ゲスト
(ka0000)
白羽の矢
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/06/06 19:00
- 完成日
- 2019/06/13 00:49
このシナリオは1日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●不肖の弟お呼び出し
グリーク商会の会長ニケ・グリークは、手にした万年筆で小刻みに机を叩いていた。
眉と眉の間を狭めちらりと眺めるのは、腕時計。万年筆を机に置き嘆息。諦めの意味を込めてではない。高ぶってくる気持ちを押さえるためだ。
涼やかなベルの音を響かせ、執務室の扉が開いた。入ってきたのは金髪碧眼の美少年。彼女の不肖の弟にしてマリーの恋人、グリーク家の不良債権、ナルシス・グリーク。
「ナルシス、遅いわよ。約束の時間から15分過ぎてるじゃない」
「仕方ないだろ、道が混んでたんだから。いきなり人を呼び出して、しょっぱなから感じ悪いな姉さんは。いつもだけどさ」
ニケは面白くも無さそうな顔をした彼に、切り込むような口調で言った。
「あんた、今無職よね?」
「ううん違うよ仕事してるよ」
「あらー、そうなの。知らなかったわ。で、何の仕事?」
「マリーさん家の自宅警備員。じゃあそういうことで」
長居は無用と感じ取り、踵を返そうとするナルシス。
ニケはその動きを眼光で制した。
「……ふざけたこと言ってると、はったおすわよ……? とにかく話を聞きなさい。私も暇じゃないのよ。あんたのために使える時間は限られてるの」
「恩着せがましい言い方やめてくんない? 使ってくんなくて全然かまわないんだけどさ、こっちとしては」
「人が話し終わるまで黙ってなさい。その舌抜くわよ」
●お呼び出しの理由~数日前の出来事
リゼリオの商店通りにあるカチャ・タホ宅の家の一階は、グリーク商会に支店として貸し出されている。
ニケは商談等で本拠地のポルトワールからリゼリオに訪れる際、かならずそこに立ち寄る。だから、自然カチャと話をする機会も多い。
そのときの話題は、邪神であった。
それがこの世界に対し降伏勧告を突き付けてきたという旨は、すでに多くの人々が知るところとなっている。勧告の内容も含めて。
反応は千差万別だ。この世の終わりだと悲観するものもいれば、何とかなるさと楽観視するものもいる。そんな話自分には関係ない、興味ないというものもいる。むしろ滅びた方がいいんじゃないかと皮肉に構えるものもいる。
だが、議論がひと通り終わればほとんどの人が『それはさておき』と日常の業務に戻っていく。
考えてみれば、それが当たり前かもしれない。世の終わりが明日来ようが来るまいが、食べないでいると腹が減るし飲まないでいると喉が渇く。いいことがあるとうれしいし、勝負に負けると悔しいし、好きな人への思いは募るし、嫌いな奴には腹が立つ。それが人間というものなのだから。
「――恭順は問題外として、封印もそれと競るレベルで勘弁願いたいですね。他の世界と途絶されることよりも、精霊と一切コンタクトが取れなくなるということのほうが問題です。私にとっては」
「というと?」
「ユニゾンのマゴイさんは精霊でしょう? もし今彼女に消えられたら、相当困ったことになりますよ。ユニオン渡りのシステムを理解し運営出来るのが、目下彼女しかいないんですから」
「あー、それは確かに……マゴイさん以外のマゴイは、まだ存在していませんしね」
「まあ、事態がこの先そういう方向に進まないことを望むばかりです、非力な一市民としては」
あんまり非力そうでもないニケはそう締めくくった後、それはさておきと前置きして話を変える。
彼女はつい先頃ユニゾン島に亡命受け入れの話を持ってきた人間がいたことと、マゴイがその話に乗り気だったこと、自分がそれを途中で止めたことをカチャに話した。眉をひそめて。
「多分マゴイさんは、そうすることの危険性を今一つ理解出来ていないんだと思います。それが、どうにも危ない気がしましてね。よその国と接するについては、助言者がいるのではないかと」
そうかもしれない、とカチャも思った。
でも、思えば無理のないことではある。彼女の故郷であったユニオンは鎖国政策をとっていた。加えて彼女自身は、『市民生産機関』という内政の中枢を司る部署に所属していた。ならば他国の人やものと関わる機会など、皆無に近かったに違いない。
エバーグリーンにおいてその状態だったなら、この世界に出てきた当初は、相当なカルチャーショックを受けていたであろう。現在はだいぶ馴染んできたみたいだが。
「私がしてもいいんですけどね、今の仕事を考えると難しいですし……だから誰かを代わりに行かせようかと思いまして」
「どなたです? マルコくんですか?」
「いいえ。あの子は勉学中の身ですし――適任じゃありません。こういう仕事にはね」
「じゃあ、誰が」
「ナルシスです」
●だから、就職しろ。
姉からお呼び出しの理由を聞かされたナルシスは、流麗な顔をしかめた。
「ハ? じゃあ何、姉さん僕にユニゾン市民になれっていうわけ?」
「市民になれとは言ってないわよ。島に商会の出張所作らせてもらう契約をしたから、そこでバイトしろ。そして彼女の動向を把握してこっちに報告しろって言ってんの。保養所バイトのときと一緒でジェオルジから通えるから、楽なものよ」
「やだね。お断りだね。さっき自宅警備してるって言ったじゃん。大体その契約年数ってどのくらいだよ。半年とか一年とかそういうレベルじゃないよね」
「察しがいいわね。50年よ」
「ごっ……いやだ! 絶対いやだ! なんでジジイになるまであんな離れ小島でしたくもない仕事しなきゃなんないんだよ! 姉さんがやりゃいいじゃん!」
「私は忙しいのよ。やりたくてもやれないの。安心しなさい、マゴイさんの仕事を分担できる市民が育つまでの話だから。そうなったら、あんたは無事お役御免出来るわよ」
とニケがそこまで言ったときである、人が飛び込んできた。誰かと思えば血相変えたマリーである。
「駄目ー! ナルシスくんユニゾンに島流しとか、やめてー!」
続けてカチャ。なんか疲れ切った様子だ。
「すいません……マリーさんからものすっごい問い詰められまして、この話隠しておけませんでした……」
どうも面倒なことになってきた。
グリーク商会の会長ニケ・グリークは、手にした万年筆で小刻みに机を叩いていた。
眉と眉の間を狭めちらりと眺めるのは、腕時計。万年筆を机に置き嘆息。諦めの意味を込めてではない。高ぶってくる気持ちを押さえるためだ。
涼やかなベルの音を響かせ、執務室の扉が開いた。入ってきたのは金髪碧眼の美少年。彼女の不肖の弟にしてマリーの恋人、グリーク家の不良債権、ナルシス・グリーク。
「ナルシス、遅いわよ。約束の時間から15分過ぎてるじゃない」
「仕方ないだろ、道が混んでたんだから。いきなり人を呼び出して、しょっぱなから感じ悪いな姉さんは。いつもだけどさ」
ニケは面白くも無さそうな顔をした彼に、切り込むような口調で言った。
「あんた、今無職よね?」
「ううん違うよ仕事してるよ」
「あらー、そうなの。知らなかったわ。で、何の仕事?」
「マリーさん家の自宅警備員。じゃあそういうことで」
長居は無用と感じ取り、踵を返そうとするナルシス。
ニケはその動きを眼光で制した。
「……ふざけたこと言ってると、はったおすわよ……? とにかく話を聞きなさい。私も暇じゃないのよ。あんたのために使える時間は限られてるの」
「恩着せがましい言い方やめてくんない? 使ってくんなくて全然かまわないんだけどさ、こっちとしては」
「人が話し終わるまで黙ってなさい。その舌抜くわよ」
●お呼び出しの理由~数日前の出来事
リゼリオの商店通りにあるカチャ・タホ宅の家の一階は、グリーク商会に支店として貸し出されている。
ニケは商談等で本拠地のポルトワールからリゼリオに訪れる際、かならずそこに立ち寄る。だから、自然カチャと話をする機会も多い。
そのときの話題は、邪神であった。
それがこの世界に対し降伏勧告を突き付けてきたという旨は、すでに多くの人々が知るところとなっている。勧告の内容も含めて。
反応は千差万別だ。この世の終わりだと悲観するものもいれば、何とかなるさと楽観視するものもいる。そんな話自分には関係ない、興味ないというものもいる。むしろ滅びた方がいいんじゃないかと皮肉に構えるものもいる。
だが、議論がひと通り終わればほとんどの人が『それはさておき』と日常の業務に戻っていく。
考えてみれば、それが当たり前かもしれない。世の終わりが明日来ようが来るまいが、食べないでいると腹が減るし飲まないでいると喉が渇く。いいことがあるとうれしいし、勝負に負けると悔しいし、好きな人への思いは募るし、嫌いな奴には腹が立つ。それが人間というものなのだから。
「――恭順は問題外として、封印もそれと競るレベルで勘弁願いたいですね。他の世界と途絶されることよりも、精霊と一切コンタクトが取れなくなるということのほうが問題です。私にとっては」
「というと?」
「ユニゾンのマゴイさんは精霊でしょう? もし今彼女に消えられたら、相当困ったことになりますよ。ユニオン渡りのシステムを理解し運営出来るのが、目下彼女しかいないんですから」
「あー、それは確かに……マゴイさん以外のマゴイは、まだ存在していませんしね」
「まあ、事態がこの先そういう方向に進まないことを望むばかりです、非力な一市民としては」
あんまり非力そうでもないニケはそう締めくくった後、それはさておきと前置きして話を変える。
彼女はつい先頃ユニゾン島に亡命受け入れの話を持ってきた人間がいたことと、マゴイがその話に乗り気だったこと、自分がそれを途中で止めたことをカチャに話した。眉をひそめて。
「多分マゴイさんは、そうすることの危険性を今一つ理解出来ていないんだと思います。それが、どうにも危ない気がしましてね。よその国と接するについては、助言者がいるのではないかと」
そうかもしれない、とカチャも思った。
でも、思えば無理のないことではある。彼女の故郷であったユニオンは鎖国政策をとっていた。加えて彼女自身は、『市民生産機関』という内政の中枢を司る部署に所属していた。ならば他国の人やものと関わる機会など、皆無に近かったに違いない。
エバーグリーンにおいてその状態だったなら、この世界に出てきた当初は、相当なカルチャーショックを受けていたであろう。現在はだいぶ馴染んできたみたいだが。
「私がしてもいいんですけどね、今の仕事を考えると難しいですし……だから誰かを代わりに行かせようかと思いまして」
「どなたです? マルコくんですか?」
「いいえ。あの子は勉学中の身ですし――適任じゃありません。こういう仕事にはね」
「じゃあ、誰が」
「ナルシスです」
●だから、就職しろ。
姉からお呼び出しの理由を聞かされたナルシスは、流麗な顔をしかめた。
「ハ? じゃあ何、姉さん僕にユニゾン市民になれっていうわけ?」
「市民になれとは言ってないわよ。島に商会の出張所作らせてもらう契約をしたから、そこでバイトしろ。そして彼女の動向を把握してこっちに報告しろって言ってんの。保養所バイトのときと一緒でジェオルジから通えるから、楽なものよ」
「やだね。お断りだね。さっき自宅警備してるって言ったじゃん。大体その契約年数ってどのくらいだよ。半年とか一年とかそういうレベルじゃないよね」
「察しがいいわね。50年よ」
「ごっ……いやだ! 絶対いやだ! なんでジジイになるまであんな離れ小島でしたくもない仕事しなきゃなんないんだよ! 姉さんがやりゃいいじゃん!」
「私は忙しいのよ。やりたくてもやれないの。安心しなさい、マゴイさんの仕事を分担できる市民が育つまでの話だから。そうなったら、あんたは無事お役御免出来るわよ」
とニケがそこまで言ったときである、人が飛び込んできた。誰かと思えば血相変えたマリーである。
「駄目ー! ナルシスくんユニゾンに島流しとか、やめてー!」
続けてカチャ。なんか疲れ切った様子だ。
「すいません……マリーさんからものすっごい問い詰められまして、この話隠しておけませんでした……」
どうも面倒なことになってきた。
リプレイ本文
●説得依頼を受けまして
「マゴイさんの制御役……」
ニケから事情を聞いたマルカ・アニチキン(ka2542)は、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の方をちらちら見る。
「私見ですけれども、もうそちらの枠は埋まっているのでは……」
彼女が言わんとするところを察したナルシスは、すかさず割り込んでくる。
「だよね。ルベーノさんでいいよね。僕もう帰っていい?」
ユメリア(ka7010)は即座に看破した。一番に直さなくてはいけないのは彼の性格だと。
天竜寺 舞(ka0377)は半眼でナルシスを睨む。
(……あんなヒモ体質野郎でもマリーさんにとっては大切な人なんだよなぁ)
そこでルベーノが広い肩をすくめ、言った。
「何か勘違いしているようだな、依頼人ニケ・グリーク。王国なり帝国なりから亡命者が出て、それをユニゾンが受け入れたとしても。王国なり帝国なりの軍事力では、まだユニゾンを落とせんよ」
「……ルベーノさん、あなたユニゾンを買いかぶり過ぎていませんか? もしそうなったらあそこは完全に潰れますよ」
この場合、ニケの見立てのほうが正しい。ユニゾンは確かに優れた力を持っている。だがそれはあくまでも『点』でしかない。比して王国や帝国が持つ力は『面』。仮に直接対決したら当然ユニゾンが負ける。
まあそれはさておき。
とりあえず星野 ハナ(ka5852)は、ニケとナルシス、マリーを離すのがいいと考えた。ディーナ・フェルミ(ka5843)が『交渉役に一番適任な人間を連れてくる』と言ってもいたし、とりあえずそれまでは別個説得に努めよう、と。
「ニケさん、お2人を説得するために、別室お貸していただけますかぁ?」
「どうぞ」
「ありがとうございますぅ。マリーさんとナルシス君カムヒアですぅ」
マリー、ナルシス、ハナがいったん場から離れる。マルカ、ユメリア、レイア・アローネ(ka4082)、エルバッハ・リオン(ka2434)、カチャも。
だけど舞とルベーノは残った。彼らはナルシスより、ニケに再考を促したいと思っていたのだ。
●お前のやる気はどこにある
別室に入った途端ナルシスは、また文句をたれ始めた。
「大体さあ、なんで僕が文句ばっかり言われなきゃなんないんだよ。姉さんも毎度毎度思いつき押しつけてくんの止めてほしいんだけどマジで」
レイアは彼を説得することを早々に断念した。この調子で続けられたら、間違いなく張り倒したくなると思って。
代わってマルカが彼にアプローチを試みる。
「世の中には不労所得なるものがあります。働く形も千差万別です」
「うんそうだね」
「小説家というものに興味はありませんか……? 人心の機微の察知と掌握に通じて活路を導き出す“論理”を持ち合わせています。ユニゾンと島を取り巻く人々のエッセイを文書にしてはいかがでしょうか? ナルシスさんの美貌と機知を持ってすれば、ベストセラーとなることも夢ではないかと。そうすれば、ニケさんは聡明な方です。きっと人格より能力や実績を踏まえた上で評価して下さりますよ……!」
ナルシスは、美少年好きなら一発で落とされるだろう笑顔を浮かべた。
「あは、褒めてもらってうれしいなー。でも、僕姉さんからの評価はいらないんだ。そんだけ出来るならもっとなんかしろって言い出すのが、目に見えてるから♪」
リオンが汚物を見る眼差しをナルシスに向ける。
ユメリアがマリーに尋ねた。にこにこしながら。
「ナルシス様の好きな点、本当にいっぱいあるのでしょうね――よろしければ、なれそめなどお聞きしたいのですが」
「いいわよ、あれは雨が降る日に――」
マリーの話は延々続いた。
カチャの結婚式の下りまで来たところで、ユメリアが急に口元を押さえる。
「ウッ――」
続けて泣き崩れる。
マリーは心底びっくりし、のろけ話を打ち止めた。
「え? な、何? どうしたの?」
「いえ、私が知っている世にも悲しいお話とあまりにもそっくりでしたので――」
●お姉ちゃんはご立腹
「ニケがナルシスに期待してるのは、マゴイに近づいてくる人間の下心を見破って助言することだよね?」
「平たく言えばそうですね」
「実はさ、ブルーチャーっておっさんがいるんだけど。スペットって猫頭いるじゃん? 昔そいつと組んで――」
そのとき執務室の扉が開いた。ディーナが入ってきた。マルコと一緒に。
「ニケさん、ユニゾンの交渉役に1番適任と思う人を連れてきたの」
軽く驚いた様子のニケに、続けて言う。
「家族として姉として、働かない弟への苛立ちはあると思うの。私はこんなに頑張ってるのに、ナルシスもやればできるのに何にもやらないって、悔しく腹立たしく思う気持ちも分かるの。船員としての腕もあるから。でもユニゾンで船員の腕は必要ない。時間内定められた仕事を歯車のようにこなすこと。その上でマゴイさんと話せること。ナルシス君はそういう仕事の仕方が得意じゃないから、イラついてマゴイさんにうまく助言できなくなると思うの。マルコ君に教えるのを見た時、そうだったから」
ニケは一瞬返答に詰まった。自分の心理の一端をずばり言い当てられたからだ。
しかし、ナルシスに対する見方は変えない。
「ナルシスがマルコさんに対する言動をマゴイさんにも適用するとは思えません。相手に応じての態度の使い分けは、心得ていますから」
確かに彼の(姉を除く)女性に対する態度と男性に対する態度は明らかに異なっている。家庭教育のたまものか、はたまた学院の教育のたまものか。
だがしかし、だからといってマゴイのよき抑制役になるかというと……さあ、どうだろう。
「マルコ君は状況を見て人を動かすことも待つこともできるようになったの。この前の一連の事件で見ていたの。彼はマゴイさんが納得できるように方向性を整えて説明できると思うの。彼なら、ユニゾンでマゴイにもステーツマンにもなれる可能性がある。勉強は目的のためにするもので勉強すること自体が目的じゃない。彼にユニゾンに行って貰って調整役になって貰う方が、商会のためにもなると思うの」
実のところルベーノも、ナルシスが今回の任に向いている人材とは思えなかった。だから、このように言った。
「お前の手駒が本当にユニゾンに食い込めれば世界は大きく変わるだろう。グリーク商会の利益も計りしれん。出し惜しむ場面ではないと俺は思うがな」
「マルコさんには今、あの学院で学んでおかなければならないことがあるんです。それを中断させるようなことは出来ません」
マルコが若干ためらった後に口を開く。
「ニケさん、自分が感情的になっていることを、自覚していますか?」
ニケは不意打ちを食らったような顔で聞き返した。
「……なっているように見えますか?」
「はい。ナルシスさんに関する話題が出たときには、いつも――そうなっているんじゃないかなって思います」
「……」
背もたれに深く体を預け、大きく息を吐くニケ。
彼女が冷静さを取り戻したと見た舞は、再度提案を持ち出した。
服役囚、ブルーチャー。マルコが駄目だというのなら、彼をナルシスの代役にしてみてはどうだろう、と。
「――何よりあたしがおっさんを推すのは工場が潰れたから」
いったん言葉を切って、相手が話題に興味を示していることを確認してから、続ける。
「おっさんは経営に失敗した。だから上手い事言ってくる奴の下心には敏感じゃないかと思う。失敗の経験ってそれだけ心に刻まれるだろうからね。一応社会奉仕活動って奴で外で仕事は出来るし、その奉仕先として商会の出張所で働いてもらってさ。服役囚の社会復帰を後押しする会社として商会のイメージアップにもなるんじゃない?」
そこでマルコも言う。
「ニケさん、俺、ユニゾンに行ってみてもいいですよ。学院が長期休暇に入っている間だけなら。その期間生徒は、寮から離れることを認められてますし」
ニケは組んだ手を額に当て、考える。
ややもして、席を立つ。
●ここが年貢の納め時
恋人に寄生し暮らしていた美貌の青年はある日天変地異に会い、孤島に流され一人ぼっちに。これまであまりに他人に頼った暮らしをしてきていたので、大切な人が探し求めてくれているのを分かっていても、生き伸びる手段と生きようという勇気が湧いてこなかった。そのため何もせず、出来ず、そのまま餓死する――。
そんな物語を切々と歌い上げたユメリアにナルシスが、苦情を申し立てた。
「あのさー、エルフのきれいなお姉さん、歌にかこつけて僕をdisるのやめてくんないかな……」
ユメリアは澄んだ目で、ひたと彼を見つめる。
「貴方は人に好かれる稀有な才能が有ります。それを利用する賢さも、言葉を操る力も――私達が派遣される背景はもうご存知のはず。社会で生きる以上誰もが対価を払って生きています。対価とは誰かの想いに応える事。ニケ様、カチャ様、そして……マリー様の想いに応える対価はお持ちですか?」
その真剣な態度にナルシスは押された。
勢いを減じぶつぶつとぼやく。
「マリーの想いには十分応えてるつもりだけど、僕は」
そこにリオンが歩み寄り、忠告をした。嫌っている相手ではあるが、言うべきことは言わねばなるまいと。
「ニケさんは商売敵が多いですから、ヒモをしている弟がいることをライバルに悪評として利用されるおそれもあります。そういったデメリットが許容範囲を超えた場合、穏便な手段では済まなくなるかもしれませんよ?」
「あー、そうそう、それだよね、結局姉さんが一番言いたいのは。要は自分の面子の問題でさ。でもさ、僕は姉さんの一部じゃないんだよ。僕には僕の意志ってもんがあるんだよ」
この減らず口にリオンは、相当イラっと来た。
「今回のお仕事が嫌だというのであれば、その代わりに慈善事業へ参加して商会のイメージアップを図るなどして、貢献をした方がよいかと思います」
後ずさるナルシス。カチャが間に入ってリオンを宥める。
「エルさんエルさん、落ち着いてください。殺す目になってますから」
かくてナルシス、再び減らず口を。
「何で僕がそこまでしなくちゃなんないの。大体マゴイおねーさんの制御なんて押し付けてくるのが間違いじゃないのかな」
ハナはうんうんと大袈裟に頷いた。
「私もナルシス君がマゴイさんを操縦できるわけないと思いますぅ――」
から始めて彼女はマリーに、ナルシスが心配なら島についていくことを提案した。
結婚という手続きを済ませ2人夜毎のハネムーンをやっていれば、マゴイが機嫌を損ね追い出しにかかってくれるのではないかと。
「それならマリーさんだって仕事辞めずに長期休暇だけで済みますしぃ、ナルシスくんだってその後思う存分自宅警備員できますよぅ」
爆弾提案に一番驚いたのは、当のマリーである。
「けっ……!? だ、駄目よそれは、未成年だし……」
「13歳越えたら数えで15歳、充分結婚できますよぅ。大体こっちに淫行条例違反とかないじゃないですかぁ――ニケさんはナルシス君を弟だと思うから煩いんですぅ。マリーさんの夫、ナルシス・スラーインになったらあそこまで傍若無人なこと言えませんよぅ――」
ナルシスは小気味よく指を鳴らす。
「いいね。確かにそうだ」
自分が楽出来そうだと踏んだか、めっちゃ乗り気だ。
「ナルシスくん……」
そして、なんかマリーもその気になりかけてないか。
まずいこれでは問題の本質的解決にならない。
思ってレイアは待ったをかけた。
「待て、話し合おう。離れたくないという意見自体はわからないでもない。だが、ずっと彼を養い続けるというのは……立ち入った話になってしまうがどうだろうか……。私としては互いに自立しつつ、認め合いながら愛を育む方が愛も深くなると……」
「マリー、自立してなくても僕のこと認めてくれるよね?」
「もちろんよ! ナルシスくんは存在してるだけでいいの!」
「む、むう……けれどな、互いに精神的に成熟した方が相手を思いやる気持ちも生まれると思うぞ。一方的に尽くすのは愛とは言わないと……」
「だって、自然に何かしてあげたくなっちゃうんだからしょうがないじゃない。レイアにもそういう経験あるでしょう?」
ない。
というわけでレイア、早くも絶体絶命の境地である。
でも諦めない。誠意を持って勝算のない戦いを続ける。
「ぐぐぐ……いや、あるともないとも言い切れないがそれでもやはり、未来のことを考えれば、二人三脚助け合いの精神をだな……」
そこで部屋の扉が開いた。
ニケが入ってきた。
そしてナルシスを見るなり、にっこりした。
いつもと違う反応にナルシス、引く。
「結婚するの? おめでとう。じゃあ尚更あんたには職歴が必要ね。万年無職の弟を先方に押し付けるなんて、姉さん恥ずかしすぎて出来ない」
爆弾提案の下りから聞いていたらしい。
思ってハナは、フォローに入る。
「ニケさん、いくらナルシス君が女性に尽くせるからってぇ、マゴイさんのところで働くのは無理だと思いますぅ。彼は家の中に居てぇ、疲れて帰ってきた女の人を慰めるときに一番輝く人ですぅ」
「そうじゃないことを願いたいんですけどね、私としては」
と返してニケは、マリーに言う。
「マリーさん、ナルシスのバイトはジェオルジから通いです。島に常駐と言うわけじゃありません。ですから、認めてはもらえませんか? 期間は2ヶ月でいいですから」
へえ? とナルシスが訝る。
「どうしたの、一気にハードル下げてきたじゃん」
ニケは彼に鋭い視線を向ける。
「あんたの他にもバイトしてくれる人が見つかったの。だからよ。あんたの2か月分の働きを見てから、改めて判断することにするわ――私があんたを見誤っていたのかそうでないのか。もし見誤っていたってはっきりしたときは――」
だけど、その声はどこか寂しげだった。
「就職に関して私は、もう干渉しないから。あんたが自分で好きなようにして」
●いつでもおいで
ユニゾン港湾地区の一角。
『グリーク商会・ユニゾン出張所』の看板を見上げるのはマゴイ、ルベーノ、カリカリで頬を膨らませたコボルドたち。
マゴイの真っ白なサマードレスがそよ風にはためいている。自身のマテリアルで構築したものではなく、本物のドレスなのだ。ルベーノから贈られた。
最近彼女は仕事以外のとき、なるべく実体のあるものを身に着けるようにしている。ワーカーたちが、それに触れることを喜ぶので。
「ここをどんなユートピアにするか方針を考えるべきかもしれんな。世界にユニゾンが好意を持って迎えられればお前の幸せも長く続くだろう?」
『……方針はもう……決まっているわ……ユニゾンは……ユニオン法に従いワーカーを守る……共同体……』
不意に強い風が吹いた。
すかさずルベーノは、彼女の頭を手で押さえた。つば広の帽子が飛んでいかないように。
「マゴイさんの制御役……」
ニケから事情を聞いたマルカ・アニチキン(ka2542)は、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の方をちらちら見る。
「私見ですけれども、もうそちらの枠は埋まっているのでは……」
彼女が言わんとするところを察したナルシスは、すかさず割り込んでくる。
「だよね。ルベーノさんでいいよね。僕もう帰っていい?」
ユメリア(ka7010)は即座に看破した。一番に直さなくてはいけないのは彼の性格だと。
天竜寺 舞(ka0377)は半眼でナルシスを睨む。
(……あんなヒモ体質野郎でもマリーさんにとっては大切な人なんだよなぁ)
そこでルベーノが広い肩をすくめ、言った。
「何か勘違いしているようだな、依頼人ニケ・グリーク。王国なり帝国なりから亡命者が出て、それをユニゾンが受け入れたとしても。王国なり帝国なりの軍事力では、まだユニゾンを落とせんよ」
「……ルベーノさん、あなたユニゾンを買いかぶり過ぎていませんか? もしそうなったらあそこは完全に潰れますよ」
この場合、ニケの見立てのほうが正しい。ユニゾンは確かに優れた力を持っている。だがそれはあくまでも『点』でしかない。比して王国や帝国が持つ力は『面』。仮に直接対決したら当然ユニゾンが負ける。
まあそれはさておき。
とりあえず星野 ハナ(ka5852)は、ニケとナルシス、マリーを離すのがいいと考えた。ディーナ・フェルミ(ka5843)が『交渉役に一番適任な人間を連れてくる』と言ってもいたし、とりあえずそれまでは別個説得に努めよう、と。
「ニケさん、お2人を説得するために、別室お貸していただけますかぁ?」
「どうぞ」
「ありがとうございますぅ。マリーさんとナルシス君カムヒアですぅ」
マリー、ナルシス、ハナがいったん場から離れる。マルカ、ユメリア、レイア・アローネ(ka4082)、エルバッハ・リオン(ka2434)、カチャも。
だけど舞とルベーノは残った。彼らはナルシスより、ニケに再考を促したいと思っていたのだ。
●お前のやる気はどこにある
別室に入った途端ナルシスは、また文句をたれ始めた。
「大体さあ、なんで僕が文句ばっかり言われなきゃなんないんだよ。姉さんも毎度毎度思いつき押しつけてくんの止めてほしいんだけどマジで」
レイアは彼を説得することを早々に断念した。この調子で続けられたら、間違いなく張り倒したくなると思って。
代わってマルカが彼にアプローチを試みる。
「世の中には不労所得なるものがあります。働く形も千差万別です」
「うんそうだね」
「小説家というものに興味はありませんか……? 人心の機微の察知と掌握に通じて活路を導き出す“論理”を持ち合わせています。ユニゾンと島を取り巻く人々のエッセイを文書にしてはいかがでしょうか? ナルシスさんの美貌と機知を持ってすれば、ベストセラーとなることも夢ではないかと。そうすれば、ニケさんは聡明な方です。きっと人格より能力や実績を踏まえた上で評価して下さりますよ……!」
ナルシスは、美少年好きなら一発で落とされるだろう笑顔を浮かべた。
「あは、褒めてもらってうれしいなー。でも、僕姉さんからの評価はいらないんだ。そんだけ出来るならもっとなんかしろって言い出すのが、目に見えてるから♪」
リオンが汚物を見る眼差しをナルシスに向ける。
ユメリアがマリーに尋ねた。にこにこしながら。
「ナルシス様の好きな点、本当にいっぱいあるのでしょうね――よろしければ、なれそめなどお聞きしたいのですが」
「いいわよ、あれは雨が降る日に――」
マリーの話は延々続いた。
カチャの結婚式の下りまで来たところで、ユメリアが急に口元を押さえる。
「ウッ――」
続けて泣き崩れる。
マリーは心底びっくりし、のろけ話を打ち止めた。
「え? な、何? どうしたの?」
「いえ、私が知っている世にも悲しいお話とあまりにもそっくりでしたので――」
●お姉ちゃんはご立腹
「ニケがナルシスに期待してるのは、マゴイに近づいてくる人間の下心を見破って助言することだよね?」
「平たく言えばそうですね」
「実はさ、ブルーチャーっておっさんがいるんだけど。スペットって猫頭いるじゃん? 昔そいつと組んで――」
そのとき執務室の扉が開いた。ディーナが入ってきた。マルコと一緒に。
「ニケさん、ユニゾンの交渉役に1番適任と思う人を連れてきたの」
軽く驚いた様子のニケに、続けて言う。
「家族として姉として、働かない弟への苛立ちはあると思うの。私はこんなに頑張ってるのに、ナルシスもやればできるのに何にもやらないって、悔しく腹立たしく思う気持ちも分かるの。船員としての腕もあるから。でもユニゾンで船員の腕は必要ない。時間内定められた仕事を歯車のようにこなすこと。その上でマゴイさんと話せること。ナルシス君はそういう仕事の仕方が得意じゃないから、イラついてマゴイさんにうまく助言できなくなると思うの。マルコ君に教えるのを見た時、そうだったから」
ニケは一瞬返答に詰まった。自分の心理の一端をずばり言い当てられたからだ。
しかし、ナルシスに対する見方は変えない。
「ナルシスがマルコさんに対する言動をマゴイさんにも適用するとは思えません。相手に応じての態度の使い分けは、心得ていますから」
確かに彼の(姉を除く)女性に対する態度と男性に対する態度は明らかに異なっている。家庭教育のたまものか、はたまた学院の教育のたまものか。
だがしかし、だからといってマゴイのよき抑制役になるかというと……さあ、どうだろう。
「マルコ君は状況を見て人を動かすことも待つこともできるようになったの。この前の一連の事件で見ていたの。彼はマゴイさんが納得できるように方向性を整えて説明できると思うの。彼なら、ユニゾンでマゴイにもステーツマンにもなれる可能性がある。勉強は目的のためにするもので勉強すること自体が目的じゃない。彼にユニゾンに行って貰って調整役になって貰う方が、商会のためにもなると思うの」
実のところルベーノも、ナルシスが今回の任に向いている人材とは思えなかった。だから、このように言った。
「お前の手駒が本当にユニゾンに食い込めれば世界は大きく変わるだろう。グリーク商会の利益も計りしれん。出し惜しむ場面ではないと俺は思うがな」
「マルコさんには今、あの学院で学んでおかなければならないことがあるんです。それを中断させるようなことは出来ません」
マルコが若干ためらった後に口を開く。
「ニケさん、自分が感情的になっていることを、自覚していますか?」
ニケは不意打ちを食らったような顔で聞き返した。
「……なっているように見えますか?」
「はい。ナルシスさんに関する話題が出たときには、いつも――そうなっているんじゃないかなって思います」
「……」
背もたれに深く体を預け、大きく息を吐くニケ。
彼女が冷静さを取り戻したと見た舞は、再度提案を持ち出した。
服役囚、ブルーチャー。マルコが駄目だというのなら、彼をナルシスの代役にしてみてはどうだろう、と。
「――何よりあたしがおっさんを推すのは工場が潰れたから」
いったん言葉を切って、相手が話題に興味を示していることを確認してから、続ける。
「おっさんは経営に失敗した。だから上手い事言ってくる奴の下心には敏感じゃないかと思う。失敗の経験ってそれだけ心に刻まれるだろうからね。一応社会奉仕活動って奴で外で仕事は出来るし、その奉仕先として商会の出張所で働いてもらってさ。服役囚の社会復帰を後押しする会社として商会のイメージアップにもなるんじゃない?」
そこでマルコも言う。
「ニケさん、俺、ユニゾンに行ってみてもいいですよ。学院が長期休暇に入っている間だけなら。その期間生徒は、寮から離れることを認められてますし」
ニケは組んだ手を額に当て、考える。
ややもして、席を立つ。
●ここが年貢の納め時
恋人に寄生し暮らしていた美貌の青年はある日天変地異に会い、孤島に流され一人ぼっちに。これまであまりに他人に頼った暮らしをしてきていたので、大切な人が探し求めてくれているのを分かっていても、生き伸びる手段と生きようという勇気が湧いてこなかった。そのため何もせず、出来ず、そのまま餓死する――。
そんな物語を切々と歌い上げたユメリアにナルシスが、苦情を申し立てた。
「あのさー、エルフのきれいなお姉さん、歌にかこつけて僕をdisるのやめてくんないかな……」
ユメリアは澄んだ目で、ひたと彼を見つめる。
「貴方は人に好かれる稀有な才能が有ります。それを利用する賢さも、言葉を操る力も――私達が派遣される背景はもうご存知のはず。社会で生きる以上誰もが対価を払って生きています。対価とは誰かの想いに応える事。ニケ様、カチャ様、そして……マリー様の想いに応える対価はお持ちですか?」
その真剣な態度にナルシスは押された。
勢いを減じぶつぶつとぼやく。
「マリーの想いには十分応えてるつもりだけど、僕は」
そこにリオンが歩み寄り、忠告をした。嫌っている相手ではあるが、言うべきことは言わねばなるまいと。
「ニケさんは商売敵が多いですから、ヒモをしている弟がいることをライバルに悪評として利用されるおそれもあります。そういったデメリットが許容範囲を超えた場合、穏便な手段では済まなくなるかもしれませんよ?」
「あー、そうそう、それだよね、結局姉さんが一番言いたいのは。要は自分の面子の問題でさ。でもさ、僕は姉さんの一部じゃないんだよ。僕には僕の意志ってもんがあるんだよ」
この減らず口にリオンは、相当イラっと来た。
「今回のお仕事が嫌だというのであれば、その代わりに慈善事業へ参加して商会のイメージアップを図るなどして、貢献をした方がよいかと思います」
後ずさるナルシス。カチャが間に入ってリオンを宥める。
「エルさんエルさん、落ち着いてください。殺す目になってますから」
かくてナルシス、再び減らず口を。
「何で僕がそこまでしなくちゃなんないの。大体マゴイおねーさんの制御なんて押し付けてくるのが間違いじゃないのかな」
ハナはうんうんと大袈裟に頷いた。
「私もナルシス君がマゴイさんを操縦できるわけないと思いますぅ――」
から始めて彼女はマリーに、ナルシスが心配なら島についていくことを提案した。
結婚という手続きを済ませ2人夜毎のハネムーンをやっていれば、マゴイが機嫌を損ね追い出しにかかってくれるのではないかと。
「それならマリーさんだって仕事辞めずに長期休暇だけで済みますしぃ、ナルシスくんだってその後思う存分自宅警備員できますよぅ」
爆弾提案に一番驚いたのは、当のマリーである。
「けっ……!? だ、駄目よそれは、未成年だし……」
「13歳越えたら数えで15歳、充分結婚できますよぅ。大体こっちに淫行条例違反とかないじゃないですかぁ――ニケさんはナルシス君を弟だと思うから煩いんですぅ。マリーさんの夫、ナルシス・スラーインになったらあそこまで傍若無人なこと言えませんよぅ――」
ナルシスは小気味よく指を鳴らす。
「いいね。確かにそうだ」
自分が楽出来そうだと踏んだか、めっちゃ乗り気だ。
「ナルシスくん……」
そして、なんかマリーもその気になりかけてないか。
まずいこれでは問題の本質的解決にならない。
思ってレイアは待ったをかけた。
「待て、話し合おう。離れたくないという意見自体はわからないでもない。だが、ずっと彼を養い続けるというのは……立ち入った話になってしまうがどうだろうか……。私としては互いに自立しつつ、認め合いながら愛を育む方が愛も深くなると……」
「マリー、自立してなくても僕のこと認めてくれるよね?」
「もちろんよ! ナルシスくんは存在してるだけでいいの!」
「む、むう……けれどな、互いに精神的に成熟した方が相手を思いやる気持ちも生まれると思うぞ。一方的に尽くすのは愛とは言わないと……」
「だって、自然に何かしてあげたくなっちゃうんだからしょうがないじゃない。レイアにもそういう経験あるでしょう?」
ない。
というわけでレイア、早くも絶体絶命の境地である。
でも諦めない。誠意を持って勝算のない戦いを続ける。
「ぐぐぐ……いや、あるともないとも言い切れないがそれでもやはり、未来のことを考えれば、二人三脚助け合いの精神をだな……」
そこで部屋の扉が開いた。
ニケが入ってきた。
そしてナルシスを見るなり、にっこりした。
いつもと違う反応にナルシス、引く。
「結婚するの? おめでとう。じゃあ尚更あんたには職歴が必要ね。万年無職の弟を先方に押し付けるなんて、姉さん恥ずかしすぎて出来ない」
爆弾提案の下りから聞いていたらしい。
思ってハナは、フォローに入る。
「ニケさん、いくらナルシス君が女性に尽くせるからってぇ、マゴイさんのところで働くのは無理だと思いますぅ。彼は家の中に居てぇ、疲れて帰ってきた女の人を慰めるときに一番輝く人ですぅ」
「そうじゃないことを願いたいんですけどね、私としては」
と返してニケは、マリーに言う。
「マリーさん、ナルシスのバイトはジェオルジから通いです。島に常駐と言うわけじゃありません。ですから、認めてはもらえませんか? 期間は2ヶ月でいいですから」
へえ? とナルシスが訝る。
「どうしたの、一気にハードル下げてきたじゃん」
ニケは彼に鋭い視線を向ける。
「あんたの他にもバイトしてくれる人が見つかったの。だからよ。あんたの2か月分の働きを見てから、改めて判断することにするわ――私があんたを見誤っていたのかそうでないのか。もし見誤っていたってはっきりしたときは――」
だけど、その声はどこか寂しげだった。
「就職に関して私は、もう干渉しないから。あんたが自分で好きなようにして」
●いつでもおいで
ユニゾン港湾地区の一角。
『グリーク商会・ユニゾン出張所』の看板を見上げるのはマゴイ、ルベーノ、カリカリで頬を膨らませたコボルドたち。
マゴイの真っ白なサマードレスがそよ風にはためいている。自身のマテリアルで構築したものではなく、本物のドレスなのだ。ルベーノから贈られた。
最近彼女は仕事以外のとき、なるべく実体のあるものを身に着けるようにしている。ワーカーたちが、それに触れることを喜ぶので。
「ここをどんなユートピアにするか方針を考えるべきかもしれんな。世界にユニゾンが好意を持って迎えられればお前の幸せも長く続くだろう?」
『……方針はもう……決まっているわ……ユニゾンは……ユニオン法に従いワーカーを守る……共同体……』
不意に強い風が吹いた。
すかさずルベーノは、彼女の頭を手で押さえた。つば広の帽子が飛んでいかないように。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/04 18:58:57 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/06/06 14:15:26 |