ゲスト
(ka0000)
【血断】汝に問う、その旅路の果てに
マスター:大林さゆる
このシナリオは5日間納期が延長されています。
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オープニング
●
ファナティックブラッド。
理想を追い求め、未来に辿り着くために、永遠の中を彷徨う。
邪神はすでに、想像を絶する存在になっていた。
シェオル型歪虚になっても、救いを求めているヒト。
地獄のような苦しみを、延々と繰り返すだけの世界でも、助けを求めていたヒトたちがいた。
それを……歪虚だからというだけで、切り捨てるのか?
俺も、『彼ら』と同じなのかもしれない。
そう、ただ理想を追い求めて、未来を探している。
それが、覚醒者と……どう違うのか?
覚醒者というだけで、英雄扱いされる者たちに、
ファナティックブラッドに閉じ込められたヒトの気持ちや痛みなど、理解できるのか?
結局、あんたらは、自分が助かる道を選ぶだろうな。
歪虚の存在意義など無いと告げた者もいたから。
●
グラウンド・ゼロ。
各所に残留しているシェオル・ノドの集団とハンターたちの戦いが、時折、続いていた。
「クリムゾンウェストを侵略するつもりなら、容赦はしない!」
ハンター部隊は、シェオル・ノドを一体ずつ、倒していく。
しばらくすると、黒いマスティマが姿を現した。
ワープしてきたのか、突然であった。
「……気を付けろ。奴は、何をするか分からんからな」
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が制すると、ハンターたちが身構える。
黒いマスティマの簡易スピーカーから、声が響いた。
『俺は……クドウ・マコト。あんたらに問う。このまま、シェオル・ノドを殺し続けるつもりか?』
クドウは、ハンターたちと戦う前に、その想いを聴きたかった。
『シェオル・ノドが、元人間だということは、あんたらも知っているだろう? 歪虚になったから、殺すということか?』
静まり返った地に、クドウの声だけがハンターたちの心を揺さ振る。
『自分の住む世界が侵略されるから、その相手を倒す。それは理解できる。だが、その相手が、ヒトであったとしても、理由もなく、殺すというのか? それだと、VOIDよりも、あんたらの方が性質が悪いよな。正義面して、シェオル・ノドは歪虚だから倒す……実に、シンプルだな。分かり易い。なんの躊躇いもなく、これからも、あんたらはシェオル・ノドたちを殺し続けるんだろうな?』
反論できるのか?
自分の意思は、あるのか?
クドウは、迷いながらも、覚醒者たちが、どんな想いで闘い続けるのか、知りたかったのだ。
故郷、L5コロニー。
2013年12月8日、クドウ・マコトの運命は変わった。
あの日を忘れたことはなかった。
時が進み、クドウは気が付けば、黒いマスティマに搭乗して、この世界に来ていた。
マクシミリアンが、動じることもなく応えた。
「……シェオル・ノドが、元人間だということは分かっている。このまま放っておけば、これからも奴らは永遠に苦しみを味わうことになる。ならば、その苦しみから解放させるためにも、俺は……戦い続ける。誰が、なんと言おうともな」
『……マクシミリアン、久し振りだな。それが、あんたの意思か。それならば、俺も少しは……理解できる』
そして、クドウは黒いマスティマのコックピットから、ハンターたちを睨みつけた。
『同じことは、二度も言わせるなよ。俺は今、かなりイラついているからな』
黒いマスティマは、シェオル・ノドの集団を守るように、ハンターたちの前に立ちはだかった。
汝に問う。
その旅路の果てに、何があるのか……?
ファナティックブラッド。
理想を追い求め、未来に辿り着くために、永遠の中を彷徨う。
邪神はすでに、想像を絶する存在になっていた。
シェオル型歪虚になっても、救いを求めているヒト。
地獄のような苦しみを、延々と繰り返すだけの世界でも、助けを求めていたヒトたちがいた。
それを……歪虚だからというだけで、切り捨てるのか?
俺も、『彼ら』と同じなのかもしれない。
そう、ただ理想を追い求めて、未来を探している。
それが、覚醒者と……どう違うのか?
覚醒者というだけで、英雄扱いされる者たちに、
ファナティックブラッドに閉じ込められたヒトの気持ちや痛みなど、理解できるのか?
結局、あんたらは、自分が助かる道を選ぶだろうな。
歪虚の存在意義など無いと告げた者もいたから。
●
グラウンド・ゼロ。
各所に残留しているシェオル・ノドの集団とハンターたちの戦いが、時折、続いていた。
「クリムゾンウェストを侵略するつもりなら、容赦はしない!」
ハンター部隊は、シェオル・ノドを一体ずつ、倒していく。
しばらくすると、黒いマスティマが姿を現した。
ワープしてきたのか、突然であった。
「……気を付けろ。奴は、何をするか分からんからな」
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が制すると、ハンターたちが身構える。
黒いマスティマの簡易スピーカーから、声が響いた。
『俺は……クドウ・マコト。あんたらに問う。このまま、シェオル・ノドを殺し続けるつもりか?』
クドウは、ハンターたちと戦う前に、その想いを聴きたかった。
『シェオル・ノドが、元人間だということは、あんたらも知っているだろう? 歪虚になったから、殺すということか?』
静まり返った地に、クドウの声だけがハンターたちの心を揺さ振る。
『自分の住む世界が侵略されるから、その相手を倒す。それは理解できる。だが、その相手が、ヒトであったとしても、理由もなく、殺すというのか? それだと、VOIDよりも、あんたらの方が性質が悪いよな。正義面して、シェオル・ノドは歪虚だから倒す……実に、シンプルだな。分かり易い。なんの躊躇いもなく、これからも、あんたらはシェオル・ノドたちを殺し続けるんだろうな?』
反論できるのか?
自分の意思は、あるのか?
クドウは、迷いながらも、覚醒者たちが、どんな想いで闘い続けるのか、知りたかったのだ。
故郷、L5コロニー。
2013年12月8日、クドウ・マコトの運命は変わった。
あの日を忘れたことはなかった。
時が進み、クドウは気が付けば、黒いマスティマに搭乗して、この世界に来ていた。
マクシミリアンが、動じることもなく応えた。
「……シェオル・ノドが、元人間だということは分かっている。このまま放っておけば、これからも奴らは永遠に苦しみを味わうことになる。ならば、その苦しみから解放させるためにも、俺は……戦い続ける。誰が、なんと言おうともな」
『……マクシミリアン、久し振りだな。それが、あんたの意思か。それならば、俺も少しは……理解できる』
そして、クドウは黒いマスティマのコックピットから、ハンターたちを睨みつけた。
『同じことは、二度も言わせるなよ。俺は今、かなりイラついているからな』
黒いマスティマは、シェオル・ノドの集団を守るように、ハンターたちの前に立ちはだかった。
汝に問う。
その旅路の果てに、何があるのか……?
リプレイ本文
ハンターたちの前に、黒いマスティマが現れた。
シェオル・ノドたちは、炎のオーラを飛ばし、ハンターたちに襲い掛かってきた。
フィロ(ka6966)が搭乗するコンフェッサーが、ディフェンダーを駆使し、シェオルたちが放った炎を受け流していく。
取りこぼした炎のオーラを、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は軽々と回避していく。
グリフォンのジュリアは、アルトの指示で『ゲイルランパート』の結界を張り巡らせた。
ユメリア(ka7010)が聖杖「アルペジオ」を地面に突き立て、『ディヴァインウィル』による不可視の境界を作り上げていく。ここから先は、進ませないという確固たる意志を貫く様に。
リーベ・ヴァチン(ka7144)は仲間を支援するため、ペガサスのシェーンに指示を出し、『エナジーレイン』を仲間たちに施していた。
最初に話し始めたのは、アルトだった。
「そうだな、存在を終わらすことを殺すというのなら殺し続けるだろう。元がヒトだから可哀そうだから殺すなとでもいうのか? それで、この世界の人が死ぬのを許容しろとでも?」
『違うな。俺は、そんなことは思っていない。あんたの意思が聴きたいだけだ』
黒いマスティマの簡易スピーカーから、クドウ・マコトの声が響いた。
アルトは、クドウに対して本気でイラついていたが、マクシミリアンの制止もあり、落ち着き払っているように見えた。
「……私はハンターとして初めての依頼で助けれた人の笑顔を見た時から、それらを一つでも多く見たくて、一人でも多くの人が救いたくて、強さを求め止まらずに進み続けた。
それでも届かない。全てを救えるような力があるのならそうしよう。
だが、神ですらそんなことは不可能だ。だからこそ私は選んだ、私の剣は私の大切なモノを守るために振るうと。私がシェオルに与えてやれるのは、滅びをもって永遠の地獄を終わらせてやる事だけだ」
『……あんたは、強い人だな。技術的なことも含めてな。俺は、そこまで割り切れない』
クドウは淡々と告げていた。
フィロがコンフェッサーの簡易スピーカーを通して問いかけた。
「では、逆にお伺いします、クドウ様。貴方はどうやってシェオル・ノドにされた方々を救うおつもりですか。生きたいという願いをファナティックブラッドに歪められ、歪虚に落とされ、元は只人でも無理矢理姿を変えられ力を与えられ、戦場に送り込まれ、苦しみながらも戦わせられる人々を、貴方はどうやって救うつもりですか」
『それは……俺にも分からないな。あんたなら、シェオル・ノドを救えるというのか?』
憤りを隠せないクドウに、フィロは冷静に告げた。
「私もマクシミリアン様と同じです。私も人としてその方々を救うために行動しております。シェオル・ノドにされた方々が苦しんでいると知った貴方は、その結果、何をなさるのですか。苦しみを長引かせるだけと知っていて何もせずそこに立ち続け、何もしない自分への苛立ちを私達に八つ当たりして、苦しむ人々が更に長く苦しむよう手を貸して。
確かに貴方の望みは此方側では手に入らなかったのかもしれません。しかしそちらに居ても、貴方の望みが叶うとは思えません。マスティマに乗った者が英雄ということではありません。苦しむ人々を救った者が英雄です。その機体で貴方は、シェオル・ノドにされた苦しむ方々に何をなさるつもりです。苦しむ時間を長引かせる為だけに、ただそうやってその方々の前に立ち続けるつもりですか」
フィロの率直な言葉は、クドウの苦しい想いをさらに締め付けていた。
『……だからこそ、俺は自分の無力さに怒りを覚えている。ただ見ているだけで、何もしてやれないからな』
ユメリアはペガサスのエーテルに騎乗し、クドウに話しかけた。
「クドウ様、貴方は怒りでここに来ました。私たちは同じように歪虚に殺されます。そうして大切な人を殺された人々も多い。歪虚が忌み嫌われるのは、貴方が怒るのとまったく同じ……。私の知る歪虚は、願望に囚われ、元の目的すら忘れてしまいつつ走り続ける。中には悲しい存在もいます。
子を守るために負のマテリアルを吸い込むことを強要され、吸い込むだけが目的となった人もいます。私も、同じ選択をしたかもしれない。根源も同じです。歪虚を救う方法は私達にはありません……倒す以外には。他に方法があれば……どんなに良かったか!」
『……あんたは、いろんな経験を乗り越えて、その答えに辿り着いたんだな。俺は……』
クドウの心は彷徨っていた。それを打ち砕くように、マスティマのエストレリア・フーガに搭乗したキヅカ・リク(ka0038)が、命を削るように叫んだ。
「……あぁ、そうだ。倒し続ける。倒し続けなきゃいけない。此処に居るっていう事は、ファナティックブラッドが切り捨てた……あの世界で救われなかった願いだから!」
聖機盾「オラシオン」を構えたエストレリア・フーガが、シェオル・ノドが放つ炎のオーラを受け流していく。
「このシェオルが、この世界の人間だったのか。それとも遥か遠くの世界の誰かなのか、それは解らない。けど確かに、願いがあった。
それが保存されて、いつしか輝きを失ったから、こんな形で捨てられる。じゃあ、こいつらの願いはどうなる。この苦しみだけに変わった、歪んでしまった願いを誰が終わらせてやれる…! 目を逸らすわけには行かないんだよ!」
『リクか……俺は、もしかしたら、あんたのようになりたかったのかもしれない……だが、今は……』
クドウの言葉を聴いて、リクは躊躇うことなく告げた。
「生きていた頃のお前だってそうだろう、マコト! 英雄にはなれないって、何処かひねくれてたくせに、それでも諦めなかったじゃないか。
僕はそれを知ってる。一緒に作戦をこなした時間はほんの少しだった。けど、あの瞬間、僕らは間違いなく仲間だった。だから今ここにいる。こうして、絶望を終わらせるために。そこに願いが在った事を、証明するために…!」
『……仲間、か。それは過去の話だろう。今の俺は、シェオル・ノドと同じなのかもしれない』
「クドウ君、相手が歪虚だからではないよ。彼らが人を、私達の大切な人間を害すから、だね」
久我・御言(ka4137)の搭乗した刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」が可変機銃「ポレモスSGS」を楯形態にして、シェオル・ノドが放つ炎のオーラを受け流すが、至近距離から襲い掛かってきたシェオル・ノドに対して、スキルトレース:LV30による『攻性防壁』が発動し、シェオル一体が弾き飛ばされ、麻痺していた。
「……仲間を守るとは言え、シェオル・ノドを弾き飛ばすのは、クドウから見れば、味方を攻撃したと思われる恐れがある。気を付けろ」
マクシミリアンが刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」の前に移動して、黒いマスティマが振り下ろす大爪を、愛用の刀で受け止めていた。
「まずい……せめて後方にいる仲間だけでも」
エストレリア・フーガに騎乗したリクは、黒いマスティマの前方に移動すると、『プライマルシフト』を発動させ、刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」以外の仲間たちを、さらに後方へとワープ移動させた。
『なんのつもりで、シェオル・ノドに攻撃をしかけたんだ!!』
クドウが怒り、叫んだ。
刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」のコックピットに搭乗していた御言が、簡易スピーカーで応えた。
「すまない。クドウ君。彼らがこちらに攻撃の意思を向けない、というのなら争いにはならないのだがね」
『久我、なんの真似だ!!』
クドウの怒りは、御言に向けられていた。
「話の通じる相手ならばまず会話を設けよう。少なくとも私はそう考えている。ただ、そうであっても私は彼らを倒す方に意識を向ける」
『何故だ?!』
クドウの怒りは収まらなかった。それでも、御言は懸命に話し続けた。
「彼らが嘗ては人や精霊であったという話は確かに聞いている。
であるならば、彼らはその姿になる前から今の様な行動に出たのだろうか?
もし、それがこうなる前の彼らの意思に背く物であるならば、今の彼らはこうなる前、つまり人であった時とは別の存在になってしまった、というべきだからだよ。
己で合った者が、己の意思に反する。これを冒涜と言わずしてなんというのかね?
彼らを救う方法があるというなら捜してみるのは吝かではない。が、その間に彼らが人を襲わないという保証はどこにも無い。我らは万能ではない。できる事からしていかねばならないのだよ、クドウ君」
『そんなことは分かってる! 分かっていても、できないこともあるだろう?!』
クドウの黒いマスティマがマテリアルネイルで攻撃をしかけてきたが、御言の刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」は可変機銃「ポレモスSGS」楯形態で受け止めることができた。
「少なくとも私は、彼らに大事な仲間を手にかけられるのを容認はできない。可能性があるから、そういって己の手を汚すのを避けるくらいであるならば、私は喜んで汚れよう。
私は許さない。かつての彼らを冒涜するものを。人を今の様な自分に反する存在へと変貌させたものを。邪神を容認する事はできない!!」
『……邪神……?』
クドウは、何故か我に返った。言いようのない不安が、押し寄せてきた。
リクが万が一に備えて、エストレリア・フーガを黒いマスティマの真正面に移動させた。
「マコト! 僕は、お前からも、このシェオルからも邪神からも逃げたりなんかしない! 英雄、ガーディアン。そんな肩書でやってるんじゃない。僕がそう在りたいと願ったから闘う! こんな悲しみだけの連鎖が救いだなんて想わないから! お前はどうなんだ、マコト! それだけの力を……何のために望んだんだよ!」
『俺は……家族を守りたくて……だけど、もういないんだ』
クドウは当時のことを思い出して、苦悩していた。
飛翔の翼で飛行したペガサスのエーテルが、ユメリアを背に乗せ、黒いマスティマに接近していく。
「私達は有限の存在。できないことは多い。だから変化する。その中からできる事を見つけていくのです。私の旅は想いの欠片を、可能性にすること。その為に命を守り、戦うことです。元々私はこんなことを言えるほど、強くなかった。でも大切な人が教えてくれた。幸せは見つけるだけじゃない。作るんだって」
ユメリアが騎乗するペガサスを狙い、シェオル・ノドが炎のオーラを放ってきた。
その時、高瀬 未悠(ka3199)の想いがユメリアの心に伝わってきた。
(貴女のことを信頼してる。だから遠くにいても守るわ)
炎のオーラに巻き込まれるユメリア……だが、無傷であった。
未悠が守ってくれた……ユメリアは、そう信じていた。
黒いマスティマのモニター越しから、クドウが見たものは、自分に微笑みかけるユメリアだった。
「クドウ様、もし私達と同じなら、『今』を呪わず受け入れること。そして命と想いを誰かに託すことは……できますか?」
『……そんなこと、考えたこともない。できるはず、ないだろう』
「では、これから考えてみてください。私達の中には真実を知り、邪神に取り込まれた星や人、邪神すらも救おうと考えている人がいます。
私もそう。知恵を出し合い、可能なら全員が幸せにしたい道を模索しています。そのように変化するのが私達です」
ユメリアは、可能性を信じていた。
「貴方は大切な人たちを守りたいと思っているのではありませんか? マスティマに乗っていることがその証左です。その守る形を私達のように変えることはできますか? 共に手を取るように」
飛行したペガサスのエーテルに騎乗していたユメリアが、黒いマスティマの手元まで移動し、そっと手を差し伸べた。
『あんたは、俺が怖くないのか?』
この状況でも、自分に手を差し伸べる者がいる……クドウは驚きを隠せなかった。
「怖くはありません。クドウ様が怒っていたのは、歪虚というだけで忌み嫌われることが許せなかったからでしょう?」
穏やかに微笑むユメリアに対して、クドウは呆然とするばかりで、何も言えなかった。
グリフォンのジュリアが『ゲイルランパート』の結界を展開……騎乗していたアルトは、怒りを抑えて、クドウに声をかけた。
「そもそも彼らをシェオルに……歪虚に堕としたのは誰だ? 勝手に記録して何度も何度も地獄を味合わせているのは誰だ? 世界侵略の駒にしているのは誰だ!?
前提を履き違えるな。自分勝手な理屈で侵略を戦いを仕掛けてきてるのは邪神側だ。邪神などという存在がいなければシェオルなど生まれていないし、シェオルを殺すという状況自体が生まれていないんだ! それで理不尽に攻められて防衛したら、元ヒトだと言うのに殺すのかだと?」
アルトは、大切な人たちを守りたいと強く願っていた。その願いが叶わなかった現実もあった。
その事実を否定されるのは、アルト自身、許せなかったのかもしれない。
「貴様自身はいったい今何をやっている? もう堕ちたからと今生きている世界とそこに住まう人はどうでもいいと思ってるのか? ヒトも元ヒトも守りたい大切にしたいとでもいうのなら、内側から元凶である邪神の喉笛にでも噛みつく程度の気概は見せてくれるんだろうな?」
アルトの必死な叫びに、クドウは言い返すことができなかった。
沈黙が続く。
と思いきや、シェオル・ノドが炎のオーラを放ってくる。飛行していたグリフォンは、ゲイルランパートの結界によって、炎のオーラを妨害して弾き飛ばすことができた。
地上にいたフィロのコンフェッサーはディフェンダーを駆使し、シェオルたちが放った炎を受け払っていった。
「邪神戦争は、もうすぐ終盤に差し掛かるでしょう。貴方が悩める時間もあと僅かです。貴方の挑発に激発して攻撃した私達に、仕方なく反撃することにした。自分は何一つ悪くない。そういうポーズは、もう使えなくなります」
フィロがそう告げると、クドウから、ようやく返答があった。
『あんたには、俺がそんな風に見えるんだな。仕方なく反撃したことはない。本気で攻撃するなら、俺も遠慮はしないからな』
「そうですか。でしたら、一つ提案があります。人を救う方策、自分自身を救う方策を見つけられないなら、こちらに戻っていらっしゃい、クドウ様。こちらには確固たる意志が、目的があります。きちんと貴方に向き合い、寄り添って話し合う時間くらいは残されている筈です」
フィロの意外な提案に、クドウは少し狼狽えていた。
『……なにを……言っているんだ?』
躊躇うクドウに、御言が安心させるように告げた。
「クドウ君、もし良ければ私の問いにも答えてくれないかね? 君は彼らをどうしたい? 救いたいのかね? そうであるならば、君が戦うべきは彼らを変貌させたもの、望みを捻じ曲げ、人である事を捨てさせ、世界を食らおうとしている存在、即ち、邪神ではないかね?
だから共闘しよう、とは言わないよ。今はね。だが、今一度考えてみないかね? 君が何と戦うのかを……我が戦友よ。君の望みは、何かね?」
『……俺の……望み……』
クドウは、考えあぐねていた。
邪神ファナティックブラッドと本気で闘うつもりなのか?
勝てる見込みは、ほとんどない。そんな状況でも、諦めない覚醒者たち。
気が付けば、機体のモニターには、ペガサスのシェーンに騎乗したリーベの姿が見えた。
「マコト、また会えたな。いや、ここに来てくれたというべきか?」
『……リーベ……俺は……』
クドウが躊躇いがちに言うと、リーベがこう告げた。
「答える前に幾つか確認したいことがある。前提の確認だ。中途半端な答えなど欲しくあるまい?」
『……そうだな』
「出会った時から、マコトに家族がいないのは察しがついている。でなければ、ああいう風に人は見まい。が、私達はお前のことを余りにも知らない」
『俺も、あんたらのことは、よく分かっていない』
「シェオルについてだが、生態系ではない、彼らの生前の人となりだ。知っているのか?」
『詳しいことまでは分からない』
「ここは、どこだ。戦場か?」
『グラウンド・ゼロと呼ばれている場所だな』
「マコト、ありがとう。では、私の答えだ。私個人は戦場で出会ったからというものになる。相手が歪虚だろうがヒグマだろうが人間の盗賊だろうが同じだ。自身の生存本能だ。元々戦場には生死しかない。可哀想だから殺されてくださいという論理は、どの相手でも聞いてやれんし言う気もない。私は同情されるというのが死ぬ程嫌いでな。短命種の私はここにいる誰よりも早く死ぬが…」
リーベがその先を話そうとした時、クドウが思わず訊ねた。
『あんた、もしかして、強化人間だったのか?』
「落ち着け、マコト。勘違いするな。私はドラグーンという種族だ」
『あ、そうだったのか。早とちりしたな』
「ドラグーンは短命だが、それで堕ちてみろ、心が耐えられなかったのだろうとか知った風に言われたら最高にむかつく。故に、安易なことは言えない。マコト、お前とお前が守ろうとするものへ敬意を払って聞こう。お前達が定義する救いはそれぞれ何であるか。お前が彼らに願う救いと彼らがそれぞれ願う救いは一致しているか……恐らく違う。
全てを救うつもりがあるなら、それぞれの救いが何か…お前自身が知らないと駄目だろ。何も知らないけど散発的に救うだけなら、以前と変わらなくないか? それはもう嫌なんだろ?」
『……嫌か否かで言うならば、嫌と答えるな』
クドウがそう言うと、リーベは納得したように微笑した。
「ま、私は先日言った通りだ。お前が欲しくはあるがな?」
『……ん? どういう意味だ?』
クドウはまだ、リーベが言わんとしている意味が理解できなかった。
「まったく、鈍いヤツだな。マコト、帰るなら、シェオルと一緒に帰れよ。救いたい存在なら最後まで面倒見なさい。置いて帰るなら、お前の言う覚醒者様と大差ないぞ」
『確かにそうだな。俺は、そろそろ戻ることにする。こいつらだけを離脱させたところで、戦況は変わらないだろうがな』
クドウの返答を聴いていたユメリアは、安堵の笑みを浮かべていた。
「でしたら、まずは互いに撤退した方が良いのではないでしょうか。クドウ様も今後のことは、お一人でじっくりと考えたいでしょうから」
エストレリア・フーガに搭乗していたリクが、簡易スピーカーを使い、クドウに声をかけた。
「マコト、ここにいるシェオルたちも連れていくのか?」
『一緒に連れて帰ることにする。何もできないとは言え、この場にいるシェオルたちを置き去りにすることはできないからな。手間を取らせて、すまなかった』
クドウはそう告げた後、黒いマスティマの『プライマルシフト』を発動させ、自身の機体とシェオルたちを別の場所へワープさせ、この場から姿を消した。
黒いマスティマが消え去った場所を、リーベは見つめていた。
(歪虚を切り捨てる覚醒者と思ってるようだが、覚醒者を切り捨てる自分には気づいてないのな。
非覚醒者や残り僅かな命の強化人間は切り捨てるのか? 本当に、不器用で、可愛い坊やだ)
リーベからすれば、クドウは家族のように想える相手だった。
ユメリアは、リーベとクドウの会話を聴いて、もしかしたら……と感じていたが、今は黙っていることにした。言わぬが華、という言葉もあるが、いずれ互いに手を重ね合うことができると信じて。
(クドウ様、貴方を信じている人は、貴方が思っている以上にいるのかもしれませんよ)
リクは、マコトに言われたことを反芻して、思いを巡らしていた。
(マコトが僕に、あんなこと言うなんて……)
『リクか……俺は、もしかしたら、あんたのようになりたかったのかもしれない……だが、今は……』
僕のように? お前が思うほど、僕は強くないけど。
「死ぬのは……終わるのは、僕だって怖いさ。でも…だからこそ『今』っていう瞬間って何より大切だと思えるんだ。輝いていられるんだ。
それを、託されて、託して……生きるってそういうことなんだよ」
見送るように、リクが呟いた。
御言は、去っていったクドウのことを大切な戦友だと思っていた。
「クドウ君、返事は次回に期待しているよ。私はこれからも、君の戦友だ」
信じているという言葉だけでは足りないと、御言は思っていた。
リーベに促されたクドウの救出により、この場にいたシェオルたちはいなくなったが、各地では、シェオル型歪虚が出没し、ハンターたちは、その度に出撃を繰り返していた。
シェオル・ノドたちは、炎のオーラを飛ばし、ハンターたちに襲い掛かってきた。
フィロ(ka6966)が搭乗するコンフェッサーが、ディフェンダーを駆使し、シェオルたちが放った炎を受け流していく。
取りこぼした炎のオーラを、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は軽々と回避していく。
グリフォンのジュリアは、アルトの指示で『ゲイルランパート』の結界を張り巡らせた。
ユメリア(ka7010)が聖杖「アルペジオ」を地面に突き立て、『ディヴァインウィル』による不可視の境界を作り上げていく。ここから先は、進ませないという確固たる意志を貫く様に。
リーベ・ヴァチン(ka7144)は仲間を支援するため、ペガサスのシェーンに指示を出し、『エナジーレイン』を仲間たちに施していた。
最初に話し始めたのは、アルトだった。
「そうだな、存在を終わらすことを殺すというのなら殺し続けるだろう。元がヒトだから可哀そうだから殺すなとでもいうのか? それで、この世界の人が死ぬのを許容しろとでも?」
『違うな。俺は、そんなことは思っていない。あんたの意思が聴きたいだけだ』
黒いマスティマの簡易スピーカーから、クドウ・マコトの声が響いた。
アルトは、クドウに対して本気でイラついていたが、マクシミリアンの制止もあり、落ち着き払っているように見えた。
「……私はハンターとして初めての依頼で助けれた人の笑顔を見た時から、それらを一つでも多く見たくて、一人でも多くの人が救いたくて、強さを求め止まらずに進み続けた。
それでも届かない。全てを救えるような力があるのならそうしよう。
だが、神ですらそんなことは不可能だ。だからこそ私は選んだ、私の剣は私の大切なモノを守るために振るうと。私がシェオルに与えてやれるのは、滅びをもって永遠の地獄を終わらせてやる事だけだ」
『……あんたは、強い人だな。技術的なことも含めてな。俺は、そこまで割り切れない』
クドウは淡々と告げていた。
フィロがコンフェッサーの簡易スピーカーを通して問いかけた。
「では、逆にお伺いします、クドウ様。貴方はどうやってシェオル・ノドにされた方々を救うおつもりですか。生きたいという願いをファナティックブラッドに歪められ、歪虚に落とされ、元は只人でも無理矢理姿を変えられ力を与えられ、戦場に送り込まれ、苦しみながらも戦わせられる人々を、貴方はどうやって救うつもりですか」
『それは……俺にも分からないな。あんたなら、シェオル・ノドを救えるというのか?』
憤りを隠せないクドウに、フィロは冷静に告げた。
「私もマクシミリアン様と同じです。私も人としてその方々を救うために行動しております。シェオル・ノドにされた方々が苦しんでいると知った貴方は、その結果、何をなさるのですか。苦しみを長引かせるだけと知っていて何もせずそこに立ち続け、何もしない自分への苛立ちを私達に八つ当たりして、苦しむ人々が更に長く苦しむよう手を貸して。
確かに貴方の望みは此方側では手に入らなかったのかもしれません。しかしそちらに居ても、貴方の望みが叶うとは思えません。マスティマに乗った者が英雄ということではありません。苦しむ人々を救った者が英雄です。その機体で貴方は、シェオル・ノドにされた苦しむ方々に何をなさるつもりです。苦しむ時間を長引かせる為だけに、ただそうやってその方々の前に立ち続けるつもりですか」
フィロの率直な言葉は、クドウの苦しい想いをさらに締め付けていた。
『……だからこそ、俺は自分の無力さに怒りを覚えている。ただ見ているだけで、何もしてやれないからな』
ユメリアはペガサスのエーテルに騎乗し、クドウに話しかけた。
「クドウ様、貴方は怒りでここに来ました。私たちは同じように歪虚に殺されます。そうして大切な人を殺された人々も多い。歪虚が忌み嫌われるのは、貴方が怒るのとまったく同じ……。私の知る歪虚は、願望に囚われ、元の目的すら忘れてしまいつつ走り続ける。中には悲しい存在もいます。
子を守るために負のマテリアルを吸い込むことを強要され、吸い込むだけが目的となった人もいます。私も、同じ選択をしたかもしれない。根源も同じです。歪虚を救う方法は私達にはありません……倒す以外には。他に方法があれば……どんなに良かったか!」
『……あんたは、いろんな経験を乗り越えて、その答えに辿り着いたんだな。俺は……』
クドウの心は彷徨っていた。それを打ち砕くように、マスティマのエストレリア・フーガに搭乗したキヅカ・リク(ka0038)が、命を削るように叫んだ。
「……あぁ、そうだ。倒し続ける。倒し続けなきゃいけない。此処に居るっていう事は、ファナティックブラッドが切り捨てた……あの世界で救われなかった願いだから!」
聖機盾「オラシオン」を構えたエストレリア・フーガが、シェオル・ノドが放つ炎のオーラを受け流していく。
「このシェオルが、この世界の人間だったのか。それとも遥か遠くの世界の誰かなのか、それは解らない。けど確かに、願いがあった。
それが保存されて、いつしか輝きを失ったから、こんな形で捨てられる。じゃあ、こいつらの願いはどうなる。この苦しみだけに変わった、歪んでしまった願いを誰が終わらせてやれる…! 目を逸らすわけには行かないんだよ!」
『リクか……俺は、もしかしたら、あんたのようになりたかったのかもしれない……だが、今は……』
クドウの言葉を聴いて、リクは躊躇うことなく告げた。
「生きていた頃のお前だってそうだろう、マコト! 英雄にはなれないって、何処かひねくれてたくせに、それでも諦めなかったじゃないか。
僕はそれを知ってる。一緒に作戦をこなした時間はほんの少しだった。けど、あの瞬間、僕らは間違いなく仲間だった。だから今ここにいる。こうして、絶望を終わらせるために。そこに願いが在った事を、証明するために…!」
『……仲間、か。それは過去の話だろう。今の俺は、シェオル・ノドと同じなのかもしれない』
「クドウ君、相手が歪虚だからではないよ。彼らが人を、私達の大切な人間を害すから、だね」
久我・御言(ka4137)の搭乗した刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」が可変機銃「ポレモスSGS」を楯形態にして、シェオル・ノドが放つ炎のオーラを受け流すが、至近距離から襲い掛かってきたシェオル・ノドに対して、スキルトレース:LV30による『攻性防壁』が発動し、シェオル一体が弾き飛ばされ、麻痺していた。
「……仲間を守るとは言え、シェオル・ノドを弾き飛ばすのは、クドウから見れば、味方を攻撃したと思われる恐れがある。気を付けろ」
マクシミリアンが刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」の前に移動して、黒いマスティマが振り下ろす大爪を、愛用の刀で受け止めていた。
「まずい……せめて後方にいる仲間だけでも」
エストレリア・フーガに騎乗したリクは、黒いマスティマの前方に移動すると、『プライマルシフト』を発動させ、刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」以外の仲間たちを、さらに後方へとワープ移動させた。
『なんのつもりで、シェオル・ノドに攻撃をしかけたんだ!!』
クドウが怒り、叫んだ。
刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」のコックピットに搭乗していた御言が、簡易スピーカーで応えた。
「すまない。クドウ君。彼らがこちらに攻撃の意思を向けない、というのなら争いにはならないのだがね」
『久我、なんの真似だ!!』
クドウの怒りは、御言に向けられていた。
「話の通じる相手ならばまず会話を設けよう。少なくとも私はそう考えている。ただ、そうであっても私は彼らを倒す方に意識を向ける」
『何故だ?!』
クドウの怒りは収まらなかった。それでも、御言は懸命に話し続けた。
「彼らが嘗ては人や精霊であったという話は確かに聞いている。
であるならば、彼らはその姿になる前から今の様な行動に出たのだろうか?
もし、それがこうなる前の彼らの意思に背く物であるならば、今の彼らはこうなる前、つまり人であった時とは別の存在になってしまった、というべきだからだよ。
己で合った者が、己の意思に反する。これを冒涜と言わずしてなんというのかね?
彼らを救う方法があるというなら捜してみるのは吝かではない。が、その間に彼らが人を襲わないという保証はどこにも無い。我らは万能ではない。できる事からしていかねばならないのだよ、クドウ君」
『そんなことは分かってる! 分かっていても、できないこともあるだろう?!』
クドウの黒いマスティマがマテリアルネイルで攻撃をしかけてきたが、御言の刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」は可変機銃「ポレモスSGS」楯形態で受け止めることができた。
「少なくとも私は、彼らに大事な仲間を手にかけられるのを容認はできない。可能性があるから、そういって己の手を汚すのを避けるくらいであるならば、私は喜んで汚れよう。
私は許さない。かつての彼らを冒涜するものを。人を今の様な自分に反する存在へと変貌させたものを。邪神を容認する事はできない!!」
『……邪神……?』
クドウは、何故か我に返った。言いようのない不安が、押し寄せてきた。
リクが万が一に備えて、エストレリア・フーガを黒いマスティマの真正面に移動させた。
「マコト! 僕は、お前からも、このシェオルからも邪神からも逃げたりなんかしない! 英雄、ガーディアン。そんな肩書でやってるんじゃない。僕がそう在りたいと願ったから闘う! こんな悲しみだけの連鎖が救いだなんて想わないから! お前はどうなんだ、マコト! それだけの力を……何のために望んだんだよ!」
『俺は……家族を守りたくて……だけど、もういないんだ』
クドウは当時のことを思い出して、苦悩していた。
飛翔の翼で飛行したペガサスのエーテルが、ユメリアを背に乗せ、黒いマスティマに接近していく。
「私達は有限の存在。できないことは多い。だから変化する。その中からできる事を見つけていくのです。私の旅は想いの欠片を、可能性にすること。その為に命を守り、戦うことです。元々私はこんなことを言えるほど、強くなかった。でも大切な人が教えてくれた。幸せは見つけるだけじゃない。作るんだって」
ユメリアが騎乗するペガサスを狙い、シェオル・ノドが炎のオーラを放ってきた。
その時、高瀬 未悠(ka3199)の想いがユメリアの心に伝わってきた。
(貴女のことを信頼してる。だから遠くにいても守るわ)
炎のオーラに巻き込まれるユメリア……だが、無傷であった。
未悠が守ってくれた……ユメリアは、そう信じていた。
黒いマスティマのモニター越しから、クドウが見たものは、自分に微笑みかけるユメリアだった。
「クドウ様、もし私達と同じなら、『今』を呪わず受け入れること。そして命と想いを誰かに託すことは……できますか?」
『……そんなこと、考えたこともない。できるはず、ないだろう』
「では、これから考えてみてください。私達の中には真実を知り、邪神に取り込まれた星や人、邪神すらも救おうと考えている人がいます。
私もそう。知恵を出し合い、可能なら全員が幸せにしたい道を模索しています。そのように変化するのが私達です」
ユメリアは、可能性を信じていた。
「貴方は大切な人たちを守りたいと思っているのではありませんか? マスティマに乗っていることがその証左です。その守る形を私達のように変えることはできますか? 共に手を取るように」
飛行したペガサスのエーテルに騎乗していたユメリアが、黒いマスティマの手元まで移動し、そっと手を差し伸べた。
『あんたは、俺が怖くないのか?』
この状況でも、自分に手を差し伸べる者がいる……クドウは驚きを隠せなかった。
「怖くはありません。クドウ様が怒っていたのは、歪虚というだけで忌み嫌われることが許せなかったからでしょう?」
穏やかに微笑むユメリアに対して、クドウは呆然とするばかりで、何も言えなかった。
グリフォンのジュリアが『ゲイルランパート』の結界を展開……騎乗していたアルトは、怒りを抑えて、クドウに声をかけた。
「そもそも彼らをシェオルに……歪虚に堕としたのは誰だ? 勝手に記録して何度も何度も地獄を味合わせているのは誰だ? 世界侵略の駒にしているのは誰だ!?
前提を履き違えるな。自分勝手な理屈で侵略を戦いを仕掛けてきてるのは邪神側だ。邪神などという存在がいなければシェオルなど生まれていないし、シェオルを殺すという状況自体が生まれていないんだ! それで理不尽に攻められて防衛したら、元ヒトだと言うのに殺すのかだと?」
アルトは、大切な人たちを守りたいと強く願っていた。その願いが叶わなかった現実もあった。
その事実を否定されるのは、アルト自身、許せなかったのかもしれない。
「貴様自身はいったい今何をやっている? もう堕ちたからと今生きている世界とそこに住まう人はどうでもいいと思ってるのか? ヒトも元ヒトも守りたい大切にしたいとでもいうのなら、内側から元凶である邪神の喉笛にでも噛みつく程度の気概は見せてくれるんだろうな?」
アルトの必死な叫びに、クドウは言い返すことができなかった。
沈黙が続く。
と思いきや、シェオル・ノドが炎のオーラを放ってくる。飛行していたグリフォンは、ゲイルランパートの結界によって、炎のオーラを妨害して弾き飛ばすことができた。
地上にいたフィロのコンフェッサーはディフェンダーを駆使し、シェオルたちが放った炎を受け払っていった。
「邪神戦争は、もうすぐ終盤に差し掛かるでしょう。貴方が悩める時間もあと僅かです。貴方の挑発に激発して攻撃した私達に、仕方なく反撃することにした。自分は何一つ悪くない。そういうポーズは、もう使えなくなります」
フィロがそう告げると、クドウから、ようやく返答があった。
『あんたには、俺がそんな風に見えるんだな。仕方なく反撃したことはない。本気で攻撃するなら、俺も遠慮はしないからな』
「そうですか。でしたら、一つ提案があります。人を救う方策、自分自身を救う方策を見つけられないなら、こちらに戻っていらっしゃい、クドウ様。こちらには確固たる意志が、目的があります。きちんと貴方に向き合い、寄り添って話し合う時間くらいは残されている筈です」
フィロの意外な提案に、クドウは少し狼狽えていた。
『……なにを……言っているんだ?』
躊躇うクドウに、御言が安心させるように告げた。
「クドウ君、もし良ければ私の問いにも答えてくれないかね? 君は彼らをどうしたい? 救いたいのかね? そうであるならば、君が戦うべきは彼らを変貌させたもの、望みを捻じ曲げ、人である事を捨てさせ、世界を食らおうとしている存在、即ち、邪神ではないかね?
だから共闘しよう、とは言わないよ。今はね。だが、今一度考えてみないかね? 君が何と戦うのかを……我が戦友よ。君の望みは、何かね?」
『……俺の……望み……』
クドウは、考えあぐねていた。
邪神ファナティックブラッドと本気で闘うつもりなのか?
勝てる見込みは、ほとんどない。そんな状況でも、諦めない覚醒者たち。
気が付けば、機体のモニターには、ペガサスのシェーンに騎乗したリーベの姿が見えた。
「マコト、また会えたな。いや、ここに来てくれたというべきか?」
『……リーベ……俺は……』
クドウが躊躇いがちに言うと、リーベがこう告げた。
「答える前に幾つか確認したいことがある。前提の確認だ。中途半端な答えなど欲しくあるまい?」
『……そうだな』
「出会った時から、マコトに家族がいないのは察しがついている。でなければ、ああいう風に人は見まい。が、私達はお前のことを余りにも知らない」
『俺も、あんたらのことは、よく分かっていない』
「シェオルについてだが、生態系ではない、彼らの生前の人となりだ。知っているのか?」
『詳しいことまでは分からない』
「ここは、どこだ。戦場か?」
『グラウンド・ゼロと呼ばれている場所だな』
「マコト、ありがとう。では、私の答えだ。私個人は戦場で出会ったからというものになる。相手が歪虚だろうがヒグマだろうが人間の盗賊だろうが同じだ。自身の生存本能だ。元々戦場には生死しかない。可哀想だから殺されてくださいという論理は、どの相手でも聞いてやれんし言う気もない。私は同情されるというのが死ぬ程嫌いでな。短命種の私はここにいる誰よりも早く死ぬが…」
リーベがその先を話そうとした時、クドウが思わず訊ねた。
『あんた、もしかして、強化人間だったのか?』
「落ち着け、マコト。勘違いするな。私はドラグーンという種族だ」
『あ、そうだったのか。早とちりしたな』
「ドラグーンは短命だが、それで堕ちてみろ、心が耐えられなかったのだろうとか知った風に言われたら最高にむかつく。故に、安易なことは言えない。マコト、お前とお前が守ろうとするものへ敬意を払って聞こう。お前達が定義する救いはそれぞれ何であるか。お前が彼らに願う救いと彼らがそれぞれ願う救いは一致しているか……恐らく違う。
全てを救うつもりがあるなら、それぞれの救いが何か…お前自身が知らないと駄目だろ。何も知らないけど散発的に救うだけなら、以前と変わらなくないか? それはもう嫌なんだろ?」
『……嫌か否かで言うならば、嫌と答えるな』
クドウがそう言うと、リーベは納得したように微笑した。
「ま、私は先日言った通りだ。お前が欲しくはあるがな?」
『……ん? どういう意味だ?』
クドウはまだ、リーベが言わんとしている意味が理解できなかった。
「まったく、鈍いヤツだな。マコト、帰るなら、シェオルと一緒に帰れよ。救いたい存在なら最後まで面倒見なさい。置いて帰るなら、お前の言う覚醒者様と大差ないぞ」
『確かにそうだな。俺は、そろそろ戻ることにする。こいつらだけを離脱させたところで、戦況は変わらないだろうがな』
クドウの返答を聴いていたユメリアは、安堵の笑みを浮かべていた。
「でしたら、まずは互いに撤退した方が良いのではないでしょうか。クドウ様も今後のことは、お一人でじっくりと考えたいでしょうから」
エストレリア・フーガに搭乗していたリクが、簡易スピーカーを使い、クドウに声をかけた。
「マコト、ここにいるシェオルたちも連れていくのか?」
『一緒に連れて帰ることにする。何もできないとは言え、この場にいるシェオルたちを置き去りにすることはできないからな。手間を取らせて、すまなかった』
クドウはそう告げた後、黒いマスティマの『プライマルシフト』を発動させ、自身の機体とシェオルたちを別の場所へワープさせ、この場から姿を消した。
黒いマスティマが消え去った場所を、リーベは見つめていた。
(歪虚を切り捨てる覚醒者と思ってるようだが、覚醒者を切り捨てる自分には気づいてないのな。
非覚醒者や残り僅かな命の強化人間は切り捨てるのか? 本当に、不器用で、可愛い坊やだ)
リーベからすれば、クドウは家族のように想える相手だった。
ユメリアは、リーベとクドウの会話を聴いて、もしかしたら……と感じていたが、今は黙っていることにした。言わぬが華、という言葉もあるが、いずれ互いに手を重ね合うことができると信じて。
(クドウ様、貴方を信じている人は、貴方が思っている以上にいるのかもしれませんよ)
リクは、マコトに言われたことを反芻して、思いを巡らしていた。
(マコトが僕に、あんなこと言うなんて……)
『リクか……俺は、もしかしたら、あんたのようになりたかったのかもしれない……だが、今は……』
僕のように? お前が思うほど、僕は強くないけど。
「死ぬのは……終わるのは、僕だって怖いさ。でも…だからこそ『今』っていう瞬間って何より大切だと思えるんだ。輝いていられるんだ。
それを、託されて、託して……生きるってそういうことなんだよ」
見送るように、リクが呟いた。
御言は、去っていったクドウのことを大切な戦友だと思っていた。
「クドウ君、返事は次回に期待しているよ。私はこれからも、君の戦友だ」
信じているという言葉だけでは足りないと、御言は思っていた。
リーベに促されたクドウの救出により、この場にいたシェオルたちはいなくなったが、各地では、シェオル型歪虚が出没し、ハンターたちは、その度に出撃を繰り返していた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/07 18:02:14 |
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【相談卓】この気持ちを伝えて ユメリア(ka7010) エルフ|20才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/06/07 20:11:40 |