」
「そうですよ」
「いや、このくらい私もできる」
難色を示され、光頼が溜息を吐いている。
「何かあったのですか?」
「いや、それが、光頼さまがお入りくださるというけど……まあ……」
「あの、どうして光頼さんが床下に入るのが駄目なのでしょうか? 武家の男性が床下に潜るのは良くないとか、何かジンクスでもあるのでしょうか」
聞かれた相手はきょとんとする。
「いや、そこまで大げさなことはないですよ」
光頼が駄目という理由が智里はわからず、再度問う。
「面子の問題です」
「え?」
「わたくしは大江に仕える者で、あちらは松永に仕える者たちです。光頼様はあちらの跡取り息子。そのような方が床下に入ると言い出したためです」
智里は理解した。注意して見れば、服装もどこか家によって違うかもしれない。
「紅葉さんは?」
「宗主は屋根の上に登りたがります。その上、妙に頑張ってふすまを破……げふん」
家臣はわざとらしい咳で何かごまかした。何かやらかす前に追い出した雰囲気が漂う。
「あの、私が床下確認してきます!」
智里の宣言で、騒動は収まった。光頼は「すまないな」と不本意そうな顔で言う。
智里は、灯火の水晶球を片手に潜っていく。床下といっても四つん這いで移動はできるし、智里の身長ならば前かがみで座ることもできる。余裕はある。
床下には色々ある、おおむねほこりやゴミや蜘蛛の巣。
「陰陽師の家らしい変な物が出てくることはあるのでしょうか? あれはっ、イタッ」
土に埋まっているが半分出ている何かが見え、身を起こそうとして頭をぶつける。ハラハラしながら近づき、灯で照らした。
何かの骨や草履の片方などのようだ。
「……犬の宝物?」
ひとまず魔導スマートフォンで写真に撮って移動した。修繕が必要そうなところがないか確認をじわじわ進めたのだった。
●丘の上
標高が高いそこからは、天ノ都が見える。道中は特に問題はなかった。
「うーわーですぅ」
「壊されても戻せるのが、人の力ですね……」
ハナとユメリアが景色を見て声を出した。
紅葉は見た後、どこか移動していく。
「あああ、やはり、放置したら、種は芽が出ませんね!」
「ここに水源があるなら話は別ですが……」
ユメリアは紅葉がしていたことを問う。
「いえ、大したことはないんですよ……」
紅葉は溜息を吐いた。
ユメリアが紅葉の話を聞いている間に、ハナは式神を作って荷物から緋毛氈を敷き、座布団を置いて茶の準備をしていた。
「さあ、お茶飲んでオヤツ食べながらのんびりしましょうよー」
「……そうですね……」
ハナの呼びかけ後、紅葉は座る。
「人手はあるんですぅ。紅葉さんは紅葉さんですることすればいいんですよぉ」
ハナは茶を立てて、菓子を配る。
「結局ぅ、ここはどうして?」
「けじめといいますか、あまり来られないと思いましたから……一区切りつきましたし」
紅葉は下がった場所を見ていた。
「そうなんですぅ」
「はい……あれから、よく持ちこたえました。それも皆さんのおかげですね。二度目の破壊……はっ、これは、建築資材をうまく売り込めば、お金稼げるということですね! そうすれば、図書館への道は開けるのです」
紅葉は何か説明しようとしていたが、途中から、現在の欲に移動していく。
「図書館を作ろうという情熱はすごいのですぅ」
ハナは練り切りを口に放り込んだ。
「図書館はいいですよね。本を読みだすと止まらなくなる性質です」
ユメリアの言葉に紅葉が食いつき、図書館談義となった。
「私は旅の吟遊詩人、世界各地の人の生きざま、知恵、そして物語を紡ぐのが仕事です」
ユメリアは紅葉に語る、歌の良さを。
「歌でなら、どこでもどんな区切りでも自由自在ですよ」
紅葉が所望するならば、歌を披露すると告げた。
「のんびりできますねぇ」
ハナは天ノ都を見つめた。
●片付け終了
昼食後、締めの作業になる。
それぞれが修繕が必要と気になったところを光頼に告げる。
「雨漏りは避けたいですよね。雨どいや排気口は見ておきたいです」
「屋根瓦の状況を見てきます」
ミオレスカは梯子で、智里は小型飛行アーマーで、観智は【マジックフライト】を用いる。観智は軍用双眼鏡で俯瞰するように確認し、他の二人もそれぞれの見方を行う。
狭い屋敷といわれるが、一通り見るには時間がもかかる。戻ってきたところで光頼に報告した。
「大きな損傷はないようですが、細かい補強は必要ですね」
「君たちが行動してくれた早く片付いた。全員一丸となって行動することがまだ難しくてね」
「仕方がないでしょう。いきなり一緒に行動をとれといわれて取れる方が不思議ですから」
観智の言葉に「それはそうだな」と光頼はうなずく。
「皆さんはてっきり、あっちの村の方に本拠を移しちゃうのかと思っていました。ここを修繕するってことは、紅葉さんはこっちに住んで陰陽師のお仕事とかに通われるんですか?」
智里に光頼は首を横に振る。
「本拠地はあっちの里だ。しかし、私も紅葉殿も、灯世殿も、中央に仕えている。ゆくゆく紅葉殿は師岬にいてもらうことになるだろうが。こちらには別邸を作るとしても、これまでの屋敷では広すぎるしひとまず、三家合同でとなったんだ」
智里はなるほどとうなずいた。
「そろそろ、おやつにしましょうか。外出組も帰ってくるでしょうし」
ミオレスカがおやつは柏餅だと告げる。
「私は結局……ウサギと一緒にいただけだ」
よろめきうめく、レイアに光頼は苦笑する。
「ウサギ係も重要です。それに、ケガの時はゆっくりと治すことが重要ですよ」
「すまない」
レイアはしおれる。
戻ってきたハナとユメリアも、紅葉と共に戻ってきた。
さあ、おやつの時間だ。
レイア・アローネ(ka4082)を見た瞬間、大江 紅葉(kz0163)が表情を引き締め、家臣に声をかける。
「この方は掃除も無理です。寝所の用意を」
「あ、いや……すまない……。前の戦いでけがを負ってしまった。一応、動くことはできる」
「駄目です」
紅葉がきぱりといってどんどん引っ張っていく。廊下はなめらかでレイアは運ばれて行った。
星野 ハナ(ka5852)は依頼の内容を聞き、普通に紅葉を連れまわすことを考えていた。
「せーっかく、都が落ち着いたんですよぅ、紅葉さんと一緒に都の散策したいですぅ」
戻ってきた紅葉は小首をかしげた。
「いえ、外出から戻ってきたら掃除の手伝いをします。屋根の上に登って……」
紅葉にはやる気みなぎるが、家臣たちには「やめて、それだけは」という空気が漂う。
「目的地行く前にぃ、都も見に行きましょ」
紅葉をぐいぐい引っ張り出かける。彼女の移動は魔導ママチャリであり、必要ならば二人乗りも考えていた。紅葉は差し出された馬の手綱をとっさに握った。
ユメリア(ka7010)は護衛も屋敷の手伝いも両方するつもりはあった。その目の前で護衛予定だったレイアが紅葉によって寝床に押し込められ、護衛対象がハナに引っ張られて消えていく。
「……護衛はレイア様があの状況ということは……ハナ様おひとり?」
外出した紅葉がすぐに戻ってくる様子には思えない。
大江家の家臣らしいものは、安堵と不安が同居する表情をしている。
「私はどちらかを選ばないといけないということですね」
ユメリアは家臣たちの不安を放置できないし、人手のバランスを考え追いかけることにした。
「宗主をよろしくお願いします」
ユメリアは頭を下げる家臣に見送られて、紅葉たちが消えた方に向かった。
●ほんわか
天央 観智(ka0896) 、ミオレスカ(ka3496)と穂積 智里(ka6819)は到着後、松永 光頼に荷物置き場に案内される。
「三家合同でしばらく暮らす、ですか」
「しばらく……なのかまだ分からないがな……」
今後が見通せていないのがよくわかるコメントだ。
「まずは屋敷の破損具合の確認からですね。柱と梁を中心に、壁や屋根等が崩れないように。すぐに使わないものをしまっておく、物置も決めてもらわないと……」
「ふむ……進め方等何かあれば言ってほしい」
案内中に見える所は特に問題は感じない。
「松永さんもお元気になってきたようですね」
「面目ない……」
ミオレスカの言葉に、光頼は顔を伏せる。
「いえ、怪我されたり、落ち込まれたりしていましたし」
「ああ……ハンターには本当に助けられている……東方が解放された直後から」
光頼はミオレスカを見て微笑んだ。
「そう考えるとずいぶんお付き合いが長いですよね。師岬が賑やかになってきていますし、それに中心となるお二人が、良い方なので安心ですね」
「そうだな。紅葉殿も、灯世殿もよい人で」
ミオレスカは生温かい視線を光頼に向けた。そこでなぜ紅葉とその師匠・吉備 灯世の名が出るのかということで。下手なことを言うと、何か拗らせそうなのでとりあえず黙り、本日の仕事に専念する。
「師岬の今後のためにも、天ノ都の復興、第一歩ですね。お掃除や修繕の手伝いをさせてもらいます。水源を、きちんと確認しておきましょう。井戸端会議できるような井戸が無事ならいいのですが」
水は出ているが、とりあえず使えるか否かの確認しかしていないのも事実だった。
智里はミオレスカと光頼の会話を聞いて首をかしげる。何かかみ合っていない気はした。
「ところで掃除はどうしますか? 床下も見たほうがいいですよね?」
「一応、潜るつもりだ」
光頼が告げると、智里はどこからか「やめて」というような視線を感じた。
「まさか、陰陽師の家らしい変な物が出てくることがあるのでしょうか」
「……え? それはないと思うが……紅葉殿は犬や猫を飼っていたからそちらの何かは出てくるかもしれない」
智里に光頼は答える。
「それは……それで危険な物がありそうですね」
「うむ」
光頼はうなずいた。
動物が何を隠すのか、隠したものがどうなったかは見てみないと分からないのだから。もしもを考え、智里は【攻勢防壁】や【機導浄化術・白虹】を持ってきていた。
●走り回る
「復興途中の活気ってすごいですよねぇ。何かもうそれだけでわーって嬉しくなるというかぁ」
ハナはきょろきょろしながら歩く。
「早く行って戻って手伝……」
「紅葉さん、あれ、おいしそうじゃないですかぁ、おごりますから一緒に食べましょうよぅ」
ハナはぐいぐい行く。
「皆さま、追いつきました……。紅葉様、挨拶が遅れましたが、本日お手伝いをさせていただく、ユメリアと申します」
「ご丁寧にありがとうございます」
引きずられるように移動する紅葉はユメリアに頭を下げ自己紹介をする。
「そして、どこに向かわれるのでしょうか?」
ユメリアが話に聞いている紅葉の外出先とは方向が違うようだ。
「ここの菓子屋ですぅ」
ハナは足を止めた。商店が立ち並ぶところにやってきたのだった。
「何があるのでしょうかぁ」
ハナは店前の脇に魔導ママチャリを止めて入っていく。
紅葉は馬の手綱をママチャリに結び「ここで待っていてくださいね」と馬を諭していた。
ユメリアはこの状況に困惑するが、甘い香りや焦げているのとは異なるが何か甘辛いような匂いには心が惹かれる。紅葉に続いて店に入った。
ハナはこの後のことを考え、幾つか菓子を買い包んでもらう。それとは別に、ここで飲食する物を選んでいた。
「遅いですよぉ。そもそも、馬、ママチャリにつないでも逃げるときは逃げるですぅ」
ハナの言うことはもっともであり、ユメリアもうなずく。
「動物も話せばわかります」
「虎猫達は紅葉さんの言うこと聞いてくれますぅ」
「……話せばわかってくれますが、その通り行動してくれるかは別です」
紅葉は素直に認めてしまった。
幸い三人が店内にいる間、馬はおとなしくしていた。そのあと、何軒か店を見て回る。食べたり飲んだりもしつつ。そして出発前にハナが見て回ったもう一つの理由を明かす。
「だって、景色が良い所に行くんですよねぇ? そういう場所ならおやつ必須ですぅ」
都をようやく出発した。
●掃除の行方
屋敷の掃除等についてはハンターたちと家臣たちですり合わせをして段取りをした。
「わ、私も運ぶくらいなら……ぐふっ」
レイアが物を動かそうとして痛みで倒れる。
「だ、大丈夫だ。血がこぼれないようにきちんと包帯を巻いているからな」
家臣たちは優しい笑顔になると、強制送還を行った。
「ああ、心配ない心配ない……大丈夫大丈夫だから……ああああ」
「では、宗主のペットが逃げないように見張っていてくださいね」
部屋に入るとぴしゃりとふすまが閉められた。
紅葉のペットは檻にきちんと入っている、ウサギだった。
「……こ、これは」
ウサギはふすふす鼻を動かし、自分のしたいことをしていたのだった。
観智は部屋の数や屋敷全体の柱の様子を見て回った。傷み方は放置によるものと言うのがほとんどだ。部屋数はぎりぎりであり、来客に対応できないだろう。
「本来は必要な物があれば、すぐに取り出せるようにしまう、のが基本なんでしょうけど。今は、少しでも場所を確保するため、すぐに使わないものは全部、極力隙間なく詰めて、暮らす場所を確保するの優先ですね……」
これは確かに広い屋敷を使いたいだろう。かと言って、ばらばらに住むには費用面や人手の問題があるに違いない。
荷物置き場を選定後、観智は壁や床、天井の状況を見て回ることにした。
「では、ここの部屋の壁や床の様子などを先に見てしまいますね」
水平か垂直か、物差しなど道具を用い細かいところを見ていく。
「歩いていて傾斜を感じませんし、住んでいたことも考えれば自然の範囲ですね」
確認が終わったところで、荷物を運ばせ、倉庫化する。その後は荷物等が適度になった各部屋を見て回ることになった。
ミオレスカは井戸の状況を確認する。井戸の水は人の手で引き上げるが、すぐ横にある樋に注ぐことで、土間に引き込まれ大きな壺にたまる仕組みになっていた。
「念のため、井戸の中を確認して、樋も見ておいた方がいいですね」
この屋敷を再度使い始めたとき、壺を洗ったり水を流すことだけはしていたという。念のためのチェックは後回しだ。
井戸の中を覗き込む。澄んだ水がそれなりにたまっているし、特に変なにおいがするわけでもなかった。樋の傷みを確認して、台所に入っていく。
竈の状態や煙突の状況を見る。すでに使っていることを考えれば通常使用は問題ないのだろう。
「大量に煮炊きしてみましょう」
負荷をかけ、問題は早く見つけようと考えたのだった。
多めの昼食やおやつを作り始める。必要なら炊き出しでもできれば損害を受けた人たちへの役にも立つと考えた。
智里がロボットクリーナーと共に床に潜るため中庭に下りた。すると、光頼は身軽な格好で明かりを手に、床下に潜ろうとしていた。
「若様が入らずとも!」
「そうですよ」
「いや、このくらい私もできる」
難色を示され、光頼が溜息を吐いている。
「何かあったのですか?」
「いや、それが、光頼さまがお入りくださるというけど……まあ……」
「あの、どうして光頼さんが床下に入るのが駄目なのでしょうか? 武家の男性が床下に潜るのは良くないとか、何かジンクスでもあるのでしょうか」
聞かれた相手はきょとんとする。
「いや、そこまで大げさなことはないですよ」
光頼が駄目という理由が智里はわからず、再度問う。
「面子の問題です」
「え?」
「わたくしは大江に仕える者で、あちらは松永に仕える者たちです。光頼様はあちらの跡取り息子。そのような方が床下に入ると言い出したためです」
智里は理解した。注意して見れば、服装もどこか家によって違うかもしれない。
「紅葉さんは?」
「宗主は屋根の上に登りたがります。その上、妙に頑張ってふすまを破……げふん」
家臣はわざとらしい咳で何かごまかした。何かやらかす前に追い出した雰囲気が漂う。
「あの、私が床下確認してきます!」
智里の宣言で、騒動は収まった。光頼は「すまないな」と不本意そうな顔で言う。
智里は、灯火の水晶球を片手に潜っていく。床下といっても四つん這いで移動はできるし、智里の身長ならば前かがみで座ることもできる。余裕はある。
床下には色々ある、おおむねほこりやゴミや蜘蛛の巣。
「陰陽師の家らしい変な物が出てくることはあるのでしょうか? あれはっ、イタッ」
土に埋まっているが半分出ている何かが見え、身を起こそうとして頭をぶつける。ハラハラしながら近づき、灯で照らした。
何かの骨や草履の片方などのようだ。
「……犬の宝物?」
ひとまず魔導スマートフォンで写真に撮って移動した。修繕が必要そうなところがないか確認をじわじわ進めたのだった。
●丘の上
標高が高いそこからは、天ノ都が見える。道中は特に問題はなかった。
「うーわーですぅ」
「壊されても戻せるのが、人の力ですね……」
ハナとユメリアが景色を見て声を出した。
紅葉は見た後、どこか移動していく。
「あああ、やはり、放置したら、種は芽が出ませんね!」
「ここに水源があるなら話は別ですが……」
ユメリアは紅葉がしていたことを問う。
「いえ、大したことはないんですよ……」
紅葉は溜息を吐いた。
ユメリアが紅葉の話を聞いている間に、ハナは式神を作って荷物から緋毛氈を敷き、座布団を置いて茶の準備をしていた。
「さあ、お茶飲んでオヤツ食べながらのんびりしましょうよー」
「……そうですね……」
ハナの呼びかけ後、紅葉は座る。
「人手はあるんですぅ。紅葉さんは紅葉さんですることすればいいんですよぉ」
ハナは茶を立てて、菓子を配る。
「結局ぅ、ここはどうして?」
「けじめといいますか、あまり来られないと思いましたから……一区切りつきましたし」
紅葉は下がった場所を見ていた。
「そうなんですぅ」
「はい……あれから、よく持ちこたえました。それも皆さんのおかげですね。二度目の破壊……はっ、これは、建築資材をうまく売り込めば、お金稼げるということですね! そうすれば、図書館への道は開けるのです」
紅葉は何か説明しようとしていたが、途中から、現在の欲に移動していく。
「図書館を作ろうという情熱はすごいのですぅ」
ハナは練り切りを口に放り込んだ。
「図書館はいいですよね。本を読みだすと止まらなくなる性質です」
ユメリアの言葉に紅葉が食いつき、図書館談義となった。
「私は旅の吟遊詩人、世界各地の人の生きざま、知恵、そして物語を紡ぐのが仕事です」
ユメリアは紅葉に語る、歌の良さを。
「歌でなら、どこでもどんな区切りでも自由自在ですよ」
紅葉が所望するならば、歌を披露すると告げた。
「のんびりできますねぇ」
ハナは天ノ都を見つめた。
●片付け終了
昼食後、締めの作業になる。
それぞれが修繕が必要と気になったところを光頼に告げる。
「雨漏りは避けたいですよね。雨どいや排気口は見ておきたいです」
「屋根瓦の状況を見てきます」
ミオレスカは梯子で、智里は小型飛行アーマーで、観智は【マジックフライト】を用いる。観智は軍用双眼鏡で俯瞰するように確認し、他の二人もそれぞれの見方を行う。
狭い屋敷といわれるが、一通り見るには時間がもかかる。戻ってきたところで光頼に報告した。
「大きな損傷はないようですが、細かい補強は必要ですね」
「君たちが行動してくれた早く片付いた。全員一丸となって行動することがまだ難しくてね」
「仕方がないでしょう。いきなり一緒に行動をとれといわれて取れる方が不思議ですから」
観智の言葉に「それはそうだな」と光頼はうなずく。
「皆さんはてっきり、あっちの村の方に本拠を移しちゃうのかと思っていました。ここを修繕するってことは、紅葉さんはこっちに住んで陰陽師のお仕事とかに通われるんですか?」
智里に光頼は首を横に振る。
「本拠地はあっちの里だ。しかし、私も紅葉殿も、灯世殿も、中央に仕えている。ゆくゆく紅葉殿は師岬にいてもらうことになるだろうが。こちらには別邸を作るとしても、これまでの屋敷では広すぎるしひとまず、三家合同でとなったんだ」
智里はなるほどとうなずいた。
「そろそろ、おやつにしましょうか。外出組も帰ってくるでしょうし」
ミオレスカがおやつは柏餅だと告げる。
「私は結局……ウサギと一緒にいただけだ」
よろめきうめく、レイアに光頼は苦笑する。
「ウサギ係も重要です。それに、ケガの時はゆっくりと治すことが重要ですよ」
「すまない」
レイアはしおれる。
戻ってきたハナとユメリアも、紅葉と共に戻ってきた。
さあ、おやつの時間だ。
依頼結果
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MVP一覧
- 止まらぬ探求者
天央 観智(ka0896)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/04/21 20:39:09 |
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掃除とお使い編 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2019/04/23 14:09:48 |