頑固オヤジの料理店をプロデュース!

マスター:青木川舟

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/01/28 19:00
完成日
2015/02/08 15:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●小料理屋『ひげ』
 とあるソサエティ職員には、休日の楽しみがあった。それは近所の大通りから細い裏路地を抜けて行った先にある、こじんまりとした小料理屋『ひげ』でランチを楽しむことだった。この『ひげ』、外見は小汚く、看板も剥げかけなので、何も知らない通行人が見てもまさか営業中だなんて思わないようなオンボロ店舗だが、彼はこの店のジューシーなステーキの味が好きだった。彼はいつものように大ぶりなステーキを注文。その美味さに思わず笑みを零しながらぺろりと平らげ、食後のワインを楽しんでいたのだが、何故か注文した覚えの無い料理が運ばれてきた。
「なんですかコレ? 私頼んでませんけど」
「ええ、実はこれ、試作品なんです」
 店主の娘で、配膳係をしているマヌエラの話によると、最近店の客足が伸び悩んでおり、このままでは商売を続けていけないとのこと。なんとか立て直しを図る為に、色々と新メニューを試作しているのだそうだ。確かに、職員が来店したとき、お昼時にも関わらずいつも店はガラガラだった。そこが気に入ってもいたのだが、休日の楽しみが無くなってしまうのは困る。
「まあ、このご時世にメニューがステーキだけじゃ苦しいですよね。私はここのステーキが好きだから良いですけど、最近じゃ豊富なメニューを売りにしてる店も多いですし」
 そう、なんとこの店、メニューは『ステーキ』しかないのだ。とはいえ、店主がその日の最もコンディションの良い肉を厳選し、豊富な経験に裏打ちされた最適な焼き加減と味付けで仕上げてくれるステーキは絶品であり、しかも値段もお手頃プライス。まさに隠れた名店なのだ。
「それで新作の試作品を私に食べてみてほしいってわけですか。どれどれ……」
 職員はさっそく試作品にナイフを入れる。外見は普通のステーキと変わらないが、一体どんな秘密が隠されているというのか――
「――――――――んー……? 美味しいけど……これ普通のステーキと何が違うんですか?」
「……さ、さあ……」
「なんだ、お前さん。数少ない常連のくせにそんなことも分からんのか」
 職員とマヌエラが2人で首を捻っていると、調理場からいかにも頑固オヤジという風貌の店主が姿を現した。店名の通り、立派な口髭を蓄えている。
「いつもは『塩、胡椒』の順番で味付けするところを『胡椒、塩』にしたんだよ」
「さすがにそれを別メニューと言い張るのは無理があるんじゃないですか店主」
「なんだ、マヌエラと同じこと言いやがって」
「いやだって味同じですもん。新メニューと言うからには、ガラッとパターン変えていかないと。例えばホラ、最近流行ってるじゃないですか、挽き肉を丸めて焼いたハンバーグとかいうやつ。あと肉をたっぷりコトコト煮込んだシチューみたいな料理とか」
「馬鹿野郎!」
 店主が一喝し、職員を黙らせた。
「ウチはひい爺さんの代からステーキ一本でやってんだ! 肉をミンチにしたり柔らかく煮込んだり、そんな軟弱な料理なんぞ出せんわ! 男ならステーキ食わんかい! 男は皆、硬い肉を噛み締めて大人になっていくんだ!」
「もう新メニュー考える気無いじゃないですか……」
 店主は鼻息荒く、店の裏手に引っ込んでしまった。マヌエラが申し訳なさそうにお辞儀をする。
「申し訳ありません……父が相変わらずで……」
「いえいえ、ああいう方なのは存じてますし……でも実際問題、なんとかしないと経営は苦しいんですよね。新メニュー以外には何かやられてるんですか?」
「大したことは……父はステーキ以外には無頓着な人ですし、私1人ではいろいろと限界が……」
 肩を落とすマヌエラ。職員は、なんとか彼女ら親子と『ひげ』を救う良い方法は無いかと頭を捻ってみるが、ここであれこれ言ったところで店主があの調子ではどうしようもない。
 ふと、職員の頭に光明が差した。彼自身には方法は浮かばないが、彼の職場には様々な技に長けた者達が跋扈しているではないか。こういうときこそ職権をフル活用せずにどうするというのだ。
 彼はマヌエラに、この店の再生をハンターズソサエティに依頼してはどうかと提案した。藁にも縋る思いの彼女は、これに了承した。後から父の許可も得ておくとのことだった。
「あ、そういえばお客さん、まだお腹に余裕がおありなら、これどうぞ」
 そう思い出したようにマヌエラが奥から運んできたのは、数種類のベリーをふんだんに使ったタルトだった。
「私が焼いたんです。後で父と食べようと思っていたんですが、2人では食べきれないので、1切れどうぞ」
「え、いいんですか? 悪いなぁ」

●ハンターズソサエティ
「いや~、そのタルトの美味しいのなんのって――ああそんな話は置いといて」
 依頼内容の説明に来た職員は、話をまとめる。
「というわけで、今回の依頼は、小料理屋『ひげ』の経営の立て直しです。具体的には、ランチタイムに満席状態が続くくらい繁盛できれば万々歳という感じですね。マヌエラさんの話によると、一応店主の許可は得られたそうですが、あまり歓迎はされていないようで……まあその辺も考慮に入れておいてください。経費はソサエティから出すように話を通してあるので、何卒、『ひげ』の親子と、私の休日の楽しみの為に、どうかよろしくお願いします!」
 職員は集まったハンターたちに、ぺこりと頭を下げた。

リプレイ本文

●駆けつけ1枚
「おまちどおさまです。ステーキ6枚、お持ちしました。えっと、『よく焼き』をご注文の方は――」
「自分です」
 静架(ka0387)がスッと手を上げた。彼の前にはカッチカチに焼かれた肉が置かれる。
「そんな肉汁も干からびちまったようなやつで味が分かんのかね」
 厨房から出てきた店主がぶつくさ愚痴を垂れる。それを聞いたエルバッハ・リオン(ka2434)が微笑んだ。
「とは言いつつも、『よく焼き』の注文は聴いてくださったのですね」
「へんっ……俺だってな、色々考えてんだよ」
 店主が眉間にしわを寄せる。
 『ひげ』を訪れたハンター達は――
「まずは客としてオヤジ自慢のステーキとやらをごちそうになろうじゃねぇか」
 ――というオウル(ka2420)の提案で、とりあえず食べてみることにした。全員特に反対はしなかった。というかむしろ同じく食べてみたかった者の方が多かった。ちなみに代金はソサエティの経費で賄われるが、オウルだけは自腹を切った。
「では、冷めないうちにいただくとしよう」
 クラックス・ランバート(ka3980)がチラリとパール‐06(ka3750)を見ながら言った。彼女はステーキに馴染みが無いのか、鉄板の上でジュウジュウと小気味良い音を奏でるサーロインを不思議そうに眺めたり、匂いを嗅いで目を見開いたりしている。
 店主とマヌエラが見守る中、各自ステーキを己の口に運ぶ。
「美味しい……!」
 最初に声を上げたのはヴァルナ=エリゴス(ka2651)だった。
「噛み締めた途端、肉汁が溢れ出てきます。むせ返るようなように濃厚な脂の旨み。しかし不思議としつこくなく、ほろほろとほどける肉の繊維と絡まり合って……ああ、まさに『肉を食べている』のだと実感します」
 さらにクラックスが続く。
「味付けも絶妙だ。シンプルな塩胡椒のみだが、生臭さを抑え、脂の旨みを最大限に生かすバランスに組み立てられている……! 火の通り加減も素晴らしい。肉汁を中に閉じ込めることで旨みが凝縮され、奥歯で噛み締めた瞬間、爆弾が弾け飛ぶように旨みが迸る!」
 おまけにオウルまで。
「それでいて肉本来の歯ごたえも失われちゃいねぇ! 繊維の1つ1つがしっかりとした弾力と味わいを保っているから、飲み込むのが勿体ねぇくらいだぜ!」
「な、なぜ皆さんそのように滑らかにグルメレポ風のコメントが出てくるのですか……?」
 エルバッハは戸惑いつつ周りを見回しつつも、同じく舌鼓を打つ。
「本当に美味しいです。これほどの味を持ちながら客の入りが芳しくないということは、やはり知名度の問題でしょうか。宣伝が必要ですね」
「メニューも改善が必要だと思いますよ」
 静架が付け合わせの茹で野菜を飲み込みながら言った。
「味付けなどにも選択肢があっていいと思います。肉も、出来ればもっと多くの部位を味わってみたいですし」
「サラダやスープ、デザートもあれば、コース料理のようになりますね」
 ヴァルナが口を拭きながら提案すると、目を輝かせてステーキを頬張っていたパールが、両手をブンブン振って何かをアピール。それを見たクラックスが頷いた。
「ああ、確かに外観が分かりづらいのは問題だな。一目で営業中の料理店だと分からなければ客も入らない」
「おいおいちょっと待ってくれ」
 そこへ店主が割って入った。
「お前さんら勝手に色々言ってくれるがな、俺ぁステーキ以外作る気はねぇからな」
「ちょっとお父さん……」
 マヌエラが宥めようとするも、店主は止まらない。
「お前もお前だ。勝手にこんな奴ら呼びやがって。ハンターつっても、料理は素人だろう。なんでそいつらにあーだこーだ言われにゃならん」
「まあまあ、一先ず落ち着きなよオヤジ」
 オウルが席を立って、店主の背をポンポンっと叩いた。
「俺も店を持ってるからあんたの気持ちは分かるぜ。正直俺はあんた派だよ。肉の味ももちろんだし、あんたの心意気も気に入った。だがな――」
 オウルはマヌエラの方を見やった。
「心意気を貫くのは良い。でもそれで店を潰しちまったら、あんたのプライドも、受け継いできた伝統も、丸ごと失っちまうんだぜ? 娘さんをこの若さで路頭に迷わす気かい?」
「ぬぅ……」
 店主は黙ってしまう。オウルはニカッと微笑んで続けた。
「一本筋を通すのもプロだが、客の要望に応えつつ、さらに期待を越えた物を提供して120%満足させるのもプロってもんだぜ」
「お父さん……」
 オウルとマヌエラ、さらにハンター達に見つめられ、店主はふいっと顔を逸らした。
「……分かったよ」
 そう呟くように言うと、彼は厨房へ引っ込んでしまった。
「店主は分かってくれただろうか」
 クラックスが呟くと、パールがぴこぴこと両腕を振り回した。それを見たエルバッハが微笑んだ。
「そうですね。店主とてこの店を守りたい心は同じはず。きっと分かってくれます」
「では、これから何に取り掛かるか、さっそく話し合いましょう」
 ヴァルナの言葉に、静架が決意に満ちた目で頷いた。
「肉の為に、一肌脱ぎましょう」

●本日、店内改装の為休業中
 翌朝、マヌエラが店に降りてくると、店内が様変わりしていた。
「あれっ? お店間違えた?」
 彼女が素でそんなことを言ってしまうのも仕方ない。壁の染みは消え、埃が溜まっていた床は磨き上げられてピカピカ。店内が隅々まで綺麗になっている。これだけでも別な建物のようだ。
「おはようございます」
 茫然としていた彼女に声を掛けたのは、三角巾にマスクの完全装備でテーブルを磨いていた静架だった。
「お、おはようございます。これって静架さんが?」
「はい。何事も清潔さは基本ですから。特に飲食店ですし」
「うう、今まで疎かにしていてごめんなさい……こんなに早くからすみません」
「いえ。それに他の方々も、もう作業始めていますよ」
 静架がそう言ったのとほぼ同時に、裏口の方からがたがたという物音が聞こえてきた。店主が仕入れから帰ってきたらしい。
「マヌエラ居るかー? ちょっと手伝ってくれー!」
「あ、はーい!」
 マヌエラが厨房の方へ行くと、そこでは店主とオウルが、荷車から大量の肉の塊を運んでいた。ヴァルナも既に厨房に居て、調理道具などを準備している。
「どうしたのこんなに沢山……」
「今日は新メニューの試作ですから、色々な部位のお肉を仕入れて用意していただいたのですよ」
 ヴァルナが説明した。いつもは店主が厳選したとっておきの部位のみ仕入れていたので、ここまでの量はなかったのだ。
「うちのボロ荷車が壊れるかと思ったぞ!」
「はははっ! そんときゃ背負って運ぶまでだぜ!」
 肉を運びながら威勢よく話している店主とオウル。昨日は意見が衝突した2人だが、互いに店を持つ一本気な男同士、話し合いの後で酒を飲みつつ腹を割って語り合っていたらすっかり意気投合してしまったらしかった。
 2人の様子を微笑ましげに眺めつつ、マヌエラも料理の支度を始めた。

●一方その頃店の前では
「~♪ ~♪」
「ふむ……アーティスティックさをもう少し抑えて、シックな雰囲気を出せないだろうか。老舗っぽさも大事にしたい」
 パールとクラックスがペンキで服を汚しながら作業をしているところへ、エルバッハが現れた。
「精が出ますね」
「ああ、おはよう――ってその格好は……」
「うふふ、いかがでしょうか?」
 エルバッハは自前のウェイトレス服を着用しているのだが、これが大変な代物で、胸元がざっくりぱっくり大きく開いている上に、ウエストを軽く絞っているので、エルバッハの大きな胸が、好奇心旺盛な2人の子供のように今にも揃って窓から頭を覗かせてしまいそうだ。真っ白いフリルのあしらわれたスカートも丈がこれでもかというくらいに短く、彼女の輝く太ももの大部分が露出している。
「リアルブルーではこのような給仕服が流行りなのでしょう?」
「一部の特殊な店でだ……その服は客引き用のものか? なら後で俺が作るつもりだったチラシを配るのを手伝ってくれ」
「ええ勿論。私もそのつもりでした。この服と私の魅力があれば、宣伝効果も最高でしょう。知名度急上昇間違いなしです」
「……~!」
 パールがハケを持った手を笑顔で掲げた。どうやら制作していた物が完成したらしい。エルバッハが覗き込む。
「これは案内板ですね。地図も分かりやすいですし、ひげのマークも可愛らしくて素晴らしいです」
「~っ♪♪」
「終わったかパール、ではこちらも頼む。文字を入れる位置なんだが――」
 クラックスとパールがデザインについて相談している間に、エルバッハが何かを見つけた。
「これは何ですか? 旗のようですが」
「ああ、旗に間違いない」
 クラックスが、戸口の脇に立てかけてあった旗を広げる。ここにもひげのマークだ。
「開店している間だけ入口に掲げておこうと思ってな。日本という国で見た『ノレン』というものを参考にした。ところで――」
 クラックスが、エルバッハの持ち物に目を落とす。
「――そのもう1着の給仕服は誰に着せる気なんだ」
「ふふふっ、後のお楽しみです」
 エルバッハは悪戯っぽく笑った。

●肉の宝石箱や!
「……うん! 美味い!」
 ソースの味見をした店長が親指を上げる。
「塩胡椒以外でもいけるもんだな」
「料理の可能性は無限大ですからね」
 掃除を終わらせ、途中から試作班に加わった静架がうんうんと頷く。さらにヴァルナが続ける。
「これで味付けは塩胡椒、柑橘系ソース、オニオンソースの3種類。お肉も今まで出していらっしゃた店主厳選の品は『店長のオススメ』として店内に掲示すると共に、各部位が選べるようにして、一度に全ての部位を味わえるプレートも用意。付け合わせの野菜も充実させ、サラダにテールスープとサイドメニューも完備できました」
「本当にコースメニューみたいですね」
 マヌエラがそう言うと、ヴァルナが彼女に優しい視線を向ける。
「コースになさるには、足りないものがございますよね?」
「えーっと……もしかして、デザートですか? でもお店で出せるようなデザートを今から考えるのは時間が――」
「何をおっしゃているのですか。デザートは、既に最高のものが出せると聞き及んでおりますが?」
「えっ?」
 きょとんとするマヌエラ。ヴァルナはくすりと笑う。
「マヌエラさんのタルト、とても素晴らしいものだと、とある常連の方が」
「えぇっ!? わ、私のタルトなんてそんな、大したものじゃ――」
「いいじゃねぇか」
「お父さん!?」
 助け船を出したのは店主だった。
「実は前から思ってたんだ。お前の作るタルトは客に出してもいいくらい最高の出来だってな。この際だ。メニューに加えちまえ」
 店主は、そのごつごつした手を、マヌエラの頭に置いた。
「お前の母さんもな、そりゃあ美味いタルトを作ったもんだ。お前のタルトの味、あいつのやつにそっくりなんだよ。自信持ちやがれ」
「――う、うん……私、頑張ってみる!」
 マヌエラは強い意志を感じる瞳を煌めかせた。

●マーケティング戦略
「貰った分のチラシ、配り終わりました」
 エルバッハが汗ばんだ肌を拭きながら帰ってきた。チラシの増刷をしていたクラックスが出迎える。
「もうか。早いな」
「頑張りましたから。増刷分いただけますか?」
 クラックスからチラシをもう一束受け取ったエルバッハは、別に積まれた紙束を発見した。
「あら、こちらもチラシですか? ついでに配ってきましょうか」
「いや、これは違う」
 クラックスはその紙束を持って、脇に抱えた。
「案内板を置かせてもらった礼ということで、近隣住民を無料で招待しようと思ったのだ。これにはその特別招待券が付いている。これは俺が配布しよう」
「なるほど、それでリピーターが増えれば結果的にプラスになりますものね。そういえばパールさんは?」
「頑張ってるぞ」
 クラックスが示した店先で、パールは残った木材を使って、また何かを作っていた。
「これは何を?」
 エルバッハの問いに、パールは店を指さして頭を楽しそうに揺らした。
「ふむふむ、ヴァルナさんに頼まれた店内用のメニュー板ですか。カラフルで楽しげで、美味しそうなステーキの絵もあって食欲が湧いてきますね」
「~♪」
「はい、お互い頑張りましょう!」
 2人は互いに微笑み合った。

●なんということでしょう
「ねぇお兄さん、うちのお店に来ていただけませんか? 損はさせませんから」
「うわっ! リオンさん!」
「あら、貴方は……」
 エルバッハが客引きの為に腕に抱き付き、豊満な胸を押し付けていたのは、彼女らに依頼を持ち込んだ職員だった。彼はドギマギしながら、『ひげ』新装開店の今日、店の様子を見に来たのだと言った。
「でしたら、どうぞこちらを」
 エルバッハは胸の谷間から紙を1枚取り出し、職員に手渡してウインクを1つ。例の特別招待券付きのチラシだ。
「貴方も功労者の1人ですから、特別ですよ?」
「あ、ありがとうございます」
 宣伝活動に戻ったエルバッハを後にし、職員は『ひげ』への道を往く。大通りから路地を曲がるところで、前を歩いていた数人が、角に置かれた立て看板を確認して曲がっていくのが見えた。職員もその後に続く。やがて、裏路地なのにやけに賑やかな一角にたどり着いた。
「……えっ、ここが『ひげ』!?」
 看板も新調され、旗まで立って一目で料理屋だと分かる店内には、賑やかな喋り声が充満していた。恐る恐るその扉を潜る。
「いらっしゃいませ! あ、常連さん」
 それを出迎えたのはマヌエラだった。しかし職員は、彼女の姿を一目見て固まってしまう。
「マ、マヌエラさん……その格好は……!」
「あっ……その、エルさんに、似合うから是非着るように勧められまして……似合ってますか?」
 マヌエラが着用しているのは、先程エルバッハが身を包んでいた、あの扇情的なウェイトレス服であった。
「すっ、素敵だと、思います……!」
「本当ですか? 嬉しいです」
 ちょっと照れつつも、嬉しそうにくるっと回ってみるマヌエラ。色々見えそうで、じっくり見ようかどうしようか逡巡していた職員の肩を、背後からちょんちょんと突く者がいた。給仕を手伝っていた静架だ。
「職員さん、注意してくださいよ」
 そう言って、壁を指さした。職員がそちらを見ると、やはり新しく掲げられたメニュー板の隅に、荒々しい字体でこう書かれている。
『うちの娘に手を出した野郎は、本日のステーキのメインディッシュにします』
 職員は大人しく席に着いた。まだ昼前だというのにがやがやと喧しい店内を、感慨深げに見回す。静架が尋ねた。
「今度ソサエティの掲示板に広告を貼らせてもらっても構いませんか」
「勿論です。よろしくお願いします」
「これで依頼は達成でしょうか」
「はい、これできっと『ひげ』は大丈夫です」
 職員はさっそく新メニューを一通り注文した。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 酒場の親父
    オウル(ka2420
    ドワーフ|46才|男性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人

  • パール‐06(ka3750
    人間(蒼)|12才|女性|霊闘士

  • クラックス・ランバート(ka3980
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 隠れた名店を立て直しましょう
ヴァルナ=エリゴス(ka2651
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/01/28 15:46:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/23 22:08:02