ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】そうだ、温泉に行こう!
マスター:のどか
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/07 15:00
- 完成日
- 2019/06/21 01:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
その朝、ダニエル・コレッティ(kz0102)は煙草を吹かしながら手元の指令書に目を通していた。
たった一枚の紙きれ。
しかし、何度も目を通しているのか、灰皿は潰された煙草の残りカスが山のように積まれていた。
執務室の扉がノックされ、ダニエルは眉をピクリとあげると指令書をデスクの引き出しに押し込む。
「どーぞ」
そう声を掛けると、いつもの顔ぶれが敬礼と共に入室してきた。
「おはようございます」
「ん、おはようさん」
ヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)大尉と、ディアナ・C・フェリックス(kz0105)大尉。
特殊機体操縦部隊――通称・特機隊。
その要でもある2人のCAMパイロットは、今日も相変わらず面白みのない佇まいで整列した。
この約2か月間は、ダニエルにとってはなかなかに苦行であった。
2人は自慢の隊員だ。
どこに出したって恥ずかしくない、立派な軍人だ。
ただ何というか……張り合いがない。
能力的な意味ではなく、その、コミュニケーション的な意味でだ。
ダニエルとて大佐まで上り詰めた一端の軍人。
軍に楽しさや過ごしやすさを求めようとしているわけではない。
とはいえ生真面目な職場というのはそれはそれで性に合わないというもので、多少とっ散らかっている方が、案外チームとしてうまくまとまるだろうというのが彼の考えだ。
だが、この2人はまとまり過ぎている。
そりゃエリート街道まっしぐらな海軍の秘蔵っ子だった男と、「烏」とも「死神」とも恐れられた狙撃のスペシャリストが揃えば、誰が見たって優秀なチームさ。
ああ、この際ハッキリ言おう。
この2か月間、すっごく仕事が楽だった。
「お疲れですか?」
「ああ、いや、平和ボケかな?」
思わず零れたため息に、ヴィオがすかさずフォローを入れてくれる。
上司思いで仲間思い。
ホント、良いヤツだよお前。
「その年でボケられても困るのだけど」
そしてお前のツッコミは切れ味が良すぎるんだよ、ディアナ。
下手にボケられないって、ほんと。
「ところで、今日からだって聞いていたけれど」
上司の傷心を4文字で片付けておいたところで、ディアナが静まり返った扉を振り返る。
釣られるようにヴィオも入口に視線を向けると、今はここに居ない彼女が、今にも部屋に飛び込んできそうな気にさせられた。
「あー、そろそろだと思うけど。寮にでも寄ってるんじゃないか?」
まあ、何でもいいのだけれど。
ただ今は、やっぱりあの向こう見ずな馬k――笑顔が待ち遠しい。
そんなセンチメンタルな想いにダニエルが浸っていると、突然、扉が勢いよく開け放たれた。
そのまま吹き飛ばしてしまいそうな勢いで飛び込んできた少女は、息を弾ませながら、気持ちのいい笑顔で敬礼した。
「おっ、遅くなりましたぁ! ジーナ・サルトリオ軍曹、本日より特殊機体操縦部隊に復帰いたしますっ!!」
それは朝っぱらからやってきた嵐のようで。
だけども思わず、誰もが口元に笑みを浮かべた。
「ジーナ」
ダニエルは短く彼女の名前だけを呼んで、自分の襟元を引っ張って何かを伝える。
彼女は何を言われているのか分からず少し焦った様子だったが、同じように自分の襟元に触れた時、そこに縫い付けられた階級章の存在にはっとして背筋を正した。
「ジーナ・サルトリオ“准尉”です! ただいま戻りました!」
「うん。お帰り、ジーナ」
「良く戻った、ジーナ」
「また騒がしくなるわね、子猫ちゃん」
長いようで短く、だが、彼女にとってはやっぱり長い療養生活。
ジーナ・サルトリオ(kz0103)、ただいま着任します。
「なんか……みんな変わってなくって安心したなぁ」
「2か月そこらで変わってたまるもんですか」
気の抜けた言葉に、ディアナが呆れたようなため息で返す。
するとジーナはムッとした様子で拳を握りしめて彼女を真っ向から見上げた。
「そんなことないって! 同期の子は2か月離れてた間に家族が大量に増えたって言ってたもん!」
「何が?」
「警察犬。ブリーダーの子で」
「……この話がかみ合わない感じも、懐かしいわね」
「そうそう、俺はこういうのが欲しかったんだよ」
ダニエルは煙草をひと口吸って、感嘆の笑みをこぼす。
少なくともこの場で不満そうなのはジーナただ1人だけだった。
「さて、朝礼するぞー。本日のスケジュールだが――」
ダニエルが手を叩くと、緩んだ空気がピリッと引き締まった。
3人が姿勢を正した中、彼は意味深に手に持った書類の束をはらりと机の上に放り捨てる。
「――お休みです。みんな、お勤めごくろーさん」
「……はい?」
引き締まった空気が、一気にたるんだ。
すかさずジーナが食い気味に迫る。
「ちょ……私、記念すべき復帰一日目なんですけど!?」
「だって出しちゃったし。俺含めて4人分の休暇申請。あ、これ、サインだけ書いといて。あとでいいから」
トントンと指で指示したのは今放り捨てた紙束。
よくよく見れば、3人分の休暇の申請書類だ。
既に本人記名以外のすべてのチェックサインが認められている。
何という手回しの早さ……いや、明らかに正規の手順ではないのだが。
ちなみに期間は今日から明日までの2日間。
「まーまー、別に何もしないわけじゃないのよ。ほら、ジーナの入院とかあってちゃんとやってなかったじゃない。この間の戦いの祝勝会」
ダニエルは机の上の乱雑な書類の中から1枚の紙を引っ張り出すと、3人に掲げて見せた。
――サトル村温泉ツアー
ポップな字体でそんな見出しが書かれていた。
そこでダニエルは、めいいっぱいの、悪さをする大人の笑顔を浮かべてみせる。
「だからさ、祝勝会とジーナの快気&昇進祝い兼ねて慰安温泉旅行とかどう? 今回はなんと、俺のおごり」
「んなっ……」
珍しく、真っ先に反応を示したのはディアナだった。
文字通り開いた口がふさがらないと言った様子で、まるで宇宙人でも見るような目でダニエルを見る。
「おごりって……大佐の口から出てこないワード第1位じゃない」
「……あれ、俺ってそんな甲斐性なしに思われてた?」
てっきりどやされると思っていたものだから、ダニエルは思わず椅子からずり落ちる。
慌てて座り直して、咥えた煙草を灰皿でもみ消した。
「どーせ機体は来週まで整備中だしさ、今しか伸ばせない羽を伸ばしにいこーよ。ね? てか俺が行きたい」
「それが本音ってわけね……でも、おごりならやったー!」
背骨を鳴らしながらうんと背伸びをした彼に、ジーナは複雑な心境ながらも大喜び。
他の2人も、まあまた慣れない仕事をさせられるよりは……と書類を手に取る。
確かに、今のうちに英気を養っておくのは良いかもしれない。
そんな隊員たちを眺めながら、ダニエルはわずかばかり奥歯を噛みしめた。
たった一枚の紙きれ。
しかし、何度も目を通しているのか、灰皿は潰された煙草の残りカスが山のように積まれていた。
執務室の扉がノックされ、ダニエルは眉をピクリとあげると指令書をデスクの引き出しに押し込む。
「どーぞ」
そう声を掛けると、いつもの顔ぶれが敬礼と共に入室してきた。
「おはようございます」
「ん、おはようさん」
ヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)大尉と、ディアナ・C・フェリックス(kz0105)大尉。
特殊機体操縦部隊――通称・特機隊。
その要でもある2人のCAMパイロットは、今日も相変わらず面白みのない佇まいで整列した。
この約2か月間は、ダニエルにとってはなかなかに苦行であった。
2人は自慢の隊員だ。
どこに出したって恥ずかしくない、立派な軍人だ。
ただ何というか……張り合いがない。
能力的な意味ではなく、その、コミュニケーション的な意味でだ。
ダニエルとて大佐まで上り詰めた一端の軍人。
軍に楽しさや過ごしやすさを求めようとしているわけではない。
とはいえ生真面目な職場というのはそれはそれで性に合わないというもので、多少とっ散らかっている方が、案外チームとしてうまくまとまるだろうというのが彼の考えだ。
だが、この2人はまとまり過ぎている。
そりゃエリート街道まっしぐらな海軍の秘蔵っ子だった男と、「烏」とも「死神」とも恐れられた狙撃のスペシャリストが揃えば、誰が見たって優秀なチームさ。
ああ、この際ハッキリ言おう。
この2か月間、すっごく仕事が楽だった。
「お疲れですか?」
「ああ、いや、平和ボケかな?」
思わず零れたため息に、ヴィオがすかさずフォローを入れてくれる。
上司思いで仲間思い。
ホント、良いヤツだよお前。
「その年でボケられても困るのだけど」
そしてお前のツッコミは切れ味が良すぎるんだよ、ディアナ。
下手にボケられないって、ほんと。
「ところで、今日からだって聞いていたけれど」
上司の傷心を4文字で片付けておいたところで、ディアナが静まり返った扉を振り返る。
釣られるようにヴィオも入口に視線を向けると、今はここに居ない彼女が、今にも部屋に飛び込んできそうな気にさせられた。
「あー、そろそろだと思うけど。寮にでも寄ってるんじゃないか?」
まあ、何でもいいのだけれど。
ただ今は、やっぱりあの向こう見ずな馬k――笑顔が待ち遠しい。
そんなセンチメンタルな想いにダニエルが浸っていると、突然、扉が勢いよく開け放たれた。
そのまま吹き飛ばしてしまいそうな勢いで飛び込んできた少女は、息を弾ませながら、気持ちのいい笑顔で敬礼した。
「おっ、遅くなりましたぁ! ジーナ・サルトリオ軍曹、本日より特殊機体操縦部隊に復帰いたしますっ!!」
それは朝っぱらからやってきた嵐のようで。
だけども思わず、誰もが口元に笑みを浮かべた。
「ジーナ」
ダニエルは短く彼女の名前だけを呼んで、自分の襟元を引っ張って何かを伝える。
彼女は何を言われているのか分からず少し焦った様子だったが、同じように自分の襟元に触れた時、そこに縫い付けられた階級章の存在にはっとして背筋を正した。
「ジーナ・サルトリオ“准尉”です! ただいま戻りました!」
「うん。お帰り、ジーナ」
「良く戻った、ジーナ」
「また騒がしくなるわね、子猫ちゃん」
長いようで短く、だが、彼女にとってはやっぱり長い療養生活。
ジーナ・サルトリオ(kz0103)、ただいま着任します。
「なんか……みんな変わってなくって安心したなぁ」
「2か月そこらで変わってたまるもんですか」
気の抜けた言葉に、ディアナが呆れたようなため息で返す。
するとジーナはムッとした様子で拳を握りしめて彼女を真っ向から見上げた。
「そんなことないって! 同期の子は2か月離れてた間に家族が大量に増えたって言ってたもん!」
「何が?」
「警察犬。ブリーダーの子で」
「……この話がかみ合わない感じも、懐かしいわね」
「そうそう、俺はこういうのが欲しかったんだよ」
ダニエルは煙草をひと口吸って、感嘆の笑みをこぼす。
少なくともこの場で不満そうなのはジーナただ1人だけだった。
「さて、朝礼するぞー。本日のスケジュールだが――」
ダニエルが手を叩くと、緩んだ空気がピリッと引き締まった。
3人が姿勢を正した中、彼は意味深に手に持った書類の束をはらりと机の上に放り捨てる。
「――お休みです。みんな、お勤めごくろーさん」
「……はい?」
引き締まった空気が、一気にたるんだ。
すかさずジーナが食い気味に迫る。
「ちょ……私、記念すべき復帰一日目なんですけど!?」
「だって出しちゃったし。俺含めて4人分の休暇申請。あ、これ、サインだけ書いといて。あとでいいから」
トントンと指で指示したのは今放り捨てた紙束。
よくよく見れば、3人分の休暇の申請書類だ。
既に本人記名以外のすべてのチェックサインが認められている。
何という手回しの早さ……いや、明らかに正規の手順ではないのだが。
ちなみに期間は今日から明日までの2日間。
「まーまー、別に何もしないわけじゃないのよ。ほら、ジーナの入院とかあってちゃんとやってなかったじゃない。この間の戦いの祝勝会」
ダニエルは机の上の乱雑な書類の中から1枚の紙を引っ張り出すと、3人に掲げて見せた。
――サトル村温泉ツアー
ポップな字体でそんな見出しが書かれていた。
そこでダニエルは、めいいっぱいの、悪さをする大人の笑顔を浮かべてみせる。
「だからさ、祝勝会とジーナの快気&昇進祝い兼ねて慰安温泉旅行とかどう? 今回はなんと、俺のおごり」
「んなっ……」
珍しく、真っ先に反応を示したのはディアナだった。
文字通り開いた口がふさがらないと言った様子で、まるで宇宙人でも見るような目でダニエルを見る。
「おごりって……大佐の口から出てこないワード第1位じゃない」
「……あれ、俺ってそんな甲斐性なしに思われてた?」
てっきりどやされると思っていたものだから、ダニエルは思わず椅子からずり落ちる。
慌てて座り直して、咥えた煙草を灰皿でもみ消した。
「どーせ機体は来週まで整備中だしさ、今しか伸ばせない羽を伸ばしにいこーよ。ね? てか俺が行きたい」
「それが本音ってわけね……でも、おごりならやったー!」
背骨を鳴らしながらうんと背伸びをした彼に、ジーナは複雑な心境ながらも大喜び。
他の2人も、まあまた慣れない仕事をさせられるよりは……と書類を手に取る。
確かに、今のうちに英気を養っておくのは良いかもしれない。
そんな隊員たちを眺めながら、ダニエルはわずかばかり奥歯を噛みしめた。
リプレイ本文
●
吹き曝しの岩場に硫黄臭のする湯気が立ち上る。
「やっほー! 温泉だぜー!」
晴天の下、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が背伸びをしながら笑みを浮かべた。
村長祭にあわせて企画された温泉宿ツアーには、ハンターをはじめ多くの観光客が訪れている。
ウリは何と言ってもこの天然温泉。
酸性の硫黄泉は独特のツンとした香りがあるが、いかにもな温泉らしさも感じさせる。
「おっと、入る前にちゃんと身体を洗わないとな。マナーだマナー」
早速浸かりたいのを我慢して、ボルディアは傍の洗い場で身体を洗う。
ワイルドな赤いワイヤービキニが、太陽光の下で眩しかった。
「おや……あれは軍人さん達、ですか?」
同じく身体を清めていた天央 観智(ka0896)が風呂場へやってきた面々の姿を捉える。
あれは確か特機隊とかいう同盟軍のCAM乗り達。
「仕事……ですかね。いや、ただの休暇が重なっただけ……ならいいんですけれど」
何となく心穏やかでないのは、ある意味波乱万丈な毎日に毒されているせいかもしれない。
「偶然ね~。こんなところで会うなんて」
「いや、ほんと。世間は狭いっていうかさ」
ヘアゴムで髪をまとめながらウインクする沢城 葵(ka3114)に、ダニエル・コレッティ(kz0102)が苦笑交じりに後頭部を掻いた。
「お姉はん、退院おめでとう……それから昇進も。隊長はんも、おめでとうこざいます」
「ありがとー! ってか小夜ちゃん水着かわいい!」
「可憐さ爆発って感じね」
ジーナ・サルトリオ(kz0103)が目を輝かせると、浅黄 小夜(ka3062)は頬を赤らめてパーカーの合わせを握りしめる。
襟の間からは、布面積の多いもののかわいらしいワンピース水着が覗いていた。
「いきなりじゃなかったら、私も可愛いの準備したんだけどなぁ」
「でも、らしくて良いんじゃない?」
天王寺茜(ka4080)がフォローしてくれるが、ジーナは彼女の水着と自分のそれとを見比べながらどこか不満げだ。
夕日を思わせる茜の水着は、これもまたかわいい。
「うーん、いくらか傷残っちゃったのね」
「うん? ああ、まーねぇ」
茜はジーナの身体に残った細かい傷跡に僅かに眉を寄せる。
だけど当のジーナはあまり気にしていないようだったので、曖昧な笑顔ではぐらかした。
「あ~癒される。とけるぅ……もう俺、ここに住む」
温泉にぶくぶくと沈みながら、ボルディアは完全に緩み切った表情で天を仰ぐ。
身体の芯からじんわりとした熱が伝わって、頭の毛穴がぷつぷつ開いていく感覚がこそばゆかった。
「また温泉か。流石に芸がないんじゃないか?」
「あはは……ごめん。好きだからつい」
ソティス=アストライア(ka6538)の呆れた視線に、時音 ざくろ(ka1250)は思わず苦い笑みを浮かべる。
「きもちいいねー」
そんな2人の横でアルラウネ(ka4841)はマイペースに温泉を堪能していた。
「もう私たちの水着姿なんて見慣れちゃったかな」
アルラウネが豊かな胸を寄せながら挑戦的な視線を向けると、ざくろは顔を赤らめながらも視線が釘付けになってしまう。
その姿を見て、ソティスがクスリと笑う。
「どれ、興が乗って来た。背中でも流してやろう」
「え!? い、いや今は良いかな」
身体を屈めるようにして遠慮するざくろ。
ならば無理やりにでもと、アルラウネが彼を後ろから羽交い絞めにする。
すると、ソティスも前からざくろの腕を引いた。
「ほら遠慮しないのっ」
「そうだぞ。ほら、洗い場へ行こう」
「ムリムリ! 今は温泉を楽しませて!?」
背中に柔らかい2つの感触を受けながら、ざくろは断固必死に抵抗する。
面子に賭けても、まさに今、湯舟から立ち上がることだけは阻止しなければならない。
「お待たせしてしまいましたわ」
他のお客人から十数分ほど遅れて、金鹿(ka5959)が浴場に姿を現す。
彼女を待っていたキヅカ・リク(ka0038)は、その姿を見て思わずぽーっと見とれてしまった。
「どうかなさいました?」
「あ、いや何でも」
リクは慌てて取り繕うと、彼女の手を取って歩き始めた。
「お友達に挨拶は済みましたの?」
「後でにしとくよ。こんな状態のマリを放っておくわけにもいかないしね」
金鹿は先の大きな戦いで思い怪我を負っていた。
酸性泉は傷に効くというので、喜び勇んで来たわけだ。
「ふふ、いつもと立場が逆でございますわね」
「良いじゃない。少しは『らしい』ことさせてよ」
リクははにかむと、金鹿を洗い場の椅子に座らせて背中を優しく流す。
それがくすぐったいのか、たまに零れる彼女の吐息に思わず鼓動も早くなった。
「そう言えば、まだ言ってもらってないですわね」
「え? えー……あっ!」
思い当って、思わず頭を大きく振る。
「水着、似合ってる」
「及第点ですわ」
金鹿がクスリと笑う。
「ほら、交代しますわよ」
「いや、今日は僕に任せて」
「言い訳しないでくださいな! ほら!」
半ば無理やりにされれば断れるはずもなく、リクは椅子に座らされる。
彼の背に回った金鹿は、心臓の高鳴りを押さえるように胸元で手を握りしめていた。
温泉と聞いて疲れを癒しに来たサクラ・エルフリード(ka2598)は、たまたまおなじツアーに参加していた友人のシレークス(ka0752)らに出くわした。
その姿――というか胸を見るや否や、ずんと表情が暗く沈む。
「おかしいですね……結構思い切ったつもりだったのですが」
「そんなことねーでごぜーますよ。セクシーセクシー!」
純白の白ビキニに身を包むサクラだったが、ワイルドなトラ柄ビキニをはちきれんばかりの身体で着こなすシークレスに言われても、半ば嫌味にしか聞こえない。
「良いんです……今日は羽を伸ばしに来たんですから」
「そうそう。最近、肩の調子が……」
「せっかくですし、マッサージでもしましょうか……?」
真顔で尋ねたサクラに、シークレスは頬を引きつらせる。
「まさか、もう飲んでるんじゃねーですよね?」
「そんなわけないじゃないですか……本当ですよ?」
その赤い瞳に映る真実は、彼女のみぞ知る。
「わぁ、どうしたのこれ!?」
温泉に浮かぶ船盛舟。
そこにうずたかく積まれた温泉饅頭を前に、高瀬 未悠(ka3199)が目を輝かせる。
「来るときにおいしそうだったので。少し買い過ぎたでしょうか」
「ううん、そんなことない! ありがとうユメリア!」
未悠の笑顔に、ユメリア(ka7010)はほんのり心が温まる。
「冷えたお茶もありますから、ご一緒にどうぞ」
未悠はユメリアに進められるがままに饅頭とお茶とを頬張った。
「うんうん、あ~、最高の贅沢ね」
すっかりとろけ切った表情に、ユメリアの方も思わず笑顔が浮かぶ。
「ほら、ユメリアも食べよ。その前にお茶飲んで水分も取っておこっか」
「ありがとうございます」
ほてった身体に冷たいお茶が流れ込んでいく感覚が、ちょっと面白い。
ひとしきり癒しの時間を堪能していると、いつの間にか傍でぽけーっと眺めている少女の姿があった。
黒いモノキニに身を包んだ白い少女は、物欲しそうな表情で饅頭船を見つめる。
「どうぞ、沢山ありますから」
「いいの?」
少女――ディーナ・フェルミ(ka5843)の笑顔が弾けた。
「余らせてももったいないものね。みんなにもおすそ分けしましょうか」
「そうですね」
「ま~、もうちょっと堪能してからだけど」
もくもくと饅頭を頬張る。
ほんのりと口当たりの良い甘さが、疲れに染みわたるようだった。
ミア(ka7035)は湯船にひたって身体も顔もふにゃふにゃにとろけさせながら、ふかーく息を吐いた。
「ふニャぁ……ぬくぬくあったかぷーニャス」
普段なら楽し気なグループに突っ込んでいくものだが、今日は1人で楽しみたい気分だった。
「ともだち……かぁ」
少しは前に進んだのかな。
だけど、自分はまだ人の命は救えても心を救うことはできない。
もしかしたら怖いのかもしれない。
踏み込むことで、これまでが無かったことになってしまうのが――
口元まで温泉に沈んでぶくぶくと息を吐く。
弾ける泡のように、心の殻も簡単に開いてくれたらいいのにな。
岩場に腰かけるフィロ(ka6966)は、足湯のように温泉を楽しんでいた。
「皆様の水着は参考になります」
自分が身にまとうハイウエストビキニとを見比べながら、感心したように頷く。
「やっぱり、混浴はビキニが基本なの?」
いつのまにやら、腕いっぱいに抱えた温泉饅頭をかかえたディーナが背後に立っていた。
「そういうことは無いかと思われますが」
「ここは、シンプルだけどなかなかいい温泉なの。きっとお湯の質が良いのだと思うの」
「温泉の良し悪しは私には分かりませんが……」
少なくとも人を幸せにする力はあるのだろうとフィロは理解した。
「今度、刻騎ゴーレムっていうのを使うことにしたの」
温泉に浸る茜が、お湯を肩にかけ流しながらジーナに語る。
「興味はあるんだけど、あれ私乗れないよねぇ」
「覚醒者じゃないと無理でしょうね」
ディアナ・C・フェリックス(kz0105)は、温泉の中で太ももの辺りをマッサージしながら冷ややかな視線を送った。
水面に浮かぶたわわな果実に、茜は息をのむ。
「何かしら」
「あ、いえ、何でも……あはは」
そのまま自分の身体に視線を落として、大きなため息をついた。
「それで、お風呂上りには牛乳を飲むのがお約束で……」
「なるほど。良いことを聞いた」
小夜はと言えばヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)と温泉談義に花を咲かせている。
もやもやの行き場をなくした茜は、手で水鉄砲を作るとジーナの顔に思いっきり吹き付けた。
「わっぷ! なんだよ、やったなー!?」
「お姉は――わぷっ」
お返しにジーナが飛ばしたお湯は、目測を外れて小夜の顔を直撃する。
しばらく、キャッキャと女の子たちの楽し気な声が響いた。
「ふぅ~、眼福だぜ眼福」
彼女たちを遠巻きに、ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)が悟り切った表情で深く頷く。
わざわざ来て本当によかった。
「ふへへ……あの軍の大尉さん、良い身体してますねぇ」
フリフリのビキニ姿で緩み切った表情で集団を見つめる星野 ハナ(ka5852)に、彼は一瞬でシンパシーを感じた。
「獲物は違えど志は同じか」
「勘違いしないでくださいよぉ。私は温泉に身と心をリフレッシュしに来たんですぅ」
湯気に隠れて、2人は熱く握手を交わす。
「あの女大尉サンも良いねぇ。軍人にしとくにゃ勿体ねぇな」
「隣のおじ様のヘタレ攻め……いや、実は強気攻め? 階級差的にはこの際リバでも……ハァ、ハァ……やばいですぅ、創作意欲溢れますぅ」
湯煙の向こうには桃源郷が広がっている。
●
温泉を堪能し、しばしの休憩をとったのちに、一行は宿の主人に連れられて村祭の会場へと案内される。
まだ陽が沈みかけるころだが、日がな一日飲めや歌えやのお祭り会場は、既に陽気な村の人たちに支配されていた。
「……きゃー」
ディーナが目の前に並ぶ料理の山を前して、満面の笑みで控えめな歓声をあげる。
積み上げられたお肉、野菜、お肉、野菜、時々海鮮。
「食べることなら大船に乗ったつもりで任せるといいの」
謎の自信を漲らせながら、ディーナはさっそく皿に料理を盛っていく。
その山の標高は、先ほど温泉で食べた饅頭より高い。
「ジーナ、回復おめでとう。あと昇進も」
リクがグラス片手に声を掛けると、ジーナはハムスターみたいな頬でグラスをあわせた。
「もごもふぁー!」
「あはは……食べてからでいいよ」
苦笑するリクを前に、彼女は取り急ぎ口のものを飲み込む。
「皆さんも、また会えたのを嬉しく思います」
「つくづくそう思うよ」
ダニエルに続いて他の面々も順にグラスを合わせると、空気はすっかり先の戦いの祝勝会だ。
しばしの歓談を済ませて、リクは付き合ってくれた金鹿と共に喧騒へと去っていく。
彼女にからかわれて狼狽える背中を見送ると、何となく力関係が目に浮かんだ。
残された面々の方はというと、観智とヴィオがCAMの操縦談義に華を咲かせていた。
「やはり視野の違いが一番のネックだな」
「カメラの性能上、どうしても死角……はできてしまいますからね」
「だからこそ機動兵器運用において単独行動は禁物だと考えている。ウチの隊もその算段で揃えたようだしな」
そう言って、ヴィオはジーナとディアナの横顔を伺った。
「信頼……されているんですね?」
「そうでなければ、命は預けられん」
「その気持ちは……分かるような気がします」
命令で戦場に出なければならない彼らは、ハンターとは違う。
だけどその言葉に宿る感情だけは観智にもよく理解できた。
「悪いねぇ、お客さんなのに」
「良いんですよぉ。これも料理の勉強ですぅ」
キッチン代わりとなっている周辺の民家では、ハナがパーティ料理の準備を手伝っていた。
「とりわけ大食いさんが居るからね。あたしらも張り切らないと!」
窓の外を見ると、テーブルいっぱいの取り皿に囲まれて幸せそうに料理にぱくつくディーナの姿がある。
「あれに追いつくのはなかなか大変ですねぇ」
これは嫌でもレシピを覚えそうだなと、苦笑するハナである。
出来上がった料理は、次々とフィロが会場へと運んでいく。
両腕に肩まで使って皿を運ぶ姿は、見た目華奢な彼女にはよほどパワフルな様子だった。
「温泉に来たのに、休まなくていいのかい?」
ふと尋ねたおばさんに、フィロは顔色を変えずに答える。
「本業の時間が、最も心が安らぎますので」
「そういうもんかい? 都会の子はタフだねぇ」
彼女は賛辞の意図がうまく理解できなかったのか、首をかしげながら配膳へと戻っていった。
会場の方では、シレークスらが連れだってテーブルの1つを囲んでいる。
彼女がツレをからかって遊んでいる横で、サクラは幾分浮かない顔で料理を突いていた。
「むぅ、こんなに美味しいご飯なのに……」
恨めしそうに見つめるのは、酩酊陽気な客人たちの傍のグラス。
口の中に湧いたつばを飲み込むように、彼女は手元のグラスを煽る。
「ぶぅっ! サクラぁっ! おめぇ……!?」
あまりに良い飲みっぷりなものだから、シークレスが慌てた様子で振り返った。
「ノンアルコールですよ」
「えぇ……本当に?」
「約束を破るわけないじゃないですか……本当ですよ?」
かがり火で紅潮しているサクラの顔。
真実はやはり、彼女のみぞしる。
宴もたけなわ。
次第に満足した人たちから会は解散となっていった。
べろんべろんの者たちは今だテーブルを囲んでいるが、比較的意識のある者たちは自然と喧騒から離れてBARスペースへと集う。
「そう、あのダインスレイブ」
「そいつが俺よ!」
ロジャーはちゃっかりディアナの隣を確保して、先の戦いについて熱い語り口を披露していた。
「海戦の華っつったら白兵戦かもしれないけどよ、ロマンは断然一斉掃射だ。愛機は船であり誇りだからな」
「機体の事はさておき……私にだって誇りはあるわ」
「そいつはいい。その誇りに乾杯だ」
掲げるジョッキに、ディアナは仕方なしにといった様子でグラスを合わせる。
こういうのは黒狐塾以来か――面倒だが、悪い気はしない。
「奢りとか、ほんとあり得ないわね」
朝のディアナと同じ顔をする葵に、ダニエルはいくらかスネた様子でロックグラスを傾ける。
「そんなに人望ないかね俺。頑張って来たんだよ、これでもさ」
「人望っていうより、うーん、人と成り?」
葵は、ややズボラな彼の姿を見据えてクスリと笑った。
「ホントのとこはどうなのよ。そろそろ次の戦地も決まってるんでしょう?」
「ん? んー、まーね」
「もしかして邪神絡みとか?」
その単語に、ダニエルの纏う空気がピリッと引き締まる。
が、すぐにいつもの外した調子でへらりと笑ってみせた。
「怖い怖い。やっぱ下手に口にできないって」
彼が煙に巻くということがどういうことか、葵も流石に理解してきた。
だから責めるでもなく、一言添えるのだ。
「ま、お互い死なない程度にね」
●
昼間の晴天の暑さとはうって変わって、夜はやや肌寒いくらいの涼しさが包み込む。
それでもお祭りの熱気に当てられていると、身体の中から温かくなっていくような気がする。
パーティ会場が落ち着いたことでお役御免となったフィロは、手持無沙汰に夜の村を歩いていた。
見上げると満天の星空。
ふと、今は見ぬ故郷の空を思い出す。
「そう言えば、エバーグリーンでは夜空を見上げたことがありませんでした」
あの星の夜空も同じように美しかったのだろうか。
今は確かめることのできない光景に想いを馳せ、彼女の記憶回路にぽっかりと穴があく。
同じ空の下で、鞍馬 真(ka5819)は浴衣で村を練り歩きながら満足げにお腹をさする。
「うーん、お腹いっぱいだね。腹ごなしの散歩は良い案だったかも」
隣を歩くGacrux(ka2726)も、心地よい風に身を委ねながら一息ついた。
軽くアルコールで火照った身体が、ほどよく覚醒していくのを感じる。
「せっかくだし、何か記念になるものを買いたいな」
「いいですねえ。知人のお土産も見繕って行きませんと……」
ふと露店を物色するガクルックスの足が止まる。
「どうしたの?」
「ほう……地酒ですか」
真が脇から覗き込むと、ほどよく顔を赤くしたおじさんが、自分が飲んでいるものと同じ瓶をいくつか露店に並べていた。
「買っていく?」
「おや、良いんですか?」
「どうせ、飲みなおすよね」
「確かに」
テンポのよいやり取りで頷き合って、ガクルックスが店主に指を2本立ててみせた。
「そしたらおつまみも買ってかなきゃな。太りそう……でも、たまにはね」
真は帰ってからの体重計にちょっと恐怖したが、今日という日と天秤に掛けて、頭から忘れ去ることにした。
一方、宿に戻って。
金鹿の大事を取って早めに部屋へ戻ったリクたちは、寝る準備を終えて布団へもぐりこんでいた。
頼りない旧時代の明かりを消すと、淡い月明かりが2人の顔を照らし出した。
「背負わなくちゃいけないものは、僕も半分背負うから」
「どの口がを言いますの?」
リクがあまりに真面目な顔で言うものだから、ちょっと意地悪のつもりでクスリと笑い返す。
「ありがとう。お言葉に甘える分、貴方の半分もどうか私にお預けくださいましね」
「それならもう、預けてるよ」
同じ表情で、彼はきっぱりと言う。
「……そう」
金鹿は息が詰まって、背を向けるように寝返りをうった。
華奢な背中にリクはそっと手のひらを重ねる。
そうだ――自分がヒトであるためのモノは、きっと全部ここにある。
まだ煌々と明かりの灯るざくろたちの部屋では、熱いババ抜き勝負がくりひろげられていた。
「ほれ、どうしたざくろ。もう後がないぞ」
ソティスはあと1枚になった手札で浴衣の合わせを扇ぎながら、ざくろの手番を観戦する。
カードを引かなければならない彼は、アルラウネの持つ2枚の手札を右往左往しながら、時折ちらりと、釣られるように視線が上がった。
「ん~? 手元がお留守よ?」
「そ、そんなこと言われても……」
ざくろが先ほどから気になっているのは彼女の胸元。
大胆にさらけ出された谷間は、温泉で血行が良くなっているのか、艶めかしく上気していた。
「わざとじゃないわよ。だって帯を絞めるとキツイんダもの」
ざくろはさんざん迷った末に――気になってしょうがないなら、取る手札ごと見ないことにした。
「これが勝負の……超次元札引月面宙返りだ!」
くるりとそのまま宙返りをしながら、掴んだカードを引く。
「やった、ペア! これでざくろもあと1枚――」
喜びと同時に訪れるのは絶望だった。
手元のカードはババ。
「つまり私がソティスから引いて……っと、あがりっ」
「ふむ、私も最後の1枚が引かれたのであがりだな」
勝利した2人は、手をわきわきさせながらざくろへとにじり寄る。
「さて、敗者は勝者になんでもご褒美を授けるんだったな」
「2人とも満足するまで搾らせてもらうわよ……?」
「お……お手柔らかにお願いします」
ざくろは顔を引きつらせながら、涙目で笑顔を浮かべた。
宿に戻って来たシレークスは、いつの間にかサクラの姿がないことに気づく。
「あれ、どこに行きやがりました?」
飲酒の有無に関して疑念は残るものの……とりあえず手の付けられない状態ではないと思う。
「せっかくの休暇に気苦労を……こうなったらあいつで発散しやがるです」
邪まな笑みを浮かべながら、シークレスはツレを迎えに彼の部屋を目指す。
そんなことは知らず、サクラはのほほーんと2回目の温泉を堪能していた。
同じ考えの人は彼女の他にも居るようで、絶景の星空の下でうっとりとしたため息が漏れる。
「はぁ……ひと仕事の後の一杯は格別ですぅ」
遠巻きにハナが星見酒を楽しんでいるのに一瞬心が揺れたが、そこはここまでの耐え抜いた自制心を発揮して踏みとどまった。
「ふぅ……最高です」
どうせ泊っていくのだし、のぼせるのも気にせず楽しみ尽くそう。
そう誓って、表情からとろとろにとろけていった。
脱衣所の外ではミアが売店で買った苺牛乳をごくりと飲み干し、ぶぱーっとお約束に締めくくった。
独りで旅行なんて集落を出た時以来だろうか。
たまにはこういうのもアリだけれど、改めてみんなと楽しく過ごすのが良いなとも思う。
やっぱり自分は「家族」というものが好きだから。
「自分から踏み出さなきゃダメ……ニャスよね」
決めた。
帰ったらすっきり元通り。
ううん、今度はこっちから扉を開けに行くんだ。
「おー、これタッキュウってやつか!?」
傍の遊戯スペースで、ボルディアがはちきれんばかりの笑顔で台へと飛びついた。
隣のテーブルでは既にラスティ(ka1400)、神代 誠一(ka2086)、クィーロ・ヴェリル(ka4122)の3人が、慣らしのラリーを披露する。
「あー、くそっ!」
完全初心者のクィーロは、時折ラケットが空を切りながら悔しそうに顔をしかめた。
「こいつもまた心技体を必要とするスポーツだからな。クィーロにはちょっと早かったか?」
「うるせぇ! だったら勝負だ誠一!」
唐突に始まった真剣勝負。
誠一はにこやかに笑みを浮かべながら、ピンポン玉を掲げる。
「まあ、少しくらい手加減して――やる、とでも、思ったか!」
放たれた玉は、えげつないトップスピンと共に壁に突き刺さる。
クィーロはラケットを振ることもできずに呆けた顔で固まっていた。
「はっ! 勝負と言われて手加減するわけねぇだろ!」
大人げなく鼻高に笑う誠一。
クィーロは肩を震わせながら、得点係をしていたラスティを睨みつける。
「お前も入れ!」
「良いぞ、一緒にクィーロに現実を教えてやろう」
ラスティはちょっと考えた後にラケットを構えた。
クィーロが構えるその隣に並んで。
「ってそっちかよ!?」
地団駄を踏む誠一に、ラスティはキリッとした表情で答える。
「俺は弱い方の味方だ!」
「弱くねぇ!」
何ともちぐはぐな状況だが、とりあえず陣営は分かれたようで。
高速の白球が乱れ飛ぶ。
「良かったら、俺が相手をしようか」
勝負の様子を見ていたボルディアに、ヴィオが後ろから声を掛ける。
風呂上りらしく、髪がしっとりと濡れていた。
「タッキュウはお約束だと小夜に聞いた。俺も初心者だ」
「そりゃいい勝負になりそうだ」
台に向かい合う2人。
ボルディアが第一球を放る。
「うっおりゃあああ! ……ってあれ?」
が、ラバーに掠りもしない弾は、コーンコーンと空しく足元を転がった。
「もういっちょ!」
コーンコーン。
「くそぉ、舐めんなよ!」
コーンコーン。
「唸れ! 燃えろ! ぶち抜けぇぇ!」
コーンコーンコーン。
終いには息を切らして、台にへたり込んでしまった。
「……とりあえず、互いに当てるところから始めてみるか」
「そうだな……」
ヴィオの提案に頷いて、2人は初心者らしい低速ラリーに汗を流す。
そのころ隣の卓では。
鋭いサイドステップで玉に追いついたラスティが、ラケットを振りかぶる。
コンマ数秒の世界。
わずかに傾けたラケットの角度で、相手の隙へ玉を打ち抜く。
「『ここ』はわざと開けた隙だ……!」
先回りしていた誠一は、残像が見えるほどの速度で振りぬいた。
「そっちはフェイクだ!」
反応して飛びついたクィーロにラスティが叫ぶ。
像が消えた先に誠一はまだ構えを崩さずに立ちはだかっており、今度こそ正真正銘の球を撃ち返す。
「何とか飛びつけ! 俺は……あっちを何とかする!」
「は?」
クィーロはその辺に転がっていたラケットを掴む。
両手に持った状態で誠一の顔を睨みつけ、そしてニヤリと笑った。
「食らえ、すかし眼鏡ッ!」
「おわっ!?」
眼鏡めがけて飛んできたラケットを、誠一は咄嗟に回避する。
大きく仰け反った瞬間、ラスティがギリギリ返したボールがコート上を跳ねていた。
「そりゃ反則だぞ!」
怒る誠一だったが、その背後へ誰かが駆けてくる音がする。
宿屋の主人だった。
「何してるんですか! ああ、ラケットがこんなことに……」
彼はクィーロが投げて砕けたラケットを拾い上げて、3人を一瞥する。
クィーロとラスティは生気の抜けた表情で鼻をほじりながら答えた。
「そこの誠一がタッキュウはこうするもんだって」
「そーそー」
「えっ!? ばっ、おまっ!?」
「そうですか。ちょっとお話しましょうか……」
「え、いや、俺は違っ――」
主人にずるずる連れられて行く誠一の姿を、2人が手を振りながら見送る。
「これで終いなら8対7で俺たちの勝ちだなー」
「今日は奢りだぜ、よろしくー」
その言葉は、まさしく地獄への片道切符となろう。
部屋へと戻ったガクルックスと真は買ってきた地酒とつまみで2次会と洒落込んでいた。
「結構飲んだね。がっくん大丈夫?」
綺麗に並んだ空き瓶を見ながら、真が友人に笑いかける。
その瞬間をガクルックスが構えていたスマホのシャッターが捉えた。
「い、いきなりは卑怯だよ!」
「まあ、何事も思い出ですよ」
ガクルックスは悪びれることなく、怒る彼をもう1枚。
真はすっかり拗ねた様子で、傍にあった枕を投げつけた。
「おっと」
しかし、咄嗟に布団を盾にして防がれてしまう。
真は一層頬を膨らませて、押し入れからありったけの枕を投げつけた。
「おっと、流石にされてばかりというのも」
ガクルックスが飛んできた枕を投げ返す。
真はそれをひらりと避けると、布団ガードの隙間を縫って枕を叩きこんだ。
相手の顔面に当たった枕は、ぼふんと鈍い音を立てて床に転がる。
「やりましたね……!」
そこからは枕の応酬。
ガードも忘れて当てて、当てられて。
どちらともなく息が切れるまで続けたのちに、両者力尽きて布団に崩れ落ちた。
「あははっ。また、来たいね」
キラキラと笑う真に、ガクルックスは噴き出すように笑みを浮かべる。
「そうですね」
口にした以上は実現させよう。
未来は、こういう些細な決意から繋がっているのだ。
「ムリムリ、降参っ」
ところ変わって女子部屋。
ユメリアとのトランプ勝負に勤しむ未悠は、抱えた手札を放り投げながら布団へと倒れ込んだ。
「素直に神経衰弱にしとけばよかったわ。ユメリアとブラフとか……もう、ポーカーフェイスすぎ」
「そうですか? 感情豊かな方だと思うのですが」
「そういうとこ!」
にこやかな笑みで答える彼女に、ちょっとむくれたように頬を膨らませる未悠。
「それはそうと、罰ゲームですね」
ユメリアが笑顔で詰め寄る。
「逃がしませんよ……それっ」
「わっ……あっ、あはははっ! ま、まって、あははははっ!!」
ものすごい勢いで未悠の小脇をくすぐると、未悠はたまらず布団の上でもがいた。
しかしがっちりと片手をホールドしながら攻めるユメリアの技に、逃げるすべはない。
「まって!? トランプより本気……あはははっ!」
お腹の底から声を出して笑って、ユメリアもつられたように声を上げて笑った。
本当に過ごしたいのはこんな日々。
そのために勝つんだ――絶対に。
こちらも女子部屋。
とっくに明かりも消した後だが、天井を見つめたままぽつりぽつりと声だけのトークが続いていた。
「ジーナはさ、好きな人とか居ないの?」
尋ねる茜に、小夜が息を殺しながらそっと耳を澄ませる。
「うーん……考えたことないなぁ」
ケラケラとジーナが笑う。
「そういう茜さんと小夜ちゃんは?」
「え!? 私は、うーん……」
押し黙った茜だったが、代わりに小夜がコソリとつぶやく。
「小夜は……いる、よ」
「えーホント!?」
「誰? 誰?」
布団から飛び出したジーナと茜に対して、小夜は頭まですっぽり布団をかぶる。
どうにか相手を聞き出そうとするものの、流石にそれ以上口を割ることはなかった。
「私はこうして小夜ちゃんたちと居るのが一番楽しい」
ジーナは布団へ戻ってしみじみとした口調で語った。
小夜も布団の中で頷いて、熱い吐息で答えた。
「うん……よかった」
ほんのり身体がぽかぽかしてきて、その日はぐっすり眠ることができた。
●
「おっしゃ、撮るぜ~」
翌朝、チェックアウトの前にツアー参加者の面々で大露天風呂の前に並ぶ。
それぞれ手持ちのカメラで、交代での記念撮影。
最後となったロジャーが、掲げた指でカウントを取る。
バチン――シャッターと共に放たれたフラッシュのまばゆさに、みな思わずニコリと目を細めた。
過去から繋がり、未来へと続く。
今日と言う日のポラロイドの中で。
吹き曝しの岩場に硫黄臭のする湯気が立ち上る。
「やっほー! 温泉だぜー!」
晴天の下、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が背伸びをしながら笑みを浮かべた。
村長祭にあわせて企画された温泉宿ツアーには、ハンターをはじめ多くの観光客が訪れている。
ウリは何と言ってもこの天然温泉。
酸性の硫黄泉は独特のツンとした香りがあるが、いかにもな温泉らしさも感じさせる。
「おっと、入る前にちゃんと身体を洗わないとな。マナーだマナー」
早速浸かりたいのを我慢して、ボルディアは傍の洗い場で身体を洗う。
ワイルドな赤いワイヤービキニが、太陽光の下で眩しかった。
「おや……あれは軍人さん達、ですか?」
同じく身体を清めていた天央 観智(ka0896)が風呂場へやってきた面々の姿を捉える。
あれは確か特機隊とかいう同盟軍のCAM乗り達。
「仕事……ですかね。いや、ただの休暇が重なっただけ……ならいいんですけれど」
何となく心穏やかでないのは、ある意味波乱万丈な毎日に毒されているせいかもしれない。
「偶然ね~。こんなところで会うなんて」
「いや、ほんと。世間は狭いっていうかさ」
ヘアゴムで髪をまとめながらウインクする沢城 葵(ka3114)に、ダニエル・コレッティ(kz0102)が苦笑交じりに後頭部を掻いた。
「お姉はん、退院おめでとう……それから昇進も。隊長はんも、おめでとうこざいます」
「ありがとー! ってか小夜ちゃん水着かわいい!」
「可憐さ爆発って感じね」
ジーナ・サルトリオ(kz0103)が目を輝かせると、浅黄 小夜(ka3062)は頬を赤らめてパーカーの合わせを握りしめる。
襟の間からは、布面積の多いもののかわいらしいワンピース水着が覗いていた。
「いきなりじゃなかったら、私も可愛いの準備したんだけどなぁ」
「でも、らしくて良いんじゃない?」
天王寺茜(ka4080)がフォローしてくれるが、ジーナは彼女の水着と自分のそれとを見比べながらどこか不満げだ。
夕日を思わせる茜の水着は、これもまたかわいい。
「うーん、いくらか傷残っちゃったのね」
「うん? ああ、まーねぇ」
茜はジーナの身体に残った細かい傷跡に僅かに眉を寄せる。
だけど当のジーナはあまり気にしていないようだったので、曖昧な笑顔ではぐらかした。
「あ~癒される。とけるぅ……もう俺、ここに住む」
温泉にぶくぶくと沈みながら、ボルディアは完全に緩み切った表情で天を仰ぐ。
身体の芯からじんわりとした熱が伝わって、頭の毛穴がぷつぷつ開いていく感覚がこそばゆかった。
「また温泉か。流石に芸がないんじゃないか?」
「あはは……ごめん。好きだからつい」
ソティス=アストライア(ka6538)の呆れた視線に、時音 ざくろ(ka1250)は思わず苦い笑みを浮かべる。
「きもちいいねー」
そんな2人の横でアルラウネ(ka4841)はマイペースに温泉を堪能していた。
「もう私たちの水着姿なんて見慣れちゃったかな」
アルラウネが豊かな胸を寄せながら挑戦的な視線を向けると、ざくろは顔を赤らめながらも視線が釘付けになってしまう。
その姿を見て、ソティスがクスリと笑う。
「どれ、興が乗って来た。背中でも流してやろう」
「え!? い、いや今は良いかな」
身体を屈めるようにして遠慮するざくろ。
ならば無理やりにでもと、アルラウネが彼を後ろから羽交い絞めにする。
すると、ソティスも前からざくろの腕を引いた。
「ほら遠慮しないのっ」
「そうだぞ。ほら、洗い場へ行こう」
「ムリムリ! 今は温泉を楽しませて!?」
背中に柔らかい2つの感触を受けながら、ざくろは断固必死に抵抗する。
面子に賭けても、まさに今、湯舟から立ち上がることだけは阻止しなければならない。
「お待たせしてしまいましたわ」
他のお客人から十数分ほど遅れて、金鹿(ka5959)が浴場に姿を現す。
彼女を待っていたキヅカ・リク(ka0038)は、その姿を見て思わずぽーっと見とれてしまった。
「どうかなさいました?」
「あ、いや何でも」
リクは慌てて取り繕うと、彼女の手を取って歩き始めた。
「お友達に挨拶は済みましたの?」
「後でにしとくよ。こんな状態のマリを放っておくわけにもいかないしね」
金鹿は先の大きな戦いで思い怪我を負っていた。
酸性泉は傷に効くというので、喜び勇んで来たわけだ。
「ふふ、いつもと立場が逆でございますわね」
「良いじゃない。少しは『らしい』ことさせてよ」
リクははにかむと、金鹿を洗い場の椅子に座らせて背中を優しく流す。
それがくすぐったいのか、たまに零れる彼女の吐息に思わず鼓動も早くなった。
「そう言えば、まだ言ってもらってないですわね」
「え? えー……あっ!」
思い当って、思わず頭を大きく振る。
「水着、似合ってる」
「及第点ですわ」
金鹿がクスリと笑う。
「ほら、交代しますわよ」
「いや、今日は僕に任せて」
「言い訳しないでくださいな! ほら!」
半ば無理やりにされれば断れるはずもなく、リクは椅子に座らされる。
彼の背に回った金鹿は、心臓の高鳴りを押さえるように胸元で手を握りしめていた。
温泉と聞いて疲れを癒しに来たサクラ・エルフリード(ka2598)は、たまたまおなじツアーに参加していた友人のシレークス(ka0752)らに出くわした。
その姿――というか胸を見るや否や、ずんと表情が暗く沈む。
「おかしいですね……結構思い切ったつもりだったのですが」
「そんなことねーでごぜーますよ。セクシーセクシー!」
純白の白ビキニに身を包むサクラだったが、ワイルドなトラ柄ビキニをはちきれんばかりの身体で着こなすシークレスに言われても、半ば嫌味にしか聞こえない。
「良いんです……今日は羽を伸ばしに来たんですから」
「そうそう。最近、肩の調子が……」
「せっかくですし、マッサージでもしましょうか……?」
真顔で尋ねたサクラに、シークレスは頬を引きつらせる。
「まさか、もう飲んでるんじゃねーですよね?」
「そんなわけないじゃないですか……本当ですよ?」
その赤い瞳に映る真実は、彼女のみぞ知る。
「わぁ、どうしたのこれ!?」
温泉に浮かぶ船盛舟。
そこにうずたかく積まれた温泉饅頭を前に、高瀬 未悠(ka3199)が目を輝かせる。
「来るときにおいしそうだったので。少し買い過ぎたでしょうか」
「ううん、そんなことない! ありがとうユメリア!」
未悠の笑顔に、ユメリア(ka7010)はほんのり心が温まる。
「冷えたお茶もありますから、ご一緒にどうぞ」
未悠はユメリアに進められるがままに饅頭とお茶とを頬張った。
「うんうん、あ~、最高の贅沢ね」
すっかりとろけ切った表情に、ユメリアの方も思わず笑顔が浮かぶ。
「ほら、ユメリアも食べよ。その前にお茶飲んで水分も取っておこっか」
「ありがとうございます」
ほてった身体に冷たいお茶が流れ込んでいく感覚が、ちょっと面白い。
ひとしきり癒しの時間を堪能していると、いつの間にか傍でぽけーっと眺めている少女の姿があった。
黒いモノキニに身を包んだ白い少女は、物欲しそうな表情で饅頭船を見つめる。
「どうぞ、沢山ありますから」
「いいの?」
少女――ディーナ・フェルミ(ka5843)の笑顔が弾けた。
「余らせてももったいないものね。みんなにもおすそ分けしましょうか」
「そうですね」
「ま~、もうちょっと堪能してからだけど」
もくもくと饅頭を頬張る。
ほんのりと口当たりの良い甘さが、疲れに染みわたるようだった。
ミア(ka7035)は湯船にひたって身体も顔もふにゃふにゃにとろけさせながら、ふかーく息を吐いた。
「ふニャぁ……ぬくぬくあったかぷーニャス」
普段なら楽し気なグループに突っ込んでいくものだが、今日は1人で楽しみたい気分だった。
「ともだち……かぁ」
少しは前に進んだのかな。
だけど、自分はまだ人の命は救えても心を救うことはできない。
もしかしたら怖いのかもしれない。
踏み込むことで、これまでが無かったことになってしまうのが――
口元まで温泉に沈んでぶくぶくと息を吐く。
弾ける泡のように、心の殻も簡単に開いてくれたらいいのにな。
岩場に腰かけるフィロ(ka6966)は、足湯のように温泉を楽しんでいた。
「皆様の水着は参考になります」
自分が身にまとうハイウエストビキニとを見比べながら、感心したように頷く。
「やっぱり、混浴はビキニが基本なの?」
いつのまにやら、腕いっぱいに抱えた温泉饅頭をかかえたディーナが背後に立っていた。
「そういうことは無いかと思われますが」
「ここは、シンプルだけどなかなかいい温泉なの。きっとお湯の質が良いのだと思うの」
「温泉の良し悪しは私には分かりませんが……」
少なくとも人を幸せにする力はあるのだろうとフィロは理解した。
「今度、刻騎ゴーレムっていうのを使うことにしたの」
温泉に浸る茜が、お湯を肩にかけ流しながらジーナに語る。
「興味はあるんだけど、あれ私乗れないよねぇ」
「覚醒者じゃないと無理でしょうね」
ディアナ・C・フェリックス(kz0105)は、温泉の中で太ももの辺りをマッサージしながら冷ややかな視線を送った。
水面に浮かぶたわわな果実に、茜は息をのむ。
「何かしら」
「あ、いえ、何でも……あはは」
そのまま自分の身体に視線を落として、大きなため息をついた。
「それで、お風呂上りには牛乳を飲むのがお約束で……」
「なるほど。良いことを聞いた」
小夜はと言えばヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)と温泉談義に花を咲かせている。
もやもやの行き場をなくした茜は、手で水鉄砲を作るとジーナの顔に思いっきり吹き付けた。
「わっぷ! なんだよ、やったなー!?」
「お姉は――わぷっ」
お返しにジーナが飛ばしたお湯は、目測を外れて小夜の顔を直撃する。
しばらく、キャッキャと女の子たちの楽し気な声が響いた。
「ふぅ~、眼福だぜ眼福」
彼女たちを遠巻きに、ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)が悟り切った表情で深く頷く。
わざわざ来て本当によかった。
「ふへへ……あの軍の大尉さん、良い身体してますねぇ」
フリフリのビキニ姿で緩み切った表情で集団を見つめる星野 ハナ(ka5852)に、彼は一瞬でシンパシーを感じた。
「獲物は違えど志は同じか」
「勘違いしないでくださいよぉ。私は温泉に身と心をリフレッシュしに来たんですぅ」
湯気に隠れて、2人は熱く握手を交わす。
「あの女大尉サンも良いねぇ。軍人にしとくにゃ勿体ねぇな」
「隣のおじ様のヘタレ攻め……いや、実は強気攻め? 階級差的にはこの際リバでも……ハァ、ハァ……やばいですぅ、創作意欲溢れますぅ」
湯煙の向こうには桃源郷が広がっている。
●
温泉を堪能し、しばしの休憩をとったのちに、一行は宿の主人に連れられて村祭の会場へと案内される。
まだ陽が沈みかけるころだが、日がな一日飲めや歌えやのお祭り会場は、既に陽気な村の人たちに支配されていた。
「……きゃー」
ディーナが目の前に並ぶ料理の山を前して、満面の笑みで控えめな歓声をあげる。
積み上げられたお肉、野菜、お肉、野菜、時々海鮮。
「食べることなら大船に乗ったつもりで任せるといいの」
謎の自信を漲らせながら、ディーナはさっそく皿に料理を盛っていく。
その山の標高は、先ほど温泉で食べた饅頭より高い。
「ジーナ、回復おめでとう。あと昇進も」
リクがグラス片手に声を掛けると、ジーナはハムスターみたいな頬でグラスをあわせた。
「もごもふぁー!」
「あはは……食べてからでいいよ」
苦笑するリクを前に、彼女は取り急ぎ口のものを飲み込む。
「皆さんも、また会えたのを嬉しく思います」
「つくづくそう思うよ」
ダニエルに続いて他の面々も順にグラスを合わせると、空気はすっかり先の戦いの祝勝会だ。
しばしの歓談を済ませて、リクは付き合ってくれた金鹿と共に喧騒へと去っていく。
彼女にからかわれて狼狽える背中を見送ると、何となく力関係が目に浮かんだ。
残された面々の方はというと、観智とヴィオがCAMの操縦談義に華を咲かせていた。
「やはり視野の違いが一番のネックだな」
「カメラの性能上、どうしても死角……はできてしまいますからね」
「だからこそ機動兵器運用において単独行動は禁物だと考えている。ウチの隊もその算段で揃えたようだしな」
そう言って、ヴィオはジーナとディアナの横顔を伺った。
「信頼……されているんですね?」
「そうでなければ、命は預けられん」
「その気持ちは……分かるような気がします」
命令で戦場に出なければならない彼らは、ハンターとは違う。
だけどその言葉に宿る感情だけは観智にもよく理解できた。
「悪いねぇ、お客さんなのに」
「良いんですよぉ。これも料理の勉強ですぅ」
キッチン代わりとなっている周辺の民家では、ハナがパーティ料理の準備を手伝っていた。
「とりわけ大食いさんが居るからね。あたしらも張り切らないと!」
窓の外を見ると、テーブルいっぱいの取り皿に囲まれて幸せそうに料理にぱくつくディーナの姿がある。
「あれに追いつくのはなかなか大変ですねぇ」
これは嫌でもレシピを覚えそうだなと、苦笑するハナである。
出来上がった料理は、次々とフィロが会場へと運んでいく。
両腕に肩まで使って皿を運ぶ姿は、見た目華奢な彼女にはよほどパワフルな様子だった。
「温泉に来たのに、休まなくていいのかい?」
ふと尋ねたおばさんに、フィロは顔色を変えずに答える。
「本業の時間が、最も心が安らぎますので」
「そういうもんかい? 都会の子はタフだねぇ」
彼女は賛辞の意図がうまく理解できなかったのか、首をかしげながら配膳へと戻っていった。
会場の方では、シレークスらが連れだってテーブルの1つを囲んでいる。
彼女がツレをからかって遊んでいる横で、サクラは幾分浮かない顔で料理を突いていた。
「むぅ、こんなに美味しいご飯なのに……」
恨めしそうに見つめるのは、酩酊陽気な客人たちの傍のグラス。
口の中に湧いたつばを飲み込むように、彼女は手元のグラスを煽る。
「ぶぅっ! サクラぁっ! おめぇ……!?」
あまりに良い飲みっぷりなものだから、シークレスが慌てた様子で振り返った。
「ノンアルコールですよ」
「えぇ……本当に?」
「約束を破るわけないじゃないですか……本当ですよ?」
かがり火で紅潮しているサクラの顔。
真実はやはり、彼女のみぞしる。
宴もたけなわ。
次第に満足した人たちから会は解散となっていった。
べろんべろんの者たちは今だテーブルを囲んでいるが、比較的意識のある者たちは自然と喧騒から離れてBARスペースへと集う。
「そう、あのダインスレイブ」
「そいつが俺よ!」
ロジャーはちゃっかりディアナの隣を確保して、先の戦いについて熱い語り口を披露していた。
「海戦の華っつったら白兵戦かもしれないけどよ、ロマンは断然一斉掃射だ。愛機は船であり誇りだからな」
「機体の事はさておき……私にだって誇りはあるわ」
「そいつはいい。その誇りに乾杯だ」
掲げるジョッキに、ディアナは仕方なしにといった様子でグラスを合わせる。
こういうのは黒狐塾以来か――面倒だが、悪い気はしない。
「奢りとか、ほんとあり得ないわね」
朝のディアナと同じ顔をする葵に、ダニエルはいくらかスネた様子でロックグラスを傾ける。
「そんなに人望ないかね俺。頑張って来たんだよ、これでもさ」
「人望っていうより、うーん、人と成り?」
葵は、ややズボラな彼の姿を見据えてクスリと笑った。
「ホントのとこはどうなのよ。そろそろ次の戦地も決まってるんでしょう?」
「ん? んー、まーね」
「もしかして邪神絡みとか?」
その単語に、ダニエルの纏う空気がピリッと引き締まる。
が、すぐにいつもの外した調子でへらりと笑ってみせた。
「怖い怖い。やっぱ下手に口にできないって」
彼が煙に巻くということがどういうことか、葵も流石に理解してきた。
だから責めるでもなく、一言添えるのだ。
「ま、お互い死なない程度にね」
●
昼間の晴天の暑さとはうって変わって、夜はやや肌寒いくらいの涼しさが包み込む。
それでもお祭りの熱気に当てられていると、身体の中から温かくなっていくような気がする。
パーティ会場が落ち着いたことでお役御免となったフィロは、手持無沙汰に夜の村を歩いていた。
見上げると満天の星空。
ふと、今は見ぬ故郷の空を思い出す。
「そう言えば、エバーグリーンでは夜空を見上げたことがありませんでした」
あの星の夜空も同じように美しかったのだろうか。
今は確かめることのできない光景に想いを馳せ、彼女の記憶回路にぽっかりと穴があく。
同じ空の下で、鞍馬 真(ka5819)は浴衣で村を練り歩きながら満足げにお腹をさする。
「うーん、お腹いっぱいだね。腹ごなしの散歩は良い案だったかも」
隣を歩くGacrux(ka2726)も、心地よい風に身を委ねながら一息ついた。
軽くアルコールで火照った身体が、ほどよく覚醒していくのを感じる。
「せっかくだし、何か記念になるものを買いたいな」
「いいですねえ。知人のお土産も見繕って行きませんと……」
ふと露店を物色するガクルックスの足が止まる。
「どうしたの?」
「ほう……地酒ですか」
真が脇から覗き込むと、ほどよく顔を赤くしたおじさんが、自分が飲んでいるものと同じ瓶をいくつか露店に並べていた。
「買っていく?」
「おや、良いんですか?」
「どうせ、飲みなおすよね」
「確かに」
テンポのよいやり取りで頷き合って、ガクルックスが店主に指を2本立ててみせた。
「そしたらおつまみも買ってかなきゃな。太りそう……でも、たまにはね」
真は帰ってからの体重計にちょっと恐怖したが、今日という日と天秤に掛けて、頭から忘れ去ることにした。
一方、宿に戻って。
金鹿の大事を取って早めに部屋へ戻ったリクたちは、寝る準備を終えて布団へもぐりこんでいた。
頼りない旧時代の明かりを消すと、淡い月明かりが2人の顔を照らし出した。
「背負わなくちゃいけないものは、僕も半分背負うから」
「どの口がを言いますの?」
リクがあまりに真面目な顔で言うものだから、ちょっと意地悪のつもりでクスリと笑い返す。
「ありがとう。お言葉に甘える分、貴方の半分もどうか私にお預けくださいましね」
「それならもう、預けてるよ」
同じ表情で、彼はきっぱりと言う。
「……そう」
金鹿は息が詰まって、背を向けるように寝返りをうった。
華奢な背中にリクはそっと手のひらを重ねる。
そうだ――自分がヒトであるためのモノは、きっと全部ここにある。
まだ煌々と明かりの灯るざくろたちの部屋では、熱いババ抜き勝負がくりひろげられていた。
「ほれ、どうしたざくろ。もう後がないぞ」
ソティスはあと1枚になった手札で浴衣の合わせを扇ぎながら、ざくろの手番を観戦する。
カードを引かなければならない彼は、アルラウネの持つ2枚の手札を右往左往しながら、時折ちらりと、釣られるように視線が上がった。
「ん~? 手元がお留守よ?」
「そ、そんなこと言われても……」
ざくろが先ほどから気になっているのは彼女の胸元。
大胆にさらけ出された谷間は、温泉で血行が良くなっているのか、艶めかしく上気していた。
「わざとじゃないわよ。だって帯を絞めるとキツイんダもの」
ざくろはさんざん迷った末に――気になってしょうがないなら、取る手札ごと見ないことにした。
「これが勝負の……超次元札引月面宙返りだ!」
くるりとそのまま宙返りをしながら、掴んだカードを引く。
「やった、ペア! これでざくろもあと1枚――」
喜びと同時に訪れるのは絶望だった。
手元のカードはババ。
「つまり私がソティスから引いて……っと、あがりっ」
「ふむ、私も最後の1枚が引かれたのであがりだな」
勝利した2人は、手をわきわきさせながらざくろへとにじり寄る。
「さて、敗者は勝者になんでもご褒美を授けるんだったな」
「2人とも満足するまで搾らせてもらうわよ……?」
「お……お手柔らかにお願いします」
ざくろは顔を引きつらせながら、涙目で笑顔を浮かべた。
宿に戻って来たシレークスは、いつの間にかサクラの姿がないことに気づく。
「あれ、どこに行きやがりました?」
飲酒の有無に関して疑念は残るものの……とりあえず手の付けられない状態ではないと思う。
「せっかくの休暇に気苦労を……こうなったらあいつで発散しやがるです」
邪まな笑みを浮かべながら、シークレスはツレを迎えに彼の部屋を目指す。
そんなことは知らず、サクラはのほほーんと2回目の温泉を堪能していた。
同じ考えの人は彼女の他にも居るようで、絶景の星空の下でうっとりとしたため息が漏れる。
「はぁ……ひと仕事の後の一杯は格別ですぅ」
遠巻きにハナが星見酒を楽しんでいるのに一瞬心が揺れたが、そこはここまでの耐え抜いた自制心を発揮して踏みとどまった。
「ふぅ……最高です」
どうせ泊っていくのだし、のぼせるのも気にせず楽しみ尽くそう。
そう誓って、表情からとろとろにとろけていった。
脱衣所の外ではミアが売店で買った苺牛乳をごくりと飲み干し、ぶぱーっとお約束に締めくくった。
独りで旅行なんて集落を出た時以来だろうか。
たまにはこういうのもアリだけれど、改めてみんなと楽しく過ごすのが良いなとも思う。
やっぱり自分は「家族」というものが好きだから。
「自分から踏み出さなきゃダメ……ニャスよね」
決めた。
帰ったらすっきり元通り。
ううん、今度はこっちから扉を開けに行くんだ。
「おー、これタッキュウってやつか!?」
傍の遊戯スペースで、ボルディアがはちきれんばかりの笑顔で台へと飛びついた。
隣のテーブルでは既にラスティ(ka1400)、神代 誠一(ka2086)、クィーロ・ヴェリル(ka4122)の3人が、慣らしのラリーを披露する。
「あー、くそっ!」
完全初心者のクィーロは、時折ラケットが空を切りながら悔しそうに顔をしかめた。
「こいつもまた心技体を必要とするスポーツだからな。クィーロにはちょっと早かったか?」
「うるせぇ! だったら勝負だ誠一!」
唐突に始まった真剣勝負。
誠一はにこやかに笑みを浮かべながら、ピンポン玉を掲げる。
「まあ、少しくらい手加減して――やる、とでも、思ったか!」
放たれた玉は、えげつないトップスピンと共に壁に突き刺さる。
クィーロはラケットを振ることもできずに呆けた顔で固まっていた。
「はっ! 勝負と言われて手加減するわけねぇだろ!」
大人げなく鼻高に笑う誠一。
クィーロは肩を震わせながら、得点係をしていたラスティを睨みつける。
「お前も入れ!」
「良いぞ、一緒にクィーロに現実を教えてやろう」
ラスティはちょっと考えた後にラケットを構えた。
クィーロが構えるその隣に並んで。
「ってそっちかよ!?」
地団駄を踏む誠一に、ラスティはキリッとした表情で答える。
「俺は弱い方の味方だ!」
「弱くねぇ!」
何ともちぐはぐな状況だが、とりあえず陣営は分かれたようで。
高速の白球が乱れ飛ぶ。
「良かったら、俺が相手をしようか」
勝負の様子を見ていたボルディアに、ヴィオが後ろから声を掛ける。
風呂上りらしく、髪がしっとりと濡れていた。
「タッキュウはお約束だと小夜に聞いた。俺も初心者だ」
「そりゃいい勝負になりそうだ」
台に向かい合う2人。
ボルディアが第一球を放る。
「うっおりゃあああ! ……ってあれ?」
が、ラバーに掠りもしない弾は、コーンコーンと空しく足元を転がった。
「もういっちょ!」
コーンコーン。
「くそぉ、舐めんなよ!」
コーンコーン。
「唸れ! 燃えろ! ぶち抜けぇぇ!」
コーンコーンコーン。
終いには息を切らして、台にへたり込んでしまった。
「……とりあえず、互いに当てるところから始めてみるか」
「そうだな……」
ヴィオの提案に頷いて、2人は初心者らしい低速ラリーに汗を流す。
そのころ隣の卓では。
鋭いサイドステップで玉に追いついたラスティが、ラケットを振りかぶる。
コンマ数秒の世界。
わずかに傾けたラケットの角度で、相手の隙へ玉を打ち抜く。
「『ここ』はわざと開けた隙だ……!」
先回りしていた誠一は、残像が見えるほどの速度で振りぬいた。
「そっちはフェイクだ!」
反応して飛びついたクィーロにラスティが叫ぶ。
像が消えた先に誠一はまだ構えを崩さずに立ちはだかっており、今度こそ正真正銘の球を撃ち返す。
「何とか飛びつけ! 俺は……あっちを何とかする!」
「は?」
クィーロはその辺に転がっていたラケットを掴む。
両手に持った状態で誠一の顔を睨みつけ、そしてニヤリと笑った。
「食らえ、すかし眼鏡ッ!」
「おわっ!?」
眼鏡めがけて飛んできたラケットを、誠一は咄嗟に回避する。
大きく仰け反った瞬間、ラスティがギリギリ返したボールがコート上を跳ねていた。
「そりゃ反則だぞ!」
怒る誠一だったが、その背後へ誰かが駆けてくる音がする。
宿屋の主人だった。
「何してるんですか! ああ、ラケットがこんなことに……」
彼はクィーロが投げて砕けたラケットを拾い上げて、3人を一瞥する。
クィーロとラスティは生気の抜けた表情で鼻をほじりながら答えた。
「そこの誠一がタッキュウはこうするもんだって」
「そーそー」
「えっ!? ばっ、おまっ!?」
「そうですか。ちょっとお話しましょうか……」
「え、いや、俺は違っ――」
主人にずるずる連れられて行く誠一の姿を、2人が手を振りながら見送る。
「これで終いなら8対7で俺たちの勝ちだなー」
「今日は奢りだぜ、よろしくー」
その言葉は、まさしく地獄への片道切符となろう。
部屋へと戻ったガクルックスと真は買ってきた地酒とつまみで2次会と洒落込んでいた。
「結構飲んだね。がっくん大丈夫?」
綺麗に並んだ空き瓶を見ながら、真が友人に笑いかける。
その瞬間をガクルックスが構えていたスマホのシャッターが捉えた。
「い、いきなりは卑怯だよ!」
「まあ、何事も思い出ですよ」
ガクルックスは悪びれることなく、怒る彼をもう1枚。
真はすっかり拗ねた様子で、傍にあった枕を投げつけた。
「おっと」
しかし、咄嗟に布団を盾にして防がれてしまう。
真は一層頬を膨らませて、押し入れからありったけの枕を投げつけた。
「おっと、流石にされてばかりというのも」
ガクルックスが飛んできた枕を投げ返す。
真はそれをひらりと避けると、布団ガードの隙間を縫って枕を叩きこんだ。
相手の顔面に当たった枕は、ぼふんと鈍い音を立てて床に転がる。
「やりましたね……!」
そこからは枕の応酬。
ガードも忘れて当てて、当てられて。
どちらともなく息が切れるまで続けたのちに、両者力尽きて布団に崩れ落ちた。
「あははっ。また、来たいね」
キラキラと笑う真に、ガクルックスは噴き出すように笑みを浮かべる。
「そうですね」
口にした以上は実現させよう。
未来は、こういう些細な決意から繋がっているのだ。
「ムリムリ、降参っ」
ところ変わって女子部屋。
ユメリアとのトランプ勝負に勤しむ未悠は、抱えた手札を放り投げながら布団へと倒れ込んだ。
「素直に神経衰弱にしとけばよかったわ。ユメリアとブラフとか……もう、ポーカーフェイスすぎ」
「そうですか? 感情豊かな方だと思うのですが」
「そういうとこ!」
にこやかな笑みで答える彼女に、ちょっとむくれたように頬を膨らませる未悠。
「それはそうと、罰ゲームですね」
ユメリアが笑顔で詰め寄る。
「逃がしませんよ……それっ」
「わっ……あっ、あはははっ! ま、まって、あははははっ!!」
ものすごい勢いで未悠の小脇をくすぐると、未悠はたまらず布団の上でもがいた。
しかしがっちりと片手をホールドしながら攻めるユメリアの技に、逃げるすべはない。
「まって!? トランプより本気……あはははっ!」
お腹の底から声を出して笑って、ユメリアもつられたように声を上げて笑った。
本当に過ごしたいのはこんな日々。
そのために勝つんだ――絶対に。
こちらも女子部屋。
とっくに明かりも消した後だが、天井を見つめたままぽつりぽつりと声だけのトークが続いていた。
「ジーナはさ、好きな人とか居ないの?」
尋ねる茜に、小夜が息を殺しながらそっと耳を澄ませる。
「うーん……考えたことないなぁ」
ケラケラとジーナが笑う。
「そういう茜さんと小夜ちゃんは?」
「え!? 私は、うーん……」
押し黙った茜だったが、代わりに小夜がコソリとつぶやく。
「小夜は……いる、よ」
「えーホント!?」
「誰? 誰?」
布団から飛び出したジーナと茜に対して、小夜は頭まですっぽり布団をかぶる。
どうにか相手を聞き出そうとするものの、流石にそれ以上口を割ることはなかった。
「私はこうして小夜ちゃんたちと居るのが一番楽しい」
ジーナは布団へ戻ってしみじみとした口調で語った。
小夜も布団の中で頷いて、熱い吐息で答えた。
「うん……よかった」
ほんのり身体がぽかぽかしてきて、その日はぐっすり眠ることができた。
●
「おっしゃ、撮るぜ~」
翌朝、チェックアウトの前にツアー参加者の面々で大露天風呂の前に並ぶ。
それぞれ手持ちのカメラで、交代での記念撮影。
最後となったロジャーが、掲げた指でカウントを取る。
バチン――シャッターと共に放たれたフラッシュのまばゆさに、みな思わずニコリと目を細めた。
過去から繋がり、未来へと続く。
今日と言う日のポラロイドの中で。
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温泉宿ツアー準備卓 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/06/05 12:24:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/06 21:54:59 |