ゲスト
(ka0000)
【血断】それぞれの夜
マスター:きりん

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/24 09:00
- 完成日
- 2019/05/28 09:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●彼女が思うこと
二度に渡る邪神翼や黙示騎士たちとの戦いに、ついに来た邪神側からの降伏勧告。
大規模な侵攻こそ一時的に休止しているものの、未だに歪虚たちの出現は止まらず、エバーグリーンからの兵器回収なども引き続き行われている。
邪神ファナティックブラッドの中では、何千、何万という世界が存在し、終焉までの歴史を繰り返しているらしい。
だが、それらの話を聞いたジェーン・ドゥは思った。
それはただの記録ではないのか、と。
(他のハンターの方々は、一体どうするのでしょう……。取り込まれることを良しとするか、あくまで抗い続けるか。抗い続けるにしても、封印か撃破か。……最も良い選択とは何なんでしょうね)
歪んだ歴史の中で今も生き続け、記録された者たちは一体何を思っているのだろう。
取り込まれてしまったことに気付き、抜け出したいと思っているだろうか?
そもそも気付いていないのか?
それとも、その状態に満足しているのだろうか?
終わりは否定されるべきなのか。
それとも肯定するべきなのか。
邪神を滅びれば、観測された世界の記録も全て無くなる。
恭順すれば全てをやり直すことができるかもしれない。
けれどジェーンは思うのだ。
目的が果たされないからこそ、ループは続く。
果たされればリセットされるから大丈夫?
ならばそれまでの嘆きはどうなるのだ。
積み重ねられた屍は、積み上げられてきた想いは。
その中でのかけがえのない出会いすら、全てなかったことになるのならば。
ジェーン自身は、ここで全てをかなぐり捨ててでも邪神を撃破するべきだと考える。
でもそれはあくまでジェーン自身の考えでしかない。
投票の結果がどの選択になったとしても、ジェーンはそれを受け入れるつもりでいる。
でも、願うのなら。
願うことが許されるのなら。
未来に生きる子孫たちには、邪神のいない世界を贈りたい。
クリムゾンウエスト、エバーグリーン、リアルブルー、三つの世界を行く末を決める最後の決戦は、リアルブルーで行われるだろう。
最期は、近い。
●ハンターズソサエティ
「交流会、ですか?」
上司であるエルス・モウザルから話を聞いたジェーンは目を瞬かせた。
「うん、そう。泣いても笑っても、穏やかに過ごせる時間はもうすぐ終わる。だから、その前にハンターの皆さんに英気を養ってもらうことになってね。店を一晩貸し切ったから、君もバーテンダーにでも扮してハンターの皆さんと交流しておいで」
(……何故バーテンダー?)
首を傾げるも、上司命令となればジェーンに否はなく、謹んで拝命する。
(カクテルを作る練習でも、しておきましょうか……)
そんなことを考えながら、ジェーンは通常業務に戻っていった。
二度に渡る邪神翼や黙示騎士たちとの戦いに、ついに来た邪神側からの降伏勧告。
大規模な侵攻こそ一時的に休止しているものの、未だに歪虚たちの出現は止まらず、エバーグリーンからの兵器回収なども引き続き行われている。
邪神ファナティックブラッドの中では、何千、何万という世界が存在し、終焉までの歴史を繰り返しているらしい。
だが、それらの話を聞いたジェーン・ドゥは思った。
それはただの記録ではないのか、と。
(他のハンターの方々は、一体どうするのでしょう……。取り込まれることを良しとするか、あくまで抗い続けるか。抗い続けるにしても、封印か撃破か。……最も良い選択とは何なんでしょうね)
歪んだ歴史の中で今も生き続け、記録された者たちは一体何を思っているのだろう。
取り込まれてしまったことに気付き、抜け出したいと思っているだろうか?
そもそも気付いていないのか?
それとも、その状態に満足しているのだろうか?
終わりは否定されるべきなのか。
それとも肯定するべきなのか。
邪神を滅びれば、観測された世界の記録も全て無くなる。
恭順すれば全てをやり直すことができるかもしれない。
けれどジェーンは思うのだ。
目的が果たされないからこそ、ループは続く。
果たされればリセットされるから大丈夫?
ならばそれまでの嘆きはどうなるのだ。
積み重ねられた屍は、積み上げられてきた想いは。
その中でのかけがえのない出会いすら、全てなかったことになるのならば。
ジェーン自身は、ここで全てをかなぐり捨ててでも邪神を撃破するべきだと考える。
でもそれはあくまでジェーン自身の考えでしかない。
投票の結果がどの選択になったとしても、ジェーンはそれを受け入れるつもりでいる。
でも、願うのなら。
願うことが許されるのなら。
未来に生きる子孫たちには、邪神のいない世界を贈りたい。
クリムゾンウエスト、エバーグリーン、リアルブルー、三つの世界を行く末を決める最後の決戦は、リアルブルーで行われるだろう。
最期は、近い。
●ハンターズソサエティ
「交流会、ですか?」
上司であるエルス・モウザルから話を聞いたジェーンは目を瞬かせた。
「うん、そう。泣いても笑っても、穏やかに過ごせる時間はもうすぐ終わる。だから、その前にハンターの皆さんに英気を養ってもらうことになってね。店を一晩貸し切ったから、君もバーテンダーにでも扮してハンターの皆さんと交流しておいで」
(……何故バーテンダー?)
首を傾げるも、上司命令となればジェーンに否はなく、謹んで拝命する。
(カクテルを作る練習でも、しておきましょうか……)
そんなことを考えながら、ジェーンは通常業務に戻っていった。
リプレイ本文
●ようこそ
一番初めに店にやってきたのは、夢路 まよい(ka1328)だった。
店の前には看板があり、今夜に限りハンターズソサエティの貸し切りである旨を表示していた。
扉を開き、来客を告げる涼やかなベルの音が響く。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは! お話しに来たよ、ジェーン!」
カウンターの向こうにいる黒のベストとズボンを着込んだバーテンダー姿のジェーンに、まよいは笑顔で手を振って挨拶した。
ほぼ同時にやってきたミグ・ロマイヤー(ka0665)は、バーテンダーの一人に席に案内された。
(なんでミグはこの依頼参加したんじゃっけ?)
それは暇だったからだ。
最近はユニット整備やら戦訓の蓄積やら研究やらで忙しく立ち働き、寝落ちを繰り返すという日々が続いていた。
依頼を見て、今夜だけはあるゆる些事から解放されても構うまいと考え訪れたのだ。
久しぶりの再会を喜び合い席に案内された後、まよいはジェーンの視線に気付いた。
「そういえば、どの選択肢を選ぶかお決まりになりましたか?」
「私? 殲滅を考えているけど……」
答えかけたまよいは、ジェーンが浮かべている憂いの表情に気付く。
「……もしかして、難しいこと考えてる?」
「……分かりますか?」
少し思案したまよいは、苦笑するジェーンに笑いかけた。
「そんなに難しく考える必要はないんじゃないかな? 私だって今の世界が好きだから、それを残したいと思ってるだけだし。それより、せっかくだから今夜くらいは楽しもうよ」
無邪気なまよいを見て、ジェーンの表情にも柔らかい笑みが浮かんだ。
「そうですね。何かお作りしましょうか?」
「グラスの中で色が分かれたやつ……カクテルっていうのかな? あれ、お酒じゃなくてもできる? できるなら、それがいいな、私」
「できますよ。ではこちらでお待ちください」
ジェーンがカクテルを作り始めた。
シェイカーに材料を注いで軽くシェイクすると、縁にオレンジで湿らせた砂糖つけたグラスに中身を注ぎ、飾り切りにしたオレンジを飾った。
「どうぞ」
出されたのは、可愛らしさに溢れたピンク色のノンアルコールカクテルだった。
(どうせじゃし、閉店まで居座ってやろうかのぅ)
ミグはバーテンダーにアルコール度数高めでカクテルを注文する。
「……一応確認しておくが、飲める歳か?」
「こう見えてもそなたの十倍以上は優に生きておる」
出されたのは、強い酒をジュースで割ったシンプルながらも度数高めなものだった。
寡黙なバーテンダーが言葉少なで語るに、リアルブルーでは有名らしいカクテルを参考にしているらしい。
ちびりちびりグラスを傾けながら、ミグは周囲の会話に耳を傾ける。
●集まるハンターたち
しばらくすると、シレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)が連れ立ってやってきた。
「酒を飲みながら交流と聞いてやってきましたよっ」
「お久しぶりです、ジェーンさん……」
勢いよく豪快に扉を開けるシレークスの横で、サクラがペコリと頭を下げる。
特に二人で相席するとも伝えていなかったせいか、テーブル席とカウンター席にそれぞれ案内された。
とはいえ、二人の距離は話ができる程度には近い。
「お先してるよー」
「こんばんは、です」
隣席のまよいに、サクラは会釈をして席につく。
「さあ、どんどん酒を持ってくるのです!」
飲みまくる気満々のシレークスだった。
エクラ教修道女であるシレークスだが、そんな細かいことなど気にせずシレークスはどんどん酒を飲み干していく。
最初は律儀にカクテルを作って出していたバーテンダーたちだったが、やがてジョッキでビールなどの度数弱めの酒を注いで出し始めた。
たくさん飲んで、たくさん楽しめるようにという配慮だろうか。
まあ、実際問題嬉々としてパッカラパッカラ飲み干していくシレークスのペースに合わせてカクテルを出していたら、椀子そば並のペースで出すことになるに違いない。
そしてきっと飲み尽くされる。
「いやぁ~やっぱり酒はうめーですねぇっ♪」
上機嫌にお替りを要求するシレークスを見ると、間違いとも言い切れなかった。
さらにさりげなく混ざったミグが一緒になって酒を飲んでいる。
サクラはまよいが飲んでいるカクテルを見ていた。
「これ? ノンアルコールで頼んだら出てきたの。結構美味しいよ」
「ジェーンさん、私もノンアルコールで……」
「甘め、辛めなど味のリクエストはございますか?」
「えっと、お任せで……」
「かしこまりました」
笑顔で注文を受けたジェーンは、材料をシェイカーに注ぐと綺麗な立ち姿かつ手馴れた手つきで振り始めた。
「そういえば、たまにはお酒を飲んで行かれないのですか?」
不思議そうな顔のジェーンに、先にシレークスが割り込んだ。
「駄目です! 駄目ですよ! サクラにアルコールは!」
「お酒、好きなのですけどね……。何故か強いのはダメだと言われていまして……」
シレークスの剣幕と苦笑するサクラを見て何かを察したのか、それ以上ジェーンがその話題を振ることはなかった。
「どうぞ」
タンブラーに注がれて出されたそのカクテルは、白みを帯びたオレンジ色をしていた。
「それにしてもジェーンさん、バーテンダーも出来たんですね……」
「昔取った杵柄ですよ。それに久しぶりだったので、実は最初の方の練習では結構失敗しています。もちろん本番の今はそんなことはありませんけど」
茶目っ気に溢れた言葉に、サクラの表情が綻ぶ。
サクラはちょっとだけ自分もお茶目を出してみた。
「で、では次は度数弱めでアルコール入りのものを……」
「ならこちらを」
「サ、サクラぁ! おめーはノンアルコールにしておくですよ!」
お茶目はシレークスにカットされた。
やってきたレイア・アローネ(ka4082)はジェーンが当たり前のようにシェイカーと振っているのを見て、驚きと戸惑いで目を瞬かせた。
(……何故バーテンダー?)
疑問に思いながらもまよいから二つ隣のカウンター席へ案内され腰かけた。
「こうして話すのは久しぶりだな、ジェーン」
「ええ、お久しぶりです」
見回せば、レイアの知った顔が既にちらほらいて酒を飲んでいる。
「どうだ、一緒に一杯」
「いいよー」
「では私も……」
「ジェーン、お前もどうだ?」
「ではお言葉に甘えて。好みのカクテルはございますか?」
「そうだな。王道なものを頼む」
注文を受け、ジェーンがシェイカーに材料を注ぎ、振って混ぜ合わせる。
グラスの縁に塩をまぶし、中身を注ぎ込んだ。
ライムのような果物を飾り、そっと出す。
「どうぞ」
そのカクテルは、澄んだ白い色をしていた。
まよいとサクラもそれぞれ新しくノンアルコールカクテルを注文して飲んでいる。
ジェーンも自分のカクテルを作り始めた。
やがてまよいが帰り、カウンターでシレークスとサクラが一緒になると、レイアがジェーンに尋ねる。
「おまえの選択肢は決まったか?」
「ええ。私自身が投票することはありませんが、殲滅になればとは思います。ですが、どの選択肢になってもそれを尊重しますよ」
「そうか、ジェーンはきっぱりと戦うのだな」
目を伏せ、カクテルを口に含む。
(私は……私はどうしたいのだろう……。今は迷ってても、すぐに答えを出さないといけない……。私は……)
口にしたカクテルは、先ほどまで飲んでいたものより少しだけ辛い気がした。
●月待猫の集い
扉が開き、新たな客が団体でやってきた。
リューリ・ハルマ(ka0502)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、ローエン・アイザック(ka5946)、アルスレーテ・フュラー(ka6148)の四人だ。
「サンドイッチ、四人分ね!」
先頭のリューリの注文を受け、バーテンダーたちがサンドイッチを作り始める。
四人は東の四人掛けテーブル席に案内された。
テーブルにカクテルが運ばれてきた。
まずライムとジンジャーを思わせる爽やかな香りの黄色いカクテルが、リューリの席に置かれる。
カクテルにはスライスされた半分のライムらしき果物が浮いていた。
「へー、お洒落だねー」
興味深げにグラスを見つめるリューリの横で、アルトのところにもカクテルが運ばれてきた。
澄んだ赤色のカクテルで、グラスの底にはチェリーらしきものが一つ沈んでいる。
ローエンの下へも彼の好みのカクテルが、アルスレーテの下へはノンアルコールカクテルが提供された。
四人で黙々と食事をしていく。
普段は途切れなく出る話題も、大事な選択が今後控えているからか、少ない。
「こういう皆でのんびりご飯を食べる時間は良いね。今まで結構忙しかったし」
サンドイッチを食べる手を止め、リューリが呟く。
グラスを傾けてカクテルを煽ったアルトが、あまり酔っているとは思えない顔色で皆を見回す。
「そうだね。この面子でこんなゆったりできる時間は最後かもしれない。アルコールもあるし本音で話そうよ」
四人のうち唯一の男性であるローエンも、カクテルを嗜みつつ同意した。
「全てが上手くいくとは思っていなかったし、実際犠牲は多く出た。おそらくこれからも出るだろう。でも、だからこそこんな時くらい明るく過ごそうじゃないか」
一人酒ではない飲み物を口にしているアルスレーテは物憂げにため息をつく。
「邪神なんてよくわかんない存在と戦うことになるとは、ハンターに成り立ての頃は思ってもみなかったわ。思えばずいぶん遠くまで来たものね」
リューリ、アルト。ローエン、アルスレーテ。
四人の選択は同じもので一致している。
殲滅だ。
邪神を倒したところで、既に存在している全ての歪虚が消えるとは思わない。
(でも……歪虚がいなかったら燕太郎さんもオーロラさんも歪虚にならずに済んだだろうし)
悲しい出来事は、もっと減っていたんじゃないかとリューリは思う。
「まあでも、私は選択が何に決まっても全力で頑張っちゃうけどね!」
「ボクは大精霊と契約している。それを横に置いても、殲滅以外にはないよ」
アルトとしては、友人でもある精霊や幻獣に消滅という犠牲を押し付けるようなことも、自分以外……世界すら賭けてしまうというのもしたくない。
「お互いに干渉しなければそれが一番平和的な解決なんだろうけどね。だけどもうそうも言っていられない段階まで来てしまっている」
案外恭順を望む者たちも多いのではないかと、ローエンは考えている。
絶対に勝てる保証はどこにもないのだ。
だからこそ恭順に至る人を責める事は出来ない。
まあローエン自身は殲滅に全力を注ぐのだが。
それにアルスレーテのような者もいる。
「正直私には話が大き過ぎてって感じだわ……。私がハンターやってるのもダイエットの一環だし……でも邪神倒して帰れば、少しは集落で待ってる彼にふさわしい、いい女に近付いたって言えるかしら」
戦いに参加する動機は人それぞれだ。
そこに優劣はなく、ただ行動したという結果のみに尊い意味がある。
(……しかし、決戦前に今更だけど。私も守護者目指せばよかったかしら……守護者とか、最高にいい女っぽいし)
見つめてくるアルスレーテに、不思議そうな表情でアルトが首を傾げた。
自分が話題を振ると大抵メカ談義になってしまうことは自覚しているため、ミグは隣のテーブルで聞き役に徹した。
選択肢についての話を聞きながら、ミグは思う。
(この雰囲気を大人しく楽しむとしようかのぅ)
外見年齢はともかく、実年齢としては一族一の老齢であるミグは、若者こそが選択するべきだろうと考え、判断を委ねるつもりでいた。
●真夜中へ
夕食時を過ぎてやや席に空白が目立ち始めた頃、星野 ハナ(ka5852)はやってきた。
カウンター席に案内してもらい、バーテンダーに近い所に座る。
「お酒は適当で良いですけどぉ、お料理はあるだけ全部ちょっとずつ食べたいんですけどぉ」
「……少しずつでもかなりの量になるが、いいのか?」
「今度の郷祭への出店作に悩んでましてぇ、こういろいろ食べたらインスピレーションが湧くかもって思ったんですぅ」
出してもらえそうな気配を察したハナは喜ぶ。
こういう特殊な注文の仕方は断られてもおかしくはなかった。
(ちょっとずつ出せる料理ばかりとは限らないですしぃ、食べなかった部分は捨てなきゃですし、注文が受け入れられて良かったですぅ)
そして素早くさらに要求を通さんとハナは畳み掛けた。
「もちろん多少アレンジするのでぇ、レシピ聞いてもいいですぅ?」
「いいだろう……」
いつの間にか、バーテンダーが三人全員ハナの下へ集まってきていた。
「覚えられるものなら、覚えきってみせるがいい……!」
くわ、とバーテンダーたちの目が見開かれた。
「そういうのは別に要らないですぅ」
「あ、そうですか」
笑顔でハナにばっさり両断されるバーテンダーたちだった。
ハナはふむふむと聞いてメモを取っていく。
「これはっ……材料を変えたり追加してアレンジしたら面白そうですぅ。アイデアがじゃんじゃん湧いてきましたよぅ。早速家に帰って試作ですぅ!」
笑顔でダッシュ帰宅するハナだった。
夜が更け、客が去っても新たな客がやってくる。
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)の二人がやってきたのもそんな時だった。
周囲はどの選択肢に投票するのかという話で盛り上がっているようだ。
「お怪我の具合は大丈夫でしょうか」
「ああ。さすがに覚醒はできないが、普段通りの生活を送る分には問題ない」
身を案じてくるツィスカにアウレールは答える。
何となく、アウレールにはツィスカが言いたいと思っていることが、分かるような気がした。
「私はここで邪神を何としても撃破するべきだと思う。だが、どの選択になるにせよ、過酷な戦いに赴くこととなるだろう。未来を約束できる身ではない」
口に出す前に答えを返された。
きゅっと、膝の上で揃えられたツィスカの両手に力が籠められ、握り拳が作られる。
(アウレール殿の傍にいる道を選んだ以上は、分かっていたこと……)
だからといって、その為の力を求める道を諦めたくはなかった。
肩を並べて戦う事が叶わないであろうことは悟っている。
(せめて私だけの想いを示す事でアウレール殿の力になりたい、認められたい。そう思うことは、間違いではないはずです)
けれど、そのためにどうすればいいかが分からなかった。
負の感情さえも括った反骨心も糧にして、ただがむしゃらに目に見える力を求め前に進み続けてきたのだから。
あらゆる世界の人間に。
願わくば、遍く人に幸あれと、アウレールはそう願う。
(その対価が私一人で済むなら十分安いものだ)
それは紛れもないアウレールの本心。
だが知っている。
目の前のツィスカは、自分がいなければ幸せにはなれないことを。
幸福と不幸を分けるのは、結局は本人の主観によるものが大きい。
世界が平和になったところで、失われた命の中に何よりも大切なものがあったならば、それは不幸だ。
(全く非道い話だ、私に優先順位を付けさせる気か。遅いよ、今更公益から逸れてなど走れない)
アウレールは今後も走り続けるだろう。
自分にない結末を、ツィスカが持っているとを信じるしかない。
「ともに己の戦いを全うしよう。願う未来を手にするために」
ツィスカは自分が面倒な性格をしていることを自覚している。
それでも、その言葉が本心だと信じたい。
願う未来が、通じ合っているとも。
「健勝と帰還を願っています。……帰ってきた時には、胸を張って、お帰りなさいと言わせてくださいね」
静かに、夜が更けていく。
トリプルJ(ka6653)は離れたカウンター席に座りながら、澄ました顔でシェイカーを振りカクテルを作っているジェーンを見る。
やたらと動きが手馴れている。
材料を注いでグラスに移し、差し出すまでの手つきに淀みがない。
「前ムチャ振りしたのはジェーンだったと思ったが……自分の時は何でこんなマトモなんだ……」
てっきりパニックになってるかと思い、手伝おうかとやってきたら何故かバーテンダーよりもバーテンダーしてるジェーンがいた。
意味が分からなかった。
「煙草吸ってもいいか?」
尋ねるとバーテンダーの一人が無言で灰皿をトリプルJの前に置いた。
どうやらいいらしい。
注文した酒を飲みながら、パルプマガシンを出して読み始める。
静かに時間が過ぎていく。
「最近酒飲みながら煙草吸ってペーパーバック読める酒場が減ってなぁ……世知辛い話だぜ……」
何事もなく読み終わり、酒を飲み干してトリプルJは外に出た。
酒で僅かに火照った身体に夜風が心地よい。
「ひさしぶりに趣味の時間をすごせたからな。今日はさっさと帰って寝るとするぜ」
トリプルJは帰路についた。
吟遊詩人として、ユメリア(ka7010)はのんびり歌を歌っていた。
透き通る歌声が、静かなバーの雰囲気をさらに穏やかなものにしている。
日付も変わった今、店に残っているのは一人酒を楽しむ者と、すっかり騒ぎ疲れ酔い潰れて突っ伏している酔っ払いくらいのもの。
最初からいた者たちは既に騒ぐよりもしんみりとした雰囲気を纏い落ち着いている。
ユメリアは封印派だ。
九星占いというものがある。
それは、九つの星が一年ごとに持ち回りで、対象を守護するという考え方だ。
(同じように考えれば、三世界が持ち回りで封印し、年ごとに邪神の中の星を一つ解放するというのもできるでしょうか)
本当にできるかどうかは分からない。
それでもユメリアはその可能性に賭けた。
解放した星のマテリアルでマテリアルを使いまた封印する。
邪神がしてきた逆の手順で、解放を続けるのだ。
いつか、邪神の食らった星が尽きるまで。
「絶対に会えない人というものもないでしょう。今日出会えたご縁も、また悉くつながるというのならば」
また一曲歌い終えたユメリアは、静かに一礼した。
草木も眠る丑三つ時、シガレット=ウナギパイ(ka2884)がやってきた。
シガレットと話そうと思っていたレイアはちびちびとカクテルを飲み続けて待っており、サクラやシレークスがカウンターでユメリアの歌声を静かに聞いている。
「ウイスキー、ロックで」
「どうぞ」
ジェーンがグラスを置いた。
カランと、琥珀色の液体の中で氷が音を立てた。
「ところで、投票の考えは纏まったか? 俺は殲滅にするつもりなんだが」
「私たちも殲滅だよー」
リューリ、アルト、ローエン、アルスレーテを代表し、リューリがシガレットに手を振る。
「全てに決着を付けようと考える者が多かったということだな」
レイアはカクテルを飲み干して頷く。
「私も色々お聞きしましたが、皆さん殲滅派が多いようですね。そればかりが今集まっているという可能性はもちろんございますが」
未使用のグラスを磨きつつ、ジェーンが答える。
「邪神ファザーも相談相手がいれば違う未来もあったろうになぁ」
「歴史にたら、ればを持ち出せばきりがありませんが、私もそう思います」
シガレットの呟きにジェーンが首肯する。
「バカ正直に邪神が内蔵してる世界を全部殲滅する必要はないかもな。相手が一枚岩でないことは聞き及んでる。できるかどうか分からんが、引き込める世界があるならクリムゾンウエストに引き込めればいい。人類生存圏以外なら場所空いてるし、一足先に滅びループから抜け出す身内がでれば内部分裂を起こすかもしれん。まあ、机上の空論だが」
話し始めたシガレットの周りに、話を聞きつけた酔っ払いたちが集まってくる。
会話は白熱し、気付けば空が白んでいた。
「っと、こんな時間か。付き合ってくれてありがとよ」
感謝を示すシガレットのその一言で、お開きになった。
●いってらっしゃい
ほぼ素面のまま足取りがしっかりしている者、千鳥足な者、状態は様々だ。
「え? 貸し切りだから全部無料? 払わなくていいの?」
最後に代金を払おうとしたアルスレーテは、告げられた事実に驚いて目を瞬かせた。
「いわば、ハンターズソサエティからの壮行会みたいなものですから」
バーテンダーの服装のジェーンが微笑み、ハンターたちを朝日が昇り始めた外へと送り出す。
希望を現すかのように、ゆっくりと朝日が昇っていく。
世界が色付いていく様を眺め、ハンターたちは気持ちを新たに歩き出した。
一番初めに店にやってきたのは、夢路 まよい(ka1328)だった。
店の前には看板があり、今夜に限りハンターズソサエティの貸し切りである旨を表示していた。
扉を開き、来客を告げる涼やかなベルの音が響く。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは! お話しに来たよ、ジェーン!」
カウンターの向こうにいる黒のベストとズボンを着込んだバーテンダー姿のジェーンに、まよいは笑顔で手を振って挨拶した。
ほぼ同時にやってきたミグ・ロマイヤー(ka0665)は、バーテンダーの一人に席に案内された。
(なんでミグはこの依頼参加したんじゃっけ?)
それは暇だったからだ。
最近はユニット整備やら戦訓の蓄積やら研究やらで忙しく立ち働き、寝落ちを繰り返すという日々が続いていた。
依頼を見て、今夜だけはあるゆる些事から解放されても構うまいと考え訪れたのだ。
久しぶりの再会を喜び合い席に案内された後、まよいはジェーンの視線に気付いた。
「そういえば、どの選択肢を選ぶかお決まりになりましたか?」
「私? 殲滅を考えているけど……」
答えかけたまよいは、ジェーンが浮かべている憂いの表情に気付く。
「……もしかして、難しいこと考えてる?」
「……分かりますか?」
少し思案したまよいは、苦笑するジェーンに笑いかけた。
「そんなに難しく考える必要はないんじゃないかな? 私だって今の世界が好きだから、それを残したいと思ってるだけだし。それより、せっかくだから今夜くらいは楽しもうよ」
無邪気なまよいを見て、ジェーンの表情にも柔らかい笑みが浮かんだ。
「そうですね。何かお作りしましょうか?」
「グラスの中で色が分かれたやつ……カクテルっていうのかな? あれ、お酒じゃなくてもできる? できるなら、それがいいな、私」
「できますよ。ではこちらでお待ちください」
ジェーンがカクテルを作り始めた。
シェイカーに材料を注いで軽くシェイクすると、縁にオレンジで湿らせた砂糖つけたグラスに中身を注ぎ、飾り切りにしたオレンジを飾った。
「どうぞ」
出されたのは、可愛らしさに溢れたピンク色のノンアルコールカクテルだった。
(どうせじゃし、閉店まで居座ってやろうかのぅ)
ミグはバーテンダーにアルコール度数高めでカクテルを注文する。
「……一応確認しておくが、飲める歳か?」
「こう見えてもそなたの十倍以上は優に生きておる」
出されたのは、強い酒をジュースで割ったシンプルながらも度数高めなものだった。
寡黙なバーテンダーが言葉少なで語るに、リアルブルーでは有名らしいカクテルを参考にしているらしい。
ちびりちびりグラスを傾けながら、ミグは周囲の会話に耳を傾ける。
●集まるハンターたち
しばらくすると、シレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)が連れ立ってやってきた。
「酒を飲みながら交流と聞いてやってきましたよっ」
「お久しぶりです、ジェーンさん……」
勢いよく豪快に扉を開けるシレークスの横で、サクラがペコリと頭を下げる。
特に二人で相席するとも伝えていなかったせいか、テーブル席とカウンター席にそれぞれ案内された。
とはいえ、二人の距離は話ができる程度には近い。
「お先してるよー」
「こんばんは、です」
隣席のまよいに、サクラは会釈をして席につく。
「さあ、どんどん酒を持ってくるのです!」
飲みまくる気満々のシレークスだった。
エクラ教修道女であるシレークスだが、そんな細かいことなど気にせずシレークスはどんどん酒を飲み干していく。
最初は律儀にカクテルを作って出していたバーテンダーたちだったが、やがてジョッキでビールなどの度数弱めの酒を注いで出し始めた。
たくさん飲んで、たくさん楽しめるようにという配慮だろうか。
まあ、実際問題嬉々としてパッカラパッカラ飲み干していくシレークスのペースに合わせてカクテルを出していたら、椀子そば並のペースで出すことになるに違いない。
そしてきっと飲み尽くされる。
「いやぁ~やっぱり酒はうめーですねぇっ♪」
上機嫌にお替りを要求するシレークスを見ると、間違いとも言い切れなかった。
さらにさりげなく混ざったミグが一緒になって酒を飲んでいる。
サクラはまよいが飲んでいるカクテルを見ていた。
「これ? ノンアルコールで頼んだら出てきたの。結構美味しいよ」
「ジェーンさん、私もノンアルコールで……」
「甘め、辛めなど味のリクエストはございますか?」
「えっと、お任せで……」
「かしこまりました」
笑顔で注文を受けたジェーンは、材料をシェイカーに注ぐと綺麗な立ち姿かつ手馴れた手つきで振り始めた。
「そういえば、たまにはお酒を飲んで行かれないのですか?」
不思議そうな顔のジェーンに、先にシレークスが割り込んだ。
「駄目です! 駄目ですよ! サクラにアルコールは!」
「お酒、好きなのですけどね……。何故か強いのはダメだと言われていまして……」
シレークスの剣幕と苦笑するサクラを見て何かを察したのか、それ以上ジェーンがその話題を振ることはなかった。
「どうぞ」
タンブラーに注がれて出されたそのカクテルは、白みを帯びたオレンジ色をしていた。
「それにしてもジェーンさん、バーテンダーも出来たんですね……」
「昔取った杵柄ですよ。それに久しぶりだったので、実は最初の方の練習では結構失敗しています。もちろん本番の今はそんなことはありませんけど」
茶目っ気に溢れた言葉に、サクラの表情が綻ぶ。
サクラはちょっとだけ自分もお茶目を出してみた。
「で、では次は度数弱めでアルコール入りのものを……」
「ならこちらを」
「サ、サクラぁ! おめーはノンアルコールにしておくですよ!」
お茶目はシレークスにカットされた。
やってきたレイア・アローネ(ka4082)はジェーンが当たり前のようにシェイカーと振っているのを見て、驚きと戸惑いで目を瞬かせた。
(……何故バーテンダー?)
疑問に思いながらもまよいから二つ隣のカウンター席へ案内され腰かけた。
「こうして話すのは久しぶりだな、ジェーン」
「ええ、お久しぶりです」
見回せば、レイアの知った顔が既にちらほらいて酒を飲んでいる。
「どうだ、一緒に一杯」
「いいよー」
「では私も……」
「ジェーン、お前もどうだ?」
「ではお言葉に甘えて。好みのカクテルはございますか?」
「そうだな。王道なものを頼む」
注文を受け、ジェーンがシェイカーに材料を注ぎ、振って混ぜ合わせる。
グラスの縁に塩をまぶし、中身を注ぎ込んだ。
ライムのような果物を飾り、そっと出す。
「どうぞ」
そのカクテルは、澄んだ白い色をしていた。
まよいとサクラもそれぞれ新しくノンアルコールカクテルを注文して飲んでいる。
ジェーンも自分のカクテルを作り始めた。
やがてまよいが帰り、カウンターでシレークスとサクラが一緒になると、レイアがジェーンに尋ねる。
「おまえの選択肢は決まったか?」
「ええ。私自身が投票することはありませんが、殲滅になればとは思います。ですが、どの選択肢になってもそれを尊重しますよ」
「そうか、ジェーンはきっぱりと戦うのだな」
目を伏せ、カクテルを口に含む。
(私は……私はどうしたいのだろう……。今は迷ってても、すぐに答えを出さないといけない……。私は……)
口にしたカクテルは、先ほどまで飲んでいたものより少しだけ辛い気がした。
●月待猫の集い
扉が開き、新たな客が団体でやってきた。
リューリ・ハルマ(ka0502)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、ローエン・アイザック(ka5946)、アルスレーテ・フュラー(ka6148)の四人だ。
「サンドイッチ、四人分ね!」
先頭のリューリの注文を受け、バーテンダーたちがサンドイッチを作り始める。
四人は東の四人掛けテーブル席に案内された。
テーブルにカクテルが運ばれてきた。
まずライムとジンジャーを思わせる爽やかな香りの黄色いカクテルが、リューリの席に置かれる。
カクテルにはスライスされた半分のライムらしき果物が浮いていた。
「へー、お洒落だねー」
興味深げにグラスを見つめるリューリの横で、アルトのところにもカクテルが運ばれてきた。
澄んだ赤色のカクテルで、グラスの底にはチェリーらしきものが一つ沈んでいる。
ローエンの下へも彼の好みのカクテルが、アルスレーテの下へはノンアルコールカクテルが提供された。
四人で黙々と食事をしていく。
普段は途切れなく出る話題も、大事な選択が今後控えているからか、少ない。
「こういう皆でのんびりご飯を食べる時間は良いね。今まで結構忙しかったし」
サンドイッチを食べる手を止め、リューリが呟く。
グラスを傾けてカクテルを煽ったアルトが、あまり酔っているとは思えない顔色で皆を見回す。
「そうだね。この面子でこんなゆったりできる時間は最後かもしれない。アルコールもあるし本音で話そうよ」
四人のうち唯一の男性であるローエンも、カクテルを嗜みつつ同意した。
「全てが上手くいくとは思っていなかったし、実際犠牲は多く出た。おそらくこれからも出るだろう。でも、だからこそこんな時くらい明るく過ごそうじゃないか」
一人酒ではない飲み物を口にしているアルスレーテは物憂げにため息をつく。
「邪神なんてよくわかんない存在と戦うことになるとは、ハンターに成り立ての頃は思ってもみなかったわ。思えばずいぶん遠くまで来たものね」
リューリ、アルト。ローエン、アルスレーテ。
四人の選択は同じもので一致している。
殲滅だ。
邪神を倒したところで、既に存在している全ての歪虚が消えるとは思わない。
(でも……歪虚がいなかったら燕太郎さんもオーロラさんも歪虚にならずに済んだだろうし)
悲しい出来事は、もっと減っていたんじゃないかとリューリは思う。
「まあでも、私は選択が何に決まっても全力で頑張っちゃうけどね!」
「ボクは大精霊と契約している。それを横に置いても、殲滅以外にはないよ」
アルトとしては、友人でもある精霊や幻獣に消滅という犠牲を押し付けるようなことも、自分以外……世界すら賭けてしまうというのもしたくない。
「お互いに干渉しなければそれが一番平和的な解決なんだろうけどね。だけどもうそうも言っていられない段階まで来てしまっている」
案外恭順を望む者たちも多いのではないかと、ローエンは考えている。
絶対に勝てる保証はどこにもないのだ。
だからこそ恭順に至る人を責める事は出来ない。
まあローエン自身は殲滅に全力を注ぐのだが。
それにアルスレーテのような者もいる。
「正直私には話が大き過ぎてって感じだわ……。私がハンターやってるのもダイエットの一環だし……でも邪神倒して帰れば、少しは集落で待ってる彼にふさわしい、いい女に近付いたって言えるかしら」
戦いに参加する動機は人それぞれだ。
そこに優劣はなく、ただ行動したという結果のみに尊い意味がある。
(……しかし、決戦前に今更だけど。私も守護者目指せばよかったかしら……守護者とか、最高にいい女っぽいし)
見つめてくるアルスレーテに、不思議そうな表情でアルトが首を傾げた。
自分が話題を振ると大抵メカ談義になってしまうことは自覚しているため、ミグは隣のテーブルで聞き役に徹した。
選択肢についての話を聞きながら、ミグは思う。
(この雰囲気を大人しく楽しむとしようかのぅ)
外見年齢はともかく、実年齢としては一族一の老齢であるミグは、若者こそが選択するべきだろうと考え、判断を委ねるつもりでいた。
●真夜中へ
夕食時を過ぎてやや席に空白が目立ち始めた頃、星野 ハナ(ka5852)はやってきた。
カウンター席に案内してもらい、バーテンダーに近い所に座る。
「お酒は適当で良いですけどぉ、お料理はあるだけ全部ちょっとずつ食べたいんですけどぉ」
「……少しずつでもかなりの量になるが、いいのか?」
「今度の郷祭への出店作に悩んでましてぇ、こういろいろ食べたらインスピレーションが湧くかもって思ったんですぅ」
出してもらえそうな気配を察したハナは喜ぶ。
こういう特殊な注文の仕方は断られてもおかしくはなかった。
(ちょっとずつ出せる料理ばかりとは限らないですしぃ、食べなかった部分は捨てなきゃですし、注文が受け入れられて良かったですぅ)
そして素早くさらに要求を通さんとハナは畳み掛けた。
「もちろん多少アレンジするのでぇ、レシピ聞いてもいいですぅ?」
「いいだろう……」
いつの間にか、バーテンダーが三人全員ハナの下へ集まってきていた。
「覚えられるものなら、覚えきってみせるがいい……!」
くわ、とバーテンダーたちの目が見開かれた。
「そういうのは別に要らないですぅ」
「あ、そうですか」
笑顔でハナにばっさり両断されるバーテンダーたちだった。
ハナはふむふむと聞いてメモを取っていく。
「これはっ……材料を変えたり追加してアレンジしたら面白そうですぅ。アイデアがじゃんじゃん湧いてきましたよぅ。早速家に帰って試作ですぅ!」
笑顔でダッシュ帰宅するハナだった。
夜が更け、客が去っても新たな客がやってくる。
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)の二人がやってきたのもそんな時だった。
周囲はどの選択肢に投票するのかという話で盛り上がっているようだ。
「お怪我の具合は大丈夫でしょうか」
「ああ。さすがに覚醒はできないが、普段通りの生活を送る分には問題ない」
身を案じてくるツィスカにアウレールは答える。
何となく、アウレールにはツィスカが言いたいと思っていることが、分かるような気がした。
「私はここで邪神を何としても撃破するべきだと思う。だが、どの選択になるにせよ、過酷な戦いに赴くこととなるだろう。未来を約束できる身ではない」
口に出す前に答えを返された。
きゅっと、膝の上で揃えられたツィスカの両手に力が籠められ、握り拳が作られる。
(アウレール殿の傍にいる道を選んだ以上は、分かっていたこと……)
だからといって、その為の力を求める道を諦めたくはなかった。
肩を並べて戦う事が叶わないであろうことは悟っている。
(せめて私だけの想いを示す事でアウレール殿の力になりたい、認められたい。そう思うことは、間違いではないはずです)
けれど、そのためにどうすればいいかが分からなかった。
負の感情さえも括った反骨心も糧にして、ただがむしゃらに目に見える力を求め前に進み続けてきたのだから。
あらゆる世界の人間に。
願わくば、遍く人に幸あれと、アウレールはそう願う。
(その対価が私一人で済むなら十分安いものだ)
それは紛れもないアウレールの本心。
だが知っている。
目の前のツィスカは、自分がいなければ幸せにはなれないことを。
幸福と不幸を分けるのは、結局は本人の主観によるものが大きい。
世界が平和になったところで、失われた命の中に何よりも大切なものがあったならば、それは不幸だ。
(全く非道い話だ、私に優先順位を付けさせる気か。遅いよ、今更公益から逸れてなど走れない)
アウレールは今後も走り続けるだろう。
自分にない結末を、ツィスカが持っているとを信じるしかない。
「ともに己の戦いを全うしよう。願う未来を手にするために」
ツィスカは自分が面倒な性格をしていることを自覚している。
それでも、その言葉が本心だと信じたい。
願う未来が、通じ合っているとも。
「健勝と帰還を願っています。……帰ってきた時には、胸を張って、お帰りなさいと言わせてくださいね」
静かに、夜が更けていく。
トリプルJ(ka6653)は離れたカウンター席に座りながら、澄ました顔でシェイカーを振りカクテルを作っているジェーンを見る。
やたらと動きが手馴れている。
材料を注いでグラスに移し、差し出すまでの手つきに淀みがない。
「前ムチャ振りしたのはジェーンだったと思ったが……自分の時は何でこんなマトモなんだ……」
てっきりパニックになってるかと思い、手伝おうかとやってきたら何故かバーテンダーよりもバーテンダーしてるジェーンがいた。
意味が分からなかった。
「煙草吸ってもいいか?」
尋ねるとバーテンダーの一人が無言で灰皿をトリプルJの前に置いた。
どうやらいいらしい。
注文した酒を飲みながら、パルプマガシンを出して読み始める。
静かに時間が過ぎていく。
「最近酒飲みながら煙草吸ってペーパーバック読める酒場が減ってなぁ……世知辛い話だぜ……」
何事もなく読み終わり、酒を飲み干してトリプルJは外に出た。
酒で僅かに火照った身体に夜風が心地よい。
「ひさしぶりに趣味の時間をすごせたからな。今日はさっさと帰って寝るとするぜ」
トリプルJは帰路についた。
吟遊詩人として、ユメリア(ka7010)はのんびり歌を歌っていた。
透き通る歌声が、静かなバーの雰囲気をさらに穏やかなものにしている。
日付も変わった今、店に残っているのは一人酒を楽しむ者と、すっかり騒ぎ疲れ酔い潰れて突っ伏している酔っ払いくらいのもの。
最初からいた者たちは既に騒ぐよりもしんみりとした雰囲気を纏い落ち着いている。
ユメリアは封印派だ。
九星占いというものがある。
それは、九つの星が一年ごとに持ち回りで、対象を守護するという考え方だ。
(同じように考えれば、三世界が持ち回りで封印し、年ごとに邪神の中の星を一つ解放するというのもできるでしょうか)
本当にできるかどうかは分からない。
それでもユメリアはその可能性に賭けた。
解放した星のマテリアルでマテリアルを使いまた封印する。
邪神がしてきた逆の手順で、解放を続けるのだ。
いつか、邪神の食らった星が尽きるまで。
「絶対に会えない人というものもないでしょう。今日出会えたご縁も、また悉くつながるというのならば」
また一曲歌い終えたユメリアは、静かに一礼した。
草木も眠る丑三つ時、シガレット=ウナギパイ(ka2884)がやってきた。
シガレットと話そうと思っていたレイアはちびちびとカクテルを飲み続けて待っており、サクラやシレークスがカウンターでユメリアの歌声を静かに聞いている。
「ウイスキー、ロックで」
「どうぞ」
ジェーンがグラスを置いた。
カランと、琥珀色の液体の中で氷が音を立てた。
「ところで、投票の考えは纏まったか? 俺は殲滅にするつもりなんだが」
「私たちも殲滅だよー」
リューリ、アルト、ローエン、アルスレーテを代表し、リューリがシガレットに手を振る。
「全てに決着を付けようと考える者が多かったということだな」
レイアはカクテルを飲み干して頷く。
「私も色々お聞きしましたが、皆さん殲滅派が多いようですね。そればかりが今集まっているという可能性はもちろんございますが」
未使用のグラスを磨きつつ、ジェーンが答える。
「邪神ファザーも相談相手がいれば違う未来もあったろうになぁ」
「歴史にたら、ればを持ち出せばきりがありませんが、私もそう思います」
シガレットの呟きにジェーンが首肯する。
「バカ正直に邪神が内蔵してる世界を全部殲滅する必要はないかもな。相手が一枚岩でないことは聞き及んでる。できるかどうか分からんが、引き込める世界があるならクリムゾンウエストに引き込めればいい。人類生存圏以外なら場所空いてるし、一足先に滅びループから抜け出す身内がでれば内部分裂を起こすかもしれん。まあ、机上の空論だが」
話し始めたシガレットの周りに、話を聞きつけた酔っ払いたちが集まってくる。
会話は白熱し、気付けば空が白んでいた。
「っと、こんな時間か。付き合ってくれてありがとよ」
感謝を示すシガレットのその一言で、お開きになった。
●いってらっしゃい
ほぼ素面のまま足取りがしっかりしている者、千鳥足な者、状態は様々だ。
「え? 貸し切りだから全部無料? 払わなくていいの?」
最後に代金を払おうとしたアルスレーテは、告げられた事実に驚いて目を瞬かせた。
「いわば、ハンターズソサエティからの壮行会みたいなものですから」
バーテンダーの服装のジェーンが微笑み、ハンターたちを朝日が昇り始めた外へと送り出す。
希望を現すかのように、ゆっくりと朝日が昇っていく。
世界が色付いていく様を眺め、ハンターたちは気持ちを新たに歩き出した。
依頼結果
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座席表 リューリ・ハルマ(ka0502) エルフ|20才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2019/05/23 18:39:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/24 05:36:55 |