ゲスト
(ka0000)
愛の亡骸
マスター:松尾京

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/24 22:00
- 完成日
- 2015/01/31 10:09
みんなの思い出? もっと見る
-
- -
オープニング
●その山奥で
二人のハンターが、山道を歩いていた。
一人は太刀使いの大男、マルク。もう一人は銃使いの優男、グレン。
「なあグレン。ここは、もうだいぶ前に雑魔退治が行われたんだろう? 何の依頼なのか、いい加減、教えてくれよ」
マルクは、グレンに詳しい事情も告げられず、連れてこられていた。
男二人、こんな山奥に。
「つけば、わかるさ」
グレンは、かすかに鋭い目つきで、そんなことを言うばかりだった。
口調は、何か楽しみなことがあるかのように。
二人は、ハンター仲間である。
ハンターになってからの仲だが、それなりに長いこと依頼も一緒にこなし、親友と言っていい。互いに、筋の通った好漢だと認め合っていた。
そんな仲だから、ある日突然、グレンに山までついてきて欲しいと言われて……マルクは多少、困惑はした。
実は、グレンの様子が少し変だとは、思っている。説明もなしにこんな場所に連れてくるような人間ではないのだ。
マルクに心当たりがあるとすれば、それは一つだけだった。
「グレン。最近お前の様子が少し変だって、噂になってる。その……奥さんのことを思い出して、落ち込んでるんじゃないかとな」
「『奥さん』じゃない。式を挙げる前だったからね」
それには、グレンはそう答えるだけだった。
奥さんのこと、というのは……グレンの妻になる予定だったエメラダという女性が、グレンとの依頼の途中で雑魔に殺されてしまったことだ。
若い頃に出会ってからずっと一緒だったというグレンとエメラダは、周囲もうらやむほどの仲で……当時は、式を挙げる直前で、幸せの絶頂だったということである。
マルクはそのときのことは詳しくないが、仲間に聞くと、エメラダが死んだ直後のグレンは酷く落ち込んでいたらしい。
最近でもたまにそんな陰りは見えるから言ったのだが――
しかし……今のグレンを見ると、少し、明るい顔をしている。
●目的
この山は、普段から立ち入るものもなく……それなりに前だが雑魔退治も行われたので、あえてハンターが入る理由もまた、思いつかなかった。
「おいグレン、いい加減に教えろ。どうして俺を連れてきた」
「雑魔退治がされたといっても、だいぶ前だ。雑魔が新たに出てたら、僕一人じゃ、たどり着けないかも知れなかった。だから、一番信頼しているマルクに頼んだんだ。悪かったと思ってるよ」
急に饒舌に言うので、マルクは少し、訝った。
そして過去に聞いた話の断片が、いくつか繋ぎ合わさる。
「……グレン。そういえば、お前の奥さんが死んだのって、こんな山奥の廃村の、雑魔退治の途中って話じゃなかったか」
「マルク。君なら、一人で帰れるよな」
「……何を考えてる。グレン」
だが、その前に現れたのは、マルクには予想もしなかったものだった。
突然に、剣線が走る。グレンとマルクはとっさによけて、その攻撃者の姿を見た。
それは……一体のゾンビだ。
体が朽ち、雑魔と化した人間の死体。
しかも武器を持っている。マルクは、太刀を構えるが……。
しかし、それをグレンが、止めていた。
「……エメラダ。やっぱり、君だったんだね」
●幸福
マルクの頭の中で全てが繋がった。
「……グレン。お前、それはまさか、死んだっていう奥さん……なのか」
「隠していてすまなかった。しゃべったら、協力してくれないと思った」
「当たり前だろ。相手は……雑魔だぞ」
しかしグレンはマルクの言葉に構うことなく、ゾンビに近づいた。
かろうじて女だったことがわかる程度の、それはただの魔物だった。
「僕も会うのははじめてだ。けど、目撃者の話を聞いて、もしかしたら、と思っていた。剣の柄のデザイン、特徴的だろ。エメラダだけの、特注品さ」
マルクは少し、怖気に襲われる。グレンが言うならそうなのかも知れない。しかし――
「ただの偶然かも知れないだろ。そいつだって、ただのゾンビかも知れない」
「そうだったら……きっと、よかったのかもね」
グレンは笑っていた。うめき声を上げて攻撃してくるゾンビの腕を、必死に取った。
崩れた指にはまっているのは、さびた指輪。
「僕があげた婚約指輪だ。それに、ゾンビになっても、好きな人の顔って、わかるもんだな」
「……お前、まさか」
何かを直感して、マルクはグレンを連れ戻そうとする。
しかしグレンは、マルクを銃で近寄らせなかった。
「ごめん、マルク」
グレンは懐から、指輪を二つ、取り出した。
「結婚指輪だよ。エメラダ。――式を、挙げよう」
「やめろ、グレン。そいつは、雑魔だ。殺さないと、殺されるぞ!」
「それでいいんだ。エメラダを殺すことなんて、僕にはできないから」
グレンは哀しげに、笑っていた。
「少し、遅れたね」
マルクは、ゾンビに太刀を浴びせようとした。でもその前に、ゾンビの攻撃が、グレンの胸を貫いていた。
ゾンビが距離を取った隙に、マルクはグレンに駆け寄った。
グレンは血みどろになりながら、少しだけ、幸福そうだった。
「ずっと、心残りだった。でもこれで、よかった。マルク。僕の死体は、ここに置き去りにしてくれないか。エメラダと、最後まで、一緒、に――」
●依頼
「俺は、あいつの願いをむげにできなかった。黙って、立ち去っちまったんだ。だから……きっと、こんなことに」
マルクはどこか後悔したように言う。
しばらくの後、新たな目撃証言をもとに、ハンターオフィスに届いた依頼。
それは、二体のゾンビおよび周辺の雑魔の退治だった。
「俺は……あの二人を、殺せない。だから、代わりにあの二人を、眠らせてやってくれないか」
二人のハンターが、山道を歩いていた。
一人は太刀使いの大男、マルク。もう一人は銃使いの優男、グレン。
「なあグレン。ここは、もうだいぶ前に雑魔退治が行われたんだろう? 何の依頼なのか、いい加減、教えてくれよ」
マルクは、グレンに詳しい事情も告げられず、連れてこられていた。
男二人、こんな山奥に。
「つけば、わかるさ」
グレンは、かすかに鋭い目つきで、そんなことを言うばかりだった。
口調は、何か楽しみなことがあるかのように。
二人は、ハンター仲間である。
ハンターになってからの仲だが、それなりに長いこと依頼も一緒にこなし、親友と言っていい。互いに、筋の通った好漢だと認め合っていた。
そんな仲だから、ある日突然、グレンに山までついてきて欲しいと言われて……マルクは多少、困惑はした。
実は、グレンの様子が少し変だとは、思っている。説明もなしにこんな場所に連れてくるような人間ではないのだ。
マルクに心当たりがあるとすれば、それは一つだけだった。
「グレン。最近お前の様子が少し変だって、噂になってる。その……奥さんのことを思い出して、落ち込んでるんじゃないかとな」
「『奥さん』じゃない。式を挙げる前だったからね」
それには、グレンはそう答えるだけだった。
奥さんのこと、というのは……グレンの妻になる予定だったエメラダという女性が、グレンとの依頼の途中で雑魔に殺されてしまったことだ。
若い頃に出会ってからずっと一緒だったというグレンとエメラダは、周囲もうらやむほどの仲で……当時は、式を挙げる直前で、幸せの絶頂だったということである。
マルクはそのときのことは詳しくないが、仲間に聞くと、エメラダが死んだ直後のグレンは酷く落ち込んでいたらしい。
最近でもたまにそんな陰りは見えるから言ったのだが――
しかし……今のグレンを見ると、少し、明るい顔をしている。
●目的
この山は、普段から立ち入るものもなく……それなりに前だが雑魔退治も行われたので、あえてハンターが入る理由もまた、思いつかなかった。
「おいグレン、いい加減に教えろ。どうして俺を連れてきた」
「雑魔退治がされたといっても、だいぶ前だ。雑魔が新たに出てたら、僕一人じゃ、たどり着けないかも知れなかった。だから、一番信頼しているマルクに頼んだんだ。悪かったと思ってるよ」
急に饒舌に言うので、マルクは少し、訝った。
そして過去に聞いた話の断片が、いくつか繋ぎ合わさる。
「……グレン。そういえば、お前の奥さんが死んだのって、こんな山奥の廃村の、雑魔退治の途中って話じゃなかったか」
「マルク。君なら、一人で帰れるよな」
「……何を考えてる。グレン」
だが、その前に現れたのは、マルクには予想もしなかったものだった。
突然に、剣線が走る。グレンとマルクはとっさによけて、その攻撃者の姿を見た。
それは……一体のゾンビだ。
体が朽ち、雑魔と化した人間の死体。
しかも武器を持っている。マルクは、太刀を構えるが……。
しかし、それをグレンが、止めていた。
「……エメラダ。やっぱり、君だったんだね」
●幸福
マルクの頭の中で全てが繋がった。
「……グレン。お前、それはまさか、死んだっていう奥さん……なのか」
「隠していてすまなかった。しゃべったら、協力してくれないと思った」
「当たり前だろ。相手は……雑魔だぞ」
しかしグレンはマルクの言葉に構うことなく、ゾンビに近づいた。
かろうじて女だったことがわかる程度の、それはただの魔物だった。
「僕も会うのははじめてだ。けど、目撃者の話を聞いて、もしかしたら、と思っていた。剣の柄のデザイン、特徴的だろ。エメラダだけの、特注品さ」
マルクは少し、怖気に襲われる。グレンが言うならそうなのかも知れない。しかし――
「ただの偶然かも知れないだろ。そいつだって、ただのゾンビかも知れない」
「そうだったら……きっと、よかったのかもね」
グレンは笑っていた。うめき声を上げて攻撃してくるゾンビの腕を、必死に取った。
崩れた指にはまっているのは、さびた指輪。
「僕があげた婚約指輪だ。それに、ゾンビになっても、好きな人の顔って、わかるもんだな」
「……お前、まさか」
何かを直感して、マルクはグレンを連れ戻そうとする。
しかしグレンは、マルクを銃で近寄らせなかった。
「ごめん、マルク」
グレンは懐から、指輪を二つ、取り出した。
「結婚指輪だよ。エメラダ。――式を、挙げよう」
「やめろ、グレン。そいつは、雑魔だ。殺さないと、殺されるぞ!」
「それでいいんだ。エメラダを殺すことなんて、僕にはできないから」
グレンは哀しげに、笑っていた。
「少し、遅れたね」
マルクは、ゾンビに太刀を浴びせようとした。でもその前に、ゾンビの攻撃が、グレンの胸を貫いていた。
ゾンビが距離を取った隙に、マルクはグレンに駆け寄った。
グレンは血みどろになりながら、少しだけ、幸福そうだった。
「ずっと、心残りだった。でもこれで、よかった。マルク。僕の死体は、ここに置き去りにしてくれないか。エメラダと、最後まで、一緒、に――」
●依頼
「俺は、あいつの願いをむげにできなかった。黙って、立ち去っちまったんだ。だから……きっと、こんなことに」
マルクはどこか後悔したように言う。
しばらくの後、新たな目撃証言をもとに、ハンターオフィスに届いた依頼。
それは、二体のゾンビおよび周辺の雑魔の退治だった。
「俺は……あの二人を、殺せない。だから、代わりにあの二人を、眠らせてやってくれないか」
リプレイ本文
●侵攻
廃村に入ったときから、遠目にスライムの姿は見えた。七人は纏まって村の内部を進む。
トマーゾ・ヴェント(ka3781)はそんな中、武器を構えながらも軽口を叩いていた。
「お嬢さんがた、終わったら俺とメシでもどうだい?」
「緊張感のないことだ。終わったあとの話は、終わってからしてくれると助かるな」
頭上から言うのは、廃屋の屋根に上るイグレーヌ・ランスター(ka3299)だ。
戦闘直前ということもあり、女性陣は多かれ少なかれそんな反応である。
「つれないねえ。まあいいや。それならさっさと終わらせようか」
トマーゾは肩をすくめて前衛へと出た。
マリーナ・スゥ・シュナイダー(ka3966)は屋根を見上げている。
「そんなボロ家に上ったら崩れるんじゃない?」
「言うほど朽ちてはいないようだ。何にせよ、この方が戦況変化が分かり易いしな」
イグレーヌが言うと、スペクター(ka2273)もその廃屋に陣を取るようにしゃがみ込む。
「……この建物は、遮蔽物としても有用だろう」
そして見回りを手伝う妖精のアリスに小さく手をさしのべた。
「……こっちだ」
妖精は笑顔を浮かべてきらきら、とスペクターにはためいた。
ならいいけど、とマリーナは興味を失ったように、自分もナイフを構える。
アニス・エリダヌス(ka2491)はじっと遠くを見つめていた。
前方に見える森は……どこかアニスを締めつける。
「おっと」
横で、不器用そうに銃を取り落とすジェームズ=ベレスフォード(ka3943)が、笑った。
「いや、すまんね。実は初めての依頼だから、緊張しちまってな」
「そう、ですか。それでも今は、自分にできることをするしか、ないと思います」
アニスが感情を抑えて言うと、ジェームズは顔を引き締めた。
「若い子にいいこと言われちまったな。ま、けがだけはしないように頑張るか」
メル・アイザックス(ka0520)は率先して前衛に立ち、ギアブレイドを敵へ向けた。
「オーケイ、じゃあまずは、ここのやつらを片付けようか!」
前衛に並んでくるアニスとトマーゾと共に、一気に駆け出す。
メルが思うのも、後に待つ敵。けれどまずは、雑魚を退けよう。
「技術屋としてやれること、やらせて貰うよ!」
前方にいるのはスライム二匹。
まずはトマーゾの斧がスライムを脳天から切り裂く。ゼリー状の体が揺れるが、まだ死なない。が――メルのギアブレイドが続けて攻撃、切り伏せた。
残りはアニスが狙っている。光の羽根を生やし、瞳に魔法陣を浮かべながら……輝く光の魔法を飛ばし、スライムを瀕死に追い込む。
と、そのスライムが酸を広範囲に強烈な勢いで飛ばした。
三人はとっさに防御をする。そのまま身を引くと――
「――目標確認。これより射撃に入る……」
どうっ! 銃弾がスライムを撃ち殺した。炎のように揺らめく紅いオーラを纏い、後衛でアサルトライフルを構える――スペクターだ。
「向こうにもいるわよ。頼まれてくれない?」
マリーナが指さしたのは、前衛から離れた斜め後方。そこにもスライムがいた。
すると、上でイグレーヌが弓を引く。手と腕に紅色の刻印と、茨のようなオーラを浮かべ――狙い違わずスライムを穿った。
スライムが倒されると、ジェームズは頭をぽりぽりかいた。
「いやあ、若者ばっかりに頑張ってもらって……おじさん情けないな……」
「それなら、ちょうどチャンスじゃない」
マリーナが言うと、今度は真横から、大蛇がうごめいてきていた。
ちょうど銃で狙える距離。ジェームズは、慣れぬようにしつつも……慎重に銃を構え、狙撃した。どん、と大蛇は勢いで地を転がる。それを数度繰り返すと……大蛇は死んだ。
●森へ
七人は森に近づき、別の廃屋を拠点とした。
そこから、森との境目にスライムが見える。
「こちらに釣り出してみよう」
イグレーヌが、牽制射撃。味方側に誘導した。
すると予想外にスライムは三匹ほど連なって出てきたが……スペクターとイグレーヌが、射撃で一匹を倒す。次いでトマーゾの一撃が急所を突き二匹目を、アニスのシャドウブリットとメルの斬撃が三匹目を消滅させた。
と、廃屋の後方で地面がうごめいた。
直後、土から大蛇とスライムが飛び出した。
だがスペクターがすぐに拳銃で対応。大蛇を吹き飛ばした。それから妖精を優しく背に隠す。
「……怖いか……? 怖くなったら俺の後ろに隠れていろ……」
ジェームズも今度は素速くスライムに発砲。最後はマリーナが、そのスライムをナイフで一閃。息の根を止めた。
「ジェームズさん、あんなこと言っておきながらいい手際じゃない」
「いやいや、まだ慣れん。君のおかげだ」
廃村から、雑魔の気配は消えた。
皆で調べても、新たな敵は出なかった。
「……森に入るしかなさそうですね」
アニスの言葉に、皆は頷いた。
イグレーヌが森を見上げる。一人の女と一人の男が死んだ森。
「悲劇は連鎖する、か」
「ある意味では、心中ってやつなのかもな」
ジェームズはぽつりとこぼした。
スペクターは、冷静に銃弾を装填しながらも……かすかに思う。
(死しても愛するものと共にいられる事は幸せなのだろうか……?)
歯車としての生き方しか知らない自分には、死ぬまでわからないだろう。だから、自分はただ仕事をこなすだけだ、と。
一行は森の入口付近で捜索をはじめた。全員では踏み入らず、マリーナは後方の廃村で控えている。
それでも、ともすれば方向を見失いかける程の悪視界だった。
「このあたりのはずだろ。そろそろ出てきてくれると助かるんだがな」
トマーゾが言ったそのときだ。言葉通り――何かの気配を、皆が感じた。
それは上方。きら、と何かが光ったと思うと……ぶわっ! それは飛び降りるように現れた。
朽ちた体に長い髪、そして一本の剣――ゾンビ。
全員、即座に警戒するが、それでもゾンビは速かった。近場のメルに肉迫すると剣を豪速で振るう。
ぎぃん! メルは武器で受けるが、猛烈な衝撃に倒れ込む。
スペクターがすぐにゾンビを狙撃する。だがゾンビは構わず、メルを組み伏せようとした。
「いい加減に――しろっ!」
ジェームズが危険を顧みず割って入り、間近でゾンビの胸を撃つ。
するとゾンビは後退するように森に消えた。
アニスはメルに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「うん、一応ね……」
足場も悪い。マリーナの呼びかけで、いったん外に出ることにした。
廃村で、アニスはメルを回復させ……スペクターとイグレーヌは、森を射撃し、敵を誘い出せないか試みた。
だが、成功はせず、逆に――
ばすっ! と、二人の前の地面が射撃された。森からである。
そのとき一瞬、見えた。
剣のゾンビとは違う――男のゾンビの影が。まるで、近づくな、と言わんばかりに。
ジェームズが小さく言った。
「本当に、男女のゾンビだったな」
「……。恋人を追いかけて死ぬって……。バカじゃないの?」
言い放つマリーナは、拳を握っている。
「雑魔になった自分を見つけて欲しいとか思わないわよ。ましてや自分の手で恋人を殺したいだなんて思いもしないわ。生きて欲しいと思うのが普通よ。……ホント、最低。自分まで雑魔に成り下がって」
イグレーヌは、毅然と森に向く。
「……私達で終わらせてやろう、この因果を」
●闘争
七人は再び森に侵入した。全方向に、より強い警戒をもって。
すると森の奥に、それが立っているのが見えた。
腐敗が進んだ女のゾンビと、まだ人間らしさが残る男のゾンビ。
女は剣を、男は銃を。虚ろな目で、下げている。
「今度は正面から出たな、化け物。やっぱり、気味悪いな」
トマーゾが斧を突きつけた。
「添い遂げて二人共ゾンビになってめでたしめでたしと思ったか? ――くだらねえ」
と、そこで剣のゾンビが一瞬、前に出ようと動きを見せる。
そこに、メルが駆けていた。
それを合図に、トマーゾは銃のゾンビに接近した。メルを狙うつもりだった銃のゾンビは、対応が遅れる。
トマーゾは踏み込んで強打を打ち込んだ。
ゥォ……ッ! 銃のゾンビはうめきを上げつつも反撃するが、トマーゾはそれもぎりぎりでよける。そこにアニスが駆け込み、光の矢を撃ち当てた。
「……っ!」
自ら生を放棄した男。それを間近にして、アニスは激情とやるせなさに最初、声にならない声しか出ない。
と、その背後から突如、ゾンビとは別の影。まだ潜んでいたらしい、スライムだった。
だがその攻撃を弾丸が阻んだ。リボルバーを構えているジェームズだ。
「これくらいは、しないとな」
ジェームズはそのままスライムを引きつける。
見ればまだゾンビ以外に雑魔の影があるが――そちらには、スペクターやイグレーヌも注意を払っていた。だからトマーゾとアリスは、ゾンビを強く、見据えた。
メルはワイヤーウィップを巧みに操り、剣のゾンビをもう一体から分断させていた。
ゾンビが銃のゾンビへと向かおうとすれば、容赦なくその首をワイヤーで打った。
「……ごめん!」
そんな言葉が出てしまうほどには、それは人の形だけはとどめていたが……しかし、剣のゾンビは異常な腕力でワイヤーを掴む。逆にメルを投げ出そうとした。
「うわ……っ!」
だがそのとき。きゅおおっ! とエネルギーの矢が木々の間を縫い、剣のゾンビの腕を吹き飛ばした。
横から狙っていた、マリーナのマジックアローだ。
「マリーナ君、ありがとう!」
「接近戦はまかせるから、援護するわ」
マリーナはストーンアーマーでメルを覆い、強化させる。メルは、再びゾンビに向いた。
剣のゾンビは、片腕を失い、猛っていた。
でも、そこからは血も流れていなかった。
メルはギアブレイドにマテリアルを込め、見据える。
「こんなの、人間の死に方じゃあないよ。……ヒトに、戻すよ」
ゾンビは、片腕で剣を突き出す。メルは機導剣を発動し、斬撃を斬撃で受ける。
剣戟に魔法、苛烈な攻防が続く。
ゾンビはどこか、苦悶しているように見えた。無論、このゾンビにそんな感情は有りはしない。でもその一瞬、泣き出しそうな女の顔が見えた気がしたのだ。だからこそ、負けられなかった。
が、ひときわ強い敵の横薙ぎに、メルはよろめく。
マリーナはとっさにマジックアローを命中させるが――ゾンビはまだ、倒れない。最後のあがきというように、至近のメルに剣を振りかぶっていた。
だが、見上げるメルはもう、引かなかった。ゾンビの胸に飛び込み、機導剣で突き刺した。
「……ゥ……ェ――」
それきり……ゾンビは動かなくなる。メルに抱くようにされたまま、死んだ。
「ダメな男に惚れた貴方が悪いのよ? 結果はコレ。……残念ね」
横たえられたゾンビに、マリーナは言うだけだった。
●二人
トマーゾは銃のゾンビを相手にしている。木を盾に、銃撃を逃れ――隙が出来ると強打を打ち込んでいた。
腐った胴体に深い切り傷が入る。人なら耐えられぬところだが、ゾンビは声を漏らすのみ。
「人の形してようが、もう死んでるなら生き物じゃねえんだよ。遠慮なく潰してやる」
トマーゾは横へ飛び退く。そこでゾンビを狙うのは――アニス。
光の魔法がゾンビを貫いた。しかし、ゾンビはそれでも動きを止めない。
アニスは、そんなゾンビから視線を動かせない。
ゾンビの顔は、どこか訴えるようでもあった。自分達の存在を消すなと。二人の時間を終わらせるなと。そしてどこまでも、彷徨いたがっている。
アニスは小さく震え、歯を噛む。
「寄り添いたい気持ちは、痛いほど、わかります。ですが――本当に、愚かです」
消えた想い人。自ら命を捨てた目の前の男。思いが錯綜し、激情を生んだ。
「――そんなことをして、本当の意味で恋人さんが喜ぶと思ったんですか! 好きな人が死んで、嬉しいはずがないでしょう!?」
アニスは魔法を撃ち出す。ゾンビは攻撃を喰らうだけ。何も答えない。それでも問いかけずにはいられなかった。
「あなたもそうだったはずなのに! どうして!!」
するとゾンビはゥォッ――と大きなうめきを上げながら、アニスに肉迫。正面から銃弾を発射した。
アニスは直撃を喰らい、転げるが……不思議と傷は浅い。遠い祈りが、身を守ってくれたかのような感覚だった。
そこで、トマーゾがゾンビを背後から薙ぎ払った。横へよろめくゾンビを見てトマーゾは叫んだ。
「今だ! ぶっぱなせ!」
アニスは躊躇せず、間近からホーリーライトを放った。
同時、トマーゾの斬撃も直撃し――ゾンビは倒れ、命の灯火を消した。
アニスはうつむいていた。次第に、涙がぽろぽろとこぼれる。想い人との思い出が、胸に溢れていた。アニスは、激しく泣いた。
「うっ、う……! うわぁ……ん!」
ジェームズはスライムの対処にあたっている。想像以上に数多くいたが……距離を取ってしっかりと狙撃していた。
「銃の扱いにはまだ手間取っちまうが……な」
それでも、手早く二匹を退治した。
イグレーヌはマテリアルを体に込め、敵味方が入り乱れる中でも違わぬ狙いで矢を撃つ。
歪虚は、仇だ。そしてその憎悪はエクラ教への信仰で純化される。
「主は賜った――土は土に。灰は灰に。塵は塵に。――光あれ」
聖句と共に弓を引き、残りのスライムを片付けた。
スペクターは大蛇に狙いを定めている。葉に隠れているが、雑魔を見逃すほど鈍い視覚ではない。
無言でライフルの引き金を引き、頭部から撃ち抜いた。一瞬だけ鳴き声を漏らし、大蛇は絶命。それで雑魔は、全滅した。
森から出たあと。
七人は、その墓を眺めていた。
技術は人が人らしくあるために――信条を体現するように、メルが廃村の資材で作り上げたものだ。
本当は二人の亡骸も埋めたかった。でも、雑魔では死体も残らない。だから、これが精一杯だ。
そして七人はマルクを連れてきた。ジェームズは、残った剣や指輪を渡す。
「私達は単なるハンターです。だから最後は親友である貴方の手で弔って頂けないだろうか」
マルクは、かすかに憔悴したような顔だったが……それらを見て、安堵したようでもあった。
「ありがとう」
言って、遺品を一緒に、埋めた。この方が喜ぶだろうから、と。
メルは墓に語りかける。
「後はゆっくり眠って……。人間として、さ」
「来世でもまた巡り会って、今度こそ二人で幸せになれると良いな」
イグレーヌは言って、小さく加護の祈りを唱えていた。
と、スペクターの妖精が飛ぶ。まるで、墓の上をきらきらと光が舞っているかのようだった。
「さ、帰ろうぜ。パスタ作るよ」
トマーゾが明るく言うと、皆もそれに続く。
アニスは最後に、墓を一瞥した。どこかで二人がまた一緒になれるなら、それはきっと悪くないことでもあるのかも知れない、と思いながら。
人がいなくなったそこには――墓だけが残った。
森は静かだった。
廃村に入ったときから、遠目にスライムの姿は見えた。七人は纏まって村の内部を進む。
トマーゾ・ヴェント(ka3781)はそんな中、武器を構えながらも軽口を叩いていた。
「お嬢さんがた、終わったら俺とメシでもどうだい?」
「緊張感のないことだ。終わったあとの話は、終わってからしてくれると助かるな」
頭上から言うのは、廃屋の屋根に上るイグレーヌ・ランスター(ka3299)だ。
戦闘直前ということもあり、女性陣は多かれ少なかれそんな反応である。
「つれないねえ。まあいいや。それならさっさと終わらせようか」
トマーゾは肩をすくめて前衛へと出た。
マリーナ・スゥ・シュナイダー(ka3966)は屋根を見上げている。
「そんなボロ家に上ったら崩れるんじゃない?」
「言うほど朽ちてはいないようだ。何にせよ、この方が戦況変化が分かり易いしな」
イグレーヌが言うと、スペクター(ka2273)もその廃屋に陣を取るようにしゃがみ込む。
「……この建物は、遮蔽物としても有用だろう」
そして見回りを手伝う妖精のアリスに小さく手をさしのべた。
「……こっちだ」
妖精は笑顔を浮かべてきらきら、とスペクターにはためいた。
ならいいけど、とマリーナは興味を失ったように、自分もナイフを構える。
アニス・エリダヌス(ka2491)はじっと遠くを見つめていた。
前方に見える森は……どこかアニスを締めつける。
「おっと」
横で、不器用そうに銃を取り落とすジェームズ=ベレスフォード(ka3943)が、笑った。
「いや、すまんね。実は初めての依頼だから、緊張しちまってな」
「そう、ですか。それでも今は、自分にできることをするしか、ないと思います」
アニスが感情を抑えて言うと、ジェームズは顔を引き締めた。
「若い子にいいこと言われちまったな。ま、けがだけはしないように頑張るか」
メル・アイザックス(ka0520)は率先して前衛に立ち、ギアブレイドを敵へ向けた。
「オーケイ、じゃあまずは、ここのやつらを片付けようか!」
前衛に並んでくるアニスとトマーゾと共に、一気に駆け出す。
メルが思うのも、後に待つ敵。けれどまずは、雑魚を退けよう。
「技術屋としてやれること、やらせて貰うよ!」
前方にいるのはスライム二匹。
まずはトマーゾの斧がスライムを脳天から切り裂く。ゼリー状の体が揺れるが、まだ死なない。が――メルのギアブレイドが続けて攻撃、切り伏せた。
残りはアニスが狙っている。光の羽根を生やし、瞳に魔法陣を浮かべながら……輝く光の魔法を飛ばし、スライムを瀕死に追い込む。
と、そのスライムが酸を広範囲に強烈な勢いで飛ばした。
三人はとっさに防御をする。そのまま身を引くと――
「――目標確認。これより射撃に入る……」
どうっ! 銃弾がスライムを撃ち殺した。炎のように揺らめく紅いオーラを纏い、後衛でアサルトライフルを構える――スペクターだ。
「向こうにもいるわよ。頼まれてくれない?」
マリーナが指さしたのは、前衛から離れた斜め後方。そこにもスライムがいた。
すると、上でイグレーヌが弓を引く。手と腕に紅色の刻印と、茨のようなオーラを浮かべ――狙い違わずスライムを穿った。
スライムが倒されると、ジェームズは頭をぽりぽりかいた。
「いやあ、若者ばっかりに頑張ってもらって……おじさん情けないな……」
「それなら、ちょうどチャンスじゃない」
マリーナが言うと、今度は真横から、大蛇がうごめいてきていた。
ちょうど銃で狙える距離。ジェームズは、慣れぬようにしつつも……慎重に銃を構え、狙撃した。どん、と大蛇は勢いで地を転がる。それを数度繰り返すと……大蛇は死んだ。
●森へ
七人は森に近づき、別の廃屋を拠点とした。
そこから、森との境目にスライムが見える。
「こちらに釣り出してみよう」
イグレーヌが、牽制射撃。味方側に誘導した。
すると予想外にスライムは三匹ほど連なって出てきたが……スペクターとイグレーヌが、射撃で一匹を倒す。次いでトマーゾの一撃が急所を突き二匹目を、アニスのシャドウブリットとメルの斬撃が三匹目を消滅させた。
と、廃屋の後方で地面がうごめいた。
直後、土から大蛇とスライムが飛び出した。
だがスペクターがすぐに拳銃で対応。大蛇を吹き飛ばした。それから妖精を優しく背に隠す。
「……怖いか……? 怖くなったら俺の後ろに隠れていろ……」
ジェームズも今度は素速くスライムに発砲。最後はマリーナが、そのスライムをナイフで一閃。息の根を止めた。
「ジェームズさん、あんなこと言っておきながらいい手際じゃない」
「いやいや、まだ慣れん。君のおかげだ」
廃村から、雑魔の気配は消えた。
皆で調べても、新たな敵は出なかった。
「……森に入るしかなさそうですね」
アニスの言葉に、皆は頷いた。
イグレーヌが森を見上げる。一人の女と一人の男が死んだ森。
「悲劇は連鎖する、か」
「ある意味では、心中ってやつなのかもな」
ジェームズはぽつりとこぼした。
スペクターは、冷静に銃弾を装填しながらも……かすかに思う。
(死しても愛するものと共にいられる事は幸せなのだろうか……?)
歯車としての生き方しか知らない自分には、死ぬまでわからないだろう。だから、自分はただ仕事をこなすだけだ、と。
一行は森の入口付近で捜索をはじめた。全員では踏み入らず、マリーナは後方の廃村で控えている。
それでも、ともすれば方向を見失いかける程の悪視界だった。
「このあたりのはずだろ。そろそろ出てきてくれると助かるんだがな」
トマーゾが言ったそのときだ。言葉通り――何かの気配を、皆が感じた。
それは上方。きら、と何かが光ったと思うと……ぶわっ! それは飛び降りるように現れた。
朽ちた体に長い髪、そして一本の剣――ゾンビ。
全員、即座に警戒するが、それでもゾンビは速かった。近場のメルに肉迫すると剣を豪速で振るう。
ぎぃん! メルは武器で受けるが、猛烈な衝撃に倒れ込む。
スペクターがすぐにゾンビを狙撃する。だがゾンビは構わず、メルを組み伏せようとした。
「いい加減に――しろっ!」
ジェームズが危険を顧みず割って入り、間近でゾンビの胸を撃つ。
するとゾンビは後退するように森に消えた。
アニスはメルに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「うん、一応ね……」
足場も悪い。マリーナの呼びかけで、いったん外に出ることにした。
廃村で、アニスはメルを回復させ……スペクターとイグレーヌは、森を射撃し、敵を誘い出せないか試みた。
だが、成功はせず、逆に――
ばすっ! と、二人の前の地面が射撃された。森からである。
そのとき一瞬、見えた。
剣のゾンビとは違う――男のゾンビの影が。まるで、近づくな、と言わんばかりに。
ジェームズが小さく言った。
「本当に、男女のゾンビだったな」
「……。恋人を追いかけて死ぬって……。バカじゃないの?」
言い放つマリーナは、拳を握っている。
「雑魔になった自分を見つけて欲しいとか思わないわよ。ましてや自分の手で恋人を殺したいだなんて思いもしないわ。生きて欲しいと思うのが普通よ。……ホント、最低。自分まで雑魔に成り下がって」
イグレーヌは、毅然と森に向く。
「……私達で終わらせてやろう、この因果を」
●闘争
七人は再び森に侵入した。全方向に、より強い警戒をもって。
すると森の奥に、それが立っているのが見えた。
腐敗が進んだ女のゾンビと、まだ人間らしさが残る男のゾンビ。
女は剣を、男は銃を。虚ろな目で、下げている。
「今度は正面から出たな、化け物。やっぱり、気味悪いな」
トマーゾが斧を突きつけた。
「添い遂げて二人共ゾンビになってめでたしめでたしと思ったか? ――くだらねえ」
と、そこで剣のゾンビが一瞬、前に出ようと動きを見せる。
そこに、メルが駆けていた。
それを合図に、トマーゾは銃のゾンビに接近した。メルを狙うつもりだった銃のゾンビは、対応が遅れる。
トマーゾは踏み込んで強打を打ち込んだ。
ゥォ……ッ! 銃のゾンビはうめきを上げつつも反撃するが、トマーゾはそれもぎりぎりでよける。そこにアニスが駆け込み、光の矢を撃ち当てた。
「……っ!」
自ら生を放棄した男。それを間近にして、アニスは激情とやるせなさに最初、声にならない声しか出ない。
と、その背後から突如、ゾンビとは別の影。まだ潜んでいたらしい、スライムだった。
だがその攻撃を弾丸が阻んだ。リボルバーを構えているジェームズだ。
「これくらいは、しないとな」
ジェームズはそのままスライムを引きつける。
見ればまだゾンビ以外に雑魔の影があるが――そちらには、スペクターやイグレーヌも注意を払っていた。だからトマーゾとアリスは、ゾンビを強く、見据えた。
メルはワイヤーウィップを巧みに操り、剣のゾンビをもう一体から分断させていた。
ゾンビが銃のゾンビへと向かおうとすれば、容赦なくその首をワイヤーで打った。
「……ごめん!」
そんな言葉が出てしまうほどには、それは人の形だけはとどめていたが……しかし、剣のゾンビは異常な腕力でワイヤーを掴む。逆にメルを投げ出そうとした。
「うわ……っ!」
だがそのとき。きゅおおっ! とエネルギーの矢が木々の間を縫い、剣のゾンビの腕を吹き飛ばした。
横から狙っていた、マリーナのマジックアローだ。
「マリーナ君、ありがとう!」
「接近戦はまかせるから、援護するわ」
マリーナはストーンアーマーでメルを覆い、強化させる。メルは、再びゾンビに向いた。
剣のゾンビは、片腕を失い、猛っていた。
でも、そこからは血も流れていなかった。
メルはギアブレイドにマテリアルを込め、見据える。
「こんなの、人間の死に方じゃあないよ。……ヒトに、戻すよ」
ゾンビは、片腕で剣を突き出す。メルは機導剣を発動し、斬撃を斬撃で受ける。
剣戟に魔法、苛烈な攻防が続く。
ゾンビはどこか、苦悶しているように見えた。無論、このゾンビにそんな感情は有りはしない。でもその一瞬、泣き出しそうな女の顔が見えた気がしたのだ。だからこそ、負けられなかった。
が、ひときわ強い敵の横薙ぎに、メルはよろめく。
マリーナはとっさにマジックアローを命中させるが――ゾンビはまだ、倒れない。最後のあがきというように、至近のメルに剣を振りかぶっていた。
だが、見上げるメルはもう、引かなかった。ゾンビの胸に飛び込み、機導剣で突き刺した。
「……ゥ……ェ――」
それきり……ゾンビは動かなくなる。メルに抱くようにされたまま、死んだ。
「ダメな男に惚れた貴方が悪いのよ? 結果はコレ。……残念ね」
横たえられたゾンビに、マリーナは言うだけだった。
●二人
トマーゾは銃のゾンビを相手にしている。木を盾に、銃撃を逃れ――隙が出来ると強打を打ち込んでいた。
腐った胴体に深い切り傷が入る。人なら耐えられぬところだが、ゾンビは声を漏らすのみ。
「人の形してようが、もう死んでるなら生き物じゃねえんだよ。遠慮なく潰してやる」
トマーゾは横へ飛び退く。そこでゾンビを狙うのは――アニス。
光の魔法がゾンビを貫いた。しかし、ゾンビはそれでも動きを止めない。
アニスは、そんなゾンビから視線を動かせない。
ゾンビの顔は、どこか訴えるようでもあった。自分達の存在を消すなと。二人の時間を終わらせるなと。そしてどこまでも、彷徨いたがっている。
アニスは小さく震え、歯を噛む。
「寄り添いたい気持ちは、痛いほど、わかります。ですが――本当に、愚かです」
消えた想い人。自ら命を捨てた目の前の男。思いが錯綜し、激情を生んだ。
「――そんなことをして、本当の意味で恋人さんが喜ぶと思ったんですか! 好きな人が死んで、嬉しいはずがないでしょう!?」
アニスは魔法を撃ち出す。ゾンビは攻撃を喰らうだけ。何も答えない。それでも問いかけずにはいられなかった。
「あなたもそうだったはずなのに! どうして!!」
するとゾンビはゥォッ――と大きなうめきを上げながら、アニスに肉迫。正面から銃弾を発射した。
アニスは直撃を喰らい、転げるが……不思議と傷は浅い。遠い祈りが、身を守ってくれたかのような感覚だった。
そこで、トマーゾがゾンビを背後から薙ぎ払った。横へよろめくゾンビを見てトマーゾは叫んだ。
「今だ! ぶっぱなせ!」
アニスは躊躇せず、間近からホーリーライトを放った。
同時、トマーゾの斬撃も直撃し――ゾンビは倒れ、命の灯火を消した。
アニスはうつむいていた。次第に、涙がぽろぽろとこぼれる。想い人との思い出が、胸に溢れていた。アニスは、激しく泣いた。
「うっ、う……! うわぁ……ん!」
ジェームズはスライムの対処にあたっている。想像以上に数多くいたが……距離を取ってしっかりと狙撃していた。
「銃の扱いにはまだ手間取っちまうが……な」
それでも、手早く二匹を退治した。
イグレーヌはマテリアルを体に込め、敵味方が入り乱れる中でも違わぬ狙いで矢を撃つ。
歪虚は、仇だ。そしてその憎悪はエクラ教への信仰で純化される。
「主は賜った――土は土に。灰は灰に。塵は塵に。――光あれ」
聖句と共に弓を引き、残りのスライムを片付けた。
スペクターは大蛇に狙いを定めている。葉に隠れているが、雑魔を見逃すほど鈍い視覚ではない。
無言でライフルの引き金を引き、頭部から撃ち抜いた。一瞬だけ鳴き声を漏らし、大蛇は絶命。それで雑魔は、全滅した。
森から出たあと。
七人は、その墓を眺めていた。
技術は人が人らしくあるために――信条を体現するように、メルが廃村の資材で作り上げたものだ。
本当は二人の亡骸も埋めたかった。でも、雑魔では死体も残らない。だから、これが精一杯だ。
そして七人はマルクを連れてきた。ジェームズは、残った剣や指輪を渡す。
「私達は単なるハンターです。だから最後は親友である貴方の手で弔って頂けないだろうか」
マルクは、かすかに憔悴したような顔だったが……それらを見て、安堵したようでもあった。
「ありがとう」
言って、遺品を一緒に、埋めた。この方が喜ぶだろうから、と。
メルは墓に語りかける。
「後はゆっくり眠って……。人間として、さ」
「来世でもまた巡り会って、今度こそ二人で幸せになれると良いな」
イグレーヌは言って、小さく加護の祈りを唱えていた。
と、スペクターの妖精が飛ぶ。まるで、墓の上をきらきらと光が舞っているかのようだった。
「さ、帰ろうぜ。パスタ作るよ」
トマーゾが明るく言うと、皆もそれに続く。
アニスは最後に、墓を一瞥した。どこかで二人がまた一緒になれるなら、それはきっと悪くないことでもあるのかも知れない、と思いながら。
人がいなくなったそこには――墓だけが残った。
森は静かだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談スレッド トマーゾ・ヴェント(ka3781) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/24 19:53:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/20 19:17:15 |