ゲスト
(ka0000)
外部意見を求めます
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/05/13 19:00
- 完成日
- 2019/05/19 02:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●英霊、南方大陸に行く。
茫々と広がる砂浜。
そこでは近隣のリザードマン集落で生まれた子供たちが、よちよち駆けている。
リザードマンは人間ほど外見に個体差が出ない。皆とてもよく似ている。
しかし行動はバラバラだ。波打ち際でじいと波の動きを見つめてみたり、砂を掘って潜ってみたり、カニに尻尾を挟まれてみたり。
世話役の大人たちは、見失わないように大忙し。
「オイ、1人イナイゾ。ドコ行ッタ」
「オオ、アソコダ」
1匹の子供がてこてこ砂丘を上っている。
頂上までたどり着いたところで、丸い頭を上に向ける。
そこにあるのは見慣れた同種族の顔とは違う顔。
子供は首をかしげ、ピイと鳴く。
見慣れぬ顔がさも喜ばしげに言う。
『……幼児期の適度な集団屋外運動は……発育にたいへんよい……』
何を言っているのか子供にはさっぱり分からなかったが、声の響きが心地よいので目を細める。
大人たちが駆けよってきた。
「オオ、白イ精霊」
「白イ精霊ガ現レタゾ」
●調査許可申請。
リザードマンの族長『大きな山』はマゴイに尋ねた。
「今日ハマタ、何用デアラレルカナ?」
マゴイはゆったりした口調で、一から説明し始める。
『……この間ここでは……虫の形をした大型歪虚が現れたわね……?』
「シカリ」
『それを倒しに行った際……あなたがたのソルジャーと……もう一つの部族のソルジャーと……そしてハンターが……奥地の砂漠に……柱のようなものが立っているのを見つけたわね……?』
「シカリ」
『……私はそれが一体なんなのか……ちゃんと調べておこうと思って……ここに来たの……この界隈はあなたがたの主権が及ぶ範囲であるようなので……まずは事前通告をと……』
「オオ、ソウデアッタカ。アレニツイテハ我ラモ気掛カリデアッタ。アナタガ調ベニ行カレルトイウナラ、マコトニ有リガタキコト。早速戦士ヲ同行サセマショウ」
『……え……いえ……それは別に……同行してもらわなくとも大丈夫……』
「ゴ遠慮メサレルナ。アナタハ我ラノ部族ニ幸ヲモタラシテクレタ精霊、粗略ニスレバ我ラノ名折レ。コノ話ハ奥地ノ部族ニモイタサネバナリマスマイナ。アノ者タチモ、アノ柱ノコトヲイタク気ニカケテオルノデス。歪虚ヲ呼ビ寄セテイルノデハナイカト……」
族長の懸念をマゴイは、ゆったりと否定した。
『……あれは多分……そういうものではない……だからそういう心配はいらない……大丈夫……』
●確認作業。
近づいてみれば傾いた柱は、優に100メートルほどの高さがあった。
形は長方形。表面はつやけしされた黒色。つるつるしていて手掛かりがなく、上れそうもない。あちこちに欠けが見られる。
白い精霊はしきりに柱の周囲を巡りなで回していたかと思うと、柱の中へ吸い込まれるように入って行った。
よく分からないがきっと大事なことをしているのだろう。
そう思いながらリザードマンたちは、周囲への警戒を怠らない。
そこに、ヒイーっと引き付けるような鳴き声。
2メートルほどある影が頭上をかすめる。
それは歪虚だった。形は破れかぶれの羽が生えたガラガラ蛇。
リザードマンの戦士たちは迎撃のため槍や剣を構え、身構える。
その時柱の表面から杭のようなものが打ち出された。
それは歪虚の体に突き刺さる。歪虚は叫び声を上げきりきり舞いをし、落ちてきた。躍り上がりもんどり打ち、びくびく痙攣して動かなくなる。
その体が黒い上気となって消滅して行くと同時に、杭もまた消えていく。
リザードマンたちはおお、と声を上げた。
柱から出てきたマゴイに聞く。
「今ノハ、アナタガナサレタコトカ?」。
マゴイは首を振った。
『……いいえ……今のはこの装置がやったことよ……これは境界防護網……の一部……負のマテリアルを強く帯びたものが近づくと……自動的に攻撃するように……なっている……』
●さて、どうしよう。
ユニゾン島。
「――結局あの柱は、ユニオンの遺物だったわけなんですか?」
カチャの質問にマゴイは、そう、と答えた。
『……間違いない……あれと同じものを私は……ユニオンで度々見たことがある……でも……だいぶ痛んでしまっている……』
この間彼の地に現れた大型の虫歪虚に刺さっていた杭も、あれから打ち出されたもので間違いないだろうとマゴイは続ける。本来の力が出せなかったため、歪虚を即座に消滅へと導くことが出来ず、いたずらに興奮させるだけに終わってしまったのだろうとも。
「なんでそんなものがあんなところにあったんですか?」
『……簡易宿泊所と同様……この星のガイアエレメントが……エバーグリーンを取り込もうとしたときに……巻き込まれたものと思われる……ユニゾンが計画的に向こうから……転送したものではない……それならあんなに痛んではいない……もっと完全な形で残っているはず……』
カチャ以外のハンターも口を出す。
「そういえば、急にあれが現れたとか言っていたな。あそこのリザードマンたちは」
『……そう……最近取り込まれたものならば……その話とも符合する……とにかくあれはユニオンの遺物なので……本来ならこちらで回収するべきもの……』
話は分かった。しかしそういうことなら、マゴイはなぜ自分たちを呼んだのだろう。回収する際の手伝いをしてくれと言うのだろうか。
そんな事を思っていたハンターたちにマゴイは、意外な言葉を続けてきた。
『……なのだけど……そうするべきなのかどうなのか……今私は判断が下せないでいるの……会議をしてみても……ちょうど意見が拮抗してしまっていて……』
その会議というのは一人会議であり、要するに自問自答しているだけなのであるが――それはともかく意見は、以下の2つに集約されるのだという。
その1:装置は解体し、再利用資材として回収する。劣化が進んでおり、小型や中型の歪虚にしか対処出来なくなっている。後50年は今の状態を維持することが出来るだろうが、そこから先はもう使えなくなる。直すことは出来ない。放置しておけば以前のように、大型の歪虚を刺激することにもなりかねず、現地のためにはかえって危険ではないかと思われる。
その2:装置は完全に停止するまで、現状維持のままにしておく。解体は使えなくなってから行うことにする。劣化が進んでいるが、後50年は今の状態を維持することが出来る。その間は小型や中型の歪虚に対して有効だ。たとえ大型歪虚を倒すことが出来なくても、現地の危険を軽減させているのではないかと思われる。
茫々と広がる砂浜。
そこでは近隣のリザードマン集落で生まれた子供たちが、よちよち駆けている。
リザードマンは人間ほど外見に個体差が出ない。皆とてもよく似ている。
しかし行動はバラバラだ。波打ち際でじいと波の動きを見つめてみたり、砂を掘って潜ってみたり、カニに尻尾を挟まれてみたり。
世話役の大人たちは、見失わないように大忙し。
「オイ、1人イナイゾ。ドコ行ッタ」
「オオ、アソコダ」
1匹の子供がてこてこ砂丘を上っている。
頂上までたどり着いたところで、丸い頭を上に向ける。
そこにあるのは見慣れた同種族の顔とは違う顔。
子供は首をかしげ、ピイと鳴く。
見慣れぬ顔がさも喜ばしげに言う。
『……幼児期の適度な集団屋外運動は……発育にたいへんよい……』
何を言っているのか子供にはさっぱり分からなかったが、声の響きが心地よいので目を細める。
大人たちが駆けよってきた。
「オオ、白イ精霊」
「白イ精霊ガ現レタゾ」
●調査許可申請。
リザードマンの族長『大きな山』はマゴイに尋ねた。
「今日ハマタ、何用デアラレルカナ?」
マゴイはゆったりした口調で、一から説明し始める。
『……この間ここでは……虫の形をした大型歪虚が現れたわね……?』
「シカリ」
『それを倒しに行った際……あなたがたのソルジャーと……もう一つの部族のソルジャーと……そしてハンターが……奥地の砂漠に……柱のようなものが立っているのを見つけたわね……?』
「シカリ」
『……私はそれが一体なんなのか……ちゃんと調べておこうと思って……ここに来たの……この界隈はあなたがたの主権が及ぶ範囲であるようなので……まずは事前通告をと……』
「オオ、ソウデアッタカ。アレニツイテハ我ラモ気掛カリデアッタ。アナタガ調ベニ行カレルトイウナラ、マコトニ有リガタキコト。早速戦士ヲ同行サセマショウ」
『……え……いえ……それは別に……同行してもらわなくとも大丈夫……』
「ゴ遠慮メサレルナ。アナタハ我ラノ部族ニ幸ヲモタラシテクレタ精霊、粗略ニスレバ我ラノ名折レ。コノ話ハ奥地ノ部族ニモイタサネバナリマスマイナ。アノ者タチモ、アノ柱ノコトヲイタク気ニカケテオルノデス。歪虚ヲ呼ビ寄セテイルノデハナイカト……」
族長の懸念をマゴイは、ゆったりと否定した。
『……あれは多分……そういうものではない……だからそういう心配はいらない……大丈夫……』
●確認作業。
近づいてみれば傾いた柱は、優に100メートルほどの高さがあった。
形は長方形。表面はつやけしされた黒色。つるつるしていて手掛かりがなく、上れそうもない。あちこちに欠けが見られる。
白い精霊はしきりに柱の周囲を巡りなで回していたかと思うと、柱の中へ吸い込まれるように入って行った。
よく分からないがきっと大事なことをしているのだろう。
そう思いながらリザードマンたちは、周囲への警戒を怠らない。
そこに、ヒイーっと引き付けるような鳴き声。
2メートルほどある影が頭上をかすめる。
それは歪虚だった。形は破れかぶれの羽が生えたガラガラ蛇。
リザードマンの戦士たちは迎撃のため槍や剣を構え、身構える。
その時柱の表面から杭のようなものが打ち出された。
それは歪虚の体に突き刺さる。歪虚は叫び声を上げきりきり舞いをし、落ちてきた。躍り上がりもんどり打ち、びくびく痙攣して動かなくなる。
その体が黒い上気となって消滅して行くと同時に、杭もまた消えていく。
リザードマンたちはおお、と声を上げた。
柱から出てきたマゴイに聞く。
「今ノハ、アナタガナサレタコトカ?」。
マゴイは首を振った。
『……いいえ……今のはこの装置がやったことよ……これは境界防護網……の一部……負のマテリアルを強く帯びたものが近づくと……自動的に攻撃するように……なっている……』
●さて、どうしよう。
ユニゾン島。
「――結局あの柱は、ユニオンの遺物だったわけなんですか?」
カチャの質問にマゴイは、そう、と答えた。
『……間違いない……あれと同じものを私は……ユニオンで度々見たことがある……でも……だいぶ痛んでしまっている……』
この間彼の地に現れた大型の虫歪虚に刺さっていた杭も、あれから打ち出されたもので間違いないだろうとマゴイは続ける。本来の力が出せなかったため、歪虚を即座に消滅へと導くことが出来ず、いたずらに興奮させるだけに終わってしまったのだろうとも。
「なんでそんなものがあんなところにあったんですか?」
『……簡易宿泊所と同様……この星のガイアエレメントが……エバーグリーンを取り込もうとしたときに……巻き込まれたものと思われる……ユニゾンが計画的に向こうから……転送したものではない……それならあんなに痛んではいない……もっと完全な形で残っているはず……』
カチャ以外のハンターも口を出す。
「そういえば、急にあれが現れたとか言っていたな。あそこのリザードマンたちは」
『……そう……最近取り込まれたものならば……その話とも符合する……とにかくあれはユニオンの遺物なので……本来ならこちらで回収するべきもの……』
話は分かった。しかしそういうことなら、マゴイはなぜ自分たちを呼んだのだろう。回収する際の手伝いをしてくれと言うのだろうか。
そんな事を思っていたハンターたちにマゴイは、意外な言葉を続けてきた。
『……なのだけど……そうするべきなのかどうなのか……今私は判断が下せないでいるの……会議をしてみても……ちょうど意見が拮抗してしまっていて……』
その会議というのは一人会議であり、要するに自問自答しているだけなのであるが――それはともかく意見は、以下の2つに集約されるのだという。
その1:装置は解体し、再利用資材として回収する。劣化が進んでおり、小型や中型の歪虚にしか対処出来なくなっている。後50年は今の状態を維持することが出来るだろうが、そこから先はもう使えなくなる。直すことは出来ない。放置しておけば以前のように、大型の歪虚を刺激することにもなりかねず、現地のためにはかえって危険ではないかと思われる。
その2:装置は完全に停止するまで、現状維持のままにしておく。解体は使えなくなってから行うことにする。劣化が進んでいるが、後50年は今の状態を維持することが出来る。その間は小型や中型の歪虚に対して有効だ。たとえ大型歪虚を倒すことが出来なくても、現地の危険を軽減させているのではないかと思われる。
リプレイ本文
●ユニゾン
マゴイの求めに応じ集まったハンターたち――カチャ、天竜寺 舞(ka0377)、エルバッハ・リオン(ka2434)、マルカ・アニチキン(ka2542)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)、星野 ハナ(ka5852)、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)、ルベーノ・バルバライン(ka6752)、ユメリア(ka7010)が案内されたのは、外部者宿泊所の一室に急遽しつらえられた、簡易臨時会議場。
中央に長方形のテーブル。
席にはそれぞれの名前を書いた札が置いてある。
皆はそれに従って席に着いた。
そこにマゴイが入ってきて、もたもた話し始める
『……このたびは……オブザーバーとしてお集まりいただき……ありがとうございます……それでは順番に意見を述べてください……』
ハナがさっと手を挙げた。
「えーとぉ、やっぱり現地で現物確認しないと判断が難しいと思うのでぇ、見せて貰える範囲で近づいて確認しても良いですぅ?」
ユメリアも彼女に続き、手を挙げる。
「私も、可能なら遺物を直に拝見したいのですが……」
マゴイは彼女らの提案についてしばし黙考した。
そして、かまわないだろうと結論づけた。
『……それでは皆さん……転移扉まで移動を……』
●柱を前にして
濃度の高い青空から、目眩を覚えるような強い日差しが降り注ぐ。
ここは砂漠。
そびえる柱は相変わらず、地に対してやや斜め。ハンターたちと英霊は、その傍に集まり話し合い。
マゴイがユニゾン以外の場所を気にかけるなんて珍しい。思いながら舞は、腕を組んで頭をひねる。
「で、要は問題の遺物を撤去するかしないかって事だよね?」
白い日傘を持ったマゴイは、そのとおり、と頷いた。
『……今すぐにそうするか……それとも後にそうするか……』
「んー……リザードマンの集落周辺に現れる歪虚は彼ら自身で対処出来る物がほとんどで、妹に聞いたダンゴムシみたいのはこないだが初めてだったんでしょ?」
『……ええ……』
舞が危惧するのは、装置に頼ることでリザードマンたちが、種族としての強さを失ってしまうのではないかということ。そうなってしまえば、大型歪虚が再び現れたとき、今回のように素早く対処出来ないかも知れない。下手したら全滅も有り得る。
「彼らには戦士として戦う者達がいるみたいじゃない? なら普段現れるような歪虚はむしろ実戦の訓練を積むいい機会でもあると思う。だからあたしは大型歪虚が現れた時早急にユニゾンなりオフィスなりに連絡を取れる体制を伴った上で装置は撤去した方がいいと思う。彼らが彼らであり続ける為に」
ルンルンもまた撤去を推す。気ぜわしげに柱を見上げて。
「元々ここにあったものでないなら、無くてもリザードマンさん達の生活は変わらない気がして、逆に50年後まで撤去せずにそこにあったら、今度はそれがある状態が新しい世代のリザードマンさん達には当たり前になっちゃう。その方が生活に影響でるんじゃないかなぁって思うからっ!」
魔術師協会に提供する資料写真撮影のため、マジックフライトで飛び回っていたマルカが降りてきた。
砂塵用マスクごしに述べるのは、以下の意見。
「50年後もマゴイさん達は生きてるので、撤去作業をやっていただけると思いますが……歪虚排除機能は継続できても、老朽化の影響で壁が剥がれ落ちてリザードマンたちに事故が起きてしまうかもしれません。歪虚を現地のリザードマンと私たちが対処することは難しくはないかと思います。なので、撤去できる時にした方がいいかなと」
ルンルンが再び言った。
「そうそう、50年の間に部分的に壊れる危険が無いともいえないでしょ? 舞さんが言うように、柱を撤去した後だって、マゴイさんに連絡する手段も残しておけばいいと思うし」
リオンもまた、おおむね彼女らと変わらぬ立場。
「このままであれば50年は持つといっても、歪虚との戦闘で破壊される可能性があります。現状では補修が不可能である以上、破壊されてしまえば使用できなくなる装置に頼るのは危険ではないかと思います。とはいえ装置を解体すれば、小型や中型の歪虚が増加することが考えられますので、周辺地域の歪虚の駆逐や防衛体制の再構築などもあわせて行う必要があるかと」
そこでハナが反対意見を述べた。
「私は現状維持派ですぅ。だって中型歪虚を倒すって言ってもぉ、これの稼働区域ってどのくらいですぅ? この近辺のリザードマン集落全部を守備範囲にしてるわけでもないですよねぇ?」
『……ええ……残念ながら……これはあくまでもシステムの一部でしかないから……付近一帯をカバーすることは出来ない……』
「なら、リザードマンがこの装置に頼り切ることは出来ないわけですねぇ。であればこれによって彼らの力が弱まるということはないと思いますぅ。少しくらい歪虚の出現率を下げてぇ、リザードマンの戦士さんが少しでも狩猟に集中できる方が集落が栄えていいと思うんですぅ」
彼らだけでは対処出来ないような大型が出た時は、ユニゾンのソルジャーやハンターに連絡するようにすればよい。お互いの交流が進むのは素敵なことだ、とハナは締めくくる。
『……交流……』
マゴイが考えこむような素振りをした。
アルスはそんな彼女に、えへへと笑いかけた。悩んでくれるのはいいことだと思って。
「あたしも、維持のほうかなぁって思うの。ねえマゴイちゃん、遺物は劣化してるってお話なんだけど、再利用できる技術あるのかにゃぁ?」
『……あるわ……分解して……建築資材用の無機ペレットにする技術が……』
「そうなんにゃ、それならいいけど……でも、さっきマルカちゃんたちが話してたように、予定より前に不具合だったり、予期しないトラブルが起きちゃう可能性はない?」
『……それは可能性として……否定出来ない……』
「じゃあ、定期点検視察して、場合によっては解体を前倒しにするってどうかな? ハンターオフィスとか、魔術師協会さんたちとかの手も借りればいいと思うにゃん。いまも小型や雑魔が来てるなら、即解体じゃなくて段階的にしてくことをご提案するにゃ。遺物だけじゃなく周辺の調査もしっかりしてからなのかにゃぁって思ったのね」
ユメリアは柱が持つ実際的機能だけでなく、シンボルとしての意味合いもまた指摘する。
「リサイクルも悪くありません。今必要なものに変えて使うのも立派な知恵ですし、これに頼って生きることでリザードマンの強さを奪ってしまうことも考えられます。ですが、この遺物もはるか異世界にて目的があって作られ、そして奇遇にもここにやってきた。ある種の異邦人だと思うのです。遥かなる世界へ想いを寄せる貴重な手掛かりになるかもしれません。未来は子供の知恵と勇気に任せて、彼らに先人の知恵を伝えられるように残しては、と思うのです」
その言葉に何か思うところがあったろうか、マゴイはふと柱を見上げ、懐かしそうに呟いた。
『……ユニオンは、とてもよいところだった……』
ルベーノが周囲を見回し、言う。
「俺は50年の平和を推す。現状維持が望ましいと思う――理由は、まあ、大体ハナが言った通りだ。巨大歪虚出現の際は、村落を越え協力しあえたリザードマンたちのことだ。脅威が一部取り除かれたことで人口が増えたとしても、他村落からの略奪を行おうなどということにはならんと思う。耕作や養殖やといった試みの方に、頭を振り向けると思うぞ」
その意見に対しカチャが異を唱えた。こめかみを親指で押しながら。
「ルベーノさん、部族が部族としてのやり方を変えてそれが定着するまでには、相当な時間がいりますよ。うちの部族が人間の首狩りを止めたのは祖父母の代のことですけど、『人の首を狩るのは駄目』ってことが完全に常識として定着したのはつい最近、私の代になってからですからね?」
「とするとお前は、撤去した方がいいと?」
「いいえ、違います。私の意見は現状維持です。マゴイさん、こちらの方々に、柱がどういうものかすでに説明してしまってるんですよね?」
『……ええ……』
「じゃあ、もうこのままにしておくしかないと私は思います。今回同様ユニオンの遺物で被害を受けた浜の部族には簡易住宅を残したのに、こちらの部族には何も残さないって、それはかなりまずいでしょう。隣部族同士で後々揉める種になりますよ」
辺境の民であり部族社会の子である彼女の意見は、最も俗っぽかった。
とはいえ人情的に考えたら、確かにそういうことも起こり得るかもしれない。
咳払いしたルベーノは、マゴイに話をふり直す。
「偶の大型の襲来はこの村とハンターの交流になる、問題あるまい。ところでμ、今のところユニゾンに目立った歪虚が出た事例はほぼないと思うが、どうだ。仮想シミュレーションばかりでは戦士の腕が鈍るだろう。リザードマン集落の戦士と、ソルジャーが年1~2回合同戦闘訓練の交流をするのは」
その提案にマゴイは、困惑を示す。
『……それは……ユニオン法で禁じられている……『他国との軍事行動』に……抵触する可能性が高いので……出来ない……』
これはルベーノの言葉選びが悪かった。合同防災訓練とでも言った方が良かったかもしれない。
とにかく、以上で意見は出尽くした。
それによって結論を出したマゴイは、ハンターたちと共に、奥地部族の集落へと向かう。
ハンターが見守る中マゴイは、奥地リザードマン部族の民に言った。
『……あの柱は……機能が生きている限り……現状維持することとなりました………ユニゾンが定期点検を行い……もし何らか不具合が出たりすることがあれば……周囲の安全を鑑み……即時撤去作業に着手…………剥落による事故、又は倒壊による事故を防ぐため……柱を中心にした半径200メートルの土地を立ち入り制限区域に指定……なお安全管理のプランにつきましては……同盟に属する公的団体並びに……私的営利団体と協議する方向性……ということでユニオン法に基づき……まずは当地に……柱の監視施設を設置することを希望いたします……そのための契約をすることに同意していただけるかしら……? 』
回りくどい説明だが、柱がそのまま維持されるということは十二分に伝わったらしい。部族の長が上下のまぶたを近づけ、喉からくっくという音を出す。
「アリガタキコトカナ。同意イタシマショウ、白イ精霊」
それを受けてマゴイは、うれしそうに微笑んだ。
『……近いうちに……施設建設のため……ワーカーを連れてくるわ……』
●未来との交流
浜の集落。
尻尾とお尻をふりふりしながら砂浜を歩くのは、リザードマンの赤ちゃんたち。目は真っ黒で大きくて、高い声でピイと鳴く。まるで、鳥の雛みたい。
「はぅう! かわいいのぉ! うろこが、うろこがやわやわなのぉ!」
「わぁぁぁぁ、可愛い、可愛いです、来てほんとに良かったのです」
アルスとルンルンは目をキラキラさせて、赤ちゃんほっぺを揉む。
舞もまた、動く赤ちゃんたちの可愛さにメロメロだ。
「妹の写真を見たけどやっぱり実物の方が可愛いな♪」
と目尻を下げ、パルムぬいぐるみをプレゼント。
「ほーら、友達だぞ」
赤ん坊たちはぬいぐるみの匂いを嗅いだ。口に入れて思い切り振り回した。パルムの表面が破れ、綿が飛び出す――プレゼントは、もっと丈夫なものの方がよかったようだ。
マルカはポートレイト『ジルボ』をかざし、再度の布教活動を試みる。
「ほーらほーら、ジルボさんですよー」
しかし赤ん坊たちは前回より、はるかに動きが活発になっていた。片時もじっとしていない。ちょこちょこ逃げてしまう。
ユメリアは、世話役のリザードマン達に聞いた。
「子供たちのお世話は、あなたがたがなさる決まりなのですか?」
「イイヤ、我ラダケデハナイ。大人ハ皆ヤル」
「当番デ、皆ガ順番ニヤルノダ」
「男女ともに、ですか?」
「当然ソウダガ」
子供は特定の親が育てるのではなく、群れが育てるという意識のようだ。男女の役割分担という発想も彼らには、あまりないらしい。
タムタムと小気味いい音が響き始めた。世話役が膝上に乗せた小太鼓を叩き始めたのだ。
どうやら、あやしの一環らしい。赤ん坊たちは軽快なリズムに併せ体を揺らす。
ユメリアがリュートで、アルスがオカリナで、舞が三味線で、セッションを始めた。
それに合わせて撥ね、声をあげ、踊りだす赤ん坊たち。舞も足踏みし、一緒に踊る。
「おっ、みんな、なかなかリズム感いいじゃん」
マゴイもそれらの光景を前に、体を揺らしていた。明らかにテンポがずれているが、まあ、とにかく楽しそうだ。
白い日傘の縁飾りも、動きに合わせて一緒に揺れる。
『……音楽は……幼児期の情操教育に……よい効果を現す……』
ルベーノは傘の下に入り、マゴイに囁いた。
「交流が続けば、あの村落からもワーカー志望者は出よう。もっと頻繁に訪っても良いと思うぞ」
リオンはあまり赤ん坊をかまわず、カチャと話をしている。
「――ええっ! エルさん私の家に来た後、リナリスさんの実家まで行ったんですか?」
「ええ。罰として遠方であっても徒歩で行かされたので、謝罪行脚が終わった後はしばらく脚が痛くて大変でした。さすがに今回は両親も怒っていましたから、従うしかありませんでしたが」
そこへハナが声をかける。どでかいウォータージャグから紙コップに、冷えた紅茶を注ぎながら。
「それはご苦労様でしたねぇ。どうです、暑気冷ましに一杯。皆さんもいかがですかぁ? ヨーグルトとブルーベリーのゼリーも持ってきてますんでぇ」
クーラーボックスから取り出されたゼリーが、ぷるんと揺れる。
食べ物の匂いを感じたか、赤ちゃんたちはこぞって寄ってきた。
アルスは持ち込んできた蜂蜜を、リザードマンと仲間たちに提供する。
「よかったら、どーぞ。これをお茶に入れると、甘くておいしいよ。ゼリーにかけてもいけるんにゃ」
リザードマンたちはそうしたものを、随分珍しがった。この地において甘味といえば、自然物の形でしか存在しないので。
お礼にというのか、赤と黄色がまだらになったプチトマト風の果物を出してくる。
「コレ、火ノ実。ウマイゾ」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
直後マルカは火を吹いた。ものすごく辛かったのだ。
それを見たハナは重々注意しつつ、ほんのちょっぴり実を齧る。トウガラシとコショウを合わせ倍加したスパイシーさだ。
痺れた舌を癒すため、蜂蜜茶をがぶ飲みする。
「こうやって会えるからこその文化交流ですよぅ」
柱は全ての歪虚を防げない。だから、戦士の必要性がなくなるわけではない。変化が起きるにしてもカチャが言うように、時間をかけてのことだろう。
ユメリアはひそかに願う。
(その未来をこの子たちが、見ることが出来ますように)
マゴイの求めに応じ集まったハンターたち――カチャ、天竜寺 舞(ka0377)、エルバッハ・リオン(ka2434)、マルカ・アニチキン(ka2542)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)、星野 ハナ(ka5852)、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)、ルベーノ・バルバライン(ka6752)、ユメリア(ka7010)が案内されたのは、外部者宿泊所の一室に急遽しつらえられた、簡易臨時会議場。
中央に長方形のテーブル。
席にはそれぞれの名前を書いた札が置いてある。
皆はそれに従って席に着いた。
そこにマゴイが入ってきて、もたもた話し始める
『……このたびは……オブザーバーとしてお集まりいただき……ありがとうございます……それでは順番に意見を述べてください……』
ハナがさっと手を挙げた。
「えーとぉ、やっぱり現地で現物確認しないと判断が難しいと思うのでぇ、見せて貰える範囲で近づいて確認しても良いですぅ?」
ユメリアも彼女に続き、手を挙げる。
「私も、可能なら遺物を直に拝見したいのですが……」
マゴイは彼女らの提案についてしばし黙考した。
そして、かまわないだろうと結論づけた。
『……それでは皆さん……転移扉まで移動を……』
●柱を前にして
濃度の高い青空から、目眩を覚えるような強い日差しが降り注ぐ。
ここは砂漠。
そびえる柱は相変わらず、地に対してやや斜め。ハンターたちと英霊は、その傍に集まり話し合い。
マゴイがユニゾン以外の場所を気にかけるなんて珍しい。思いながら舞は、腕を組んで頭をひねる。
「で、要は問題の遺物を撤去するかしないかって事だよね?」
白い日傘を持ったマゴイは、そのとおり、と頷いた。
『……今すぐにそうするか……それとも後にそうするか……』
「んー……リザードマンの集落周辺に現れる歪虚は彼ら自身で対処出来る物がほとんどで、妹に聞いたダンゴムシみたいのはこないだが初めてだったんでしょ?」
『……ええ……』
舞が危惧するのは、装置に頼ることでリザードマンたちが、種族としての強さを失ってしまうのではないかということ。そうなってしまえば、大型歪虚が再び現れたとき、今回のように素早く対処出来ないかも知れない。下手したら全滅も有り得る。
「彼らには戦士として戦う者達がいるみたいじゃない? なら普段現れるような歪虚はむしろ実戦の訓練を積むいい機会でもあると思う。だからあたしは大型歪虚が現れた時早急にユニゾンなりオフィスなりに連絡を取れる体制を伴った上で装置は撤去した方がいいと思う。彼らが彼らであり続ける為に」
ルンルンもまた撤去を推す。気ぜわしげに柱を見上げて。
「元々ここにあったものでないなら、無くてもリザードマンさん達の生活は変わらない気がして、逆に50年後まで撤去せずにそこにあったら、今度はそれがある状態が新しい世代のリザードマンさん達には当たり前になっちゃう。その方が生活に影響でるんじゃないかなぁって思うからっ!」
魔術師協会に提供する資料写真撮影のため、マジックフライトで飛び回っていたマルカが降りてきた。
砂塵用マスクごしに述べるのは、以下の意見。
「50年後もマゴイさん達は生きてるので、撤去作業をやっていただけると思いますが……歪虚排除機能は継続できても、老朽化の影響で壁が剥がれ落ちてリザードマンたちに事故が起きてしまうかもしれません。歪虚を現地のリザードマンと私たちが対処することは難しくはないかと思います。なので、撤去できる時にした方がいいかなと」
ルンルンが再び言った。
「そうそう、50年の間に部分的に壊れる危険が無いともいえないでしょ? 舞さんが言うように、柱を撤去した後だって、マゴイさんに連絡する手段も残しておけばいいと思うし」
リオンもまた、おおむね彼女らと変わらぬ立場。
「このままであれば50年は持つといっても、歪虚との戦闘で破壊される可能性があります。現状では補修が不可能である以上、破壊されてしまえば使用できなくなる装置に頼るのは危険ではないかと思います。とはいえ装置を解体すれば、小型や中型の歪虚が増加することが考えられますので、周辺地域の歪虚の駆逐や防衛体制の再構築などもあわせて行う必要があるかと」
そこでハナが反対意見を述べた。
「私は現状維持派ですぅ。だって中型歪虚を倒すって言ってもぉ、これの稼働区域ってどのくらいですぅ? この近辺のリザードマン集落全部を守備範囲にしてるわけでもないですよねぇ?」
『……ええ……残念ながら……これはあくまでもシステムの一部でしかないから……付近一帯をカバーすることは出来ない……』
「なら、リザードマンがこの装置に頼り切ることは出来ないわけですねぇ。であればこれによって彼らの力が弱まるということはないと思いますぅ。少しくらい歪虚の出現率を下げてぇ、リザードマンの戦士さんが少しでも狩猟に集中できる方が集落が栄えていいと思うんですぅ」
彼らだけでは対処出来ないような大型が出た時は、ユニゾンのソルジャーやハンターに連絡するようにすればよい。お互いの交流が進むのは素敵なことだ、とハナは締めくくる。
『……交流……』
マゴイが考えこむような素振りをした。
アルスはそんな彼女に、えへへと笑いかけた。悩んでくれるのはいいことだと思って。
「あたしも、維持のほうかなぁって思うの。ねえマゴイちゃん、遺物は劣化してるってお話なんだけど、再利用できる技術あるのかにゃぁ?」
『……あるわ……分解して……建築資材用の無機ペレットにする技術が……』
「そうなんにゃ、それならいいけど……でも、さっきマルカちゃんたちが話してたように、予定より前に不具合だったり、予期しないトラブルが起きちゃう可能性はない?」
『……それは可能性として……否定出来ない……』
「じゃあ、定期点検視察して、場合によっては解体を前倒しにするってどうかな? ハンターオフィスとか、魔術師協会さんたちとかの手も借りればいいと思うにゃん。いまも小型や雑魔が来てるなら、即解体じゃなくて段階的にしてくことをご提案するにゃ。遺物だけじゃなく周辺の調査もしっかりしてからなのかにゃぁって思ったのね」
ユメリアは柱が持つ実際的機能だけでなく、シンボルとしての意味合いもまた指摘する。
「リサイクルも悪くありません。今必要なものに変えて使うのも立派な知恵ですし、これに頼って生きることでリザードマンの強さを奪ってしまうことも考えられます。ですが、この遺物もはるか異世界にて目的があって作られ、そして奇遇にもここにやってきた。ある種の異邦人だと思うのです。遥かなる世界へ想いを寄せる貴重な手掛かりになるかもしれません。未来は子供の知恵と勇気に任せて、彼らに先人の知恵を伝えられるように残しては、と思うのです」
その言葉に何か思うところがあったろうか、マゴイはふと柱を見上げ、懐かしそうに呟いた。
『……ユニオンは、とてもよいところだった……』
ルベーノが周囲を見回し、言う。
「俺は50年の平和を推す。現状維持が望ましいと思う――理由は、まあ、大体ハナが言った通りだ。巨大歪虚出現の際は、村落を越え協力しあえたリザードマンたちのことだ。脅威が一部取り除かれたことで人口が増えたとしても、他村落からの略奪を行おうなどということにはならんと思う。耕作や養殖やといった試みの方に、頭を振り向けると思うぞ」
その意見に対しカチャが異を唱えた。こめかみを親指で押しながら。
「ルベーノさん、部族が部族としてのやり方を変えてそれが定着するまでには、相当な時間がいりますよ。うちの部族が人間の首狩りを止めたのは祖父母の代のことですけど、『人の首を狩るのは駄目』ってことが完全に常識として定着したのはつい最近、私の代になってからですからね?」
「とするとお前は、撤去した方がいいと?」
「いいえ、違います。私の意見は現状維持です。マゴイさん、こちらの方々に、柱がどういうものかすでに説明してしまってるんですよね?」
『……ええ……』
「じゃあ、もうこのままにしておくしかないと私は思います。今回同様ユニオンの遺物で被害を受けた浜の部族には簡易住宅を残したのに、こちらの部族には何も残さないって、それはかなりまずいでしょう。隣部族同士で後々揉める種になりますよ」
辺境の民であり部族社会の子である彼女の意見は、最も俗っぽかった。
とはいえ人情的に考えたら、確かにそういうことも起こり得るかもしれない。
咳払いしたルベーノは、マゴイに話をふり直す。
「偶の大型の襲来はこの村とハンターの交流になる、問題あるまい。ところでμ、今のところユニゾンに目立った歪虚が出た事例はほぼないと思うが、どうだ。仮想シミュレーションばかりでは戦士の腕が鈍るだろう。リザードマン集落の戦士と、ソルジャーが年1~2回合同戦闘訓練の交流をするのは」
その提案にマゴイは、困惑を示す。
『……それは……ユニオン法で禁じられている……『他国との軍事行動』に……抵触する可能性が高いので……出来ない……』
これはルベーノの言葉選びが悪かった。合同防災訓練とでも言った方が良かったかもしれない。
とにかく、以上で意見は出尽くした。
それによって結論を出したマゴイは、ハンターたちと共に、奥地部族の集落へと向かう。
ハンターが見守る中マゴイは、奥地リザードマン部族の民に言った。
『……あの柱は……機能が生きている限り……現状維持することとなりました………ユニゾンが定期点検を行い……もし何らか不具合が出たりすることがあれば……周囲の安全を鑑み……即時撤去作業に着手…………剥落による事故、又は倒壊による事故を防ぐため……柱を中心にした半径200メートルの土地を立ち入り制限区域に指定……なお安全管理のプランにつきましては……同盟に属する公的団体並びに……私的営利団体と協議する方向性……ということでユニオン法に基づき……まずは当地に……柱の監視施設を設置することを希望いたします……そのための契約をすることに同意していただけるかしら……? 』
回りくどい説明だが、柱がそのまま維持されるということは十二分に伝わったらしい。部族の長が上下のまぶたを近づけ、喉からくっくという音を出す。
「アリガタキコトカナ。同意イタシマショウ、白イ精霊」
それを受けてマゴイは、うれしそうに微笑んだ。
『……近いうちに……施設建設のため……ワーカーを連れてくるわ……』
●未来との交流
浜の集落。
尻尾とお尻をふりふりしながら砂浜を歩くのは、リザードマンの赤ちゃんたち。目は真っ黒で大きくて、高い声でピイと鳴く。まるで、鳥の雛みたい。
「はぅう! かわいいのぉ! うろこが、うろこがやわやわなのぉ!」
「わぁぁぁぁ、可愛い、可愛いです、来てほんとに良かったのです」
アルスとルンルンは目をキラキラさせて、赤ちゃんほっぺを揉む。
舞もまた、動く赤ちゃんたちの可愛さにメロメロだ。
「妹の写真を見たけどやっぱり実物の方が可愛いな♪」
と目尻を下げ、パルムぬいぐるみをプレゼント。
「ほーら、友達だぞ」
赤ん坊たちはぬいぐるみの匂いを嗅いだ。口に入れて思い切り振り回した。パルムの表面が破れ、綿が飛び出す――プレゼントは、もっと丈夫なものの方がよかったようだ。
マルカはポートレイト『ジルボ』をかざし、再度の布教活動を試みる。
「ほーらほーら、ジルボさんですよー」
しかし赤ん坊たちは前回より、はるかに動きが活発になっていた。片時もじっとしていない。ちょこちょこ逃げてしまう。
ユメリアは、世話役のリザードマン達に聞いた。
「子供たちのお世話は、あなたがたがなさる決まりなのですか?」
「イイヤ、我ラダケデハナイ。大人ハ皆ヤル」
「当番デ、皆ガ順番ニヤルノダ」
「男女ともに、ですか?」
「当然ソウダガ」
子供は特定の親が育てるのではなく、群れが育てるという意識のようだ。男女の役割分担という発想も彼らには、あまりないらしい。
タムタムと小気味いい音が響き始めた。世話役が膝上に乗せた小太鼓を叩き始めたのだ。
どうやら、あやしの一環らしい。赤ん坊たちは軽快なリズムに併せ体を揺らす。
ユメリアがリュートで、アルスがオカリナで、舞が三味線で、セッションを始めた。
それに合わせて撥ね、声をあげ、踊りだす赤ん坊たち。舞も足踏みし、一緒に踊る。
「おっ、みんな、なかなかリズム感いいじゃん」
マゴイもそれらの光景を前に、体を揺らしていた。明らかにテンポがずれているが、まあ、とにかく楽しそうだ。
白い日傘の縁飾りも、動きに合わせて一緒に揺れる。
『……音楽は……幼児期の情操教育に……よい効果を現す……』
ルベーノは傘の下に入り、マゴイに囁いた。
「交流が続けば、あの村落からもワーカー志望者は出よう。もっと頻繁に訪っても良いと思うぞ」
リオンはあまり赤ん坊をかまわず、カチャと話をしている。
「――ええっ! エルさん私の家に来た後、リナリスさんの実家まで行ったんですか?」
「ええ。罰として遠方であっても徒歩で行かされたので、謝罪行脚が終わった後はしばらく脚が痛くて大変でした。さすがに今回は両親も怒っていましたから、従うしかありませんでしたが」
そこへハナが声をかける。どでかいウォータージャグから紙コップに、冷えた紅茶を注ぎながら。
「それはご苦労様でしたねぇ。どうです、暑気冷ましに一杯。皆さんもいかがですかぁ? ヨーグルトとブルーベリーのゼリーも持ってきてますんでぇ」
クーラーボックスから取り出されたゼリーが、ぷるんと揺れる。
食べ物の匂いを感じたか、赤ちゃんたちはこぞって寄ってきた。
アルスは持ち込んできた蜂蜜を、リザードマンと仲間たちに提供する。
「よかったら、どーぞ。これをお茶に入れると、甘くておいしいよ。ゼリーにかけてもいけるんにゃ」
リザードマンたちはそうしたものを、随分珍しがった。この地において甘味といえば、自然物の形でしか存在しないので。
お礼にというのか、赤と黄色がまだらになったプチトマト風の果物を出してくる。
「コレ、火ノ実。ウマイゾ」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
直後マルカは火を吹いた。ものすごく辛かったのだ。
それを見たハナは重々注意しつつ、ほんのちょっぴり実を齧る。トウガラシとコショウを合わせ倍加したスパイシーさだ。
痺れた舌を癒すため、蜂蜜茶をがぶ飲みする。
「こうやって会えるからこその文化交流ですよぅ」
柱は全ての歪虚を防げない。だから、戦士の必要性がなくなるわけではない。変化が起きるにしてもカチャが言うように、時間をかけてのことだろう。
ユメリアはひそかに願う。
(その未来をこの子たちが、見ることが出来ますように)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/12 22:46:18 |
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質問卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/05/11 20:38:02 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/05/12 22:56:03 |