歪虚の娘、施療の娘

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2019/06/01 12:00
完成日
2019/06/07 10:10

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「あの子がいるなら、私達はここを出ていきます。不幸に巻き込まれるのはごめんですよ」
 あの子。と暗に名指しされたルーフィが聞こえているだろうことをお構いなく、施療院の院長室からそんな声が響いてくる。
 ルーフィと言えば、そんな声をお構いなしに、自分のやるべき仕事、包帯の交換や検温、薬草の調合などを黙々と続けていたが、さすがに院長から呼び出しを受けるとその手を止めざるを得なかった。
 手を止める時は……仕事を失う瞬間だと知りながら。
「君には悪いが、今日限りで……」
「はい」
 彼女は憤ることも、悲しむことも、不満も愚痴も、何も言うことはなかった。
 引き継ぎを済ませて彼女は次の仕事場を探す。

 ブリュンヒルデという歪虚がいた。
 暴食の歪虚でも珍しく、戦闘を嫌った。歪虚でも珍しく人を襲うことを積極的にしなかった。彼女はただ人の願いを叶え続けようとする。
 研究がしたいと言えば本をかき集め、食事を差し入れた。人にアッと言わせたいと願ったなら何時間でもアイデアが浮かぶまで話を聞いた。そうして些事を全て彼女は引き受け、願望に人生を集約させる。願望が成就しても更なる成功を目指し続させ、心のブレーキを壊して。大きな破滅を引き起こした時、願望が成就されないことを嘆きつつそのマテリアルを食らう。
 彼女に『とりつかれ』て、無事でいた人間というのはほとんどいない。全てではなかったのは、例外があったから。それがルーフィだった。彼女の元にもブリュンヒルデは現れ、たくさんの人を助けたいという願いに応え、患者を呼び、薬を運んだ。
 そのせいでルーフィが従事していた施療院は彼女を残して全員が過労死したが。彼女は奇跡的にも生き延びた。生命力が強かった為か、精神力が強かった為か、はたまた、その場でブリュンヒルデは討ち果たされた為か。

「ルーフィと申します。薬草調合と看護の経験があります。ここで働かせてください。命を助ける仕事がしたいのです」
 彼女の願いは変わらない。
 今もまた。新たな病院の門を叩き、そうして志願した。
「とうとううちにも来たぞ」
 窓から患者や看護師が鈴なりになってルーフィの後ろ姿を見ながらそう囁き合っているのがわかりつつも、彼女は微動だにしなかった。
 一般人の彼女が行ける範囲などたかがしれている。
 ただでさえ、神霊樹ネットワークがより広がり覚醒者による活動は広がっているのだ。情報伝達速度は加速し、人の口づてにあらゆる情報が共有されていく。
 彼女の幼なじみがコボルドに殺されたことも。
 彼女が自滅を呼ぶブリュンヒルデに接触したことも。
 そして近づいた場所で次々不幸を呼び起こしたことも。それは単なる偶然であっても、彼女がいたからというだけで大きくピックアップされる。助けた命の数はカウントされず、失ったものだけ数え連ね上げられる。
 挙句、ついた渾名は『歪虚の娘』
「悪いね。歪虚の娘。この界隈ではもう、あんたの仕事はないと思った方がいい」
 とうとう門前払いされるようになってしまった。
 失礼しました。とルーフィは頭を下げて、来た道を戻ると後ろから喝さいの声が聞こえた。
 よくぞ言ってくれた。よくぞ歪虚の娘を追い払ってくれた。
 私は人間なのに。堕落者でもなんでもないのに。そんな愚痴も言わず、ルーフィは次の街へと歩くことを決めた。

 施療院もダメ、病院もダメ。孤児院からは孤児からゴミを投げつけられ、教会からは水をかけられた。
 それでもルーフィは彷徨った。
 無念の想いを秘めたままの亡くなった人々が脳裏から離れないからか。それとも本当にブリュンヒルデの呪いがまだ生きているのだろうか。
「私ができること、私ができることは」
 誰かを死の淵から救う手伝いをする事。
 言葉では簡単だが、苦悶の顔、血臭、砕けた骨で変に曲がる腕。それと向き合うとき背筋が凍る。自分の記憶が何度でも蘇る。
 それを他の人に見せるというのか、放っておくというのか。
「私にできることは、命を助けるお手伝いしか、ないんです……私は、約束したんです」
 祈るように、心の澱を吐き出すように、彼女はそういった。
 それが何かに届いたのかはわからない。一陣の風が吹いて、彼女の足に紙が絡みついた。そこには「名もなき医療団」と銘打たれた医療団の募集が書いてあった。邪神との戦いを前に各地で起こる歪虚との戦いに、被害を受けている地域も多いが、医療施設というものは町がないと安定しない。だから移動医療施設の発足を目指すというものだった。
 これなら。
 ルーフィは早速立ち上がった。


「名もなき医療団は人手はずっと不足していますので、もちろん彼女を受け入れてあげたいのですが」
 チームリーダーの男は頭をかきかき、ハンターオフィスの受付員にそう告げた。
「『歪虚の娘』は随分広まった噂ですし、人の口に戸は立てられませんしねぇ。それにやっぱり不安がるメンバーもいる。でも彼女はそんなに悪い子には見えない」
 名声のマイナス分を差し引いても、彼女の献身姿勢は医療団には大きくプラスに働いていると告げた。旅も苦にしないし、幅広い薬草知識と山菜摘みの経験は各地での医療活動の補助としても大きい。うってつけなのだ。
「だから、彼女にまとわりついている悪い噂を一時的にも取り払えばと思いまして。後は彼女の姿勢が全て決めてくれるでしょうから」
「なるほどわかりました……ところで、念のために聞きますが、歪虚でも歪虚と契約した人間でも、堕落者でも、ないんですね?」
 受付員の確認に、チームリーダーは苦笑した。
 確認は大切だ。もし間違えれば歪虚の手助けをしたなどとなったらハンターズソサエティ全体の問題にもなるからだ。
「私も聖導士ですが、見る限りそんな感じは受けませんね。歪虚と契約関係にあるだけなら感知できないかもしれませんが……それなら彼女はもっと短絡的な手段を取っていたと思いますよ」
 そう言いつつ、チームリーダーの男はルーフィのひたむきな顔を思い出して、ため息をついた。
「ハンターの皆様なら、一緒に治療を続けていたら、きっと何か見えてくるものもあるでしょう。そうして、彼女を救ってあげてくれませんかね」
 悪評を払しょくできる意見をくれたらそれでいい。
 もし可能なら。彼女が幸せに生きられるように『呪い』を解いてあげたい。

リプレイ本文

●診療
「剪定中に木から落ちたのか」
 診察の時間。白衣を羽織ったエアルドフリス(ka1856)がそうして男性に話かけている間に、志鷹 都(ka1140)が体位を固定しつつ、ルーフィが清拭して患部の状況を確認してもらう。
「齢を考えにゃあならんぞ。見栄ばっかり張るもんじゃない」
 そんなエアルドフリスの言葉に男性が不貞腐れる様子を見て「なあに、場所が違えば俺も言われる身だ」などと笑って話をいったん切り、患部を確認していた都と目を合わせると、彼女もまたこくりと頷くと、傍に置いていた薬草鞄を開けた。
「旦那がこのまま無事になってくれるといいんだけど……」
 患者の妻の言葉は旦那を心配するものでもあり、同時にどこかで聞いたのであろうルーフィに対するものでもあった。
 都は一瞬はっとして助け船が必要かと顔を上げたが、それを制したのは旦那だった。
「こんなに良くしてくれるのは医者でもそうないぞ。手際もいいし、かいがいしいさが泣けてくるぜ」
「ありがとうございます。その言葉は私だけでなく、ここにいる色んな知識を教えてくれた諸先輩も喜んでくれると思います」
 ルーフィはそんな言葉と共に男性を布団に寝かせると、すぐに都が準備してくれた薬草を手に取り調合を始めた。手づかみで薬草の分量を量る様も薬研に入れて挽く様にも手慣れた様子がありありとわかる。
「いい腕だ。その腕ならどこでもやっていけそうなもんだが」
 必要最低限の時間で煎じ薬を作成できるようにしていく様にはエアルドフリスもそう感想を漏らす。
「ルーフィさんは本当に患者さんを大切にしているのがよくわかります、薬草知識や技術も経験に裏打ちされています」
 都の言葉に声に引っ張られるようにして、患者の妻も不安を取り下げて頭を下げた。
「旦那の事よろしくお願いします」

●回診
「脈拍がかなり早いですね」
 都は手袋を直して患者の顔色を改めてみた。その顔色は暗く、生気がない。
「今までも辛いことはありましたか」
 ソナ(ka1352)に教えられたとおりに質問するルーフィにも患者は反応しない。そこでソナはルーフィが作った問診票を確認する。飲酒の形跡などもない。
 と同時に問診事項に細々と書かれた待合での患者の様子などが捕捉に目を通した。ルーフィとは以前に何度か出会っているおかげもあって、ソナには人の機微にとても敏感なのが十分に伝わってきた。
 それなら噂が彼女の心にどれだけ刺さっただろうか。耳をふさぐことのできない目を閉じることが許されない医療現場で、それだけ見える透明な心がどれだけ傷つけているか。想像すると悲しくなる。
「このお薬を、準備してもらえますか」
 本を開いて、挿し示した薬をルーフィは本ごと借りてすぐ準備しようとした次の瞬間、それを拒否したのは患者だった。
「止めてくれ。歪虚の娘が調合した薬なんて、先生。私を苦しませたいのですか」
 睨み付けるような憎悪に燃えた暗い瞳がルーフィに容赦なく打ち据えられる。それにたいして、ルーフィはへにゃりと変な顔をした。
 いや、正確にはさせられた。
「ルーフィちゃんは真面目なだけで怖くないですよぅ」
 星野 ハナ(ka5852)がルーフィの背後から頬をぐにゃりと押さえつけて、変な顔をさせていたのだ。それに対して、一瞬気まずい沈黙が流れる。
「ひぃ、ごめんなさいぃ。ちょっとこの空気を変えたくってぇ」
 全員の冷たい視線を一斉に浴びてハナは慄いて飛び下がった。
 そんな三枚目半なハナの動きが功を奏してか、患者は一瞬言葉を忘れ、恨みがましい目つきを失ったその僅かな隙に、ソナは宿った森の力を少しだけ解放し、心が穏やかになるようにと祈りの呪いをかけ、その間にリラ(ka5679)と高瀬 未悠(ka3199)が駆けつけた。
「気持ちはわかるけど、ちゃんとルーフィのこと見てあげて。……薬は私が準備してくるわ」
 その間にリラは太陽のような笑顔で患者の手を取り。
「大丈夫ですよ。うん、怖いんですよね」
 リラは患者の手を握りしめて、ゆっくりとチャクラヒールで癒していく。ソナとリラの力がよって患者は自分が暴言を吐いたことを後悔し始めた。
「私の息子も……ハンターだったんだ。歪虚に殺されて……」
「ずっと不安だったんですね」
 そんなやりとりで都はカルテに診療方向を確定させると、リラに患者を任せて、止まったままのルーフィの肩を抱き寄せた。
「大丈夫」
 患者の頻脈が、息子が歪虚に殺されたことによる精神的苦痛によるものなら、相性が悪かっただけ。
 今は、こんなにも彼女を理解しようとする人がいる。そのことを伝えるために。しばらく肩を抱いていた。
「ありがとうございます」
 都に小さくそう礼を言った。
 そしてハナにも。
 頬から花の香りが漂ってくるのは、先程の顔をもみくちゃにした時からだ。これをルーフィにつける為に、そしてあの空気を一瞬で切り替える為にそうしたのが、ハナの気遣いだったことをルーフィは感じていた。

●休憩
「ねぇ、ご飯にしない?」
 ご飯の準備を整え終わった未悠の問いかけにもルーフィは「お先にどうぞ」答えるばかりだった。
 休む気配はない。備忘録代わりのメモは既に真っ黒なところを見ると、休憩など最初から考慮していないようで、それは死に場所を求めてさまよう姿にも見えて、未悠は胸苦しくなった。
「貴女と一緒にご飯が食べたいの、お願い。ルーフィ」
 その一言にルーフィもさすがに手を止めて未悠を見た。光のない目は一瞬で未悠を凍らせるのに十分だった。
「はい、わかりました」
 その人形みたいな返事も、丁寧すぎるお辞儀も。人を傷つけないように最大限配慮されたものであり、そして自分の気持ちに誰も触れさせない壁。
 知っている。ルーフィの一言一句、一挙手一投足が。
 遥か過去の自分が同じだと告げる。
「ダメよ。私と同じ道を進まないで……」
「ご心配ありがとうございます。でも私はやることがあるんです」
「……それは贖罪の意識かね。そんなものさっさと捨ててしまいたまえ」
 先に粥をすするエアルドフリスの一言に、ルーフィと未悠、2人が同時に震えた。エアルドフリスはルーフィが最初に勤めていた施療院を知っていた。ルーフィと最初に顔を合わしたのもそこだ。そしてそこがどうなったのかも風の噂では聞いている。
「己を削れば救える命が減る。人を救うにはまず自分を救わねばならん」
 エアルドフリスは鍋に入った粥を新たな皿に入れて、ルーフィの為に空けられたスペースに置く。人の輪の一端であるその場所に導くように。
「いいか、命なんてものは自己犠牲だけじゃあ扱えん」
 その言葉が刺さったのだろう。ルーフィはうなだれた。
 それは彼女が見せる初めての弱気な態度だった。
 
「一人で抱え込まず吐き出していいのよ。私たちが傍にいるから」
 目の前で人が死ぬのは自覚できないほどの苦しみを覚えることがある。もう少しで手が届きそうなのにそれが叶わなかった時の出来事は、悪夢のようにフラッシュバックしてはお前のせいだと囁き続ける。
 未悠は自分がたくさんの人にそうしてもらったように、傍にいようと決めてルーフィの手を取ると「大丈夫よ」と声をかけつつ、エアルドフリスの示した場所まで一緒に歩き出した。
 そしてリラがそれを受け入れて粥皿を渡した。
「ルーフィさんはどうして人を救おうって決めたんですか」
 その一言にしばらくルーフィは重い口を開いた。
「……私にとって勇者だった幼馴染が死にました。みんなを守るんだっていう口癖が大好きだった。そして村のみんなを守って。彼は死にました。私は彼の事を忘れない。私が忘れたら、きっと彼の心はなかったことになってしまう。剣は持てなくとも、この腕でその志を継ぐと決めたんです」
 それはそれは小さな決意だった。
 それは動き出すごとに、大きな決意へと変わっていく。
 同時に命の重さに耐えきれず、心がきしんでいくことになっても。今までは弱かったからと諦めていた命ですら、救えるのではないかと思えるようになると、がむしゃらに手を伸ばし始めた。
「眠ったり、休息したりすると、過ぎ去った命が目の前に現れては消えるんです。だから、私は立ち止まれないんです」
「そうだったんですね。今までそうやって頑張ってきたんですね」
 彼女の頑張りはソナも何度も見てきた。
 心挫けなかった彼女の意志を尊敬するように眼差しを向けて、そしてゆっくりと手を取る。
「その過去の出来事の重みが今に繋がっていると思います。今、何が必要かに即応できるよう、しっかり今を大切にしてください。ルーフィさんの言葉で腰を痛めた患者さんも喜んだように。ルーフィさんのの言葉、態度で救われていること、たくさんあると思います」
 そうですよね。と、ソナが振り返って仲間たちに微笑みを向けると、もちろん全員が頷いた。
「分かっててもうまくいかん事もある。俺も昔は似たようなものだった。命を救う術があれば……あの日の光景から赦され、先に進めると思った。おかげでひどい勘違いと喧嘩ばかり繰り返したよ」
 苦笑してエアルドフリスはそう言うとルーフィは口をつぐんだ。
 ソナの言葉で彼女の思い込みは綻び始めている。その綻んだ澱みに清流を流すように、未悠が静かに、穏やかに、しかし確固とした言葉で語り掛ける。
「私も……そう」
 悪夢が蘇る。どれだけ手を広げても指の間からすり抜けていく脅威、そして命。眠るのが恐ろしいと思う時もあった。
 食べるものも食べず、眠りも満足にできないルーフィの手は、年頃にはあり得ない細さだった。
「この命を捧げて、誰かを守れればいいと思った。そうすることで自分が救われると思った。誰かに……甘える資格は自分にないと」
 自分を赦してあげて。
 責め続けないで。
 未悠の言葉に、ルーフィのひび割れて柔軟性を失った心に水が流れ込む。呪いが、心にたまっていた黒いヘドロが流れ落ちていく。そんなものも含めて未悠はルーフィを抱きしめていく。
 悔恨を共に背負い、少しでも気持ちが軽くなりますようにと願いながら。
「……私は、私は……」
 初めて共感にルーフィは震える。
 そこに静かにエアルドフリスが言葉を続けた。
「人に頼れ。泣いていい場所を作れ。俺にもそういう人や場所があったから、ここにいられると思っている。頼ってくる患者、師と呼んでくれる弟子、愛する人。彼らの為に裏切れないと思っている。見栄張って続けることができるんだ。それにはまず、罪を忘れることから始めることだよ」
 ルーフィはしゃがみこんだ。
 流れ込んだ優しさに心が砕けて、流れ出してしまいそうだった。
 そんなルーフィにリラが抱きしめるようにして立ち上がる手伝いをすると、その間近な顔で明るい笑顔を浮かべた。
「気持ちを聞かせてくれてありがとうございます。でも、こういう時は笑顔ですよ♪ お友達も守ってあげたい。私もルーフィさんのお友達になって、笑顔を守りたいです」
 リラはにっこりと笑って歌うように言う。
「私は歌い手。物語の歌い手。旋律に載せて物語を歌うのが仕事です。ルーフィさんっていう主人公がいる物語を歌います。こんなに真面目で、一途で、心優しくて。人の想いまで大切にしてくれる子がいるんだよって」
 他の誰にも悪い噂なんてさせないように。
 手を取ってくれる人達の温かさに触れて、ルーフィは久々に微笑みを浮かべた。純朴そうな少女の心がようやく垣間見えた瞬間だった。
「道行きに佳き巡りを祈る」
 エアルドフリスの言葉が暗黒を照らすように、響いた。


「事故は一件もありませんでした。それどころかルーフィさんに看てもらって良かったという人もいます」
 夕暮れに。任務を終え、医療団のチームリーダーに報告書をまとめた都が胸を張ってこたえた。
「歪虚に子供を殺された患者にも打ち解けたことは、彼女もまた同じような境遇であることを知り、それでも前に進もうという姿勢に心打たれたようです。最初は拒否していたのに、最後は彼女の作った料理を美味しいと言ってくれるまでになりました」
「自然な笑顔を浮かべてもらえるようになりましたしね」
 ソナも嬉しそうに報告をつなげる。
 彼女の気持ちはもう内向きじゃない。笑顔をこぼして、そして真剣に前に向かって、人を見るようになっていた。
 ね。と声をかけるとルーフィは相も変わらず丁寧なお辞儀を返したが、自分を守るためではなく、素直にソナの気持ちに感謝していることがやはりどこかで伝わってくる。表情や仕草、そんなものが心一つで大きく違って見せるのだろう。
「ルーフィさんもよく頑張りましたね。これからは患者を思うように、自分の体も労ってあげてくださいね」
 母親のように慈しみの笑顔を浮かべると、彼女の手に両手を被せた。
 ルーフィが同時に違和感を感じた顔をすると、都はにこにことその手に預けた銀の栞を二人の視線の間に持ち上げと、きらりと姫百合の刻印が月光に浮かぶ。
「これは……私の恩師から贈られたお守りです。貰ってくれますか?」
「そんな大切なもの……!」
 慌てて返そうとするルーフィの腕を受け止めて、都はその栞に書かれた言葉を読み上げる。
「誇りの花言葉と胸に我が道を貫く。全ては愛をくれし、人たちと命のために。これは今日から貴女が持つべきものです」
 私はもう十分に教わったことだから。
 今度は伝える番。
「自分を大切に。その栞を挟めば、疲れきっても、きっとまた戻ってこれます」
「……はい」
 ルーフィはその栞をしっかりと受け取った。
「それじゃあ、私からもプレゼントですよぅ!」
 声が滑り込むように颯爽と近づいてきた。と思ったらハナはフライングスレッドに乗って、そのままルーフィの足元からすくうようにして乗せると、そのまま高く高く飛び上がる。ルーフィは思わず何が起こったのか理解できずにいた。
「お仕事はもう終了していますからぁ、ここからは休憩タイムですよぅ。と言ってもルーフィちゃん真面目すぎて休憩の仕方忘れちゃってるんじゃないかと思いましてぇ」
 ハナの言葉に、ルーフィは言葉を詰まらせた。確かに仕事に打ち込みすぎて、自分が何が楽しかったか忘れてしまっていた気もする。
 くすくすと笑うと、ハナは星の出始めた空を指さし「こういうので仕事を忘れてリセットしたり」と前置いたうえで下を指さした。
 仲間たちが全員こちらに手を振ってくれている。
 そしてリラが約束通り、ルーフィの歌を作って披露してくれている。
「こうやって視点を変えてみる事ですぅ。それでもルーフィちゃん頑張りすぎそうだからぁ、これも渡しておきますねっ♪」
 ハナはいつぞやルーフィの顔に塗り付けた保湿クリームを渡した。

「ありがとうございます」
 リラの歌が春風と共に舞い上がる。

 ♪やがて自由なる羽を得て、無垢な瞳は求めていく。空の向こうへ。

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MVP一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856
  • シグルドと共に
    未悠ka3199

重体一覧

参加者一覧

  • 母のように
    都(ka1140
    人間(紅)|24才|女性|聖導士
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 風評被害対策室【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/06/01 10:12:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/06/01 10:08:28