イノセント・イビル 戦う事への少女の覚悟

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/28 19:00
完成日
2019/05/04 20:41

みんなの思い出

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オープニング

 ダフィールド侯爵家三男ソードとオードラン伯爵家令嬢マリーがハンターとなってから二か月が経った。
 この間、二人は山中の訓練場において、覚醒者となって大きく向上した身体能力への適合と遺跡探索等に関する学習、スキルの習得、歪虚との戦闘を想定した訓練にただひたすらに取り組んでいた。
 幸いなことに、ソードには戦闘経験があり、マリーも元々の身体能力が高く、訓練に難渋しなかった。
 教官たち(その多くはマリーらと共に侯爵家の事件を解決したベテランたちだった)は、二人の習熟に併せて訓練の強度を上げていった。その為、二人はいつまで経っても『訓練に慣れる』ということはなかったが、お陰で初心者ハンターという段階はとうに超えていた。

 その日も普段通りの(激しい、ではなく)烈しい訓練を終えてヘトヘトになって訓練キャンプの宿舎へ戻って来たマリーは、共有スペースのテーブルの上に無言でバタリと突っ伏した。
 そのままピクリとも動くことなく、暫し森の鳥たちの鳴き声を聞く。
 普段だったらすぐに侍女(であると同時に幼馴染で親友でもある)クリスや他の女ハンターたちが現れ、川へ水浴びに往ったり、風呂を沸かして汗を流したりするのだが、この日はなぜかまだ誰も戻って来てはいなかった。
 マリーはむくりと身体を起こすと、疲れ切った身体を押して防具を外し、服を着たままその隙間から濡れタオルで身体を拭き始めた。
 袖を捲って腕と肩を、そして、襟元のリボンを緩めて鎖骨と胸元を拭く。そのまま襟髪を手で持ち上げながらうなじを拭い、続けて脇を……といったところで、突然、宿舎の扉がガチャリと開いた。
「……ッ!?」
「あ、悪ぃ」
 謝りながらも、ソードは普通に中に入って来た。彼は『お子様』には興味がなかった。
 マリーは目をグルグル回しながら立ち上がって「ギャーーー!!!」と悲鳴を上げた。貴族令嬢であるマリーにとって、脇の下を拭いている姿を見られるなど、裸を見られるに等しい恥辱だった。
「なっ、なによ! 花の淑女がいる部屋にノックも無しに!」
「いや、ここ共有スペースだし……身体拭くなら女部屋に戻ってやれよ」
「疲れて億劫だったのよ!」
(淑女とは)
 反駁するのも面倒臭くなり、ソードは適当に謝ると魔導式小型冷蔵庫(ハンター私物)の中からペットボトルの水を取り出した。そして、スポーツ飲料も取ってマリーにも投げてやる。
「ほれ」
「……むぅ」
 まったく気にした様子もないソードの様子に怒り続けるのもバカらしくなったマリーだったが、その後、ソードがいきなり上半身裸になって濡れタオルで汗を拭き始めたりした所為でまた一悶着。ソードの方がマリーの抗議をまともに取り合わないので喧嘩にならず、一方のマリーもこのまま自室に引っ込んだら負けな気がしてその場に残り続けた為に、離れた位置に座ったまま暫し沈黙の時が過ぎた。
(それにしても……皆、遅いわね……?)
 共有スペースの柱時計(ハンター私物)が時を刻む音を聞きながら、マリーは眉をひそめた。
 ……思えば、ソードと二人きりになるのはこれが初めてであるような気がした。それまでソードとは共通の話題なんてなかったし、業務連絡(?)を交わす際にもクリスやルーサー(侯爵家四男。ソードの弟)、ハンター等、誰かしらが側にいた。
 何より、マリーはソードのことが『苦手』だった。『伯爵令嬢クリスの侍女』と身分を偽っていた際、『平民の使用人』として『丁重に無視』されていたから……というのはまあいい。貴族同士で会話をする際、使用人はいないものとして扱うのは貴族社会では普通のことで、ソードに限った話ではない。
 マリーがソードを苦手に思う理由は、初対面の時── 悪人が相手とは言え、一刀の下に首を跳ねたソードの姿が焼き付いてしまったからだ。
 その光景を思い出して、マリーはその記憶から逃れるように身じろぎをした。人が死ぬところを見るのはあれが初めてのことだった。そして、あんなことは二度と御免だと思った。私の目の前で、もう誰も死んだり殺されたりして欲しくないと思った。
 だが、気づいてしまった。ハンターとなった今の自分には、当時のソードと同じことが出来てしまうということに。いつか、そう遠くない未来──その力を使って、自分も何かを『終わらせ』なければいけない時が来るのだと。
「……ねぇ」
 だから、訊ねた。
 あの時、どうしてソードは手を下すことができたのかを。
「……あいつはルーサーに剣を向けた。殺す理由なんざそれで十分だろ」
「私は嫌なの。食べる為、生きる為以外の目的で生き物を殺すのが」
「安心しろ。歪虚は既に『死んだもの』だ」
「それでも『心』はあるんでしょう?」
 ……どうやらマリーは真面目に訊いているらしい、と知って、ソードはテーブルから身を起こした。また面倒臭い事を考え始めやがったな、などと心中で嘆息しながらポリポリと頭を掻いて……まぁ、仕方ねぇか、まだ若いんだ、と『淑女』に対して向き直る。
「……だったら、戦わなくてもいいんじゃないか?」
「……え?」
「別にハンターだからって必ずしも戦わなくちゃならないってことはない。幸い、マリーの『疾影士』ってクラスは冒険や遺跡の探索にも向いているしな」
 ソードの答えを、マリーは意外に思った。あまりそう言った気遣いを他人に見せるタイプではないと思っていたからだ。
 でも、そうか。そういった気遣いも出来ねば広域騎馬警官隊の長なんてやれはしないか。弟や家族に対する想いも承知してはいたはずなのだが、碌に話したこともないので、初対面時の強すぎる印象を引きずったままにしていたらしい。
「だが、なんにせよ、いざという時にはそれを躊躇なく為すだけの覚悟は定めておかねばならない」
 ソードが真剣な表情で続けた。
「クリスやルーサーに剣が向けられたら、と考えてみろ。殺さずに倒せるならいいが、躊躇う分だけ選択肢が減る。助けられる可能性が低くなる」
「……大切な誰かを守る為なら『終わらせられる』ってこと?」
「知らん。結局は戦うそいつ次第だ」
 マリーは沈黙した。想像することもできなかった。つまりはそれが『覚悟が定まっていない』ということなのだろう。
 それきり、二人の会話は途絶えた。マリーは考え続けたが答えは出なかった。
 外が騒がしくなり、クリスとルーサー、ハンターたちが慌てた様子で飛び込んで来た。マリーは目を丸くして、何が起きたのかを訊ねた。
「麓の村に歪虚が出たそうです。これからすぐに応援に駆け付けます」
 ルーサーの言葉に、マリーの心臓がドクンと跳ねた。初めての実戦──身体が震えるのを自覚した。
 それを見たソードが、ハンターたちに告げた。
「雑魔を一体、残しておいてくれ。それは俺とマリーでやる」

リプレイ本文

 雑魔が現れたという麓の村へ増援に向かう途中。初の実戦を前に緊張した様子のマリーを見て、ソードが重苦しい空気を払う様に皆へ話題を振った。
「ソードさんのサブクラス?」
 若干、唐突とも思えるフリに、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)とルーエル・ゼクシディア(ka2473)はきょとんとした顔をして……思わぬ難題に頭を捻った。
「ソードさんのサブクラス…… メインクラスと違って難しいですね」
「割とマルチな人も見かけるし、メインクラスよりは気楽なイメージ? いや、その分大変なんだけど……」
「難解……? 大変……?」
 ソードの問いにヴァイス(ka0364)が答えた。自由度の高さ故に、サブクラスはこれと決まった答えを出し難いのだという。
「特に闘狩人は近接万能型な分、特化型のクラスと比べると劣ってしまうことがある。ので、近接主体で特化に向かうか……時間は掛かるが複数取得して幅を広げるのも手段の一つだ。例えば、近接特化なら舞刀士、近接万能なら闘狩人、近接防御なら聖導士、中型万能なら魔術師、といった感じにな」
「殺られる前に殺るなら舞刀士、粘り強く戦うなら闘狩人を重ねるか、聖導士……こちらはソウルエッジを使えるようになれば魔法力も活きてくるな。特殊クラスまで含めるなら、現状を大きく底上げできる超越者か仲間を守り鼓舞できる征服者だな」
「個人的には超越者をお勧めしますね。これならスタイルを変えずに純粋に能力を高められ、足りない能力を補える。……なるのは大変ですけどね」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とクオン・サガラ(ka0018)も話に加わり、自身の案をソードに伝えた。レイン・レーネリル(ka2887)もまた、「んむ、ソーどんのサブクラスかぁ……」と悩む『フリ』をした。付き合いの長いルーエルにはこの後の展開が予想できた。
「……サブクラスについてお悩みの、そんなアナタに朗報です。ババーン! ここにある何の変哲もないこの機械──念を込めてエイヤッとトリガーを引くとね、なんと炎とかレーザーとか出ちゃうのよ! 凄くない!? ……そんな素敵なサブクラスが今なら39800G! 更に! 美人なおねーさんの声が録音された録音機も付けちゃう! 緑髪の聖導士とかきっと3つ持って……ああッ?! ヤメテ、ルー君、私のプレゼントがっ!」
 なにやら怪しげな勧誘を始めたレインがルーエルによって引き離された。苦笑交じりでそれを見送りつつ、ヴァルナがソードに言った。
「この様に、やりたい事と状況次第で、一概にこれとは言い切れないのです。……傾向的に、ソードさんには征服者、錬金術師、舞刀士辺りが合いそうな気はしますが」
 様々な各論が出たが、ハンターたちの総論は一つだった。
「好きにすりゃーいいのです」
 シレークス(ka0752)が簡潔に(乱暴に)それを纏め上げた。
「自分が何をやりたいかで決めれば良し。メインと合わせて何が出来るか、想像力が重要。『考えるな、感じろ』でやがります」
 つまり、シレークスさんは脳筋なのです──ボソッと零したサクラ・エルフリード(ka2598)を、シレークスが追い掛け回す。
「まぁ、アレだ。自分の考えや行動にあったサブクラスを選択するのが一番大事だと思うぞ?」
「最終的にはやはり君自身が覚醒者としてどうありたいのか、だろうな。まあ、楽に気構えた方が良い結果になるかもしれないな。……付け替えれるし(ボソッと」
 ヴァイスとアルトにそう言われて、ソードは何やら感動した面持ちで涙を浮かべた。
「い、いきなりどうした?」
「いや……メインクラスの時のことを考えると、まさかこんな親身になって相談に乗ってくれるとは思ってなかったから……」


 増援の彼らが村に到着した時、初動対応に当たった別のハンターたちによって村人たちの避難は終わっていた。後は村に入り込んだ『動く死体』系の雑魔の群れを掃討するだけだ。
「他班と連携し、村から敵を一掃する。各個に敵を討滅しよう」
 クオンは民家の屋根上に上がると、聖弓で敵を狙撃しつつ、村内に散った敵の位置と動きを逐一味方に報告した。それに従ってヴァイスが突進し、レインの『デルタレイ』の支援の下、蒼炎の魔法剣で以って雑魔を切り倒していく。
(うん……大丈夫。いつも通りやれば問題ない相手だ)
 味方を魔法で支援しながら、ルーエルは独り言ちた。これなら初陣のソードとマリーも、めったなことでは後れを取ることはないだろう。
「雑魔を一体、残しておいてくれ。俺とマリーでやる」
 戦いの終盤。どうやら危なげなく戦いを終えられそうだと思っていると、ソードがそんなことを言い出した。
 ヴァルナは意外そうにソードの顔を見返した。……どうやら何か意図がありそうだった。
「……まあ、お二人の実力的に、油断しなければ大丈夫でしょう」
「分かった。頼んだぞ、二人とも」
 ヴァルナとヴァイスが二人に道を開けた。レインはワタワタしながら「大丈夫? 『防御障壁』とか掛けておく?」と心配した。
「私たちは一切手を出しません。行動には責任が伴う──それを肝に銘じやがるです」
「必要なことは全て教えてあります。これまでの訓練を忘れぬように」
 シレークスと共に、ヴァルナは全てを二人に一任した。いつも自分たちが一緒という訳にもいかないし、そろそろ自分たちだけでも切り抜ける術を考えてもらわなければ。
 ……最後に残った『動く死体』は『全身鎧の剣士』だった。防御・耐久は高そうだが、その動きは人より鈍い。が……
「わ、分かってるわよ、うん……」
 マリーの緊張を見て取ったヴァイスは、不測の事態が起こる可能性を考え、仲間に目配せをした。そして目を瞬かせた。手出しはしない──そう宣言したヴァルナとシレークスは、だが、元よりいざという時には介入する気満々の構えを見せていた。
(任せると言いつつ、内心では皆、思いっきり心配してるよね……)
 内心で微苦笑を浮かべつつ、ルーエルもまた初陣の二人をいつでも回復できる位置へとさりげなく移動した。
「今回の『アンデット』に関しては、人間の常識など当てにならない。見た目に惑わされないこと、既に意志なき骸に過ぎないことは頭に入れておいてください」
 クオンのアドバイスに頷きつつ、ソードとマリーが皆の見守る中、戦闘に入った。
 敢えて雄叫びを上げつつ正面から斬りかかるソード。マリーは訓練通り側面へと回り込むと、最も当て易い胴を狙って魔導銃を発砲した。
 その銃撃に反応し、距離を詰めに掛かる鎧の剣士。その動きにピタリと追随したソードが敵の籠手ごと右手を落とし…… 直後、その右腕の先から新たな剣が飛び出した。
「敵の得物が変わりました。攻撃や動きのパターンや速さ、間合いの変化に注意してください。隠し玉も一つとは限りませんよ?」
 ヴァルナの助言の直後、敵のブーツの先が外れて短剣が飛び出した。剣士から格闘家の動きへ変わった敵のその一撃をマリーは落ち着いた様子で躱し、素早い動きで白銀の小剣を逆手に抜くと、それを鎧の隙間に突き入れようとした。刹那──
「タスケテ……」
 『動く死体』が言葉を発した。
 瞬間、マリーが身体を硬直させた。
「馬鹿野郎……!」
 叫び、ソードが敵の背に斬りつけるも、敵の動きは停まらない。雑魔が振るった剣がマリーの頭に落ちかかり…… 直後、飛び込んで来たシレークスにより、その軌跡を逸らされた剣先がシレークスを代わりに傷つけた。
「うわあぁぁ……!」
 雄叫びと共に立体攻撃で跳び上がったマリーが雑魔の首を落とした。そして、敵が倒れるより早く地面へ飛び降り、シレークスの方へと駆けた。
「シレークスさん!」
「まだです!」
 クオンの叫びに、マリーがビクッと足を止めた。
「まだ敵の撃破を確認していません。雑魔には再生したり変身したりする個体もあります。完全に滅びるまでは警戒を怠らないように」
(そうか、『残心』……!)
 マリーはハッと思い出すと、武器を構えて敵に向き直った。その時には既にソードが雑魔に三度、剣を突き下ろしていた。
 雑魔が消滅したのを確認した後、マリーは改めてシレークスの元へ駆け出した。
 そのシレークスは回復に来たサクラを手で制すると、マリーに問い質した。
「なぜ攻撃の手を止めやがりましたか?」
「それは……あの人が、助けて、って言ったから……」
「あれは歪虚です。既に人ならざる者です」
 クオンがきっぱりと言い切った。人の形をしたものを殺す事に抵抗がある──それは人間たる証ではある。が、人の形をしていても歪虚は歪虚──その同胞になりたくなければ、呼びかけは拒絶するしかない。
「分かってる。頭では分かっているんだけど……」
 ポロポロと涙を零すマリー。そこで初めてソードが、マリーの悩みについて皆に話した。レインは驚き、納得した。
「マリーちゃんは悩んでいるんだね。わたしも生命とかに銃を向けるのは抵抗あったなぁ(虫とオバケは遠慮なく焼いたけど)」
「最近はそういう主張のハンターも多いらしいな。心があるなら可哀想だ、助けて上げなきゃ、といった手合いだ。例えその歪虚が大量の人を殺し、膨大な尊厳を踏みにじったとしても、だ」
 アルトは嘆息して言葉を続けた。
「先程の君もそうだった。敵の『助けて』で硬直した。で……どう『助ける』つもりだったんだ?」
「え……?」
「心を持ったまま歪虚に堕ちた者たちに、生きていて欲しいという気持ちは私にも分かるさ。だが、歪虚になった時点でもう、人であった頃の人格に戻ることはない」
 ヴァルナも頷いた。歪虚の心は生前のそれとは異なる。その価値観は既に人では無く歪虚──多かれ少なかれ、歪んでしまっている。
「負のマテリアルの塊である歪虚は、正のマテリアルで生きるモノを衰弱させ、死に至らしめる。そのままにしておけば星も生物も、彼らが大事に思っていたモノまで全て……」
「だからこそ、討つのです。それが故人の名誉を守り、安息に繋がると信じて。……殺す側の理屈ではありますが、私だってそう信じていなければ……」
 アルトとヴァルナがどこか遠い目をして言った。長く歪虚と戦い続けてきた者だからこその、重い、重い言葉だった。
「……僕らが彼らにしてあげられることは決まっているよ、マリー。優しさと厳しさを持って、覚醒者である自分たちがそれを為すんだ。……それで納得いかないかい?」
 そう語りかけたルーエルを、涙に濡れた瞳でマリーが見上げた。納得はしている。だが、まだ覚悟は固まっていない──そういった顔だった。
 仕方がない、といった風情で、嘆息と共にシレークスが前に出た。そして、先程マリーを庇って出来た傷を、流れた血を少女に見せつけた。
「歪虚を倒せなかった結果、他の誰かが犠牲となる──想像してみやがるです。この血が、クリスやルーサーが流すことになっていたら、と」
 マリーの顔に怯えが走った。小さな身体をブルブル震わせ……それでもシレークスは言葉を止めない。止める訳にはいかない。
「誰が為に── でやがりますよ、マリー。覚醒者はいつだって、戦う力を持たぬ者たちに代わって、彼らを守る為に戦うのです」
「大切なもの、か…… そうだね。自分にとって譲れないものが何か、それを考えるのは良いかもしれない。……きっと誰もが持ってるものなんだよ、それは。人である限りはね。僕の場合は……うん、なんだっていいじゃないですか」
 ルーエルもそう言いながら、赤面して顔を逸らした。そして、そういう時に限ってレインおねーさんは気づかない。
「でもねー、つい先日まで普通の女の子だったマリーに、いきなり覚悟を固めろっていうのもねー」
「でも、そんな状態で戦場に出れば、マリー自身が死にかねない」
 仲間たちの会話を、シレークスは押し黙って聞いていた。もうこの期に及んで言うべきことはなかった。
(覚悟とは、誰かに教えられて身に着くものじゃねーです。他の誰でもない、自分自身の心で学ぶしかねーんですよ、マリー)

 その場に他のハンターたちがやって来て、皆は散開して事後の後始末に入った。
 クオンは戦場となった村の各所を回り、逃げきれずに犠牲となった村人たちの遺体の身元を確認し、浄化を施して火葬した後、埋葬した。
「私の、戦う、為の、覚悟、の、意味……」
 マリーはすっかり塞ぎ込んだ。そして、ひたすらに考え込んだ。
 そんなマリーを見て、レインは「これは別の意味でヤバい」と、彼女の元に駆け寄った。
「でも、アレだ。今まで、マリーちゃんは所謂『終わらせる力』は持ってなかった訳で。それでも何とか皆とやってきたわけで……
……覚醒者になって力を手に入れたわけだけども、無理に誰かを傷つけることを考えなくても良いんじゃない? この力で皆を守る! なんて肩肘張らなくてもさ。ソーどんも言ってたけど、ハンターにも色んな仕事があるわけだし!」
 勿論、戦うからには『覚悟』しておかないと、さっきみたいに怪我しちゃうかもしれない。でも、困難に直面したとしても、無理に戦ってくれなくてもいい。今まで通り私たちを頼ってくれてもいい。
「何が言いたいかっていうと、その、気楽にいこーよ! ってことで! ほら、そこのソードんを見てごらんよ。そんな深いことなんて考えないから! 気軽に剣とか振るってるから!」
 思わぬ方向から『流れ弾』が飛んできて、ソードがレインに突っかかっていった。マリーはそれをきょとんとした顔で見やり…… ヴァイスもまた大声で笑い、破顔した。
「ははははは…… ま、歪虚を愛した奴もいるくらいだからな。簡単に答えが出るものでもないさ! ……だからマリー。悩め。考えろ。そして、いつか自分だけの答えを……覚悟を見つけるんだ」
 ヴァイスは蒼い石の欠片をギュッと握ると、その内心をそっと仕舞って、悪ガキの様な笑顔でマリーの頭をワシャワシャとした。女の子の髪を何だとー、と怒るマリーから一旦離れ、ソードと共に呼びつけて「これから今日の反省会な」と教官モードになって誤魔化す。
 ヴァイスの「おーぼー」を訴えるマリーに、アルトがそっと訴えた。
「……レインの言ったことも、一つの考え方ではある。私が言ったことも、数ある意見の一つに過ぎないからな。今の内に悩み、考え、自分の気持ちを定めておくといい」
 微笑を浮かべてアルトが去り。ルーエルとレインがやって来た。
「ともかく、悩むことは当たり前だから。いざと会う時、僕だって力になるさ」
「まぁ、実力も心構えも半端な私があれこれ言ってもアレだけど……いつでも相談には乗るからね」

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重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/24 14:04:59
アイコン マリー、ソードの実戦訓練
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/04/27 13:59:55