ゲスト
(ka0000)
【血断】紅き世界の海原に
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/05/28 22:00
- 完成日
- 2019/06/12 01:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●報告
自由都市同盟の事実上の首都、ヴァリオスに同盟軍本部がある。
その一室で、同盟軍名誉大将イザイア・バッシ(kz0104)は、ひとりの将校の報告を受けていた。
「……ハンターズ・ソサエティの決定は事実上、この世界の運命を決定づけることになるでしょう」
「そうか。連中も辛いところだな」
ハンターズ・ソサエティがハンター達に提示した今後の世界の行く末については、同盟評議会にも伝わっていた。
そしていずれは噂という形で、誰もが知ることになるだろう。
同盟軍情報部としてはそれを踏まえ、今のうちに取れる対策を取ることになる。
(とはいえ、取れる対策などあるわけもないが)
情報部のマヌエル・フィンツィ少佐は内心で苦笑し、目の前の老将はどう思っているのかと何気なく観察する。
だが静かな声音からも、目の色からも、何の感情も読み取れなかった。
淡々と事実のみを述べている。そんな印象だ。
「とはいえ、我々も決定事項が知らされるまで無為に過ごすわけにはまいりません。大きな脅威は去りましたが、散発的な歪虚の襲撃は続いています」
「各部隊、よく戦っている」
総司令官職をブルーノ・ジェンマ(kz0100)元帥に譲って以来、老将は陸軍の強化に尽力してきた。
CAM部隊「特機隊」やその他の兵士の死闘についても、当然ながらよく知っている。
目的達成を急ぐあまりに犯した失敗も含めて――。
「ところで『V2』はどうしておる」
「は」
V2とは『菫狐隊』――ヴォルペ・ヴィオラの略称だ。
バッシ名誉大将の陸軍強化策のひとつとして結成された、歪虚事件の対応専門の覚醒者による傭兵部隊。
といっても、まだ人数も充分ではなく、試験運用の間に歪虚王との戦いが終わってしまったという現状である。
自身も覚醒者であるフィンツィが隊長職を拝命する予定だったが、負傷によりそれはなくなった。
「成果は上がっています。現在は我が軍としては避けて通ることのできない、海上の――」
●歪虚
潮風が頬を叩き、空と海面とから陽光が照り付ける。
アスタリスク(kz0234)は目を細めて、水平線の彼方を見据えた。
「そろそろでしょうか」
傍らの同盟海軍のセラート中尉に尋ねる。
「そうですね。目的地はこの岩礁付近で、現在位置はここです」
中尉は海図を示し、船の位置と距離を大まかに予測する。
「有難うございます。ではうちの連中を上げましょう」
「よろしくお願いします、大尉」
「今回は寧ろ、我々のほうがお世話になる側ですから。ハンターの皆様もどうぞよろしくお願いいたします」
アスタリスクは如才ない笑顔を向ける。
小型の戦艦の船室に、アスタリスクの言う「うちの連中」がいた。
「サリム、ハンターの皆様はもう揃っていますが。何かトラブルでも?」
黒髪に浅黒い肌の30がらみの男が困ったような薄笑いで振り向く。
「あー隊長。いやなに、サキがまじないしてくれるってんで」
サキと呼ばれた女性兵士が手を合わせて、何事かぶつぶつ言っていた。
「俺なんて、初めて海を見たのがこのクリムゾンウェストなもんでな。隊長は?」
「……私は一応、教科で水中戦闘も履修していますよ」
だが宇宙遊泳のほうが得意だ、と口に出すのは流石にやめた。
「ほんとかよ。隊長のいたのは月面の崑崙基地だろ?」
サリムが疑わしそうにアスタリスクを見る。
不意に、サキがぼそりと呟いた。
「隊長はなんで、クリムゾンウェストでわざわざ戦うのさ」
アスタリスクは元強化人間で、月面の崑崙基地の防衛隊にいた。
強化人間としての契約を覚醒者に上書きしてもらうために紅界に来たのだが、そのままハンターとして残り、今は傭兵という立場である。
彼の命が限られているのは周知の事実だ。
「お前なあ。今それを訊いてどうすんだ?」
サリムがあきれ顔でサキを小突く。
「構いませんよ。死に場所を探しているような輩には、付き合えないということでしょうから」
アスタリスクはいつも通りの微笑を崩さない。
「後悔したくないからですよ。使える力があって、僅かでも成果が残るなら、生きている限りは何かしていたいのです。この世界には恩もありますからね」
訪れた沈黙を、サリムが断ち切る。
「ま、ハンターもいるし、どのみち簡単に死んだりしねえよ。いくぜ、仕事だ」
サリムが無責任なことを言いながら立ち上がった時だった。
突然の衝撃に、全員の身体が浮いて、ふっとぶ。
「なんだ!?」
どうにか甲板に駆け上がると、そこは水浸しだ。
すぐそばの海上には、巨大な女の顔があった。その顔がみるみる迫ってくる。
どうやらこの歪虚が現れたために、海水が盛り上がり、艇が大きく揺れたようだ。
サリムが自分を落ち着かせようとするかのように、敢えて軽い調子で呟く。
「なるほどね。これが噂のゴルゴーンって奴か?」
確かに、束になった髪を振り乱す巨大な女の上半身は、伝説の魔物そのままであった。
魔女が空気を引き裂くような声で叫んだ。
同時に無数のヘビが海中から浮かびあがってくる。
アスタリスクがセラート中尉に叫ぶ。
「我々が時間を稼ぎます! 何とか立て直して、全速力で振り切ってください!」
「了解!」
ハンター達も状況を見て、それぞれに準備を整えつつあった。
自由都市同盟の事実上の首都、ヴァリオスに同盟軍本部がある。
その一室で、同盟軍名誉大将イザイア・バッシ(kz0104)は、ひとりの将校の報告を受けていた。
「……ハンターズ・ソサエティの決定は事実上、この世界の運命を決定づけることになるでしょう」
「そうか。連中も辛いところだな」
ハンターズ・ソサエティがハンター達に提示した今後の世界の行く末については、同盟評議会にも伝わっていた。
そしていずれは噂という形で、誰もが知ることになるだろう。
同盟軍情報部としてはそれを踏まえ、今のうちに取れる対策を取ることになる。
(とはいえ、取れる対策などあるわけもないが)
情報部のマヌエル・フィンツィ少佐は内心で苦笑し、目の前の老将はどう思っているのかと何気なく観察する。
だが静かな声音からも、目の色からも、何の感情も読み取れなかった。
淡々と事実のみを述べている。そんな印象だ。
「とはいえ、我々も決定事項が知らされるまで無為に過ごすわけにはまいりません。大きな脅威は去りましたが、散発的な歪虚の襲撃は続いています」
「各部隊、よく戦っている」
総司令官職をブルーノ・ジェンマ(kz0100)元帥に譲って以来、老将は陸軍の強化に尽力してきた。
CAM部隊「特機隊」やその他の兵士の死闘についても、当然ながらよく知っている。
目的達成を急ぐあまりに犯した失敗も含めて――。
「ところで『V2』はどうしておる」
「は」
V2とは『菫狐隊』――ヴォルペ・ヴィオラの略称だ。
バッシ名誉大将の陸軍強化策のひとつとして結成された、歪虚事件の対応専門の覚醒者による傭兵部隊。
といっても、まだ人数も充分ではなく、試験運用の間に歪虚王との戦いが終わってしまったという現状である。
自身も覚醒者であるフィンツィが隊長職を拝命する予定だったが、負傷によりそれはなくなった。
「成果は上がっています。現在は我が軍としては避けて通ることのできない、海上の――」
●歪虚
潮風が頬を叩き、空と海面とから陽光が照り付ける。
アスタリスク(kz0234)は目を細めて、水平線の彼方を見据えた。
「そろそろでしょうか」
傍らの同盟海軍のセラート中尉に尋ねる。
「そうですね。目的地はこの岩礁付近で、現在位置はここです」
中尉は海図を示し、船の位置と距離を大まかに予測する。
「有難うございます。ではうちの連中を上げましょう」
「よろしくお願いします、大尉」
「今回は寧ろ、我々のほうがお世話になる側ですから。ハンターの皆様もどうぞよろしくお願いいたします」
アスタリスクは如才ない笑顔を向ける。
小型の戦艦の船室に、アスタリスクの言う「うちの連中」がいた。
「サリム、ハンターの皆様はもう揃っていますが。何かトラブルでも?」
黒髪に浅黒い肌の30がらみの男が困ったような薄笑いで振り向く。
「あー隊長。いやなに、サキがまじないしてくれるってんで」
サキと呼ばれた女性兵士が手を合わせて、何事かぶつぶつ言っていた。
「俺なんて、初めて海を見たのがこのクリムゾンウェストなもんでな。隊長は?」
「……私は一応、教科で水中戦闘も履修していますよ」
だが宇宙遊泳のほうが得意だ、と口に出すのは流石にやめた。
「ほんとかよ。隊長のいたのは月面の崑崙基地だろ?」
サリムが疑わしそうにアスタリスクを見る。
不意に、サキがぼそりと呟いた。
「隊長はなんで、クリムゾンウェストでわざわざ戦うのさ」
アスタリスクは元強化人間で、月面の崑崙基地の防衛隊にいた。
強化人間としての契約を覚醒者に上書きしてもらうために紅界に来たのだが、そのままハンターとして残り、今は傭兵という立場である。
彼の命が限られているのは周知の事実だ。
「お前なあ。今それを訊いてどうすんだ?」
サリムがあきれ顔でサキを小突く。
「構いませんよ。死に場所を探しているような輩には、付き合えないということでしょうから」
アスタリスクはいつも通りの微笑を崩さない。
「後悔したくないからですよ。使える力があって、僅かでも成果が残るなら、生きている限りは何かしていたいのです。この世界には恩もありますからね」
訪れた沈黙を、サリムが断ち切る。
「ま、ハンターもいるし、どのみち簡単に死んだりしねえよ。いくぜ、仕事だ」
サリムが無責任なことを言いながら立ち上がった時だった。
突然の衝撃に、全員の身体が浮いて、ふっとぶ。
「なんだ!?」
どうにか甲板に駆け上がると、そこは水浸しだ。
すぐそばの海上には、巨大な女の顔があった。その顔がみるみる迫ってくる。
どうやらこの歪虚が現れたために、海水が盛り上がり、艇が大きく揺れたようだ。
サリムが自分を落ち着かせようとするかのように、敢えて軽い調子で呟く。
「なるほどね。これが噂のゴルゴーンって奴か?」
確かに、束になった髪を振り乱す巨大な女の上半身は、伝説の魔物そのままであった。
魔女が空気を引き裂くような声で叫んだ。
同時に無数のヘビが海中から浮かびあがってくる。
アスタリスクがセラート中尉に叫ぶ。
「我々が時間を稼ぎます! 何とか立て直して、全速力で振り切ってください!」
「了解!」
ハンター達も状況を見て、それぞれに準備を整えつつあった。
リプレイ本文
●
敵が現れるまでの海は、美しく平和そのものだった。
甲板の上をゆっくり歩き続けるマチルダ・スカルラッティ(ka4172)に、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)が声をかける。
「どうした、緊張しているのか」
マチルダは小首をかしげて足を止めた。
「大事の前って、直前になって迷って、思わず別の事に精を出したりしない? 何かしてないとそわそわするって感じ」
「なるほどな」
ヴァージルは否定もせず、かといって同意もせず、頷く。
大事というのは、面倒な話だ。どんな世界でも生き抜く自信があるタイプの人間にとっては、尚更。
「試験の前になると机の整理を始めるタイプか?」
口を挟んできたのはサリムだった。
「ちょっと違うかな。でもサリムは? 逃げないの?」
訳の分からない世界で、安い値段で命を売るなんて馬鹿らしい。
そう言い放っていた男が、どう見ても割に合わない仕事をしているのが不思議だった。
「逃げる先もないってことがわかったんでな」
「ふうん。じゃあリアルブルーの封印についてはどうなの? 生きてる間に帰りたくない?」
サリムは返事をせず、独特の曖昧な薄笑いで肩をすくめた。
「思うんだけど。邪神が呑み込んでるから、新しい星も生まれないんじゃない? エネルギーを抱え込んでるってことよね」
救えるものは救いたい。だから考え続ける。
マチルダがこの依頼を受けたのは、行く末が定まるまでの落ち着かなさを埋めるためだったのかもしれない。
「ハンターズソサエティが何かやってるって噂は聞いてるよ。でも私たちには今のところ関係ないからね」
振り向くと、黒い制服姿の女性兵士だった。
「サキだ。あんたの顔は覚えてるよ。しかしハンターってのは何かと熱心だね」
以前もサリムと共にいた用心棒の女は、手を振って船室に戻っていく。
入れ替わりに上がって来たアスタリスクは、その場の空気に違和感を覚えたようだ。
「うちの連中が何か失礼を?」
「優しいお嬢ちゃんが、俺を心配してくれてんだよ」
サリムがまぜっかえしながら船室に向かい、マチルダは呆れたように空を仰いだ。
船縁にもたれ、ジャック・エルギン(ka1522)が独り言のように呟く。
「心情的に考えれば討伐、現実的に考えたら……まあやっぱり討伐が候補だな」
アスタリスクが物問いたげにジャックを見た。
「ハンターズソサエティの方針の話だ。結果が出りゃ世界中に伝わるだろう」
彼らは噂程度に知っているが、正確な情報は聞いていないという。ジャックは簡単に選択肢を説明する。
「そうですか。……討伐に勝算はありますか」
アスタリスクは月面で、歪虚の圧倒的な力を見知っている。だからそう尋ねた。
ハンター達も当然知っている。――それでも。
「もちろん犠牲を無視するわけにもいかねえが。それでも戦って得るモンも大事だろ」
未来に、後の世代に、何を残してやるのか。
この世界に満ちる不思議――精霊や、神秘的な出来事だって、日常の一部だ。
戦いを諦めて安寧を選び、全てを無にすることは何か違うと思う。
「まあそれも全部、ここで生き残ってからだがな」
ヴァージルが薄笑いを浮かべて海原を見つめる。
敵の出現に、艦艇内は騒然となっていた。
●
海原に現れた女の上半身は、徐々に大きくなる。遠近感があやしくなる、敵のサイズだった。
髪を振り乱した姿は、伝説のゴルゴーンと呼ばれるのも無理はない。
(ゴルゴーンというより、スキュラみたいな)
その敵を目の当たりにし、時音 ざくろ(ka1250)は表情を引き締める。
「ともかく、海を荒らす歪虚を冒険家としては放っておくわけにはいかないもん! この海の平和もざくろが護るよ!!」
「同盟の海は荒らさせやしねえ」
静かに熱を帯びるジャックの言葉とは対照的に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の高笑いが響く。
「デカブツ上等! 倒して先へ進むまでよ!!」
とはいえ、情報の少ない敵だ。
数少ない遭遇情報によると、小ヘビのような眷属を無数に連れているともいう。
「……微妙に面倒くさいわね」
マリィア・バルデス(ka5848)の感慨も当然だ。
一息に倒してしまえば話が早いのだが、何をしてくるのかわからない敵を無暗に攻撃するのは得策ではない。
観測兵が、敵の速度を計算して知らせる。
振りきれない速度ではないが、艦艇が全速力を出せるのは岩礁地帯を抜けてからの話になる。
「この艇は魔導エンジンで動いています。それに、乗組員も100名あまり。敵を引き付けるには充分すぎるほどですね」
アスタリスクが言う通り、歪虚は確実にこちらを攻撃してくるだろう。
ハンター達はそれぞれの案を出し、短時間でおよその攻撃手順を打ち合わせる。
充分とは言えないが、一応の役割分担ができた。ところで、とアスタリスクが言いかけて、一瞬迷った後に続ける。
「海に落ちた場合は、回収できませんのでご注意ください。敵はおそらく艇を追うと思いますが」
ハンターなら眷属の相手をしつつ、自力で戦域を離脱できるはず。艇の離脱が主目的である以上、冷たいようだが仕方ない。
それぞれが自分の決めた持ち場に散る。
ヴァージルはサキとすれ違いざまに軽く声をかけた。
「よう。俺のことも占ってみてくれよ」
切れ長の黒い瞳が横目でヴァージルを見た。
「占いじゃなくてまじないだよ。落ちたときに海の怪物に引き込まれないようにってね」
「参ったな。俺は美女の誘惑には弱くてね」
「じゃあ落ちないように、せいぜい気をつけるんだね」
サキは黒いスタッフを手に、海面を見下ろす。
先刻と打って変わって、高い波が船を揺らしていた。
マリィアが白銀に輝く魔導銃を構えながら、足に力を籠める。
「下半身はどうなっているのかしら。あの歪虚が波を立てているのよね?」
見張りの兵士がそれに応える。
歪虚は多肢型で、イカやタコのように肢を動かして移動しているようだ。
「そんな強力な肢が何本も? 面倒ね」
だが面倒なのはそれだけではない。引き連れているヘビ型の歪虚が、ゴルゴーンの起こす波で勢いをつけて、海面から飛び出してきたのだ。
マリィアは銃口を天に向け、『リトリビューション』の光の雨を見舞う。
飛びあがったヘビの幾体かがまとめて動きを封じられ、そのまま海面に落ちていった。
「その力どれほどか見せてもらうよ……デルタエンド!」
別方向からの敵もまた、ざくろの『デルタレイ』で吹き飛ばされる。
数こそ厄介だが、1体ずつはさほど強力でもないようだ。
「でも艇の装甲には脅威なんだろうね。それに、あの敵……なにか嫌な攻撃を仕掛けてきそうな気がするよ」
ざくろの懸念は、皆も感じていた。
ゴルゴーンが何か仕掛けて来る前に、雑魚は減らしておきたいところだ。
ヴァージルがサリムとサキに声をかける。
「まとめて弾き飛ばすのは得意そうだな。そっちを頼むぞ」
「艇が沈められちゃかなわねえからな。しかしなあ、名前が悪いんじゃねえの?」
「何だって?」
「この艇の名前さ! 『ペルセウス号』ってんだよ!」
ヴァージルは無言でただ首を振ると、魔箒に跨る。
「俺は空から行く。艇は任せたぞ」
ゴルゴーンはどんどん近づいてくるが、まだ何もしかけてこない。
それなら好都合と、ジャックは純白の長弓に、剛矢を番える。
「近づかれる前に削る! できれば俺の矢が貫いた部位を狙ってくれ!」
限界まで思い切り引き絞り、狙いを定める。
満を持して放たれた矢は空を切り裂いて飛び、敵のうろこ状の物に覆われた左肩を貫いた。
思わず耳を塞ぎたくなる不快な音が響き渡った。ゴルゴーンの叫び声だ。
ジャックの『貫徹の矢』は見事命中、この機を逃す手はない。
「叫ぶけど、お喋りはできないのかな」
マチルダは『グリムリリース』を詠唱。『絵巻物「ニタイキムン」』で地属性の攻撃力を上げ、杖に念を籠める。
敵が海に住まう物なら、効果があるかもしれないと考えたのだ。本のストック分だけ全て試すつもりだ。
「これだけ大きければ当たるよね!」
マチルダの『マジックアロー』が敵の弱ったポイント目掛けて撃ち込まれる。
ゴルゴーンの肩から透明な体液があふれ出し、激しい叫び声が響く。
ざくろが間髪開けず『デルタレイ』で仕掛ける。
「効いてるみたい。どんどん行くよ!」
周囲のヘビも巻き込んだ攻撃に、僅かながらゴルゴーンの進行速度が遅くなったようだ。
その様子を、中空からヴァージルが確認する。
「今のところ脚は移動に使うだけか。接近されたらわからんが」
ヘビとはある程度連携をとっているようで、ヘビはゴルゴーンの弱った左側に集まりつつある。
これ以上追い込まれれば、何か別の手段をとるのか?
「試してみるか」
魔箒の上でバランスを取り、剣を構える。
味方の攻撃を邪魔しないよう、大きな敵の更に上から、『衝撃波』を叩きつけた。
斬撃にゴルゴーンと手近のヘビを巻きこまれる。
「残念だがこれが限界だな」
魔箒の滞空時間の限界だった。艇が進む以上、帰還には余裕が必要だ。
姿勢を変えた魔箒を、ゴルゴーンが首を巡らして見据えた。
上半身が青白く輝いたのを確認したところで、ヴァージルの全身が強張った。
●
これまでとは違う甲高いゴルゴーンの声、落ちるヴァージルの姿に、一同が固唾を飲む。
「俺に任せておけ! これを使わん手はあるまい?」
ルベーノは不敵に笑うと、小型飛行翼アーマー「ダイダロス」で宙に舞う。
ゴルゴーンが射程内に近づくのを待ち構えていた間の闘志を、空で取り戻すつもりだ。
一息に接近すると、用意していた発煙手榴弾を投げる。
「よし、今だ。臆せず煙を攻撃してくれよ、ハッハッハ!」
だが閉所でこそ効果も期待できる発煙手榴弾の煙は、広い場所では拡散して効果が薄れる。ましてや海上では、僅かにゴルゴーンの視線を動かしたに過ぎなかった。
「うむ、視覚か熱か……ともかくマテリアルだけを感知するわけではないようだな」
ルベーノは魔箒に乗り換え、なおも敵と海面を観察する。
少し離れた場所に、ヴァージルが浮かび上がってくるのが見えた。
「すぐに動けるようになるか。ならば案ずるほどではなかろう」
ルベーノは魔箒から、更に『縮地瞬動・虚空』で飛行を続けると、鉄爪を振るう。
「受けて見よ!」
味方が傷をつけた肩口に向けて、『青龍翔咬波』を放った。
泳ぐように腕を彷徨わせるゴルゴーンの上半身が、白い光を帯びる。
と、ぐるりと首を巡らし、ルベーノを見据えた。
「何ッ!」
ルベーノは身体の自由を失い、そのまま海面へ落下していく。
「あれ、大丈夫なわけ?」
サキが甲板で眉を顰めるが、こちらものんびりしてはいられない。
ゴルゴーンの上半身が青白く光り始めた。
「くるよ。気をつけて」
マチルダが静かに歌い始めた。『アイデアル・ソング』で仲間のマテリアルを活性化させる。
そのとき、けたたましく笑うような声が響き渡り、光が迸る。
「やらせないよ! 吸い込め電磁の嵐……超電磁バリアー!!」
ざくろが割り込み、攻撃を引き受ける『ガウスジェイル』で仲間を、艇を庇おうとする。
だが艇は大きく揺れ、全員が甲板に投げ出された。ゴルゴーンの叫び声は、広範囲に及ぶようだ。
しかも行動阻害の影響を免れたのは、ざくろひとりだ。
「ざくろは負けないから!!」
他の全員はすぐに起き上がることはできず、その間にゴルゴーンは一層接近する。
マリィアがどうにか起き上がり、銃を構えなおす。
「沈みはしなくても、行動阻害は効くわ。切れ間なく使うわよ」
推進力に使うだろう下半身へ向け、『威嚇射撃』を使う。
ジャックは立ち上がると、甲板を後方へ向けて走る。
「先にこっちが沈んじゃ意味がないからな!」
「助かります!」
後方にいたお陰で攻撃を免れたアスタリスクが、射撃の手を休めずに叫ぶ。
無数のヘビが尾部に取りついていたのだ。
「まとめて片付けるぜ!」
ジャックの『衝撃波』に吹き飛ばされたヘビが海面に踊った。
とはいえ、船から海面までの高さの分だけ射程は減り、思う通りの数は狙えない。
「キリがねえな。まだ岩礁を抜けられないのか?」
「あと少しのはずです」
その少しが長い。
迫るゴルゴーンは、動かなくなった左肩を右手で庇い、1本の下肢を伸ばす。
ざくろは魔導剣を構え、太い肢を睨みつけた。
「そうはさせないんだから! くらえ超重剣・縦一文字斬り!!」
魔導剣を叩きつけるようにして重い一撃を与えるが、肢は大きく傷つきながらも艇にへばりついて離れない。
「デカブツを引き剥さねえとまずい。あの肢を狙うぞ!」
ジャックが駆け寄ってくると、『ヒッティング』で狙いを定め、更に傷を叩く。
またもやゴルゴーンの身体が青白く光り始めた。
そのとき、艦長の声が響き渡る。
「エンジン全開!」
岩礁を抜けるめどがついたようだ。
艇が震えだすが、速度が出るまでにはまだ一時かかる。
ゴルゴーンは千切れた肢の代わりに、右腕を伸ばしてくる。
「ついてこないでね」
マチルダはそう言って杖に念を籠める。『グラビティフォール』の作り出した紫色の光にゴルゴーンが包まれ、伸ばした腕が宙を掴む。
全員が持てる力を叩きこむ間に、艇は速度を上げていった。
●
ルベーノとヴァージルも合流し、艇は港へ帰還する。
「ゴルゴーンは一度引いたようだぞ。雑魚は半減というところだな!」
ルベーノの報告に、一同は複雑な表情を浮かべた。
ざくろは悔しそうに眉を寄せながら、自分に言い聞かせるように呟く。
「でもこの艦が無事に逃げ切ったんだからね。敵の能力もわかったし」
マリィアが大きく息を吐いた。
「水中鎧、飛行、船上から、でハンターが20名強入れば問題なく倒せるんじゃないかしらね。後は水中活動できるCAM5~6機でも良いと思うわ」
「そうですね、位置が特定できましたから次回は必ず。敵の負傷が回復する前に倒したいものです」
アスタリスクは答えながら、何事か思案しているようだった。
マリィアはふっと笑みを浮かべる。
「ならこの後報告が終わったら、港で蛸を買い込んで、験担ぎに蛸料理を食いつくすのはどうかしら」
唐揚げ、マリネ、カルパッチョ、蛸飯、トマト煮、パエリヤ。マリィアが指折り数えながら、何でも作ると請け合う。
「ああ、ヘビ料理も作れるけど……ヘビは港では売ってないんじゃないかしらね」
「必要なら獲っておいてやったのに」
ジャックが笑った。
「あら残念。でも下ごしらえがいるから、どのみちすぐには食べられないわね」
「勘弁してくれ。当分長いヤツは御免だ」
「お前さん、案外繊細だな」
ヴァージルがサリムの肩を小突くと、マチルダが大真面目な顔で付け加える。
「それに、すぐまた来ることになるよ。次こそあのゴルゴーンを倒さなきゃ」
サリムが心底うんざりという様子で首を振った。
<了>
敵が現れるまでの海は、美しく平和そのものだった。
甲板の上をゆっくり歩き続けるマチルダ・スカルラッティ(ka4172)に、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)が声をかける。
「どうした、緊張しているのか」
マチルダは小首をかしげて足を止めた。
「大事の前って、直前になって迷って、思わず別の事に精を出したりしない? 何かしてないとそわそわするって感じ」
「なるほどな」
ヴァージルは否定もせず、かといって同意もせず、頷く。
大事というのは、面倒な話だ。どんな世界でも生き抜く自信があるタイプの人間にとっては、尚更。
「試験の前になると机の整理を始めるタイプか?」
口を挟んできたのはサリムだった。
「ちょっと違うかな。でもサリムは? 逃げないの?」
訳の分からない世界で、安い値段で命を売るなんて馬鹿らしい。
そう言い放っていた男が、どう見ても割に合わない仕事をしているのが不思議だった。
「逃げる先もないってことがわかったんでな」
「ふうん。じゃあリアルブルーの封印についてはどうなの? 生きてる間に帰りたくない?」
サリムは返事をせず、独特の曖昧な薄笑いで肩をすくめた。
「思うんだけど。邪神が呑み込んでるから、新しい星も生まれないんじゃない? エネルギーを抱え込んでるってことよね」
救えるものは救いたい。だから考え続ける。
マチルダがこの依頼を受けたのは、行く末が定まるまでの落ち着かなさを埋めるためだったのかもしれない。
「ハンターズソサエティが何かやってるって噂は聞いてるよ。でも私たちには今のところ関係ないからね」
振り向くと、黒い制服姿の女性兵士だった。
「サキだ。あんたの顔は覚えてるよ。しかしハンターってのは何かと熱心だね」
以前もサリムと共にいた用心棒の女は、手を振って船室に戻っていく。
入れ替わりに上がって来たアスタリスクは、その場の空気に違和感を覚えたようだ。
「うちの連中が何か失礼を?」
「優しいお嬢ちゃんが、俺を心配してくれてんだよ」
サリムがまぜっかえしながら船室に向かい、マチルダは呆れたように空を仰いだ。
船縁にもたれ、ジャック・エルギン(ka1522)が独り言のように呟く。
「心情的に考えれば討伐、現実的に考えたら……まあやっぱり討伐が候補だな」
アスタリスクが物問いたげにジャックを見た。
「ハンターズソサエティの方針の話だ。結果が出りゃ世界中に伝わるだろう」
彼らは噂程度に知っているが、正確な情報は聞いていないという。ジャックは簡単に選択肢を説明する。
「そうですか。……討伐に勝算はありますか」
アスタリスクは月面で、歪虚の圧倒的な力を見知っている。だからそう尋ねた。
ハンター達も当然知っている。――それでも。
「もちろん犠牲を無視するわけにもいかねえが。それでも戦って得るモンも大事だろ」
未来に、後の世代に、何を残してやるのか。
この世界に満ちる不思議――精霊や、神秘的な出来事だって、日常の一部だ。
戦いを諦めて安寧を選び、全てを無にすることは何か違うと思う。
「まあそれも全部、ここで生き残ってからだがな」
ヴァージルが薄笑いを浮かべて海原を見つめる。
敵の出現に、艦艇内は騒然となっていた。
●
海原に現れた女の上半身は、徐々に大きくなる。遠近感があやしくなる、敵のサイズだった。
髪を振り乱した姿は、伝説のゴルゴーンと呼ばれるのも無理はない。
(ゴルゴーンというより、スキュラみたいな)
その敵を目の当たりにし、時音 ざくろ(ka1250)は表情を引き締める。
「ともかく、海を荒らす歪虚を冒険家としては放っておくわけにはいかないもん! この海の平和もざくろが護るよ!!」
「同盟の海は荒らさせやしねえ」
静かに熱を帯びるジャックの言葉とは対照的に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の高笑いが響く。
「デカブツ上等! 倒して先へ進むまでよ!!」
とはいえ、情報の少ない敵だ。
数少ない遭遇情報によると、小ヘビのような眷属を無数に連れているともいう。
「……微妙に面倒くさいわね」
マリィア・バルデス(ka5848)の感慨も当然だ。
一息に倒してしまえば話が早いのだが、何をしてくるのかわからない敵を無暗に攻撃するのは得策ではない。
観測兵が、敵の速度を計算して知らせる。
振りきれない速度ではないが、艦艇が全速力を出せるのは岩礁地帯を抜けてからの話になる。
「この艇は魔導エンジンで動いています。それに、乗組員も100名あまり。敵を引き付けるには充分すぎるほどですね」
アスタリスクが言う通り、歪虚は確実にこちらを攻撃してくるだろう。
ハンター達はそれぞれの案を出し、短時間でおよその攻撃手順を打ち合わせる。
充分とは言えないが、一応の役割分担ができた。ところで、とアスタリスクが言いかけて、一瞬迷った後に続ける。
「海に落ちた場合は、回収できませんのでご注意ください。敵はおそらく艇を追うと思いますが」
ハンターなら眷属の相手をしつつ、自力で戦域を離脱できるはず。艇の離脱が主目的である以上、冷たいようだが仕方ない。
それぞれが自分の決めた持ち場に散る。
ヴァージルはサキとすれ違いざまに軽く声をかけた。
「よう。俺のことも占ってみてくれよ」
切れ長の黒い瞳が横目でヴァージルを見た。
「占いじゃなくてまじないだよ。落ちたときに海の怪物に引き込まれないようにってね」
「参ったな。俺は美女の誘惑には弱くてね」
「じゃあ落ちないように、せいぜい気をつけるんだね」
サキは黒いスタッフを手に、海面を見下ろす。
先刻と打って変わって、高い波が船を揺らしていた。
マリィアが白銀に輝く魔導銃を構えながら、足に力を籠める。
「下半身はどうなっているのかしら。あの歪虚が波を立てているのよね?」
見張りの兵士がそれに応える。
歪虚は多肢型で、イカやタコのように肢を動かして移動しているようだ。
「そんな強力な肢が何本も? 面倒ね」
だが面倒なのはそれだけではない。引き連れているヘビ型の歪虚が、ゴルゴーンの起こす波で勢いをつけて、海面から飛び出してきたのだ。
マリィアは銃口を天に向け、『リトリビューション』の光の雨を見舞う。
飛びあがったヘビの幾体かがまとめて動きを封じられ、そのまま海面に落ちていった。
「その力どれほどか見せてもらうよ……デルタエンド!」
別方向からの敵もまた、ざくろの『デルタレイ』で吹き飛ばされる。
数こそ厄介だが、1体ずつはさほど強力でもないようだ。
「でも艇の装甲には脅威なんだろうね。それに、あの敵……なにか嫌な攻撃を仕掛けてきそうな気がするよ」
ざくろの懸念は、皆も感じていた。
ゴルゴーンが何か仕掛けて来る前に、雑魚は減らしておきたいところだ。
ヴァージルがサリムとサキに声をかける。
「まとめて弾き飛ばすのは得意そうだな。そっちを頼むぞ」
「艇が沈められちゃかなわねえからな。しかしなあ、名前が悪いんじゃねえの?」
「何だって?」
「この艇の名前さ! 『ペルセウス号』ってんだよ!」
ヴァージルは無言でただ首を振ると、魔箒に跨る。
「俺は空から行く。艇は任せたぞ」
ゴルゴーンはどんどん近づいてくるが、まだ何もしかけてこない。
それなら好都合と、ジャックは純白の長弓に、剛矢を番える。
「近づかれる前に削る! できれば俺の矢が貫いた部位を狙ってくれ!」
限界まで思い切り引き絞り、狙いを定める。
満を持して放たれた矢は空を切り裂いて飛び、敵のうろこ状の物に覆われた左肩を貫いた。
思わず耳を塞ぎたくなる不快な音が響き渡った。ゴルゴーンの叫び声だ。
ジャックの『貫徹の矢』は見事命中、この機を逃す手はない。
「叫ぶけど、お喋りはできないのかな」
マチルダは『グリムリリース』を詠唱。『絵巻物「ニタイキムン」』で地属性の攻撃力を上げ、杖に念を籠める。
敵が海に住まう物なら、効果があるかもしれないと考えたのだ。本のストック分だけ全て試すつもりだ。
「これだけ大きければ当たるよね!」
マチルダの『マジックアロー』が敵の弱ったポイント目掛けて撃ち込まれる。
ゴルゴーンの肩から透明な体液があふれ出し、激しい叫び声が響く。
ざくろが間髪開けず『デルタレイ』で仕掛ける。
「効いてるみたい。どんどん行くよ!」
周囲のヘビも巻き込んだ攻撃に、僅かながらゴルゴーンの進行速度が遅くなったようだ。
その様子を、中空からヴァージルが確認する。
「今のところ脚は移動に使うだけか。接近されたらわからんが」
ヘビとはある程度連携をとっているようで、ヘビはゴルゴーンの弱った左側に集まりつつある。
これ以上追い込まれれば、何か別の手段をとるのか?
「試してみるか」
魔箒の上でバランスを取り、剣を構える。
味方の攻撃を邪魔しないよう、大きな敵の更に上から、『衝撃波』を叩きつけた。
斬撃にゴルゴーンと手近のヘビを巻きこまれる。
「残念だがこれが限界だな」
魔箒の滞空時間の限界だった。艇が進む以上、帰還には余裕が必要だ。
姿勢を変えた魔箒を、ゴルゴーンが首を巡らして見据えた。
上半身が青白く輝いたのを確認したところで、ヴァージルの全身が強張った。
●
これまでとは違う甲高いゴルゴーンの声、落ちるヴァージルの姿に、一同が固唾を飲む。
「俺に任せておけ! これを使わん手はあるまい?」
ルベーノは不敵に笑うと、小型飛行翼アーマー「ダイダロス」で宙に舞う。
ゴルゴーンが射程内に近づくのを待ち構えていた間の闘志を、空で取り戻すつもりだ。
一息に接近すると、用意していた発煙手榴弾を投げる。
「よし、今だ。臆せず煙を攻撃してくれよ、ハッハッハ!」
だが閉所でこそ効果も期待できる発煙手榴弾の煙は、広い場所では拡散して効果が薄れる。ましてや海上では、僅かにゴルゴーンの視線を動かしたに過ぎなかった。
「うむ、視覚か熱か……ともかくマテリアルだけを感知するわけではないようだな」
ルベーノは魔箒に乗り換え、なおも敵と海面を観察する。
少し離れた場所に、ヴァージルが浮かび上がってくるのが見えた。
「すぐに動けるようになるか。ならば案ずるほどではなかろう」
ルベーノは魔箒から、更に『縮地瞬動・虚空』で飛行を続けると、鉄爪を振るう。
「受けて見よ!」
味方が傷をつけた肩口に向けて、『青龍翔咬波』を放った。
泳ぐように腕を彷徨わせるゴルゴーンの上半身が、白い光を帯びる。
と、ぐるりと首を巡らし、ルベーノを見据えた。
「何ッ!」
ルベーノは身体の自由を失い、そのまま海面へ落下していく。
「あれ、大丈夫なわけ?」
サキが甲板で眉を顰めるが、こちらものんびりしてはいられない。
ゴルゴーンの上半身が青白く光り始めた。
「くるよ。気をつけて」
マチルダが静かに歌い始めた。『アイデアル・ソング』で仲間のマテリアルを活性化させる。
そのとき、けたたましく笑うような声が響き渡り、光が迸る。
「やらせないよ! 吸い込め電磁の嵐……超電磁バリアー!!」
ざくろが割り込み、攻撃を引き受ける『ガウスジェイル』で仲間を、艇を庇おうとする。
だが艇は大きく揺れ、全員が甲板に投げ出された。ゴルゴーンの叫び声は、広範囲に及ぶようだ。
しかも行動阻害の影響を免れたのは、ざくろひとりだ。
「ざくろは負けないから!!」
他の全員はすぐに起き上がることはできず、その間にゴルゴーンは一層接近する。
マリィアがどうにか起き上がり、銃を構えなおす。
「沈みはしなくても、行動阻害は効くわ。切れ間なく使うわよ」
推進力に使うだろう下半身へ向け、『威嚇射撃』を使う。
ジャックは立ち上がると、甲板を後方へ向けて走る。
「先にこっちが沈んじゃ意味がないからな!」
「助かります!」
後方にいたお陰で攻撃を免れたアスタリスクが、射撃の手を休めずに叫ぶ。
無数のヘビが尾部に取りついていたのだ。
「まとめて片付けるぜ!」
ジャックの『衝撃波』に吹き飛ばされたヘビが海面に踊った。
とはいえ、船から海面までの高さの分だけ射程は減り、思う通りの数は狙えない。
「キリがねえな。まだ岩礁を抜けられないのか?」
「あと少しのはずです」
その少しが長い。
迫るゴルゴーンは、動かなくなった左肩を右手で庇い、1本の下肢を伸ばす。
ざくろは魔導剣を構え、太い肢を睨みつけた。
「そうはさせないんだから! くらえ超重剣・縦一文字斬り!!」
魔導剣を叩きつけるようにして重い一撃を与えるが、肢は大きく傷つきながらも艇にへばりついて離れない。
「デカブツを引き剥さねえとまずい。あの肢を狙うぞ!」
ジャックが駆け寄ってくると、『ヒッティング』で狙いを定め、更に傷を叩く。
またもやゴルゴーンの身体が青白く光り始めた。
そのとき、艦長の声が響き渡る。
「エンジン全開!」
岩礁を抜けるめどがついたようだ。
艇が震えだすが、速度が出るまでにはまだ一時かかる。
ゴルゴーンは千切れた肢の代わりに、右腕を伸ばしてくる。
「ついてこないでね」
マチルダはそう言って杖に念を籠める。『グラビティフォール』の作り出した紫色の光にゴルゴーンが包まれ、伸ばした腕が宙を掴む。
全員が持てる力を叩きこむ間に、艇は速度を上げていった。
●
ルベーノとヴァージルも合流し、艇は港へ帰還する。
「ゴルゴーンは一度引いたようだぞ。雑魚は半減というところだな!」
ルベーノの報告に、一同は複雑な表情を浮かべた。
ざくろは悔しそうに眉を寄せながら、自分に言い聞かせるように呟く。
「でもこの艦が無事に逃げ切ったんだからね。敵の能力もわかったし」
マリィアが大きく息を吐いた。
「水中鎧、飛行、船上から、でハンターが20名強入れば問題なく倒せるんじゃないかしらね。後は水中活動できるCAM5~6機でも良いと思うわ」
「そうですね、位置が特定できましたから次回は必ず。敵の負傷が回復する前に倒したいものです」
アスタリスクは答えながら、何事か思案しているようだった。
マリィアはふっと笑みを浮かべる。
「ならこの後報告が終わったら、港で蛸を買い込んで、験担ぎに蛸料理を食いつくすのはどうかしら」
唐揚げ、マリネ、カルパッチョ、蛸飯、トマト煮、パエリヤ。マリィアが指折り数えながら、何でも作ると請け合う。
「ああ、ヘビ料理も作れるけど……ヘビは港では売ってないんじゃないかしらね」
「必要なら獲っておいてやったのに」
ジャックが笑った。
「あら残念。でも下ごしらえがいるから、どのみちすぐには食べられないわね」
「勘弁してくれ。当分長いヤツは御免だ」
「お前さん、案外繊細だな」
ヴァージルがサリムの肩を小突くと、マチルダが大真面目な顔で付け加える。
「それに、すぐまた来ることになるよ。次こそあのゴルゴーンを倒さなきゃ」
サリムが心底うんざりという様子で首を振った。
<了>
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
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相談卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/05/28 12:52:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/27 07:04:55 |