ゲスト
(ka0000)
孤児院を守れ!
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 12:00
- 完成日
- 2014/06/21 19:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●おじいちゃんのおはなしかい
村の小さな孤児院が定期的に村の大人を招くお話会、今日は元猟師の老人が招かれた。
私がまだ現役で、猟銃を提げて山に入っていた頃の話をしよう。実りの秋には肥えた鹿を追って狼たちも村の近くまで下りてきたものだ。
その狼の中の、若い、その年大人になったばかりの狼に、私は襲われそうになった。
さて、君たちは、驚くかも知れないが……この裏の山には狼の群が棲んでいる。何十匹の大きな群だ。しかしね、私はその時まで彼らに襲われたことは無かったんだよ。
狼が人を襲うなんて事は、それこそ、御伽噺の中だけの嘘だとさえ、思っていた。
私は、その若い狼に飛びかかられて……当然、銃を向けたよ。
その時だったね。
その狼よりずっと年嵩で大柄な、青みの強い灰色の毛をした目の鋭い狼が割って入ってきたんだ。
青い狼に体当たりを食らった若い狼は、子犬みたいに鳴いて山の奥に逃げていった。青い狼は私の方を向いて……私の顔をじぃっと見上げながら座って、私が銃を下ろすまでそうしていた。
銃を下ろして、ほんの少し気が逸れた途端、そいつの姿は無くなっていた。
それからも何度かあの若い狼を見かけたが……彼らの群があのときよりも麓に近づくことは無かったよ。え? また会えるかって?
まあ、彼らと最後に会ってから、もう何年も経つからなぁ……私も、もうこんな年だし、目も良くない。もう、山には入れないさ。
いや、こちらこそありがとう、大勢の子供達に話す機会なんて、滅多に無いからね。楽しませて貰ったよ。孫がいっぺんに出来たみたいでな。また来たいものだ。それじゃあ。
「はい、皆さん、猟師のお爺さんを拍手でお見送りしましょう、リズちゃん、お花をプレゼントして」
●ある番人の災難
豊かな里山の麓を開いた村がある。南に拓けたその村は明るく、秋の麦畑は黄金に染まり、果物に野菜に、何でも大きく甘く育つと評判だった。山は春に山菜、秋に木の実をもたらし、生き物たちはみな穏やかに生きていると言われていた。
そんな村だが一応は山に番人を置いている。高く組んだ物見の上で、日がな一日山を眺め、たまにパンくずをせがむ鳥と遊ぶ楽な仕事だった。生涯勤めれば、一度くらいは山火事を見つけることも有るかも知れない。この日も番人は欠伸をしながら山を見ていた。
「なんだ?……狼?」
番人は年季の入ってくすんだ遠眼鏡を覗いた。
それは、村に向かって奔り下りてくる、黒い獣の濁流、狼の群だった。
番人は慌てて鐘を鳴らした。
村中に響くその音が効いたのか、村がざわめく頃にはその群は山の奥へ散っていった。
「――って、事があってな」
日が落ちて見張りを後退するときに、その話をすると夜の番人は信じられないと笑い飛ばした。見間違えだろう、夢でも見ていたんだろう、と。しかし、彼も、その群を見た。
群を見ては、鐘を鳴らして追い払う。気の休まらない夜だったという。
村人達も、数日経たず訝しみ始め、番人を問い詰めた。最初、村人を不安にさせまいと黙りを決め込んだ番人も、そのただ中に鐘が鳴れば喋らざるを得なかった。
「今まで、何も無かったんだから……」
「今年は温かくって、狼たちがボケちゃったのよ」
「心配ないんでしょ?」
「薪を取りに行きたいんだけど」
「何とかしてくれるんだろうな」
村人達が口々に言い、番人はこの現象をハンターに相談しようと決めた。
「と、いうのが、今回届いた依頼ですね。今まで大人しかった狼が、どうもこのところおかしいから、ちょっと様子を見てきてくれ、とのことです」
ハンターへ依頼を届けた街の案内人に連れられて、君たちは村へ向かった。
「豊かな村ってだけ有って、依頼料は狼退治にしてはなかなか弾んで貰えるみたいですねー。んー、天気も良いですし、ちゃちゃっと狼を追っ払って、街にも遊びに来てみませんか?」
馬車の幌から顔を出して、案内人は朗らかに笑う。馬が鳴いて、馬車は村に到着した。
迎えに来た番人は、酷く、青ざめた、顔で君たちを、出迎えた。
●孤児院を守れ!
「話と違うじゃ無いですか――っ、鐘を鳴らしたらっ、逃げてたんじゃっ、無かったんですかー!」
案内人はハンター達を連れ、喚きながら村の中を山に向かって走る。
狼の群は、ハンター達の到着を待たずに下りてきてしまった。そして、山の麓の孤児院を取り囲んでいる。
群に襲われたのは孤児院を訪れ、子ども達に若い頃の話をしていた元猟師の老人一人。お話会が終わって、孤児院から出たところ、飛び掛かってきた一匹に噛み付かれた。
老人は見送りに来ていた少女を、玄関から屋内へ突き飛ばす。ドアの前に立ち塞がって進入しようと迫る狼へ石を投げつけながら、
「早くドアを閉めろ! 助けを呼んでくる。助けが来るまで開けるなよ。先生と一緒に待っているんだ。いいな」
声を張り上げた。花束を抱えて見送りに来た少女がおじいちゃんと呼んで泣き出し、先生が震えながらにお願いしますと叫んでドアを閉めた。
老人は、狼たちに噛まれ、引っかかれ、傷だらけで群を抜け、助けを求めるべく村へと走り、番人に行き会った。
老人が言う狼はとても大きな群で、見えただけでも30匹には上る。そして、群を先導しているのは痩せた黒い狼で、群はこの狼に従っている。
群は孤児院の建物を囲んでいたが、老人が外へ出ると集って襲ってきた。建物の中へも入ってきそうだったので、急いでドアを閉めさせたので、子ども達は建物内に閉じ込められている。
まだ孤児院は囲まれており、狼たちを何とかしなければ、子ども達を外へ逃がすことは不可能だろう。
番人と案内人に先導されてハンター達は孤児院の庭に辿り着いた。
青々とした芝も初夏の花も踏み荒らされた庭、低い柵で囲まれた敷地には古い木造の可愛らしい家。そのドアには狼が飛び掛かったらしい爪と泥の跡が付いている。
狼たちの徘徊する庭は均されており、ブランコを吊った大きな木が一本だけ、建物に向かって右端の中程に生えている。
閉められた窓から子どもの頭が覗いた。背伸びをして外を覗う。狼に震えて、その向こうに駆けつけた番人の、そして、連れられてきたハンター達を見つけて、円らな目が見開いた。子どもが奥へと戻っていく。助けが来たことを伝えているのだろう。
群を率いる黒い狼が、その漆黒の体躯を踊らせて耳を劈く咆哮を上る。
群れの狼が数匹ハンター達の到着に気づき、牙を剥いて睨む…………
村の小さな孤児院が定期的に村の大人を招くお話会、今日は元猟師の老人が招かれた。
私がまだ現役で、猟銃を提げて山に入っていた頃の話をしよう。実りの秋には肥えた鹿を追って狼たちも村の近くまで下りてきたものだ。
その狼の中の、若い、その年大人になったばかりの狼に、私は襲われそうになった。
さて、君たちは、驚くかも知れないが……この裏の山には狼の群が棲んでいる。何十匹の大きな群だ。しかしね、私はその時まで彼らに襲われたことは無かったんだよ。
狼が人を襲うなんて事は、それこそ、御伽噺の中だけの嘘だとさえ、思っていた。
私は、その若い狼に飛びかかられて……当然、銃を向けたよ。
その時だったね。
その狼よりずっと年嵩で大柄な、青みの強い灰色の毛をした目の鋭い狼が割って入ってきたんだ。
青い狼に体当たりを食らった若い狼は、子犬みたいに鳴いて山の奥に逃げていった。青い狼は私の方を向いて……私の顔をじぃっと見上げながら座って、私が銃を下ろすまでそうしていた。
銃を下ろして、ほんの少し気が逸れた途端、そいつの姿は無くなっていた。
それからも何度かあの若い狼を見かけたが……彼らの群があのときよりも麓に近づくことは無かったよ。え? また会えるかって?
まあ、彼らと最後に会ってから、もう何年も経つからなぁ……私も、もうこんな年だし、目も良くない。もう、山には入れないさ。
いや、こちらこそありがとう、大勢の子供達に話す機会なんて、滅多に無いからね。楽しませて貰ったよ。孫がいっぺんに出来たみたいでな。また来たいものだ。それじゃあ。
「はい、皆さん、猟師のお爺さんを拍手でお見送りしましょう、リズちゃん、お花をプレゼントして」
●ある番人の災難
豊かな里山の麓を開いた村がある。南に拓けたその村は明るく、秋の麦畑は黄金に染まり、果物に野菜に、何でも大きく甘く育つと評判だった。山は春に山菜、秋に木の実をもたらし、生き物たちはみな穏やかに生きていると言われていた。
そんな村だが一応は山に番人を置いている。高く組んだ物見の上で、日がな一日山を眺め、たまにパンくずをせがむ鳥と遊ぶ楽な仕事だった。生涯勤めれば、一度くらいは山火事を見つけることも有るかも知れない。この日も番人は欠伸をしながら山を見ていた。
「なんだ?……狼?」
番人は年季の入ってくすんだ遠眼鏡を覗いた。
それは、村に向かって奔り下りてくる、黒い獣の濁流、狼の群だった。
番人は慌てて鐘を鳴らした。
村中に響くその音が効いたのか、村がざわめく頃にはその群は山の奥へ散っていった。
「――って、事があってな」
日が落ちて見張りを後退するときに、その話をすると夜の番人は信じられないと笑い飛ばした。見間違えだろう、夢でも見ていたんだろう、と。しかし、彼も、その群を見た。
群を見ては、鐘を鳴らして追い払う。気の休まらない夜だったという。
村人達も、数日経たず訝しみ始め、番人を問い詰めた。最初、村人を不安にさせまいと黙りを決め込んだ番人も、そのただ中に鐘が鳴れば喋らざるを得なかった。
「今まで、何も無かったんだから……」
「今年は温かくって、狼たちがボケちゃったのよ」
「心配ないんでしょ?」
「薪を取りに行きたいんだけど」
「何とかしてくれるんだろうな」
村人達が口々に言い、番人はこの現象をハンターに相談しようと決めた。
「と、いうのが、今回届いた依頼ですね。今まで大人しかった狼が、どうもこのところおかしいから、ちょっと様子を見てきてくれ、とのことです」
ハンターへ依頼を届けた街の案内人に連れられて、君たちは村へ向かった。
「豊かな村ってだけ有って、依頼料は狼退治にしてはなかなか弾んで貰えるみたいですねー。んー、天気も良いですし、ちゃちゃっと狼を追っ払って、街にも遊びに来てみませんか?」
馬車の幌から顔を出して、案内人は朗らかに笑う。馬が鳴いて、馬車は村に到着した。
迎えに来た番人は、酷く、青ざめた、顔で君たちを、出迎えた。
●孤児院を守れ!
「話と違うじゃ無いですか――っ、鐘を鳴らしたらっ、逃げてたんじゃっ、無かったんですかー!」
案内人はハンター達を連れ、喚きながら村の中を山に向かって走る。
狼の群は、ハンター達の到着を待たずに下りてきてしまった。そして、山の麓の孤児院を取り囲んでいる。
群に襲われたのは孤児院を訪れ、子ども達に若い頃の話をしていた元猟師の老人一人。お話会が終わって、孤児院から出たところ、飛び掛かってきた一匹に噛み付かれた。
老人は見送りに来ていた少女を、玄関から屋内へ突き飛ばす。ドアの前に立ち塞がって進入しようと迫る狼へ石を投げつけながら、
「早くドアを閉めろ! 助けを呼んでくる。助けが来るまで開けるなよ。先生と一緒に待っているんだ。いいな」
声を張り上げた。花束を抱えて見送りに来た少女がおじいちゃんと呼んで泣き出し、先生が震えながらにお願いしますと叫んでドアを閉めた。
老人は、狼たちに噛まれ、引っかかれ、傷だらけで群を抜け、助けを求めるべく村へと走り、番人に行き会った。
老人が言う狼はとても大きな群で、見えただけでも30匹には上る。そして、群を先導しているのは痩せた黒い狼で、群はこの狼に従っている。
群は孤児院の建物を囲んでいたが、老人が外へ出ると集って襲ってきた。建物の中へも入ってきそうだったので、急いでドアを閉めさせたので、子ども達は建物内に閉じ込められている。
まだ孤児院は囲まれており、狼たちを何とかしなければ、子ども達を外へ逃がすことは不可能だろう。
番人と案内人に先導されてハンター達は孤児院の庭に辿り着いた。
青々とした芝も初夏の花も踏み荒らされた庭、低い柵で囲まれた敷地には古い木造の可愛らしい家。そのドアには狼が飛び掛かったらしい爪と泥の跡が付いている。
狼たちの徘徊する庭は均されており、ブランコを吊った大きな木が一本だけ、建物に向かって右端の中程に生えている。
閉められた窓から子どもの頭が覗いた。背伸びをして外を覗う。狼に震えて、その向こうに駆けつけた番人の、そして、連れられてきたハンター達を見つけて、円らな目が見開いた。子どもが奥へと戻っていく。助けが来たことを伝えているのだろう。
群を率いる黒い狼が、その漆黒の体躯を踊らせて耳を劈く咆哮を上る。
群れの狼が数匹ハンター達の到着に気づき、牙を剥いて睨む…………
リプレイ本文
●群に挑む
最悪の展開、気軽な依頼の先に待っていたそれに若松 拓哉(ka0505)は溜息を吐く。ポケットの中探る手が、入手の叶わなかったものを思って指を丸めた。彼の目には、ハンターとして眼前にじりじりと詰めてくる狼たちと、その群を前に作戦を立て始めた仲間が映っていた。
アナトール・ルーゲ(ka1313)が狼たちを訝しみながら彼の力を解放した。
「狼達の狂暴化……歪虚の影響、なのでしょうか」
ルテシィア・ハーミッシュ(ka0191)は群を、孤児院をその先のじっと見詰めた。依頼を受けた以上は成功させなければ、と唇を結んで。
マルク・D・デメテール(ka0219)が群の向こう狼が狙っていた建物に、冷たく装う小声で呟いた。吹き抜ける風に髪が戦ぐ。
「正式なハンターとして初めて請け負う仕事が孤児院絡みとはな……くだらねぇ」
イワン=ウイスカヤ(ka1230)は祈る。主と奉る雷、その幻影が彼の指にちらつき始めていた。
(我らと我らが守ろうとするものに主のご加護があらんことを)
押し通ります、と緑の目で正面を見据えたクロード・エクルストン(ka1683)が彼らを庇うように、ハンター達の先頭に立った。
狼たちは既に、強固な扉に守られた柔らかな子どもたちを諦めて、新しく現れた活きの良いハンター達へ狙いを移していた。
ぎらりと餓えた幾対もの目が彼らを睨む。
●乱戦
クロードを先頭に押し入る群の中、ハンター達6名は二手に分かれることにした。
「囲まれてしまいましたね」
イワンが困った顔で群を眺め、庭に生えた頑丈な木に目を向ける。あの木の上からならば弾は十分狼たちを捉え、貫けるだろう。
「手伝いますよ」
クロードはイワンの足を支えて木に担ぎ上げる。ブランコを吊った枝は丈夫で、イワンの重さにならば十分に耐えられそうだ。その木の下にルティシアとアナトールが残った。
マルクが若松とクロードを呼ぶ。
「ここは、リーダーを仕留めちまうのが早ぇと思うんだが。付き合わねぇか」
クロードは若松とマルクを庇うように前に出た。群の中、リーダーまではまだ距離があった。
イワンの全身に雷の幻影が絡みつく。幻の光は何色を帯びているだろうか。静かに呼吸を整えて、銃口を狼に向けた。主に愛されない哀れな狼たちを確実に仕留めようと。
アナトールとルティシアもロッドを構え、マテリアルを活性化させる。漲る力でロッドはしなやかに、自身の一部であるかのように軽々と手に馴染んだ。そして、狼の先陣へ、堅い柄すら撓らせ空気を切って振り下ろす。
アナトールに牙を剥いた狼達はロッドの柄に捕らえられ、数匹を巻き込みながら彼の周囲を拓かせた。ルティシアはその空間へ進み、ロッドの切っ先を据えて狼たちを誘う。
「こちらを狙って下さい」
ルティシアのロッドは、木に爪を立てた狼を捕らえて弾く。ロッドを振るう勢いで進み出て、リーダーを刈るべく進む仲間を守ろうと、狼たちを引きつけた。
そこへ、イワンの放つ銃弾が落ちる。マテリアルに強化されたそれはルティシアが集めた狼たちを吹き飛ばした。
「いらぬ手伝いでしたでしょうか?」
その攻撃で更に数匹が木へと狙いを変えてきた。しかし、銃弾の軌道から外れた一匹がルティシアの足に爪を立てて引き裂いた。
「っ――この程度で倒れませんよ」
裂傷から血の滲む足の傷は痛むが、まだ戦える。ルティシアがロッドを構え直すと、狼たちも呻り地面を蹴った。アナトールもロッドを立てて、イワンが次弾の的を探す。
マルクは背後で聞こえた狼の咆哮に、始まったか、と四肢にマテリアルの力を込めて奔った。群の中、邪魔になりそうな狼たちの隙を突くように武装した拳で殴り飛ばした。
狼たちの死角を探りながら、リーダーを狩る妨げになりそうな狼を狙う。
道中、若松も向かってくる狼の足を狙い、銃口を向けて引き金に指を掛ける。
「俺が足を殺して行くから、後は任せたぁ」
弾倉が回転して一撃、足を撃たれた狼は地面を赤黒く染めて藻掻いている。その後ろで怯む狼にも既に狙いが定められていた。
その銃を、繰り出す四肢を躱して飛び掛かる狼には持ち替えたナイフで喉を捌く、生温く錆臭い鮮血が散った。
クロードは狼たちがそれ以上2人に迫らないように前に出る。飛び掛かってきた数匹の牙を盾で抑えるが、数に押されて牙はローブまで至った。
爛爛と光る目でそれを見ていた黒い狼が踊るように飛び跳ね、数匹の駒をクロードへ奔らせる。
クロードは盾を構え直し、その狼たちを見据えた。
盾を、杖を握る手に、地を踏む足に、ローブに隠す腹に。痛みが燻って濃色のクロスが浮かび上がった。痛みは、彼を昂ぶらせる。
「この程度の痛みでは、足りませんよ」
迫る爪牙を盾で弾いて払い除け、狼がその爪牙を折るほどに防ぎきると、返すロッドで数匹の胴を纏めて薙ぎ払った。狼達は声もなく地面に転がり、或いは退いていった。
絶えず狙ってくる狼たちにマルクはナイフの切っ先を向ける。光を帯びる鋭利な切っ先は同時に爪を擡げた数匹の内1匹を刺しきり、もう1匹の足を止めた。非力な狼に一瞥をくれて呟く。弱肉強食は世の理、と。
「――今からはテメェらが弱者になる番だぜ?」
残りの狼が怯む隙、血だまりを振り向かずにマルクは群を駆け抜けた。
マルクを追った狼を数発の銃弾が地面に伏せさせた。
ターン、とイワンの銃弾が狼を的確に撃ち抜いていく。飄々と口角を上げて、しなやかに腕を伸ばし、硝煙を燻らせる。リーダーの狼へ迫った3人を見下ろして目を細めた。
「あちらは、順調なようです」
アナトールは木の上を見上げた。前に出て誘い、彼らから引き離す狼が迫ってくる。木を背後に庇いながらロッドを振りかぶって一息に払う。呻く狼がふらふらと蹌踉けながら後退り倒れた。
ルティシアが前へ出てロッドを向けて引きつけると、その腕を目掛けて狼が噛み付いてきた。傷を負った足を庇い、躱しきれなかった腕に牙を受けながらも、ルティシアのロッドは狼の腹を薙ぐ。翻って叩き付けたロッドの先が首を折り、狼の動きを完全に止めた。
アナトールのロッドがルティシアに向き、淡い光が傷を塞ぐ。腕を噛んだ牙の跡はローブに血の滲みを残して消えていく。穏やかな温もりに包まれてルティシアはロッドを構え直した。青い目の鋭い煌めきが狼を睨む。
「感謝です。狼たちは上にも先へも進ませません!」
2人の双眸が唸る狼達を見据える。それは確実に数を減らしている。
吠え猛る一匹を頭上から注いだイワンの銃弾が弾き飛ばし、派手にロッドを振るい銃撃の音を上げれば、狼たちは集ってくる。
「一匹残らず――いきましょう」
「勿論です」
「あちらには、行かせません」
ロッドに込めたマテリアルも、もう一撃は保つだろう。
アナトールとルティシアが構え、イワンもその先の狼を狙う。
銃弾が貫き、踊るようにロッドが旋回し、獲物に誘われる狼たちは食いつくそばから斃れていった。傷を負って、或いは昏倒し地に伏すもの、血を泡を吹いて瞳から光を閉ざすもの、幾匹と転がるなか、数匹の弱ったもの達が山の方へと走っていった。
群の粗方を片付けて拓けた庭、リーダーの狼が従えるそれは片手ほどに数を減らしていた。
黒い毛並みを逆立てた痩せた狼は群れの数を減らされて激高したのか、牙をむき、爪を掲げて飛び跳ねた。人の高さに至るまで飛び上がり、骨の浮く肢体を翻し己を狩ろうと獲物を向ける3人をぎらつく双眸に捉えた。
呼び集めた残り少ない群のすぐ先にはクロードが盾とロッドを構え、その後ろに若松が装填した弾倉を回転させる。牙も爪も届かぬ先に血濡れたナイフを光らせるマルクの姿があった。
数匹の狼を飛び越え、黒い狼が剥いた鋭利な牙を、クロードは盾に受け止めて圧す。
盾に弾かれ、地面に足を突いて振るう狼が高い咆哮を響かせる。クロードの後方から屍を踏み台にした若松の銃口がその頭を上から狙った。銃弾は吠えた狼の頬を削いで、首から背中へ灼いて抜けた。
盾と銃が狼を圧倒する最中、狼の爪牙の及ばぬまで離れたマルクがナイフを投げる。黒い狼を殺しきる心算で投じた刃は、吸い寄せられるようにその首へ届く。姿勢を崩していた狼の咆哮は、首に刺さるナイフに途切れ、再び肢体を地に崩した。
「せめて苦しむな」
弾倉が回り、薬莢が飛ぶ。若松が留めにその頭を打ち抜いた。
銃声に弾かれたように散見していた狼たちが山の方へと柵を越えて逃げていく。
「終わった。か」
マルクが黒い屍からナイフを引き抜く。血を振り払って納めながら。静かになった庭を見回した。いくつかの屍と戦いの跡が濃く残る庭、動く狼はいないようだ。
木から下りたイワンとルティシア、アナトールの3人も合流した。
アナトールが荒れた庭の片付けを始め、数人がそれを手伝い、幾らかの傷を負ったハンターもルティシアが回復を施していく。
イワンが草笛を奏でる中、子ども達が怖々と外に出てきた。安堵の笑顔が広がる中、静かにレクイエムが響いた。
●花束
玄関を開けた傍らに落とされた愛らしい花束。ドア近くのそれを拾うのは、この襲撃の中で少女には恐ろしかったのだろう。一人外へ出てこない少女の安否を気遣って建物の中を覗くと、教室の奥で膝を抱えて濡れる円らな目がこちらを向いた。
花束を拾ってアナトールは少女を呼ぶ。
「花束を渡しに行きましょう」
「お爺さんも、助けましょうね」
老人の回復を申し出たクロードも、大勢の子ども達もそれに続いた。
病室で目覚めた老人は子ども達の無事を喜び、顔の皺を深く微笑んだ。
最悪の展開、気軽な依頼の先に待っていたそれに若松 拓哉(ka0505)は溜息を吐く。ポケットの中探る手が、入手の叶わなかったものを思って指を丸めた。彼の目には、ハンターとして眼前にじりじりと詰めてくる狼たちと、その群を前に作戦を立て始めた仲間が映っていた。
アナトール・ルーゲ(ka1313)が狼たちを訝しみながら彼の力を解放した。
「狼達の狂暴化……歪虚の影響、なのでしょうか」
ルテシィア・ハーミッシュ(ka0191)は群を、孤児院をその先のじっと見詰めた。依頼を受けた以上は成功させなければ、と唇を結んで。
マルク・D・デメテール(ka0219)が群の向こう狼が狙っていた建物に、冷たく装う小声で呟いた。吹き抜ける風に髪が戦ぐ。
「正式なハンターとして初めて請け負う仕事が孤児院絡みとはな……くだらねぇ」
イワン=ウイスカヤ(ka1230)は祈る。主と奉る雷、その幻影が彼の指にちらつき始めていた。
(我らと我らが守ろうとするものに主のご加護があらんことを)
押し通ります、と緑の目で正面を見据えたクロード・エクルストン(ka1683)が彼らを庇うように、ハンター達の先頭に立った。
狼たちは既に、強固な扉に守られた柔らかな子どもたちを諦めて、新しく現れた活きの良いハンター達へ狙いを移していた。
ぎらりと餓えた幾対もの目が彼らを睨む。
●乱戦
クロードを先頭に押し入る群の中、ハンター達6名は二手に分かれることにした。
「囲まれてしまいましたね」
イワンが困った顔で群を眺め、庭に生えた頑丈な木に目を向ける。あの木の上からならば弾は十分狼たちを捉え、貫けるだろう。
「手伝いますよ」
クロードはイワンの足を支えて木に担ぎ上げる。ブランコを吊った枝は丈夫で、イワンの重さにならば十分に耐えられそうだ。その木の下にルティシアとアナトールが残った。
マルクが若松とクロードを呼ぶ。
「ここは、リーダーを仕留めちまうのが早ぇと思うんだが。付き合わねぇか」
クロードは若松とマルクを庇うように前に出た。群の中、リーダーまではまだ距離があった。
イワンの全身に雷の幻影が絡みつく。幻の光は何色を帯びているだろうか。静かに呼吸を整えて、銃口を狼に向けた。主に愛されない哀れな狼たちを確実に仕留めようと。
アナトールとルティシアもロッドを構え、マテリアルを活性化させる。漲る力でロッドはしなやかに、自身の一部であるかのように軽々と手に馴染んだ。そして、狼の先陣へ、堅い柄すら撓らせ空気を切って振り下ろす。
アナトールに牙を剥いた狼達はロッドの柄に捕らえられ、数匹を巻き込みながら彼の周囲を拓かせた。ルティシアはその空間へ進み、ロッドの切っ先を据えて狼たちを誘う。
「こちらを狙って下さい」
ルティシアのロッドは、木に爪を立てた狼を捕らえて弾く。ロッドを振るう勢いで進み出て、リーダーを刈るべく進む仲間を守ろうと、狼たちを引きつけた。
そこへ、イワンの放つ銃弾が落ちる。マテリアルに強化されたそれはルティシアが集めた狼たちを吹き飛ばした。
「いらぬ手伝いでしたでしょうか?」
その攻撃で更に数匹が木へと狙いを変えてきた。しかし、銃弾の軌道から外れた一匹がルティシアの足に爪を立てて引き裂いた。
「っ――この程度で倒れませんよ」
裂傷から血の滲む足の傷は痛むが、まだ戦える。ルティシアがロッドを構え直すと、狼たちも呻り地面を蹴った。アナトールもロッドを立てて、イワンが次弾の的を探す。
マルクは背後で聞こえた狼の咆哮に、始まったか、と四肢にマテリアルの力を込めて奔った。群の中、邪魔になりそうな狼たちの隙を突くように武装した拳で殴り飛ばした。
狼たちの死角を探りながら、リーダーを狩る妨げになりそうな狼を狙う。
道中、若松も向かってくる狼の足を狙い、銃口を向けて引き金に指を掛ける。
「俺が足を殺して行くから、後は任せたぁ」
弾倉が回転して一撃、足を撃たれた狼は地面を赤黒く染めて藻掻いている。その後ろで怯む狼にも既に狙いが定められていた。
その銃を、繰り出す四肢を躱して飛び掛かる狼には持ち替えたナイフで喉を捌く、生温く錆臭い鮮血が散った。
クロードは狼たちがそれ以上2人に迫らないように前に出る。飛び掛かってきた数匹の牙を盾で抑えるが、数に押されて牙はローブまで至った。
爛爛と光る目でそれを見ていた黒い狼が踊るように飛び跳ね、数匹の駒をクロードへ奔らせる。
クロードは盾を構え直し、その狼たちを見据えた。
盾を、杖を握る手に、地を踏む足に、ローブに隠す腹に。痛みが燻って濃色のクロスが浮かび上がった。痛みは、彼を昂ぶらせる。
「この程度の痛みでは、足りませんよ」
迫る爪牙を盾で弾いて払い除け、狼がその爪牙を折るほどに防ぎきると、返すロッドで数匹の胴を纏めて薙ぎ払った。狼達は声もなく地面に転がり、或いは退いていった。
絶えず狙ってくる狼たちにマルクはナイフの切っ先を向ける。光を帯びる鋭利な切っ先は同時に爪を擡げた数匹の内1匹を刺しきり、もう1匹の足を止めた。非力な狼に一瞥をくれて呟く。弱肉強食は世の理、と。
「――今からはテメェらが弱者になる番だぜ?」
残りの狼が怯む隙、血だまりを振り向かずにマルクは群を駆け抜けた。
マルクを追った狼を数発の銃弾が地面に伏せさせた。
ターン、とイワンの銃弾が狼を的確に撃ち抜いていく。飄々と口角を上げて、しなやかに腕を伸ばし、硝煙を燻らせる。リーダーの狼へ迫った3人を見下ろして目を細めた。
「あちらは、順調なようです」
アナトールは木の上を見上げた。前に出て誘い、彼らから引き離す狼が迫ってくる。木を背後に庇いながらロッドを振りかぶって一息に払う。呻く狼がふらふらと蹌踉けながら後退り倒れた。
ルティシアが前へ出てロッドを向けて引きつけると、その腕を目掛けて狼が噛み付いてきた。傷を負った足を庇い、躱しきれなかった腕に牙を受けながらも、ルティシアのロッドは狼の腹を薙ぐ。翻って叩き付けたロッドの先が首を折り、狼の動きを完全に止めた。
アナトールのロッドがルティシアに向き、淡い光が傷を塞ぐ。腕を噛んだ牙の跡はローブに血の滲みを残して消えていく。穏やかな温もりに包まれてルティシアはロッドを構え直した。青い目の鋭い煌めきが狼を睨む。
「感謝です。狼たちは上にも先へも進ませません!」
2人の双眸が唸る狼達を見据える。それは確実に数を減らしている。
吠え猛る一匹を頭上から注いだイワンの銃弾が弾き飛ばし、派手にロッドを振るい銃撃の音を上げれば、狼たちは集ってくる。
「一匹残らず――いきましょう」
「勿論です」
「あちらには、行かせません」
ロッドに込めたマテリアルも、もう一撃は保つだろう。
アナトールとルティシアが構え、イワンもその先の狼を狙う。
銃弾が貫き、踊るようにロッドが旋回し、獲物に誘われる狼たちは食いつくそばから斃れていった。傷を負って、或いは昏倒し地に伏すもの、血を泡を吹いて瞳から光を閉ざすもの、幾匹と転がるなか、数匹の弱ったもの達が山の方へと走っていった。
群の粗方を片付けて拓けた庭、リーダーの狼が従えるそれは片手ほどに数を減らしていた。
黒い毛並みを逆立てた痩せた狼は群れの数を減らされて激高したのか、牙をむき、爪を掲げて飛び跳ねた。人の高さに至るまで飛び上がり、骨の浮く肢体を翻し己を狩ろうと獲物を向ける3人をぎらつく双眸に捉えた。
呼び集めた残り少ない群のすぐ先にはクロードが盾とロッドを構え、その後ろに若松が装填した弾倉を回転させる。牙も爪も届かぬ先に血濡れたナイフを光らせるマルクの姿があった。
数匹の狼を飛び越え、黒い狼が剥いた鋭利な牙を、クロードは盾に受け止めて圧す。
盾に弾かれ、地面に足を突いて振るう狼が高い咆哮を響かせる。クロードの後方から屍を踏み台にした若松の銃口がその頭を上から狙った。銃弾は吠えた狼の頬を削いで、首から背中へ灼いて抜けた。
盾と銃が狼を圧倒する最中、狼の爪牙の及ばぬまで離れたマルクがナイフを投げる。黒い狼を殺しきる心算で投じた刃は、吸い寄せられるようにその首へ届く。姿勢を崩していた狼の咆哮は、首に刺さるナイフに途切れ、再び肢体を地に崩した。
「せめて苦しむな」
弾倉が回り、薬莢が飛ぶ。若松が留めにその頭を打ち抜いた。
銃声に弾かれたように散見していた狼たちが山の方へと柵を越えて逃げていく。
「終わった。か」
マルクが黒い屍からナイフを引き抜く。血を振り払って納めながら。静かになった庭を見回した。いくつかの屍と戦いの跡が濃く残る庭、動く狼はいないようだ。
木から下りたイワンとルティシア、アナトールの3人も合流した。
アナトールが荒れた庭の片付けを始め、数人がそれを手伝い、幾らかの傷を負ったハンターもルティシアが回復を施していく。
イワンが草笛を奏でる中、子ども達が怖々と外に出てきた。安堵の笑顔が広がる中、静かにレクイエムが響いた。
●花束
玄関を開けた傍らに落とされた愛らしい花束。ドア近くのそれを拾うのは、この襲撃の中で少女には恐ろしかったのだろう。一人外へ出てこない少女の安否を気遣って建物の中を覗くと、教室の奥で膝を抱えて濡れる円らな目がこちらを向いた。
花束を拾ってアナトールは少女を呼ぶ。
「花束を渡しに行きましょう」
「お爺さんも、助けましょうね」
老人の回復を申し出たクロードも、大勢の子ども達もそれに続いた。
病室で目覚めた老人は子ども達の無事を喜び、顔の皺を深く微笑んだ。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/11 20:03:02 |
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作戦相談卓 クロード・エクルストン(ka1683) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/06/16 01:02:06 |