ゲスト
(ka0000)
プレゼントはレンチ?
マスター:サトー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/27 12:00
- 完成日
- 2015/02/02 17:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●1
蒸気工場都市フマーレ。その商業区に、一組の男女がいた。
「もう何をプレゼントするか決めたのかい?」
灰色のつなぎを着た三十過ぎの細面の男が、手を繋ぐ少女に問いかける。
「ううん、まだ」
少女は男――シンクを振り仰いで、さらさらとした緑の髪を横に振る。円らな瞳は困ったように歪み、細い鼻梁が悲しげに縮む。少女は薄い唇を尖らせた。
「ねぇ、パパ。男の子は何を貰ったら嬉しいの?」
八歳となる娘の友人へのプレゼント。まだ恋心とまではいかないだろうが、娘がその同い年の友人を慕っているのはよく分かっている。まだまだ娘はやれないが、誕生日のプレゼント位は上げてもいいだろう。
雑貨店には、様々な商品が並んでいる。娘には、どれを上げれば男の子が喜ぶのか分かっていない。
シンクはうーんと唸る。
「そうだなぁ……。やっぱり、これかな」
そう言ってシンクが懐から取り出したのは、一本のレンチ。シンクの仕事道具だ。
「それをあげると喜ぶの?」
娘の問いに、シンクはしっかと頷く。
「ああそうだ。ピッキオ君も大きくなったら、絶対に必要になる。今から自分のを持てたらきっと喜ぶぞ」
「そうなんだぁ」
父を疑うような娘ではない。彼女はレンチが置いてある棚を眺めて、すっかりそれを貰って喜ぶピッキオの姿を思い浮かべていた。
と、店内にドスの利いた声が響く。
「意固地になっても、いいことなんてねえぞ!」
「うるさい! 何度言っても同じだ! さっさと帰ってくれ!」
「けっ、後悔すんなよ」
店主が胡乱な者達を外へ追い払う。
「どうかしたんですか?」
つい気になって、シンクは店主に尋ねた。
「ああ、立ち退きしろってしつこくてね」
男達は二束三文で立ち退きを迫ってくるらしい。陸軍に相談してはというシンクに、店主はそこまでのことじゃないよ、その内諦めるさと笑って流した。
シンクはふと手を強く握られた。どうやら娘は、今の状況を少し怖がっているらしい。彼は店を出ることにした。日暮れは近い。そうゆっくり品を選んでもいられない。今日はもう諦めたほうがいいか。
そうして、少し行ったところで、路地裏から怪しげな声が届く。
「――もう力づくにしましょうや」
シンクは路地裏を透かし見る。先ほどの男達だった。
「そうだな。もう限界だ」
「なに、ちょっと痛めつけてやればすぐに――」
何やら良からぬ事を企んでいるようだ。誰かに知らせなければ、と振り返った瞬間、シンクは腹に強烈な痛みを感じた。
「盗み聞きは良くないぜ」
「どうするんですかい?」
住宅区の外れ、木々に隠れるように立つ木造の平屋にて、先ほどの荒くれ者達は顔を突き合わせている。
「つい勢いで攫っちまったが」
十人の男が囲むのは、気を失っている一人の少女。少女は長い睫を伏せて、すやすやと眠りについている。
「このままじゃ足がつきますぜ。どうにかしないと」
「んなことは分かってる!」
親分らしき男が怒鳴ると、子分達は一斉に押し黙った。
「おい、馬の用意しとけ」
「へい」
二人が裏口から外に出る。もう外はすっかり日が落ちていた。馬小屋に繋がれた馬の嘶きが、しんとした辺りに染みる。
「最悪、場所を変えなきゃならんかもな」
親分の呟きに、子分の一人がため息を漏らしてその場を離れた。折角あと一息という所まで来ているのに、と子分の嘆き顔が窓に映る。
「ん? 親分!」
「なんだ?」
「誰か来やすぜ!」
「なに!?」
ここら辺は人通りなど滅多に無い。しかも、もうこんな時間だ。それも、今日は失態を犯したばかり。こんな時に人が訪れて来るなど偶然のはずがない。
「明かりを消せ! ドアは全部開けるな! 適当に追い返せ!」
親分は椅子や置物を辺りに転がし、卓を盾のように立てかけその陰に身を隠す。
明かりの落ちた部屋。月明かりを背に、親分は少女を抱え、懐から刃物を出す。いざというときは――。
●2
若い女が走っていた。
商業区に買い物に出かけた夫と娘が帰らないのだ。もう日は沈んでいる。幾ら何でも遅い。最初はゆっくり歩いていたものの、探し始めてから一時間が経過した頃から、女の脚は徐々に回転を増した。
女は走り、夫と娘が行きそうな店を訪ねて回る。だが、どこにも姿は無い。
途切れる息を整えつつ、女は曲がり角を曲がろうとした。
「きゃっ」
出会い頭にぶつかって倒れた女に手を差し伸べたのは、やたら雰囲気のある集団。お互いに謝罪しつつ、すぐに駆けようとした女を、集団の一人が呼び止める。
「随分お急ぎのようで」
尋常ではない女の様子に、ピンときたのだろうか。何か困っているのではないかと問われ、女は一にも二にもなく肯定する。力になれるかもしれない、という彼らに、女は事情を打ち明けた。
人手が欲しい。一人で探すよりも、人数がいた方が楽なのは間違いない。
事情を聞いた集団は、落ち着いた様子で胸を叩いた。
「後はハンターにお任せを」
●3
「くそっ!」
暗闇の中、シンクは何度も身をよじる。後ろ手に結ばれた縄を何度も何度も壁に、柱に、置物にこすり付ける。かれこれ一時間はそうしているだろうか。全身汗まみれだ。
「っっ……よしっ!」
その成果が実り、漸く縄が切れ自由になった。とはいえ、辺りは真っ暗闇。
シンクは手探りで出口を探す。しばらくして探り当てた扉を押したり引いたりしてみるも、全くびくともしない。悪態が漏れる。どこかの建物の地下室に放置されたことまでは分かっている。娘が傍にいないということも。
父は焦っていた。娘は無事なのか。ただただ、それだけが気がかりだった。
「セルバ……。待ってろ……」
不意に物音がする。シンクは耳を澄ませた。何やら上が騒がしい。
と、階段を降りて来る足音が聞こえた。
シンクは扉の脇に隠れる。手にはレンチが握りしめられている。
扉を開けたが最後。シンクはいつでも飛びかかれるように、身構えてその時を待った――。
蒸気工場都市フマーレ。その商業区に、一組の男女がいた。
「もう何をプレゼントするか決めたのかい?」
灰色のつなぎを着た三十過ぎの細面の男が、手を繋ぐ少女に問いかける。
「ううん、まだ」
少女は男――シンクを振り仰いで、さらさらとした緑の髪を横に振る。円らな瞳は困ったように歪み、細い鼻梁が悲しげに縮む。少女は薄い唇を尖らせた。
「ねぇ、パパ。男の子は何を貰ったら嬉しいの?」
八歳となる娘の友人へのプレゼント。まだ恋心とまではいかないだろうが、娘がその同い年の友人を慕っているのはよく分かっている。まだまだ娘はやれないが、誕生日のプレゼント位は上げてもいいだろう。
雑貨店には、様々な商品が並んでいる。娘には、どれを上げれば男の子が喜ぶのか分かっていない。
シンクはうーんと唸る。
「そうだなぁ……。やっぱり、これかな」
そう言ってシンクが懐から取り出したのは、一本のレンチ。シンクの仕事道具だ。
「それをあげると喜ぶの?」
娘の問いに、シンクはしっかと頷く。
「ああそうだ。ピッキオ君も大きくなったら、絶対に必要になる。今から自分のを持てたらきっと喜ぶぞ」
「そうなんだぁ」
父を疑うような娘ではない。彼女はレンチが置いてある棚を眺めて、すっかりそれを貰って喜ぶピッキオの姿を思い浮かべていた。
と、店内にドスの利いた声が響く。
「意固地になっても、いいことなんてねえぞ!」
「うるさい! 何度言っても同じだ! さっさと帰ってくれ!」
「けっ、後悔すんなよ」
店主が胡乱な者達を外へ追い払う。
「どうかしたんですか?」
つい気になって、シンクは店主に尋ねた。
「ああ、立ち退きしろってしつこくてね」
男達は二束三文で立ち退きを迫ってくるらしい。陸軍に相談してはというシンクに、店主はそこまでのことじゃないよ、その内諦めるさと笑って流した。
シンクはふと手を強く握られた。どうやら娘は、今の状況を少し怖がっているらしい。彼は店を出ることにした。日暮れは近い。そうゆっくり品を選んでもいられない。今日はもう諦めたほうがいいか。
そうして、少し行ったところで、路地裏から怪しげな声が届く。
「――もう力づくにしましょうや」
シンクは路地裏を透かし見る。先ほどの男達だった。
「そうだな。もう限界だ」
「なに、ちょっと痛めつけてやればすぐに――」
何やら良からぬ事を企んでいるようだ。誰かに知らせなければ、と振り返った瞬間、シンクは腹に強烈な痛みを感じた。
「盗み聞きは良くないぜ」
「どうするんですかい?」
住宅区の外れ、木々に隠れるように立つ木造の平屋にて、先ほどの荒くれ者達は顔を突き合わせている。
「つい勢いで攫っちまったが」
十人の男が囲むのは、気を失っている一人の少女。少女は長い睫を伏せて、すやすやと眠りについている。
「このままじゃ足がつきますぜ。どうにかしないと」
「んなことは分かってる!」
親分らしき男が怒鳴ると、子分達は一斉に押し黙った。
「おい、馬の用意しとけ」
「へい」
二人が裏口から外に出る。もう外はすっかり日が落ちていた。馬小屋に繋がれた馬の嘶きが、しんとした辺りに染みる。
「最悪、場所を変えなきゃならんかもな」
親分の呟きに、子分の一人がため息を漏らしてその場を離れた。折角あと一息という所まで来ているのに、と子分の嘆き顔が窓に映る。
「ん? 親分!」
「なんだ?」
「誰か来やすぜ!」
「なに!?」
ここら辺は人通りなど滅多に無い。しかも、もうこんな時間だ。それも、今日は失態を犯したばかり。こんな時に人が訪れて来るなど偶然のはずがない。
「明かりを消せ! ドアは全部開けるな! 適当に追い返せ!」
親分は椅子や置物を辺りに転がし、卓を盾のように立てかけその陰に身を隠す。
明かりの落ちた部屋。月明かりを背に、親分は少女を抱え、懐から刃物を出す。いざというときは――。
●2
若い女が走っていた。
商業区に買い物に出かけた夫と娘が帰らないのだ。もう日は沈んでいる。幾ら何でも遅い。最初はゆっくり歩いていたものの、探し始めてから一時間が経過した頃から、女の脚は徐々に回転を増した。
女は走り、夫と娘が行きそうな店を訪ねて回る。だが、どこにも姿は無い。
途切れる息を整えつつ、女は曲がり角を曲がろうとした。
「きゃっ」
出会い頭にぶつかって倒れた女に手を差し伸べたのは、やたら雰囲気のある集団。お互いに謝罪しつつ、すぐに駆けようとした女を、集団の一人が呼び止める。
「随分お急ぎのようで」
尋常ではない女の様子に、ピンときたのだろうか。何か困っているのではないかと問われ、女は一にも二にもなく肯定する。力になれるかもしれない、という彼らに、女は事情を打ち明けた。
人手が欲しい。一人で探すよりも、人数がいた方が楽なのは間違いない。
事情を聞いた集団は、落ち着いた様子で胸を叩いた。
「後はハンターにお任せを」
●3
「くそっ!」
暗闇の中、シンクは何度も身をよじる。後ろ手に結ばれた縄を何度も何度も壁に、柱に、置物にこすり付ける。かれこれ一時間はそうしているだろうか。全身汗まみれだ。
「っっ……よしっ!」
その成果が実り、漸く縄が切れ自由になった。とはいえ、辺りは真っ暗闇。
シンクは手探りで出口を探す。しばらくして探り当てた扉を押したり引いたりしてみるも、全くびくともしない。悪態が漏れる。どこかの建物の地下室に放置されたことまでは分かっている。娘が傍にいないということも。
父は焦っていた。娘は無事なのか。ただただ、それだけが気がかりだった。
「セルバ……。待ってろ……」
不意に物音がする。シンクは耳を澄ませた。何やら上が騒がしい。
と、階段を降りて来る足音が聞こえた。
シンクは扉の脇に隠れる。手にはレンチが握りしめられている。
扉を開けたが最後。シンクはいつでも飛びかかれるように、身構えてその時を待った――。
リプレイ本文
「ふむぅ、遅くなっても戻らない親子連れがいるでござるか……それは確かに気になるでござるな」
シオン・アガホ(ka0117)はピンと背筋を伸ばし、両腕を胸の前で組んで難しそうな表情をする。
「俺はオウガ。よろしくなー。大変だな! わかった、俺達に任せな!」
元気一杯なオウガ(ka2124)と共に、柊 真司(ka0705)は「その前に二人の容姿を聞いておきたい」と尋ねる。
話を聞き終えると、オウガは女の娘のヘアピンを借り受け、柴犬のタローに匂いを覚えさせる。捜索に役立てるためだ。
フランシスカ(ka3590)は暗灰色の前髪の下の目を伏せる。
「……フランは視線が怖いので、一人では不安ですね」
聞き込み相手を怖がらせてしまっては、と懸念するフラン。
「なら、俺と店を回ってみましょうか?」
周辺の商店を巡ろうとしていたサントール・アスカ(ka2820)は、フランを同行に誘う。穏やかそうなサントールとなら問題無いだろう。
「是非……お願いします」
「あの……」
早速手分けして聞き込みに移ろうとしたハンター達を、女が呼び止める。不安げな彼女に、シオンは拳でその豊満な胸をぽむっと叩き、にっこりと微笑んだ。
「なぁに、こう見えても拙者達はハンターでござる。大船に乗ったつもりで任すでござるよ」
●
「事件か迷子か、なんにしても早く見つけてやらねぇと」
真司は行き違いになった可能性を考慮し、まずは住宅区域を探す。
「すいません、人を探してるんだが」
真司が手当たり次第に訊き回っている一方、オウガは愛犬タローの行くままに町内を探索する。
「ああ。その父娘なら、夕方に来たよ」
サントールとフランが程なく辿り着いた店の店主から、話を聞き出す。ほぼ同時刻に、ジャック・エルギン(ka1522)と龍崎・カズマ(ka0178)とシオンもその店に行き当たる。
「丁度、連中が来てた時だから、覚えてるよ」
「連中?」
カズマの問いに、店主は立ち退きの話をする。見る見るうちに、ジャックの目がすっと細まる。
「どこの雇われモンか知らねえが、やっちゃいけねーことに手ぇ出したな」
商人の私兵として抗争に明け暮れていた嘗ての経験から、荒くれ者は一般人に迷惑をかけるべきではない、というジャックのルールに反する内容だった。
と、サントールとジャックの魔導短伝話に連絡が入る。真司からだ。
『二人の目撃情報が入った。不味いことになったぜ』
大人の男と小さな少女を担いだ柄の悪い集団を見た、という者が何人かいたらしい。
次いで、オウガの声が響く。
『こっちも同じだ! 二人を背負って商業区から住宅区に向かう一団を見たってさ!』
状況は一致している。
固まって話す5人と店主の下に、店内にいた客の一人がやってくる。
「騒がしいね。その集団なら私も見たよ。ほら、よくあんたと言い争ってる連中さ」
客は店主に顎を向ける。
「キナ臭くなってきましたね」
呟くフラン。ジャックは舌打ちする。
目撃証言のあった方へ向かおうとした一行だが、カズマは一人動こうとしない。
「どうしました?」
サントールは訝しむ。
「……俺の考えすぎならいいのだがね。店を得たいって脅しをかけるからにゃ、それを利益に変える手段があるはずだろう?」
「商売敵が雇ったゴロツキってとこじゃねーか?」
ジャックの推測に、カズマは「重要なのは、その原因の方かな」と返す。
上納金やらタカリならまだしも、話は立ち退きだ。この店を得て、どうする気なのか。
「ゴロツキは誰かに頼まれていると俺も思う。なら、その原因から解決しなきゃ、今後も同じことが起きないとも限らん」
いつから脅しをかけられているのか、他の店も同様なのか。狙われる理由、人物に心当たりはないか。気になることは山積している。
「覚醒者は一過性の存在だ。ずっと守れる訳じゃない」
もし、それらの情報を掴み黒幕と交渉できれば、今回の人攫いも立ち退きも、根本から解決できるかもしれない。カズマはそう考えていた。
「そうでござるな……」
シオンは眉間に皺を寄せて唸る。
「ま、杞憂で済めば、すぐに皆と合流するがね」
4人は、更なる聞き込みを行うというカズマを残し、店を出ることとした。
●
カズマを抜いて合流した6人は、目撃情報を頼りに住宅区の外れへと進んでいく。
民家も人気も無くなって久しい頃、一行の前に一軒の明かりを灯した民家が見えてきた。
「あそこかな」
サントールは周囲を見回す。建物は、目先の一つのみ。可能性は高そうだ。
「タローもあそこが怪しいって!」
オウガの連れたタローも、ぐいぐいと首輪を引いて民家を促している。
6人はその民家に当たりをつけ、人質の命を第一にと行動を開始した。
該当の民家へ向かう前に、正面と裏手との2班に別れた一行。
正面を担当するジャックとフラン、シオン。ランタンを点した3人が近づくと、突然民家の明かりが消えた。
3人は顔を見合わせると、ジャックを先頭に民家の戸を叩く。
明かりが消えた頃から、少し時間は遡る。
裏手に回っていた真司とサントール、オウガは、馬小屋で作業をしている男が2人を発見。
真司は馬小屋の柱に石を軽く投げた。
「ん?」
一人が怪訝そうに音のした方を見たのを確認し、素早く背後から接近して男の口元を押さえ、脚に雷撃を叩きこむ。不殺で済ませたいとの考えから、胴体や急所は避けた。
「んんんん!?」
くぐもった男の声はすぐに途絶え、全身から力を失った。
真司は一人を無力化することに成功。だが、男は一人では無い。
「おい、どうかしたか?」
不審な声に、もう一人が顔を覗かせる。真司はまだ、男を一人抱えたままだ。
「なっ――」
男は、しかし、声を上げることはできなかった。
真司の意図を汲んだサントールが、背後から裸絞めで落としたからだ。
3人は協力して、気絶した男2人を真司のロープでぐるぐる巻きに縛って、建物から見えない茂みの中へ隠す。
その時、民家の明かりが突然消えた。
所変わって、正面側。
「……何の用だ」
僅かに空いた扉の隙間から、悪人面をした男が身体の一部を覗かせる。
「夜分にすまねーな。実はちょっと人捜しをしててよ。良いか?」
愛想の良さそうな笑みを浮かべるジャック。その背後には、目を閉じて口を閉ざしているフランとシオン。
男一人に女二人。緊張していた荒くれ者の顔が途端に緩む。
こちらは10人。10対3。大した事の無い数だ。金髪の男も気だるげに頭を掻いていて、こちらを強く疑っているようには見えない。
男は一度室内を振り返り、月明かりに照らされた親分に目配せする。親分は目で、うまくやれと男に合図を送った。
男はジャックに向き直る。
「知らねーな」
「っかしーな? なんか聞いた話じゃ、こっちの方に行ったってことなんだが」
「間違えたんだろ。他をあたれ」
「んー、でもなぁ」
渋りつつ、のらりくらりと会話を続けるジャック。
引き下がろうとしないジャックに、男は苛立ちを募らせる。
ちらりとジャックの後ろを見やれば、不気味なまでに目を閉じ無言で佇むフランと、不安を呼び起こすようにきょろきょろと物珍しそうに周囲を見回しているシオン。
苛立ちに、シオンの狙い通り不安が紛れ込んでくる。
「いい加減にしやがれ! いねぇって言ってんだろーが!」
男は扉を大きく開き、ジャックを突き飛ばそうと手で突っ張るが、相手はびくともせず、逆に男の方がたたらを踏んだ。この時、漸く男は眼前の金髪の男の異様さを知る。
つと、ジャックの短伝話が鳴った。
「ん。うし、行くか」
ジャックはそれをしまうと、動揺している男に言う。
「んじゃ次が最後な。……攫った親子に怪我とかさせてねーよな?」
男の返答を待たず、赤熱した金属のような瞳を向け、ジャックは身を躍らせた。
ジャックが正面で注意を惹きつけている頃、裏手に回った3人は隠密を重視し、それぞれの配置に着いた。
真司は裏口と大きな窓を一望できる木の陰に隠れ、サントールは窓の外から様子を窺う。
と、窓ガラスを挟んですぐそこに、男の背があった。
サントールは出そうになった声を抑え、細心の注意を払って室内の様子を探る。明かりの無い部屋は月光により辛うじて窓辺付近を窺えるのみで、人質の姿を見つけ出すことはできなかった。
手に入れた情報を短伝で真司とオウガに送り、サントールは裏口へ向かう。
裏口では、既に配していたオウガが取っ手を捻る。鍵はかかっていない。タローが吠えないよう抑えつつ、オウガはそっと中へ踏み込んだ。
真司は短伝話を表のジャックに繋ぐ。
「こちらの準備はできたぞ」
直後、表から野蛮な物音が届いた。
正面。
強撃で男を昏倒させたジャックに続いて、自身を守護する光を纏ったフランも中に踏み込む。
ランタンの灯に浮かび上がる紅い瞳に、室内にいる男達がぎょっとして硬直したのを見逃さず、フランの魔法が荒くれ者の一人を沈める。
「大丈夫です。殺しはしません」
半殺しで済ませますから、とフランの呟き。非覚醒者である男達にとって、恐怖以外の何ものでもない。
人間相手には不要と剣を携帯してこなかったフランだが、その魔法の威力は半殺しには十分だった。
瞬く間に2人やられた荒くれ者達は恐怖に怯え、一人が裏口から逃走しようと小部屋へ走る。が、そこにいたのは動物霊の力を借りたオウガ。
鉢合わせとなったオウガは、咄嗟に龍の如き雄叫びをあげる。
「GuRAAAA!!」
委縮した男を、獣の咢の如く展開したナックルで殴りつけた。男はあっさり崩れ落ちたが、これで隠密性は失われてしまった。
残された4人の子分達は親分を縋るように見る。
覚醒者と非覚醒者では、端から勝負になどなるはずもなし。
「う、動くな!」
親分は、くっと唇を噛み、ナイフを抱えた少女の首もとに突きつけた。
ジャックとフラン、オウガは動きを止める。人質の安全が最優先と判断した3人は、戦闘中止もやむなしと。追い詰め過ぎれば、どんな無茶な行動に出るとも限らない。
スリープクラウドを視野に入れていたシオンだったが、この状況で使えば、味方をも巻き込んでしまう。
室内に残っている荒くれ者の数は5。これが全てとも限らない。眠らせた拍子に、ナイフが少女に傷をつけてしまう可能性もある。
シオンは躊躇いつつ、表口に陣取って事態を注視する。
裏手には仲間がいる。表さえ塞げば、油断した男達は裏手へと逃げ込むだろう。
「へ、へへ」
親分は自分の指示通り攻撃を止めた闖入者達に引きつった笑みを浮かべ、背後の大窓のガラスをぶち破った。
「子供は置いてけ!」
裏口で待ち伏せているであろう仲間に聞こえる様に、ジャックは大声を上げる。
「やなこった!」
親分は少女を抱え、窓枠を乗り越えようと片脚を上げた。
それを好機と見て取ったフラン。手にしたババ・ヤガーからシャドウブリッドが放たれる。と同時に、フランは親分との距離を詰める。
「ぐあっ!」
脚に感じた強い衝撃と痛みに、親分の顔が苦悶に歪む。そこへ、フランは構わず体当たりをかます。
親分とフランと少女。三者が衝撃で分かたれる。
「ぐっ」
フランの左肩には、鈍色に光るナイフ。傷口から漏れ出た血で、ローブが滲んでいく。
「この野郎!」
「この痴れ者が! 恥を知れぃ!」
駆けだしたのはオウガとシオン。
オウガは取りも直さず少女を確保。寝ぼけ眼の少女は、頭をさすりぼんやりしている。
シオンは少女に手を伸ばそうとしていた子分の一人に、石礫を見舞った。
残ったのは、3人の子分と片脚をやられた親分。
「クソがっ!」
遠吠えを吐いて窓から逃走しようとした親分を、ひゅんと風が過ぎる。
「うっ」
血に染まる親分の肩。穿ったのは、サイレント66。真司だ。
「逃がすかよ」
室内では戦意を完全に失った子分3人が逃げ惑う。一人がジャックに捕まり、一人は裏口へ走り、もう一人は仲間を犠牲に表口から逃走する。
「てめっ、待ちやがれ!」
「任せた!」
ジャックの叫びに、オウガは少女をシオンに預け、表口へ駆ける。裏口なら待機している仲間に任せられるが、表口側には誰もいないはず。
逃がさないと外に出たオウガが見たのは、大地に寝そべり目を回している男。
「こいつは馬鹿の一人、でいいんだよな?」
その前には、カズマが立っていた。
●
明かりの灯った室内。
ヒールで自身の傷を癒しているフラン。心配している少女に、目を伏せて微笑む。
「心配いりません。ただの怪我なら治りますから」
「もう大丈夫でござる」
シオンは少女を抱き寄せて、頭を撫でてやる。少女は胸に埋まって若干苦しそう。
「無事に見つかって良かったな」
真司は救出の成功にほっと安堵の溜息。
ちょっとした立ち回りになったが、少女への影響は少なそうだ。
サントールが男を肩に担いで室内に運ぶ。裏口に逃げた男は、サントールに鳩尾を殴られ昇天。今も絶賛気絶中だ。
室内には7人のハンターと少女、そして捕らえられた荒くれ者達。
「お前らの目的は何だ?」
カズマは顔を歪めている親分を問い詰める。
聞き込みを行っていたカズマは、結局背後にいるであろうと推測した者達に辿り着くことはできなかった。いや、そもそもいなかったのかもしれない。
立ち退きを迫られたのは一ヶ月ほど前から。他店ではそういった話は無く、その店が特別良い立地条件とも言えない。都市計画らしき噂も無く、店主は狙われる理由も人も、心当たりは無いとのこと。調査は空振りに終わった。
カズマの心配は杞憂だったのか。
「…………」
カズマの問いに、親分は無言。
「誰かに雇われたんじゃねえのか?」
「…………」
「ちっ」
舌打ちするカズマに、親分はふっとせせら笑う。
「何がおかしい」
「さてな……」
親分はそれっきり口を噤んだ。
「聞いた話では、いなくなったのは父親と娘のふたり、なんだけど」
サントールの疑問に、気を取り戻した少女が「そうだ! パパは!?」と叫ぶ。
ジャックが締め上げた子分から地下室の存在を聞き出し、ジャックとサントール、オウガと少女は小部屋に隠された扉から地下へ向かう。
薄暗い階段を、ジャックのランタンを頼りに降りていく。
地下室の扉には鍵がかかっていた。
「俺に任せろ!」
オウガはシーブスツールを使い、何とか鍵を開けた。
「まだ連中の仲間がいるかも――」
「どれ、助けに――っ!」
ガン、と鈍い音が鳴る。強い衝撃が、扉を押し開けたジャックの頭を揺さぶる。
サントールの注意喚起も虚しく、ジャックはぱたりとその場に倒れた。
「どうだ! お前も――って、セルバ!」
「パパッ!」
抱き合う父シンクと娘セルバ。シンクの手には一本のレンチ。
父と娘の感動の再会を尻目に、サントールとオウガは額に手を当てて、レンチのプレゼントを貰いのびているジャックを見つめた。
シオン・アガホ(ka0117)はピンと背筋を伸ばし、両腕を胸の前で組んで難しそうな表情をする。
「俺はオウガ。よろしくなー。大変だな! わかった、俺達に任せな!」
元気一杯なオウガ(ka2124)と共に、柊 真司(ka0705)は「その前に二人の容姿を聞いておきたい」と尋ねる。
話を聞き終えると、オウガは女の娘のヘアピンを借り受け、柴犬のタローに匂いを覚えさせる。捜索に役立てるためだ。
フランシスカ(ka3590)は暗灰色の前髪の下の目を伏せる。
「……フランは視線が怖いので、一人では不安ですね」
聞き込み相手を怖がらせてしまっては、と懸念するフラン。
「なら、俺と店を回ってみましょうか?」
周辺の商店を巡ろうとしていたサントール・アスカ(ka2820)は、フランを同行に誘う。穏やかそうなサントールとなら問題無いだろう。
「是非……お願いします」
「あの……」
早速手分けして聞き込みに移ろうとしたハンター達を、女が呼び止める。不安げな彼女に、シオンは拳でその豊満な胸をぽむっと叩き、にっこりと微笑んだ。
「なぁに、こう見えても拙者達はハンターでござる。大船に乗ったつもりで任すでござるよ」
●
「事件か迷子か、なんにしても早く見つけてやらねぇと」
真司は行き違いになった可能性を考慮し、まずは住宅区域を探す。
「すいません、人を探してるんだが」
真司が手当たり次第に訊き回っている一方、オウガは愛犬タローの行くままに町内を探索する。
「ああ。その父娘なら、夕方に来たよ」
サントールとフランが程なく辿り着いた店の店主から、話を聞き出す。ほぼ同時刻に、ジャック・エルギン(ka1522)と龍崎・カズマ(ka0178)とシオンもその店に行き当たる。
「丁度、連中が来てた時だから、覚えてるよ」
「連中?」
カズマの問いに、店主は立ち退きの話をする。見る見るうちに、ジャックの目がすっと細まる。
「どこの雇われモンか知らねえが、やっちゃいけねーことに手ぇ出したな」
商人の私兵として抗争に明け暮れていた嘗ての経験から、荒くれ者は一般人に迷惑をかけるべきではない、というジャックのルールに反する内容だった。
と、サントールとジャックの魔導短伝話に連絡が入る。真司からだ。
『二人の目撃情報が入った。不味いことになったぜ』
大人の男と小さな少女を担いだ柄の悪い集団を見た、という者が何人かいたらしい。
次いで、オウガの声が響く。
『こっちも同じだ! 二人を背負って商業区から住宅区に向かう一団を見たってさ!』
状況は一致している。
固まって話す5人と店主の下に、店内にいた客の一人がやってくる。
「騒がしいね。その集団なら私も見たよ。ほら、よくあんたと言い争ってる連中さ」
客は店主に顎を向ける。
「キナ臭くなってきましたね」
呟くフラン。ジャックは舌打ちする。
目撃証言のあった方へ向かおうとした一行だが、カズマは一人動こうとしない。
「どうしました?」
サントールは訝しむ。
「……俺の考えすぎならいいのだがね。店を得たいって脅しをかけるからにゃ、それを利益に変える手段があるはずだろう?」
「商売敵が雇ったゴロツキってとこじゃねーか?」
ジャックの推測に、カズマは「重要なのは、その原因の方かな」と返す。
上納金やらタカリならまだしも、話は立ち退きだ。この店を得て、どうする気なのか。
「ゴロツキは誰かに頼まれていると俺も思う。なら、その原因から解決しなきゃ、今後も同じことが起きないとも限らん」
いつから脅しをかけられているのか、他の店も同様なのか。狙われる理由、人物に心当たりはないか。気になることは山積している。
「覚醒者は一過性の存在だ。ずっと守れる訳じゃない」
もし、それらの情報を掴み黒幕と交渉できれば、今回の人攫いも立ち退きも、根本から解決できるかもしれない。カズマはそう考えていた。
「そうでござるな……」
シオンは眉間に皺を寄せて唸る。
「ま、杞憂で済めば、すぐに皆と合流するがね」
4人は、更なる聞き込みを行うというカズマを残し、店を出ることとした。
●
カズマを抜いて合流した6人は、目撃情報を頼りに住宅区の外れへと進んでいく。
民家も人気も無くなって久しい頃、一行の前に一軒の明かりを灯した民家が見えてきた。
「あそこかな」
サントールは周囲を見回す。建物は、目先の一つのみ。可能性は高そうだ。
「タローもあそこが怪しいって!」
オウガの連れたタローも、ぐいぐいと首輪を引いて民家を促している。
6人はその民家に当たりをつけ、人質の命を第一にと行動を開始した。
該当の民家へ向かう前に、正面と裏手との2班に別れた一行。
正面を担当するジャックとフラン、シオン。ランタンを点した3人が近づくと、突然民家の明かりが消えた。
3人は顔を見合わせると、ジャックを先頭に民家の戸を叩く。
明かりが消えた頃から、少し時間は遡る。
裏手に回っていた真司とサントール、オウガは、馬小屋で作業をしている男が2人を発見。
真司は馬小屋の柱に石を軽く投げた。
「ん?」
一人が怪訝そうに音のした方を見たのを確認し、素早く背後から接近して男の口元を押さえ、脚に雷撃を叩きこむ。不殺で済ませたいとの考えから、胴体や急所は避けた。
「んんんん!?」
くぐもった男の声はすぐに途絶え、全身から力を失った。
真司は一人を無力化することに成功。だが、男は一人では無い。
「おい、どうかしたか?」
不審な声に、もう一人が顔を覗かせる。真司はまだ、男を一人抱えたままだ。
「なっ――」
男は、しかし、声を上げることはできなかった。
真司の意図を汲んだサントールが、背後から裸絞めで落としたからだ。
3人は協力して、気絶した男2人を真司のロープでぐるぐる巻きに縛って、建物から見えない茂みの中へ隠す。
その時、民家の明かりが突然消えた。
所変わって、正面側。
「……何の用だ」
僅かに空いた扉の隙間から、悪人面をした男が身体の一部を覗かせる。
「夜分にすまねーな。実はちょっと人捜しをしててよ。良いか?」
愛想の良さそうな笑みを浮かべるジャック。その背後には、目を閉じて口を閉ざしているフランとシオン。
男一人に女二人。緊張していた荒くれ者の顔が途端に緩む。
こちらは10人。10対3。大した事の無い数だ。金髪の男も気だるげに頭を掻いていて、こちらを強く疑っているようには見えない。
男は一度室内を振り返り、月明かりに照らされた親分に目配せする。親分は目で、うまくやれと男に合図を送った。
男はジャックに向き直る。
「知らねーな」
「っかしーな? なんか聞いた話じゃ、こっちの方に行ったってことなんだが」
「間違えたんだろ。他をあたれ」
「んー、でもなぁ」
渋りつつ、のらりくらりと会話を続けるジャック。
引き下がろうとしないジャックに、男は苛立ちを募らせる。
ちらりとジャックの後ろを見やれば、不気味なまでに目を閉じ無言で佇むフランと、不安を呼び起こすようにきょろきょろと物珍しそうに周囲を見回しているシオン。
苛立ちに、シオンの狙い通り不安が紛れ込んでくる。
「いい加減にしやがれ! いねぇって言ってんだろーが!」
男は扉を大きく開き、ジャックを突き飛ばそうと手で突っ張るが、相手はびくともせず、逆に男の方がたたらを踏んだ。この時、漸く男は眼前の金髪の男の異様さを知る。
つと、ジャックの短伝話が鳴った。
「ん。うし、行くか」
ジャックはそれをしまうと、動揺している男に言う。
「んじゃ次が最後な。……攫った親子に怪我とかさせてねーよな?」
男の返答を待たず、赤熱した金属のような瞳を向け、ジャックは身を躍らせた。
ジャックが正面で注意を惹きつけている頃、裏手に回った3人は隠密を重視し、それぞれの配置に着いた。
真司は裏口と大きな窓を一望できる木の陰に隠れ、サントールは窓の外から様子を窺う。
と、窓ガラスを挟んですぐそこに、男の背があった。
サントールは出そうになった声を抑え、細心の注意を払って室内の様子を探る。明かりの無い部屋は月光により辛うじて窓辺付近を窺えるのみで、人質の姿を見つけ出すことはできなかった。
手に入れた情報を短伝で真司とオウガに送り、サントールは裏口へ向かう。
裏口では、既に配していたオウガが取っ手を捻る。鍵はかかっていない。タローが吠えないよう抑えつつ、オウガはそっと中へ踏み込んだ。
真司は短伝話を表のジャックに繋ぐ。
「こちらの準備はできたぞ」
直後、表から野蛮な物音が届いた。
正面。
強撃で男を昏倒させたジャックに続いて、自身を守護する光を纏ったフランも中に踏み込む。
ランタンの灯に浮かび上がる紅い瞳に、室内にいる男達がぎょっとして硬直したのを見逃さず、フランの魔法が荒くれ者の一人を沈める。
「大丈夫です。殺しはしません」
半殺しで済ませますから、とフランの呟き。非覚醒者である男達にとって、恐怖以外の何ものでもない。
人間相手には不要と剣を携帯してこなかったフランだが、その魔法の威力は半殺しには十分だった。
瞬く間に2人やられた荒くれ者達は恐怖に怯え、一人が裏口から逃走しようと小部屋へ走る。が、そこにいたのは動物霊の力を借りたオウガ。
鉢合わせとなったオウガは、咄嗟に龍の如き雄叫びをあげる。
「GuRAAAA!!」
委縮した男を、獣の咢の如く展開したナックルで殴りつけた。男はあっさり崩れ落ちたが、これで隠密性は失われてしまった。
残された4人の子分達は親分を縋るように見る。
覚醒者と非覚醒者では、端から勝負になどなるはずもなし。
「う、動くな!」
親分は、くっと唇を噛み、ナイフを抱えた少女の首もとに突きつけた。
ジャックとフラン、オウガは動きを止める。人質の安全が最優先と判断した3人は、戦闘中止もやむなしと。追い詰め過ぎれば、どんな無茶な行動に出るとも限らない。
スリープクラウドを視野に入れていたシオンだったが、この状況で使えば、味方をも巻き込んでしまう。
室内に残っている荒くれ者の数は5。これが全てとも限らない。眠らせた拍子に、ナイフが少女に傷をつけてしまう可能性もある。
シオンは躊躇いつつ、表口に陣取って事態を注視する。
裏手には仲間がいる。表さえ塞げば、油断した男達は裏手へと逃げ込むだろう。
「へ、へへ」
親分は自分の指示通り攻撃を止めた闖入者達に引きつった笑みを浮かべ、背後の大窓のガラスをぶち破った。
「子供は置いてけ!」
裏口で待ち伏せているであろう仲間に聞こえる様に、ジャックは大声を上げる。
「やなこった!」
親分は少女を抱え、窓枠を乗り越えようと片脚を上げた。
それを好機と見て取ったフラン。手にしたババ・ヤガーからシャドウブリッドが放たれる。と同時に、フランは親分との距離を詰める。
「ぐあっ!」
脚に感じた強い衝撃と痛みに、親分の顔が苦悶に歪む。そこへ、フランは構わず体当たりをかます。
親分とフランと少女。三者が衝撃で分かたれる。
「ぐっ」
フランの左肩には、鈍色に光るナイフ。傷口から漏れ出た血で、ローブが滲んでいく。
「この野郎!」
「この痴れ者が! 恥を知れぃ!」
駆けだしたのはオウガとシオン。
オウガは取りも直さず少女を確保。寝ぼけ眼の少女は、頭をさすりぼんやりしている。
シオンは少女に手を伸ばそうとしていた子分の一人に、石礫を見舞った。
残ったのは、3人の子分と片脚をやられた親分。
「クソがっ!」
遠吠えを吐いて窓から逃走しようとした親分を、ひゅんと風が過ぎる。
「うっ」
血に染まる親分の肩。穿ったのは、サイレント66。真司だ。
「逃がすかよ」
室内では戦意を完全に失った子分3人が逃げ惑う。一人がジャックに捕まり、一人は裏口へ走り、もう一人は仲間を犠牲に表口から逃走する。
「てめっ、待ちやがれ!」
「任せた!」
ジャックの叫びに、オウガは少女をシオンに預け、表口へ駆ける。裏口なら待機している仲間に任せられるが、表口側には誰もいないはず。
逃がさないと外に出たオウガが見たのは、大地に寝そべり目を回している男。
「こいつは馬鹿の一人、でいいんだよな?」
その前には、カズマが立っていた。
●
明かりの灯った室内。
ヒールで自身の傷を癒しているフラン。心配している少女に、目を伏せて微笑む。
「心配いりません。ただの怪我なら治りますから」
「もう大丈夫でござる」
シオンは少女を抱き寄せて、頭を撫でてやる。少女は胸に埋まって若干苦しそう。
「無事に見つかって良かったな」
真司は救出の成功にほっと安堵の溜息。
ちょっとした立ち回りになったが、少女への影響は少なそうだ。
サントールが男を肩に担いで室内に運ぶ。裏口に逃げた男は、サントールに鳩尾を殴られ昇天。今も絶賛気絶中だ。
室内には7人のハンターと少女、そして捕らえられた荒くれ者達。
「お前らの目的は何だ?」
カズマは顔を歪めている親分を問い詰める。
聞き込みを行っていたカズマは、結局背後にいるであろうと推測した者達に辿り着くことはできなかった。いや、そもそもいなかったのかもしれない。
立ち退きを迫られたのは一ヶ月ほど前から。他店ではそういった話は無く、その店が特別良い立地条件とも言えない。都市計画らしき噂も無く、店主は狙われる理由も人も、心当たりは無いとのこと。調査は空振りに終わった。
カズマの心配は杞憂だったのか。
「…………」
カズマの問いに、親分は無言。
「誰かに雇われたんじゃねえのか?」
「…………」
「ちっ」
舌打ちするカズマに、親分はふっとせせら笑う。
「何がおかしい」
「さてな……」
親分はそれっきり口を噤んだ。
「聞いた話では、いなくなったのは父親と娘のふたり、なんだけど」
サントールの疑問に、気を取り戻した少女が「そうだ! パパは!?」と叫ぶ。
ジャックが締め上げた子分から地下室の存在を聞き出し、ジャックとサントール、オウガと少女は小部屋に隠された扉から地下へ向かう。
薄暗い階段を、ジャックのランタンを頼りに降りていく。
地下室の扉には鍵がかかっていた。
「俺に任せろ!」
オウガはシーブスツールを使い、何とか鍵を開けた。
「まだ連中の仲間がいるかも――」
「どれ、助けに――っ!」
ガン、と鈍い音が鳴る。強い衝撃が、扉を押し開けたジャックの頭を揺さぶる。
サントールの注意喚起も虚しく、ジャックはぱたりとその場に倒れた。
「どうだ! お前も――って、セルバ!」
「パパッ!」
抱き合う父シンクと娘セルバ。シンクの手には一本のレンチ。
父と娘の感動の再会を尻目に、サントールとオウガは額に手を当てて、レンチのプレゼントを貰いのびているジャックを見つめた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/27 08:11:23 |
|
![]() |
相談用 サントール・アスカ(ka2820) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/27 08:09:38 |