ゲスト
(ka0000)
老人の宝物
マスター:トロバドル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/28 07:30
- 完成日
- 2015/02/04 18:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある山村
「くっ……。ワシはまだ動けるわっ!!」
高齢を思わせる皺にまみれた顔を苦悶に歪ませながら、老人は痛む体に鞭を打つようにして立ち上がろうとする。
「ま、待てって爺さん! そんな体でどうしようってんだ!?」
「うるさい! あれは……あれだけはどうしても取り返さねばならんのだ!」
「そ、それは分かるけどな……。だからってそんな体で行ったってどうにもならないだろ?」
「ぐっ……」
老人を幾分か若くしたような屈強な体付きをした男性に窘められ、苦虫を噛み潰すような声を漏らした。
「爺さんが婆さんから貰ったあれを大事にしているのは分かる。だけどな、それの為に爺さんが大怪我……いや、死んじまうかもしれねぇ場所に行く事を婆さんが喜ぶと思うか?」
男性の更なる言葉に老人は喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
反論したい言葉はあった。若造が何を偉そうにと。
そう言いかけ、老人はふと思い出した。生涯を共にすると誓い合った伴侶の姿を。
老人と同じように、歳を重ねるごとに増えていく皺。それは他人から見れば老いに見える。だが、二人にとっては、その皺こそが互いの絆の深さだと思っていた。
その伴侶がほほ笑む姿が見えたのだ。死ぬ直前まで自らにだけ向けられていた笑みを。
もう幾年もすれば老人も彼女が旅立った場所へと赴くことになるだろう。それは構わないと老人は思っている。彼女の下へ行けるのなら、恐怖など何一つない。
しかし、もしそこへ訪れる理由が彼女から送られたある物を取り戻しに行った結果だったとしたらどんな顔をされるだろうか。
その事を考えた老人は言葉を飲み込んだ。
「婆さんの形見だ。爺さんがどうしてもって気持ちは判る。でもな、あれだけの数を相手に、爺さん一人じゃどうもしようがないぞ?」
老夫婦の中の良さは男性にも分かっていた。それは村中の皆が知っている事実だ。
気難しく頑固ながらも生真面目な夫と、そんな夫を常に柔らかな笑みで見守る妻。
喧嘩は数あれど、それは互いに信頼し合っているからこそ。
そんな老夫婦を見て、村の者達は理想的な夫婦だと思っていた。
だからこそ、老人の気持ちが分かるのだ。何がなんでもあれを取り返しに行きたいと逸る老人の気持ちが。
「……だったら、依頼を出してみたらどうだ?」
老人の肩を抱き留めていた少し若い男性がそう言葉を発した。
なるほど、と回りの村人達が妙案だと頷いた。
「よし、それなら早速俺が行って来る。爺さん、それでいいな?」
老人は自身の手を見る。太く、皺くちゃで土がこびり付いて汚れた手を。
いつもは気にせず、無視してきた。多少の事で村の若い衆に負けるものかと息巻いていた部分もある。
それがほんの少しの障害で何もできなくなる程に自分は老いていたのかと思うと、老人は静かに目を伏せた。
「……頼む」
漸く絞り出した声を聴き、男性は太い眉を吊り上げて立ち上がった。
●ハンターオフィス
翌日、ハンターオフィスにとある山村からやってきたという男性から依頼が入った。
依頼の内容はこうだ。
村から半日ほど森の中に入ったことろに、半年ほど前に遺跡が発見されたらしい。
その遺跡はいつの頃に作られたかは判らないのだが、かなりの間放置されていた為に今にも崩壊しそうなほどに老朽化しているそうだ。
一目で危険な場所と分かるそこに村人達は決して近づかなかった。その為か、いつからか雑魔が住み着くようになったらしい。
そんな折、一匹の雑魔が村へと侵入し、とある老人宅からネックレスを奪って逃走したそうだ。
逃げた先は当然その遺跡。追いかけた老人も遺跡に入ったのだが、そこに住み着いていた雑魔に襲われて怪我をしてしまったらしい。
老人は騒ぎを聞きつけ、駆け付けた村の若い衆に助けられたので軽い怪我だけで済んだようだ
直ぐに雑魔討伐の為に男手が集められたのだが、雑魔の数が多く、数人の怪我人が出てしまって諦めたとの事。
雑魔一体自体は大したことはないのだが、どうにも村人だけでは対処のしようがないらしい。
依頼はそんな雑魔から、盗まれた老人の宝物、生涯の伴侶と決めた奥さんから送られた大切なネックレスを奪い返してきてほしい、というものだ。
ついでに、可能ならば出来るだけ雑魔を排除してほしいらしい。
雑魔は小猿のような小型の生き物なのでさして脅威にはならないが、問題なのは雑魔の数と遺跡だ。
遺跡の中には至る所に小さな穴や、崩れて繋がった道などがあり、雑魔はそこを使って襲い掛かって来るとの事。
数が多いうえに、あまり派手に戦うと遺跡自体の倒壊もあり得る。その事には十分注意してほしいと締めくくった。
「くっ……。ワシはまだ動けるわっ!!」
高齢を思わせる皺にまみれた顔を苦悶に歪ませながら、老人は痛む体に鞭を打つようにして立ち上がろうとする。
「ま、待てって爺さん! そんな体でどうしようってんだ!?」
「うるさい! あれは……あれだけはどうしても取り返さねばならんのだ!」
「そ、それは分かるけどな……。だからってそんな体で行ったってどうにもならないだろ?」
「ぐっ……」
老人を幾分か若くしたような屈強な体付きをした男性に窘められ、苦虫を噛み潰すような声を漏らした。
「爺さんが婆さんから貰ったあれを大事にしているのは分かる。だけどな、それの為に爺さんが大怪我……いや、死んじまうかもしれねぇ場所に行く事を婆さんが喜ぶと思うか?」
男性の更なる言葉に老人は喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
反論したい言葉はあった。若造が何を偉そうにと。
そう言いかけ、老人はふと思い出した。生涯を共にすると誓い合った伴侶の姿を。
老人と同じように、歳を重ねるごとに増えていく皺。それは他人から見れば老いに見える。だが、二人にとっては、その皺こそが互いの絆の深さだと思っていた。
その伴侶がほほ笑む姿が見えたのだ。死ぬ直前まで自らにだけ向けられていた笑みを。
もう幾年もすれば老人も彼女が旅立った場所へと赴くことになるだろう。それは構わないと老人は思っている。彼女の下へ行けるのなら、恐怖など何一つない。
しかし、もしそこへ訪れる理由が彼女から送られたある物を取り戻しに行った結果だったとしたらどんな顔をされるだろうか。
その事を考えた老人は言葉を飲み込んだ。
「婆さんの形見だ。爺さんがどうしてもって気持ちは判る。でもな、あれだけの数を相手に、爺さん一人じゃどうもしようがないぞ?」
老夫婦の中の良さは男性にも分かっていた。それは村中の皆が知っている事実だ。
気難しく頑固ながらも生真面目な夫と、そんな夫を常に柔らかな笑みで見守る妻。
喧嘩は数あれど、それは互いに信頼し合っているからこそ。
そんな老夫婦を見て、村の者達は理想的な夫婦だと思っていた。
だからこそ、老人の気持ちが分かるのだ。何がなんでもあれを取り返しに行きたいと逸る老人の気持ちが。
「……だったら、依頼を出してみたらどうだ?」
老人の肩を抱き留めていた少し若い男性がそう言葉を発した。
なるほど、と回りの村人達が妙案だと頷いた。
「よし、それなら早速俺が行って来る。爺さん、それでいいな?」
老人は自身の手を見る。太く、皺くちゃで土がこびり付いて汚れた手を。
いつもは気にせず、無視してきた。多少の事で村の若い衆に負けるものかと息巻いていた部分もある。
それがほんの少しの障害で何もできなくなる程に自分は老いていたのかと思うと、老人は静かに目を伏せた。
「……頼む」
漸く絞り出した声を聴き、男性は太い眉を吊り上げて立ち上がった。
●ハンターオフィス
翌日、ハンターオフィスにとある山村からやってきたという男性から依頼が入った。
依頼の内容はこうだ。
村から半日ほど森の中に入ったことろに、半年ほど前に遺跡が発見されたらしい。
その遺跡はいつの頃に作られたかは判らないのだが、かなりの間放置されていた為に今にも崩壊しそうなほどに老朽化しているそうだ。
一目で危険な場所と分かるそこに村人達は決して近づかなかった。その為か、いつからか雑魔が住み着くようになったらしい。
そんな折、一匹の雑魔が村へと侵入し、とある老人宅からネックレスを奪って逃走したそうだ。
逃げた先は当然その遺跡。追いかけた老人も遺跡に入ったのだが、そこに住み着いていた雑魔に襲われて怪我をしてしまったらしい。
老人は騒ぎを聞きつけ、駆け付けた村の若い衆に助けられたので軽い怪我だけで済んだようだ
直ぐに雑魔討伐の為に男手が集められたのだが、雑魔の数が多く、数人の怪我人が出てしまって諦めたとの事。
雑魔一体自体は大したことはないのだが、どうにも村人だけでは対処のしようがないらしい。
依頼はそんな雑魔から、盗まれた老人の宝物、生涯の伴侶と決めた奥さんから送られた大切なネックレスを奪い返してきてほしい、というものだ。
ついでに、可能ならば出来るだけ雑魔を排除してほしいらしい。
雑魔は小猿のような小型の生き物なのでさして脅威にはならないが、問題なのは雑魔の数と遺跡だ。
遺跡の中には至る所に小さな穴や、崩れて繋がった道などがあり、雑魔はそこを使って襲い掛かって来るとの事。
数が多いうえに、あまり派手に戦うと遺跡自体の倒壊もあり得る。その事には十分注意してほしいと締めくくった。
リプレイ本文
●遺跡外
「そっちはどうだ?」
遺跡の入口に戻ってきたディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271) は、同じように戻ってきたウル=ガ(ka3593)に声を掛ける。
「こっちもしっかり塞いできた」
二人は遺跡の周辺を見回り、中に通じていそうな穴を全て埋めて戻ってきた所だ。
見た目通り、埋めなくてはいけない穴は幾つも発見した。
「それなら後はここで待機するとしよう。っと、その前に……」
ディアドラは持ってきたランタンを入口に引っ掛けた。ランタンの明かりが遺跡内の暗闇を少しだけ押し退ける。
「――何をしているのだ?」
入口の足元に何かを仕掛けていたウルに、興味心でディアドラが問う。
「罠を仕掛けている。簡単なものだ……が、意外と効果的だったりする」
左右に渡るよう設置されたロープは、引っ張れば足を取って転倒させるというトラップだ。
単純ではあるが、単純だからこその死角を突いたトラップで、ディアドラは感嘆の声を漏らした。
「一応、中の連中には連絡を入れておく」
ロープは引っ張らなければ大丈夫なのだが、念には念を入れてという事だ。
●遺跡内
オレンジ色の明かりが暗闇を払い除け、淡い光の中にティス・フュラー(ka3006)の姿を浮かび上がらせた。
「暗いとは聞いていたけれど、本当に暗いわね……」
「うう……如何にも何か出そうですね……。地図が無かったら迷子になっているところです……」
松明とランタンの明かりを合わせ、佐倉 桜(ka0386) は村人に用意して貰った地図に視線を落とす。
地図とは言うが、それは簡素な作りだった。
殆ど誰も近寄らなかったという事もあり、中の全容を知っている者は誰一人としていなかったからだ。
それでもいいのならと、村人達が覚えている限りで地図を作ってくれたのだ。
「っかし、全然敵が出てこねぇな……」
覚醒した姿で、上霧 鋭(ka3535)がライトをあちらこちらへと向けながら呟く。
気配すら感じられない事に、先ほどから違和感を抱いていた。
「――たしか、こういう所から出てくるという話だったわよね……?」
誰に言うでもなく呟き、ティスは近くにあった小さな穴を覗き込む。が、そこに雑魔の姿はなかった。
嘆息しつつ姿勢を戻すと、ふと桜が何かしているのに気づく。視線に気づいた桜は、はにかみながら答えた。
「バナナが好物だという事なので、こうしておけば音が鳴って判るかなって」
小石で山を組み、中にバナナを仕掛ける。中から取り出せば、音がなって知らせると言う仕組みだ
更に、細い通路という事もあり、慌てて通れば蹴飛ばして音を立てさせる事もできる。
「鳴子って訳か。そりゃいいな。足元はそれで守れそうだぜ」
全ての穴をカバーできる訳ではないが、足元の注意を減らせるだけでも精神的に楽だ。
三人は穴からの襲撃を警戒しつつも、奥へと歩みを進めた。
●遺跡外
「こんな方法で本当に釣れるのか?」
「少しでも釣れれば……それで、いい」
そう言ってウルが設置したのは剥き出しのバナナだ。入口近くに設置し、匂いを中へと漂わせている。
人の嗅覚では匂いを捉えられないが、獣並みの嗅覚を持っているならば容易だろう。
ただ問題なのは、それで本当に釣れるのか、という事だ。
「――――来たぞ」
僅かな物音に気付いてウルが声を上げる。
ディアドラは意識を切り替えると、身の丈を超える大きな盾を手にして構える。
暗闇の中からランタンの明かりが照らす中に、四匹の雑魔が同時に姿を現した。
盾を構えるディアドラの事など気に掛ける事なく、剥き出しのバナナに向かって一目散に駆けてきた。
が、入口から出る直前、四匹は突然現れたロープに体を引っ掛け、逆上がりをするようにすっ転ぶ。
「なるほど。確かに単純な罠に引っかかったな!」
ディアドラの感心する声にウルは軽く頷いて答え、足を元に戻した。
足で踏んでいたロープを引っ張る事で、ロープが張るようになっている。見事に、それに引っかかったと言う訳だ。
「後は……始末するだけ、だ」
二人は武器を手に取ると、転倒して気絶している雑魔を手早く始末した。
●遺跡内
「一匹も居ないと思ったら、待ち伏せかよ!」
鋭は怒りを露わにし、二人を守るようにして先頭に立った。
広間へと出た三人を待っていたのは無数の雑魔の待ち伏せだった。
「雑魔とは言え、待ち伏せするくらいの知能はあるのね……!」
周囲を警戒しつつ、ティスは武器を抜き放って構える。
「正面、来ます!」
桜の声と同時に、正面から雑魔が向かってくる。
鋭はスキルを使って防御力を高めると、正面から受け止めた。
「はっ! んな攻撃が効くかよ!」
一匹なら村人でも対処できるほどに弱い雑魔の攻撃では、防御力を高めた鋭にはかすり傷にすら付けられない。
「聞いてた通り、一匹一匹は大したことはないみたいね!」
遺跡には当たらないように配慮したティスのウィンドスラッシュが数匹を纏めて撃破した。
「ですが遺跡にと考えると厄介です! ――痛いですよ!」
桜は盾で防ぐと、カウンターでシールドバッシュを叩きつけるように食らわせた。
軽く一蹴するが、雑魔は次から次へと押し寄せてくる。
「こりゃ確かに……村の奴らがヤバイって思う訳だぜ!」
「数が多いだけで、こんなに厄介なんて……!」
倒しても倒しても次から次へとやって来る雑魔。段々と処理が追いつかなくなってきた。
●遺跡外
「ふぅ。片付いたな」
呆気ない終わりにディアドラは安堵した様子で緊張を解く。
しかし、
「……構えろ。次だ」
ウルの言葉を合図にしたかのように、暗闇から次々と雑魔が飛び出してきた。
「うわ、っとと――!」
ディアドラはその勢いに驚くも、ウルが的確に攻撃を走らせ、雑魔を処理した。
「ボクも負けていられないな!」
グッと腰を落とすと、ディアドラは雑魔の一団に向かって大盾をぶち当てた。
雑魔にとって壁に近い大きさを持つ盾の一撃は強烈の一言だ。
壁に自ら激突し、後から来た味方に押し潰されて消滅する。残りをウルが始末する。
「上手く吊れた、な……」
ウルの言葉に、ディアドラは満足気に頷いた。
雑魔の何割かがこちらに来たという事は、遺跡内の雑魔はそれだけ減ったという事だ。
二人は次々と現れてくる雑魔を、一匹も残す事も逃がす事もなく撃破していく。
●遺跡内
「数が減ってきた……?」
先ほどと比べて敵の勢いが衰えてきたのに桜はふと気付いた。
「たぶん外の二人だろ。バナナの匂いでおびき寄せるって確か言ってたしな」
思い出したように鋭が言うと、桜とティスはなるほどと頷いた。
「――ぁ。二人とも、あれ!」
まとめて蹴散らしたティスは、雑魔が一か所に集まっているのに気付いた。
「あの奥に何かあるんでしょうか……? 何か、大事な……?」
桜はなんだろうかと小首を傾げる。
「大事な、か……。ん? もしかして、ネックレスか?」
それだ、と三人はハッとなって気づいた。
判りやす過ぎる行動に呆れを抱くが、相手が雑魔となれば納得も行く。
「取敢えず、行ってみりゃ判るぜ!」
「そうですね。他にそれらしい場所はありませんし」
鋭と桜が言うと、ティスが一歩前に出る。
「それなら一気に突破しましょう。丁度一か所に集まっているし!」
ウィンドスラッシュが雑魔を纏めて切り刻んだ。
雑魔の壁が崩れた隙に、三人は急いで通路へと飛び込む。
●遺跡外
満足気に頷くディアドラと、一仕事終えた様子で額の汗を拭うウルは互いに呼吸を整えるように深呼吸した。
「あらかた片づけたな。これで中の者達も幾分か楽になったであろう」
「そう、だな」
出てくる雑魔を全て処理し終えた二人だったが、最後までネックレスは見つからなかった。
「となれば、後は中の者達に任せるしかない、か……」
「――気を付けろ。次のが来た、ぞ」
その言葉を合図に、遺跡内から再び雑魔が飛び出してきた。
●遺跡内
「ここは……祭壇、かしら?」
ティスが目の前の物を見て小首を傾げる。
「みたいだな。――おい、あれ!」
鋭が声を上げて指をさす。祭壇の上に一回り大きい雑魔が居た。
「あの首にあるもの……ネックレスじゃないでしょうか?」
鋭がライトを向けると、雑魔の首に掛けられていたそれが光を反射する。
「間違いわねぇ。あれだ!」
三人が動くよりも早く、ボス雑魔は天井にある穴の中へと逃げて行ってしまった。
「そんな……逃げられてしまったわ……」
このまま外に出られ、ネックレスは回収不可能。そんな思いがティスの脳裏を掠める。
●遺跡外
「甘い――!」
まとめて飛び掛かってきた雑魔を、ウルは一瞬の内に撃破した。
「ここは通さないぞ!」
ディアドラもまとめて飛び出した雑魔を、大盾の一撃で迎え撃つ。
弾かれた敵を一太刀で切り裂いた。
その内の一体が壁に激突すると、遺跡のアーチ状になっていた一部が崩れ、落下した。
「しまっ――た……?」
やってしまった、とディアドラは肝を冷やす。
しかし、崩れた一部は空中でバラバラに砕けた。
一欠けらの瓦礫が落ちたが、それでも遺跡の様子は変化する事はなかった。
●遺跡内
「――あれを見てください!」
落胆するティスに、それを吹き飛ばすように桜が見上げながら声を上げる。
見れば、先ほど消えたボス雑魔が瓦礫と一緒に落ちてきた。
「捕まえるぞ!」
鋭が真っ先に飛び掛かる。
だが、ボス雑魔は慌てて飛び上ると、近くの穴に飛び込んだ。
「こっちよ!」
すぐ近くに姿を現したボス雑魔にティスは直ぐに手を伸ばす。
が、ひょいとすり抜け、ティスの頭上を乗り越えると出口に向かって逃げて言った。
「お、追いましょう!」
「先に追ってくれ! 外の連中にも知らせとく!」
そう言い、鋭は魔導短伝話を取り出してウルに繋いだ。
●遺跡外
「だ、大丈夫だったみたいだな……」
あれから何の変化もない事にディアドラは胸を撫で下ろした。
「――どうした? ……分かった、こっちは任せろ」
ウルの声にディアドラは振り向いた。
丁度魔導短伝話をしまいかけていた所で、ディアドラの視線に気づくとウルは口を開いた。
「ネックレスを持ったボスらしき雑魔がこっちに逃げているらしい」
「おぉ、見つけたか!」
漸く待ちわびた朗報にディアドラの表情から疲れが吹き飛んだ。
「んむ……。なれば、ここで逃げられる訳にもいかないな」
「ギリギリまでおびき寄せ……仕留める」
頷き合うと、二人は物陰に隠れた。
息を潜めると、確認するように自身の武器を握りしめた。
●遺跡内
広間に戻った桜とティスだったが、暗闇を使われて見失ってしまった。
辺りを伺うが、ボス雑魔の姿はない。それどころか、他の雑魔の姿もなかった。
「雑魔はあらかた片付いたのかしら?」
「一匹も居ませんから、恐らくは」
雑魔の村人への被害はこれでなくなるだろうが、それは可能であればという目標だ。
ネックレスの奪還が最優先である為、二人は辺りを注意深く伺った。
「どうしたんだ、こんな所で?」
遅れてやって来た鋭は広間で立ち往生してる二人に首を傾げる。
事情を告げようとした時だった。
「――今、何か聞こえませんでしたか?」
小さな物音を聞いた様な気がして桜は首を傾げた。
「物音? いや、聞こえなかったけどな」
鋭は聞こえなかったと首を振る。
「――聞こえた。これ……ぁ、さっきの鳴子!」
ティスの言葉に二人はハッとなって思い出す。
広間に行く途中、鳴子トラップを仕掛けた事を。
どうやらボス雑魔はそれを踏んでいるらしい。
三人は音のした方へと向かって走り出した。
●遺跡外
「――――来たぞ」
潜めた声でウルが言う。
段々と近づく物音。ウルはタイミングを合わせ、ロープを引いた。
しかし、ボス雑魔はギリギリでそれを回避すると、足場にして逃げ出そうとする。
「――前方不注意、だぞ?」
身の丈を超える大盾による痛打。
「背中が、がら空きだ――!」
風を切る音と共に雑魔の背中が大きく裂かれる。
致命傷を負った雑魔。命を刈り取る一撃に、足元から消滅し始める。
最後の抵抗と、ボス雑魔はネックレスを放り投げた。どこかに行ってしまえばいいと。
「ひゃ!? こ、これは……ネックレス?」
が、丁度そこに現れたのは桜だった。放物線を描いたネックレスは桜の手の中にストンと着地した。
ボス雑魔が消滅するのを見届け、桜に遅れて出て来た鋭にウルは声を掛ける。
「中の敵は……どうした?」
「ん? あぁ、中にはもう一匹もいないぞ。多分だけどな」
姿も気配もなかった事から、鋭は全て倒したんだろうと判断した。
事実、唯一残っていた外への穴はボス雑魔が使ったアレだけで、出入り口に殺到した雑魔は全てディアドラとウルが仕留めていた。
「えっと……という事は……?」
現状を鑑みてティスが唇に指を当てながら虚空を見上げる。
「敵を全滅させたうえで、ネックレスも無事に取り返した、という事だな!」
力強く頷いたディアドラの声が勝利を告げる角笛の音となった。
●村
村に戻ったハンター達を、村人達は心待ちしていた様子で出迎えた。
「あの……ど、どうぞ」
老人は鼻を鳴らすと、桜の手からひったくるようにしてネックレスを受け取った。
その態度に、村人達は怒らないで欲しいとハンターに懇願した。
「どうかしたのかよ、爺さんは?」
気分を害する事なく鋭が問うと、村人達はゆっくりと語った。
唯一の理解者を失い、年老いた自分の無力さを痛感し、生きる気力を失ってしまったらしい。
「なんとか元気づけてあげる事はできないのかしら……」
依頼を達成したからさようなら。それでは悲し過ぎるとティスは小さく呟く。
「何とかか……。ここで見捨てては大王として……」
何とかしたい気持ちは一緒のディアドラではあったが、かと言って良い案は直ぐに浮かばない。
「……俺に、任せろ」
申し出たのはウルはフルートを取り出すと、静かに音色を紡いだ。
それは戦地へと赴く英雄を称える曲でも、優雅で絢爛なパーティーに流れる極上の曲でもない。
毎日を精一杯に生き、小さな幸せを二人で喜び楽しむ、名もなき家族を謳った曲。
その旋律を耳にした老人はハッとなって顔を上げる。振り返った皺だらけの頬を、一筋の涙が伝った。
ネックレスに視線を落とし、やがて瞼を閉じる。胸ポケットの中にそっとネックレスをしまい込むと、涙をふいて立ち上がった。
「すまん。お前達のお蔭で思い出した。アイツは……ワシが何も言わず黙々と仕事をする、その姿が好きなのだと言ってくれていたのを……。こんな所で腐っている姿は、アイツは望まない……」
そう呟き、青空を見上げると、老人は頬の筋肉を少しだけ緩める。
「そうだろう?」
生きる活力に満ちた老人が見つめる空に、ハンター達は一度も会った事もない老婆が柔らかい笑みを浮かべ、頷く姿を見たような気がした。
「そっちはどうだ?」
遺跡の入口に戻ってきたディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271) は、同じように戻ってきたウル=ガ(ka3593)に声を掛ける。
「こっちもしっかり塞いできた」
二人は遺跡の周辺を見回り、中に通じていそうな穴を全て埋めて戻ってきた所だ。
見た目通り、埋めなくてはいけない穴は幾つも発見した。
「それなら後はここで待機するとしよう。っと、その前に……」
ディアドラは持ってきたランタンを入口に引っ掛けた。ランタンの明かりが遺跡内の暗闇を少しだけ押し退ける。
「――何をしているのだ?」
入口の足元に何かを仕掛けていたウルに、興味心でディアドラが問う。
「罠を仕掛けている。簡単なものだ……が、意外と効果的だったりする」
左右に渡るよう設置されたロープは、引っ張れば足を取って転倒させるというトラップだ。
単純ではあるが、単純だからこその死角を突いたトラップで、ディアドラは感嘆の声を漏らした。
「一応、中の連中には連絡を入れておく」
ロープは引っ張らなければ大丈夫なのだが、念には念を入れてという事だ。
●遺跡内
オレンジ色の明かりが暗闇を払い除け、淡い光の中にティス・フュラー(ka3006)の姿を浮かび上がらせた。
「暗いとは聞いていたけれど、本当に暗いわね……」
「うう……如何にも何か出そうですね……。地図が無かったら迷子になっているところです……」
松明とランタンの明かりを合わせ、佐倉 桜(ka0386) は村人に用意して貰った地図に視線を落とす。
地図とは言うが、それは簡素な作りだった。
殆ど誰も近寄らなかったという事もあり、中の全容を知っている者は誰一人としていなかったからだ。
それでもいいのならと、村人達が覚えている限りで地図を作ってくれたのだ。
「っかし、全然敵が出てこねぇな……」
覚醒した姿で、上霧 鋭(ka3535)がライトをあちらこちらへと向けながら呟く。
気配すら感じられない事に、先ほどから違和感を抱いていた。
「――たしか、こういう所から出てくるという話だったわよね……?」
誰に言うでもなく呟き、ティスは近くにあった小さな穴を覗き込む。が、そこに雑魔の姿はなかった。
嘆息しつつ姿勢を戻すと、ふと桜が何かしているのに気づく。視線に気づいた桜は、はにかみながら答えた。
「バナナが好物だという事なので、こうしておけば音が鳴って判るかなって」
小石で山を組み、中にバナナを仕掛ける。中から取り出せば、音がなって知らせると言う仕組みだ
更に、細い通路という事もあり、慌てて通れば蹴飛ばして音を立てさせる事もできる。
「鳴子って訳か。そりゃいいな。足元はそれで守れそうだぜ」
全ての穴をカバーできる訳ではないが、足元の注意を減らせるだけでも精神的に楽だ。
三人は穴からの襲撃を警戒しつつも、奥へと歩みを進めた。
●遺跡外
「こんな方法で本当に釣れるのか?」
「少しでも釣れれば……それで、いい」
そう言ってウルが設置したのは剥き出しのバナナだ。入口近くに設置し、匂いを中へと漂わせている。
人の嗅覚では匂いを捉えられないが、獣並みの嗅覚を持っているならば容易だろう。
ただ問題なのは、それで本当に釣れるのか、という事だ。
「――――来たぞ」
僅かな物音に気付いてウルが声を上げる。
ディアドラは意識を切り替えると、身の丈を超える大きな盾を手にして構える。
暗闇の中からランタンの明かりが照らす中に、四匹の雑魔が同時に姿を現した。
盾を構えるディアドラの事など気に掛ける事なく、剥き出しのバナナに向かって一目散に駆けてきた。
が、入口から出る直前、四匹は突然現れたロープに体を引っ掛け、逆上がりをするようにすっ転ぶ。
「なるほど。確かに単純な罠に引っかかったな!」
ディアドラの感心する声にウルは軽く頷いて答え、足を元に戻した。
足で踏んでいたロープを引っ張る事で、ロープが張るようになっている。見事に、それに引っかかったと言う訳だ。
「後は……始末するだけ、だ」
二人は武器を手に取ると、転倒して気絶している雑魔を手早く始末した。
●遺跡内
「一匹も居ないと思ったら、待ち伏せかよ!」
鋭は怒りを露わにし、二人を守るようにして先頭に立った。
広間へと出た三人を待っていたのは無数の雑魔の待ち伏せだった。
「雑魔とは言え、待ち伏せするくらいの知能はあるのね……!」
周囲を警戒しつつ、ティスは武器を抜き放って構える。
「正面、来ます!」
桜の声と同時に、正面から雑魔が向かってくる。
鋭はスキルを使って防御力を高めると、正面から受け止めた。
「はっ! んな攻撃が効くかよ!」
一匹なら村人でも対処できるほどに弱い雑魔の攻撃では、防御力を高めた鋭にはかすり傷にすら付けられない。
「聞いてた通り、一匹一匹は大したことはないみたいね!」
遺跡には当たらないように配慮したティスのウィンドスラッシュが数匹を纏めて撃破した。
「ですが遺跡にと考えると厄介です! ――痛いですよ!」
桜は盾で防ぐと、カウンターでシールドバッシュを叩きつけるように食らわせた。
軽く一蹴するが、雑魔は次から次へと押し寄せてくる。
「こりゃ確かに……村の奴らがヤバイって思う訳だぜ!」
「数が多いだけで、こんなに厄介なんて……!」
倒しても倒しても次から次へとやって来る雑魔。段々と処理が追いつかなくなってきた。
●遺跡外
「ふぅ。片付いたな」
呆気ない終わりにディアドラは安堵した様子で緊張を解く。
しかし、
「……構えろ。次だ」
ウルの言葉を合図にしたかのように、暗闇から次々と雑魔が飛び出してきた。
「うわ、っとと――!」
ディアドラはその勢いに驚くも、ウルが的確に攻撃を走らせ、雑魔を処理した。
「ボクも負けていられないな!」
グッと腰を落とすと、ディアドラは雑魔の一団に向かって大盾をぶち当てた。
雑魔にとって壁に近い大きさを持つ盾の一撃は強烈の一言だ。
壁に自ら激突し、後から来た味方に押し潰されて消滅する。残りをウルが始末する。
「上手く吊れた、な……」
ウルの言葉に、ディアドラは満足気に頷いた。
雑魔の何割かがこちらに来たという事は、遺跡内の雑魔はそれだけ減ったという事だ。
二人は次々と現れてくる雑魔を、一匹も残す事も逃がす事もなく撃破していく。
●遺跡内
「数が減ってきた……?」
先ほどと比べて敵の勢いが衰えてきたのに桜はふと気付いた。
「たぶん外の二人だろ。バナナの匂いでおびき寄せるって確か言ってたしな」
思い出したように鋭が言うと、桜とティスはなるほどと頷いた。
「――ぁ。二人とも、あれ!」
まとめて蹴散らしたティスは、雑魔が一か所に集まっているのに気付いた。
「あの奥に何かあるんでしょうか……? 何か、大事な……?」
桜はなんだろうかと小首を傾げる。
「大事な、か……。ん? もしかして、ネックレスか?」
それだ、と三人はハッとなって気づいた。
判りやす過ぎる行動に呆れを抱くが、相手が雑魔となれば納得も行く。
「取敢えず、行ってみりゃ判るぜ!」
「そうですね。他にそれらしい場所はありませんし」
鋭と桜が言うと、ティスが一歩前に出る。
「それなら一気に突破しましょう。丁度一か所に集まっているし!」
ウィンドスラッシュが雑魔を纏めて切り刻んだ。
雑魔の壁が崩れた隙に、三人は急いで通路へと飛び込む。
●遺跡外
満足気に頷くディアドラと、一仕事終えた様子で額の汗を拭うウルは互いに呼吸を整えるように深呼吸した。
「あらかた片づけたな。これで中の者達も幾分か楽になったであろう」
「そう、だな」
出てくる雑魔を全て処理し終えた二人だったが、最後までネックレスは見つからなかった。
「となれば、後は中の者達に任せるしかない、か……」
「――気を付けろ。次のが来た、ぞ」
その言葉を合図に、遺跡内から再び雑魔が飛び出してきた。
●遺跡内
「ここは……祭壇、かしら?」
ティスが目の前の物を見て小首を傾げる。
「みたいだな。――おい、あれ!」
鋭が声を上げて指をさす。祭壇の上に一回り大きい雑魔が居た。
「あの首にあるもの……ネックレスじゃないでしょうか?」
鋭がライトを向けると、雑魔の首に掛けられていたそれが光を反射する。
「間違いわねぇ。あれだ!」
三人が動くよりも早く、ボス雑魔は天井にある穴の中へと逃げて行ってしまった。
「そんな……逃げられてしまったわ……」
このまま外に出られ、ネックレスは回収不可能。そんな思いがティスの脳裏を掠める。
●遺跡外
「甘い――!」
まとめて飛び掛かってきた雑魔を、ウルは一瞬の内に撃破した。
「ここは通さないぞ!」
ディアドラもまとめて飛び出した雑魔を、大盾の一撃で迎え撃つ。
弾かれた敵を一太刀で切り裂いた。
その内の一体が壁に激突すると、遺跡のアーチ状になっていた一部が崩れ、落下した。
「しまっ――た……?」
やってしまった、とディアドラは肝を冷やす。
しかし、崩れた一部は空中でバラバラに砕けた。
一欠けらの瓦礫が落ちたが、それでも遺跡の様子は変化する事はなかった。
●遺跡内
「――あれを見てください!」
落胆するティスに、それを吹き飛ばすように桜が見上げながら声を上げる。
見れば、先ほど消えたボス雑魔が瓦礫と一緒に落ちてきた。
「捕まえるぞ!」
鋭が真っ先に飛び掛かる。
だが、ボス雑魔は慌てて飛び上ると、近くの穴に飛び込んだ。
「こっちよ!」
すぐ近くに姿を現したボス雑魔にティスは直ぐに手を伸ばす。
が、ひょいとすり抜け、ティスの頭上を乗り越えると出口に向かって逃げて言った。
「お、追いましょう!」
「先に追ってくれ! 外の連中にも知らせとく!」
そう言い、鋭は魔導短伝話を取り出してウルに繋いだ。
●遺跡外
「だ、大丈夫だったみたいだな……」
あれから何の変化もない事にディアドラは胸を撫で下ろした。
「――どうした? ……分かった、こっちは任せろ」
ウルの声にディアドラは振り向いた。
丁度魔導短伝話をしまいかけていた所で、ディアドラの視線に気づくとウルは口を開いた。
「ネックレスを持ったボスらしき雑魔がこっちに逃げているらしい」
「おぉ、見つけたか!」
漸く待ちわびた朗報にディアドラの表情から疲れが吹き飛んだ。
「んむ……。なれば、ここで逃げられる訳にもいかないな」
「ギリギリまでおびき寄せ……仕留める」
頷き合うと、二人は物陰に隠れた。
息を潜めると、確認するように自身の武器を握りしめた。
●遺跡内
広間に戻った桜とティスだったが、暗闇を使われて見失ってしまった。
辺りを伺うが、ボス雑魔の姿はない。それどころか、他の雑魔の姿もなかった。
「雑魔はあらかた片付いたのかしら?」
「一匹も居ませんから、恐らくは」
雑魔の村人への被害はこれでなくなるだろうが、それは可能であればという目標だ。
ネックレスの奪還が最優先である為、二人は辺りを注意深く伺った。
「どうしたんだ、こんな所で?」
遅れてやって来た鋭は広間で立ち往生してる二人に首を傾げる。
事情を告げようとした時だった。
「――今、何か聞こえませんでしたか?」
小さな物音を聞いた様な気がして桜は首を傾げた。
「物音? いや、聞こえなかったけどな」
鋭は聞こえなかったと首を振る。
「――聞こえた。これ……ぁ、さっきの鳴子!」
ティスの言葉に二人はハッとなって思い出す。
広間に行く途中、鳴子トラップを仕掛けた事を。
どうやらボス雑魔はそれを踏んでいるらしい。
三人は音のした方へと向かって走り出した。
●遺跡外
「――――来たぞ」
潜めた声でウルが言う。
段々と近づく物音。ウルはタイミングを合わせ、ロープを引いた。
しかし、ボス雑魔はギリギリでそれを回避すると、足場にして逃げ出そうとする。
「――前方不注意、だぞ?」
身の丈を超える大盾による痛打。
「背中が、がら空きだ――!」
風を切る音と共に雑魔の背中が大きく裂かれる。
致命傷を負った雑魔。命を刈り取る一撃に、足元から消滅し始める。
最後の抵抗と、ボス雑魔はネックレスを放り投げた。どこかに行ってしまえばいいと。
「ひゃ!? こ、これは……ネックレス?」
が、丁度そこに現れたのは桜だった。放物線を描いたネックレスは桜の手の中にストンと着地した。
ボス雑魔が消滅するのを見届け、桜に遅れて出て来た鋭にウルは声を掛ける。
「中の敵は……どうした?」
「ん? あぁ、中にはもう一匹もいないぞ。多分だけどな」
姿も気配もなかった事から、鋭は全て倒したんだろうと判断した。
事実、唯一残っていた外への穴はボス雑魔が使ったアレだけで、出入り口に殺到した雑魔は全てディアドラとウルが仕留めていた。
「えっと……という事は……?」
現状を鑑みてティスが唇に指を当てながら虚空を見上げる。
「敵を全滅させたうえで、ネックレスも無事に取り返した、という事だな!」
力強く頷いたディアドラの声が勝利を告げる角笛の音となった。
●村
村に戻ったハンター達を、村人達は心待ちしていた様子で出迎えた。
「あの……ど、どうぞ」
老人は鼻を鳴らすと、桜の手からひったくるようにしてネックレスを受け取った。
その態度に、村人達は怒らないで欲しいとハンターに懇願した。
「どうかしたのかよ、爺さんは?」
気分を害する事なく鋭が問うと、村人達はゆっくりと語った。
唯一の理解者を失い、年老いた自分の無力さを痛感し、生きる気力を失ってしまったらしい。
「なんとか元気づけてあげる事はできないのかしら……」
依頼を達成したからさようなら。それでは悲し過ぎるとティスは小さく呟く。
「何とかか……。ここで見捨てては大王として……」
何とかしたい気持ちは一緒のディアドラではあったが、かと言って良い案は直ぐに浮かばない。
「……俺に、任せろ」
申し出たのはウルはフルートを取り出すと、静かに音色を紡いだ。
それは戦地へと赴く英雄を称える曲でも、優雅で絢爛なパーティーに流れる極上の曲でもない。
毎日を精一杯に生き、小さな幸せを二人で喜び楽しむ、名もなき家族を謳った曲。
その旋律を耳にした老人はハッとなって顔を上げる。振り返った皺だらけの頬を、一筋の涙が伝った。
ネックレスに視線を落とし、やがて瞼を閉じる。胸ポケットの中にそっとネックレスをしまい込むと、涙をふいて立ち上がった。
「すまん。お前達のお蔭で思い出した。アイツは……ワシが何も言わず黙々と仕事をする、その姿が好きなのだと言ってくれていたのを……。こんな所で腐っている姿は、アイツは望まない……」
そう呟き、青空を見上げると、老人は頬の筋肉を少しだけ緩める。
「そうだろう?」
生きる活力に満ちた老人が見つめる空に、ハンター達は一度も会った事もない老婆が柔らかい笑みを浮かべ、頷く姿を見たような気がした。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/24 00:16:45 |
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相談卓 佐倉 桜(ka0386) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/01/27 21:44:24 |