ゲスト
(ka0000)
【血断】それぞれの路、星の煌めき
マスター:紫雨

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/23 12:00
- 完成日
- 2019/05/30 13:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●星々の煌めきが示す先へ
小高い丘、周囲の灯りが少なく、天体観測を行うのにうってつけの場所。
星の煌めきを見上げる姿に何をみるだろうか。丘の上にいる一人の女性は丘を登ってくる者たちへ背を向ける形で立っていた。落ちてきそうな星の煌めきをつかみ取ろうと両手を伸ばしている。
「星の輝きは遥かに長い距離を旅しています。出発地点の星が消え去っても」
呟きは誰かに向けてではなく、事実を口にしていた。この場で見えている光の主はもうこの宇宙に生きていない、邪神ファナティックブラッドが喰らい尽くしてしまったから。
地球以外に命ある星のない宇宙から純粋な光がまばゆい煌きとなって降り注ぐ。光を放っていた星々はこの時に存在はしていないのに。それでも煌きはすぐに無くならない、光を飲み込んでしまうようなものが遮らない限りは。
「皆さんはどう思いますか? 今、見えている輝きの意味を」
両手を降ろした彼女は登ってきた者たちへ向けて振り返り、投げかけた。暗闇のせいか彼女の表情はわからない。
光は遥かな距離を移動するだけという事実、まだ生きているという叫び、それとも弔いを求めての亡骸。どれが正しいかは受け取り方次第だろう。
彼女も答えの出ない問いであることは承知している。それでも考えて欲しいと投げかけた。
「正しい答えを求めてはいません。ここで感じたことが皆さんの想いを……大事な物が何か、見つめ直す機会になればいい」
少しでも考えをまとめる手伝いができれば、これからの困難に立ち向かうための覚悟を促せれば、と。彼女の雰囲気が申し訳ないものへと変わる。重大な選択を迫っているのは重々承知しているが、決断の時が迫っているのも事実。
「これから先、皆さんが重大な決断をしなくてはならない時、今日の事を思い出してください。きっと、糧になります」
生きていた時と変わらない輝きが優しく今を生きる者たちを見守る。これからの選択に悔いを残さず、胸を張って肯定できるように。
このひと時だけは心穏やかに過ごしてほしい、そう彼女は微笑んで告げた。
小高い丘、周囲の灯りが少なく、天体観測を行うのにうってつけの場所。
星の煌めきを見上げる姿に何をみるだろうか。丘の上にいる一人の女性は丘を登ってくる者たちへ背を向ける形で立っていた。落ちてきそうな星の煌めきをつかみ取ろうと両手を伸ばしている。
「星の輝きは遥かに長い距離を旅しています。出発地点の星が消え去っても」
呟きは誰かに向けてではなく、事実を口にしていた。この場で見えている光の主はもうこの宇宙に生きていない、邪神ファナティックブラッドが喰らい尽くしてしまったから。
地球以外に命ある星のない宇宙から純粋な光がまばゆい煌きとなって降り注ぐ。光を放っていた星々はこの時に存在はしていないのに。それでも煌きはすぐに無くならない、光を飲み込んでしまうようなものが遮らない限りは。
「皆さんはどう思いますか? 今、見えている輝きの意味を」
両手を降ろした彼女は登ってきた者たちへ向けて振り返り、投げかけた。暗闇のせいか彼女の表情はわからない。
光は遥かな距離を移動するだけという事実、まだ生きているという叫び、それとも弔いを求めての亡骸。どれが正しいかは受け取り方次第だろう。
彼女も答えの出ない問いであることは承知している。それでも考えて欲しいと投げかけた。
「正しい答えを求めてはいません。ここで感じたことが皆さんの想いを……大事な物が何か、見つめ直す機会になればいい」
少しでも考えをまとめる手伝いができれば、これからの困難に立ち向かうための覚悟を促せれば、と。彼女の雰囲気が申し訳ないものへと変わる。重大な選択を迫っているのは重々承知しているが、決断の時が迫っているのも事実。
「これから先、皆さんが重大な決断をしなくてはならない時、今日の事を思い出してください。きっと、糧になります」
生きていた時と変わらない輝きが優しく今を生きる者たちを見守る。これからの選択に悔いを残さず、胸を張って肯定できるように。
このひと時だけは心穏やかに過ごしてほしい、そう彼女は微笑んで告げた。
リプレイ本文
(出来れば一緒に来たかったんだがな……)
丘へ続く道を一人登っているレイア・アローネ(ka4082)は誘った友人のことを考えている。できれば共にと誘っていたのだが、予定が合わなかった。少し寂しいと思うが、自分の気持ちを整理することが出来ると思えば前を向ける。
(私は何のために戦っているのか……。最初は腕を磨くために、強者を求めてだった)
一歩一歩、頂上へ向けて登っていく。道すがら今までを振り返る。
始まりは己を磨くために山奥の故郷を下り、ハンターとなった。でも、今は少し変わった気がする。守りたいものや肩を並べ戦う仲間が増えた。共に同じものを見たい、感じたいと思う相手が増えた。
「……綺麗だ」
視界が開け、広がったのは満点の星空。見上げた彼女は知らずと感想を呟く。
(この空は私の問いに答えをくれるのか?)
綺麗な星空はただ、静かに彼女を見守る。この空はこの星を包むように広がっているのだ。自分が見ているのがこの空の一部、ならばどこかでこの空の他の一部を友人が見ているかもしれない。
そう思うと少しだけ温かいものを感じた気がする。自分が何のために戦っているのか、その答えが見えた気がした。
「そうか、友や仲間を……この空を一緒に見ている皆を守る為」
自分が戦うのは増えた大切なものを守るため。これからの戦いに向けて決意を固めるのだった。
星灯りに照らされ、キヅカ・リク(ka0038)と金鹿(ka5959)の二人は佇む。金鹿は星空を見上げているのに対し、キヅカは硬い表情を浮かべていた。
「綺麗な星空ですわね。お誘いいただきありがとうございます」
「こっちこそありがとう。その……今日は伝えたいことがあるんだ」
彼の声音にはどんな答えであろうと受け止める覚悟が滲んでいる。金鹿は星空からキヅカへ視線を移し、彼を見つめた。あえて声をかけずに、彼が自然に告げられるように静かに待っている。
「……この時間が終わったら、決戦になる」
ハンターたちがこの世界の命運を決める決断を下すまであと少し。穏やかなこの時間の先に待つのは過酷な戦いか二つの世界が分かたれるかのどちらかだけ。
「僕は……この世界の運命の先へ。誰よりも遠くへ、征こうと思う。だから……もし良ければ一つだけ、我儘。聞いてくんないかな」
「どのような我儘ですの?」
金鹿は静かに先を促す。戦いへいってしまうという彼の我儘が気になったのだ。頷けるものかどうかは聞いてから決めようとも。
「燃え尽きるその瞬間まで……。僕の隣に、居てくれないか」
熱烈な求愛に金鹿の頬に差す赤みが増す。彼女の中で答えを形にしているうちにキヅカが言葉を続けた。
「愛してくれだなんて贅沢はいえない。けど、毬が居てくれるなら……往ける気がするんだ」
「嫌ですわ」
頬を赤らめたままだが、悲し気な表情の金鹿は拒絶を告げる。その言葉にキヅカは目線を地へと落とした。もしもを考えていたが、拒絶は重く響く。
「……ごっめん、やっぱ迷惑だよね」
「迷惑ではありませんが、キヅカさんは酷いです。……私の愛はいらない、だなんて」
彼女の足先が視界に入り、不意を打たれたように彼は顔を跳ね上げた。金鹿はそっとキヅカの手を握り、彼の目を見つめる。
「貴方が征く彼方まで。貴方がいればこそ、何処までだって。キヅカさんがキヅカさんでいられるよう、確かなカタチを感じられるように。私は私自身の決意をもって往きますわ」
「毬……ありがとう」
彼女の手を握り返す力が強くなった。彼女が拒絶したのは愛されなくていいの部分だけ。共に生きたいと願っているのはお互い様だ。
「ねぇ、キヅカさん。私の我儘も聞いていただけますか?」
「我儘って?」
同じように我儘を告げようとしている彼女は笑みを浮かべている。悪戯っ子のようで楽し気で幸せな笑みを。
「背負う覚悟も、一時の安らぎも分かち合いたい。共に悩み、笑みを交わすそんな日々を。今という時の積み重ねを望む私こそ。……よっぽど贅沢で、とっても我儘でしょう?」
「そうだね。でも、僕も同じだ」
(僕の中で欠けていた『今を生きる意味』を君とならもう一度見つけられると思うから)
想いが通じ合った二人は目を合わせ笑いあう。いつまでもお互いを想い合い、過ごせる日々を心から願って。
幸せな恋人たちがここに結ばれた。
丘に座り、星を眺めているのは白藤(ka3768)だ。
「一度傷ついた心は、もういっぺんに耐えれるやろうか」
もう誰かに心の大事なところを許すつもりはなかった。なかったはずなのに……。
彼女が思い返していたのはとある人物へ投げかけた言葉。もう一度と手を伸ばしてみようと願った相手とのやり取り。
(星が綺麗と呟いたんはうちやけど、あの返しには驚いたわ)
蒼の世界にある小さな島国、彼女の故郷に伝わる古い言葉の解釈。その内容を彼は知らないだろう。
彼女が呟いた『星が綺麗』には『あなたは私の想いを知らないでしょうね』や『あなたに憧れている』という解釈があるが、あまり広く知られていない。その隠し言葉が不意に零れるくらい、彼のことを想っているらしいと気づいたのはその時だった。
「臆病で、意気地なしのうちが……」
彼は『月も綺麗だ』と返してくれた。ただ、事実を口にしたのか、それとも『愛している』という解釈で口にしたのか。聞けなかった。『星が綺麗』の解釈を知っている彼女なら後者の意味も思い出しただろう。
彼女の心は確かに跳ねた。意味が違いかもしれないけど、その言葉が心に響いた。
「せめてもあがきたいな。それが……どないな結果になっても」
目を閉じ、手を空へと伸ばした。願わくばこの手が届くことを祈り、その先にあるモノを掴もうとするかのように。
互いの体温が伝わる距離で神代 誠一(ka2086)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)は寝転んでいた。何も言わず星を見上げている。どれほど経ったろうか不意に誠一が口を開く。
「……で。お前、今後はどーすんの」
「今後? ……そうだね、来年も君とこうして星をみていたいかな? 安全な場所でね」
尋ねられたクィーロは平和な未来で共に居たいと告げた。クィーロ自身、失われた記憶を取り戻すために前進したいと考えている。ただ、これから近い先を決め切れていないことを口にしないだけだ。
「クィーロはそれでいいのかよ」
さらりと告げた彼に誠一は苦笑を浮かべる。選択は自分の中で決めているけれど、相棒である彼は? 腹をくくらねばと思っていたが、斜め上の回答をいただいたようだ。
「でも、星……か……。そうだな。来年も。こうして。二人で、星を……」
それはどこで? 戦いが終わったとき、相棒と共にいられるのか? 世界が二つに分かたれていないのか? 不確定なことが多すぎる。まだこの先の方針が決まったわけではない。
(違う、本当に聞きたいことはこれじゃない。俺が聞きたいのは……)
問いかける言葉が喉に張り付いて出てこない。相棒が選ぶ道が自分と違っていたら、どうするのだろうか。受け入れられるのだろうか? そもそも考えを聞けていないじゃないか。
選択の一つである、二つの世界が切り離された場合。どちらの世界にも星空は変わらず存在するだろう。見える星が変わろうとも星空を見上げることはできる。でも、その時、相棒は隣にいるのか?
「俺は君の隣にいるよ。最後までね」
(先の事なんてわからないけど、俺は君が幸せになってくれたら満足だよ、そしてその為に邪魔なものは俺が……)
目は口程に物を言うとはこのことだろう。思案する誠一へ終わるときまで隣にいるとクィーロは告げた。自分からはあえて彼の選択を聞かない。聞かなくともなんとなく解る気がするから。だからだろう、どんな結末でも受け入れていきたいと、相棒が幸せであればいいとも思える。
例え互いの道が別れたとしても、彼にとって誇れる相棒でいたい。それが彼の最大の願いだ。
「……そうか、俺もだ」
最後まで無二の相棒でいたい。それは誠一も同じだ。
戦いのその先でも、彼らは隣にいられるのか、それは誰にも分らない。この先のことはこれから決まるのだから。
それでも、二人は互いのことを考えながらいつまでも星空を見上げていた。
志鷹 都(ka1140)は星空を見上げ、想いを馳せる。ハンターとして活動を始めたのはいつだったろうか。
(ハンターという切符を手にしてこの旅を始めたのは四年前)
不安でいっぱいだった彼女を暖かく迎え入れてくれたハンターソサエティ。
そこで出会った者たちと絆を作り、友と呼べる者もできた。
(友が出来て嬉しかった。けれど、側に居て欲しかった友とは幾つか前の駅で別れ、笑い声が響いていた客車も、今は静かで己独り)
一人になった彼女の耳に届く楽し気な他者の会話に心が軋む。友との別れ以外にいくつもの苦難があり、苦渋があった。
気づいた時には手にしている切符は汚れていた。血や涙の染みが幾つも出来、破れかけ、ぼろぼろの状態に。それでも手放さずにここまで歩いてこられたのは師との約束を守るため。
(震える手で全て破いてしまおうと何度も思い、できなかったのは貴女との約束があったから)
何もかも投げ出して逃げることもできた。それをしなかったのは約束だけではなく大切な存在が彼女を待っていてくれる。
「私には帰るべき『駅』があり、おかえりと言ってくれる人が居る。そして終着駅にはきっと、貴女が居るから」
師である彼女と再び出会えると信じて切符を握りしめる。
これから先、待つ未来が絶望だとしても、都の使命は変わらない。
全ては愛と、生きたいと願う命のために。医者としてハンターとして彼女の旅は続く。
丘に寝転び、星へ手を伸ばし男性、ユリアン(ka1664)は想いを巡らせる。彼の隣には妹のエステル・クレティエ(ka3783)も寝転んでいた。兄の様子を見守っている。
(星の光は、その旅立った星が滅んだことを知っているだろうか)
意志もないただ光と言う存在ともいえる。だが、今降り注ぐ光も、遠く届いた星の記憶の一つ、存在の名残ともとることが出来る。
不確かでささやかな光に心を慰められ、また揺さぶられることもある。受け取る者の見方で意味が変わっていくのだから。
「あのね、兄様。星の光は私達が見て、そう認識するから星の光に、なるの」
エステルが小さく呟いた。見る者がいなければそこにあっても名前を付けられない。名前を付けられてはじめて存在している、ともいえるが。
(星の光は、出来るなら守りたいと思った多くの命に似て、無数に在るのに遠い……)
エステルの言葉を聞きながら、彼が思うのは星の光と似ている守りたい多くの命について。自分の存在も力も極々ちっぽけなもので、何が出来るだろうかと探し続けた。まだ掴めていないが、探すことが何時命を手放しても良いと思った彼の原動力。手を伸ばして救いたいと願うことまた彼の動く力だろう。
「私自身だって色々迷うけど、ひとりぼっちの時もあるけど……。でもね、兄様が何を選んでも、私が、兄様は兄様だって、思うから。兄様って言う星の光を見つける一人になるから」
自分たちも星のように輝けるから、その光を見つけるから、一人じゃないと彼女は思いの丈を兄へ伝える。大切な兄へ祝福の言葉を。
「お誕生日おめでとう、兄様」
「ありがとう、エシィ」
そっと兄の手に触れてエステルは笑顔で告げた。返事と共にユリアンも手を握り返す。
「私自身が駄目な時でも、兄様や誰かのためなら、きっと出来る。私もそれ位しか出来ない極小さな星だけど」
不安に染まった声音でエステルは言葉を紡ぐ。大切なものを守り、支えるために立ち上がれる。でも、一人で進み続けるのは不安だ。
「でも……できたら、お願い。私が迷い星になったら、探してね。兄様」
「……エシィ……うん。見つけるよ」
縋るように続いた言葉にユリアンは約束する。妹を守り支えるのも兄の役割だ。安心させるように握る手を少しだけ強める。
見つけてくれる人がいるのなら星は輝き続けられる。一人よりも二人なら強く輝けるから。
「一緒に考えてくれないかな? 犠牲は出来る限り少なくあって欲しい。でも、封印の楔を精霊たちだけに押し付けることはしたくないんだ」
「私も一緒に考えるわ」
星空の下、二人は何か代案はあるかと考え続ける。手を握りしめたまま、小さな星でも手を取り合えば大きなことが出来ると信じて。
「星はもう全て食われたのですね……」
リュートを抱きしめてユメリア(ka7010)は空を仰ぎ見た。
(でも、私たちはその残光に想いを馳せ、メッセージを受け取っている)
光に込められた想いを受け取り、これからの糧にしているのは生きている者たち。それは輪廻のように繰り返されていることだろう。
「命もそうだとおもうのです。星と同じように有限であり、だけど、その生きた証は、あの星の光と同じように次なる誰かに伝わるものです」
脈々と受け継がれている詩歌や伝承を謳い伝えることを生業としている彼女だから強く感じるのだろう。彼女が謳うものの中にはとても古い伝承もあるだろうが、この時代まで長く歌い継がれている。
「邪神に頼らずとも、ずっとそうして命は連続してきたのです」
星の命も有限だとしても、誰かが管理せずとも繋がれたバトンがある。始まりの命から次の命たちへ、希望を込めて渡されたバトンは祝福されていたはずなのに。
邪神が繋ぐバトンは祝福されているのか? 記録されている命たちは希望に満ちているのか? 答えは否。終わらせたいと願うものが一人でも出てきたのだから、悲しみの方が強いのだろう。
「だから私たちは過去の積み重ねを最大限に活かし、今を全力で生きる。それは一人ではなく、全員と関わり、知り合い、響き合うことだと思っています」
誰もが手を取り合い、知り合い、協力することでこの困難にも立ち向かえる。そう信じ、彼女は星の想いを受け止める。伝えたいものを歌として紡ぐために。
丘の上で向き合う二人の男女。あまりいい空気とは言えない中、男性が口を開く。
「それで……今日はこんな所に呼びだして、何の用です」
剣呑な声で突き放すように彼、ハンス・ラインフェルト(ka6750)は言う。その表情も不機嫌でたまらないと言わんばかりに歪んでいた。
「その、一緒に星を見たくて……」
(このアプローチは駄目だったみたい……)
女性、穂積 智里(ka6819)は内心ため息をつく。ここまであからさまに不機嫌になるとは思わなかった。二人分の夜食とお茶が入ったバスケットが重く感じるほどに。
「私と貴女はただの同居人、確かに縁も目的も情もある、しかしそれ以上でもそれ以下でもなかったと思いますが」
(彼女を見ていると苛々する。これ以上、付き合う必要はない)
より冷たくなる声音に智里は俯いてしまう。その姿を見るか見ないかで彼は踵を返してしまった。ここにいても気分が晴れることはないと言わんばかりに。
「あっ……」
足音に顔をあげ、引き留めようとするが、どうやって? これ以上、彼を怒らせてしまうのではないか? そう思うと伸ばそうとした手が不自然に固まった。その間に彼は歩き去ってしまった。こちらを一度も振り返らずに。
「……失敗した」
(なんで、新しく関係を作り出せると思うのに)
正月の悪夢、そこから二人の関係性が変わってしまった。それまでは最愛の存在で最高の伴侶、のはずだった。
「だって、私はハンスさんのこと、まだシャッツって呼んでない。呼べてないのに」
彼女は大好きだった祖父母の顔を思い出せなくなり、ハンスは彼女のことを忘れていた。
腕を振り払われても泣いて縋って話し合って、そこでやっとお互いが大事な誰かを忘れたことに気づいた。最愛の人に忘れられたという彼女の心の傷は深い。だが、彼の心にも昏い影を落としていた。智里の一番が自分ではなく他の誰かという事実。それは今も彼の心を蝕んでいるのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「はい……これ、余ったので良かったらどうぞ」
心配気に声をかけた受付嬢に夜食とお茶を差し出して智里は寂しそうに告げる。一瞬目を伏せた受付嬢は微笑んで受け取った。
「ありがとうございます。帰り道、気を付けてください」
「はい。それじゃあ」
彼女に見送られて智里は丘を降りていく。早く家に帰って彼の帰りを待ちたい。
「ハンスさんが私を追い出さないのはそういうこと、だよね」
隣に居ることを許されているのなら、まだ駄目じゃない。諦めずに行動を続けるのが彼女の長所だろう。
「これでも辻斬りに走らぬ私の理性を褒めてほしいところです」
帰り道の途中、星を見上げ独り呟く。今だ心に燻る想いもある、それを吐き出すように手をあげることだって出来るのに、それをしない。その意味をどう感じるかは受け取る相手次第ともいえるけれど、それを良しとしなかったのはハンス自身だ。
「今日も酒量が増えそうだ」
言葉として吐き出すには足りない思いたち、この気分を晴らすために酒を飲むようになった。その量も少しずつ増えたような、あの悪夢から確実に増えているのかもしれない。
悪夢で、見知らぬ女性が妻だった衝撃は今も思い出せる。だが、それ以上に衝撃的だったのは彼女の一番が己ではなく、他の誰かだったこと。その事実に心がざわついているのかもしれない。
星から視線を外し、再び帰路へつく。きっと彼女は自分の帰りを待っているのだろう。だとしても自分の行動が変わることはない。
さまざまな想いを見守り、星の光は降り注ぐ。輝き尽きるまで、輝きの旅路が終わるまで。
ハンターたちの進む道が希望へと至るように祈りながら、終わりへと旅を続けるだろう。
丘へ続く道を一人登っているレイア・アローネ(ka4082)は誘った友人のことを考えている。できれば共にと誘っていたのだが、予定が合わなかった。少し寂しいと思うが、自分の気持ちを整理することが出来ると思えば前を向ける。
(私は何のために戦っているのか……。最初は腕を磨くために、強者を求めてだった)
一歩一歩、頂上へ向けて登っていく。道すがら今までを振り返る。
始まりは己を磨くために山奥の故郷を下り、ハンターとなった。でも、今は少し変わった気がする。守りたいものや肩を並べ戦う仲間が増えた。共に同じものを見たい、感じたいと思う相手が増えた。
「……綺麗だ」
視界が開け、広がったのは満点の星空。見上げた彼女は知らずと感想を呟く。
(この空は私の問いに答えをくれるのか?)
綺麗な星空はただ、静かに彼女を見守る。この空はこの星を包むように広がっているのだ。自分が見ているのがこの空の一部、ならばどこかでこの空の他の一部を友人が見ているかもしれない。
そう思うと少しだけ温かいものを感じた気がする。自分が何のために戦っているのか、その答えが見えた気がした。
「そうか、友や仲間を……この空を一緒に見ている皆を守る為」
自分が戦うのは増えた大切なものを守るため。これからの戦いに向けて決意を固めるのだった。
星灯りに照らされ、キヅカ・リク(ka0038)と金鹿(ka5959)の二人は佇む。金鹿は星空を見上げているのに対し、キヅカは硬い表情を浮かべていた。
「綺麗な星空ですわね。お誘いいただきありがとうございます」
「こっちこそありがとう。その……今日は伝えたいことがあるんだ」
彼の声音にはどんな答えであろうと受け止める覚悟が滲んでいる。金鹿は星空からキヅカへ視線を移し、彼を見つめた。あえて声をかけずに、彼が自然に告げられるように静かに待っている。
「……この時間が終わったら、決戦になる」
ハンターたちがこの世界の命運を決める決断を下すまであと少し。穏やかなこの時間の先に待つのは過酷な戦いか二つの世界が分かたれるかのどちらかだけ。
「僕は……この世界の運命の先へ。誰よりも遠くへ、征こうと思う。だから……もし良ければ一つだけ、我儘。聞いてくんないかな」
「どのような我儘ですの?」
金鹿は静かに先を促す。戦いへいってしまうという彼の我儘が気になったのだ。頷けるものかどうかは聞いてから決めようとも。
「燃え尽きるその瞬間まで……。僕の隣に、居てくれないか」
熱烈な求愛に金鹿の頬に差す赤みが増す。彼女の中で答えを形にしているうちにキヅカが言葉を続けた。
「愛してくれだなんて贅沢はいえない。けど、毬が居てくれるなら……往ける気がするんだ」
「嫌ですわ」
頬を赤らめたままだが、悲し気な表情の金鹿は拒絶を告げる。その言葉にキヅカは目線を地へと落とした。もしもを考えていたが、拒絶は重く響く。
「……ごっめん、やっぱ迷惑だよね」
「迷惑ではありませんが、キヅカさんは酷いです。……私の愛はいらない、だなんて」
彼女の足先が視界に入り、不意を打たれたように彼は顔を跳ね上げた。金鹿はそっとキヅカの手を握り、彼の目を見つめる。
「貴方が征く彼方まで。貴方がいればこそ、何処までだって。キヅカさんがキヅカさんでいられるよう、確かなカタチを感じられるように。私は私自身の決意をもって往きますわ」
「毬……ありがとう」
彼女の手を握り返す力が強くなった。彼女が拒絶したのは愛されなくていいの部分だけ。共に生きたいと願っているのはお互い様だ。
「ねぇ、キヅカさん。私の我儘も聞いていただけますか?」
「我儘って?」
同じように我儘を告げようとしている彼女は笑みを浮かべている。悪戯っ子のようで楽し気で幸せな笑みを。
「背負う覚悟も、一時の安らぎも分かち合いたい。共に悩み、笑みを交わすそんな日々を。今という時の積み重ねを望む私こそ。……よっぽど贅沢で、とっても我儘でしょう?」
「そうだね。でも、僕も同じだ」
(僕の中で欠けていた『今を生きる意味』を君とならもう一度見つけられると思うから)
想いが通じ合った二人は目を合わせ笑いあう。いつまでもお互いを想い合い、過ごせる日々を心から願って。
幸せな恋人たちがここに結ばれた。
丘に座り、星を眺めているのは白藤(ka3768)だ。
「一度傷ついた心は、もういっぺんに耐えれるやろうか」
もう誰かに心の大事なところを許すつもりはなかった。なかったはずなのに……。
彼女が思い返していたのはとある人物へ投げかけた言葉。もう一度と手を伸ばしてみようと願った相手とのやり取り。
(星が綺麗と呟いたんはうちやけど、あの返しには驚いたわ)
蒼の世界にある小さな島国、彼女の故郷に伝わる古い言葉の解釈。その内容を彼は知らないだろう。
彼女が呟いた『星が綺麗』には『あなたは私の想いを知らないでしょうね』や『あなたに憧れている』という解釈があるが、あまり広く知られていない。その隠し言葉が不意に零れるくらい、彼のことを想っているらしいと気づいたのはその時だった。
「臆病で、意気地なしのうちが……」
彼は『月も綺麗だ』と返してくれた。ただ、事実を口にしたのか、それとも『愛している』という解釈で口にしたのか。聞けなかった。『星が綺麗』の解釈を知っている彼女なら後者の意味も思い出しただろう。
彼女の心は確かに跳ねた。意味が違いかもしれないけど、その言葉が心に響いた。
「せめてもあがきたいな。それが……どないな結果になっても」
目を閉じ、手を空へと伸ばした。願わくばこの手が届くことを祈り、その先にあるモノを掴もうとするかのように。
互いの体温が伝わる距離で神代 誠一(ka2086)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)は寝転んでいた。何も言わず星を見上げている。どれほど経ったろうか不意に誠一が口を開く。
「……で。お前、今後はどーすんの」
「今後? ……そうだね、来年も君とこうして星をみていたいかな? 安全な場所でね」
尋ねられたクィーロは平和な未来で共に居たいと告げた。クィーロ自身、失われた記憶を取り戻すために前進したいと考えている。ただ、これから近い先を決め切れていないことを口にしないだけだ。
「クィーロはそれでいいのかよ」
さらりと告げた彼に誠一は苦笑を浮かべる。選択は自分の中で決めているけれど、相棒である彼は? 腹をくくらねばと思っていたが、斜め上の回答をいただいたようだ。
「でも、星……か……。そうだな。来年も。こうして。二人で、星を……」
それはどこで? 戦いが終わったとき、相棒と共にいられるのか? 世界が二つに分かたれていないのか? 不確定なことが多すぎる。まだこの先の方針が決まったわけではない。
(違う、本当に聞きたいことはこれじゃない。俺が聞きたいのは……)
問いかける言葉が喉に張り付いて出てこない。相棒が選ぶ道が自分と違っていたら、どうするのだろうか。受け入れられるのだろうか? そもそも考えを聞けていないじゃないか。
選択の一つである、二つの世界が切り離された場合。どちらの世界にも星空は変わらず存在するだろう。見える星が変わろうとも星空を見上げることはできる。でも、その時、相棒は隣にいるのか?
「俺は君の隣にいるよ。最後までね」
(先の事なんてわからないけど、俺は君が幸せになってくれたら満足だよ、そしてその為に邪魔なものは俺が……)
目は口程に物を言うとはこのことだろう。思案する誠一へ終わるときまで隣にいるとクィーロは告げた。自分からはあえて彼の選択を聞かない。聞かなくともなんとなく解る気がするから。だからだろう、どんな結末でも受け入れていきたいと、相棒が幸せであればいいとも思える。
例え互いの道が別れたとしても、彼にとって誇れる相棒でいたい。それが彼の最大の願いだ。
「……そうか、俺もだ」
最後まで無二の相棒でいたい。それは誠一も同じだ。
戦いのその先でも、彼らは隣にいられるのか、それは誰にも分らない。この先のことはこれから決まるのだから。
それでも、二人は互いのことを考えながらいつまでも星空を見上げていた。
志鷹 都(ka1140)は星空を見上げ、想いを馳せる。ハンターとして活動を始めたのはいつだったろうか。
(ハンターという切符を手にしてこの旅を始めたのは四年前)
不安でいっぱいだった彼女を暖かく迎え入れてくれたハンターソサエティ。
そこで出会った者たちと絆を作り、友と呼べる者もできた。
(友が出来て嬉しかった。けれど、側に居て欲しかった友とは幾つか前の駅で別れ、笑い声が響いていた客車も、今は静かで己独り)
一人になった彼女の耳に届く楽し気な他者の会話に心が軋む。友との別れ以外にいくつもの苦難があり、苦渋があった。
気づいた時には手にしている切符は汚れていた。血や涙の染みが幾つも出来、破れかけ、ぼろぼろの状態に。それでも手放さずにここまで歩いてこられたのは師との約束を守るため。
(震える手で全て破いてしまおうと何度も思い、できなかったのは貴女との約束があったから)
何もかも投げ出して逃げることもできた。それをしなかったのは約束だけではなく大切な存在が彼女を待っていてくれる。
「私には帰るべき『駅』があり、おかえりと言ってくれる人が居る。そして終着駅にはきっと、貴女が居るから」
師である彼女と再び出会えると信じて切符を握りしめる。
これから先、待つ未来が絶望だとしても、都の使命は変わらない。
全ては愛と、生きたいと願う命のために。医者としてハンターとして彼女の旅は続く。
丘に寝転び、星へ手を伸ばし男性、ユリアン(ka1664)は想いを巡らせる。彼の隣には妹のエステル・クレティエ(ka3783)も寝転んでいた。兄の様子を見守っている。
(星の光は、その旅立った星が滅んだことを知っているだろうか)
意志もないただ光と言う存在ともいえる。だが、今降り注ぐ光も、遠く届いた星の記憶の一つ、存在の名残ともとることが出来る。
不確かでささやかな光に心を慰められ、また揺さぶられることもある。受け取る者の見方で意味が変わっていくのだから。
「あのね、兄様。星の光は私達が見て、そう認識するから星の光に、なるの」
エステルが小さく呟いた。見る者がいなければそこにあっても名前を付けられない。名前を付けられてはじめて存在している、ともいえるが。
(星の光は、出来るなら守りたいと思った多くの命に似て、無数に在るのに遠い……)
エステルの言葉を聞きながら、彼が思うのは星の光と似ている守りたい多くの命について。自分の存在も力も極々ちっぽけなもので、何が出来るだろうかと探し続けた。まだ掴めていないが、探すことが何時命を手放しても良いと思った彼の原動力。手を伸ばして救いたいと願うことまた彼の動く力だろう。
「私自身だって色々迷うけど、ひとりぼっちの時もあるけど……。でもね、兄様が何を選んでも、私が、兄様は兄様だって、思うから。兄様って言う星の光を見つける一人になるから」
自分たちも星のように輝けるから、その光を見つけるから、一人じゃないと彼女は思いの丈を兄へ伝える。大切な兄へ祝福の言葉を。
「お誕生日おめでとう、兄様」
「ありがとう、エシィ」
そっと兄の手に触れてエステルは笑顔で告げた。返事と共にユリアンも手を握り返す。
「私自身が駄目な時でも、兄様や誰かのためなら、きっと出来る。私もそれ位しか出来ない極小さな星だけど」
不安に染まった声音でエステルは言葉を紡ぐ。大切なものを守り、支えるために立ち上がれる。でも、一人で進み続けるのは不安だ。
「でも……できたら、お願い。私が迷い星になったら、探してね。兄様」
「……エシィ……うん。見つけるよ」
縋るように続いた言葉にユリアンは約束する。妹を守り支えるのも兄の役割だ。安心させるように握る手を少しだけ強める。
見つけてくれる人がいるのなら星は輝き続けられる。一人よりも二人なら強く輝けるから。
「一緒に考えてくれないかな? 犠牲は出来る限り少なくあって欲しい。でも、封印の楔を精霊たちだけに押し付けることはしたくないんだ」
「私も一緒に考えるわ」
星空の下、二人は何か代案はあるかと考え続ける。手を握りしめたまま、小さな星でも手を取り合えば大きなことが出来ると信じて。
「星はもう全て食われたのですね……」
リュートを抱きしめてユメリア(ka7010)は空を仰ぎ見た。
(でも、私たちはその残光に想いを馳せ、メッセージを受け取っている)
光に込められた想いを受け取り、これからの糧にしているのは生きている者たち。それは輪廻のように繰り返されていることだろう。
「命もそうだとおもうのです。星と同じように有限であり、だけど、その生きた証は、あの星の光と同じように次なる誰かに伝わるものです」
脈々と受け継がれている詩歌や伝承を謳い伝えることを生業としている彼女だから強く感じるのだろう。彼女が謳うものの中にはとても古い伝承もあるだろうが、この時代まで長く歌い継がれている。
「邪神に頼らずとも、ずっとそうして命は連続してきたのです」
星の命も有限だとしても、誰かが管理せずとも繋がれたバトンがある。始まりの命から次の命たちへ、希望を込めて渡されたバトンは祝福されていたはずなのに。
邪神が繋ぐバトンは祝福されているのか? 記録されている命たちは希望に満ちているのか? 答えは否。終わらせたいと願うものが一人でも出てきたのだから、悲しみの方が強いのだろう。
「だから私たちは過去の積み重ねを最大限に活かし、今を全力で生きる。それは一人ではなく、全員と関わり、知り合い、響き合うことだと思っています」
誰もが手を取り合い、知り合い、協力することでこの困難にも立ち向かえる。そう信じ、彼女は星の想いを受け止める。伝えたいものを歌として紡ぐために。
丘の上で向き合う二人の男女。あまりいい空気とは言えない中、男性が口を開く。
「それで……今日はこんな所に呼びだして、何の用です」
剣呑な声で突き放すように彼、ハンス・ラインフェルト(ka6750)は言う。その表情も不機嫌でたまらないと言わんばかりに歪んでいた。
「その、一緒に星を見たくて……」
(このアプローチは駄目だったみたい……)
女性、穂積 智里(ka6819)は内心ため息をつく。ここまであからさまに不機嫌になるとは思わなかった。二人分の夜食とお茶が入ったバスケットが重く感じるほどに。
「私と貴女はただの同居人、確かに縁も目的も情もある、しかしそれ以上でもそれ以下でもなかったと思いますが」
(彼女を見ていると苛々する。これ以上、付き合う必要はない)
より冷たくなる声音に智里は俯いてしまう。その姿を見るか見ないかで彼は踵を返してしまった。ここにいても気分が晴れることはないと言わんばかりに。
「あっ……」
足音に顔をあげ、引き留めようとするが、どうやって? これ以上、彼を怒らせてしまうのではないか? そう思うと伸ばそうとした手が不自然に固まった。その間に彼は歩き去ってしまった。こちらを一度も振り返らずに。
「……失敗した」
(なんで、新しく関係を作り出せると思うのに)
正月の悪夢、そこから二人の関係性が変わってしまった。それまでは最愛の存在で最高の伴侶、のはずだった。
「だって、私はハンスさんのこと、まだシャッツって呼んでない。呼べてないのに」
彼女は大好きだった祖父母の顔を思い出せなくなり、ハンスは彼女のことを忘れていた。
腕を振り払われても泣いて縋って話し合って、そこでやっとお互いが大事な誰かを忘れたことに気づいた。最愛の人に忘れられたという彼女の心の傷は深い。だが、彼の心にも昏い影を落としていた。智里の一番が自分ではなく他の誰かという事実。それは今も彼の心を蝕んでいるのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「はい……これ、余ったので良かったらどうぞ」
心配気に声をかけた受付嬢に夜食とお茶を差し出して智里は寂しそうに告げる。一瞬目を伏せた受付嬢は微笑んで受け取った。
「ありがとうございます。帰り道、気を付けてください」
「はい。それじゃあ」
彼女に見送られて智里は丘を降りていく。早く家に帰って彼の帰りを待ちたい。
「ハンスさんが私を追い出さないのはそういうこと、だよね」
隣に居ることを許されているのなら、まだ駄目じゃない。諦めずに行動を続けるのが彼女の長所だろう。
「これでも辻斬りに走らぬ私の理性を褒めてほしいところです」
帰り道の途中、星を見上げ独り呟く。今だ心に燻る想いもある、それを吐き出すように手をあげることだって出来るのに、それをしない。その意味をどう感じるかは受け取る相手次第ともいえるけれど、それを良しとしなかったのはハンス自身だ。
「今日も酒量が増えそうだ」
言葉として吐き出すには足りない思いたち、この気分を晴らすために酒を飲むようになった。その量も少しずつ増えたような、あの悪夢から確実に増えているのかもしれない。
悪夢で、見知らぬ女性が妻だった衝撃は今も思い出せる。だが、それ以上に衝撃的だったのは彼女の一番が己ではなく、他の誰かだったこと。その事実に心がざわついているのかもしれない。
星から視線を外し、再び帰路へつく。きっと彼女は自分の帰りを待っているのだろう。だとしても自分の行動が変わることはない。
さまざまな想いを見守り、星の光は降り注ぐ。輝き尽きるまで、輝きの旅路が終わるまで。
ハンターたちの進む道が希望へと至るように祈りながら、終わりへと旅を続けるだろう。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/23 01:03:57 |