ゲスト
(ka0000)
明日の生きる力と
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/21 09:00
- 完成日
- 2019/05/30 10:28
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●訃報
「リタ、戻ってきたら、今度、精霊の目を見に行こう!」
彼はそう言い残し、ハルトフォート砦へ向かった。
リタは楽しみに待っていた。精霊の目がどのような物か分からない。それを知っている村人も「見に行くのを楽しみにしていなさい」と言うだけに止まっていた。
聞こえる戦況は一進一退。彼女が住む村の近くにも歪虚が現れたと聞く。
不安もあったが、彼も頑張っているし、ハンターたちもいる。恐れることはないと考えることにしていた。
日々生活を送る。帰ってくる人とその精霊の目を見に行くため、長い時間歩ける体力を付けるのが日課だ。
グラズヘイム王国を取り巻く状況は決して楽観できるものになってはいなかった。
ハルトフォート砦の情報と、彼が死んだという情報がやってきたのは先日。
戻ってきたのは、ひと房の髪と彼女の姿絵の入ったロケットだった。
彼女だけでなく、村人も悲しんだ。小さな村で、知らない人はいないというところだから。
彼女が彼と結婚することは知られていた。だからこそ、歪虚との戦争から帰ってきたら結婚式だと村中が楽しみにしていた。
無事に帰ってくる、理由もなくだれもがそう考えていた。
しかし、現実は厳しかった。
一つの命が消えた。
村はひっそりと静まり返る。
身体が弱かったリタが大人になり、彼と一緒にそこを見に行くために体力づくりをしていたことも村人は知っている。
彼女は気丈にふるまう。そのことが村人にはより一層辛く感じた。
互いに感じている、人の感情の難しさを。
彼女は考えていた、村人たちも考えていた。
彼は戻ってこない。
それでも、あの、場所は見たい、見せてあげたい、と。
●依頼
ハンターオフィスに一通の手紙が送られてきた。
行ってみたいところがあるため、護衛を頼めないかと言う内容だった。
場所は山岳地帯ではないけれども、低層の山がある場所。その中腹にある村の女性が依頼人であり、村人も応援しているという。
「精霊の目ですか? どういうふうに見える、何なのでしょうか?」
そこは記載がない。イメージとしては美しい景色をそう表現しているのだろうと分かる。
「途中にはゴブリンや雑魔が出ることのありうるのですね」
村やその周辺の地域で備えているとはいえ、完全に安全とは言い切れない。
だから、ハンターにお願いをするという。
職員はその依頼を登録した。
「リタ、戻ってきたら、今度、精霊の目を見に行こう!」
彼はそう言い残し、ハルトフォート砦へ向かった。
リタは楽しみに待っていた。精霊の目がどのような物か分からない。それを知っている村人も「見に行くのを楽しみにしていなさい」と言うだけに止まっていた。
聞こえる戦況は一進一退。彼女が住む村の近くにも歪虚が現れたと聞く。
不安もあったが、彼も頑張っているし、ハンターたちもいる。恐れることはないと考えることにしていた。
日々生活を送る。帰ってくる人とその精霊の目を見に行くため、長い時間歩ける体力を付けるのが日課だ。
グラズヘイム王国を取り巻く状況は決して楽観できるものになってはいなかった。
ハルトフォート砦の情報と、彼が死んだという情報がやってきたのは先日。
戻ってきたのは、ひと房の髪と彼女の姿絵の入ったロケットだった。
彼女だけでなく、村人も悲しんだ。小さな村で、知らない人はいないというところだから。
彼女が彼と結婚することは知られていた。だからこそ、歪虚との戦争から帰ってきたら結婚式だと村中が楽しみにしていた。
無事に帰ってくる、理由もなくだれもがそう考えていた。
しかし、現実は厳しかった。
一つの命が消えた。
村はひっそりと静まり返る。
身体が弱かったリタが大人になり、彼と一緒にそこを見に行くために体力づくりをしていたことも村人は知っている。
彼女は気丈にふるまう。そのことが村人にはより一層辛く感じた。
互いに感じている、人の感情の難しさを。
彼女は考えていた、村人たちも考えていた。
彼は戻ってこない。
それでも、あの、場所は見たい、見せてあげたい、と。
●依頼
ハンターオフィスに一通の手紙が送られてきた。
行ってみたいところがあるため、護衛を頼めないかと言う内容だった。
場所は山岳地帯ではないけれども、低層の山がある場所。その中腹にある村の女性が依頼人であり、村人も応援しているという。
「精霊の目ですか? どういうふうに見える、何なのでしょうか?」
そこは記載がない。イメージとしては美しい景色をそう表現しているのだろうと分かる。
「途中にはゴブリンや雑魔が出ることのありうるのですね」
村やその周辺の地域で備えているとはいえ、完全に安全とは言い切れない。
だから、ハンターにお願いをするという。
職員はその依頼を登録した。
リプレイ本文
●村
村に着くとリタが挨拶で迎えてくれた。それに対し、ハンターたちも挨拶を返す。
「私は猟撃士のマリィア・バルデスよ、よろしくね」
マリィア・バルデス(ka5848)はリタの気持ちを考えると切なさがこみ上げる。だからこそ、彼女の小旅行をサポートするつもりだ。
「こんにちはぁ、符術師の星野 ハナと言いますぅ、よろしくお願いしますぅ」
星野 ハナ(ka5852)はリタが虚弱体質だと聞いていたため、途中で体調を崩すことを危惧していた。そのため、背負子や体温調整のために薄い布など持ってきていた。
「初めまして、リタ様。私は吟遊詩人のユメリア。もう吟遊をして八十年ほどになります。年ばかりの拙い者ですが、どうぞよしなに」
ユメリア(ka7010)は穏やかな表情で挨拶をする。
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は状況について切り出す。
「情報が少ないですね。とにかく注意しながら、油断せずに進んでいくしかないでしょうね」
不測の事態への備えはいくらあっても問題はない。マッピングセットを活用し、情報はメモしていく構えだ。
レイア・アローネ(ka4082)はリタの心情を考えると心も痛むし、願いをかなえ、できるようにさせたいと考える。
「初めに聞いておこう」
リタは緊張した。
「いや、そこまで深刻なことではない。約束を果たすための協力は惜しまない。ただ一つ……険しい山道だが、助けはいるか?」
「歩けます」
リタはきっぱりと告げた。
「分かった、護衛として精一杯を尽くそう」
レイアの言葉にリタは息を吐いた。
玲瓏(ka7114)は前もって、村人たちから聞いていた簡易地図や情報をマッピングセットにまとめていた。
「リタ様、荷物は私が一緒に持ちましょうか? 荷物がない方が動きやすいでしょうから」
玲瓏の言葉にリタは首を横に振る。自分でしたいという表れを感じる。
「分かりました。しかし、辛いということがあればすぐに言ってくださいね」
ハンターが気にしても、表に出ない部分もある。手遅れになったらせっかくの思い出が辛いだけのことになってしまうのだから。
村人に見送られ、出発した。
●道中
精霊の目が見られる場所に続く道は一本道。
「慣れている人は道から外れるようです。その分け入ったところが道に見えると危険ですね」
玲瓏は事前に聞いた情報を告げた。
「私は少し前……五十メートルほど前を行くわね」
マリィアは腰につけた鈴を鳴らす。
「何かあったら連絡するし、連絡頂戴」
「了解した」
レイアの答えを聞くと、マリィアは山道を軽やかに進んでいった。
雑魔やゴブリンなども山にいるという情報はある。ゴブリン等の亜人に関しては、こちらが警戒を示すことで近寄ってこないと考えられた。雑魔に関しては状況によっては来るだろうが、警戒を怠らなければいい。
もしも戦闘になった場合は考えている。リタの安全第一であり、深追いはしないということだった。
「精霊の目と言うのはどういうものでしょうか? 私が聞いても村の方は誰も答えてくれませんでした」
玲瓏は話しかける。リタの進行速度も適度に会話ができることを考えていた。
「知らないのです……ただ、一度は見ておきたい所だとか」
「自然の岩窟に窓のように丸い穴があき、そこを通してみる景色が精霊の目をもって通したように美しく、尊く、愛おしい……のかと想像します」
玲瓏の想像に対し、ハナもいう。
「私は湖を含んだ景色かなぁって思ったんですよねぇ」
「どちらも綺麗そうですね」
リタは答える。
しゃべりながら登るのは難しそうだ。しかし、話を聞くことは楽しい様子を見せた。
玲瓏はリタの様子をうかがう。彼女が考えたペースより遅い方がいいかと考えるが、リタの様子から現在のままが程よいと感じられる。
「そうです、精霊の目についてはわからないのですよね」
ユメリアがリタの疲労を軽減するように話をする。
「私はいろんなものを時間をかけて見てきました。各地の伝承も聞いてきました。クリムゾンウェストだけでもいろんなものがあります」
ユメリアは穏やかに語る。歌うように、風のように。リタから返答は特に求めないが、聞いてくれているのはわかった。
「エルフでも時間は有限です。そのため、この世界とも私はお別れする日も来ます。森にこもれば生きられますが、外で活動できるのはもう間もなくです」
リタは人間社会にいる為、エルフを意識していなかったのだろう。足を止め、ユメリアを見た。
「旅をして知識を、経験を誰かの思いを受け取り、つなぐのが役目の吟遊詩人という私は終焉します」
「それは……寂しくないのですか?」
「寿命はあるのです。命があって露と消えぬものは一つもないのです」
リタは唇を結ぶ。
「でもね、命の中でも千年以上続くものがあるのです。それが『想い』です。想いは胸に受け継がれ、そして、時と共に形を変えていき、また次の代へと紡がれる。でも、今、想いを受け継ぐ人がそれを投げ出してしまったら、つながらなくなってします」
ユメリアの言葉にリタはうつむいた。
「少し、休憩しましょう」
玲瓏は促した。時計を見て、工程の時間は意識した。時々ペリヴァロンを確認もしていた。ハンターの意識だけでなく、別の角度からも危険は注視しておきたかった。
ツィスカは周囲を見つつ、道の状況を適宜マッピングセットに記載していく。
「動物や雑魔等が出なければ危険は少ないとは言いますが」
足元が舗装されているわけではないため、体力に不安が出ると危険だ。必要ならばスキルを使って移動することも検討はする。
「そうならない方がいいですけれどね」
他のハンターもリタの様子は気にかけている。本当に危険な状況になるとしたら、足元の悪い傾斜地で敵に襲撃されることだろう。
雑魔でも鳥タイプだと襲撃してきそうだ。
(精霊の目についてはたいして語らず、ですか。そして、共に目にする喜びは二度と来ない……。それでも彼の無念を晴らすためには、リタさんが前へと進むしかないのでしょう。溜まっている物を吐き出せるように……たどり着くだけです)
ツィスカはリタの様子をうかがう。
足元が不安定でふらつくこともあるが、それでも前を見て進んでいる。その表情は決意に満ちた者であり、手を出すことははばかれるものだった。
マリィアは前を行く。時々、連絡を入れつつ、互いに同じルートを歩いていることを確認する。
不穏を感じたときは【直感視】を用いて確認をとる。
(結婚を約束した彼と、見に行くはずだった場所……)
仲間との連絡でリタの様子を聞くと問題はないと返答は来る。
(気持ちの整理になるように、サポートすることが仕事。そして、彼女がこれ以上切ない思いをせずに、彼との思い出を宝箱にしまい込んできれいな宝石を眺めるように穏やかに思い出せるようなお手伝いをしたいわね)
結局、どんなところか分からない。ただ、時間を区切っていないことを考えると、自然界にある不思議な現象、例えば塩湖や間欠泉かもしれないが、違うのだ。
「夕方とか朝とか指定されたら、山脈の色調変化も考えたけど」
行ってみないと分からない。
「それにしても、何かいるというのはわかるのは嫌ね」
森の中に襲ってはこないが何かはいる。
弱みを見せれば襲ってくる可能性はあるため、後続にも念を押すのだった。
レイアはリタが歩くのが精一杯の様子なので、無理に話すようなことはさせない。
(婚約者のこととか話したいことがあればと思うが……難しそうだな)
時間はあるのだから無理にすることもないかもしれない。
(見に行くことで道が開けるかもしれない。だからこそ、後悔だけでもなくせるように……)
自力で歩くという選択をしているのだから、前に進もうと努力していることはわかる。
(幸い、何も出てこない)
レイアは周囲の警戒は怠らない。
空の中心に太陽が上がるころ、森を抜けた。日差しを避ける物がなくなる。
リタの足が自然と早くなる。
「リタさん、駄目ですよぉ。気持ちがはやるのはわかりますけどぉ、足元滑りやすいですしぃ」
先行するマリィアから注意は受けていたため、ハナが注意を促す。
「場所は逃げないですから」
玲瓏は太陽の位置と時計から方角は意識した。道のある木々の間を進むのと、目標物がない荒地だと後者は帰りの目標物を見失う危険がある。木々から抜けた所、向かう方角は意識しておいた。
粗い砂の荒地、頂上までやってきた。
そこはこれまでより空が近く、視界が開けた。
●精霊の目
視界の先は、アーモンド形にくぼんでいる。
アーモンド形の中央は円の形でくぼんでいる。そこはカルデラ湖なのか、透明度が高いが、深い緑の水をたたえていた。
「目、ですねぇ」
ハナは感心したようにつぶやく。
「美しい水、生き物がいない水、澄きり、空も映し出す目ですね」
ユメリアは歌うように告げる。
瞳に当たる部分の水は空を写して緑から青になる。
太陽の光が当たり、キラキラと輝く。
「ああ……」
リタは前に崩れる。レイアは慌てて支えようとしたが、すとんと座る形であった。
「きれいだな」
「はい……でも……」
リタは何かを飲み込む。
「リタ、君が言いたいことを言ってもいいし、泣きたいなら泣けばいい」
レイアは優しく言う。
マリィアはそれを聞きながらうなずく。
「護衛が依頼だけど、話を聞くことくらいできるもの。私があなたの立場だったら、すぐに気持ちの切り替えなんてできないわ」
「そうですよぉ、お茶でも飲んでゆっくりしましょうぉ?」
ハナが準備をする。
風が吹くと、瞳は揺れる。涙をためて我慢するような目であった。
飛ぶ鳥の声、木のさざめき。
水が揺れて、砂岩がささやく。
衣擦れの音や湯の湧く音。
人工的であるが、自然に溶け込む静かな音。
「うっ」
リタから嗚咽が漏れる。
ハナはハンカチを渡し、その肩を抱き、ポンポンと背中をたたいた。
無言の行動であるが、リタの気持ちは動く。
ユメリアは風のように歌を紡いだ。悲しみに寄り添うような静かで伸びやかな声で。死者の魂に安らぎをもたらすように。
玲瓏は昼食の準備を始める。リタの気持ちがあふれている今は、見守るしかない。下りるときの体力を考えると、前を向くためのエネルギーはいる。持ってきたお結び一個でも、一口でも食べる元気が戻ってくれることを願う。
レイアはリタが静かに泣くのを見つめ、護衛として一旦立ち上がる。今はかける言葉はない。ただ、彼女の中の心のさざ波が静かになるのを待つだけだった。その邪魔はできないし、させない。
ツィスカは精霊の目を見つめ、黙る。リタの心の整理がつき、前に進む力になってくれることを願う。
しばらくすると、リタはハナに「すみません」と言った。
「全然ですよぉ? ささ、水分が出てしまっていますぅ、ゆっくりお茶を飲みましょう」
ハナは笑う。
「あ、はい、いただきます」
リタは涙を流した顔に笑みを作った。受け取ると茶を飲むとほっと息を吐いた。
「そういえば、村の人に彼氏さんの好物を聞いてみたんですぅ。それを作って持っていくとかも!」
ハナが不満そうな顔になる。
「好物、そりゃ、リタが作った物全部さぁってのろけられましたぁ! 村のおじいさんやおばあさんたちにぃ」
リタは頬を赤らめうつむく。
「それは困る回答ですよね」
ツィスカが苦笑していうと、ハナは「でしょー」と言い、作ってきたサンドイッチを勧めた。
よく動いたし来られたことでの安堵からか、リタは礼を言ってハンターが用意したものや自分が持ってきたものを食べる。
ハンターたちも警戒や昼食を適宜とる。
一息ついて、リタが口を開いた。
「本当に目みたいです。精霊は見たことありませんが、名前つけた人はきっと知っていたんでしょうね」
「確かに……。村の人たちは話してくれませんでしたけれど、ここはどういうときに訪れる所なんですか?」
玲瓏は実家が神社だったということもあり、神域か何かだと想像していた。
「畑とか仕事の合間に、天気がいい時ですね。ここまで上がるのに結構難所もあるため、ある程度大きくなってからでないと来られません」
「神域とかではないのですね?」
「そうですね。そういうことは聞いていません」
「残念と思うと同時に、そうだったら私たちに護衛なんて頼んでくれませんよね」
玲瓏は微笑む。
「特別な場所に特別な人と……想いはたくさんあります」
ユメリアの言葉にリタは何か言いかけて涙をこぼす。それをユメリアは肩を抱く。
「すみません!」
「いえいえ、涙も必要ですし……今のあなたを私は尊敬します。だから、素直な気持ちを出してくださっていいのですよ」
ユメリアにリタは礼を述べる。
「そうだな。リタはここまで一人で歩いた。不安がったのが申し訳ないな」
「そんな……本当、心配かけてすみません。もし、彼とだったら……」
「それはそれで仲良く来られたのではないか?」
「ふふっ……でも、心配させすぎてしまっていたかもしれません」
「いや、わからないぞ? 君が張り切って登っていたかもしれないし」
レイアにリタは笑顔を見せた。寂しげでもあるが、もしもあったかもしれない未来を考えて見て涙と共に笑みがこぼれたのだった。
様子を見ながらマリィアは手を動かしていた。見つけた植物で花輪を編む。
この先に幸があることを願いながら。
●帰路
「ささ、リタさん、背負子に乗ってくださいぃ」
「え!?」
ハナの申し出にリタは首と手を横に振る。
「疲れているなら頼ってくださいね」
玲瓏はリタの様子を医師としてうかがう。晴れ晴れとした顔をしているのはわかる。疲労はそこに隠れているのか問題はないのか、本人次第。
「下りる方が危険だからな」
「そうですね。すべる所なら、【ジェットブーツ】という空をちょっと飛べるスキルで補助もしますから」
レイアとツィスカがリタに言う。
「本当にぃ大丈夫ですぅ?」
ハナに念を押され、リタは「本当に危なかったら言いますから」と言い礼を述べた。
「さて行きましょう。そうそう、さっき作ったのだけど」
リタの頭にマリィアは花輪を載せる。
「あなたにとって見に来たかいがあったならば嬉しいわ。あなたの今日の記念にどうぞ」
リタは驚き、マリィアを見つめる。恥ずかしそうに花輪を手にし、それに目を落とした。
「……私、来られてよかったです。また来たいです」
「そう、よかったわ。レイアも言ったように帰りの方が危険よ。護衛も気を抜かない!」
リタもハンターも異口同音に返事を返した。
声ががは重なった後、沈黙が流れる。何がおかしいのかわからないが、笑い声が響いた。
「リタ様の気持ちが軽くなる。私たちと想いとともに」
ユメリアは歌う。
「いずれ、リタ様と彼のことをうたわせてくださいね」
リタは慌てたが、ユメリアは微笑むだけだった。
村に着くとリタが挨拶で迎えてくれた。それに対し、ハンターたちも挨拶を返す。
「私は猟撃士のマリィア・バルデスよ、よろしくね」
マリィア・バルデス(ka5848)はリタの気持ちを考えると切なさがこみ上げる。だからこそ、彼女の小旅行をサポートするつもりだ。
「こんにちはぁ、符術師の星野 ハナと言いますぅ、よろしくお願いしますぅ」
星野 ハナ(ka5852)はリタが虚弱体質だと聞いていたため、途中で体調を崩すことを危惧していた。そのため、背負子や体温調整のために薄い布など持ってきていた。
「初めまして、リタ様。私は吟遊詩人のユメリア。もう吟遊をして八十年ほどになります。年ばかりの拙い者ですが、どうぞよしなに」
ユメリア(ka7010)は穏やかな表情で挨拶をする。
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は状況について切り出す。
「情報が少ないですね。とにかく注意しながら、油断せずに進んでいくしかないでしょうね」
不測の事態への備えはいくらあっても問題はない。マッピングセットを活用し、情報はメモしていく構えだ。
レイア・アローネ(ka4082)はリタの心情を考えると心も痛むし、願いをかなえ、できるようにさせたいと考える。
「初めに聞いておこう」
リタは緊張した。
「いや、そこまで深刻なことではない。約束を果たすための協力は惜しまない。ただ一つ……険しい山道だが、助けはいるか?」
「歩けます」
リタはきっぱりと告げた。
「分かった、護衛として精一杯を尽くそう」
レイアの言葉にリタは息を吐いた。
玲瓏(ka7114)は前もって、村人たちから聞いていた簡易地図や情報をマッピングセットにまとめていた。
「リタ様、荷物は私が一緒に持ちましょうか? 荷物がない方が動きやすいでしょうから」
玲瓏の言葉にリタは首を横に振る。自分でしたいという表れを感じる。
「分かりました。しかし、辛いということがあればすぐに言ってくださいね」
ハンターが気にしても、表に出ない部分もある。手遅れになったらせっかくの思い出が辛いだけのことになってしまうのだから。
村人に見送られ、出発した。
●道中
精霊の目が見られる場所に続く道は一本道。
「慣れている人は道から外れるようです。その分け入ったところが道に見えると危険ですね」
玲瓏は事前に聞いた情報を告げた。
「私は少し前……五十メートルほど前を行くわね」
マリィアは腰につけた鈴を鳴らす。
「何かあったら連絡するし、連絡頂戴」
「了解した」
レイアの答えを聞くと、マリィアは山道を軽やかに進んでいった。
雑魔やゴブリンなども山にいるという情報はある。ゴブリン等の亜人に関しては、こちらが警戒を示すことで近寄ってこないと考えられた。雑魔に関しては状況によっては来るだろうが、警戒を怠らなければいい。
もしも戦闘になった場合は考えている。リタの安全第一であり、深追いはしないということだった。
「精霊の目と言うのはどういうものでしょうか? 私が聞いても村の方は誰も答えてくれませんでした」
玲瓏は話しかける。リタの進行速度も適度に会話ができることを考えていた。
「知らないのです……ただ、一度は見ておきたい所だとか」
「自然の岩窟に窓のように丸い穴があき、そこを通してみる景色が精霊の目をもって通したように美しく、尊く、愛おしい……のかと想像します」
玲瓏の想像に対し、ハナもいう。
「私は湖を含んだ景色かなぁって思ったんですよねぇ」
「どちらも綺麗そうですね」
リタは答える。
しゃべりながら登るのは難しそうだ。しかし、話を聞くことは楽しい様子を見せた。
玲瓏はリタの様子をうかがう。彼女が考えたペースより遅い方がいいかと考えるが、リタの様子から現在のままが程よいと感じられる。
「そうです、精霊の目についてはわからないのですよね」
ユメリアがリタの疲労を軽減するように話をする。
「私はいろんなものを時間をかけて見てきました。各地の伝承も聞いてきました。クリムゾンウェストだけでもいろんなものがあります」
ユメリアは穏やかに語る。歌うように、風のように。リタから返答は特に求めないが、聞いてくれているのはわかった。
「エルフでも時間は有限です。そのため、この世界とも私はお別れする日も来ます。森にこもれば生きられますが、外で活動できるのはもう間もなくです」
リタは人間社会にいる為、エルフを意識していなかったのだろう。足を止め、ユメリアを見た。
「旅をして知識を、経験を誰かの思いを受け取り、つなぐのが役目の吟遊詩人という私は終焉します」
「それは……寂しくないのですか?」
「寿命はあるのです。命があって露と消えぬものは一つもないのです」
リタは唇を結ぶ。
「でもね、命の中でも千年以上続くものがあるのです。それが『想い』です。想いは胸に受け継がれ、そして、時と共に形を変えていき、また次の代へと紡がれる。でも、今、想いを受け継ぐ人がそれを投げ出してしまったら、つながらなくなってします」
ユメリアの言葉にリタはうつむいた。
「少し、休憩しましょう」
玲瓏は促した。時計を見て、工程の時間は意識した。時々ペリヴァロンを確認もしていた。ハンターの意識だけでなく、別の角度からも危険は注視しておきたかった。
ツィスカは周囲を見つつ、道の状況を適宜マッピングセットに記載していく。
「動物や雑魔等が出なければ危険は少ないとは言いますが」
足元が舗装されているわけではないため、体力に不安が出ると危険だ。必要ならばスキルを使って移動することも検討はする。
「そうならない方がいいですけれどね」
他のハンターもリタの様子は気にかけている。本当に危険な状況になるとしたら、足元の悪い傾斜地で敵に襲撃されることだろう。
雑魔でも鳥タイプだと襲撃してきそうだ。
(精霊の目についてはたいして語らず、ですか。そして、共に目にする喜びは二度と来ない……。それでも彼の無念を晴らすためには、リタさんが前へと進むしかないのでしょう。溜まっている物を吐き出せるように……たどり着くだけです)
ツィスカはリタの様子をうかがう。
足元が不安定でふらつくこともあるが、それでも前を見て進んでいる。その表情は決意に満ちた者であり、手を出すことははばかれるものだった。
マリィアは前を行く。時々、連絡を入れつつ、互いに同じルートを歩いていることを確認する。
不穏を感じたときは【直感視】を用いて確認をとる。
(結婚を約束した彼と、見に行くはずだった場所……)
仲間との連絡でリタの様子を聞くと問題はないと返答は来る。
(気持ちの整理になるように、サポートすることが仕事。そして、彼女がこれ以上切ない思いをせずに、彼との思い出を宝箱にしまい込んできれいな宝石を眺めるように穏やかに思い出せるようなお手伝いをしたいわね)
結局、どんなところか分からない。ただ、時間を区切っていないことを考えると、自然界にある不思議な現象、例えば塩湖や間欠泉かもしれないが、違うのだ。
「夕方とか朝とか指定されたら、山脈の色調変化も考えたけど」
行ってみないと分からない。
「それにしても、何かいるというのはわかるのは嫌ね」
森の中に襲ってはこないが何かはいる。
弱みを見せれば襲ってくる可能性はあるため、後続にも念を押すのだった。
レイアはリタが歩くのが精一杯の様子なので、無理に話すようなことはさせない。
(婚約者のこととか話したいことがあればと思うが……難しそうだな)
時間はあるのだから無理にすることもないかもしれない。
(見に行くことで道が開けるかもしれない。だからこそ、後悔だけでもなくせるように……)
自力で歩くという選択をしているのだから、前に進もうと努力していることはわかる。
(幸い、何も出てこない)
レイアは周囲の警戒は怠らない。
空の中心に太陽が上がるころ、森を抜けた。日差しを避ける物がなくなる。
リタの足が自然と早くなる。
「リタさん、駄目ですよぉ。気持ちがはやるのはわかりますけどぉ、足元滑りやすいですしぃ」
先行するマリィアから注意は受けていたため、ハナが注意を促す。
「場所は逃げないですから」
玲瓏は太陽の位置と時計から方角は意識した。道のある木々の間を進むのと、目標物がない荒地だと後者は帰りの目標物を見失う危険がある。木々から抜けた所、向かう方角は意識しておいた。
粗い砂の荒地、頂上までやってきた。
そこはこれまでより空が近く、視界が開けた。
●精霊の目
視界の先は、アーモンド形にくぼんでいる。
アーモンド形の中央は円の形でくぼんでいる。そこはカルデラ湖なのか、透明度が高いが、深い緑の水をたたえていた。
「目、ですねぇ」
ハナは感心したようにつぶやく。
「美しい水、生き物がいない水、澄きり、空も映し出す目ですね」
ユメリアは歌うように告げる。
瞳に当たる部分の水は空を写して緑から青になる。
太陽の光が当たり、キラキラと輝く。
「ああ……」
リタは前に崩れる。レイアは慌てて支えようとしたが、すとんと座る形であった。
「きれいだな」
「はい……でも……」
リタは何かを飲み込む。
「リタ、君が言いたいことを言ってもいいし、泣きたいなら泣けばいい」
レイアは優しく言う。
マリィアはそれを聞きながらうなずく。
「護衛が依頼だけど、話を聞くことくらいできるもの。私があなたの立場だったら、すぐに気持ちの切り替えなんてできないわ」
「そうですよぉ、お茶でも飲んでゆっくりしましょうぉ?」
ハナが準備をする。
風が吹くと、瞳は揺れる。涙をためて我慢するような目であった。
飛ぶ鳥の声、木のさざめき。
水が揺れて、砂岩がささやく。
衣擦れの音や湯の湧く音。
人工的であるが、自然に溶け込む静かな音。
「うっ」
リタから嗚咽が漏れる。
ハナはハンカチを渡し、その肩を抱き、ポンポンと背中をたたいた。
無言の行動であるが、リタの気持ちは動く。
ユメリアは風のように歌を紡いだ。悲しみに寄り添うような静かで伸びやかな声で。死者の魂に安らぎをもたらすように。
玲瓏は昼食の準備を始める。リタの気持ちがあふれている今は、見守るしかない。下りるときの体力を考えると、前を向くためのエネルギーはいる。持ってきたお結び一個でも、一口でも食べる元気が戻ってくれることを願う。
レイアはリタが静かに泣くのを見つめ、護衛として一旦立ち上がる。今はかける言葉はない。ただ、彼女の中の心のさざ波が静かになるのを待つだけだった。その邪魔はできないし、させない。
ツィスカは精霊の目を見つめ、黙る。リタの心の整理がつき、前に進む力になってくれることを願う。
しばらくすると、リタはハナに「すみません」と言った。
「全然ですよぉ? ささ、水分が出てしまっていますぅ、ゆっくりお茶を飲みましょう」
ハナは笑う。
「あ、はい、いただきます」
リタは涙を流した顔に笑みを作った。受け取ると茶を飲むとほっと息を吐いた。
「そういえば、村の人に彼氏さんの好物を聞いてみたんですぅ。それを作って持っていくとかも!」
ハナが不満そうな顔になる。
「好物、そりゃ、リタが作った物全部さぁってのろけられましたぁ! 村のおじいさんやおばあさんたちにぃ」
リタは頬を赤らめうつむく。
「それは困る回答ですよね」
ツィスカが苦笑していうと、ハナは「でしょー」と言い、作ってきたサンドイッチを勧めた。
よく動いたし来られたことでの安堵からか、リタは礼を言ってハンターが用意したものや自分が持ってきたものを食べる。
ハンターたちも警戒や昼食を適宜とる。
一息ついて、リタが口を開いた。
「本当に目みたいです。精霊は見たことありませんが、名前つけた人はきっと知っていたんでしょうね」
「確かに……。村の人たちは話してくれませんでしたけれど、ここはどういうときに訪れる所なんですか?」
玲瓏は実家が神社だったということもあり、神域か何かだと想像していた。
「畑とか仕事の合間に、天気がいい時ですね。ここまで上がるのに結構難所もあるため、ある程度大きくなってからでないと来られません」
「神域とかではないのですね?」
「そうですね。そういうことは聞いていません」
「残念と思うと同時に、そうだったら私たちに護衛なんて頼んでくれませんよね」
玲瓏は微笑む。
「特別な場所に特別な人と……想いはたくさんあります」
ユメリアの言葉にリタは何か言いかけて涙をこぼす。それをユメリアは肩を抱く。
「すみません!」
「いえいえ、涙も必要ですし……今のあなたを私は尊敬します。だから、素直な気持ちを出してくださっていいのですよ」
ユメリアにリタは礼を述べる。
「そうだな。リタはここまで一人で歩いた。不安がったのが申し訳ないな」
「そんな……本当、心配かけてすみません。もし、彼とだったら……」
「それはそれで仲良く来られたのではないか?」
「ふふっ……でも、心配させすぎてしまっていたかもしれません」
「いや、わからないぞ? 君が張り切って登っていたかもしれないし」
レイアにリタは笑顔を見せた。寂しげでもあるが、もしもあったかもしれない未来を考えて見て涙と共に笑みがこぼれたのだった。
様子を見ながらマリィアは手を動かしていた。見つけた植物で花輪を編む。
この先に幸があることを願いながら。
●帰路
「ささ、リタさん、背負子に乗ってくださいぃ」
「え!?」
ハナの申し出にリタは首と手を横に振る。
「疲れているなら頼ってくださいね」
玲瓏はリタの様子を医師としてうかがう。晴れ晴れとした顔をしているのはわかる。疲労はそこに隠れているのか問題はないのか、本人次第。
「下りる方が危険だからな」
「そうですね。すべる所なら、【ジェットブーツ】という空をちょっと飛べるスキルで補助もしますから」
レイアとツィスカがリタに言う。
「本当にぃ大丈夫ですぅ?」
ハナに念を押され、リタは「本当に危なかったら言いますから」と言い礼を述べた。
「さて行きましょう。そうそう、さっき作ったのだけど」
リタの頭にマリィアは花輪を載せる。
「あなたにとって見に来たかいがあったならば嬉しいわ。あなたの今日の記念にどうぞ」
リタは驚き、マリィアを見つめる。恥ずかしそうに花輪を手にし、それに目を落とした。
「……私、来られてよかったです。また来たいです」
「そう、よかったわ。レイアも言ったように帰りの方が危険よ。護衛も気を抜かない!」
リタもハンターも異口同音に返事を返した。
声ががは重なった後、沈黙が流れる。何がおかしいのかわからないが、笑い声が響いた。
「リタ様の気持ちが軽くなる。私たちと想いとともに」
ユメリアは歌う。
「いずれ、リタ様と彼のことをうたわせてくださいね」
リタは慌てたが、ユメリアは微笑むだけだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/19 18:12:06 |
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出発前のご相談 玲瓏(ka7114) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/05/20 22:17:54 |