ゲスト
(ka0000)
【王戦】空、迎えるモノ
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/09 19:00
- 完成日
- 2019/05/19 20:21
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●それを見たとき
王都のハンターオフィスで仕事をしていた職員は、外から聞こえる声に驚いて外に飛び出した。
外は暗かった。
空を見上げると、太陽を遮るように黒いものが見えた。ぽっかりと浮かぶそれは穴なのか、光を吸収する物体なのか、見ているだけではわからなかった。
「何、あれ……」
職員は息をのんだ。目にした現実の違和感さで体は震える。
「こっちに来ているの?」
動きは緩慢に見えるし、それがどこの高さ、どこを飛んでいるのかよくわからない。ただ、影は王都に落ちる。
周囲では呆然と立ちすくす人や、恐怖に震える人、涙をながす人がいる。
彼女も恐怖に飲まれていた。依頼を受けて歪虚に立ち向かっているハンターたちがいることが脳裏によぎる。
「そうだね! 動かないと!」
職員は自分の頬を両手で張った。その音は思いのほか響いた。
「いっったああい」
近くの人が呆然としていた視線を職員に向けた。そして、その様子を見て、泣き出しそうだが笑い始める人もいた。
「何をやっているんだい」
「す、すみません」
「頬真っ赤だよ?」
職員は自分ではたいたから赤い上に、恥ずかしさで赤くなる。
「あんたが言うように、動かないとだね。歪虚に支配されたくはないって……残った商人は危険も込みで残ったんだ!」
その人物は商人だったらしい。
「嬢ちゃん、またな!」
「はい! お互いに頑張りましょう!」
立ち去る商人が手を上げて了解を示したのを見て、職員はオフィスに入る。自然と笑みが浮かんだ。
独りではないのだ、戦っているのは。怖くても先に進むのに必要なこと、できることをしないとならない。
「ここで働かないと、あたしがまとめないと誰がまとめるのよ!」
一方で、戦えない不安はある。ハンターに頼りきりでいいのかという悩みはある。
「結局……ううん、あたしの仕事は……依頼を出して、情報をまとめて、できる限りハンターの負担を減らすことだね」
職員は笑った。他の職員は彼女の笑いに驚きもしたが、心は同じだと笑みの連鎖が起こった。
●依頼はあるけど、情報はない
受け取った依頼の原本をもとに、ハンターに提示する依頼を仕立てる。
「うーん、情報が皆無ってことだよ」
笑顔で言うが、沈みたくなる。
「とりあえず、大陸に近づいてもらって、どういう雰囲気か、見てもらうことが重要なんだよね?」
位置が位置なため、地上からの捜索には限りがある。大きさが測れたとしても、浮遊大陸の上に何があるのか、どういう構成になっているのか等がわからなければ今後の行動はとれない。
「真っ黒に見えて、実は、ゴ……がたくさんついている状況かもしれないし」
「気持ち悪い状況考えるのやめてくれませんか!」
職員の独り言に近くで作業していた別の人がツッコミを入れた。
「ごめんなさい。でもそういうことですよね?」
思わず敬語で依頼の確認をしてしまう。
「私も情報もらってないですし、あなたが言っていることは間違っていません。ただ、気持ち悪い発想はやめてくださいね」
「はい……」
ただ、会話をするとどこか安心する。
「飛べることが重要。距離が百メートル以上たくさんまで」
地上の地形も考えると、差はある。高度は下りてきている感覚はあるが、簡単に行きつくか不明だ。
「厚みもあるのかな……黒くてよくわからない……皿のような形状なのか、たわしのような形なのか……わからない……ん? たわしのような形って何だろう……」
依頼をまとめつつ職員は自分の発想に首をひねる。
「自分でまとめておいて何を言っているんです! まあ、つまり、皿は平たい、たわしはこんもりと楕円形……と言いたいのではないのですか?」
「ありがとうございます」
独り言につっこみを入れてくれた同輩に職員は思わず深々お辞儀をした。
「こんな感じかな……」
依頼をまとめた物を掲示板に流し込む。
「何もわかっていないから……だから、近づいてもらう、そして、何があるのか見てもらう……ということよね」
近づいてもらうにはどこがいいのかは何か所かしるしをつける。
「この街が良いみたいですよね……ユニット輸送も転移門でできますし」
その街であれば、近くに小高い丘もあり、浮遊大陸との距離は近くなるはずだ。
また、その町の近くは平原も広がっている。上からものが降ってきた場合を考えると被害が出てしまう。
「そんなこと考えている場合じゃないし、避難してもらうべきなんですよね……あ、避難してる」
職員は情報を記す。怖いから逃げるに決まっているかと職員は改めて考えた。
「これでいいかな……」
溜息を洩らした。
●黒い黒い、そこ
浮遊大陸は下から見ても上から見ても暗い、闇の中である。
それは空飛ぶ鳥ならば見る事は可能かもしれない。
しかし、鳥は息をひそめて近づかない。負のマテリアルを感じるから、攻撃を受ける可能性を感じるからかは不明だ。
鳥は自然を生きる。
それだからこそ近づかない。
たとえ、そこに居心地の良い樹木があっても、行かない。そのようなものがあるかなど、黒い世界では見えないだろう。
それは、あるだけで恐怖だから、鳥は近づかない。
王都のハンターオフィスで仕事をしていた職員は、外から聞こえる声に驚いて外に飛び出した。
外は暗かった。
空を見上げると、太陽を遮るように黒いものが見えた。ぽっかりと浮かぶそれは穴なのか、光を吸収する物体なのか、見ているだけではわからなかった。
「何、あれ……」
職員は息をのんだ。目にした現実の違和感さで体は震える。
「こっちに来ているの?」
動きは緩慢に見えるし、それがどこの高さ、どこを飛んでいるのかよくわからない。ただ、影は王都に落ちる。
周囲では呆然と立ちすくす人や、恐怖に震える人、涙をながす人がいる。
彼女も恐怖に飲まれていた。依頼を受けて歪虚に立ち向かっているハンターたちがいることが脳裏によぎる。
「そうだね! 動かないと!」
職員は自分の頬を両手で張った。その音は思いのほか響いた。
「いっったああい」
近くの人が呆然としていた視線を職員に向けた。そして、その様子を見て、泣き出しそうだが笑い始める人もいた。
「何をやっているんだい」
「す、すみません」
「頬真っ赤だよ?」
職員は自分ではたいたから赤い上に、恥ずかしさで赤くなる。
「あんたが言うように、動かないとだね。歪虚に支配されたくはないって……残った商人は危険も込みで残ったんだ!」
その人物は商人だったらしい。
「嬢ちゃん、またな!」
「はい! お互いに頑張りましょう!」
立ち去る商人が手を上げて了解を示したのを見て、職員はオフィスに入る。自然と笑みが浮かんだ。
独りではないのだ、戦っているのは。怖くても先に進むのに必要なこと、できることをしないとならない。
「ここで働かないと、あたしがまとめないと誰がまとめるのよ!」
一方で、戦えない不安はある。ハンターに頼りきりでいいのかという悩みはある。
「結局……ううん、あたしの仕事は……依頼を出して、情報をまとめて、できる限りハンターの負担を減らすことだね」
職員は笑った。他の職員は彼女の笑いに驚きもしたが、心は同じだと笑みの連鎖が起こった。
●依頼はあるけど、情報はない
受け取った依頼の原本をもとに、ハンターに提示する依頼を仕立てる。
「うーん、情報が皆無ってことだよ」
笑顔で言うが、沈みたくなる。
「とりあえず、大陸に近づいてもらって、どういう雰囲気か、見てもらうことが重要なんだよね?」
位置が位置なため、地上からの捜索には限りがある。大きさが測れたとしても、浮遊大陸の上に何があるのか、どういう構成になっているのか等がわからなければ今後の行動はとれない。
「真っ黒に見えて、実は、ゴ……がたくさんついている状況かもしれないし」
「気持ち悪い状況考えるのやめてくれませんか!」
職員の独り言に近くで作業していた別の人がツッコミを入れた。
「ごめんなさい。でもそういうことですよね?」
思わず敬語で依頼の確認をしてしまう。
「私も情報もらってないですし、あなたが言っていることは間違っていません。ただ、気持ち悪い発想はやめてくださいね」
「はい……」
ただ、会話をするとどこか安心する。
「飛べることが重要。距離が百メートル以上たくさんまで」
地上の地形も考えると、差はある。高度は下りてきている感覚はあるが、簡単に行きつくか不明だ。
「厚みもあるのかな……黒くてよくわからない……皿のような形状なのか、たわしのような形なのか……わからない……ん? たわしのような形って何だろう……」
依頼をまとめつつ職員は自分の発想に首をひねる。
「自分でまとめておいて何を言っているんです! まあ、つまり、皿は平たい、たわしはこんもりと楕円形……と言いたいのではないのですか?」
「ありがとうございます」
独り言につっこみを入れてくれた同輩に職員は思わず深々お辞儀をした。
「こんな感じかな……」
依頼をまとめた物を掲示板に流し込む。
「何もわかっていないから……だから、近づいてもらう、そして、何があるのか見てもらう……ということよね」
近づいてもらうにはどこがいいのかは何か所かしるしをつける。
「この街が良いみたいですよね……ユニット輸送も転移門でできますし」
その街であれば、近くに小高い丘もあり、浮遊大陸との距離は近くなるはずだ。
また、その町の近くは平原も広がっている。上からものが降ってきた場合を考えると被害が出てしまう。
「そんなこと考えている場合じゃないし、避難してもらうべきなんですよね……あ、避難してる」
職員は情報を記す。怖いから逃げるに決まっているかと職員は改めて考えた。
「これでいいかな……」
溜息を洩らした。
●黒い黒い、そこ
浮遊大陸は下から見ても上から見ても暗い、闇の中である。
それは空飛ぶ鳥ならば見る事は可能かもしれない。
しかし、鳥は息をひそめて近づかない。負のマテリアルを感じるから、攻撃を受ける可能性を感じるからかは不明だ。
鳥は自然を生きる。
それだからこそ近づかない。
たとえ、そこに居心地の良い樹木があっても、行かない。そのようなものがあるかなど、黒い世界では見えないだろう。
それは、あるだけで恐怖だから、鳥は近づかない。
リプレイ本文
●地上
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は空を見上げる。
「現在の高度や速度、大きさなど……計算できないものか?」
現在もほしいところだがおおよそでしかわからない。
地上は混乱していることもあり、計算するために必要な目標物等も判断が難しい。
結局、調査の際に把握して計算するしかないようだった。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は浮遊大陸にロマンを感じる一方で傲慢の拠点と考えげんなりしている。
「あの大きさじゃ、撃墜は難しいか」
浮いている原理、大きさ、素材等一切わからない。
調査のために星神器ヴァサヴィ・シャクティの力【兵主神】で、敵の攻撃を数回無効化にするものを起動させる。
「何があるかわからない……どうなるかわからない」
未知の場に向かうのだから万全を期す。
そして、出発前に依頼に関わるハンターたちは意見をすり合わせる。
状況が不明瞭な部分しかないため、個々の考えと行動にすることになる。ただし、なるべく連絡が取れるようにすることや撤退のタイミングだけは決めておく。
空の上であるため、逃げる際、飛行スキルが必須だ。もし、スキルがない、ユニットが飛べない状況となれば、死が目前となろう。
だからこそ、撤退する決断も重要だった。
なお、ルカ(ka0962)は飛行中、敵の目くらましになるようにと空に溶け込めるように自身やペガサスの白縹に簡単に迷彩を施していた。仲間にも提言はする。
「班分けがないのでしたら……私は最短で登り、そこで大陸の縁から調査のつもりです」
自身の行動の宣言は、互いの行動の位置づけのためだった。
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)はここに来るまでの人々の様子を見て来て、思うところがあった。
(皆、冗談だのバカなことを言い合ったりして、己を振るい立たせている……。それが皆にとっての活力になるなら、私たちがこれから行うこともまた、誰かにとっての力となるべきなのだろう。誰もが己ができることをやっているのだから、私もそうするまで)
ツィスカは覚悟を決め、自分がすべきことを考えた。
職員が出発のタイミングだと声をかけた。
●空へ
ソナ(ka1352)はワイバーンのLaochanに乗り、空に舞った。ワイバーンの翼は強く、速い。
「まず、目指すのは底の中央です」
大陸の形状は全体が黒いため、地上からだとわかりづらい。もし、厚みがあり底があるような形状ならば、そこに出入口はないか確認したかった。
ソナは飛行中、先日あったことを思い出していた。
「この前の歪虚が話していた神と何か関係があるのでしょうか?」
ソナはとある領主の依頼を受け町の警戒に行った際、遭遇した歪虚は神を求め、結果的に傲慢王イヴにそれを重ねたようだった。
「麗しき神とか、イヴ様と言っていました。この大陸と関連あるのでしょうか」
目の前に迫ってくる黒い浮遊大陸は、そのような存在がいる可能性がある場所なのだ。
「……近づくにつれて、重くなってくる気がします」
ソナは精神的な圧迫を感じるようになってきた。
大陸の側面や底は下にとがった円錐のように見えた。それに加え、樹木を植え替えるの際の根を取り巻く土のようでもあった。
たとえ、土を思い起こさせても、生命の息吹は感じない。
ただの空虚であり闇である。
時空のほころびの側に行ったとき、覚醒者ではない子らは怯え立ち尽くしていたことが思い起こされた。
「負のマテリアルが強いということは……ほころびでもあったような恐怖などもあり得るのでしょうか? 精神への異常に注意は必要ですね」
底の中心と思われる所にたどり着くと、頭上から負のマテリアルがのしかかる。
試しに【祓奏】を用いる。浄化できるできないではなく、揺らぐものがないかと考えた。
闇は揺らがない。
目視しても、再度試しても特に反応はなかった。仲間と合流すべく、底に沿うように上に向かうのだった。
シン(ka4968)は最短で飛べると指摘されていたところからペガサスに乗り、飛び立った。
大陸が歪虚絡みであり、どういったものか全くわかっていない。調査もなく敵地と判断はしたくはなかったが、ほぼ敵地だと考え警戒して行動する。
すぐに近づかず、まず大陸の全体像を見たかった。降りる所はどこがいいかなど検討する。
「降りやすいところや目標物はないでしょうか?」
すぐに全体は見えない。さらにペガサスを飛ばし、離れるしかなかった。
双眼鏡を片手に状況を把握しようとする。
太陽の光を浴びるが、その地は暗かった。
黒一色であるが、濃淡は存在する。黒い塵のような物が光を反射する塵のようにみえる。闇であるが煌めいているようだった。
大陸の端の方で流れ落ちるようなものがある。まるで、大陸の上に川があり、地上という下流に向けて落下するようだった。
しかし、水のような流れは途中から徐々に消えている。まるで、無に返るように。
浮遊大陸の陸地は変化に富んだ地形はしているようだった。建造物があるのか、よくわからない。
中央に視線を向けていくが、視線を向け切る前に途中で木々の間から浮き上がるように、物体がやってくるのだった。
「……迎撃態勢があるということですね」
シンは大陸に近づく仲間に合流すべく、ペガサスの高度を下げたのだった。
ルカは雲など隠れられそうなものをうかがいつつ、白縹を操る。
「できるだけ写真は撮っていきたいですね」
ルカは近づくとともに魔導スマートフォンを構える。
黒く見える理由は何か、見張り等はどうなっているのか、少しでも情報を得たかった。
目視しても黒いものが何かよくわからない。ただ、そこから感じるものは、負のマテリアルである。それが大陸を形作り空を浮いているという事実は読み取った。
「用心して近づきたいですが……」
上陸まであと少しとなったころ、視界に何か飛んでくるものが出てきた。数が多いそれらは、音を発している。
「来ます……」
パイロットインカムで近くを飛行しているレイオスに注意を促した。接敵までの時間をとらえ、写真に敵の姿を納めてから、臨戦態勢を整えた。
一方、レイオスは白縹を追うようにグリフォンのセルを操っていた。
「敵がどうくるかとは思っていたが……結構賑やかな登場だな」
ルカの忠告の直後には、それらが発する音をとらえた。
「大砲とか、攻城兵器がいきなり出てこないのはましか」
飛んでくるそれらは形状がいくつかある。共通しているのは、重力を感じさせない移動性と音を発しているということだ。
「結局、この音は何を意味しているんだか」
大々的に言われなければよくわからない音に過ぎない。
「曲には聞こえますが……歪虚の流しているものですよね?」
パイロットインカムを通じてルカが返答に「ろくなものじゃないな」とレイオスは応じる。
「レイオスさん、上陸します」
「それをしないと調査できないからな」
「はい……先陣は任せてください」
「期待しているし、こっちの援護も期待してくれよ」
「はい」
ルカは唇を一文字に結ぶ。すでに迫っている敵に【プルガトリオ】を放つ。空中に釘付けにされれば落ちる可能性があるし、そもそも魔法のダメージで消えてくれる可能性だってある。
「白縹、縁の開けたところに降りてください」
ペガサスはいなないた。
それに続くレイオスはルカが抜けた後残る敵を【衝撃波】で散らす。
敵は体当たりのほか、射撃もしくは魔法的な攻撃をしてくる。セルには【ゲイルランパート】を使わせ、ダメージは減らさせる。
「自律兵器だけか?」
レイオスは振り落とされないように眼下に目を向ける。暗い大地に、カルパトスなど攻城兵器なども見え隠れしている。
「ルカ、飛んでくる奴ら以外も気を付けろ」
「はい」
それら攻城兵器を操る者は現状見えないが、攻撃されないとは言い切れなかった。
レイオスはルカが降りたところに着地させる。
そこで、一旦敵を減らしてからそれぞれの行動に移るのだった。
アルトは浮遊大陸から敵が湧き上がるのを見ていた。
「黙って上陸させてくれるわけはないな。この規模だと調査のための調査って感じになりそうだが……できる限りしていかないと」
大陸が進む方向には王都があるはずだ。素早く状況を掴んでいかないと被害が大きくなる。
「現在の高度は……」
ポロウのパウルの飛び方で推測はできる。頑張って飛ぶパウルだが、まだまだ余裕を残している。
「そもそも、これは乗ることができる物質なのだろうか? まあ、一応、降りられているみたいだな」
先行者が集まる敵を引き付けるように、上陸をしている。大陸が乗れる物質かは明確ではなかったため、乗れない危惧も若干あった。
アルトは先行者たちが敵に発見された、大陸との距離までやってきた。
「パウル【隠れるホー】を使って」
小さく喉を鳴らしたパウルはスキルを発動させる。アルト自身は【ナイトカーテン】を用いた。
少しでも見つからないように大陸に近づくための方策。
ツィスカは魔導ヘリコプター「ポルックス」で追う。
ツインローターを回す機械の音は力強い。先行している仲間の状況は連絡で逐次入る。
だからこそ、分析をじっくりできる。仲間の行動を見て、必要なところに向かうことを考える。
「空に来たのは王国各地で見たあれらなのですね……。城を攻める為の武器もあると聞きましたが……」
今のところ攻撃されたという情報は入っていない。しかし、敵側の体制が整えは攻撃を食らう可能性はあるため、ツィスカは用心する。
上陸のために近づくと、やはり音を鳴らした像たちはやってきた。
「敵の出方も気になりますが……」
敵を引き付け状況を見る事も重要だった。警備体制をうかがうことができるから。
「カルパトスなどですぐに攻撃がないのは? いえ、来ましたね……」
仲間が上陸後、しばらくしてから、砲弾なのか岩なのか、何かが飛んできた。
回避行動をとろうとするが、周りに群がる像などもいる為、一発目は食らってしまう。
「私も地上に一旦下りてみたいので……」
【スモークカーテン】を焚き、その場を離れた。
ソナは不安を覚える。
Laochanがいる為心強いはずでも、沿って飛ぶためか負のマテリアルは心身にのしかかる。
「飛ぶ距離がわかれば大きさもわかるはずです」
今わからなくても、どれだけ飛行していたか、記憶はしておく。あとで計算で出せばいい話なのだから。
仲間の連絡が入るようになると心は若干軽くなるし、考えることが見えてくる。
「地下とは逆には何があるのでしょうか……」
浮遊大陸の陸地部分に興味を覚えた。
●上陸
太陽の光が浮遊大陸を照らす。
草が生え、花が咲き乱れる。木陰があり、休息の場を作る。
水が流れ、小川がある。小川の流れを豊かにする岩や石もある。
光を反射する塵もある。
箱庭のような穏やかな世界であり、まるで生き物には楽園と言えそうな姿。
しかし、闇で形作られ、負のマテリアルに満ちた世界である。
ハンターや幻獣たちにはそれが重くのしかかる。呼吸をすれば肺から闇にむしばまれるようだった。
シンは降り立つと魔導スマートフォンで写真を撮る。
今は灯が不要だろう。ただ、奥に行くとどうなるかはわからない。
「状態異常等があれば早く対処はしたほうがいいですね」
状況を確認していく。敵がどこからどう来るかわからないため、用心は怠れない。
「目立つモノ、特徴があるものは目印になりますし」
写真を撮りながらシンはそれらを探す。彼がわからなくとも、誰かが見て何か知っていることもありうる。
空にいたモノは追ってこない。森の中でも音が聞こえる為、ただ互いに位置が分かっていないだけなのだろう。
調査を続けると、音が近づいてきた。
隠れてやり過ごすことも考えられるが、敵を撮影後、逃げるか戦うか選択する必要があった。
「形は色々あり、数が多い……」
この敵をやり過ごし、先に進んだ。別の敵がいる可能性があるため、無理に戦わなかった。
レイオスは降り立つと、音を鳴らすそれらを攻撃した。それが減ったところで、ベースギターをかき鳴らした。
「レッツ・ロックンロール!」
特にスキルは用いない。囮の意味が強いからだ。
「傲慢の本拠地だ。【強制】や【懲罰】には注意だな」
現状集まってくるのは雑魔に過ぎない。どこにどのような敵がいるかはこれから調べるのだ。
注目をある程度集めた後、敵に攻撃を仕掛ける。そのあとは、敵や攻城兵器の確認のため移動していく。
「それにしても、目視できているが、闇の影響はどうあるのか?」
敵が減った瞬間を狙いマテリアル花火を闇に向かって放つ。
マテリアル花火はレイオスの進行方向を飛び、鮮やかな花を咲かせた。花火で明るくなったというだけで、特に闇は揺らがない。マテリアルは吸収されたようにも、空気に溶け込んだようにも見える。
「結局、闇が世界を形作っているだけ?」
触れば質感は伝わるが、闇一色だ。
攻城兵器がある方向に向かうと、何かいると感じた。楽器に替え、かき鳴らし、その上で【アイデアル・ソング】を用いた。こちらに来るのか、それとも警戒してこないのかはわからない。
ルカは縁に留まる。
「体が重いですね……力がそがれているという意味です……」
負のマテリアルに影響だろう。どれだけの力が出せるか見通せない。
「敵がどう出てくるのかがわからないです」
レイオスのかき鳴らした音が聞こえる。そのせいか、ルカを追っていたり、狙ってくる敵は減っていた。
それでもかなりの数がいる。
「こちらにも来ましたね」
飛んできたものは捌くにはやや多い。発煙手榴弾を用い、一旦場所をずらす。巻き込まれなかった敵がルカを追う。その敵たちに対して【プルガトリオ】を放つと、攻撃する。
発煙手榴弾に迷った後来た敵は、一斉ではなかったため、個別に蒼機弓「サクラ」で攻撃していく。
目視できる敵を倒した後、一定の余裕が生まれた。自分が今いるあたり、目にしたことなどマッピングに書き込む。ただし、細かいこと書いている余裕は集まってくる有象無象の敵が許してくれない。
そのあとも、隙をみては自分が進んだあたりをできる限り書き記し、魔導スマートフォンにて写真を撮る。
暫くすると地上を歩くタイプの敵が現れる。亜人や人間に近い何かであった。
ツィスカは魔導ヘリコプターを着地させる際、舞い上がる黒いものにぎょっとする。しかし、周囲の景色が闇一色とはいえ、森の中の開けた場所と言った雰囲気だったため推測を立てられた。
「木の葉や土などが巻き上がる感じですね」
外に出ると負のマテリアルの影響で重い。
「なんでも試してみることは必要ですよね」
【機導浄化術・白虹】と【機導浄化術・浄癒】を使ってみる。負のマテリアルによる汚染は一瞬収まった気がするが、術の効果時間が切れると元に戻った。
「汚染……というより、負のマテリアルの中にいる状態ですね」
行動はできなくはなくとも、ハンターたちに不利である。
ツィスカは周りにあるものを時間が許す限り確認する。
色こそ黒であるが、地面は土であるし、生えているのは草木である。
「魔導ヘリコプターの【キャリーアンカー】で持って帰れそうなものはあるでしょうか?」
岩ではないが、それなりに大きな石があった。サイズといい、苔が生えているような様子から、ここが何か調べるのに、要素は多そうだったため決めた。そして、敵が来ていないうちに、準備をしておく。
●中央へ
アルトは無事着地した。敵がやってきていたため、戦闘を避けるか、否か判断を迫られる。
敵は音も鳴らしているし雑魔だと思われるが、確信はない。調査をすることを優先する。
傲慢の拠点の一つと考えると、【懲罰】を使ってくる可能性が非常に高い。下手に攻撃を仕掛け、自分の攻撃が跳ね返されることは避けたいところだった。
隠れつつ移動できている。警戒されているとはいえ、厳重ではないのが幸いしているのだろう。
木々のような物や岩のような物があるため、遮蔽物として使えた。魔導スマートフォンで写真を撮る。
出来れば兵器等の位置や敵の分布などがわかればよいと考えている。欲張りすぎかもしれないが、状況がわからないのだからあらゆるものに意識を広げておく。対応は臨機応変にするしかない。
移動している土地は緑豊かな大地のようなイメージだが、広がるのは闇一色の世界。木も水も触れれば感触はある。
進んでいくと、暗くなった。
影が落ち、より暗くなった感覚だ。
「……大きな、木か?」
影の様子から推測ではなく確認をとろうと隠れているところから見上げる。
観察は中断する。
視線の先には、騎士のような一団が見える。鎧か自前かわからないが角があるようにも見える。軍用双眼鏡で確認し、魔導スマートフォンで撮影する。
それらは侵入者に気づいていた。騎乗するモノを走らせるもしくは飛ばす。
アルトは仲間に連絡を取った後、パウロとともに離脱を宣言した。
レイオスは兵器がある場所で、歪虚と思われる存在が操っているのを見た。
近くには警戒するかのように亜人や人間の姿も見える。
アナライズデバイスでその兵器を撮ると確認を行った。目の前にあるものは一般的にみられる兵器だった。
「壊せるか確認しないとだな」
セルとともにレイオスは攻撃を仕掛けることになる。敵が来たことに相手はひるんだ。その隙に一気に近づく。
接敵されてしまえば、兵器での攻撃はほぼできない。そのため、その周囲にいるモノたちは武器を構えた。
「こいつは派手な歓迎だな……その熱い歓迎に感謝して俺からのプレゼントだ」
腕輪の力を用い【ソウルエッジ】を強化し、【衝撃波】を放つ。そのあと、セルに【ダウンバースト】を使用させる。
兵器自体は軋みを立てる。すぐに壊れないとしても、壊れる見込みはあった。
ただし、この場にいた敵をどうにかするほうが早かった。
「本拠地だとしてもあっけない?」
別の兵器も稼働しているらしい音が響いているし、奥から音もする。
自分ができる調査を続行しようとしたが、緊急を知らせる連絡が入る。そのため、退路を保つためにルカたちと合流することになる。
ソナは側面から上空に上がったところで、音を鳴らして攻撃してくる浮遊物とでくわした。いたるところに浮遊しているようだ。
「Laochan、あちらに向かってください」
そのまま低空飛行で大地を駆ける。
眼下に広がるのは草地や森と考えれば恐怖は薄れるが、負のマテリアルの塊は気持ちを砕くように這い上がる。ところどころに攻城兵器のようなものも見えるため、写真を出来る限り撮るが、確実に撮れているかは後で確認するしかなかった。
止まれば墜落か、敵からの襲撃を受ける。
「……まさか、本当に木があるのですか?」
底を飛んだ際の形状を考えるとしっくりくる、一本の木を中心に根を覆うための土とその周辺という風情だということが。
しかし、じっくりと考える余裕はもらえなかった。
背後から砲弾のようなものが飛んできたのだ。
Laochanは回避する。
ソナは敵の位置を把握しようと見ていると、ぞわりと闇が動いた気がした。気のせいかもしれないが、森に道があり、悪魔を思わせる一団がいた。それらは武器をそれぞれ持ち、一部のモノが何か投げつけてきた。
Laochanは回避するが、二発目、三発目は食らう。
「きゃあああ」
ソナはLaochanごと落ちる。低空だったことが幸いで意識は保つ。自分とLaochanに【フルリカバー】を掛けた。遮蔽物があったことは幸運だった。
シンは調査を止める。
切迫した状況が一部に生じていると連絡分かったからだ。縁を動くようにしていたルカに合流するようにした。
必要に応じて離脱すべきだが、何かあった場合、まとまっていることも必要だった。そして、敵が来るならば、退路を保つために攻撃はするつもりであった。
●離脱
中央近くにいたソナとアルトがルカたちが縁の方にやってきた。
途中でアルトも攻撃を受けていたが、動けないことはないため、状況を把握して動く。
「ソナさん、先に行ってください」
ルカが盾を構え、しんがりにつく。
「そうですね、私も協力します」
シンは武器を構え、ペガサスの上で待機する。
「すみません!」
ソナが先に離脱を始める。
アルトは唇を一文字に結び、飛ぶことはパウルに任せ、あの騎士のような者が来る場合を考え、武器は抜けるようにしてある。
(どこまで追ってくるのか?)
中央に近いところで遭遇した騎士のような姿をした歪虚たちは、空を移動することができる。自分たちがある程度離れたところまで追ってくる可能性もあった。
しかし、距離が離れてやってきたのは、自律兵器たちだけだった。
徐々にハンターたちは離れていく。
「ルカ、シン、退け」
レイオスが声をかける。
ルカとシンはツィスカの魔導ヘリコプターに速度を合わせ、敵の状況をうかがい撤退する。
ツィスカは魔導ヘリで運べそうなものを【キャリーアンカー】で引っ張り上げていた。大陸から離れるにつれて、それは無に返るかのように消えていく。
「……どういうことなのでしょうか? 大陸に存在するモノは大陸から離れられないのでしょうか?」
歪虚や亜人は離れられるのだから、大陸に付属する物体と線引きするところだろうか。
現に、側面には川から流れた水が落ちていき、途中で消えているのも見える。
「……負のマテリアルで作られているからそこから離れることはない?」
ツィスカは双方の消え方から推測した。
帰還後、それぞれが書いたマップや見たモノ等はハンターオフィスの職員がまとめてくれた。
大陸の大きさはかなりある。中央の巨大な樹木の周囲を取り巻くのはまるで楽園――エデンを想起させるような空間だったこと。
敵は自律兵器が見張りとしていただけであったが、そのあと、亜人や歪虚などイヴに与するモノが現れた。
その上で、中央にはより強い軍があるだろう。
なお、移動速度を考えれば、王都につくのは時間の問題であり、相手方の次の防備がどうなるかは不明だった。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は空を見上げる。
「現在の高度や速度、大きさなど……計算できないものか?」
現在もほしいところだがおおよそでしかわからない。
地上は混乱していることもあり、計算するために必要な目標物等も判断が難しい。
結局、調査の際に把握して計算するしかないようだった。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は浮遊大陸にロマンを感じる一方で傲慢の拠点と考えげんなりしている。
「あの大きさじゃ、撃墜は難しいか」
浮いている原理、大きさ、素材等一切わからない。
調査のために星神器ヴァサヴィ・シャクティの力【兵主神】で、敵の攻撃を数回無効化にするものを起動させる。
「何があるかわからない……どうなるかわからない」
未知の場に向かうのだから万全を期す。
そして、出発前に依頼に関わるハンターたちは意見をすり合わせる。
状況が不明瞭な部分しかないため、個々の考えと行動にすることになる。ただし、なるべく連絡が取れるようにすることや撤退のタイミングだけは決めておく。
空の上であるため、逃げる際、飛行スキルが必須だ。もし、スキルがない、ユニットが飛べない状況となれば、死が目前となろう。
だからこそ、撤退する決断も重要だった。
なお、ルカ(ka0962)は飛行中、敵の目くらましになるようにと空に溶け込めるように自身やペガサスの白縹に簡単に迷彩を施していた。仲間にも提言はする。
「班分けがないのでしたら……私は最短で登り、そこで大陸の縁から調査のつもりです」
自身の行動の宣言は、互いの行動の位置づけのためだった。
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)はここに来るまでの人々の様子を見て来て、思うところがあった。
(皆、冗談だのバカなことを言い合ったりして、己を振るい立たせている……。それが皆にとっての活力になるなら、私たちがこれから行うこともまた、誰かにとっての力となるべきなのだろう。誰もが己ができることをやっているのだから、私もそうするまで)
ツィスカは覚悟を決め、自分がすべきことを考えた。
職員が出発のタイミングだと声をかけた。
●空へ
ソナ(ka1352)はワイバーンのLaochanに乗り、空に舞った。ワイバーンの翼は強く、速い。
「まず、目指すのは底の中央です」
大陸の形状は全体が黒いため、地上からだとわかりづらい。もし、厚みがあり底があるような形状ならば、そこに出入口はないか確認したかった。
ソナは飛行中、先日あったことを思い出していた。
「この前の歪虚が話していた神と何か関係があるのでしょうか?」
ソナはとある領主の依頼を受け町の警戒に行った際、遭遇した歪虚は神を求め、結果的に傲慢王イヴにそれを重ねたようだった。
「麗しき神とか、イヴ様と言っていました。この大陸と関連あるのでしょうか」
目の前に迫ってくる黒い浮遊大陸は、そのような存在がいる可能性がある場所なのだ。
「……近づくにつれて、重くなってくる気がします」
ソナは精神的な圧迫を感じるようになってきた。
大陸の側面や底は下にとがった円錐のように見えた。それに加え、樹木を植え替えるの際の根を取り巻く土のようでもあった。
たとえ、土を思い起こさせても、生命の息吹は感じない。
ただの空虚であり闇である。
時空のほころびの側に行ったとき、覚醒者ではない子らは怯え立ち尽くしていたことが思い起こされた。
「負のマテリアルが強いということは……ほころびでもあったような恐怖などもあり得るのでしょうか? 精神への異常に注意は必要ですね」
底の中心と思われる所にたどり着くと、頭上から負のマテリアルがのしかかる。
試しに【祓奏】を用いる。浄化できるできないではなく、揺らぐものがないかと考えた。
闇は揺らがない。
目視しても、再度試しても特に反応はなかった。仲間と合流すべく、底に沿うように上に向かうのだった。
シン(ka4968)は最短で飛べると指摘されていたところからペガサスに乗り、飛び立った。
大陸が歪虚絡みであり、どういったものか全くわかっていない。調査もなく敵地と判断はしたくはなかったが、ほぼ敵地だと考え警戒して行動する。
すぐに近づかず、まず大陸の全体像を見たかった。降りる所はどこがいいかなど検討する。
「降りやすいところや目標物はないでしょうか?」
すぐに全体は見えない。さらにペガサスを飛ばし、離れるしかなかった。
双眼鏡を片手に状況を把握しようとする。
太陽の光を浴びるが、その地は暗かった。
黒一色であるが、濃淡は存在する。黒い塵のような物が光を反射する塵のようにみえる。闇であるが煌めいているようだった。
大陸の端の方で流れ落ちるようなものがある。まるで、大陸の上に川があり、地上という下流に向けて落下するようだった。
しかし、水のような流れは途中から徐々に消えている。まるで、無に返るように。
浮遊大陸の陸地は変化に富んだ地形はしているようだった。建造物があるのか、よくわからない。
中央に視線を向けていくが、視線を向け切る前に途中で木々の間から浮き上がるように、物体がやってくるのだった。
「……迎撃態勢があるということですね」
シンは大陸に近づく仲間に合流すべく、ペガサスの高度を下げたのだった。
ルカは雲など隠れられそうなものをうかがいつつ、白縹を操る。
「できるだけ写真は撮っていきたいですね」
ルカは近づくとともに魔導スマートフォンを構える。
黒く見える理由は何か、見張り等はどうなっているのか、少しでも情報を得たかった。
目視しても黒いものが何かよくわからない。ただ、そこから感じるものは、負のマテリアルである。それが大陸を形作り空を浮いているという事実は読み取った。
「用心して近づきたいですが……」
上陸まであと少しとなったころ、視界に何か飛んでくるものが出てきた。数が多いそれらは、音を発している。
「来ます……」
パイロットインカムで近くを飛行しているレイオスに注意を促した。接敵までの時間をとらえ、写真に敵の姿を納めてから、臨戦態勢を整えた。
一方、レイオスは白縹を追うようにグリフォンのセルを操っていた。
「敵がどうくるかとは思っていたが……結構賑やかな登場だな」
ルカの忠告の直後には、それらが発する音をとらえた。
「大砲とか、攻城兵器がいきなり出てこないのはましか」
飛んでくるそれらは形状がいくつかある。共通しているのは、重力を感じさせない移動性と音を発しているということだ。
「結局、この音は何を意味しているんだか」
大々的に言われなければよくわからない音に過ぎない。
「曲には聞こえますが……歪虚の流しているものですよね?」
パイロットインカムを通じてルカが返答に「ろくなものじゃないな」とレイオスは応じる。
「レイオスさん、上陸します」
「それをしないと調査できないからな」
「はい……先陣は任せてください」
「期待しているし、こっちの援護も期待してくれよ」
「はい」
ルカは唇を一文字に結ぶ。すでに迫っている敵に【プルガトリオ】を放つ。空中に釘付けにされれば落ちる可能性があるし、そもそも魔法のダメージで消えてくれる可能性だってある。
「白縹、縁の開けたところに降りてください」
ペガサスはいなないた。
それに続くレイオスはルカが抜けた後残る敵を【衝撃波】で散らす。
敵は体当たりのほか、射撃もしくは魔法的な攻撃をしてくる。セルには【ゲイルランパート】を使わせ、ダメージは減らさせる。
「自律兵器だけか?」
レイオスは振り落とされないように眼下に目を向ける。暗い大地に、カルパトスなど攻城兵器なども見え隠れしている。
「ルカ、飛んでくる奴ら以外も気を付けろ」
「はい」
それら攻城兵器を操る者は現状見えないが、攻撃されないとは言い切れなかった。
レイオスはルカが降りたところに着地させる。
そこで、一旦敵を減らしてからそれぞれの行動に移るのだった。
アルトは浮遊大陸から敵が湧き上がるのを見ていた。
「黙って上陸させてくれるわけはないな。この規模だと調査のための調査って感じになりそうだが……できる限りしていかないと」
大陸が進む方向には王都があるはずだ。素早く状況を掴んでいかないと被害が大きくなる。
「現在の高度は……」
ポロウのパウルの飛び方で推測はできる。頑張って飛ぶパウルだが、まだまだ余裕を残している。
「そもそも、これは乗ることができる物質なのだろうか? まあ、一応、降りられているみたいだな」
先行者が集まる敵を引き付けるように、上陸をしている。大陸が乗れる物質かは明確ではなかったため、乗れない危惧も若干あった。
アルトは先行者たちが敵に発見された、大陸との距離までやってきた。
「パウル【隠れるホー】を使って」
小さく喉を鳴らしたパウルはスキルを発動させる。アルト自身は【ナイトカーテン】を用いた。
少しでも見つからないように大陸に近づくための方策。
ツィスカは魔導ヘリコプター「ポルックス」で追う。
ツインローターを回す機械の音は力強い。先行している仲間の状況は連絡で逐次入る。
だからこそ、分析をじっくりできる。仲間の行動を見て、必要なところに向かうことを考える。
「空に来たのは王国各地で見たあれらなのですね……。城を攻める為の武器もあると聞きましたが……」
今のところ攻撃されたという情報は入っていない。しかし、敵側の体制が整えは攻撃を食らう可能性はあるため、ツィスカは用心する。
上陸のために近づくと、やはり音を鳴らした像たちはやってきた。
「敵の出方も気になりますが……」
敵を引き付け状況を見る事も重要だった。警備体制をうかがうことができるから。
「カルパトスなどですぐに攻撃がないのは? いえ、来ましたね……」
仲間が上陸後、しばらくしてから、砲弾なのか岩なのか、何かが飛んできた。
回避行動をとろうとするが、周りに群がる像などもいる為、一発目は食らってしまう。
「私も地上に一旦下りてみたいので……」
【スモークカーテン】を焚き、その場を離れた。
ソナは不安を覚える。
Laochanがいる為心強いはずでも、沿って飛ぶためか負のマテリアルは心身にのしかかる。
「飛ぶ距離がわかれば大きさもわかるはずです」
今わからなくても、どれだけ飛行していたか、記憶はしておく。あとで計算で出せばいい話なのだから。
仲間の連絡が入るようになると心は若干軽くなるし、考えることが見えてくる。
「地下とは逆には何があるのでしょうか……」
浮遊大陸の陸地部分に興味を覚えた。
●上陸
太陽の光が浮遊大陸を照らす。
草が生え、花が咲き乱れる。木陰があり、休息の場を作る。
水が流れ、小川がある。小川の流れを豊かにする岩や石もある。
光を反射する塵もある。
箱庭のような穏やかな世界であり、まるで生き物には楽園と言えそうな姿。
しかし、闇で形作られ、負のマテリアルに満ちた世界である。
ハンターや幻獣たちにはそれが重くのしかかる。呼吸をすれば肺から闇にむしばまれるようだった。
シンは降り立つと魔導スマートフォンで写真を撮る。
今は灯が不要だろう。ただ、奥に行くとどうなるかはわからない。
「状態異常等があれば早く対処はしたほうがいいですね」
状況を確認していく。敵がどこからどう来るかわからないため、用心は怠れない。
「目立つモノ、特徴があるものは目印になりますし」
写真を撮りながらシンはそれらを探す。彼がわからなくとも、誰かが見て何か知っていることもありうる。
空にいたモノは追ってこない。森の中でも音が聞こえる為、ただ互いに位置が分かっていないだけなのだろう。
調査を続けると、音が近づいてきた。
隠れてやり過ごすことも考えられるが、敵を撮影後、逃げるか戦うか選択する必要があった。
「形は色々あり、数が多い……」
この敵をやり過ごし、先に進んだ。別の敵がいる可能性があるため、無理に戦わなかった。
レイオスは降り立つと、音を鳴らすそれらを攻撃した。それが減ったところで、ベースギターをかき鳴らした。
「レッツ・ロックンロール!」
特にスキルは用いない。囮の意味が強いからだ。
「傲慢の本拠地だ。【強制】や【懲罰】には注意だな」
現状集まってくるのは雑魔に過ぎない。どこにどのような敵がいるかはこれから調べるのだ。
注目をある程度集めた後、敵に攻撃を仕掛ける。そのあとは、敵や攻城兵器の確認のため移動していく。
「それにしても、目視できているが、闇の影響はどうあるのか?」
敵が減った瞬間を狙いマテリアル花火を闇に向かって放つ。
マテリアル花火はレイオスの進行方向を飛び、鮮やかな花を咲かせた。花火で明るくなったというだけで、特に闇は揺らがない。マテリアルは吸収されたようにも、空気に溶け込んだようにも見える。
「結局、闇が世界を形作っているだけ?」
触れば質感は伝わるが、闇一色だ。
攻城兵器がある方向に向かうと、何かいると感じた。楽器に替え、かき鳴らし、その上で【アイデアル・ソング】を用いた。こちらに来るのか、それとも警戒してこないのかはわからない。
ルカは縁に留まる。
「体が重いですね……力がそがれているという意味です……」
負のマテリアルに影響だろう。どれだけの力が出せるか見通せない。
「敵がどう出てくるのかがわからないです」
レイオスのかき鳴らした音が聞こえる。そのせいか、ルカを追っていたり、狙ってくる敵は減っていた。
それでもかなりの数がいる。
「こちらにも来ましたね」
飛んできたものは捌くにはやや多い。発煙手榴弾を用い、一旦場所をずらす。巻き込まれなかった敵がルカを追う。その敵たちに対して【プルガトリオ】を放つと、攻撃する。
発煙手榴弾に迷った後来た敵は、一斉ではなかったため、個別に蒼機弓「サクラ」で攻撃していく。
目視できる敵を倒した後、一定の余裕が生まれた。自分が今いるあたり、目にしたことなどマッピングに書き込む。ただし、細かいこと書いている余裕は集まってくる有象無象の敵が許してくれない。
そのあとも、隙をみては自分が進んだあたりをできる限り書き記し、魔導スマートフォンにて写真を撮る。
暫くすると地上を歩くタイプの敵が現れる。亜人や人間に近い何かであった。
ツィスカは魔導ヘリコプターを着地させる際、舞い上がる黒いものにぎょっとする。しかし、周囲の景色が闇一色とはいえ、森の中の開けた場所と言った雰囲気だったため推測を立てられた。
「木の葉や土などが巻き上がる感じですね」
外に出ると負のマテリアルの影響で重い。
「なんでも試してみることは必要ですよね」
【機導浄化術・白虹】と【機導浄化術・浄癒】を使ってみる。負のマテリアルによる汚染は一瞬収まった気がするが、術の効果時間が切れると元に戻った。
「汚染……というより、負のマテリアルの中にいる状態ですね」
行動はできなくはなくとも、ハンターたちに不利である。
ツィスカは周りにあるものを時間が許す限り確認する。
色こそ黒であるが、地面は土であるし、生えているのは草木である。
「魔導ヘリコプターの【キャリーアンカー】で持って帰れそうなものはあるでしょうか?」
岩ではないが、それなりに大きな石があった。サイズといい、苔が生えているような様子から、ここが何か調べるのに、要素は多そうだったため決めた。そして、敵が来ていないうちに、準備をしておく。
●中央へ
アルトは無事着地した。敵がやってきていたため、戦闘を避けるか、否か判断を迫られる。
敵は音も鳴らしているし雑魔だと思われるが、確信はない。調査をすることを優先する。
傲慢の拠点の一つと考えると、【懲罰】を使ってくる可能性が非常に高い。下手に攻撃を仕掛け、自分の攻撃が跳ね返されることは避けたいところだった。
隠れつつ移動できている。警戒されているとはいえ、厳重ではないのが幸いしているのだろう。
木々のような物や岩のような物があるため、遮蔽物として使えた。魔導スマートフォンで写真を撮る。
出来れば兵器等の位置や敵の分布などがわかればよいと考えている。欲張りすぎかもしれないが、状況がわからないのだからあらゆるものに意識を広げておく。対応は臨機応変にするしかない。
移動している土地は緑豊かな大地のようなイメージだが、広がるのは闇一色の世界。木も水も触れれば感触はある。
進んでいくと、暗くなった。
影が落ち、より暗くなった感覚だ。
「……大きな、木か?」
影の様子から推測ではなく確認をとろうと隠れているところから見上げる。
観察は中断する。
視線の先には、騎士のような一団が見える。鎧か自前かわからないが角があるようにも見える。軍用双眼鏡で確認し、魔導スマートフォンで撮影する。
それらは侵入者に気づいていた。騎乗するモノを走らせるもしくは飛ばす。
アルトは仲間に連絡を取った後、パウロとともに離脱を宣言した。
レイオスは兵器がある場所で、歪虚と思われる存在が操っているのを見た。
近くには警戒するかのように亜人や人間の姿も見える。
アナライズデバイスでその兵器を撮ると確認を行った。目の前にあるものは一般的にみられる兵器だった。
「壊せるか確認しないとだな」
セルとともにレイオスは攻撃を仕掛けることになる。敵が来たことに相手はひるんだ。その隙に一気に近づく。
接敵されてしまえば、兵器での攻撃はほぼできない。そのため、その周囲にいるモノたちは武器を構えた。
「こいつは派手な歓迎だな……その熱い歓迎に感謝して俺からのプレゼントだ」
腕輪の力を用い【ソウルエッジ】を強化し、【衝撃波】を放つ。そのあと、セルに【ダウンバースト】を使用させる。
兵器自体は軋みを立てる。すぐに壊れないとしても、壊れる見込みはあった。
ただし、この場にいた敵をどうにかするほうが早かった。
「本拠地だとしてもあっけない?」
別の兵器も稼働しているらしい音が響いているし、奥から音もする。
自分ができる調査を続行しようとしたが、緊急を知らせる連絡が入る。そのため、退路を保つためにルカたちと合流することになる。
ソナは側面から上空に上がったところで、音を鳴らして攻撃してくる浮遊物とでくわした。いたるところに浮遊しているようだ。
「Laochan、あちらに向かってください」
そのまま低空飛行で大地を駆ける。
眼下に広がるのは草地や森と考えれば恐怖は薄れるが、負のマテリアルの塊は気持ちを砕くように這い上がる。ところどころに攻城兵器のようなものも見えるため、写真を出来る限り撮るが、確実に撮れているかは後で確認するしかなかった。
止まれば墜落か、敵からの襲撃を受ける。
「……まさか、本当に木があるのですか?」
底を飛んだ際の形状を考えるとしっくりくる、一本の木を中心に根を覆うための土とその周辺という風情だということが。
しかし、じっくりと考える余裕はもらえなかった。
背後から砲弾のようなものが飛んできたのだ。
Laochanは回避する。
ソナは敵の位置を把握しようと見ていると、ぞわりと闇が動いた気がした。気のせいかもしれないが、森に道があり、悪魔を思わせる一団がいた。それらは武器をそれぞれ持ち、一部のモノが何か投げつけてきた。
Laochanは回避するが、二発目、三発目は食らう。
「きゃあああ」
ソナはLaochanごと落ちる。低空だったことが幸いで意識は保つ。自分とLaochanに【フルリカバー】を掛けた。遮蔽物があったことは幸運だった。
シンは調査を止める。
切迫した状況が一部に生じていると連絡分かったからだ。縁を動くようにしていたルカに合流するようにした。
必要に応じて離脱すべきだが、何かあった場合、まとまっていることも必要だった。そして、敵が来るならば、退路を保つために攻撃はするつもりであった。
●離脱
中央近くにいたソナとアルトがルカたちが縁の方にやってきた。
途中でアルトも攻撃を受けていたが、動けないことはないため、状況を把握して動く。
「ソナさん、先に行ってください」
ルカが盾を構え、しんがりにつく。
「そうですね、私も協力します」
シンは武器を構え、ペガサスの上で待機する。
「すみません!」
ソナが先に離脱を始める。
アルトは唇を一文字に結び、飛ぶことはパウルに任せ、あの騎士のような者が来る場合を考え、武器は抜けるようにしてある。
(どこまで追ってくるのか?)
中央に近いところで遭遇した騎士のような姿をした歪虚たちは、空を移動することができる。自分たちがある程度離れたところまで追ってくる可能性もあった。
しかし、距離が離れてやってきたのは、自律兵器たちだけだった。
徐々にハンターたちは離れていく。
「ルカ、シン、退け」
レイオスが声をかける。
ルカとシンはツィスカの魔導ヘリコプターに速度を合わせ、敵の状況をうかがい撤退する。
ツィスカは魔導ヘリで運べそうなものを【キャリーアンカー】で引っ張り上げていた。大陸から離れるにつれて、それは無に返るかのように消えていく。
「……どういうことなのでしょうか? 大陸に存在するモノは大陸から離れられないのでしょうか?」
歪虚や亜人は離れられるのだから、大陸に付属する物体と線引きするところだろうか。
現に、側面には川から流れた水が落ちていき、途中で消えているのも見える。
「……負のマテリアルで作られているからそこから離れることはない?」
ツィスカは双方の消え方から推測した。
帰還後、それぞれが書いたマップや見たモノ等はハンターオフィスの職員がまとめてくれた。
大陸の大きさはかなりある。中央の巨大な樹木の周囲を取り巻くのはまるで楽園――エデンを想起させるような空間だったこと。
敵は自律兵器が見張りとしていただけであったが、そのあと、亜人や歪虚などイヴに与するモノが現れた。
その上で、中央にはより強い軍があるだろう。
なお、移動速度を考えれば、王都につくのは時間の問題であり、相手方の次の防備がどうなるかは不明だった。
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浮遊大陸の調査 ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/05/09 11:20:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/05 21:53:34 |