ゲスト
(ka0000)
監獄の暴君
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/06 22:00
- 完成日
- 2019/06/09 22:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境監獄デッドウェスト・ジェイル。
その地下で発見された秘密闘技場『MC』――正式名称Mad Creatorと呼ばれた場所が古代文明時代の訓練用シミュレーターであると判明したのはハンター達が調査した後であった。
監獄の、それも地下で隠れて闘技場を運営していたと知ったノアーラ・クンタウ管理者のヴェルナー・ブロスフェルト()はMCを接収。管理下に置く事を決定した。戦闘で囚人が死亡したりすれば大事だ。
しかし――。
「やはりあそこは閉鎖すべきです!」
審問部隊『ベヨネッテ・シュナイダー(銃剣の仕立て屋)』のメイ・リー・スーはヴェルナーへ再び食い下がる。
監獄からの道を封鎖する事は決定したが、訓練用シミュレーターを利用した闘技場はヴェルナーの監視下で運用される事となった。別のルートを構築してノアーラ・クンタウから直接到達できるように辺境ドワーフへルート構築を打診しているのだ。
「おや。監獄から切り離したのですから問題はないでしょう?」
「ヴェルナー様、そういう問題ではありません。あのシミュレーターはプログラム次第で様々な環境を再現する事が可能だそうです。これは連合軍の新兵へ解放して少しでも訓練に役立てるべきです」
メイの提案は当然だ。それが有用な利用法というものだ。
しかし、ヴェルナーは敢えてその利用方法を選ばなかった。
「時間があればその方法がベストです。ですが、我々に残された時間は少ない。そう感じています」
ヴェルナーは歪虚との間で和平交渉中である今が一番平穏だと考えていた。
王国は大変な時期であるが、歪虚の大規模侵攻は発生していない。だが、ヴェルナーはこの状況は単なる凪と見なしていた。ハンターが投票した後で必ず何かしら大きな戦いがある。そのシミュレーターを用いても新兵の練度を急激に引き上げる事はできない。
ならば――。
「あのシミュレーターを闘技場で戦っていた囚人に開放して彼らを戦力として扱うおつもりですか?」
「過去にも囚人部隊はあったでしょう。それと同じです。新兵が間に合わないなら、彼らにその代わりを務めていただきます」
ヴェルナーの決断は合理的だが、かなり無謀でもある。
しかし、その無謀を押し通さなければ危険な戦いが待っている。その可能性を感じ取っているのかもしれない。
●
「これで大見得切って戦えるでぇ~!」
ベヨネッテ・シュナイダー隊員の大門新太郎は、一人で歓喜の声を上げていた。
その声を聞いていた元闘技場オーナーのミネルバはゆっくりと新太郎へ近づいていく。 闘技場のルールを策定して管理運営していたミネルバは、この闘技場のオーナーではなくなったが、継続して闘技場の管理を行う事になっていた。
「へぇ。随分と上機嫌じゃない?」
豊満な胸を揺らすように歩くミネルバ。
ヒールの高い靴が、石畳の床をコツコツと鳴らす。
「当たり前や! これで強ぇ奴らが山ほど集まってくる。そしたら、ゴッツい戦いが山ほどお目にかかれるで」
新太郎の息は荒い。
闘技場の話は他のハンターにも知れ渡るはずだ。そうなれば、この闘技場に腕試しをする為に現れるハンターが必ず現れる。
「あたしはMCが盛り上がってくれるならそれで良いのだけれど」
「それよりあの舞台はどうや?」
「あれね。あたしはリアルブルーの世界なんて知らないのだけれど……これでいいの?」
ミネルバが古代文明のコンソールを操作する。
すると新太郎の目の前に一枚の画像が表示される。
そこはリアルブルーにおける東京、新宿の街並みであった。
「おお、ええ出来やないか。わしんトコのシマ、新宿は光南町。懐かしいなぁ」
光太郎は覚醒者であるが、元は新宿青楼会の若頭を務めていた。
そのスジでは強引かつ無茶な暴れぶりから『監獄の暴君』という通り名まで付いた程だ。
「あの頃は関西から近畿同盟会の連中が乗り込んで来て、わしは手下連れて派手に暴れたもんや」
「良く分からないけれど、敵として強面で背広を来た男達を多数出すのね? ……それにしてもリアルブルーでは紫や赤のスーツが流行しているの?」
ミネルバは新太郎から指示通りに舞台を設定するだけ。戦いが始まれば観客に向けて拡声器で選手紹介などを行っているが、今回は新太郎からの依頼で舞台設定を行っていた。この為、舞台の意図はまったく理解していなかった。
「闘技場の噂を聞いて腕に自信のある奴がやってくるなら、大暴れできる舞台がええ。敵も分かりやすい方がええやろ」
「でもいいの? ハンターってこの世界の行く末を決める投票をするのでしょう? そんな暇はあるのかしら」
「……だからや」
新太郎は大きくため息をつくと、ミネルバに向かって振り返った。
「これから覚悟決めて選ばなあかん。エラい思い悩んどるはずや。せやから、決める前に何も考えんと思いっきり暴れる。そしたら、ええ案も浮かぶっちゅうもんや」
その意図の為だろうか。
ルールも一風変わっている。ただ覚醒者同士が戦うのではなく、怖いお兄さんが参加者に向かって多数襲撃。そのお兄さんを一番倒したチームが勝利だという。3チーム4名が参加するが、ただお兄さん達を倒すだけではなく、他チームを攻撃して妨害する事も許可されている。
「思い切りぶん殴り合えば、悩みなんか吹っ飛ぶってもんや。悩めば悩むだけ深みにハマるからのう」
「……それ、悩みを一時だけ忘れるだけなんじゃないの? 何も解決になってないじゃない」
新太郎は新太郎なりに考えて戦いの舞台を用意したようだが、ミネルバは話半分で聞き流しながら舞台設定を継続する。
その地下で発見された秘密闘技場『MC』――正式名称Mad Creatorと呼ばれた場所が古代文明時代の訓練用シミュレーターであると判明したのはハンター達が調査した後であった。
監獄の、それも地下で隠れて闘技場を運営していたと知ったノアーラ・クンタウ管理者のヴェルナー・ブロスフェルト()はMCを接収。管理下に置く事を決定した。戦闘で囚人が死亡したりすれば大事だ。
しかし――。
「やはりあそこは閉鎖すべきです!」
審問部隊『ベヨネッテ・シュナイダー(銃剣の仕立て屋)』のメイ・リー・スーはヴェルナーへ再び食い下がる。
監獄からの道を封鎖する事は決定したが、訓練用シミュレーターを利用した闘技場はヴェルナーの監視下で運用される事となった。別のルートを構築してノアーラ・クンタウから直接到達できるように辺境ドワーフへルート構築を打診しているのだ。
「おや。監獄から切り離したのですから問題はないでしょう?」
「ヴェルナー様、そういう問題ではありません。あのシミュレーターはプログラム次第で様々な環境を再現する事が可能だそうです。これは連合軍の新兵へ解放して少しでも訓練に役立てるべきです」
メイの提案は当然だ。それが有用な利用法というものだ。
しかし、ヴェルナーは敢えてその利用方法を選ばなかった。
「時間があればその方法がベストです。ですが、我々に残された時間は少ない。そう感じています」
ヴェルナーは歪虚との間で和平交渉中である今が一番平穏だと考えていた。
王国は大変な時期であるが、歪虚の大規模侵攻は発生していない。だが、ヴェルナーはこの状況は単なる凪と見なしていた。ハンターが投票した後で必ず何かしら大きな戦いがある。そのシミュレーターを用いても新兵の練度を急激に引き上げる事はできない。
ならば――。
「あのシミュレーターを闘技場で戦っていた囚人に開放して彼らを戦力として扱うおつもりですか?」
「過去にも囚人部隊はあったでしょう。それと同じです。新兵が間に合わないなら、彼らにその代わりを務めていただきます」
ヴェルナーの決断は合理的だが、かなり無謀でもある。
しかし、その無謀を押し通さなければ危険な戦いが待っている。その可能性を感じ取っているのかもしれない。
●
「これで大見得切って戦えるでぇ~!」
ベヨネッテ・シュナイダー隊員の大門新太郎は、一人で歓喜の声を上げていた。
その声を聞いていた元闘技場オーナーのミネルバはゆっくりと新太郎へ近づいていく。 闘技場のルールを策定して管理運営していたミネルバは、この闘技場のオーナーではなくなったが、継続して闘技場の管理を行う事になっていた。
「へぇ。随分と上機嫌じゃない?」
豊満な胸を揺らすように歩くミネルバ。
ヒールの高い靴が、石畳の床をコツコツと鳴らす。
「当たり前や! これで強ぇ奴らが山ほど集まってくる。そしたら、ゴッツい戦いが山ほどお目にかかれるで」
新太郎の息は荒い。
闘技場の話は他のハンターにも知れ渡るはずだ。そうなれば、この闘技場に腕試しをする為に現れるハンターが必ず現れる。
「あたしはMCが盛り上がってくれるならそれで良いのだけれど」
「それよりあの舞台はどうや?」
「あれね。あたしはリアルブルーの世界なんて知らないのだけれど……これでいいの?」
ミネルバが古代文明のコンソールを操作する。
すると新太郎の目の前に一枚の画像が表示される。
そこはリアルブルーにおける東京、新宿の街並みであった。
「おお、ええ出来やないか。わしんトコのシマ、新宿は光南町。懐かしいなぁ」
光太郎は覚醒者であるが、元は新宿青楼会の若頭を務めていた。
そのスジでは強引かつ無茶な暴れぶりから『監獄の暴君』という通り名まで付いた程だ。
「あの頃は関西から近畿同盟会の連中が乗り込んで来て、わしは手下連れて派手に暴れたもんや」
「良く分からないけれど、敵として強面で背広を来た男達を多数出すのね? ……それにしてもリアルブルーでは紫や赤のスーツが流行しているの?」
ミネルバは新太郎から指示通りに舞台を設定するだけ。戦いが始まれば観客に向けて拡声器で選手紹介などを行っているが、今回は新太郎からの依頼で舞台設定を行っていた。この為、舞台の意図はまったく理解していなかった。
「闘技場の噂を聞いて腕に自信のある奴がやってくるなら、大暴れできる舞台がええ。敵も分かりやすい方がええやろ」
「でもいいの? ハンターってこの世界の行く末を決める投票をするのでしょう? そんな暇はあるのかしら」
「……だからや」
新太郎は大きくため息をつくと、ミネルバに向かって振り返った。
「これから覚悟決めて選ばなあかん。エラい思い悩んどるはずや。せやから、決める前に何も考えんと思いっきり暴れる。そしたら、ええ案も浮かぶっちゅうもんや」
その意図の為だろうか。
ルールも一風変わっている。ただ覚醒者同士が戦うのではなく、怖いお兄さんが参加者に向かって多数襲撃。そのお兄さんを一番倒したチームが勝利だという。3チーム4名が参加するが、ただお兄さん達を倒すだけではなく、他チームを攻撃して妨害する事も許可されている。
「思い切りぶん殴り合えば、悩みなんか吹っ飛ぶってもんや。悩めば悩むだけ深みにハマるからのう」
「……それ、悩みを一時だけ忘れるだけなんじゃないの? 何も解決になってないじゃない」
新太郎は新太郎なりに考えて戦いの舞台を用意したようだが、ミネルバは話半分で聞き流しながら舞台設定を継続する。
リプレイ本文
「新生MC、最初の試合から全開フルスロットル! 歴戦のハンターが緊急参戦よ!」
要塞ノアーラ・クンタウの管理下で再出発となった秘密闘技場『MC』。古代文明時代の訓練用シミュレーターで様々な戦場を再現し、強者達が戦いに興じていた。
そして今回の戦いは――。
「ここは」
鞍馬 真(ka5819)はフィールドを見回す。
そこには見覚えのあるリアルブルーの街並み。街を貫くような道路を走る自動車。駅へ向かう人々の間に立つ鞍馬はやや異質な存在だ。
「本当に新宿……?」
「せや。東京は新宿。わしのおった新宿青楼会のシマや」
鞍馬の呟きに反応するようにフィールドの外から大門光太郎が話し掛けてきた。
事前に今回の舞台リアルブルーの新宿と聞かされていたが、その再現度は予想外だった。
「まるで本当に新宿にいるみたいだ」
「わしの過ごしてきた街やで? 目を瞑っていても再現したるわ」
「大門さん、エリアマップくれないんですぅ?」
トランシーバーで大門へクレームを入れたのは星野 ハナ(ka5852)である。
仮想的に再現された新宿で、ハンター達は目標を多数撃破する事が課せられる。その為には街の詳細な地図を必要なのだが、今回エリアマップの類は渡されてない。
「アホか! 歴戦のハンターやったら、知らん場所でも臨機応変に戦ったらんかい! うまい事やれや!」
ハナに対して逆ギレするように怒鳴る大門。
どうやら細かいフォローをする気配は一切なさそうだ。
「チーム戦ですので、呼ばれればそちらへ向かいますが……。
皆さん、特にその予定もないのでしょう? ならば各自思うように戦えばよろしいのではないですか」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は着物姿で新宿の街並みを歩いていた。
今から始まる闘争に、ハンスは静かに心の刃を研ぎ澄ましていた。
「皆さんも強者。腕に覚えがあるからこそ、このような策を取られているのでしょうから」
ハンスはそう言い切った。
今回、ハンター達は最低限の連携のみを取っている。チーム戦であるのだが、各自光南町へバラバラに点在している。各地区で攻撃対象の撃破数を稼ぐ算段なのだろう。だが、これは他チームからの妨害を単独で退ける必要がある。それだけ腕に覚えるあるのだろう。
「ええ根性や。精々楽しませてくれや。
ほれ、始まりや。『お兄さん』達のご登場や」
大門の声に応えるように、光南町の各地区に雪崩れ込んでくるのは角刈りやパンチパーマの強面なお兄さん達。黒や赤のスーツに身を包み、怒声を上げながらハンター達を探し始める。
「青楼会の連中をブチ殺せ! 一人も生かして帰すな!」
広域暴力団四神会直系の新宿青楼会。それに敵対するのは関西から光南町へ進出した近畿同盟会……という事前情報をハンター達が聞かされたのはこの戦いが終わった後だった。詳しい説明を受けずフィールドへ放り込まれた状態なのだが、当のハンター達はそれでも問題はなかった。
何故なら――。
「わぅ! お兄さん達と遊ぶですっ!」
攻め寄るお兄さん達に向けてアルマ・A・エインズワース(ka4901)はデルタレイを放つ。
光の三角から発射される光がお兄さん達を複数吹き飛ばし、その後方にあった自動車をも上空へと舞上げる。
騒然とする周囲。しかし、アルマが怒られる事はない。このフィールドは再現された新宿であり、実際に破壊している訳ではないからだ。
「……あはっ! これ、いいですね! どっかんしても怒られないです!」
アルマは思わず嬉しくなる。
ここ最近、ハンターズソサエティは世界の選択に対する議論でいっぱいだ。アルマも考えているが頭がフル回転し過ぎて目が回りそうだった。そんな中、今回の闘技場での戦いはちょうどいい。何も考えずに暴れれば良いのだから。
「舐めやがって! いてもうたれ!」
アルマの反撃でお兄さん達は怒りをもって答える。
ちょうどいい。今は徹底的に体を動かしたいところだ。
「お兄さん達、もっと来るです。近寄ればどうなるか教えてあげるです」
普段のストレスを発散するようにアルマはお兄さん達撃破に向けて動き出す。
一方、壁歩きでビルの屋上へと移動した鞍馬は軍用双眼鏡で目標の捜索を開始する。
「……たまには、こういう戦いも悪くない」
鞍馬もまた『選択』で悩んでいた。そして、悩んでも仕方ないと諦めてもいた。
どのような選択になったとしても鞍馬自身は全力を尽くす事しかできない。
だが、その中で自分の中にもやもやとした何かがある事も分かっている。だからこそ、何も考えずに戦っていられるこの時間はありがたいと考えていた。
●
「いたぞ! やっちまえ!」
オフィス街の狭い路地を塞ぐようにお兄さん達がハンスを取り囲む。
多勢に無勢。相手はその筋の者達なのだが、仁義や任侠といった感覚は持ち合わせていないようだ。
だが、それで良い。
「ありがたいですね。一度、今の全力がどの程度なのか、測ってみたいと思っていたのですよ」
聖罰刃「ターミナー・レイ」を鞘から抜き放つ。
今回のフィールドはお兄さん達を撃破するのが目的だが、それだけではない。他チームからの妨害も許可されている。言い換えればお兄さんの猛攻に紛れて覚醒者の襲撃が予想されている。
ハンスの狙いはこの覚醒者であった。
「やっちまうぞ、コラぁ!」
鉄パイプを片手に殴りかかるお兄さん。
狭い路地へ誘い込んだのも多数のお兄さんが同時に襲ってくるのを防ぐと同時に、覚醒者に狙われにくくする為だ。
ハンスは間合いに入ったお兄さんへ突きを繰り出す。
迫るお兄さんを刺し貫くと同時に体を反転。背後から襲ってくる別のお兄さんへ上段から一刀。血飛沫こそ舞う事はなかったが、その手応えは確実にある。
「こいつ……」
ハンスの強さを目の当たりにしたお兄さんは一瞬たじろいだ。
この侍は見掛けだけじゃない。何度もの修羅場を潜った猛者だ。
シミュレーションで生み出されたお兄さん達がそう思ったかは定かではないが、ハンスの攻撃で一瞬の隙が生まれたのは事実だ。
ハンスもこの隙を突かないはずがない。体は自然と動き出す。
しかし、その猛攻に対する一瞬の切れ間。その瞬間を待っていたのはハンスだけではなかった。
「――!」
突然、ハンスの傍らにあったビールケースが吹き飛んだ。
ハンスは反射的に路地を背に身を隠す。狙撃されている。間違いなく覚醒者の攻撃だ。ハンスは思わず笑みを溢す。
お兄さん達に襲撃させながら、狙撃のチャンスを窺う覚醒者。
シミュレーションだと頭では分かっているが、このような状況を味わえるとは思わなかった。
思わずハンスの顔に笑みが溢れる。
「いいでしょう。この状況を楽しむとしましょう」
ハンスはターミナー・レイを握り直す。
単騎で囲まれる状況を噛み締めるように。
●
「私が全力で符を打てるのも10分程度ですしぃ、足止めて撃ち合っているだけじゃ他のパーティにフクロにされそうですしぃ。それなら動き回りながらバラ撒くか、最初から組事務所にお邪魔するしかないと思いませんかぁ?」
名残惜しそうにショッピング街から移動を開始するハナ。
撃破数を如何に効率良く稼ぐか。それも限られた時間で効率良く稼ぐとなれば、方法は限定されてくる。ハナが向かうのはオフィス街にある近畿同盟会の拠点。関西から進出したのであれば、その拠点となる場所がオフィス街に存在するはずだ。
その予想通り、近畿同盟会のお兄さん達が多数出入りしている怪しげなビルを早々に発見する。
「うわぁ、分かりやすいですぅ。間違いなくあれですねぇ」
「あっ! てめぇ!」
拠点の前となれば近づくだけでお兄さん達は多数。さすがに単身突撃するとなれば、そう簡単に近付けてはくれない。
だが、ハナにとっては望むところだ。
「あー、これでもほんのちょこっとだけセイギノミカタにつま先を突っ込ませてもらってるつもりなのでぇ、デッドオアアライブ的な依頼じゃなきゃ人間ブッコロまでいきませんしぃ、わざわざ官憲に喧嘩を売りもしませんよぅ。ここ、そういうステージですよねぇ」
「はぁ? てめぇ、何言って……」
睨み付けながら近寄ってくるお兄さんに向けてハナは五色光符陣を放った。
お兄さんが結界の中で光に焼かれ、周囲のお兄さんが目を眩ませる中――ハナは悠々と近畿同盟会の拠点へ足を踏み入れる。
「あっ!」
「お邪魔しますぅ」
そこにはビルの一階で熱り立つお兄さんの達。どうやらビル全部が近畿同盟会の拠点のようだ。
「カチコミだぁ! 舐めやがってぇ!」
「あ。そういうのはいいですからぁ、さっさとお仲間を呼んできて下さいねぇ」
そう言いながらハナは容赦なく五色光符陣を発動する。
強烈な一撃を見舞っているのだが、上階から次々とお兄さん達が駆け下りてくる。さすがは仮想空間。拠点突入は間違った行動ではなかった。
「これで少しでも他に先んじれるといいんですけどぉ」
そう呟きながらハナは次の五色光符陣を準備する。
既に時間は半分を経過。どこまでお兄さん達を倒せるかが鍵となってくる。
●
「あ、ダメです……やですーっ」
お兄さんを吹き飛ばしながらアルマは昼間の飲食街を駆け抜ける。
お兄さん達を気持ち良く吹き飛ばしている最中だが、他覚醒者が襲撃するとなれば話は別だ。アルマの火力では覚醒者を殺しかねないという判断からさっさとその場を離れようとする。
だが、狙う覚醒者からすればアルマを止めなければ撃破数を稼がれてしまう。必然的にアルマを追跡する他無い。お兄さん達と別方向からランアウトで接近を試みる。
「真さんーっ! 何とかするですーっ!」
トランシーバーへ叫ぶアルマ。
アルマがお兄さんを撃破しながら、鞍馬が覚醒者を撃破していく連携で点数を確実に稼ぎ続けていたのだ。
「分かってる」
裏路地を通り抜ける覚醒者を待ち受けていた鞍馬は、ランアウトで駆け抜けようとする覚醒者に向けて踏込からの魔導剣「カオスウィース」。
いくら速度を上げても狭い路地を普通に駆け抜けようとすればそのルートは限定される。あとは鞍馬がその位置を狙って得物を振り抜けばいい。既に鞍馬は短い間に覚醒者を確実に倒して行動不能にしていた。
「えへへ。ありがとうですー」
「いや、それよりもっと敵を……」
そう言い掛けた鞍馬であるが、ふいに別の気配を感じ取る。
振り返る鞍馬。そこにはいるべきではない存在が立っていた。
「あ。『ちゃんぷ』のお兄さんですぅ」
そこにはベヨネッテ・シュナイダーの制服をだらしなく着こなした大門の姿があった。
「やりよるなぁ」
「……どうも」
鞍馬は警戒を続ける。
戦いを主催した男がわざわざ姿を見せる。それも手には意味深な金属バットを手に。
警戒するなという方が無理だ。
「見てたらジッとしていられなくなってなぁ。わしも混ぜてくれや」
「あわ。……僕とはやめておいた方がいいと思うです……魔法って加減が効かないです……」
アルマは大門へ忠告する。
確かに強力な魔法攻撃を加減して放つのは難しい。今回の戦いの場を用意してくれた大門をアルマは殺したくない。
だが、その言葉は大門にとって逆効果だったようだ。
「煽ってくれるやないか。これ以上火に油を注ごうっちゅう訳やな」
「今日は、あの短刀ではないのですね」
興奮する大門へ鞍馬は敢えて水を差した。
下手に大門を相手にすれば点数にも影響する。可能であれば交戦は少しでも引き延ばしたい。
「あ? ああ。こいつか。今日はちょっとホームランが出そうな気分なんや。かっ飛ばしたら気持ちええでぇ」
「いたぞ! こっちだ!」
狭い路地を取り囲むように怖いお兄さん達が多数押し寄せてくる。
今はまだ戦いの最中。会話している間にもお兄さん達は襲い掛かってくる。
乱戦の予感。それを察した大門は二人に向かってバットを差し向ける。
「ほんなら、行くでぇ」
「僕、もう知らないですぅ」
アルマは大門とお兄さんに向けてアイシクルコフィン。
狭い通路に次々と現れる氷柱。お兄さん達は貫かれていく。
だが――。
「やるやないか!」
「……あ、お兄さんを盾にしたです! ずるいですぅ」
後方から攻め寄るお兄さんを数人盾に利用。狭い通路を背中に付け、お兄さん達を盾にする事え氷柱を辛うじて回避。アルマへ接近する大門。
バットを振り上げ、襲い掛かってくる。
「させない」
鞍馬は前に出て、魔導剣「カオスウィース」で大門のバットを受け止める。
鞍馬の手に伝わる強烈な衝撃。
「ええなぁ。どこまでわしを滾らせてくれるんや。
なぁ、もっと楽しませてくれや。鞍馬ちゃん」
「……ちゃん?」
強面の元スジ者から鞍馬は突然ちゃん付けで呼ばれる。
気色悪いが、後で聞いた話では気に入った強者をそう呼ぶ癖があるらしい。
「鞍馬ちゃん、しっかり気張りや」
大門の腕に力が込められる。
想像よりも強い力に鞍馬は一瞬気圧される。まさかこんな所で歪虚と戦ってきたハンターにも負けない強さを持つ者がいるとは思っても見なかった。
「そのツラ。まだ何か考えてるな? あかんで。戦略も戦術も関係ない。頭をもっと空っぽにせな」
「…………」
「ほな、いくで……」
「戦闘終了っ!」
戦場に鳴り響くミネルバの声。
どうやら戦闘時間がここで終了となったようだ。
その声を聞いた途端、大門の腕から力が抜けていく。
「なんや。しらけるのう。止めや止め。まったく、空気をちょっとは読まんかい」
踵を返す大門。
ほんの僅かな時間だったが、濃密な時間となった。
再び戦いとなれば鞍馬やアルマも相応の作戦を立てて挑むだろう。大門との戦いをこのまま終わらせる気はない。
「貴方の本気、見たかったですよ。チャンプ?」
いつの間にか路地の外に到着していたハンスは、すれ違い様にそう呟いた。
もう少し時間があれば大門と交戦する状況となっていただろう。
漏れ出る殺気を感じ取ったのか、大門は煙草に火を付け振り返る事無く歩いて行く。
「……お前、マジにわしを殺りに来るつもりやったろ。お侍ちゃん」
●
「優勝はハンターチーム!」
ミネルバの声がハンター達の勝利を告げる。
他のチームの点数を大幅に引き離す事に成功。その要因は近畿同盟会の本拠地へ突入したハナと他チームの妨害に徹していた鞍馬が大きいところだ。特にハナは限られた時間で点数を稼いだ上、状況をみながら撤退したのが功を奏したようだ。
「作戦勝ちですぅ。でも、思いっきり暴れられて楽しかったですぅ。
今度は大門さんともっと楽しみ隊ですねぇ」
ハナの挑戦的な言葉に大門は応える。
「おう、わしもハンターにめちゃ興味あるで。きっと熱い戦いをしてくれるやろ。
……なあ、鞍馬ちゃん」
「…………」
鞍馬に向けられた大門の視線は得物を狙う肉食獣の物に近かった。
要塞ノアーラ・クンタウの管理下で再出発となった秘密闘技場『MC』。古代文明時代の訓練用シミュレーターで様々な戦場を再現し、強者達が戦いに興じていた。
そして今回の戦いは――。
「ここは」
鞍馬 真(ka5819)はフィールドを見回す。
そこには見覚えのあるリアルブルーの街並み。街を貫くような道路を走る自動車。駅へ向かう人々の間に立つ鞍馬はやや異質な存在だ。
「本当に新宿……?」
「せや。東京は新宿。わしのおった新宿青楼会のシマや」
鞍馬の呟きに反応するようにフィールドの外から大門光太郎が話し掛けてきた。
事前に今回の舞台リアルブルーの新宿と聞かされていたが、その再現度は予想外だった。
「まるで本当に新宿にいるみたいだ」
「わしの過ごしてきた街やで? 目を瞑っていても再現したるわ」
「大門さん、エリアマップくれないんですぅ?」
トランシーバーで大門へクレームを入れたのは星野 ハナ(ka5852)である。
仮想的に再現された新宿で、ハンター達は目標を多数撃破する事が課せられる。その為には街の詳細な地図を必要なのだが、今回エリアマップの類は渡されてない。
「アホか! 歴戦のハンターやったら、知らん場所でも臨機応変に戦ったらんかい! うまい事やれや!」
ハナに対して逆ギレするように怒鳴る大門。
どうやら細かいフォローをする気配は一切なさそうだ。
「チーム戦ですので、呼ばれればそちらへ向かいますが……。
皆さん、特にその予定もないのでしょう? ならば各自思うように戦えばよろしいのではないですか」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は着物姿で新宿の街並みを歩いていた。
今から始まる闘争に、ハンスは静かに心の刃を研ぎ澄ましていた。
「皆さんも強者。腕に覚えがあるからこそ、このような策を取られているのでしょうから」
ハンスはそう言い切った。
今回、ハンター達は最低限の連携のみを取っている。チーム戦であるのだが、各自光南町へバラバラに点在している。各地区で攻撃対象の撃破数を稼ぐ算段なのだろう。だが、これは他チームからの妨害を単独で退ける必要がある。それだけ腕に覚えるあるのだろう。
「ええ根性や。精々楽しませてくれや。
ほれ、始まりや。『お兄さん』達のご登場や」
大門の声に応えるように、光南町の各地区に雪崩れ込んでくるのは角刈りやパンチパーマの強面なお兄さん達。黒や赤のスーツに身を包み、怒声を上げながらハンター達を探し始める。
「青楼会の連中をブチ殺せ! 一人も生かして帰すな!」
広域暴力団四神会直系の新宿青楼会。それに敵対するのは関西から光南町へ進出した近畿同盟会……という事前情報をハンター達が聞かされたのはこの戦いが終わった後だった。詳しい説明を受けずフィールドへ放り込まれた状態なのだが、当のハンター達はそれでも問題はなかった。
何故なら――。
「わぅ! お兄さん達と遊ぶですっ!」
攻め寄るお兄さん達に向けてアルマ・A・エインズワース(ka4901)はデルタレイを放つ。
光の三角から発射される光がお兄さん達を複数吹き飛ばし、その後方にあった自動車をも上空へと舞上げる。
騒然とする周囲。しかし、アルマが怒られる事はない。このフィールドは再現された新宿であり、実際に破壊している訳ではないからだ。
「……あはっ! これ、いいですね! どっかんしても怒られないです!」
アルマは思わず嬉しくなる。
ここ最近、ハンターズソサエティは世界の選択に対する議論でいっぱいだ。アルマも考えているが頭がフル回転し過ぎて目が回りそうだった。そんな中、今回の闘技場での戦いはちょうどいい。何も考えずに暴れれば良いのだから。
「舐めやがって! いてもうたれ!」
アルマの反撃でお兄さん達は怒りをもって答える。
ちょうどいい。今は徹底的に体を動かしたいところだ。
「お兄さん達、もっと来るです。近寄ればどうなるか教えてあげるです」
普段のストレスを発散するようにアルマはお兄さん達撃破に向けて動き出す。
一方、壁歩きでビルの屋上へと移動した鞍馬は軍用双眼鏡で目標の捜索を開始する。
「……たまには、こういう戦いも悪くない」
鞍馬もまた『選択』で悩んでいた。そして、悩んでも仕方ないと諦めてもいた。
どのような選択になったとしても鞍馬自身は全力を尽くす事しかできない。
だが、その中で自分の中にもやもやとした何かがある事も分かっている。だからこそ、何も考えずに戦っていられるこの時間はありがたいと考えていた。
●
「いたぞ! やっちまえ!」
オフィス街の狭い路地を塞ぐようにお兄さん達がハンスを取り囲む。
多勢に無勢。相手はその筋の者達なのだが、仁義や任侠といった感覚は持ち合わせていないようだ。
だが、それで良い。
「ありがたいですね。一度、今の全力がどの程度なのか、測ってみたいと思っていたのですよ」
聖罰刃「ターミナー・レイ」を鞘から抜き放つ。
今回のフィールドはお兄さん達を撃破するのが目的だが、それだけではない。他チームからの妨害も許可されている。言い換えればお兄さんの猛攻に紛れて覚醒者の襲撃が予想されている。
ハンスの狙いはこの覚醒者であった。
「やっちまうぞ、コラぁ!」
鉄パイプを片手に殴りかかるお兄さん。
狭い路地へ誘い込んだのも多数のお兄さんが同時に襲ってくるのを防ぐと同時に、覚醒者に狙われにくくする為だ。
ハンスは間合いに入ったお兄さんへ突きを繰り出す。
迫るお兄さんを刺し貫くと同時に体を反転。背後から襲ってくる別のお兄さんへ上段から一刀。血飛沫こそ舞う事はなかったが、その手応えは確実にある。
「こいつ……」
ハンスの強さを目の当たりにしたお兄さんは一瞬たじろいだ。
この侍は見掛けだけじゃない。何度もの修羅場を潜った猛者だ。
シミュレーションで生み出されたお兄さん達がそう思ったかは定かではないが、ハンスの攻撃で一瞬の隙が生まれたのは事実だ。
ハンスもこの隙を突かないはずがない。体は自然と動き出す。
しかし、その猛攻に対する一瞬の切れ間。その瞬間を待っていたのはハンスだけではなかった。
「――!」
突然、ハンスの傍らにあったビールケースが吹き飛んだ。
ハンスは反射的に路地を背に身を隠す。狙撃されている。間違いなく覚醒者の攻撃だ。ハンスは思わず笑みを溢す。
お兄さん達に襲撃させながら、狙撃のチャンスを窺う覚醒者。
シミュレーションだと頭では分かっているが、このような状況を味わえるとは思わなかった。
思わずハンスの顔に笑みが溢れる。
「いいでしょう。この状況を楽しむとしましょう」
ハンスはターミナー・レイを握り直す。
単騎で囲まれる状況を噛み締めるように。
●
「私が全力で符を打てるのも10分程度ですしぃ、足止めて撃ち合っているだけじゃ他のパーティにフクロにされそうですしぃ。それなら動き回りながらバラ撒くか、最初から組事務所にお邪魔するしかないと思いませんかぁ?」
名残惜しそうにショッピング街から移動を開始するハナ。
撃破数を如何に効率良く稼ぐか。それも限られた時間で効率良く稼ぐとなれば、方法は限定されてくる。ハナが向かうのはオフィス街にある近畿同盟会の拠点。関西から進出したのであれば、その拠点となる場所がオフィス街に存在するはずだ。
その予想通り、近畿同盟会のお兄さん達が多数出入りしている怪しげなビルを早々に発見する。
「うわぁ、分かりやすいですぅ。間違いなくあれですねぇ」
「あっ! てめぇ!」
拠点の前となれば近づくだけでお兄さん達は多数。さすがに単身突撃するとなれば、そう簡単に近付けてはくれない。
だが、ハナにとっては望むところだ。
「あー、これでもほんのちょこっとだけセイギノミカタにつま先を突っ込ませてもらってるつもりなのでぇ、デッドオアアライブ的な依頼じゃなきゃ人間ブッコロまでいきませんしぃ、わざわざ官憲に喧嘩を売りもしませんよぅ。ここ、そういうステージですよねぇ」
「はぁ? てめぇ、何言って……」
睨み付けながら近寄ってくるお兄さんに向けてハナは五色光符陣を放った。
お兄さんが結界の中で光に焼かれ、周囲のお兄さんが目を眩ませる中――ハナは悠々と近畿同盟会の拠点へ足を踏み入れる。
「あっ!」
「お邪魔しますぅ」
そこにはビルの一階で熱り立つお兄さんの達。どうやらビル全部が近畿同盟会の拠点のようだ。
「カチコミだぁ! 舐めやがってぇ!」
「あ。そういうのはいいですからぁ、さっさとお仲間を呼んできて下さいねぇ」
そう言いながらハナは容赦なく五色光符陣を発動する。
強烈な一撃を見舞っているのだが、上階から次々とお兄さん達が駆け下りてくる。さすがは仮想空間。拠点突入は間違った行動ではなかった。
「これで少しでも他に先んじれるといいんですけどぉ」
そう呟きながらハナは次の五色光符陣を準備する。
既に時間は半分を経過。どこまでお兄さん達を倒せるかが鍵となってくる。
●
「あ、ダメです……やですーっ」
お兄さんを吹き飛ばしながらアルマは昼間の飲食街を駆け抜ける。
お兄さん達を気持ち良く吹き飛ばしている最中だが、他覚醒者が襲撃するとなれば話は別だ。アルマの火力では覚醒者を殺しかねないという判断からさっさとその場を離れようとする。
だが、狙う覚醒者からすればアルマを止めなければ撃破数を稼がれてしまう。必然的にアルマを追跡する他無い。お兄さん達と別方向からランアウトで接近を試みる。
「真さんーっ! 何とかするですーっ!」
トランシーバーへ叫ぶアルマ。
アルマがお兄さんを撃破しながら、鞍馬が覚醒者を撃破していく連携で点数を確実に稼ぎ続けていたのだ。
「分かってる」
裏路地を通り抜ける覚醒者を待ち受けていた鞍馬は、ランアウトで駆け抜けようとする覚醒者に向けて踏込からの魔導剣「カオスウィース」。
いくら速度を上げても狭い路地を普通に駆け抜けようとすればそのルートは限定される。あとは鞍馬がその位置を狙って得物を振り抜けばいい。既に鞍馬は短い間に覚醒者を確実に倒して行動不能にしていた。
「えへへ。ありがとうですー」
「いや、それよりもっと敵を……」
そう言い掛けた鞍馬であるが、ふいに別の気配を感じ取る。
振り返る鞍馬。そこにはいるべきではない存在が立っていた。
「あ。『ちゃんぷ』のお兄さんですぅ」
そこにはベヨネッテ・シュナイダーの制服をだらしなく着こなした大門の姿があった。
「やりよるなぁ」
「……どうも」
鞍馬は警戒を続ける。
戦いを主催した男がわざわざ姿を見せる。それも手には意味深な金属バットを手に。
警戒するなという方が無理だ。
「見てたらジッとしていられなくなってなぁ。わしも混ぜてくれや」
「あわ。……僕とはやめておいた方がいいと思うです……魔法って加減が効かないです……」
アルマは大門へ忠告する。
確かに強力な魔法攻撃を加減して放つのは難しい。今回の戦いの場を用意してくれた大門をアルマは殺したくない。
だが、その言葉は大門にとって逆効果だったようだ。
「煽ってくれるやないか。これ以上火に油を注ごうっちゅう訳やな」
「今日は、あの短刀ではないのですね」
興奮する大門へ鞍馬は敢えて水を差した。
下手に大門を相手にすれば点数にも影響する。可能であれば交戦は少しでも引き延ばしたい。
「あ? ああ。こいつか。今日はちょっとホームランが出そうな気分なんや。かっ飛ばしたら気持ちええでぇ」
「いたぞ! こっちだ!」
狭い路地を取り囲むように怖いお兄さん達が多数押し寄せてくる。
今はまだ戦いの最中。会話している間にもお兄さん達は襲い掛かってくる。
乱戦の予感。それを察した大門は二人に向かってバットを差し向ける。
「ほんなら、行くでぇ」
「僕、もう知らないですぅ」
アルマは大門とお兄さんに向けてアイシクルコフィン。
狭い通路に次々と現れる氷柱。お兄さん達は貫かれていく。
だが――。
「やるやないか!」
「……あ、お兄さんを盾にしたです! ずるいですぅ」
後方から攻め寄るお兄さんを数人盾に利用。狭い通路を背中に付け、お兄さん達を盾にする事え氷柱を辛うじて回避。アルマへ接近する大門。
バットを振り上げ、襲い掛かってくる。
「させない」
鞍馬は前に出て、魔導剣「カオスウィース」で大門のバットを受け止める。
鞍馬の手に伝わる強烈な衝撃。
「ええなぁ。どこまでわしを滾らせてくれるんや。
なぁ、もっと楽しませてくれや。鞍馬ちゃん」
「……ちゃん?」
強面の元スジ者から鞍馬は突然ちゃん付けで呼ばれる。
気色悪いが、後で聞いた話では気に入った強者をそう呼ぶ癖があるらしい。
「鞍馬ちゃん、しっかり気張りや」
大門の腕に力が込められる。
想像よりも強い力に鞍馬は一瞬気圧される。まさかこんな所で歪虚と戦ってきたハンターにも負けない強さを持つ者がいるとは思っても見なかった。
「そのツラ。まだ何か考えてるな? あかんで。戦略も戦術も関係ない。頭をもっと空っぽにせな」
「…………」
「ほな、いくで……」
「戦闘終了っ!」
戦場に鳴り響くミネルバの声。
どうやら戦闘時間がここで終了となったようだ。
その声を聞いた途端、大門の腕から力が抜けていく。
「なんや。しらけるのう。止めや止め。まったく、空気をちょっとは読まんかい」
踵を返す大門。
ほんの僅かな時間だったが、濃密な時間となった。
再び戦いとなれば鞍馬やアルマも相応の作戦を立てて挑むだろう。大門との戦いをこのまま終わらせる気はない。
「貴方の本気、見たかったですよ。チャンプ?」
いつの間にか路地の外に到着していたハンスは、すれ違い様にそう呟いた。
もう少し時間があれば大門と交戦する状況となっていただろう。
漏れ出る殺気を感じ取ったのか、大門は煙草に火を付け振り返る事無く歩いて行く。
「……お前、マジにわしを殺りに来るつもりやったろ。お侍ちゃん」
●
「優勝はハンターチーム!」
ミネルバの声がハンター達の勝利を告げる。
他のチームの点数を大幅に引き離す事に成功。その要因は近畿同盟会の本拠地へ突入したハナと他チームの妨害に徹していた鞍馬が大きいところだ。特にハナは限られた時間で点数を稼いだ上、状況をみながら撤退したのが功を奏したようだ。
「作戦勝ちですぅ。でも、思いっきり暴れられて楽しかったですぅ。
今度は大門さんともっと楽しみ隊ですねぇ」
ハナの挑戦的な言葉に大門は応える。
「おう、わしもハンターにめちゃ興味あるで。きっと熱い戦いをしてくれるやろ。
……なあ、鞍馬ちゃん」
「…………」
鞍馬に向けられた大門の視線は得物を狙う肉食獣の物に近かった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/05 22:30:48 |