• 東幕

【東幕】哀しみと怒りと

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/04/26 15:00
完成日
2019/04/29 17:24

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●天ノ都地下
「たあぁぁぁあ!」
 朱夏(kz0116) が見事な刀捌きで、涅色の狐の雑魔を斬り倒した。
 手首を返し、腕を後方に向けて振るう――背後から襲い掛かってきた別の雑魔を牽制すると、体勢を反転。
 強烈な蹴りを放つ。
「ッ!!」
 地を蹴ると、すれ違いざまに一閃。
 それで最後に残っていた雑魔が塵となって消滅するのを見届け、朱夏は汗と血を袖で拭った。
 肩で荒く呼吸をする。
 天ノ都や地下龍脈から出現するようになった“涅色の狐の雑魔”。
 憤怒に属しているというのは分かっている。問題なのは、幾体討伐しても、ある時、また姿を現すのだ。
「原因があるとしたら、この枯れた龍脈なのでしょうけど……」
 地下龍脈の一部は人が入れる程の大きさの洞窟となっている場所がある。
 負のマテリアルに汚染された龍脈を浄化している最中なのだが、汚染が酷すぎて、浄化作業は遅れていた。
 雑魔も湧くので安全の確保も必要だ。その為、朱夏は積極的に雑魔を討伐している。
「……もっと……」
 小さく呟く。
 既に自身のマテリアルは枯渇しかけていた。
 それでも、まだ、戻るのは早い。もっと、多くの憤怒を消滅させねばならない。
 回復薬を呷ると刀を構えたまま、朱夏は洞窟の奥へと向かうのであった。

●立花院家屋敷
 エトファリカ武家四十八家門、第一位である立花院家は、先の戦いで大きな損害を出した。
 それでも、元々の基盤が大きい為、生き残った者達が復興に向けて動き出す。
 当主である立花院 紫草(kz0126)は行方不明のままだが、優秀な家臣団が壊滅した訳ではない。
「地下龍脈の浄化は、今後の天ノ都の統治に重要で、最優先事項の一つと考えております」
 依頼を受けたハンター達を前に、中年の武士が説明した。
 この武士は家臣団の中でも実力者らしい。
「今回の依頼は、地下龍脈の浄化作業の安全を確保する為、雑魔の討伐が主となっています」
 大きな半紙を広げる武士。
 そこは、地下龍脈の地図が描かれていた――それが、幾枚か出てきた。
 比較的大きな洞窟の位置は変わっていないが、細部に違いがあり、側道や支道があったりなかったりしているのだ。
「どうやら、龍脈は我らの常識が通用しない様子。この通り、地図はあまり役に立ちません」
 負のマテリアルの作用なのか、地下龍脈は形定まらないようだ。
 大きな通路のような所は大丈夫なのだが、細かい路地みたいな所の入れ替わりや変化が激しい。
「この現象も負のマテリアルの汚染が無くなれば、解決するとは思いますが……まぁ、浄化が先か、討伐が先かという話になるとまとまりませんで……」
 立花院家内で話がまとまらなかったのだろう。
 そういう事でハンターに依頼するという話のようだ。
 中年武士はコホンと咳払いをするとハンター達に向かって姿勢を正した。
「……実は、今回の討伐依頼に際して、もう一つ、お願いがあるのですが、聞いて貰っていいですか? いや、ついででいいので、やって下さいというか、むしろ、やれ……じゃなくて、よろしくお願いします」
 見るからに様子が可笑しい。
 サッと懐から出したのは1枚の写真。魔導カメラで撮影されたものだ。
 カメラ目線ではないものの、自然体の愛らしい表情を浮かべている一人の少女が映っていた。
「お恥ずかしながら、我が娘の……朱夏です。この所、地下龍脈に入っては積極的に雑魔狩りをしているらしく……朱夏を見つけたら戻るように説得して欲しいのです」
 言う事聞かなかったら、最悪、多少は痛い目合わせても良いのでと中年武士は続け、頭を深々と下げた。
 これが娘可愛い父親の必死の姿なのだと、ハンター達は思う事にしたのであった。



●朱色の想い

 憤怒勢力の勢いが増すばかりだったあの頃。
 天ノ都に帰還したボロボロの幕府軍の姿は、幼い私にですらも、負け戦だったと理解できた。
 それでも、都の民は盛大に迎える。その意味が理解できたのはもう少し成長してからだった。

 あの時から、いや、私が物心覚える前から、上様は、常に微笑を浮かべていた。
 心配する事なんて何もないと。
 “東方最強”と呼ばれ、破滅へと向かう東方に出現した絶対なる救世主。

 上様は、幼い私とそう変わらない歳のスメラギを支える為、龍尾城に滞在し、立花院家の屋敷に帰ってくる事は少なかった。
 幼い私は屋敷から見える龍尾城をみつめ、誓った。
 いつか、絶対なる救世主の右腕になろうと。

 それが初恋だったのか、憧れだったのか、崇拝だったのか、今となっては分からない。
 上様は死んだ……世界を滅ぼす邪神を、この地に降ろさせない為に。
 膨大な負のマテリアルの奔流に飲み込まれ、遺体すら残らずに。

 多くの犠牲を出して、世界は滅びなかった。けれど、私の世界は終わりを告げた。
 それでも、私の心臓は残酷にも動いている。
 この残酷な鼓動を止める術を探して、今日も私は地下龍脈に降り立つ。

 上様……なぜ、あの時、私を連れて行ってくれなかったのですか……。

リプレイ本文


 真っ暗な洞窟の中、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は符を手にしていた。
 極めて短時間ではあるものの、符を通じて、互いの言葉を伝える事ができる術が込められており、万が一、何かあった場合の緊急連絡手段だ。
地下龍脈は常識が通じない洞窟――いや、迷宮と化しているというのだから。
「ルンルン忍法と湧き出る気持ちで、地下龍脈の雑魔をやっつけつつ、朱夏さんを説得して連れ戻しちゃいます!」
 握った拳を高く掲げる。
 思う事は沢山あるし、依頼主の話によると、朱夏(kz0116)は自暴自棄になって雑魔の討伐をしているらしい。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法分身の術!」
 フォトンバインダーから、スッと取り出した符を闇の中に投げつけるように放つと符術を行使する。
 現れたのは、るんるんと丸っこい字で書かれた式符だった。
「これで、余計な支道かどうか確認です!」
 ところが、進んでも、念じるルンルンの脳裏には暗闇しか映らなかった。
 そう――式符だけ進んでも暗闇で見えないのだ。その事実に気が付いてルンルンはガクッと膝をつく。
「まだまだ修行が必要で……あれ? これは?」
 地面に誰かの足跡が残っていたのだ。
 どうやら、支道の方ではなく、大きな通りのような道の先から、ルンルンが来た道の方向へ跡が伸びている。
「???」
 仲間達と別れたのはもっと後ろの方だ。つまり、先には誰も行っていない。
 となると、朱夏が行き来した形跡なのだろうか。
「これは……もしかしなくても、厄介なのかもしれません!」
 ルンルンは気を取り直して立ち上がった。
 説得しようにも、該当者に辿りつかなければ意味がないからだ。


 ハンス・ラインフェルト(ka6750)はペットで連れてきた犬と共に、地下龍脈を進んでいた。
 灯火の水晶球が彼の周囲を照らす以外、漆黒に包まれた洞窟。朱夏という娘は、何を思ってこの地下龍脈で雑魔退治しているのだろうか。
「……甘える人間を、死地には連れて行けません。死地に共に望めるのは、例え技量が劣ろうが自分より先を進もうとする者、横を任せることができる者だけです」
 闇に語り掛けるようにハンスは告げた。
 朱夏は大将軍に置いていかれたのが悔しく思っているかもしれない。
 依頼主であり、朱夏の父もそれは言っていた。あの日、ゲートが開こうとした時、何があったのかまでは朱夏の父親は知らないらしい。
 分かっているのは、立花院 紫草(kz0126)が龍脈に降りる為、一度、屋敷に帰ってきた事だ。
「接触があって、なんらかのやり取りがあった……と考えられますか」
 それが何かまでは分からない。朱夏自身も口にはしないという。
 この辺り、本人から聞き出せればいいが、なんにせよ、雑魔を討伐して朱夏を見つけ出さなければいけない。
「何度も行っているなら、一番匂いが強い所を辿って行けば会えると思ったのですが……ダメでしたね」
 連れてきた犬に朱夏の匂いを覚えさせて後を追おうと思ったが、上手くいかなかった。
 所謂、探知犬の役目を期待したのだが、正規の訓練を受けていないペットに行うのは無理があったようだ。
 これなら、まだ屋敷で飼っている犬の方が朱夏に反応したかもしれない。
 ……あの娘が、犬に懐かれていたならば、だが。
「仕方ありませんね。自分の足で探すしかありません」
 雑魔が出現するのであれば、滅するのは当然の事。
 そして、朱夏がハンター達の説得に応じなければ……気絶させて屋敷まで連れて帰るつもりだった。
「どうして紫草様に置いて行かれたか教えて差し上げましょう」
 親不孝な小娘に教えてやらなければならないのだから。


「気持ちは分かるんですよ……お姉さん、きっと、僕と同じ事してるのです」
 暗闇に向かって、アルマ・A・エインズワース(ka4901)が呟いた。
 そこに朱夏が居る訳ではない。それでも、アルマはそう言いたかった。いや、伝えたかった。
 紫草が行方不明となった。その後の顛末を知った時、どうして連れて行ってくれなかったのかと思った。きっと、朱夏もそんな気持ちなのだろう。
「……ずるいですよ」
 外套に触れながら、アルマは絞り出すように唸る。
 相手が誰であっても、例え、帝であっても、紫草は言わなかっただろう。
 ゲートを開かせない為に、自分が犠牲になると――。
「たった一人でも、守りたかったんですよね」
 彼にとっての“世界”をなんとしてでも守りたかったのだ。
 その“世界”の中に朱夏が居るのであれば、くだらない事で終わりを迎えさせる訳にはいかないはずだ。
「……それにしたって何にも教えてくれないのは酷いですけど、ね!」
 哀しみと共に怒りが沸々と湧き上がり、アルマは錬金杖を掲げた。
 彼の背に機械の集合体のような幻影が浮かび上がる。
 機導浄化デバイスを用いた浄化術だ。アルマの周囲の汚染が除去されていく。
 感情に任せて行った事であるが、後で考えもしなかった結果を呼び込む事になるのだが……今は知る由もなかった。
「さて、探さないとです。でないと、僕もまた暴れますよ」
 周囲に痕跡がないか探しつつ、アルマは闇の中へと足を進めるのであった。


 探索は難航していた。ハンター達に依頼を出すだけの事はあるはずだ。
 龍崎・カズマ(ka0178)は物音や辛夷の嗅覚などを頼りに、雑魔や朱夏を探していた。
 不足したのが何だったのか推察する――地下龍脈には大きい通りと細かい支道が入り組んでいる。このうち、細かい支道は入れ替わったり、位置がズレたりするそうだ。
「……大通りを基準線として、支道を虱潰しした方が良かったか?」
 あるいは、バラバラに行動するのであれば、全員がマッピングしながら情報を共有した方が良かったのかもしれない。
 ただ、これはやってみなければわからない事だ。今後、立花院家にはこの教訓を活かして貰えればいい。
(それにしても……)
 暗闇の中にカズマは視線を向けた。
 なんでも飲み込んでしまいそうな闇。その中に一度踏み入れば、見失うだろう。いや、無くなってしまう。
(……そうか、俺は“彼女”に向き合って話をしたかったのだろう)
 “彼女”が何を思って、生き続けたのか。
 同じように失った者として、己の中の喪失とどう向き合っていたのか。
 かつて“彼女”に言った事がある。あれは何時の話だったか……きっと、2、3年位前の事だと思うのだが……。
 カズマは無意識に頬を撫でた。痛みなど残っているはずもないのに。
「この闇(喪失)に向き合って進むしかない」
 何度、死地に踏み込んでも、敵を何体討伐しても、それでは解決にならない。
 生き残ったなら自分にその価値があるという事を証明し続けるしかないと。
 それを“彼女”に言い放ったのは、他ならぬ彼自身だ。
(あの人だったらどうしたろうか、こうしたら笑ってくれるだろうか……そう、探し抱えて進むんだ)
 この想いを、伝えなければいけない。
 例え、今日出来なかったとしても、いつか、きっと――。


 細い支道は負のマテリアルの影響を受けてか、変化する。
 そうなる為の『理由』が存在する訳ではあるが、それが分からなくとも、探索は続けられると天竜寺 詩(ka0396)は壁に顔料を塗りつけた。
 変化してしまう道があるのであれば、それに目印をつけておけばいいからだ。
「朱夏さんは、ずっと戦い続けてるって話だから、新しい傷や血痕があれば、さっきまでここに居たって事だよね」
 独り言を呟く詩は、念入りに壁や床を確認しながら進む。
 雑魔は倒してしまうと消滅してしまうが、戦闘の形跡は残るはずだ。
 光の精霊を宿らせた武器を掲げて周囲を照らす。
「……朱夏さんは、あの時、何を言い掛けたんだろう」
 先日の事だ。タチバナが常連として足を運んでいた麺屋に、詩は朱夏を連れて行った。
 彼女は絶望に打ちひしがれたような瞳をしていた。タチバナの後を追おうとでも考えているような、そんな瞳だ。
 だから、もし、そんなつもりで、地下龍脈で雑魔を討伐しているのであれば、ちゃんと言わなくてはならない。
「私は諦めない。タチバナさんを探すって」
 あの人は死んではいない。スメラギも、麺屋の常連客も言っていた。殺しても死なない男だと。
 そんな風に言う人がいるからという訳ではないが、絶対に死んでないのだ。
 だから、諦めたらそこで終わる。全てに諦めて後を追うというのは、あの人のやった事が無駄になるという事だ。
「……そうだというのは、朱夏さんだって分かっているはず?」
 違和感が胸の中に広がった。
 朱夏が言わんとした事とは……。
「そういえば、地下龍脈に籠りっきりって、少なくとも、私と麺屋に行った後の事……」
 何か思い当たる事象に辿り着く前に、ルンルンから預かっていた符から賑やかな彼女の声が響いた。
 雑魔の群れが見つかったという知らせに、詩は来た道を慌てて引き返したのだった。



 アルマが浄化術を行使した場所に、涅色の狐の雑魔の群れが集まっていたのだ。
 行き止まりから引き返す途中のアルマが発見し、仲間に連絡した。
 詩の合流だけ、少し手間取ったが、全員が集まった所で、雑魔に見つからないように、改めて、敵を確認する。
「僕が浄化した所で何をしているのでしょうね」
「こちらから仕掛けますか?」
 首を傾げるアルマにハンスが聖罰刃を構えて訊ねる。
 涅狐雑魔が十数体程、浄化しきった場所で跳ねまわりながら無邪気に遊んでいるようにも見えた。
「狐型ってのにいい印象はねえ」
 カズマが無骨な白色の刃を持つ苦無を手にすると、目を細める。
 ハンター達の灯りは漏れているが、それに反応して、『灯り=ハンターが居る』という認識にならないようなので、知能は低いのだろう。
 今なら寄り集まっているから、範囲攻撃が有効なはずだ。
「大きい雑魔が消えたようですか?」
 符を構えて、いつでも符術を行使できるような状態で、ルンルンが言った。
 彼女の言うように、大きめの雑魔が、地面に吸い込まれるように沁み消えていったのだ。
「ああやって、浄化した場所を汚染させていたのかな」
 詩の言葉に一行は頷いた。
 地下龍脈は幾度も浄化しているが、その都度、汚染されてしまっているという。
「これなら浄化しても意味ないですよ!」
 頬を膨らませるアルマ。
「汚染の原因が分かっただけでも、意味があったという事です」
 ハンスは飛び出すタイミングを計っているようだ。状況は確認した以上、後は逃がさないように討伐するだけだ。
 ただ雑魔を探し出して倒すだけなら分からなかっただろう。ある意味、運が良かった。
 浄化よりも先に行わなければならないのは、雑魔の殲滅。それは、この場だけではなく、この地下龍脈自体の浄化においても、同じ事が言える。
「知能がある訳ではない。だけど、何かを成そうとしているという事は確かだな」
「……まさか、朱夏さんは“それ”に気が付いて……」
 ハンスの背を叩いて、指を折りながら数を数えるカズマの台詞に詩が深刻そうに応えた。
 事態は思った以上に深刻なのかもしれない。
 タイミングを知らせるカズマの指が全て折れ、ルンルンが符を雑魔に向かって投げつける。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法、光焼陣!」
 幾枚か飛んだ符が雑魔の群れの中で光輝く結界を構築した。
 その結界の中に入っていた雑魔が光に焼かれる――間髪入れずに、アルマが機導術を唱える。
「逃がさないですよ!」
 光り輝く筋が三つほど飛ぶと、雑魔にそれぞれ直撃。
 跡形もなく消えうせる。突然の襲撃に驚いた所に、続けてハンター達の攻撃が襲い掛かる。
「念には念をだな」
 投げつけた苦無をマテリアル操作で操りながら、多数の狐雑魔を斬りつけるカズマ。
 その後に続くよう、詩が聖導士の術を放つ。
「……影たる闇、光があるが故に創られし力よ。無数の刃となりて、我らの敵に重き罰を与えん!」
 黒き無数の刃が狐雑魔共を貫いていく。威力自体はルンルンやアルマに劣るが、移動不能の効果は如何なく発揮されたようだ。
 そこへ、ハンスが突撃すると、縦横無尽に聖罰刃を振り回す。
「この狐雑魔は手応えがありませんね」
 仲間達の攻撃により傷ついている事もあり、移動不能となっていた敵を全て倒した。
 残った2、3体は、逃げ出す事はせずに、ハンター達に牙を向けて突撃してくる。好戦的という言葉以上だろう。
「往生際が悪いのは、憤怒の特性かもな」
「だったら、なおさら、殲滅です!」
 不可思議なマテリアルの流れを操りながら後の先で蒼機刀を狐雑魔に突き立てるカズマと、容赦なく高威力のデルタレイを叩き込むアルマ。
 見つけ出した狐雑魔を討伐したのは間違いないだろう。
 だが、これで洞窟内の敵が完全に倒しきれた訳ではないというのは、容易に想像できた。
「依頼主の娘を見つける事は出来なかったのは残念です」
 ハンスが暗闇を見つめながらそう言った。
 そろそろ、探索の終了時間だからだ。
「今日は帰りますけど、これで、終わらないですから!」
 ビシっと符を闇に向かって叩きつけるように向けるルンルン。
 言いたい事は山ほどあったし、朱夏に説得が通じないなら、超時空忍者ビンタを叩きつけたかった。
「まだ、やることあるです。紫草さんが、いつか戻ってこられた時の為に!」
「そうですよ。私は絶対に、諦めませんから!」
 アルマと詩が怒鳴るように叫んだ。きっと、この声が聞こえていると信じて。
 誰もが彼女に伝えたい事、言いたい事があったはずだ。
 それらを直接言えなかった。けれど、機会はこれからもきっとあるはずだ。
 この地下龍脈で、何かが起こり続ける限り。


 地下龍脈での探索は難航を極めたが、辛うじて、涅色の狐の雑魔を発見して討伐する事が出来た。
 また、汚染される原因が分かった事や地下龍脈内での探索の在り方も分かった事は、これからの調査に大きな意味を成すのであった。


 おしまい



 遠くから誰かの声のようなものが聞こえた気がして、朱夏は振り返った。
 そこには漆黒の闇が広がっているだけで何もない。首を傾げ、視線を元に戻そうとした時に気が付く。
「……これは、家で使っている顔料……なんで、ここに?」
 支道の壁に塗られたものに、朱夏は触れた。
 半乾きしているようだ。となると、それほど時間は経っていないはずだ。
 屋敷の者が自分を探しに来たのかもしれない。
「何か、屋敷の方であったのかしら……だとしたら、一度、戻らないと」
 考えられるのは何だろうか。世界の行く末の話なのか、あるいは、帝に関する事なのか……もしかして、大将軍の事か……。
 なんにせよ、そろそろ、持ち込んだ道具も使い切る。屋敷に戻って物資を補給する必要があるのだ。
「父上に会わないように帰らなくては」
 朱夏は大きな溜息をつくと、出口を求めて進みだしたのであった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩ka0396

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/20 19:35:52
アイコン 【相談用】
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/04/25 23:23:30