ゲスト
(ka0000)
陽だまりの女王
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/14 15:00
- 完成日
- 2019/06/25 02:50
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
その城の主ジャンヌ・ポワソン(kz0154)は、王座にゆったりと腰かけながら崩壊した部屋を眺めていた。
天井の穴から廃墟に光が差し込むさまは、儚くも美しい感性にあふれていた。
「さて、これから何をいたしましょうか?」
傍に佇むひょろりとした長身の歪虚――コレクターが、他人事のように尋ねる。
ジャンヌはそっと指先で自らの唇の形を確かめるように撫でると、柔らかな声で答えた。
「……あなたに名前を与えるわ」
「おや……しかし、私にはあなた様がお与えくださった名が――」
「名前を与えるわ」
ゆったりと、だが有無を言わさぬ威厳を持って彼女は繰り返す。
コレクターは一瞬呆気にとられたように呆けてしまったが、すぐにニィと口角を吊り上げて、彼女の足元で膝を折った。
「では契約となりますがゆえ、私めの報酬は?」
ジャンヌは降り注ぐ陽の光を見上げて、うっすらと目を細める。
「……このタラクサクムを」
「素晴らしい」
コレクターの声色が興奮で踊った。
「“あなたのモノ”にするのにどれくらいかかるのかしら?」
「既に承知している限りを含めれば、あと数日もあれば」
「なら、この城はあなたのモノ。そしてあなたの名は……そう、“ダンテリオ”」
「その陽だまりのような御心に感謝を」
コレクター――改め“ダンテリオ”は、彼女の前に深く頭を垂れた。
ジャンヌは彼から視線を外し、すくりと立ち上がる。
「お出かけですか?」
「ええ」
返事をしながら、ジャンヌはふと切り裂かれてボロボロになった自らのベビードールを見下ろす。
「……不相応ね」
そう独り言ちると、手の中に生成した結晶の短剣で両の肩紐を切って落とす。
はらりと彼女の身を包んでいた生地が床に落ち、みずみずしい肌が太陽の光でつやめいた。
静かに瞳を閉じると、彼女の周囲に赤いマテリアルが舞い始める。
それは身体を包み込み、少しずつ衣装のシルエットを模ると、まばゆい光と共に弾け飛んだ。
暗緑色のドレスが、吹き込んだ風に舞っていた。
ふわりとした印象の誂えに、彼女の髪が良く映える。
特筆すべきは艶めかしくも大きく開いた前面。
豊かな双丘を包み込んで下腹部付近まで肌を晒すデザインは、身体の中心に刻まれた大きな縦一文字の太刀傷をさらけ出していた。
ジャンヌはどこか憂鬱な表情をそのままに歩みだす。
「往きましょう、愛を贈りに」
踏み出したその足の下で、枯れた下草が踏みにじられる。
●
ポルトワールのダウンタウンで行方不明者が出ているという噂が立ったのはつい最近のことだった。
なぜ噂なのかと言うと、被害者と目されるのはストリートチルドレンだったからだ。
後見人となっている者がいないものだから、単純に街を出ていったのか、それとも事件に巻き込まれたのか――確かな情報として得られるものがなかった。
子供が消えるのと同時に、街に現れた存在もあった。
夜のダウンタウンに現れるという、緑色のドレスを纏った、場違いながらも美しい貴婦人。
“陽だまりの女王”と名乗る彼女は、少なくない目撃例と共にオフィスへと話が持ち込まれていた。
時期的に両案件の関連性も視野に入れたソサエティは、ハンターに調査の依頼を出すことになったのである。
夜のダウンタウンで、1人の少年が階段に座ってぼんやりと星空を眺めていた。
母は歪虚事件に巻き込まれて亡くなった。
軍人だった父も戦いの中で命を落とした。
遠くには穏やかな波の音と、ほのかに鼻先をくすぐる潮の香り。
ふたりの笑顔を思い出すから、少年はこの香りが嫌いだった。
波の音に交じって、カラカラと乾いた車輪の音が響く。
それが馬車だと気づいて、少年は視線を下ろした。
どんよりとした裏路地の広場に1台の馬車が止まる。
御者をしていた枯れ木みたいな男がドアを開くと、そこから1人の女性が降りて来た。
大きく膨らんだドレスの裾を抱え、ゆったりとステップから足を踏み出す。
その瞳は、まっすぐに少年の姿を捉えていた。
きらびやかな衣装はこんな裏町には不釣り合いだった。
だがそれらがどうでもいいほどに、星空の下で長いブロンドの髪を潮風に揺らす彼女は、まるで絵本のお姫様のようだった。
貴婦人は物憂げな表情のまま、何も言わずに少年のもとへと歩み寄る。
見下ろすほどの距離まで来た時、両手を広げて息を吐いた。
「私は“陽だまりの女王”――おいで、私があなたを愛してあげる」
耳元に絡みつくような声に、少年は思わず立ち上がっていた。
胸の高鳴りを押さえながら、戸惑うように彼女を見上げる。
貴婦人はどこまでも深い海のような瞳で、ただ少年の答えを待った。
ふらりと、少年は彼女の懐に歩み寄り、顔をうずめる。
彼女もまた、そんな少年を優しく抱きしめた。
彼を突き動かしたのは積もる寂寥か、初めての情欲か――どちらにせよ、彼女を求めていた。
貴婦人の身体に刻まれた大きな傷跡にじっとりと熱い液体が浮かんだ。
それは少年のシャツにしみこんで、胸の辺りをとろとろに濡らしていく。
貴婦人は液体をそっと指先で掬うと、自らの唇にそっと撫でつける。
艶やかな朱に濡れた唇。
そのまま慈しみをもって、少年の頬に口づけをした。
ハンター達が現場に鉢合わせたのはその時だった。
濃い負のマテリアルの気配を前に、一目でただ事でないことを理解する。
「私は“陽だまりの女王”……私の愛を受け止めに来たの?」
少年を抱き留めたまま、貴婦人――ジャンヌはハンター達に視線を投げる。
だが彼らが言葉を返す前に、少年が大きく息を吐いた。
まるで肺の空気をすべて吐き出しているかのような一息。
それから彼は同じくらいいっぱい息を吸い込むと――その身体がぶくりと、大きく膨れ上がった。
服を引き裂き、真っ白い肌が月明かりの下で1体の巨人へと変貌する。
まるで月に照らされた海面のような、青白くのっぺりとした肌。
とても抱きしめていられない大きさとなった彼からジャンヌはそっと手を離すと、巨人はふらふらとした足取りで広場を歩き、おもむろに、傍らの家の壁を殴りつけた。
「そう、まだ大人になりきれていないのね……ダンテリオ」
ジャンヌは馬車の方へ歩み寄りながら、傍らの燕尾服の男へと声を掛ける。
「彼が愛を受け止めきれるまで、彼らの相手を」
「かしこまりました」
ダンテリオは恭しくお辞儀をしてから、ハンターらへと視線を向ける。
「ダンテリオと申します。陛下の命により、お時間を頂戴いたします。どうぞよしなに」
彼は、挨拶もそこそこにパチンと指を鳴らした。
すると、それまで馬車を引く2頭の馬だと思っていた影がバラバラと崩れていく。
それらのパーツはいくつかの人形に再集合すると、規律よく並んで立ち上がった。
一斉にお辞儀をするメイド服姿の人形たち。
その後ろで、ジャンヌは物憂げな吐息で唇の朱を指先で拭い落した。
その城の主ジャンヌ・ポワソン(kz0154)は、王座にゆったりと腰かけながら崩壊した部屋を眺めていた。
天井の穴から廃墟に光が差し込むさまは、儚くも美しい感性にあふれていた。
「さて、これから何をいたしましょうか?」
傍に佇むひょろりとした長身の歪虚――コレクターが、他人事のように尋ねる。
ジャンヌはそっと指先で自らの唇の形を確かめるように撫でると、柔らかな声で答えた。
「……あなたに名前を与えるわ」
「おや……しかし、私にはあなた様がお与えくださった名が――」
「名前を与えるわ」
ゆったりと、だが有無を言わさぬ威厳を持って彼女は繰り返す。
コレクターは一瞬呆気にとられたように呆けてしまったが、すぐにニィと口角を吊り上げて、彼女の足元で膝を折った。
「では契約となりますがゆえ、私めの報酬は?」
ジャンヌは降り注ぐ陽の光を見上げて、うっすらと目を細める。
「……このタラクサクムを」
「素晴らしい」
コレクターの声色が興奮で踊った。
「“あなたのモノ”にするのにどれくらいかかるのかしら?」
「既に承知している限りを含めれば、あと数日もあれば」
「なら、この城はあなたのモノ。そしてあなたの名は……そう、“ダンテリオ”」
「その陽だまりのような御心に感謝を」
コレクター――改め“ダンテリオ”は、彼女の前に深く頭を垂れた。
ジャンヌは彼から視線を外し、すくりと立ち上がる。
「お出かけですか?」
「ええ」
返事をしながら、ジャンヌはふと切り裂かれてボロボロになった自らのベビードールを見下ろす。
「……不相応ね」
そう独り言ちると、手の中に生成した結晶の短剣で両の肩紐を切って落とす。
はらりと彼女の身を包んでいた生地が床に落ち、みずみずしい肌が太陽の光でつやめいた。
静かに瞳を閉じると、彼女の周囲に赤いマテリアルが舞い始める。
それは身体を包み込み、少しずつ衣装のシルエットを模ると、まばゆい光と共に弾け飛んだ。
暗緑色のドレスが、吹き込んだ風に舞っていた。
ふわりとした印象の誂えに、彼女の髪が良く映える。
特筆すべきは艶めかしくも大きく開いた前面。
豊かな双丘を包み込んで下腹部付近まで肌を晒すデザインは、身体の中心に刻まれた大きな縦一文字の太刀傷をさらけ出していた。
ジャンヌはどこか憂鬱な表情をそのままに歩みだす。
「往きましょう、愛を贈りに」
踏み出したその足の下で、枯れた下草が踏みにじられる。
●
ポルトワールのダウンタウンで行方不明者が出ているという噂が立ったのはつい最近のことだった。
なぜ噂なのかと言うと、被害者と目されるのはストリートチルドレンだったからだ。
後見人となっている者がいないものだから、単純に街を出ていったのか、それとも事件に巻き込まれたのか――確かな情報として得られるものがなかった。
子供が消えるのと同時に、街に現れた存在もあった。
夜のダウンタウンに現れるという、緑色のドレスを纏った、場違いながらも美しい貴婦人。
“陽だまりの女王”と名乗る彼女は、少なくない目撃例と共にオフィスへと話が持ち込まれていた。
時期的に両案件の関連性も視野に入れたソサエティは、ハンターに調査の依頼を出すことになったのである。
夜のダウンタウンで、1人の少年が階段に座ってぼんやりと星空を眺めていた。
母は歪虚事件に巻き込まれて亡くなった。
軍人だった父も戦いの中で命を落とした。
遠くには穏やかな波の音と、ほのかに鼻先をくすぐる潮の香り。
ふたりの笑顔を思い出すから、少年はこの香りが嫌いだった。
波の音に交じって、カラカラと乾いた車輪の音が響く。
それが馬車だと気づいて、少年は視線を下ろした。
どんよりとした裏路地の広場に1台の馬車が止まる。
御者をしていた枯れ木みたいな男がドアを開くと、そこから1人の女性が降りて来た。
大きく膨らんだドレスの裾を抱え、ゆったりとステップから足を踏み出す。
その瞳は、まっすぐに少年の姿を捉えていた。
きらびやかな衣装はこんな裏町には不釣り合いだった。
だがそれらがどうでもいいほどに、星空の下で長いブロンドの髪を潮風に揺らす彼女は、まるで絵本のお姫様のようだった。
貴婦人は物憂げな表情のまま、何も言わずに少年のもとへと歩み寄る。
見下ろすほどの距離まで来た時、両手を広げて息を吐いた。
「私は“陽だまりの女王”――おいで、私があなたを愛してあげる」
耳元に絡みつくような声に、少年は思わず立ち上がっていた。
胸の高鳴りを押さえながら、戸惑うように彼女を見上げる。
貴婦人はどこまでも深い海のような瞳で、ただ少年の答えを待った。
ふらりと、少年は彼女の懐に歩み寄り、顔をうずめる。
彼女もまた、そんな少年を優しく抱きしめた。
彼を突き動かしたのは積もる寂寥か、初めての情欲か――どちらにせよ、彼女を求めていた。
貴婦人の身体に刻まれた大きな傷跡にじっとりと熱い液体が浮かんだ。
それは少年のシャツにしみこんで、胸の辺りをとろとろに濡らしていく。
貴婦人は液体をそっと指先で掬うと、自らの唇にそっと撫でつける。
艶やかな朱に濡れた唇。
そのまま慈しみをもって、少年の頬に口づけをした。
ハンター達が現場に鉢合わせたのはその時だった。
濃い負のマテリアルの気配を前に、一目でただ事でないことを理解する。
「私は“陽だまりの女王”……私の愛を受け止めに来たの?」
少年を抱き留めたまま、貴婦人――ジャンヌはハンター達に視線を投げる。
だが彼らが言葉を返す前に、少年が大きく息を吐いた。
まるで肺の空気をすべて吐き出しているかのような一息。
それから彼は同じくらいいっぱい息を吸い込むと――その身体がぶくりと、大きく膨れ上がった。
服を引き裂き、真っ白い肌が月明かりの下で1体の巨人へと変貌する。
まるで月に照らされた海面のような、青白くのっぺりとした肌。
とても抱きしめていられない大きさとなった彼からジャンヌはそっと手を離すと、巨人はふらふらとした足取りで広場を歩き、おもむろに、傍らの家の壁を殴りつけた。
「そう、まだ大人になりきれていないのね……ダンテリオ」
ジャンヌは馬車の方へ歩み寄りながら、傍らの燕尾服の男へと声を掛ける。
「彼が愛を受け止めきれるまで、彼らの相手を」
「かしこまりました」
ダンテリオは恭しくお辞儀をしてから、ハンターらへと視線を向ける。
「ダンテリオと申します。陛下の命により、お時間を頂戴いたします。どうぞよしなに」
彼は、挨拶もそこそこにパチンと指を鳴らした。
すると、それまで馬車を引く2頭の馬だと思っていた影がバラバラと崩れていく。
それらのパーツはいくつかの人形に再集合すると、規律よく並んで立ち上がった。
一斉にお辞儀をするメイド服姿の人形たち。
その後ろで、ジャンヌは物憂げな吐息で唇の朱を指先で拭い落した。
リプレイ本文
●
目の前で起こった出来事に、ジャック・エルギン(ka1522)がギリリと歯を食いしばる。
「ジャン…ヌ……ガキを食いやがったな!?」
「ジャック、下手に飛び出さないで!」
「分かってるよ……ッ!」
マリィア・バルデス(ka5848)に諫められるまでもなく、ジャックは駆け出したい思いを必死に抑え込んだ。
目の前にはカラカラと音を立てて迫るメイド人形たち。
そこへ光の雨が降り注ぐ――マリィアのリトリビューション。
光は彼女ら、そして赤い燕尾服の執事――ダンテリオを蝕んでいく。
マリィアは頭上高く魔導銃を掲げたまま、優雅な佇まいで戦場を見守るジャンヌ・ポワソン(kz0154)を睨みつけた。
「愛なんて言葉で着飾って……あなたに都合のいい人形を生み出すだけだなんて。言葉遊びも大概になさいよ」
「私は私のアイを受け止めてくれる人を抱きしめる……あなたたちと何も変わらないわ」
「そんなものただの支配欲求よ! 怠惰王の空位に女王を名乗るだなんて、盗人猛々しいものね……十三魔ジャンヌ!」
彼女の恫喝と共に、デルタレイの3条の輝きが先頭のメイド3体を貫く。
次いで放たれたファイアスローワーの炎が、傷ついたメイドを消し炭へと変えた。
「それが分からないのなら、お前にアイを語る資格はない……!」
聖機剣を突き付けたキヅカ・リク(ka0038)へ、ジャンヌは眉をひそめる。
「それでも……私はあなたたちを愛するわ」
「人を歪虚に……あんなに簡単にできるものなのですか……?」
ジャック、百鬼 一夏(ka7308)と共に駆け出したセレスティア(ka2691)は、暴れるプエル=プルスの姿に戦慄を隠せなかった。
同時に沸き起こる憤懣は、己の中の義が掻き立てるもの。
ジャックは先陣を崩されたメイド隊の壁を一息で突破すると、振り向きざまに剣で薙ぎ払う。
一撃で倒されるほどの敵ではなかったが、セレスティアの放ったプルガトリオの闇刃と一夏の圏がメイドを打ち砕いた。
立て続けに自身強化を施したカーミン・S・フィールズ(ka1559)が、駆け抜けざまに銃声を響かせる。
そのままマテリアルの膜をふわりと纏うと、彼女の存在は戦場から隠匿された。
仲間たちが戦場に散った後ろで、リアリュール(ka2003)は静かに己のマテリアルを解放する。
ハイペリオン――舞のように美しくも正確無比な銃弾は、散漫となったメイド達と共にダンテリオを幾重にも貫いた。
ここまでほんの5秒程度の出来事。
立ちはだかるメイドはあっという間に残り2体になっていた。
「厄介な敵じゃが、このメンツであればあるいは……じゃな」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はニヤリと笑う。
年甲斐もなく胸が高鳴るのは強敵を前にした武者震いか、それとも仲間たちを前にした戦意の高揚か。
「侮っておりました。やっと拵えたメイド達を、こうもすぐ残骸にされてしまうとは」
コレクターは楽しそうにクツクツと笑って、懐から大型のハンドガンを抜き放つ。
掲げた銃口は星空を向いていた。
「面白そうな術があるものですね。おそらくはこうして――」
放たれた銃弾が夜空で弾ける。
降り注いだ負のマテリアルの礫に、マリィアは思わず目を見張った。
「リトリビューション……!?」
光の礫をハンターたちは時に避け、時に受け止めて凌ぐ。
しかしどちらを選んでもマテリアルに蝕まれ、身体が鈍化していくのを感じていた。
リアリュールの連続射撃が残るメイドとコレクターを滅多撃ちにする。
もはや原形をとどめていない2体へ一夏とセレスティアがとどめを刺した。
「貴方の言葉は嘘くさい……ドロドロした嫌な感じがするんです」
一途にジャンヌを護ろうとしていたアルバートとは違う。
彼の言葉からは悪意しか感じられない。
だから、一夏はダンテリオへと牙をむいた。
「コレクター! 貴方はここで退場して貰います!」
「私、今はダンテリオと名乗らせていただいております」
「貴方と言う存在に変わりはない」
飄々とした笑みで答える彼にリアリュールが言い放つ。
すると朧を脱ぎ去ったカーミンが、蒼機槍を構えプエルの眼前へ一気に迫っていた。
「名前を大事にするつもりなら、少しはそれに沿った服装にできないのかしら」
小言を口にしながら、敵の柔肌へマテリアルの刃が突き立つ。
唸るような雄たけびが路地裏へと響き渡っていた。
●
プエルの雄たけびと共にカーミンの身体を得体のしれないマテリアルが包み込む。
それはまるで病魔のように、彼女の体力を奪い去り、霧散した。
「ダメージに反応した呪い……!」
「だ、大丈夫……大したことはないわ」
一瞬足を止めたリクに、カーミンは首を振る。
蒼機槍の力でオレアンダーの毒が敵の身体をめぐっているはず。
“その分”が返ってこないということは、少なくとも直接的な攻撃にのみ反応する力なのだろう。
後に続いたジャックの刃がプエルの足元を薙ぎ払う。
すぐに彼を蝕む呪い。
その苦痛に思わず膝を折りそうになった。
「うぐっ……気を付けろ、こいつは殴った分に応じて返って来るぞ」
「それでも、逃げるわけには――」
リクの機導砲が敵の胸部を貫く。
途端に強烈な苦痛が全身を駆け巡り、リクは奥歯を噛みしめて耐えた。
「あまり無理をするものでは無いぞ!」
ミグのアイシクルコフィンがプエルを包み込んで、先の毒に加えて冷気による凍傷が体表へと広がっていく。
彼女の助言にジャックは脂汗を浮かべながら首を振る。
「間に合わなかった……その代償だってんなら、耐えてやるぜ」
「やせ我慢を……じゃが、そういう気概は悪くないぞ」
不敵な笑みを浮かべたミグだったが、突然の響いた帯状の銃声に魔導機塊を盾にする。
ダンテリオが新たに構えた大型のガトリング砲による制圧射撃がプエル対応の4人を襲っていた。
「彼の足を止めたところで意味はありませんか……」
セレスティアは彼らのフォローのために駆け出す。
一方のダンテリオは弾を撃ち尽くした砲を足元に放り捨てると、懐から新たに2丁のハンドガンを抜き放った。
「その上着の下は、いったいどうなっているのかしらね」
リアルユールの銃弾掃射がダンテリオを襲う。
流石に10発もの連続射撃を避けることはできず、彼は全身でそれを受け止める。
「ジャンヌとは契約できたのね。それであなたの目的は済んだのかしら」
「お雇いいただけて安堵しておりますよ」
「彼女の行動は、貴方の意図するところなのかしら」
「どうでしょうねぇ」
立て続けの問いかけをダンテリオは肝心なことは答えないままに躱していく。
しかし、一夏が接近するだけの間を稼ぐことはできた。
「それでも入れ知恵をしたのはあなたでしょう!?」
直前にマリィアの光の雨が降り注ぎ、躱そうとしたダンテリオの動きを阻害した。
放たれた一夏の白虎神拳を、コレクターは咄嗟に銃身で受け止める。
しかしその衝撃は確かに彼の全身へと突き抜けていく。
「流石にゴムのようだからといって熱劣化するわけではないか」
敵の特性を探りながら戦うミグは、結論へ至ると魔導機塊を機導術で分解、背負い式の高射砲へ再構築。
狙いを付ける先では、ジャックがしなる腕の一撃を盾で受け止めていた。
その一瞬の硬直を見逃さず、紫電を纏うエネルギーが放出される。
砲撃を肩へ受けたプエルは反動で大きく上半身が開いていた。
そこへジャックの薙ぎ払いとリクの機導砲が襲い掛かる。
プエルは怨念のような声を上げ、狼狽えたように数歩後退った。
呪いが3人の身体を蝕んでいく中で、コツリと堅い靴底が石畳を叩く音が響き渡った。
「虐めるのは可哀そうよ……私の大切な大切な子なの」
コツリコツリと、ジャンヌが戦場を歩いていた。
優雅に。
そして足を踏み出すたびにふわりと風に舞うドレスは、そよ風に揺れる花のようでもあった。
彼女はある程度歩み寄ると片手を振り上げる。
出現する4本の大剣。
それらは一斉に狙いを定めると――瞬きをする間に、リクの身体に突き刺さっていた。
「――ッ!?」
見えなかった――霧がないこの状況ですら、刃が飛んでくる過程が一切捉えられなかった。
剣が砕け散り、リクはガクリと膝をつく。
「リクさん!?」
すぐさまセレスティアが駆け寄ると、リクは虚ろな目でジャンヌの姿を遠く見上げる。
「大丈夫……まだ、立てるよ」
「動かないでください!」
すぐさま彼女の回復術が傷を癒す。
潰えかけた意識も、それで一度繋ぎ戻すことができた。
「お前のそれはアイなんかじゃない……僕は絶対に、お前をアイさない」
血の混じった唾と共に吐き捨てたリクの言葉に、ジャンヌが眉を伏せる。
「だけどお前をそうしたのが僕なら、1人にもしない」
「……そう」
寂し気に口にしながらも、彼女は歩みを止めはしない。
距離を詰められる前に、リクが内なるマテリアルを放出した。
「何――っ!?」
ドーム状の障壁が戦場を包み込み、ジャンヌとプエルが弾き飛ばされる。
ポゼッション――光に包まれた空間の中で、リクは確かな覚悟で口にした。
「僕は――俺はキヅカ・リク。お前のテキだ」
●
「また面白い術を使われますね。しかし、私の管轄ではないよう」
「お前の相手はこっちです!」
鋭い一夏の拳を、ダンテリオは今度こそギリギリのタイミングで躱した。
しかしリアリュールのハイペリオンを避けることはできず、服に大量の銃痕が浮かび上がる。
リクの結界の中ではハンター達が遠距離攻撃に絞って、プエルへ怒涛の追撃を続けていた。
一方で、いつの間にか周囲は鬱屈とした赤い霧が立ち込め始めていた。
「あなたも元は人間なのかしら……なぜ歪虚に?」
リアリュールの問いに彼は僅かに呆けたような顔をして、すぐにいつもの笑みへと戻った。
「なぜ……と言うのは分かりません。答えを知るラルヴァ様も消滅してしまわれましたね」
「ラルヴァに……?」
その時、不意に彼の懐から何かがじゃらじゃらと零れ落ちた。
銃弾が内ポケットか何かを破いたのだろうか。
足元に広がったのは、大量の銃機のミニチュアだった。
「おっと、これは」
咄嗟に彼が飛びのく。
「逃がさない……!」
一夏がミニチュアを踏み砕きながら、敵への距離を一瞬で詰め寄る。
突き出された拳を、彼は片腕で受け止めた。
「退場してもらうって言ったでしょ……!」
一夏はありったけの力を拳から圏へと伝える。
ミシリと鈍い音が響き、ダンテリオの右腕に激しい亀裂が走っていた。
「おや……鋼とも言わしめた我が身だったのですがね」
白虎神拳の衝撃だけは受け流した彼は、罅の入った腕をだらりと垂れ下げながら左手で懐をまさぐる。
次の瞬間、ぬるりと引き出したのは1本の筒――ロケットランチャーの砲身だった。
笑顔で引き金を引くダンテリオ。
一夏は思わず回避するが、彼女をすり抜けた爆炎はリアリュールとマリィアを包み込む。
結界が掻き消えた。
その間、セレスティアによって態勢を立て直したハンター達は全快の状態で戦場に姿をさらしていた。
「時間切れか。すぐに――」
霧の中でリクはもう一度結界を張ろうとする。
しかし、その眼前にちらついた影に彼は大きく息を飲んだ。
「……これ以上あの子を虐めさせないわ」
「速い……!?」
完全に意識の外だった。
いつの間にか接近していたジャンヌが手を振り下ろす。
直後、リクの身を4本の大剣が一斉に貫く。
「阿呆が、油断しおって!」
ミグの砲撃をジャンヌは生み出した大剣を盾にして防いだ。
ミグとて決してリクが油断していたとは思っていない。
ただ状況が、何か叫ばずにはいられなかった。
「しっかりしてください……!」
セレスティアがリクの元へ駆け寄る。
抱き上げた彼はもう意識を手放した後だった。
(うそ……でも今の、間違いない)
霧の中、カーミンは息を飲んで自分が見たものを冷静に受け止めようとしていた。
手にしていたのは懐中時計。
その身に違和感はなかった。
だが漠然とした予感があったのかもしれない。
(跳んだ……! 時計の針が、ほんの数秒だけ……確かに跳んでいた!)
しかし時計を見ていたことは彼女にとっては命取りだった。
いやそもそも時間を認識できない世界で、何をしていようと無意味なのだろうか。
これまで結界があったその中心に――陣を敷いたハンターたちの只中にジャンヌの姿があった。
周囲に無数の短剣を展開して。
一斉に刃が放たれた瞬間、カーミンの認識は確信へと変わっていた。
「くそぉぉぉ!!」
ジャックが星神器を抜き放ち、星の力を解放する。
「ジャックさん、無理をしないでください!」
ギリギリのタイミングでセレスティアがジャックの短剣の傷を癒す。
「あと少しで送ってやれる――駆け抜けるための盾をくれ!」
ジャンヌの追撃の大剣が彼を襲う。
だが“常勝”の理に守られた彼の身体は、飛来する4本すべてを着弾前に霧散させる。
振りかぶった刃に魂を込めた。
しかし、その間際にジャンヌが間に割り込んだ。
彼女は両手を広げて彼の前に立ちはだかっていた。
刃が彼女の身体を袈裟に斬る。
血しぶきが飛ぶ中で、彼女の表情がジャックの目に焼き付いた。
我が子を護る母の表情に似ているように感じた。
「私は見つけて欲しかった……だから、私のアイは見つけてあげること」
苦痛に歪んだ表情で彼女は口にする。
「どうして怒っているの? あの子が歪虚になったから……?」
「それは……そうだ」
「じゃあ……あなたにとって“私たち”は存在自体がアイせないのね」
そうだ、と言いかけた言葉をジャックは思わず飲み込んでしまった。
その様子に、ジャンヌは目を伏せた。
「――いくじなし」
四方から降り注いだ大剣が、彼の身体を貫く。
「引きましょう……これ以上は危険です!」
セレスティアが叫んだ。
ミグの機動「パリ」砲がプエルらをけん制し、その隙に彼女はジャックを回収する。
「ダンテリオっ!」
ジャンヌもまた声を張ると、ダンテリオは高く指笛を鳴らす。
すると星空の雲間を突き抜けて1騎の巨大な騎龍が戦場に舞い降りた。
「……あんなのまで用意していたのね」
リアリュールが制圧射撃を騎龍へと浴びせると、その間にダンテリオがジャンヌを備え付けられた玉座へと座らせる。
自らは首元の鞍にまたがると、竜の鉤爪がボロボロになったプエルを掴んだ。
「ダンテリオ……退場させるって……っ!」
覚悟を果たせず、一夏は悔し気に唇を噛んだ。
「どんな言葉を並べても認めないわ……あなたの愛も、陽だまりも」
零れたマリィアの言葉は、彼女を倒すべき敵であると認識したがためのもの。
歪んだアイを、同じ愛だなんて認めない――決して。
痛み分けだった――夜空に消えていく竜の姿をハンター達は歯がゆい気分で見送っていた。
目の前で起こった出来事に、ジャック・エルギン(ka1522)がギリリと歯を食いしばる。
「ジャン…ヌ……ガキを食いやがったな!?」
「ジャック、下手に飛び出さないで!」
「分かってるよ……ッ!」
マリィア・バルデス(ka5848)に諫められるまでもなく、ジャックは駆け出したい思いを必死に抑え込んだ。
目の前にはカラカラと音を立てて迫るメイド人形たち。
そこへ光の雨が降り注ぐ――マリィアのリトリビューション。
光は彼女ら、そして赤い燕尾服の執事――ダンテリオを蝕んでいく。
マリィアは頭上高く魔導銃を掲げたまま、優雅な佇まいで戦場を見守るジャンヌ・ポワソン(kz0154)を睨みつけた。
「愛なんて言葉で着飾って……あなたに都合のいい人形を生み出すだけだなんて。言葉遊びも大概になさいよ」
「私は私のアイを受け止めてくれる人を抱きしめる……あなたたちと何も変わらないわ」
「そんなものただの支配欲求よ! 怠惰王の空位に女王を名乗るだなんて、盗人猛々しいものね……十三魔ジャンヌ!」
彼女の恫喝と共に、デルタレイの3条の輝きが先頭のメイド3体を貫く。
次いで放たれたファイアスローワーの炎が、傷ついたメイドを消し炭へと変えた。
「それが分からないのなら、お前にアイを語る資格はない……!」
聖機剣を突き付けたキヅカ・リク(ka0038)へ、ジャンヌは眉をひそめる。
「それでも……私はあなたたちを愛するわ」
「人を歪虚に……あんなに簡単にできるものなのですか……?」
ジャック、百鬼 一夏(ka7308)と共に駆け出したセレスティア(ka2691)は、暴れるプエル=プルスの姿に戦慄を隠せなかった。
同時に沸き起こる憤懣は、己の中の義が掻き立てるもの。
ジャックは先陣を崩されたメイド隊の壁を一息で突破すると、振り向きざまに剣で薙ぎ払う。
一撃で倒されるほどの敵ではなかったが、セレスティアの放ったプルガトリオの闇刃と一夏の圏がメイドを打ち砕いた。
立て続けに自身強化を施したカーミン・S・フィールズ(ka1559)が、駆け抜けざまに銃声を響かせる。
そのままマテリアルの膜をふわりと纏うと、彼女の存在は戦場から隠匿された。
仲間たちが戦場に散った後ろで、リアリュール(ka2003)は静かに己のマテリアルを解放する。
ハイペリオン――舞のように美しくも正確無比な銃弾は、散漫となったメイド達と共にダンテリオを幾重にも貫いた。
ここまでほんの5秒程度の出来事。
立ちはだかるメイドはあっという間に残り2体になっていた。
「厄介な敵じゃが、このメンツであればあるいは……じゃな」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はニヤリと笑う。
年甲斐もなく胸が高鳴るのは強敵を前にした武者震いか、それとも仲間たちを前にした戦意の高揚か。
「侮っておりました。やっと拵えたメイド達を、こうもすぐ残骸にされてしまうとは」
コレクターは楽しそうにクツクツと笑って、懐から大型のハンドガンを抜き放つ。
掲げた銃口は星空を向いていた。
「面白そうな術があるものですね。おそらくはこうして――」
放たれた銃弾が夜空で弾ける。
降り注いだ負のマテリアルの礫に、マリィアは思わず目を見張った。
「リトリビューション……!?」
光の礫をハンターたちは時に避け、時に受け止めて凌ぐ。
しかしどちらを選んでもマテリアルに蝕まれ、身体が鈍化していくのを感じていた。
リアリュールの連続射撃が残るメイドとコレクターを滅多撃ちにする。
もはや原形をとどめていない2体へ一夏とセレスティアがとどめを刺した。
「貴方の言葉は嘘くさい……ドロドロした嫌な感じがするんです」
一途にジャンヌを護ろうとしていたアルバートとは違う。
彼の言葉からは悪意しか感じられない。
だから、一夏はダンテリオへと牙をむいた。
「コレクター! 貴方はここで退場して貰います!」
「私、今はダンテリオと名乗らせていただいております」
「貴方と言う存在に変わりはない」
飄々とした笑みで答える彼にリアリュールが言い放つ。
すると朧を脱ぎ去ったカーミンが、蒼機槍を構えプエルの眼前へ一気に迫っていた。
「名前を大事にするつもりなら、少しはそれに沿った服装にできないのかしら」
小言を口にしながら、敵の柔肌へマテリアルの刃が突き立つ。
唸るような雄たけびが路地裏へと響き渡っていた。
●
プエルの雄たけびと共にカーミンの身体を得体のしれないマテリアルが包み込む。
それはまるで病魔のように、彼女の体力を奪い去り、霧散した。
「ダメージに反応した呪い……!」
「だ、大丈夫……大したことはないわ」
一瞬足を止めたリクに、カーミンは首を振る。
蒼機槍の力でオレアンダーの毒が敵の身体をめぐっているはず。
“その分”が返ってこないということは、少なくとも直接的な攻撃にのみ反応する力なのだろう。
後に続いたジャックの刃がプエルの足元を薙ぎ払う。
すぐに彼を蝕む呪い。
その苦痛に思わず膝を折りそうになった。
「うぐっ……気を付けろ、こいつは殴った分に応じて返って来るぞ」
「それでも、逃げるわけには――」
リクの機導砲が敵の胸部を貫く。
途端に強烈な苦痛が全身を駆け巡り、リクは奥歯を噛みしめて耐えた。
「あまり無理をするものでは無いぞ!」
ミグのアイシクルコフィンがプエルを包み込んで、先の毒に加えて冷気による凍傷が体表へと広がっていく。
彼女の助言にジャックは脂汗を浮かべながら首を振る。
「間に合わなかった……その代償だってんなら、耐えてやるぜ」
「やせ我慢を……じゃが、そういう気概は悪くないぞ」
不敵な笑みを浮かべたミグだったが、突然の響いた帯状の銃声に魔導機塊を盾にする。
ダンテリオが新たに構えた大型のガトリング砲による制圧射撃がプエル対応の4人を襲っていた。
「彼の足を止めたところで意味はありませんか……」
セレスティアは彼らのフォローのために駆け出す。
一方のダンテリオは弾を撃ち尽くした砲を足元に放り捨てると、懐から新たに2丁のハンドガンを抜き放った。
「その上着の下は、いったいどうなっているのかしらね」
リアルユールの銃弾掃射がダンテリオを襲う。
流石に10発もの連続射撃を避けることはできず、彼は全身でそれを受け止める。
「ジャンヌとは契約できたのね。それであなたの目的は済んだのかしら」
「お雇いいただけて安堵しておりますよ」
「彼女の行動は、貴方の意図するところなのかしら」
「どうでしょうねぇ」
立て続けの問いかけをダンテリオは肝心なことは答えないままに躱していく。
しかし、一夏が接近するだけの間を稼ぐことはできた。
「それでも入れ知恵をしたのはあなたでしょう!?」
直前にマリィアの光の雨が降り注ぎ、躱そうとしたダンテリオの動きを阻害した。
放たれた一夏の白虎神拳を、コレクターは咄嗟に銃身で受け止める。
しかしその衝撃は確かに彼の全身へと突き抜けていく。
「流石にゴムのようだからといって熱劣化するわけではないか」
敵の特性を探りながら戦うミグは、結論へ至ると魔導機塊を機導術で分解、背負い式の高射砲へ再構築。
狙いを付ける先では、ジャックがしなる腕の一撃を盾で受け止めていた。
その一瞬の硬直を見逃さず、紫電を纏うエネルギーが放出される。
砲撃を肩へ受けたプエルは反動で大きく上半身が開いていた。
そこへジャックの薙ぎ払いとリクの機導砲が襲い掛かる。
プエルは怨念のような声を上げ、狼狽えたように数歩後退った。
呪いが3人の身体を蝕んでいく中で、コツリと堅い靴底が石畳を叩く音が響き渡った。
「虐めるのは可哀そうよ……私の大切な大切な子なの」
コツリコツリと、ジャンヌが戦場を歩いていた。
優雅に。
そして足を踏み出すたびにふわりと風に舞うドレスは、そよ風に揺れる花のようでもあった。
彼女はある程度歩み寄ると片手を振り上げる。
出現する4本の大剣。
それらは一斉に狙いを定めると――瞬きをする間に、リクの身体に突き刺さっていた。
「――ッ!?」
見えなかった――霧がないこの状況ですら、刃が飛んでくる過程が一切捉えられなかった。
剣が砕け散り、リクはガクリと膝をつく。
「リクさん!?」
すぐさまセレスティアが駆け寄ると、リクは虚ろな目でジャンヌの姿を遠く見上げる。
「大丈夫……まだ、立てるよ」
「動かないでください!」
すぐさま彼女の回復術が傷を癒す。
潰えかけた意識も、それで一度繋ぎ戻すことができた。
「お前のそれはアイなんかじゃない……僕は絶対に、お前をアイさない」
血の混じった唾と共に吐き捨てたリクの言葉に、ジャンヌが眉を伏せる。
「だけどお前をそうしたのが僕なら、1人にもしない」
「……そう」
寂し気に口にしながらも、彼女は歩みを止めはしない。
距離を詰められる前に、リクが内なるマテリアルを放出した。
「何――っ!?」
ドーム状の障壁が戦場を包み込み、ジャンヌとプエルが弾き飛ばされる。
ポゼッション――光に包まれた空間の中で、リクは確かな覚悟で口にした。
「僕は――俺はキヅカ・リク。お前のテキだ」
●
「また面白い術を使われますね。しかし、私の管轄ではないよう」
「お前の相手はこっちです!」
鋭い一夏の拳を、ダンテリオは今度こそギリギリのタイミングで躱した。
しかしリアリュールのハイペリオンを避けることはできず、服に大量の銃痕が浮かび上がる。
リクの結界の中ではハンター達が遠距離攻撃に絞って、プエルへ怒涛の追撃を続けていた。
一方で、いつの間にか周囲は鬱屈とした赤い霧が立ち込め始めていた。
「あなたも元は人間なのかしら……なぜ歪虚に?」
リアリュールの問いに彼は僅かに呆けたような顔をして、すぐにいつもの笑みへと戻った。
「なぜ……と言うのは分かりません。答えを知るラルヴァ様も消滅してしまわれましたね」
「ラルヴァに……?」
その時、不意に彼の懐から何かがじゃらじゃらと零れ落ちた。
銃弾が内ポケットか何かを破いたのだろうか。
足元に広がったのは、大量の銃機のミニチュアだった。
「おっと、これは」
咄嗟に彼が飛びのく。
「逃がさない……!」
一夏がミニチュアを踏み砕きながら、敵への距離を一瞬で詰め寄る。
突き出された拳を、彼は片腕で受け止めた。
「退場してもらうって言ったでしょ……!」
一夏はありったけの力を拳から圏へと伝える。
ミシリと鈍い音が響き、ダンテリオの右腕に激しい亀裂が走っていた。
「おや……鋼とも言わしめた我が身だったのですがね」
白虎神拳の衝撃だけは受け流した彼は、罅の入った腕をだらりと垂れ下げながら左手で懐をまさぐる。
次の瞬間、ぬるりと引き出したのは1本の筒――ロケットランチャーの砲身だった。
笑顔で引き金を引くダンテリオ。
一夏は思わず回避するが、彼女をすり抜けた爆炎はリアリュールとマリィアを包み込む。
結界が掻き消えた。
その間、セレスティアによって態勢を立て直したハンター達は全快の状態で戦場に姿をさらしていた。
「時間切れか。すぐに――」
霧の中でリクはもう一度結界を張ろうとする。
しかし、その眼前にちらついた影に彼は大きく息を飲んだ。
「……これ以上あの子を虐めさせないわ」
「速い……!?」
完全に意識の外だった。
いつの間にか接近していたジャンヌが手を振り下ろす。
直後、リクの身を4本の大剣が一斉に貫く。
「阿呆が、油断しおって!」
ミグの砲撃をジャンヌは生み出した大剣を盾にして防いだ。
ミグとて決してリクが油断していたとは思っていない。
ただ状況が、何か叫ばずにはいられなかった。
「しっかりしてください……!」
セレスティアがリクの元へ駆け寄る。
抱き上げた彼はもう意識を手放した後だった。
(うそ……でも今の、間違いない)
霧の中、カーミンは息を飲んで自分が見たものを冷静に受け止めようとしていた。
手にしていたのは懐中時計。
その身に違和感はなかった。
だが漠然とした予感があったのかもしれない。
(跳んだ……! 時計の針が、ほんの数秒だけ……確かに跳んでいた!)
しかし時計を見ていたことは彼女にとっては命取りだった。
いやそもそも時間を認識できない世界で、何をしていようと無意味なのだろうか。
これまで結界があったその中心に――陣を敷いたハンターたちの只中にジャンヌの姿があった。
周囲に無数の短剣を展開して。
一斉に刃が放たれた瞬間、カーミンの認識は確信へと変わっていた。
「くそぉぉぉ!!」
ジャックが星神器を抜き放ち、星の力を解放する。
「ジャックさん、無理をしないでください!」
ギリギリのタイミングでセレスティアがジャックの短剣の傷を癒す。
「あと少しで送ってやれる――駆け抜けるための盾をくれ!」
ジャンヌの追撃の大剣が彼を襲う。
だが“常勝”の理に守られた彼の身体は、飛来する4本すべてを着弾前に霧散させる。
振りかぶった刃に魂を込めた。
しかし、その間際にジャンヌが間に割り込んだ。
彼女は両手を広げて彼の前に立ちはだかっていた。
刃が彼女の身体を袈裟に斬る。
血しぶきが飛ぶ中で、彼女の表情がジャックの目に焼き付いた。
我が子を護る母の表情に似ているように感じた。
「私は見つけて欲しかった……だから、私のアイは見つけてあげること」
苦痛に歪んだ表情で彼女は口にする。
「どうして怒っているの? あの子が歪虚になったから……?」
「それは……そうだ」
「じゃあ……あなたにとって“私たち”は存在自体がアイせないのね」
そうだ、と言いかけた言葉をジャックは思わず飲み込んでしまった。
その様子に、ジャンヌは目を伏せた。
「――いくじなし」
四方から降り注いだ大剣が、彼の身体を貫く。
「引きましょう……これ以上は危険です!」
セレスティアが叫んだ。
ミグの機動「パリ」砲がプエルらをけん制し、その隙に彼女はジャックを回収する。
「ダンテリオっ!」
ジャンヌもまた声を張ると、ダンテリオは高く指笛を鳴らす。
すると星空の雲間を突き抜けて1騎の巨大な騎龍が戦場に舞い降りた。
「……あんなのまで用意していたのね」
リアリュールが制圧射撃を騎龍へと浴びせると、その間にダンテリオがジャンヌを備え付けられた玉座へと座らせる。
自らは首元の鞍にまたがると、竜の鉤爪がボロボロになったプエルを掴んだ。
「ダンテリオ……退場させるって……っ!」
覚悟を果たせず、一夏は悔し気に唇を噛んだ。
「どんな言葉を並べても認めないわ……あなたの愛も、陽だまりも」
零れたマリィアの言葉は、彼女を倒すべき敵であると認識したがためのもの。
歪んだアイを、同じ愛だなんて認めない――決して。
痛み分けだった――夜空に消えていく竜の姿をハンター達は歯がゆい気分で見送っていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/06/13 22:49:51 |
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![]() |
質問卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/06/11 21:53:50 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/12 08:32:08 |