ゲスト
(ka0000)
【血断】ヴォイドライブ
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/16 19:00
- 完成日
- 2019/05/23 15:19
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ハンターズソサエティの受付嬢である紡伎 希(kz0174)は、窓口での依頼受付から裏方での資料整理まで休む間も無く働いていた。
アルテミス小隊が後方へ移動となり、傲慢王との決戦に参加できない以上、希は自分が出来る事を行うだけだった。
「ちょっといいかなー。希ちゃん」
それは、仕事に忙殺していたある日の事。
廊下の角から、長い黒髪を垂らしながら、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、ちょいちょいと手招きしていた。
この先輩受付嬢には、希は何かと世話になる事が多かった。
昨年のクリスマスケーキの時も、沢山いる受付嬢の中から声を掛けられたような……贔屓という訳ではないが、希にとっては先輩であり、そして、親しい“姉”である。
「はい。なんでしょうか、ルミ様」
「実はさ、ちょーと、手伝って貰いたい事があるんだけど……いいかな?」
珍しく遠慮気味な先輩に希は満面の笑みを浮かべた。
こういう機会が無いと、日頃の恩返しもできないし、何より、また自分を頼ってくれる事が嬉しかった。
「もちろんです」
「希ちゃんなら、そう言ってくれると思ったよ~。これ、絶対に秘密だからねっ!」
手渡されたのは、ちょっと薄めの書類の束。
表紙にはリアルブルーの楽器が描かれていた。
「これは?」
「ふふ~ん☆」
口元に人差し指を当ててルミはウィンクした。
言葉に出してはいけない程、きっと、重要かつ機密な事なのだろう。
パラパラと書類を捲り、希はワッと驚きの声を上げそうになった。その口を、ルミが慌てて抑える。
先輩の柔らかい手の感触と甘い香りを受けながら、希はコクコクと頷いた。
「壁に耳あり障子に目ありってね!」
「分かりました。精一杯、お手伝いさせて貰いますね」
希は囁くように静かに――しかし、力強く宣言するのであった。
●
「もうすぐ……“時間”かな?」
チラリと時計を見る希。
宣言通り、手伝える事は全部出来た。最低限の手続きや警備の手配、物品の調達。
後は“時間”になったら、現地に行くだけだ。そこで警備に徹するか、それとも、想いのままに叫ぶかは、まだ決めていない。
「あれ? ルミ様の仕事書類が残ったままだ」
束かカウンターに置いてあるのを見つけ、希はそれを手に取る。
直近の依頼に関する資料のようだ。先輩も先輩で、受付嬢として忙しい日々を送っていたのだろう。
大事な資料なのは分かるので、希はそれを控え室にある彼女の机へと持っていく事にした。
「お邪魔しま……誰もいませんね」
いつもは誰かは休憩している控え室だが、珍しく誰もいなかった。
希はルミの机へと向かい資料を置こうとしたが、机の引き出しが少し開いている事に気が付いた。
「確か、いつもここに入れていたような……」
呟きながら引き出しを開け、斜めに崩れている本や書類を直した時だった。
本と本の隙間に、透明なフィルムのようなもので綺麗に保管されている手紙のようなものが挟まっていたのを希は見つけた。
変に折れてしまってはと思い、それを手に取る。
「……こ、これは!?」
ルミ宛の手紙。差出人は――ソルラ・クートと書かれていた。
一瞬、頭が真っ白になる希。
王国騎士であったソルラと同盟領を中心として活動する受付嬢であるルミに接点があるとは思いもしなかった。
読んではダメだと思いながらも、手紙の内容を読んでしまう希。
手紙には緑髪の少女の事が記してあった。
受付嬢として頑張っているのか、悩んでいる事がないのか、不安な事がないのか。
王国から離れる事が出来ない騎士という立場にあるので、都合がついたら、ルミにみてて貰いたいと。
そして、騎士である以上、万が一の事はいつでもあり得るので、もしもの時は――自分に代わって、緑髪の少女が進む道を見届けて欲しいと。
「う……うぅ……」
声をつまらせてながら涙を零す希。
今は亡き恩人から“願い”と、懇意してくれる先輩の“優しさ”に触れて。
人は、誰かの為に繋がっているのだ。それが義務や仕事ではなくとも、想いとして、確かに、希の手に今、あった。
大事に大事に手紙を正しく戻し、持ってきた資料を置いた。
●
涙を拭いつつ、持ち場に戻った希に緊急の依頼書が回ってきていた。
なんでも、このリゼリオ郊外に歪虚か雑魔の姿が確認できたという。
「なんで、こんなタイミングに!」
時計の針は“時間”を迎えようとしていた。
リゼリオの防備は万全だ。だからといって歪虚が襲来したら多少の騒ぎにはなる。
その騒ぎと、ルミ先輩がやろうとしている事が合わさったら……予想外の惨事に発展する可能性も捨てきれない。
「緊急依頼として出したら、過剰に反応させてしまうかもしれない。けれど、ここで黙ってみている事だって、できない!」
正式な依頼では報酬の認可は大切な所だ。よほど緊急の依頼であれば、受付嬢の一存で決められるケースもあるかもしれないが。
だから、今回、現れた敵の脅威が分からない以上、どの程度の報酬なのかを簡単には決められないし承認も必要。しかし、ゆっくりしていられる状況でもない。
「…………」
手早くハンター用の依頼書を仕上げると、希は魔導剣弓を背負う。
カウンターから飛び出しながら、掲示板に依頼書をバンっと張り付けるとそのまま、外に向かって走り出す。
希が雑に張り付けた依頼書はこう書かれていた。
『大切な人の大舞台を守る為に不埒な輩を排除するお手伝いです』
――と。
ハンターズソサエティの受付嬢である紡伎 希(kz0174)は、窓口での依頼受付から裏方での資料整理まで休む間も無く働いていた。
アルテミス小隊が後方へ移動となり、傲慢王との決戦に参加できない以上、希は自分が出来る事を行うだけだった。
「ちょっといいかなー。希ちゃん」
それは、仕事に忙殺していたある日の事。
廊下の角から、長い黒髪を垂らしながら、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、ちょいちょいと手招きしていた。
この先輩受付嬢には、希は何かと世話になる事が多かった。
昨年のクリスマスケーキの時も、沢山いる受付嬢の中から声を掛けられたような……贔屓という訳ではないが、希にとっては先輩であり、そして、親しい“姉”である。
「はい。なんでしょうか、ルミ様」
「実はさ、ちょーと、手伝って貰いたい事があるんだけど……いいかな?」
珍しく遠慮気味な先輩に希は満面の笑みを浮かべた。
こういう機会が無いと、日頃の恩返しもできないし、何より、また自分を頼ってくれる事が嬉しかった。
「もちろんです」
「希ちゃんなら、そう言ってくれると思ったよ~。これ、絶対に秘密だからねっ!」
手渡されたのは、ちょっと薄めの書類の束。
表紙にはリアルブルーの楽器が描かれていた。
「これは?」
「ふふ~ん☆」
口元に人差し指を当ててルミはウィンクした。
言葉に出してはいけない程、きっと、重要かつ機密な事なのだろう。
パラパラと書類を捲り、希はワッと驚きの声を上げそうになった。その口を、ルミが慌てて抑える。
先輩の柔らかい手の感触と甘い香りを受けながら、希はコクコクと頷いた。
「壁に耳あり障子に目ありってね!」
「分かりました。精一杯、お手伝いさせて貰いますね」
希は囁くように静かに――しかし、力強く宣言するのであった。
●
「もうすぐ……“時間”かな?」
チラリと時計を見る希。
宣言通り、手伝える事は全部出来た。最低限の手続きや警備の手配、物品の調達。
後は“時間”になったら、現地に行くだけだ。そこで警備に徹するか、それとも、想いのままに叫ぶかは、まだ決めていない。
「あれ? ルミ様の仕事書類が残ったままだ」
束かカウンターに置いてあるのを見つけ、希はそれを手に取る。
直近の依頼に関する資料のようだ。先輩も先輩で、受付嬢として忙しい日々を送っていたのだろう。
大事な資料なのは分かるので、希はそれを控え室にある彼女の机へと持っていく事にした。
「お邪魔しま……誰もいませんね」
いつもは誰かは休憩している控え室だが、珍しく誰もいなかった。
希はルミの机へと向かい資料を置こうとしたが、机の引き出しが少し開いている事に気が付いた。
「確か、いつもここに入れていたような……」
呟きながら引き出しを開け、斜めに崩れている本や書類を直した時だった。
本と本の隙間に、透明なフィルムのようなもので綺麗に保管されている手紙のようなものが挟まっていたのを希は見つけた。
変に折れてしまってはと思い、それを手に取る。
「……こ、これは!?」
ルミ宛の手紙。差出人は――ソルラ・クートと書かれていた。
一瞬、頭が真っ白になる希。
王国騎士であったソルラと同盟領を中心として活動する受付嬢であるルミに接点があるとは思いもしなかった。
読んではダメだと思いながらも、手紙の内容を読んでしまう希。
手紙には緑髪の少女の事が記してあった。
受付嬢として頑張っているのか、悩んでいる事がないのか、不安な事がないのか。
王国から離れる事が出来ない騎士という立場にあるので、都合がついたら、ルミにみてて貰いたいと。
そして、騎士である以上、万が一の事はいつでもあり得るので、もしもの時は――自分に代わって、緑髪の少女が進む道を見届けて欲しいと。
「う……うぅ……」
声をつまらせてながら涙を零す希。
今は亡き恩人から“願い”と、懇意してくれる先輩の“優しさ”に触れて。
人は、誰かの為に繋がっているのだ。それが義務や仕事ではなくとも、想いとして、確かに、希の手に今、あった。
大事に大事に手紙を正しく戻し、持ってきた資料を置いた。
●
涙を拭いつつ、持ち場に戻った希に緊急の依頼書が回ってきていた。
なんでも、このリゼリオ郊外に歪虚か雑魔の姿が確認できたという。
「なんで、こんなタイミングに!」
時計の針は“時間”を迎えようとしていた。
リゼリオの防備は万全だ。だからといって歪虚が襲来したら多少の騒ぎにはなる。
その騒ぎと、ルミ先輩がやろうとしている事が合わさったら……予想外の惨事に発展する可能性も捨てきれない。
「緊急依頼として出したら、過剰に反応させてしまうかもしれない。けれど、ここで黙ってみている事だって、できない!」
正式な依頼では報酬の認可は大切な所だ。よほど緊急の依頼であれば、受付嬢の一存で決められるケースもあるかもしれないが。
だから、今回、現れた敵の脅威が分からない以上、どの程度の報酬なのかを簡単には決められないし承認も必要。しかし、ゆっくりしていられる状況でもない。
「…………」
手早くハンター用の依頼書を仕上げると、希は魔導剣弓を背負う。
カウンターから飛び出しながら、掲示板に依頼書をバンっと張り付けるとそのまま、外に向かって走り出す。
希が雑に張り付けた依頼書はこう書かれていた。
『大切な人の大舞台を守る為に不埒な輩を排除するお手伝いです』
――と。
リプレイ本文
●
リゼリオ郊外の丘に到着した直後の事だった。
街からルミ・ヘヴンズドア(kz0060)の歌声……いや、叫び声と共に電子音が響いてきた。
「『大切な人の大舞台を守る為に不埒な輩を排除するお手伝いです』、か……」
事情を察した瀬崎・統夜(ka5046)がフッと微笑を浮かべると、紡伎 希(kz0174)に視線を向ける。
希は申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げた。
「皆様、申し訳ありません」
騙したような依頼に付き合わせてしまってと、そういう意味でだ
「いや、なかなか、粋な依頼じゃないか、面白い……付き合ってやるさ」
「統夜様……」
「友の為だろ。嫌いじゃねえよ、そういうの」
魔導銃を両手で持ち、瀬崎は希に言った。
この少女には、きっと、色々な葛藤があったのだろう。それでも助けを求めた。
それで良いのだ。だから、こそ、ここに自分が、仲間達が、“在る”のだから。
涙目の希の背をソフィア =リリィホルム(ka2383)が勢いよく叩く。
「いいねえ、こっちも負けないぐらい『騒がしく』いこうぜぇ!」
「は、はいっ!」
「紡伎も、そっちの剣弓野郎も言いたい事あるなら吼えて……って、それは普通の武器か」
希が背負っている武器は魔装鞘ではなく、魔導剣弓だった。
魔装は転移門を通過できないので、リゼリオには持って来ていないのだろう。
まぁ、考えようによっては、“本人”が居ない方が、想いを思いっきり叫べる場合もあるし、兎に角、吼えてもいいはずだ。
(わたしもルミには多少なり縁があるしな……折角の大舞台、邪魔はさせられねえなあ)
ソフィアはリゼリオの方を振り返りながら、心の中で呟いた。
きっと、今頃、街中はちょっとした騒ぎになっているだろう。
街から聞こえてくる歌と曲に時音 ざくろ(ka1250)は、並び立つアルラウネ(ka4841)の横顔を見つめた。
その視線に気が付いて、アルラウネは少しだけ首を傾げる。
「どうしたの?」
「『大切な人の大舞台』……。これは絶対、成功させなくちゃね。ざくろ達が力にならないと!」
真っ直ぐで力強いざくろの宣言に、アルラウネは深く頷いた。
時々、突拍子もなくドキッとさせてくるのが、この男の才能というのか、性格なのだろう。
「そうね……全く、すぐに力が入るんだから」
「早く彼奴らを倒して、希を見に行かなくちゃ」
二人は武器を構えてズンズンと前へと進み出る。
ルミの叫びが、熱意が、想いとなって背中を押している――自然と力が湧いてくる。そう感じられた。
淡々と進む二人の名を希が呼んだ。
「ざくろ様、アルラウネ様……」
「こういう時こそ、お姉さんの出番よね」
「大丈夫。絶対に間に合わせるから」
アルラウネとざくろは振り返る事なく、希に言葉を返した。
軽く頭を下げた希の肩にUisca Amhran(ka0754)が優しく手を触れる。
「ふふ。ノゾミちゃんの字で緊急依頼があったら、姉代わりな私的には、来るしかないよね?」
依頼の内容うんぬんかんぬんではない。希の力になりたいからこそ、Uiscaも含め、ここにハンター達は集まった。
それが言葉に言い表せない程に希は嬉しかった。
●
不可思議な金属で造られたマネキン人形の歪虚が、丘の上からリゼリオに向かってフラフラと進んでくる。
見るからに嫉妬――ピグマリオ――に分類される歪虚のようだ。
「初見の敵かぁ……データがないのは厄介ね」
少し眉をひそめるアルラウネ。
嫉妬特有の能力もあるかもしれない。油断できないのは確かだろう。
「アルラ、ざくろ達の仲良いとこ、奴らにもしっかり見せてやろ」
「え? う……うん。そう……ね。“仲良い所”を見せつけてあげるわ!」
爽やかな笑顔で剣と盾を構えるざくろの言葉に、アルラウネは一瞬戸惑いながらも答えた。
夫婦の連携を見せつけるしかない。
敵に近づいていく二人を援護するように、魔導剣弓を構えて前に出ようとした希を制するように瀬崎が手を伸ばした。
前衛は二人を信じろという事のようだ。敵の方が、数が多いのだ。希が前に出た所で突破されるのは必至。
だからこそ、二人を信じて後衛は今から攻撃に専念すべき状況なのだ。
「任せろ」
短くそう告げると、瀬崎は魔導銃へマテリアルを込めて弾丸を放つ。
直後、敵の頭上で銃弾が、マテリアルの雨となり降り注いだ。
それは行動不能のバッドステータスを付与させるものではあるが……。
「強度が足りないという感じではなさそうですね」
Uiscaが祈りの印を宙に刻みながら、法術を行使した。
無数の龍牙や龍爪が嫉妬人形を幾体か直撃する。ただ攻撃するだけの法術ではない。移動を封じる力も持っているのだ。
だが――嫉妬人形の動きは止まらない。
それどころか、Uiscaの強力な威力すらも、通じきっていないようだった。
仲間の初手を確認しつつ宝術師としての力を解放するソフィア。
「何か絡繰りでもあるかな……この場を彩る輝石をここに!」
彼女を中心に回転するマテリアル結晶が展開した。
魔法陣の一種であり、魔法を強化するものだ。
「『焔を宿すルビー!』『太陽の光輝、ペリドット』『燃え盛る情熱、ガーネット』……天つ国の扉への道を焔で飾れ!!」
錬金杖の先端から発現した機導術の炎は猛烈な勢いとなって、嫉妬人形共を包み込む。
強力な攻撃であるはずだが、本来持っている威力が大幅に減退しているようだ。
後衛達の攻撃にアルラウネが大太刀で嫉妬人形へと斬りかかる。
「……思った以上に、状態異常や属性攻撃が通り難いかも?」
「着装マテリアルアーマー魔力フル収束!」
マテリアルで防御膜を形成し、ざくろはデルタレイを放った。
三つの光の筋が敵に伸び、それぞれが直撃したが、やはり、属性攻撃は通じにくい。
敵の体勢を崩し、然る後、決定打となる攻撃で畳みかけるのが、勝つための王道だ。
だが、思った以上に嫉妬人形は頑強だった。バッドステータスの付与は失敗し、属性攻撃は本来の威力にならなかったからだ。
ざくろとアルラウネの前衛を突破して後衛に襲い掛かってきた嫉妬人形を瀬崎は白銀の魔導銃を構えて迎え撃つ。
「やらせねえって、これ以上失うのは、もうたくさんなんでな!」
後衛のイメージが強い猟撃士だが、近接時の対抗策がない訳ではない。
射撃と近接格闘術を組み合わせた特殊な戦闘術だ。狂ったように武器を振り回して迫る敵の攻撃を避ける。
連携するかのように別方向から嫉妬人形が槍で突いてきたのを、体を捩じると反撃に銃口を向けた。
だが、発砲する前に新手の嫉妬人形が覆いかぶさるように突貫してきた。恐るべき連携能力だ。
「……命が失われるのも、そこにあった絆が断ち切られるのも、何度となく見てきた」
突貫してきた嫉妬人形を避けつつ、その足を引っかけて倒す。
二体同時の斬撃を地面に倒れ込むように避けると銃口を敵に突き付ける。
「それはもう、終わりにしたいんだよ。その為に銃を手に取ったのだからなっ!」
瀬崎にはここで戦わなければならない理由があった。
自分の力が不足していたとしても、自分だけが出来る事があるから。
奮闘する瀬崎の姿と熱意。リゼリオから響いてくるルミの声。
ソフィアは魔導篭手を力強く握りしめる。今、想いを叫ぶ人がいるのだ。それを守る為に身体を張る奴もいる。
だったら……やれる事は決まっているじゃないかと。
紅眼した左目に輝きが灯った。
「もう、うだうだ悩む地点はトウの昔に通過済みなんだよ!」
星神器“ブリューナク”を掲げ、秘められし“光輝”の力を解放する。
「こいつを握った時……いや、それこそ、あの森から追い出された時からな!」
無数の光線が放たれ、ソフィアの頭上で集束すると、輝かしい太陽を模した光の球となった。
それは瀬崎を取り囲む嫉妬人形を包み込むように爆発する。
「わたしは……生きて、死ぬんだよ!」
強烈な一撃に嫉妬人形が大きな傷を受けたようだ。
ただの強いだけの攻撃ではない。この攻撃を受けた敵は、防御力が短い間だが、皆無となるのだ。
それに合わせて、瀬崎が銃弾を放つ。
「足りなくても力を尽くす。それだけだ!」
決意と共に撃ち出した弾丸はマテリアルを纏い、嫉妬人形を次々に貫いた。
属性攻撃にも耐えられても、そもそもの防御力が無くなれば、意味を成さない。
「今なら! ノゾミちゃん、あちらの敵をお願いっ!」
「分かりました!」
絶好のチャンスにUiscaが法術を使って嫉妬歪虚を攻撃する。
立て続けの後衛陣からの攻撃の前に、敵は耐えきれずボロボロと消滅していった。
相手の防御力を突破できる無属性攻撃か、あるいは、防御力を何らかの手段で無くさせた後の攻撃であれば、倒しやすいようだ。
幸いな事は、敵の攻撃威力が思った以上に高くない事だ。Uiscaの支援魔法が皆を支えていた。
「どういう原理か分からないけど、防御機構に対する絡繰りを崩せたはずだよ」
ソフィアが回転式魔導銃を構えて、前衛で戦う二人に呼び掛けた。
「ノゾミちゃんの前ではやっぱり『お姉さん』でいたいからね~。私も派手に行くわよ~」
微笑を浮かべてアルラウネが宣言すると、大太刀を大上段に構えた。
残った嫉妬歪虚は数体。これを一気に倒すには後衛からの攻撃支援だけではなく、彼女自身の攻撃も求められる。
「心頭滅却。我が太刀は無――」
精神を研ぎ澄まし、敵の中を一気に駆け抜けた。
キラリと刀先が光ったと思った瞬間、嫉妬人形共に恐るべき斬撃となって襲い掛かった。
「ざくろんもいるし、それだけでも、かなりやれると思うのよ!」
豊満な胸がはちきれるじゃないかと思うほど胸を張るアルラウネの台詞にざくろが照れるように、小さく頷いた。
これが夫婦の力と言いたげな様子だ。
援護していた希が「なるほど」と感心する。
「ノゾミちゃんの前で、ざくろんといるのって初めてだっけ? 大丈夫? 刺激的じゃない?」
「……それが、胸が大きくなる秘訣でしょうか?」
「かしらね?」
「ちょっと待って。ざくろは“まだ”、らきすけしてないから。というか、戦闘中にしないから!」
慌てて弁解するざくろ。
“まだ”という所にこれから起こるのかという予感を感じる所だが、敵の反撃は待ってくれない。
アルラウネを脅威として受け取った嫉妬人形の攻撃に――ざくろが盾を持って立ち塞がった。
らきすけの神とかハーレム王とか何か危うい一面もあったりするかもしれないが、今日の彼は本気だ。
「ざくろの愛する人には、指一本触れさせない……」
ガイウスジェイルで仲間を守りつつ、嫉妬人形を攻性防壁で弾き飛ばす。
今回、戦線を維持できたのは彼の働きによる所が大きい。
(……あの時、ソルラを護ることが出来なかった。その後悔は今でも……だからこそ、この先の未来、大切な人は皆、ざくろが護るんだ!)
その想いが彼の戦いを支えていた。
「世界の行く先がどう選ばれようと、ざくろの道は決まっている!」
魔導剣の大きく振りかぶったが、降ろしはしなかった。属性攻撃は威力を大幅に減退されてしまうからだ。
だが、属性攻撃でなければ、敵の防御力を越えさえすればダメージは確実に与えられる。
強引に力強く一歩踏み込むと、ざくろはマテリアルを込めながら盾を突き出した。
「愛する人達との幸せな未来の為に、それを護る為に戦っていくだけだ! 超重圧盾撃!」
盾とはいえ侮れない攻撃力を繰り出した。
敵を倒す事が目的ではない。誰もが、それぞれの想いを成し遂げる為に、武器を振るい……そして、ハンター達は嫉妬人形を全て討ち滅ぼしたのであった。
リゼリオの郊外に現れた嫉妬人形をハンター達は速やかに討伐した。
希が心配したゲリラライブへの影響は無かったのであった。
おしまい
●
出現していた嫉妬人形を討伐したといって安心はできない。
まだ、どこかに潜んでいる可能性もあるからだ。
「ここは、ざくろ達に任せて」
「そうそう、先に行ってて」
ざくろとアルラウネの二人が、希の背中を押した。
まだ、ルミのゲリラライブは続いているのだ。今から戻れば間に合うはず。
「ですが――」
「行って来い。だからこそ、俺達はここにいるんだからな」
「そうそう。こっちも用事を終わらせたら、影から見届けるから」
申し訳なさそうな希の台詞を遮って、瀬崎とソフィアが言った。
希が緊急の依頼を出したのは、ライブへの影響もそうだが、参加したいという思いもあったからだろう。
「ノゾミちゃん、まだ間に合うよっ。さぁ、ルミさんの元へっ」
Uiscaが魔導トライクを希の横に付けた。
準備万端だったという訳だ。希は全員を順に見渡した。
「皆様、ありがとうございます!」
感謝を告げると、緑髪の少女はサイドカーに飛び込むように乗る。
希が確りとベルトを付けた事を確認し、Uiscaはスロットルを全開に回した。
打ち出されるように走り去ったトライクを見送り、残ったハンター達は周囲の安全確認に戻る。
「しかし、解せないな。ハンター達の拠点ともいえるリゼリオに襲撃など……」
「数からして、はぐれ……という感じもしなかったし」
瀬崎の言葉にざくろが同意する。
同盟領は嫉妬王が倒されたばかりだ。嫉妬王の軍勢に残党がいても可笑しくはない。
「これから面倒な事にならなければいいけどね」
「見た目同一個体だから、どこかで量産とか……あり得そうで嫌」
アルラウネが心配し、ソフィアは空を見上げる。
今回の襲撃は、何かの始まりなのかも……しれない。
もはや歌というより想いの叫びがリゼリオから流れ、風と大地を駆ける音が合わさっていた。その中をトライクが駆ける。
「沢山の人との出逢いに感謝ばかりです」
希は緑色の耳飾りに手を触れながら告げる。
今があるのは、多くの出逢いと繋いだ想いがあるからだ。何一つ欠けても、今には至らなかっただろう。
「そうだね……ノゾミちゃんはこれからの事どう思う?」
それは、ハンターオフィスから知らされた邪神の情報と決めなければいけない選択の事だった。
色々な考えや価値が、これからきっと、大きな混乱の渦を巻き起こすかもしれない。
「私にはまだ……イスカさんは?」
その問いに優しき巫女は正面を見据える。
提示された三つの選択肢は彼女にとって納得し難いものだった。
「例え可能性が低くても、時間がないとしても……私は最後まで諦めないっ」
正面から風を受けながらUiscaは希に想いを伝える。
誰かが消える事も歪虚化する事も無く、かつ、邪神に眠る想いも救えるような、そんな選択肢を模索する事を。
「ソルラさん、牡丹さん……私達に託してくれた人達の想いも繋いで……そして、最愛の人と過ごす未来の為に!」
「はい! イスカさん! 想いを繋いで――」
Uiscaの言葉に希は頷いた。
紡いでいくのは未来なのだと。
リゼリオ郊外の丘に到着した直後の事だった。
街からルミ・ヘヴンズドア(kz0060)の歌声……いや、叫び声と共に電子音が響いてきた。
「『大切な人の大舞台を守る為に不埒な輩を排除するお手伝いです』、か……」
事情を察した瀬崎・統夜(ka5046)がフッと微笑を浮かべると、紡伎 希(kz0174)に視線を向ける。
希は申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げた。
「皆様、申し訳ありません」
騙したような依頼に付き合わせてしまってと、そういう意味でだ
「いや、なかなか、粋な依頼じゃないか、面白い……付き合ってやるさ」
「統夜様……」
「友の為だろ。嫌いじゃねえよ、そういうの」
魔導銃を両手で持ち、瀬崎は希に言った。
この少女には、きっと、色々な葛藤があったのだろう。それでも助けを求めた。
それで良いのだ。だから、こそ、ここに自分が、仲間達が、“在る”のだから。
涙目の希の背をソフィア =リリィホルム(ka2383)が勢いよく叩く。
「いいねえ、こっちも負けないぐらい『騒がしく』いこうぜぇ!」
「は、はいっ!」
「紡伎も、そっちの剣弓野郎も言いたい事あるなら吼えて……って、それは普通の武器か」
希が背負っている武器は魔装鞘ではなく、魔導剣弓だった。
魔装は転移門を通過できないので、リゼリオには持って来ていないのだろう。
まぁ、考えようによっては、“本人”が居ない方が、想いを思いっきり叫べる場合もあるし、兎に角、吼えてもいいはずだ。
(わたしもルミには多少なり縁があるしな……折角の大舞台、邪魔はさせられねえなあ)
ソフィアはリゼリオの方を振り返りながら、心の中で呟いた。
きっと、今頃、街中はちょっとした騒ぎになっているだろう。
街から聞こえてくる歌と曲に時音 ざくろ(ka1250)は、並び立つアルラウネ(ka4841)の横顔を見つめた。
その視線に気が付いて、アルラウネは少しだけ首を傾げる。
「どうしたの?」
「『大切な人の大舞台』……。これは絶対、成功させなくちゃね。ざくろ達が力にならないと!」
真っ直ぐで力強いざくろの宣言に、アルラウネは深く頷いた。
時々、突拍子もなくドキッとさせてくるのが、この男の才能というのか、性格なのだろう。
「そうね……全く、すぐに力が入るんだから」
「早く彼奴らを倒して、希を見に行かなくちゃ」
二人は武器を構えてズンズンと前へと進み出る。
ルミの叫びが、熱意が、想いとなって背中を押している――自然と力が湧いてくる。そう感じられた。
淡々と進む二人の名を希が呼んだ。
「ざくろ様、アルラウネ様……」
「こういう時こそ、お姉さんの出番よね」
「大丈夫。絶対に間に合わせるから」
アルラウネとざくろは振り返る事なく、希に言葉を返した。
軽く頭を下げた希の肩にUisca Amhran(ka0754)が優しく手を触れる。
「ふふ。ノゾミちゃんの字で緊急依頼があったら、姉代わりな私的には、来るしかないよね?」
依頼の内容うんぬんかんぬんではない。希の力になりたいからこそ、Uiscaも含め、ここにハンター達は集まった。
それが言葉に言い表せない程に希は嬉しかった。
●
不可思議な金属で造られたマネキン人形の歪虚が、丘の上からリゼリオに向かってフラフラと進んでくる。
見るからに嫉妬――ピグマリオ――に分類される歪虚のようだ。
「初見の敵かぁ……データがないのは厄介ね」
少し眉をひそめるアルラウネ。
嫉妬特有の能力もあるかもしれない。油断できないのは確かだろう。
「アルラ、ざくろ達の仲良いとこ、奴らにもしっかり見せてやろ」
「え? う……うん。そう……ね。“仲良い所”を見せつけてあげるわ!」
爽やかな笑顔で剣と盾を構えるざくろの言葉に、アルラウネは一瞬戸惑いながらも答えた。
夫婦の連携を見せつけるしかない。
敵に近づいていく二人を援護するように、魔導剣弓を構えて前に出ようとした希を制するように瀬崎が手を伸ばした。
前衛は二人を信じろという事のようだ。敵の方が、数が多いのだ。希が前に出た所で突破されるのは必至。
だからこそ、二人を信じて後衛は今から攻撃に専念すべき状況なのだ。
「任せろ」
短くそう告げると、瀬崎は魔導銃へマテリアルを込めて弾丸を放つ。
直後、敵の頭上で銃弾が、マテリアルの雨となり降り注いだ。
それは行動不能のバッドステータスを付与させるものではあるが……。
「強度が足りないという感じではなさそうですね」
Uiscaが祈りの印を宙に刻みながら、法術を行使した。
無数の龍牙や龍爪が嫉妬人形を幾体か直撃する。ただ攻撃するだけの法術ではない。移動を封じる力も持っているのだ。
だが――嫉妬人形の動きは止まらない。
それどころか、Uiscaの強力な威力すらも、通じきっていないようだった。
仲間の初手を確認しつつ宝術師としての力を解放するソフィア。
「何か絡繰りでもあるかな……この場を彩る輝石をここに!」
彼女を中心に回転するマテリアル結晶が展開した。
魔法陣の一種であり、魔法を強化するものだ。
「『焔を宿すルビー!』『太陽の光輝、ペリドット』『燃え盛る情熱、ガーネット』……天つ国の扉への道を焔で飾れ!!」
錬金杖の先端から発現した機導術の炎は猛烈な勢いとなって、嫉妬人形共を包み込む。
強力な攻撃であるはずだが、本来持っている威力が大幅に減退しているようだ。
後衛達の攻撃にアルラウネが大太刀で嫉妬人形へと斬りかかる。
「……思った以上に、状態異常や属性攻撃が通り難いかも?」
「着装マテリアルアーマー魔力フル収束!」
マテリアルで防御膜を形成し、ざくろはデルタレイを放った。
三つの光の筋が敵に伸び、それぞれが直撃したが、やはり、属性攻撃は通じにくい。
敵の体勢を崩し、然る後、決定打となる攻撃で畳みかけるのが、勝つための王道だ。
だが、思った以上に嫉妬人形は頑強だった。バッドステータスの付与は失敗し、属性攻撃は本来の威力にならなかったからだ。
ざくろとアルラウネの前衛を突破して後衛に襲い掛かってきた嫉妬人形を瀬崎は白銀の魔導銃を構えて迎え撃つ。
「やらせねえって、これ以上失うのは、もうたくさんなんでな!」
後衛のイメージが強い猟撃士だが、近接時の対抗策がない訳ではない。
射撃と近接格闘術を組み合わせた特殊な戦闘術だ。狂ったように武器を振り回して迫る敵の攻撃を避ける。
連携するかのように別方向から嫉妬人形が槍で突いてきたのを、体を捩じると反撃に銃口を向けた。
だが、発砲する前に新手の嫉妬人形が覆いかぶさるように突貫してきた。恐るべき連携能力だ。
「……命が失われるのも、そこにあった絆が断ち切られるのも、何度となく見てきた」
突貫してきた嫉妬人形を避けつつ、その足を引っかけて倒す。
二体同時の斬撃を地面に倒れ込むように避けると銃口を敵に突き付ける。
「それはもう、終わりにしたいんだよ。その為に銃を手に取ったのだからなっ!」
瀬崎にはここで戦わなければならない理由があった。
自分の力が不足していたとしても、自分だけが出来る事があるから。
奮闘する瀬崎の姿と熱意。リゼリオから響いてくるルミの声。
ソフィアは魔導篭手を力強く握りしめる。今、想いを叫ぶ人がいるのだ。それを守る為に身体を張る奴もいる。
だったら……やれる事は決まっているじゃないかと。
紅眼した左目に輝きが灯った。
「もう、うだうだ悩む地点はトウの昔に通過済みなんだよ!」
星神器“ブリューナク”を掲げ、秘められし“光輝”の力を解放する。
「こいつを握った時……いや、それこそ、あの森から追い出された時からな!」
無数の光線が放たれ、ソフィアの頭上で集束すると、輝かしい太陽を模した光の球となった。
それは瀬崎を取り囲む嫉妬人形を包み込むように爆発する。
「わたしは……生きて、死ぬんだよ!」
強烈な一撃に嫉妬人形が大きな傷を受けたようだ。
ただの強いだけの攻撃ではない。この攻撃を受けた敵は、防御力が短い間だが、皆無となるのだ。
それに合わせて、瀬崎が銃弾を放つ。
「足りなくても力を尽くす。それだけだ!」
決意と共に撃ち出した弾丸はマテリアルを纏い、嫉妬人形を次々に貫いた。
属性攻撃にも耐えられても、そもそもの防御力が無くなれば、意味を成さない。
「今なら! ノゾミちゃん、あちらの敵をお願いっ!」
「分かりました!」
絶好のチャンスにUiscaが法術を使って嫉妬歪虚を攻撃する。
立て続けの後衛陣からの攻撃の前に、敵は耐えきれずボロボロと消滅していった。
相手の防御力を突破できる無属性攻撃か、あるいは、防御力を何らかの手段で無くさせた後の攻撃であれば、倒しやすいようだ。
幸いな事は、敵の攻撃威力が思った以上に高くない事だ。Uiscaの支援魔法が皆を支えていた。
「どういう原理か分からないけど、防御機構に対する絡繰りを崩せたはずだよ」
ソフィアが回転式魔導銃を構えて、前衛で戦う二人に呼び掛けた。
「ノゾミちゃんの前ではやっぱり『お姉さん』でいたいからね~。私も派手に行くわよ~」
微笑を浮かべてアルラウネが宣言すると、大太刀を大上段に構えた。
残った嫉妬歪虚は数体。これを一気に倒すには後衛からの攻撃支援だけではなく、彼女自身の攻撃も求められる。
「心頭滅却。我が太刀は無――」
精神を研ぎ澄まし、敵の中を一気に駆け抜けた。
キラリと刀先が光ったと思った瞬間、嫉妬人形共に恐るべき斬撃となって襲い掛かった。
「ざくろんもいるし、それだけでも、かなりやれると思うのよ!」
豊満な胸がはちきれるじゃないかと思うほど胸を張るアルラウネの台詞にざくろが照れるように、小さく頷いた。
これが夫婦の力と言いたげな様子だ。
援護していた希が「なるほど」と感心する。
「ノゾミちゃんの前で、ざくろんといるのって初めてだっけ? 大丈夫? 刺激的じゃない?」
「……それが、胸が大きくなる秘訣でしょうか?」
「かしらね?」
「ちょっと待って。ざくろは“まだ”、らきすけしてないから。というか、戦闘中にしないから!」
慌てて弁解するざくろ。
“まだ”という所にこれから起こるのかという予感を感じる所だが、敵の反撃は待ってくれない。
アルラウネを脅威として受け取った嫉妬人形の攻撃に――ざくろが盾を持って立ち塞がった。
らきすけの神とかハーレム王とか何か危うい一面もあったりするかもしれないが、今日の彼は本気だ。
「ざくろの愛する人には、指一本触れさせない……」
ガイウスジェイルで仲間を守りつつ、嫉妬人形を攻性防壁で弾き飛ばす。
今回、戦線を維持できたのは彼の働きによる所が大きい。
(……あの時、ソルラを護ることが出来なかった。その後悔は今でも……だからこそ、この先の未来、大切な人は皆、ざくろが護るんだ!)
その想いが彼の戦いを支えていた。
「世界の行く先がどう選ばれようと、ざくろの道は決まっている!」
魔導剣の大きく振りかぶったが、降ろしはしなかった。属性攻撃は威力を大幅に減退されてしまうからだ。
だが、属性攻撃でなければ、敵の防御力を越えさえすればダメージは確実に与えられる。
強引に力強く一歩踏み込むと、ざくろはマテリアルを込めながら盾を突き出した。
「愛する人達との幸せな未来の為に、それを護る為に戦っていくだけだ! 超重圧盾撃!」
盾とはいえ侮れない攻撃力を繰り出した。
敵を倒す事が目的ではない。誰もが、それぞれの想いを成し遂げる為に、武器を振るい……そして、ハンター達は嫉妬人形を全て討ち滅ぼしたのであった。
リゼリオの郊外に現れた嫉妬人形をハンター達は速やかに討伐した。
希が心配したゲリラライブへの影響は無かったのであった。
おしまい
●
出現していた嫉妬人形を討伐したといって安心はできない。
まだ、どこかに潜んでいる可能性もあるからだ。
「ここは、ざくろ達に任せて」
「そうそう、先に行ってて」
ざくろとアルラウネの二人が、希の背中を押した。
まだ、ルミのゲリラライブは続いているのだ。今から戻れば間に合うはず。
「ですが――」
「行って来い。だからこそ、俺達はここにいるんだからな」
「そうそう。こっちも用事を終わらせたら、影から見届けるから」
申し訳なさそうな希の台詞を遮って、瀬崎とソフィアが言った。
希が緊急の依頼を出したのは、ライブへの影響もそうだが、参加したいという思いもあったからだろう。
「ノゾミちゃん、まだ間に合うよっ。さぁ、ルミさんの元へっ」
Uiscaが魔導トライクを希の横に付けた。
準備万端だったという訳だ。希は全員を順に見渡した。
「皆様、ありがとうございます!」
感謝を告げると、緑髪の少女はサイドカーに飛び込むように乗る。
希が確りとベルトを付けた事を確認し、Uiscaはスロットルを全開に回した。
打ち出されるように走り去ったトライクを見送り、残ったハンター達は周囲の安全確認に戻る。
「しかし、解せないな。ハンター達の拠点ともいえるリゼリオに襲撃など……」
「数からして、はぐれ……という感じもしなかったし」
瀬崎の言葉にざくろが同意する。
同盟領は嫉妬王が倒されたばかりだ。嫉妬王の軍勢に残党がいても可笑しくはない。
「これから面倒な事にならなければいいけどね」
「見た目同一個体だから、どこかで量産とか……あり得そうで嫌」
アルラウネが心配し、ソフィアは空を見上げる。
今回の襲撃は、何かの始まりなのかも……しれない。
もはや歌というより想いの叫びがリゼリオから流れ、風と大地を駆ける音が合わさっていた。その中をトライクが駆ける。
「沢山の人との出逢いに感謝ばかりです」
希は緑色の耳飾りに手を触れながら告げる。
今があるのは、多くの出逢いと繋いだ想いがあるからだ。何一つ欠けても、今には至らなかっただろう。
「そうだね……ノゾミちゃんはこれからの事どう思う?」
それは、ハンターオフィスから知らされた邪神の情報と決めなければいけない選択の事だった。
色々な考えや価値が、これからきっと、大きな混乱の渦を巻き起こすかもしれない。
「私にはまだ……イスカさんは?」
その問いに優しき巫女は正面を見据える。
提示された三つの選択肢は彼女にとって納得し難いものだった。
「例え可能性が低くても、時間がないとしても……私は最後まで諦めないっ」
正面から風を受けながらUiscaは希に想いを伝える。
誰かが消える事も歪虚化する事も無く、かつ、邪神に眠る想いも救えるような、そんな選択肢を模索する事を。
「ソルラさん、牡丹さん……私達に託してくれた人達の想いも繋いで……そして、最愛の人と過ごす未来の為に!」
「はい! イスカさん! 想いを繋いで――」
Uiscaの言葉に希は頷いた。
紡いでいくのは未来なのだと。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/15 13:26:41 |
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【相談卓】想いとともに Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/05/15 22:13:05 |