ゲスト
(ka0000)
当方(疾)*3。メンバー募集。
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/26 19:00
- 完成日
- 2015/02/02 18:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●騎士びびり、豚は頷き、のっぽ嗤う
「と、とと、と、いうわけで」
「はい」「ククッ……」
「……み、みなさんが、私の部下ということで……?」
「うむ。よろしく頼む、レヴィン殿」「ククッ……再就職……」
「や、はは……」
青の隊所属の騎士レヴィンの困惑ぶりときたら、哀れさを誘うほどだった。はらりはらりとレヴィンの前髪が散るのを、相対する二人――ポチョムとヴィサンはじっと眺めている。眼前で繰り広げられる前髪との離別は関係ないだろうが、どこか距離を感じさせる目つきであった。
ポチョムとヴィサンは、元は付くが諜報員である。騎士の流儀は知識としてしか知らない。
加えて、彼らにとって騎士の流儀は一切の共感を覚えられぬ代物。眼前の騎士の下に付く事に――そして、騎士として叙される事に、二人が警戒を抱かぬ由もなく。
何処からとも無く、嘆息が零れた。
一体、どうしてこうなったのか――。
●影笑い、騎士は渋面す
「あ、エリー。あのさ」
「……また、厄介事か」
「うん。よくわかったね」
「……」
●
一体、どうしてこうなったのか――。
騎士レヴィンは黙考した。元々は、一哨戒施設の管理者だったレヴィンの元に、騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)と青の隊隊長にして副団長のゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトからの命令が届いた。
曰く、「部下を送る。小隊を作れ」、と。先日のベリアルの侵攻を受けて、試験的な運用に舵を切ることになったのだろうか。平民上がりの騎士であるレヴィンはこうして小隊長になった。
そうして送られてきたのが、眼前の二人だった。
ポチョム。絵に描いたような肥満体だが、凄腕の疾影士にして諜報員。
ヴィサン。絵に描いたような不健康体と陰鬱な笑みが特徴の暗器使い。
――ど、どう見ても騎士じゃ、ない……?
ゲオルギウスから送られてきた資料を見たときから、冷や汗をかいていた。
いま、こうして向き合っていると――何故だろう。動悸が止まらない。
彼らは騎士だ。書類上は。
彼らは部下だ。立場上は。
緊張に上手く回らない舌をなんとか動かして、告げた。
「……か、歓迎します」
こうして、『疾影士三名』から成る小隊が出来た。
仕事はまだない。
●
ハルトフォートの一室を臨時の事務所としてあてがわれた面々は日中をそこで過ごすこととなっていた。
そうして、数日が経った。
丁寧に茶を淹れたポチョムは香りを味わいながらぽつりと言った。
「……レヴィン殿」
「は、はい!?」
書類仕事に勤しんでいたレヴィンは、慌てて立ち上がる。萎縮しきっているレヴィンの額から、前髪がひとつ、また一つと落ちていった。
――そんなに畏まらなくても。
と、生真面目なポチョムは思わなくもないのだが、ヴィサンなどは既にヒエラルキーの上層にいることを認識してか好き勝手にしているようだった。あのゴミめ。
「私達には仕事はないのだろうか」
「い、え。あー、そちらは、げ、現在、け、けけ検討と、調整を、しておりまして、えぇ、その……」
「……」
この数日、レヴィンはずっとこの調子だった。無能な役人タイプか、と。ポチョムは落胆を覚えていたが、生来の真面目さが災いしてか、こうして確認しては慨嘆する日々が続いていた。
――これが、罰だと言うのか。
我が身を憂いた。武芸を磨き、諜報に従じ、鍛え上げた自らの今を嘆く。
騎士になる。その事に、期待を抱かなかったといったら、嘘になる。自らの武に自信を抱いている男であったから。
だからこそ。今日こそは言おう、と思ったのだった。
「レヴィンd「レヴィン?」……」
ポチョムが口を開くのと、ヴィサンが戸を開き、名を呼ぶ声が重なった。
「ククッ……レヴィン、手紙だ……」
「は、はい!?」
差し出された手紙。封蝋に刻まれた印を見て、ポチョムは目を細めた。騎士団長エリオットのものだ、と経験から理解した。レヴィンは手紙を眺めては、強く頷いている。
「は、ははー……じ、辞令です」
「辞令、ですか」
「え、ええ……認可が降りました」
その内容に目を通す前に、小さく、ポチョムは息を呑んだ。
認可、ということはつまり、レヴィン自身の求めありきの事。
ここ数日、役人風味に煙にまかれていると思っていた、のだが。
――よもや、それが素だとは……。
渾然一体とした感情が、ポチョムの胸中に湧く。
「レヴィン殿」
それを、言葉にすればこうなった。
「もっと、堂々としてください」
「ひ、ひぃ……!?」
怒気が滲んだのは、己の修行不足だと割り切っておく。
●
「わ、私達は、主にハンター達と協働する外注部隊として動きます」
「ククッ……ヘクス様受けしそうな事だ」
「げ、ゲオルギウス様受け、かもしれませんが」
はて、と。ポチョムは首を傾げる。
「システィーナ王女でも、エリオット殿でもなく?」
「え、ええ……ゲオルギウス様は、この件に興味を持たれておいででしたから」
「……成程」
副団長ゲオルギウスがハンターに特に好意的という情報をポチョムは持っていない。そこから導かれるのは――。
「我々は、青の隊、となるのか」
「え、ええ……せ、成果も、求められています」
――点数稼ぎ、か。
ハンターと王女の距離。青の隊所属ということ。それらを踏まえて、ポチョムは小さく呟いた。
「……それで、最初の仕事は何になるのです?」
「ええ、っと」
ポチョム。もう、野となれ山となれ、という心境であった。
「メ、メンバー募集です」
「……」
自分の顔を見てククッ、と笑ったヴィサンはあとで鍛錬という名の私刑に処すと決めた。
●
「で、この街ですか」
一同は、グラズヘイム王国北西部、リベルタース地方にある、『酒の街』デュニクスに来ていた。ポチョムは周囲を見渡す。記憶の中のそれと見比べるまでもなく、彼方此方に、戦闘の痕が刻まれている。街を包む空気が、どこか淀んで見えた。
――当然か、と苦笑した。この街は、傲慢の歪虚『クラベル』に支配されて、ハンター達と戦う事になった民が大勢居た。
「何故、この街を?」
「そ、そうですね……一つは、此処が私達の拠点になる、という事、と……も、もう一つは、あとのお楽しみ、です」
「……ふむ」
何か、思惑があるのか、とポチョムは眉を潜めた。レヴィンの間合いと思惑が、独特の言動も相まって掴みにくい。
「して、どのように――」
ポチョムは言って、面々を見渡した。
既に冷汗を流しているレヴィン。
陰鬱に嗤うヴィサン。
「……」
穴があったら叫びたかった。嗚呼。なんてことになってしまったのだ。
向いてない。どう楽観的に考えても。人員募集に、向いていなさすぎる面容であった。
「レヴィン殿……外注、しましょうか」
「え、ええ……そうしましょう……」
レヴィンがそのことを自覚している事を不幸中の幸いに感じられる辺り、早くもポチョムに労苦の影が見えなくもなかった。
「と、とと、と、いうわけで」
「はい」「ククッ……」
「……み、みなさんが、私の部下ということで……?」
「うむ。よろしく頼む、レヴィン殿」「ククッ……再就職……」
「や、はは……」
青の隊所属の騎士レヴィンの困惑ぶりときたら、哀れさを誘うほどだった。はらりはらりとレヴィンの前髪が散るのを、相対する二人――ポチョムとヴィサンはじっと眺めている。眼前で繰り広げられる前髪との離別は関係ないだろうが、どこか距離を感じさせる目つきであった。
ポチョムとヴィサンは、元は付くが諜報員である。騎士の流儀は知識としてしか知らない。
加えて、彼らにとって騎士の流儀は一切の共感を覚えられぬ代物。眼前の騎士の下に付く事に――そして、騎士として叙される事に、二人が警戒を抱かぬ由もなく。
何処からとも無く、嘆息が零れた。
一体、どうしてこうなったのか――。
●影笑い、騎士は渋面す
「あ、エリー。あのさ」
「……また、厄介事か」
「うん。よくわかったね」
「……」
●
一体、どうしてこうなったのか――。
騎士レヴィンは黙考した。元々は、一哨戒施設の管理者だったレヴィンの元に、騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)と青の隊隊長にして副団長のゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトからの命令が届いた。
曰く、「部下を送る。小隊を作れ」、と。先日のベリアルの侵攻を受けて、試験的な運用に舵を切ることになったのだろうか。平民上がりの騎士であるレヴィンはこうして小隊長になった。
そうして送られてきたのが、眼前の二人だった。
ポチョム。絵に描いたような肥満体だが、凄腕の疾影士にして諜報員。
ヴィサン。絵に描いたような不健康体と陰鬱な笑みが特徴の暗器使い。
――ど、どう見ても騎士じゃ、ない……?
ゲオルギウスから送られてきた資料を見たときから、冷や汗をかいていた。
いま、こうして向き合っていると――何故だろう。動悸が止まらない。
彼らは騎士だ。書類上は。
彼らは部下だ。立場上は。
緊張に上手く回らない舌をなんとか動かして、告げた。
「……か、歓迎します」
こうして、『疾影士三名』から成る小隊が出来た。
仕事はまだない。
●
ハルトフォートの一室を臨時の事務所としてあてがわれた面々は日中をそこで過ごすこととなっていた。
そうして、数日が経った。
丁寧に茶を淹れたポチョムは香りを味わいながらぽつりと言った。
「……レヴィン殿」
「は、はい!?」
書類仕事に勤しんでいたレヴィンは、慌てて立ち上がる。萎縮しきっているレヴィンの額から、前髪がひとつ、また一つと落ちていった。
――そんなに畏まらなくても。
と、生真面目なポチョムは思わなくもないのだが、ヴィサンなどは既にヒエラルキーの上層にいることを認識してか好き勝手にしているようだった。あのゴミめ。
「私達には仕事はないのだろうか」
「い、え。あー、そちらは、げ、現在、け、けけ検討と、調整を、しておりまして、えぇ、その……」
「……」
この数日、レヴィンはずっとこの調子だった。無能な役人タイプか、と。ポチョムは落胆を覚えていたが、生来の真面目さが災いしてか、こうして確認しては慨嘆する日々が続いていた。
――これが、罰だと言うのか。
我が身を憂いた。武芸を磨き、諜報に従じ、鍛え上げた自らの今を嘆く。
騎士になる。その事に、期待を抱かなかったといったら、嘘になる。自らの武に自信を抱いている男であったから。
だからこそ。今日こそは言おう、と思ったのだった。
「レヴィンd「レヴィン?」……」
ポチョムが口を開くのと、ヴィサンが戸を開き、名を呼ぶ声が重なった。
「ククッ……レヴィン、手紙だ……」
「は、はい!?」
差し出された手紙。封蝋に刻まれた印を見て、ポチョムは目を細めた。騎士団長エリオットのものだ、と経験から理解した。レヴィンは手紙を眺めては、強く頷いている。
「は、ははー……じ、辞令です」
「辞令、ですか」
「え、ええ……認可が降りました」
その内容に目を通す前に、小さく、ポチョムは息を呑んだ。
認可、ということはつまり、レヴィン自身の求めありきの事。
ここ数日、役人風味に煙にまかれていると思っていた、のだが。
――よもや、それが素だとは……。
渾然一体とした感情が、ポチョムの胸中に湧く。
「レヴィン殿」
それを、言葉にすればこうなった。
「もっと、堂々としてください」
「ひ、ひぃ……!?」
怒気が滲んだのは、己の修行不足だと割り切っておく。
●
「わ、私達は、主にハンター達と協働する外注部隊として動きます」
「ククッ……ヘクス様受けしそうな事だ」
「げ、ゲオルギウス様受け、かもしれませんが」
はて、と。ポチョムは首を傾げる。
「システィーナ王女でも、エリオット殿でもなく?」
「え、ええ……ゲオルギウス様は、この件に興味を持たれておいででしたから」
「……成程」
副団長ゲオルギウスがハンターに特に好意的という情報をポチョムは持っていない。そこから導かれるのは――。
「我々は、青の隊、となるのか」
「え、ええ……せ、成果も、求められています」
――点数稼ぎ、か。
ハンターと王女の距離。青の隊所属ということ。それらを踏まえて、ポチョムは小さく呟いた。
「……それで、最初の仕事は何になるのです?」
「ええ、っと」
ポチョム。もう、野となれ山となれ、という心境であった。
「メ、メンバー募集です」
「……」
自分の顔を見てククッ、と笑ったヴィサンはあとで鍛錬という名の私刑に処すと決めた。
●
「で、この街ですか」
一同は、グラズヘイム王国北西部、リベルタース地方にある、『酒の街』デュニクスに来ていた。ポチョムは周囲を見渡す。記憶の中のそれと見比べるまでもなく、彼方此方に、戦闘の痕が刻まれている。街を包む空気が、どこか淀んで見えた。
――当然か、と苦笑した。この街は、傲慢の歪虚『クラベル』に支配されて、ハンター達と戦う事になった民が大勢居た。
「何故、この街を?」
「そ、そうですね……一つは、此処が私達の拠点になる、という事、と……も、もう一つは、あとのお楽しみ、です」
「……ふむ」
何か、思惑があるのか、とポチョムは眉を潜めた。レヴィンの間合いと思惑が、独特の言動も相まって掴みにくい。
「して、どのように――」
ポチョムは言って、面々を見渡した。
既に冷汗を流しているレヴィン。
陰鬱に嗤うヴィサン。
「……」
穴があったら叫びたかった。嗚呼。なんてことになってしまったのだ。
向いてない。どう楽観的に考えても。人員募集に、向いていなさすぎる面容であった。
「レヴィン殿……外注、しましょうか」
「え、ええ……そうしましょう……」
レヴィンがそのことを自覚している事を不幸中の幸いに感じられる辺り、早くもポチョムに労苦の影が見えなくもなかった。
リプレイ本文
●
「オイオイ……この小隊、ちゃんとやっていけんのかよ?」
面々を眺めたボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。一切の遠慮のない声に、苦笑が零れた。
「い、いやぁ」「ククッ」
恥じらうレヴィンに低く笑うヴィサン。ポチョムだけが深く重い息を吐く。
「なるほど、個性溢れるものばかり、か」
無表情に見渡して、アルルベル・ベルベット(ka2730)。口元からは、淡い言葉。
「いっそこのまま様々な個性あふれる者で揃えてみるのも」
「アルルベル殿」
「何かな?」
感情に乏しい視線にポチョムは再び深い息を吐いた――転瞬。扉が音を立てて開く。
「ポチョムさん! 転職おめでと!」
「ぐはっ!?」
続いて、陽気を振りまくヒヨス・アマミヤ(ka1403)が飛び込んだ。そのまま体ごと打つかるようにして、ポチョムの腹を揺らす。波打つ腹を楽しげに見つめながら、
「アイヴィーさんも!」
名を呼んだ。が、応答はない。
「……?」
ヒヨスは周囲を見渡して――全身黒ずめの男、『ヴィサン』を見て、言う。
「返事してよ、アイヴィーさん!」
「ヴィサンだ」
ほの温かい空気が室内に満ちる中、渋い顔のヴィサンが言った。此度ばかりは、さしものヴィサンも笑えなかったようだ。
「あれ? まあいいや! ヘクスさんとはあれからどうなった? ほら、赤に近いと赤に染まるとかの諺あるじゃん! 二人は嘘つきうつってない? 大丈夫?」
「ヘクス様は壮健だ。我々の事も手筈をつけて下さった」
「ククッ……念願の、転職だ」
「嘘つきは?」
「……」
賑やかだな、と苦笑をしながら誠堂 匠(ka2876)は呟いた。そうして、レヴィンに声を掛ける。
「今回の依頼に当たって、レヴィンさんに同道頂きたいのですが」
「へっ!?」
●
ボルディアや匠達以外の面々は室内に残り、ポスター作成に取りかかる。
「王国騎士団デュニクス小隊……あるいはデュニクス騎士団といった所かな」
イーディス・ノースハイド(ka2106)。全身を重厚な装備で覆っている少女だ。真摯な青い瞳は、かつて彼女が従騎士だった名残、だろうか。
「いいねー!」
ヒヨスは声高に主張しながら、ぐしぐしとポスターに書き込み。
「『元諜報員のもとで働いてテクニックを盗んでみませんか』?」
「うん!」
「……なるほど」
ルカ(ka0962)が読み上げると、ヒヨスは嬉しげに頷く。
あまりに自信満々な姿に、ルカは踏み込む事を諦めたようだ。そのまま毎度手書きでは手間も掛かるだろうと、芋版作りにとりかかる。手つきには少しでも役に立てるように、という、少女の優しさが滲んでいた。
「『一芸に秀でた者』、という版も頼めるかな?」
「あ、はい」
興味深げに眺めていたアルルベルが言うと、ルカは頷く。
「おっ、それじゃ」
ウォルター・ヨー(ka2967)はすらりすらりと羽ペンを走らせた。洒脱な装いに見合わず、存外丁寧な字を書く少年だった。
「こいつもお願いできやすか?」
「どれどれ」
字の美しさに惹かれたか、イーディスが横合いから眺めると。
――求む、美人秘書。おふくろさん。
イーディスが横目でウォルターを睨むとにへら、と笑みが返る。
盛大に溜息が溢れる中、芋版を作るルカはポチョムに言葉を投げた。
「そういえば、ポチョムさん……この小隊は、どういう方向性になるのですか?」
「ふむ?」
「役割について、です」
「そう、ですな……我々は元々「諜報員!」ですので」
割って入った声はヒヨス。だが、ポチョムは既に適応したか、腹を揺さぶられながら続ける。
「要所はハンターに依頼し、その為の舞台を整えるという形になるかと」
「小隊全体でというわけじゃ、ないんですね」
「ええ、そこは――まあ、外注を、というわけでしょうな」
「……そう、ですか」
言葉の端に滲む苦笑に似た吐息に、そう応えた。
「この街を拠点に、という事だったが」
そう続いたのは、イーディス。
「街道警邏などもするのかな?」
「それは――どう、でしょうな。人員次第となりそうでしょうが、我々が扱う領分ではないかと」
「ふむ?」
「外注故に……戦場を用意するのが、恐らく仕事になるでしょうからな」
「警備は仕事ではない、と?」
「人員次第、でしょうが」
――厳しいか、と。馬に人。双方が必要になる事とそれを調達する難しさは、彼女にも了解できた事だった。
●
一方その頃、ボルディアは辺りを興味深げに見回しながら町中を歩き回っていた。
「戦闘要員は外せねぇわな」
と、いうことである。実に勘所を抑えた動きでボルディアは酒場や市場――そして路地裏、と。うらぶれ者を探し求めて歩く。二十前後の女子としては在るまじき姿かもしれない、という所がまた彼女らしいと言えた。
「さて、さて……」
街の人間に聴きこみを重ね、おおよその目星も付いた。
――完全に獲物を探している狩人の目で、ボルディアは人気の無い方へと歩を進めていく。
●
もう一組、匠とレヴィンの方は街の主だった面々に話を通しに回っていた。
「おおよそ、周り終えました、かね」
「え、ええ」
手元の資料に目を落としながら、匠が言う。職人街や農業関係の組合等を練り歩いた結果、おおよそ声を掛けるべき人員の目録が出来上がっていた。匠が全てのプレゼンする羽目になったのは誤算だったが。
――新設の、外注部隊、か。
書き連ねられている名に、そんな事を思いながら周囲を見渡した。どこか灰色を帯びた街並み。住民たちの疲弊。危うい影が、街全体を覆っているように見える。
――仕事があれば街にお金も回る。街の守りにも関わる、か。
「ここを所領にしている方に面通しできなかったのが惜しかった、な」
出来る限りをしてやりたい、と。そう思っていただけにその点だけが悔やまれ、呟いた。
「仕方がない、とも言えます、ね……王国北西部は歪虚、亜人、その両方に晒されています、から」
「貴族が、領土を離れる、と?」
「え、ええ。それ故に、この土地は顔役が多いのです」
「……成程」
再び視線を落とす。連ねられた字面。
――それでもこの土地に残る、という選択をした者達の名が、これか。
存外重たいものを背負ったのかもしれない、と。青年は苦笑を零し、これから一人ずつ訪問するべく、レヴィンと別れた。
●
芋版でポスターを量産すると、別行動となった。渉外役を探すアルルベルは酒場を巡り、店主に了解をとってポスターを貼って行く。ポスターに『これからの小隊を作るのは君達だ!』という文字が踊るのを満足気に眺める。
――あの面々だ。人当たりいい人間が要る、な。
思索しながら、酒場内の面々――いずれも興味深げにこちらを眺めている者達を横目に見る。アルルベルの視線に気づくといくらかは乾杯の仕草を示し、残りは目を背けた。
「ふむ」
酔っぱらいと後ろ暗さを覚える者達は除外して、さて、店員は、と視線を巡らせる。すると、店主と目があった。
「どうかしたか、嬢ちゃん」
「求人なんだが……可能なら女性……いや」
「ん?」
「心が女性な者でも、いい。如何せん、人付き合いの悪い面々でね。人当たりが良い人間を探している」
「……心が女性ねえ」
「いや、それは、必須ではないんだが」
「無いでもないぜ。だが、夜用の店員で、な」
――居るのか、と、思わず感嘆が零れた。
声を掛けておく、という店長に感謝の言葉を残し、アルルベルは店を後にする。
「……幸先がいいな」
嬉しげなアルルベルだが、小隊に爆弾を落とした事には自覚は無いようだった。
●
街の中央に在る広場で高く柔らかな音が響いた。ルカが奏でる横笛だ。軽く鳴った口笛は同道したウォルターのもの。ヒヨスの喝采がそこに重なると、唐突に湧いた娯楽の気配に道行く人々のみならず、建物から人が出てくる騒ぎとなった。
「はう……」
思っていた以上に集まった人の群れに緊張しながら一曲を吹き終えると、歓声と拍手が満ちた。緊張を吐き出すように、深く、息を吐く。そうして、言った。
「あ、あの。レヴィン小隊……デュニクス騎士団の、小隊員を募集しています! 他にも色々な人が声かけしているので、興味があったら、ぜひ……私は、医療、とか、衣食住を提供できる人を、探してます」
――清潔な環境と、栄養管理をの為の人員。ルカが求めていた人材は職人でもなく、往来を歩いている街人達。
「よければ……っと、わっ」
報酬は、条件は、と。要項を見るべくポスターに群がり始める人の波。細身のルカはあっという間に壁側に押し流されて行った。
●
「いやはや、見事なもんだ」
「そだねー!」
喧騒に近しい騒ぎになったのを見て、ウォルターとヒヨス。周囲を見渡すと、彼方此方で言葉が交わされているのが見えた。聞き分けるまでもなく、雑談の連なりだ。鬱屈した日々に飛び込んで来た目新しい『事件』を肴にしているだけの者が殆ど全て。
「ふーむ……」
探しているのは、こういう場でも浮かず、冷静に見極められる人員だった。故に、この喧騒の中でそういった者は一層際立つ。人垣の周囲をぐるぐると周りながら――見つけた。
絹糸のような金髪に蒼眼。年は若そうだが、器量良し。ブリリアント。気難しそうな顔もまた良し。
「姐さん、姐さん。ちょいとよろしいですかぃ?」
半分仕事。半分は私心で、ウォルターは声を掛けた。
他方、ヒヨスは。
「君に決めたよ!」
地味を絵に書いたような青年に声を掛けていた。
「それから君も! あ、君も!」
言いながら地味メンと、少しばかり身なりがいい面々を集めたヒヨスは、満足げに頷く。
「小隊に入って、偵察要員になろうよ!」
「「はあ!?」」
「君達、地味だから、大丈夫、忍べるよ! 後悔しないって!」
そこからは、「はい」と言わせるまで続く無限地獄。
「プロが教える諜報術!」「お試しでもいいよ!」「街の為だし!」「資格も手に入るよ!」
一人が落ちると、あとは早かった。
●
「ふぅ」
別所の喧騒をよそに、イーディスは平素の警邏を担う者達と面通しと打ち合わせを終えて通りを歩いていた。
「軍用馬と騎兵は今後の検討課題、として……さて」
軍用馬と騎兵についても心当たりはないか当たったが芳しくなかった。今、手元には警邏隊から得た退役軍人やベテラン達の目録がある。
――これから入るであろう戦闘要員に必要な技能は、鎧を纏って戦う事。
「そうなると、彼ら以外の指導者が必要、だが」
深く、息を吸う。冷たい大気が肺腑を満たす中、緊張を感じていないでもなかった。これから会う事になるのは、イーディスにとってはいわば大先輩に当たる。騎士として剣を取り、何らかの事情で剣を置いた者達。
思い一つで、往こう、と決めた。彼らの存在が、今後の小隊に必要不可欠であることに、確信があったから。
つと。
――。
喧騒が、聞こえた。
●
イーディスが駆け付けると、十数人のやさぐれた青年を前に、大立ち回りをしているボルディアが、そこにいた。
「おォ……ッ!」
余りに雄々しい女子力が、猛威を振るっている。拳一つで一人が飛び、蹴撃でまた一人が壁に打ち付けられる。
次いで、鈍い音が響いた。拳を、イーディスが手甲で受け止めた音だ。
「その辺にしておけ」
――歪虚に立ち向かう覚醒者に、ただの人間が叶う道理が無い。イーディスの強い眼差しに、ボルディアは笑みを返した。
「なんだ、遅かったじゃねえか」
「……なんで満足そうなんだ」
呆れ果てたイーディスだが、ボルディアにも意図はあったのだとしれて構えを解く、と。
「てめェら!」
大音声が、路地裏を叩いた。
「いつまでもグレてられねェってのは分かってんだろ! だったらこんな所で腐ってねェでテメェの力で立って見ろよ!」
それから、身を低くして、足元の青年を掴み上げて、こう言った。
「街を守るのが大きな役割だ。根性見せろよ」
そしてボルディアは路地裏を後にしていった。さて、次だ、と聞こえた事にイーディスは不安を覚えないでもなかったが――振り返る。
膝をつき、息を乱す青年達。
――彼らを教え、導く為にも、指導者は必要だ。
そう呟いて、彼女もまたその場を離れた。
●
宵の口。解散間際の一幕。
「連絡先教えて!」
ぽふぽふとポチョムの腹を揺らしながら、ヒヨス。
「この建物、ですが」
「あと、情報を教えてくれたらうちの館の主さんも大喜びしてくれるから!」
「それは無理ですな」
「えー!」
「どうやらポチョムさんは彼女の扱いに慣れたようですね」
「そ、そう、ですね」
どこか似た構図だな、と匠は笑いながら、続けた。伝え忘れた事が有った。
「もし、体調や衛生管理を担う人員が採用されたら、相応の権限のもとに管理を任せるべきだと思います」
「……」
言葉に、レヴィンは愕然としたようだった。
「どうか、しましたか?」
「い、いえ……」
よもや自分自身が肺炎で寝込んだ、とは言えず、レヴィンは白を切ることにした。そして、匠の忠告を固く胸に刻んだのであった。
「あ、兄さん兄さん」
ちょちょいとレヴィンを手招くウォルター。そうして、その耳元に囁いた。
「あたしゃね、副官を、探したんでさ。レヴィン隊長の意を汲んで動いてくれる人をね」
器量のいい娘、いやしたぜ。そう言ってくふふと笑う。
「必要なのは”要”でやす。その上で、隊そのものに価値を見出し私欲に傾倒しすぎない人間でござんす」
「は、はい……?」
レヴィンの位置からではウォルターの顔は見えない。だが――何故だろう。大人びた言葉の裡に、凝る何かを感じた。
「でしてね、お気に召したら、その」
だが、瞬後にはその気配は掻き消えていた。
「ちょいと、お色をつけてくだせぇ」
そう言って、少年は離れていく。最後に、にへら、という笑みを残して一礼をした。
●
凄まじい面接日和となった。ボコボコに顔を腫らしたヤンキー集団は一様にドゥゲザスタイルで就職よりも弟子入りを志願してきた。それを皮切りに、狩人が、鍛冶師が、婦人が、ヲトメがと多種多様な人々が詰め所を訪れた。這々の体で面接をこなしていき、かなりの数の採用が成され――依頼は大成功、といっていいだろう。
――それらが漸く捌けた頃。一人の女性が、事務所の扉を叩いた。
「……デュニクス騎士団の窓口はこちら?」
「おや、あなたは」
目を見開いたレヴィンが迎えた少女の名は、クラリィという。年の頃十八程の金髪蒼眼の少女。レヴィンはその事を、知っていた。
「私のことを、ご存知なのですか?」
「……い、いえ。面接希望者の方、ですか?」
微かな沈黙を動揺で塗りつぶしてレヴィンは言い、胸元を押さえて深い吐息を零したのだった。これには参った。大成功も大成功。望外の成果に、いっそ胃が痛むほど。
ハンター達には他意はあるまい。故に彼らに罪はない。
――恨みますよ、ゲオルギウス殿。
だから彼は、上司の名を呼んで、眼前の少女に安物の椅子を進めたのだった。
「オイオイ……この小隊、ちゃんとやっていけんのかよ?」
面々を眺めたボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。一切の遠慮のない声に、苦笑が零れた。
「い、いやぁ」「ククッ」
恥じらうレヴィンに低く笑うヴィサン。ポチョムだけが深く重い息を吐く。
「なるほど、個性溢れるものばかり、か」
無表情に見渡して、アルルベル・ベルベット(ka2730)。口元からは、淡い言葉。
「いっそこのまま様々な個性あふれる者で揃えてみるのも」
「アルルベル殿」
「何かな?」
感情に乏しい視線にポチョムは再び深い息を吐いた――転瞬。扉が音を立てて開く。
「ポチョムさん! 転職おめでと!」
「ぐはっ!?」
続いて、陽気を振りまくヒヨス・アマミヤ(ka1403)が飛び込んだ。そのまま体ごと打つかるようにして、ポチョムの腹を揺らす。波打つ腹を楽しげに見つめながら、
「アイヴィーさんも!」
名を呼んだ。が、応答はない。
「……?」
ヒヨスは周囲を見渡して――全身黒ずめの男、『ヴィサン』を見て、言う。
「返事してよ、アイヴィーさん!」
「ヴィサンだ」
ほの温かい空気が室内に満ちる中、渋い顔のヴィサンが言った。此度ばかりは、さしものヴィサンも笑えなかったようだ。
「あれ? まあいいや! ヘクスさんとはあれからどうなった? ほら、赤に近いと赤に染まるとかの諺あるじゃん! 二人は嘘つきうつってない? 大丈夫?」
「ヘクス様は壮健だ。我々の事も手筈をつけて下さった」
「ククッ……念願の、転職だ」
「嘘つきは?」
「……」
賑やかだな、と苦笑をしながら誠堂 匠(ka2876)は呟いた。そうして、レヴィンに声を掛ける。
「今回の依頼に当たって、レヴィンさんに同道頂きたいのですが」
「へっ!?」
●
ボルディアや匠達以外の面々は室内に残り、ポスター作成に取りかかる。
「王国騎士団デュニクス小隊……あるいはデュニクス騎士団といった所かな」
イーディス・ノースハイド(ka2106)。全身を重厚な装備で覆っている少女だ。真摯な青い瞳は、かつて彼女が従騎士だった名残、だろうか。
「いいねー!」
ヒヨスは声高に主張しながら、ぐしぐしとポスターに書き込み。
「『元諜報員のもとで働いてテクニックを盗んでみませんか』?」
「うん!」
「……なるほど」
ルカ(ka0962)が読み上げると、ヒヨスは嬉しげに頷く。
あまりに自信満々な姿に、ルカは踏み込む事を諦めたようだ。そのまま毎度手書きでは手間も掛かるだろうと、芋版作りにとりかかる。手つきには少しでも役に立てるように、という、少女の優しさが滲んでいた。
「『一芸に秀でた者』、という版も頼めるかな?」
「あ、はい」
興味深げに眺めていたアルルベルが言うと、ルカは頷く。
「おっ、それじゃ」
ウォルター・ヨー(ka2967)はすらりすらりと羽ペンを走らせた。洒脱な装いに見合わず、存外丁寧な字を書く少年だった。
「こいつもお願いできやすか?」
「どれどれ」
字の美しさに惹かれたか、イーディスが横合いから眺めると。
――求む、美人秘書。おふくろさん。
イーディスが横目でウォルターを睨むとにへら、と笑みが返る。
盛大に溜息が溢れる中、芋版を作るルカはポチョムに言葉を投げた。
「そういえば、ポチョムさん……この小隊は、どういう方向性になるのですか?」
「ふむ?」
「役割について、です」
「そう、ですな……我々は元々「諜報員!」ですので」
割って入った声はヒヨス。だが、ポチョムは既に適応したか、腹を揺さぶられながら続ける。
「要所はハンターに依頼し、その為の舞台を整えるという形になるかと」
「小隊全体でというわけじゃ、ないんですね」
「ええ、そこは――まあ、外注を、というわけでしょうな」
「……そう、ですか」
言葉の端に滲む苦笑に似た吐息に、そう応えた。
「この街を拠点に、という事だったが」
そう続いたのは、イーディス。
「街道警邏などもするのかな?」
「それは――どう、でしょうな。人員次第となりそうでしょうが、我々が扱う領分ではないかと」
「ふむ?」
「外注故に……戦場を用意するのが、恐らく仕事になるでしょうからな」
「警備は仕事ではない、と?」
「人員次第、でしょうが」
――厳しいか、と。馬に人。双方が必要になる事とそれを調達する難しさは、彼女にも了解できた事だった。
●
一方その頃、ボルディアは辺りを興味深げに見回しながら町中を歩き回っていた。
「戦闘要員は外せねぇわな」
と、いうことである。実に勘所を抑えた動きでボルディアは酒場や市場――そして路地裏、と。うらぶれ者を探し求めて歩く。二十前後の女子としては在るまじき姿かもしれない、という所がまた彼女らしいと言えた。
「さて、さて……」
街の人間に聴きこみを重ね、おおよその目星も付いた。
――完全に獲物を探している狩人の目で、ボルディアは人気の無い方へと歩を進めていく。
●
もう一組、匠とレヴィンの方は街の主だった面々に話を通しに回っていた。
「おおよそ、周り終えました、かね」
「え、ええ」
手元の資料に目を落としながら、匠が言う。職人街や農業関係の組合等を練り歩いた結果、おおよそ声を掛けるべき人員の目録が出来上がっていた。匠が全てのプレゼンする羽目になったのは誤算だったが。
――新設の、外注部隊、か。
書き連ねられている名に、そんな事を思いながら周囲を見渡した。どこか灰色を帯びた街並み。住民たちの疲弊。危うい影が、街全体を覆っているように見える。
――仕事があれば街にお金も回る。街の守りにも関わる、か。
「ここを所領にしている方に面通しできなかったのが惜しかった、な」
出来る限りをしてやりたい、と。そう思っていただけにその点だけが悔やまれ、呟いた。
「仕方がない、とも言えます、ね……王国北西部は歪虚、亜人、その両方に晒されています、から」
「貴族が、領土を離れる、と?」
「え、ええ。それ故に、この土地は顔役が多いのです」
「……成程」
再び視線を落とす。連ねられた字面。
――それでもこの土地に残る、という選択をした者達の名が、これか。
存外重たいものを背負ったのかもしれない、と。青年は苦笑を零し、これから一人ずつ訪問するべく、レヴィンと別れた。
●
芋版でポスターを量産すると、別行動となった。渉外役を探すアルルベルは酒場を巡り、店主に了解をとってポスターを貼って行く。ポスターに『これからの小隊を作るのは君達だ!』という文字が踊るのを満足気に眺める。
――あの面々だ。人当たりいい人間が要る、な。
思索しながら、酒場内の面々――いずれも興味深げにこちらを眺めている者達を横目に見る。アルルベルの視線に気づくといくらかは乾杯の仕草を示し、残りは目を背けた。
「ふむ」
酔っぱらいと後ろ暗さを覚える者達は除外して、さて、店員は、と視線を巡らせる。すると、店主と目があった。
「どうかしたか、嬢ちゃん」
「求人なんだが……可能なら女性……いや」
「ん?」
「心が女性な者でも、いい。如何せん、人付き合いの悪い面々でね。人当たりが良い人間を探している」
「……心が女性ねえ」
「いや、それは、必須ではないんだが」
「無いでもないぜ。だが、夜用の店員で、な」
――居るのか、と、思わず感嘆が零れた。
声を掛けておく、という店長に感謝の言葉を残し、アルルベルは店を後にする。
「……幸先がいいな」
嬉しげなアルルベルだが、小隊に爆弾を落とした事には自覚は無いようだった。
●
街の中央に在る広場で高く柔らかな音が響いた。ルカが奏でる横笛だ。軽く鳴った口笛は同道したウォルターのもの。ヒヨスの喝采がそこに重なると、唐突に湧いた娯楽の気配に道行く人々のみならず、建物から人が出てくる騒ぎとなった。
「はう……」
思っていた以上に集まった人の群れに緊張しながら一曲を吹き終えると、歓声と拍手が満ちた。緊張を吐き出すように、深く、息を吐く。そうして、言った。
「あ、あの。レヴィン小隊……デュニクス騎士団の、小隊員を募集しています! 他にも色々な人が声かけしているので、興味があったら、ぜひ……私は、医療、とか、衣食住を提供できる人を、探してます」
――清潔な環境と、栄養管理をの為の人員。ルカが求めていた人材は職人でもなく、往来を歩いている街人達。
「よければ……っと、わっ」
報酬は、条件は、と。要項を見るべくポスターに群がり始める人の波。細身のルカはあっという間に壁側に押し流されて行った。
●
「いやはや、見事なもんだ」
「そだねー!」
喧騒に近しい騒ぎになったのを見て、ウォルターとヒヨス。周囲を見渡すと、彼方此方で言葉が交わされているのが見えた。聞き分けるまでもなく、雑談の連なりだ。鬱屈した日々に飛び込んで来た目新しい『事件』を肴にしているだけの者が殆ど全て。
「ふーむ……」
探しているのは、こういう場でも浮かず、冷静に見極められる人員だった。故に、この喧騒の中でそういった者は一層際立つ。人垣の周囲をぐるぐると周りながら――見つけた。
絹糸のような金髪に蒼眼。年は若そうだが、器量良し。ブリリアント。気難しそうな顔もまた良し。
「姐さん、姐さん。ちょいとよろしいですかぃ?」
半分仕事。半分は私心で、ウォルターは声を掛けた。
他方、ヒヨスは。
「君に決めたよ!」
地味を絵に書いたような青年に声を掛けていた。
「それから君も! あ、君も!」
言いながら地味メンと、少しばかり身なりがいい面々を集めたヒヨスは、満足げに頷く。
「小隊に入って、偵察要員になろうよ!」
「「はあ!?」」
「君達、地味だから、大丈夫、忍べるよ! 後悔しないって!」
そこからは、「はい」と言わせるまで続く無限地獄。
「プロが教える諜報術!」「お試しでもいいよ!」「街の為だし!」「資格も手に入るよ!」
一人が落ちると、あとは早かった。
●
「ふぅ」
別所の喧騒をよそに、イーディスは平素の警邏を担う者達と面通しと打ち合わせを終えて通りを歩いていた。
「軍用馬と騎兵は今後の検討課題、として……さて」
軍用馬と騎兵についても心当たりはないか当たったが芳しくなかった。今、手元には警邏隊から得た退役軍人やベテラン達の目録がある。
――これから入るであろう戦闘要員に必要な技能は、鎧を纏って戦う事。
「そうなると、彼ら以外の指導者が必要、だが」
深く、息を吸う。冷たい大気が肺腑を満たす中、緊張を感じていないでもなかった。これから会う事になるのは、イーディスにとってはいわば大先輩に当たる。騎士として剣を取り、何らかの事情で剣を置いた者達。
思い一つで、往こう、と決めた。彼らの存在が、今後の小隊に必要不可欠であることに、確信があったから。
つと。
――。
喧騒が、聞こえた。
●
イーディスが駆け付けると、十数人のやさぐれた青年を前に、大立ち回りをしているボルディアが、そこにいた。
「おォ……ッ!」
余りに雄々しい女子力が、猛威を振るっている。拳一つで一人が飛び、蹴撃でまた一人が壁に打ち付けられる。
次いで、鈍い音が響いた。拳を、イーディスが手甲で受け止めた音だ。
「その辺にしておけ」
――歪虚に立ち向かう覚醒者に、ただの人間が叶う道理が無い。イーディスの強い眼差しに、ボルディアは笑みを返した。
「なんだ、遅かったじゃねえか」
「……なんで満足そうなんだ」
呆れ果てたイーディスだが、ボルディアにも意図はあったのだとしれて構えを解く、と。
「てめェら!」
大音声が、路地裏を叩いた。
「いつまでもグレてられねェってのは分かってんだろ! だったらこんな所で腐ってねェでテメェの力で立って見ろよ!」
それから、身を低くして、足元の青年を掴み上げて、こう言った。
「街を守るのが大きな役割だ。根性見せろよ」
そしてボルディアは路地裏を後にしていった。さて、次だ、と聞こえた事にイーディスは不安を覚えないでもなかったが――振り返る。
膝をつき、息を乱す青年達。
――彼らを教え、導く為にも、指導者は必要だ。
そう呟いて、彼女もまたその場を離れた。
●
宵の口。解散間際の一幕。
「連絡先教えて!」
ぽふぽふとポチョムの腹を揺らしながら、ヒヨス。
「この建物、ですが」
「あと、情報を教えてくれたらうちの館の主さんも大喜びしてくれるから!」
「それは無理ですな」
「えー!」
「どうやらポチョムさんは彼女の扱いに慣れたようですね」
「そ、そう、ですね」
どこか似た構図だな、と匠は笑いながら、続けた。伝え忘れた事が有った。
「もし、体調や衛生管理を担う人員が採用されたら、相応の権限のもとに管理を任せるべきだと思います」
「……」
言葉に、レヴィンは愕然としたようだった。
「どうか、しましたか?」
「い、いえ……」
よもや自分自身が肺炎で寝込んだ、とは言えず、レヴィンは白を切ることにした。そして、匠の忠告を固く胸に刻んだのであった。
「あ、兄さん兄さん」
ちょちょいとレヴィンを手招くウォルター。そうして、その耳元に囁いた。
「あたしゃね、副官を、探したんでさ。レヴィン隊長の意を汲んで動いてくれる人をね」
器量のいい娘、いやしたぜ。そう言ってくふふと笑う。
「必要なのは”要”でやす。その上で、隊そのものに価値を見出し私欲に傾倒しすぎない人間でござんす」
「は、はい……?」
レヴィンの位置からではウォルターの顔は見えない。だが――何故だろう。大人びた言葉の裡に、凝る何かを感じた。
「でしてね、お気に召したら、その」
だが、瞬後にはその気配は掻き消えていた。
「ちょいと、お色をつけてくだせぇ」
そう言って、少年は離れていく。最後に、にへら、という笑みを残して一礼をした。
●
凄まじい面接日和となった。ボコボコに顔を腫らしたヤンキー集団は一様にドゥゲザスタイルで就職よりも弟子入りを志願してきた。それを皮切りに、狩人が、鍛冶師が、婦人が、ヲトメがと多種多様な人々が詰め所を訪れた。這々の体で面接をこなしていき、かなりの数の採用が成され――依頼は大成功、といっていいだろう。
――それらが漸く捌けた頃。一人の女性が、事務所の扉を叩いた。
「……デュニクス騎士団の窓口はこちら?」
「おや、あなたは」
目を見開いたレヴィンが迎えた少女の名は、クラリィという。年の頃十八程の金髪蒼眼の少女。レヴィンはその事を、知っていた。
「私のことを、ご存知なのですか?」
「……い、いえ。面接希望者の方、ですか?」
微かな沈黙を動揺で塗りつぶしてレヴィンは言い、胸元を押さえて深い吐息を零したのだった。これには参った。大成功も大成功。望外の成果に、いっそ胃が痛むほど。
ハンター達には他意はあるまい。故に彼らに罪はない。
――恨みますよ、ゲオルギウス殿。
だから彼は、上司の名を呼んで、眼前の少女に安物の椅子を進めたのだった。
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レヴィン小隊メンバー募集中! ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/01/26 18:56:10 |
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最終発言 2015/01/24 19:30:00 |