• 冒険

イノセント・イビル 戦う事への少女の覚悟

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在8人 / 4~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2019/04/28 19:00
リプレイ完成予定
2019/05/07 19:00

オープニング

 ダフィールド侯爵家三男ソードとオードラン伯爵家令嬢マリーがハンターとなってから二か月が経った。
 この間、二人は山中の訓練場において、覚醒者となって大きく向上した身体能力への適合と遺跡探索等に関する学習、スキルの習得、歪虚との戦闘を想定した訓練にただひたすらに取り組んでいた。
 幸いなことに、ソードには戦闘経験があり、マリーも元々の身体能力が高く、訓練に難渋しなかった。
 教官たち(その多くはマリーらと共に侯爵家の事件を解決したベテランたちだった)は、二人の習熟に併せて訓練の強度を上げていった。その為、二人はいつまで経っても『訓練に慣れる』ということはなかったが、お陰で初心者ハンターという段階はとうに超えていた。

 その日も普段通りの(激しい、ではなく)烈しい訓練を終えてヘトヘトになって訓練キャンプの宿舎へ戻って来たマリーは、共有スペースのテーブルの上に無言でバタリと突っ伏した。
 そのままピクリとも動くことなく、暫し森の鳥たちの鳴き声を聞く。
 普段だったらすぐに侍女(であると同時に幼馴染で親友でもある)クリスや他の女ハンターたちが現れ、川へ水浴びに往ったり、風呂を沸かして汗を流したりするのだが、この日はなぜかまだ誰も戻って来てはいなかった。
 マリーはむくりと身体を起こすと、疲れ切った身体を押して防具を外し、服を着たままその隙間から濡れタオルで身体を拭き始めた。
 袖を捲って腕と肩を、そして、襟元のリボンを緩めて鎖骨と胸元を拭く。そのまま襟髪を手で持ち上げながらうなじを拭い、続けて脇を……といったところで、突然、宿舎の扉がガチャリと開いた。
「……ッ!?」
「あ、悪ぃ」
 謝りながらも、ソードは普通に中に入って来た。彼は『お子様』には興味がなかった。
 マリーは目をグルグル回しながら立ち上がって「ギャーーー!!!」と悲鳴を上げた。貴族令嬢であるマリーにとって、脇の下を拭いている姿を見られるなど、裸を見られるに等しい恥辱だった。
「なっ、なによ! 花の淑女がいる部屋にノックも無しに!」
「いや、ここ共有スペースだし……身体拭くなら女部屋に戻ってやれよ」
「疲れて億劫だったのよ!」
(淑女とは)
 反駁するのも面倒臭くなり、ソードは適当に謝ると魔導式小型冷蔵庫(ハンター私物)の中からペットボトルの水を取り出した。そして、スポーツ飲料も取ってマリーにも投げてやる。
「ほれ」
「……むぅ」
 まったく気にした様子もないソードの様子に怒り続けるのもバカらしくなったマリーだったが、その後、ソードがいきなり上半身裸になって濡れタオルで汗を拭き始めたりした所為でまた一悶着。ソードの方がマリーの抗議をまともに取り合わないので喧嘩にならず、一方のマリーもこのまま自室に引っ込んだら負けな気がしてその場に残り続けた為に、離れた位置に座ったまま暫し沈黙の時が過ぎた。
(それにしても……皆、遅いわね……?)
 共有スペースの柱時計(ハンター私物)が時を刻む音を聞きながら、マリーは眉をひそめた。
 ……思えば、ソードと二人きりになるのはこれが初めてであるような気がした。それまでソードとは共通の話題なんてなかったし、業務連絡(?)を交わす際にもクリスやルーサー(侯爵家四男。ソードの弟)、ハンター等、誰かしらが側にいた。
 何より、マリーはソードのことが『苦手』だった。『伯爵令嬢クリスの侍女』と身分を偽っていた際、『平民の使用人』として『丁重に無視』されていたから……というのはまあいい。貴族同士で会話をする際、使用人はいないものとして扱うのは貴族社会では普通のことで、ソードに限った話ではない。
 マリーがソードを苦手に思う理由は、初対面の時── 悪人が相手とは言え、一刀の下に首を跳ねたソードの姿が焼き付いてしまったからだ。
 その光景を思い出して、マリーはその記憶から逃れるように身じろぎをした。人が死ぬところを見るのはあれが初めてのことだった。そして、あんなことは二度と御免だと思った。私の目の前で、もう誰も死んだり殺されたりして欲しくないと思った。
 だが、気づいてしまった。ハンターとなった今の自分には、当時のソードと同じことが出来てしまうということに。いつか、そう遠くない未来──その力を使って、自分も何かを『終わらせ』なければいけない時が来るのだと。
「……ねぇ」
 だから、訊ねた。
 あの時、どうしてソードは手を下すことができたのかを。
「……あいつはルーサーに剣を向けた。殺す理由なんざそれで十分だろ」
「私は嫌なの。食べる為、生きる為以外の目的で生き物を殺すのが」
「安心しろ。歪虚は既に『死んだもの』だ」
「それでも『心』はあるんでしょう?」
 ……どうやらマリーは真面目に訊いているらしい、と知って、ソードはテーブルから身を起こした。また面倒臭い事を考え始めやがったな、などと心中で嘆息しながらポリポリと頭を掻いて……まぁ、仕方ねぇか、まだ若いんだ、と『淑女』に対して向き直る。
「……だったら、戦わなくてもいいんじゃないか?」
「……え?」
「別にハンターだからって必ずしも戦わなくちゃならないってことはない。幸い、マリーの『疾影士』ってクラスは冒険や遺跡の探索にも向いているしな」
 ソードの答えを、マリーは意外に思った。あまりそう言った気遣いを他人に見せるタイプではないと思っていたからだ。
 でも、そうか。そういった気遣いも出来ねば広域騎馬警官隊の長なんてやれはしないか。弟や家族に対する想いも承知してはいたはずなのだが、碌に話したこともないので、初対面時の強すぎる印象を引きずったままにしていたらしい。
「だが、なんにせよ、いざという時にはそれを躊躇なく為すだけの覚悟は定めておかねばならない」
 ソードが真剣な表情で続けた。
「クリスやルーサーに剣が向けられたら、と考えてみろ。殺さずに倒せるならいいが、躊躇う分だけ選択肢が減る。助けられる可能性が低くなる」
「……大切な誰かを守る為なら『終わらせられる』ってこと?」
「知らん。結局は戦うそいつ次第だ」
 マリーは沈黙した。想像することもできなかった。つまりはそれが『覚悟が定まっていない』ということなのだろう。
 それきり、二人の会話は途絶えた。マリーは考え続けたが答えは出なかった。
 外が騒がしくなり、クリスとルーサー、ハンターたちが慌てた様子で飛び込んで来た。マリーは目を丸くして、何が起きたのかを訊ねた。
「麓の村に歪虚が出たそうです。これからすぐに応援に駆け付けます」
 ルーサーの言葉に、マリーの心臓がドクンと跳ねた。初めての実戦──身体が震えるのを自覚した。
 それを見たソードが、ハンターたちに告げた。
「雑魔を一体、残しておいてくれ。それは俺とマリーでやる」

解説

1.状況と目的
 このシナリオは柏木のショート連作『イノセント・イビル』の一篇となります。
 時系列的には前作『付け焼き刃に焼入れを』の二か月後。ハンターとなり、基礎と応用訓練を終えたソードとマリーの初実戦の話です。

 PCは二人の訓練に当たる教官役のハンターの一人となります。
 麓の村に出現した雑魔の集団が現れ、それは問題なく蹴散らせたのですが、最後の1体だけを残して、ソードとマリーの初実戦の相手に充てることになりました。

 ソードとマリーの二人は教官役である皆さんの指示に従って戦います。
 ソードは闘狩人、マリーは疾影士。共にLV15相当とします。貴族のお金持ち()なので、装備は新人にしてはそこそこ良いです(種類は教官のおすすめに依ります)
(以下、マスターよりへ)


2.舞台
 麓の村の近く。村や畑、水路等。戦場は比較的自由に選べる。


3.敵
雑魔『鎧の騎士』×1
 全身鎧を纏った人型雑魔。壊れたフェイスガードの隙間から、中身は干からびた死体と知れる。
 ベテランハンターたちが全員で掛かれば10秒も掛からずに倒せる程度の強さ。だが、新人二人には中々の手応えとなる敵。
 両手持ちの戦斧を持ち、比較的高い攻撃力。動きは鈍いが鎧は硬く、死体系故に打たれ強い。


4.シナリオ中のイベント
現場に向かう途中
 ソードからサブクラスを何にしたらよいと思うかというご相談

戦闘中(PL情報)
 敵の籠手が外れて中身の剣が
 敵のブーツが外れて中から短剣が

戦闘終結時(PL情報)
 マリーが止めを刺そうとすると、敵が「助けて……」と呟き、硬直したマリーが反撃を喰らう

マリーの悩み
 OP本文中のマリーの悩みについては、戦闘終了後にソードから知らされます。
 (戦闘開始前に訊いても、語り終わるのはなぜか戦闘終結時となります)(ぇ

マスターより

 間に連動関係を挟んだので二か月ぶりとなりました。イノセント・イビル、即ちクリスとマリーとルーサーもの。こんばんは、或いはこんにちは。柏木雄馬です。
 マリーとソードが初の実戦に臨むシナリオとなります。
(解説より)
 戦闘シナリオなのにPCさんたちは直接戦わないという変則的なシナリオとなります。
 適切な指示を出し、新人ハンター2人(特にマリー)に勝利と通過儀礼を済ませてあげさせてください。
 柏木分類『描写系』。キャラクターの描写自体が目的となるシナリオです。
(ここまで)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2019/05/04 20:41

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/24 14:04:59
アイコン マリー、ソードの実戦訓練
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/04/27 13:59:55