• 幻想

【幻想】辿りついた果て

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/15 19:00
完成日
2019/06/15 09:29

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

※要注意その1※
当依頼は近藤SDの依頼、『【幻想】DEATH RESPECT』の直後に行われるシナリオとなります。
両方に参加された場合、近藤SDの依頼の場所から駆けつける形になる為、当シナリオには『途中から参加した』という扱いになります。
その点ご注意ください。

※要注意その2※
当依頼は猫又の依頼『【幻想】仇討のヴォイドレディ』と同時攻略シナリオとなります。
同時参加はシステム上可能ではありますが、両方に参加された場合、当シナリオには参加出来なかったという扱いになります。
同キャラクターで重複参加されないようご注意ください。

●終末の獣
 ――どうしてこうなったのか。
 ――そもそも最初から、全て間違えていたのか。
 ――否、否、否……!

 あの子を、親友を守りたかった。
 その為に手を伸ばしたつもりだった。
 その手は届くことはなく。その手に掴んだものもなく。
 その果てに行きついた先は……?

 ――変わる。変わっていく。塗りつぶされて行く。
 憎悪に。痛みに。怒りに。

 ――ゆるさない。ゆるせない
 めのまえにあるもの すべてが。
 こうなりはてた じぶんじしんも。

 ――ソウダ。コロセ。コワセ。ツブセ。
 ソノタメノ チカラダ。
 スベテヲ、コワセ。

 コワセ。コロセ……!


●希望と名付けられた地で
 CAM実験場があり、今はラズモネ・シャングリラのドックが置かれている開拓地ホープ。
 そこから少し離れた平地に、ハンターと辺境の戦士達が集められていた。
「イェルズさん、ハンターさんと戦士達、全員揃ってますよ」
「あ、ハイ。それじゃ、皆さん、持ち場について戴いてもいいですか?」
「……そこは元気に『総員、戦闘配備に着け!』とか言っといた方が気合入るってもんじゃないのか、イェルズ」
 レギ(kz0229)の報告に頼りないイェルズ・オイマト(kz0143)の指示に、ハンターが苦笑する。
 マギア砦北から出現した青木 燕太郎(kz0166)こと『青髯』。
 そこから南下を始めた怪物の動きを見た部族会議は、その進路上に開拓地ホープがあると察知。
 ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)との話し合いの結果、青髯を迎撃するポイントを3か所に分けることとなった。
 一つ目はマギア砦。こちらはヴェルナーがコネで呼び寄せた水野 武徳(kz0196)が指揮する部隊が青髯を砲撃。
 二つ目はナナミ川流域。下流に布陣したラズモネ・シャングリラが一斉斉射をする予定である。
 そして最後の三つ目――ナナミ川を渡った平地地帯。ホープの直前となるこの場所で、一斉攻撃を仕掛ける。
 ここを抜かれれば、ホープは青髯によって蹂躙されることとなる。
 更にホープを抜けた先には長城ノアーラ・クンタウもある。
 これを壊されれば被害は辺境だけでは済まなくなる。
 それゆえ、ここが絶対防衛線――青髯の終着地としなければならないのだ。
「それより……彼らを作戦に組み込んで大丈夫ですか? 信用してもいいんでしょうか」
「あー……うん。まあ、大丈夫だろう。嘘はつかない……いや、嘘をつくほど賢くない連中だ。迷惑ではあるけど害はないっていうのかな」
「多分高位歪虚の中ではぶっちぎりで害がないわよね」
「そもそもあいつらを高位歪虚と呼んでいいのか躊躇うレベルだもんね」
 ハンターの言いように顔を見合わせる辺境の戦士達。
 話題に出ている『彼ら』とは、謎のヴォイドレディ、トーチカ・J・ラロッカとその一味のモグラである。
 トーチカ達は正面切って部族会議と接触。青髯討伐への協力を申し出たのである。
 何でも青木はビックマーを倒した憎き仇であり、トーチカ達にとっても敵である。だから殴らせろと言い出したのだ。
 歪虚から共闘の申し出という異例の事態に部族会議も混乱したが、ハンターの口添えもあり、その申し出を受け入れることとなった。
 トーチカ達は謎の兵器を引っ提げて、最終防衛地点より少し前で攻撃を担当する。
「まあ、万が一に備えてハンターさん達にトーチカの監視もお願いしました」
「ああ、それがいいな。あいつら、割と義理堅い性格だから裏切るってこたないとは思うが、備えはあった方がいいからな」
「裏切りより自爆を心配した方がいいんじゃないかな……」
 イェルズの言葉に微妙な顔をしつつ頷くハンター達。
 彼はガバッとハンター達と辺境の戦士達に頭を下げる。
「イェルズ? どうした……?」
「俺、補佐役として力不足だし、皆を纏めるなんて全然出来てないんですけど、でもここできちんと青髯に引導を渡して、族長が起きた時に報告したいんです。だから、お願いです。協力してください……!」
 深く腰を折ったままのイェルズに、ハンター達は顔を見合わせる。
「あのなあ。ここまで来て協力しない訳がないだろう。水臭い奴だなぁ」
「……あのね。イェルズ。前から言おうと思ってたんだけど、もう少し自信を持ってもいいんじゃないかな。武者修行もした。アレクサンドルとの戦いからも、君はきちんと生還しただろう?」
「そうですね。ラズモネ・シャングリラの皆さんがあそこまで協力的なのはイェルズさんがいるからっていうのもありますよ。ずっと一緒に戦ってきた仲間ですからね」
「……そうですかね。俺、ずっと族長とヴェルナーさんに頼りっぱなしだったから」
「上に立つものが優秀過ぎるってのも考えモノだなあ。よし、イェルズ。これはチャンスと考えろ。これを成功させればバタルトゥとヴェルナーに負けない功績者だぞ」
「え、俺、功績はどうでもいいんですけど……」
「欲がない奴だなあ。まあ、いい。辺境の為にも、バタルトゥの為にも、ここで必ず討ち取ろう」
 ハンターの言葉に、頷くイェルズ。
 ――辺境の為に。未来の為に。負けられない戦いが始まろうとしていた。

リプレイ本文

 ――遠く、北の方角で煙が上がっているのが見える。
 別動隊が獣と化した青木 燕太郎(kz0166)――『青髯』と戦っているのだろう。
 それを無言で見つめるイェルズ・オイマト(kz0143)。北谷王子 朝騎(ka5818)に声をかけられ振り返る。
 包帯だらけで満身創痍の彼女を見て、イェルズは目を見開いた。
「朝騎さん、その怪我どうしたんですか……!?」
「イェルズさん、皆さんごめんなちゃい。前に参加してた依頼で重体になってしまいまちた。このままだと足手まといになるので朝騎は撤退しまちゅ」
「……了解しました。その方がいいですね。どうぞ無理はしないでください」
「ありがとうでちゅ。皆さんの武運をお祈りしてるでちゅ」
 痛む身体に喝を入れ、頭を下げて走り去る朝騎。その背を見送ったイェルズに、アルスレーテ・フュラー(ka6148)が苦笑を向ける。
「あらー。大首長の補佐役殿は随分優しいのね」
「ハンターさんや戦士達の命を預かっている以上、無理はさせられませんよ」
「そう言う割に、バタルトゥもあなたも自分の身は顧みないわよね。……無茶させた私が言うのもなんだけど、もうちょっと自分の身を大事になさいな」
 イェルズの義手をペチンと小突くアルスレーテ。彼は少し慌てたように口を開く。
「これは俺が勝手にやっただけで、アルスレーテさんのせいじゃないですよ? ……族長は、確かにもうちょっと自重して欲しかったですけど」
「そうだね。……まあ、そこがバタルトゥさんらしいところではあるのだけど」
 困ったように笑うイスフェリア(ka2088)。
 未だ意識の戻らないバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
 部族や辺境のことだけを考えていれば、ハンターに任せて逃げることもできたのに――。
 それでもなお、逃げることなく自ら危険な役目を負った。
 その判断は、大首長としては甘かったのかもしれない。
 無口で無表情なのに情に厚くて……そんな人だから、放っておけない。
 あの人の周りに人が集まるのも、きっとそういう理由なのだろう。
 自重して欲しかった、とは思うけれど。どうしてそういう行動を取ったのかは理解が出来る。
 イェルズ自身、バタルトゥと同じ状況に置かれたら、きっと同じ選択をしていた。
 だからこそ責める気にはなれない。でも、その穴を埋められるかと問われると……正直自信がない。
 硬い表情をしているイェルズの頬を、ラミア・マクトゥーム(ka1720)がくいっと引っ張る。
「いだっ!? 何です!?」
「すごい顔してるからちょっとマシにしてあげようかと思って」
 バタルトゥに代わり、同じ補佐役であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)と共に作戦を主導する立場となった彼。
 色々と思うところがあるのだろうが……気負い過ぎはきっと良い結果を生まない。
 同じことを思ったのか、シアーシャ(ka2507)も声をかける。
「……大丈夫だよ。バタルトゥさんとイェルズさん似てるとこあるし、きっと上手く出来るよ」
「族長と俺が似てる? どこがですか?」
「んー。人を思う優しさ、とか? でもバタルトゥさんと同じやり方をする必要はないし、イェルズさんはイェルズさんのやり方で進めばいいと思う」
「ああ、そうだね。頼むよ、指揮官殿」
 シアーシャの言葉に頷き、イェルズの肩を小突くラミア。
 イェルズは複雑そうな顔をして何かを言いかけたが……それは、遠方から聞こえる破裂音でかき消された。
 ――湧きあがる土埃。その向こうに霞む巨大な影。
 微かに見えるそれを、アルバ・ソル(ka4189)は目に焼き付ける。
 ――あれは倒さねばならない不倶戴天の敵。歪虚と化した彼は元よりそういう相手だ。
 けれど、彼にはそうなった理由もあり、それを何度となく見てきた。
 ……だからこそ、止めたかったのに。
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も、苦し気に呟いた。
「すまない、セトさん。あなたの依頼を果たせなかった……」
 彼女から知った名が出て、レギ(kz0229)が顔を上げる。
「兄さん、アルトさんに何かお願いしたんですか?」
「……ああ。エンタロウを人間でいられるうちに、止めてやって欲しいって頼まれてたんだ」
「エンタロウさんがこんなことになってるなんて、僕知らなくて……兄が大変なお願いをしてしまってすみません」
「いや、エンタロウがああなったのは私達の失態でもある。……だから、せめて。ここで終わらせよう」
 気遣いを見せるレギに笑みを返すアルト。彼女の言葉にアルバも重々しく頷く。
 この終焉を見届けるのは、ここまで彼を追い、物語を見続けた者の義務だと――そう思うから。
 フラメディア・イリジア(ka2604)も同意しつつ、ため息を漏らす。
「しかし、こんな形で終わりになるとは、むしろあやつのほうが不本意じゃろうて……」
「そうだね。思えば遠くに来たものだ、なんて感慨に耽る事が時々あるけれど……彼を見るとね、それは実に幸せだったのだと思うよ」
 続いたローエン・アイザック(ka5946)に、珍しく神妙な顔で頷くアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
 ……アルマには大好きな人がいた。
 その人とは終ぞ分かり合えることはなかったけれど……それでも、生きていて欲しくて――。青木が願ったことも、想いも理解できてしまう。
 一歩道を踏み外せば、自分もこうなっていたかもしれない。
 彼も思いを貫いたからこそ、この結果に繋がった。もう引き返せまい。だからこそ、もうここで、眠らせてあげたいと。そう思うのだ。
「……それにしても、あやつを『青髯』と呼ぶ者はおらんのじゃな」
「だって、青木を青髭なんて言い出したのは歪虚でしょぉ? どう変わろうが青木は青木ですしぃ、止めなきゃいけないのも変わらないですしぃ」
「うん。青木さんのことは、正直可哀想だなって思うの。でもね、それでホープを壊滅させるのも仲間の誰かが怪我するのも、絶対違うと思うの」
 ニヤリと笑うフラメディアに思い思いの返答をする星野 ハナ(ka5852)とディーナ・フェルミ(ka5843)。
 この場に、あの獣を『青髯』と呼ぶものは誰もいなかった。
 理性や感情を失ってもなお、あの歪虚を『青木』という存在として扱いたいと思う者が多いということなのだろう。
 リューリ・ハルマ(ka0502)はそれに喜びを感じて、にっこりと微笑む。
「大丈夫。燕太郎さん、きっとどこかに人の部分が残ってるよ」
「ふぅん? その自信はどこから来るのかしらね?」
 呆れに、どこか優しさの滲むアルスレーテの声。リューリはぐっと握り拳を作る。
「また忘れてるなら、ぐーぱんちで思い出して貰うし」
「……リューリちゃんは、エンタロウを信じてるんだね」
 親友に確認するアルト。リューリはもう一度強く頷く。

 ――離れ……ろ! 俺から……! 早く……!

 脳裏に蘇るあの人の声。
 アフンルパルで対峙していたあの時。ニガヨモギを受けて暴走する瞬間まで、自分を気遣ってくれていた。
 折角通じ合ったのに、このまま諦めるなんて出来ない……。
 そう呟くリューリに、アルトはため息をついた。
「……分かった。リューリちゃんの思うようにやればいいよ」
「そうねえ。最期にツナサンド食わせてやりたいし。レギも手伝いなさいな」
「了解です! 天使さん達のフォローは任せてください!」
「うん。ありがと」
 アルスレーテとレギに笑みを返すリューリ。そこに、ボルディア・コンフラムス(ka0796)の鋭い声が聞こえて来た。
「おい! 来やがったぞ! 総員戦闘準備!」
 迫り来る轟音。
 土埃を巻き上げながら、やって来る黒い塊。地面を滑るように走っているのは黒狼だろうか。
 その中心には……かつての面影すら残らぬ禍々しい姿。
 天に届きそうな巨体は、ここに来るまでに大分砲撃を食らったらしい。損傷している部分が多く見て取れた。
 その光景を見ていたヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は、ふぅん……と呟きを漏らした。
「あいつ、随分派手にやられてるみたいじゃん」
「別動隊はしっかりお仕事をして下さったようですね」
「……私達は私達の出来ることを。ここで引導を渡しましょう」
 状況を確認するフィロ(ka6966)に頷くエルバッハ・リオン(ka2434)。迫りくる敵の姿に決意を固めると、黄金のマスティマを起動する――。


 獣と化した青木の周囲を取り囲む黒狼。その動きはまるでたゆたう川のようで、ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)が目を丸くする。
「わあ! 聞いてはいたけど本当黒狼いっぱいだね!?」
「本体を叩くにはこれを退けないと無理ですね……!」
「そうですね。俺達は黒狼を引き受けます。皆さんは青木を狙ってください!」
「了解です! お手伝いさせて戴きます! じゃんじゃん黒狼を呼び込みますので援護お願いします!」
 ボルディアの支援をする為に符を構える夜桜 奏音(ka5754)に頷くイェルズ。白巫女であるアシェ-ル(ka2983)に誘われるように、黒狼の動きが加速する。
「任せておきな! Volcanius! あいつらに自慢の弾食らわせてやれ!!」
「……さて、我がVolcanius。君も頼めるかな」
「あなたもお願い!」
 ボルディアとジェールトヴァ(ka3098)、イスフェリアの指示に従い動き出す3体の刻令ゴーレム。
 それから放たれる強烈な砲撃は、黒狼を大多数巻き込んで、その存在を削り取っていく。
「皆さん! レメゲトン行くです! 前に出過ぎないでくださいです! パールさん、移動は任せるです!」
 ペガサスに騎乗したエステル・ソル(ka3983)の叫び。白巫女である彼女目掛けて突進する黒狼。
 指輪した手をぐっと前に突き出すと、それに込められた破滅と再生の力を解き放つ――!
 その裁きの一撃は黒い波に大きな穴を開けた。
 手薄になったその場所に、ルクシュヴァリエに騎乗したアルトとヴォーイが滑り込む。
「このまま道を拓くぞ! 突き進め!!」
「了解じゃん! 突撃じゃん!」
 黒狼を弾き飛ばしながら突き進む2機のルクシュヴァリエ。
 それはまさに、青木への突破口となった。
「この道、キープするですよ! アシェールさん、アルスレーテさん、お願いします!」
「はーい! 了解です! 私も全力でいきますよ!」
「任せておきなさい! レギ! 支援お願い!」
「了解しました!」
 エステルの声に応え、ユグディラと共に魔導トライクで疾走するアシェール。
 アルスレーテも、その反対側へと疾走する。
 動き出した白巫女達に釣られて動き出す黒狼。
 彼女達は拓いた道から更に引き離すような導線を敷いており、それは概ね成功していたが……それでも、そこから外れた動きを見せる黒狼もいる。
 進軍に邪魔になりそうな黒狼は退けなければ……!
 真紅のイェジドを駆るラミア。槍を振るいつつ、イェルズを振り返る。
「イェルズ! こいつら薙ぎ払うよ! 手伝って!」
「任せてください!」


 黒狼に対応する者達がキッチリと役目を果たしていた為、青木への道は想定よりも早く開かれていた。
 黒狼の流れは、まるで海を割ったという神話のようで。
 その中でコツリ、と鳴るヒールの音。
 大太刀を肩に担いで、尾形 剛道(ka4612)は目の前の獲物を見上げる。
 ――見ている、と言っても覚醒した状態での視界はぼやけていて良く見えない。
 感じる匂いで――それが、大分異質なものに変化していることを察知した。
「………ああ、そうか。遂にテメェは人でなくなったのか。……残念だ」
 落胆を隠さぬ剛道。
 どうせ戦うのであれば、『ヒト』であったあいつと命のやり取りをしたかった。
「人間じゃねェお前に、用は無ェ。用は無ェんだが……」
 それでも、ここにきてしまった。これは妄執か。それとも……匂い立つ死への渇望か。
 ――まァいい。確かに俺はお前を欲した。その最期に、付き合ってやるのも悪くはない。
 跳躍し、大太刀を振るう剛道。それとほぼ同時に飛び出したイェジド。その背の上で、不動 シオン(ka5395)が形の良い赤い唇の口角を上げて笑った。
「……全てを憎み、破壊するか。上等だ、青木 燕太郎。貴様の望み、すべて私が応えてやろう。さあ来い、命の限り暴れるがいい!」
 これは私とあいつの最初で最後のゲームだ。
 それ以上でもそれ以下でもない。
「さあ、どちらかが倒れるまで続くゲームに洒落込むとしよう。行け神威!」
 槍を閃かせ、再び踏み込むシオン。同じくイェジドで駆けこんで来たシアーシャが目を丸くする。
「何でこう皆血の気が多いのかな!? 物騒だよ!!?」
「……そうですね。まあ、それで青木の体力を削って戴けるなら目を瞑りましょう」
「ポロウ! 惑わすホーお願いするです!」
 コンフェッサーの操縦桿を握りつつ苦笑するフィロ。アルマの命に従い、ポロウが幻影による結界を展開する。
「アグニ! 移動は任せたぞえ!」
「参ります……!」
 この機に乗じたフラメディアとエルバッハの短い叫び。
 燃えるような毛並みを持つイェジドと金色のマスティマが、巨大な獣目指して一直線に駆け抜ける……!


 戦場に、リューリの迫力のある声が響く。
「ヴォーイさん! 衝撃波来てます!」
「うおっ。あっぶねーじゃん!!」
 青木の足を薙ぎ払おうとランスを構えたヴォーイのルクシュヴァリエ。フィロの声に急停止する。
 彼を庇う為、咄嗟にマテリアルバルーンを展開したフィロ。それは衝撃波を食らって瞬時に消え去り……大地と、足元にいた黒狼ごと削り取る。
 主の危機を察知したイェジドは、衝撃波の爆風からシアーシャを庇うように立ち塞がった。
「ありがとファリガ! ひええ……! すごい威力だよ……!」
「うむ。直撃すればタダでは済まんな。だが、これくらいでなければ面白くなかろう?」
「同感だ」
 ボヤくシアーシャにニヤリと笑うフラメディア。シオンも剣呑な笑みを浮かべる。
 そうしている間にも足元に剛道の、そして腕にはエルバッハの一撃が決まり……苛立ったのか、咆哮を上げる獣。
 ペガサスに騎乗し、上空に控えていたハナが瞬時に符を投げ、呪詛返しを行う。
「そうはさせないですよぅ……!」
 呟く彼女。青木に行動阻害が跳ね返れば御の字だが……そこまでは期待しない。仲間達がきちんと最後まで動けていればいい。
 開戦と同時にペガサスにエナジーレインを使わせていたハナ。
 光の雨の加護と、イスフェリアとジェールドヴァのピュリフィケーションによって、咆哮による被害はほぼほぼ防げている状態だった。
 ……とはいえ、仲間達はじりじりと傷つき、消耗を始めている。
 そろそろ、次のエナジーレインが必要かもしれない……!
 ――それはもう、純粋な『暴力』だった。
 狼のような四肢が踏みしめただけで大地が揺れる。
 上半身から生えた腕から繰り出される薙ぎ払いと衝撃波は、サイズが大きくなっているせいもあるのか広範囲に渡り、避けるという行動への難易度を跳ね上げていた。
 アルマのポロウによる『惑わすホー』が効いている状態でこれだ。これがなかったら早々に危機的状況になっていたかもしれない。
 ――その代わり、というべきなのだろうか。
 青木自身も、『回避』という行動を一切取らなかった。
 身体が変化し、知性らしい知性も喪い……自身の身体を制御出来ていない、という方が正しいのかもしれないが。
 アルトとアルバから重たい一撃を食らって、声にならない声をあげる獣。
 そこに続くシオンとフラメディアの一閃。
 仲間達の攻撃が、獣の巨体に次々と刻まれていく様が。
 アルマには、青木が『罰』を欲しているようにも見えて……。
 ――早く終わらせてあげたい。今度こそ、泣かずに。迷わずに。この人を送ってあげなければ。
 黒狼を巻き込みながら、獣めがけて蒼い炎を放射するアルマ。
 ……普通の歪虚であれば、もう30回は死んでいるであろうそれを受けても、獣は倒れない。
 それでも、いつか訪れる『終わり』を願って。
 ハンター達はただひたすらに。獣へと食らいつく。


 一方その頃。黒狼に対応している者達の戦いも続いていた。
「んもー! 数多すぎでしょう!! こんなにもの数が来るなら、逆に数の多さを突くしかありません!」
 どんなに薙ぎ払ってもわらわらと沸いて来る黒狼に叫ぶアシェール。
 彼女の背に虹色の翼が広がり、ブレスが放たれる。
 光に包まれて塵と化す黒狼。上空から、エステルの鋭い声が聞こえて来た。
「ラミアさん! アシェールさんの背後に黒狼が向かってるです!」
「あいよ! 任せておきな!」
 その声に応え、アシェールの後方から迫る黒狼を潰していくラミアとイェルズ。
 それに気づいたアシェールが軽く頭を下げた。
「あっ。ありがとうございます!」
「いいんだよ。誘引役のあんたに倒れられたら困るしね」
「そうですよ。アシェールさん無理してませんか?」
 2人の気遣いに、元気に大丈夫です! と返すアシェール。ふと、気になったことを口にする。
「……それにしても、何で白巫女を狙うのでしょうか……取り込んだ歪虚の影響でしょうか? 怠惰の特性ですかね?」
「はっきりとした因果関係は解りませんが……白龍と怠惰王は辺境の地を巡って永いこと敵対関係にありました。その辺が何かしら作用している可能性はありますね」
 イェルズの返答に首を傾げるアシェール。
 気にはなるが、それを知る青木が答えてくれる機会はもう訪れないだろう。
「アルスちゃん、大丈夫かい?」
「ええ、この程度でやられる私じゃないわよ?」
 温かな精霊の力を感じて、ちらりと後方を見るアルスレーテ。ローエンににっこりと笑みを向ける。
「私より、アルトやリューリの支援をしてあげた方がいいんじゃないかしら」
「それは勿論。だけど、キミもこの作戦の重要な鍵を握ってるからね」
「こっちは大丈夫ですよ。僕がついてますし」
 横から聞こえたレギの声に目を丸くしたローエン。アルスレーテが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「君が頑張ってるのは解ってる。助かってるよ」
「あらー。大見栄切ってくれたわね。そんなこと言っちゃって大丈夫かしら」
「僕の赤毛の天使さんからもアルスレーテさんの護衛をお願いされたことですしね。ここは点数稼いでおきたいところです」
「……赤毛の天使って言うのはアルトちゃんのことかい?」
「そうよ。この子、あの子にぞっこんなのよねー」
 黒狼に銃撃を浴びせながら言うレギに考え込むローエン。
 アルスレーテはくすくすと笑いながら応える。
 ……思えば、レギの兄もアルトが好みだと言っていた。
 彼が健在だったら、今頃兄弟で血で血を洗う争いになっていたかもしれない。
「ちょっと見て見たかった気もするけど……」
 言葉を止めたアルスレーテ。また数を増やしたように見える黒狼に剣呑な目を向ける。
「エステル! 新手が沸いたわ! 対処お願い!」
「はい! 任せてくださいです!! ……?」
 彼女の声に応え、黒狼の群れに火球を降らせたエステル。
 エステルのユニコーンと共に護衛に当たっていたピアレーチェは、彼女の様子がおかしいことに気が付いた。
「……エステルさん、どうかした?」
「黒狼の動きが何か変です!」
「えっ。変ってどうおかしいの?」
「えっと……何か、黒狼が新たに目標見つけたみたいな……」
 ピアレーチェの声に、橙色の目を凝らすエステル。
 こちらに寄って来る何か。バイクに乗ったマリィア・バルデス(ka5848)の姿が見えた。
 ユグディラを乗せたバイクで疾走する彼女に吸い寄せられるように、黒狼が1匹、また1匹と移動を開始する。
 ――マリィアが白巫女でなければ、何事もなく通過し仲間達と合流できただろう。
 あるいは、万全の状態であれば振り切れたかもしれない。
 直前の作戦において重体となっていた彼女は動きに精彩を欠き……結果、黒狼の群れに取り囲まれることとなった。
「……大変です! あのままじゃ黒狼に飲まれてしまうです……!」
「わああ。私がリーリーと一緒に行って助けて来るの! 申し訳ないけど援護お願いなの!」
「分かったよ! Volcanius! マリィアさんの周りの黒狼に砲撃! くれぐれもマリィアさんに当てないでね!」
 慌てた様子のエステルに、リーリーに全速力を指示するディーナ。
 イスフェリアが己の刻令ゴーレムに砲撃を命じる。
「絶対誰も死なせないの……!」
 確固たる意志を見せるディーナ。光の波動で、進行方向の黒狼を蹴散らして――。


 こうしている間も、青木との激しい戦闘が続いていた。
「……ボルディアさん、君の役割は重要だが、無理は禁物だ。辛かったら……」
「うるせえ! 俺はまだ動けるっつの!!」
 ジェールドヴァの気遣う声をかき消すように一喝するボルディア。
 ふらつく身体に鞭打って、盾を構え続ける。
 彼女は青木との交戦が始まってすぐにラストテリトリーを展開し、仲間達が受けるダメージを一手に引き受けていた。
 荒れ狂う嵐のような獣の攻撃に対し、ここまで長いこと戦線を維持できているのはボルディアの功績による部分が大きい。
 奏音が彼女の負担が軽くなるようにと防御力を高める結界を展開し続けていたし、ジェールドヴァも必死に回復を続けてはいる。
 が、ボルディアの疲弊自体を取り去ることは出来ない。
 正直、既に立っているのが不思議な状態ではあるのだが……それでも。ここで辞める訳にはいかない。
「……大丈夫です。支援します。倒れそうになっても立たせてあげますから。続けてください」
 横から聞こえる奏音の声。彼女も、ボルディアが展開する障壁がなくなれば戦線の維持が難しいことを理解しているのだろう。
 ある種スパルタとも取れる彼女の声に、ニヤリと笑うボルディア。盾を握る手に力を込め、目の前の獣を見据える。
 ……この状態じゃあ言葉が通じるとは思えねぇが……。イチかバチか、試してみる価値はある。
 何より、オーロラの死を看取ったボルディアには、青木に言ってやりたいことがあった。
「おい青木! 何が騎士だ! 何が守るだ! テメェはいつだって、一番大事な時に、テメェの大切なヤツが死ぬ時に傍にいなかったじゃねぇか!」
 ――そうだ。彼は。
 親友が死んだ時も。オーロラが死んだ時も。
 別なことにかまけて、傍にいようとはしなかった。
 青木なりに、大事なものを救おうとしていたが故の結果なのかもしれない。
 だが、ボルディアは思う。
 それは違う。本当に大切なのは……!
「――力なんざ無くったって、テメェはただ大事なヤツの傍に居りゃあ良かったんだよ!!!」
「ああ、そうだ。お前はやり方を間違えたんだ! 策士が策に溺れてどうする!!」
「なんじゃ情けない! ここまで言われて悔しゅうないのかえ!? 最後くらい、衝動に抗ってみせよ!」
 ボルディアに続くアルバとフラメディアの叫び。
 その言葉を理解したのか、それともただの衝動か分からないが……青木は闇雲に腕を振り回して――。
「……! ボルディア! 危ない!」
「……つまんねェ攻撃だなァ! 青木ィ!!」
 振り下ろされる腕からボルディアを守り、弾き飛ばされたフラメディア。
 その腕をあえて受け止めようとした剛道。腕の攻撃をまともに食らって、膝をつく。
 2人の戦闘続行は不可能だと判断したジェールドヴァは、フラメディアを抱え上げる。
「フラメディアさんはこちらへ。剛道さんももう下がった方がいい」
「何を言うか……!」
「アァ。これからが本番だろうが……! 美味しいとこ持ってこうったってそうはいかねェぞ」
「お前達の分は私が引き受けよう。さっさと下がれ。フィロ、剛道を連れていけ」
「そうですよ。命あってこそですからね。何はともあれ治療を受けて下さい。さ、こちらへ」
 青木を見据えたまま言うシオン。剛道もフィロのコンフェッサーで運ばれていく。


 その頃、黒狼の包囲網を掻い潜り、何とかマリィアを救い出し仲間達と合流を果たしたディーナは、プリプリと怒りながらマリィアに治療を施していた。
「もう! 死んだらどうするつもりだったですの!?」
「ごめんなさいね。もうちょっと上手くやるつもりだったのだけど……。青木はね、仲間想いで生真面目で。良い軍人だったと思うわ。転移先があんな場所でなければ、きっと有能なハンターになっていた。同じ軍人として、これが青木の最期ならば見届けなくては。そう思ったのよ」
「だからって無茶しちゃダメなの! 皆生きて帰らなきゃ……もう、あんな思いをするのは嫌なの」
 東方での戦いを思い出して、涙目になるディーナ。
 あの戦いでは本当に沢山の犠牲が出た。救えるはずだった命を、零すのは、もう嫌だから……。
 ディーナの様子に、マリィアはふぅっとため息をつく。
「反省してるわ。もうこんな無茶はしない。……でも、青木は誰かが止めなきゃならない、見届けなきゃならない」
「それは解ってるですの。だから、皆で一緒に頑張って、皆で帰るですの」
 頷き合う2人。
 仲間達の度重なる攻撃で青木が弱り始めているのか。黒狼の数が少しづつ減り始めていた。


「まだまだ続けるですよぅ!」
「これでも食らうじゃん!!」
 ハナの幾度目かの呪詛返し。ヴォーイのルクシュヴァリエの何度目かの突進に、咆哮を上げる獣。
 アルマはポロウに再度惑わすホーの行使を命じると、青木目掛けて蒼い光線を放つ。
 目に見えて傷ついている獣に、リューリは必死で呼びかけ続けていた。
「燕太郎さん! 聞こえてるんでしょ? もうこんなこと止めよう!」
 ずっと呼び掛けているが、獣がその声に応じる様子は見られない。
 それでも。ヒトの心が無くても……彼の行動の根源は、その心から派生したものだと思うから。
 リューリは諦めることなく、声を振り絞り続ける。
「燕太郎さんが力を付けたのはオーロラさんを守る為で、何でも構わず壊す為じゃないでしょ? これ以上は燕太郎さんが辛くなるだけだよ……!」
 訴え続けるリューリに代わり、一心不乱に攻撃を続けるアルト。
 ――ルクシュヴァリエのスキルはとうに尽き、ユニット降りて生身での攻撃に転じていた。
 正直、エンタロウに声が届くかどうかは分からない。
 それでも、親友が信じるというのなら……それを手助けしない理由はない。
「……私ね、この間燕太郎さんがお話してくれてうれしかったよ。私のこと覚えててくれたのも嬉しかった。ねえ、燕太郎さん。もう一度お話しよう? セトさんと……オーロラさんの話、聞きたいな。レギ君のことも知ってるでしょう? あと、燕太郎さん自身の話も聞きたい」
 続くリューリの声。それに、アルマの声も重なる。
「……燕太郎さん! 逝けるなら、逝ってください……! こんなツライこと、もうやめていいんです……!」
 聞こえて来る声が忌々しいとばかりに雄叫びをあげる獣。
 再び攻撃に転じたシオンとフィロ目掛けて腕が振り下ろされる。
「……くっ!!」
 シオンもフィロも青木に近寄り過ぎている。回避は間に合わない……!
 リューリは腹の底から、力いっぱい叫んだ。
「燕太郎さん! もうやめて――――!!!!!」

 ……リュ――?……。

 微かに聞こえた声。
 刹那。獣の振り下ろされた腕が止まった。
「青木! 止まれええええ!!」
「……貰いました! 眠りなさい、青木……!」
 それは一瞬だったが、随分長い時間だったように感じた。
 聞こえたのはアルバとエルバッハの叫び。
 正面から迫るアルバのワイバーン。プライマルシフトで獣の背後に転移した黄金のマスティマ。
 水と地の力を連続で射出するアルバ。エルバッハの無骨な大太刀が、獣の身体を貫き――。

 ――――!!!

 響く獣の叫び。エルバッハの一撃が決定打となったのだろう。さらさらと崩れ始めた身体に、リューリが駆け寄ってすがりつく。
 ――本当は抱き止めてあげたかったが、獣の身体は大きすぎた。
 それでも。この気持ちが伝わればいいと。
 彼女は腕に力を込める。
「……私ね、ずっと考えてたんだよ。何で燕太郎さんがこうなっちゃったのかなって。……燕太郎さんは自分が許せなかったんだね」
 そう。青木はずっと自分を責め続けていた。
 大切なものを何一つ守れなかった自分を。『ヒト』であったから。弱い存在であったから。何も守れなかったと。そう思ったのだろう。
 だから『ヒト』であることを否定して、ただひたすらに力を求めていたのだ。
 ……分かってしまえば、青木の行動理念はとてもシンプルで、そしてとても哀しかった。
「もういいよ。燕太郎さんが自分を許せなくても、オーロラさんもセトさんも許してくれるよ。ついでに私もね」
「……――?」
 獣から感じる戸惑いに、リューリの紫の瞳から涙がこぼれる。
 歪虚になって、ずっとずっと自分を責め続けて来たんだったら。
 魂だけでもゆっくり休んで欲しい。
「……あなたのたった一つの間違いは。死んでからいくら努力しても結果は実を結ばないって気が付かなかったことよ。死ぬまで努力して、死んでからも努力して……それでもあなたの手元には、憎悪と悔恨しか残らなかった」
「ホント、救いようのない馬鹿よね。こんな馬鹿の為にリューリが泣くことないわよ。……ほら、餞別よ。受け取りなさい」
「リューリちゃんを何度も泣かせたことは万死に値するけど……少しだけ、お前の気持ちは解るよ。だからもういい。休め」
 マリィアの呟きに肩を竦めつつ、青木にツナサンドを渡すアルスレーテ。アルトは消えゆく男を、瞬きもせずに見つめる。
 ――道が違えば、きっかけがあれば。
 ここにいる誰かも……いや、全ての転移者が『青木 燕太郎』になりえた。
 誰かの為に何かを成すこと自体が悪な訳でもない。
 理想を追い求めることも、罪ではない。
 たった一つ間違ったとしたら、それは――マリィアの言う通り、歪虚と契約したことだ。
 それでも。死に直面した極限状態において、どれだけの人間が冷静に判断できるのだろう?
 青木 燕太郎という軍人は、人としての強さと……同時に、脆さを持ち合わせていた。
 哀しいほどに『ただの人間』だったのだ。
 アルマは膝をついて、崩れ去っていく男にそっと触れた。
「燕太郎さんの痛みも苦しみも、僕達が覚えてますから。ゆっくり休んでください……」
「なあ、青木。……満足は、したか?」
 その光景を、感情のない瞳で見つめる剛道。イスフェリアが唇を噛む。
「……こんな形でしか安らぎを与えられないことが、悔しいよ」
「でも、これ以上苦しまなくて済んで……良かったと思うです。……おやすみなさい、青木さん」
「……目的のために専心する姿勢は嫌いじゃなかったですぅ」
 頭を垂れるエステルとハナ。ボルディアはジェールドヴァに支えられながら、口を開いた。
「……向こうでオーロラにあったら宜しく伝えてくれ。あと……テメェはちゃんと詫びるんだぞ」
「セトさんがね、飲みに行く約束果たせなくてごめんって言ってたよ。……その約束、向こうで果たせるといいね」
 囁くリューリ。
 抱えていた獣は完全に塵となって――空気に溶けて、消えて行った。


 続く沈黙。完全に消え去った青木を見守っていたリューリは、膝の上に鈍く光る何かが落ちていることに気が付いた。
「……? 何これ」
「それ、ドックタグですね。軍隊に所属する兵士の個人識別に使われるんです。……戦地で死んだ時に、身元が分かるように。兄も同じものを持ってました」
 そう言って、懐から銀色のペンダントを取り出すレギ。
 先日アルトから受け取ったそれを見せる。
「ああ、何かに似てると思ったらセトさんの遺品だったんだね」
 頷くアルト。掌にあるタグをまじまじと見つめていたリューリは、そこにかろうじて残っていた文字列を見つけて……それが、消えて行った男が人間であった頃の残滓だと気づく。
 彼女はそれを大事そうに握り締めて、再び涙を零した。
「もっと早くに会えてたら、違う道もあったかもしれないのにね。……私は、貴方を救えたかな? ねえ、燕太郎さん……」
「リューリちゃん! 見て、あれ……!」
 アルトの驚きが混じる声に顔を上げたリューリ。
 ――そこには、銀色の蝶と一緒に、黒い蝶が舞っていた。


 こうして、ある男の長い旅路は、終焉を迎えた。
 暴走し、理性も感情も喪った彼が最期に何を思ったのか。それは分からないままだったけれど。
 道を違えながらも戦い続けた男。その眠りが穏やかなものであるといいと、ハンター達は願った。

依頼結果

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MVP一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマka0502
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901

重体一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジアka2604
  • DESIRE
    尾形 剛道ka4612
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848

参加者一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イスト
    イスト(ka0502unit002
    ユニット|幻獣
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    刻令ゴーレム「Volcanius」(ka0796unit006
    ユニット|ゴーレム

  • ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613
    人間(紅)|27才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka1613unit009
    ユニット|CAM
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    フレイ
    フレイ(ka1720unit001
    ユニット|幻獣
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    刻令ゴーレム「Volcanius」(ka2088unit001
    ユニット|ゴーレム
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウルスラグナ
    ウルスラグナ(ka2434unit004
    ユニット|CAM
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ファリガ
    ファリガ(ka2507unit001
    ユニット|幻獣
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アグニ
    アグニ(ka2604unit001
    ユニット|幻獣
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    カジディラ
    カジディラ(ka2983unit004
    ユニット|幻獣
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    刻令ゴーレム「Volcanius」(ka3098unit002
    ユニット|ゴーレム
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka3109unit008
    ユニット|CAM
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    パール
    パール(ka3983unit004
    ユニット|幻獣
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    レイン
    レイン(ka4189unit006
    ユニット|幻獣
  • DESIRE
    尾形 剛道(ka4612
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 本家・名付け親
    ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804
    ドワーフ|17才|女性|聖導士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka4901unit010
    ユニット|幻獣
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カムイ
    神威(ka5395unit001
    ユニット|幻獣
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ゼフィール
    ゼフィール(ka5754unit001
    ユニット|幻獣
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka5843unit001
    ユニット|幻獣
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ユグディラ
    ユグディラ(ka5848unit004
    ユニット|幻獣
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    スーチャン
    スーちゃん(ka5852unit007
    ユニット|幻獣
  • 戦導師
    ローエン・アイザック(ka5946
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka6966unit004
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【質問】聞いてみよう
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/05/11 20:32:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/14 00:12:26
アイコン 相談卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2019/05/15 17:31:55