ゲスト
(ka0000)
子供たちの行進
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/23 22:00
- 完成日
- 2015/01/31 11:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
先日の鉄砲水は、リサとダリアの姉妹から、両親と家を一度に奪った。
狭い、小さな山あいの村だ。洪水の規模としてはそれほどでもなかっただろうが、こんな村が潰れるには十分だった。リサたちと同じように、身を寄せる場所を無くした子供が、何人かいる……下は3歳の男の子から、上は8歳のリサまで、5人も。こんな時は、村の衆がそれぞれ僅かずつでも力を貸してやり、支え合うのが小さな共同体のやり方なのだが、なにせ今回は状況が悪すぎた。哀れな子供らを助けてやりたいが、自分の住むところすら危うい。非情なようだが、守るべきはよその子よりも自分の子なのだ。
それでも、村長をはじめとした村の大人たちは、方々に手を尽くして、ようやく子供らを一時預かってもよいという篤志家と話を付けることが出来た。
ただ問題は、その家が、山ふたつ越えた街だ、ということである。かなり遠い。子供の足、まして3歳の子供もいるというのに、一晩で越せるはずがない。
この村は山あいにある。人の行き来は、ごつごつした岩の隆起があり、今の時期なら雪も積もっているそんな道を、2本の足でするしかない。馬を駆らせるのは難しく、いわんや馬車をや。山をひとつ越えさえすれば街道に出るので、そこからなら馬だろうが牛だろうが走れるのだが、そのひとつの山が、行程の8割なのだ。
この子らを無事に街まで送り届けるために、ハンターの協力が求められた。
場合によっては野宿になるかもしれない。ありったけの衣類を着せられ、モコモコになった子供らは、さらにその上にたっぷりの保存食を詰めた背嚢を背負い、見た目は可愛らしく丸っこくなっていた。
「リサ、おまえが一番のおねえちゃんだ。みんなをしっかり、守ってやってくれ」
リサは気丈にも、涙は見せず、頷く。小さい子が持てない荷物も全部引き受けて、ダリアの手もしっかりと握った。
かくして、子供にとっては過酷な長い旅が始まった。
けれど、この時点で子供らもハンターたちもまだ知らなかった。
冬枯れの林の中にひとつ、蠢く影があることを……。
狭い、小さな山あいの村だ。洪水の規模としてはそれほどでもなかっただろうが、こんな村が潰れるには十分だった。リサたちと同じように、身を寄せる場所を無くした子供が、何人かいる……下は3歳の男の子から、上は8歳のリサまで、5人も。こんな時は、村の衆がそれぞれ僅かずつでも力を貸してやり、支え合うのが小さな共同体のやり方なのだが、なにせ今回は状況が悪すぎた。哀れな子供らを助けてやりたいが、自分の住むところすら危うい。非情なようだが、守るべきはよその子よりも自分の子なのだ。
それでも、村長をはじめとした村の大人たちは、方々に手を尽くして、ようやく子供らを一時預かってもよいという篤志家と話を付けることが出来た。
ただ問題は、その家が、山ふたつ越えた街だ、ということである。かなり遠い。子供の足、まして3歳の子供もいるというのに、一晩で越せるはずがない。
この村は山あいにある。人の行き来は、ごつごつした岩の隆起があり、今の時期なら雪も積もっているそんな道を、2本の足でするしかない。馬を駆らせるのは難しく、いわんや馬車をや。山をひとつ越えさえすれば街道に出るので、そこからなら馬だろうが牛だろうが走れるのだが、そのひとつの山が、行程の8割なのだ。
この子らを無事に街まで送り届けるために、ハンターの協力が求められた。
場合によっては野宿になるかもしれない。ありったけの衣類を着せられ、モコモコになった子供らは、さらにその上にたっぷりの保存食を詰めた背嚢を背負い、見た目は可愛らしく丸っこくなっていた。
「リサ、おまえが一番のおねえちゃんだ。みんなをしっかり、守ってやってくれ」
リサは気丈にも、涙は見せず、頷く。小さい子が持てない荷物も全部引き受けて、ダリアの手もしっかりと握った。
かくして、子供にとっては過酷な長い旅が始まった。
けれど、この時点で子供らもハンターたちもまだ知らなかった。
冬枯れの林の中にひとつ、蠢く影があることを……。
リプレイ本文
●子供たち
ハンター達を出迎えたのは、村長と数人の大人、それから5人の子供たち……8歳のリサ、5歳になる妹のダリア、同じく5歳の女の子と、7歳と3歳の男の子だ。皆、小さい体に不釣り合いな大荷物を背負わされている。
「短い間だけど、よろしくね」
八原 篝(ka3104)は腰を落とし、子供らと同じ高さに目線を合わせて、挨拶をした。元気よく挨拶を返す子供はいない。当たり前だ、つい最近に親を亡くし、これから見知らぬ場所へ行かなければならないのだ、彼らの不安はいかほどだろう。
「きみは、歳はいくつ?」
緊張を解きほぐすため、ミオレスカ(ka3496)は努めて明るく声を掛ける。
「……やっつ」
リサが短く答える。
「えらいね、まだ小さいのに、ちゃんと準備が出来てるんだ」
ミオレスカは一番大荷物を背負っているリサの頭に手を置き、ぐりぐりと撫でる。リサは恥ずかしそうにそれを払った。
「なにが入ってるんだ?」
「とちゅうのごはんとか、テントとか……」
「ふーん……」
コロネ・ユイレ(ka3594)が唸る。果たしてこの中にどれだけの食料が入っているのか、それが一番の気がかりだ。彼女らは道中、おなかいっぱい食べることは出来るだろうか。子供らがろくに食べられないのに自分だけ手持ちの缶詰をがっつくわけにもいかない。どうか、互いにひもじい思いをすることだけはありませんようにとコロネは祈っていた。
見れば、リサの荷物は一人分ではない、手を繋いだ先の妹の荷物は明らかに小さかった。そのアンバランスを見て矢野 白(ka3664)が言った。
「まずは、その荷物をこちらに渡してくれるかしら?」
「だいじょうぶ、持てます」
「山では共同体よ、助けられる者が助けなければ。あなたは助けるべきは、妹さんでしょう?」
決してリサを哀れんで手をさしのべたわけではない。白の気持ちが通じたのか、リサは大人しく荷物を預けた。
「はい、じゃあ桃李、コレを持って頂戴」
「俺なんだ!」
幼なじみの気易さで、草薙 桃李(ka3665)に荷物を押しつける白。惚れた弱みで断れない桃李。まったく人の気も知らないで……と心の中でぼやいてみる。
「そろそろ……」
行きましょう、とユキヤ・S・ディールス(ka0382)が促した。日が暮れるまでに、できるだけ距離は稼いでおきたい。
「晴れててよかったわ、調子よく行けそうね」
スーズリー・アイアンアックス(ka1687)は空を見上げて、言った。この場に似つかわしくない言葉を使うなら、「幸先のいい」陽気だった。
今から子供たちは故郷を離れる。頼る大人は無く、見知らぬ土地へ行く。
自分たちではどうにもできない大人たちの気持ちは、子供らには分からないかもしれないし、分かったところで大人たちの勝手かもしれない。それでもこの決断が、村の皆が生きるための術なのだ。
(子供らの新たな旅路だ。せめて辛い記憶にならないように全うしよう)
リュカ(ka3828)は改めて決意をし、そうして雪つもる道へ第一歩が踏み出された。
●山へ
山歩きの基本は『遅い者が先』だ。露払いのために斧持ちのスーズリーが先頭になり、先導に桃李、その後ろを子供たちが並び、ハンターたちは後ろを追うように並んだ。
「久しぶりの斧だ!」
スーズリーは嬉しそうだった。リアルブルーの複雑な機構を持つ道具は面白いが、こういうシンプルな道具がもともとは好きなのだ。歩くのに邪魔な枝々を捌くべく斧を振るうと、同時に程よく乾いた薪が手に入ったので更に喜んでいた。スーズリーがそうやって歩きやすい道を作ってくれるおかげで、桃李は後ろの子供らへ意識を向けることに集中できた。
「あ、そこ滑りやすいから、気を付けて。……ほら、僕の足跡を使って歩いてごらん」
桃李は子供に合わせ、できるだけ小さい歩幅で歩いてやる。それでできた足跡の上を通ると、うまく雪の少ない安定したところを通ることができた。
「おにいちゃんは、リアルブルーのひとなの?」
「そうだよ」
「リアルブルーって、どんなところ?」
ハンターが皆、自分たちを優しく気遣ってくれていることを感じたのか、徐々に緊張もとけ、子供たちから話しかけてくるようになった。
「なんか、リアルブルーのこと、おしえてよ」
「そうだなあ……白、何か面白い話、無いかな?」
「そうね……じゃあ、私の故郷の話をしましょうか」
白はしばらく考えて、懐かしい話を語る。
「雪の一片には、妖精がいるのよ。妖精は、太陽に挨拶をしたら、雲に潜ってお化粧して、風の馬に乗ってどこまでも旅をするんですって」
歩きながらのんびりと、そんな話をする。
「ロマンチックじゃねーか」
異世界の話を面白そうに聞くのは、子供だけではない。コロネもまた、興味深く相槌をうった。
「で、ちび達の村には、そんな物語はないのか?」
「雪のおはなしなら、わたしがしってるのはねー……」
楽しい話になりそうで、コロネもひとまずホッとする。少なくとも今は、子供らしくお喋りに夢中だ。子供らは自分の知っている限りの話を、初めて会ったこの友人に教えようとしてくれている。
聞きながら、篝もまた、故郷のことを思い出していた。リアルブルーに似ているクリムゾンウェスト、似ているけれど、自分の生まれ育った場所ではない。その故郷にしかない思い出があるのだ。それは誰もが、同じことだ。
「そろそろ休もう、陽が暮れかかってきた」
リュカが提案した。大人だけならもっと進めるだろうが、そろそろ限界だ。設営をする時間も含め、早めに休んだ方がいい。ちょうど、手ごろな平らな場所も見つかったところだ。
「じゃあ早速、火をおこすね。もう、寒くて」
と、ミオレスカはスーズリーの集めた薪を積み上げた。
「ちょっと足りないわね。リサ、みんなと一緒に、芝を探してきてくれる?」
篝の指示を受けたリサは頷き、皆に声を掛けた。男の子は面白がって、与えられた任務を一番にこなすべく駆け出したので、リサは慌てて後を追いかける。その間に篝は大型テントの組み立てを完了させた。
彼らが戻ってきたときには、すでに夕餉の湯気があがっていたのだった。
●夜
「なにそれ、なにそれ、なにそれ?」
桃李の手元を興味深そうに覗き込む子供たち。火にかけられた鍋のなかでは、牛乳がふつふつと泡を立てている。そこへパンをちぎって入れる。菓子作りは得意なくせに料理は苦手な桃李だが、このくらいならなんとか作れるのだ。
「温まるし消化にもいい。食べてごらん」
出立前に子供たちが持たされたのは、乾いた肉や固いパンだ。そんな冷たいものでは疲れも癒えないと、桃李は考えたのだ。
「あったかーい、おいしーい」
「ありがとう、おにいちゃん」
「ありがとう、桃李」
「なんでコロネまで」
村長に用意された量のパンだけでは足りなかったようだ。
「食べたら、早めに寝ましょう。明日の朝は、もっといいものを用意しますよ」
と、意味ありげにミオレスカが言うと、子供らは目を輝かせて素直に頷いた。
辛い道程であったろうに、悲壮な顔をしている子はいない。たき火を囲み、温かいものを食べ、にぎやかにお喋りをしている。
ここまでのハンター達の仕事は、ひとまずは成功していると言っていいだろう。
子供たちがテントの中で寝息を立てている間、ハンターは交替で見張りをすることにした。
静かな夜だ。空は晴れて、星も見える。明日もきっといい天気で、昼前には目的の家に着くだろう。
リュカは自然の恵みに感謝しながら、たき火に木をくべる。
「すまない、君の体の一部をもらうよ。春には新しい葉を茂らせて、大きくおなり」
ぱちぱちと爆ぜ、火の粉があがると、また元の静寂に戻る。
そこへ、足音が近づいてきた。
「……リサ、どうしたんだ?」
用足しか、と尋ねたが、首を振った。
「なんか、ねむれない」
「そうか」
リサはリュカの隣に座り、同じようにたき火を眺めた。リュカは、リサが何かを話したいなら聞いてやる用意はあったが、何も喋らなかった。けれど隣にいたいようであったので、リュカもまた黙っていた。
「交替よ。……あら、リサ?」
スーズリーと白が起きてきた。
「冷えるわよ」
「じゃあ、リサ。わたしと一緒にテントに戻ろうか?」
などと話していたときだ。ハンターは異変に気付いた。
「……リサ、テントに戻ろう」
もう一度、リュカが言う。
「どうしたの?」
「大丈夫よ、おやすみなさい……」
けれど、リサが戻るよりも早く、そいつは姿を現した。雪の塊のような真っ白いケモノが、物陰から飛び出してきたのだ。四つん這いになった雪だるまのような、丸っこい体に異様に細い足、それが駆けてこちらに向かってくる。
「キャアアアアッ!!」
「どうしたッ!?」
リサの悲鳴で、休んでいた他のハンターも起きだした。いつでも戦える準備をしていたのだろう、桃李の手にはすでにイレイザーが握られていた。
「あれって、ヴォイド……?」
初めて見る不気味な姿の生物に、リサはがたがたと震えている。
「安心して。わたし達はこういう時のためのハンターなんですよ」
そう言うスーズリーの体は、更なる筋肉の鎧がまとわれ、先ほどまでとは違ういかにもドワーフ然とした姿になった。そして白の足元にも、青い水精霊の幻影が浮かび上がった。
「リサ、戻りなさい。怪我でもされたら、貴方達を産んでくれた両親に合わせる顔もないわ」
次々と覚醒するハンター達。不思議と、リサは落ち着いてきて、震えも止まった。さっきまで腰が抜けそうだったのに、今はしっかりと自分の足でテントに逃げ帰ることができた。
「そうそう、しっかり隠れていてね……」
黒く尖った爪を生やしたコロネが呟く。自分の姿も劣らず、子供には恐ろしいものだろう。リサにこれ以上悪夢を見せたくはない。
「1体きり、かしら? 他に仲間はいないようね」
篝は青く光る目で周囲を見渡す。動く雪だるまは目の前の不格好なアレだけらしい。
「早く片付けて、もう一眠りさせてもらいます、明日の朝も忙しいんですから」
髪を七色に光らせるミオレスカはこぼしながら、ハープボウを構えた。まだまだ先は長いのだ、こんな雑魚1匹に手間取っている暇はない。
リサは暗いテントの中で毛布にくるまりながら、しかし聞こえてくる物音に耳をすましていた。響く音は何時間も長く続いたように感じたが、実際にはあっけないほどの時間しか経っていなかった。元の姿に戻ったハンターが覗き込んで、何事もなかったかのように「おやすみ」と言った。
呑気な寝顔でイビキを掻いている妹が小憎たらしくなって鼻をつまんでみたが、寝返りをうたれただけだった。
●朝
「おはよう、よく眠れたかしら?」
気が付けば朝で、しかも最後まで寝ていたリサは、恥ずかしそうに挨拶を返した。
「ゆうべは大変でしたね」
とスーズリーが言うと、ダリアが不思議そうに姉の顔を見て何かあったのかと聞いてきた。やっぱり何も知らないらしい。リサはどう答えたものか考えていたが、妹はとうに興味の対象を、漂ってくる匂いに移していた。
「いいにおいがする……」
「言ったでしょう、朝はもっといいものを用意する、って」
ミオレスカが作っていたのは、パンに甘いカスタードを染みこませて焼いた、いわゆるフレンチトーストだ。
「村を出るときに卵を貰えたので、それでちょっと作ってみました」
子供たちから歓声があがる。甘い菓子を嫌いな子供などいない。
「食べたら発ちましょう、あとちょっとよ」
「はい!」
元気のよい返事だった。
行程は順調に進み、当初の予定どおり、午前のうちに街道に出た。人通りも増え、賑やかになっていく。しかしそれとは対照的に、街が近づくにつれ、子供たちの口数は少なくなっていった。
「ここだ」
教えられた屋敷が見つかり、玄関に立って呼び鈴を鳴らして待つ。
5人もの子供を引き取ろうという篤志家の屋敷だけあって、大きいものだった。出てきた使用人の身形も立派で、ますます子供らは萎縮していく。野宿を済ませた彼らは薄汚れていて、通された部屋のきらきら光るシャンデリアの下ではますますみすぼらしく見えた。
白が、リサたちの肩を抱く。
「多分、この家でも、貴方達は肩身が狭く生きることになると思う……でも、生きなさい、私も何処かで生きているから、一緒に生きてましょう、ね?」
その言葉で、まずダリアが泣き出した。他の皆も、いよいよ見知らぬ家に預けられる寂しさを実感して、次々と泣き出した。けれどリサは、じっと唇を噛んで、下を向いていた。
そんな話をしているうちに、屋敷の主がようやっと部屋に入ってきた。
「なんじゃなんじゃ、何を泣いておる?」
人の善さそうな老人をびっくりさせてしまった。
さて、無事に護衛を終え、ハンターと子供たちにも別れの時が来た。
「ちょっと寂しいけど、また会おうね」
ミオレスカが優しく言うが、やっぱりわんわん泣き続ける子供らに、老人は困ったように笑った。
「そんなに泣きなさんな、今生の別れでもあるまい」
「そうは仰いますが、小さな子が生まれ育った村を離れてここへ来たのです、悲しみはいかほどでしょう」
「なんの、また帰りゃいいじゃないか」
「え?」
「え??」
「え???」
老人の言葉に、皆は一斉に振り返った。子供らも泣きやんで、きょとんとしている。
「村の立て直しの進み具合によるけどの、あちらの村長さんは、ちゃぁんとお前さんらを呼び戻すつもりじゃよ。わしは一時、預かるだけじゃ。そりゃあ、ここから街の学校に通いたいならそうしてもええ。お前さんらにとってどうするのが一番ええのか、村の衆はまだ頭を捻っておるよ」
「うわあ!!」
さっきまで泣いていたのに、もう笑っている。なんとも忙しい子供たちだ。ハンターの手を取り、踊り出す子までいた。自分たちはまた村に戻れるのだ!
「まだ先の話じゃぞ」
「ええ、けど、なんて希望に溢れた話なの!」
故郷に戻れる道がある、篝にとっても素晴らしい話だ。子供たちの事を、まるで自分の事のように喜んだ。暗いムードは一転、パーティのようになる。
「ねえ、おねえちゃん。……なんで泣いてるの?」
ダリアが覗き込んでそう言ったとき、まだリサは泣いていなかった。
けれど、なにかが切れてしまった。
俯いたまま、ぼろぼろと泣き出した。
それから、涙と鼻水を拭いもせず、泣きじゃくった。
なんでこんなに泣くのか、リサ本人も分からなかった。
ハンター達を出迎えたのは、村長と数人の大人、それから5人の子供たち……8歳のリサ、5歳になる妹のダリア、同じく5歳の女の子と、7歳と3歳の男の子だ。皆、小さい体に不釣り合いな大荷物を背負わされている。
「短い間だけど、よろしくね」
八原 篝(ka3104)は腰を落とし、子供らと同じ高さに目線を合わせて、挨拶をした。元気よく挨拶を返す子供はいない。当たり前だ、つい最近に親を亡くし、これから見知らぬ場所へ行かなければならないのだ、彼らの不安はいかほどだろう。
「きみは、歳はいくつ?」
緊張を解きほぐすため、ミオレスカ(ka3496)は努めて明るく声を掛ける。
「……やっつ」
リサが短く答える。
「えらいね、まだ小さいのに、ちゃんと準備が出来てるんだ」
ミオレスカは一番大荷物を背負っているリサの頭に手を置き、ぐりぐりと撫でる。リサは恥ずかしそうにそれを払った。
「なにが入ってるんだ?」
「とちゅうのごはんとか、テントとか……」
「ふーん……」
コロネ・ユイレ(ka3594)が唸る。果たしてこの中にどれだけの食料が入っているのか、それが一番の気がかりだ。彼女らは道中、おなかいっぱい食べることは出来るだろうか。子供らがろくに食べられないのに自分だけ手持ちの缶詰をがっつくわけにもいかない。どうか、互いにひもじい思いをすることだけはありませんようにとコロネは祈っていた。
見れば、リサの荷物は一人分ではない、手を繋いだ先の妹の荷物は明らかに小さかった。そのアンバランスを見て矢野 白(ka3664)が言った。
「まずは、その荷物をこちらに渡してくれるかしら?」
「だいじょうぶ、持てます」
「山では共同体よ、助けられる者が助けなければ。あなたは助けるべきは、妹さんでしょう?」
決してリサを哀れんで手をさしのべたわけではない。白の気持ちが通じたのか、リサは大人しく荷物を預けた。
「はい、じゃあ桃李、コレを持って頂戴」
「俺なんだ!」
幼なじみの気易さで、草薙 桃李(ka3665)に荷物を押しつける白。惚れた弱みで断れない桃李。まったく人の気も知らないで……と心の中でぼやいてみる。
「そろそろ……」
行きましょう、とユキヤ・S・ディールス(ka0382)が促した。日が暮れるまでに、できるだけ距離は稼いでおきたい。
「晴れててよかったわ、調子よく行けそうね」
スーズリー・アイアンアックス(ka1687)は空を見上げて、言った。この場に似つかわしくない言葉を使うなら、「幸先のいい」陽気だった。
今から子供たちは故郷を離れる。頼る大人は無く、見知らぬ土地へ行く。
自分たちではどうにもできない大人たちの気持ちは、子供らには分からないかもしれないし、分かったところで大人たちの勝手かもしれない。それでもこの決断が、村の皆が生きるための術なのだ。
(子供らの新たな旅路だ。せめて辛い記憶にならないように全うしよう)
リュカ(ka3828)は改めて決意をし、そうして雪つもる道へ第一歩が踏み出された。
●山へ
山歩きの基本は『遅い者が先』だ。露払いのために斧持ちのスーズリーが先頭になり、先導に桃李、その後ろを子供たちが並び、ハンターたちは後ろを追うように並んだ。
「久しぶりの斧だ!」
スーズリーは嬉しそうだった。リアルブルーの複雑な機構を持つ道具は面白いが、こういうシンプルな道具がもともとは好きなのだ。歩くのに邪魔な枝々を捌くべく斧を振るうと、同時に程よく乾いた薪が手に入ったので更に喜んでいた。スーズリーがそうやって歩きやすい道を作ってくれるおかげで、桃李は後ろの子供らへ意識を向けることに集中できた。
「あ、そこ滑りやすいから、気を付けて。……ほら、僕の足跡を使って歩いてごらん」
桃李は子供に合わせ、できるだけ小さい歩幅で歩いてやる。それでできた足跡の上を通ると、うまく雪の少ない安定したところを通ることができた。
「おにいちゃんは、リアルブルーのひとなの?」
「そうだよ」
「リアルブルーって、どんなところ?」
ハンターが皆、自分たちを優しく気遣ってくれていることを感じたのか、徐々に緊張もとけ、子供たちから話しかけてくるようになった。
「なんか、リアルブルーのこと、おしえてよ」
「そうだなあ……白、何か面白い話、無いかな?」
「そうね……じゃあ、私の故郷の話をしましょうか」
白はしばらく考えて、懐かしい話を語る。
「雪の一片には、妖精がいるのよ。妖精は、太陽に挨拶をしたら、雲に潜ってお化粧して、風の馬に乗ってどこまでも旅をするんですって」
歩きながらのんびりと、そんな話をする。
「ロマンチックじゃねーか」
異世界の話を面白そうに聞くのは、子供だけではない。コロネもまた、興味深く相槌をうった。
「で、ちび達の村には、そんな物語はないのか?」
「雪のおはなしなら、わたしがしってるのはねー……」
楽しい話になりそうで、コロネもひとまずホッとする。少なくとも今は、子供らしくお喋りに夢中だ。子供らは自分の知っている限りの話を、初めて会ったこの友人に教えようとしてくれている。
聞きながら、篝もまた、故郷のことを思い出していた。リアルブルーに似ているクリムゾンウェスト、似ているけれど、自分の生まれ育った場所ではない。その故郷にしかない思い出があるのだ。それは誰もが、同じことだ。
「そろそろ休もう、陽が暮れかかってきた」
リュカが提案した。大人だけならもっと進めるだろうが、そろそろ限界だ。設営をする時間も含め、早めに休んだ方がいい。ちょうど、手ごろな平らな場所も見つかったところだ。
「じゃあ早速、火をおこすね。もう、寒くて」
と、ミオレスカはスーズリーの集めた薪を積み上げた。
「ちょっと足りないわね。リサ、みんなと一緒に、芝を探してきてくれる?」
篝の指示を受けたリサは頷き、皆に声を掛けた。男の子は面白がって、与えられた任務を一番にこなすべく駆け出したので、リサは慌てて後を追いかける。その間に篝は大型テントの組み立てを完了させた。
彼らが戻ってきたときには、すでに夕餉の湯気があがっていたのだった。
●夜
「なにそれ、なにそれ、なにそれ?」
桃李の手元を興味深そうに覗き込む子供たち。火にかけられた鍋のなかでは、牛乳がふつふつと泡を立てている。そこへパンをちぎって入れる。菓子作りは得意なくせに料理は苦手な桃李だが、このくらいならなんとか作れるのだ。
「温まるし消化にもいい。食べてごらん」
出立前に子供たちが持たされたのは、乾いた肉や固いパンだ。そんな冷たいものでは疲れも癒えないと、桃李は考えたのだ。
「あったかーい、おいしーい」
「ありがとう、おにいちゃん」
「ありがとう、桃李」
「なんでコロネまで」
村長に用意された量のパンだけでは足りなかったようだ。
「食べたら、早めに寝ましょう。明日の朝は、もっといいものを用意しますよ」
と、意味ありげにミオレスカが言うと、子供らは目を輝かせて素直に頷いた。
辛い道程であったろうに、悲壮な顔をしている子はいない。たき火を囲み、温かいものを食べ、にぎやかにお喋りをしている。
ここまでのハンター達の仕事は、ひとまずは成功していると言っていいだろう。
子供たちがテントの中で寝息を立てている間、ハンターは交替で見張りをすることにした。
静かな夜だ。空は晴れて、星も見える。明日もきっといい天気で、昼前には目的の家に着くだろう。
リュカは自然の恵みに感謝しながら、たき火に木をくべる。
「すまない、君の体の一部をもらうよ。春には新しい葉を茂らせて、大きくおなり」
ぱちぱちと爆ぜ、火の粉があがると、また元の静寂に戻る。
そこへ、足音が近づいてきた。
「……リサ、どうしたんだ?」
用足しか、と尋ねたが、首を振った。
「なんか、ねむれない」
「そうか」
リサはリュカの隣に座り、同じようにたき火を眺めた。リュカは、リサが何かを話したいなら聞いてやる用意はあったが、何も喋らなかった。けれど隣にいたいようであったので、リュカもまた黙っていた。
「交替よ。……あら、リサ?」
スーズリーと白が起きてきた。
「冷えるわよ」
「じゃあ、リサ。わたしと一緒にテントに戻ろうか?」
などと話していたときだ。ハンターは異変に気付いた。
「……リサ、テントに戻ろう」
もう一度、リュカが言う。
「どうしたの?」
「大丈夫よ、おやすみなさい……」
けれど、リサが戻るよりも早く、そいつは姿を現した。雪の塊のような真っ白いケモノが、物陰から飛び出してきたのだ。四つん這いになった雪だるまのような、丸っこい体に異様に細い足、それが駆けてこちらに向かってくる。
「キャアアアアッ!!」
「どうしたッ!?」
リサの悲鳴で、休んでいた他のハンターも起きだした。いつでも戦える準備をしていたのだろう、桃李の手にはすでにイレイザーが握られていた。
「あれって、ヴォイド……?」
初めて見る不気味な姿の生物に、リサはがたがたと震えている。
「安心して。わたし達はこういう時のためのハンターなんですよ」
そう言うスーズリーの体は、更なる筋肉の鎧がまとわれ、先ほどまでとは違ういかにもドワーフ然とした姿になった。そして白の足元にも、青い水精霊の幻影が浮かび上がった。
「リサ、戻りなさい。怪我でもされたら、貴方達を産んでくれた両親に合わせる顔もないわ」
次々と覚醒するハンター達。不思議と、リサは落ち着いてきて、震えも止まった。さっきまで腰が抜けそうだったのに、今はしっかりと自分の足でテントに逃げ帰ることができた。
「そうそう、しっかり隠れていてね……」
黒く尖った爪を生やしたコロネが呟く。自分の姿も劣らず、子供には恐ろしいものだろう。リサにこれ以上悪夢を見せたくはない。
「1体きり、かしら? 他に仲間はいないようね」
篝は青く光る目で周囲を見渡す。動く雪だるまは目の前の不格好なアレだけらしい。
「早く片付けて、もう一眠りさせてもらいます、明日の朝も忙しいんですから」
髪を七色に光らせるミオレスカはこぼしながら、ハープボウを構えた。まだまだ先は長いのだ、こんな雑魚1匹に手間取っている暇はない。
リサは暗いテントの中で毛布にくるまりながら、しかし聞こえてくる物音に耳をすましていた。響く音は何時間も長く続いたように感じたが、実際にはあっけないほどの時間しか経っていなかった。元の姿に戻ったハンターが覗き込んで、何事もなかったかのように「おやすみ」と言った。
呑気な寝顔でイビキを掻いている妹が小憎たらしくなって鼻をつまんでみたが、寝返りをうたれただけだった。
●朝
「おはよう、よく眠れたかしら?」
気が付けば朝で、しかも最後まで寝ていたリサは、恥ずかしそうに挨拶を返した。
「ゆうべは大変でしたね」
とスーズリーが言うと、ダリアが不思議そうに姉の顔を見て何かあったのかと聞いてきた。やっぱり何も知らないらしい。リサはどう答えたものか考えていたが、妹はとうに興味の対象を、漂ってくる匂いに移していた。
「いいにおいがする……」
「言ったでしょう、朝はもっといいものを用意する、って」
ミオレスカが作っていたのは、パンに甘いカスタードを染みこませて焼いた、いわゆるフレンチトーストだ。
「村を出るときに卵を貰えたので、それでちょっと作ってみました」
子供たちから歓声があがる。甘い菓子を嫌いな子供などいない。
「食べたら発ちましょう、あとちょっとよ」
「はい!」
元気のよい返事だった。
行程は順調に進み、当初の予定どおり、午前のうちに街道に出た。人通りも増え、賑やかになっていく。しかしそれとは対照的に、街が近づくにつれ、子供たちの口数は少なくなっていった。
「ここだ」
教えられた屋敷が見つかり、玄関に立って呼び鈴を鳴らして待つ。
5人もの子供を引き取ろうという篤志家の屋敷だけあって、大きいものだった。出てきた使用人の身形も立派で、ますます子供らは萎縮していく。野宿を済ませた彼らは薄汚れていて、通された部屋のきらきら光るシャンデリアの下ではますますみすぼらしく見えた。
白が、リサたちの肩を抱く。
「多分、この家でも、貴方達は肩身が狭く生きることになると思う……でも、生きなさい、私も何処かで生きているから、一緒に生きてましょう、ね?」
その言葉で、まずダリアが泣き出した。他の皆も、いよいよ見知らぬ家に預けられる寂しさを実感して、次々と泣き出した。けれどリサは、じっと唇を噛んで、下を向いていた。
そんな話をしているうちに、屋敷の主がようやっと部屋に入ってきた。
「なんじゃなんじゃ、何を泣いておる?」
人の善さそうな老人をびっくりさせてしまった。
さて、無事に護衛を終え、ハンターと子供たちにも別れの時が来た。
「ちょっと寂しいけど、また会おうね」
ミオレスカが優しく言うが、やっぱりわんわん泣き続ける子供らに、老人は困ったように笑った。
「そんなに泣きなさんな、今生の別れでもあるまい」
「そうは仰いますが、小さな子が生まれ育った村を離れてここへ来たのです、悲しみはいかほどでしょう」
「なんの、また帰りゃいいじゃないか」
「え?」
「え??」
「え???」
老人の言葉に、皆は一斉に振り返った。子供らも泣きやんで、きょとんとしている。
「村の立て直しの進み具合によるけどの、あちらの村長さんは、ちゃぁんとお前さんらを呼び戻すつもりじゃよ。わしは一時、預かるだけじゃ。そりゃあ、ここから街の学校に通いたいならそうしてもええ。お前さんらにとってどうするのが一番ええのか、村の衆はまだ頭を捻っておるよ」
「うわあ!!」
さっきまで泣いていたのに、もう笑っている。なんとも忙しい子供たちだ。ハンターの手を取り、踊り出す子までいた。自分たちはまた村に戻れるのだ!
「まだ先の話じゃぞ」
「ええ、けど、なんて希望に溢れた話なの!」
故郷に戻れる道がある、篝にとっても素晴らしい話だ。子供たちの事を、まるで自分の事のように喜んだ。暗いムードは一転、パーティのようになる。
「ねえ、おねえちゃん。……なんで泣いてるの?」
ダリアが覗き込んでそう言ったとき、まだリサは泣いていなかった。
けれど、なにかが切れてしまった。
俯いたまま、ぼろぼろと泣き出した。
それから、涙と鼻水を拭いもせず、泣きじゃくった。
なんでこんなに泣くのか、リサ本人も分からなかった。
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【相談】野をこえ山こえ ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/23 21:16:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/23 07:24:55 |