わた詩

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/30 12:00
完成日
2019/06/07 10:19

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●着れないの
 ふと、グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)は思い出して、クローゼットから水玉のワンピースを取り出した。
 軍に志願して家を出るときに、母親に持たされた外行きの服だ。そういえば、一度もこの服に袖を通していなかった。
 試しに着てみて、姿見に映った自分の姿に愕然とする。
「服が、小さい……!?」
 決してグリューエリンが太ったのではない。この服をもらったのは13歳の時。それからの数年間で彼女は成長したのだ。少女というより女性の体になっていた。
 これは外に着ていけない。ワンピースはクローゼットに再び仕舞われた。

●見えないの
 グリューエリンは先日大きなライブを終えて、今日は非番だった。
 彼女はアイドルだが、基本軍人なので私服は地味なものばかりだ。それでも、活動の結果、顔が知れたのであろう。歩いていたら、
「グリューエリンさんですか?」
 と、ファンに声をかけられてしまった。
 すると、その反応はすぐに周囲に伝播して、グリューエリンの周りにはちょっとした人だかりができた。
「すみません、今日は休みなので、それでは……!」
 逃げるようにグリューエリンは駆け出して、人を振り切って、今はとある広場のベンチに腰掛けていた。
 彼女はぼーっとしていた。先ほどファンにかけられた言葉が引っかかっていたのだ。
「あなたのライブを見て、元気になりました」
「希望が見えました」
「夢をもらいました」
 歌は人を元気付けられるものだとは知っていたが、彼らの言葉を聞くと、自分だけが置き去りになっているような浮遊感があった。
「夢って、なんでしょう」
 ぽつりと呟いた。独り言だったのだが、それに応える声があった。
『夢ってなんだか知ってるわ! それはわたしたちが見てはいけないもの。持ってはいないもの。だって、わたしたちが夢なんだもの!』
 砂糖菓子のような甘い少女の声だった。
 声の主を探すが、それらしき少女の姿は見当たらない。代わりに、子供が、
「コウモリがいる!」
 と、はしゃいでいた。
(こんな昼間に、コウモリなんて……)
 思うのも束の間、悪寒が背筋を駆け抜けた。
 その『コウモリ』をグリューエリンは知っていた。
 ヨルが使っていたコウモリ。負のマテリアルを放つコウモリだ。
 グリューエリンは飛び出して、子供を庇うように立ちはだかった。
「何ものです!?」
 ヨルは倒したはずだ。だとしたら、彼の契約元の歪虚が遣わしたのか?
『わたしは誰なの? そういうあなたは誰のつもり?』
「ふざけないでください! あなたは一体、何をしに……」
『わたしの名前を呼んでよ、グリューエリン。そしたらわたしになれるかな? だって──』
 グリューエリンはコウモリを帯びた剣で叩き斬ろうとしたが、それ以上の異常を悟り、背後の子供を抱きしめて蹲った。
『わたし以外がわたしだもの』
 その言葉の後、コウモリは自爆した。
 グリューエリンは背中に衝撃と裂傷を負って、赤い血を滾々と流す。
「あなた、誰なの……?」
 薄れゆく意識の中、そう問いかけた。

●成れないの
 クレーネウス・フェーデルバールは帝国歌舞音曲部隊のための一室にて、ファンレターの仕分けをしていた。
 手紙の中には、誹謗中傷が書かれたものが紛れていたりする。それらをグリューエリンに見せないために、あらかじめ内容を点検しているのだ。だが幸いにも、そのような問題のある手紙はほとんどない。
 そんな手紙の中に、随分古い封筒があった。丁寧に封蝋に印章が押されている。印章の図案は、羊が花を喰んでいて、その羊の体には3本の引っかき傷のような『SSS』という文字がある。
 ペーパーナイフで封を切り、中身を机の上に出す。紙しか入っていないはずのそこからは、何故かカラン、という硬質な音が聞こえた。
「嘘だろ……」
 飛び出てきたのは、1枚の古びた便箋とカミソリだった。
「カミソリレターとは、はじめて見たな……」
 恐る恐る、手紙の内容を確かめる。そこには拙い筆跡でこう書かれていた。
『青い薔薇にはなれないよ
 だって わたしたちの血は赤いから
 ねえ
 コウモリの爆発
 そこで飛び出す自分の血の色を見たでしょう?』
「なんだこれ。下の文字はサインか……?」
 手紙の下部には、読めない文字があった。何かしらのサインということはわかったが、帝国の言葉ではない。手紙の文章に比べて、サインは手慣れた筆跡だった。
 意味不明な手紙にカミソリ。これはグリューエリンに渡すわけにもいかないな、と考えたところで、部屋の扉が勢いよく開いた。隊員の1人が真っ青な顔で飛び込んできたのだ。
「部隊長、ヴァルファー二等兵が……!」
 この時、クレーネウスはグリューエリンが重傷を負い、意識不明に陥ったことを知った。

●見つけてね
 グリューエリンの事件と、カミソリレターはすぐに関連付けられた。
 グリューエリンは帝都の病院で一命を取り留めていた。しかし、意識はまだ回復しておらず面会謝絶が続いている。幸い、グリューエリンが庇った子供に怪我はなかった。
 クレーネウスたちは直ちに事態の究明に乗り出した。
 封蝋に押されていた印章は誰が使用しているものかは特定できていた。
 百数十年前に帝国に生きた詩人、シュティル・シャーフェ=シェーフェリンが個人的に使っていたものだった。
 シェーフェリンとは詩作をする上での筆名として本名の末尾に追加した飾り紐のような名前で、姓はシャーフェ、名はシュティルである。それら頭文字をとって、署名や通称にはSSSという名が定着していた。
 クレーネウスはSSSのことを調べていくうちに、あることに気が付いた。
 シャーフェ家が治めていた領地ブラウエブルームの隣は、ヴァルファー家のかつての領地ロータファーベンなのだ。
(グリューエリンの父親、フリーセンは敵前逃亡の罪でマスケンヴァルに投獄され、領地も没収されたんだったか……)
 調べるほどに、何か恐ろしい闇に触れている感覚がある。SSSは故人だ。彼本人が関わっているとしたら、確実に歪虚だろう。
 クレーネウスはハンターに依頼を出した。この先歪虚との戦闘になるかもしれないし、通常業務に加えて調べ物をする時間もなかなか取れないからだ。
(それに──)
 カミソリレターの末尾に書かれたサインの主は誰なのか。SSSのものではない。クレーネウスはアイドル知識の中から、それが日本語で書かれたサインだということは辛うじてわかったが、誰の名前かは不明だ。ただアイドルの資料でこのサインを見た記憶がある。
(専門家に聞きに行くか……)
 クレーネウスは昔から親交のある、リアルブルーの日本出身で特にアイドルについて詳しい専門家に話を聞きにいくことにした。
 こうして、資料館でSSSについて調べる者たちと、クレーネウスとともにサインの主を調べる者たちに分かれて行動することになったのだった。

リプレイ本文

 クレーネウス・フェーデルバールとともに、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)、キヅカ・リク(ka0038)、Uisca Amhran(ka0754)は漆黒のペガサスの事務所にいた。彼はハンターとして登録しているが、情報の売り買いなどもしているらしい。
「悪いね、急に」
「クレーネウス氏の頼みでしたら、いつでも歓迎ですぞ。……グリューエリン殿のことは、拙者も聞いています」
「まあな……」
「詳しくは聞きません。プライヴェートを暴くなぞアイドルファンの風上に置けませんからな。……さて、そちらの方々とははじめましてですな。拙者は漆黒のペガサス(ハンドルネーム)と申します」
「漆黒のペガサス……良ぃ名前じゃねぇか……」
「ムムッ!」
 デスドクロのその言葉に、ペガサスは背筋を伸ばした。暗黒皇帝のオーラを感じ取ったからだ。
「ただならぬ御仁とお見受けした……!」
「俺様もお前が信用できる野郎と見てるぜ」
 2人が暗黒の波動で通じ合っている中、キヅカはリアルブルー時代のことを思い出していた。
(僕も使ってたなぁ、ハンドルネーム)
 HNは”半ライス大盛り”通称オオモリであった。
「私、リアルブルーのあいどるさんに憧れているんです!」
 ペガサスがアイドル愛好家であることにUiscaはわくわくしていた。
「色々教えてくださいっ……とその前にサインのことですよね。早速お話を聞きましょう」
 クレーネウスがペガサスに手紙を見せた。負のマテリアルなどは感じられないが、ペガサスの表情が真剣なものとなる。
「……。少々お待ちを」
 ペガサスは、一枚の写真を持ってきた。それはあるサインを撮影したものだった。
「これ、同じサインじゃない?」
 キヅカの言うように、手紙のサインと、写真に映されたサインは同じものに見える。キヅカの喋る日本語に、ペガサスも懐かしいものを覚えた。
「拙者はリアルブルー時代、アイドルの偽造サインを売りさばく輩と戦っていたこともあるので、筆跡鑑定には少々の自信があるのですが……この2つのサインは同一人物に書かれたもの。そして本物のサインだと断言します」
「ほう」
 サインの真贋が気になっていたデスドクロの眼が光る。
「じゃあ、これは誰が書いたものなんだ?」
「これは、デュオアイドル『夜になるまで待って』のメンバー、夕凪 藍(ユウナギ アイ)のもので間違いないでしょう」


(グリューエリンに酷い怪我を負わせるなんて、絶対に許せないもん! 事件の裏に何があるのか、そして犯人への手掛かり絶対見つけて見せるから)
 時音 ざくろ(ka1250)とユメリア(ka7010)、フューリト・クローバー(ka7146)はSSSについて調べるため資料館にいた。
(グリューさんが元気になったらお見舞いに行こう)
 フューリトは思った。
(そういえば、ヨルは肉体の成長を恐れていたけれど、SSSはどうなんだろ。若くして夢半ばで死んじゃったとか、老いて皆に抜かれて絶望して死んじゃっとか?)
 フューリトが手に取ったのは、SSSの研究資料だった。
(自伝とかはないんだね)
 SSS本人が記したとされる本は1冊もないのだ。
「妙ですね……」
 ユメリアもその違和感に気がつく。
「詩人でも、吟遊詩人のような歌うことを中心にしていた方なのでしょうか?」
「それは違うみたい」
 フューリトが資料のあるページをユメリアに示した。
「SSSは喋れなかったんだって。知能に問題はないんだけど、生まれつき喉の構造に欠陥があったみい。だからコミュニケーションは筆談だったみたい」
「詩を書いても歌うことはできなかったのですね」
「あ、ちょっといいかな……?」
 ざくろが2人に呼びかけた。ざくろはシャーフェ家の領地の歴史を紐解いていた。
 ブラウエブルームは特筆することもない平凡な領地であった。領地内では牧羊の比率が高いが、帝国全体でみれば取るに足らない質と量だった。もしかしたら印章の羊はこれが由来かもしれない。
「その領地は現在廃棄されていて誰も住んでいないし、シャーフェ家も十数年前に全員亡くなっているみたいなんだ」


『夜になるまで待って』とは夕凪 藍と湯朝 舞(ユアサ マイ)による女性デュオアイドルグループ。通称ヨルマチ。藍はスカウトで、舞はオーディションで芸能界入り。西暦2014年アイドルデビュー、当時2人は14歳だった。ライブハウスを中心にライブアイドルとして活動。順当に人気を獲得し、スタジアムライブも行なうようになる。CD同封券で参加できる接触系イベントなども行なっていた。ライブ冒頭では、『私たちをアイドルにしてくださいますか?』という2人の問いかけに対し、『もちろんです!』とファンが答えるコール&レスポンスをするのが決まりであった。
 藍は日本人だが、祖母がドイツ人のクォーターだ。その性格は真面目で、勉強にもアイドル活動にも一生懸命取り組む女の子、とよく紹介されていた。
 ……というようなことを、ペガサスは語った。
「アイドルとなると周りが見えなくなって、お恥ずかしい」
「古今東西、てめぇの好きな分野を語る時はマシンガンみてぇになるもんだ」
と、デスドクロ。
「ジェットブラックペガサス。そのサインの写真はどこで手に入れたんだ?」
「イベント帰りのヨルマチファンが転移してきましてね。その方と縁がありまして、所持していたサインを写真に撮らせていただいて、さらにCDも譲り受けました。ループのために沢山CDを買っていたようで」
 ペガサスは1枚のCDを机の上に置いた。ジャケットでは2人とも青い花の髪飾りをつけて、丈の短いウェディングドレスを着ている。
「向かって左側が藍りんです」
 長い黒髪に、色白の美少女だ。
「何処となく、エリンさんに似ていますね……」
 Uiscaが呟く。思えば性格も似ているのかもしれない。
「そのCDは差し上げますよ。きっと必要でしょう」
「じゃあ、貰ってくぜ」
 デスドクロはCDを開いて歌詞カードを取り出した。
「手紙のサインが藍さんのものなら、彼女はこっちの世界に転移していることになりますよね。あいどるさんが突然いなくなったら、大きく報じられますよね?」
 Uiscaが質問した。
「ニュースなどで取り上げられていたようです。藍りんはライブ中に転移しましたから」
「それはいつ頃ですか?」
「2017年6月に行われていたライブ中の話です。ライブ終盤、最後の曲が終わった時、ナイフを持った男が舞台に上がったのです。そんな中、急に藍りんだけ転移してしまったようなのです。男はすぐに取り押さえられたので、舞たんに被害はなかったのですが……」
 Uiscaはその異常な状況を想像して胸を痛めた。
「こっちでの藍さんの目撃情報とかはないの?」
 と、キヅカ。
「ありませんねぇ。こちらでは有名人ではありませんし」
「その2人って、スキャンダルを抱えていたとか、あるかな?」
「表に出たものはなかったようですが……事務所が圧力かけて潰していたとかもありますから、『何もなかった』とは言い切れませんね」
「藍さんって、夢について何か語っていたりしたかな?」
「『夢はありますか?』という質問に、『人に夢を与える存在になりたいです』『歌を聴いて、元気になってくれたら嬉しいです』と答えていたはずです。拙者の私見ですが、藍りんは模範的で優秀なアイドルだったと思いますよ」
「ふむ、ラブソングか。悪くねぇ」
 デスドクロは、歌詞カードを読んでいた。Uiscaも横から覗き込む。
「だが、手紙の文章とは全く似てねぇな」
「ヨルマチの曲はプロデューサー兼作詞家の方が全ての作詞をされているのです。確かに手紙の文章はその方っぽくないですね。青い薔薇のモチーフ自体はよく使っていましたが……」
「そういえば、エリンさんのあいどるの衣装って紅い薔薇の意匠のものを着ていることが多かったですね。あれって本人の希望なのですか?」
 Uiscaがクレーネウスに話を振る。
「いや、こっちで決めたことだ。グリューエリンは紅い髪をしているし、赤は主人公っぽくていいかと思ってな」
「青い薔薇は自然界には存在しないようですね。だからこそ、ヨルマチプロデューサーが意味深モチーフとして多用したとか聞きましたよ」
 ペガサスが捕捉した。


(青い薔薇の花言葉は奇跡でしたか)
(人間であるが故に奇跡は起こせない。というところかしら?)
(人間の血は赤い……これを書いた方は人間──?)
 ユメリアは意味の深淵に触れていた。
 SSSことシュティルは三男で、喉の欠陥が原因で家督争いから離脱しており、好き勝手に生きていたらしい。
(帝都にあるシャーフェ家の屋敷で生活していて、詩の才能に溢れていた彼は朗読者として少女を1人だけ雇い、サロンで詩の朗読会を催していた)
 この会があってこそ、SSSの名前は歴史に刻まれた。
(作詞者と歌唱者が別、というのはプロデューサーとアイドルの関係に似ていますね)
(SSSの活動期間は13年。その間、雇った朗読者は6人。彼女らは、あまり幸福な最後ではなかったようですね)
 自殺あるいは精神の不調によりほとんどが朗読者を降板している。結婚してやめた者もいたが、後に他殺されている。SSSは少女がやめるとすぐに新しい朗読者を雇った。
(SSSは朗読者に自分を『センセイ』と呼ばせていた)
 朗読者の台本として、SSSの詩が数篇残っていた。逆にいえばそれしか残っていない。それらに負のマテリアルの痕跡はない。それを読んでユメリアは不思議な感覚に襲われた。
(詩には個人の癖がでます。歌が心を動かすのは、自分の心ある内なる衝動を込めるから。なのにどうして──)
 ユメリアには想像できた。どんな少女がこの詩を歌っているか、どんな衣装を着ているか、どんな声をしているのかを。朗読者ごとの特徴さえわかったのだ。しかし、SSS自身のことをどうしても感じられない。シュティルは肖像画さえ残されていない。顔が全く見えない。
(自分を殺して書いていた? いえ、朗読者の為に、その少女の為だけに書いていたのでしょうか)
 想像の中の少女の顔は美しい。でも、その体からはなにかどろりとした、血液に汚れた悪意に似た匂いがした。それこそがSSSの衝動なのだとしたら──。
(詩を歌う少女こそが彼にとっての青い花──薔薇で、奇跡だったの?)
(青い花を喰む羊。花が薔薇だとしたら、羊は奇跡を踏みにじるもの……?)
「SSSは34歳で死んだんだって」
 フューリトが情報をノートにまとめつつ言った。
「病死だってさ」
「お墓はブラウエブルームにあるみたいだよ」
 と言うのは、ざくろだ。
「ざくろさん。帝都のシャーフェ家の屋敷はもうないって僕が読んだ資料には書いてあったんだ」
「ざくろも確認したよ。シャーフェ家は帝都にも屋敷を持っていた。SSSは帝都で活躍していたから、その屋敷を拠点にしていたのは確実で、彼は離れの書斎を拠点にしていた。でもシャーフェ家は帝都の土地を売ることになる。その時、既に故人であったSSSの書斎は文化財ということで、そのままブラウエブルームに移築されているんだって」
 ざくろは領地の歴史に話を移す。
「十数年前にあの地方で流行病があったんだって。当時のシャーフェ家当主はそれにうまく対応できなくて、領民に大量の死者を出してしまったらしい。結果、領民は領主を無能と断じて、シャーフェ一家を殺してしまう。その後、病は沈静化したんだけど……帝国の役人たちがブラウエブルームにやって来た時には、領民は全員死んでいた。シャーフェ一家の遺体の状況から、こうだったんだろうって推測の報告しかないんだけど……ただ、領地が滅んでいるのは事実。特別重要な土地でもないから、簡単な浄化だけされて放置されているみたい」
「グリューさんの実家の元領地ってお隣だよね? そっちでも病気は流行ってたの?」
「ロータファーベンではほとんど死者は出ていないらしい。理由はわからないんだけど……。後、シャーフェ家とヴァルファー家との関連も特にはみあたらなかったよ」
「私も調べましたが、同じく両家に不穏な関係はありませんでしたね」
 ユメリアがこたえた。
「グリューさんのおとーさんが敵前逃亡した理由がわかればよかったけど……。話は変わるけど、SSSの遺品があるとしたら移設された書斎の中かな。これに関しては行かないとわからないか」
 フューリトの言葉尻に合わせて、資料館の閉館を告げる鐘が鳴った。


 ペガサスの事務所からの帰り道。Uiscaはクレーネウスにあることを聞いていた。
「エリンさんの家族にお会いしたことあります?」
「今回の事件の知らせを受けて、病院に駆けつけた母親に会ったよ。こんな状況なんで窶れていたが、娘によく似た美人だったよ」
「お父さまの方は……?」
「まだ投獄中だな。第十師団に問い合わせたが、変わったことはないらしい。2人ともこの件とは無関係だろう」
 デスドクロはペガサスが書き出した、夜になるまで待っての楽曲リストを見ていた。どんな曲だったかも軽く記されている。
(恋愛ソングに友情ソング……。若干宗教的な要素やすこし不思議な要素もあるがアイドルとしては特別変わったことをしているわけじゃねぇ)
 舞はその後、新しいメンバーを募集してヨルマチの活動を継続していたらしい。彼女たちは凍結した地球で眠っているのだろう。
「いろいろあったようで悪ぃが、誰であろうとウチのアイドルにちょっかい出しちまった以上……首根っこ捕まえて引き摺り出してやるのがプロデューサーの仕事だからな」


 歌舞音曲部隊の部屋に全員が集合し、情報を交換した。
「この手紙の文章は、SSSが考えたのでしょう」
 ユメリアが言った。
「残されていた彼の詩と同じものを感じます。不在の存在感、というのでしょうか。ですがこの文字は彼が書いたものではないと思います。直筆の詩が残っていましたが、私にもわかるくらい筆跡が違いますから。藍様はこの世界にいて、手紙にSSSの考えた文章を書き写し、自分のサインをしたのでしょう。また、SSSとコウモリを関連は見つかりませんでしたが、お話を聞いていると考えてしまいます。コウモリは獣にも見えて、鳥にも見えて、夜の闇に紛れて飛ぶもの……」
 その時隊員の1人が「グリューエリンの目が覚めた」という知らせを持って来た。面会はまだできないが検査の結果によっては、退院は近いらしい。


 キヅカは夜の道を1人で歩きながら、過去の事件のことを考えていた。
(”誰が”ヨルをヴォイドにしたか、それだけはわからなかった)
(コウモリの使い魔……黒幕は同じなのか?)
 未確定の情報は多い。けれど、キヅカは既に決めていることがある。
(この落とし前はつける、必ずだ)
 暗い空には一条の流れ星が消えた気がした。

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参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • 寝る子は育つ!
    フューリト・クローバー(ka7146
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

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依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/26 16:51:48
アイコン 【相談卓】
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/05/27 21:23:27