ゲスト
(ka0000)
イルリヒト機関が制服制定するらしいぞ!
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/24 12:00
- 完成日
- 2015/01/30 20:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帝都バルトアンデルス、イルリヒト機関。
ここでは覚醒者の少年少女達が、帝国軍の未来の士官となるべく訓練を積み、実戦へと旅立っていき、そして大抵は帰ってくる場所。
今回の歪虚CAM相手の戦闘には出撃命令が下りなかったため、学生達は静かに訓練に明け暮れる年明けを迎えていた。
――のは、全体的な話である。
つまり局所的にはうるさい場所もある。
「なーなーエルガー! 知ってるべか!」
「おいなんだハラーツァイ。俺は訓練場に行きたいんだが」
「リアルブルーの学校には、『せいふく』があんだよ!」
あ、こいつ俺の話全然聞いてねぇ。
エルガーはちょっと怒ろうかと思ったが、22歳が16歳相手に感情で怒るのも大人げないのでやめておいた。
「でな、でな。イルリヒト機関も学校だべ?」
「まぁ、そうだが」
「『せいふく』作ったらもっと学校っぽいべ!」
「軍服があるだろう」
「普段着!」
「俺達にそもそも普段なんてな……」
「やりましょう」
「は?」
突如聞こえた声に、エルガーはぽかんと口を開いたまま振り向く。
「こうちょうせんせー!!」
ぶんぶん手を振るハラーツァイに、イルリヒト機関校長アンゼルム・シュナウダーは微笑みと共に手を振り返す。
「確かに戦闘着ではない制服の制定というものは、一体感を高めるためにいいかもしれない」
うんうんと頷くハラーツァイ。ツッコミを入れたそうな目のエルガー。
「リアルブルーの人に話さ聞いたら、せいふくってどんなんか教えてくれっかな?」
「それはいい案だね。ハンターの皆さんをお呼びして、手伝っていただこうか」
「やったー!」
「ではハラーツァイ、依頼書を書くのでハンターズソサエティに、ああ、APVを通じるといいだろうか。持って行っておくれ」
「はーい!」
その場でさらさらと書かれた依頼書を受け取って、意気揚々と駆けて行くハラーツァイ。
「……どういうつもりですか、校長」
その姿を唖然と見送ったエルガーが尋ねると、アンゼルムはそっと口元に笑みを浮かべた。
「戦いに身を置く者にとって、日常とはとても大切なものだ。それがなければ、必ず帰ってこようと思えなくなってしまう」
自分より高いエルガーの肩に、校長は優しく手を置いた。
「それは、君にとっても同じだ。私は君に、早く卒業し立派な士官として活躍してほしいとは思っているが、それでもイルリヒトにいることを望む間は、その日常を大切にしたいと思っているんだよ」
肩に年長者としての温もりと優しさを感じ――エルガーは、ふっと視線を落とした。
ここでは覚醒者の少年少女達が、帝国軍の未来の士官となるべく訓練を積み、実戦へと旅立っていき、そして大抵は帰ってくる場所。
今回の歪虚CAM相手の戦闘には出撃命令が下りなかったため、学生達は静かに訓練に明け暮れる年明けを迎えていた。
――のは、全体的な話である。
つまり局所的にはうるさい場所もある。
「なーなーエルガー! 知ってるべか!」
「おいなんだハラーツァイ。俺は訓練場に行きたいんだが」
「リアルブルーの学校には、『せいふく』があんだよ!」
あ、こいつ俺の話全然聞いてねぇ。
エルガーはちょっと怒ろうかと思ったが、22歳が16歳相手に感情で怒るのも大人げないのでやめておいた。
「でな、でな。イルリヒト機関も学校だべ?」
「まぁ、そうだが」
「『せいふく』作ったらもっと学校っぽいべ!」
「軍服があるだろう」
「普段着!」
「俺達にそもそも普段なんてな……」
「やりましょう」
「は?」
突如聞こえた声に、エルガーはぽかんと口を開いたまま振り向く。
「こうちょうせんせー!!」
ぶんぶん手を振るハラーツァイに、イルリヒト機関校長アンゼルム・シュナウダーは微笑みと共に手を振り返す。
「確かに戦闘着ではない制服の制定というものは、一体感を高めるためにいいかもしれない」
うんうんと頷くハラーツァイ。ツッコミを入れたそうな目のエルガー。
「リアルブルーの人に話さ聞いたら、せいふくってどんなんか教えてくれっかな?」
「それはいい案だね。ハンターの皆さんをお呼びして、手伝っていただこうか」
「やったー!」
「ではハラーツァイ、依頼書を書くのでハンターズソサエティに、ああ、APVを通じるといいだろうか。持って行っておくれ」
「はーい!」
その場でさらさらと書かれた依頼書を受け取って、意気揚々と駆けて行くハラーツァイ。
「……どういうつもりですか、校長」
その姿を唖然と見送ったエルガーが尋ねると、アンゼルムはそっと口元に笑みを浮かべた。
「戦いに身を置く者にとって、日常とはとても大切なものだ。それがなければ、必ず帰ってこようと思えなくなってしまう」
自分より高いエルガーの肩に、校長は優しく手を置いた。
「それは、君にとっても同じだ。私は君に、早く卒業し立派な士官として活躍してほしいとは思っているが、それでもイルリヒトにいることを望む間は、その日常を大切にしたいと思っているんだよ」
肩に年長者としての温もりと優しさを感じ――エルガーは、ふっと視線を落とした。
リプレイ本文
イルリヒト機関の制服制定。
それぞれのアイディアを胸に集まったハンター達の中で、レム・K・モメンタム(ka0149)はすっと目を細める。
「イルリヒト、歪虚CAMの騒動では動かなかったのね。意外だわ……」
「今回は錬魔院の研究自体が戦いの主力であったようだから、声がかからなかったのだろうね」
その小さな呟きに、応えたのは校長アンゼルム・シュタイナーであった。
「イルリヒト機関は、錬魔院の下部組織だからね」
「……」
ふっとレムは口を噤む。含みと陰りのある沈黙が、校長とレムの間に一瞬だけ落ちた。
「……な、何でも無いわ。とりあえず今回は制服作るのよね?」
「ああ、生徒達も楽しみにしている、どうかよろしく頼むよ」
そう言って校長が視線を向けた先には。
「セイフク……ええと、軍服みたいなものかしら?」
「うーん、でも今回は出撃用じゃなくて日常用の、学生さんっぽいのを作るんだよね?」
「えっ、そうなの? 自らの所属を明らかにするっていうだけじゃないの?」
スケッチブックにペンを走らせながら言った天竜寺 詩(ka0396)の言葉に、首を傾げるヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)。
「新しい制服だなんて、『こすぷれ』好きとしては見逃せないッスね!」
「こ、こすぷれ?」
さらに新たな単語がヴィンフリーデを悩ませている間に、ソフィア・シャリフ(ka2274)が豊かな胸をばんと張る。
「なにを隠そうこの服も実は軍服コスッスー! あ、この髪もカツラっすよ。色んなカッコに合わせるなら髪は長い方が便利っすからねー」
「え? あの、カツラも用意するの?」
「しないしない」
混乱状態のヴィンフリーデに、縫い針を動かしつつ横からそっとツッコミを入れる薄氷 薫(ka2692)。
その横で、ほう、と幸せそうなため息をついたのは、ヴァ・ロン・ナイル(ka2987)である。
「学校全体で揃いのお洋服ですかぁ……じ・つ・にっ、良ぃ~い儲けばな……もとい、良い制度だと思うんですよっ? ……あわよくば、そこに一枚二枚噛めれば……あ、いえ、ナンデモナイデス」
集まった視線に、慌ててふるふると首を振るヴァ・ロンである。
「ええと。軍服ではなく、普段のお洋服、ということで」
一つ咳払い、通常モードに戻るヴァ・ロン。
「生活にメリハリをつけるって意味もあるんでしょうかね、軍隊らしいなーとか思ったりもしますけれども!」
「日々の暮らしは戦いの準備であるとしても、痛みや苦しみまで引きずってほしくはないからね」
軍隊らしいと言えばそうかもしれない、と、ヴァ・ロンの言葉に校長は頷く。
「とにかく、制服っていいよね。身に着けるとこう、気が引き締まる感じがするし」
皆で案を出し合って、機関の人達が満足してくれる物を作れたらいいね、と詩が笑って、スケッチブックに描き上げたイラストをイルリヒトの生徒達に見せる。
「わ、可愛い!」
「男女ではスカートかズボンか、しか違わないのかな?」
「そうだね。これは私がリアルブルーで通ってた学校の学生服なんだけど、女子は赤黒チェックのスカートに白いブラウス、紺のブレザー。首にはおっきなリボンだったんだ。男子はズボンにネクタイね」
集まったイルリヒトの生徒達に、詩が説明を加えていく。
「リボンとネクタイは学年毎に色が違うんだよ。胸元には学校の記章が入ってたよ」
「学年?」
「んー、年齢ごと? かな?」
「うちだったらチームごと、か一等兵と二等兵で分けるか、かな?」
イルリヒトの生徒は、増減はあるがおよそ30人から40人ほどだ。座学や基礎訓練は全員で受けることが多いし、演習と呼ばれる実践訓練や戦場への出撃命令ではチームで行動することが多く、学年という概念はない。
「友達の学校は、男子は詰襟の黒の学生服に、女子はセーラー服だったかな。そういえば家にあった古い写真に、ご先祖様が剣道の袴みたいなのを着てたなぁ。大正ロマンって感じであれも素敵だよ♪」
描かれたイラストに、また歓声が上がる。
「リアルブルーの制服への憧れもいいけれど、帝国の文化も両立できないかしら」
そう語るレムの話に耳を傾けるのは、主に年長の生徒達だ。
「ほら、教育機関であると同時に帝国の組織じゃない、イルリヒト」
「確かにそうだな。帝国というとやはり軍服のイメージが先立ってはしまうが」
ふむ、とエルガーが興味深げに言うのに、レムは頷いて。
「後は、イルリヒトがどんな組織でありたいか、てのも大事でしょ? 例えば帝国への忠誠、国民を守ること、歪虚の駆逐……個人個人で主義主張は違うでしょうけど、『イルリヒト機関』として最も尊ぶものがあるはずよ」
「機関として……か」
「校長先生はよく、『軍人であると同時に人であるように』って言うわね。軍人としての効率や戦術を考える時にも、人としての気持ちを忘れないように、って」
「まぁ、授業の時は鬼教官だけどな」
学生達の間に笑い声が弾ける。聞こえている距離であろうが、校長は何も言わなかった。
それが、互いの間にある信頼関係を表しているのかな、とレムは思う。
「『制服』っていうのは、組織の秩序を人々に持たせる為の衣服……っていうのがあるみたいだから、その上で色々と表現するようなデザインを体現するのがいいと思うわ」
「なるほど。その組織の秩序を持たせるために、イルリヒト機関として尊ぶものを体現する、ということか」
エルガーの言葉にレムはその通りと頷いて。制服に関する学則も必要だという提案には、検討するべきだろうと校長も頷く。
レムの考えたベースは、冬服はケープマントとコート、夏服は半袖のジャケットにワイシャツ、ズボンは長裾。生徒達のアイディアを取り入れながら、段々と案ができていく。
「オレから提案するのはーメイド服に執事服っす!」
ソフィアのドヤ顔と勢いよく取り出された使用人の衣装に、思わず唖然とする生徒達。
「リアルブルーにいる人から聞いたんス。あちらにはすっごいメイドとか執事とかがいるらしいっす」
「そ……そうなんですか?」
真面目そうな眼鏡の少年が尋ねると、ソフィアはばんと豊かな胸を張って頷く。
「主人が困っていたらサッと気が付かれないように手筈を整えて、さりげなくお助けする。主人の敵がいれば、主人がそうと気付かないうちに撃滅! 敵が『貴様は誰だー!』と言うとそいつは言うんス! 『ただの執事ですよ』とか!」
誰だソフィアにそんな特殊な執事の話を吹き込んだの。
「そんなわけで、くにをしゅじんとしたメイドとか執事ってかんがえるとすてきだとおもうんです、けっしてオレのしゅみだけでいってるわけじゃないす」
完膚なきまでに完璧な棒読みであった。
「すごい……そこまで考えてのメイドと執事だったなんて……!」
そして棒読みなのに言いくるめられる生徒達(の一部)。
「執事もメイドもクラシカルなデザインが良いと思うっす。それがメインになると主人より輝くっすから……でも、地味すぎると思うッスから、ここの勲章って言うんスかね? そういうのをあしらっておくとか、どうっすかね?」
「特にイルリヒトの紋章があるわけじゃないから、帝国の紋章とかかな……」
早速一同がどんなアレンジがいいかと考える中、ソフィアはさっきの眼鏡の少年とハラーツァイの肩をぽんと叩いた。
「そうそう、後で発表するので、お二人でこれ着て欲しいっす!」
え、と戸惑う少年。いいのか!? と喜んでいるハラーツァイ。
「そしてコスプレするなら演技からっす! 特訓いくっすよ!」
「おー!」
「お、え、え、おー?」
そんな様子をエルガーはやれやれと、校長は微笑ましげに見守るのであった。
「実家に居た時は仕立てて貰う事が多かったからそれなりに分かるけど、すっごく詳しいっていうわけでもないのよねえ……」
難しい顔で考え込んでいたヴィンフリーデの耳に、薫の呟きが飛び込んでくる。
「日常用だからどっちかっていうと運動性は考えなくていいか」
一応着崩しも出来るようにして、制服だけでクラスとかも分かった方がいいな、と思いながら、せっせと針を動かす薫。持ち込んだ人形サイズのトルソーに合わせて今縫っているセーラー服は、紺の襟に赤いラインが入り、胴部分は白のデザイン。
「日常……日常ねえ。正式な場にも着ていけるものでしょう? だったら女子は絶対スカート、しかも膝下丈よね」
ヴィンフリーデの頭の中にアイディアが浮かんでいく。歩きやすく運動性を確保するためにプリーツも付けたいわ、と考えて。
「通常の3倍以上の布地を使う事は上流階級の服の証にもなるし、お金は持っている者が出さなきゃ死ぬだけよ。もちろん学校から補助も出るのでしょうね?」
にっこり笑って尋ねたヴィンフリーデに、校長はもちろんと頷いて。
「今回は学校側からの提案であるし、全員が用立てねばならぬものだから学校から資金は出すことになる。実家が貧しく自分の給金から仕送りを行っている生徒もいる中、生徒達に負担をかける気はないよ」
「へぇ……」
感心したように、ヴィンフリーデは微笑む。
「そっか。イルリヒトに入っている地点で軍属って扱いだから、お給料が出るんだっけ」
「二等兵もしくは一等兵に定められている分が支払われるよ」
帝国出身であるレムの呟きに、校長と共に同じ帝国生まれのヴィンフリーデが頷く。
「首筋や襟元はネックレスやイヤリングを邪魔しない程度に開いていると望ましいのだけれども……あら」
そう考えていたヴィンフリーデが目を当てたのは、薫がさっきまで縫っていたセーラー服のミニチュアである。
ちなみに薫は今度はスカートに取り掛かっている。速い。
黒い膝丈のスカートはパニエで少しふんわりと、アジャスターとスカート用ベルトで長さやウェストが調整できるように。成長期の少女達が、制服を買い替えなくても済むように。
「このセーラー服ってやつ、カットがローブ・デコルテに似てるじゃない。これなら正式な場では胸当て布を外すだけでいいわね」
「余りだらだらしない感じの方が良いしな、軍人の士官生がだらだらしてたら機関の評判も落ちちまうし」
「そうね、もっと浸透して来たらそのままでもいいのでしょうけど……」
そう、薫の言葉にヴィンフリーデは頷いて。
「男性は燕尾服……はいかにもよね。いっそセーラーの上着の下にパンツで統一感を出すのはどう? 動きやすさ重視で夏はハーフパンツっていうのもいいわね」
そうデザインを考えていくヴィンフリーデを眺めながら、薫は針を動かしつつ思う。
(……しかし、これは家事っていう域じゃない気がしてきた)
イメージが湧きやすいように、と靴までトルソーサイズで作る。家事ではなくクラフトの域かもしれない。
「私、ヴァ・ロン・ナイルが提案いたしますは、そのメリハリに注目した『正反対の服』でございますよー!」
「正反対?」
ヴァ・ロンのプレゼンテーションに、疑問と興味の声が揃う。
「みなさんが普段ご着用なさってる軍服とは、デザインやカラーリングを正反対にするんです。ふっふっふ、どうです見事な発想でしょ?」
ここで全力のドヤ顔!
「詰襟ならば、やや広めに襟を開けてリボンタイをするだとか。ワンピースならば上着とボトムにするだとか。女性の場合だったらタイトスカートだったらプリーツやフレアに、逆もまたしかりってやつで!」
色も、白や青、もしくは淡くて明るい色合いを基調にするとかですかねぇ、とヴァ・ロンは楽しげに語る。
確かに帝国軍の軍装は、基本的に一般兵なら黒、士官なら赤といった、割とはっきりした色合いだ。
「どうしても、軍服っていかめしくなりがちですから、こっちはやわらかめの雰囲気を重視するのが良いかと思いますよぉ!」
きらきら瞳を輝かせるヴァ・ロンに、特に年頃の女子生徒などは興味深げに頷く。
スケッチブックに絵を描きながら説明していた詩が、ふと顔を上げた。
「あ、そうそう詰襟といえば友達に見せてもらった漫画で、番長さんが着てたバンカラスタイル、あれは結構恰好よかったな。男子はああいうの着てもいいかも♪」
口には何故か細い枝を咥えてるの、と楽しげな詩に、生徒達がエルガーへと視線を走らせる。
「どしたの?」
「あんな、エルガーは時々番長って呼ばれてんだよ。ここにずっといるし」
「そうそう、イルリヒトの改革前からね」
「なんでも今の校長先生が来たときも、本当にイルリヒトを任せられるかって勝負挑んだとか……」
何があったんだろうイルリヒト、と思いつつ、確かにエルガーに番長スタイルは似合うだろうなぁと思う詩だった。
出来上がった制服のデザイン案に、ヴィンフリーデはどれが一番可愛いかしら、と呟いて、周りの生徒達にニヤニヤされる。
「なによう、意外と少女趣味とか言わない!」
ぷんと怒るその傍らでは、ソフィアの指導でハラーツァイと眼鏡くんがメイドと執事を披露している。
詩が頑張って作った自分の学校の制服やヴァ・ロンが考えた柔らかな色合いも、可愛らしく人気だ。レムと生徒達のデザインは、ケープマントに同色で施した精密な帝国紋章の刺繍と『我等軍人也、我等人也』と帝国語で金糸で施されたメッセージが人気を誘う。
最初は投票で決めるつもりだったが、話し合っているうちにこちらのコートとこちらの制服を組み合わせたら、とさらに案が発展していく。
そして――薫の提案したセーラー服にベスト、女子はプリーツスカートにハイソックスをガーターで止め、男子はズボンにショートブーツというデザインを基本に、冬服にはレムの提案したケープマントを重ね、スカートとズボン、そして襟色は冬は紺、夏はヴァ・ロンのアイディアを取り入れた水色に決まる。夏は校内での着用であれば、ヴィンフリーデが提案したハーフパンツも選べるようにして。
タイは詩が説明したスカーフタイプのタイと、大きなリボンが人気。
ついでに清掃活動や食事当番などの時には、ソフィアが出してきたメイド服のエプロンが女子の圧倒的人気で採用された。
あとは、見本を作って仕立てに出す段階――で。
「あたしも何事もなくここに通えていれば着れたのかしら。ま、今が不満ってわけじゃないけどね」
小さく呟いたヴィンフリーデに、ヴァ・ロンが目を輝かせて。
「ロンも着たいですけどぉ……」
「ええと、着たいわけでもなくってよ? ロンさん?」
「レムちゃんとかヴィンフリーデちゃんの方が背もちっちゃいし作りやすいかもですねぇ……おやこんなところに謎の巻尺がー!?」
「そんなきらきらした目で見ないでいただけるかしら。その、何か圧力が怖……」
「うん、ヴァロン、何その目せ――って、」
「衝立は、衝立はありませんかぁ!? せっかくだから着てみましょうよぉ!」
「ギャーッ!?」
こうして、年明けのイルリヒトには賑わいと楽しみが訪れたのであった。
それぞれのアイディアを胸に集まったハンター達の中で、レム・K・モメンタム(ka0149)はすっと目を細める。
「イルリヒト、歪虚CAMの騒動では動かなかったのね。意外だわ……」
「今回は錬魔院の研究自体が戦いの主力であったようだから、声がかからなかったのだろうね」
その小さな呟きに、応えたのは校長アンゼルム・シュタイナーであった。
「イルリヒト機関は、錬魔院の下部組織だからね」
「……」
ふっとレムは口を噤む。含みと陰りのある沈黙が、校長とレムの間に一瞬だけ落ちた。
「……な、何でも無いわ。とりあえず今回は制服作るのよね?」
「ああ、生徒達も楽しみにしている、どうかよろしく頼むよ」
そう言って校長が視線を向けた先には。
「セイフク……ええと、軍服みたいなものかしら?」
「うーん、でも今回は出撃用じゃなくて日常用の、学生さんっぽいのを作るんだよね?」
「えっ、そうなの? 自らの所属を明らかにするっていうだけじゃないの?」
スケッチブックにペンを走らせながら言った天竜寺 詩(ka0396)の言葉に、首を傾げるヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)。
「新しい制服だなんて、『こすぷれ』好きとしては見逃せないッスね!」
「こ、こすぷれ?」
さらに新たな単語がヴィンフリーデを悩ませている間に、ソフィア・シャリフ(ka2274)が豊かな胸をばんと張る。
「なにを隠そうこの服も実は軍服コスッスー! あ、この髪もカツラっすよ。色んなカッコに合わせるなら髪は長い方が便利っすからねー」
「え? あの、カツラも用意するの?」
「しないしない」
混乱状態のヴィンフリーデに、縫い針を動かしつつ横からそっとツッコミを入れる薄氷 薫(ka2692)。
その横で、ほう、と幸せそうなため息をついたのは、ヴァ・ロン・ナイル(ka2987)である。
「学校全体で揃いのお洋服ですかぁ……じ・つ・にっ、良ぃ~い儲けばな……もとい、良い制度だと思うんですよっ? ……あわよくば、そこに一枚二枚噛めれば……あ、いえ、ナンデモナイデス」
集まった視線に、慌ててふるふると首を振るヴァ・ロンである。
「ええと。軍服ではなく、普段のお洋服、ということで」
一つ咳払い、通常モードに戻るヴァ・ロン。
「生活にメリハリをつけるって意味もあるんでしょうかね、軍隊らしいなーとか思ったりもしますけれども!」
「日々の暮らしは戦いの準備であるとしても、痛みや苦しみまで引きずってほしくはないからね」
軍隊らしいと言えばそうかもしれない、と、ヴァ・ロンの言葉に校長は頷く。
「とにかく、制服っていいよね。身に着けるとこう、気が引き締まる感じがするし」
皆で案を出し合って、機関の人達が満足してくれる物を作れたらいいね、と詩が笑って、スケッチブックに描き上げたイラストをイルリヒトの生徒達に見せる。
「わ、可愛い!」
「男女ではスカートかズボンか、しか違わないのかな?」
「そうだね。これは私がリアルブルーで通ってた学校の学生服なんだけど、女子は赤黒チェックのスカートに白いブラウス、紺のブレザー。首にはおっきなリボンだったんだ。男子はズボンにネクタイね」
集まったイルリヒトの生徒達に、詩が説明を加えていく。
「リボンとネクタイは学年毎に色が違うんだよ。胸元には学校の記章が入ってたよ」
「学年?」
「んー、年齢ごと? かな?」
「うちだったらチームごと、か一等兵と二等兵で分けるか、かな?」
イルリヒトの生徒は、増減はあるがおよそ30人から40人ほどだ。座学や基礎訓練は全員で受けることが多いし、演習と呼ばれる実践訓練や戦場への出撃命令ではチームで行動することが多く、学年という概念はない。
「友達の学校は、男子は詰襟の黒の学生服に、女子はセーラー服だったかな。そういえば家にあった古い写真に、ご先祖様が剣道の袴みたいなのを着てたなぁ。大正ロマンって感じであれも素敵だよ♪」
描かれたイラストに、また歓声が上がる。
「リアルブルーの制服への憧れもいいけれど、帝国の文化も両立できないかしら」
そう語るレムの話に耳を傾けるのは、主に年長の生徒達だ。
「ほら、教育機関であると同時に帝国の組織じゃない、イルリヒト」
「確かにそうだな。帝国というとやはり軍服のイメージが先立ってはしまうが」
ふむ、とエルガーが興味深げに言うのに、レムは頷いて。
「後は、イルリヒトがどんな組織でありたいか、てのも大事でしょ? 例えば帝国への忠誠、国民を守ること、歪虚の駆逐……個人個人で主義主張は違うでしょうけど、『イルリヒト機関』として最も尊ぶものがあるはずよ」
「機関として……か」
「校長先生はよく、『軍人であると同時に人であるように』って言うわね。軍人としての効率や戦術を考える時にも、人としての気持ちを忘れないように、って」
「まぁ、授業の時は鬼教官だけどな」
学生達の間に笑い声が弾ける。聞こえている距離であろうが、校長は何も言わなかった。
それが、互いの間にある信頼関係を表しているのかな、とレムは思う。
「『制服』っていうのは、組織の秩序を人々に持たせる為の衣服……っていうのがあるみたいだから、その上で色々と表現するようなデザインを体現するのがいいと思うわ」
「なるほど。その組織の秩序を持たせるために、イルリヒト機関として尊ぶものを体現する、ということか」
エルガーの言葉にレムはその通りと頷いて。制服に関する学則も必要だという提案には、検討するべきだろうと校長も頷く。
レムの考えたベースは、冬服はケープマントとコート、夏服は半袖のジャケットにワイシャツ、ズボンは長裾。生徒達のアイディアを取り入れながら、段々と案ができていく。
「オレから提案するのはーメイド服に執事服っす!」
ソフィアのドヤ顔と勢いよく取り出された使用人の衣装に、思わず唖然とする生徒達。
「リアルブルーにいる人から聞いたんス。あちらにはすっごいメイドとか執事とかがいるらしいっす」
「そ……そうなんですか?」
真面目そうな眼鏡の少年が尋ねると、ソフィアはばんと豊かな胸を張って頷く。
「主人が困っていたらサッと気が付かれないように手筈を整えて、さりげなくお助けする。主人の敵がいれば、主人がそうと気付かないうちに撃滅! 敵が『貴様は誰だー!』と言うとそいつは言うんス! 『ただの執事ですよ』とか!」
誰だソフィアにそんな特殊な執事の話を吹き込んだの。
「そんなわけで、くにをしゅじんとしたメイドとか執事ってかんがえるとすてきだとおもうんです、けっしてオレのしゅみだけでいってるわけじゃないす」
完膚なきまでに完璧な棒読みであった。
「すごい……そこまで考えてのメイドと執事だったなんて……!」
そして棒読みなのに言いくるめられる生徒達(の一部)。
「執事もメイドもクラシカルなデザインが良いと思うっす。それがメインになると主人より輝くっすから……でも、地味すぎると思うッスから、ここの勲章って言うんスかね? そういうのをあしらっておくとか、どうっすかね?」
「特にイルリヒトの紋章があるわけじゃないから、帝国の紋章とかかな……」
早速一同がどんなアレンジがいいかと考える中、ソフィアはさっきの眼鏡の少年とハラーツァイの肩をぽんと叩いた。
「そうそう、後で発表するので、お二人でこれ着て欲しいっす!」
え、と戸惑う少年。いいのか!? と喜んでいるハラーツァイ。
「そしてコスプレするなら演技からっす! 特訓いくっすよ!」
「おー!」
「お、え、え、おー?」
そんな様子をエルガーはやれやれと、校長は微笑ましげに見守るのであった。
「実家に居た時は仕立てて貰う事が多かったからそれなりに分かるけど、すっごく詳しいっていうわけでもないのよねえ……」
難しい顔で考え込んでいたヴィンフリーデの耳に、薫の呟きが飛び込んでくる。
「日常用だからどっちかっていうと運動性は考えなくていいか」
一応着崩しも出来るようにして、制服だけでクラスとかも分かった方がいいな、と思いながら、せっせと針を動かす薫。持ち込んだ人形サイズのトルソーに合わせて今縫っているセーラー服は、紺の襟に赤いラインが入り、胴部分は白のデザイン。
「日常……日常ねえ。正式な場にも着ていけるものでしょう? だったら女子は絶対スカート、しかも膝下丈よね」
ヴィンフリーデの頭の中にアイディアが浮かんでいく。歩きやすく運動性を確保するためにプリーツも付けたいわ、と考えて。
「通常の3倍以上の布地を使う事は上流階級の服の証にもなるし、お金は持っている者が出さなきゃ死ぬだけよ。もちろん学校から補助も出るのでしょうね?」
にっこり笑って尋ねたヴィンフリーデに、校長はもちろんと頷いて。
「今回は学校側からの提案であるし、全員が用立てねばならぬものだから学校から資金は出すことになる。実家が貧しく自分の給金から仕送りを行っている生徒もいる中、生徒達に負担をかける気はないよ」
「へぇ……」
感心したように、ヴィンフリーデは微笑む。
「そっか。イルリヒトに入っている地点で軍属って扱いだから、お給料が出るんだっけ」
「二等兵もしくは一等兵に定められている分が支払われるよ」
帝国出身であるレムの呟きに、校長と共に同じ帝国生まれのヴィンフリーデが頷く。
「首筋や襟元はネックレスやイヤリングを邪魔しない程度に開いていると望ましいのだけれども……あら」
そう考えていたヴィンフリーデが目を当てたのは、薫がさっきまで縫っていたセーラー服のミニチュアである。
ちなみに薫は今度はスカートに取り掛かっている。速い。
黒い膝丈のスカートはパニエで少しふんわりと、アジャスターとスカート用ベルトで長さやウェストが調整できるように。成長期の少女達が、制服を買い替えなくても済むように。
「このセーラー服ってやつ、カットがローブ・デコルテに似てるじゃない。これなら正式な場では胸当て布を外すだけでいいわね」
「余りだらだらしない感じの方が良いしな、軍人の士官生がだらだらしてたら機関の評判も落ちちまうし」
「そうね、もっと浸透して来たらそのままでもいいのでしょうけど……」
そう、薫の言葉にヴィンフリーデは頷いて。
「男性は燕尾服……はいかにもよね。いっそセーラーの上着の下にパンツで統一感を出すのはどう? 動きやすさ重視で夏はハーフパンツっていうのもいいわね」
そうデザインを考えていくヴィンフリーデを眺めながら、薫は針を動かしつつ思う。
(……しかし、これは家事っていう域じゃない気がしてきた)
イメージが湧きやすいように、と靴までトルソーサイズで作る。家事ではなくクラフトの域かもしれない。
「私、ヴァ・ロン・ナイルが提案いたしますは、そのメリハリに注目した『正反対の服』でございますよー!」
「正反対?」
ヴァ・ロンのプレゼンテーションに、疑問と興味の声が揃う。
「みなさんが普段ご着用なさってる軍服とは、デザインやカラーリングを正反対にするんです。ふっふっふ、どうです見事な発想でしょ?」
ここで全力のドヤ顔!
「詰襟ならば、やや広めに襟を開けてリボンタイをするだとか。ワンピースならば上着とボトムにするだとか。女性の場合だったらタイトスカートだったらプリーツやフレアに、逆もまたしかりってやつで!」
色も、白や青、もしくは淡くて明るい色合いを基調にするとかですかねぇ、とヴァ・ロンは楽しげに語る。
確かに帝国軍の軍装は、基本的に一般兵なら黒、士官なら赤といった、割とはっきりした色合いだ。
「どうしても、軍服っていかめしくなりがちですから、こっちはやわらかめの雰囲気を重視するのが良いかと思いますよぉ!」
きらきら瞳を輝かせるヴァ・ロンに、特に年頃の女子生徒などは興味深げに頷く。
スケッチブックに絵を描きながら説明していた詩が、ふと顔を上げた。
「あ、そうそう詰襟といえば友達に見せてもらった漫画で、番長さんが着てたバンカラスタイル、あれは結構恰好よかったな。男子はああいうの着てもいいかも♪」
口には何故か細い枝を咥えてるの、と楽しげな詩に、生徒達がエルガーへと視線を走らせる。
「どしたの?」
「あんな、エルガーは時々番長って呼ばれてんだよ。ここにずっといるし」
「そうそう、イルリヒトの改革前からね」
「なんでも今の校長先生が来たときも、本当にイルリヒトを任せられるかって勝負挑んだとか……」
何があったんだろうイルリヒト、と思いつつ、確かにエルガーに番長スタイルは似合うだろうなぁと思う詩だった。
出来上がった制服のデザイン案に、ヴィンフリーデはどれが一番可愛いかしら、と呟いて、周りの生徒達にニヤニヤされる。
「なによう、意外と少女趣味とか言わない!」
ぷんと怒るその傍らでは、ソフィアの指導でハラーツァイと眼鏡くんがメイドと執事を披露している。
詩が頑張って作った自分の学校の制服やヴァ・ロンが考えた柔らかな色合いも、可愛らしく人気だ。レムと生徒達のデザインは、ケープマントに同色で施した精密な帝国紋章の刺繍と『我等軍人也、我等人也』と帝国語で金糸で施されたメッセージが人気を誘う。
最初は投票で決めるつもりだったが、話し合っているうちにこちらのコートとこちらの制服を組み合わせたら、とさらに案が発展していく。
そして――薫の提案したセーラー服にベスト、女子はプリーツスカートにハイソックスをガーターで止め、男子はズボンにショートブーツというデザインを基本に、冬服にはレムの提案したケープマントを重ね、スカートとズボン、そして襟色は冬は紺、夏はヴァ・ロンのアイディアを取り入れた水色に決まる。夏は校内での着用であれば、ヴィンフリーデが提案したハーフパンツも選べるようにして。
タイは詩が説明したスカーフタイプのタイと、大きなリボンが人気。
ついでに清掃活動や食事当番などの時には、ソフィアが出してきたメイド服のエプロンが女子の圧倒的人気で採用された。
あとは、見本を作って仕立てに出す段階――で。
「あたしも何事もなくここに通えていれば着れたのかしら。ま、今が不満ってわけじゃないけどね」
小さく呟いたヴィンフリーデに、ヴァ・ロンが目を輝かせて。
「ロンも着たいですけどぉ……」
「ええと、着たいわけでもなくってよ? ロンさん?」
「レムちゃんとかヴィンフリーデちゃんの方が背もちっちゃいし作りやすいかもですねぇ……おやこんなところに謎の巻尺がー!?」
「そんなきらきらした目で見ないでいただけるかしら。その、何か圧力が怖……」
「うん、ヴァロン、何その目せ――って、」
「衝立は、衝立はありませんかぁ!? せっかくだから着てみましょうよぉ!」
「ギャーッ!?」
こうして、年明けのイルリヒトには賑わいと楽しみが訪れたのであった。
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【相談】機関の仕立て屋 レム・K・モメンタム(ka0149) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/24 09:16:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/23 22:32:24 |