巌窟の戦渦

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/29 07:30
完成日
2015/01/31 21:06

みんなの思い出

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オープニング

●港町ガンナ・エントラータの領主館にて
 豪華な調度品に囲まれた応接室。ふかふかのソファーに向き合う様に座っている男女。
 一人は、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)。シャルシェレット家現当主である。つまり、この館の主だ。
 向かい合っているのは、『鉄壁の騎士』という二つ名を持つ、王国の女性騎士、ソルラだ。
「久しぶりだね。きみが毎年、この街に帰ってきているというのに、会いに来ないから、寂しかったよ」
 ヘクスが笑顔で話しかけた。
 一方の、ソルラは憮然としている。彼女はヘクスという男が苦手なのだ。
 この男の飄々としている態度には、実は裏側があるような、そんな気がしてならないからだ。
「今日はお爺様の代わりに頼まれ事の報告に来ただけですので」
「ソルラちゃんは、お休み中なのに、仕事熱心だね」
 私を『ちゃん付けしないで』とソルラは心の中で抗議する。
 それに、好き好んで仕事をしたわけではない。そこに困っている人がいる限り、守らなければならない人がいる限り、ソルラは力を尽くすのだ。
 祖父が作成した、ある強盗団の根城の場所についての報告書の束を、ゆっくりと、丁寧にヘクスに渡す。
 それを彼は、手に取って、パラパラとめくる。
 ちゃんと、読んでいるのか、この男はと、ソルラは思いながらヘクスを睨んだ。
「そんなに、怖い顔しないでよ、ソルラちゃん。せっかくの美人が台無しだよ」
「こ、怖い顔なんてしていませんし、び、美人でもありません!」
 ヘクスのサラリと出た台詞に、顔を赤くして反論するソルラ。
「では、要件は済みましたので、失礼します」
 立ち上がろうとした彼女を、ヘクスが止める。
「まぁまぁ、待ってよ。実は、追加でお願いしたい事があるんだ」
「ヘクス様の部下にお願いして下さい」
 身も蓋もないソルラの言葉。
 休暇中であれ、指揮系統の流れを無視するわけにもいかないのもあるが。
「強盗団の根城内の強襲はハンターに任せようと思うけど、万が一を想定して、出入り口を封鎖しておきたいんだ。僕の部下には、今、ちょうど適任者がいなくてね」
「……分かりました」
 どうせ断っても、祖父に仕事がまわってくるだけの事。
 なら、ここは、すんなり引き受けた方が祖父の為にも良いと思った。
「いやー。良かった。ソルラちゃんが引き受けてくれて。そうだ、きみへのお礼はなにがいいかな?」
「必要ありません。結構です」
「そうだ! エリーと一緒にお茶会なんてどうだい? 僕がセッティングするよ」
 その台詞に、先程よりも、更に顔を真っ赤にするソルラ。
「む、昔の事をぶり返さないで下さい!」
 まだ夢見る少女でいた頃、彼に憧れ、つたない恋文を書いた事。
 それが、片思いの儚い恋であった事など、十年以上昔の事だった。

●ネル・ベル再び
「派手にやったが、これだけ、稼げれば、後はトンズラするだけだ」
 強盗団の首領が溢れんばかりの山の様な金銀財宝を前にしてニヤリと笑った。
 その山の反対側には、一組の男女。
「……約束の分を頂きます」
 少女が要求した。
 まだ12か13ぐらいだが、愛らしい顔をしている。
 きっと、然るべき場所に連れて行けば高値で売れるだろう。
「おう……こっちにこい」
 首領はそう言いながら、金銀財宝の中から、値打ちの高い物を選んでいる。
 革製の袋を持って、少女が首領の近くに近づいた、その時だった。
「た、大変です! 街の兵士達が出入り口を封鎖して、誰かが入ってきます!」
 1人のゴロツキが部屋に飛びこんできた。
「この場所がバレるとはな……いや、お前がドジを踏んだって事か?」
 首領が男を睨みつける。
 男は表情を変えない。
「貴様らが、ヘマをしたのだろう。派手にやり過ぎてるからな」
「……」
 男の言葉に首領は無言で、少女から渡された革袋に金銀宝石を詰め込んだ。
 少女が革袋を受け取り、背負った瞬間、首領が少女の腹に拳を叩きこんだ。
 意識を失い崩れる少女を首領が片手で担ぐと、もう片方の手に持った短剣を少女の首に突き付ける。
「なんのつもりだ?」
 男の言葉に首領が高笑いする。
「奴らへの人質にするから、頂くぜ」
「そいつは、私の所有物だ。返してもらうぞ」
 そう言った男を背後からゴロツキが棍棒で殴ろうとした。
 だが、気合いの掛け声と共に、男に吹き飛ばされるゴロツキ。その先にあったランタンが床に落ち、割れる。飛び散った油に火がまわった。
「てめぇ、歪虚だったんだな」
 首領の言葉通り、男は『人間』ではなかった。
 不気味な笑みを浮かべた男の頭には、幾何学模様の角が生えていた。
 男はいつの間にかに、黒い剣を手にしている。
「こ、こいつがどうなってもいいのか?」
 少女の首に今にも突き刺さりそうな程、短剣が近付く。
「言っただろう。私の所有物だ。死んでも死んでなくても、返してもらう」
 そう言って近づく歪虚。
 少女を抱えたまま首領が後ずさる。
 その時、別のゴロツキが部屋に入ってきた。
「も、もうすぐ、そこまで、来てます!」
「おめぇら! そっちをどうにかしろ! 俺はコイツをやる!」
 首領の一言に、強盗団は頷くと、それぞれ獲物を構えたのであった。

リプレイ本文

●幕開け
「これより、突入します」
 外で待機している仲間達に魔導短伝話で報告したのは、メトロノーム・ソングライト(ka1267) だった。
 覚醒者を含む強盗団数人に対して、これから強襲を仕掛けるのだ。大事な初撃をメトロノームは任されている。
「行きますよ」
 セリス・アルマーズ(ka1079)が扉を豪快に蹴り破る。
 強盗団は入口から左右に3人ずつ分かれて獲物を構えていた。どうやら、待ち伏せしていた様だ。
 そして、部屋の中央奥には、緑髪の少女を抱えている男と対峙する幾何学模様が美しい角を持つ歪虚。
「ネル・ベル……じゃないか」
 前衛組の支援の為、銃を構えていたジルボ(ka1732)が声を詰まらせて驚きの声をあげた。
 昨年、王国を襲った傲慢の歪虚の1人であり、ハンター達に倒されたフラベルの部下。
 西部へ撤退する歪虚追撃時に現れ、それ以降、姿形は見せなかったと思ったら、こんな所で遭遇するとは。
「確かに、間違いないですね」
 その追撃戦の折、この歪虚と遭遇した米本 剛(ka0320)も歪虚の姿を見て驚いた様子だった。
 歪虚と対峙している強盗団の首領と思わしき男は、少女を人質にしている。
「……何を、している」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)が、人質を盾にしている首領の姿を見て、キレている。
 彼の育った環境から培われてきた漢気の逆鱗に触れた様だ。
 真っ直ぐと首領へ向かって行く。
 それを止める様な動きをした強盗に対して、メトロノームが眠りを誘う雲を左右に分かれて待ち伏せしていた強盗の内、片方に向けて放った。
 その魔法が及ばないもう一組に、バルバロス(ka2119)が戦斧を振り回しつつ突貫していく。
「うおぉぉぉ!」
 雄叫びと共に目の前にいる強盗に一撃を叩きこむ。
 わずかに狙いが外れ、斧は床の石畳みを豪快に破壊した。威力は十分だ。
「火事か?」
 攻撃の瞬間、目に飛び込んできた炎に一瞬気をそらしたせいで、攻撃を外したのだ。
 強盗団の根城内は、今まさに、火の手が広がろうとしている。
「ネル・ベルに、火災に、なんだこれは……」
 ジルボの言葉通り、単なる強襲で終わらない。
 戦渦の幕開けとなった。

●戦渦の入口
 自身の身長を遥かに越える巨大なハルバートと重装甲に身を包んだセリスが涼しい顔で武器を振り回す。
 突入した際、彼女も眠りの魔法の効果範囲内にいたが、グッと眠気を堪えて魔法の効果に耐えきると、眠らなかった強盗の覚醒者へと挑む。
「神の慈悲を受けなさい!」
 犯罪者とは云え、相手は人間。
 無駄な殺生は無い方が良いと思っているのだろうが、巨大なハルバートを振り回しながらそう言われると、恐ろしいものがある。
 渾身の込めた一撃は、手加減したのか、それとも勢いがありすぎたのか、大振りとなり、相手ではなく、石畳を破壊した。
「我らがアジトを壊すな!」
 セリスの強烈な一撃を避けた覚醒者が叫びつつ、機導砲を放つ。
 なかなかの威力の様だが、セリスの防具を貫通する程ではなかった。
「やるね!」
 その威力から、覚醒者がただの強盗ではなさそうだと感じるのであった。

 バルバロスの前に立ち塞がったのも、覚醒者だ。
 機械を介して現れた光の剣がバルバロスに襲いかかる。
 それを巨躯からは想像できない動きで避けた。
「腕が立つ様で、楽しめそうだ!」
 悪役にありがちそうな言葉を発し、バルバロスは戦斧を振りかぶる。
「当たり所悪く死なせてしまっても、仕方あるまい!」
 一撃で巨木すら粉砕してしまいそうな一撃が、見事、覚醒者の懐に入った。
 が、踏み込みが甘かったのか、それとも、相手の防具が防いだのか致命傷にはならなかったようだ。
 覚醒者が咄嗟に変成したマテリアルの防御壁が粉々に砕ける。
「ヌゥ……防御障壁か……」
 もう一度斧を振りあげるバルバロス。
 戦闘は始まったばかりだ。

「どうにも理解出来ませんね……こういう手合いは」
 強盗の1人に対し日本刀を振り抜き、傷を負わせた米本は、そんな風に呟いた。
 話によると、この強盗団はスライムを使っていたという。奥にいる歪虚の存在が、それを可能としたのだろう。
(どのような理由であれ、歪虚を一方的に利用するのは叶わない……)
 我々、人は、歪虚と相容れないのだと思う。
「いやはや……何と言いますか、面倒な状況にしか見えませんね」
 強盗の反撃を避けつつ奥の状況を見て、そんな感想をつく。
 首領が少女を人質に歪虚と対峙しているからだ。逆なら、まだわかるが、どうなっているのだろう。
(オウカさん、頼みましたよ)
 首領の方へ向かった仲間へ心の中で呼び掛けた。
 少女が無事に救出される事を祈って。

 強盗の1人が部屋の中を走り抜け、魔法で寝た仲間を踏みつけて起こしていった。
 起き出した強盗に再び眠りの魔法を使おうと思ったメトロノームだったが、魔導短伝話からの言葉に、それを思い留まった。
「ネル・ベルという名の歪虚なのですね」
 洞窟の外で待機している仲間に、歪虚の報告をした際に、返ってきた言葉が、歪虚の名前だった。
 幾何学模様が美しい角で、片角の先端が欠けているという特徴は合っているので、ほぼ間違いないだろう。
 歪虚と少女の関係が良く分からないが、のんびりしている暇はなさそうだと火災の状況を見て感じた。
「では、わたしは……」
 精神を集中し、炎の矢を作り出し、走り抜けた強盗に向かって放つ。
 強盗は避け損ね、もろに炎の矢の衝撃を受けて倒れ込んだ。
 ヨロヨロと立ち上がる。もう一撃あれば、無力化できるだろう。
 確実に敵の数を減らしていけばいい事だ。

●ネル・ベル
「それ以上、近付くと、この娘の命はないぞ!」
 無愛想な強面で迫るオウカに首領が人質を向ける。
 今にも、短剣が喉に突き刺さりそうだ。
「やりたいならやれ……ただし、その時はその判断を肉の塊になっても後悔させ続けてやる」
 圧倒的なまでの威圧感。
 首領が少女を抱えたまま、機導砲を放つ。
 オウカの頬を掠めていっただけで、彼は瞬きもせず、ただ、怒りの瞳を向けていた。
「さあ、どうした……斬って裂いて突いて抉って折って捻ってもいで千切って絞めて引きずり出して掻き回されたいならやってみろ!」
「く、くそ!」
 少女を抱えながらの戦闘だと不利と悟ったのか、少女を放り投げる首領。
 そして、マテリアルの光剣を作りだし、オウカに斬りかかった。
 その動きは俊敏で、冷静さを欠いたオウカは避けきる事ができず、傷を負ったが、意に介さず反撃に移る。
 それほど、怒り高まっている様だ。
 その動きは、後方から支援しているジルボも見えていた。
 オウカには悪いが、実力で言うと、首領の方が上回っているだろう。
 他の仲間達はそれぞれ戦闘に入ったばかりで、今の所、戦況は五分の様だ。
 歪虚といえば、放り投げられた少女に近づこうとしている。
「待て! ネル・ベル!」
 ピタっと動きが止まる歪虚。
「貴様は……どこぞで見た顔だな」
「その少女は、お前の人質の様に見えたが」
 人質になっていた緑髪の少女は気絶しているのか、床の上で倒れたままだ。
「関係ない事だ。こいつは私の所有物だからな」
「あれ? ひょっとして、そ~ゆ~趣味?」
 ジルボの軽口に対して、歪虚は不敵な笑みを浮かべた。
「貴様と違って、私のような者には、可憐な少女が似合うだろう」
 余裕の態度だ。
 これがイケメン歪虚の力か。
「まぁ、いい。私の所有物に手を出したのだ。少しは貴様らの手助けをしてやろう」
 ジルボとのやり取りに少しは気が変わった様で、左手を真上に突き出し、炎の球を作りだす。
「お、お前、裏切るつもりか!」
 首領の慌てた声。
 歪虚は気にした様子もなく、火球を首領に叩きつける。
「裏切り? 自分で望んだ結果だろう」
「歪虚め!」
 人質に機導砲を向け様とした所に、オウカが飛びかかったきた。
「おまえの相手は俺だぞ!」
 隙があれば、少女を救出したいが、その為には首領を倒さないと危険だと判断したからだ。

●少女の行方
 強盗団の幹部と思わしき覚醒者2名をセリスとバルバロスがそれぞれ対峙している間に、他の強盗の動きを米本が牽制。
 そこへ、メトロノームが炎の矢を放っていく。
 彼女が放つ魔法の威力は十分過ぎる程だった。
(優勢だけど……火災が……)
 強盗団の数の優位はなくなりつつあるが、部屋の中で発生している火災の広がりの方が気になってきた。
 歪虚や人質となっていた少女は気になるが、ここは依頼の完遂と安全を第一に考えた方がいいかと思う。
「これで、最後です!」
 米本が打ち込んだ一撃で、強盗を叩き伏せた。
 それを掴んで、入口の方へ投げ飛ばす。
「ちょこまかと!」
 覚醒者の攻撃を受けながらもバルバロスが戦斧を振りまわした。
 強烈な一撃でも、当たらなければ意味がないし、防具で防がれたりすれば威力も落ちてしまう。
 それでも、バルバロスは戦斧を振るう。
 防御障壁を打ち破り、渾身の込めた一撃は、覚醒者の首元に叩きこまれた。
 勢いの余り、吹き飛んだ覚醒者は吹き飛ぶ。
 もう1人の覚醒者とセリスとの戦いも決着がつく所だった。
「神の光よ!」
 ハルバートを振ると見せかけて手を突きだすと、光の球を放つ。
 意表を突かれた覚醒者は、避ける際にバランスを崩して床に転がった。
 この好機を見逃すはずがない。
 セリスはハルバートを覚醒者の背中に無情にも叩きこんだ。
「大人しくしてなさい!」
 動かなくなった覚醒者の襟を掴むと、入口の方に投げた。
 まだ息がある様だから、捕縛しておこうと思ったからだ。幹部っぽいし、色々と聞き取れる事だろう。

 オウカはジルボの援護射撃の元、首領との戦いを続けていた。
 何発か火球を放っていた歪虚がいつの間にかに少女の所まで移動している。
「オウカ! ネル・ベルが!」
 ジルボの声は彼には届いていた。
 しかし、少女の所へ駆け付ける程、余裕があるわけではない。
(それに、あの歪虚は、あの子を死なせ無い様な気がする)
 心の中で、根拠のない直感がそう告げていた。
 状況によっては少女をハンター達で救い出せたかもしれない。
 例えば、強盗の一部を、外で待機している仲間達に任して、最初から皆で少女の救出に向かっていれば……。
 しかし、中の状況もわからなかった上に、自分達の目的は強盗団の壊滅だ。
「おまえは必ず倒す!」
 歪虚の行動には、敢えて無視する事にした。
 日本刀をわざと大振りすると余裕の表情で避ける首領。反撃に移ろうとした所へ、メトロノームの炎の矢が突き刺さった。
 衝撃で数歩下がるのに合わせ、バルバロスが斧を叩きつけようと上段から振り下ろす。
 それを辛うじて避けたが、その先は、オウカの目の前。
 彼の必殺の一撃が入り、首領は倒れたのであった。

●戦渦を終えて
 少女を抱きかかえ、歪虚が壁に飾られている巨大な一枚絵に向かって走る。
 滝の絵が描かれた場所に、絵を破りながら、飛びこんで姿を消した。
 抜け道なのだろうか。
 その様子を観察していたセリスが歪虚を追う。
「歪虚、滅ぼすべし、慈悲は無い」
 ハルバートに力を込める。
 抜け道に飛びこもうとする彼女に米本が防護の魔法をかけた直後の事だった。
 大きな音と共に、天井の一部が崩れ落ちた。
 火災により、木材で補強してあった部分が脆くなっているのだろう。
「まずいです! 崩れますよ!」
 米本の言葉は、セリスの耳には届かなかったようだ。
 追いかけようとしたオウカの目の前の天井が崩れ落ちる。
「ここは危険です」
「そのようだな」
 心配そうに天井を見つめるメトロノーム。
 バルバロスも頷くと、斧を担いで出口へと向かう。
「セリスさんが無事であればいいが……」
 悔しそうにオウカも撤退を始める。
 ジルボも洞窟の出口へと向かった。
(変わった歪虚もいたもんだな……ありゃ、まるっきり人間の行動じゃないか)
 イケメン歪虚が少女を抱えて逃げ出す光景を思い出す。
 雑に扱うという様子ではなく、むしろ、仲間を助ける様にも見えた。
(歪虚も変化するという事なのかね……それとも、俺の勝手な先入観かな?)
 死闘が行われた部屋が崩落し始めた。

「待て! 歪虚!」
 抜け道を逃げる歪虚にセリスが叫んだ。
 崩落して戻る道が無い事に気がついたが、どうせ、前に進むしかない。
 ならば、歪虚を滅するのみだ。
「しつこい女め!」
 振り返った歪虚が火球を作る。
 だが、セリスは好機とばかり突撃した。
 多少の怪我は承知の上の様だ。
「えっ!?」
 だが、火球はセリスが予想もしない所に放たれた。
 それは、抜け道の天井だった。
「こ、こらー! 卑怯だぞ!」
「貴様の相手をしている程、暇ではないのでな」
 完全に埋まりはしないが、通路が瓦礫でいっぱいになる。
 セリスはそれを急いで排除しようとするが、追いかけるには間に合わないだろう。
「歪虚、滅ぼすべしぃ!」
 セリスの悔しそうな声が抜け道に響くのであった。

 洞窟の外で、待機していたハンター達やソルラが、洞窟から脱出してきた一行を出迎えた。
 無事に脱出できたのも、外で待っていた仲間達の働きがあってこそだ。
「崩落した洞窟内で1人、歪虚を追っている者がおるじゃと?」
「生き埋めになっている可能性があるね……」
 洞窟内での様子を聞いた、星輝と十色が強盗団を縛り上げながら声をあげる。
 いくら覚醒者とはいえ、崩落に巻き込まれれば万が一もあり得る。
 その時、兵士が洞窟の崖の上を指差して叫んだ。
「わ、歪虚だ!」
 全員が崖上を見上げると、確かにそこには歪虚がいた。
 幾何学模様が美しい角を持つ歪虚が。
「誰かを抱えています」
 ソルラの言葉通り、歪虚は少女を両手で抱えていた。
 恐らく、強盗団の首領が人質としていた少女だろう。
「あれは……ノゾミちゃん? 何でこんな所に……」
 少女と面識があるUiscaが少女の名を呼んだ。
 だが、少女は気を失っている様で、ぐったりとしている。
「なんだ……いくつか、見知った顔がいるではないか」
 歪虚が少女を抱えたまま、崖下のハンター達を見下ろした。
 不気味な笑みを浮かべる歪虚。
「よく、聞くがいい、人間共」
 崖ギリギリで立つ。
「私の名はネル・ベル。私の目的はグラズヘイム王国を滅ぼす事。だが、私が直接滅ぼす訳ではない」
 歪虚の言葉は続いた。
「貴様ら自身の中の悪を利用する。必要であれば私の仲間として受け入れる事もできよう」
 そして、踵を返して、そのまま立ち去っていく。
「……せいぜい私を止めてみせろ。それができるのなら、な」
 最後にそう言い残して。
 歪虚が立ち去った後、洞窟内に取り残されたと思われていたセリスが抜け道から出てきたのは、それから、少し経ってからの事であった。


 こうして、強盗団を壊滅する事はできた。
 その日、北の空を覆う暗い雲が、歪虚の不気味な言葉を表している様であった。


 おしまい。

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MVP一覧

  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライトka1267

重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/26 23:06:51
アイコン 相談卓
米本 剛(ka0320
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/01/28 23:00:50