スターライト劇場に喝采を

マスター:桧山フランツ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/27 07:30
完成日
2014/07/05 12:01

みんなの思い出

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オープニング

 若者は一冊の本を胸に抱いて、その舞台に立った。

 艶やかな石の心地。
 一歩一歩を踏みしめて舞台の中央まで辿り着く。

 野外にあるこの舞台は鮮やかな緑に囲まれている。
 日差しがキラキラと降り注ぐ。
 若者はそっと目を閉じて微笑んだ。

 ――必ず、遂げてみせます。師匠が愛したこの舞台で、師匠が愛したこの戯曲を!


●朽ち果てた野外劇場

 スターライト劇場は忘れられた存在だった。

 十数年前、歪虚の襲撃によって半壊されてからというもの、
 修繕される事なく、伸びていく雑草にひっそり埋もれるままになっていた。

 しかし、半年前。
 安っぽい身なりの若者がドワーフの工房を訪れると、重たそうな麻袋をズドンと担ぎ下ろして言った。

「スターライト劇場を復活させてください!」

 麻袋には、若者のこれまでの人生を注ぎこんだ、持ち金すべてが詰め込まれていた。


●街中にある稽古部屋にて

「照明さーん! このシーンでは素早い妖精を追いかけるようにパパパーッと……ぎゃ!!」
「うおッ。何やってるんです、ジョエルさん! 大丈夫!?」

 若き演出家、ジョエルのもとに、助手らしき少年がパタパタと駆け寄る。
 ジョエルは演出指示を飛ばす最中、床に置かれた小道具に躓いて、見事にひっくり返っていた。

 少年は他のスタッフに向かって休憩の合図を送ると、
 ジョエルを助け起こし、テキパキと擦り傷の手当を始めた。
 ジョエルは萎縮して肩を丸める。

「ごめんね、ありがとう」
「いいのですよ、ジョエルさんもお疲れでしょう。本番も間もなくですしね」
「うん……。やっとここまで来たね。そうだ、ハンターさんに本番中の警備を依頼しないと」
「あれ、まだだったのですか? 良ければ手配しておきましょうか」
「…………、ありがとう。クルトンは優秀だなあ」
「そんな、僕なんてまだまだ」

 大人らしい謙遜と少年らしい微笑みを交互に覗かせるクルトン。
 救急箱を閉じ、ペコリと礼をしてから去っていく優秀な助手の背を見つめると、
 ジョエルはよっこらしょと起き上がる。

 両手で頬をパンパンと叩く。
 スタッフに向かって休憩終わりの声をかけようとした時、
 クルトンが跳ねるようにして戻ってきた。

「ドワーフの親方さんがお見えです! スターライト劇場の修復が終わったって!」


●セピア色の日

 そこには、輝きを取り戻した舞台があった。

 スターライト劇場。
 今は昼だが、夜になればその名の通り、
 星月夜に浮かぶ美しいステージになるだろう。

 艶やかな石の心地。
 ジョエルは一冊の本を胸に抱き、
 一歩一歩を踏みしめて、舞台の中央まで辿り着く。

 思い出すのは、懐かしい過去の日。

 天才演出家であった師匠がまだ顕在で、ジョエルがまだほんの少年の頃。
 頼りない演出助手であった頃――――。

『ご、ご、ご、ごめんなさい、ありがとうございます』
『いいんだよ、お前さんのドジはいつもの事だからなあ』

 ガッハッハ、と上背ある師匠は豪快に笑う。

『メモは間違えるわ、お茶はまずいわ、人集めはどもっちまうわ、何一つまともにできねえもんな!』
『そ、その通りですけども、その、直球は傷つきますよお……』
『だが、オレの舞台に、一等惚れてくれてるのは、お前さんだからしゃあねえわなあ』
『そ、そ、その……。……その通りですけども……』

 ジョエルはよく分からないけれど、なんだか褒められた心地になって、気恥ずかしそうに俯いた。

『本番も間もなくだからな。まあ、肩肘張らずに、気張っていこうや』
『は、はい。師匠はホントに難しい事を仰る……』

 師匠の舞台に贈られる喝采は、未来永劫なくなった。

 スターライト劇場での本番初日、歪虚に襲われ、
 師匠はそのまま帰らぬ人となったのだ。


●新章のスターライト

 ジョエルはゆっくりと目を開ける。
 師匠が亡くなった事で、師匠を筆頭とした一座は解散してしまった。

 今、ジョエルが率いるこの舞台の役者やスタッフは、クルトンも含め、寄せ集めの人々だ。

――絶対、失敗させない。

 ジョエルは澄みやかな静寂を大きく吸い込むと、
 本番の日を思い浮かべながら、一人、高らかな声を響かせた。

――スターライト劇場にようこそのお運び、誠にありがとうございます!

リプレイ本文

 スターライト劇場、復活の日。

 これは客席が知る事のない物語。
 星だけが見つめていた舞台裏の物語。


●稽古1日目

「ゲロまず」
「メメ! そ、そこまでまずくないわ!」

 稽古初日。迎えてくれたのは少年クルトンだった。
 自然公園内や劇場内を見回った頃には太陽は天辺にさしかかっていた。
 控室に用意された昼食に心躍らせたのも束の間。昼食のサンドウィッチは微妙な味だった。

 すかさず、毒々沼 冥々(ka0696)が総意を代弁した。
 アマービレ・ミステリオーソ(ka0264)は慌てて訂正したが、大差なかった。
 弓月 幸子(ka1749)は肩を揺らすと、荷物をテーブルに引き上げる。
「実はボクも持ってきたんだ。一緒にどうかな?」
 美味しそうなハンバーガーが現れた!

 にわかに外が騒がしい。稽古も休憩に入ったらしく、役者に紛れて一人の若者が駆け寄ってきた。
「ご挨拶が遅くなりました。ハンターの皆さん、ですよね」
 ジョエルが一人一人と握手を交わして席につく。
「わッ! このハンバーガーは上出来だ。ついに僕も料理がうまくなったみたいだよ、クルトン!」
「ジョエルさん、それは弓月さんの差し入れですよ」
 ジョエルは手を打って笑った。
「そうだ、僕が作ってきたのはサンドだったね。ありがとう、弓月さん。どんどん頂いちゃっていい?」
「勿論! ほら、みなさんも」
 控室に集まったスタッフにも配られていくハンバーガー。大好評だ。

 作戦会議はハンバーガーの香りと明るい声が溢れる中で行われた。
「ちょっといい? いくつか聞いておきたいの」
 Jyu=Bee(ka1681)が過去の襲撃について問えば、雑魔は土くれ人形のようだったと伝えられる。
 観客数についてはしみじみと。
「それはもう、立ち見になる程の満席で」
「――ふふ」
 ふと、日下 菜摘(ka0881)に浮かんだ微笑みが、ジョエルをほんのり遮った。
「あら、すみません。気づいてしまって」
 そうして、隣のレナ・クラウステル(ka1953)に笑いかけた。
「駄目なのね?」
「ちょっと苦手……」
 レナはポンチョのウサギ耳を垂らしながら、しょぼんと答えた。
 紙包みにはピクルスだけが残されていた。
「ふぉっふぉ、幼子には苦手なものじゃからのう、どれ」
 ゲルド・マルジェフ(ka0372)が武骨な指でレナのピクルスを貰った。
 全員にジュースを注ぎ、クロ・トゥインクル(ka1468)も顔を上げた。
「休憩中は稽古を見てもいいですか?」
 ジョエルは嬉しそうに台本も差し出した。


●チラシ配り

 公園の入り口にクロとレナ。
「スターライト劇場が復活しまーす!」
「お芝居やりまーす。観に来てねー……♪」
 年齢も背丈も同じくらいな二人。双子のような魅力は絶大で早くもチラシが切れそうな勢いだった。
「戻って補充した方がいいかもしれませんね」
「レナ……、取ってこようか?」
 残りを数えていると、赤チョッキの男が勝手にチラシを摘み上げた。
「ふん、また雑魔に襲われるだけだろうに」
「昔を知ってるんですか?」
「あん?」
 クロはレナを庇うように一歩前に出た。
「雑魔について知っている事があれば教えてくれませんか」
「ねーよ。ガキに教えられる事なんざ」
「……レナ達、小さくても、ハンターだもん」
 背を向けた男の足が止まった。不躾な目で振り返る。レナはクロのうしろに隠れた。
「ウサギと少年が救世主か。傑作だ」
 男はポケットにチラシを捻じ込む。
「確か、一番荒らされていたのは広場の東だったな。ガキどもに止められるとは思えねえが」
 赤チョッキの男は柄悪く笑うと、散策路に姿を消した。
「……あの人、少し注意しておいた方がいいかもしれませんね」
 クロは声を低く落とした。


●稽古2日目

「さあ、昼飯じゃ! たーんと作ったからの」

 ゲルドが腕を振るった大皿料理が次々に並べられていく。
「明日が本番じゃからの、益々気合を入れていかんとのぉ!」
「星型クッキーも焼き上がりましたわ」
 日下が平皿を抱えながら肩で扉を開ける。香ばしさがふわっと漂った。
「アマービレさんのレシピを元に作ってみましたわ。どうかしら」
 共に試行錯誤したゲルドと微笑みを交わす。
「劇場の名にちなんだお菓子というのも良い宣伝になりますわよね」

「おひるだよ! ごはんができたよ!」
 弓月は稽古中のスタッフに手を振った。
「今日はゲルドさんや日下さんが作ってくれたんだ。絶品だよ」
「ハンターさんが来てくれてから食事がおいしくて嬉しいな」
 ジョエルは頬を緩ませ、それから声を忍ばせる。
「今度ハンバーガーの作り方も教えてくれると、その」
「気に入ってくれたんだね」
 弓月は笑った。

 人が空いた舞台中央に荒々しい姿が舞い降りた。
「ヘイヘイヘイ! 毒々沼冥々たんの参上だぜッ!」
 拝借したヴァイオリンをギインと鳴らす。
「今日も僕の事愛してるかーい!? ダダダッ! ア――ッ! ハ! イエア――――ッ!!」
 毒々沼は挑戦的に客席を見回すと、激しく弓を引きはじめた。
 パンクアレンジされたリズムは衝撃的な調べ。
「もう、メメ! ……私も混ざってもいいかしら」
 アマービレが、トントントン、と舞台に上がっていく。その足音は既にリズムを刻み始めていた。
 毒々沼に寄り添い、高らかにソプラノの声を解き放った。

 二人の共演に人が増えてきた。様子を見に来た日下もくすくすと笑う。
「ランチは外にお持ちしましょうか。客席の横にテーブルを置いて」
 小さくも賑やかな突発ランチ演奏会。
 演奏家は触発されたように楽器を手に、役者も料理皿を手に、食べて歌って踊って過ごした。


●広場の東

「その赤チョッキの男は、広場の東って言ったのね?」
 Jyu=Beeの問いかけにレナはコクリと頷いた。
「なにかな。音……、するね」
 Jyu=Beeが耳を澄ます。勇ましいヴァイオリンを中心に、可憐な歌声と笑声がMIXされた音が聞こえてくる。
「なんだか楽しそうね? お祭りみたい」
 その時、木陰から立ち上がる姿があった。
 紫がかった土くれが、人の形を作りはじめていた。
「お出ましね!」
 Jyu=Beeは嬉々として日本刀を抜く。
「いざ、尋常に勝負!」
 細身の体躯を沈めて距離を詰めると、水平の一閃。土くれは顔の正面すら定まらぬ間に脆くも崩れた。
「もう終わり!? もっと頑張ってよ」
 雑魔によって掘り起こされた土の中にくすんだ物体がある。
「魔道具、かな……」
「マテリアル汚染の原因? それならもう任務は完了!って事?」
「……かな? そうだといいね」
 Jyu=Beeはつまらなそうに刀をしまう。レナは公園内の土がところどころ紫色を帯びているような気がした。
 原因を絶ったとしても、雑魔となった土は潜んでいるのかもしれない。


●本番、開幕

「困りましたわね。クッキーが売り切れてしまいそうですって」
「ふぉっふぉ、喜ばしいことじゃて」

 ゲルドと日下は追加のクッキーを焼き上げている最中だ。
 外にはチラシを見た多くの人で長蛇の列となっていた。調理場を弓月がひょこっと覗く。
「そろそろ開場の時間だよ!」

「心情解釈を深めれば演技に深みも出るわ。歌も踊りもそう。理解し世界に入り込むの。全身で表情豊かにね」
「技術的なこたさて置き――まずは兎に角ゲロ込めるんだよ。音にてめえの魂をな!」
 アマービレと毒々沼は、舞台に向かう役者や演奏家の背中を押していく。
「さーて、あまびー? こっちはこっちの戦場へ向かうとしようぜッ。うひひひひっ」

 夕刻の空には気の早い一番星が浮かび始めていた。

 各位は二人組となって位置につく。
『こちら、レナだよ。お散歩してた人達も、劇場にどうぞって、案内したよー……』
 トランシーバーも良好だ。劇場から拍手が響く。開幕の音だ。


●序

 暗がりの中、それはただの人に見えたが、迷いは一瞬だった。
『発見したわ』
 アマービレは音もなく地を駆け、立ちはだかりながら踏み込んだ。一瞥する。
 ――やはり土くれ。
 スカートをふんわり浮かべて屈みこみ、低い位置から斬りつけた。土くれの脚にヒビが入る。
 そこに毒々沼が滑り込んだ。
「惚れちゃいそうな美脚だなァ! ダァァァァリィィン!?」
 土くれの脚にリボルバーの銃口を押し付けた。
 足元を譲って跳躍していたアマービレの下で銃声が轟く。
 アマービレは宙にあるまま、ロングソードを閃かせ、土くれの頭部を撥ね飛ばした。
「Jyu=Beeから聞いていたより手強いわね」
 ロングソードに残った土をキュッと拭った。

 ――立ち見客の数人が、銃声が聞こえたような気がして振り返る。
 舞台を囲む木々の間には音響関係の劇団員が紛れ、幻想的な音色を奏でていた。
 客は舞台に向き直った――。


●破

「この先に居るは夢追い人」
 一体の土くれが押し迫る。
「それを邪魔しようなんて無粋な輩は、この美少女侍ジュウベエちゃんが、天に代わって懲らしめてあげるわ!!」
 Jyu=Beeは脇構に刀を据えた。重心を落とし、敵の胴を抜く。
 威力に揺らいだ土くれにクロのロッドが狙いを定めた。
「キミの舞台はここですよ。向こうはダメ」
 聖なる光が宝石に集い、クロらしい実直な眩さを伴って撃ち込まれた。
 土くれの闇雲な攻撃をJyu=Beeはシールドでいなすと、もう一撃で打ち崩す。
「たわけ者め」
 大地に還った土を踏みしめる。

 劇場から沢山の笑い声が届く。物語が最高潮に達しつつあるのだろうが、喜ぶ余裕は無かった。
 日下は折り重ねた五体目に安堵する間なく、新たな土くれからの攻撃に身を竦めた。
 その隙をウォーターシュートが救う。
「助かりましたわ」
 土を払って体勢を整える。弓月は背中合わせにワンドを構えた。
「敵の数が増えてきたような気がするね」


●舞台

「雑魔が増えていると、了解です」
 クルトンはハンターからの無線に応える。毒々沼から借りたトランシーバーだ。
 隣のジョエルの眼差しは舞台だけに注がれていた。舞台の進行に心奪われ、聞く耳がないのは明らかだ。

 クルトンが星に祈った時、突如トランシーバーが奪われた。
 ジョエルが青ざめ、トランシーバーを握って彼方を見つめている。
 そこには巨大な影がそびえていた。

『舞台は、中止……』

 ジョエルの掠れた声が無線に流れた。


●巨大ゴーレム

「落ち着け、何があったのじゃ」

 劇場近くの小道でジョエル、ゲルドとレナが落ち合った。ジョエルは息を乱して震えるばかりだ。
 とめどない笑い声に溢れ、舞台はまだ続いている。
『土くれが集結。巨大ゴーレムとなって劇場に向かってますわ』
 日下からの無線と同時に木を薙ぎ倒す音。7メートルの巨大ゴーレムがいた。
 ゴーレムから土がぼだぼたと落下する。
 硬直したジョエル、そしてレナを、ゲルドは身を挺して庇った。
 筋肉の盾にも重たい衝撃。眉根を寄せるゲルドの姿が、かつての師匠と重なって狂乱した。
「僕を庇ってはダメです! また、また死んでしまう……!」


●夏の夜の夢

 ついに劇場に姿を現した巨大ゴーレムに客席が静まり返った。

「――ははははは!」

 そこに高笑いだ。

「見なよ! あーんな巨大な森の主にも惚れ薬をかけてやったぞ。誰に惚れさせたのかって? そりゃここにいる客席の皆様さ!」
「パックったら! これ以上みんなを混乱させるつもりなの」
 やんちゃなパックに扮したクロが舞台に躍り出た。劇になぞらえた台詞でゴーレムを示す。
 アマービレも妖精を思わせる優雅な仕草でほうと憂いを落としてみせた。客席の子供達がキャッキャと喜ぶ。
『今よ! 派手に頼むわね!』
 無線にJyu=Bee。楽隊まで指示が飛んだのだろう、パンクアレンジされた音楽が響き渡った。

「ほら、大丈夫じゃ。わしらがついとる」
 ゲルドは微笑み、レナも小さく抱きしめた。
 落ち着かせたジョエルを送り返し、二人は巨大ゴーレムに向き直る。
 マギスタッフとトンファーがクルリと手元に収まった。
「マナーが悪い人は、メッ……だよ」
「師の名誉が為、己の全てを賭けて挑む、魂の舞台。この星月夜に相応しくないものは早々に退場してもらおうかのぉ!」


●急

「痛い時でも右手は上げないでくださいね」
 日下のメイスファイティングが武器をみなぎらせた。
 細腕が振るうとは思えない重さを、あばれる敵に叩き込む。ゴーレムは呻き声をあげて後退した。
「ボクのターン」
 すいと愛用のカードを額にあて、パートナーの姿を描き出す。
「水の精霊さん、お願い」
 弓月はゴーレムに眼差しを切って、水の飛沫で屠り取る。
 劇場からの愉快なリズムに乗り、いくつもの泥が落下した。
『予想通り! ゴーレムは観客の歓声に反応しているのよ。正のエネルギーが嫌いなのね。もっと盛り上げちゃいなさい!』
 Jyu=Beeは無線で舞台に活を入れる。

 少しずつ、少しずつ。広場まで押し戻されたゴーレムが咆哮を上げた。
 最後の力を振り絞って、鈍重な体を劇場へ向ける。
 覚醒で燃え上がるようなゲルドのオーラが、精霊への祈りによって増幅した。
 暴走する筋肉を抑え込むようにトンファーを握りしめ、交差の形で振りぬいた。
 マギスタッフはレナの集中に呼応して水の力を発露する。
 清らかな水が土をあるべき姿に戻していく。

 ――――。

 Jyu=Beeが攻めの構えを解いた。
 毒々沼のリボルバーがリロードされる。
 アマービレの髪が揺れた。
「これで、仕舞いね」
 カーテシーの礼をひとつ。ゴーレムが倒れると同時、劇場で歓声と拍手が鳴り響いた。


●閉幕

 スタンディングオベーションの中、ジョエルはスポットライトを浴びて恭しく礼をしていた。
 しかし、暗がりの立ち見客の中にハンターの姿を見つけると、泣きはらした相好を崩した。
 「最後に、今日の舞台を助けてくれた、私のヒーローを紹介させてください。皆さん、どうぞ舞台に……!」
 ジョエルは舞台から飛びおりてハンターの手を取った。

 客席の赤チョッキがペンで頭を掻く。
「おやまあ、あのガキども。予想外に素晴らしい記事ができちまいそうだな」
 
 歓声はとめどなく、誰からともなく客席も巻き込んだ宴が始まった。
「人生も舞台も戦場も、いっちゃん大事な事はおんなじさ『ゲロ楽しむ事』、これしかないねッ!」
 美しい歌声、笑い声、豪快な酒が酌み交わされる。

 ――魂は夜空の星になるというけれど。
 それなら師匠はこの舞台を特等席で見守ってくれたかな。
 
 喝采が途切れる事はない。今夜が新たな始まりの日。


●エピローグ

 文句なしの大成功だったそうねと職員が笑った。
 今回のクッキーの売上はハンターの皆さんに、という言伝を伝えながら、地域新聞を広げてみせる。
 赤チョッキの記者は辛口で有名なのにね、なんて呟きながら。

 新聞には『スターライト劇場、大喝采の復活』という見出し。
 そしてハンターが舞台で喝采を浴びている場面が、大きく大きく取り上げられていた。

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  • 世界中の歌を求め歌って
    アマービレ・ミステリオーソka0264
  • Beeの一族
    Jyu=Beeka1681
  • デュエリスト
    弓月 幸子ka1749

重体一覧

参加者一覧

  • 世界中の歌を求め歌って
    アマービレ・ミステリオーソ(ka0264
    エルフ|21才|女性|闘狩人

  • ゲルド・マルジェフ(ka0372
    ドワーフ|30才|男性|霊闘士
  • Trigger "H"
    毒々沼 冥々(ka0696
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士

  • クロ・トゥインクル(ka1468
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 可愛いうさぎさん
    レナ・クラウステル(ka1953
    人間(蒼)|12才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】星光絶さぬ為に
アマービレ・ミステリオーソ(ka0264
エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/06/26 19:56:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/23 23:06:03