ゲスト
(ka0000)
埋蔵金なんてありませんから
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/05/03 22:00
- 完成日
- 2019/05/09 00:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●4月某日のことだった。
リゼリオ近郊。
田畑を耕していた農夫が昼にすべえと鍬をおいたとき、ふっと大きな影が差した。
はて何だろうかと見上げた彼は目をこする。土で出来た巨大なモグラがそこにいたのだ。
モグラは流暢に話し始めた。
『始めましてだべ。おらは大地の精霊のもぐやんだべ。ちっくら聞きてえことがあるだども、ええべか?』
どうやら精霊らしいと知った農夫は止まっていた呼吸を再開させた。そして尋ねた。
「ええですけど、なんですか?」
『ハンターオフィスはここを真っすぐ行ったらええべか?』
「ええ、そうでがす。この道を真っすぐ行きなさったらリゼリオにつきますで、そこでまた誰かに聞いておくんなせえ」
『おお、そうだべか。教えてくれてあんがとなあ』
モグラは頭に咲いたアイリスを農夫に渡し、スルスル大地に潜って行った。
●精霊様に頼まれた。
リゼリオの町角に突如大きなモグラが、ぬっと地面からわいて出た。
驚いて逃げる人々もいたが、害意のある相手ではなさそうだと感じ取り、その場に止まる人もいる。
そんな相手にモグラは尋ねた。
『始めましてだべ。おらは大地の精霊のもぐやんだべ。ちっくら聞きてえことがあるだども、ええべか?』
「ああ、はい、なんでしょうか」
『ハンターオフィスちゅうのは、どこだべか?』
「もぐやん様じゃありませんか。どうなさったんですか?」
と聞いたハンターにもぐやんは建物の外から(体が大きすぎて中に入れないのだ)言った。
『うん、どしても頼みてえことがあってなあ』
「何ですか?」
『大地の裂け目知ってるべ?』
「ええ、それはもちろん」
『もう倒されちまっただが、とあるでっかい歪虚があの近くから方々に向け、長くてでっかい穴掘ってたんだべ。それを今、おらと仲間が埋めて回ってるだ』
「それはご苦労様です」
『なんもなんも。でな、その途中でな、穴の中でうろうろしてる人間を見つけたべよ』
「人間……ですか? 間違いなく?」
『間違いねえべ。ラルヴァがおらんようになっても、眷属の歪虚は残っとるで。そういうのがそのあたりにまだ隠れとるか知れん。危ねえで帰らせようとおら思ってな、その人間に話しかけただよ。そしたら逃げちまったんだべ』
「……逃げた? また」
『それがのう、どうもおらのこと、歪虚と思ったらしいんだべ。化け物ちうて叫んで逃げちまったべ……』
化け物呼ばわりされたのがちょっとショックだったのか、もぐやんはしょんぼり肩を落とす。
『……ちうわけでのう、ちょっと来て助け出してやってくんねえべか。おらが行くと、また怖がらせてしまいそうだべ』
●というわけで現場に来ました。
穴はなかなか広かった。幅は5、6メートル、天井までの高さは大体8メートル。
その中を照明器具を持ったハンターたちが進む。
トンネル内部の地理や人間の居場所は、前もってもぐやんが教えてくれた。このまま歩いて行けば、必ず出会える計算となる。
「……なあ、疑問なんだけど、一体何の用があってそいつらこんなところをうろうろしてたんだ?」
「穴の入り口を偶然見つけてつい好奇心で、とかいうのじゃないよなあ」
「ないない。絶対途中で気味悪くなって、引き返してる。こんな奥まで入ってこない」
「歪虚が作った穴だったことは、周知されてるはずだしね」
「入り口に非常線張られてましたしね。注意書きもつけて」
「もぐやん様の話では、照明器具と荷物を持ってたとかいうしなあ」
「どーもあやしいですね」
「うん、あやしい」
あまり疑いたくはないがもしや良からぬ連中では、とハンターたちは考える。
もぐやんが言うように、たとえラルヴァが倒されたとしても眷属が丸ごと消え去るわけではない。主だった首領格は討伐されているが、それ以下の奴はまだまだ残っている。
嫉妬眷属は人間の欲や弱みをついて来るのが非常に上手い。人間にも、自分の目的のために歪虚と組むことを憚らないものが、一定の割合で必ず存在している……。
「とにかくその人達を見つけたら、まず話を聞いてみなくちゃ。一体こんなところで何やってたのかって」
そこでハンターたちは足を止めた。行く手に何かが落ちているのを見つけたのだ。
近づいて確かめてみれば、下着姿の女性が表紙となった雑誌であった。
「……『週間・噂の本当』?」
「あー、知ってます。スキャンダル暴露雑誌ですよこれ。九割が作り話とか言われるくらい信用性がないですけど売れてるみたいで」
トップにはこんな見出しが載っていた。
『大地の裂け目に眠る嫉妬王の遺産!!? ――自分も突入作戦に参加したという(自称)ハンター・A氏は語る――嫉妬王の遺跡の中には各地から盗み出した宝石が足の踏み場もないほど散らばっていた。総額は恐らく千億を越えるに違いない。そのほとんどは極秘理にハンターオフィスが回収したが、その一部は極秘理に掘られた地下トンネルの中にまだ残っている――』
……誰だこんなデタラメ書いたの。
いや、というか、それよりも、まさかこれを本気にして入ってきたとか?
いやいやそんなまさか。いくらなんでもそんな馬鹿……いないよね?
●そんな馬鹿がいた。
「もう帰ろう。財宝見つからないし。さっきは化け物が出たし」
「馬鹿、諦めるのが早すぎるぞ」
「見つけたら一気に大金持ちになれるんだよ! 道は一本だから迷うこともないんだし、もう少し頑張ろう!」
「第一歪虚はハンターが全部倒したはずだから、危険はないよ」
「じゃあさっき見たあれはなんなんだよ……」
そんな彼らの行く手に、キラキラ光る目。
歪虚か? いや違う。総勢5匹のコボルドたち。
「ウウウウ」
「ウー、バウ!」
「ワウアウワウ!」
コボルドたちはつい先日このでかい穴を発見し、一目ぼれ。是非新しい巣にしようと、家財道具(骨とか棒とか)を古い巣から持ち込んできたばかりの所。
そこにいきなり人間が現れたのだ。
当然彼らには縄張りへの侵入と映る。
侵入者は、全力を挙げて追い出すべし。
「ウワワワワワ!」
「バウバウバウバウ!」
リゼリオ近郊。
田畑を耕していた農夫が昼にすべえと鍬をおいたとき、ふっと大きな影が差した。
はて何だろうかと見上げた彼は目をこする。土で出来た巨大なモグラがそこにいたのだ。
モグラは流暢に話し始めた。
『始めましてだべ。おらは大地の精霊のもぐやんだべ。ちっくら聞きてえことがあるだども、ええべか?』
どうやら精霊らしいと知った農夫は止まっていた呼吸を再開させた。そして尋ねた。
「ええですけど、なんですか?」
『ハンターオフィスはここを真っすぐ行ったらええべか?』
「ええ、そうでがす。この道を真っすぐ行きなさったらリゼリオにつきますで、そこでまた誰かに聞いておくんなせえ」
『おお、そうだべか。教えてくれてあんがとなあ』
モグラは頭に咲いたアイリスを農夫に渡し、スルスル大地に潜って行った。
●精霊様に頼まれた。
リゼリオの町角に突如大きなモグラが、ぬっと地面からわいて出た。
驚いて逃げる人々もいたが、害意のある相手ではなさそうだと感じ取り、その場に止まる人もいる。
そんな相手にモグラは尋ねた。
『始めましてだべ。おらは大地の精霊のもぐやんだべ。ちっくら聞きてえことがあるだども、ええべか?』
「ああ、はい、なんでしょうか」
『ハンターオフィスちゅうのは、どこだべか?』
「もぐやん様じゃありませんか。どうなさったんですか?」
と聞いたハンターにもぐやんは建物の外から(体が大きすぎて中に入れないのだ)言った。
『うん、どしても頼みてえことがあってなあ』
「何ですか?」
『大地の裂け目知ってるべ?』
「ええ、それはもちろん」
『もう倒されちまっただが、とあるでっかい歪虚があの近くから方々に向け、長くてでっかい穴掘ってたんだべ。それを今、おらと仲間が埋めて回ってるだ』
「それはご苦労様です」
『なんもなんも。でな、その途中でな、穴の中でうろうろしてる人間を見つけたべよ』
「人間……ですか? 間違いなく?」
『間違いねえべ。ラルヴァがおらんようになっても、眷属の歪虚は残っとるで。そういうのがそのあたりにまだ隠れとるか知れん。危ねえで帰らせようとおら思ってな、その人間に話しかけただよ。そしたら逃げちまったんだべ』
「……逃げた? また」
『それがのう、どうもおらのこと、歪虚と思ったらしいんだべ。化け物ちうて叫んで逃げちまったべ……』
化け物呼ばわりされたのがちょっとショックだったのか、もぐやんはしょんぼり肩を落とす。
『……ちうわけでのう、ちょっと来て助け出してやってくんねえべか。おらが行くと、また怖がらせてしまいそうだべ』
●というわけで現場に来ました。
穴はなかなか広かった。幅は5、6メートル、天井までの高さは大体8メートル。
その中を照明器具を持ったハンターたちが進む。
トンネル内部の地理や人間の居場所は、前もってもぐやんが教えてくれた。このまま歩いて行けば、必ず出会える計算となる。
「……なあ、疑問なんだけど、一体何の用があってそいつらこんなところをうろうろしてたんだ?」
「穴の入り口を偶然見つけてつい好奇心で、とかいうのじゃないよなあ」
「ないない。絶対途中で気味悪くなって、引き返してる。こんな奥まで入ってこない」
「歪虚が作った穴だったことは、周知されてるはずだしね」
「入り口に非常線張られてましたしね。注意書きもつけて」
「もぐやん様の話では、照明器具と荷物を持ってたとかいうしなあ」
「どーもあやしいですね」
「うん、あやしい」
あまり疑いたくはないがもしや良からぬ連中では、とハンターたちは考える。
もぐやんが言うように、たとえラルヴァが倒されたとしても眷属が丸ごと消え去るわけではない。主だった首領格は討伐されているが、それ以下の奴はまだまだ残っている。
嫉妬眷属は人間の欲や弱みをついて来るのが非常に上手い。人間にも、自分の目的のために歪虚と組むことを憚らないものが、一定の割合で必ず存在している……。
「とにかくその人達を見つけたら、まず話を聞いてみなくちゃ。一体こんなところで何やってたのかって」
そこでハンターたちは足を止めた。行く手に何かが落ちているのを見つけたのだ。
近づいて確かめてみれば、下着姿の女性が表紙となった雑誌であった。
「……『週間・噂の本当』?」
「あー、知ってます。スキャンダル暴露雑誌ですよこれ。九割が作り話とか言われるくらい信用性がないですけど売れてるみたいで」
トップにはこんな見出しが載っていた。
『大地の裂け目に眠る嫉妬王の遺産!!? ――自分も突入作戦に参加したという(自称)ハンター・A氏は語る――嫉妬王の遺跡の中には各地から盗み出した宝石が足の踏み場もないほど散らばっていた。総額は恐らく千億を越えるに違いない。そのほとんどは極秘理にハンターオフィスが回収したが、その一部は極秘理に掘られた地下トンネルの中にまだ残っている――』
……誰だこんなデタラメ書いたの。
いや、というか、それよりも、まさかこれを本気にして入ってきたとか?
いやいやそんなまさか。いくらなんでもそんな馬鹿……いないよね?
●そんな馬鹿がいた。
「もう帰ろう。財宝見つからないし。さっきは化け物が出たし」
「馬鹿、諦めるのが早すぎるぞ」
「見つけたら一気に大金持ちになれるんだよ! 道は一本だから迷うこともないんだし、もう少し頑張ろう!」
「第一歪虚はハンターが全部倒したはずだから、危険はないよ」
「じゃあさっき見たあれはなんなんだよ……」
そんな彼らの行く手に、キラキラ光る目。
歪虚か? いや違う。総勢5匹のコボルドたち。
「ウウウウ」
「ウー、バウ!」
「ワウアウワウ!」
コボルドたちはつい先日このでかい穴を発見し、一目ぼれ。是非新しい巣にしようと、家財道具(骨とか棒とか)を古い巣から持ち込んできたばかりの所。
そこにいきなり人間が現れたのだ。
当然彼らには縄張りへの侵入と映る。
侵入者は、全力を挙げて追い出すべし。
「ウワワワワワ!」
「バウバウバウバウ!」
リプレイ本文
「あー、ここにこれが落ちてた段階でもぉお察しですよねぇ」
ガシガシ頭を掻いた星野 ハナ(ka5852)は、連れてきている狛犬に雑誌を嗅がせた。幾らかでも探索の役に立つのではないかと思って。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は軽く怒っている。
「変なゴシップ記事を載せる方も載せる方だけど、信じる人たちもどうかと思うんだからっ」
天竜寺 舞(ka0377)は肩をすくめる。
「まぁお宝探し自体は人様に迷惑かけない程度になら、好きにやってくれたらいいけどさ……」
困った人達だ、とサクラ・エルフリード(ka2598)はぼやいた。
「ある程度危険がなかったとしても、一般の人が立ち入るのは流石に危険でしょうに……」
そう、たとえ歪虚がいなくても危ないことに変わりはない。ここは人が通るために作られた道ではないのだから。
ユメリア(ka7010)が、そっと呟きを漏らした。
「欲に目がくらむは人の性……」
エルバッハ・リオン(ka2434)は周囲を警戒している。前後左右ばかりでなく、時に上方も確認。
「目がくらむにしても、もう少し頭を使って物事考えて欲しいものですね。一体どこからこんな話が捻り出されたものやら」
マルカ・アニチキン(ka2542)はランタン『ババ・ヤガー』を掲げ、前方を照らした。
「嫉妬眷属は無生物由来。鉱物とも縁がありますから……あるいはそれが元ネタになっているのかも」
ディーナ・フェルミ(ka5843)はトンネルの土壁をダガーで削りながらどんどん進む。先を行く犬を追うようにして。そして、大声を張り上げる。
「穴に入った4人組さーん! どこにいるのー! いるなら速やかに返事してほしいのー!」
ハナもまた、土壁にナイフで刻みを入れていた。自分の膝くらいの位置に。
ディーナに引き続き、まだ見つからぬ相手に呼びかける。
「皆さん、返事しないなら死んだものと見なしますよぉ!」
彼女らの声は大きな空間に反響し、何重にも重なって戻ってくる。ちょうど山彦のように。
マルカは耳を済ませた。返事は――ない。
……よっぽど奥まで行ってしまっているのだろうか?
案じたそのとき、激しく犬が吠え立てるような鳴き声が聞こえてきた。続けて人の叫び声――というから怒鳴り声らしきもの。先程のディーナの声同様壁に反射しているせいで、音源が分かりにくい。だけど向かうべき方向は明らか。トンネルは一本道。そしてここに来るまでに誰の姿も見かけていない――となればこれは、前方から聞こえている以外に有りえない。
舞はユナイテッド・ドライブソードを握り、ため息をつく。
「早速トラブってるのか?」
●財宝は諦めて。
叫び声の方角へ向かったハンターたちは、いとも簡単に4人のトレジャーハンター(以下、トレハンと呼ぶ)を見つけた。
トレハンのうち2人が、火の付いた棒を持っていた――魔導製の点火器具だ。それをコボルド4匹(大2匹、小2匹)に向け振り回している。
「しっ、しっ!」
「あっちに行け!」
相手が獣なら炎で怯むこともあるだろうが、コボルドは獣ではない。亜人である。この行動は、恐怖より怒りを増幅させる結果になった。
「ウォー!」「ガウー!」
大きな2匹が点火器具を持っている2人に、牙をむいて飛びかかろうとする。
「うぉっ!」「ひぇっ!」
そこにルンルンが飛び込んできた。
シールド『エスペランサ』でトレハンをかばい、コボルドを威嚇する。適当なコボルド語で。
「フー、ワウワウ!」
完全に勘だけのあてずっぽうな言葉だったが、大意が通じただろうか。コボルドたちが何か返してきた。
「ウー、ワンワンワンワン!」「ガウッ、ウウウ!」
そこにサクラとディーナがディヴァインウィルを使い、威圧。
大きい2匹が耳を寝かせ歯を剥く。
小さい2匹はその後ろで、彼らの動きをそっくり真似する。
(親子……か?)
そのように推測しながら舞は、点火器具を持ったトレハン2名を肘で押した。
「後ろに下がりな。後、その火を消せ。あいつらが気ぃ立ててくる」
その指示に1人が不服を唱える。
「えっ、だって……消したら危な――」
しかし舞の睨みにあって黙る。
リオンはその辺の岩に向けウィンドスラッシュを放ち、真っ二つにしてみせた。
「さて、貴方たちもああなりたいですか?」
このデモンストレーションは効果絶大だった。
コボルドたちは向きを変え、逃げ出す。それを追うようにマルカが、スリープクラウドを発動。
コボルドたちは大も小も手も無く倒れ、鼻ちょうちんを出し始める。
「ええと……いったんロープで縛っておきますか?」
という彼女の問いに舞は、首を振った。
「いや、遠ざけるだけでいいだろ。こいつらの話もちょっと聞いてみたいし」
スリープクラウドの効果が切れないよう注意しながら舞、ディーナ、ユメリアが、コボルドたちを離れたところへ運んで行く。
その間に残りのメンバーが、トレハンの説得を始めた。
まずリオンが、手短に事情説明をする。
「私たちはハンターです。あなたたちを連れ戻す依頼を受けてきました」
ハナは拾った雑誌を彼らに見せた。
「念のために聞きますけど、これはあなたたちのものですねぇ?」
トレハンたちは、急にバツが悪そうな顔をした。
見立てに間違いなしと確認した彼女は、お宝なんてない。回収もしてない。自分は戦闘に参加したが、それが終わった後は速やかに撤収した。そもそも本当に埋蔵金があったら、この記事を書いた奴が一番に探しに行く。そして発見記を書いて埋蔵金&本の売上でガッポガッポだ――と理を尽くし説得した。
サクラも穏便に明言する。財宝なんて真っ赤なウソだと。
「此処には噂のようなお宝はありませんよ……」
しかし、彼女らがそうやってせっかく親切に言ってくれたのに、彼らは信じようとしなかった。
「おっと、俺たちを騙そうったってそうはいかねえぜ」
「そもそもハンターオフィス自身が隠匿したんだもんな、この話」
「ね」
なんて言う始末。
おおそうか、それならもう好きにしろ。ここで骨になれ。と言いたいところをぐっと堪え深呼吸するハナ。
ルンルンがプンプンしながら、トレハンたちに指を突き付ける。
「こんな記事を信じて潜るとか、危ないじゃないですか、今回は親切なもぐらの精霊さんが知らせてくれたからよかったけど、死んじゃいますよ」
「え? モグラの精霊?」
「あれ精霊だったのか……」
「誰だよ歪虚って言ったの」
誰でもない。彼ら自身である。
深呼吸を終えたハナが再度口を開いた。
「こういう風に書かれた段階でぇ、書いた人は信じていない。都市伝説ってお分かりですぅ?」
その通りだとサクラも援護した。
「嫉妬王ラルヴァとの決戦に参加したハンターは精鋭の方たちばかりです。そんな人たちが小金欲しさに胡散臭い雑誌に情報を垂れ込むなんてことはしませんよ。それに、本当に財宝があるなら、自分で回収しています」
そうだそうだとルンルンは何度も頷いた。
「有るんだったら私、とっくに大金持ちですよ、こんな所に助けに来ずに南国でバカンスです」
ここまで言われても、トレハンたちは今一つ納得しなかった。
「財宝の件は、ハンターオフィスの一部ハンターしか知らないそうだぞ」
「そいつらは仲間に隠して大儲けしたって」
……つける薬がない。
思いながらリオンは、方針を説得から脅しに切り替えた。
「納得しないのはかまいませんが、これ以上、勝手に入るようならば不法侵入の咎で牢屋行きになりますよ」
牢屋という言葉に、トレハンたちの表情がちょっと固まった。
もうこの際多少の嘘はしょうがない。割り切ってサクラは、リオンの話を補強する。
「この穴の浄化作業は、まだ完全には終わっていません。負のマテリアルが充満している箇所も多いんです。これ以上奥にいくといろいろと危険な事がありますし、此処で素直に帰ってくれるといいのですけどね……」
ルンルンはさらにそれを膨らませた。水晶球の明かりを顔の下から当てながら。
「……この間だって、噂を信じた人が、それはもう酷い目にあって……詳しく言うのが恐ろしいくらい、しかも財宝も無しと知って、無念な思いで亡くなって……彷徨ってるかも? ほら」
トレハンたちは、だんだん怖くなってきた。実際問題ここは歪虚の使っていた道。そういういわくがあったとして、ちっともおかしくないのである。
そこにハナが、また一押し。
「因みに物質も雑魔化しますぅ。私は壺や捩子と戦ったことがありますよぅ。本当にここに置きっ放しになってたらぁ、財宝自体が雑魔化して貴方達を襲ってきますしぃ、貴方達が返り討ちにした段階でその財宝も消滅しますねぇ」
サクラはトレハンたちの顔を見ながら、締めの台詞を語りかける。
「無視をするようであれば……それなりに厳しい罰を受けることになりますが覚悟の上です……? 今戻るなら不問にしますが……」
そこでマルカがわざとらしく服の中から、いくつものメダルやペンダントを落とし転がした。
「あっ、いけないいけない。こんなに貴重で大事なものを落としたら、私たちをここに派遣したとっても偉い人たちに怒られちゃいます」
それらは、彼女が数々の大規模戦闘に参加した証、参戦商品の数々である。
その凝ったデザインと重たそうな輝きは、一定の信憑性をトレハンに与えた。次の言葉も。
「既に皆さんのことは、パルムがギルドに伝えてるんです。これ以上の探索は本当に危険ですから、諦めてください」
●新居も諦めて。
ディーナたちは、トレハンから離れたところでコボルドを揺り動かして起こし、説得を始めた。
「……逃げないで話を聞いて貰えるかな? 私達の言葉は分かる?」
コボルドたちは語りかけてきたディーナから飛びのき、思い切り吠える。
「ウワアワワ!」
「バウワウワウワウ!」
敵対的であるが、近づいてこようとしない。実力の差を分かっているのだろう。
舞はひとまず食べ物での懐柔を試みた。
「どうどう、どうどう、大丈夫だ大丈夫だ。ほーら」
と言って投げるのは干し肉。
コボルドたちはたちまち静かになった。一通り肉の匂いを嗅ぎ回ってから、ぺろりと全部食べてしまう。
大きい方が全取りするかと思いきや、小さい方により多く分けてやっていた。
やはり、親子であるようだ。
そこにトレハンの説得を終えたサクラがやってきた。
彼女もまた彼らに肉を与える。
「こちらの話を聞いてくれると一番なのですけどね……。それであれば無用な戦いはしないですみそうですが…」
コボルドはそれも食べた。
その間に舞は自分の荷物をあさり、一枚の写真を取り出す。それは以前彼女が、コボちゃンハウス再建依頼に参加したとき記念に撮ったものだ。写っているのは自分とハンター仲間、英霊マゴイ、コボちゃん、そしてコボルドワーカーの面々。
それをコボルドに見せながら、ゆっくり話しかける。
「あたしらはこいつらと、トモダチなんだ。トモダチ。分かる?」
このコボルドたちはあまり人なれしていない。舞の台詞の中で聞き取れたのは、簡単な単語だけだった。
「ワワチ……」
「ワワワチ?」
とはいえ、そうだとしても、ハンターたちが敵対的ではないということはしっかり伝わっていた。遅れて来たユメリアがリュートをかき鳴らし、サルヴェイションをかけてくれたので。
舞は、とりあえずもぐやんを呼んでくることにした――トレハンたちを怖がらせてはいけないと、穴の外で待っていてくれているのだ。
(精霊なら、多分あたしたちよりコボルドと意志疎通出来るよね)
と、その前にトレハンたちへ、重々クギ刺し。
「コボルドはたいした脅威じゃないけど、大概バックに強い歪虚や雑魔がいるからね。大人しく帰った方がいいよ――あ、そうそう。捜索費は追ってあんたたちから徴収するからそのつもりで」
「ええっ!? 待てよ、俺たち何も頼んでないぞ!」
「そーよ、お金は依頼を出した人が出すのが筋……」
「あ゛?」
返しの一言に沈黙させられるトレハンたち。宝は見つからないし金は取られるしで、さすがに彼らも意気消沈だ。
そこにユメリアが語りかけた。
「人は見たいようにものを見る。あなた達が見て逃げたのは歪虚ではなく精霊様です。ここには財宝があるのではないか、中に入れば、実は歪虚がいるんじゃないか。その思い込みがあなた達をここまで至らせたのです」
と叱った後、ふっと声色を緩める。
「とはいえ、トレジャーハントの勇気は大変立派です。足りなかったものは情報の真偽を確かめる確認や、洞窟における準備の数々です。皆様はもしかしたら将来すごいお宝を見つけるかもしれませんね。その為には、もっと知識と技術を磨くことです……いつか私に、今日の体験が素敵な成功になった伝説を、歌わせてくださいね」
優しい言葉にトレハンたちは、ちょっと元気を取り戻した。
「任せといて、こんなことで怯む私たちじゃないから!」
「今度こそ、絶対に一獲千金してみせる!」
同じ過ちを繰り返さないことを望むばかりだ。
ともあれ、もぐやんが舞と一緒に戻って来た。コボルドたちはその大きさに驚き逃げようとしたが、舞たちがなだめ思いとどまらせる。
そして早速事情聴取が行われたのだが……。
「この穴を家にしたいって言ってんの? このコボルドたち」
『うんだ。言葉はようわからん。けんども、おらの心にはそういう切なる気持ちがひしひしと伝わってくるだべ』
そういう事情と知れば舞としては、少しくらいコボルドたちの意向を聞いてやりたくもある。
「ねえ、もぐやん。この穴一部埋めずに置いてあげるってこと、出来ない?」
その頼みにもぐやんは、難色を示した。
『これは歪虚が使ってた穴だで、一度きれいに埋め直してしまわねえと、負のマテリアルの残滓がとれねえだよ。んだから、おらとしては、ここに住むこと自体お勧めできねえべ。体を悪くしちまうべ』
それを受けてディーナは、改めてコボルドたちに話しかけた。
「餌が必要なら、コボルドが暮らしているユニゾンって島があるの。あそこなら貴方達も快適に暮らせるんじゃないかと思う。送ってあげるから、一緒に行かない?」
「エサ」
「シマ……」
「エサ?」
「そう、シマ。エサ、いっぱい」
「イッパー……イ?」
「エサ、イッパイ?」
「とりあえず、ユニゾンの保養所に行ってみるの。あそこなら歓迎してくれるの」
●数日後。
非常線のみが張られていたトンネルの入り口は、鉄の扉で封鎖され直した。注意書きに以下の一文を付け加えて。
『無断侵入は犯罪です。自由都市同盟の法において、厳重に処罰されます。 ハンターオフィス』
ディーナに連れられ保養所に向かったコボルド一家は、ひとまず仮市民としてそこに腰を落ち着けた。
マルカからの連絡を受けたユニゾンは、彼らの保護を快く引き受けてくれたのである。
ガシガシ頭を掻いた星野 ハナ(ka5852)は、連れてきている狛犬に雑誌を嗅がせた。幾らかでも探索の役に立つのではないかと思って。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は軽く怒っている。
「変なゴシップ記事を載せる方も載せる方だけど、信じる人たちもどうかと思うんだからっ」
天竜寺 舞(ka0377)は肩をすくめる。
「まぁお宝探し自体は人様に迷惑かけない程度になら、好きにやってくれたらいいけどさ……」
困った人達だ、とサクラ・エルフリード(ka2598)はぼやいた。
「ある程度危険がなかったとしても、一般の人が立ち入るのは流石に危険でしょうに……」
そう、たとえ歪虚がいなくても危ないことに変わりはない。ここは人が通るために作られた道ではないのだから。
ユメリア(ka7010)が、そっと呟きを漏らした。
「欲に目がくらむは人の性……」
エルバッハ・リオン(ka2434)は周囲を警戒している。前後左右ばかりでなく、時に上方も確認。
「目がくらむにしても、もう少し頭を使って物事考えて欲しいものですね。一体どこからこんな話が捻り出されたものやら」
マルカ・アニチキン(ka2542)はランタン『ババ・ヤガー』を掲げ、前方を照らした。
「嫉妬眷属は無生物由来。鉱物とも縁がありますから……あるいはそれが元ネタになっているのかも」
ディーナ・フェルミ(ka5843)はトンネルの土壁をダガーで削りながらどんどん進む。先を行く犬を追うようにして。そして、大声を張り上げる。
「穴に入った4人組さーん! どこにいるのー! いるなら速やかに返事してほしいのー!」
ハナもまた、土壁にナイフで刻みを入れていた。自分の膝くらいの位置に。
ディーナに引き続き、まだ見つからぬ相手に呼びかける。
「皆さん、返事しないなら死んだものと見なしますよぉ!」
彼女らの声は大きな空間に反響し、何重にも重なって戻ってくる。ちょうど山彦のように。
マルカは耳を済ませた。返事は――ない。
……よっぽど奥まで行ってしまっているのだろうか?
案じたそのとき、激しく犬が吠え立てるような鳴き声が聞こえてきた。続けて人の叫び声――というから怒鳴り声らしきもの。先程のディーナの声同様壁に反射しているせいで、音源が分かりにくい。だけど向かうべき方向は明らか。トンネルは一本道。そしてここに来るまでに誰の姿も見かけていない――となればこれは、前方から聞こえている以外に有りえない。
舞はユナイテッド・ドライブソードを握り、ため息をつく。
「早速トラブってるのか?」
●財宝は諦めて。
叫び声の方角へ向かったハンターたちは、いとも簡単に4人のトレジャーハンター(以下、トレハンと呼ぶ)を見つけた。
トレハンのうち2人が、火の付いた棒を持っていた――魔導製の点火器具だ。それをコボルド4匹(大2匹、小2匹)に向け振り回している。
「しっ、しっ!」
「あっちに行け!」
相手が獣なら炎で怯むこともあるだろうが、コボルドは獣ではない。亜人である。この行動は、恐怖より怒りを増幅させる結果になった。
「ウォー!」「ガウー!」
大きな2匹が点火器具を持っている2人に、牙をむいて飛びかかろうとする。
「うぉっ!」「ひぇっ!」
そこにルンルンが飛び込んできた。
シールド『エスペランサ』でトレハンをかばい、コボルドを威嚇する。適当なコボルド語で。
「フー、ワウワウ!」
完全に勘だけのあてずっぽうな言葉だったが、大意が通じただろうか。コボルドたちが何か返してきた。
「ウー、ワンワンワンワン!」「ガウッ、ウウウ!」
そこにサクラとディーナがディヴァインウィルを使い、威圧。
大きい2匹が耳を寝かせ歯を剥く。
小さい2匹はその後ろで、彼らの動きをそっくり真似する。
(親子……か?)
そのように推測しながら舞は、点火器具を持ったトレハン2名を肘で押した。
「後ろに下がりな。後、その火を消せ。あいつらが気ぃ立ててくる」
その指示に1人が不服を唱える。
「えっ、だって……消したら危な――」
しかし舞の睨みにあって黙る。
リオンはその辺の岩に向けウィンドスラッシュを放ち、真っ二つにしてみせた。
「さて、貴方たちもああなりたいですか?」
このデモンストレーションは効果絶大だった。
コボルドたちは向きを変え、逃げ出す。それを追うようにマルカが、スリープクラウドを発動。
コボルドたちは大も小も手も無く倒れ、鼻ちょうちんを出し始める。
「ええと……いったんロープで縛っておきますか?」
という彼女の問いに舞は、首を振った。
「いや、遠ざけるだけでいいだろ。こいつらの話もちょっと聞いてみたいし」
スリープクラウドの効果が切れないよう注意しながら舞、ディーナ、ユメリアが、コボルドたちを離れたところへ運んで行く。
その間に残りのメンバーが、トレハンの説得を始めた。
まずリオンが、手短に事情説明をする。
「私たちはハンターです。あなたたちを連れ戻す依頼を受けてきました」
ハナは拾った雑誌を彼らに見せた。
「念のために聞きますけど、これはあなたたちのものですねぇ?」
トレハンたちは、急にバツが悪そうな顔をした。
見立てに間違いなしと確認した彼女は、お宝なんてない。回収もしてない。自分は戦闘に参加したが、それが終わった後は速やかに撤収した。そもそも本当に埋蔵金があったら、この記事を書いた奴が一番に探しに行く。そして発見記を書いて埋蔵金&本の売上でガッポガッポだ――と理を尽くし説得した。
サクラも穏便に明言する。財宝なんて真っ赤なウソだと。
「此処には噂のようなお宝はありませんよ……」
しかし、彼女らがそうやってせっかく親切に言ってくれたのに、彼らは信じようとしなかった。
「おっと、俺たちを騙そうったってそうはいかねえぜ」
「そもそもハンターオフィス自身が隠匿したんだもんな、この話」
「ね」
なんて言う始末。
おおそうか、それならもう好きにしろ。ここで骨になれ。と言いたいところをぐっと堪え深呼吸するハナ。
ルンルンがプンプンしながら、トレハンたちに指を突き付ける。
「こんな記事を信じて潜るとか、危ないじゃないですか、今回は親切なもぐらの精霊さんが知らせてくれたからよかったけど、死んじゃいますよ」
「え? モグラの精霊?」
「あれ精霊だったのか……」
「誰だよ歪虚って言ったの」
誰でもない。彼ら自身である。
深呼吸を終えたハナが再度口を開いた。
「こういう風に書かれた段階でぇ、書いた人は信じていない。都市伝説ってお分かりですぅ?」
その通りだとサクラも援護した。
「嫉妬王ラルヴァとの決戦に参加したハンターは精鋭の方たちばかりです。そんな人たちが小金欲しさに胡散臭い雑誌に情報を垂れ込むなんてことはしませんよ。それに、本当に財宝があるなら、自分で回収しています」
そうだそうだとルンルンは何度も頷いた。
「有るんだったら私、とっくに大金持ちですよ、こんな所に助けに来ずに南国でバカンスです」
ここまで言われても、トレハンたちは今一つ納得しなかった。
「財宝の件は、ハンターオフィスの一部ハンターしか知らないそうだぞ」
「そいつらは仲間に隠して大儲けしたって」
……つける薬がない。
思いながらリオンは、方針を説得から脅しに切り替えた。
「納得しないのはかまいませんが、これ以上、勝手に入るようならば不法侵入の咎で牢屋行きになりますよ」
牢屋という言葉に、トレハンたちの表情がちょっと固まった。
もうこの際多少の嘘はしょうがない。割り切ってサクラは、リオンの話を補強する。
「この穴の浄化作業は、まだ完全には終わっていません。負のマテリアルが充満している箇所も多いんです。これ以上奥にいくといろいろと危険な事がありますし、此処で素直に帰ってくれるといいのですけどね……」
ルンルンはさらにそれを膨らませた。水晶球の明かりを顔の下から当てながら。
「……この間だって、噂を信じた人が、それはもう酷い目にあって……詳しく言うのが恐ろしいくらい、しかも財宝も無しと知って、無念な思いで亡くなって……彷徨ってるかも? ほら」
トレハンたちは、だんだん怖くなってきた。実際問題ここは歪虚の使っていた道。そういういわくがあったとして、ちっともおかしくないのである。
そこにハナが、また一押し。
「因みに物質も雑魔化しますぅ。私は壺や捩子と戦ったことがありますよぅ。本当にここに置きっ放しになってたらぁ、財宝自体が雑魔化して貴方達を襲ってきますしぃ、貴方達が返り討ちにした段階でその財宝も消滅しますねぇ」
サクラはトレハンたちの顔を見ながら、締めの台詞を語りかける。
「無視をするようであれば……それなりに厳しい罰を受けることになりますが覚悟の上です……? 今戻るなら不問にしますが……」
そこでマルカがわざとらしく服の中から、いくつものメダルやペンダントを落とし転がした。
「あっ、いけないいけない。こんなに貴重で大事なものを落としたら、私たちをここに派遣したとっても偉い人たちに怒られちゃいます」
それらは、彼女が数々の大規模戦闘に参加した証、参戦商品の数々である。
その凝ったデザインと重たそうな輝きは、一定の信憑性をトレハンに与えた。次の言葉も。
「既に皆さんのことは、パルムがギルドに伝えてるんです。これ以上の探索は本当に危険ですから、諦めてください」
●新居も諦めて。
ディーナたちは、トレハンから離れたところでコボルドを揺り動かして起こし、説得を始めた。
「……逃げないで話を聞いて貰えるかな? 私達の言葉は分かる?」
コボルドたちは語りかけてきたディーナから飛びのき、思い切り吠える。
「ウワアワワ!」
「バウワウワウワウ!」
敵対的であるが、近づいてこようとしない。実力の差を分かっているのだろう。
舞はひとまず食べ物での懐柔を試みた。
「どうどう、どうどう、大丈夫だ大丈夫だ。ほーら」
と言って投げるのは干し肉。
コボルドたちはたちまち静かになった。一通り肉の匂いを嗅ぎ回ってから、ぺろりと全部食べてしまう。
大きい方が全取りするかと思いきや、小さい方により多く分けてやっていた。
やはり、親子であるようだ。
そこにトレハンの説得を終えたサクラがやってきた。
彼女もまた彼らに肉を与える。
「こちらの話を聞いてくれると一番なのですけどね……。それであれば無用な戦いはしないですみそうですが…」
コボルドはそれも食べた。
その間に舞は自分の荷物をあさり、一枚の写真を取り出す。それは以前彼女が、コボちゃンハウス再建依頼に参加したとき記念に撮ったものだ。写っているのは自分とハンター仲間、英霊マゴイ、コボちゃん、そしてコボルドワーカーの面々。
それをコボルドに見せながら、ゆっくり話しかける。
「あたしらはこいつらと、トモダチなんだ。トモダチ。分かる?」
このコボルドたちはあまり人なれしていない。舞の台詞の中で聞き取れたのは、簡単な単語だけだった。
「ワワチ……」
「ワワワチ?」
とはいえ、そうだとしても、ハンターたちが敵対的ではないということはしっかり伝わっていた。遅れて来たユメリアがリュートをかき鳴らし、サルヴェイションをかけてくれたので。
舞は、とりあえずもぐやんを呼んでくることにした――トレハンたちを怖がらせてはいけないと、穴の外で待っていてくれているのだ。
(精霊なら、多分あたしたちよりコボルドと意志疎通出来るよね)
と、その前にトレハンたちへ、重々クギ刺し。
「コボルドはたいした脅威じゃないけど、大概バックに強い歪虚や雑魔がいるからね。大人しく帰った方がいいよ――あ、そうそう。捜索費は追ってあんたたちから徴収するからそのつもりで」
「ええっ!? 待てよ、俺たち何も頼んでないぞ!」
「そーよ、お金は依頼を出した人が出すのが筋……」
「あ゛?」
返しの一言に沈黙させられるトレハンたち。宝は見つからないし金は取られるしで、さすがに彼らも意気消沈だ。
そこにユメリアが語りかけた。
「人は見たいようにものを見る。あなた達が見て逃げたのは歪虚ではなく精霊様です。ここには財宝があるのではないか、中に入れば、実は歪虚がいるんじゃないか。その思い込みがあなた達をここまで至らせたのです」
と叱った後、ふっと声色を緩める。
「とはいえ、トレジャーハントの勇気は大変立派です。足りなかったものは情報の真偽を確かめる確認や、洞窟における準備の数々です。皆様はもしかしたら将来すごいお宝を見つけるかもしれませんね。その為には、もっと知識と技術を磨くことです……いつか私に、今日の体験が素敵な成功になった伝説を、歌わせてくださいね」
優しい言葉にトレハンたちは、ちょっと元気を取り戻した。
「任せといて、こんなことで怯む私たちじゃないから!」
「今度こそ、絶対に一獲千金してみせる!」
同じ過ちを繰り返さないことを望むばかりだ。
ともあれ、もぐやんが舞と一緒に戻って来た。コボルドたちはその大きさに驚き逃げようとしたが、舞たちがなだめ思いとどまらせる。
そして早速事情聴取が行われたのだが……。
「この穴を家にしたいって言ってんの? このコボルドたち」
『うんだ。言葉はようわからん。けんども、おらの心にはそういう切なる気持ちがひしひしと伝わってくるだべ』
そういう事情と知れば舞としては、少しくらいコボルドたちの意向を聞いてやりたくもある。
「ねえ、もぐやん。この穴一部埋めずに置いてあげるってこと、出来ない?」
その頼みにもぐやんは、難色を示した。
『これは歪虚が使ってた穴だで、一度きれいに埋め直してしまわねえと、負のマテリアルの残滓がとれねえだよ。んだから、おらとしては、ここに住むこと自体お勧めできねえべ。体を悪くしちまうべ』
それを受けてディーナは、改めてコボルドたちに話しかけた。
「餌が必要なら、コボルドが暮らしているユニゾンって島があるの。あそこなら貴方達も快適に暮らせるんじゃないかと思う。送ってあげるから、一緒に行かない?」
「エサ」
「シマ……」
「エサ?」
「そう、シマ。エサ、いっぱい」
「イッパー……イ?」
「エサ、イッパイ?」
「とりあえず、ユニゾンの保養所に行ってみるの。あそこなら歓迎してくれるの」
●数日後。
非常線のみが張られていたトンネルの入り口は、鉄の扉で封鎖され直した。注意書きに以下の一文を付け加えて。
『無断侵入は犯罪です。自由都市同盟の法において、厳重に処罰されます。 ハンターオフィス』
ディーナに連れられ保養所に向かったコボルド一家は、ひとまず仮市民としてそこに腰を落ち着けた。
マルカからの連絡を受けたユニゾンは、彼らの保護を快く引き受けてくれたのである。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/02 18:02:02 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/05/04 07:30:36 |