ゲスト
(ka0000)
カッテくんは休みたい
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/20 22:00
- 完成日
- 2019/05/29 23:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
オペレーション・ブラッドアウトにいち早く合流を決めたゾンネンシュトラール帝国では、淡々と戦支度が進められていた。
この国は元々そういうモノで、どこかに殴り込みをかけるという点においては迷いがない。
とりあえず邪神という最大の脅威を撃破しなければ国の未来も利権もないので、帝国軍も元テロリストも仲良く肩を並べて軍備を増強している。
邪神討伐に戦力を送り込むにしてもその間にグラウンド・ゼロ以外のエリアが攻撃されないとも限らず、国の守りも重要となる。
皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルが未だグラウンド・ゼロとリゼリオを行き来しながらシェオル型歪虚討伐に勤しんでいるとなると、防備の方は弟のカッテ・ウランゲルの仕事であった。
「まあ、いつもそんなものなのですが」
執務机の上でペンを走らせながら少年は小さく息を吐く。
思いの外仕事が溜まっていないのは、書類にサインしたり方々に指示をする以外の姉の業務を、部分的にヒルデブラント・ウランゲルが補っているからだ。
自称・本物のナイトハルトという謎の英霊も絶火騎士を率いて領内の歪虚討伐に乗り出しており、戦力を国外に派遣しているとは思えない程情勢は安定していた。
「最近は陛下が真面目にお仕事をしてくださるお陰もあって、むしろ時間を持て余しますね。うんうん……マテリアルの炎で焼かれると真面目になってくれるというのなら、国外に派遣するだけの価値があるというものです」
冗談なのか本気なのかよくわからない独り言に、四大精霊サンデルマンが口を挟む。
『……カッテよ。承知しているとは思うが、私も時が来れば前線に向かうつもりだ』
「当然でしょうね。四大精霊には相応の役割もありますから」
『邪神との最後の戦いとあっては、私も無事では済まないだろう……。故に、カッテよ。私は……お前が心配なのだ』
きょとんと、目を丸くする皇子。
こういう言い方もあれだが、ぶっちゃけこの城にいる臣下は誰一人として彼を心配しない。
良くも悪くも、カッテは完璧だった。
為政者としては明確にヴィルヘルミナより王道を往く存在である。外交、内政、なんでもござれの神童だ。
あのウランゲル一族からなんでこんなのが産まれたの? 突然変異なの? と飽きる程言われてきた。本人も知りたいと思ってる。
そんな彼は(ヴィルヘルミナのしわ寄せもあるだろうが)国民から絶大な信頼を帯びている。ので、心配されることなどほとんどなかった。
『お前は……一見すると完璧だが、どこか危うい部分もある……』
「私もウランゲルの血を引いていますから、確かに博打を好む傾向はありますが」
よ~~~~~~く考えて、予め策を巡らせておきながら一番肝心なところは博打にする、というのがカッテのやり口だ。
調和のとれたフィフティ・フィフティにならないと、ギャンブルはおもしろくない――とのこと。
「働きぶりや私生活……というレベルの話ではないんですね?」
『ああ……。お前はもうすこし、生物的な無駄を嗜んだ方が良い。例えば……恋であるとか』
「恋ですか。私は恋を生物的な無駄とは思いませんね。種の存続において、恋愛という感情は――」
『そういうところ……そういうところだぞ、カッテ』
「わかっていますよ。今のはジョークです。しかし遺憾ですね、サンデルマン。私に恋愛経験がないと仰るのですか?」
『あるのか……?』
「一応、私も皇族ですから。バレンタインデーなどには大量にチョコレートをいただきます。まあ、だいたい毒見に消えてしまうのですが……」
『チョコレートはノーカウントだ……』
楽し気に笑い、カッテは腕を組む。
「要するに、少し休めということですね?」
確かに最近は少し余裕も出てきた。帝国領内での事件が減少したおかげだ。
歪虚問題に割いていたリソースは、今や国の未来を創るために当てられている。そういう意味で忙しさは緩和していないが、喫緊の命に係わるような問題が少なくなったのは事実だ。
『お前は……休日には何をしているのだ?』
「急ぎではない仕事をしています。……え~と、わかりました、わかりましたから。そんな憐れむような顔をしないでください」
サンデルマンに表情はない。が、付き合いが長くなり、カッテにはわかるようになってきた。
「しかし、私は姉上と違って護衛もつけずに街を歩けるような腕っぷしではありません。必然的に城内での活動に限られます」
『ハンターを呼べばよかろう』
「世界中が大変なこの時期に、ごく個人的な理由で……ですか?」
『だからこそ、だ。ハンターにも、休息は必要なのだ……』
「流石に詭弁だと思いますが……まあ、確かにハンターと言えども365日最前線に詰めているわけではないでしょうから、手の空いている方が引き受けてくださるでしょう」
うんうんと二度頷き、それからカッテはポンと手を叩く。
「そうだ。せっかくですから、女性とデートをしてみたいですね」
『何ぃ!?』
「あなたが言い出したんじゃないですか。確かに私は、姉が姉なので普通の女性に不慣れです。せっかくの機会ですから、普通に街など歩いてみたいものですね……ふふふ」
窓の向こうを眺めながら、にこにこと微笑むカッテ。
どこまで本気かは四大精霊にもわからなかったが、当人が気分転換できるのならそれでいいかと考え、それ以上ツッコミはいれなかった。
かくして、ただカッテ皇子が街をぶらつくだけの熾烈な戦いが幕を開けようとしていた……。
この国は元々そういうモノで、どこかに殴り込みをかけるという点においては迷いがない。
とりあえず邪神という最大の脅威を撃破しなければ国の未来も利権もないので、帝国軍も元テロリストも仲良く肩を並べて軍備を増強している。
邪神討伐に戦力を送り込むにしてもその間にグラウンド・ゼロ以外のエリアが攻撃されないとも限らず、国の守りも重要となる。
皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルが未だグラウンド・ゼロとリゼリオを行き来しながらシェオル型歪虚討伐に勤しんでいるとなると、防備の方は弟のカッテ・ウランゲルの仕事であった。
「まあ、いつもそんなものなのですが」
執務机の上でペンを走らせながら少年は小さく息を吐く。
思いの外仕事が溜まっていないのは、書類にサインしたり方々に指示をする以外の姉の業務を、部分的にヒルデブラント・ウランゲルが補っているからだ。
自称・本物のナイトハルトという謎の英霊も絶火騎士を率いて領内の歪虚討伐に乗り出しており、戦力を国外に派遣しているとは思えない程情勢は安定していた。
「最近は陛下が真面目にお仕事をしてくださるお陰もあって、むしろ時間を持て余しますね。うんうん……マテリアルの炎で焼かれると真面目になってくれるというのなら、国外に派遣するだけの価値があるというものです」
冗談なのか本気なのかよくわからない独り言に、四大精霊サンデルマンが口を挟む。
『……カッテよ。承知しているとは思うが、私も時が来れば前線に向かうつもりだ』
「当然でしょうね。四大精霊には相応の役割もありますから」
『邪神との最後の戦いとあっては、私も無事では済まないだろう……。故に、カッテよ。私は……お前が心配なのだ』
きょとんと、目を丸くする皇子。
こういう言い方もあれだが、ぶっちゃけこの城にいる臣下は誰一人として彼を心配しない。
良くも悪くも、カッテは完璧だった。
為政者としては明確にヴィルヘルミナより王道を往く存在である。外交、内政、なんでもござれの神童だ。
あのウランゲル一族からなんでこんなのが産まれたの? 突然変異なの? と飽きる程言われてきた。本人も知りたいと思ってる。
そんな彼は(ヴィルヘルミナのしわ寄せもあるだろうが)国民から絶大な信頼を帯びている。ので、心配されることなどほとんどなかった。
『お前は……一見すると完璧だが、どこか危うい部分もある……』
「私もウランゲルの血を引いていますから、確かに博打を好む傾向はありますが」
よ~~~~~~く考えて、予め策を巡らせておきながら一番肝心なところは博打にする、というのがカッテのやり口だ。
調和のとれたフィフティ・フィフティにならないと、ギャンブルはおもしろくない――とのこと。
「働きぶりや私生活……というレベルの話ではないんですね?」
『ああ……。お前はもうすこし、生物的な無駄を嗜んだ方が良い。例えば……恋であるとか』
「恋ですか。私は恋を生物的な無駄とは思いませんね。種の存続において、恋愛という感情は――」
『そういうところ……そういうところだぞ、カッテ』
「わかっていますよ。今のはジョークです。しかし遺憾ですね、サンデルマン。私に恋愛経験がないと仰るのですか?」
『あるのか……?』
「一応、私も皇族ですから。バレンタインデーなどには大量にチョコレートをいただきます。まあ、だいたい毒見に消えてしまうのですが……」
『チョコレートはノーカウントだ……』
楽し気に笑い、カッテは腕を組む。
「要するに、少し休めということですね?」
確かに最近は少し余裕も出てきた。帝国領内での事件が減少したおかげだ。
歪虚問題に割いていたリソースは、今や国の未来を創るために当てられている。そういう意味で忙しさは緩和していないが、喫緊の命に係わるような問題が少なくなったのは事実だ。
『お前は……休日には何をしているのだ?』
「急ぎではない仕事をしています。……え~と、わかりました、わかりましたから。そんな憐れむような顔をしないでください」
サンデルマンに表情はない。が、付き合いが長くなり、カッテにはわかるようになってきた。
「しかし、私は姉上と違って護衛もつけずに街を歩けるような腕っぷしではありません。必然的に城内での活動に限られます」
『ハンターを呼べばよかろう』
「世界中が大変なこの時期に、ごく個人的な理由で……ですか?」
『だからこそ、だ。ハンターにも、休息は必要なのだ……』
「流石に詭弁だと思いますが……まあ、確かにハンターと言えども365日最前線に詰めているわけではないでしょうから、手の空いている方が引き受けてくださるでしょう」
うんうんと二度頷き、それからカッテはポンと手を叩く。
「そうだ。せっかくですから、女性とデートをしてみたいですね」
『何ぃ!?』
「あなたが言い出したんじゃないですか。確かに私は、姉が姉なので普通の女性に不慣れです。せっかくの機会ですから、普通に街など歩いてみたいものですね……ふふふ」
窓の向こうを眺めながら、にこにこと微笑むカッテ。
どこまで本気かは四大精霊にもわからなかったが、当人が気分転換できるのならそれでいいかと考え、それ以上ツッコミはいれなかった。
かくして、ただカッテ皇子が街をぶらつくだけの熾烈な戦いが幕を開けようとしていた……。
リプレイ本文
●
「来たねぇ。今日はよろしく頼むよ」
待ち合わせ場所で合流したヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、カッテと短い挨拶を交わす。
カッテはいつもの派手な格好ではなく、ワイシャツにジーンズ、薄手のカーディガンという私服での登場である。
「……ふむ。その格好なら皇子には見えないねぇ」
言いながらヒースは片腕に抱えていた黒猫をを皇子の頭に載せた。
「休みの日は相応の振る舞いをした方がそれらしいからねぇ。お休みのお供に黒猫は最適だよぉ」
「頭に猫を載せるのはお休みらしいんでしょうか?」
「さてねぇ。皇子らしく振舞ったらナナクロが引っ掻くだろうから気を付けなよぉ」
「引っ掻くんですか。それは気を付けないといけませんね」
恰好が違っても、ただそこに突っ立っているだけで皇子の貫禄が出てしまう。
「皇子らしくするなと言っても、どうやら無理みたいだねぇ」
「一応、これでもリラックスしているつもりなのですが」
「損な性分だな。人間は完璧じゃない方がいい。人は他者に完璧とか、完成された英雄を求める。だけどそれは依存となり、時に歪める。実例は多すぎると思わないかい、この国じゃ」
「耳が痛いですね。まあ、私は覚醒者ではありませんから、、ナイトハルトのようなことにはならないと思いますが」
「他者にどう思われようが気にしないならそれでもいいけどね。だけど、自分の弱さを見せられる相手がいるのも悪くないよ。ボクも、それに気づけた」
カッテは真面目の堅物というよりは、のらりくらりとしていて掴みどころがない雰囲気だ。
ヒースの脳裏に、彼の父親の姿が過る。
あの愚か者は幸も不幸も弱さも強さもひっくるめて楽しんでいる節がある。
目の前の少年も同じようなもので、実際の所この性格で何も困っていないのかもしれない。
(あの父、あの姉にしてこの皇子ありってことかぁ。さてさて、どうなることやら……)
最初から異常事態には気づいていたようだが、ここにきてようやくカッテが追及を口にする。
「ところでヒースさん。今日は四人のハンターさんに護衛をお願いしたはずですよね?」
そう。あと三人。この物語の登場人物が不足している。
「それなんだけどねぇ」
ヒースは腕を組み、したり顔で二度頷く。
「乙女の準備には何かと時間がかかる。ので、待つのも休日の内……ってことで」
「ヒースさんもいつも待ってるんですか?」
「そうだなぁ。どちらかというと、待つ側かなぁ……」
男が二人で青空を眺める少し前……。
「きゃー! シェリルさんかわいい~! とっても似合ってます~っ!!」
ヒヨス・アマミヤ(ka1403)が拍手しながら出迎えたシェリル・マイヤーズ(ka0509)は、いつもと一味違う。
肩を大きく出したフリフリのワンピース姿は、シェリルにとってはけっこう恥ずかしい。
「なんか……あちこちがスースーして落ち着かない……」
「あはは! まるで男の子みたいなリアクションだね~!」
にこにこと穏やかな笑顔で複雑なコメントをする十色 エニア(ka0370)も合わせ、三人はシェリルのコーディネートに熱中していた。
「休日を友達と過ごすって、幸せな時間だよね~」
「いえいえ、エニアさん。今日はですね……シェリルさんと王子様のデートなんですよっ!」
「え~っ、そうだったの~?」
「ち、違う……デートじゃない……街へ行くって聞いた。護衛……一応……」
「いえ、これはデートですっ! そうであればとびっきりかわいくしておかねばならないのですよっ!」
「うんうん! わたしも応援するから、今日は勇気……出しちゃおうよ!」
顔を真っ赤にしながらもシェリルは言葉に詰まる。
確かにデート……だったらいいなと思っていないわけではない……が、きっと向こうはそんなつもりはないだろうし……と、頭の中でグルグルしている間にヒヨスはシェリルの腰にベルトを巻き、いくつかカーディガンを合わせていた。
「やっぱり春なんだから、水色がいいですね!」
「よ~し、わたしもお化粧手伝っちゃうね。シェリルさん、じっとしててね~」
「髪はヒヨがセットしますからっ! しばしの辛抱ですよ……辛抱……っ!!」
ノリノリの二人にあれやこれやと世話を焼かれるも、悪い気はしない。
むしろ応援してくれる二人には感謝の気持ちでいっぱいだった。
そんなこんなで、ノリノリで準備をしていたら……。
「わっ、もうこんな時間!?」
「ひえっ、遅刻しちゃってます!?」
「あう……急がないと……!」
男が二人で青空を眺めて3分後……。
「ヒースさん、お待たせしましたぁっ!」
「遅かったね、ヒヨコ。それで、シェリーは……」
待ち合わせ場所に駆け付けたヒヨスの背後、走ると色々崩れるので早歩きくらいのペースでシェリルが姿を現した。
「……ボクが言うのもなんだけど。見違えるほどだね。いい仕事したね、ヒヨコ。シェリーも頑張っているみたいだねぇ」
「そ……そう、かな? でもこれ、殆どヒヨとエニアのおかげ……」
「そんなのいいから、今はほら……ね?」
エニアに背中を押され、カッテの前に出る。
そんなシェリルの頭から爪先までを眺め、カッテはにっこりと微笑んだ。
「今日はいつもと雰囲気が違いますね。あ……もしかして変装ですか?」
その瞬間――(シェリル以外に)衝撃が走る!
「ごめんねシェリルさん、ちょっとカッテ皇子借りるね~?」
「ヒヨたち、大事なお話があるんですけど~?」
「はい?」
エニアとヒヨスが左右を固め、カッテを物陰に連れ込む。
少しして戻ってくると、カッテは何事もなかったかのように、
「シェリルさん、今日はとってもお洒落で可愛いですね!」
笑顔で言い直した。
「そ……そう、かな? 今日、どうする? 行きたいところとか……」
シェリルは気にする様子もなく普通に話をしているが、ヒースの所に早足で歩いてきたヒヨスとエニアは、
「ヒースさん、ダメです! カッテ皇子、悪気ゼロですっ!」
「あの子多分、単純に女の子の扱いに慣れてないね~……」
「意外な弱点だねぇ。まあ、仕方ないのかぁ……?」
「仕方なくないからっ! せっかく好きな人のために頑張ってるのに、気づいてもらえなかったら意味ないですっ!」
「うんうん……こうなったらわたしたちがそれとなくサポートするしかないね」
三人(主に二人)が恋の援護射撃に燃える頃。
「シャイネに託したチョコ……届いた?」
「ええ。彼、あれで結構律儀なので……ちゃんと報告してくれましたよ」
「ん……そっか。なら、よかった……」
シェリルはカッテと雑談を楽しんでいた。
その視線がふと、カッテの耳元に向けられる。
「あの……耳飾り……」
「はい。今日は外してきました」
堂々と笑顔で答えると、ヒヨスとエニアが青ざめる。
「普段身に着けているので、つけていると変装になりませんから」
「いつもつけてくれてるんだね……そっか」
見守る二人は「紛らわしいんだよ!」と言わんばかりであった。
●
ヒヨスの提案で、一行はブックカフェ「シエル」へとやってきた。
「やっぱり紅茶にはたっぷりのジャムですね」
「カッテ……ジャム、好きだよね」
「甘いもの全般好きですけど、ジャムは格別ですね。素早く脳に栄養が補給される感じがします」
各々お茶を楽しみつつ、シェリルとカッテのやり取りを眺める三人。
今日はアシスト役に徹すると決めているので、会話が途切れそうになったら話に混ざる感じだ。
「そういえば、頭を使うのが好きなんだよね~? ボードゲームとか、皆で遊べるのはどうかな?」
「ボードゲームですか……」
エニアの提案は悪くない気がするが、カッテの表情は暗い。
「得意なのですが……手加減が出来なくて、最後にはいつも嫌われてしまうんです……」
「……な、なんだかそれはそれでかわいそうだね」
それしか言いようがない……。
「じゃあ、トランプとか運に左右されやすいゲームはどうかな?」
「カードはいいですね。ワンサイドゲームになりづらいと思います」
――しかし。
結局、トランプも確率とリスクの計算で価値を重ねていく遊びである以上、カッテの得意分野には変わらず……。
回を重ねていくと、いつの間にか「アレ? これもう勝てなくない?」という雰囲気になり、何となくお開きになった。
「やっぱりカードはいいですね」
「ウ、ウン……ソウダネ?」
お茶を啜りながら目を逸らすエニア。カッテは楽しかったようだから、それでいいか……。
エニアとカッテがカードの話をしている隙を見計らい、ヒヨスはシェリルに耳打ちする。
「シェリルさん、“あーん”してみようよ! 絶対いいよ、“あーん”!」
「えっ……い、いいのかな?」
「大丈夫ですっ! ……色々な意味でっ!」
冷や汗を流しながら力説するヒヨス。
実際にシェリルが行動に起こしてみると、やはりというか、カッテは当たり前のように身を乗り出した。
「あーん」
「あ……あーん」
「……うん。とってもおいしいです♪」
「もっと、いる?」
二人共照れている感じはなく、普通に「あーん」を繰り返している。
「……この二人、別に付き合ってないんだよね?」
「ヒヨの認識ではそうですね」
幸せそうにケーキを食べるカッテと、それを見て自分も幸せそうなシェリル。
直接的なスキンシップを取っていないだけで、傍目にはもう十分恋人であるかのようだ。
●
その後も甘いものを食べたり、お土産用のジャムや紅茶を買ったり、カッテの天然ボケに振り回されたりして時は過ぎ……。
そろそろ依頼の期限である日暮れも近づいてきた頃。
「時は満ちました。夕日を背景にっ! ロマンチックな告白をしちゃいましょうっ!」
握り拳でシェリルに顔を寄せるヒヨス。
シェリルもなんだかんだで乗り気なのか、こくこくと二度頷いたが。
「でも……告白なんて、どうすればいいのか……」
「大丈夫ですっ! シェリルさんはそのまま、普通でいいんですよ」
二人の様子を見ていてヒヨスは理解した。
「カッテさんに特別なことはいらないんですよ。ただ単に傍にいてあげれば、それで癒されるんですから」
それが結論だ。
カッテは今日を自然体で楽しんでいたし、シェリルも無理はしていない。
つまり二人はそのままでもう十分なのだ。
「あっちは覚悟を決めたみたいだね」
遠巻きにヒヨスとシェリルが一緒に深呼吸するのを眺め、エニアは微笑む。
「わかってると思うけど……皇子も後悔しないようにね。わたしは知り合いが何人も逝ってしまったから、猶更思うんだ」
命は永遠ではない。こんな仕事をしていれば、いつ終わってしまうかもわからない。
「今までわがままを抑えてきたのなら猶更、一つ二つくらい、いいじゃない。なんなら、駆け落ちだって手伝いますよ~?」
「駆け落ち、ですか。それもいいですね」
本気か冗談かわからない、しかしそれなりに考えるような重さを伴った返答。
「答えはおまえ自身の意思で選びなよ。誰かの為じゃなくて、自分の為に。じゃないと従妹が哀しむからさぁ」
「その点は安心してください」
ヒースとエニアは頷き合い、その場をそっと離れる。
物陰で不審者めいた挙動をしているヒヨスと合流し、三人でシェリルとカッテを見送る。
「結果はともかく、手を伸ばすことだけなら自由……かしらね」
エニアはどこか達観するようにつぶやき、それから身体を大きく伸ばす。
「それじゃあ最後に、二人だけの時間を作ってあげよっかな~!」
「え? 二人きりって?」
首を傾げるヒヨス。
そう、ここは帝都バルトアンデルス。どこに行っても多くの人で賑わっている。
二人は川沿いに向かったようだが、そこにもきっと人がいるだろう。
「要するに、他に目立つものがあればいいんだよ。ヒヨスさん、二人がどうなったのか、あとでわたしにも教えてね~!」
エニアはウィンクを残し、街角へ文字通り踊り出した。
ここで一芝居打って、注目を集める算段だ。
集まり始めた人を横目に、二人の後を追ってヒヨスは物陰を走り出した。
●
「とーさま……どうしてる?」
「あちこちで奮闘されてますよ」
二人は夕日に照らされたイルリ川を眺めながら肩を並べる。
「あの人は……カッテにもう少し自由になって欲しいのかな」
願望めいた言葉だが、カッテはそれを肯定する。
「あの人はずっとそういう人ですよ。愛情表現が絶望的に下手なんです」
「やっぱり……。でも、だから、とーさまが許せなくて。……返り討ちでボコボコにされたけど……」
カッテもヒルデブラントも、家族を想っている。
だが、それぞれ抱えた過去や目指すべき未来がその想いを複雑にしてしまっている。
「カッテは……辛くないの?」
心配になる。優秀すぎるからこそ、自分の気持ちもわからなくなっているのではないかと。
だが、カッテは笑顔を返した。
「僕は、父上も姉上も信じているんです。あの人たちはどうあれ、絶対に自分を曲げない。だから僕も自分を曲げずにいられる」
「……そっか。なら、私のやりたいことも……」
三人のウランゲルの間を行ったり来たりしてきたのは、きっとその間を埋めたかったから。
それぞれが自分を曲げないというのなら、シェリルも自分を曲げてはいけない。
「カッテ……」
少女は少年と向き合う。
「好き……だよ。きっと中庭で一緒に眠った時から……」
長い間、その言葉を伝えたかった。
この国のこと、身分のこと、色々あるから難しいのはわかっていた。
でも、エニアの言った通り。この世界はいつ終わるかもわからないから。
本当はぎゅっと抱き着いて、ありったけの気持ちを叫んでしまいたい。
ただそれだけのことが難しく、言葉に詰まる。
「シェリルさん」
「はひっ」
緊張して声が裏返るが、カッテは笑顔で少女の手を取る。
「私はまだ、やるべき戦いを終えていません。そんな身でご婦人の気持ちを受け入れることはできません。だから……一緒に戦ってください。そしてこの国がちゃんと独り立ちできた時、もう一度同じ言葉を言っていただけないでしょうか」
「もう一度……」
返事がもらえない可能性も考慮していた。
だがこれは、実質オーケーなわけで。
喜びがこらえ切れず、少女は少年に飛びついた。
「必要な時は、いつでも呼んで。カッテの為に私は動く……そうしたいと思う。だから、そうする。私も……自分を曲げない」
そしてそっと身を放すと――カッテの顔は真っ赤になっていた。
「こっ……婚姻前の男女が、ここまで密着するのはいかがなものかと……」
えええええええええええーーーーーーっ!?
という、ツッコミにも似た悲鳴がどこからか聞こえた気がしたが。
「カッテ……だいすきっ」
遠慮なしにもう一度抱き着き、その掌に鈴蘭の栞を握らせた。
彼の幸せを願って、あの日編み上げた祈りは……。
少女を抱き返すことも出来ない初心な少年の手に、ぎこちなく包み込まれた。
「来たねぇ。今日はよろしく頼むよ」
待ち合わせ場所で合流したヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、カッテと短い挨拶を交わす。
カッテはいつもの派手な格好ではなく、ワイシャツにジーンズ、薄手のカーディガンという私服での登場である。
「……ふむ。その格好なら皇子には見えないねぇ」
言いながらヒースは片腕に抱えていた黒猫をを皇子の頭に載せた。
「休みの日は相応の振る舞いをした方がそれらしいからねぇ。お休みのお供に黒猫は最適だよぉ」
「頭に猫を載せるのはお休みらしいんでしょうか?」
「さてねぇ。皇子らしく振舞ったらナナクロが引っ掻くだろうから気を付けなよぉ」
「引っ掻くんですか。それは気を付けないといけませんね」
恰好が違っても、ただそこに突っ立っているだけで皇子の貫禄が出てしまう。
「皇子らしくするなと言っても、どうやら無理みたいだねぇ」
「一応、これでもリラックスしているつもりなのですが」
「損な性分だな。人間は完璧じゃない方がいい。人は他者に完璧とか、完成された英雄を求める。だけどそれは依存となり、時に歪める。実例は多すぎると思わないかい、この国じゃ」
「耳が痛いですね。まあ、私は覚醒者ではありませんから、、ナイトハルトのようなことにはならないと思いますが」
「他者にどう思われようが気にしないならそれでもいいけどね。だけど、自分の弱さを見せられる相手がいるのも悪くないよ。ボクも、それに気づけた」
カッテは真面目の堅物というよりは、のらりくらりとしていて掴みどころがない雰囲気だ。
ヒースの脳裏に、彼の父親の姿が過る。
あの愚か者は幸も不幸も弱さも強さもひっくるめて楽しんでいる節がある。
目の前の少年も同じようなもので、実際の所この性格で何も困っていないのかもしれない。
(あの父、あの姉にしてこの皇子ありってことかぁ。さてさて、どうなることやら……)
最初から異常事態には気づいていたようだが、ここにきてようやくカッテが追及を口にする。
「ところでヒースさん。今日は四人のハンターさんに護衛をお願いしたはずですよね?」
そう。あと三人。この物語の登場人物が不足している。
「それなんだけどねぇ」
ヒースは腕を組み、したり顔で二度頷く。
「乙女の準備には何かと時間がかかる。ので、待つのも休日の内……ってことで」
「ヒースさんもいつも待ってるんですか?」
「そうだなぁ。どちらかというと、待つ側かなぁ……」
男が二人で青空を眺める少し前……。
「きゃー! シェリルさんかわいい~! とっても似合ってます~っ!!」
ヒヨス・アマミヤ(ka1403)が拍手しながら出迎えたシェリル・マイヤーズ(ka0509)は、いつもと一味違う。
肩を大きく出したフリフリのワンピース姿は、シェリルにとってはけっこう恥ずかしい。
「なんか……あちこちがスースーして落ち着かない……」
「あはは! まるで男の子みたいなリアクションだね~!」
にこにこと穏やかな笑顔で複雑なコメントをする十色 エニア(ka0370)も合わせ、三人はシェリルのコーディネートに熱中していた。
「休日を友達と過ごすって、幸せな時間だよね~」
「いえいえ、エニアさん。今日はですね……シェリルさんと王子様のデートなんですよっ!」
「え~っ、そうだったの~?」
「ち、違う……デートじゃない……街へ行くって聞いた。護衛……一応……」
「いえ、これはデートですっ! そうであればとびっきりかわいくしておかねばならないのですよっ!」
「うんうん! わたしも応援するから、今日は勇気……出しちゃおうよ!」
顔を真っ赤にしながらもシェリルは言葉に詰まる。
確かにデート……だったらいいなと思っていないわけではない……が、きっと向こうはそんなつもりはないだろうし……と、頭の中でグルグルしている間にヒヨスはシェリルの腰にベルトを巻き、いくつかカーディガンを合わせていた。
「やっぱり春なんだから、水色がいいですね!」
「よ~し、わたしもお化粧手伝っちゃうね。シェリルさん、じっとしててね~」
「髪はヒヨがセットしますからっ! しばしの辛抱ですよ……辛抱……っ!!」
ノリノリの二人にあれやこれやと世話を焼かれるも、悪い気はしない。
むしろ応援してくれる二人には感謝の気持ちでいっぱいだった。
そんなこんなで、ノリノリで準備をしていたら……。
「わっ、もうこんな時間!?」
「ひえっ、遅刻しちゃってます!?」
「あう……急がないと……!」
男が二人で青空を眺めて3分後……。
「ヒースさん、お待たせしましたぁっ!」
「遅かったね、ヒヨコ。それで、シェリーは……」
待ち合わせ場所に駆け付けたヒヨスの背後、走ると色々崩れるので早歩きくらいのペースでシェリルが姿を現した。
「……ボクが言うのもなんだけど。見違えるほどだね。いい仕事したね、ヒヨコ。シェリーも頑張っているみたいだねぇ」
「そ……そう、かな? でもこれ、殆どヒヨとエニアのおかげ……」
「そんなのいいから、今はほら……ね?」
エニアに背中を押され、カッテの前に出る。
そんなシェリルの頭から爪先までを眺め、カッテはにっこりと微笑んだ。
「今日はいつもと雰囲気が違いますね。あ……もしかして変装ですか?」
その瞬間――(シェリル以外に)衝撃が走る!
「ごめんねシェリルさん、ちょっとカッテ皇子借りるね~?」
「ヒヨたち、大事なお話があるんですけど~?」
「はい?」
エニアとヒヨスが左右を固め、カッテを物陰に連れ込む。
少しして戻ってくると、カッテは何事もなかったかのように、
「シェリルさん、今日はとってもお洒落で可愛いですね!」
笑顔で言い直した。
「そ……そう、かな? 今日、どうする? 行きたいところとか……」
シェリルは気にする様子もなく普通に話をしているが、ヒースの所に早足で歩いてきたヒヨスとエニアは、
「ヒースさん、ダメです! カッテ皇子、悪気ゼロですっ!」
「あの子多分、単純に女の子の扱いに慣れてないね~……」
「意外な弱点だねぇ。まあ、仕方ないのかぁ……?」
「仕方なくないからっ! せっかく好きな人のために頑張ってるのに、気づいてもらえなかったら意味ないですっ!」
「うんうん……こうなったらわたしたちがそれとなくサポートするしかないね」
三人(主に二人)が恋の援護射撃に燃える頃。
「シャイネに託したチョコ……届いた?」
「ええ。彼、あれで結構律儀なので……ちゃんと報告してくれましたよ」
「ん……そっか。なら、よかった……」
シェリルはカッテと雑談を楽しんでいた。
その視線がふと、カッテの耳元に向けられる。
「あの……耳飾り……」
「はい。今日は外してきました」
堂々と笑顔で答えると、ヒヨスとエニアが青ざめる。
「普段身に着けているので、つけていると変装になりませんから」
「いつもつけてくれてるんだね……そっか」
見守る二人は「紛らわしいんだよ!」と言わんばかりであった。
●
ヒヨスの提案で、一行はブックカフェ「シエル」へとやってきた。
「やっぱり紅茶にはたっぷりのジャムですね」
「カッテ……ジャム、好きだよね」
「甘いもの全般好きですけど、ジャムは格別ですね。素早く脳に栄養が補給される感じがします」
各々お茶を楽しみつつ、シェリルとカッテのやり取りを眺める三人。
今日はアシスト役に徹すると決めているので、会話が途切れそうになったら話に混ざる感じだ。
「そういえば、頭を使うのが好きなんだよね~? ボードゲームとか、皆で遊べるのはどうかな?」
「ボードゲームですか……」
エニアの提案は悪くない気がするが、カッテの表情は暗い。
「得意なのですが……手加減が出来なくて、最後にはいつも嫌われてしまうんです……」
「……な、なんだかそれはそれでかわいそうだね」
それしか言いようがない……。
「じゃあ、トランプとか運に左右されやすいゲームはどうかな?」
「カードはいいですね。ワンサイドゲームになりづらいと思います」
――しかし。
結局、トランプも確率とリスクの計算で価値を重ねていく遊びである以上、カッテの得意分野には変わらず……。
回を重ねていくと、いつの間にか「アレ? これもう勝てなくない?」という雰囲気になり、何となくお開きになった。
「やっぱりカードはいいですね」
「ウ、ウン……ソウダネ?」
お茶を啜りながら目を逸らすエニア。カッテは楽しかったようだから、それでいいか……。
エニアとカッテがカードの話をしている隙を見計らい、ヒヨスはシェリルに耳打ちする。
「シェリルさん、“あーん”してみようよ! 絶対いいよ、“あーん”!」
「えっ……い、いいのかな?」
「大丈夫ですっ! ……色々な意味でっ!」
冷や汗を流しながら力説するヒヨス。
実際にシェリルが行動に起こしてみると、やはりというか、カッテは当たり前のように身を乗り出した。
「あーん」
「あ……あーん」
「……うん。とってもおいしいです♪」
「もっと、いる?」
二人共照れている感じはなく、普通に「あーん」を繰り返している。
「……この二人、別に付き合ってないんだよね?」
「ヒヨの認識ではそうですね」
幸せそうにケーキを食べるカッテと、それを見て自分も幸せそうなシェリル。
直接的なスキンシップを取っていないだけで、傍目にはもう十分恋人であるかのようだ。
●
その後も甘いものを食べたり、お土産用のジャムや紅茶を買ったり、カッテの天然ボケに振り回されたりして時は過ぎ……。
そろそろ依頼の期限である日暮れも近づいてきた頃。
「時は満ちました。夕日を背景にっ! ロマンチックな告白をしちゃいましょうっ!」
握り拳でシェリルに顔を寄せるヒヨス。
シェリルもなんだかんだで乗り気なのか、こくこくと二度頷いたが。
「でも……告白なんて、どうすればいいのか……」
「大丈夫ですっ! シェリルさんはそのまま、普通でいいんですよ」
二人の様子を見ていてヒヨスは理解した。
「カッテさんに特別なことはいらないんですよ。ただ単に傍にいてあげれば、それで癒されるんですから」
それが結論だ。
カッテは今日を自然体で楽しんでいたし、シェリルも無理はしていない。
つまり二人はそのままでもう十分なのだ。
「あっちは覚悟を決めたみたいだね」
遠巻きにヒヨスとシェリルが一緒に深呼吸するのを眺め、エニアは微笑む。
「わかってると思うけど……皇子も後悔しないようにね。わたしは知り合いが何人も逝ってしまったから、猶更思うんだ」
命は永遠ではない。こんな仕事をしていれば、いつ終わってしまうかもわからない。
「今までわがままを抑えてきたのなら猶更、一つ二つくらい、いいじゃない。なんなら、駆け落ちだって手伝いますよ~?」
「駆け落ち、ですか。それもいいですね」
本気か冗談かわからない、しかしそれなりに考えるような重さを伴った返答。
「答えはおまえ自身の意思で選びなよ。誰かの為じゃなくて、自分の為に。じゃないと従妹が哀しむからさぁ」
「その点は安心してください」
ヒースとエニアは頷き合い、その場をそっと離れる。
物陰で不審者めいた挙動をしているヒヨスと合流し、三人でシェリルとカッテを見送る。
「結果はともかく、手を伸ばすことだけなら自由……かしらね」
エニアはどこか達観するようにつぶやき、それから身体を大きく伸ばす。
「それじゃあ最後に、二人だけの時間を作ってあげよっかな~!」
「え? 二人きりって?」
首を傾げるヒヨス。
そう、ここは帝都バルトアンデルス。どこに行っても多くの人で賑わっている。
二人は川沿いに向かったようだが、そこにもきっと人がいるだろう。
「要するに、他に目立つものがあればいいんだよ。ヒヨスさん、二人がどうなったのか、あとでわたしにも教えてね~!」
エニアはウィンクを残し、街角へ文字通り踊り出した。
ここで一芝居打って、注目を集める算段だ。
集まり始めた人を横目に、二人の後を追ってヒヨスは物陰を走り出した。
●
「とーさま……どうしてる?」
「あちこちで奮闘されてますよ」
二人は夕日に照らされたイルリ川を眺めながら肩を並べる。
「あの人は……カッテにもう少し自由になって欲しいのかな」
願望めいた言葉だが、カッテはそれを肯定する。
「あの人はずっとそういう人ですよ。愛情表現が絶望的に下手なんです」
「やっぱり……。でも、だから、とーさまが許せなくて。……返り討ちでボコボコにされたけど……」
カッテもヒルデブラントも、家族を想っている。
だが、それぞれ抱えた過去や目指すべき未来がその想いを複雑にしてしまっている。
「カッテは……辛くないの?」
心配になる。優秀すぎるからこそ、自分の気持ちもわからなくなっているのではないかと。
だが、カッテは笑顔を返した。
「僕は、父上も姉上も信じているんです。あの人たちはどうあれ、絶対に自分を曲げない。だから僕も自分を曲げずにいられる」
「……そっか。なら、私のやりたいことも……」
三人のウランゲルの間を行ったり来たりしてきたのは、きっとその間を埋めたかったから。
それぞれが自分を曲げないというのなら、シェリルも自分を曲げてはいけない。
「カッテ……」
少女は少年と向き合う。
「好き……だよ。きっと中庭で一緒に眠った時から……」
長い間、その言葉を伝えたかった。
この国のこと、身分のこと、色々あるから難しいのはわかっていた。
でも、エニアの言った通り。この世界はいつ終わるかもわからないから。
本当はぎゅっと抱き着いて、ありったけの気持ちを叫んでしまいたい。
ただそれだけのことが難しく、言葉に詰まる。
「シェリルさん」
「はひっ」
緊張して声が裏返るが、カッテは笑顔で少女の手を取る。
「私はまだ、やるべき戦いを終えていません。そんな身でご婦人の気持ちを受け入れることはできません。だから……一緒に戦ってください。そしてこの国がちゃんと独り立ちできた時、もう一度同じ言葉を言っていただけないでしょうか」
「もう一度……」
返事がもらえない可能性も考慮していた。
だがこれは、実質オーケーなわけで。
喜びがこらえ切れず、少女は少年に飛びついた。
「必要な時は、いつでも呼んで。カッテの為に私は動く……そうしたいと思う。だから、そうする。私も……自分を曲げない」
そしてそっと身を放すと――カッテの顔は真っ赤になっていた。
「こっ……婚姻前の男女が、ここまで密着するのはいかがなものかと……」
えええええええええええーーーーーーっ!?
という、ツッコミにも似た悲鳴がどこからか聞こえた気がしたが。
「カッテ……だいすきっ」
遠慮なしにもう一度抱き着き、その掌に鈴蘭の栞を握らせた。
彼の幸せを願って、あの日編み上げた祈りは……。
少女を抱き返すことも出来ない初心な少年の手に、ぎこちなく包み込まれた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 25人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/16 00:26:30 |
|
![]() |
相談卓 シェリル・マイヤーズ(ka0509) 人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/05/20 00:33:04 |