残念舌と猪狩り

マスター:硲銘介

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/26 12:00
完成日
2015/01/31 11:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 とある町の小さな酒場。まだ夕方前という事もあり客足は乏しい。
 カウンターでは髭面の男、この店の店長――マスターが退屈そうに欠伸をしていた。昼間から酒を喰らう客を眺め、暇を持て余している。
「ちゃーす! マスター、いつものよろしくお願いしまーす」
 そこへ明るい声と共に店の戸が押し開けられる。入ってきたのは酒臭い店に不似合いな、剣を下げた若い女の子。
 慣れた様子で店内を歩いて、少女はカウンター席に腰を下ろす。目の前でにっ、と笑う彼女にマスターは溜息を吐きながら――こちらも慣れた手つきで――料理を始めた。
 少女の名前はアゼット、新米ハンターである。若い女と古臭い安酒場、不釣合いだがここは彼女のお気に入りの店だった。
 その理由は彼女好みの料理が出るからなのだが――しばらくして、店長が完成した食事を差し出す。
「わー! いっただきまーす!」
 少女は喜んで出された物を食べ始める。甘ったるい匂いと生臭い匂いが混ぜこぜになった白いクリームパスタが少女の口に吸い込まれていく。
 アゼット曰く、いくらのホイップクリーム和えスパゲッティ、らっきょう入り。以前メニューに加えるよう進言したら本気で怒られた。
 見慣れた光景だが、店長はその様子を如何わしいものを見るように眺めて言う。
「こんなゲテモノ料理ばっか作ってたら俺の腕がおかしくなっちまう」
 既にゲテモノ認定の料理の半分を胃に収めたアゼットがフォークを銜えながら唸る。
「確かに、マスターが料理してる所ってあんまり見ませんねぇ」
「うちは酒場だからな。簡単な酒のつまみしか本来作らねぇんだよ」
「やっぱ客入りが無いからですよね。こーんなにがらんとしちゃって」
 話を聞かず、手を広げて店内を示すアゼット。
「何度も言うが、うちは酒場だ。飯食うのはおまけで、皆酒飲みにやってくんだ」
「あ! 私、アゼットが画期的な案を考えちゃいました!」
 アゼットが両手を挙げ、麺を啜りながら立ち上がる。諦めたのか、店長は頬杖をつき話を聞く。
「そもそも、何故この店には客が来ないのか」
 ずばり、時間帯である。この時間から店を開けているのは数少ない客への店長の厚意、利益は無視していた。事実、夜になれば相応の儲けが出る位には客は入る。
「ずばり、魅力が無いからですよ! 見てください、このきったねぇ店内!」
「……おい」
 弁解しておくが、決して不衛生ではない。そこらの店と比べ飾り気が無いというだけである。
 確かに今風な内装にすれば客も増えるかもしれないが、この不恰好さを好む者もいるので悪い事ばかりではない。何より、店長の趣味は今の店だ。
「でも、しょうがないと思うんです。マスターは良い人ですけどむさ苦しいおっさんですし、改善の余地が無い事もありますよね」
「おまえ、もしかして仕事先でもその喋りだったりするのか。だったら俺は心配だよ」
「大丈夫、私は元気いっぱいです!」
 そうじゃない。食い気味に返すも、少女の耳には届かない。
 アゼットは、完全にノっている。何にって、そりゃあ良くないものに。
「そこで今ある魅力を伸ばす方向で考えます。マスター、料理はかなりイケるじゃないですか」
 そう言われ、店長は食事中の皿へ目を落とす。そこには自分でも目を覆いたくなる色物パスタが。
「……んなもん食ってる奴に言われても何も嬉しくねぇなぁ」
「そんな料理を作れるのに店はがらがら。さて、足りないものがわかりますか?」
「わからねぇ。おまえがさっぱりわからねぇ」
「インパクト! その一言に尽きます。要するに、目玉となる品が欠けているのです」
 不思議である。割と正論な気がするのに、ちっともありがたみがない。
「そこで私は凄いものを考えつきました」
「ほぉ、一応聞かせてくれよ。一応」
「雑魔の肉、使いましょう」
「うげ」
 思わず顔を顰める店長。何度か目にした事があるが雑魔というのは怪物の類で、それを食べるという発想はまず出てこない。
 歪虚――雑魔の肉など、目の前の麺類が霞む程のゲテモノ料理が出来上がる。
「これはキてます、ブレイクの予感がひしひし来てます!」
 一応ハンターなのだから雑魔の姿を目にした事はある筈だが、それでも、彼女にはまるで忌避感が無い。
「おいお前、俺にそんなもん調理させる気か――」
「という訳で、早速採って来ます!」
 言うや否や、アゼットは残った食事をかき込んで出入り口に向かい駆けて行く。
「あ!? ちょ、待て!」
「北の山に猪雑魔が出るらしいです! さぁ、今夜はボタン鍋ですよぉ!」
 アゼットは最後まで元気に叫び、店から走り去っていった。
 取り残された店長は見事に平らげられた皿を見ながら、
「……つーか、雑魔って消滅するんじゃなかったか」
 などと、もう残念すぎる現実に気がつくのだった。


「――ってのが三日前の事。それ以降、アゼットは店にやって来ない」
 店長は店に集まった者達に話を聞かせていた。
 彼らはハンター。行方知れずのアゼットを捜索する為、店長が出した依頼を手に取った者達だった。
「家なんて知らねえし、確認はしてないんだが……あの性格からして、失敗でも成功でも構わず顔を見せる筈だ。だから、まぁ、何かあったんじゃねぇかと思う訳だ」
 一度言葉が切られる。落ち着いて見えるが彼も心配しているらしい。
「アンタら、何とかしてやってくれねぇかな。見知った人間の安否が分からんってのは、どうにもいただけねぇ」
 ハンター達が頷くのを見て、店長は数字が書き殴られた一枚の紙を差し出した。
「あの馬鹿見つけたらそれ渡しといてくれ。このままじゃ食い逃げだぞ、って」


「駄目、駄目ですってばぁ! そんな揺らしちゃ駄目なんですー!」
 丁度ハンター達が依頼の説明を受けている時、山中に情けないアゼットの声が響いていた。
 とある一本の木、その枝には網が結び付けられており――中にはアゼットが捕らわれている。
 宙吊りになった下には猪の姿をした雑魔が無数におり、次々と体当たりをしては木を揺らしていた。
 木は衝突の度大きく揺さぶられ、葉が散ると共に網がぶらんぶらん振り回され、アゼットが悲鳴を上げる。
 彼女が何故こんな状態にあるかと問われれば、ぶっちゃけ、ドジった訳である。
「いっぱいいるなんて聞いてませんよー! 罠が足りないじゃないですかぁ!」 
 網の中から無力な叫びが続く。情けない事に、自分の罠に掛かった際に剣を落としてしまい、自力では脱出できずにいる。
 とはいえ、下には十数の猪の群れ。降りた所で何も出来まい。
「見逃してくださーい! お腹空きましたよぉ!」
 命乞いが雑魔に届く筈も無く、木はまた大きく揺れる。
 アゼットの唯一の成功は選んだのが大木であった事か。ここまで突撃を受けても倒れずに立っている。
 尤もそれもいつまでもつか。このままでは結末は変わらない。それを知ってか知らずかアゼットはわめき続けた――

リプレイ本文


 アゼット探索の依頼を受けたハンター達は彼女が向かったと思われる山に足を踏み入れていた。
 彼らは山内を分かれて捜索する事にした。数は三人ずつ、敵と出遭った場合の保険を兼ねた編成だった。

 一口に山と言っても範囲が広い、闇雲に探し回るのは骨が折れるだろう。そう思い、予め水雲 エルザ(ka1831)は雑魔の出現位置についての目撃情報を集めていた。
 とはいえアゼットの安否が分からない以上そう時間を割く事も出来ず、集まったのはあくまで噂レベルの目撃談ばかり。山の中腹という程度の絞込みしか出来なかった。
「声や物音、何かしらで居場所が分かれば良かったのですけれど……」
 だが、現時点でそれらしい音は無かった。エルザは肩を落としつつも気持ちを切り替え足跡や仕掛けた罠等、アゼットの痕跡を探るように歩く。
 良く見れば足跡はそこら中にあった。だが数があまりにも多く、情報を読み取るのはかえって難しそうだ。
 足跡は猪の物――にしても大型だ。やはり雑魔が、それも結構な数がこの山には潜んでいる様だ。
「ボタン鍋も良いですけど、個人的にはそのまま焼くのも良いですねぇ……」
 アゼットを心配しつつも、彼女とマスターの会話にあった料理がエルザの頭に浮かぶ。彼女の言葉に隣を歩くロロ・R・ロベリア(ka3858)も頷く。
「普通の猪が獲れてりゃな。肉食おうぜ、肉。鍋とか、丸焼きも悪くねぇな」
「ともあれ、心配ですし早く見つけて差し上げませんと」
 相槌を打ちながら、ロロは溜息を吐く。それはアゼットの無鉄砲ぶりに対してのものだ。
 自身も所謂脳筋というか――考えなしに動く悪癖があると自覚はしているが、アゼットのそれは自分以上に思えた。まぁ、多少方向性に差異はあるかもしれないが。
「すげーな、猪突猛進ってやつか。どっちが猪なんだよ」
 正直、呆れるを通り越して感心するレベルであった。
 そんな二人の後ろを武神 守悟(ka3517)が歩く。彼はマスターから預かった紙を折り畳み、ペットであるイヌワシのピースに咥えさせていた。
「よしっ、行って来い!」
 愛鳥がしっかりとメモを咥え込んだのを確認し、守悟はピースを宙へ放る様に掲げる。ピースは羽を広げると木々の間を抜け、大空へと舞った。
 陸を行く自分達とは別に空からもアゼットを捜索しようという試みである。本当ならばもう一手、彼女の匂いを追う事も考えていたのだが私物が手に入らなかった為、そちらは断念した。
「しょうがねぇ、クールは今回はお休みだなぁ」
 自らの隣に寄り添う様に歩く愛犬、クールの頭を撫でながら守悟は言う。愛おしそうに鳴くクールを引き連れ、守悟は斧を担ぎ直すと自身も捜索を再開するのだった。

 もう一方の班も捜索を進めていた。ジーウ=ルンディン(ka3694)は地面に残る猪の足跡に触れながら、冷静に言葉を紡ぐ。
「雑魔を探しに出て三日……不安はあるけれど」
「……雑魔の目撃情報のある山で三日も行方不明って事は、所謂残念な結果も――何にしても、アゼットさんを発見してあげないとねー」
 ジーウの言葉を継ぐように超級まりお(ka0824)が言う。
 二人とも、最悪の結果は既に想定していた。まりおの言う様に状況は厳しい。アゼット程度の腕で無数の雑魔の巣食う場所に居続けるというのは容易ではない。
 その場のもう一人、ディディ=ロハドトゥ(ka3695)も二人の言葉を受け止める。
「むぅ、なんだか緊急そうな仕事だな。よし、急いで探すぞ」
 ディディはそう意気込み、周囲の警戒に張り切る。そんな相棒の姿にジーウが声をかける。
「準備は大丈夫かしら。ディ、その機械の使い方は分かる?」
 アゼットを発見した場合の連絡方法として用意されたトランシーバーを示すジーウ。
「む、トランシーバーの使い方くらい分かってるぞ」
 対するディディは少しむっとした表情で答える。といっても怒っている訳ではない、これが彼女の素なのだ。
 相棒であるジーウも勿論それは分かっているので気に留めない。
「……そう。ディ、あんまり張り切りすぎると最後までもたないわよ」
「大丈夫だ」
 そして、相棒が過保護な心配性である事はディディも承知済みである。いつもの事だ。
 二人の同じ様なやり取りはしばらく続き、まりおはそれをにこにこしながら見守っていた。
「アゼットー!」
 時折、ジーウが名前を呼んでみるも返事は無い。それを何度繰り返した頃か、
「――! ――――!!」
 酷く聞き取りづらいが別の人の声が聞こえた。
 谺とは違う。ジーウの声に反応したものとも分からない。だが、おそらくは、
「アゼット……!」
 三人が一斉に顔を見合わせる。叫びの内容こそ聞き取れなかったが、女の声には違いない。三人は確信する。
「皆に連絡して合流して、それからだね」
 ハンターとして最も経験豊富なまりおが真っ先に言う。二人もそれに頷き、ディディはトランシーバーを起動した。


「いやあぁぁ! もうっ、もう勘弁してくださいよぉー! そろそろ無理っぽいんですってぇー!」
 合流し、叫び声の元に駆けつけたハンター達が見たのは無残な亡骸――とかではなかった。
 猪雑魔の群れが一本の木に集中している。アゼットはその大木に括り付けられた捕獲用の網に捕らわれ、猪が木を揺らす度に一緒にぶらんぶらん振り回されていた。
「……なんか、喚いてんな」
 そのある種無残な光景を呆然と見つめながらロロが言う。彼女だけでなく、駆けつけたハンターは大半が似た様な反応を見せていた。
 苦笑いしながらまりおが続く。
「ある意味これも残念な結果かも……? えーと、ブタ雑魔がいっぱい」
「猪雑魔、が正解ですね」
 まりおの誤認識にエルザがつっこむ。
「今はあの木がブタ雑魔の体当たりに耐えてるけど……」
「猪だってば」
 ディディが再びつっこむ。それでも聞いているのか聞いていないのか、
「唖然としている場合じゃないよ! 早くしないとアゼットさんがブタのエサになっちゃうよーぅ!」
 まりおは大げさに慌てて周りに言う。最後までブタ認識は変わらなかったが、もう誰も突っ込まない。絵面は間抜けだが、危機的状況なのは間違いない。
「クール、下がってな」
 両手で斧を握りしめながら守悟が愛犬に告げると、クールは素直に戦場となる一帯から離れていった。その姿を満足げに見送り、守悟が一歩を踏み出す。
 同じ様に戦闘準備を整えたディディが弓を構えつつ、中空を振り回されるアゼットを見る。
「とりあえず、あそこで辛抱しててもらおう」
 雑魔に取り囲まれた状態では救出も困難だろう。一同それを了解すると、眼前の群れに対して戦闘態勢へと移っていった。

 素早く、真っ先に敵の群れへ近づいたのはまりおだった。アゼットに続く、新たな餌の登場に猪の意識が向く。
 群れの大半がまりおに向け突進していく。元々、威圧的な外見の猪。それが歪虚と化した事で更に凶暴的な見た目に変わっていた。おそらくは有する力も相応のものであろう。
 それをまりおはマルチステップを踏みながら回避していく。十を超える獣の群れ、とはいえ猪の猛進――立体的に躍動するその足捌きは捉えられるものではない。
 回避に手裏剣の投擲を交えつつ、まりおは最前で戦う。彼女が回避、翻弄に徹する事で後続の味方が戦いやすくなる――単純な獣の頭ではその策は見抜けない。

 まりおに続くように交戦を始めるハンター達。それに気づいたアゼットが空中から声を飛ばす。
「あっ、あぁ! どなたか皆目見当つきませんが助けてくださーいっ! もう限界ですーっ!」
 それにロロとジーウが応える。
「そこの食い逃げ予備軍! 動くなよ!」
「落ち着くまでそこで待っていてちょうだい」
「そっ、そんなぁ! 早くぅ、早くお願いしますよ! あと食い逃げ予備軍ってどちら様ですか!?」
 ロロが駆ける。狙いはまりおに翻弄された一体。方向転換する間を狙い、背後に回り込み、
「てめぇだ、猪娘!」
 大斧を振り下ろし、敵を真っ二つに叩き斬った。
 その一撃が猪の野性に危機感を抱かせたのか、近くの一頭がロロに体当たりを喰らわせる。
 攻撃の隙を狙われ、よろめくロロ。すぐに体勢を立て直し、
「うっぜぇんだよ……! 叩き潰してミンチにするぞ、この猪豚野郎ッ!」
 怒気を孕んだ叫びと共に、すぐさま復讐の一撃を繰り出した。
「おう、俺も負けてられねぇなぁー!」
 仲間の奮起に呼応するように、守悟はランアウトを用いた高速移動を見せる。突進をかわされ動きの鈍い猪に瞬く間に接近し、斧を叩き込む。
 豪快な戦斧の一撃と流動の機動戦。柔と剛を両立させるかの様に守悟は攻め立てていく。直線的な動きの猪を捉えるには十分すぎる程の動きだった。
 彼らの傍で合わせる様にエルザが戦う。
 突進を繰り返した猪は図らずも六人を取り囲む様に散開している。その群れの最中で孤立しては危機となる。エルザは仲間と離れすぎない様に留意しつつ、迫る雑魔と対峙する。
 エルザは突進を鉄扇を用い捌いていく。時には盾の様に開き防御し、時には閉じた姿で受け流す。守悟のそれとはまた違うが、彼女の戦いも見事なもの、さながら舞っているかの様であった。
 直撃を避けつつ、刀で切り返し――ロロや守悟が斧による威力のある攻撃を叩き込んでいく。その連係は次々と猪の数を減らしていった。

 まりおの後ろに位置するジーウとディディも協力し戦っていた。
 ジーウの持ち込んだナッツや干し肉、それに彼女の覚醒状態が見せる幻影が猪の注意を引きつける。
「まりお、ジーウ、前衛は頼んだ!」
 ディディはそれよりも後衛に位置し、攻性強化を用いて最前のまりお、そして自身の前で戦うジーウのサポートを行う。
 ジーウの剣がマテリアルのエネルギーを受け取り、その攻撃力を増す。
 強化された一撃、それは踏込からの強打をもって振るわれる。斧に引けを取らない破壊力が猪雑魔を襲い、叫び声が上がる。
「――ディに危ないものは近づけさせない」
 一瞬、後方のディディを窺う。幸い猪達は地面に立つ外敵に集中して、木の上のアゼットの事はまるで気にかけていない。
 ならば、守るべき者は一人。こちらだけに集中する事が出来た。
 再び、一体の雑魔が飛び込んでくる。そこへ射程を活かしたディディの弓矢が眉間へと突き刺さり、猪の突進速度が落ちた。
 相棒のサポート、そして彼女の為の奮闘。それがジーウの実力を引き出す。
 荒れ狂う猪の異形。油断すれば骨ごと砕かれてしまいそうなその猛進をジーウは見切り――完全なタイミングで切り裂いた。


「これで終わりだよ!」
 まりおの放つ手裏剣が最後の一頭に突き刺さる。猪はよろめき、狙いを見失う。そこへ一息に近づいた守悟が斧を振るう。
 振り下ろされたそれは頭蓋を砕き、雑魔は断末魔を上げて倒れる。まさしくこと切れたという事か、動かなくなった猪の体は崩れ去る様にして消えてしまった。
「雑魔の肉は……見ての通りね。アゼットは無事かしら」
 ジーウが剣を収めつつ、言う。言葉の通り、あれだけいた猪の群れはもう影も形も無い。
「あぁ……肉がぁ……お腹減りましたよぉー……」
 網の隙間からアゼットが手を伸ばしていた。目論んでいた雑魔の肉が手に入らなかったのが残念だったらしい。
 あれだけ酷い目に遭ってまだ食う気か――と思いつつも、ハンター達はアゼットを木から下ろす。
 ようやく網から解放され、久しぶりの地面に膝をつくアゼット。恐怖――よりも空腹のあまり元気が無い。そんな彼女に、
「アゼットさん、こちらをどうぞ」
 エルザが持ってきていた食べ物を差し出す。パンにチーズ、ナッツ、そして水――アゼットの目が輝いた。
「あ、ありがとうございますぅ……! うぅ……空きっ腹に染み渡りますよぉ……」
 アゼットは深く頭を下げながらそれを引ったくり、涙を浮かべながら胃に詰めていく。もの凄い速さ、食事というより口を通過させる行為である。
「余った食料だけれど私からも。上では元気に叫んでいたけれど、歩いて帰れそう?」
 おお。と声を上げ、ジーウの差し出す干し肉を貰うアゼット。それを噛み千切りながら答える。
「ふぁい。んぐ、大丈夫……ん、大丈夫……もぐ、大丈夫ですよ!」 
「……食べてからでいいわ」
 額を抑えながらジーウが呆れる。紛れもなく遭難だったのだが、あまり要救助者という感じがしないのは何故だろうか。
 素早く食事を済ませるアゼットを見ながらジーウが問う。
「そういえば依頼主さんから受け取った紙は誰が持っているのかしら」
「おう、俺が持ってるぜ」
 守悟が名乗り出、帰ってきた愛鳥の嘴からメモを取り戻す。
「店長さんからの書付です」
 守悟がメモを手渡し、エルザが補則する。メモには食事代と一言、食い逃げだぞ、の文字。
「……? ……あ、あぁぁーっ!」
 少し間を置いて何のことか理解したらしいアゼットが声を上げる。それを見届け、ディディが切り出した。
「お金払いにそろそろ戻ろうか。一応、警戒はしたままで」


「おー! こいつは上手そうだ!」
 出された料理に守悟が歓声を上げる。依頼を終えたハンター達にマスターが料理を振舞っていた。
「ありがとな、アンタら。こいつは報酬とは別、俺の奢りだ。安酒場の飯が口に合うかわからねぇが、まぁ食っていってくれ」
 猪のではないが、肉料理も並ぶ。待望の食事にありつけた守悟が唸る。
「いやー、マスターさん。大した腕じゃねーか!」
 守悟以外のハンター達も頷く。謙遜するような出来では決してない。
「そうかい。俺の料理も捨てたものじゃねぇって事かもな」
 マスターと守悟が会話する横で、アゼットはいつもの専用メニューを美味そうに頬張っていた。
 その隣席に座るロロは守悟と同じ肉料理を食べていたのだが、横を見て唖然としていた。すぐ隣で吸い込まれていく謎の麺類に眉を寄せ、
「……残飯かそれ」
 偽りない思いを口にする。
「んー! やっぱりマスターの料理は最高ですね!」
 気にせず食事を続けるアゼットに心底厭そうな顔を向けつつ、ロロは思い当たった事を口にする。
「つうかよお……店がんな繁盛したら、マスターも忙しくなってゲテモン料理作ってくれねぇんじゃねぇの?」
 客が増えてもコレを食べようとする者はいないだろう。何かの罰ならともかく。
 だが、アゼットはそんな心配は要らないと言った。
「マスターはお客さんを大事にする人ですから。私の料理も不滅ですよ!」
「……いや、隙あらば滅したいなぁ。俺は」
「マスター! おかわりです!」
 マスターの反論など聞かない、相変わらずのアゼット。その姿にハンター達からも笑いが上がる。
 とある酒場の客の少ない夕暮れ時。ハンター達が取り戻した一時は普段より少し賑やかに、楽しげに過ぎていった――――

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MVP一覧


  • ジーウ=ルンディンka3694

重体一覧

参加者一覧


  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士

  • 水雲 エルザ(ka1831
    人間(蒼)|18才|女性|霊闘士
  • 守る物・失う物
    武神 守悟(ka3517
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士

  • ジーウ=ルンディン(ka3694
    人間(蒼)|22才|女性|闘狩人
  • 期待の狙撃手
    ディディ=ロハドトゥ(ka3695
    人間(紅)|20才|女性|機導師

  • ロロ・R・ロベリア(ka3858
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン さぁ、相談だ
ディディ=ロハドトゥ(ka3695
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/01/26 00:27:31
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/23 01:28:07